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東京大会(2010年11月) - KHJ全国ひきこもり家族会連合会
<「全代研」東京大会(2010・11・13~14)> 調査部提供研修資料 KHJ親の会 調査部会長 S.Sato <目 次> 1.はじめに 2. 「ひきこもり」問題小史 2-1.学校嫌い→「引きこもり」 2-2.二つの潮流 3.欧米、他の調査など 3-1.日本に“若者風土病発生!” 3-2. 「ニート」カテゴリーの一般化の功罪 4. 「ひきこもり」の力学的バランス考 4-1. 「ひきこもり」の力学的イメージ 4-2. 「ひきこもり」と脱出支援の諸段階 5.困っていること、訴えてきたこと 5-1.親の悩み~子供の将来~お金の問題 5-2.KHJ親の会の実践し、訴えてきたこと 6. 「ひきこもりガイドライン」の経緯 6-1.KHJ親の会の願いと内外への啓蒙活動 6-2.旧) 「ガイドライン」の(暫定版)と (決定版)のレビュー 7.新版・ 「ガイドライン」の要諦 7-1.要旨の解説(調査部) 7-2.その数(内閣府調査) 8.精神保健福祉法制をめぐる最近の動向 8-1.従来法のレビュー 8-2.総合福祉法(仮称)と精神疾患対策基本法(仮称) 9.まとめと残された課題 9-1.考察結果のまとめ~「ひきこもり」問題の 理解と到達点 9-2.今後の制度的展望と期待 -1- 1.はじめに 私(調査部会長)が「KHJ親の会」の調査の役割をお受けしたのは、2003 年 7 月に「ガイド ライン」 (いわゆる決定版~2001年の暫定版があったのでこう呼ばれた)が出た頃と思います。 当時、英国BBC放送が全世界に向かって“日本で100万人の若者が失踪!”と50分の日本取 材番組で報じたので、ネット検索経由でKHJ親の会に問い合わせが殺到したのでした。 大学からグループ研究の補助金100万円相当を得て、訪日したデンマークの学生4名と「ガイ ドライン」の概要、特に“定義”の問題について議論 したことを思い出します。斉藤環医師の“6ヶ月以 上云々・・・”の定義を説明しました。彼らは“そ こまでが勝負で、日本は危機感が乏しい”と云った のです。調査論文が、ネット公開されていたことがありま したが、なかなか秀逸な論考でした。以降、南はブラジル まで数カ国、10人くらいの人文科学系大学院生の修士論文テーマの相手をしてきました。しかし、 まともに完成した学生はほとんど居ませんでした。大方は情報提供が進むと、それは“精神医学・心 理学”の課題で、日本発の外信報道の印象とは異なるとの理由で、やがて交流が途絶えました。 訪日した学生と、ある著名な自立支援塾を訪ねたとき、 “天照大神とスサノオの皇子との「天の 岩戸神話」”から延々と説き起こされ、学生が退屈していたことを思い出します。動物の熊の“穴 籠もり”などに例を求めたり、ギリシャ神話の寓話に根拠を求めて人の“ひきこもり心性”を論考 する人もいます。いずれも一理あり興味深いのですが、ここでは下図の様に、5 軸の視点とし、特 にⅢ、Ⅳの視点に絞りたいと思います。この 5 軸の視点は、現在内閣府主催の「障がい者制度改革 推進会議」で議長代理をされている藤井克徳氏の著書の中からヒントを得たものです。「ひきこも り」問題は考えだすと、個々の事例と社会環境、原因と結果との交絡した要素などがあまりにも多 すぎ、収拾が付かなくなるのです。また、「不登校」問題から「ひきこもり→(大人年齢に遷延化 した漢字表現の)引きこもり」問題の間では、大変に年齢の巾が広いのです。過去10年余の間、 日本では“爆発的”と云っても良い程大量な情報が流されました。外国にはないことでした。 この小冊子では、簡単にⅢ:国際比較の視点とⅣ:関連分野比較の視点に絞りたいと思います が、いわゆる「ひきこもり」問題を眼前足下の支援論的課題に限定せず、少しだけパノラマ的に“風 呂敷”を広げて考察したいと思います。そして、最近政府から公示された“ (新版) 「ひきこもりの 評価・支援に関するガイドライン」”とその“人数問題を焦点とした「若者の意識(ひきこもり) の調査」 ”についての所感を、KHJ親の会の運動の軌跡を交え、40枚程に絞った図版を使って、 持論の一端を紹介したいと思います。少なくとも過去10年、ネット上の情報、出版物、TVなど のメディアが大きくと取り上げて来ました。上記の公示を読むに及んで、 「ひきこもり」~「ガイド ライン」に関する反応や見方は大きな転換点(ターニングポイント)にあるのではないかと感じて います。 -2- 2. 「ひきこもり」問題小史 2-1.