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行政指導と処分の複合的行為

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行政指導と処分の複合的行為
「法的効果」という文言を用いずに,勧告が指
の運用の実情をも考慮し,指定拒否の蓋然性の
であれば,処分性が認められる可能性があると
したうえで,そこまで処分性の判断基準を拡張
せずに,処分性を拡張する考え方を模索すべき
高さ14)に加えて,その不利益の重大性を併せ
という考え方がある20)。具体的には,①一方
考えることにより,処分性を認めるという考え
的な法的効果に固執せずに,事実上の効果をも
的な規律力,②その他の法的効果という伝統的
要素に加え,③処分要件の一部の最終決定とし
ての性格,④事実上の強制をも含めて,法的性
考慮して処分性を認めたものといってよい'5)。
質の行為か否かを判断するとともに,さらに,
定拒否と法的に完全に連動していなくても,法
方をとったものと解される。その意味で,直接
98
等
d
号
この点に関しては,第1に,従来の処分性拡
処分手続を保障する必要性が認められる場合
大の範鴫を超え,行政制度の根幹を揺るがす可
に,処分性を認めるというものである。そし
能性があるとして,これを批判し,あるいは実
て,本件の場合には,指定拒否の要件を一部最
効的救済のため他に方法がない場合の便法であ
終決定し,国による計画的な市場形成のための
るので,極めて限定的に捉える必要があるとす
参入制限にふさわしい手続を保障するという観
る考え方がある16)。
点から,処分性を認めるべきであるとする。
第2に,法的効果の意味を柔軟に解釈するこ
第5に,本件勧告はこれまでの処分でもな
とにより,本判決も法的効果という基準を放棄
い,行政指導でもないハイブリッドの新種の行
したわけではないとし,これを従来の公式の枠
為類型(拘束的予告)であるとし,それは典型
内にあるものと捉えようとする考え方がある。
的なものではないので,法概念の中核部分を変
すなわち,指定拒否という制裁により,勧告を
質させるわけではないし,処分に近いこの例で
守る義務を発生させていると捉えるものであ
は処分として争うべきであるという考え方があ
る。このような考え方は,勧告と指定拒否の関
る
2
1
)
。
係に係る明文規定が設けられた後の勧告につい
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ては,いっそう当てはまることとなる'7)。
思うに,本件勧告は,医療法の枠組みでは行
政指導としての性質を持つ一方,健康保険法と
第3に,本判決は従来の公式の例外ではある
の関係では指定拒否の予告的効果を有するか
が,従来の公式は,もともと例外を認めない趣
ら,第5の考え方が述べるように,行政処分と
旨ではないとし'8),あるいは,従来の公式は
行政指導の複合的行為としての性質を有するも
直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を
のである。その際,予告的効果は,部分的には
確定することが法律上認められていると評価す
行政実務に裏付けられるものではあるが,最高
るにふさわしい効果を有するものについて処分
裁は,本件当時,本件勧告に従わない場合に保
性を認める趣旨であるから19),本判決も,従
来の判例に反するものではないとする。
険医療機関等として著しく不適当と認めて指定
第4に,本判決によれば,行政指導に反する
行為を事実上不可能にするような不利益的取扱
い(事実の公表を含む)が予定されているもの
、14)前掲注9)福岡高判平成15.7.17は,「拒否処分を受
ける現実的かつ具体的な危険」という表現を用いている。
15)前掲(Ⅱ2)最判平成17.10.25の藤田裁判官の補
足意見は,従来の公式とは異なる旨を明言する。
16)塩野・前掲注2)118頁以下,同「行政法概念の諸相」
(有斐閣,2011年)15頁以下,玉川淳「判批」貿金と社会保
障1425号(2006年)69頁等。
17)中川丈久「行政実体法のしくみと訴訟方法一紛争
処理のための行政法」法教370号(2011年)71頁,太田・前
掲注11)49頁。
18)仲野武志「判批」自治研究82巻12号(2006年)142
頁,稲葉一将「処分性の拡大と権利利益救済の実効性」法時
82巻8号(2010年)9頁以下参照。
拒否をすることが許されたということを前提と
していると考えられ(前掲〔、〕最判平成
17.9.8)22),その前提に立つ限り,法的効果
としての側面が全くないわけでもない。
19)牛嶋仁「判批」法令解説資料総覧289号(2006年)
75頁。
20)山本隆司「処分性(3)処分性拡張のさまざまな可能
性と違法性の承継」法教333号(2008年)44頁以下参照。
21)阿部泰隆「行政師訟における訴訟要件に関する発想
の転換」判時2137号(2012年)10頁以下。また,勧告を確
約と捉えて処分性を肯定すべきとするものとして,乙部哲郎
「行政指導の処分性に関する一考察」神戸学院法学37巻3=4
号(2008年)42頁以下参照。なお,仲野・前掲注18)146頁
以下は,本判決は.不利益取扱いを予告する法定行政指導に
処分性を漣めたものであると捉えたうえで,予告に通用力を
翌める根拠が十分であるかどうか,疑問を呈する。
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