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ダイヤニュースNo.78 - ダイヤ高齢社会研究財団

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ダイヤニュースNo.78 - ダイヤ高齢社会研究財団
2014
No.78
02 巻頭言「事務局長就任にあたって」
前田 実
Dia Forum
西久保 浩二
「ワーク・ライフ・バランス対応の進化と軸足の移行」
07 Dia Information
財団研究紹介
澤岡 詩野
08
「高齢期のつながりを補完するソーシャルネットワーキングサービス」
高齢 社会オピニオン
新井 武志
10
「虚弱高齢者のトレーナビリティー」
03
12
玄関上部の3連アーチ
エッセイ
「セレブ気分で豪華客船に乗る!」
松本 すみ子
明治神宮絵画館
(前景)
裏広間のステンドグラス
玄関入口
撮影:井出昭一氏
頭
言
公 益 財 団 法 人 ダ イ ヤ 高 齢 社 会 研 究 財 団 事 務 局 長 前 田
「事務局長就任にあたって」
巻
Dia Forum
今年 6月に開催されました当財団評議
平成 24年~平成 25年にかけての「財
員会におきまして、西山千秋前事務局長
団設立 20周年記念事業」では、賛助会
の後任理事として選任され、事務局長を
員各社の方々にもご協力をいただき「超
務めることになりました。西山前事務局
高齢社会における従業員の働き方と企
ワーク・ライフ・バランス対応の
進化と軸足の移行
長 は平 成 21年1月から当財 団に 5年 半
Dia Forum
在籍し、その間、法人制度改革にともな
業対応に関する」調査報告書をとりまと
山梨大学 生命環境学部 地域社会システム学科 教授 西久保 浩二
う当財団の公益法人への移 行、本郷 事
「介護 離職 」
「雇用延長 」問題が注目を
務所と町田事務所を統合して現在の新
され、NHK での放 映 4回 ( 地デジ全 国
宿事務所へ 移転、三菱グループ賛助会
ニュース 2回、BS ニュース 2回 )、全国紙
員各社との緊密な連携による「20周年
( 掲載日順に、産経、日本経済、毎日、読
記念事業」の推進など、当財団の発展に
売、朝日 )、地方 紙 15紙で取り上げられ
ご尽力されました。深く感謝申し上げる
ることとなりました。
とともに、今後ともご指導ご助言をお願
い申し上げます。
めることができました。マスコミからも
当財団も設立から20年が経ち研究成
果を踏まえて、より一層、社会へ貢献し
さて、わたくしは4月に当財団に赴 任
ていくことが求められていると感じてい
後、新任のご挨 拶で賛助会員である三
ます。この 20年の間には社 会・経済 環
菱グループ各社のご担当者の方々を訪
スモデルに最適化された組織的な対応が求められる。加え
警戒感から官民あげてワーク・ライフ・バランス(以下、W
て、その難易度が根付いた企業風土とも密接な関係性をも
LB)への対応が始まって、かなりの時間が経過した。
つことも多く、他の業界での成功ケースなどを単純に模倣し
最近、ある業界の労働組合連合主催のワークライフバラ
ンスのセミナー、パネルディスカッションに参加して、改め
ていくつか新しい確信を得ることができた。
ても十分な効果は期待できない。
明治安田生命は人事部が主導して様々なWLB対応に
注力したが、その中でも組織的な施策に優れていた。古い
実
境も変化しましたが、今後は
「アクティブ・
Bへの取り組みがそれぞれ個性を持った形で進んでおり、
促すものとなった。それが表 1にある「ワーク・ライフ・バ
問しました。そのときに、「ダイヤ財団
エイジング」
「プロダクティブ・エイジン
より実効性の高い制度・施策が開発・運用されつつある、
ランス指標」の設定である。これは、本社各部門、全国の
の 研 究内 容は 20年前から高齢 社 会を
グ」と言われるように、元気な高齢者の
という確信である。同時にこの課題への企業の注力が、確
支社・営業所に対してWLB推進計画の策定を求め、評価
見据えて、介護問題、高齢者の ICT 活用
存 在がより一層注目を浴びていくと思
実に日本企業の人的資源管理のあり方を、大きく未来型へ
を行うものである。計画内容は、基本的に「必須(全社共
など、時代を先取りした研究をしてきま
われます。高齢 者の高く深い知見を生
と進化させている。進化前の原型は「日本的経営」と呼ば
通)」と「選択(各事業所・部門が選択)」
「独自取組み」の
したね」というお話を、度々、頂戴いたし
かせる社会づくりに当財団の研究や活
れた高度成長を狙った集団創発型の経営モデルであった
三部構成であり、各項目には配点がなされている。当社の
ました。同時に、「高齢社会の到来を実
動が少しでも役立つよう、微力ではござ
が、そこには男性正社員の長時間労働が組み込まれていた
WLB推進プログラムがユニークな点は、加点項目だけで
感する時代になりました」と多くの方々
いますが努力を重ねたいと存じます。今
点でWLBとの対立性が懸念されていた。
はなく、減点項目を明確に設定している事である。たとえ
からお聞きし、高齢社会についての関心
後とも、皆様のご指導・ご鞭撻を賜りま
の高さを再認識しました。
すようお願い申し上げます。
ステンドグラスが華やかな重文建築(2)
明治神宮外苑に行かれたら、イチョウ並木の中心に建つ絵画館を訪ねてみてください。絵画館は明治天皇と昭憲皇太后の事績を伝える大きな絵画 80点が重厚
な石造りの建物左右の両翼に常設展示されています。これらの絵画とともに絵画館の魅力は何といっても建物中央部のステンドグラスです。正面の大階段を上る
と 3連アーチの玄関、そこで大きなステンドグラスが来訪者を迎えてくれます。入口から一歩足を踏み入れるとそこは高さ27m余りのドーム天井を持つ中央大広間。
壁は多彩な国産の大理石、床はモザイクタイルで圧倒される大空間です。大広間の奥の裏広間でも荘厳なステンドグラスに出会えます。ステンドグラスというと
赤青緑など色鮮やかなものが一般的ですが、絵画館のステンドグラスは黄と茶色系統の落ち着いた色合いで一見の価値があります。絵画館と神宮内苑の宝物館
は 2011年(平成 23年)6月に重要文化財に指定されました。
Dia News ◆ No.78
深刻な少子高齢化の進行、特に少子化の進行に対する
