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第 3 章 破壊の基礎理論

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第 3 章 破壊の基礎理論
第 3 章 破壊の基礎理論
3.1 変形
変形は,弾性変形,非弾性変形に大別することができる.弾性変形は,応力σと歪み e の関係が
あるいは のように,1 価の関数で表される変形のことをいう.この関係には時間の項が入っていない.ここ
では,弾性変形ではない変形を非弾性変形と総称する.非弾性変形は,通常、時間に依存する.固
体材料に小さな応力が加えられたとき,その変形の大部分は弾性変形で占められているが,ある応
力よりも大きな応力が加えられると,応力を取り除いても残留歪あるいは永久歪 (permanent strain) と
呼ばれる歪が明瞭に残る.この変形の性質を塑性 (Plasticity) と呼ぶ.また,固体材料には,歪の時
間変化に依存した応力,あるいは応力に依存した速度で歪変化が生じる.この性質を粘性 (Viscocity)
と呼んでいる.弾性変形でありながら,時間依存性のある変形もある.とくに,この性質は anelasticity
(time-dependent elasticity) と呼ばれている.ある方向から大きな応力を加えて一定に保ったとき,材
料の塑性変形量は時間とともに増加する.これをクリープと呼んでいる.一方,ある方向に大きな
変位を与えてそれを一定に保つと,応力は時間とともに低下する.これを応力緩和と呼んでいる.
岩石の場合,これらの非弾性変形は,岩石に加えられている応力(印加応力)がいかなる値であっ
ても,存在していると考えた方がよい.弾性的変形域,塑性域などの分類は,変形全体を模型化す
るための分類であり,研究対象によって変わるべきものであろう.
ある方向から巨視的には一様な応力を加えて岩石試料を変形させたときの,応力と歪の関係およ
びこのような試験で変形した岩石試料の様子を Fig. 3.1.1(a) と (b) に示した.Fig. 3.1.2 は測定され
る応力と歪みの関係の典型的な振る舞いを模式的に示したものである.*注) ここでは,試料がそこ
に加えられている力を保持する能力を失い始めることを破壊と呼ぶことにする.Fig. 3.1.2 (a) は,
47
破壊前に大きな塑性変形をするが,破壊による応力降下が急激ではない場合である.Figure 3. 1.2 (b)
は,破壊の前の塑性変形が小さく,破壊に伴う応力降下が大きい場合である.前者の変形を延性破
壊 (Ductile Fracture),後者の破壊を脆性破壊 (Brittle Fracture) とよぶ.破壊による波動の生成は,高
速に伸展する破壊あるいは高速に伝播するすべりによっておこなわれる.波動の生成を伴う破壊を
脆性破壊,波動の生成を伴わない破壊を延性破壊ということもできよう.延性的変形をする試料の
応力-歪関係には,塑性変形 (plastic deformation) が急に大きくなる現象がある.これを,降伏(yield)
と呼ぶ.降伏が始まる応力には降伏(点)応力(yield point stress)あるいは降伏強度 (yielding strength)
など様々な呼び方があるようである.降伏点は必ずしも印加応力に対する試料の保持力が低下し始
める応力に一致しない.しかし,降伏条件と破壊基準には明瞭な区別がない.
延性的な破壊をする材料を延性材料(Ductile material)と脆性破壊をする材料を脆性材料(Brittle
material) と呼ぶ.地震活動は非弾性変形の存在を表す指標であり,その変形が Brittle な様式で行わ
れていることを示すものである.地震活動は,地殻の上部では活発であるが,下部では不活発であ
る.地殻の上部も下部も長時間にわたって変形を続けてきたとすれば,それらの変形を長時間で見
たときその量に大差はないはずである.すなわち,地殻の上部では脆性的な破壊による変形が,下
部では延性的な塑性変形が卓越して進行していると言う考えが現在常識的である.延性的変形が卓
越するか,脆性的変形が卓越するかは,歪速度や温度などがその支配因子であると考えられている.
地殻が脆性破壊あるいは延性的な変形をともなって変形し続けているとすれば,地殻内の応力はこ
のような変形の様式によって支配されている,すなわち,岩石の破壊強度によって決まっているこ
とになる.地殻内の強度分布は温度と歪速度を与えると,岩石の破壊強度特性(変形特性)から求
めることができる.このようにして決まる地殻内の強度分布を Brace-Goetze Strength Profile と呼ぶ
場合がある(例えば,P. Molnar, 1992: In Fault Mechanics and Transport Properties of Rocks, Academic
Press).ここでは,岩石の破壊強度としては摩擦係数が用いられる.このようなモデルで地殻内の
応力分布を考えるときには,摩擦係数が重要な役割を果たすことになるということが容易に推察で
きよう.
以上の地殻内の変形と応力の関係は,地殻が常に塑性的な変形(流動)を含む破壊を伴って変形
していることを前提にしている.これは,地殻のポテンシャルエネルギー(歪エネルギー)は常に
最大の状態にあるという意味で,地殻が常に破壊に対して臨界状態にあるという考えに立つもので
あろう.しかし,不均質である岩石に力を加えると,岩石が地殻中で受けていた応力の値を境にし
て,その非弾性的な振る舞いが変わる (地殻応力の記憶の存在).また,この性質が,印加応力によ
って岩石内に生じるはずの応力集中が生じていないと考えると説明できる.これはむしろ地殻内の
歪ポテンシャルエネルギーが地殻内の応力に対して低い状態にあり,これ以外の応力状態では地殻
内に応力集中が生じるあるいは破壊が生じてもよいことを意味している.以上をあわせ考えると,
地殻のポテンシャルエネルギーは地殻内の応力に対して常に最小でありながら,地殻の破壊に対し
て常に臨界状態にあることになる.よって,臨界状態とは何かをあらためて考える必要があろう.
*注) Fig. 3 1.1 に示されている脆性破壊の場合には,破壊後 (post-failure) の応力-歪みの関係が,破壊を発生させ
る試験機の剛性によって変わることが知られている.すなわち,剛性の大きい機械を用いることによって,小さな
応力降下しか生じさせないようにすることができる.材料を破壊させるには材料に力を加えることになるが,この
力はまた試験機を変形させることになる.試験機の剛性は小さいほど試験機の歪が大きくなり,蓄えられる歪エネ
ルギーは大きくなる.試料の破壊時には,急激な力の減少が生じるが,この減少によって,試験機に蓄えられてい
た歪エネルギーが解放され,それが試料に対して仕事をする.その仕事量はすなわち剛性の小さい試験機ほど大き
い.このことは,次章(第 2 章)の破壊とエネルギーの関係に基づいて考察できる.剛性が大きな試験機を用いて
48
試料変形の post failure における振る舞いを調べて,破損過程 (break down process) を明らかにしようとする研究も行
われている (たとえば,Ohnaka の最近の研究;地震学会等の講演).ただ,post-failure における応力歪関係が何を表
すかについてはより深い考察が必要であると考えられる (第 6 章中の微小破壊強度分布模型を参照).
