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除草費用の縮減と水路景観・環境 の向上に配慮した施設整備の検討
除草費用の縮減と水路景観・環境 の向上に配慮した施設整備の検討 ○佐 久 間 千 恵 1 ・羽 田 野 義 勝 2・古 藤 新 一 3 概要: 利根導水総合事業所(以下、「事業所」という)では、利根大堰や秋ヶ瀬取水堰などの堰のほか、 延長約 140km に及ぶ開水路等施設の管理を行っている。これらの施設に係る管理費のうち、除草費用 の占める割合は大きく、管理予算を圧迫している。 一方で、近年、住民意識や社会情勢が変化し、水路は単に水を運ぶだけではなく、人々に潤いを与 える貴重な水辺環境を提供する施設として期待されてきている。雑草が繁茂した水路は景観を損ねる ばかりでなく、不法投棄などの問題を生じ、管理事業の大きな課題となっている。 このため、当事業所では除草費用の縮減と水路景観・環境に配慮する目的で、地肌を被うことによ り雑草を抑制する効果が期待できるカバープランツの植栽試験を 2 年間にわたり実施した。いくつか の試験結果を比較検討した結果、カバープランツを植栽するための方向性を確立でき、実際の管理地 への適用も良好な結果を得ることができた。 本報告は、その検討内容、実用化の方法及びその効果について報告するものである。 キーワード:コスト縮減、水路景観・環境、カバープランツ、ユーザーとの連携、浄水場発生土 1. はじめに 一方で、カバープランツ(「地被植物」ともいう)と呼 ばれる植物がある。カバープランツを水路沿いに植栽する 利根導水施設等は、首都圏への水道用水の供給(約 1,100 万人)、工業用水の供給(約 370 事業所)、利根川中流部 ことで、雑草抑制効果及び景観・環境の向上効果が期待で きる。 に展開する約 29,000haへの農業用水の供給、隅田川への 本論文は、カバープランツの活用による除草費用の縮減 河川浄化用水の送水を実施しており、用水の安定供給を通 と水路景観・環境の向上に配慮した施設整備の検討を実施 じて農業の発展と首都圏の産業・生活基盤を支える重要な したものである。 水のライフライン施設である。管理施設は、利根大堰や秋 ヶ瀬取水堰、末田須賀堰などのほか、ポンプ場、取水施設、 沈砂池、水路等多岐にわたっている。また、水路部のほと 約5600万円/年 んどが開水路であり、合計延長は約 140km に及ぶ。 これらの施設を管理するために、事業所全体で約 430,000 千円/年の維持管理費がかかっている。そのうち除草に要す る費用は約 56,000 千円/年(除草面積のべ 980,000m2)で あり、維持管理費の約 13%を占めている。(平成 20 年度実 績)施設近隣住民からは、除草頻度をさらに増やすよう要 一年後 除草直後 望も寄せられており、今後も除草費用の増加が見込まれる 状況である。 1.利根導水総合事業所 管理課 2.利根導水総合事業所 管理課長 3.利根導水総合事業所 見沼管理所長 写真-1 除草前後の現地状況と除草費用 2. 問題認識 継ぎ目からの除草を追加実施しなければならなくなったこ とによる増加である。施設近隣住民からは、さらに除草頻 2.1 雑草が繁茂した用水路 見沼代用水は、見沼溜井を新田として開発するため、見 度を増やすよう要望が寄せられており、今後も除草費用の 増加が危惧される。 沼に代わる農業用水の供給施設として水源を利根川に求 管理費が縮減される中、除草費用が増加することで、除 め、井沢弥惣兵衛為永によって江戸時代に開削された歴史 草費用が維持管理費に占める割合は、平成 16 年度の 9%か 的な水路である。見沼代用水が構築された後、沿線の各沼 ら平成 20 年度の 13%へと年々増加している。