学校嫌い→「ひきこもり」→(漢字表現)「引きこもり」 「ひきこもり」という“状態像”に陥っている者の約70%が不登校からの遷延化であることは 「全国引きこもり KHJ 親の会」の調査他、多くのデータが示しています。 (学校嫌い→登校拒否→) 不登校問題に関するごく初期の文献としては、例えば、51年前(1959年)のものがあります。 若き相談員(後に兵庫教育大学長)であった佐藤修策先生の臨床的論文です(登校拒否ノート:北 大路書房)。ここでは、いわゆる“怠学”の他、病理性をもつ場合の「登校拒否」を身体的、神経 症的、精神病質、分裂病的登校拒否などに大分類されています。そして、登校“不能” (CAN NOT~ DO NOT ではない)の場合は、2者択一の選択肢の結果として“家に居続ける”以外にないという “状態像”記述があります。 また、例えば、今から42年前の1968年6月には上記佐藤修策先生の著書(登校拒否児~ 国土社)に「引きこもり」の呼称があります。遅れて37年前の1973年には、当時大妻女子大 学教授だった平井信義先生の著書(登校拒否児~新曜社)に「部屋に閉じこもる」~「巣籠もり」 などの言葉がみられます。すなわち、この頃に現在の重症にある壮年々齢期の「引きこもり」の源 流があるとも云えそうです。学齢期を過ぎれば①: “ひきこもり状態”だけが残るか、②:首尾よ く脱出に成功するか、③: “リバウンド”を繰り返すかですが、 “①+③”が無視できない割合(≒ 30%)であるというのが現実でしょう。 当時の諸氏の論考を引用しながら、情緒障害概 念から、より分析的な病理性の側面を性格障害、 破瓜型精神病、自閉症、うつ性の神経症状など、 すでに現在の国際標準に通ずる視点で紹介され ている。 2-2.二つの潮流 1980年代後半に入ってからは、当時筑波大学の助教授で精神科医の稲村博先生の治療活動と 警鐘、大著「不登校の研究」(新曜社)などに反論して、一部の学校教育系やいわゆる人権派の論 者、児童精神科医などが大きな論争を惹起させた他、「不登校」→「ひきこもり」に加え、更に数 年前から流行語的概念となった「ニート」は、「ひきこもり」の病理面の理解を大変に混乱させて しまいました。「ひきこもり」の原因系についても、個人病理→家族病理→学校病理→社会病理と 対象範囲が拡張されてきました。そして今また、個人病理回帰の動向が見られます。近年でも様々 で多くの“状態像先行”の論稿、著作が出ているために、なおも“さまよえる課題”から抜け出せ ていません。登校拒否に遡れば50年・半世紀、「ひきこもり」問題に限っても40年以上になり ます。この間の“理と情の両義性”からくる論調の紆余曲折は、欧米にはみられない、日本でのみ 顕著な潮流となってきたのです。 -3- 下図は大変に“ややこしい”図版ですが、この二つの潮流~“闘争史”とまで云われる20年余 の経過を世俗的社会史の視点でパノラマ表示したものです。今回の(新版)「ガイドライン」は、こ の闘争の歴史に“ひとつのけじめ、決着”をつけたものであると云えるでしょう。2001年の 暫定版と2003年の決定版の両方の担当であった伊藤順一郎主任が、これらはまだ仮の梯子で、本格 的なものが今後必要であると述べていました(「こころの科学123号」)が、3 年の調査・議論を経て、 今公示されたのです。 下図は、特に説明不用と思われます。分かっていても難しい問題です。欧米の先進的な国々では、 心理的な痛みを伴うことは承知で、政府の保健機関が過剰なほど啓発活動をやってきています。例 えば、USA の連邦保健局(厚生省)は統計資料を公表し、 “知識は共有されなければならない”と いったスローガンで精神病理への関心をキャンペーンしました。パニックは起こらなかったそう です。 -4- 3.欧米、他の調査など 3-1.日本に“若者風土病発生!”~“100万人が失踪!” これまで、「ひ(引)きこもり」は“日本固有(Unique)”の若者の流行病であるとか、“社会現 象”であるとか、東京駐在の多くの海外メディアは、日本特異文化論を背景にした論調で全世界へ 発信してきました。海外には本当に「ひきこもり」はないのか、あるとすれば、対応方法を比較す るなど、お互いに学ぶことができるはずです。今までそんな思いで、調査活動を続けて来ました。 私はイギリス、フランス、スペイン、スウェーデン、デンマーク、スイス、オーストラリア、U SAや韓国、香港、中国本土などの情報を文献、ネット、メール、直接関連者に聞くなどの手段で 調べてきました。韓国へは3度行きました。現在の結論は日本ほどでないにしても、先進的な工業 国では「It exists, but not so massive like Japan~日本で100万人!