企業風土を揺さぶり、進むべきWLB指向への転換を強く
『 明 治 神 宮 絵 画 館 』 井 出 昭 一
2
こうした難易度の高い職種、職場であるほど、そのビジネ
まず第一は、各業界そして各企業において、着実にWL
前田 実(まえだ・みのる)
表紙写真について
1.実効性を伴う進化
しかし、少子化が本格的に進行するなかで、国内での女
ば「無届で19:30 を超過した日が2日以上の場合」には、
性労働者の調達と活用への対応が避けられないとの認識
1ヶ月につき5点の減点がなされる。さらには「21時以降
が拡がった。この認識の下で、日本企業が持ち前の現場主
に退社した日がある場合」にも同様に5点の減点である。
義の改善力や創意工夫を活かした本気の取り組みを見せ
最も厳しく徹底している減点項目は「不適正な退社記録・
た。筆者が参加したこのセミナーでも、WLB の困難度が
勤務 報告指示がなされている場 合」で、なんと50点の大
高い代表格ともいえる生命保険会社の明治安田生命の成
幅な減点となる。この減点方式の設定は、非常に強いメッ
功ケースが紹介された。生命保険会社の多くは、いわゆる、
セージ効果をもたらしている。ひとつは、企業としてWLB
セールスレディと呼ばれる営業専業職を大量に抱えるなか
を、真剣に推 進しようという “ 本気 度 ” であり、従業員が
で、生命保険という販売困難な無形財の販売活動を、厳し
一丸となって取り組むことを強く求めているという明確な
い企業間競争のなかで展開しなければならない。結果的
メッセージである。この評価は単なる各組織の評価や表
に、職場では長時間労働、サービス残業が常態化し、また、
彰だけではなく、その事業所・部門の管理職評価に直結す
営業ノルマ(目標値)が課せられることによって、メンタル
る。また、現場ならではの状況に合わせた指標設定を行っ
ストレス環境も厳しい状態に置かれる傾向が強かった。
ている点も興味深い。たとえば「休日開錠ルール(月4回)
Dia News ◆ No.78
3
Dia Forum
表1 ワーク・ライフ・バランス指標(抜粋)
を超えた場合には5点減点」と
いったものである。地方支社な
どでは、支社長の裁量権が大き
く、ともすれば長時間労働に陥っ
てしまう危険性が、本社に比べ
て高い。そこで、休日出勤による
業務、おそらくサービス残業とな
りやすいケースを抑止するため
に、警備会社からの開錠データ
による客観的なエビデンスを採
用している。全国展開の生命保
険営業というビジネス・モデルに
適した独自の制度開発である。
2013年度
評価項目
2013年度厚生労働大臣優良賞 加減点
厚生労働大臣優良賞
計画年休を四半期に1日以上全員が取得した場合
四半期ごとに10点
ファミリー・フレンドリー企業部分
ファミリー・フレンドリー企業部分
厚生労働省 均等・両立企業表彰
厚生労働省 均等・両立企業表彰
早帰り実施日に全員が 18時までに退出している場合
10点
事務職員・契約社員等の法定外時間外勤務時間の平均時間が ▲ 5%~▲10%の場合10点
厚生労働省
厚生労働省
認定取得(3回目)
認定取得
(3回目)
前年比5%以上縮減した場合
▲10%超の場合は
20点
次世代育成支援企業(くるみん)
次世代育成支援企業(くるみん)
無届で 19時 30分を超過した日が2H以上の場合
1カ月につき▲5点
日経ウーマン 女性が活躍する会社
日経ウーマン 女性が活躍する会社
※PCログオフ時刻で判定
第8位(前年度9位) 第8位(前年度9位)
ベスト100総合ランキング ベスト100総合ランキング
21時以降に退館した日がある場合
1カ月につき▲5点
※PCログオフ時刻で判定
日経ウーマン 女性が活躍する会社
日経ウーマン 女性が活躍する会社
第1位(3年連続)
第1位(3年連続)
法定外時間外勤務時間
(相当)
が月80時間超の所属員がいる場合
1カ月につき▲5点
ベスト100「ワークライフバランス度」
部門
ベスト100
「ワークライフバランス度」部門
※企画業務型裁量労働制の適用者、管理監督者も含む
不適正な退館記録・勤務報告指示が行われている場合
▲ 50点
特別奨励賞
2013年度 厚生労働省 イクメン企業アワード
特別奨励賞
2013年度 厚生労働省 イクメン企業アワード
300
(人)
300
250
250
200
200
203
150
150
風土も今や大きく様変わりし、各社、競い合うように両立
支援、ダイバーシティを推進し、経営的な果実を手に入れ
ている。こうしたWLBの実効性を伴った推進実態は、製
薬業界や IT サービス産業、流通業など、様々な、“ WLB
212
100
187
困難業界 ” に拡がってる。当初は、女性市場を強く意識し
100
50
た化粧品業界や自動車産業がわが国のWLBの先導役と
50
75
6
(人)
100
(人)
100
75
75
50
50
203
187
0
なったわけだが、今や産業界全体にまで深く浸
透するに
管理職登用数といった数値目標を掲げて、達成するという
実効性をもったものと進化した。
300
300
250
250
200
200
第二の確信は、着実な進化を見せている中で、中心的な
テーマ認識を、そろそろ移行すべき時期にきたのではない
か、という点である。
150
150
100
212
100
187
筆者は労働省が行ったファミリーフレンドリー表彰の第一
50
回受賞企業が発表された時点をWLB元年とみる。
それが平50
69
65
0
ファミリー・フレンドリー企業部分
100
で行われる職務や、夜間交代勤務などもリスクとなろう。こ
厚生労働省
次世代育成支援企業(くるみん) 75
日経ウーマン 女性が活躍する会社
ベスト100「ワークライフバランス度」
部門
212
25
2013年度 厚生労働省 イクメン企業アワード
65
50
第1位(3年連続)
69
25
特別奨励賞
にとって両立問題は一定期間、軽度のものとなる。あるいは、
複数の兄弟姉妹が近隣に居住しているならば、両立に貢献
なる。半日・時間単位の有休、介護ヘルパー費用補助制度、
てみたい。
要介護の転居補助金、在宅勤務やフレックスタイム制度など
細な分析を行った。
78
このような反応となった従業員の離職可能性に対する要
因分析を行った。
65
護者の配偶者が存命しており、健常であれば、老親の子達
行ったので、その結果を紹介しながら今後の方向性を考え
階的表現を選択肢で示した。