水路等施設を が開発されてかんがい面積が拡大するとともに、見沼通船 管理する上で除草の実施は必要な取り組みであるが、今後 堀を介して、利根川と江戸を結ぶ内陸水運としても利用さ もこの割合が増加していくと、管理費において大きな負担 れ、地域の発展に大きく貢献した用水である。維持管理は となることが予想される。 江戸幕府で行ってきたが、明治初めからは水利土功会等(現 80,000 600,000 在は見沼代用水土地改良区)により行われ、その後埼玉合 75,000 口二期事業を経て、幹線部約 70kmを水資源機構が管理し 550,000 ている。 関係市町村によって遊歩道や公園が整備されたこともあ り、人々が集まる場が増えている。その一方で、水路フェ ンス周辺には、管理で実施している年 2 回の除草作業では 65,000 維持管理費 450,000 60,000 除草費用 55,000 400,000 約1割の増加 50,000 350,000 45,000 追いつかないほどの雑草が繁茂し、景観の悪化に加え、通 H20年度 H19年度 H18年度 40,000 H17年度 存在となっている。(写真-2) 300,000 H16年度 行障害、虫の発生、不法投棄が増加する等、近寄りがたい 除草費用(全体)(千円) 業で、水路改修によって生まれた土地を活用し、埼玉県や 維持管理費(千円) 昭和 53 年~平成 6 年にかけて実施された埼玉合口二期事 70,000 約3割の縮減 500,000 図-1 維持管理費の縮減と除草費用の増加 2.3 地域景観と調和していないコンクリートライニング 事業所ではこれまで、除草費用を縮減する目的で水路法 面部やフェンス周辺部において、地表面を覆うコンクリー トライニングを実施してきた。これは、イニシャルコスト に加え、施工数年後に目地部の除草実施に伴うランニング コストもかかっているのが現状である。 写真-2 雑草が繁茂したフェンス周辺の状況 2.2 管理費に占める除草費用割合の増加 ユーザーからコスト縮減要望がある中で、事業所の維持 管理費は、図-1 のとおり平成 16 年度から平成 20 年度の 5 カ年で約 3 割縮減している。これは、点検業務や巡視業務 の直営化を図ることや、類似業務の一括発注を実施するこ と等によってなされた縮減である。 一方で除草費用は、平成 16 年度と平成 20 年度とを比較 し、約 1 割の増加がみられる。これは、地元要望等により 年間除草回数を増加させた箇所があることや、ライニング 写真-3 コンクリートライニング状況 また、平成 13 年度に実施した埼玉合口二期事業事後評価 で、受益者と水路沿線の地域住民向けに実施したアンケー ト結果は図-2 のとおりである。約7割が土やブロックの水 路をコンクリート水路としたことに対して、親しみやすさ が失われたとの回答であった。 近年、住民意識や社会情勢が変化し、水路は単に水を運 ぶだけでなく、人々に潤いを与える貴重な水辺空間を提供 する施設として期待されている。そのような中で、機能性 を重視したコンクリートライニング化は、地域住民が求め る景観等への期待とは相反する取り組みとなっている。 シバザクラ 7% 4% 35% 21% 思う やや思う 思わない わからない 無回答 33% 【受益者】+【地域住民(水路沿線)】 (土やブロックの水路をコンクリートの水路にすることに より、親しみやすさが失われた。) 図-2 合口二期事業事後評価アンケート結果 ヒメイワダレソウ 写真-4 カバープランツの例 3. カバープランツを活用した施設整備への取組み 事業所の現状課題を解決する方策として、「安いコスト で雑草を抑制し、かつ、景観が向上する方法」を検討した ところ、「カバープランツ」を活用することで解決できる のではないかという考えに至った。 