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3月号 - 石油エネルギー技術センター

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3月号 - 石油エネルギー技術センター
CONTENTS
■ 特 集
◎新プロジェクト
「JTOP:Japan Auto-Oil Program」発進
◎石油産業安全基盤整備事業 “安全支援システム
(PEC-SAFER)
”
◎調査報告
変貌する需給環境に対応するための
製油所の競争力と戦略に関する調査
5
第6回アジア石油技術シンポジウム開催
14
■ トピックス
1
8
2008.3
特集
新プロジェクト
「JATOP:Japan Auto-Oil Program」発進
(財)石油産業活性化センターでは経済産業省の支援を受け、1997 年度から自動車排出ガス
低減による大気改善を主要な課題として「Japan Clean Air Program(JCAP*): 大気改善のため
の自動車・燃料技術開発」を石油業界および自動車業界と共同で実施してきました。
(*JCAP Ⅰ : 1997 ~ 2001 JCAP Ⅱ : 2002 ~ 2006)
2007 年度よりこの JCAP を更に発展させる形で、
「大気環境保全・改善」を前提としつつ、
地球温暖化問題への対応やセネルギーセキュリティーの確保も視野に入れ、
「CO2 削減」
、
「燃
料多様化」
、
「排出ガス低減」という 3 つの課題を同時に解決する最適な自動車・燃料利用技術
の確立を目指して新しいプロジェクト JATOP : Japan Auto-Oil Program を 5 年計画で開始しま
した。
今回は、研究課題の 3 本柱を中心に紹介致します。
〔研究課題の 3 本柱〕
ア . バイオマス燃料の利用拡大技術
イ . 排出ガス、燃費に優れたディーゼル車の普及対応技術
ウ . 大気環境改善検討及び評価技術(大気モデルの活用・改良)
JATOP の研究内容
ア . ディーゼルバイオマス燃料の利用拡大
〔目標〕
ディーゼルバイオマス燃料を高濃度で利用した場合の技術課題(酸化安定性低下、低温性
能悪化等)を明らかにし、自動車側、燃料側での対応策を含めた技術知見を確立します。
2008.3
〔技術課題〕
・バイオディーゼル燃料(BDF)の酸化安定性低下等への対応策検討
・新たな利用形態(水素化バイオ軽油等)の利用検討
原料となる油脂の違いによりFAMEの特性が異なる
FAME構造
酸化しやすい
O
3 HC
低温でも固まらな
いが、熱でスラッ
ジが発生しやすい
低温で固まり
やすい
C O
CH
3
二重結合構造がFAME 中に
多いと
•酸化安定性が悪いデメリット
•低温で固まりにくいメリット
※FAME :脂肪酸メチルエステル
〔今年度の活動〕
BDF 混合燃料の基本特性を把握すると共に、排出ガス後処理システムへの影響把握を同
時に進めています。
安定性
(改良ランシマット誘導時間
hrs)
改良ランシマット誘導期間 時間
BDF混合軽油の安定性は、おおよそニートBDFの
安定性で分類できる。
ニートBDF
の安定性
50
HBD 48
40
FTD
hrs以上
(測定中)
30
RME
6.4 hrs
20
PME
5.0 hrs
10
WME
4.3 hrs
SME
1.9 hrs
0
0
10
20
BDF混合率 mass%
30
1
各種混合基材の安定性
DPF 手動強制再生 – 結果の一例 -
イ . ガソリンバイオマス燃料の利用拡大
〔目標〕
ETBE(エチルターシャリーブチルエーテル)
、エタノール混合ガソリンの利用拡大に資
する技術課題を明らかにするとともに燃料性状変化(蒸留等)による品質設計指針を明確に
します。
〔技術課題〕
・運転性、排出ガス、蒸発ガスへの対応策検討
・最新ガソリン乗用車に最適な燃料品質検討
〔今年度の活動〕
燃料性状の T50(蒸留性状 50% 留出温度)や RVP(37.8℃における蒸気圧)を
キーワードとし、エタノール混合の影響確認を進めています。
排出ガス検討
ウ . 最新ディーゼル乗用車に最適な燃料品質検討
〔目標〕
最新ディーゼル乗用車の排出ガス低減、燃費向上に必要な燃料品質(硫黄分、蒸留性状)
を明確化します。
〔技術課題〕
・最新排出ガス後処理装置・エンジン燃焼性能に及ぼす硫黄分、蒸留性状の影響検討
・ディーゼル車のポテンシャルを引き出す使用条件の検討
〔今年度の活動〕
在来型石油以外の燃料利用を想定した燃料品質の影響確認を進めるとともに、ディーゼル
車の CO2 低減効果をリアルワールドを想定して進めています。
欧州ディーゼル車および同クラスのガソリン車の比較
