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てんかんの病態と薬物治療 - TOHO Univ.講座・研究室一覧サイト

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てんかんの病態と薬物治療 - TOHO Univ.講座・研究室一覧サイト
市民公開講座
てんかんの病態と薬物治療
東邦大学医療センター佐倉病院
小児科 舘野 昭彦
本日の内容は・・・
1.てんかんの診断と治療について
「発作分類」と「てんかんおよびてんかん症候群」は
異なります。
2.頻用される薬剤の特徴について
3.妊娠、就労、自動車免許取得等の問題
以上は小児科医の立場からであります。
1
てんかんを病んでいた歴史上の人物には
•
•
•
•
シーザー
(大発作、映画クレオパトラ)
ジャンヌ・ダルク
(神の声「汝の助けが必要」)
ゴッホ?
(メニエール症候群もあった?)
ドストエフスキー:ドストエフスキー症候群
疑わしい人には?
釈迦、ソクラテス、アレキサンダー大王、
パスカル、ナポレオン、ヘンデル、ジョイナー、
エリザベス・テイラー、黒澤 明、大江 光など
てんかんの診断および治療
てんかん
1.てんかんとは、慢性の脳の病気で、大脳の神経細胞が
過剰に興奮するために、脳の症状(発作)が反復性(2回以
上)におこるものである。
2.発作は突然に起こり、普通とは異なる身体症状や意識、
運動および感覚の変化が生じる。明らかなけいれんであ
ればてんかんの可能性は高い。
3.主に、脳波検査や頭部CT/MRI等の画像検査などで、
発作を分類し、正しい診断名に至る。
日本神経学会
4
てんかん治療ガイドライン
2010
てんかん症候群
epilepsy & epileptic syndrome
1.定義
脳の異常放電に基づく反復性の発作であり、脳波異常を呈する
慢性疾患である。
2.原因
1) 特発性(遺伝性のものを含む)
2) 潜因性(原因が特定できない)
3) 二次性・続発性(基礎疾患を有する)
3.分類
1) 部分発作(局在関連性けいれん):脳波上、てんかん波の局在性
を有する。さらに脳全体に拡がる場合を二次性全般化という。
2) 全般発作:脳波上、てんかん波がび慢性に拡がる。表現系は全
身性である。
けいれんとしての主訴
発作型分類
強直けいれん
間代けいれん
脱力発作、失立発作
自動症
感覚性発作
自律神経発作
意識消失発作、複雑部分発作
てんかん患者を取り巻く状況
・てんかんは患者数が多く、わが国では人口の約0.8%にあたる約100万
人の患者がいるといわれている。したがって、てんかん治療に携わる臨床
医はてんかんを専門とする医師だけでは不十分であり、専門医以外の多く
の医師が診療にあたっているのが現況である。
(てんかん治療ガイドライン2010)
・高い有病率に比して専門医数の少なさや診療レベルの地域差など,解決
すべき課題も多い。
(週間医学会新聞 第2951号 2011年10月31日第45回日本てんか
ん学会)
・参考
日本てんかん学会専門医数 388人(2012年1月1日現在)
7
てんかんの発病率、累積発病率および有病率:年齢別
米国ミネソタ州Rochester
150
発
病
率
( 100
10
万
人
当 50
た
り
) 25
0
8
3.0
累
積
発
病
2.0 率
・
有
病
1.0 率
(
0.5 %
)
累積発病率
発病率
有病率
10
20
30
40
50
年 齢
60
70
80
松下正明編:臨床精神医学講座 9-てんかん-1988, P.265-272より
てんかんの診断から治療へのプロセス
てんかん発症
発作型診断
●部分発作
●全般発作・・・
年齢・脳波所見・画像所見・知能検査など
てんかん分類診断
(重要) 初回発作 isolated seizure の評価
抗てんかん薬治療開始判断
無治療経過観察
難治
てんかん外科
抗てんかん薬選択
発
再発
発作抑制(3~4年)
9
抗てんかん薬減量
治療終結
てんかん発作分類
てんかん
非てんかん
•失神
•片頭痛
•心因性
•中毒性
•代謝性
•脳血管性
10
全般発作
•
•
•
•
•
•
部分発作
強直・間代発作
単純部分
複雑部分
強直発作
けいれん性
間代発作
欠神発作
二次性全般化
非けいれん性
ミオクロニー発作
脱力発作
International League Against Epilepsy, Commission on Classification and Terminology. Epilepsia. 1981;22:489-501.