3.2 破壊とエネルギー
[参考書:岡村弘之,線形破壊力学入門,培風館]
Fig. 3.2.2
Fig. 3.2.1
3.2.1 歪エネルギーと外力仕事
Fig. 3. 2.1 (a) に示すように,弾性体に作用する力を P とし,P によって生じる荷重点の変位を u と
する.弾性体中にあるクラックの面積を A とするとき,荷重 P は u と A の関数で
(3.2.1)
と書けるであろう.いま,crack の面積がδA だけ増加したとすると,弾性体は変形しやすくなると
考えてよいから,Fig. 3.2.2 (a) から分かるように,同一の変位に対して常に,
(3.2.2)
である.
外力 P によって変位が u になるまでの間に外力がこの弾性体になす仕事(外力仕事) Uex は
(3.2.3)
であり,Fig. 3.2.2 (a) において影がつけられた領域の面積で示される.
弾性体になされたこの仕事は,弾性体中に歪みエネルギーW として蓄えられる.すなわち弾性体
がもつ歪エネルギーW は,
49
(3.2.4)
である.いま, P と u が同一方向にあるとし,それぞれの大きさを P と u で表せば,(3.2.4) より,
(3.2.5)
が得られる.
3.2.2 ポテンシャルエネルギー
外力 P がどのような系によって与えられているかは,場合によって異なる.とくに地殻について
は,その系を明らかにすること自身が問題といってもよい.ここでは,概念の理解のために,P が Fig.
3.2.1(a) にあるようなバネによって加えられているものとし,このバネに加えられる力 P* とバネ
の変位(伸び) u* との関係を Fig. 3.2.2(b) にあるようなものであるとする.
Figure 3.2.1(b) のように弾性体 V をバネにつなぎ,u + u* がある値になるまで引っ張ったうえで
固定しよう.弾性体とバネは釣り合いの状態にあると考えられるから,P* = P である.このときの
力と変位の関係が Fig. 3.2.2(c) に図示されている.弾性体とバネは a 点で釣り合っている.この場
合,系全体がもつエネルギーは Oae で囲まれた面積で与えられる.
より一般的には,P が u と P = P*(u) で表される 1 対 1 の関係にあり,ある関数 Π*(u) から,
(3.2.6)
によって得られるとき,この力をポテンシャル力,Π*(u) を外力の作用系のポテンシャルエネルギ
ーと呼ぶ.(3.2.6)より,Π*(u) は
(3.2.7)
であらわされる.ここで,u0 は任意である.先に述べたバネの場合,u0 を Fig. 3.2.2c) にし示され
ている点 e にとると,+ Π*(u) はバネに蓄えられた歪エネルギーに相当する.外力が u によらず一
定のときには,通常,u0 = 0 に選び,
(3.2.8)
とおく.P が重力による荷重であるとき,上式は変位 u に対して Pu だけ重力ポテンシャルが低下
することを表している.
外力の作用系を含む系全体の力学的エネルギーをポテンシャルエネルギーと呼び,Π と書くこと
にする.したがって,Π は
(3.2.9)
である.釣り合いの状態では,
(3.2.10)
である.
[問] 式 (2. 4) が線形弾性体に対して成り立つことを,より一般的な形で証明せよ.
50
3.2.3 クラックの伸展によるポテンシャルエネルギーの解放
弾性体に面積 A+δA のクラックがある弾性体が,
もとにあるとき,P = P(u, A+δA)
2.2 で述べたものと同一のポテンシャル力の
[ < P(u, A)] を満たしつつ,弾性体には u + δu の変位が生じて釣
り合いの状態になる.Fig. 3.2.2 (c) においては点 c の位置で釣り合う.この釣り合いの状態におけ
るポテンシャルエネルギーは Oce で囲まれた面積に相当する.一方,点 a で釣り合いの状態にある
弾性体中のクラックの面積 A が釣り合いを保ちつつ A + δA になったとすれば,釣り合いの位置は
P = P*(u) に沿って点 c に移動する.そのときクラックの面積の増大によって Oac で囲まれた面積
に相当するポテンシャルエネルギーの減少が生じる.ポテンシャルエネルギーの変化分をδΠ| と
δΑ
すると,
(面積 Oac) < 0
(ただし,δA > 0)
(3.2.11)
と書ける.ところで,δA の変化が外力一定の条件で起こる場合には,ac は水平,変位一定のの条件
で起こるときには,垂直である(Fig. 3.2.2 参照).
Fig. 3.2.2 (c) において,− δΠ* (面積 bacd に相当) は外力が弾性体 V になした仕事 δUex に等しい.
弾性体がなされた仕事 δUex は,一部は歪エネルギーとして蓄えられるから,その差は,
(3.2.12)
,
となり,ポテンシャルエネルギーが減少することになる.
3.2.4 エネルギー開放率
以下では,完全弾性体の微小変形のみを扱うものとする.このとき,歪エネルギー密度関数 w は
(3.2.13)
51
である.cijpq はスティッフネスである.弾性体に含まれる割れ目の面積が大きいほど,通常は,ス
ティッフネスが小さくなる.ここで,弾性体がある体積 V の弾性体に蓄えられる歪エネルギーW は
(3.2.14)
であたえられる.Fig. 3.2.3 (a), (b), (c) はそれぞれ線形弾性体におけるクラック面の微小増加 δA に
よるポテンシャルエネルギーの変化について,変位一定,荷重一定,および,外力が一般のポテン
シャルで与えられる場合の各条件について,模式的に示したものである.
各条件下でのエネルギー変化は以下のようになる.
(a)
変位拘束 (変位一定) の場合:
であるから,
(u = 一定).
(3.2.15)
すなわち,δA の変化によって外力が仕事をしないような条件下にある系では,ポテンシャルエネル
ギーの変化は歪エネルギーの変化に等しい.また,δA の増加によって歪エネルギーは解放される(減
少する).