より、ガソリン車に対し、ディーゼル車のCO2低減割合
が最も大きくなるのは 平均車速が15~30km/h
低減割合が最も高くな
るのは 平均車速が
15~30km/h のモード。
CO2低減割合%(対ガソリン車)
20
18.2
17.2
16
14.8
14.1
13.1
12
12.1
11.5
10.5
9.3
8
9.0
7.6
5.7
4
0
0
20
40
60
80
モード平均車速 km/h
100
CO2、燃費試験結果(モード試験)
2008.3
エ . 大気環境改善研究
〔目標〕
• 「オゾン+NO ⇒NO 2 」を含む反応は沿道のNO 2 を正確に推
計するには必要なため、モデルへの組込みを検討する
JCAP においては、広域(日本全
これらの反応を考慮せず
道等)までの大気汚染物質に係る濃
モデルに組込む反応式
プレベルの大気シミュレーションモ
NO 2
デルを開発しました。JATOP にお
ンモデルを発展させて、特に沿道
NO2、PM2.5 等の微小粒子の課題
NO 2
NO
度分布の予測を可能とする世界トッ
いては、この大気シミュレーショ
JCAP Ⅱモデルでは
オゾン
国レベル)~沿道(交差点近傍の沿
PM
HC,CO,etc
NO 2 →(hv) →NO +O
O + O 2 + M → O3 + M
O 3 →(hv) → O 2 + O
NO + O 3 → NO 2 + O 2
NO 2 + O → NO + O 2
沿道モデルへの化学反応の組込み検討
について、自動車による寄与を明確にするとともに、今後の大気環境改善に向けた対策の効
果予測を行います。
*PM2.5: 大気中の粒子状物質(Particulate Matter)の中で 2.5 μ m 以下の微小粒子を指します。小さな
粒子の方が気管を通過しやすく、肺胞等気道より奥に付着するため、人体への影響が懸念されています。
〔技術課題〕
大気推計の精度向上のための
・沿道 NO2 や沿道微小粒子メカニズムを解明し、自動車の寄与度を明らかにする
・エミッションインベントリの改善、更新
〔今年度の活動〕
・沿道 NO2 推計精度向上
沿道 NO2 の推計精度向上のため、従来考慮されていなかった大気中の化学反応を、大気
モデルに織り込むことを検討しています。
・エミッションインベントリ精度向上
自動車エミッションのインベントリ精度向上のため、リアルワールドの排出把握と大気モデ
ルへの反映を行っています。その活動の一つとして、RSD(Remote Sensing Device)を利用
した車両エミッション調査を実施しています。
RSD で通過した車両の瞬時のリアルワールドの排ガスを計測し、異常にエミッションの高い
車両(ハイエミッター)の割合を求め、大気モデルの排ガス推計に使用しています。今年度は
11/5 ( 月 ) ~ 11/19 ( 月 )
にかけて、前年と同様に、横
浜シーサイドライン海の公園
南口駅にて RSD による実走
行車両の排ガス計測を実施し
ました。場所は右記地図の通
りです。
今後は、計測データと車両
ナンバーからの車両情報を照合
させ、通過した車両の排出ガス
が排出ガス規制の違いでどのよ
うな傾向を示すのか、統計的に
解析していくことにしています
(写真は計測風景)。
ᮮᵿᣂㇺᏒ੤ㅢ ᶏ䈱౏࿦㚞䈪䈱⸘᷹
• H14.10᦬ (╙1࿁)
• H16.2䌾3᦬ (╙2࿁)
• H18.5䌾6᦬ (╙3࿁)
• H19.11᦬ (╙4࿁)
石油産業安全基盤整備事業
“安全支援システム(PEC-SAFER)
”
1. システム構築の背景と目的
近年の産業界における事故多発を受けて、平成 15 年 12 月に経済産業省より「産業事故調
査結果の中間取りまとめ」が公表されました。この中で、事故防止に向けた対策の方向性とし
て【経営トップの役割】
、
【事故情報の共有】
、
【人的要因に対する安全対策(誤判断・誤操作等
の防止 / 保安技能の伝承・教育の充実)
】
、
【設備・部品のリスク管理】等、石油産業として取り
組むべき共通の課題が多く挙げられました。
この結果を受けて、PEC では 3 つの柱(①ヒヤリハット・事故の教訓の知識化と体系化 ②保安技能の伝承のための教育支援 ③設備管理及び工事管理レベルの向上)に関する情報を
石油業界内で共有化することにより、石油産業の安全向上に資することを目的とし、平成 17
年度から 3 年間かけて安全支援システムを構築してきました。
2. システムの概要
本 シ ス テ ム は“PEC-SAFER
(PEC-Safety Assist For Engineer in
キーワード検索
Refinery)
”と呼ばれる Web サイト
(http://safer.pecj.or.jp/)で、以下に