カバープランツとは、地表面を覆うように低く生える植 物の総称で、地肌を密に被うことにより雑草を抑制する効 果が期待できる(雑草抑制・除草費用の縮減)。また、カ 表-1 カバープランツの例1) 植物名 学名 科名・属名 形態分類 利用形態 カバーの様式 花の観賞時期 姿の観賞時期 植栽可能地域 生育の条件 カバープランツの例として、「シバザクラ」と「ヒメイ ワダレソウ」について写真-4 および表-1 に示す。 クマツヅラ科、イワダレソウ属 宿根草 平面、斜面、垂れ下がる ほふく茎の伸長・分枝 6月~9月 4月~11月 関東以南 日向から半日向。土壌湿気は乾燥 を好む。 積雪、乾寒風には弱く、熱さ、潮風 には強い。 速い 大面積での利用が可能 5~20㎝ へら型の小型の葉がついたほふ く茎がよく分岐し、地面いっぱいに 低く拡がって緑のカーペットを敷き 詰めたようになる。 冬には、葉が枯れるがまた春には 復活する。根は浅いが乾燥に耐え、 生育も旺盛なので、昼上庭園や人 工地盤をはじめ大面積でのローメン テナンスが可能な芝の代替植物と して利用が期待される。 積雪、乾寒風、熱さ、潮風に弱い。 普通 大面積での利用が可能 10㎝ 春を演出する効果の最も高いグ ラウンドカバープランツで、花色の 異なる品種を組み合わせて雄大な 景観を演出できる。 広い面積で利用するほど効果的 な植物で、広い斜面や公園、花壇、 ロックガーデン、さらに低い石垣の 上部に植えて下垂させてもよい。 密生すると雑草も寄せ付けないの で広範に利用できる。 耐寒、耐暑、耐乾性に優れ、日当 たり、風通し、排水性のよい場所で よく育つ。 で土崩れを防ぐ効果も期待できる。 ヒゲ、クマザサなどがある。 ハナシノブ科、フロックス属 常緑宿根草 平面、斜面、垂れ下がる ほふく茎の伸長・分枝 4月~5月 4月~9月 全国 日向から半日向。土壌湿気は乾燥 を好む。 耐性 多く存在する(景観向上)。さらに、地中に根を張ること あり、そのほかシバザクラ、ヒメイワダレソウ、リュウノ ヒメイワダレソウ Lippia repens 被覆速度 植栽可能性 観賞姿高 バープランツの中には、花を咲かせ、景観的に美しい種も カバープランツとしての種は、芝が最も代表的な種類で シバザクラ Phlox subulata cvs その他 4. 検討フロー 事業所では、カバープランツを活用した施設整備の取組みについて、以下のようなフローに基づき、2 年間にわ たり検討を実施した。 【問題認識】 ①雑草繁茂により近寄りがたい存在となった水路 ②管理費に占める除草費用割合の増加 ③地域景観と調和していないコンクリートライニング ④水路に対する住民意識の変化 (機能重視→水辺環境提供の場) 【問題解決のための方策】 カバープランツの活用による施設整備 ①地肌を密に被うことによる雑草抑制 ②除草費用の縮減 ③花を咲かせることによる景観向上 【カバープランツを管理地に適用するための試験】 ①最適種の選定試験 「シバザクラ」「ヒメイワダレソウ」 ②最適土壌の検討試験 「水路堆砂土による客土」「除草剤散布」 平成20年度実施 結論 雑草繁茂により失敗 ヒメイワダレソウが適種 1)雑草抑制効果のある工法の選定 2)表面被覆時間を短縮する工法の選定 「施肥の実施」 「水路堆砂土と浄水場発生土の混合」 「浄水場発生土による客土」 「除草剤散布」 「防草シート」 「土壌PH調整」 平成21年度実施 結論 最適土壌 ・表土はぎ(10㎝)+浄水発生土での客土+施肥 ・表土はぎ(10㎝)+浄水発生土と水路堆砂土での客土+施肥 【管理地への適用】 平成21年度実施 試験結果に基づき見沼代用水路十六間堰周辺で植栽を実施 実験結果の検証は良好 5. 