てんかんおよびてんかん症候群分類
(ILAE, 1989)
特発性局在関連てんかん
特発性全般てんかん
・小児良性ローランドてんかん
など
・小児欠神てんかん
・若年性ミオクローヌスてんかん
など
ほぼ100% 寛解
80% 寛解
症候性局在関連てんかん
症候性潜因性全般てんかん
・側頭葉てんかん
・後頭葉てんかん
など
・ウエスト症候群
・レノックス・ガストー症候群
など
50~60% 寛解
11
20% 寛解
てんかんの薬物療法、てんかんネットワーク
てんかん包括医療における小児科医の役割
• 適切な診断および評価(発作型・てんかん症候群分類)
• 適切な薬物療法(選択・投与法など)
• 治療目標 “ seizure freedom ” の提示(すべての患者に
おいて最終到達目標ではないことにも注意する)
• 薬剤の有効性とアドヒアランスの把握
• 治療、日常生活、学業、就業などに関する包括的指導・
助言
• 患者自身の掌握度の評価(発作の危険性、妊娠・催奇形
性、自殺行為、予後などについての理解)
• 治療に関する最新情報の提供(ガイドライン・リーフレ
ットの活用を含めて)
• 患者の QOL とレジリエンスの支援
• 包括医療におけるコーデイネーターの役割
13
患者さんは、こんなところも悩んでいます
てんかん患者は主治医の予想を超えています
• 精神症状:神経質またはイライラしやすくなった(医師/患者)
常に
2.3 % / 13.1 %
しばしば
14.8 % / 23.9 %
• 眠気:眠気が出るようになった(医師/患者)
常に/しばしば
9.8 % / 33.3 %
時には
27.2 % / 21.8 %
• 認知機能(医師/患者)
1.物覚えが悪くなった
常に/しばしば
4.0 % / 21.5 %
時には
13.6 % / 16.4 %
2.集中できなくなった
常に/しばしば
2.6 % / 13.6 %
時には
13.3 % / 24.6 %
女子/女性の場合には?
14
美容・生理・妊娠など
(粟屋ら、2008)
てんかん薬物療法の実際
てんかんの薬物治療方針
1.発作型とてんかん症候群の正確な診断に基づく薬剤選択
i) 発作症状(適切な病歴聴取から)
ii)脳波および画像検査等の検査所見
以上より、発作型分類、てんかん症候群の分類を行う。
局在関連てんかん(部分てんかん)と全般てんかんに大別。
部分てんかん:カルバマゼピン、ゾニサミド、ラミクタール
イーケプラなど
全般てんかん:バルプロ酸Na、ゾニサミドなど
2.抗てんかん薬の臨床薬理動態に基づいた治療
投与量、治療域の血中濃度、半減期、ピーク時間、
作用機序、相互作用、年齢と薬物動態、副作用
年代順にみた米国における抗てんかん薬の歴史
20
本邦における新規抗てんかん薬の承認
-付加的治療薬として承認
-合理的多剤併用療法
クロバザム*
2010年
レベチラセタム
オクスカルバゼピン
チアガビン
15
2007年
フォスフェニトイン
トピラマート
ガバペンチン
薬
剤
数 10
フェルバメート
ラモトリギン
ビガバトリン
パルプロ酸
2006年
2008年
ゾニサミド*
カルバマゼピン
5
エトスクシミド
ベンゾジアゼピン
プリミドン
ブロマイド
フェノバルビタール
フェニトイン
0
1860 1880 1900 1920 1940 1960 1980 2000
*ゾニサミド・クロバザム:本邦での発売時期
16
岩佐 博人,土嶺 章子,兼子 直:臨床精神医学 33(3):289-295, 2004
我が国における標準的な抗てんかん薬
• 一次選択薬剤
カルバマゼピン(テグレトール)、エトサクシミド(ザロンチン)、
フェノバルビタール、プリミドン(マイソリン)、ヒダントイン
(アレビアチン)、バルプロ酸(デパケン)
(わが国では、ゾニサミド(エクセグラン)は、標準薬の位置づけ)
これらで約7割は発作の寛解が期待できる。
• 新規抗てんかん薬
ラモトリギン(ラミクタール)、レベチラセタム(イーケプラ)、
トピラマート(トピナ)など