データベースのメニュー
示す 3 つのデータベースで構成され
ています。なお、平成 19 年 12 月
に全てのデータベースが完成しまし
た。図 1 に PEC-SAFER のホーム画
最新の
データ
データベース
のメニュー
面を示します。
1)ヒヤリハット・事故事例
安全情報
トピックス
データベース
ヒヤリハット・事故事例データベー
スは「ヒヤリハット事例データベー
図 1 安全支援システム(PEC-SAFER)ホームペー
ス」と「事故事例データベース」から構成されています。
「ヒヤリハット事例データベース」は
事故に至らなかったプロセス・ヒヤリを中心に収集されたものであり、石油各社が直接入力し
て構築されるデータベースです。一方、
「事故事例データベース」は一般に公開されている情報
を収集、分類、分析して構築されたデータベースです。どちらのデータベースも PEC-SAFER
標準のフォーマットで整理されており、多くの入力項目は予め設定された選択肢(コード)の
中から選べるようになっています。事例はテキストデータですが、ユーザーは任意の入力項目
を使って自由にグラフを作成することができます。なお、
「ヒヤリハット事例データベース」は
石油各社のコンピューターからのみアクセス可能で、アクセスする際には ID とパスワードが
必要となります。ID とパスワードは各社の担当者までお訊ね下さい。現在 300 件近いヒヤリ
ハット事例と 200 件を越える事故事例が掲載されています。図 2 にヒヤリハット統計グラフ
の一例を示します。
2008.3
図2 ヒヤリハット統計グラフの一例(ヒヤリハット事象別比率)
2)安全教育データベース
安全教育データベースは「一般基
礎知識」
「操作に関する知識・技術」
「体験安全ライブラリ」
「Web ラー
ニング」から構成されています。
「一
般基礎知識」及び「操作に関する知
識・技術」には石油各社から収集し
た教育資料が分類し格納されてお
り、閲覧はもちろんのことユーザー
は自由にダウンロードして使用でき
ます。
「体験安全ライブラリ」は消
火訓練や安全体感訓練等の教育施設
図 3 安全教育データベースの資料の一例(フローティングルーフタンク)
のデータベースとビデオ教材から構
成されています。ビデオは各社から提供を受けたものの他、PEC が作成した泡消火薬剤等のビ
デオを掲載しています。
「Web ラーニング」は Web 上でナレーションを聞きながら学習を進め
る教材で、
「見える化」
「ビジュアル化」といった製油所のニーズに応えたものです。
「操作に関
する知識・技術」及び「事故事例データベース」の中から製油所運転員にとって重要と思われ
る資料及び事例をピックアップし作成しています。現在教育データベースとして 800 件を越え
る資料が掲載されています。図 3 に教育資料の一例を示します。
3)設備安全データベース
設備安全データベースは「劣化事例データベース」と「工事管理データベース」から構成さ
れています。
「劣化事例データベース」
は事故に至らなかった製油所設備に関する
「予想外の劣化」
事例を共有化し水平展開することを目的として収集されたデータベースです。各事例は静止機
器、動機器、計装機器、電気機器、その他の機器の 5 つに分類されています。
「ヒヤリハット
事例データベース」同様に石油各社が直接入力して構築されるデータベースで、本データベー
スにアクセスするには ID とパスワードが必要となります。現在 150 件近い劣化事例が掲載さ
れています。
「工事管理データベース」には各社が所有している優先度の高い工事管理ガイドラ
インが格納されており、ユーザーは自由にダウンロードして使用することができます。現在 20
件のガイドラインが掲載されています。図 4 に「工事管理データベース」の一例を示します。
図4 工事管理データベースの一例(応急補修要領)
4)その他
上記 3 つのデータベースの他にも
安全に関して質疑応答ができる「安
全 Q&A」や安全に関するセミナーや
講習会を紹介する「安全情報トピッ
クス」等のコーナーもあります。
また、ユーザーの使い勝手に資す
るためにプロセスフロー図から検索
できる「フロー検索」やキーワード
集から検索できる「キーワード検索」
等の検索機能も準備しています。
「フ
ロー検索」画面を図 5 に示します。
図5 「フロー検索」画面
3. おわりに
以上 PEC-SAFER の概要について紹介してきましたが、データベースが有効に活用されるか、
あるいは陳腐化してしまうかはその維持・管理にかかっているといっても過言ではありません。
本システムは平成 19 年 12 月に完成しましたが、完成後の運用は重要な課題です。いつホーム