管理地適用のための各種試験の実施 表-4 カバープランツ最適種の選定実験結果 シバザクラ ヒメイワダレソウ × ○ 植栽75日目の植被率は 29% 植栽75日目の植被率は 94% × ○ 植栽費:7,150円/m2(直工) 植栽費:1,140円/m2(直工) × ○ 5.1 カバープランツ最適種の選定 多数存在するカバープランツ種の中から、地域の気候に 繁殖力 適しており、かつ、本取り組みの目的と合致する種を選定 する必要がある。地域の気候に適した種として、近隣地域 で施工実績がある種を選定した。さらに、本取り組みの目 的である水路景観への配慮として、花を咲かせる種類であ る「シバザクラ」と「ヒメイワダレソウ」の 2 種を選定し た。(表-2) 経済性 (苗代込み) 評価 ※植栽費は、苗代+植栽手間の価格である。 表-2 実験に用いるカバープランツ種の選定 5.2 ヒメイワダレソウの特性試験(直営増殖) 近隣での 花の有 直営増殖 施工実績 無 カバープランツ種 シバ シバザクラ ヒメイワダレソウ リュウノヒゲ 有 有 有 有 無 有 有 無 選 定 「ヒメイワダレソウ」は繁殖力が高く、挿し木により容 易に増殖する植物であるため、表-2 の通り直営で苗製作を 難 難 容易 難 ◎ 行うことができる。直営増殖を行えば、苗代のコスト縮減 ◎ 効果が期待できる。 事業所では、直営増殖可能かどうかの確認と、増殖手法 を確立するために、2 年間にわたって増殖試験を実施した。 実験結果は、表-3 および表-4 の通りであり、繁殖力と 経済性の 2 点において比較した。なお、カバープランツが 地表を覆う割合(以下、 「植被率」という)を算出し、各種 また、平成 21 年度には、改良区等と共同で実施した。 いずれも挿し木後の成長状況は良好であり、約 1 ヶ月後 には植栽可能な状況まで成長を確認することができた。 類別の繁殖力を判断する目安とした。 同じ土壌条件で植栽を実施した 2 種のカバープランツ 各々において、植栽日と、植栽後 75 日目の植被率を比較し た。その結果、75 日目の植被率が 29%のシバザクラに対し、 ヒメイワダレソウは 94%であった。そのため、繁殖力はヒ メイワダレソウがシバザクラより優れていると判断した。 また、経済性を比較した結果も、ヒメイワダレソウがシバ ザクラより安価である結果となった。よって、最適なカバ ープランツ種として「ヒメイワダレソウ」を選定した。 挿し木直後 挿し木から約 20 日後 写真-5 挿し木によるヒメイワダレソウの増殖 表-3 カバープランツ最適種の選定実験結果 シバザクラ 6 月 13 日 8 月 27 日 ヒメイワダレソウ 植 栽 日 植 被 率 : 32% 植 被 率 : 2% 植 被 率 : 29% 植 被 率 : 94% 植 栽 後 75 日 目 写真-6 改良区等と共同で実施した挿し木状況 5.3 カバープランツ最適土壌の検討 表-5 カバープランツ最適土壌の比較実験項目 5.3.1 水路堆砂土による客土と除草剤散布 カバープランツを植栽するためには、すでに繁茂してい る雑草を確実に除去する必要がある。雑草除去が確実に行 われていない場合、植栽したカバープランツが地肌を覆う 表土はぎ(10㎝)+客土(10㎝) 客 土 (客土材:水路堆砂土) 除草剤散布 除草剤散布+耕起 前に繁茂した雑草によって日射が妨げられ、カバープラン ツの生育に悪影響を及ぼす可能性がある。 実験結果は、表-6 および表-7 の通りである。なお、植 そこで、確実に雑草除去ができる最適土壌の検討を表-5 の 2 通りで比較実験した。1 つは「表土はぎ+客土」方法で 被率の他に、雑草抑制効果の目安とするために、雑草割合 も算出した。 あり、客土材には毎年度管理で発生する水路堆砂土を有効 植栽試験を実施中、植被率に対して雑草割合が大きい状 活用することとした。また、カバープランツ植栽前に一般 況となり、植栽後 35 日目に人力除草を実施した。