69
例えば、直接的な介護労働に就ける労働力がある。要介
いは、勤務先企業から提供される様々な支援制度も資源と
12.5%が「(離職する)可能性は大きい」と回答した
78
な資源(resource)を考える。
の研究会で行った介護調査について新しいデータ分析を
「可能性は大きい」から「可能性は小さい」までの5つの段
第8位(前年度9位)
203
第二は、老親介護と仕事との両立実現に貢献しうる様々
する。これらは、両立問題に寄与する人的資源である。ある
離職可能性については、現在、就業中であるが、従業員
認定取得(3回目)
75
れらの諸リスクを要因分析の説明変数として投入している。
さて、老 親 介 護と仕事との両立問題について、当財団
また既に要介 護 対 象者が 全くいない層を除いた標本の
説明変数は「両立上のリスクとリソース」という観点から
78
二分類している。
時間的自由度が提供される諸制度は有効な資源といえる。
こうした変数設定の上での分析結果が表3である。
まず、要介護リスクの多重性に関しては「1人」では、離職
可能性に対して、有意な影響力を検出できなかった。しかし、
「2人」では5%未満の信頼度による有意性が、そして
「3人」
では、1%未満の信頼度による有意性が検証された。複数
の要介護者の発生に伴って、離職の危険性が増大すること
が確認された。
また、要介護リスク以外でもいくつかの離職を左右する
要因が特定された。
第一に、離職を抑制する要因として統計的信頼度の高
い順に「男性」
「子供あり」
「(従業員)本人所得額」の3変
数となった。
第一の
「男性」については、近年の
「介護・看護による離職」
両立上のリスクの第一は、老親介護のリスクそのものの大
で女性が多数を占める点と符合する。女性は離職してしま
きさ、負荷の強度である。要介護者が1名なのか、複数なの
い、男性は離職できずに長く両立に苦悩するという状況を
性従業員の出産・育児への対応を中心課題とする対応が
か。また、要介護度がどの程度なのか。さらには、認知症の
示唆している。男性は、介護の負荷の下で、継続的に就労す
技術的にはひとつの到達点にきたのではなかろうか。
発症があるか、など従業員が直面するリスクの深刻度を要因
るためにストレスや経済的負担等の様々な問題が生じやす
とした。加えて、家族関係や家庭環境にもリスクは存在する。
い。また、従業員自身に子供がいるという状態では、養育の
例えば「主たる担い手」という役割を家族・親族内で誰が担
必要性、教育費負担のための所得確保などの必要性から、
75
75
な喫緊のテーマであった、出産・育児支援、そして女性の継
Dia News ◆ No.78
の拡散、浸透などを着実に進める段階に入っている。
この 離 職 可能 性について4320人の 全 標 本 の11.4%、
立支援を展開していた4社が顕彰された。この時期の政策的
4
69
図 2 女性の管理職登用数
6
資料出所 いずれも「DIVERSITY
BOOK 2013」
(明治安田生命)より抜粋
今、わが国のWLB元年から既に15年経過する中で、女
務のケースなども同様である。あるいは、転居転勤が高頻度
0
るか、という点について自覚的、主観的評価を求めている。
2011年度 2012年度 2013年度
2011年度 2012年度 2013年度
6
0
成11年度である。女性に対する最も先進的で、
完成された両 0
続就労。女性の活躍推進において範を示す企業である。
うやく脱する方向性が示された。これからは中小企業層へ
が自身の老親介護の深刻化とともに、離職の可能性があ
厚生労働省 均等・両立企業表彰
100
187
き方では、両立は困難であり、交替要員の確保が難しい職
2.介護リスクと対峙する男女の非対称性
25
厚生労働大臣優良賞
50
力の中で「日本的経営」という旧式の働き方モデルから、よ
の両立以上の大きなリスクになることが確実視される。
78
2013年度
日経ウーマン 女性が活躍する会社
203
ベスト100総合ランキング
環境にもリスクがある。繁忙で長時間労働が強いられる働
とって老親介護と仕事との両立問題は、女性の出産・育児と
表 2 社会的評価
いる。すなわち、女性の応募者数や採用数、自発的離職率、
しつつある。この少子化対応に軸足を置いたWLBへの注
わが国の今後数十年の超高齢化進行期において、企業に
75
図1 育児休業取得者数
な経営的効果を得ることにこだわった推進が展開されて
65
25
0
2010年度 2011年度 2012年度
2010年度 2011年度 2012年度
女性職員 男性職員
女性職員 男性職員
至った。しかも、理念や制度導入だけにとどまらず、具体的
者となれば両立上のリスクとなろう。また、職務特性、職場
今回は、老親介護を原因とする離職可能性について詳
212
6
制度対応的な技術水準や運用レベルも上がり、成熟期に達
立問題に向かうべき時期である。
同社資料より作成
(人)
義で長時間労働の企業風土が根強かった。そうした企業
当するか、といった相互関係がある。従業員本人がその当事
今や次の新たな困難な課題、すなわち、老親介護との両
(特別加算ポイント)
評価項目
加減点
男性の育児休職の取得実績がある場合
1人につき10点
年度始対比で管理監督者層の休日出勤の振替休暇の未消化分が 10点
増加した所属員が10%以内の場合
精密検査指示後、3カ月後以内の受診率が良好な場合
受診率100%の場合 20点
受診率 90%の場合 10点
受診率 80%の場合5点
過去の同業界は、男性中心主
したわけではないが、企業としてのWLB問題対応としては、
0
0
もちろん、社会的には出生率の回復は、未だ人口維持水
準までは実現されず、少子化対応の政策的位置づけが後退
(人)
300
(人)
100
250
200
75
203
Dia News ◆ No.78
5
Dia Information
Dia Forum
表3 介護による離職要因分析
従属変数: 主観的な退職可能性
t
有意確率 共線性の統計量
t
有意確率 共線性の統計量
許容度
(定数)
男性
従業員本人年齢
子供有り
(要介護リスク)
介護可能性(1人)
介護可能性(2人)
介護可能性(3人以上)
(両立リスク)
主担い手本人
同居ダミー/自分親
介護場所(在宅)
介護費用負担(本人・配偶者)
(両立リソース)
被介護者配偶者あり(自分)