ページを訪ねても同じデータばかりで新しいデータが入っていないとそのうち誰にも閲覧され
なくなります。ユーザーにとって魅力的なサイトであり続けるために今後、定期的なデータの
更新等運用に関する検討を継続していく予定です。また、ヒヤリハット事例データベースや劣
化事例データベース充実のために石油各社からの事例提供をお願いいたします。
最後になりますが、PEC-SAFER を構築するにあたり資料提供や取材及び撮影に対して協力
をしていただきました石油各社はじめ、本事業の推進にあたり評価、検討、ご助言をいただき
ました経済産業省、学識経験者、関係諸団体のみなさまに感謝申しあげます。
2008.3
変貌する需給環境に対応するための
製油所の競争力と戦略に関する調査
我が国の石油製品需要は今後とも減少、軽質化するとともに、バンカーオイルをはじめとす
る重質燃料油の低硫黄化、更に産油国の精製能力拡張にともなう石油製品輸出動向等、石油精
製業を取り巻く環境は今後とも厳しいものと考えられます。本調査は、このような環境の中、
我が国石油産業の基盤強化と石油製品の安定供給の向上を目的に、米国のコンサルタントに委
託、実施したものです。
ここでは、我が国製油所の収益性、操業経費等の主要な項目について、シンガポールを含む
アジア及び韓国の優れた製油所と比較・分析した結果について紹介します。
1. 前回調査との収益性の比較
我が国の石油精製各社は、前回調査(1996 年)以降、原油処理能力の削減、小規模製油所
の閉鎖、極端に複雑な所有構造の合理化、企業間の相乗効果の活用、及び隣接する拠点の統合
など種々の面で合理化を行い大きな進歩を遂げています。
表 1 に示すとおり 1996 年時点では、グロスマージン 1 がアジアの「ペースセッター製油所」
と比べ 1.3 ドル / バレル優れていたものの、操業コスト 2 がアジアのグループの 2 倍以上と極
めて厳しい状況にあり、ネットキャッシュマージン 3 では 0.9 ドル / バレル劣る状況にありま
した。しかし、
今回の調査結果では、
表 2 に示すとおり操業コストの差が大幅に縮小したことで、
ネットキャッシュマージンで 1. 4 ~ 0.15 ドル / バレル優位となっています。我が国石油精製
各社は、高品質で環境に配慮した製品の製造が可能であり、生産された全製品の価格総額は他
グループより圧倒的に大きく、設備の変換能力においてアジア太平洋地域で主導的立場を維持
しているといえます。
表 1 1996 年時点のマージン及び収益性 (単位 : ドル / バレル・処理量)
表 2 2004 年時点のマージン及び収益性 (単位 : ドル / バレル・処理量)
1 生産された全製品の価格総額から処理された全原材料の持ち届けコストを差し引いたもの。
2 操業とメンテナンスに関連し生じる費用。変動費(エネルギー、薬品、触媒等)
、固定費(給与、福利厚生費、請負費用、メンテナンス費用、
固定資産税、保険等)等からなる。
3 グロスマージンから操業経費を差し引いたものにその他製油所収入をくわえたもの。
4 1994 年に燃料調査に参加した日本の製油所
5 持続した収益性に最も優れ、全ての評価尺度において上位 1/4 あるいは 2/4 のグループにランクされたアジアの製油所グループ
6 輸出量の大きい製油所グループで規制緩和された場合に日本の製油所にとって直接の競争相手となるアジアのグループ
7 オーストラリアを除く燃料調査に参加した他のアジアの製油所
8 2002 年から 2004 年の燃料調査に参加した日本の製油所で、全ての競争力評価尺度において上位の 6 製油所グループ(JC)
9 2002 年から 2004 年の燃料調査に参加した全ての日本の製油所の平均(JT)
10 2002 年から 2004 年の燃料調査に参加したシンガポールを中心とした製油所で、全ての競争力評価尺度において上位の 6 製油所グループ(AC)
11 2002 年から 2004 年の燃料調査に参加した韓国の全ての製油所グループ(K)
2. グループ別製油所の特徴と 2004 年操業実績指標
各グループの製油所の特徴を表 3 に示します。ここで注目すべきは、日本の製油所はアジア
太平洋の他の製油所より EDC12 が高いことです。言うまでもなく、韓国の製油所は他の製油所
よりはるかに高い原油処理能力(蒸留設備能力)を有していますが、装置構成係数で示される
通り、韓国の製油所は日本の製油所ほど高度化されていない。日本の製油所はその規模におい
ては劣位にありますが、二次処理能力では主導的立場にあることが確認できます。
表 3. 各グループ製油所の特徴
日本の製油所は他地域の製油所に比べて幾分老朽化しています。このこととメンテナンス費