17
小児・思春期のてんかんと治療 I
Q4-5.部分発作にカルバマゼピンを十分量使用しても
発作が再発した場合には、次になにを使用すべきか
推奨グレード
部分発作
既存の抗てんかん薬
カルバマゼピンが無効な場合は、
ゾニサミド、フェニトイン、クロバザム、プリミドン、フェ
ノバールの中で
副作用Plofile(*)を考慮して選択する。
この中で、ゾニサミド、クロバザムが推奨される。
C
新規抗てんかん薬
新規抗てんかん薬としては、
ラモトリギン、トピラマート、ガバペンチンの中から選択
する。
C
*フェノバールは幼児~学童において多動衝動性などの認知行動学的副作用をきたす可能性が指摘されて
いる。また、フェニトインは歯肉肥厚、多毛などの美容上の副作用が顕著であり、女児には慎重に投与する必
要がある。
18
日本神経学会 てんかん治療ガイドライン 2010
小児・思春期のてんかんと治療 II
Q4-5.全般発作にバルプロ酸を十分量使用しても発作が
再発した場合には、次になにを使用すべきか
推奨グレード
全般発作
全般強直間代発作
(GTCS)
欠神発作
ミオクロニー発作
バルプロ酸の次の薬剤に関してはカルバマゼピン、フェノバー
ル、フェニトインの中で
副作用Profile(*)を考慮して選択する。
この中でカルバマゼピンを推奨する。
C
バルプロ酸とエトスクシミド、バルプロ酸とラモトリギンでは
欠神発作に対する有効性に有意差はない。
B
この中で、エトスクシミドあるいはラモトリギンが推奨される。
C
エビデンスは低いが、
ミオクロニー発作にはバルプロ酸、クロナゼパム、クロバザムが、
若年ミオクロニーてんかんにはバルプロ酸が推奨されているの
で、バルプロ酸の次にはクロナゼパム、クロバザム、ラモトリギ
ンが選択される。
C
*フェノバールは幼児~学童において多動衝動性などの認知行動学的副作用をきたす可能性が指摘され
ている。また、フェニトインは歯肉肥厚、多毛などの美容上の副作用が顕著であり、女児には慎重に投与す
る必要がある。
19
日本神経学会 てんかん治療ガイドライン 2010
成人てんかんの薬物療法 I
CQ3-4.新規発症の全般てんかんでの選択薬はなにか。
避ける薬物はなにか。
全般てんかん
推奨グレード
第1選択
諸全般発作に対して、バルプロ酸が第一選択薬として推奨され
る。
B
第2選択
第二選択薬として、欠神発作にエトスクシミド、
ミオクロニー発作にクロナゼパム、強直間代発作にフェノバールが
推奨される。
クロバザム、フェニトインも候補となり得る。
B
新規抗てんかん薬
新規抗てんかん薬(クロバザム、ガバペンチン、トピラマート、ラモ
トリギン、レベチラセタム)の中では、強直間代発作にバルプロ酸
に次いでラモトリギン、トピラマート、次いでレベチラセタムが推奨
される。
欠神発作には、既存薬に次いでラモトリギン、ミオクロニー発作に
はバルプロ酸に次いでレベチラセタムが推奨される。
B
症候性全般てんかん
症候性全般てんかんでは、クロバザム、ゾニサミドなども考慮する。
B
20
日本神経学会 てんかん治療ガイドライン 2010
成人てんかんの薬物療法 II
CQ3-8.高齢発症での選択薬はなにか
部分発作
部分発作では合併症の有無により薬の選択が異なる。
推奨グレード
合併症なし
合併症のない高齢者の部分発作には、
カルバマゼピン、ラモトリギン、レベチラセタム、ガバペンチン
の順に推奨される。
B
合併症あり
合併症のある場合の部分発作では、
レベチラセタム、ラモトリギン、ガバペンチンの順で推奨され
る。
B
合併症のない高齢者の全般てんかんでは、
ラモトリギン、バルプロ酸、レベチラセタム、トピラマートの順
に推奨される。
C
全般てんかん
合併症なし
21
日本神経学会 てんかん治療ガイドライン 2010
医療連携を目指した診療体制構築の動き
てんかんの有病率等に関する疫学研究及び診療実態の分析と治療体制の整備に関する研究(厚生労働省科学研究事業)
(患者調査では把握されない)
