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カナダを中心とした国際比較から見た日本の課題

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カナダを中心とした国際比較から見た日本の課題
ESRI Discussion Paper Series No.179
政府部門の近代化と公務員管理
― カナダを中心とした国際比較から見た日本の課題 ―
by
小池 治
April 2007
内閣府経済社会総合研究所
Economic and Social Research Institute
Cabinet Office
Tokyo, Japan
ESRIディスカッション・ペーパー・シリーズは、内閣府経済社会総合研究所の研究者およ
び外部研究者によって行われた研究成果をとりまとめたものです。学界、研究機関等の関係する
方々から幅広くコメントを頂き、今後の研究に役立てることを意図して発表しております。
論文は、すべて研究者個人の責任で執筆されており、内閣府経済社会総合研究所の見解を示す
ものではありません。
政府部門の近代化と公務員管理
―カナダを中心とした国際比較から見た日本の課題―
小池
治 (横浜国立大学大学院国際社会科学研究科教授、
前内閣府経済社会総合研究所客員主任研究官)
1
要約
近年、先進諸国のあいだでは政府の能力構築を図るためのさまざまな改革が進められて
いる。改革のキーワードは成果重視のマネジメントであり、公務員管理も終身職公務員の
ハイアラーキーからより弾力的な人材管理へと移行しつつある。本論文では、初めに OECD
諸国における公務員制度改革の現状を考察し、その特徴を明らかにする。次いで、
「カナダ・
モデル」と呼ばれるカナダ連邦公務員制度改革の経緯とその特徴を考察する。カナダは 1990
年代後半に「プログラム・レビュー」と呼ばれる行政改革を実行し、公共支出の削減と政
府の役割の見直しを行った。その結果、カナダは財政赤字から脱却したが、公務員を大幅
に削減したことから、行政組織の能力低下が大きな問題となった。そこでカナダでは幹部
公務員制度の改革や分権的人材管理などを進めるとともに、2003 年に公務管理改革法を制
定して公務管理システムの抜本的な改革を行った。こうしたカナダの取り組みは、わが国
の公務員制度改革を考えるうえでも重要な示唆をもつものといえる。公務員制度はその国
の発展の経緯や社会経済の特性と不可分に結びついている。日本はすでに世界で最小の公
務員組織を実現しているが、そのパフォーマンスを最大化し、国民の信頼を高めるための
改革は喫緊の課題といわねばならない。その際には諸外国の改革モデルの模倣ではなく、
新しい「日本モデル」の公務員制度を設計することが重要である。
2
A Comparative Study of Modernizing Government and Public Service
Reforms: Analysis of the “Canada Model” and the Lessons for Japan
Osamu Koike, Ph.D.
Professor of Public Policy and Administration Yokohama National University
Abstract
In the past twenty years many industrialized nations have initiated various
administrative reform strategies to reduce government deficit and to revitalize national
economy.
Based on the assumption that only economic rationality can improve
government services, political leaders immediately effected the privatization,
deregulation and outsourcing of public service delivery with the emphasis on the use of
corporate management measures in public administration.
These reform measures
called the “New Public Management” [NPM for brevity] arrived in Japan in the late
1990’s, although the same was already very successful in countries like the UK and New
Zealand.
Nonetheless, questions against the NPM have occurred in Europe.
Scholars
and practitioners criticized it for resulting to the fragmentation of governmental
services and the decline in the public’s trust on the government.
The “Joined-Up”
government initiative in the UK and later a chorus of the “whole of government” in
Australia and New Zealand are the representatives of the new reform proposals under a
cover of the “Modernizing government”.
A mixture of the NPM and the “Modernizing
government” reform measures had a great impact on the civil service reforms in the
world.
The devolution of personnel management authority to the line managers,
abolition of permanent employment system and performance management became
popular among OECD countries in the late 1990’s.
While the total number of Japanese civil servants is the least among the OECD
countries, no major change has taken place in Japan’s civil service management system
for quite a long period of time and while the trust on the bureaucracy and the popularity
of government jobs are now in the decline.
Finally, this paper discusses Japan’s reform
agenda for its civil service system through the analysis of reform experiences in other
advanced countries and with special attention to the Canadian experience in public
service reform in the 1990’s.
3
目
次
はじめに…………………………………………………………………………………………… 5
第1章
OECD 諸国における公務員の人材管理……………………………………………… 8
⑴公務員の削減と近年の傾向………………………………………………………… 8
⑵公務員管理手法の変化………………………………………………………………11
⑶日本の公務員管理の改革課題………………………………………………………14
第2章
カナダ連邦政府における公務員管理…………………………………………………18
⑴カナダ・モデルの行政改革…………………………………………………………18
⑵マルルーニ政権の「PS2000」……………………………………………………19
⑶La Relève…………………………………………………………………………… 22
⑷リーダーシップ・ネットワーク……………………………………………………24
⑸公務近代化法の制定と実施…………………………………………………………26
⑹カナダ・モデルの意味………………………………………………………………31
第3章
日本における公務員の人材管理の課題………………………………………………37
⑴日本の公務員管理の課題……………………………………………………………37
⑵新しい公務員管理システムの設計…………………………………………………39
参考文献……………………………………………………………………………………………43
4
政府部門の近代化と公務員管理
―カナダを中心とした国際比較から見た日本の課題―
はじめに
1980 年代以降、先進諸国は財政赤字削減と経済活性化を図るため、政府の役割や行政活
動の見直しを進めてきた。その基本戦略は、一言でいえば公共部門への経済的合理主義の
導入にあったといえよう。すなわち、公共サービスを市場化して民間部門との競争を促す
とともに、公共組織管理に民間経営手法を適用して効率化を図ることが、先進国共通の改
革課題とされたのである。この改革手法は一般に NPM(New Public Management: 新公
共管理)と称されている。1NPM は、政府による公共サービスの直接提供は市場独占であ
るため非効率にならざるをえない。したがって政府の政策部門と実施部門を分離し、サー
ビス提供に多様なプロバイダーを参入させ、競争をつうじてコスト削減と質の向上を図る
べきであるとする。この NPM の改革手法は、英国やニュージーランドの成功経験が OECD
(Organization for Economic Cooperation and Development:経済協力開発機構)を通じ
て広く各国に宣伝されたこともあり、1990 年代になると日本など非西欧諸国においても積
極的に導入が図られるようになった。2
しかし、1990 年代後半になると、欧米諸国では次第に市場主義型改革の“行き過ぎ”に
対する批判が強まり、政府公共部門の再構築が真剣に議論されるようになった。英国のブ
レア労働党政権の「政府近代化(Modernising Government)」の取組やドイツのシュレーダ
ー社会民主党政権による連邦と州政府の連携はその代表的な例である。3こうした風向きの
変化を受けて、2002 年に OECD は「公共部門の近代化(public sector modernisation)」
を研究課題に掲げ、加盟国における行政改革の状況調査に着手したのである。4この方向転
換の根底には、NPM 的改革が予期せざる影響を政府部門にもたらしているとの認識がある。
1980 年代後半から OECD 諸国は NPM の主張に基づいて行政組織を機能ごとに切り分け、
民間部門との競争を促す政策を進めた。しかしその結果、政府組織はいっそう断片化して
しまい、犯罪や青年の失業、環境問題や競争力の向上といった重要課題に一体的に対応で
1 NPM については近年おびただしい数の研究成果が発表されているが、
国際的な観点から最もコンパクト
に NPM 型行政改革の動向を論じたものとしては、次の文献が有用である。Donald F. Kettl, The Global
Public Management Revolution: A Report on the Transformation of Governance, Washington, D.C.:
Brookings Institution, 2000.
2 NPM の世界的な流行の背景として、OECD の行政管理委員会(PUMA)が NPM による能率改善を加
盟国に働きかけたことも無視できない。なお、世界銀行や各国のドナー機関が開発援助に際して NPM 型
行政改革の推進を途上国に求めたことから、いまでは多くの開発途上国が NPM の導入を進めている。こ
の NPM の世界的な広がりについては、以下の文献を参照。Willy McCourt and Martin Minogue, eds., The
Internationalization of Public Management, Edward Elgar, 2001; 小池治「開発途上国のガバナンスと行
政改革」『季刊行政管理研究』第 96 号(2001 年)、24-39 頁。
3
アメリカではクリントン民主党大統領が「政府再生(Reinventing Government)
」を提唱し、1993 年
に「ナショナル・パフォーマンス・レビュー」を設置して政府の能力再構築のための改革を推進した。小
池治「クリントンと行政改革」藤本一美編『クリントンとアメリカの変革』、東信堂、1995 年。
4
OECD, Public Sector Modernisation: a New Agenda, GOV/PUMA(2002).
5
きなくなってしまった。そこで 1990 年代末になると、英国やカナダ、そしてニュージーラ
ンドなどで「政府の一体性(a whole of government)」が強調されるようになった。そして
公共部門内部だけでなく公共部門と民間部門間の連携構築(joined-up)が進められるよう
になったのである。5
もっとも、NPM は確かに負の影響を生み出したが、政府の効率的経営と国民に対するア
カウンタビリティの強調が各国における公共管理の近代化を促したことは正当に評価され
るべきであろう。1990 年代以降、各国政府は行政部門の効率性を高めるため、政策評価、
業績測定、発生主義会計等の導入による成果重視のマネジメントに真剣に取り組むように
なった。その結果、各国の行政運営は、より透明で信頼できるものへと革新されてきてい
るからである。6
この成果主義の主張は、当然ながら各国の公務員制度や公務員管理にも大きな影響を及
ぼすこととなった。1980 年代から先進諸国では「小さな政府」のスローガンのもとに国営
企業の民営化や政府現業部門のアウトソーシングをつうじて公務員の削減が進められたが、
1990 年代には政府部門に民間の人事管理手法を取り入れる傾向が強まった。その結果、公
務員の終身雇用は多くの国で見直され、公務員の給与決定も労働組合を通じての団体交渉
から契約型のものへと変化してきている。公務員の人材管理では、ラインの管理者に人事
管理の権限を移譲する「分権的管理」、組織の階層を少なくする「フラット化」、そしてパ
フォーマンスに対する説明責任を強化するための業績評価の導入が顕著である。7その結果、
先進諸国の公務員管理の仕組みは、民主的統制を重視する伝統的な管理手法から大きく様
変わりし、成果主義を基調とする民間部門の人事管理システムに近づいてきている。
しかしながら、経済的インセンティブによる公務員の人事管理については、公務員の組
織的な連携を弱めるとの指摘もある。8実際にも、業績給(Performance-related Pay)の導
入については各国とも慎重であり、OECD も個人の業績よりも集合的な業績を評価するこ
との意義を強調している。9
政府組織の連携について英国のブレア内閣は”joined-up”という言葉を用いている。一方、”a whole of
government”という用語はオーストラリアやニュージーランドでポピュラーである。オーストラリアにお
ける政府連携については、Management Advisory Committee (MAC), Connecting Government, MAC,
2004. が包括的に論じている。ニュージーランドについては、Robert Gregory, “Theoretical Faith and
Practical Works: De-Autonmizing and Joining-Up in the New Zealand State Sector,” in Tom
Christensen and Per Laegreid eds, Autonomy and Regulation, Edward Elgar, 2006 が歴史的経過をコン
パクトにまとめている。他方、カナダでは”horizontal management”というフレーズがよく用いられてい
る。英国、カナダ、日本における省庁連携については、別稿で論じたので参照されたい。小池治「政府の
近代化と省庁連携-英国・カナダ・日本の比較分析」『会計検査研究』第 31 号(2005 年3月)27-40 頁。
6 ただし、成果重視のマネジメントにおいても、行政部門が作成する詳細な評価情報に議会や政策決定者
が十分に対応できないという逆説的な状況も現れている。OECD, Public Sector Modernisation: a New
Agenda, GOV/PUMA (2002),p.2.
7 OECD, “Pubic Sector Modernization: Modernizing Public Employment,” Policy in Brief, OECD
Observer, July, 2004.