用や設備の信頼性との相関関係はないとされていますが、例えば接触改質装置における固定床
式と連続再生式においては、得率や機械的稼働率において古い設備(固定床式)が不利である
ことは明らかです。また、大規模製油所は小規模製油所に比べ、経済性と操業性において、そ
の改善速度が優れているとされています。
表 4. 各グループ製油所の 2004 年操業実績
各グループの製油所の操業実績を表 4 に示します。日本の製油所は従業員指数(PI)での競
争力は優れているものの、メンテナンス指数(MI)と機械的稼働率(MA)はいずれも劣って
います。この劣位の大きな要因の 1 つは二次設備を十分活用できていないことであり、その原
因としては、①現在の製品需要に対する二次装置処理能力の不均衡、②余剰製品の処理手段に
関する柔軟性が限られていること、または、③これらの設備に関する定期補修の間隔が短いこ
とや他装置のメンテナンスによる装置停止といった機械的稼働率の低下から生じている可能性
12各精製装置能力 (b/sd) にソロモン社独自の装置構成係数 (configuration factor) を掛け合わせ合計したもの。これを母数にすることで異
なった装置構成をもつ製油所間の操業実績の比較が可能となる。
2008.3
が考えられます。
2004 年における操業効率の実績を表 5 に示します。日本のグループは大部分がエネルギー
効率(EII ™)に優れた結果を示しています。
表 5 製油所ピアグループ効率性操業実績指標
表内の数字は、類似する規模と設備構成の製油所に対して算出された「標準値」に対する
パーセンテージを示しています。
3. グロスマージン分析 15
シンガポール価格に基づいたグロスマージン分析結果を表 6 に示します。日本のグループ
(JC,JE)は、ガソリンやオンロードディーゼル燃料など主要製品が高品質であることにより、
他グループよりグロスマージンに優れています。しかしながら、日本のグループの操業コスト
が高く、グロスマージン・トップグループとのギャップは 0.11 ドル / バレル~ 0.28 ドル / バ
レルです。2 つのアジアのグループ(AC,AE)はグロスマージン・トップグループより操業コ
ストが低く、これは AC 及び AE に属する製油所が実際に競争力でも効率性でもトップになり
得るという観点から注意が必要なポイントであります。
表 6 グロスマージン分析
(単位 : ドル / バレル)
表中のグロスマージン分析は、表上部のグロスマージン・ギャップを総製品価値と原材料費
にブレークダウンしており、日本グループの総製品価値はグロスマージン・トップグループよ
りが若干低く(JC では 0.40 ドル / バレル、JE では 0.74 ドル / バレル)
、原材料費は若干高
13
14
15
10
2002 年から 2004 年の燃料調査に参加したシンガポールを中心とした製油所で、全ての効率性評価尺度において上位 6 製油所グループ(AE)
2002 年から 2004 年の燃料調査に参加した日本の製油所で、全ての効率性評価尺度において上位 6 製油所グループ(JE)
シンガポールの価格設定で 2004 年のグロスマージンが最も高い 4 つの製油所(グロスマージン・トップグループ)を、ターゲットグルー
プとして選択し各グループと比較したもの。
/ バレル、
JE で 0.17 ドル / バレル)
。
日本の製油所は、比較的比重が軽
く硫黄含有量の少ない原油で操業
しており、特に K グループとの差
異は大きくなっています。K グル
ープはグロスマージン・トップグ
8
World
6
ントであります。
Australasia
5
ループより 0.18 ドル / バレル原材
料費が低いことは注目すべきポイ
Japan
7
Index
くなっています(JC で 0.36 ドル
4
Singapore
South Korea
India
3
製油所の高付加価値製品・生産
能力を判断するための比較指標と
China
2
1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006
Year
してプロセス複雑性係数(Process
JPEC07-72
Complexity factor)が算出されて
図 1 国別プロセス複雑性係数のトレンド
います。図 1 に示されるように、
日本の設備高度化は過去 10 年間で急速に進められています。現在、アジア地域内の他の国よ
りプロセス複雑性係数が高くなっており、接触分解及び水素化処理の設備装着率において圧倒
的優位に立っています。
4. 操業コスト
次に、操業コストについて考察します。図 2 及び図 3 は、2004 年の操業コストを円グラフ