(b) 死荷重(外力一定)の場合:
歪エネルギーは (3.2.16)
であり,歪エネルギーは増加する.外力仕事は
δUex = abd"c" = 2δW
(3.2.17)
したがって,
(3.2.18)
となり,ポテンシャルエネルギーは減少する.ここで,ポテンシャルエネルギーは減少するが,歪
エネルギーが増加することに十分注意する必要がある.地殻内の破壊が地殻内に蓄えられたエネル
ギーの解放を意味するとすれば,エネルギーの解放が行われる領域あるいはポテンシャルエネルギ
ーが定義される系がどのようなものであるかが大きな問題である.
(c)
外力が一般のポテンシャル力の場合:
(3.2.19)
となり,ポテンシャルエネルギーは減少する.
ここで,
や
は
にくらべ高次の微
小量であるから,δA を限りなく小さくするとき,以上 3 つの場合のポテンシャル解放量は等しい.
線形弾性体の場合,クラックが単位面積増加する際に解放されるポテンシャルエネルギー(あるい
は系全体から解放されるエネルギー)g をエネルギー解放率 (Energy release rate, available energy release
rate) と呼ぶ.g は
(3.2.20)
52
で与えられる.この値は弾性体の外部境界での境界条件にはよらず,力学的状態にのみによって決
まる.とくに,境界条件が変位一定,あるいは荷重一定のとき,それぞれ,
(3.2.21)
と書ける.g のことを変位拘束条件の下での歪エネルギー解放率 (strain energy release rate) と呼ぶこ
Fig. 3.3.1
ともある.しかし,すでに述べたように,荷重一定の条件下では歪エネルギーは解放されず,逆に
増加する.このことから,g を歪エネルギー解放率とはいわず,単にエネルギー解放率と呼ぶこと
にする.
クラック面積のδA の増加によって,この力学系のエネルギーから総和として gδA のエネルギー
が過剰になる.このエネルギーがクラック面の形成の仕事やクラックの動的進行に必要な運動エネ
ルギー(波動のエネルギー)として使用される.
[問 1] 内部に応力源を含まないならば,不均質媒質に対しても (2.13) が成り立つことを証明しなさい.もしこのと
き,何らかの条件があったらそのことについても述べなさい.
[問 2]圧縮試験による post-failure の振る舞いについて考察せよ.
[問 3]地震が,かりに荷重一定下で生じているとすると,どのような問題が生じるか,また,かりに変位拘束の条
件で発生しているとするとどのような問題が生じるかを論ぜよ.さらに,地震はどのような境界条件で発生して
いると考えるべきかを論ぜよ.
3.3 応力拡大係数
3.3.1 破壊様式と応力拡大係数
次節に述べるが,Griffice によれば,破壊は潜在的な割れ目 (crack) が拡大し始めることによって
発生する.この考え方は,今でも採用される普遍的な考え方である.この立場で破壊を論じようと
Fig. 3.3.2
53
Fig. 3.3.3
するとき,一個の潜在 crack の周囲に生じる応力分布を考えることが重要である.Fig. 3.3.1 は crack
の電子顕微鏡写真であるが,このような crack は,数学的には,一様な応力が働いている連続体内
にある面を考え,この面をはさむ 2 点での変位が不連続であり,面をとおして相互に及ぼし合う力
がないものとして取り扱われる.この取り扱い方には主に2通りある.一つは割れ目を厚みを持つ
空孔として扱うもので,空孔は多くの場合薄い楕円孔として扱われる.他方は厚みのない不連続面
として扱うものである.
Fig. 3.3.2 には,z 方向に厚い板を貫通した crack を,扁平な楕円孔で近似したとき,楕円孔周囲に
生じる応力の分布が示されている.楕円の長軸の長さを 2a、短軸の長さを 2b とすると、材料に y
= ± ∞ で応力 {σy} が働いているとき,割れ目先端での応力 {σy}max は、
∞
(3.3.1a)
であり,先端の曲率 ρ (= b2/a) が ρ << a のとき、
(3.3.1b)
のように表される (Sih and Liebowitz, 1968, Fracture,II, Academic Press).α は無次元の定数で、応力
集中係数と呼ばれる。αは試料寸法と crack 寸法の関係が相似であり,crack 形状が crack 寸法によら
ず等しいとき(crack が相似)であれば試料寸法が変わっても変わらない(円孔の周りの応力を想像
してみると良い).
σt を割れ目先端から僅かに離れた面に生じる接線応力とすると,
(3.3.2)
と表され,ρ  0 では,限りなく割れ目の先端に近いところにこれが生じる. また,楕円孔先端
近傍の x 軸上の応力分布は,0 ≤ r << a,r << a のとき,
(3.3.3)
54
これらの扁平な楕円型割れ目から得られる解は,割れ目の先端のごく近傍をを除いて ρ  0 とする
と,厚みのない crack に対する解に一致する.
以上は,張力型割れ目 (tension crack) を楕円近似で表した場合のものである.より一般的には,
厚みのない割れ目 (crack) の変形あるいは破壊様式を,ModeⅠ(opening), Mode Ⅱ(inplane sliding),
と ModeⅢ (antiplane sliding) に分解して考え,実際の破壊をこれらのいずれかのモード,あるいは,
これらの複合として解析する.Fig. 3.3.3 はこれらのモードを図示したものである.ModeⅠの crack
は,張力型破壊 (tensile fracture),ModeⅡとⅢは剪断破壊(shear fracture)に対応した crack である.
図における座標 (x, y, z) の取り方は破壊力学における通常の約束である.図示した部分は,crack 前
縁の一部であり,この部分の曲率半径(クラックの半径)は,前縁が直線であると近似できる程度
に大きく,図示されている部分の寸法は小さいものと考える.このような場合,各軸方向の変位 u, v,
wは
(3.3.4)
で表すことができる2次元の場になる.重ね合わせの原理から,これらの場は
(3.3.5)
に分解できる.ここで,クラックは z= constant の面の一部 –a ≤ x ≤ a にいれられた切り込みである.
(A)は平面歪みの2次元弾性論, (B) はねじりに関する弾性解を用いて表すことができる.(C) に
よる crack 先端での応力は (A), (B) により生じる大きな応力に比べて無視できる程度に小さい(た
とえば,線形破壊力学入門,1976,岡村弘之,培風館).ModeⅠとⅡの場合は (A),ModeⅢの場
合は (B) の解からそれらが作る場を計算することができる.Crack 先端での応力は r  0 で r-1/2 の
特異性をもつ.以下はこれらの項を各モードについて示したものである.