と云われている程に多 くはないが、“そこそこ”はおります」ということでした。 厚生労働省の委託研究チームのレポートにもイギリスとフランスの精神保健分野の専門家、合計 30名にアンケートした結果が紹介されています(担当~川崎医療科大学:青木省三教授)。感触的結 論は私と似ており: <<本人病理x(家庭x社会)>>でした。即ち、私は、欧米は日本と扱い方が 大きく違っている、との結論を持つに至っています。しかし、その扱われ方の仔細は、なおも不明 確です。韓国では、精神科来診のカルテをレビューすると、「ひきこもり」の状態像があるし、自 死例では多くがひきこもり状態だったとの検死報告は普通にあるのだそうです。 以上の調査を通じて、特に印象に残った情報は: *英国BBC放送の2002年の50分ドキュメンタリー報道“日本のHIKIKOMORI~ 100万人が失踪!(DVD入手済み) ”が英国内やベルギー、オーストラリア、インドなども含 め、広く英語圏で紹介されました。原因は寝食を犠牲にするような“塾”における過度な詰め込み 教育、20歳代では働きすぎ、家族内のコミュニケーションの欠如(斉藤環医師のコメント)など が原因とされていました。しかし、多くの視聴者から同情も含め、少なくとも、そのような「ひき こもり“状態” 」は日本に限られた“独特”なものでないとする投書が数十通ちかくありました(こ れは今でもネットで見ることができます)。なお、余談ですが、取材された奥山さんが、暴力防衛 の“目潰しスプレー”を持っている(ヤラセ?)写真、障子に映る“ひきこもりボーイ”の影、斉 藤環医師の120万人という推定数字のコメントや、これを救うのは日本の伝統仏教の力~(お坊 さんの写真あり)などとの取材者の想定シナリオが見え隠れしていました。 そして、 このB B C 情報が世界を駆け巡り、 “H I K I K O M O R I ”は世界語となったのです。 -5- *フランスの精神科医、英国やオースラリアの「不安障害セラピーのNPO」の責任者やデンマー クの学生は「広場恐怖症」~「社交不安障害(Social withdrawal)」ならわが国にもあるとのこ とでした。特にフランスの精神科医は、東京発の外信報道では“社会システム”が原因だと、観念 的に強調されているが、もっと個々人の心の悲劇性と環境との脈絡でも考えるべきでないか、と忠告し てくれました。 *社会学的テーマかと思い、修士論文のテーマに取り上げようと思ったが、精神医療の問題と考 えられ、専門分野が違うので中止する(オーストラリア、スペイン、ブラジルの学生)などなどの 応答から、欧米ではおおむね精神病理の状態像と治療の枠組みで取り上げられていることが分かり ました。デンマークの学生など、なんとか論文にまとめきったものもありますが、メディア学的視 点や比較文化論にやや偏ったものでした。 *また、お隣の韓国では“ウンドゥンヒョン・ウエットリ(隠遁型ひとりぼっち)”とか“バン・ コーン(部屋ごもり)などと呼ばれ、15年くらい前から論文があり、その推定数は20~30万 人程度(朝鮮日報紙の精神科医へのインタビュー~推定情報)のようですし、10年以上前からS SRIを補助剤とした心理療法が行われてきました。韓国のこの分野で著名な精神科医のイ・スヒ ョン先生の京都講演も聞きました。その弟子のヨ・インジョン医師がKHJ親の会の広島と仙台の 大会で対応の一端を紹介されました。 *最近香港での調査統計、北京政府の警鐘記事もネット上で見られます。従って、程度の差こそ あれ、世界的な実態でしょう。なお、中国語で“ひきこもり”は“自我封閉(在房、または家里)、 あるいは、“蔽遮青年”などと呼ばれています。3年ほど前、日本の“「引きこもり」対応”を揶 揄した米人政治ジャーナリスト・Michael Zielenziger の本がUSAで出版され、日本語版(ひき こもりの国)も出ました。“日本固有”を前提とした本の論旨に対して、少なからぬ反論が足元の USA内から著者のブログ(ネット上の公開日記)に書き込みとして寄せられていました。この反 論に抗しきれず、著者は“USAを含めて真実を隠す国のあることは嘆かわしいことである”と釈 明していました~ちょっと皮肉なことです。 -6- さて、「社会的ひきこもり」の“社会的”は日本の著名な精神科医によって日本語訳されまし たが、英語感覚で“Social”は社交的(人付き合い)が第一義で、社会に強く原因を求めるニュア ンスはないようです。中国語圏では“社交退縮(シュー・チャオ・トイ・シュー)”だそうです。 