で示したものです。AC のエネルギーコストは全操業コストの 61 パーセントを占めています。
このエネルギーコストは、原油価格の上昇を反映し上昇傾向にあります。
NonTurnaround Maintenance
NonMaintenance,
Turnaround Maintenance
Personnel,
Non-TurnaroundMaintenance,
3%
14%
Personnel,
Maintenance,
Non-Turnaround
3%
14%
10%
Maintenance,
10%
Taxes,
Insurance,
Taxes,
& Other
Insurance,
Other
&Fixed,
Other
VolumeOther
4%
Fixed,
Related,
Volume4%
8%
Related,
8%
Energy,
61%
Energy,
61%
Taxes,
NonTurnaround Maintenance
Insurance,
Taxes,
NonMaintenance,
&
Other
Turnaround Maintenance
Personnel,
Insurance,
Other
Non-Turnaround Maintenance,
6%
Fixed,
15%
&
Other
Personnel,
Maintenance,
Other
Non-Turnaround
6% Volume6%
Fixed,
15%
Related,
9%
Maintenance,
6% Volume8%
Related,
9%
8%
Energy
56%
Energy
56%JPEC07-26
JPEC07-26
JPEC07-25
JPEC07-25
図 2 操業コスト -AC
図 3 操業コスト -JC
黄及び橙色部分のメンテナンス費用は、労務費や機器のレンタル、原材料費を含めた定期補
修と、定期補修以外の即ち日常的なメンテナンス作業、機器のレンタル、原材料費を含んでい
ます。赤色の部分には、メンテナンス費用に含まれるメンテナンス作業員を除いたその他すべ
ての人件費が含まれます。紫色の部分は固定資産税、保険料、環境費用など、その他の生産量
11
2008.3
に連動しない費用です。青色の部分は主として触媒や化学薬品費用に製品添加物を加えた、そ
の他の生産量に連動する費用です。AC のデータは、日本を除いたアジア太平洋地域に典型的
なものとなっています。
日本の操業コストを図 3 に示します。エネルギーコストの全体に占める割合は AC より少な
くなっていますが、これは単に人件費やその他のメンテナンス費用の比率が高いことによりま
す。JC におけるメンテナンス費用のパーセンテージ(15%)は AC(13%)より高いことは、
努力の必要な領域といえます。また、日本においては税金や環境コンプライアンス費用が高い
ことを反映して、紫色部分の生産量に連動しない費用が高くなっていますが、この費用は、製
油所の所在地、政府や地域の規制により規定されるため、大部分は製油所経営の管理を超える
ものと考えられます。
図 4 に最近 3 回の調査
(2000 年、
2002 年及び 2004 年)
に関する操業コストの 4 分割チャー
トを示します。左側のグラフに競争力の高い 3 つのグループ(AC,JC,K)
、右側のグラフには効
率性の高い 2 つのグループ(AE,JE)と日本の平均的なグループ(JT)を示しています。
70
60
60
50
40
50
4Q
40
JC
AC
K
30
20
4Q
JT
JE
30
20
1Q
10
0
US Cents per UEDC
80
70
US Cents per UEDC
80
AE
1Q
10
2000
2002
0
2004
2000
Year
2002
2004
Year
JPEC07-29
JPEC07-30
図 4. 操業コストのトレンド
最も優れているグループは第 1 グループ(1Q)であり、操業コストが最も低く、最も下に
位置しています。実線は第 1 グループと第 4 グループのトレンドラインです。2004 年の値が
総じて高いのは、エネルギーコストの増加によるものです。
JT グループは 3 回の調査すべてで、第 3/ 第 4 グループの分岐点に位置しています。一方、
JC グループの操業実績はほぼ 1 グループ分 JT より勝っているものの、一貫して第 2 グループ
から第 3 グループに位置しており、他グループより劣る結果となっています。
5. 操業コスト分析 16
操業コストの分析結果を表 7 に示します。6 つすべてのグループがターゲットグループと比
較して、中程度のギャップを示しています。
操業コストをその構成要素別にみてみると、日本のグループのエネルギーコストのギャップ
