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日中戦争 70 周年「証言を視る・聴く・話す」会 報告

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日中戦争 70 周年「証言を視る・聴く・話す」会 報告
日中戦争 70 周年「証言を視る・聴く・話す」会
報告
広野
湧人
多文化共生フォーラム奈良では、2007 年 12 月8日に大和郡山三の丸会館・視聴覚室において、「日
中戦争<南京大虐殺>70 周年/証言<視る・聴く・話す>
集会」を開催した。本集会は、奈良県での朝鮮人強制連行等
に関わる資料を発掘する会、奈良県日中友好協会、奈良県夜
間中学連絡協議会が協賛し、奈良-沖縄連帯委員会が後援し
た。
吉川代表の開会挨拶の後、金井副代表の基調提起が行われ、
米国映画『天皇の名のもとに』
(50 分)上映につづいて、奈
良県日中友好協会顧問の老田誠一さん(86 歳)の貴重な歴
史的証言を聞く夕べとなった。その後、参会者からのフリー
トークが行われ、司会の谷事務局長のまとめで散会となって、
恒例の二次会が忘年会を兼ねて開催された。
参考までに、当日の集会基調を添付する。
<集会基調>日中戦争 70 周年の現在(いま)
金井
英樹
本 2007 年、日中戦争 70 周年、日中国交回復 35 周年の今
日的状況は、まさに混沌としています。3月末に明らかにな
った教科書検定では、沖縄戦における住民の「集団自決」=
「強制集団死」について、「軍の命令・関与」を削除すると
いう暴挙がなされました。これに対して、沖縄県内の 41 市
町村議会すべてと、県議会では二度にわたって検定撤回の意
見書決議を挙げたこと、さらに 11 万6千人もの抗議集会が
行われたことは特筆されます。文科省の「修正意見」は、05
年8月大阪地裁で始まった「大江・岩波裁判」(歴史改竄を目的にする自由主義史観研究会の「沖縄プ
ロジェクト」=「軍命ではなく<お国のために>自発的に死んだことにする」企み 05 年4月~)が背
景にあります。大江健三郎が著した『沖縄ノート』(岩波新書)の文章に対して「名誉毀損」と訴えた
原告(座間味島守備隊長梅澤裕・渡嘉敷島守備隊長赤松嘉次(故人)の弟秀一)はこの著作を読んだの
ではなく、曽野綾子の本で恣意的に引用された箇所を読み、「沖縄プロジェクト」勢力に乗っかって裁
判を提起しています。曽野が「国に殉ずるという美しい心で死んだ人たちの…その死の清らかさ」とし
たのに対して、大江の怒りは「このようにいう者らこそ、人間をおとしめている」という言葉に凝縮さ
れています。沖縄では四半世紀前の教科書問題が起こった 1982 年に、
「日本軍の沖縄住民虐殺」記述を
削除した教科書検定意見を撤回させた実績があります。沖縄戦の歪曲と「殉国」史観を許さないことを
まずもって確認しておきたいと思います。
この夏、参院選では自公政権に「NO!」が突きつけられました。政権にしがみついた安倍首相は、
所信表明後の代表質問直前に辞任表明という前代未聞の失態をさらしました。一方の野党も、小沢民主
党代表が、国連安保理決議の名の下で自衛隊の武力行使を合憲として、福田首相や石破防衛相からも憲
法違反とされています。本年1月に庁から昇格したばかりの防衛省では、守屋前防衛事務次官と軍需商
社を巡る日米「防衛利権」の闇が取り沙汰されています。そこには、軍用機購入などの装備だけではな
く、ミサイル防衛、在日米軍再編や沖縄基地移設を巡って、実に何兆円規模にものぼる莫大な経費が絡
んでいます。防衛省の贈収賄事件に「こんなのが9条云々してたとは」というのが率直な庶民の声です。
1999 年の「周辺事態法」で米軍の後方支援をすることにし、2003 年「武力攻撃事態法」で防衛出動が
出来るようになり、2006 年末には自衛隊法を改定して海外派兵も任務の一つとされています。あとは
憲法9条が残されているだけです。反<改憲>の運動をさらに強めなければなりません。
アメリカでは、7月末に下院の本会議において「従軍慰安婦」問題に対する日本政府の謝罪を求める
決議が圧倒的多数で可決されました。マイク・ホンダ議員は「日本人が自身でこの問題を解決できない
のは、恥ずべきことではないでしょうか」と指摘しています。未だに「従軍慰安婦」問題についての暴
言が跡を絶ちません。「どげんかせんといかん」で流行語大賞になった東国原知事は、本年3月「強制
的な慰安婦が存在したかどうかは、客観的に確かめられなければならない。…合法的であった売春婦が
日本に出稼ぎに来るのに何の問題もなかった」と述べ、さらに 11 月 28 日「徴兵制があってしかるべき
だ。若者は1年か2年くらい自衛隊などに入らなくてはならないと思っている」とし、真意を問われて
も発言を撤回しませんでした。
「孫よ子よ徴兵無くてしかるべき」
「徴兵制無くても知事に育ってる」
「殿
のもと軍律厳しく身にしみて」という句が寄せられています。このような政治家の妄言は昨今、枚挙に
暇がありません。メディアの衰退とともに、私たちの抗議の声が届きにくくなったからではないかとい
う危惧すら覚えます。
そして、日中戦争 70 周年、日中国交回復 35 周年については、目立ったとりくみやマスメディアの報
道がほとんどありません。書店に行けば、「南京大虐殺はなかった」などというたぐいの本が大量に平
積みされています。ナチスの宣伝にならった「嘘も百遍いえばほんとになる」かの如き勢いです。ラル
フ・ジョルダーノは、ナチスの犯した罪を「第一の罪」とするなら、戦後、その歴史を忘却したり、消