*) Mode I(開口形変形)
(3.3.6)
,
Mode II (面内剪断形変形)
(3.3.7)
, 55
Mode III(面外剪断形あるいは縦剪断形変形)
(3.3.8)
, ここで,
,
ν はポアッソン比,G は剛性率である.
一般に,crack 先端周囲における主法線方向 θ = 0 での応力 {τi} (= t{σx, σy, σz, τxy, τyz,τzx)) は独立
な 3 つのモードからの解の和として,
(3.3.9)
のように表される.ここで,VI,VⅡ,VⅢは,
VI = t{1, 1, 2ν, 0, 0, 0}, VⅡ = t{0, 0, 0, 1, 0, 0}, VⅢ = t{0, 0, 0, 0, 1, 0}
(3.3.10)
と書ける.ただし,(3.3.9) における σz (≡ τ3) は平面歪の場合であり,平面応力では σz =0 である.
同様に,crack 面上の変位 {ui} も,θ = ±π と置くことによって KI,KⅡ,KⅢ を用いて書ける.KI,
KⅡ,KⅢは応力拡大係数と呼ばれる.応力拡大係数の次元は [応力]×[長さ]1/2 であり,2 次元クラッ
クの場合,以下のように定義される.
(3.3.11)
応力拡大係数 K と先端が曲率半径 ρ であるクラック先端での応力を比較すると
(3.3.12)
の関係を導くことができる.例えば,(3.3.11) に (3.3.3),(3.3.12) に (3.3.1) あるいは (3.3.2) を代入
して,
(3.3.13)
が得られる.応力集中係数 α は,crack 形状が相似のとき,その寸法に依存しない量であったのに
対し,K は crack の長さが長くなると大きくなり,寸法に依存する量として定義されている.また
この係数は,crack の長さの平方根に比例して crack 先端での応力が大きくなることを表している.
3.3.2 応力拡大係数とエネルギー解放率
クラックの延長線上にクラックが成長する場合は,エネルギー解放率と応力拡大係数との間に簡単
56
な関係がある.簡単のために,クラック面積の微小増加 δA によるポテンシャルエネルギーの解放
を,変位拘束の場合について考えよう.ポテンシャルエネルギーの解放量 ネルギーの解放量にほかならない.
はこの場合,歪エ
を以下のような過程を考えて評価する.
(1) クラックの先端にδA の切れ込みを入れ,クラック面にはそれ以前に作用していた応力と等しい
応力を保ち,クラックが開かないようにしておく.
(2) 表面に作用している応力を徐々に減少させて 0 とし,クラック面を開かせて自由表面とする.
ここで,(1) の過程で,切り込みを作るために必要なエネルギーはここでは論じない.(1) が終わっ
た時点では歪エネルギーの変化はない.歪エネルギーの変化は (2) の過程で生じる.以下では,(2)
の過程で生じる歪エネルギー変化をモード I の場合を例にとってのべる.
Fig. 3.3.4(a) はクラック成長以前の状態を示す.このとき y = 0 面のクラック先端から x の位置に
作用している応力 σy(x) は,このときの応力拡大係数を KI(A)とすると,
(3.3.14)
である.一方,Fig. 3.3.4(b) に示すように,z 方向の厚さδB の部分が x 方向にδa だけ伸展したのち,
すなわち,δA = δB⋅δa の面積増加があったのちの応力拡大係数を KI(A+δA) と書くと,θ = ± π とお
くことによって,成長後の crack 面上のある点 x の変位 v(x) は,
(3.3.15)
と書ける.ここで,c はクラックの解から決まる定数である.よって,crack がδA 拡大する間に x =0
から x = δa の区間のクラック面でなされる仕事 gδB⋅δa は,
(3.3.16)
である.いま,δa  0 の極限をとると,
(3.3.17)
57
さらにこれは,
ただし,E’ = E ;平面応力の場合: E/(1-ν2);平面歪の場合
(3.3.18)
と書けることが分かっている.ここで,ν はポアッソン比である.
一般に三つの変形様式が混在している場合,
(3.3.19)
である.被積分関数の各項は独立であるから,(4.7), (4.8), (4.9) を用いて, (3.3.20)
と書くことができる. 3.4 破壊基準 [参考書:西松裕一・山口梅太郎,岩石力学入門,東京大学出版会:Elasticity, Fracture and Flow,
J. C. Jaeger, Methuen:日本材料学会編,岩の力学,丸善]
既に述べたように,脆性破壊と降伏とには数学的には明瞭な区別がない.ある破壊基準は脆性破
壊が起こる場合には破壊基準として,降伏が起こる場合には降伏条件として用いられる.このよう
に用いられてきたいくつかの破壊基準 (criterion of failure) を以下に紹介する.
3.4.1 内部摩擦角説 (Coulomb の理論)
この理論の成立は 18 世紀末の Coulomb の実験にまでさかのぼる.Coulomb は岩石や土の圧縮試験
の結果から,「ある面に対する剪断応力を τ,垂直応力を σ とするとき
(3.4.1)
を最初に満足するような面に破壊が起こる.」と考えた.ここで,張力を + にとったことにより,
– 符号は圧縮応力を表す.τ0 は凝着力 (cohesion) と呼ばれる定数,µ は内部摩擦係数 (coefficient of
internal friction) と呼ばれる定数である.
Fig. 3.4.1 にあるように,断面 A が柱状の材料に荷重 P を加えた場合を考える.法線が荷重方向
に α 傾いた断面 BB’ では,面への法線応力 σb と面での剪断応力は τb は
(3.4.2)
と書ける.
ここで,あらためて圧縮を正,したがって,P を正とすると,σb >0 は面に向かう法線応力,τb >
0 は面に沿って下方 (B’ 方向) に向かう接線応力を表す.面での摩擦係数を µ とすると,面のすべ
りに抗する応力は µσb,したがって,面をすべらせようとする有効剪断応力 τs は
(3.4.3)
58
であり,すべりが τs = τ0 のときに発生するとすれば,
(3.4.4)
となり,Coulomb criterion を得る.以上は従来なされてきた Coulomb criterion の物理的な解釈でも
ある.しかし,内部摩擦という概念が岩石の破壊では明確ではないということから,岩石の破壊に
対して,この解釈は成り立たないのではないかという意見もある (「岩石力学入門」).