8 各国における業績給の導入状況とその問題点については、次の文献が詳しい。Michelle Brown and John
S. Heywood eds., Paying for Performance: An International Comparison, M.E. Sharpe, 2002.
9 OECD, Performance-related Pay Policies, Paris: OECD, 2005.(邦訳『世界の公務員の成果主義給与』
平井文三監訳、明石書店、2005 年)
5
6
一方、OECD 諸国の動きと比較してみると、日本では省庁再編や独立行政法人制度の創
設など行政部門の組織改革や公務員数の削減については成果がみえているものの、公務員
制度改革に関してはほとんど進展をみていない状況にある。確かに、公務員数という点で
はすでに先進諸国のなかで最も小さな政府を実現している日本の公務員制度は、世界で最
もパフォーマンスが高いといえるかもしれない。しかし、その内実をみると、組織のパフ
ォーマンスにはつながらない非生産的な業務に忙殺され、過酷な残業を強いられている職
員の姿がみえてくる。日本の公務員制度は、“大部屋主義”、ジェネラリスト養成のための
ローテーション人事など、欧米諸国とはかなり異なる組織管理・人事管理の仕組みを維持
してきた。それが一面において公務員組織の安定と比較的高いパフォーマンスを支えてき
たことも確かであろう。しかしながら、政府部門の縮小が続くなかで、将来を嘱望される
若手公務員の離職や公務員志望者の減少が顕著となっていることも事実である。
日本の公務員制度が直面する問題は、他の国においても同様に存在する。そのなかで各
国では公務員制度の刷新のためのさまざまな取組みを開始している。公務員の任用機会を
広く外部に開放した国もあれば、伝統的な公務員管理の仕組みを維持しつつ改善を図って
いる国もある。そのなかで日本は改革の方向性をなかなか示すことができず、立ち往生し
ている感がある。
公務員制度は、その国において歴史的に形成された「ガバナンス」の特徴を映し出すも
のである。したがって、政府と社会あるいは公共部門と民間部門の関係を規定する各国固
有の制度を無視して、他国の公務員改革の手法をストレートに移植しても効果はあまり期
待できない。これは公務員制度改革の有効性をガバナンスとの関係において検討するアプ
ローチの重要性を強調するものである。かかる視点から本章では、最初に OECD 諸国にお
ける公務員管理改革の動向とそのバリエーションを整理し、日本における公務員管理の課
題を検討することから始めたい。10そして次に、公務員組織が自律的に公務員管理制度の改
革を進めているカナダを取り上げ、そのプロセスを検討する。そして最終章において再び
日本の公務員管理に立ち返り、改革課題と改革のビジョンについて考察を行うこととした
い。
10 本報告書では、英語の public service management に当たる日本語として「公務員管理」あるいは「公
務管理」という言葉を用いる。英語圏の文献においても”public service”は公務員を指すこともあれば、広
く行政を意味する場合もある。
7
1. OECD 諸国における公務員の人材管理
(1)公務員の削減と近年の傾向
1980 年代~90 年代の 20 年間に OECD 諸国はおしなべて公務員の削減を進めてきた。そ
の最も直接的な要因は、政府の財政赤字の拡大である。各国政府は財政赤字を減らすため
歳出削減に取り組み、公務員の削減や政府機関の民営化、業務のアウトソーシングを積極
的に進めていった。その際に改革の原理とされたのが NPM(New Public Management)
である。NPM は公共部門に競争原理を導入し、政府と民間部門あるいは政府部門内におけ
る競争をよって政府組織の能率を向上させることを主張する。その手法は公務員管理にも
及び、雇用関係を終身雇用から契約制に切り替え、給与を固定給から業績給へと変える国
が相次いでいる。また公務員の任用に関する手続きを緩和し、各部門の管理責任者に任用
の権限を委譲する動きも拡大している。
しかしながら、NPM の影響は広く各国にみられるものの、各国における公務員の雇用や
管理の手法は実際には多様である。先進国における公務員の雇用状況をみると、カナダ、
フィンランド、フランス、ニュージーランド、日本では国・地方を合わせた全公務員の数
が減少しているが、ドイツ、スペイン、米国では、連邦(中央)公務員は減少したものの、
州や地方政府の公務員が増えたことにより、公務員の総数は増加となっている。また、オ
ーストリア、オランダ、韓国では連邦(中央)公務員の数も増加している(表1)。
表1
国名
先進諸国における公務員数の変化(1985~2000 年)
1985 年の公務員数
1990 年の公務員数
2000 年の公務員数
(うち国家公務員数)
(うち国家公務員数)
(うち国家公務員数)
カナダ
2,376,562(399,176)
2,662,563(406,366)
2,548,137(336,603)
ドイツ
3,874,000(858,000)
4,038,000(873,000)
4,364,100(501,700)
米国
15,690,345(2,843,298)
17,541,035(3,008,323)
20,572,000(2,777,000)
韓国
670,637(472,550)
818,121(553,746)
868,753(563,682)
日本
4,055,200(836,200)
4,047,600(822,600)
3,682,000(640,000)
資料出所:日本を除く4カ国については OECD, Highlights of Public Sector Pay and Employment Trends,
Paris: OECD, 2001 をもとに筆者作成。日本については、人事院「一般職の国家公務員の任用状況調査報
告」、総務省「地方公務員給与の実態」をもとに筆者作成。
8
ただし、就業者に占める公務員の割合を見ると、その比率は相当減少していることがわ
かる(表2)
。これは国営企業の民営化や経済の活性化により、民間部門の従事者が増加し
たことを示唆している。フランスや北欧諸国においてはいまなお公務員の比率が高いが、
それ以外の国では公務員の比率は 12~18%に低下してきている。
表2
全就業者数に対する公的雇用の割合 (%)
1985
1990
1997
1998
1999
カナダ
20.2
20.3
18.5
17.9
17.5
フィンランド
25.3
23.2
25.0
24.3
-
フランス
20.5
20.4
21.3
-
-
ドイツ
15.5
15.1
12.9
12.6
12.3
日本
7.0
6.5
6.3
6.2
6.2
韓国
4.5
4.5
4.4
4.5
-
オランダ
15.1
12.9
12.6
12.4
12.2
英国
21.6
19.5
12.9
12.7
12.6
米国
14.8
14.9
14.6
14.5
14.6
資料出所:日本を除く8カ国については OECD, Highlights of Public Sector Pay and Employment Trends,
Paris: OECD, 2001.をもとに筆者作成。日本については、総務省「労働力調査」をもとに筆者作成。
こうした OECD 諸国の状況と比較すると、日本の公務員数の少なさはきわめて特徴的で
ある。就業者数に占める公務員の割合(国・地方の一般職公務員数)は 1990 年代を通じて
6%程度であったが、2005 年には 5.4%に低下し、欧米諸国の半分以下となっている。11ま
た、表3に示したように、人口千人あたりの各国の公務員数を比較しても、日本は OECD
諸国のなかでは突出して公務員の数が少ない国であることがわかる。12
日本の公務員数の少なさには、さまざまな要因が関わっていると考えられる。ここには、
国の事務を地方自治体が執行する委任事務制度の存在、公益法人や社会福祉法人など中間
的な組織による公共サービスの代替的提供、国の総定員法や地方財政計画による公務員の
11
5.4%という数字は、日本の 2005 年の全就業者数 6772 万人に対する公務員 364 万人(2006 年末定員・
一般職のみ)の割合である。
12 日本の公務員数が先進国のなかで最も少ないことは、内閣府社会経済総合研究所が野村総合研究所に委
託して実施した公務員数の国際比較に関する調査でも裏付けられている。野村総合研究所「公務員数の国
際比較に関する調査報告書」平成 17 年 11 月(http://www.esri.go.jp/jp/archive/hou/hou030/hou021.html)。
このほかに日本の公務員数の少なさを論じている文献には以下のものがある。村松岐夫『日本の行政』中
央公論社、1994 年;稲継裕昭『日本の官僚人事システム』東洋経済新報社、1996 年;片岡寛光『職業と
しての公務員』早稲田大学出版部、1998 年。
9
定員管理、家族の自助や地域社会における相互扶助などが含まれるであろう。13例えば、警
察官の数を比較すると、日本の警察官の負担割合は他の国と比べると2倍近くにも達して
いる(表4)
。
表3 人口千人当たりの公的部門における職員数の国際比較
資料出所:総務省ホームページ(www.soumu.go.jp/gyoukan/kanri/pdf/satei_02_05.pdf)
表4
警察官1人当たり負担人口の国際比較
負担人口(人)
調査年次(年)
日本
520
2005
アメリカ
353
2000
イギリス
337
2002
ドイツ
312
2002
イタリア
279
2001
フランス
275
2002
資料出所:警察庁編『平成 17 年版警察白書』ぎょうせい、2005 年、278 ページより筆者作成。
13
稲継『日本の官僚人事システム』63-66 頁。
10
警察官の数は、犯罪の発生率だけでなく、地域の防犯活動や警察に対する住民の信頼と
いったガバナンスの問題とも深く関係している。しかし、日本の安全神話が崩壊しつつあ
るなかで、いまは警察官の増員を求める声が強まりつつある。また、高齢者介護に象徴さ
れるように、日本では福祉はもっぱら家族によって担われてきたが、核家族化と女性の社
会進出が進んだ結果、いまや家族による高齢者介護は限界にきており、公的サービスのい
っそうの充実が求められている。これまで政府は中央集権的な統治構造のもとで、全国画
一的なナショナルミニマムという比較的「安上がり」な行政サービスを提供してきた。し
かしながら、物質的な豊さと反比例するように、社会には犯罪や危険が増え、公共部門の
責任はますます大きくなってきている。地方分権は政府部門の応答力を高めるための有効
な手法であるが、同時に歳出も削減しているため、地方自治体は非常勤職員や短時間勤務
職員による対応を余儀なくされている。その結果、公共サービスの質が低下し、公共部門
に対する信頼性がますます低下するという悪循環に陥ることも懸念される。
(2)公務員管理手法の変化
1990 年代までの OECD 諸国における公務員削減の主な手法は、(1)国営企業の民営化や
組織改革による実施部門の外部化といった行政組織再編と、(2)公務員の新規採用の抑制や
退職者の不補充による自然減であった。もっとも、組織再編には限界があり、行政部門の
行き過ぎた縮小は統治の不安定化を招きかねない。また、公務員の削減それ自体を目的化
し、新規採用の抑制や退職者の不補充を進めると、行政組織のパフォーマンスが低下し、
組織の硬直化が急速に進む恐れがある。
こうした観点に立って OECD 諸国は伝統的な公務員管理システムの見直しを進め、経営
主義的な手法の適用可能性を探りながら、公務員組織の弾力的な管理への転換を図ってい
る。そうした取組には国ごとに相当のバリエーションがあるが、本章では 2005 年に OECD
がとりまとめた報告書「政府近代化:前進に向けて(原題 Modernizing Government: The Way
Forward)」を中心に、先進諸国における公務管理改革の動向を論じていくことにしたい。
1)分権的管理
OECD 諸国において共通に取り組まれているのが、人材管理(HRM:Human Resource
Management)の分権化である。これは人材管理権限を中央人事機関からラインの省や機
関に移譲し、各組織が人材を効率的に管理することで行政組織のパフォーマンスの向上を
図る手法である。人事管理をラインの省が行うという新しい発想の管理方式は、はじめは
「ポジション(職位・職務)」について内外から広く職員を募り任用する「ポジション型」
の国が導入し、いまは「終身職(career)」を原則とする「キャリア型」の国にも広まって
きている。14ポジション型の代表国は、オーストラリア、フィンランド、ニュージーランド、
スウェーデン、スイス、英国であり、
「キャリア型」の代表国はフランス、ギリシア、日本、
14
OECD, Modernizing Government: The Way Forward, Paris: OECD, 2005.
11
韓国、ルクセンブルグ、スペインである。
OECD 諸国における人材管理の分権化の状況
表5
低い国
やや低い国
やや高い国
高い国
ギリシア
オーストリア
ベルギー
オーストラリア
日本
カナダ
チェコ
フィンランド
ルクセンブルグ
フランス
デンマーク
アイスランド
スロバキア
ハンガリー
ドイツ
ニュージーランド
アイルランド
メキシコ
スウェーデン
イタリア
ノルウェー
韓国
ポルトガル
ポーランド
スイス
スペイン
英国
アメリカ合衆国
資料出所:OECD Modernizing Government: The Way Forward, Paris:
OECD, 2005 より引用(原資料
は、OECD, Performance-related Pay Policies, Paris: OECD, 2005. 邦訳『世界の公務員の成果主義給与』
平井文三監訳、明石書店、2005 年)
もっとも、表5に示したように、分権的管理に対する取り組みには、各国間に相当のバ
リエーションがある。中央人事機関の役割についてみると、ベルギーやスウェーデンのよ
うに中央人事機関が存在しない国もあるが、公共支出と人事管理の連動を重視する国では
財務担当省に中央人事管理機関を設ける例が多く、政策調整や各機関のパフォーマンスを
重視する国では首相府や内閣府に人事管理機関を置く傾向がある。いまでも OECD 諸国の
大半の国では中央に人事管理機関を置き、職員給与や組合との交渉についての法的責任を
もっているが、そこでも人件費に対する権限は各省に移譲され、各省が定員や職務分類、
等級と給与などを決定するようになっている。この人事管理権限の各省への移譲は、1986
年から 1993 年のあいだにカナダ、デンマーク、フィンランド、オランダ、ニュージーラン
ド、スウェーデン、英国で行われている。15
2)パフォーマンス管理16
分権的管理に移行した国々では同時に、管理職による組織及び個人のパフォーマンス管
OECD, Modernizing Government: The Way Forward.