は、エネルギー消費量に関する利点がエネルギー価格のギャップで相殺された結果生じている
もので、メンテナンス費用のギャップは、定期補修とこれ以外のメンテナンス費用の合計によ
り生じているものです。メンテナンス以外の人件費のギャップは、作業時間の利点が人件費に
16 シンガポールの価格設定に基づいた 2004 年の全般的な操業経費が最も低くなっている 4 つの製油所を「操業経費ターゲットグループ」
として選択し、各グループの操業コストと比較したもの。
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相殺され生じているものです。その他にも、触媒費用、固定資産税、及び環境費用にもギャッ
プが生じています。
表 7 操業コスト分析
(単位 : 百万ドル / 年)
日本の操業コストは、以下の 5 分野において、他のアジア太平洋の製油所より高く、中でも、
メンテナンスの年間費用がアジア太平洋の他の地域に比べてかなり高くなっています。また、
購入電力費用は世界的基準でも極端に高いとされており、コージェネレーションなどを通じて
電力購入を最小限に抑えることが必要とされています。
①エネルギーコスト、特に購入電力
④固定資産税、保険及び環境コスト
②賃金単価
⑤触媒、化学薬品及び添加物
③日常的なメンテナンスと定期補修
6. まとめ
今回の調査において、我が国製油所の操業収益性や操業効率は、各社の経営努力により過去
10 年間において大幅な改善がなされていることが確認されました。変換設備能力においてはア
ジア太平洋地域で主導的地位を保っており、高品質で環境に配慮した製品の製造が可能となっ
ています。今後についても、2010 年までに 7 万 BD の分解装置増強計画があることから、日
本における変換設備投資は他のアジア太平洋に遅れを取るものではなく、変換能力における優
位性は今後とも確保されると考えられます。
しかしながら、欧米先進国の製油所等と比較した場合、製油所の競争力格差は依然として存
在しているのが実状と考えられます。今後、国内需要が低下し、石油製品流通がますます国際
化していくことを想定すると、更に、変換設備能力と高品質化設備能力の増強が必要と考えます。
各国の新鋭設備の立ち上がりや国際競争激化に備える必要性は大きいと思います。
原油蒸留稼働率について、欧米で達成されたレベルに基づくと、更に 5 パーセントの稼働率
上昇余地が見込まれています。今後、国内需要の減少が想定されていることも考慮すると、合
理化等による高効率運転に向けた稼働率アップ努力は今後とも必要と考えます。
本調査では、操業収益性についてシンガポール価格を前提に比較・分析したことで、日本の
製油所は優位となっています。しかしながら、国内での実態はこれとはかけ離れた部分もある
と思われます。国際化に向けた企業体質を作り上げるためにも、適正な精製マージン確保が絶
対条件であり、適正マージン確保に向けた努力は今後とも必要と考えます。
操業コスト等において、アジアの他製油所に後れを取っている部分もあり、真に競争力があ
るとは言い難い面もあります。今回の調査結果から、具体的な優・劣項目を確認し、今後の各社・
業界内での改善目標値としての活用に繋げていきたいと考えております。
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2008.3
トピックス
第 6 回アジア石油技術シンポジウム開催
当センター(PEC)および社団法人日本自動車工業会(JAMA)は、自動車と燃料品質の向
上および石油精製技術開発による大気環境改善を目指すことを目的に、毎年アセアン各国に
て 「 アジア石油技術シンポジウム 」 を主催しています。今年度は、フィリピン・エネルギー省
(Department of Energy)をアセアン側の共催機関として、
2008 年 1 月 29 日(火)~ 31 日(木)
に、フィリピン・セブ市にて、「 第 6 回アジア石油技術シンポジウム ~燃料の品質改善およ
び製造設備からの環境負荷物質排出の低減~」を開催しました。
2 日間にわたるセッションでは、日本およびアセアン各国から自動車燃料の製造から利用、
製油所での環境対策技術に関わる現状と今後の対応技術について発表がなされ、例年にも増し
て活発な質疑応答が行われました。また、3 日目はサイトツアーとして、ペトロン社(フィリ
ピン国営石油とアラムコの合弁)の石油製品ターミナルを見学し、同国の輸送用燃料の需給と
流通体系について説明を頂きました。
今後も、当センターは、燃料製造と利用の技術に関して、アセアン各国と日本の継続的な技
術交流の場を企画し、同地域の大気環境改善に向けた活動の進展を図ると共に、わが国の石油