日本の“社会的”という形容が問題対応の焦点をぼけさせ、扱いと専門家の育成を難くしたという 見解があります。今までの経過を見ると、2001年5月の「ガイドライン(暫定版)」では“社 会的”という形容語がついていましたが、2003年 7 月の「ガイドライン(決定版)」では削 除されています。2 年ほど前、医学用語としても“社会→社交”と公式に変更されました。 (下図はネット情報で、未確認です) 欧米では“Social Withdrawal(人付き合いからの逃避)”は大方の精神病理に付随する“状態 像”であって、その潜在・裏面状態の診断と治療対応が専門家の仕事となっています。あるUSA のネットでは“ひきこもり、ないし孤立”を引き起こす病理症名を37例あげ、二つ以上の複数診 断が通例であり、社交不安障害(SAD)の場合、“うつ”を随伴する場合が非常に多いとされて います。USAの保健省は1,900万人が被患しているとアピールし、国民の注意を過剰なまで喚 起しています。治療の第一選択肢(完全でなくともベター)は“SSRIなどの薬剤を補助とした 認知行動療法”だそうです。 1 0 0 %の効果がなくても、公的な対応の指針がないと、世の中の不 安は高まるものと思います。 不登校問題に関連して、早期介入(相談・働きかけ~兆候の早期発見、治療方法の検討)がア ピールされています。特に欧米では、“SSRIなどの薬剤を補助とした認知行動療法”を中心と した応用療法が神経症圏の病理を対象として進められてきたようです。 1980年代の初めから不安障害(Anxiety Disorder)への認識と治療戦略、技術がいち早く開 発され、専門セラピストが養成されてきたのです。英・米の認知行動療法の開発普及やSSRI剤 の認可(USA:1990年)と日本の不登校問題に端を発した二つの潮流の反目(“闘争”とま で呼ばれている)の間、欧米では“SSRIなどの薬剤を補助とした認知行動療法”が定石として 普及・定着化したようです。日本でも、認知行動療法が精神・心理療法の標準として公認される方 向だそうです。私は“日本の対応:失われた20年?”と感じているのです。 以上のまとめを次 頁の図版で示します。 -7- 3-2.いわゆる「ニート」カテゴリーの一般化と功罪 日本では、いわゆる「ニート・無業者(NEET) 」が、一時“流行語大賞”候補に挙げられたこと がありました。本場英国との対象の定義の違いは既に多くの書籍で解説されています。貧困家庭の 子女の就業前の基礎学力不足のハンディキャップのための助成制度や地域ネットワークなのです が、日本では年齢をはじめとして対象が拡大され、広義な言葉として一般化・普及されてしまった のです。 そこで、“論より証拠”→英国でのNEET政策検討時の“ Lisa の事例”という論文(確かエ デンバラ大学?~英語原文は表でした)を紹介します。若者無業者への早期支援を目的とし、国と しての長期財政々策の視点からのシュミレーションでした。支援の予算額はその人の一生に要する 社会保障~福祉費用の早期投資の経済的効率性向上の視点から立案されています。 ~~~~~~~~~~ **年齢:(「NEET」支援前の)16歳まで、 母と暮らす→7歳の時に父は死亡→母は男の友達を連れ込み同居→15歳のとき自殺未遂~ 喫煙、アルコールに溺れる→万引きで逮捕さる→中学時代には不登校ではなかったが、高校は遠く て、生活保護の状況では行けなかった。 *公共の負担:生活保護費、健康保険、社会福祉費、犯罪補導、訪問サポートなどは公費負担 された(金額記載なし) **年齢:16~18歳まで、 母は男性と正式に再婚し、公営住宅に住む→まま父との関係はよくなる→“うつ”傾向になる ~10代で妊娠する→薬物、アルコールに溺れる→犯罪で補導される→就職指導の誘いがあったが “うつ”のため参加できない→喫茶店でパートを始めてみたが、結局ニート状態となる。 *この間、公共の支援支出は約(円換算)60万円 **年齢:19~25歳まで、 20歳で2番目の子を生む→産後の“うつ”に苦しむ→喫煙、アルコールに溺れる→就業支援 -8- の場に参加できず無効であった。 *この間、公共の支援支出は約(円換算)900万円 **年齢:26~35歳まで、 正式に結婚していなかったボーイフレンドに棄てられ、未婚の母となる→生活苦しく“うつ” に悩まされる→子ども達は通学を始めたが、評価されない→アルコールに溺れる→でも、パートの 仕事を時々やる。 *この間、公共の支援支出は約(円換算)2,700万円 **年齢:36~45歳まで、 ひきこもり(Her own~一人ぼっち)になる→ストレスに悩む→長子が10代になる→アルコ ール障害に悩むが何とか就業できる。 *この間、公共の支援支出は約(円換算)1,090万円 **年齢:46~60歳まで、 新しいパートナーができる→健康は回復傾向で薬物、アルコール依存は軽くなる→子ども達は 家を出て行く→フルタイムで働けるようになる。 *この間、公共の支援支出は約(円換算)1,220万円 **年齢:61~75歳まで、 家族もなくなり、一人ぼっちとなる~薬物依存はないが、健康的には“ある種の慢性状態”が 残る。 *この間、公共の支援支出は約(円換算)1,660万円 **年齢:75歳以上、 家族なく、病弱状態のまま77歳で死亡する・・・(いわゆる「孤独死」か、どうかは記載な し)。 *概ね「NEET」だった英国女性Lisaの生涯に公共が負担した費用の合計<7,850万円> ⇒ 「7,850万円/受給60年間≒“11万円/月”」 となります。 ~~~~~~~~~ 「ニート」の状態像の定義(小杉礼子)によれば①: “せつな”を生きる、②:つながりを失う、 ③:立ちすくむ、④:自信を失う、⑤:機会を待つ、などの特性が挙げられています。①~⑤は「ひ きこもり」も同様に持っている特性です。したがって、表面的な生活の状態像を短期に見ただけで は判断できず、精神科医の専門的診断が必須と思われます。英国では学齢終期から23歳くらいま で、病理性の有無が慎重に観察されているそうです。新版「ガイドライン」では、この「ニート」 についての考え方が示されています。また、 「若者の意識(ひきこもり)調査」では、 “趣味の目的 では外出できる”という状態像定義で「 “準”ひきこもり」という分類(46万人)がありますが、 これが「ニート」に対応するようです。 この4月から発効した「子ども・若者育成支援推進法」は、続いて公示された大綱(ビジョン) で、「ニート」も「ひきこもり」も、両方を対象とするように書かれています。いわゆる「サポー ト・ステーション(サポステ)」来訪者の半数以上がメンタルクリニック受診経験者であったとい う公的調査結果もあります。「サポート・ステーション」の活動がさらに進み、拡大されれば、よ り良く実態が見えてくると思われます。今は過渡期ですが、いずれにしても、 「サポート・ステー ション」活動の内容に客観的・精神医学的な介入の必要性が高まってくると思われます。 「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン」にはひきこもりとニートの弁別認識のために、 次のように、従来よりも踏み込んだ見解が示されています。抜粋紹介します; “ひきこもりは少なくとも半年以上は社会参加できずにいる状態であり、かつ、社会生活の再開が 著しく困難になって精神保健・福祉・医療の支援対象となる状態を言いますので、支援の必要性の 深刻度と言う視点から用語を使い分ける必要があります。しかし同時に、ニート状態の人には、本 ガイドラインで示したようなひきこもりの問題を抱え、専門的な支援を要する人が少なからず含ま -9- れていることを心得ておきましょう”。 ・・・したがって、精神医学的関与(診断)が必須条件 となるのです。 下図は「ニート」と「ひきこもり」の類似性を社会参加の視点からイメージ化した図版です。「ニート」と 違って「ひきこもり」は、家族以外に見えないことが、致命的なハンディキャップなのです。 4. 「ひきこもり」の力学的バランス考 4-1.「ひきこもり」の力学的イメージ 深遠なる“こころの問題”に力学的概念を持ち込むことは不遜で冷酷かも知れません。しかし、 ひきこもる若者は、生物学的病理性の有無にかかわらず、旅立たなければならない社会などの壁を 前にして、“作用と反作用”で押し返されて挫折し、やむなく、育った家庭に留まっているのです。 奥山語録に「壁や親を“仮想敵視”しなかったら、社会の圧力に対しもたなかっ た・・・」という、若者の回顧の弁がありました。また、別の著名な支援者の方 から、“ひきこもり状態”は最後に親から勝ち取った権益である(?)という理 解もあると聞きました。 -10- もう少し作用・反作用の関係をパノラマ的に表すると、上の図版のようになろうかと思います。 今まで、多くの方々の論考や著作でこういった類の図が画かれてきましたが、概ね当たっていると 思います。 4-2.「ひきこもり」脱出支援の諸段階 重要なのは“解釈”ではなく、“支援の実践”だよ、という意見も多く聞いてきました。支援モデ ルとして、私は下図のような図版を画いてきました。大きく分けて①:家族との事前協議の段階、 ②:脱出誘導の予備段階、③:脱出誘導の実行段階、④:居場所で最低限の持続的人間関係育成の 段階、⑤:作業指導の段階、などがあります。