パフォーマンス(performance)にはしばしば「業績」の訳語が当てられるが、公務管理の文脈では業
績よりも広く「性能」を意味する場合が多い。その場合はパフォーマンスとカナで標記することとし、狭
義の「業績」を指す場合にのみ「業績」の訳語を当てる。
15
16
12
理を強調する傾向がある。そこでは従来の組織横断的な人事管理に代えて、公務員個人を
管理する手法が採用され、職員の採用や昇任、雇用期間、パフォーマンス管理及び給与な
ど、さまざまな局面について個人主義的な管理が導入されている。
OECD の分析によれば、公務員の雇用には次のような変化がみられるとしている。17第1
に、いくつかの国では公務員の終身雇用を保障する法規定が廃止され、公務員も一般的な
雇用法制の下に置かれるようになった。第2に、それ以外の国では公務員の終身雇用は保
障されているが、パフォーマンスに対する個人の責任を高めるため、任期付きの契約が活
用されるようになった。すなわち、成績が良好な場合にのみ任期が延長されるという仕組
みである。第3に、雇用延長の保障のない短期雇用の公務員も増えている。そして第4に、
本来的には常勤職員を当てるべき職務に契約型の公務員が任用される場合がある。
表6は、主要国における公務員雇用形態の変化をまとめたものである。
表6
国名
オーストラリア
公務員の雇用形態の変化
公務員の雇用状況の変化
1996 年以降、常勤職員と非常勤の割合はほぼ同率となった。常勤職員
も終身雇用を保障されず、雇用の場がなくなれば失職する場合がある。
カナダ
常勤職員に対する任期付//臨時職員の割合が増加
デンマーク
公務員数が減少。団体協約による雇用に移行。各省の課長レベルでは約
2割が任期付き雇用に移行。
ニュージーランド
公務員の 93%は期限のない任用。任期付き雇用は7%。
スウェーデン
終身雇用制度から恒久的雇用契約に移行。
英国
任期付や臨時職員の任用権限を管理職に付与
資料出所:OECD, Modernizing Government: The Way Forward, OECD, Paris (2005)より筆者作成。
OECD の報告書では、各国が終身雇用から任期付きあるいは契約による雇用に移行した
理由を、労働市場の変化だけでなく、各国政府が将来の財政逼迫に備えて雇用の弾力化を
進めているためであるとしている。また、OECD 諸国は公務員の個人的パフォーマンスを
評価するようになってきている。その主な形態は、管理職と部下がパフォーマンスの合意
文書を取り交わすもので、「目標による管理」と呼ばれる形のものが多いようである。パフ
ォーマンス管理は、1年単位で行われるのが通常である。この制度が 1980 年代半ばに導入
された時には、業績を詳細かつ科学的に評価しようとする傾向があったが、現在は事前に
示した目的の達成度やラインの管理者との対話が重視されている。また、測定が可能なア
17
以下の OECD の分析は、OECD, Modernizing Government: The Way Forward.による。
13
ウトプットよりも、コンピテンシーや行動基準が重視されている。
こうしたなかで、近年においては公務員の給与をパフォーマンスと連動させる動きが顕
著になっている。18OECD の調査では、加盟国の3分の2が業績給(Performance Related
Pay: PRP)を導入あるいは計画している。ただし大半は管理職や特定行政庁が対象であり、
本格的に業績給を導入している国は、デンマーク、フィンランド、韓国、ニュージーラン
ド、スイス、英国など少数にとどまる。むろん、業績給の導入には各国の公務員制度の特
徴や人事管理機能の分権度も大きく関わっているため、一概に言うことはできないが、一
般職公務員の場合は基本給に 10%ほど業績の部分を確保し、管理職の場合は基本給の2割
程度を業績給とする場合が多いようである。OECD では、業績給はパフォーマンス改善の
ための金銭的インセンティブとしての機能は弱く、パフォーマンス改善に組織的に取り組
むための触媒(catalyst)と考えるべきであるとしている。
3)幹部公務員の管理
OECD 諸国では、人材管理の権限をラインの省に分権化する一方で、幹部公務員につい
ては集権的管理を強化する傾向がみられる。その目的は、およそ以下のようなものである。
第1は、幹部公務員の任用に際してもパフォーマンス基準を設定し、その評価に基づいて
幹部公務員を任用することで、公務員組織のなかにパフォーマンス管理の文化を浸透させ
ることである。第2は、パフォーマンス基準のなかに成果重視の態度やチャレンジ精神、
積極的な学習態度、環境変化の理解、戦略的思考と行動など公務員集団のリーダーに求め
られる資質を掲げることで、幹部公務員全体のリーダー的資質を高めることである。第3
は、幹部公務員を省庁横断的に一体的に管理することであり、それによって分権的管理が
もたらす管理の断片化を抑制し、政府の一体性(whole of government)の規範や文化的一
貫性を確保することである。しかし、パフォーマンス重視という改革の流れのなかでの幹
部公務員制度の再構築には、矛盾する要素もある。キャリアを重視する公務員制度におい
ては、幹部公務員と一般公務員のあいだに文化的一体性をつくることは比較的容易と思わ
れるが、幹部公務員を任期限定の雇用契約で任用する場合はこうした一体性を確保するこ
とは難しい。職員の人事管理を個人ベースに変えつつ、職員の「集団的管理」を行うこと
は、民間企業でも難しいタスクといえるものである。
(3)日本の公務員管理の改革課題
以上にみてきたように、1980 年代以降の公共部門改革のプロセスのなかで、先進諸国は
公務員の数を削減しただけでなく、公務員の管理手法についても改革を進めている。その
特徴をまとめると、人事管理権限のライン省への移譲、パフォーマンス管理の導入、そし
て幹部公務員制度の集権的再構築ということになろう。公務員の人件費管理についても、
OECD, Performance-related Pay Policies, OECD, Paris, 2005(邦訳『世界の公務員の成果主義給与』
明石書店、2005 年)
18
14
多くの国は中央人事管理機関や財務省による人件費管理から、各省による人材管理(HRM)
に移行してきており、中央人事機関の役割も変化してきている。また、多くの国が公務員
の給与決定に成績主義の導入を進めている。この個人主義的人事管理への移行の背景には、
組織のパフォーマンス向上には、個人に対する報酬という経済的インセンティブを活用す
べきであるという経済学の考え方が強く影響している。公務員の雇用に任期制を導入した
り、契約に置き換える手法は、伝統的な公務員管理の考え方を根本から変えるものである。
だが、パフォーマンス向上のための人材管理という点だけを考えれば、そこに民間と公務
をあえて区別する理由はない。人材管理における客観性の確保は、公務員のモチベーショ
ンの向上や能力開発の基礎であり、組織的に能力構築に取り組む際の基本となるものであ
る。そして公務員のパフォーマンスを適切に管理することは国民への説明責任であり、公
務員制度に対する国民の信頼を確保するうえでも不可欠のものである。その導入はもはや
時代の流れであり、いったんそれを導入した国が再びパフォーマンス管理のない状況に戻
ることはおよそ考えられない。
しかしながら、行政組織のパフォーマンスは、個人に対する経済的インセンティブだけ
で向上するものではない。政府は統治(ガバナンス)の重要なアクターであり、政府の行
動は社会における公平・公正・正義といった基本的な価値と不可分に結びついているから
である。これは公務員の人事管理が経済的合理主義の視点のみでとらえきれないことを意
味している。1990 年代後半以降、OECD 諸国のあいだでは、方法論的個人主義に立った行
政改革の結果、政府組織が断片化してしまい、行政組織間の水平的協力や政府間の垂直的
連携がとれなくなり、政府が社会問題に一体的に対応できなくなってしまったという批判
が強まった。そこで各国は「政府の一体性(a whole of government)」を掲げ、政府の総合
的な応答力を高めるべく、公務員制度の再構築や政策調整システムの整備に取り組むよう
になったのである。幹部公務員の集合的管理はその一つの表れといえるものである。
さて、こうした先進国の公務員管理の新しい動きに比べると、日本はいまだ伝統的な人
事管理の慣行から脱却できておらず、分権的管理やパフォーマンス管理の必要性に対して
も消極的であるようにみえる。1980 年代の第二臨調以来、政府は官僚主導から政治主導へ
の転換を図るため、公務員の削減や公務員の特権性の改革に取り組んできた。そして 1990
年代の行政改革会議における「この国のかたち」の議論を受けて、公務員制度についても
さまざまな改革案が作成された。19その過程では、中央人事機関の役割分担の見直しや新た
な人材の一括管理システム、能力主義の人事管理システムなど公務員制度の根幹に関わる
議論もなされたが、残念ながら新しい公務員制度のあり方について国民的な議論を呼び起
こすまでには至らなかった。他の先進国の取り組みに示されているように、公務員制度の
近代化はもはや時代の趨勢であり、日本においても、公務員の定員や人件費管理の責任を
19 国家公務員制度の改革については、1999 年3月に公務員制度調査会が発表した「公務員制度改革の基本
方向に関する答申」、内閣府に設置された公務員制度改革推進室が 2001 年3月にとりまとめた「国家公務
員制度改革の大枠」及び同年 12 月の「国家公務員制度改革大綱」をもとに関連法案の作成が行われたが、
本稿執筆時点では国会への上程はなされていない。
15
各省に移すべきなのか、幹部公務員は契約による雇用に切り替えるべきなのか、大臣によ
る自由任用の枠を増やすのか、幹部公務員の一括管理を行うのかなど、公務員制度をめぐ
ってはもっと多くの議論が行われてよいはずである。しかしながら現時点での改革論議は、
公務員個人に対する能力主義・実績主義の強化や退職管理といったマイクロ・マネジメン
トの次元にとどまっているようにみえる。
確かに、日本は公務員数という点ではすでに「小さな政府」を達成しており、公務員制
度の抜本的な改革に対する必要性がさほど認識されないという面があるのかもしれない。
しかしその反面で、優秀な人材が民間に流出し、あるいは優れた若者が公務員を志望しな
いという状況もまたかなり明確に現れてきている。そして第二臨調以来、四半世紀にわた
る行政改革の推進にもかかわらず、政府に対する国民の信頼はいっこうに回復していない
のである。もちろん、政府に対する信頼の回復は、公務員制度の改革だけで図られるもの
ではないが、先進諸国における公務員制度近代化への積極的な取り組みは、政府の対応力
の強化に際して公務員制度のリニューアルが不可欠であるという認識が広く共有化されて
いることを示している。20
むろん公務員制度の改革は他国の模倣だけで成しうるものではない。日本の公務員制度
の近代化にあたっては、日本の公務員制度が基盤としてきた価値や社会との関係を抜本的
に変えるのではなく、その基盤のもとに「日本モデル」を構想すべきであろう。日本の公
務員制度が、数では少数であるにもかかわらず、日本社会の安定と発展に寄与してきたと
すれば、その理由は何なのか。その際には、日本における公務員制度と社会との関係をき
ちんと整理することも重要であろう。なぜ、多くの優秀な若者が公務員を志望してきたの
か。そして、多くの公務員が途中で退職することなく定年まで勤め上げてきたのか。他方
で、行政部門の行動範囲がきわめて広いことも日本の特徴である。確かに国家公務員の数
は少ないが、他方で独立行政法人や公益法人といったグレーゾーンはかなり大きい。この
グレーな領域における官民のネットワークの効用も正しく評価されるべきであろう。
しかしながら、公務員の量的削減が限界に達するなかで、国民の政府に対する信頼を取
り戻すためには、公共部門のパフォーマンスを高めるための公務員管理制度の改革はもは
や避けて通れない課題といわねばならない。ここには公務員を増やし、公共サービスの量
的充実を図るという選択肢もありうるが、まずもって為すべきことは国民からの官僚主義
批判に正面から向き合い、21 世紀にふさわしい公務員管理システムへの転換を図ることで
あろう。この点に関し、次の章で取り上げるカナダの公務管理改革は一つのヒントを提供
するものである。カナダは 1990 年代後半から公務員が中心となって公務員制度改革に取り
組んでいる。その際に公務員たちは高いパフォーマンスを達成するための厳しい改革を自
らに課すことで、公務という職務に誇りと自信をもたせようとしている。この「カナダ・
20 この公務員制度に対する認識の変化は、ポスト・ウェーバー型の行政モデルやガバナンス理論の伸張を
もたらしている。小池治「ボーダーレス時代の行政組織:ポスト・ウェーバー官僚制モデルの検証」
『行政
のボーダーレス化と機能的再構築に関する調査研究報告書(平成9年度)』総務庁長官官房企画課、1998
年 12 月、69-84 頁。
16
モデル」といわれる管理手法は、今後の日本の公務員制度改革の構想に際して大きなヒン
トとなるであろう。
そして最終章では、OECD 諸国及びカナダにおける公共部門改革の理念と動向を振り返
りつつ、日本の公務員制度改革の議論に欠落していると思われる部分を中心に若干のイン
プリケーションを提示することとしたい。
17
2.カナダ連邦政府における公務員管理
―リーダーシップの確立と分権的人材管理―
(1)カナダ・モデルの行政改革
カナダ連邦公務員制度は英国の公務員制度に準じており、隣国アメリカのような「政治
的任命職」がきわめて少ないのが大きな特徴である。カナダは第一次世界大戦後にメリッ
ト主義の公務員制度を確立し、同時にアメリカ的な職階制度を導入した。したがって原則
的には、当該職位及び職務の遂行に適した能力を持つ者であれば外部者にも任用の機会は
開かれている。しかしカナダでは現在でも公務員のほとんどキャリア(終身職)公務員で
あり、局長以上の幹部職員もキャリア公務員がほとんどである。各省の事務次官(Deputy
Minister: DM)は首相が任命するが、実際には首相直属の事務次官であり主席公務員の枢
密院事務局長(Clerk of the Privy Council)が作成する推薦リストに基づいて任命が行わ
れる。この政治的に中立で自律性の高いキャリア公務員集団の存在が、カナダ連邦行政の
一つの大きな特徴である。
カナダの行政改革が本格化するのは、1980 年代のマルルーニ政権以降である。マルルー
ニ首相は英国のサッチャー首相の影響を強く受け、新自由主義的な行政改革を強力に推進
したことで知られる。ただし、公務員制度については改革の道筋を示すにとどまり、具体
的な改革は彼の任期中はほとんど進まなかった。カナダの公務員制度改革が動きだすのは、
1994 年からのジャン・クレティエン首相による「プログラムレビュー」以降である。この
時にクレティエン政権は公務員の大幅削減を断行したが、同時に連邦公務員の能力強化を
掲げ、成果主義の観点からの公務員制度の再構築に乗り出した。その柱とされたのが、ラ
インの省にマネジメントの権限を移譲する「分権的管理」と、各機関のネットワークを有
効に機能させるための「水平的連携」の強化である。このライン省への権限委譲や水平的
連携の強化は、1962 年のグラスコ委員会以来、繰り返し提言されてきたものであり、それ
が 1990 年代半ばにようやくアジェンダに上がったことになる。
この新しい公務員管理の仕組みを法制度化したのが、2003 年に立法化された「公務近代
化法(Public Service Modernization Act)」である。カナダでは 1960 年代以降、公務員管
理法制の大きな改正が行われておらず、既存の法制度の枠組みの範囲内で改善が進められ
てきた。しかし、21 世紀において国民に信頼される高い能力を備えた行政部門を構築する
ためには新しい公務員管理法制が必要であるとして、立法化に踏み切ったものである。公
務近代化法は、公務雇用法、公務労働関係法、財務管理法、カナダ経営開発センター法の
4法律を同時に改正したものであり、連邦公務員の人材管理の各省への権限委譲や不服申
し立てに関する制度を整備したほか、財務委員会事務局から公務員管理部門を切り離し、
外局として「カナダ公務人材管理庁(Public Service Human Resources Management
Agency of Canada: PSHRMAC)を新設した。また、カナダ経営開発センター(CCMD)
に代えて「カナダ公務行政大学校(Canadian School of Public Service: CSPS)が設置され、
18
連邦公務員の能力開発や人材管理の環境整備と大学等との連携のいっそう強化が図られた。
表3-1
カナダ行政改革(行政管理・公務員制度)年表
年
主な改革
1918
公務員法制定。人事委員会設置
1962
グラスコ委員会勧告(行政組織)
1967
公務雇用法(PSEA)制定
1979
ランバート委員会勧告(財務管理)
ダビヨン委員会勧告(人事管理)
1984
ニールセン・レビュー
1985
IMAA(大臣の権限と責任の拡大化)
1989
公共サービス 2000
1992
公務雇用法改正
1993
省庁再編
1994-95
プログラムレビュー
1996
La Relève 開始
1998
リーダーシップネットワーク発足
2000
「カナダ人のための成果」公表
2003
MAF(Management Accountability Framework)公表
2003
公務近代化法制定
PSHRMAC(カナダ公務人材管理庁)設置
本章では、このように独自の展開をみせているカナダの公務管理改革に焦点をあて、そ
の内容と特徴を検討する。カナダの公務員制度改革については日本でも一部紹介されてい
るが、そのプロセスの詳細についてはほとんどを知られていない。しかし、「カナダ・モデ
ル」の特徴を理解するためには、改革への取組みの経緯を把握することが不可欠である。
以下では、やや歴史的な叙述が多くなるが、カナダにおける連邦公務員管理制度の改革プ
ロセスを考察することから始め、最後にカナダにおける公務員管理改革の特徴と課題を論
じることにしたい。
(2)マルルーニ政権の PS2000
カナダの公務員制度改革は、他の先進国と比べるとやや遅れて、1990 年代に入ってから
本格化した。その契機となったのは 1980 年代末にマルルーニ首相が提案した「公共サービ
19
ス 2000(Public Service 2000: PS2000)」である。進歩保守党のマルルーニ首相(在任期
間 1984-1993)は、当時の世界的潮流であった新自由主義の影響を強く受け、官僚主義を
強く批判し、民間部門の経営管理手法を公共部門に適用することを企図した。その最初の
イニシアティブが、1984 年の「プログラムレビューのためのタスクフォース」の設置であ
る。タスクフォースの任務は民間経営の視点からの行政活動の見直しであり、タスクフォ
ースの座長には副首相で枢密院議長のエリック・ニールセンが当てられたことから、「ニー
ルセン・タスクフォース」とも呼ばれた。タスクフォースのメンバーの半数は民間から登
用され、連邦政府の約 1000 件の事業を審査し、事務の簡素化、連邦政府と州政府の事業の
重複の見直しや「顧客重視」のサービスへの転換などについて検討を行った。もっとも、
タスクフォースの報告はニールセンの辞任によって陽の目を見なかったが、21その後マルル
ーニ首相は、英国のサッチャリズムをモデルに、次々に行政改革を進めていった。まず、
各省の事務次官の下に政治的任命職である「主席スタッフ(chief-of-staff)」を置き、6年
間に 1 万 5000 人の公務員を削減すると発表した。1985 年には「大臣の権限及びアカウン
タビリティ拡大イニシアティブ(Increased Ministerial Authority and Accountability
Initiative: IMAA)を開始し、支出管理権限の各省への委譲を進めた。1986 年には「民営
化室」を設置し、公共サービスに競争原理を取り入れる強制的競争入札制度を導入した。
1988 年には政府のマネジメント機能を強化するため「カナダ経営開発センター(CCMD)」
を設置し、1989 年には新たな内閣委員会として「支出検討委員会(Expenditure Review
Committee)を設置した。そして英国のエージェンシーに倣い、1989 年 12 月までに5の
「特別業務エージェンシー(Special Operating Agency: SOA)を設置したのである。22
そして 1989 年 12 月 12 日、マルルーニ首相は、民間部門の強い要請を受け、公務員制度
の全面的な近代化を進めるためのタスクフォースの設置を発表した。これが「公共サービ
ス 2000(PS2000)」である。PS2000 の目標は、高い専門能力、弾力的組織、ミッション
志向、脱官僚主義の行政組織の構築に置かれた。PS2000 の責任者には、枢密院事務総長
(Clerk of the Privy Council Office)兼内閣官房長官のポール・テリエ(Paul Tellier)が
任じられ、テリエが PS2000 の活動状況を直接マルルーニ首相に報告することになった。
PS2000 の推進に当たっては、各省事務次官(DM)や幹部職員をメンバーとする 10 のタ
スクフォース(行政管理及び共通役務担当機関、職務分類及び職制構造、給与・給付、管
理分類、資源管理及び予算統制、国民サービス、労使関係、任用、研修・開発、職員の順
21
もっとも、報告書提出の3ヶ月後にニールセンが政治スキャンダルへの対応の不手際の責任をとって辞
職したため、タスクフォースの報告は宙に浮いてしまい、政治のアジェンダにはのぼらなかった。Dennis
Saint-Martin, “The New Managerialism and the Policy Influence of Consultants in Government: An
Historical–Institutionalist Analysis of Britain, Canada and France,” Governance: An International
Journal of Policy and Administration, Vol. 11, No. 3, July 1998 (pp.319–356).