しかし、 的に用いられている方法として、「除草剤散布」方法も選 その後も雑草の繁殖が著しく、9 月以降には雑草の方が卓越 定した。また、植種は、前回実験結果より最適種として選 する状況となった。よって、選定したどちらの工法も、雑 定した「ヒメイワダレソウ」とした。 草抑制効果の点で最適な工法とはいえない結果となった。 表-6 カバープランツ最適土壌の検討実験結果 7月15日 植栽後32日目 6月13日 植栽日 客 土 ヒ メ 植 被 率 : イ 雑 草 割 合 : ワ ダ レ ソ ウ 除 草 剤 植 被 率 : 雑 草 割 合 : 9月以降 2% 0% 植 被 率 : 雑 草 割 合 : 18% 3% 人 力 除植 被 率 : 草雑 草 割 合 : の 実 施 2% 0% 植 被 率 : 雑 草 割 合 : 26% 26% 植 被 率 : 雑 草 割 合 : 表-7 カバープランツ最適土壌の検討実験結果 雑草抑制効果 客土 除草剤 × × 雑草繁茂が著しい 評価 × × 7% 93% 4% 96% 5.3.2 雑草抑制効果のある工法の選定 堆砂土による客土と除草剤散布による方法で、雑草抑 制効果が確認できなかった結果に基づき、 表-8 のとおり 工法を追加して再実験を実施した。 5.3.3 浄水場発生土の雑草抑制効果 本試験で使用する客土は、事業所のユーザーである行 田浄水場の浄水場発生土を使用することとしている。 浄水場発生土とは、浄水場の浄水処理過程で排出され 方法 1 として、客土材に行田浄水場の浄水場発生土を る泥を脱水処理、破砕したものである。「廃棄物の処理 使用することとした。本取り組みを介してユーザーとの および清掃に関する法律」で汚泥として産業廃棄物に指 連携が図れること、浄水場発生土を使用することで地球 定されているが、有価物として売却することで当該法律 環境の循環サイクルが確立できること、さらに、一般の の適用外としており、100 円/㌧で販売されている。発生 購入土と比較して安価であることが選定理由である。 量は 15~16 ㌧/日程度と大量であり、行田浄水場からも 方法2として、 防草シートによる雑草抑制を検討した。 浄水場発生土の積極的な活用が期待されている。また、 表土上に防草シートを張ることで地中からの雑草を抑制 浄水場の土を利用することは、地球環境の循環サイクル するもので、価格や性質の異なる 2 種類のシートで試験 を確立することでもある。 浄水場発生土の成分は、大きく2つに分けられる。 を実施した。 方法 3 として、土壌pH を調整する方法を検討した。ヒ メイワダレソウは、一般的な草種と比較してpH 適応幅が 広いという特徴を持つ。そのため、消石灰散布により土 壌pH をアルカリ性とすることで、雑草を抑制する方法を ① 浄水場が取水している河川水に含まれている成 分 ② 浄水処理過程に使用する水処理薬品に由来する成 分 ①の成分は河川上流の地層等に影響される自然界由来の 検討した。 なお、植種は前回実験結果より最適種として選定した もので、土砂と同一と考えられるが、②の成分は、主に 「ヒメイワダレソウ」とした。また、比較として、「除 凝集剤のアルミニウムであり、その点で一般的な土砂と 草剤+耕起」と「無処理」試験も同時に実施した。 物理的・科学的性質が若干異なる。 本試験の実施にあたり、浄水発生土を客土として使用 表-8 雑草抑制効果の検討実験項目 方 法 方 法 の 詳 細 方法1 表土はぎ+客土 浄水発生土による客土、10㎝で実施 方法2 防草シート 通根性・遮光率99%、造園用根巻き シートの2種類で実施 方法3 土壌pH調整 消石灰により土壌をアルカリ性とする することで、雑草抑制効果を確認することができた。同 時に、植栽したヒメイワダレソウの成長スピードも遅く はなるが、繁殖力旺盛な植物のため、生育を確認するこ とができた。 