てんかん患者の患者数と診療実態の調査(乳幼児・小児,成人・就労者,高齢者)
一次診療
地域住民有病率調査
レセプトデータによる診療実態の解析
高齢者施設サンプル調査
二次診療
関連諸学会専門医
アンケート
三次診療
専門てんかんセンターの
診療実態調査
てんかん診療の質の向上のため
の課題についての聞き取り調査
(診療実態調査と並行)
提 言
保健行政機関調査
地域医師会調査
てんかん協会調査
日本精神神経学会
日本小児神経学会
日本神経学会
日本てんかん学会
日本脳神経外科学会
静岡てんかん・神経医療センター
西新潟中央病院
東北大学病院
国立精神・神経医療研究センター
てんかん診療ネットワークの構築
二次診療施設リストの作成
(診療実態調査と並行)
諸外国における
てんかん診療体制の調査
(WHO,AAMH,ILAEなど)
●本邦のてんかん医療のニーズを満たすために必要な
人的・物的医療資源の目標
●わが国の実情に即したてんかん患者ケア・アルゴリズム
(大槻泰介 氏提供)
22
Medical Tribune てんかん特集号 2012年
当小児科の取り組み
• 千葉県小児神経懇話会
年1回開催 幹事
千葉県小児神経科医の研究発表会
• 北総てんかん懇話会
年2回開催 世話人代表
日医北総病院、女子医大八千代医療センター
と合同で
• 東総北総てんかんネットワーク研究会
昨年秋に発足 世話人代表
脳外科、精神科、小児科、神経内科を巻き込んで
23
頻用される薬剤の特徴について
24
バルプロ酸(VPA, SV)
【適 応】
1.全般発作(強直間代発作、欠神発作、ミオクロニー発作)、部分発作
2.片頭痛、躁状態の治療(mood stabilizer)
【作用機序】
1.電位依存性Naチャンネルの阻害
2.グルタミン酸受容体を介した興奮系の抑制
3.GABA系の強化(GABA transaminase の抑制)
【使用法】
体重あたり、15~30mg/日投与。シロップは分3、徐放剤は分1~2。
【禁 忌】
ミトコンドリア病、尿素サイクル異常症、原因不明の脳症、重篤な肝障害
【副作用】
劇症な肝障害、急性膵炎、催奇形性(神経管閉鎖不全)、血小板減少、
月経異常・不妊、PCO(多嚢胞性卵巣)
軽度であるが、特徴的かつ高頻度:体重増加、脱毛、夜尿
25
カルバマゼピン(CBZ)
【適 応】
1.部分発作、二次性全般化発作
2.欠神発作、ミオクロニー発作、乳児重症ミオクロニーてんかんでは、
増悪させる。
【作用機序】
電位依存性Naチャンネルの阻害が中心
【使用法】
体重あたり、5~20mg/日投与。投与法は分2~3。
開始後2~6週で、CBZ代謝酵素が自己誘導され、血中濃度低下に注意。
【禁 忌】
重篤な血液障害、II度以上の房室ブロック、高度の徐脈、ポルフィリン症、
三環系うつ薬に過敏症を有する患者
【副作用】
薬疹(PBやPHTの投与も注意)、過敏性症候群、複視、運動失調、
催奇形性(DPAの併用で60%に出現)
26
抗てんかん薬と催奇形性
割り込みスライド
1.併用薬剤数(兼子)
1剤 6%、2剤 10%、3剤 13%、4剤 21%、5剤 20%
2.抗てんかん薬併用禁
フェニトイン + バルビツール剤
カルバマゼピン + バルビツール剤
バルプロ酸 + カルバマゼピン
3.抗てんかん薬
バルプロ酸、カルバマゼピンは可能であれば他剤へ変更
バルプロ酸中止不可能な際には除放剤へ(血中濃度 70μg/dl以下に)
プリミドン 14.3%、バルプロ酸 11.1%、フェニトイン 9.1%
カルバマゼピン 5.7%、フェノバール 5.1%
4.単独の際の1日投与量の目安
プリミドン
400㎎
カルバマゼピン
400㎎
バルプロ酸
フェニトイン
1,000㎎
200㎎
Expert
Opinion では、バルプロ酸、カルバマゼピンは第一選択薬剤
27
ゾニサミド(ZNS)
【適 応】
1.部分発作、全般発作(West 症候群を含む)に有効である。
2.挙子希望の女性に安全に使用できる(催奇形性の報告なし)
【作用機序】