22
SOAは既存の法律の枠内で設置したものであり、その目的はアカウンタビリティの強化に置かれた。
SOA は「枠組み文書」と「ビジネスプラン」を作成し、
「年次報告」を提出する。ただし英国のエージェ
ンシーと異なり、SOA の管理責任者は事務次官である。職員の身分も国家公務員のままであり、SOA は
名称変更にすぎないとの見方もある。小池治「クレティエン政権のプログラムレビューと公務員制度改革」
『横浜国際経済法学』11 巻1号, 2002 年7月、25-45 頁。
20
応性)が設置された。タスクフォースの報告が公表されたのは 1990 年夏であり、それをも
とに経済界や労働団体、各省庁との集中的なコンサルテーションが開始された。そして 1990
年 12 月にコンサルテーションの結果を反映させた白書「公共サービス 2000:カナダ行政
の刷新(Renewal of the Public Service in Canada)」が下院に提出されたのである。
「公共サービス 2000」の提出を受けてカナダ政府は、1992 年に公務雇用法を改正し、枢
密院事務総長を公式に「主席公務員」
(Head of the Public Service)と位置づけるとともに、
公務員に関する年次報告の首相への提出を義務付けた。これは公務員組織に対する枢密院
事務総長の主導力を確立するものであり、その後の公務管理改革の展開に大きな意味をも
つことになった。また公務雇用法の改正では同時に公務労働関係法も改正され、人事管理
権限の事務次官への一部委譲や職務分類の改正が行われた。23これらの措置は現在の連邦公
務管理改革の出発点となったものである。しかしながら、これらを例外としてマルルーニ
の在任中には、PS2000 の勧告はほとんど実施されなかった。24その理由としては、改革案
の検討が幹部公務員を中心に行われたために、多くの一般公務員がそれを「トップダウン」
と受け止め反発したこと、公務員制度改革もサッチャー行革の模倣と批判されたこと、人
事委員会の再編がとり立たされたこと、1991 年にマルルーニ首相が公務員数の削減を発表
したことで、PS2000 は公務員削減と同一視されてしまったことなどが挙げられている。客
観的にみるならば、PS2000 はカナダ公務員のカルチャーを「顧客重視」へと変えようとす
る大きな企てであったともいえる。しかし、マルルーニ保守党政府が当初から反官僚主義
の姿勢を示したことから、公務員は政府に対する不信感(disbelief culture)を解消させる
ことはできなかった。25政府が賃金凍結や人員削減の方針を示すと、公務員はストライキに
打って出た。また、PS2000 の作成に尽力した幹部職員も、政府が幹部職階層の簡素化(事
務次官補、官房長、局長の3階層への再編)と併せて、幹部級(EX)職員の1割削減を発
表したため、士気を低下させてしまった。そして保守党がケベック州の独立をめぐるレフ
ァレンダムで敗北し、総選挙への準備に終われるようになると、PS2000 はアジェンダから
消えていったのである。26
マルルーニ首相が 1993 年に退陣した後、その後継者となったキム・キャンベル首相は中
央省庁の数を 32 から 23 に削減する省庁再編を実施した。しかし、キャンベル政権は総選
この 2 法の改正を総称して「公務改革法(Public Service Reform Act)」と呼ぶこともある。人事管理
権限の委譲は、同じ等級の職員であれば、人事委員会の承認を受けることなく各省の事務次官が配置転換
を行えるとしたものである。また、職務分類の簡素化は、
「普遍的分類基準(UCS)」を設定し、72 の職務
別団体を 30 に統合するもので、その取組みは現在も継続している。Office of the Auditor General of
Canada, Public Service Management Reform, Progress, Setbacks and Challenges, February, 2001.
24 このほかに導入されたものに「オペレーティング予算」がある。これは人件費や管理運営費を事業ごと
にプールするものである。具体的には、毎年の定員管理(PY)を廃止して FTE(常勤雇用換算)を導入し
た。これにより各省は非常勤職員を数多く雇用することも可能となった。また予算の次年度への繰越や項
目間の流用も大幅に認められた。
25 Donald J. Savoie, Thatcher, Reagan, Mulroney: In Search of A New Bureaucracy, University of
Pittsburgh Press, 1994, pp.268-271.
26 Gene Swimmer, Michael Hicks, Terry Milne, “Public Service 2000: Dead or Alive?” Susan D.
Phillips ed. How Ottawa Spends: 1994-95: Making Change. Ottawa: Carlton University Press, 1994,
pp.165-204.
23
21
挙でジャン・クレティエン率いる自由党に大敗し、わずか半年でクレティエン率いる自由
党に政権を譲ることになった。そしてクレティエン首相は、マルルーニのような官僚批判
はせず、カナダの財政赤字を GDP の3%に削減することを目標に掲げ、1994 年春に「プ
ログラムレビュー」の実施を発表したのである。「プログラムレビュー」では、財務大臣の
ゴードン・ブラウンと財務委員会議長のマルセル・マッセの指揮のもとに全政府事業の見
直しと連邦政府の役割の再定義が行われ、その事務局責任者には枢密院事務総長の J.ブル
ゴン(Jocelyne Bourgon)が任じられた。そして 1995 年2月に、290 億ドルの歳出削減と
4万 5,000 人の公務員の削減を内容とする「95 年予算案」が決定されたのである。
「プログ
ラムレビュー」は 95-96 年にも継続され、これによってカナダは 1998 年に財政赤字を脱却
し、黒字を達成した。27
クレティエン政権の「プログラムレビュー」は、内閣の強いリーダーシップのもとに短
期間に政府支出の見直しを行い、連邦行政機能の強化と能率改善を進めたものとして海外
からも高く評価されている。しかしながら、「プログラムレビュー」の結果、多くの優秀な
公務員が政府を去ったことも事実である。政府に残った公務員も、給与の凍結や定員削減
による勤務量の増加から士気の低下がみられるようになった。さらに新規採用を抑制した
ため、公務員の年齢構成にも偏りが生じていった。そしてベビーブーム世代の大量退職が
近づくにつれ、連邦公務員制度の再構築の必要性が政府によって認識されるようになった
のである。
(3)La Relève
「プログラムレビュー」後における公務員管理改革の発端は、1995 年8月 16 日に枢密
院事務総長のブルゴンが首相に提出した「第3次公務員白書」に求めることができる。28同
白書においてブルゴンは、「プログラムレビュー」は公務員の積極的な関与があったからこ
そ成功したが、同時に次のような深刻な影響が現れているとする。その第1は、公務員の
定員削減であり、1995 年予算は今後3年で 4 万5千人を削減するとしているが、退職する
者も残る者も不安定な状況に置かれておりストレスが高まっている。第2は公務員の年齢
構成の高齢化であり、近い将来に大量退職が予想されることから、幹部職員の養成とリー
ダーの資質の再評価が必要になっている。第3は、国民の公務員を見る目がますます厳し
くなるなか、公務員のプライドと尊敬の回復することが重要である。そのためには公務員
の能力向上に取り組み、国民にその証拠を示していかねばならない。そして第4に、公務
員の雇用契約における最近の変化をあげ、優れた人材を確保し、公務員の士気と献身の姿
勢を維持していくうえでも賃金の凍結は逆効果であると述べたのである。そして活気に溢
プログラムレビューについては次の文献を参照。Donald Savoie, Governing from the Centre (Toronto:
University of Toronto Press, 1999);岩崎美紀子、『行政改革と財政再建――カナダはなぜ改革に成功した
のか』(御茶の水書房, 2002 年)
。小池、「クレティエン政権のプログラムレビューと公務員制度改革」。
28 この白書(正式名称は Third Annual Report to The Prime Minister on The Public Service of Canada)
は、1992 年公務雇用法改正により、主席公務員による作成と首相への報告が義務付けられたものである。
27
22
れた行政組織を構築し、現代のニーズに適応し、未来のカナダ人とカナダに奉仕できるよ
うに公務員制度改革に継続的に取り組む必要性を強調した。
このような現状認識と改革への強い主張を、連邦公務員を代表するブルゴンが首相に対
して公式に表明したことは、カナダにおける公務員の自律性と政府の政策形成における影
響力を示唆している。ブルゴンは直ちに各省の事務次官に指示を出し、公務管理改革のた
めの9のタスクフォースを立ち上げ、具体的な行動計画の検討に着手した。29そして1年に
わたるタスクフォースの検討結果を踏まえて、ブルゴンは 1996 年に La Relève(「関与」)
と名づけた管理改革の展開を全連邦公務員に呼びかけたのである。タスクフォースは、水
平的にも垂直的にも統一され、結果に責任をもち、民主主義と倫理価値を尊び、公共の利
益のために活動する政府が求められているとして、行政の近代化の課題として、サービス
供給の近代化、政策能力の強化、公務管理、文化とリーダーシップを最優先課題として設
定した。そのなかで La Relève は公務管理改革の要と位置づけられ、人材計画、キャリア
計画、経験の多様性、幹部職のためのコンピテンシー・プロファイルの開発、知識と経験
の多様性を確保拡大するための EX(幹部級職員)の能力開発計画、ADM(事務次官補)
への任用、EX1-3 プログラムの革新、未来の公務員のコンピテンシーや価値に結びつけた
研修能力開発プログラムの見直し、幹部の報酬及び確保方策を開発するとした。そして、
経験から学習することが最善であるとして、組織文化(corporate culture)の構築における幹
部・上級職員のリーダーシップの重要性を強調したのである。30
そして 1997 年2月3日にブルゴン枢密院事務総長は、クレティエン首相に提出した「第
4次公務員白書」において、カナダ政府内部で「静かな危機(silent crisis)」が進んでいる
と警告し、連邦公務員による La Relève への取組を表明したのである。31この第4次白書で
ブルゴンは、カナダ政府に次のような問題が現れていると指摘した。第1は長期間にわた
る公務員削減の影響である。1980 年代初めから公務員の削減が加速化したが、プログラム
レビューにより、さらに4年間に5万5千人の削減が予定されている。だが、ここまで人
員を削減しては組織が維持できなくなる。第2は、行政批判が公務員のプライドに与える
29設置されたタスクフォースは、
「政策能力の強化」「水平的政策問題の管理」「サービス供給モデル」「共
通サービス」「公務員制度の将来計画」「公務員の価値・倫理」「連邦政府のプレゼンス」「海外における連
邦政府のプレゼンス」「政策プランニング」の9つであり、1996 年 12 月までに全体で 77 項目の勧告が作
成された。その内訳は、サービス供給の近代化が 16 項目、政策能力強化が 29 項目、公共部門の文化に関
するものが 32 項目であり、それらの約半分はすでに実行中か準備段階にあるとされた。また、タスクフォ
ースの調査には 3500 人の公務員や関係者が参加し、最終的には5冊の報告書を提出した。Deputy
Ministers Taskforces, From Study to Action, Privy Council Office, December 19, 1996.