実験結果は、表-9 および表-10 の通りである。最も 雑草抑制効果があったのは、植栽 87 日目でも雑草割合が 0%である「表土はぎ+浄水場発生土による客土」であっ た。しかし、植栽 64 日目の植被率は 33%であり、防草シ ートと比較して、繁殖速度が遅いという結果となった。 ヒメイワダレソウの成長時期は、一般的に 4 月中旬頃 ~9 月末頃まで(関東地方)である。繁殖速度が遅い場合、 9 月末までに地表を覆う時期を想定して早めに植栽する 必要があり、植栽時期の制約が大きい。そのため、表面 被覆に要する時間の短縮方法を検討する必要がある。 写真-7 浄水場発生土の脱水処理状況 2) 表-9 カバープランツ最適土壌の検討実験結果 表 土 は ぎ + 客 土 4月28日 植栽日 7月1日 植栽後64日目 7月24日 植栽後87日目 4% 0% 33% 1% 100% 0% 5% 0% 99% 1% 85% 15% 5% 0% 41% 59% 0% 100% 3% 0% 8% 92% 0% 100% 4% 40% 0% 100% 0% 100% 10㎝ 植 被 率 : 雑 草 割 合 : 通根性・遮光率99% ー 防 草 シ 植 被 率 : 雑 草 割 合 : ト 造園用根巻きシート 植 被 率 : 雑 草 割 合 : 除草剤+耕起 植 被 率 : 雑 草 割 合 : 無処理 植 被 率 : 雑 草 割 合 : 表-10 カバープランツ最適土壌の検討実験結果 表土はぎ+客土 (浄水場発生土) 防草シート 除草剤+耕起 無処理 10㎝ 通根性・遮光率99% 造園用根巻きシート △ ○ △ × × 植栽64日目 植被率33% 植栽64日目 植被率99% 植栽64日目 植被率41% 植栽64日目 植被率8% 植栽64日目 植被率0% ○ △ × × × 植栽87日目 雑草割合0% 植栽87日目 雑草割合15% 植栽87日目 雑草割合100% 植栽87日目 雑草割合100% 植栽87日目 雑草割合100% ○ × ○ ○ ○ 約190円/m2 約560円/m2 約160円/m2 約40円/m2 0円/m2 ○ × × × × 繁殖速度 雑草抑制効果 経済性 (施工費・直工) 評価 ※施工費には、苗代や植栽費を含んでいない。 5.3.4 表面被覆時間を短縮する工法の選定 浄水場発生土を客土材として使用した場合、雑草抑制 また、客土材として浄水場発生土に水路堆砂土を混合 効果があるが繁殖速度が遅いため、表面被覆に要する時 することにより、繁殖速度が速くなることが分かった。 間の短縮方法について表-11 のとおり検討した。 ただし、同時に雑草割合も増加するため、雑草抑制効果 方法 1 として、施肥を検討した。なお、施肥は、植栽 時にカバープランツ根元に実施することで、他の雑草へ と繁殖速度とを総合的に検討した結果、浄水発生土:水 路堆砂土=50:50 が最適土壌であると判断した。 の効果を軽減させることとした。 方法 2 として、水路堆砂土の活用を検討した。平成 20 5.3.5 カバープランツ最適土壌の決定 年度に実施した試験によって、水路堆砂土によりある程 以上の実験結果から、工法を「表土はぎ 10 ㎝+客土 10 度の繁殖速度が得られていることを確認済みであること ㎝+施肥」とし、客土材として「浄水場発生土:堆砂土 や、事業所で毎年度発生するため、材料として常に使用 =50:50」(客土 1)あるいは「浄水場発生土」(客土 2) 可能なことが選定理由である。雑草抑制効果を確認でき を使用する方法を最適土壌と判断した。(表-14) た浄水場発生土と水路堆砂土を混合することによる時間 客土1は繁殖スピードが早く、40 日程度で地表面をヒ メイワダレソウで覆うことができる。水路堆砂土等の現 短縮方法を検討した。 