一般就労はまだ霞の中です。経験的に、①~③の段 階が圧倒的に難しいのです。若し、さきの内閣府の発表数字24万人が“真性”引きこもりだとし て、5%の成功率でも、1万2千人が「サポート・ステ-ション」に来訪することになります。全 国に100箇所あるとすると、1箇所当たり120人の通所があるという計算になります。 -11- とにあれ、私は、唯一「サポート・ステーション」という窓から隠れた実態の霧が晴らされてい くと考えています。5%でも希望の光です。成功の条件やノウハウには色々あったと思いますが、 今後の調査の貴重な糸口に期待したいものです。そのためには、詳細な数値を伴う調査を、十分な 公費を投入して長期的に行って欲しいと思います。最近、内閣府が事例収集やヒアリングを行って います。 5.困っていること、訴えてきたこと 5-1.親の悩み~子の将来~お金の問題 KHJ親の会の当事者の平均年齢は30歳を超し、20歳の半ばから40歳代までに及んでいま す。 父親の平均年齢も60歳を超 えています。従って、左図のよ うに、親の悩みは、カウンセリ ング゙や居場所にどうつなげる か、有効な治療方法はあるのか など、不登校問題で苦労した思 い出は遙か昔のことで、今はこ の子は“親亡き後はどうなるの か”などと、当事者の将来を思 い悩み、多くは2重のひきこも り状態にあります。この訴えは、 他の 障がい者の会 でも同様 で す。 右の図版は“ 「引きこもり」と その生涯問題、特に、お金の問 題を示したもので、会報「旅立 ち」の第20号(H16年3月) に紹介されていました。父親が 80歳で他界したとすると、以 降35年間の生存のために、最 低7,000万円が必要と計算 されています。 あまり夢のある紹介ではあり ませんが、あり得る見通しだと 思います。英国のニート対策は 似たような計算例を根拠にして 福祉の制度設計をしているよう です。 5-2.KHJ親の会の実践し、訴えてきたこと KHJ親の会は“実体がない”と、他の団体が揶揄する声がままあるようです。そこで、過去約 10年間の活動を、58号に及ぶ会報でレビューしてみると、全国に展開されてきた地区会の実践 活動が随時紹介されています。全国各地区での話し合いの会や、医療や心理、福祉系などの様々な 分野の講師を招いた研修会が行われてきました。本部は「大会」など“扇の要”としての役割の他、 講師の仲介、資金的支援をしてきたことが伺われます。数人単位のグループでの話し合いなどは、 極めて基礎的なことですが、大変に価値のあるものだと思います。公的機関から“親の会”を紹介 され、入会してくる新しい親御さんも全国的に多く居られるそうです。このような実践の一端を次 -12- に紹介します。 左は標準的な“話し合い”の風景です。個々人 から得るよその家族の様子や地区を越えた情報 は大変に貴重とされてきました。 KHJ親の会の場合、統計データにも示されて いますが、歴年数が平均ほぼ 10 年という、いわ ゆる“大人なぐみ(→ポスト青年期年齢に至って しまった) ”であるために、古参の親御さんが新 人家族に経験を指南するような風景も見られま す。新人に恐怖心を起こさせないように抑制した 語り口が必要でした。時に認知行動療法の“暴露 療法”を思い出すような風景もありました。 隠されていた「ひきこもり」問題に関する限 り、講師もまた「学ぶ人」の感想をいつも持ち ました。時には、中規模な大会形式で基調講演 的な講演やシンポジウムを開き、さらに巾の広 い交流を企画されたところもありました。 例えば、講演の演題は(旧) 「ガイドライン」 の解説だったように思いますが、この時、演者 は県の当時の精神保健福祉センター長でした。 現在の(新版) 「ガイドライン」の委員の一人 である近藤直司先生を招いたこともありまし た。 会報「旅立ち」創刊間もない、第 3 号(2001 年7月号)に、■それでも相談に行こう~諦めず に相談に行って欲しい。行政も相談者がある中 で、対応能力が増すであろう・・・という檄文が 流されていますが、そのことは知らず、県の精神 保健福祉センター長のカウンセリングに3年以 上も通いつめた愚直な親夫婦がいました。左の写 真はその人の“診療・相談券”です。 なんと、その時の“カルテ”を含め、2005 年 時点で740件の情報ファイルがあるそうです (上図は NHK の番組が撮影)。これらの“デー タの宝庫”は如何に生かされるのか、法定の“5 年で廃棄″されるのか、大きな問題です。 -13- こういった、会の内外に向かった啓蒙や実践活動が続けられて来たのです。