...

詳細 - IPA 独立行政法人 情報処理推進機構

by user

on
Category: Documents
16

views

Report

Comments

Transcript

詳細 - IPA 独立行政法人 情報処理推進機構
センサーデバイスを活用した弦楽器の自動演奏の為の基盤ソフトの開発
―弦楽器自律演奏研究プラットフォームの開発―
1.背景
ロボットが、工業生産の現場で活躍する製造機械としての役割だけでなく、人間と
のコミュニケーションを指向して久しい。現在、ロボットは人間の動きを模倣し、人
間の感情を擬似的に「理解」し、擬似的に「表現」するという方向性が指向されてい
る。ロボットが人間社会により広範に進出するためには、少なくとも人間に不快感や
不気味感を与えないことが前提であるが、近年の開発の方向性は、不快感を与えない、
といった消極的な取り組み方を越えて、人間の感情にポジティブな影響を与えようと
する積極的な取り組み方へとシフトしていると言え、人間とロボットのコミュニケー
ションの重要性が増していると言える。
2.目的
本プロジェクトでは、ロボットによる弦楽器の自律的な演奏のための基盤プラットフォーム
を開発することを目的とした。本プロジェクトでは、バイオリンを開発対象として用いたが、
バイオリン以外の擦弦楽器についても本開発成果を容易に適用できることを目標とした。
自律的な演奏を実現する上で、ボーイング動作を、微小時間毎で量子化し、微小時間ご
とに正確に制御することで、ボーイング動作を再現する方針をとった。同時に、さまざまな奏
法を実現できる柔軟な制御システムを開発することを目的とした。
本制御システムを応用して、将来的に、ロボットが、人間らしい演奏を行うための研究・開
発基盤となりうる基礎的なプラットフォームを開発することを最大の目的とした。
3.開発の内容
制御対象となるデバイスの動作機構
制御対象となる本デバイスの動作機構の主要部分は、
以下の機構部分から構成される。
1.運弓部
1.1 運弓機構
1.2 演奏弦選択機構
2.音階決定部
2.1 音階決定機構(2基)
2.2 弦選択機構(2基)
2.3 弦押下機構(2基)
図 1 本デバイスの全体構造
1/4
( 1 ) 運 弓 部 ‐ 演 奏 弦 選 択 機 構 2軸で構成され
る。図1に、軸1、軸2として示した。軸1と軸2には、
それぞれリニアモーターが利用されている。軸1と軸
2は250mmのストロークを持ち、それぞれ独立に
動作し、位置精度10マイクロメートル、最大10Gの
加速度で動作させることができる。軸1、2と軸3は
直動ベアリング、回転ベアリングを介して接続され、
軸1と軸2が互いの相対位置を変化させることで、軸
3の角度を変化させることができる。これにより演奏
弦選択を実現した。
弓圧の制御も同様に軸1と軸2によって行った。
図 2 運弓部構造
(2)運弓部‐運弓機構 1軸で構成される。図2に
は軸3として示した。軸3は500mmのストロークを
持つ。仕様は軸1、軸2と同様。軸3は、弓と直結して
おり、直接弓速を制御する。
(3)音階決定部‐音階決定機構 音階決定機構
は、図1には軸4、軸5として示した。仕様は、運弓部
に使用されている軸と同様である。平均律のポジシ
ョンを、軸4、軸5の動作原点からの変位として事前
に記録しておき、音階を指定することで、該当ポジシ
ョンまで弦押下機構が高速に移動する。左右に二基
設置されている。
同時にビブラート奏法を実現するため、決定ポジ
図 3 音階決定部‐弦選択機構
ションの上下に、ストローク6mm、周波数6Hzで振
動する。ストロークと周波数は自由に設定できる。
音階決定時には、一音の演奏時間中に、もう片方
の音階決定部が次のポジションを事前に押さえてお
く動作を行う。和音を演奏する場合に次のポジション
をあらかじめ押さえておくことができなくなるが、この
場合は、演奏終了後、次のポジションに近い方の弦
押下機構が最大加速で次のポジションに移動する。
図 4 音階決定部‐弦押下機構
( 4 ) 音 階 決 定 部 ‐ 弦 選 択 機 構 弦選択機構は、
ボールねじ式の直動アクチュエーターを用いた。音階決定部軸4、軸5全体を、左右に30
mmストローク移動することで、左右の弦押下機構が第1弦から第4弦のどの弦でも押さえ
ることができる(図3)。弦選択機構は、リニアアクチュエータ全体を動かすため、相対的に
低速な動作となる。音階決定においては、出来る限り弦選択機構の速度に頼らない演奏計
2/4
画を構築する必要があった。
(5)音階決定部‐弦押下機構
弦押下機構は10mmストロークを持つプル
ソレノイドが二個対向して配置された構造
(図 )を持ち、弦を押さえる動作と解放する
動作を行う事ができる。
弦と接触する部分には、表面を低摩擦に加 図 3 制御試験用ユーザーインターフェース
工したウレタンゴムを用いて緩衝した。
弦押下機構は、異なる弦であればもちろんだが、同一弦上であっても、弦選択機構を動