場発生土が利用できる場合に採用可能な工法である。 表-11 表面被覆時間を短縮する工法一覧 方 法 方法1 施肥 方 法 の 詳 細 植栽時にカバープランツ根元に実施 水路堆砂土の 水路堆砂土と浄水発生土の混合土 方法2 活用 (0:100,25:75,50:50,75:25,100:0)を使用 客土 2 は、雑草抑制効果が高いが、繁殖スピードが遅 いため、時間に余裕のある春~夏植えの場合や、水路堆 砂土が利用できない条件時に採用するのが望ましい。 なお、ヒメイワダレソウは、耐アルカリ性に強いとい う特徴を持っているため、当初、土壌pHをアルカリ側 に調整して雑草を抑制する実験も視野にいれていた。し かし、浄水場発生土による雑草抑制効果が想定以上に高 実験結果は、表-12 および表-13 の通りである。植栽 後25日目の植被率で比較したところ、 肥料無しと比較し、 肥料有りの植被率が高いため、施肥により繁殖速度が速 くなると判断した。 く、pH管理の必要が生じなかったため、本実験では実 施するに至らなかった。 表-12 6月12日 植栽日 (浄土:堆砂土) 表面被覆に要する時間短縮結果 7月7日 植栽後25日目 6月12日 植栽日 (浄土:堆砂土) 0:100 7月7日 植栽後25日目 25:75 植 被 率 : 雑 草 割 合 : 肥料無 4% 0% 肥料有 3% 0% 肥料無 38% 9% 肥料有 38% 10% 植 被 率 : 雑 草 割 合 : 50:50 肥料無 5% 0% 肥料有 5% 0% 肥料無 36% 6% 肥料有 40% 12% 肥料無 4% 0% 肥料有 4% 0% 肥料無 21% 0% 肥料有 22% 1% 75:25 植 被 率 : 雑 草 割 合 : 肥料無 4% 0% 肥料有 3% 0% 肥料無 25% 4% 肥料有 30% 2% 肥料無 5% 0% 肥料有 5% 0% 肥料無 19% 0% 肥料有 23% 0% 植 被 率 : 雑 草 割 合 : 100:0 植 被 率 : 雑 草 割 合 : 表-13 水路堆砂土の活用 (浄水場発生土:水路堆砂土) 施肥の有無 0:100 表面被覆に要する時間短縮結果 25:75 50:50 75:25 100:0 無 有 無 有 無 有 無 有 無 有 ○ ○ ○ ○ △ ○ △ △ △ △ 植栽25日目 植被率38% 植栽25日目 植被率38% 植栽25日目 植被率36% 植栽25日目 植被率40% 植栽25日目 植被率25% 植栽25日目 植被率30% 植栽25日目 植被率21% 植栽25日目 植被率22% 植栽25日目 植被率19% 植栽25日目 植被率23% △ × △ × ○ ○ ○ ○ ○ ○ 植栽25日目 雑草割合9% 植栽25日目 雑草割合10% 植栽25日目 雑草割合6% 植栽25日目 雑草割合12% 植栽25日目 雑草割合4% 植栽25日目 雑草割合2% 植栽25日目 雑草割合0% 植栽25日目 雑草割合1% 植栽25日目 雑草割合0% 植栽25日目 雑草割合0% △ × △ × △ ○ △ △ △ △ 繁殖速度 雑草抑制効果 評価 表-14 カバープランツ最適土壌の決定 工 法 「表土はぎ10㎝+客土10㎝+施肥」 選 定 条 件 特 徴 客土1 浄水場発生土:水路堆砂土=50:50 水路堆砂土等の現場発生土 繁殖速度が速い が利用可能な場合 客土2 浄水場発生土 春~夏植えの場合 雑草抑制効果が高い 6. 地域・ユーザーと連携した管理地への適用 また、水路を生活の一部としてより近い存在として認 カバープランツ植栽実験結果を踏まえ、管理地である 識し、地域の財産とするためには、機構だけでなく、地 見沼代用水路十六間堰周辺での植栽を実施した。植栽直 域と一体となって取り組みを実施していく必要がある。 後と植栽 42 日後の状況は写真-8 の通りである。