1.T型Caチャンネル、Naチャンネルの阻害
2.グルタミンの放出抑制
【使用法】
体重Kgあたり、5~8mg/日投与。投与法は分1~2。
【禁 忌】
尿路結石の既往のある患者、精神症状を有する患者には慎重投与。
【副作用】
発汗障害、易刺激性、薬疹、過敏性症候群、尿路結石、
精神症状(強迫神経症および自殺行為)
【その他】
パーキンソン病に有効(トレリーフ)
28
トピラマート(TPM)
【適 応】
部分発作、全般発作(West 症候群を含む)に有効である(ZNS類似)。
【作用機序】
1.T型Caチャンネル、Naチャンネルの阻害
2.グルタミンの放出抑制
3.炭酸脱水酵素阻害作用
【使用法】
add on therapyとして使用される。分2~3。
【禁 忌】
尿路結石の既往のある患者、精神症状を有する患者には慎重投与。
【副作用】
発汗障害、尿路結石(ZNSやアセトゾラミドの併用に注意)、精神症状
(自殺行為)
【その他】
有効性は評価されたが、認容性において多剤に劣る。
29
文献的考察(FDA alert, 2008 中心)
割り込みスライド
• てんかんと自殺念慮・行為
1.頻度・性差:2~5倍(対コントロール比)
男性2倍,女性5倍
2.てんかん分類:側頭葉てんかんに多い(25倍?)
3.リスク・ファクター:
a. 外科手術(薬物療法の約5倍)
b. 発作頻発例(発作コントロール後に多い)
c. 精神科疾患の並存
これらは、forced normalization に関与があるか?
• 抗てんかん薬と自殺念慮
1.誘発する可能性のある薬剤:フェノバール,ゾニサミド,
アレビアチン,トピラマート,レベチラセタム
2.推奨される薬剤(mood stabilizerとしての効用あり):
カルバマゼピン,バルプロ酸Na, ラモトリギン
30
フェニトイン(PHT)
【適 応】
1.全般発作、部分発作、二次性全般化発作に有用である。
2.成人では、けいれん重積症に対して、ジアゼパムと同様に静注にて
使用される。
【作用機序】
電位依存性Naチャンネル、Caチャンネルの阻害が中心
【使用法】
体重Kgあたり、2~8mg/日投与。投与法は分1~2。
静注による急速飽和は、20mg/Kg/回前後を投与する。
【禁 忌】
高度の徐脈、高度の刺激伝導系障害
【副作用】
薬疹(PBやCBZの投与も注意)、過敏性症候群、眼振、運動失調、
静注の際には、静脈炎や血栓症に注意(強アルカリであり、血管外に
漏れると壊死を起こす)
31
フェノバルビタール(PB)
【適 応】
1.欠神発作以外は有効である。
2.新生児、乳児にも使いやすい。
【作用機序】
GABAA受容体に作用しClの透過性を増す、Caチャンネルの阻害する
【使用法】
体重Kgあたり、2~5mg/日投与。投与法は分1~2。
静注による急速飽和は、20mg/Kg/回前後を投与する。
【禁 忌】
急性間欠性ポルフィリン症
【副作用】
薬疹(PHTやCBZの投与も注意)、鎮静・眠気、運動失調、 認知障害、
多動(ADHDには使用しない)
32
エトスクシミド(ESM)
【適 応】
定型欠神発作および小型発作に有効。
大発作を有する欠神には単独で用いない。
【作用機序】
T型Ca電流を低下させるが、チャンネルを阻害しない。
【使用法】
半減期が長いので、分1や急な断薬も可能である。
体重Kgあたり、15~40mg/日投与。
【禁 忌】
重篤な血液疾患(容量依存性の顆粒球減少あり)
【副作用】
食欲不振、嘔気・嘔吐薬疹、薬剤性ループス様症候群、forced
normalizationによる頭痛・不安・抑うつ・幻覚・一過性意識障害
33
ベンゾジアゼピン誘導体
【適 応】
全般てんかん(欠神、ミオクロニー発作)、部分てんかん
症候性West 症候群には、第一選択薬である。
【作用機序】
GABAA受容体に作用しClの透過性を増す。
【使用法】
クロナゼパム、ニトラゼパム、クロバザム、ジアゼパムなどがある。
長期にわたる場合には、薬剤耐性にも注意。
【禁 忌】
緑内障、重症筋無力症