符号を考慮して,(3.4.3) は
(3.4.5)
と書ける.τs が最大になるような方向ですべりが起こるとすると,その方向は,
(3.4.6)
で与えられるから,これより,
(3.4.7)
が得られる.すなわち,破壊面が荷重の軸となす角は,摩擦係数によって決まっていることになる.
この場合の Mohr の応力円は Fig. 3.4.2 のように書ける.
ところで,岩石が空隙内に圧力 p の流体を含んでいるときには,法線応力σb の代わりに,有効法
線応力σe = σb - p が用いられる.すなわち,
(3.4.8)
.
これを Paterson (1978, Experimental Rock Deformation – The Brittle Field, Springer-Verlag) は Terzaghi
rule (Terzaghi, 1945, Stress conditions for the failure of saturated concrete and rock, Proc. Am. Soc. Test.
Mat., 45, 777-792)と呼んでいる.実験的には,例えば Handin et al. [Handin, J., Hager, R. V., Friedman,
59
M., Feather, J. N., 1963, Experimental deformation of sedimentary rocks under confining pressure; pore
pressure effects. Bull. Am. Assoc. Petrol. Geol., 47, 717-755] によってこの考えがよく成り立つことが示
されている.
3.4.2
最大剪断応力説 (Tresca の理論)
1870 年頃 Tresca が金属の塑性変形を研究して得た結論といわれている.この説の特徴は,圧縮強
度と引っ張り強度が等しくなることである.実際には,岩石やコンクリートでは圧縮強度は引っ張
り強度の 10 倍程度ある.このことから,これらの材料には当てはまらない.
3.4.3
応力円包絡線説 (Mohr の理論)
1900 年頃,Mohr は,剪断応力 τ が法線応力 σ によって決まる一定値 τ0 に達するか,最大引っ
張り応力が一定値 T0 になったとき,破壊がおこると考えた.すなわち,
(3.4.9)
である.破壊がおこるときの応力状態を Mohr 円で表すと,すでに述べたように,(3.4.8) は応力円
の包絡線を表す.この説では,破壊強度は中間主応力の大きさには依存しない.
τ = f(σ) について,次のことが言える.(1) 静水圧下では破壊は発生しないことが知られているか
ら,この曲線が σ < 0 で σ 軸を切ることはない.(2) σ1 がある値に達すると σ3 に無関係に破壊
がおこるということから,この式で表される応力円包絡線は,τ = 0 で有限な半径を有する応力円に
接する(Fig. 3.4.3 参照).したがって,この式は,σ1 軸を垂直に切り,しかもこの点で一定の曲
率半径を有する曲線の式で表されなければならない.すなわち,
(3.4.10)
である.
注) 曲率半径 r は,
(3.4.11)
ところで,σ1 と σ3 で定義される Mohr の応力円は,
(3.4.12)
ここで,
(3.4.13)
とおくと,(3.4.12) は,
(3.4.14)
60
いま,Mohr 円の半径が p の関数として,F(p) で与えられるとき,上の式は,
(3.4.15)
である.p の微小量変化 dp に対して,(3.4.15) は,
(3.4.16)
を満たしながら変わる.これより,
(3.4.17)
すなわち,このようにして得られる σ と τ の関係は (3.4.9) あるいは (3.4.12) の関係も満たしてい
るはずである.Fig. 3.4.4 に示されている放物線は,このような関係を満たす関数の一つである.
いま,F(p) が直線のとき,(3.4.15) あるいは (3.4.17) から得られる σ と τ の関係も直線である.
このことから,内部摩擦角説 (Coulomb の理論) は応力円包絡線説の特別な場合ということができ
る.
3.4.4
剪断歪エネルギー説
主応力を σ1, σ2, σ3, それらの偏差応力を s1, s2, s3 と書く.ここで,偏差応力 si は
(3.4.18)
である.このとき,不変量 J1, J2, J3 は
(3.4.19)
一方,歪エネルギーW を偏差応力で表すと,
61
(3.4.20)
ここで,µ は剛性率,K は非圧縮率である.
降伏 (yielding) は座標の取り方に無関係におこる.また,平均応力は降伏の過程に影響をおよぼ
さない.このことから,von Mises は降伏条件 (criterion of yielding) は差応力に関する不変量 J2 だけ
に係わると考え,材料の定数 σ0 に対して,
(3.4.21)
が成り立つとき,降伏が生じるとした.これを,von Mises の降伏条件と呼ぶ.また,Huber (1904) と
Hencky (1924) は剪断歪エネルギーがある一定値に達したとき降伏が生じるという説を提唱したが,
この説は,上の式から分かるように,von Mises の条件と同じ結果を与える.von Mises は数学的な
要請からこの criterion を導いたが,Huber-Hencky はそれに物理的な解釈を与えたとも言える.一方,
τ0 は八面体剪断応力,と呼ばれる.また,Nadai (1950?) は八面体剪断応力がある一定値に達したと
き降伏がおこると考えた.τ0 が八面体剪断応力と呼ばれる理由は,τ0 が Fig. 3.4.5 にあるような面
に働く合剪断応力を表しているからである*).
von Mises の criterion は金属などでは良く成立していることが知られているが,岩石の脆性破壊の
説明には適切ではないと思われている.
Fig. 3.4.5
*)
ν 方向に法線を持つ面に働く応力ベクトルを T ,その法線成分を N とすると,剪断成分(合剪断応力) τ は,
ν
座標軸を主軸方向にとり,主応力をσi とすると,τ2 は,
と書ける.
62
3.5 Griffith の理論
3.5.1 脆性材料の理論強度
材料が完全に均一であって,全く欠陥を含んでいないとして,原子間引力その他の考察から理論的
に求められる破壊強度を,その材料の理論強度 (theoretical strength or molecular strength) という.こ
のようにして得られる強度は,材料の強度の上限値になると考えられている.