し去ったり、あるいは美化したりして歴史を改竄することを「第二の罪」と呼びました。私たちも、そ
の轍を踏んではなりません。現在の中国「脅威論」や「嫌韓流」の宣伝攻勢は、侵略と植民地主義の歴
史が清算されていないことに起因しています。かつての中国人民解放軍は 400 万人の規模でしたが、
1985 年に鄧小平は 100 万人削減して 300 万人にし、97 年江沢民はそれを 230 万人に、さらに胡錦濤は
200 万人にまで削減しています。このような事実には触れずに、米軍の下請けを担おうとする日本政府
の有りようを注視しなければなりません。「軍隊は、決して住民を守らない」ということも、沖縄戦や
旧「満州国」での歴史の教訓から明らかです。
本日 12 月8日は、66 年前の 1941 年、対英米戦争が始まった日に当たります。日中戦争がアジア太
平洋戦争に拡大した日でもあるのです。それまでに 1931 年9月 18 日の柳条湖事件、1937 年7月7日
の盧溝橋事件に象徴される中国侵略の歴史を忘れるわけにはいきません。<前事之不忘、後事之師>と
いう言葉があります。今一度、南京大虐殺、三光作戦、毒ガス兵器、細菌爆弾、七三一部隊等々、風化
させられようとしている歴史の現実を直視しようではありませんか。これらは、けっして過去の出来事
ではありません。七三一部隊からミドリ十字が生まれ、そこから薬害HIVに、さらに薬害C型肝炎問
題にまでなっていますし、毒ガス兵器処理が防衛省疑惑へ深く繋がっているのだということをあらため
て確認しておきたいと思います。
本日は、語り部として、奈良県日中友好協会顧問の老田誠一さんをお招きし、貴重な歴史的証言をい
ただこうという企画です。あわせて、戦後半世紀の節目に制作された米国映画『天皇の名のもとに』を
上映します。この映画は日本では未公開で、NHKは「刺激的すぎる」として放映を断ったとされてい
ますが、残念なことに若干の歴史的な誤謬があります。しかし、それを差し引いても視る価値はあると
思われます。本日は、映画上映、証言の後、参加された皆さんから自由に発言していただく時間をとっ
てご討議いただき<視る・聴く・話す>集いとなることを企図しています。
「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意」(前文)した主権在
民・平和主義の憲法を再確認し、東アジア世界の「冷戦体制」の終結も展望したいと考えます。いっぽ
う、非正規労働者が 33.7%を数え、年収 200 万円以下のワーキング・プアが 1000 万人を超えて労働人
口の三分の一にまで増加し、貧困率の上昇という「格差社会」の拡大が進行しています。生活保護受給
が 107 万世帯を超えて、政府は保護基準の引き下げを検討しています。いまや生存権さえ脅かされよう
としているのです。9年連続の所得減、同じく9年連続の自殺者3万人以上という異常な日本社会の状
況についても、基本的人権の尊重を掲げる日本国憲法から大きく乖離しています。憲法というものは「政
府に対する命令」
「政府を縛るもの」であることを忘れてはなりません。本日の 12.8 の集いが、誰もが
願う人権の要である平和的生存権と幸福追求権についていま一度確認し合うとともに、あわせて歴史の
教訓である「戦争は、最大の人権侵害である」ことをあらためて心に刻み込む集いとになることを祈念
して、集会の基調提起を締めくくりたいと思います。
【参考資料一覧表】
○「南京大虐殺」「三光作戦」「細菌戦」「毒ガス兵器」
小田部雄次・林博史・山田朗著『キーワード日本の戦争犯罪』95 雄山閣
○「日本軍は強姦集団であった」高崎隆治
洞富雄・藤原彰・本多勝一編『南京大虐殺の研究』92 晩聲社
○「世界史の中の「南京大虐殺」」笠原十九司・楊大慶『論座』08・1
○「渡海文科省が教育への介入に言及」「イラク侵略と小沢民主党」
『週刊金曜日』07・11・30
○「[南京事件]70 年証言集会心と体の傷癒えぬ」
『朝日新聞』07・12・2
○「史実をゆがめる政治は世界で通じない」尾山宏・笠原十九司『自然と人間』07・11
○「歴史は生きている・第 6 章日中戦争(上)
」『朝日新聞』07・11・26
○「教科書を比べる」「東京裁判の不徹底さ 葛藤深める」君島和彦『朝日新聞』同上
○「発生から 70 年
○「怒りの大地
南京事件とは」
『朝日新聞』07・11・24
悲しみの大河」「南京大虐殺関連の裁判で否定派は三連敗」本多勝一
「南京虐殺否定派に裁判所が”ダメ出し”」星徹『週刊金曜日』07・11・23
○「沈黙のときに」石川逸子『軍縮問題資料』07・10
○「森元首相の実父[森茂喜少尉]も参加していた「南京事件」70 年」『週刊新潮』07・11・29
○「歴史認識の共有のために何が求められているか」歩平『世界』07・8
○「南京市虐殺跡地案内」全国連絡会HP(閉鎖中)より
○「定義集」
【人間をおとしめることについて】大江健三郎『朝日新聞』07・11・20
○「沖縄戦の「集団自決」(強制集団死)」安仁屋政昭『軍縮問題資料』07・12
○「「沖縄戦の真実と歪曲」をめぐって」大城将保・森口豁『週刊金曜日』07・11・30
○「『謝罪』とは何か?」西野瑠美子『部落解放』07・11
○「日本の人々の良心に訴える」マイク・ホンダ米下院議員『週刊金曜日』07・11・2
<付記・集会当日に発売された『世界』1月号(南京事件)と臨時増刊号(沖縄戦)も参照されたい>
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