前頁右下の写真版は全 国の地区会幹事が広島に集まって、活動方針を討議したときの風景です。 前置きで予定の頁数の半分を費やしてしまいました。 以下、本題に入りたいと思います。 6.「ひきこもりガイドライン」の経緯 6-1.KHJ親の会の願いと内外への啓蒙活動 創刊号から入手し、通読してみました。創刊号は2001年の3月11日付けです。 一貫して不変な軸足は、①:「ひきこもり」の病理性の指摘、②:親の会の組織化、③: 中央行政の認識ヘのアピール、④:自助努力の啓発であることが明白に読み取れます。 上の写真は2000年の10月に厚生労働 省を訪ね、*ひきこもり問題は“家族で対応 できる限界を超えている”と対応の請願書を 提出しているところです。当時の担当部門の 課長が“調査の上、3年以内に対応方針を明 確にします”と答えておられます。当時、埼 玉の金属バット殺人事件、長崎のバスジャッ ク事件、新潟の女子監禁事件、などが続発し、 世間の冷たい視線がメヂア記事を賑わせ、親 達もわけがわからず、親自身、凍りつくよう な気分だったのです。精神科医や心理の先生 方のコメントもまた“10人十色”でした。 それまで、もっぱら「不登校・ひきこもり」 というセットの言葉で論じられ、思春期の一 過性の“状態像”として楽観的に認識されて いたのです。すでに冷静な経時的観察と分析 に基づいて20歳代→30歳代におよぶと警 鐘した研究者も居られたのですが、決して多 数派ではなかったのです。1980年代半ば から2000年代初頭にかけては、混迷の時 代だったと云ってよいでしょう。 上の縮尺コピーは会報「旅立ち」の第3号です。 「ガイドライン(暫定版)」が 2001 年 5 月に発表され たことを紹介すると共に、奥山理事長が感謝と評 価の記者会見を地元の埼玉新聞で行い、会員家 族に対し、今日でも通用する下記のような提言をし ています; ■ すぐに変わるか?~情報力、習熟度、スタッフ 不足などで、すぐに満足できる対応は不十分で あろう。 ■それでも相談に行こう~それでも諦めずに相談 に行って欲しい。行政も相談者がある中で、対 応能力が増すであろう。 ■専任の保健師、PSW、医師などの養成を!~ 圧倒的に不足している人材育成の予算化が急 務・・これは次世代問題なのである。 ■家庭と社会を結ぶ中間施設が必要~これへの 助成のために家族会は手を結び、国会や地方 自治体に運動しよう。 「旅立ち」第3号にジャーナリスト池上正樹氏の2001年7月発売の書き下ろし:「ひきこも り生還記(小学館)」が紹介されていますが、この中の第4章に奥山理事長が正式に「全国引きこ もりKHJ親の会」を立ち上げた頃のインタビュ-記事があります。数頁に及んでいますが、要部 の抜粋を次に紹介します; ~~~~~~~~~~ <(第4章)インタビュ-記事の抜粋> *「引きこもり」に危機感を抱き、全国の孤立していた親たちが立ち上がった。2000 年 6 月に 「全国引きこもりKHJ親の会」という家族会の連合会が埼玉県岩槻市で結成された。この問題は ―14- 一家族だけではどうにもならない。団結して国を動かすしか打開策がないのです,奥山氏は語 る。 ・・・(中略)・・・ *偏見に脅え、世間体を気にし、どこにも相談できないまま、これまでの親達は沈黙し てきた。「病理性を認めたがらない親もいます。批判もありました。しかし、これを認 めなければ、“精神力で治せ、愛情で治せ“」と言われるだけなのです。・・・(後略)。 その池上氏の書き下ろし新刊が、さる 7 月に出ました。 書名と副題は 『ドキュメントひきこもり・「長期化」 と「高年齢化」の実態』でした。第6回東京大会のテー マと同じなので驚きました。 *10 年前は、不登校含めて一過性と思っていたが、違 うようだとか、*直近の内閣府や厚生労働省、東京都の 調査、(新版)「ガイドライン」にも触れられています。 愛知県の一家 5 人殺傷事件の、怖い話から説き起こされ ていますが、今後は社会問題としては勿論のこと、国際 基準により準拠した精神医学的論理面の理解が普及され ることを期待したいと思います。 ところで、前記インタビューの、「全国ひきこもりK HJ親の会を立ち上げの頃の奥山さんの“心情、あるい は心意気”をどう感じられるでしょうか。今でも見るこ とのできる開設初期のホームページには、いわゆる“専 門家”も吹き出し笑いするような素人臭い主張もありま す。例えばKHJのKの強迫神経症、Jの人格障害(パ ソナリティ・ディスオーダ)はOKでも、Hの“被害念 慮”は病名ではないと、著名な精神科医の指摘でした。 