30 この La Relève への取組みは、1996 年 11 月6日のカナダ人材開発会議におけるブルゴン枢密院事務総
長の講演のなかで明らかにされた。ブルゴンは「La Relève:Our Greatest Challenge)」と題した講演の
なかで「これまでの長い時間のなかで初めてトンネルの向こうに明かりがみえました」と述べ、カナダ公
務員制度を革新するための全省庁・全職員の積極的な取組を呼びかけた。
“LA RELÈVE, OUR GREATEST
CHALLENGE, ”Notes for an Address by Jocelyne Bourgon, Clerk of the Privy Council and Secretary
to the Cabinet, HRDC Conference Human Resources Development Canada (Cornwall, Ontario)
November 6, 1996.
31 Fourth Annual Report to The Prime Minister on The Public Service of Canada, Jocelyne Bourgon,
Clerk of the Privy Council and Secretary to the Cabinet, February 3, 1997.
23
影響である。民間のように行政を経営するというのは過度の単純化であり、その結果、優
秀な大卒者が公務員の仕事に熱意をもたなくなってきている。それがまた公務員の士気に
影響を与えている。第3に、公務員から優秀な人材が減ってきてある。高齢化の進展によ
り優秀な職員の大量退職が迫っているだけでなく、将来の幹部候補者も将来の見通しに不
安を感じて早期に退職する傾向がある。第4に、報酬問題を抜きにして公共部門の士気や
モチベーションを論ずるのは無理である。実際にも民間部門が優秀な公務員をどんどん引
き抜いている。そして第5として、公務員の内部管理にも問題が起きている。過去 10 年間
新規採用を抑制した弊害に加えて、省庁間の人事交流が少ないため人材の活用ができず、
定員削減により昇任の機会も減少している。
こうした現状認識のもとに、ブルゴンは La Relève を立ち上げ、公務員自身が公務員管
理システム改革に取り組むべきであると主張したのである。ブルゴンの言葉によれば、La
Relève は、職員の能力を最大限に引き出し、近代的かつ活力に満ちた組織を構築するため
の「挑戦」である。その目的は、すべての一人ひとりの公務員の「関与」を通じて、近代
的で活力に満ちた組織を作ることであり、同時にそれは未来の公務員に対する「義務」で
ある。そのためには全省庁の公務員が努力を傾注することが必要であるが、とくに幹部職
員の役割が重要である。これまでも連邦政府は幹部職員の能力開発を進めてきたが、それ
を加速化させる必要がある。そして事務次官補(ADM)候補者の事前資格制度の整備、ADM
を職層(レベル)として任用すること、報酬や雇用の継続、専門職集団のサポート、外部
登用の推進などを政府のイニシアティブで進めると宣言したのである。
La Relève については、カナダの行政研究者の間でもあまり注目されておらず、一般的に
は次に述べる「リーダーシップ・ネットワーク(The Leadership Network)」の前身とし
て捉える見方が多い。確かに La Relève は結果的に「リーダーシップ・ネットワーク」に
継承されていくわけであるが、その真の目的は、幹部公務員制度の改革も含めて、各省公
務員の全員参加により内発的に公務員管理改革を進めることに置かれていた。ところが、
そのプロセスでは幹部公務員の一体的な管理と能力開発が政府の近代化に不可欠と考えら
れたために、幹部公務員の管理改革に焦点が当てられ、結果として「リーダーシップ・ネ
ットワーク」と同義語にされてしまったようである。
ともあれ、1990 年代後半からの公務管理改革におけるブルゴン枢密院事務総長のリーダ
ーシップは際立っている。この点については本章の最後に改めて整理することとするが、
マルルーニ時代の PS2000 によって枢密院事務総長の地位の強化が図られ、その事務総長
のリーダーシップによって公務管理改革のタスクフォースが設置され、そして La Relève
を軸に公務員主導の管理改革が展開されたというプロセスは、カナダの行政改革や公務員
制度改革の特徴を理解するうえで重要な論点となるものである。
(4)リーダーシップ・ネットワーク
1998 年6月、ジャン・クレティエン首相は、La Relève によって開始された公務員管理
24
改革のイニシアティブを前進させるため、新しい政府組織として「リーダーシップ・ネッ
トワーク」を創設すると発表した。32「リーダーシップ・ネットワーク」は、各省の幹部職
(EX4 及び EX5)である事務次官補(Assistant Deputy Minister:ADM)の集合的管理
をサポートし、La Relève タスクフォースの活動を引き継ぐ独立の部局として、財務管理法
及び公務雇用法を改正して設置されたものである。3334その目的は、各省の指導的職員と一
般職員との対話及び情報フローの増進、重要な集合的資源である ADM の有効な管理の確保、
そして La Relève の主旨である行政刷新(public service renewal)を継続的に実施し、カ
ナダ行政内部の諸団体を支援することとされた。部局としてのリーダーシップ・ネットワ
ークには、局長の下に ADM コーポレイト事務局、リーダーシップ・ネットワーク開発部、
コーポレイトプロジェクト調整支援部、総務部が置かれ、初代局長には La Relève タスク
フォースを率いていたピーター・ハリソン氏が任命された。
「リーダーシップ・ネットワーク」の組織時(発足時のもの)
各部門の任務については、ADM コーポレイト事務局が ADM の集合マネジメントに関する
事務、ADM コミュニティへの参加、アサインメント、キャリア開発戦略、学習機会、ADM
の La Relève への貢献等を担当する。また、リーダーシップ・ネットワーク開発部では、
ネットワークの支援、他部門との連携推進を図る。そしてコーポレイトプロジェクト調整
32 TLN は、1998 年7月の財務管理法により、行政の一部門として認定された。また公務員雇用法の諸目
的のための部門としても認定された。
33 この声明のなかで首相は、La Relève タスクフォースに対して同時に謝辞を述べた。
34 このタスクフォースは、カナダ公務職員管理協会(Canadian Public Personnel Management
Association)から、この 10 年間に公務員制度の革新に最も貢献したとして 1997・98 年のゴールドスター
機関賞の表彰を受けている。Privy Council Office,“Prime Minister Announces Creation of the
Leadership Network,”June 4, 1998(Ottawa, Ontario)。
25
支援部では、政府各部門における La Relève 推進を支援するとされた。35
「リーダーシップ・ネットワーク」の最も大きな任務は、各省の ADM を集合的に管理し、
将来の幹部職員にふさわしいマネジメント能力を組織横断的に開発することである。ADM
は各省に所属するが、同時に「リーダーシップ・ネットワーク」のなかで一つの組織体と
した管理される。その意図は、省の縦割りを排除し、政府のシームレスな運営に貢献でき
る幹部職を育てることにある。そのための方策として、「リーダーシップ・ネットワーク」
は、リーダーシップ開発のためのツールの開発するほか、カナダ国内の大学や研究機関と
連携して幹部公務員のためのワークショップや会議を開催し、幹部候補者のマネジメント
能力の開発を進めるとされた。また、将来の幹部職候補者を集合的に選別するための教育
訓練プログラム(「リーダーシップ開発プログラム」)の開発も「リーダーシップ・ネット
ワーク」の重要な任務とされた。これにより将来の幹部を目指す職員に対し、ADM のコミ
ュニティが責任をもって能力開発と選別にあたる仕組みが組織的につくられた。36
その後、「リーダーシップ・ネットワーク」の活動は、政府におけるリーダーシップ・ネ
ットワークの創設とサポートに焦点を当てるように純化され、2001 年4月の枢密院令
(Order in Council)2001-0609 号により、財務委員会事務局に統合された。37また、次に
考察する 2003 年公務員制度近代化法により、「リーダーシップ・ネットワーク」は新設の
「カナダ公務人材開発庁(Public Service Human Resources Management Agency of
Canada:PSHRMAC)に移管されたが、連邦政府における幹部職員の集合的管理と能力開
発のためのコア機関としての役割は変わっていない。
(5)公務近代化法の制定と実施
以上に見てきたように、
「プログラムレビュー」以降、カナダ政府は、政府部門の近代化
を掲げ、幹部公務員の集合的管理の強化や各省における弾力的な人事管理を進めてきた。
そして、カナダ国民に対する政府のアカウンタビリティを強化するため、2000 年には政府
の基本政策である「カナダ人のための成果(Result for Canadians)」を発表し、成果重視
のマネジメントの強化を、政府のプライオリティとして設定したところである。38
しかしながら、政府全体にわたって分権的管理の推進を図るうえでは、既存の公務員管
理法制の枠組には明らかに限界があった。なかでも各省事務次官への管理権限のさらなる
委譲とそれに付随して生じる諸問題に対応するためには、既存の公務員関連法律の改正は
35
The Leadership Network Departmental Performance Report, 1999.
リーダーシップ開発プログラムは、次のプログラムから構成されている。マネジメント研修事業
(Management Trainee Program:MTP);経歴アサイメント事業(Career Assignment Program (CAP);エ
クゼクティブ開発加速化事業(Accelerated Executive Development Program:AEXDP)、及び上級リーダ
ーシップ事業(Advanced Leadership Program:ALP)。CAP については、小池治「地方分権と人材育成」
『地
方公務員月報』487 号(2004 年2月号)で紹介しているので参照されたい。
36
37
The Leadership Network, 2001-2002 Estimates: A Report on Plans and Priorities.
カナダ政府は 2003 年に基本文書「管理アカウンタビリティ枠組(Management Accountability
Framework:MAF))を公表し、各省の取組みを促している。
38
26
避けられない。こうして新しい公務員制度に適した法制度の確立が政府の急務の課題とな
ったのである。
その方針が明らかにされたのは、2001 年3月 30 日に議会に提出された第8次公務員白
書においてである。同白書のなかで、ブルゴンの後任となった枢密院事務総長のメル・キ
ャップ(Mel Cappe)は、従来の漸進主義的アプローチから、人材管理に関する法律枠組の
より根本的な改革へと転換する必要性を強調した。 39 これを受けてクレティエン首相は
2001 年4月3日に「行政における人材管理近代化タスクフォース(the Task Force on
Modernising Human Resources Management in the Public Service)」の設置を発表し、
人材管理改革担当大臣に財務委員会議長のL.ロビヤード(Lucienne Robillard)を当てる
とともに、公共事業政府サービス省事務次官のクエール(Ronald Quail)を枢密院事務局顧問
及びタスクフォース主査とする人事を発表したのである。
人材管理近代化タスクフォースでは、公務雇用法、公務労働関係法、財務管理法の関連
条文について、次の3原則のもとに見直しを行った。それは、(1)人間志向・非党派的・能
力重視の代表的公務員制度の維持をつうじてメリット主義を保護すること、(2)人材管理の
責任は最大限に各組織の管理者に割り当てられるべきであること、(3)公務員の人材管理に
ついて責任を共有する者はすべて説明責任を果たすべきであること、の 3 点である。
タスクフォースは、さまざまな外部機関との協議を経て関連法令の改正案を作成し、2003
年2月6日にロビヤード財務委員会議長が改正法案を議会に提出した。前述の3法律に「カ
ナダ経営開発センター設置法改正案」を加えた改正法案は「公務近代化法(Public Service
Modernization Act: PSMA)」と総称され、2003 年 6 月に下院で可決後、上院に送られ、
同年 11 月7日に裁可を受け成立した。PSMA は順次施行され、2005 年 12 月 31 日をもっ
て完全施行となった。
PSMA の内容は、以下のとおりである。
1)カナダ経営開発センター(CCMD)設置法改正(2005 年3月1日施行)
CCMD と Training and Development Canada、Language Training Canada を統合し、
「カナダ公務大学校(Canadian School of Public Service: CSPS)」を新設。CPSP を
あらゆるレベルの公務員の研修訓練機関として位置づけた。
2)財務管理法改正(2005 年4月1日施行)
財務委員会の方針及び指示の範囲内において、人材管理の一部(学習開発要件の決定、
表彰、懲戒に関する基準の設定)を各省事務次官に委譲。同法に定める人材管理の適用
に関する年次報告書を財務委員会経由で議会に提出することを義務づけた。
3)公務労働関係法改正(2005 年4月1日)
より協働的な労使管理関係に向けた活動、重要サービスの協定化、各省への公務労働関
係委員会の新設と給与調査等の実施、より包括的な不服申立制度の創設、ストライキに
39
Eighth Annual Report to The Prime Minister on The Public Service of Canada, Mel Cappe, Clerk of
the Privy Council and Secretary to the Cabinet, March 30, 2001.