新しい crack の生成は新たな 2 つの面を生成する.2 つの単位面積の破断面を作るのに必要なエネ
ルギーW は γ を単位面積あたりの表面エネルギーとすると,
W=2γ
(3.5.1)
である.破断面は,破断面の両側に並んでいる原子の間に相互に並んでいる結合力にうち勝って,
両側に引き離すための仕事によって作られる.W はそのための仕事と考えてよい.2 つの原子間の
距離と応力との関係は.Fig. 3.5.1 にあるような曲線でで表され,仕事は影の部分で表される.ここで,
横軸 x は歪がないときの原子間間隔 a0 からのずれであり,σ
th は引き離すときに必要な最大の応
力で,理論強度を表す.この曲線を,
(3.5.2)
で近似すると,仕事 W は
(3.5.3)
のように表される.すなわち,
(3.5.4)
が得られる.原子間間隔の歪 ε は ε = x/a0 で表される.一方,x << a0 のとき,ヤング率 E は,近似
的に
63
(3.5.5)
と書けるから,(5.4) と (5.5) から λ を消去して,
(3.5.6)
が得られる.このようにして,材料の理論強度が得られる.
γ は溶融状態では表面張力である.この実測は困難である.概略求められる σth の値は,2000
kgf/mm2∼5000 kgf/mm2 程度あるいは E/10 程度であると想像されているが,通常の金属材料の測定
値は,これよりも 1 桁ないし 2 桁小さい.
3.5.2
Griffith の理論
脆性破壊は,一度 crack が進行し始めると,極めて速い速度で伝播し,破断が生じる破壊である.
この現象をエネルギーに関する不安定現象としてとらえたのが,Griffith の脆性破壊の理論である.
Griffith の理論では,crack 面の新たな生成によって解放されるポテンシャルエネルギーが破断面の
生成に必要なエネルギーに等しくなったときに,破壊の伸展がおこる.
5.1 に述べた実験値と理論値との違いを説明するために,Griffith は,材料内部には生来微小な
欠陥があり,材料に σ なる応力が加わっているとき,これらの cracks 中のいずれかが伸展し始め
ることによって材料の破壊がおこると考えた.いま,破壊の発生条件をエネルギー解放率 g を用い
てあらわす.crack が単位面積だけ伸展するのに必要な仕事を 2 γ とし,これを
とおくと,
発生条件は,
(3.5.7)
である.このときの臨界の応力を σc とすると,破壊発生の必要条件はエネルギーバランスの上か
ら,
(3.5.8)
である.*注)
*注 ) この部分は,次のように考えてもよい.一定応力 σ の下にある crack のない材料に,クラックが生じること
によるポテンシャルエネルギーの変化 δΠ は
δΠ = δWs + δWg – δΠ∗
である.ここで,δWs は歪エネルギーの増加分,δWg は表面エネルギーの増加分,– δΠ∗は外力ポテンシャルの減少
分である.ここで,単位厚さの板を貫通した 2c をクラックの長さとする楕円型 crack を考えると,
δWs =πσ2c2/E, δWg = 4cγ,
また,外力ポテンシャルの差を応力(外力)一定として考えると,δΠ∗ =2δWs,注*) したがって,
δΠ = 4cγ - πσ2c2/E
δΠ が減少し始める c の長さを,∂Π/∂c=0 として求めることができる.[岩石力学入門]
64
注 *)
δWs は遠方境界の応力と変位を準静的に変化させて得られる歪エネルギーの差,δΠ∗ は遠方境界の応力を一定と
して外部の系が材料になす仕事に等しい.遠方境界での変位はいずれも等しいから,線形弾性の仮定が成り立つ限
り,δΠ∗ =2δWs が成り立つ.
他方,クラックが伸展するとき,クラック先端の応力は理論強度を超えているであろう.クラッ
ク先端の半径を a0 程度とすると,遠方の応力を σc’としたとき,先端での最大応力σmax は
(3.5.9)
となるから,これが理論強度に等しいと考えると
(3.5.10)
を得る.これをσc と比較すると,σc’< σc であり,エネルギー条件から得られる強度σc は,クラック
先端の応力が理論強度を越えることによって伸展するという条件をも満たしていることがわかる.
3.5.3 Griffith の理論と破壊基準
a. Griffith の理論と Mohr の応力円包絡線説
Fig. 3.5.2 にあるように,2 つの主圧縮応力 P,Q が働いている板の中に crack がある.crack 縁で
の引っ張り応力は crack の長軸と主応力軸との傾き θ によらず,crack 端近傍で最大になるが,そ
の大きさは crack 端の曲率半径と,主応力,P と Q,傾き θ によって決まる.平面応力状態を仮定
して,Inglis (1913: Trans. Roy. Inst. Naval Architects, 55, Pt. I, 219-230: See Jaeger, 1962 or 1964: Elasticity,
Fracture and Flow, Methuen & Co. LTD) は
(3.5.11)
とする楕円座標 ξ,η (Fig. 3.5.3 参照) を用いて応力分布を得た.x' と y' は Fig. 3.5.2 にあるよう
にとられた座標である.Ccoshξ と Csinhξ はそれぞれ ξ=constant で与えられる楕円の長軸と短軸で
ある.* いま,楕円を ξ が1よりも十分小さくなるように扁平なものにすると,クラック面に沿っ
0
65
た方向の法線応力 σ (ξ , η) は
η
0
(3.5.12)
である.材料中に多数の cracks がでたらめに方向分布しているものとし,この中で最初に σ (ξ , η)
η
0
が最大になるような crack の向き ψcr と位置 η をもとめることによって,Griffith (1924) は
(3.5.13)
P = S t,
if (3P + Q) < 0
2
(P – Q) – 8St(P + Q) = 0, if
(3.5.14)
(3P + Q) >0
(3.5.15)
を導いた.ただし,Q > P.ここで,St は crack 面に垂直に一軸の張力が働くときの材料の破壊強度
である と解釈されている (Fig. 3.5.4 参照).
ここで,Griffith の理論と Mohr の応力円包絡線説の関係を調べよう.Q と P が与えられている
とき,材料中に働く τ,σ を Mohr の応力円で表すと,
(3.5.16)
.
したがって,(5.15) を満たす応力円は
(3.5.17)
この応力円の包絡線は,(5.17) で表される関係が,(P + Q) の微小な変化に対しても,保たれてい
ることであるから,
66
(3.5.18)
とおき,
(3.5.19)
より求めることができる.この式から,
(3.5.20)
を得る.これを,(5.17) に代入することによって,
(3.5.21)
この式は τ =0, σ = -St を頂点とする放物線である.実際,岩石の圧縮強度が作る Mohr 円の包絡線
は放物線で近似できるようにも見える.このことは従来 Griffith 理論の正当性を示す証拠と考えら
れてきた.