作させることなく、互いに干渉せず、任意の位置を押さえることができる。
デバイス制御システム概要
リニアモーターはコントローラーからの指令パルスに従って動作する。コントローラーは同
時にハードウェアタイマーを持ち、制御PC上での正確な時間測定を可能にした。
軸の直値移動命令は、トランザクション処理として取り扱われ、複数軸に渡る一連の動作
命令をひとまとめにして、トランザクションの中に入れ、複数軸の完全同時スタートを行うこ
とができる仕組みを開発した。
バイオリンの固定は、専用クランプで行うが、固定時には当然ながら、設計値からのズレ
が発生する。四弦独立のピックアップからの信号(音)を制御PCに入力し、各部アクチュエ
ーターを動作させることで、アクチュエーター群とバイオリンがどのような位置関係で固定さ
れているかを自動判別し、設計値からのズレを補正するキャリブレーションの仕組みを開発
した。
メインの制御ループは、1ループ10ミリ秒単位で実行され、一回のボーイング動作は、1
0ミリ秒ごとの弓の動きに分解して制御される。
音階決定部音階決定機構は、音階決定動作と、ビブラート動作を行うが、前者は高速か
つ正確な位置決めを行う必要があるのに対し、後者は、滑らかな高速往復運動を行うもの
であり、制御の性質が大きく異なる。このため、リニアモータードライバの各ゲインを動的に
変更する仕組みを開発し、音階決定時とビブラート時では、異なる設定ゲインの下、動作制
御される。
図 3に示した制御試験用ユーザーインターフェースでは、現段階において、連続する三
音を演奏することが出来る。各音について、利用する弦と、音階を指定し、前休止、演奏時
間、後休止をそれぞれ10ミリ秒単位で指定し、ビブラートの振幅と振動数を指定することが
できる。同時に、弓圧と弓速を10個の縦スライダーで指定することができる。各スライダー
設定値は、スプライン曲線で補完される。制御試験用ユーザーインターフェースを通した場
合、各音とも全弓を利用して演奏されるため、弓速については、制約条件下での相対変動
となる。
4.従来の技術との相違
3/4
リニアモーターを用いた制御システムにより、従来の技術に比べ、高速高精度で演奏動
作を制御することができるようになった。ロボットによる自然な演奏を実現するために、私た
ちがとった方針は、演奏の左手系、右手系ともに、微小時間に分解して再現するというアプ
ローチであり、本方針に基づき、自然な演奏を再現するための研究開発を進めるプラットフ
ォームを開発することが出来た。従来においても、弦楽器を演奏するデバイスは研究レベ
ルで存在しているが、我々のシステムは、自然な演奏を工学的に実現するための研究基
盤として開発されたものであり、演奏そのものを第一目的としておらず、演奏動作中の各軸
の物理状態、各部の状態をセンシングし、それらを用いて、より自然な演奏とはどのような
ものであるかを工学的視点で分析するために開発されたという点が、従来技術と異なる点
である。
5.期待される効果
(1)コンピューター音楽分野において、サンプリング音源が一般的に利用されているが、
我々の開発成果を、プログラマブルな生音源として利用することで、コンピューター音
楽作成において、新しいタイプの音源となり得る可能性持っている。
(2)本開発は、アコースティックな楽器をデジタル制御する試みであり、従来のアコーステ
ィック楽器演奏に囚われない、新しい奏法や表現を生み出す可能性を持っている。
6.普及(または活用)の見通し
本システムはいまだ発展途上であり、本アプローチによって、人間の演奏、さらには演
奏による表現をエミュレートすることができるのかどうかという、最も根本的な問いは、確認
されていない。しかしながら、本アプローチは、工学的に最もプリミティブなアプローチであ
り、人間の演奏表現を工学的に分析するために、最初に確認しておかなければならない方
法論であると言える。したがって、まず、本アプローチによって、人間の演奏による表現に
どこまで迫ることができるのか、ということを、工学的側面だけではなく、多方面から探求し
てくことが先決である。
その活動の一環として、コンピューター音楽分野の作曲家と協同し、本システムを活用
した新しい音楽表現の可能性を研究する活動を開始する。
また、本デバイスを四台利用した、弦楽四重奏の演奏会を開催し、本開発成果を広く一
般にアピールしたいと考えている。
本システムでの研究成果に基づいて、低コストで実現可能なデバイスの設計開発を行
い、中長期的には、ネットワーク経由での楽曲配信と組み合わせた、生演奏を行うジュー
クボックスのような役割を果たす、新しいエンターテイメントデバイスとしての活用を視野に
入れたいと考えている。
7.クリエータ名(所属)
藤野 真人(フェアリーデバイセズ株式会社)
古川 浩太郎(東京大学大学院情報理工学系研究科)
吉澤 智也(東京大学大学院情報理工学系研究科)
(参考)関連URL
http://d.hatena.ne.jp/nagisasaka/
4/4
Fly UP