被介護者配偶者あり(配偶者)
兄弟姉妹有り
企業上乗せ制度数
年次有給休暇(半日単位・時間単位)あり
労働時間の短縮制度(1日の時間短縮)あり
フレックスタイム制度や裁量労働時間制あり
在宅勤務制度やサテライトオフィスあり
本人所得額
金融資産
F
Adj-R2
t
有意確率 共線性の統計量
許容度
11.726
-11.469
3.260
-3.466
0.000
0.000
0.001
0.001
0.628
0.730
0.827
-0.050
0.960
0.958
11.883
-11.536
3.048
-3.504
2.236
0.000
0.000
0.002
0.000
0.025
0.629
0.738
0.830
許容度
11.859
-11.667
3.214
-3.698
0.000
0.000
0.001
0.000
0.628
0.745
0.827
0.977
3.772
0.000
0.978
12.824
2.647
3.665
5.710
0.000
0.008
0.000
0.000
0.827
0.878
0.966
0.914
12.745
2.636
3.612
5.649
0.000
0.008
0.000
0.000
0.826
0.878
0.966
0.914
12.668
2.735
3.676
5.489
0.000
0.006
0.000
0.000
0.825
0.878
0.966
0.911
-0.961
0.889
-1.252
0.093
-1.254
-0.036
0.079
0.451
-2.999
0.008
44.150
0.228
0.337
0.374
0.211
0.926
0.210
0.971
0.937
0.652
0.003
0.993
0.976
0.974
0.978
0.389
0.947
0.523
0.753
0.858
0.543
0.886
-0.974
0.830
-1.296
0.045
-1.292
0.057
0.079
0.436
-2.986
-0.037
44.513
0.230
0.330
0.407
0.195
0.964
0.197
0.955
0.937
0.663
0.003
0.971
0.982
0.977
0.978
0.389
0.947
0.522
0.753
0.859
0.544
0.885
-0.860
0.960
-1.234
0.183
-1.309
-0.137
0.155
0.395
-3.075
0.109
45.181
0.232
0.390
0.337
0.217
0.855
0.191
0.891
0.877
0.693
0.002
0.913
0.981
0.978
0.978
0.389
0.947
0.523
0.752
0.858
0.544
0.885
離職の可能性を否定している。
はじめ、「半日・時間単位の有休制度」
「短時間労働制度」
さらに「本人所得額」も、離職可能性を抑制する要因とし
等々の離職抑制効果を期待したが、いずれも従業員の主
て明確な関係性が検出された。離職による所得喪失リスク
観的判断に好影響を与えることができていない。この結果
が高所得層ほど高いと認識されるためであろう。夫婦共働
は、現時点での、企業が用意する様々な制度・施策が、有
き世帯で、老親介護が深刻化したときに、所得の低い側が
効なものと認識されていないことを示唆している。
離職するという結論になりやすい事を示している。第二に、
さて、この要因分析を行ってみて、やはり最も注目すべき
所得が高いことによって、民間介護施設等への入居費用の
点は、離職要因としての男女間での反応差である。つまり、
負担能力が高いことが予想され、離職せず仕事との両立の
男性は離職せず、あるいは、できずに、老親介護と仕事と
可能性を高めるものと考えられる。いずれにしても所得額に
の両立に向き合い続けざるを得ない状況となる可能性が
代表されるフローの経済力が、仕事と介護との両立における
高い。一方で、女性は離職を決断せざるを得ない状況に追
重要な役割を果たす資源であることが明らかになった。
い込まれる可能性が高い、という二面性である。この老親
一方、離職を促進する要因として検出されたものとして
は、
「主担い手」
「介護費用負担(本人・配偶者)」
「介護場所
(在宅)」
「従業員本人年齢」となった。
介護リスクがもたらす二面性の存在は、企業側からの有効
な両立支援を考える上で、重要な基本認識であろう。
わが国は、急速に進む超高齢化の中で加速度的に発生
主な担い手として関与することが、時間的、肉体的、精
する老親介護リスクとまもなく否応なく対峙することにな
神的にも負荷が大きいことは容易に想像される。そうした
る。その前夜ともいえるこの時期に、第一フェイズとも位置
状況下であることが、両立が困難であり離職が避けられな
づけられる出産・育児リスクでのWLB対応で培った知恵
いと判断されたためであろう。また、介護場所が(従業員)
や経験値を再整理しながら、新たな備えを始めることが求
の居宅となると予測する層で、離職可能性が高くなる。こ
められている。
れは施設介護が可能となれば、両立が可能であるが、それ
が叶わぬ際に離職が誘発されることを示している。
一方、両立に貢献する有効なリソースとして位置づけた
変数については、離職可能性を抑制する効果はほとんど特
定できなかった。
「企業の法定上乗せの制度・施策数」を
6
Dia News ◆ No.78
◇ PROFILE 西久保 浩二(にしくぼ・こうじ)
山梨大学 生命環境学部 地域社会システム学科 教授。
(ダイヤ高齢社会研究財団 客員研究員)明治生命、
(財)
生命保険文化センター、東北福祉大学等を経て、2006 年
より現職。専門は経営学。著書は『転換期を迎える日本型
福利厚生の課題』
(全国勤労者福祉振興会)、
『日本型福利
厚生の再構築』
(社会経済生産性本部)
「
、進化する福利厚生」
(労働研究所)など多数。
◆ 財団主催のシンポジウム開催のご案内 ◆
一般向けシンポジウム
・テーマ:
「働く人の親の介護と仕事の両立について」
(仮称)
・開催日時:2014年 11月 7日(金)18:10 ~ 20:30(予定)
・開催場所:MY PLAZAホール
(東京都千代田区丸の内)
・内容:主に、働いている方を対象。講演とパネルディ