27
先立つ秘密投票の義務化等。この改正法により、各省の事務次官には紛争管理制度の導
入と労働管理協議委員会(a Labour-Management Consultation Committee)の設置が
義務付けられた。また、事務次官には財務委員会の指示の範囲内で職員の降格、懲戒、
解職に関する権限が付与され、管理者には業績基準および測定プロセスの開発、代替的
紛争解決制度の利用、重要サービス協定交渉への関与の機会が与えられた。
4)公務雇用法改正(2005 年 12 月 31 日施行)
任用制度における責任の明確化と非効率の排除を進めつつ、メリット主義、非党派性、
卓越性、代表性及び誠実性と公用語選択により国民に奉仕する能力を維持する。価値を
基盤としたアプローチにより能力の高い有資格者を迅速に任用する。既存の控訴委員会
を新設の公務任用審判所(Public Service Staffing Tribunal)に置き換えるなどにより、
任用に関する苦情処理のメカニズムを創設する。以上により任用の権限を事務次官に委
譲するとともに、人事委員会(Public Service Commission)はメリット主義の保護と
制度の誠実性に焦点を絞ることとする。これにより任用プロセスの迅速化、いっそうの
公正性と透明性を図る。また、各省はそれぞれの総合的人材計画を開発し、新しいメリ
ット主義の効果を最大化するよう努めるとされた。
公務近代化法(Public Service Modernization Act: PSMA)の構成
公務近代化法
Public Service
Modernization Act
公務雇用法
公務労働関係法
財務管理法
Public Service
Public Service
Financial
Employment
Act
(December 2005)
Labour Relations Act
Administration
(March 2005)
カナダ管理開発センタ
ー法
Act
(March 2005)
Canadian
Centre
for Management
Development
任用
労使関係
懲戒
28
Act
学習・能力開発
そしてカナダ政府は、公務近代化法の実施を担当する機関として「カナダ公務人材開発
庁(Public Service Human Resources Management Agency of Canada:PSHRMAC)を
2003 年 12 月 12 日に設置した。PSHRMAC は財務委員会事務局の外庁と位置づけられて
いるが、カナダにおいて公務員の人材管理を専門に担当する機関が設置されたのはこれが
最初である。40
PSHRMAC のビジネスラインは、組織図に示したように、(1)人材計画及びアカウンタビ
リティ、(2)人材管理の近代化、(3)公務価値倫理局、(4)公用語、(5)雇用均等及び多様性、(6)
リーダーシップ・ネットワークの6である。
PSHRMAC の組織図(2005 年4月1日現在)
長官
(President)
人材計画・アカ
人材管理
リーダーシッ
公務価値
ウンタビリテ
近代化
プ・ネットワー
倫理局
ィ・多様性
公用語
ク
PSHRMAC の任務は、公務近代化法の実施、職務分類システムの改革、効果的かつ統合
化された人材管理計画及びアカウンタビリティシステムの構築とされている。このうち職
務分類システムの近代化は、2005 年 12 月に資格基準に関する権限が人事委員会から
PSHRMAC に移管されたことから新しい任務として加えられたものである。PSHRMAC で
は、成果主義による職員の業績評価マネジメントアプローチを開発するとともに、職務分
類の簡素化に取り組むとしている。具体的には、分類基準の近代化を図り、各省における
職務分類の管理を事務次官が弾力的に行うことができるように権限を委譲するとともに、
新分類のウェッブでの公開などにより、透明性の向上を図るとしている。また、公務員の
価値・倫理の促進と強化も PSHRMAC の新しい任務とされた。PSHRMAC では、新設の
公務価値倫理局を通じて新しい「公務員のための価値倫理コード」を全職員に配布すると
なお、2005 年 10 月に政府は法案 C-8 を議会に提出し、PSHRMAC 設置の根拠である枢密院令(Order
in Council)を立法措置に変えるという方針を示している。
40
29
ともに、省横断的に上級公務員で構成する「公務価値倫理諮問協議会」を設置し、「公務公
開保護法(Public Service Disclosure Protect Act)」の作成にあたるとしている。
この PSHRMAC の設置に伴い、権限が縮小されたのが、これまで独立機関として各省の
人事管理をチェックしてきたカナダ人事委員会(Public Service Commission: PSC)であ
る。カナダ人事委員会は、メリット主義の番人としてすべての公務員の任用プロセスに関
与し、各省の人事管理の支援を行ってきた。しかし、公務近代化法により公務員の任用に
関する権限が、幹部公務員の任用も含めて、原則として各省の事務次官に委譲されたため、
カナダ人事委員会の主な役割はメリット・政治的中立性・代表性の観点から各省の人材管
理を事後的にチェックし、その結果を議会に報告することとされた。41
以上にみてきたように、2003年に制定された公務近代化法は、公務員の人材管理を原則
として各省に委譲し、各省の主体的なマネジメントを通じて人材の開発と効率的な人事管
理を進める目的から、連邦公務員関連法規の大改正を行ったものである。ただし、そこで
はカナダの伝統であるメリット主義を維持するため、各省の事務次官や幹部職員には厳格
なアカウンタビリティを課すことも忘れていない。また、分権的管理のもとでの職員の権
利を保護するため、各省に苦情処理の仕組みをつくり、迅速かつ公正で透明な紛争処理を
行うとしている。さらに「リーダーシップ・ネットワーク」を活用し、ADM の能力開発と
集合管理を支援するとともに、政府全体としてのサービス提供と人材管理の統一性・一貫
性を強化しようとしている。
ただし、各省への人材管理権限の委譲は、同時に管理者による恣意的な人材管理のリス
クを高めることになる。これについては財務委員会事務局が懲戒等の基準を定め、さらに
独立機関であるカナダ人事委員会が任用方針とアカウンタビリティの観点から各省におけ
る任用をチェックするという仕組みを講じている。これは、各省の事務次官、PSHRMAC、
財務委員会事務局、及びカナダ人事委員会の間に“チェック・アンド・バランス”の仕組
みをつくるものである。この仕掛けを通じて連邦行政における人材管理の断片化とメリッ
トからの逸脱というリスクを防止するというのが、公務近代化法の制度設計である。また、
公務近代化法は職員の能力開発についても踏み込み、カナダ公務大学校をネットワークの
ハブと位置づけ、さまざまな教育研究機関との連携のもとに、幹部職員だけでなく個々の
職員のキャリア開発のニーズにきめ細かく応えるための学習機会の提供にも配慮している。
もっとも、現時点では公務近代化法は完全施行から日が浅く、PSHRMAC が財務委員会
を通じて議会に提出した活動報告やカナダ人事委員会が議会に提出した年次報告をみても、
新しい制度の成果についてはまだほとんど実質的な評価は行われていない。しかし同時に、
新制度への移行に伴いう混乱や PSHMARC に対する批判も、筆者が調べた範囲では、いま
のところは見当たらない。今回の公務近代化改革はカナダの公務員制度にとって大きな転
41 カナダ人事委員会による事後的チェックは、調査(investigation)と監査(audit)が中心である。調査
は、外部任用の場合や政治性が関係する場合に実施される。このほか、広くカナダ国民に対して連邦公務
員の募集を行うことも人事委員会の重要業務である。
30
換点となるものであり、当面は公務近代化法の実施状況を注意深く見守る必要があると思
われる。
(6)カナダ・モデルの意味
最後に、本章のまとめとして、公務員管理における「カナダ・モデル」の意味について
考えてみたい。
これまでの考察から明らかなように、カナダの公務員制度改革はその時々の首相のリー
ダーシップが大きな契機となっているものの、そのシナリオや具体的なプログラムはキャ
リア公務員の手で作成され、漸進的ではあるが、自律的に進められていることがわかる。
カナダの公務員制度改革に最も大きな影響を与えたのは、マルルーニ政権の行政改革であ
る。それは英国のサッチャー首相の「ネクストステップ」の強い影響のもとに構想された
が、改革の具体案においては SOA(特別業務庁)の設置に象徴されるように、公共選択的
な手法の導入は自制され、能率追及と民主的統制のバランスが崩れることはなかった。
PS2000 についても具体的な内容は幹部公務員によって作成され、内容的にはプラグマティ
ックなものであったが、当時の保守党政府に対する公務員の不信感から実行には至らなか
った。このこともまた、カナダ連邦行政における行政の政治に対する相対的な自律性を示
しているといえよう。
もっとも、カナダの行政改革の歴史を改めて振り返ると、マルルーニ首相の PS2000 以
前においては、公務員制度の構築及び改革はむしろ政治主導で進められてきた。カナダ連
邦公務員制度の基本枠組みを構築した 1918 年公務員法は、情実任用の仕組みをメリット主
義に置き換え、人事管理に責任をもつ集権的な人事委員会を設置したが、これは政治の指
導力によるものである。また戦後における行政機能の拡大と複雑化が問題となった 1960 年
代初めに政府はグラスコ委員会42を設置し、民間経営の新しい手法であるマネジメントの分
権化(“letting the managers manage”)を行政に適用しようとしたが、これも政治主導に
よる外からの改革であったといえる。43グラスコ委員会の勧告に基づき、政府は各省への管
理権限の委譲を進める代わりに、議会に対する中央管理機関のアカウンタビリティを強化
するため、1965 年に財務委員会事務局(TBS)を大蔵省から独立させ、政府全体のマネジ
メントの責任機関とした。また、1979 年に政府はランバート委員会44を設置し、政府に「経
営委員会」を設置することや合理的な予算財務統制技法の導入を勧告したが、これも外部
グラスコ(Glassco)委員会(正式名称は「政府組織に関する王立委員会(Royal Commission on
Government Organization)」は 1960 年に設置され、1962 年に 20 巻から成る報告書を提出した。その
300 項目のわたる勧告には、財務委員会事務局(TBS)の設置のほかに、PPBS の導入などが含まれてい
た。
43 1960 年代には英国ではフルトン委員会を設置して行政管理の近代化(科学的管理)が検討された。日本
でも臨時行政調査会が設置され、能率向上のための方策が検討された。1960 年代は戦後に急速に成長した
行政部門の統制が先進国の共通課題になった時代であったといえよう。なお日本の臨調のモデルはアメリ
カのフーバー委員会である。
44 ランバート委員会(Lambert Commission)の正式名称は、
「財務管理とアカウンタビリティに関する王
立委員会」である。
42
31
の委員が作成した改革案であった。1983 年に首相に就いたマルルーニも、当初は同様の手
法をとった。前述の「ニールセン・タスクフォース」がそうである。ニールセンは民間の
コンサルタントを登用し、連邦行政への民間経営手法の導入を図ったが、この報告は政治
のアジェンダには上らなかった。
このように過去の政治指導者はいずれも外部の者を利用して改革を進めようとしたが、
それは逆に言えば、それだけカナダにおける公務員組織の自律性の強さを示すものでもあ
る。1918 年の公務員法制定以来、政府は公務員に対する民主的統制を強化し続けてきた。
その制度枠組みのなかでキャリア公務員は行政機能の拡大とともに数を増やし、組織を拡
大していった。次第に政府は公務員組織に政策形成と実施を依存するようになり、その能
率的な管理は難しくなっていった。1980 年代初めに新保守主義者のマルルーニが首相に就
いた理由も、彼の官僚批判(オタワ批判)が国民の圧倒的支持を得たからである。45
ただし、PS2000 については、マルルーニ首相はその具体的なプログラムの作成と実行を
幹部公務員に委ねた。幹部公務員のあいだでも連邦公務員制度をオーバーホールする必要
性は広く認識され、改革への強い志向性が共有されていた。46そして連邦公務員のトップで
ある枢密院事務総長の指揮のもとに各省の事務次官や幹部職員が総動員され、PS2000 の中
身が作成されていったのである。その意味で PS2000 は、カナダの公務員制度改革の歴史
上初めての公務員自身による改革であったということもできる。PS2000 自体は、公務員の
政府に対する不信などから全面的に展開されずに終わったが、1992 年には公務雇用法及び
公務労働関係法が改正され、枢密院事務総長が主席公務員として位置づけられた。また、
このときには人事管理権限の各省への委譲や職務分類の見直しも行われており、PS2000 が
その後の公務管理改革の先駆けとなったことは間違いない。
そして 90 年代半ばの「プログラムレビュー」の嵐が過ぎ去ろうとしたとき、枢密院事務
総長のブルゴンは「暗いトンネルの向こうに明かりがみえた」と述べ、全公務員に La Relève
と名づけた改革運動への参加を呼びかけたのである。La Relève は、長期間にわたる定員削
減と給与凍結によって士気が低下してしまった連邦公務員に「誇りと尊敬」を取り戻すた
めの公務員自身による改革運動であり、ここから「リーダーシップ・ネットワーク」が創
設されたことは前述のとおりである。そして 2003 年には「公務近代化法」によって公務員
管理に関する関係法令の改正が行われ、いっそうの分権的管理の推進とアカウンタビリテ
ィの強化が進められている。
以上に考察したカナダにおける公務管理改革のプロセスは、1980 年代から同じように行
政部門の改革に取り組んだ他の先進国との違いを浮き上がらせるものである。カナダに大
45
マルルーニ首相はアメリカのレーガン大統領や英国のサッチャー首相ほど政治的イデオロギーを明確に
主張したわけではなく、むしろ経営を重視する実務家タイプであったという評価もある。Savoie, Thatcher,
Reagan, Mulroney.
46英国など他のコモンウェルスの国々が大胆な行政改革を断行したことから、カナダだけが取り残される
という不安感も高まっていたようである。Gene Swimmer, Michael Hicks, Terry Milne, “Public Service
2000: Dead or Alive?” Susan D. Phillips ed. How Ottawa Spends: 1994-95: Making Change. Carlton
University Press, Ottawa, 1994, pp.165-204.
32
きな影響を与えた英国、オーストラリア、ニュージーランドといったコモンウェルス諸国
では、政権与党の指導者たちが強い政治的リーダーシップのもとに公務員の削減や規制緩
和を進めていった。それに対してカナダでは、確かに首相の政治的リーダーシップは改革
のトリガーになったものの、改革の推進は公務員たちに委ねられた。クレティエン首相も
連邦公務員の高い能力構築こそがカナダの統合的発展の礎になると述べ、それが連邦公務
員の自発的取組みを促す一助となったことは前述の通りである。
その結果、公務員制度を含む行政改革の内容においても、カナダは他の国とは一線を画
すことになった。カナダにおける公務員制度改革のコアにある思想は、プラグマティズム
に基づく分権的管理の推進とアカウンタビリティの強化である。カナダの公務員は NPM が
主張する政策と実施の分離や人事管理への競争原理の導入に対しては慎重であり、カナダ
統合における政府の役割を最重視しながら、時と場合に応じて経営主義(managerialism)
を取り入れるというプラグマティックな姿勢を取り続けている。
こうしたカナダの行政改革に対する姿勢について、枢密院事務総長のブルゴンは、それ
を「カナダ・モデル」と呼び、それへのこだわりを強調している。47ブルゴンによれば、行
政改革における「カナダ・モデル」の特徴は次のようなものである。
(1)政府及び政府機関は良好な社会にとって不可欠である:
「政府は小さければ小さい
ほど良い」という考えは拒否するが、アフォーダブルな政府の重要性を認める。
カナダは、市場経済とともに機能する民主主義こそが国家の繁栄と市民福祉の鍵
であるという理念を支持する。
(2)公共部門改革は、政府が将来果たすべき役割を検証することから始めねばならな
い。
(3)機能性の高い公共部門には強い政策能力と近代的なサービス供給機能が必要であ
る。「画一化(one size fits all)」は拒絶する。政策機能とサービス供給機能の分
離を普遍原則として受け入れない。市民サービスの質を高められる場合には分離
を取り入れるというプラグマティックな手法に従う。
(4)機能性が高く、専門的で、非政党的な公務員制度の重要性を認識する。公務員は政
策形成やサービス提供において鍵となる役割を果たす。近代的で活力に満ちた専
門的・非政治的公務員制度を構築するには、政策開発やサービス供給と同様に、
人材管理に最大限の時間とエネルギーをかける必要がある。優秀な人材を公務員
として抱えていくためには深遠な変革が必要である。
(5)公選職や任命職のリーダーシップを認める。政府の役割を再編成するには政治の
リーダーシップが不可欠である。
47
ブルゴンの「カナダ・モデル」は、1998 年3月 31 日に首相に提出した「第5次公務員白書」のなかで
示されたものである。Fifth Annual Report to The Prime Minister on The Public Service of Canada,
Jocelyne Bourgon, Clerk of the Privy Council and Secretary to the Cabinet, March 31, 1998.