カバー そこで、管理地への適用にあたっては、地域・ユーザー プランツ植栽による雑草抑制効果が発揮されており、管 と共同で増殖・植栽を実施した。(写真-9、表-15) 理地への適用も実験結果を反映したものとなっている。 植栽直後 植栽 42 日後 (7 月 16 日) (8 月 27 日) 写真-8 改良区等と共同で実施した植栽状況 表-15 実施日 参加者 写真-9 増殖・植栽の実施日と参加者 増 殖 植 栽 5月28日 7月16日 22名 25名 見沼代用水土地改良区:5名 見沼代用水土地改良区:3名 地域住民等:11名 地域住民等:12名 機構職員:6名 機構職員:10名 改良区等と共同で実施した植栽状況 7. カバープランツ活用による除草費用削減効果 して増殖・植栽を実施していくこととし、カバープラン ツ苗代及び植栽費は考慮していない。 カバープランツ活用による施設整備を実施すること で、花を咲かせることによる景観の向上、地肌を覆うこ とによる雑草抑制効果については、前述した通りである。 ここでは、除草費用縮減効果について検証を実施する。 カバープランツの活用による、除草費用の縮減効果は 以下の通りである。なお、今後も地域・ユーザーと連携 ○ 除草工 約 30 円/m2(直工) (除草+収集+運搬費) ○ カバープランツ植栽 約 190 円/m2(直工) (表土はぎ+客土(購入土)+運搬費) この前提で検討すると、計算上は 7 年間でイニシャル カバープランツによる施設整備の実施は、コスト縮減 +ランニング費用で整備分が逆転し、コスト縮減効果が 効果、水路景観の向上効果と併せて、環境の向上効果(浄 発揮される。なお、カバープランツの維持管理に要する 水場発生土及び水路堆砂土の再利用)、また、地域やユ 手間は生じないものと考えており、今後継続して実施す ーザーとの共同植栽作業を実施することにより、地域に る中で検証していきたい。 おける水路(機構)に対する意識向上に役立つ取り組み また、本件の取り組みは、これらのコスト縮減効果に 加え、水路沿いに花を咲かせ、雑草を抑制することによ である。 今後、このような取り組みを継続して実施していくた めに、本取り組みの趣旨を地域やユーザーに説明すると ってもたらされる景観向上効果もある。 ともに、共同植栽に対する協力の呼びかけを積極的に実 8. まとめ 施していきたい。「カバープランツ植栽による変化」を 地域に見てもらうことで、「水路(機構)の変化」も見 本実験によって、カバープランツによるコスト縮減と ていただく場となれば幸いである。 景観へ配慮した施設整備を行うためには、表-16 の条件 また、将来的には、水路沿いにヒメイワダレソウを植 で植栽を実施することが最も効果的であるという結果と 栽するのに併せて、現在の有刺鉄線付きフェンスを間伐 なった。また、管理地への適用も実験結果が反映されて 材フェンスに更新し、人々に機構水路を水辺空間として いる結論となった。 楽しんでもらえるような施設整備に取り組んでいきたい 表-16 植 種 と考えている。(写真-10) 最適施設整備方法 最後になりましたが、本件を推進するにあたり、多大 「ヒメイワダレソウ」 な助言、指導を頂きました埼玉県農林部農村整備課、埼 「表土はぎ10㎝+客土10㎝+施肥」 工 法 玉県行田浄水場、社団法人 埼玉県農林公社、見沼代用 客土1 浄水場発生土:水 水路堆砂土等の現場発生土 路堆砂土=50:50 が利用可能な場合 客土2 浄水場発生土 春~夏植えの場合 写真-10 1)グラウンドカバープランツ (社)日本植木協会 ヒメイワダレソウ p190 2)行田浄水場汚泥処理施設 埼玉県企業局 パンフレット表紙より抜粋 ます。 施設整備実施前後のイメージ 参考文献 シバザクラ p238 水土地改良区、地域住民の皆様へ心より感謝の意を表し