スカッションを計画しています。
・登壇予定者:山梨大学 生命環境学部 教授 西久保浩二氏
有料老人ホーム・介護情報館 館長 中村寿美子氏
・お申し込み方法等については、後日、財団ホームページ
にてお知らせいたします。
◆ 論文発表 ◆
(*は財団研究員)
*
澤岡詩野 ・袖井孝子 ・ 森やす子・荒井浩道「高齢者の
非親族との電子メールを介した交流の特性」
『社会情報学
(第 3巻第1号)
』
◆ 学会発表・講演 ◆
(*は財団研究員)
日本老 年社会 科 学会第 56回大 会(6/7 ~ 8, 岐阜)
ポスター発表
①奥野哲*・西久保浩二*(山梨大学):
「雇用延長希望者
のプロフィールと働き方について-超高齢社会におけ
る従業員の働き方と企業の対応に関する調査から-」
②石橋智昭*中村桃美*・岡 眞人(横浜市立大学)
,長田
久雄(桜美林大学):
「シルバー人材センター新入会員
の期待と現実
(その1)-希望職種と実際の就業内容-」
③中 村桃美* 石橋智昭*・岡眞人・長田久雄:
「シルバー
人材センター新入会員の期待と現実(その 2)-希望
職種への就業の有無と会員の満足度の関連-」
④古谷野亘(聖学院大学)
・澤岡詩野*・安藤雄一(国立
保 健医療 科 学院)
・甲斐 一郎( 東 京大 学)・長田斎
(杉並区):
「傘寿者における外出の頻度-杉並区健康
長寿モニター事業のアンケート調査から-」
⑤澤 岡詩野*・古谷野亘・安藤雄一・甲斐一郎・長田斎:
「傘寿者の近隣との交流への選好-杉並区健康長寿
モニター事業のアンケート調査から-」
自主企画フォーラムⅡ
「高齢期の社会的孤 立防止における ICT(情 報 通信
技術)の可能性-東京と岩手での社会実験から-」
企画・司会:澤岡詩野*、話題提供者:荒井浩道(駒澤
大学)
・森やす子(( 株 ) 情報環境デザイン研究所)
・直井
道子(桜美林大学)
・小川晃子(岩手県立大学)、指定
討論者:袖井孝子(お茶の水女子大学)
第 29回日本老年精神医学会(6/12 ~13,東京)
兪今*:
「高齢者のうつ状態の変遷に及ぼす影響」
第 18回世界社会学会議(7/13 ~19,横浜)
①澤岡詩野*・古谷野亘(聖学院大学)
・安藤雄一(国立
保健医療科学院)
・長田斎(杉並区)
・甲斐一郎(東
京大学)
:ICT as a communication tool for older
people (aged 80) in an urban area「 都 市 部 の
傘寿者(80歳)の交流媒体としての ICT」
②古谷野亘・澤岡詩野*・安藤雄一・長田斎・甲斐一郎:
Newly Started Activities of 80-Year-Old Japanese
Seniors「日本の傘寿者が新たに開始した活動」
日本ケアマネジメント学会第 13回研究大会
(7/19 ~20, 新潟 )
①阿 部詠子*・鳥本 靖 子*・天 野 貴史*( 慶 応義塾 大 )・
高野 龍昭 ( 東洋大 )・石橋智昭 *・五十嵐 歩*( 東京
大 )・池 上直己 ( 慶 応義 塾 大 ):
「尿失 禁 高齢 者に
対する排尿の自立支 援(1); 在宅高齢 者の状況と
自立介入の可能性」
②高山洋子 ( ㈱ケアビジョン )・阿部詠子*・石橋智昭*・
鳥本靖子*・高野龍昭・新津ふみ子・五十嵐歩*・天野
貴史*・池上直己:
「尿失禁高齢者に対する排尿の自立
支援
(2)
; 介護支援専門員によるケアプランの見直し」
③鳥 本靖子*・石橋智昭*・阿部詠子*・天野貴史*・五十
嵐歩*・高野龍昭・池上直己:
「家族の在宅介護継続に
関する介護支援専門員の評価と関連要因について」
第 12回日本予防医学会学術総会 (6/28 ~29, 東京 )
シンポジウム「3次予防におけるトランスレーショ
ナル研 究-介 護 保険における市町村参加型研 究の
到達点と課題-」にて、石橋*が講演。演題は「市町村
との共同によるコホート研究」。
◆ 寄稿 ◆
①石 橋智昭・中村桃美「介護予防の観点からみた生き
がい就業の効用」
『病院設備(7月号;VOL.56-4)』
②石 橋智昭、他「チャレンジ!インターライ方式」
『シル
バー新報(5/30号~ 6/27号;連載 5回)』
③奥 野哲「アンケート結果から見えた、親の介護と離職
-超高齢社会における従業員の働き方と企業の対応
に関する調査の結果より-」
『月間エルダー(7月号)
』
◆ 財団の人事異動について ◆
6月4日に開催しました平成 26年度定時会評議員会
で、
弊財団の前田実が理事(事務局長)に就任しました。
また同日付で、西山千秋は退任しました。
7月1日付で、樋渡泰典(ひわたしやすのり)が三菱
化学より着任しました。
Dia News ◆ No.78
7
REPORT
財団研究紹介 Introduction
高齢期のつながりを補完する
ソーシャルネットワーキングサービス
はじめに
Report Report
しかし、近年、親密なつながりを強化するという、ソー
シャルネットワーキングサービス本来の特性とは異なる使
い方をする高齢 者 が 増 加しつつある。3.11の震災後に、
電子メールよりもつながりやすい連 絡 手段として、家族だ
REPORT
けに限定したグループをソーシャルネットワーキングサー
ビス上に作っているという高齢 者も多い。これにより、お
Project project PROJECT
交流媒体としてインターネットを位置づけた研究は少ない。
PROJECT
ばあちゃんが遠
Report Report report
Report Report 方に住む孫に作った野菜の写真を送り、
僅かな研究からは、友人との交流において都市高齢者が
孫がそこに「いいね」
(言葉を入力する以外に、「いいね」ボ
2013年秋号(№ 75)では、「後期高齢期における社会
直接的な接触の補助的な役割として携帯電話を利用して
タンを押すことで同意や読んだことを表すことができる)を
とのつながりと ICT(情報通信技術)利活用の可能性」と
いること や、趣味や余暇を共にするといった楽しみを共
押すといった、日常的なコミュニケーションが増えたという話
題し、直接的な接触が困難になるなかで、これを補完する
有する非親族とのメールを介したつながりが高齢男性の主
手段としてのインターネットの可能性について論じた。本レ
観的幸福感を高めること3)が明らかにされている。また、
また、直 接に会う機会が年数回、月数回程 度と限定さ