33
そしてブルゴンは、今後のカナダ公務員制度の課題として、ボーダーレスな制度を構築
し、各組織の協力連携を密にすること、
「学習する組織(learning organization)」になるこ
と、そしてリーダーシップの有効性を高めることを提言する。
このブルゴンの「カナダ・モデル」は、彼女自身が述べているように、カナダに特にオ
リジナルなものがあるわけではない。とはいえ、政府公共部門の改革において、このよう
な理念のもとに公務員が一丸となって取り組んでいる国はほとんどなく、それが「カナダ・
モデル」のユニークさを引き立てる最大の要因となっているといえよう。公務員の能力構
築を最優先に図り、政府のパフォーマンスを高めることでカナダ国民の政府に対する信頼
を回復させる。それによってより多くの優秀な人材が公共部門にキャリアを求めるように
なれば、それがカナダ社会の発展につながるというシナリオは、NPM 的な改革思想が蔓延
している現状においては理想論にみえるかもしれない。だが、政府の重要な役割が、未来
におけるさまざまな社会的不安やリスクの除去にあり、市場ではそれが解決できないなら
ば、公務員の能力構築は豊かな未来に向けての重要な投資となる。カナダではそうした考
えを首相自らが国民に説いている。こうした社会と政府の相互依存関係の強さもまた「カ
ナダ・モデル」の重要な要素といえる。
もっとも、「カナダ・モデル」の公務管理改革にも課題はある。その第1は、エリート主
義の傾向である。公務管理改革の経緯に示されているように、政府の近代化を主導してい
るのは枢密院事務総長をトップとする幹部公務員たちである。1998 年に設置された「リー
ダーシップ・ネットワーク」も、幹部職員の能力構築と優秀な人材の選抜を支援するため
の組織的な取組みに他ならない。元来、カナダ連邦政府においては事務次官(DM)の権力が
強く、それが官僚主導の伝統を築いてきた。事務次官は首相により任命されるが、その候
補者リストは枢密院事務総長および各省の事務次官で構成する「上級公務員委員会
(Committee of Senior Officials: COSO)」が作成する。48事務次官のキャリアパスは、ま
ず各省の管理職を経験したのちに枢密院事務局の幹部職を経験するのが通例である。伝統
的に事務次官になる者はジェネラリストであり、政治学あるいは社会科学の修士号をもつ
ものが多い。ただし、近年はスペシャリストにも事務次官の機会は増えている。49その下に
ランクするのが事務次官補(ADM:EX3~EX4)であり、
「リーダーシップ・ネットワー
ク」によって集合管理が行われる。これらの事務次官と ADM はコミュニティを形成してお
り、しばしばエリート集団と批判されている。現在進められている公務管理改革は、実質
的に事務次官や ADM の管理権限を強化するものである。そこでは管理職以下の職員は能力
を認めてもらう機会が増えると同時に、恣意的な人事管理が行われるリスクも増えること
になる。50
48 Peter Aucoin and Mark D. Javis, Modernizing Government Accountability: A Framework of Reform,
Ottawa: Canadian School of Public Service, 2005, pp.85-86.
49 Jacque Bourgault, “The Deputy Minister’s Role in the Government of Canada: His Responsibility
and His Accountability,” Restoring Accountability: Research Studies Volume 1: Parliament, Ministers
and Deputy Ministers, Her Majesty the Queen in Right of Canada, 2005, pp. 253-296.
50 ADM ら幹部職員の任用については、次の文献で詳しく紹介しているので参照されたい。小池治「カナ
34
第2は、成果主義による人材管理とメリット主義との調和である。カナダの公務管理改
革は、各省による主体的な人材管理をつうじて職員の能力開発と適材適所の配置による組
織のパフォーマンスの最大化を図るとしているが、職員の能力や業績を評価することは決
して易しいことではない。政府は、カナダ人事委員会(PSC)によるメリット審査では公
務員の任用に時間がかかりすぎるとして、任用に関する権限を各省の事務次官に委譲し、
PSC は各省における任用がメリット主義に基づいて厳格に行われているかを事後的にチェ
ックすることとした。51そして任用に関する不服申し立ての窓口も各省に置くとしたのであ
る。この事前審査から事後チェックへの転換は、他の国でも共通に進められている新しい
人事管理手法といえるが、不確定な要素が大きいことも事実である。従来の PSC による中
立かつ専門的な見地からのメリット主義の確保(任用についての一件ごとの厳密な審査)
は、確かに時間はかかるが、民主的手続きの確保や公平性の確保、さらには政府部門にお
ける長期的観点からの人材確保においても重要な役割を果たしてきた。確かに任用を各省
に委ねれば、迅速な任用が可能になる。しかし、その短期的なベネフィットとメリット主
義の確保による長期的なベネフィット、あるいは任用にかかる不服の増加等によるコスト
とのバランスについては容易に判断できるものではなく、今後の重要な課題として認識す
る必要がある。2004-2005 年度の PSC の年次報告書によれば、各省では任期を定めない職
員の雇用が減少し、非常勤や臨時雇用が増加している。また、常勤を新規に採用する場合
も、非常勤職員からの採用が多いという数字が出ている。52それらが長期的にみてカナダの
行政部門の強化に資するものとなるのかどうか。各省の人材管理のあり方が今度は厳しく
問われることになる。
第3は、水平的連携の難しさである。53分権的管理は政府の対応を分散させ、非効率にす
るリスクをもつ。そのためカナダでは「リーダーシップ・ネットワーク」による省庁間の
人的移動の流動性を高め、目的や手段の共有化を進めるとしている。また、業績の向上と
アカウンタビリティの強化という観点から、事業実施における省庁間の連携を進めるとし
ている。しかし、省庁間の連携は行政にとっては永遠の課題ともいえるものであり、その
実現には多くの課題が山積している。公務管理改革において省庁間の水平的連携と深く関
わっているのは、70 にも上る職務分類の簡素化であろう。冒頭でも述べたように、カナダ
はアメリカ型の職階制を採用しており、細かな職種ごとに職務団体が形成されている。し
かし、水平的連携を進めるためには、職務よりも職位への任用をベースとしたブロードバ
ンド型に移行し、複合的な課題に対応できる弾力性を確保する必要がある。
ダ」総務省行政管理局『諸外国における公務員数の管理に関する調査研究報告書』平成 16 年4月、331~
333 頁。
51 カナダ公務員制度の研究者であり、人事委員会の委員を務める D. ザズマン(David Zussman)は、公
務員一人の任用に平均で6ヶ月かかっていると指摘している。David Zussman, “Public Service Renewal
in Canada,” Cross Boarder Perspectives Management Reform, February 18, 2003.
52 Public Service Commission of Canada, 2004-2005 Annual Report.
53 カナダ政府の水平的連携に対する取組みについては、別稿で論じたので参照されたい。小池治「政府の
近代化と省庁連携-英国・カナダ・日本の比較分析」『会計検査研究』第 31 号(2005 年3月)27-408 頁。
35
以上の課題はカナダに固有のものではなく、先進国の行政部門にとって共通の課題でも
ある。そのなかでカナダの公務管理改革への取組みは、ある意味でエリート主義であり、
漸進的ではあるが、公共部門の役割についての確固たる認識の上に着実に改革努力を積み
重ねているという点で注目されるものである。
「カナダ・モデル」はさほどビジブルなもの
ではないが、54公務員が一体となって公務管理改革に積極的に取り組んでいるという点で、
貴重な社会実験とみることができるであろう。
54 James Iain Gow, A Canadian Model of Public Administration? Canada School of Public Service,
2004.
36
3.日本における公務員の人材管理の課題
(1)日本の公務員管理の課題
最後に、OECD 諸国及びカナダにおける公務員管理改革の動向を踏まえて、日本の公務
員管理の改善に向けてのインプリケーションをまとめてみたい。
先進諸国において、1980 年代以降に公務員制度改革が政治のアジェンダとなった背景に
は、財政赤字の増大と官僚制の非効率性に対する国民世論の批判があった。それに対して
政治指導者たちは「小さな政府」を掲げ、歳出削減と公務員の削減に取り組んだ。その際
のイデオロギーとなったのが、行政部門に経済合理主義を導入する NPM(新公共管理論)
である。そして行政組織から実施部門を分離し、民間部門と競争させるとともに、公務員
管理にも競争原理を導入する経済合理主義の改革が流行となり、各国はこぞって NPM 型改
革に邁進した。ところが 1990 年代後半になると政府組織の断片化(fragmentation)が問
題視されるようになり、政府全体のパフォーマンスを向上させるための一体性の確保(a
whole of government)が強調されるようになった。このパラダイム変化は公務員の管理に
も及び、各国政府は成果重視の観点から公共組織のパフォーマンスを高めるための公務管
理改革に積極的に取り組むようになった。
そのなかでカナダは、NPM の世界的な潮流とは一線を画し、キャリアシステムを維持し
つつ、公務員集団のパフォーマンス向上を図る「カナダ・モデル」の公務員管理改革を実
践してきたことで注目される。カナダ政府は、1990 年代以降の行政改革の戦略のなかで、
連邦公務員の任用及び人材管理を「成果」及び「アカウンタビリティ」重視に転換させる
べく人材管理権限を各省に委譲した。55カナダの公務員制度はアメリカの職階制を基本とし
ており、原則的に職務能力に応じた任用を行っているが、実際には大半の任用は内部から
行われている。このクローズドな任用は公務員組織を社会から隔絶させているとも批判さ
れるが、他方で、国民に奉仕するという公務員の規律と文化を守る重要な役割を果たして
きた。しかしながら、公務員が国民に信頼されるためには、手続き重視から成果重視へと
公務員の行動規範を変え、高いパフォーマンスを達成するための人事管理を行い、その成
果をきちんと国民に伝えることが必要であるとして、1990 年代後半からカナダ政府は公務
管理システムの近代化に踏み切ったのである。それまでカナダでは、公務員の任用を人事
委員会という第三者機関が厳密にチェックすることでアカウンタビリティを確保してきた。
しかし行政組織の対応力やパフォーマンスを高めるためには、ラインの省に人事管理権限
を委譲する必要がある。そこで人事委員会によるチェックを事後的なものに変え、人材管
理については各省が原則として責任を負うこととしたのである。この新しいシステムを動
かすためには、ライン省の人材管理担当者の能力構築だけでなく、職員の理解と協力が不
可欠である。評価者と被評価者あるいは任命権者と雇用者の相互の信頼がなければ、効果
的な人材管理はできない。カナダではそのための研修や学習に大きな時間とコストをさい
55
同様の改革はオーストラリアでも行われているが、オーストラリアは公務員への任用の機会を広く外部
に開いており、空きポストについて公募を行っている。小池治「オーストラリアにおける行政改革の理念
と政治過程」『横浜国際経済法学』9巻3号(2001 年3月)47-77 頁。
37
ている。この学習システムは、公務員管理の専担機関であるカナダ公務人材開発庁
(PSHRMAC)、第三者機関である人事委員会、新設された公務大学校、カナダ国内の主要
大学との密接な連携のもとに進められるとされ、行政部門を「学習する組織」に変えてい
くことがうたわれている。
翻って日本の公務員管理をみると、I 種採用職員と他の職員とのキャリアパスの区分、年
功序列及びローテーション中心の伝統的な雇用管理が継承され、戦略的な人材育成や能力
開発に対する意識は相対的に希薄であったといわねばならない。日本の公務員管理は、戦
後における民主的公務員制度の構築にあたって、能力の実証を基盤とするメリット主義を
導入したものの、いわゆる職階制については日本の職場風土に合わないという理由から実
施されなかった。56したがって任用における能力の実証についても競争試験はほとんど行わ
れず、いわゆる選考によっている。57同じく、職員の配置換においても客観的な能力の実証
は行われておらず、あまり脈絡のない異動が定期的かつ頻繁に行われている。58また、地方
自治体に職員を派遣している省が多くみられるが、地方自治体からの派遣依頼があるにせ
よ、いったん国家公務員を辞職して地方公務員になるという重大な行為がローテーション
職階法の形骸化については次の文献が詳しく論じている。大森弥『官のシステム』東京大学出版会、2006
年、21-50 頁。
57人事院は人事院規則 8-20(本省庁の課長等に任用する場合の選考の基準等)の第 3 条で本省庁の課長等
の任用における選考の基本原則を次のように定めている。
第三条
任命権者は、本省庁の課長等の官職についての選考を行うに当たっては、性別その他選考される
者の属性を基準とすることなく、及び情実人事を求める圧力又は働きかけその他の不当な影響を受けるこ
となく、選考される者について就こうとする官職の職務遂行に必要とされる知識、経験及び管理的又は監
督的能力その他当該官職の職務を良好に遂行する能力の有無を経歴評定その他客観的な判定方法により公
正に検証しなければならないものとする。
58
同様に、人事院は本省庁の課長等の配置換の要件を次のように定めている。第五条
任命権者は、本
省庁の課長等の官職への本省庁の課長等の官職以外の官職からの転任又は配置換を行う場合(転任又は配
置換される者について就こうとする官職の属する段階と同一の段階又は当該段階より上位の段階に属する
官職に就いていたことがある場合を除く。)には、次の各号に掲げる要件を満たして行うものとする。た