*注)楕円の方程式は
b. Griffith の理論と Coulomb の理論
Coulomb の理論には,内部摩擦係数の解釈に関していくらか問題視される場合もある.より普遍
的な解釈をするためには,材料中には既存の crack が生来存在するという Griffith の理論に立脚し
た解釈がなされてもよい.ここでは,Griffith の理論の立場から Coulomb の理論の定性的な解釈を
試みる.
まず,Coulomb の理論は基本的にせん断破壊の破壊条件を与えるものと考えられるから,せん断
割れ目の拡大を考えることにする.最も単純な説明は § 2.5.1 に述べたものと基本的に同じである.
Crack 先端に生じる応力の大きさは,crack 先端の変位の空間微分から得られる.変位は crack の寸
法が等しければ遠方で加えられた応力と crack 内の応力の差に比例する.したがって,crack 先端
の応力集中が既存 crack のすべりによって生じているとすれば,crack 先端に生じる応力集中は,
加えられるせん断応力
とすべりによって生じる抗力との差
67
(3.5.22)
に比例するであろう.いま,割れ目の拡大が
で起こるとすると,
(3.5.23)
は割れ目に働く法線応力である.§ 2.5.1 の場合との違いは,これが,試料の
を得る.ここで,
破壊ではなく crack の振る舞いに対して使われているところであろう.この説明に問題があるとす
れば,潜在 crack のすべりを前提とすることの妥当性や,Terzaghi rule を陽には説明できないこと,
後にのべる
の多様性を説明できないことなどであろう. 以上に述べた問題を取り除くにはより詳細な模型が必要である.ここでは,割れ目として板を貫
通した2次元のものを想定し,Fig. 3.5.5 にあるような複数の小さな crack がある軸上に並んで構成
される一つの大きなせん断帯をせん断 crack と考えて,それを大 crack とよぼう.各小 crack はそ
の長さに比べて十分に薄いすき間をもつ.各小 crack の間は破壊されていないインタクトな材料で
できている.大 crack の面に生じる相対的な変位は,弾性的なものと非弾性的なもとからなるが,
非弾性的なものは小 crack 間にあるインタクトな材料が破壊することによって生じる.この破壊を
連結と呼ぼう.また,破壊が発生するまでに生じる大 crack 面の相対変位はその crack の幅よりも
小さいとしておこう.これは基本的に線形弾性論で話ができることを保証しようとするためである.
以上の仮定をともに破壊を考察するが,ここでは,破壊を系のエネルギーの減少を伴った大 crack の
拡大であると定義する.
定性的な議論として,上に述べた連結だけではせん断 crack の拡大は起こらない.また,大 crack
先端の応力が材料の理論強度に達しても,大 crack 先端の伸展が起こるとは限らない.材料の破壊
が起こるには,連結が起こるのと同時に大 crack 先端の応力が材料の破壊強度に達しなければなら
ない.連結によって大 crack 面の相対変位が増加することによりその先端で crack の拡大が開始す
るというものである.この場合,
を大 crack を単一の中空な crack(Griffith crack)としたとき
にその拡大に必要な応力,
を小さな割れ目が連結するために必要な応力とすると,破壊が起こる
ときに試料に加わっているせん断応力τ は,
(3.5.24)
でなければならない.破壊が起こるときには適当なせん断応力
と表してよかろう.ここで,
目の破壊,すなわち,
は
を用いて,
(3.5.25)
を表すためだけの量であり,
は端のない割れ
が面の摩擦すべりに必要な応力であること表している.一方,
は
せん断 crack 内が空洞の場合で相当している.連結した小 crack に定常的なすべりをゆるせば,そ
の説明はすでに述べたものと同様である.
ここで,連結に際しておこるインタクト材料の破壊も Coulomb の理論にしたがっているとしよ
う.インタクト部分がせん断 crack の面全体に占める割合を s とし,せん断 crack の面にかかる
法線応力の平均を σ とすると,インタクト部分に働く法線応力
は
,したがって,
そのせん断強度
は
(3.5.26)
68
である.ただし,s は十分に小さいものとする.これらを破壊させるに必要な面全体での平均せん
断応力
は s をさらに小さくすると,
(3.5.27)
であり,いわゆる摩擦則が導かれる.これを内部摩擦係数と摩擦係数の等価性と呼ぼう.(3.5.27) を
(3.5.25) に代入すると,
(3.5.28)
となり,潜在 crack に関する Coulomb の理論が得られる.
ところで,小 crack の中に 圧力 p の液体をいれると,
であり,
(3.5.29)
のときにせん断 crack の拡大がはじまることになるから,Terzaghi rule が説明できる.このような
の減少は法線応力が小 crack 間のインタクト材料に集中しないというメカニズムによっている.
したがって,より一般的には,小 crack の中が大きな非圧縮率と小さな剛性率をもつ材料で満たさ
れていてもよい.この場合にも,せん断応力だけが小 crack 間へ集中することにより
なることが容易に予想できる.
に
の極限では,大きなせん断 crack は純粋に Criffith crack と
して扱われてもよいものになろう.すなわち,a) に述べた場合に帰着しないだろうか.
この問題は第5章の断層のせん断強度にかんする議論にも密接に関係している.
3.6 最弱リンク説
3.6.1 破壊の統計的性質
通常,ある物理量を繰り返し測定すると,測定誤差を生じる.測定誤差は,測定中の偶然から生じ
るものと考えられ,偶然の回数を減少させる努力によって小さくすることができる.物理量の一種
である強度を測定すると,測定値にばらつきが生じることが知られている.Fig. 3.6.1(a) は花崗岩で
測定された一軸圧縮破壊強度のヒストグラム, (b) はその累積分布である.強度が極めて広い幅を
持って分布するのがわかる.この測定は,十分に吟味されて行われたものであり,このばらつきが
測定誤差である可能性は少ないとされる.すなわち,このばらつきは物理的に本質的なものである
と考えられる.
このようにして,強度が確率的な量であり,破壊という現象が統計的な現象であるという考えが
成り立つ可能性がある.この観点からは,破壊は常に統計的に扱われるべきであるということにな
る.材料の中には既存のクラック(Griffith クラック)が潜在しているという Griffith の考え方は,
破壊に関するこのような確率論的研究の基本的な考え方である.様々な長さを持った,Griffith クラ
ックがでたらめな方向を向いて存在している材料に,外部から力を加えると,それによって生ずる
応力場において最も伸展しやすい Griffith クラックが伸展し,材料の破壊を引き起こすことになる.