ポートでは、特にソーシャルネットワーキングサービス(イン
浦 4)は、メールや電子掲示板などを通じた他者との気軽な
れがちであった企 業 退 職 者 集 団や 学 校の OB・OG 会、
ターネット上で社会的なつながりを構築するサービスの総称)
おしゃべりが対面でのそのような機会を増大し、対人関係
趣味のサークルなどで、完 全に仲間だけに限定された場
の利用について紹介する。
への所属感を高めることを通じて、他者への信頼を高める
をつくり、そこで 近 況や 情 報のやり取りが 行われている
可能性をもつことを示唆している。
姿を垣間見ることが多い。この状況を反映し、高齢 者に
交流媒体としてのインターネット
2)
REPORT
もお聞きする。
今後、中年期にインターネットを日常的に使ってきた人々
特 化したマニュアル本が出版される様になっている。最
高齢期における社会関係の縮小が問題にされるときに
が高齢化するなかで、電子メールやソーシャルネットワーキ
近、facebook を始めた聖路加国際病院理事長の日野原
想定されるのは、直接的交流を前提にした、趣味や余暇活
ングサービスなどをコミュニケーションの手段の一つとして
重明氏も推奨する、松延健児氏の「大きな字でわかりや
動、学 校、職 場など多様な契 機で関係が成立する友人や
活用する高齢者は増えていくことが考えられる。本稿では、
すい Facebook 入 門」
(技術 評 論 社)は、品切れの書店
仲間、知人との関係といえる。電子メールに代表されるイン
著者が参与観察を行う企業退職者集団の Facebook(全
もでるくらいの売れ行きと聞いている。
ターネットを介してつながる他者は、対面での接触にくらべ
世界で利用されているソーシャルネットワーキングサービス
この本をテキストに facebook の活用に挑戦する三菱
て身体機能低下の影響を受けにくく、それらの加齢による
の一つ)活用事例を紹介しつつ、高齢期のソーシャルネット
重 工 三 原の OB 会 有 志グル ープ「f b 東 京 三 菱 三 原会」
社会関係や活動の縮小を防ぐ上で有用な交流媒体となり
ワーキングサービスの可能性に触れる。
が存在する(写真)。最年長の 88歳の佐々木 朝雄氏を先
うる可能性がある。
企業退職者会のつながりづくり
生に月1回勉強会を開催し、現 在では大阪在住メンバー
高齢層へのインターネットの普及については、他年齢層
も加わり、12名が近況や情報交 換を facebook 上で行っ
に比べて遅くはあるものの、インターネットの利用率は、
60歳以上のインターネット利用者では、交流 媒 体とし
ている。しっかりした長文の文章を書くことに慣れ親しん
2008年から5年 間 で、65-69歳 では 37.6% から 62.7%、
て電子メールを使っている人 が 5割程 度 存 在しているも
だ企 業退 職 者の特 性を反映し、開始当初は、気軽に「い
70-79歳 で は 27.7% から 48.7%、80歳 以 上でも14.5 %
のの、電子掲示板やソーシャルネットワーキングサービス
いね」を押したり、短 文での投 稿は少なかった。しかし、
から25.7%と顕 著に増えつつある 1)。この状況を反映し、
などのソーシャルメディアを利用する割合は高くない1)。特
約 1年が 経 過する中で、それぞれの投 稿するスタイルが
2000年以降、高齢期におけるインターネットの役割に関
に、不特定多数の人とつながることを可能にするソーシャ
確 立され、不文 律のルールもできあがりつつある。順 調
する研究は増加傾向にある。それらは、在宅でのリハビリ
ルネットワーキングサービスについては、関係を選択的に
に交流の場として定 着しつつあるなかで、「f b 東 京三菱
テーションの効果、認知 症高齢 者への支 援、高齢 者世帯
削減することで残されたつながりとの親密さを増し、社会
三原会」の設 立メンバーが 病気のため、勉強会に参加で
の安否確認といった虚弱や要介護状態にある高齢者への
に根付いているという感覚を強めているライフステージとさ
きなくなるという事態がおきている。療養 生活のなかで、
支援の手段としての活用に主要な関心が寄せられ、他者との
れる高齢期には適合しないものと捉えられることが多い。
他メンバーの日々の投稿を眺めつつ、勉強会や OB 会の活
8
Dia News ◆ No.78
fb 東京三菱三原会の月例 facebook 勉強会
動に復帰する意欲を燃やしていらっしゃるとお聞きしている。
この様に、直 接につながることが難しくなった時こその
facebook と位置付け、
「f b 東京三菱三原会」では OB 会
のメンバーに参加を働きかけている。
ソーシャルネットワーキングサービスの可能性
自立度の低下と共に、直接的な活動参加の機会が減少す
ることで、所属していた集団への心理的な隔たりが生じ、完
全に関わりを閉じてしまう人も少なくない5)。ソーシャルネッ
トワーキングサービスを介した交流には、直接的な交流を
補完し、この心理的な隔たりを弱める効果が期待される。
久々に会ったのに「久々に会った感じがしない感覚」を醸造
するためのソーシャルネットワーキングサービスの可能性に
ついて、今後も研究を積み重ねていきたい。 (澤岡 詩野)
<論文及び学会発表紹介>
1)
総 務 省:平成 24年通 信 利 用 動 向 調 査,(http://www.soumu.
go.jp/main_content/0 0 0230980.pdf ,Accessed 2014,
June9)
2)
澤 岡詩野・福尾健 治・浜田知久 馬:都市高齢 者のネットワーク
タイプによる友人との交流媒体としての携帯電話の利用状況,
老年社会科学,28(1),pp.12-20(2006).
3)
森 やす子:インターネットを利用する高齢男性のメールの利用と
人間関係の満足感,社会情報学研究,16(1),pp.29-39(2012).
4)
浦 光博:シニア世代におけるオンライン、オフラインでのソーシャル
・ サポートの効果;シニアに対する郵送パネル調査の結果から,
宮田加久子・野沢慎司編『オンライン化する日常生活;サポート
はどう変わるのか』文化書房博文社,145-163p(2008).
5)
澤 岡詩野:都市部の企業退職者の社会活動と社会関係における
インターネットの位置づけ,応用老年学,7(2014).