だし、特別の事情により次の各号に掲げる要件を満たして転任又は配置換を行うことができない場合若し
くは適当でない場合には、あらかじめ人事院と協議して転任又は配置換を行うものとする。 一
転任又
は配置換される者について就こうとする官職の属する段階の直近下位の段階に属する官職及びその官職と
職務の複雑と責任の度が同等の官職並びにこれらの官職と職務の複雑と責任の度が同等の特別職に属する
職等(就こうとする官職が最下位の段階に属する場合にあっては、人事院が定める官職等)での勤務実績
等に基づき就こうとする官職の職務を遂行する十分な能力を有していると認められること。 二
転任又
は配置換される者について就こうとする官職が最下位の段階に属する官職の場合(当該段階に属する官職
に就いていたことがない場合にあっては、当該段階以外の段階に属する官職への最初の転任又は配置換の
場合)にあっては、転任又は配置換される者が他省庁等の経験を有しており、管理的又は監督的地位にあ
る者にふさわしい幅広い能力及び柔軟な発想力を有していると認められること。 三
転任又は配置換さ
れる者について、任用しようとする日から起算して過去二年間を超えない範囲内で懲戒処分の種類別に人
事院の定める期間において懲戒処分を受けていないこと及び任用しようとする日においてその者から聴取
した事項又は調査により判明した事実に基づき懲戒処分を受けることが相当とされる行為を犯していない
こと。 四
転任又は配置換される者について任用しようとする日から起算して過去二年間において法第
七十九条第二号の規定に基づく休職又はこれに相当する処分を受けていないこと。 五
転任又は配置換
される者について任用しようとする日において、刑事事件に関して、起訴されていないこと及びその者か
ら聴取した事項又は調査により判明した事実に基づき犯罪があると思料するに至った行為を犯していない
こと。2
任命権者は、前項の転任又は配置換を行った場合(前項ただし書の規定に基づき人事院にあら
かじめ協議した場合を除く。)には、その旨を人事院に報告するものとする。
56
38
のように行われている。そして、その「人事交流」の成果を客観的に評価し、人事管理に
活かすということも行われていない。
これらの点からすれば、日本の公務員管理は科学的な管理とは程遠く、前近代的な慣習
による管理を継承しているとみられても仕方ないかもしれない。カナダは「プログラムレ
ビュー」を通じて政府の役割の見直しを行い、公務員の果たすべき役割とこれから必要と
なる能力を再定義した。そして 21 世紀に求められる公務員像を明らかにし、それに近づく
ための戦略的な人材管理を進めている。そこでは各省の幹部職員が「リーダーシップ・ネ
ットワーク」を形成し、連邦公務員の横の連携を図るとともに、大学等の専門機関や民間
の機関とのネットワークを活用して、さまざまな段階や局面において公務員の能力開発を
行うとしている。日本でも省庁間の人事交流は行われているが、それが省庁間の連携や行
政部門の総合性の確保にどれだけ役立っているか、具体的な成果は見えてこない。
重要なことは、能力の実証による任用と適材適所の人材配置であり、いかに職員一人ひ
とりの能力を最大限に開発し、それを最大限に発揮させるシステムを構築することであろ
う。個人の能力を引き出すためにはインセンティブやカルチャーが重要であり、その原点
には「公務」に尽くすことに対する公務員の誇りと規律がなければならない。カナダでは
「プログラムレビュー」の結果、多くの優秀な公務員が政府を去るという深い傷を負った
が、首相や幹部公務員はカナダ公務員に求められる優れた能力と将来の責任の重さを強調
し、公務員であることの「誇り」を職員に訴えた。国民から尊敬される公務員を養成する
ためには政府は何をすべきなのか。公務員管理改革は原点に立ち返って公務員の使命と求
められる能力を問うことから始めなければならないことを、カナダの経験は示唆している。
(2)新しい公務員管理システムの設計
成果重視・分権的管理の観点からの公務員制度の近代化は、もはや時代の趨勢といって
よい。それに対して日本の公務員制度改革の議論においては、能力主義・実績主義の導入
に議論が収斂し、欧米諸国のように公共部門の管理のあり方にまで議論が発展しえなかっ
た感がある。59政府は 2001 年 12 月に閣議決定した「国家公務員制度改革大綱」において
「各府省が、その時々の行政需要に応じ、自らの判断と責任において機動的・弾力的に人
事・組織マネジメントを行うことができるような制度設計を行う」と述べて分権的管理へ
の転換をうたったが、それから5年が経過したにもかかわらず、いまだ具体的な制度設計
は行われていない。60他方で、政府は公務員制度改革のひとつの柱として「能力等級制」を
導入するとしている。確かに「能力等級」を明確に示し、任用を客観的な実績評価に基づ
59 西尾隆「公務員制度改革と『霞ヶ関文化』
」日本行政学会編『公務員制度改革の展望』ぎょうせい、2003
年;辻隆夫「公務員制度改革と能力主義の課題」寄本克美・辻隆夫・縣公一郎編『行政の未来』成文堂、
2006 年。
60人事院は平成 17 年度「公務員人事管理に関する報告」のなかで、(1)専門能力向上のための人材確保(I
種試験制度の見直し、経験者採用システムの導入、II 種・III 種採用職員の育成と「キャリア」への登用、
府省間・官民間の人事交流の推進など)、(2)能力・実績に基づく人事管理(実効性ある人事評価制度の整備
など)、(3)勤務環境の整備、(4)退職管理が今後の公務員制度改革の課題であるとしている。
39
くものとすれば、任用における公平性の確保と職員の士気の向上が期待できる。しかしな
がら、日本は職階制を導入しておらず、職務分類が曖昧なまま大括りの等級区分を導入し
ても、任用に際して必要とされる能力要件が定まらないため、能力評価と人材管理との有
機的な連携は弱まらざるをえない。これは能力等級制度を効果あるものにするためには、
公務員管理制度の基本枠組みを見直す必要があることを意味している。
21 世紀はますます予測がつかない不確実な社会となろう。この不確実性の時代に政府が
責任ある対応を行っていくためには、民間部門にもまして、公共部門の能力構築を図る必
要がある。人事管理の最近のトレンドは、方法論的個人主義すなわち競争によるインセン
ティブにあるが、行政組織のパフォーマンスを個人間の競争だけで高めることはできない。
それは民間企業においても同様である。最も重要なことは、政策の形成やマネジメントを
的確に行うことができるように、組織のパフォーマンスを高めることである。そのために
は個人の能力構築を組織がサポートするとともに、職員間や組織間の連携を強化して、さ
まざまな場所で能力構築のための学習が行われる必要がある。政府組織が「学習する組織」
に変わるためには、さまざまな学習の機会を設けるとともに、学習の成果を業務に反映さ
せ、組織の発展につなげていくロジックが必要になる。公務員制度の改革に必要なのはこ
の新しいロジックを制度として設計することである。その際には外国の制度を無造作に日
本に取り入れるのではなく、日本の人事組織管理のなかの優れた部分を残しつつ、時代が
求めるハイ・パフォーマンスを実現できるように制度を設計することである。その際には、
公務員個人の能力開発やモチベーションといったマイクロ・マネジメントのレベルから、
政府全体の公務員管理システムという公共部門のガバナンス問題までを包括する総合的な
検討が不可欠になる。
最後に、これまでの日本の公務員制度改革の議論において欠落していると思われる部分
について意見を述べ、本報告書の締めくくりとしたい。
これまでの公務員制度改革の議論において欠落していると思われる論点の1つは、公務
員集団の一体性の確保である。わが国の行政組織においては伝統的に省庁間の連携が希薄
であり、それが政府の一体的な政策対応を難しくしている。しかし、ますます複雑化する
公共問題に政府が的確に対応していくためには、各省の垣根を超えた柔軟な取り組みが必
要となる。そうした対応の実効性を高めるためには、政策形成に関係省庁が参加するとと
もに、事業の執行や評価においても協力連携を図ることが肝要である。その際には政策の
管理に携わる幹部職員が問題意識を共有し、それぞれの組織リソースを有効に活用できる
状況を用意しておくことが前提となる。カナダの「リーダーシップ・ネットワーク」は、
政策管理に責任をもつ幹部職員の一体性を高めるための仕組みであり、トップから省庁間
の横断的な連携に取り組む環境を整備するものである。また、カナダでは、公務員集団の
トップに位置する枢密院事務局長が公務員制度改革の最高責任者となり、首相に対して直
接責任を負う仕組みをつくることで、公務員集団の一体性を高めている。日本でも内閣官
房副長官(キャリア職)が公務員集団のトップと位置づけられているが、内閣官房副長官
40
が主宰する事務次官等会議の機能はもっぱら閣議にあげる案件の事前調整・事前承認であ
り、カナダの上級公務員委員会(COSO)のような省庁横断的な政策形成のためのフォーラ
ムが存在するわけではない。61日本の行政のパフォーマンスを向上させるためには、府省間
の連携強化はきわめて重要な課題である。62そのためには公務員集団の一体性を高め、府省
の分担管理の枠を超えて、政策形成の段階から連携を進める必要がある。そのための幹部
公務員の新しい集合的管理システムの構築は政府にとって喫緊の課題のはずである。ここ
には、大臣による幹部職員の自由任用や民間部門からの登用といった問題も関わってくる。
その場合、当該ポストの在任期間が極端に短かったり、頻繁に異動が行われるようでは、
幹部公務員集団のエトスやカルチャーは形成されない。幹部職員の任用については、資格
要件や選抜ルールの明確化と透明化をはかり、幹部職員に求められる能力についての品質
管理が重要となる。それがなければ幹部職員は一般職員から信頼されず、公務員組織のモ
ラールも高まらないであろう。
第2の点は、各省における人材育成・能力開発である。各省は人材管理に際し、求めら
れる公務員像を職員に明示するとともに、的確に職員の能力構築を図るための人材開発の
基本計画をもつ必要がある。求められる人材や能力が事前にわかっていれば、上昇志向の
職員は若いうちから能力開発に進んで取り組むようになる。また異動や地方勤務にしても、
その必要性や重要性が認識されなければ、職務に真摯に取り組む姿勢はどうしても弱くな
らざるをえない。人材開発基本方針の策定は地方自治体ではすでに一定の普及をみている
が、国の各省ではまだその必要性すら認識されていないといっても言い過ぎではない。そ
れに加えて、国の職員にはいままで以上にグローバルな観点にたって政策を形成し、それ
を適切に管理する専門能力が求められるようになる。もっとも、政策の形成能力や管理能
力は現場での経験を通じて磨かれる部分が大きいので、キャリアパスのなかに現場での勤
務を適切に盛り込むことが重要である。これは政策の実施部門と企画部門の連携強化がい
っそう重要になることを意味している。多様な組織とのネットワークの形成は、政府の政
策形成や政策実施の有効性を高めるものである。そのためには、ネットワークを適切に管
理する能力が政府部門に備わっていなければならない。そうした能力の構築は公共部門の
人材管理において喫緊の課題といわねばならない。
第3点は、各省の人材管理における客観性の確保である。日本では公務員の任用につい
61
英国では毎週水曜日の午前 10 時から 34 名の事務次官全員が参加する主席公務員主宰の会議が内閣府で
開かれているが、会議では前日の閣議で話題になった事柄などについて意見交換が行われているようであ
る。また英国では年に 1 度、サニングデールの公務大学校において全事務次官が参加する1日半の研修が
開かれている。そこには民間部門の指導者たちも参加し、一緒にさまざまなテーマについて議論が行われ
るという。Richard Norman, “Whole of Government Coordination-Lessons from Britain: An Interview
with Len Cook,” Public Sector, vol.28, No.4 (2005), p.2.
62 日本でも 1990 年代の行政改革会議の最終報告に基づき、省庁連携を高めるための「政策調整システム」
の仕組みが導入されたが、あまり活用されていないようである。他方で、政府は関係省庁連絡会議を設置
したり、内閣府に少子化社会対策本部などの組織を設置しているが、その効用や成果についての評価は今
後の課題といえよう。小池治「政府の近代化と省庁連携-英国・カナダ・日本の比較分析」
『会計検査研究』
第 31 号(2005 年3月),27-40 頁。
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ては任命権者である各省大臣の権限とされ、各省職員の人事管理については人事院が定め
る級別定数の範囲内で各省が自律的に行っている。公務員の能力については、入り口(採
用)の段階で人事院が統一試験を実施しているが、面接試験は各省が実施し、採用後の任
用についても各省が自律的に行っている。もっとも、国家公務員法は公務員の任用に際し
て能力の実証を求めており、原則として任用は競争試験によるとされながらも、実際には
ほとんどが選考によっており、昇任や配置換に際しても厳密な能力評価が行われているわ
けではない。しかしながら、公務員の任用を成果重視に転換し、個人と組織の能力構築を
進めていくためには、公務員の任用を客観的な評価に基づくものへと変えていく必要があ
る。そして、その際には各省における人材管理の適切性を客観的に評価するための第三者
機関によるチェックが欠かせない。これは日本の公務員管理制度でいえば、人事院の役割
になる。ちょうど総務省を政策評価の専担機関と位置づけたように、人事院を各省による
人材管理の事後的統制や人材管理に関し助言を行う専担組織として位置づけるべきはない
だろうか。そうすれば公務員管理の弾力化をつうじての適切な能力構築と同時にアカウン
タビリティを確保することができるはずである。
政府公共部門の能力構築は、将来の良好なガバナンスのための投資である。日本も定員
削減の時代から能力構築の時代へと発想を転換する必要がある。その際には、日本の組織
管理の良い部分を生かしつつ、時代が求める高いパフォーマンスを実現する新しい公務管
理の仕組みを設計することが肝要である。そして「日本モデル」の設計にはぜひとも公務
員自身が積極的に関わるべきであることを強調し、本報告書の結びとしたい。
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