これは,一本の鎖を引っ張り,引きちぎる場合によく似ている.すなわち,一連のリンクの中で最
も弱いものが壊れたときが全体の破壊であるということになる.この説を最弱リンク説 (weakest link
theory: weakest link concept) という.したがって,最弱リンク説は Griffith 理論の直接的な帰結とも
言えよう.
69
この説からみると,材料の強度は,材料が含むクラックが伸展し始める印加応力の大きさをあら
わす.その応力の大きさは,均質な材料では,クラック長さと印加応力に対する向きによって決ま
る.最弱のクラックは 1 個である.材料の強度がそこに含まれる一個のクラックの長さと,そのク
ラックの印加される応力との幾何学的な関係で決まっているとすれば,強度が確率的な物理量であ
るということが納得できるであろう.
破壊が統計的な現象であることを示す他の一つの例として,破壊強度の寸法効果がある.寸法の
大きな材料は,小さな材料に比べてより多くの潜在クラックを含み,したがって,強度の小さいク
ラックを含む可能性も大きい.このような,材料が最弱リンク説にしたがって破壊するとすれば,
大きい材料ほど破壊強度が小さくなる可能性が高くなる.このように材料の寸法によって破壊強度
が変わることを,強度の寸法効果 (size effect) という.寸法効果の存在は実験的に確かめられてい
る (次章参照).
3.6.2 破壊の確率モデル[ボロチン:構造設計の確率論的方法と信頼性問題,培風館]
ここでは,破壊を確率論的に説明する単純な模型について述べよう.
まず,材料はいくつかの要素からなると考える.それぞれの要素はある力で壊れるが,その強度
は確率で与えられている.Fig. 3.6.2 はこれらの単純な模型の例である.(a) と (b) は最も基本的な
ものであり,(a) は構成要素の一つが壊れると全てが破壊する場合,すなわち,最弱リンクの場合
である.(b) は構成要素のうち,最強の要素が壊れたときに全体が破壊すると考えるモデルである.
第 i 番目の要素が系に加えられた応力σまで壊れないでいる確率 (確率分布関数)を Pi(σ) とする.
すなわち,第 i 番目の要素を取り出した母集団から,N 個の要素をとりだし,それらにかかる応力
を 0 から σ まで増加させたときに,壊れないでいる要素が n 個あったとするとき,n/N ≈ Pi(σ) であ
70
る.この Pi(σ)は信頼度とも呼ばれる.(a) の場合,応力を 0 から σ まで増加させたときに,いずれ
の要素も壊れないでいる確率 P は,すなわち材料全体の信頼度であるが,
(3.6.1)
全ての構成要素の信頼度が等しく P0(σ) ならば
(3.6.2)
である.どれか一つでも壊れる確率,材料全体が破壊する確率(生起確率)を Q(σ)と書くと,Q(σ)
は
(3.6.3)
で与えられる.
(b) の場合は,全ての要素が破壊したときに材料の破壊がおこる.要素にかかる応力を 0 からσ
増加させるとき,要素が破壊する確率(破壊の生起確率)を Qi(σ) で与える.材料が破壊する確率
Q(σ) はすべての要素が破壊する確率であるから,
(3.6.4)
である.全ての要素の生起確率が等しく Q0(σ) ならば,
(3.6.5)
この場合の信頼度 P(σ) は
(3.6.6)
である.
(c)と (d) の場合も同様にして考えることができる.それぞれの場合の信頼度は,(c) の場合には,
(3.6.7)
,
(d) の場合には,
(3.6.8)
で表される.
3.6.3 最弱リンク説と Weibull 分布 確率分布として代表的なものには正規分布があるが,正規分布は確率変数 x が区間 [- ∞, ∞] で定
義される.これに対し,強度を変数とした場合,正あるいは負のいずれかのみを考えるのが普通で
ある.すなわち,強度分布の定義域は [0, ∞] である.また,∞ の強度を持つ材料は考えられない
から,確率密度関数 f(x)は x ∞ で f(x) 0 である.
Weibull は x > 0 について f(x) を仮定する変わりに,クラックの強度が x を超える確率として
(3.6.9)
71
を仮定した.ただし,m > 0,
a > 0 である.この関数を用いると,応力を 0 から x まで増加させる
ときに 1 個でも crack が生じる確率(確率分布関数)W(x) は
(3.6.10)
である.確率密度関数 f(x) は
(3.6.11)
となる.確率密度が g(x) で表される分布を Weibull 分布 (Weibull distribution) と呼ぶ.W(x) はその
分布関数である.Weibull 分布は先に述べた強度分布の条件を満たしている.分布関数の例を Fig. 3.6.3
に示した.m を大きくすると分布の幅は狭くなる.m を Weibull の均一性係数 (coefficient of uniformity)
と呼んでいる.また,axm << 1 のとき,
(3.6.12)
あり,べき分布で近似できる,あるいは,べき分布を近似することが分かる.
いま,n 個の要素からなる材料を考える.要素の破壊強度の分布が,分布関数として W(σ) で与
えられるとき,Q0 = W とおいて,最弱リンクのモデル [前節のモデル (a)] に適用すると,材料の
強度分布 Q(σ) は
(3.6.13)
のように求まる.このようにして,材料の強度もまた,Weibull 分布で与えられることが分かる.こ
の分布の密度関数を gn とすると,
(3.6.14)
その mode (最頻値) sm は,
(3.6.15)
72
として得られる.sm は材料強度の最頻値をあらわすが,n が大きくなるにつれて小さくなることが
分かる.いま,クラックが材料中に均一に分布しているとする.材料をそれぞれ一つのクラックを
含むような等体積の要素に分割して考えると,n は材料の体積 V に比例する.すなわち,
(3.6.16)
であり,これは材料強度の寸法効果を現すことになる.
以上のようにして,最弱リンク説は材料強度の分散と,寸法効果を説明することが分かった.し
かし,岩石の圧縮試験などでは,試料全体が破壊する前に微小破壊が多数発生することが知られて
いる.このことから,例えば Scholz (1990: The mechanics of earthquakes and faulting, Cambridge Univ.
Press, pp.439) は,最弱リンクの考えは圧縮破壊には当てはまらないであろうと述べている.しかし,
Yamamoto (1999?) はこの考えを利用することによって,岩石の圧縮破壊強度が説明できることを示
した.次章ではこのことについて述べる.
73
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