Dia News ◆ No.78
9
高齢社会オピニオン
虚弱高齢者のトレーナビリティー
一般化しての言及はできません。しかし、これまで一般的
動器の機能向上プログラム」に携わってきた経験から考え
には積極的な運動は馴染まないと思われている対象者は、
ると、プログラム内容がしっかりとした教室に参加すれば、
実は積極的に介護予防プログラムに参加を推奨すべき対象
低下した機能が向上し、住み慣れた地域で生き生きと生
であると考えられるのです。一般的なイメージとして、運動
活する能力を維持できる人がたくさんいるのではないかと
など、高齢者への介入では年齢が高い方ではその効果が上
思います。マージャンやカラオケが介護予防や認知症予防
がりにくいといった印象があるのではないでしょうか。また、
に効果があるという話も聞きますが、それらが誰に “効く”
例えば、やせ気味で普段杖を使用しているような、身体機
のかをはっきりさせることも必要かと思います。元気な方々
。日本で言え
能がより低下した方への積極的な運動介入は、リスクが大
がより元気になっていただくことは大事ですが、運動器の
ば特別養護老人ホームに当たる Nursing home に居住す
きいばかりで効果が上がりにくいといった印象があるものと
機能向上については、実際に虚弱状態の方に、より効果
わが国の公的介護保険制度は 2000 年 4 月に始まりま
る、かなり高齢で虚弱と思われる高齢者に対して、比較的
思われます。もし、このような認識が、高齢者自身や、介
が上がることがわかっていても、それが必要な方々に届か
した。その後、認定者数は予想を上回るペースで増加し、
高負荷のトレーニングによる運動介入の成果を発表したも
護予防事業に関わる従事者にまで潜在的に存在していると
ないというジレンマを感じています。まずは、適切な運動
2004 年頃には最初の制度見直しに向けた議論が始まり
のです。それまで一般的なイメージでは、超高齢あるいは
すれば、介護予防の二次予防事業で本来効果が期待される
によって効果が上がるのだという認識を高齢者も介護予防
ました。当時の議論では、軽度の認定者の増加が著しく、
虚弱高齢者への高負荷のトレーニングは百害あって一利な
方々が、実際に事業参加につながりにくいことは想像に難く
に携わる専門職も持つことが重要であると考えます。私が
認定状況が改善する方が少なかったことから、
「どのよう
しとか、年寄りの冷や水といったような認識がありました
ありません。私は、このような認識をお持ちの方々にわかり
関わっている二次予防事業に参加した方々の多くは効果
な対象に対して、どのような介護予防プログラムを提供す
が、その研究以来、方法論を慎重に吟味し、運用におい
やすくデータを提示し、その認識を変えていっていただきた
を実感しています。また、教室終了後(卒業後)、
「自助」
れば、どのような効果が望めるのかの整理がされていな
てリスク管理をしっかり行うことで、得られるメリットが大
いと思っています。
としての運動を継続される方もいらっしゃいます。運動に
い」との問題点の指摘がありました。また、
「ケアマネジ
きいことが明らかになってきました。私も、実際に都内で
メントにおいて、個々の対象に対するアセスメントやそれ
行われた介護予防事業に参加した高齢者の年齢(範囲 60
に基づく目標設定が徹底されていない」などの指摘もあり
- 99 歳,平均値 75.3 歳,中央値 76 歳)と運動介入に
ました。
よる改善効果との関係を検討した結果、改善効果は年齢
2006 年 4 月、介護保険制度は大きな転機を迎え、予
前述の指摘の双方に共通する問題点として、
「どのよう
との間に直線的な相関関係はなく、前期高齢者と後期高
防重視型システムへと改革が行われました。また、厚生
参加しやすくする工夫を行って、もっと効果的・効率的に
な対象にどのような予防的介入が向いていて、どのような効
齢者においても身体機能の改善量には有意な差がないと
労働省は 2006 年度から地域支援事業を導入し、すべて
地域で実施できる手立てを考えることによって、高齢者の
果が期待できるのかを予測するためのデータがない」とい
いう結果が得られました3)。もともと身体機能が低い対象
の高齢者を対象とする一次予防と、要介護状態に陥るリ
生きがいや健康寿命に寄与できるよりよい介護予防シス
~運動の効果が期待できる高齢者像とは~
Opinion
目白大学保健医療学部理学療法学科 目白大学大学院リハビリテーション学研究科 准教授 新井 武志
Opinion
1. ケアマネジメントの課題
1,2)
1990 年代に発表したデータがあります
4)
関して、
「高齢者はやりたがらない」といった認識をお持
3. 効果的な介護予防のために
ちの専門職の方々も多いと思います。しかし、それはいわ
ゆる “ 食わず嫌い ” の可能性もあります。我々が運動の意
義や効果をしっかりと説明し、運動教室に参加したくなる、
うことが挙げられます。ケアマネジメントの現場では、対象
者の改善量が大きくなる傾向があることもわかり 、年齢に
スクが高く積極的な支援(介入)を必要とする方を対象と
テムが実現できるのではないかと考えています。
者の機能改善可能性の見立ては、これまでケアマネージャー
よらず、身体機能がより低下した対象者のほうが運動プロ
する二次予防が行われています。しかしながら、その大
<引用>
などの支援者の経験に頼ってきた部分が大きく、結果的
グラムへの参加が望ましいことがわかりました。また、身体
きな改革から 8 年を経ても、現在の介護予防(事業)は
に効果予測や目標設定に役立つ基本的な情報が系統的に
機能と関連のある栄養状態(アルブミン値や BMI など)と
様々な課題に直面していると考えられます。リスクスクリー
“整理”、“蓄積”、“活用” されている状況とは言えません。
運動介入効果との関係も検討したところ、身体機能の低下
ニングに用いる基本チェックリストについては、事前にそ
1)Fiatarone MA, Marks EC, Ryan ND, Meredith CN, Lipsitz LA,
Evans WJ : High-intensity strength training in nonagenarians.
Effects on skeletal muscle. JAMA 1990 ; 263 : 3029―
3034.