【副作用】
眠気、倦怠感、易刺激性・興奮、分泌物過多
過量投与により、傾眠、錯乱、昏睡、呼吸抑制、血圧低下など
34
ラモトリギン(LTG)
【適 応】
部分てんかん、全般てんかん(欠神、ミオクロニー発作、若年性ミオ
クロニーてんかん、Lennox-Gastaut 症候群など)。結節性硬化症の
West 症候群には著効することがある。
Dravet 症候群のけいれん発作を増悪させる。
【作用機序】
Naチャンネルの阻害、N型およびP/Q型Caチャンネルを容量依存的に
阻害する。
【使用法】
少量から漸増する。バルプロ酸併用時にはとくに注意が必要(通常量の
約1/3が目安)。
【副作用】
薬疹・Stevens-Johnson 症候群、興奮
35
レベチラセタム(LEV)
【適 応】
部分てんかん、全般てんかん
【作用機序】
前シナプス小胞膜のSV2Aに結合し、神経伝達物質の放出を調節する。
その選択性については不明。
【使用法】
10~50mg/kg/日、分2。初期から full dose も可能。
多剤との相互作用がなく、使いやすい。
【副作用】
めまい、眠気、腹痛、便秘・下痢、易刺激性・興奮、
容量によっては、行動改善も認められる(positive effect)
36
妊娠・催奇形性問題
(小児期の治療開始時に対応する)
37
日本神経学会
てんかん治療ガイドラインより
てんかんと女性(妊娠)I
1.患者教育
1)女性のてんかん患者には、妊娠に関していつ、何を説明すればよいか。
推奨 女性のてんかん患者には、その出産と妊娠についての基礎知識と生活
および服薬指導についての説明が必要である。すなわち計画妊娠が望
ましい。(グレードA)
2)妊娠可能女性での抗てんかん薬の使用法はどうするか。
推奨 妊娠が予想される場合の抗てんかん薬の選択については可能であれば
単剤にする。バルプロ酸を避けることが望ましい。薬剤の組み合わせ
に注意する。(グレードA)
3)新規抗てんかん薬は妊娠時に使用が可能か。
推奨 ラモトリギンは副作用が少ないことから推奨されるが、本邦では単剤
使用が保険適応外である。(グレードB)
4)葉酸、ビタミンKは補充すべきか。
推奨 葉酸投与、ビタミンK投与はそれぞれ神経管閉鎖障害の発症予防、新生
児頭蓋内出血の発症予防に推奨される。(グレード B)
参考 Neural tube defects と葉酸補充量
非妊娠時 0.4mg/日、妊娠時 0.6mg/日、授乳時 0.5mg/日
38
日本神経学会
てんかん治療ガイドラインより
てんかんと女性(妊娠)II
2.妊娠・分娩・授乳
1)妊娠中の抗てんかん薬調節、血中濃度モニターなどはどうすべきか。
推奨 妊娠前と妊娠中は必要に応じて血中濃度測定が望ましい。妊娠中の抗
てんかん薬調整はむやみに行うべきではない。(グレードB)
2)女性のてんかん患者は、妊娠中の合併症が多いのか。
推奨 合併症は多くない。(グレードB)
3)分娩はどの方法が良いのか。分娩中の発作にはどのように対応するのか。
推奨 一般には自然分娩が可能である。もし発作が起きた場合、一般的な治
療法で対処可能である。(グレードB)
4)抗てんかん薬服用中の授乳はどうすべきか。中止すべきか。
推奨 授乳してよい。(グレードB)
医学的に妊娠・分娩が危惧されるのは、3剤以上の薬剤併用、育児能
力が乏しい女性である。
39
てんかんと女性(妊娠)
1.妊娠前
a) カウンセリング、b) 発作のコントロール
c) 抗てんかん薬の調整、d) 葉酸濃度測定
2.妊娠中
a) 定期的な通院、b) 抗てんかん薬投与量
c) 妊娠16週:α‐フェトプロテイン測定
妊娠18週:胎児エコー診断
3.出産時および産褥時
a) 出産方法、b) 抗けいれん薬(不規則になりがち)
c) 育児(母の睡眠不足、児の事故予防)
4.乳幼児期
a) 定期検診、b) 脳波記録
c) ハンデをもつ児の評価・指導
d) 児のけいれん発作出現時対応
てんかん分類により、適切な診断・予後評価を行い、治療開始時に