産業の国際競争力強化やビジネス展開に資する技術情報の収集に努めていきたいと思います。
【主な参加者】
全 80 名
(日本側)
PEC、JAMA、豊田中央研究所、新日本石油、出光興産、コスモ石油、 群馬大学
(アセアン側)
フィリピン(エネルギー省、環境天然資源省、石油協会、CAI-Asia Center、石油業界、
自動車業界等)、タイ(PTT 石油公社、タイオイル)、マレーシア(シェル)、シンガ
ポール(シンガポール石油、南洋工科大学)、インドネシア(LEMIGAS、プルタミナ)
日本およびアセアン発表者との全体写真
【概要】シンポジウムは、プレナリーセッション、自動車燃料 WG セッション、石油精製 WG
セッションの 3 部構成とし、日本側より 8 件、アセアン側より 12 件の計 20 件(PEC ホーム
ページで公開)の発表がありました。
各セッションの座長は日本側より 3 名、フィリピン側より 3 名を選任し、担当セッションの
まとめをシンポジウムの最後に報告頂きました。
①プレナリーセッション フィリピン側代表として、エネルギー省次官の Mr.Mariano S. Salazar から同国の石油およ
び代替エネルギー政策について、また、アジアの大気保全の調査研究を行っている非営利機関
である CAI-Asia Center の Mr.Bert Fabian からはアセアン各国の大気汚染の現状と、燃料油品
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質改善に向けたロードマップについて講演がありました。
日本側からは、JAMA(トヨタ)茂木氏が世界の自動車燃料規格動向とバイオ燃料の品質課
題について、新日本石油の岩瀬氏からは同社におけるバイオ、新燃料研究を含めたクリーン燃
料の技術開発の取り組みについての講演がありました。
②自動車燃料 WG セッション
このセッションでは、燃料政策、品質規格、自
動車エミッションの話題を盛り込んで 10 件の発
表がありました。 フィリピンでは昨年 5 月より自国のココナツ
油由来 FAME を配合した BDF 軽油(B1)が全
土で義務化されている事情もあり、バイオ燃料に
関する発表に対して活発な質疑応答が行われまし
どのセッションも活発な質疑応答が行われました
た。特に、PEC から発表した BDF 混合軽油の排ガス試験結果については、ココナツ油と他の
FAME との排ガス性能比較に強い関心が示されました。
バイオ燃料品質規格について世界各地域で議論されていますが、地域毎の規格設定は国際的
な製品流通を阻害するおそれもあることから、酸化安定性などバイオ燃料に特有の品質項目に
ついては世界的な基準が必要であるとの意見が出されました。さらに、バイオ燃料はアジアの
農業振興にも有効であるものの、環境への負のインパクトについても今後議論をすべきとの問
題提起もなされました。
③石油精製 WG セッション
このセッションでは、製油所での燃料製造技術や環境対策技術について計 6 件の発表があり
ました。
クリーン燃料製造のための既存精製設備への投資は、アセアン各国様々な段階ですが、シン
ガポールを筆頭に、タイ、インドネシアから、低硫黄クリーン燃料製造やバイオ燃料の導入に
向けてのより具体的なロードマップが示されました。また、フィリピン最大の石油会社である
ペトロンからは、製油所での BDF 混合軽油の製造プロセスと品質管理方法について詳細な発表
がなされ、他のアセアン参加者から技術情報を提供して欲しいとの要望も出されました。
日本の石油会社からは、製油所の大気改善(出光興産)と廃棄物削減(コスモ石油)に関す
る発表が行われました。アセアン各国の製油所での環境対策はこれからの取り組み課題である
ため、参加者からは日本の先進的な取り組みに対して熱心な質問が相次ぎ、セッション後にも
個別の情報交換が続きました。
④石油輸送基地視察
フィリピン最大の石油会社であるペ
トロンの石油製品ターミナルを視察しま
した。この施設は、マニラ近郊(フィリ
ピン北部)にあるシェルとペトロン両製
油所からの製品を受け入れ、フィリピン
南部の島々に供給する重要拠点となって
います。既に全土に流通している B1 や
群島国家フィリピンの重要な拠点ターミナルを視察しました
今夏流通が始まる E10 の受入基地とも
なっており、海上入出荷設備、製品タンク、品質管理ラボ等の視察を行いました。
なお、次回第 7 回アジア石油技術シンポジウムは、ベトナム石油研究所(VPI)の協力を得、
2008 年 1 月にベトナムでの開催を予定しています。
石油情報プラザ
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