介護保険法の条文には予防やリハビリテーションを重視
に加え栄養状態が悪化傾向にあっても、運動介入の効果へ
の精度が検証されていますが、実際には、回収率が伸び
する考え方が明記されているにも関わらず、実は予防の
の影響は少ないこともわかりました5)。さらに、身体状況の
悩んだり、二次予防事業の候補者として抽出されてもなか
方法論については具体的かつ明確な方向性が示されない
影響だけでなく、心理面の介入効果への影響も検討してき
なか事業につながらないなどの問題が生じています。さら
ままスタートしていました。私は、このような問題に対処
ました。例えば、うつ傾向が強かったり、各種の動作に対
に、二次予防事業においては、前述の参加者抽出やケア
するために、どのような対象の方に、しっかりと予防が “効く”
する転倒恐怖感などが大きい対象者では、積極的な運動介
マネジメントの問題に加え、
「機能改善ばかりが強調され、
のかを明らかするための研究を行っています。
入を行っても効果が期待できないのではないかと想像しま
高齢者の生活の自立や生きがいの実現などにつながって
したが、私が調査したサンプルの場合、うつ傾向や転倒恐
いない」、
「高齢者が望むプログラム、あるいは高齢者が
怖感の大きさなどは、運動介入による改善効果とは関係性
参加しやすいプログラムがない」、
「教室(支援)終了後の
2. 虚弱高齢者のトレーニング効果
6)
がありませんでした 。これらの調査研究にはサンプルの数
健康行動が持続されない」、
「明確な費用対効果を証明で
虚弱高齢 者への運動介入に関するエポックメイキング
やバイアスの問題、運動介入内容の妥当性、因子間の交絡
きるエビデンスがない」など、多くの点が指摘されています。
な出 来事として、 タフツ大 学( 当時) の Fiatarone 氏が
の調整が不十分であるなど研究限界があるため、あくまで
地域支援事業の二次予防事業として実施されている「運
10 Dia News ◆ No.78
2)Fiatarone MA, O’Neill EF, Ryan ND, Clements KM, Solares
GR, Nelson ME, et al. : Exercise training and nutritional
supplementation for physical frailty in very elderly people.
N Engl J Med 1994 ; 330 : 1769―1775.
3)A rai T, Obuchi S, Kojima M, Nishizawa S, Matsumoto Y,
Inaba Y. The relationship between age and change in physical
functions after exercise intervention. Trainability of Japanese
community-dwelling older elderly. J Jpn Phys Ther Assoc
2009; 12: 1-8.
4)新井武志,大渕修一,小島基永,松本侑子,稲葉康子:地域在住
高齢者の身体機能と高齢者筋力向上トレーニングによる身体機能
改善効果との関係.日老医誌 2006;43:781-788.
5)新井武志,大渕修一:運動器の機能向上プログラム参加者の運動介
入効果と栄養状態との関係.日老医誌 2011;48(4)
:369-377.
6)新井武志,大渕修一,逸見 治,稲葉康子,柴 喜崇,二見俊郎:
地域在住虚弱高齢者への運動介入による身体機能改善と精神心
理面の関係.理学療法学 2006;33:118-125.
Dia News ◆ No.78
11
す
す
す
す
す
第2回
の有無、シャワーかバス
ルームかなどで異なりま
旅人生のスパイス !
は
です
セレブ気分で豪華客船に乗る!
~夫婦の記念旅行に、親子三世代の旅に~
す
旅のコラムニスト 松本すみ子
すが、そのほかのサービ
スにはほとんど差が な
く、カジュアルクラスの
短 期クルーズでも豪 華
さは十分味わえます。
クルーズは常時お部屋
を確保できるので、おじ
いちゃん・おばあちゃん
と小さなお子さんのいる
子供家族の三世代旅行
ほとんどの国や地域を体験したという旅の上 級者が
次に目をつけるのは、豪華な設備を整えた客船で各地を
周遊するクルージング。
豪華客船の旅といえば、旅費が高額、衣装が大変など
と、庶民には近寄りがたいものでした。しかし、この数年
で状況は劇的に変化。4泊5日で5万円前後というクルー
ズも生まれています。
「安かろう、悪かろうでは?」と思う
かもしれませんが、就航しているのは海外で実績のある
豪華客船が多数。また、外国船は日本だけに寄港するク
ルーズは認められていないため、韓国・釜山や済州島、台
湾・台北などを組み込んで作っています。なので、逆に、
お得感のある旅ではないでしょうか。
クルーズは、3種類に区分されます。気軽なほうから、
カジュアル、プレミアム、ラグジュアリー。短期間クルー
ズの場合はカジュアルクラスが一般的です。昼間はジー
ンズやTシャツなどの楽な服装で問題ありませんし、ディ
ナーやパーティーでも、ちょっとしたおしゃれで結構です、
というもの。
船旅のメリットは何でしょうか。一番いいのは、自分の
部屋でぐっすり寝ている間に目的地に運んでくれること
で す。昼 間
の時間は効
率よく寄 港
地の観光に
使 え ま す。
毎日荷造り
する必 要も
ありません。
料金は部屋
11 階建てのビルにも匹敵する旅客船
発行者 公益財団法人 の 広 さ、窓
ダイヤ高齢社会研究財団
にもお勧めだと思います。
子供がぐずったり、疲れ
たら、部屋に戻って過ご
すのも自由。子供のため
のキッズルームやイベン
トも用意されています。
もちろん、宿 泊 費 や
食事は旅費に含まれています。朝晩だけでなく、船に乗っ
ている間の食事はほとんどが無料なのです。寝坊して朝
の食事を食べ損なったとしても、どこかのレストランが開
いていて、いつでも食べることができます。また、プール
サイドではハンバーガー、サンドイッチ、アイスクリームな
どの軽食が自由。ただし、アルコールは有料です。
夜の食事はメインダイニングで、各テーブル担当のウエ
イターからサービスを受けながら、豪華な献立をチョイス。
やはりディナーくらいはおしゃれをして行きたいもので
すね。
さらに、船内でのエンターテインメントも料 金の中。
船には千人から2千人程度が入場できるシアターがあり、
ミュージカル、マジック、コンサートなど、ハリウッド並み
のショーが毎晩開催されます。昼間でも船が洋上にあ
る間は、あちこちで 乗 客を飽きさせないイベントやス
クールも開催。ジムやパターゴルフ、フリークライミング
などのスポーツ施設も完備です。もちろん、お医者さま
も必ず乗船。
まずは気軽な短期間のクルーズから体験してみてはい
かがでしょうか。味をしめて、海外の寄港地まで飛行機
で行き、そこから豪華クルーズに参加する方々も増えてい
るようです。夢は地中海、エーゲ海、カリブ海、ハワイ4島
巡り?たくさんあって、迷ってしまいますね。
〒160-0022 東京都新宿区新宿1-34-5 直田ビル3階
TEL:03-5919 -1631 FA X:03-5919 -1641
E-mail:[email protected] ht tp://w w w.dia.or.jp
編集人:鈴木章一 デザイン・印刷:橋本確文堂 (三菱製紙ホワイトニューVマット) 発行:2014.7.25 No.78
12 Dia News ◆ No.78
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