すべてを決定しておく。小児科医の責務である。
40
抗てんかん薬と催奇形性
1.併用薬剤数(兼子)
1剤 6%、2剤 10%、3剤 13%、4剤 21%、5剤 20%
2.抗てんかん薬併用禁
フェニトイン + バルビツール剤
カルバマゼピン + バルビツール剤
バルプロ酸 + カルバマゼピン
3.抗てんかん薬
バルプロ酸、カルバマゼピンは可能であれば他剤へ変更
バルプロ酸中止不可能な際には除放剤へ(血中濃度 70μg/dl以下に)
プリミドン 14.3%、バルプロ酸 11.1%、フェニトイン 9.1%
カルバマゼピン 5.7%、フェノバール 5.1%
4.単独の際の1日投与量の目安
プリミドン
400㎎
カルバマゼピン
400㎎
バルプロ酸
フェニトイン
1,000㎎
200㎎
Expert
Opinion では、バルプロ酸、カルバマゼピンは第一選択薬剤
41
米国エキスパートコンセンサスガイドライン
妊娠可能年齢の女性における薬剤選択
通常
適当でない
どちらとも
いえない
通常
適当でない
通常適当
特発性全般てんかん
通常適当
症候性部分てんかん
ラモトリギン
oxcarbazepine
levetiracetam
トピラマート
カルバマゼピン
ゾニサミド
ガバペンチン
フェニトイン
pregabalin
バルプロ酸
フェノバルビタール
tiagabine
クロバザム
迷走神経刺激
クロナゼパム
felbamate
methsuximide
vigabatrin
ケトン食
エトスクシミド
ラモトリギン
levetiracetam
トピラマート
ゾニサミド
バルプロ酸
エトスクシミド
フェニトイン
フェノバルビタール
oxcarbazepine
クロバザム
カルバマゼピン
クロナゼパム
pregabalin
methsuximide
迷走神経刺激
felbamate
ガバペンチン
tiagabine
vigabatrin
ケトン食
1
97
どちらとも
いえない
2
3
4
5
6
7
8
9
=第1選択
= 第1選択として通常適当
= どちらともいえない、または第2選択
= 通常適当でない、または第3選択
1
2
3
4
5
6
7
= コンセンサスが得られていない
8
9
就 労 問 題・てんかんと資格制限
(欠格事項を含む)
43
条例等でてんかんが言及されている資格免許
•航空機乗り組みのための身体検査基準
•船舶乗務のための身体検査基準
•銃砲刀剣所持等にかかわる許可
•指定射撃場の設置者および管理者
•狩猟免許
•自動車等の運転免許
44
てんかんにかかわる障害者欠格条項
欠格なし
栄養士免許
調理師免許
製菓衛生士免許
検察審査員
医師国家試験受験
相対的欠格
外国人の上陸制限
毒物及び劇薬取締法
薬剤師免許
臨床検査技師免許
衛生検査技師免許
歯科衛生士免許
歯科技工士免許
診療放射線技師免許
医師免許
歯科医師免許
救急救命士免許
臨床工学技士免許
海技従事者国家試験
動力車操縦者運転免許
航空機乗り組みのための身
体検査基準(脳波)
衛生管理者・作業主任者
・クレーン等の運転免許
理学療法士免許
作業療法士免許
理容師・美容師免許
はり師・きゅう師免許
麻薬輸入等に関わる免許
薬局開設許可
火薬類取扱い
獣医師免許
自動車等の運転免許
絶対的欠格相当
銃砲刀剣類所持許可
指定射撃場の設置者
及び管理者狩猟免許
注意事項
1.航空法:てんかんまたはその既往がないことと規定されている。
2.銃砲刀剣所持にかかわる法律:再発の恐れのないもの、再発しても意識障害が
もたらされないもの等を除くとする。
45
まとめ
•小児期のけいれん発作・てんかん発作の分類や基
礎疾患は多彩であり、専門医ではないと難しいお
子さんも多い。
•治療に際しては、包括的医療が必要であり、内科
的診療や精神科診療の十分なサポートが必要であ
る。
•外科治療を必要とする
お子さんも存在する。
ご清聴有難うございました
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