それにしても、「K・H・J」とは大変恐ろしいネーミン グだったのです。 かって、私の住む地方の家族会の周年記念会の折り、新聞の“催し欄”にズバリKHJの解説が 紹介され、仰天した人が居ました。私は頭を絞って、“K:心(Kokoro)の健康、H:人(H ito)との交わり、J:自助(Jijyo)自立”という裏のスローガンを考え、2004年の 初回東京大会で、ある人に動議提案をしてもらいました。ところが。奥山議長には渋い顔で無視さ れました。後日、その理由を尋ねました。答えは“俺は言葉の遊戯をするつもりは毛頭ない、これ は「奥山いのち(命)」である”、厚生労働省はこんな甘っちょろい言葉で動くはずがない!俺は 事実・生の声・真実で訴える、と厳しい表情でした。 今でもKHJの表記をやめろと主張する人は少なくありません。参考例として“精神分裂病”の 呼称を変更させるために、精神・神経学会の壇上を占拠し、10年の長きにわたって闘った「全家 連」の例がありますが、精神病理において言葉の問題は、常に問題を引き起こしています。私は“統 合失調症”という呼称は、漢字の文字だけ見ると、いわゆる「引きこもり」の中核症状は“統合を 失調している状態”ではないかと、ふと思うことがあります。「ニート」のことを韓国では「カン ガルー」、中国では「親食族(親を食いものにする)」というとか(?)、だそうです。随分と余 談が過ぎますので、先に進みます ⇒ 6-2.旧「ガイドライン」の(暫定版)と(決定版)のレビュー 今まで、常に「ひきこもり」問題対応は社会を震撼させる“事件”を引き金にして前進してきま した。 厚生労働省は、あの新潟の女子監禁事件後、直ちに調査研究を開始しました。伊藤順一郎 氏を主任とする数名のチームでした。2001年の5月に“暫定版”として指針が出され、ネット 公開されました。 現在は削除されているようですが、全体としては、かなり病理性の視点の濃いものでした。次頁 に示す図版は、その指針の中に画かれていたものです(私の書き込みがありますが)。いわゆる「精 -15- 神分裂病」などの精神的疾患の群、広汎性発達障害、人格障害などの群、明確な診断困難な群に分 けられていることが分かります。しかし、2003年の決定版では、まだ病理としての側面を明確 に示せる色々な環境が定まらなかったのか、支援的介入の側面に重点がおかれたようにみえます。 - 右側の円内は空欄でした。門外漢の私でもこの絵の物語る当時の精神医学界の「ひきこもり」を 扱う場合の、ある種の戸惑いを読み取れるように思います。この頃から、ICD-10やDSM-Ⅳな どの診断マニュアルや尺度が次第に日本でも普及し始め、発達障害や不安障害などの欧米発祥の分 類や解説がネット上でも急増したように思います。 私は、2003年の晩秋秋 に、冒頭に紹介したデンマ ークから来日した学生の グループに、学童期から自 閉症や不安障害に注意す るよう教師や母親が教育育 されていること、これらと 「ひきこもり傾向」への危危 険性が喚起されているこ を知らされ、大変に驚いた ものでした。 右の図版はもらった啓 蒙冊子とその中でコラム を書いた夫人への学生た の事前取材記事事でした。 -16- 結論的には、緻密なマニュアルで早期対応が行われているとのことでした。日本のように数年以 上におよぶ「ひきこもり」は信じられない、とのことでした。また、デンマークでは6ヶ月も専門 医に相談せずに様子見ることは考えられず、それまでの期間が重要とのことでした。また、確か中 学生時代まで、点数をつけて人を評価するいわゆる“テスト”が法律で禁止されているとのことで した。彼らに、今の「ガイドライン」を見せたらどんな反応を示すか、興味ある所です。 下の左の図版は、2001年5月の暫定版当時の調査研究報告書でタイトルは「地域精神保健 活動における介入のあり方に関する研究」の中間報告となっています。右は2003年7月の、い わゆる決定版の表紙です。非売品ですが、全国の精神保健福祉センターなどに配布されたものと思 われます。 ここで注目したいのは、当時も委員の一人で山梨県の精神保健福祉センター長であった近藤直 司先生が国際基準であるICD-10に準拠して「ひきこもり」の臨床例を分類し、12の病理項 目が該当するという、2000年度に専門誌に投稿した自らの臨床知見に基づく論文を資料として 提出し、 「ひきこもり」を一群の病理の“症候群”として捉えるべきだと提言されていたことです。 しかし、この提言は採用されませんでした。同時に支援の実践的方法論なども提言されているので すが、こちらは採用されているようです。家族のあり方や家族会の開き方などへの具体的な指針に 多くの頁が割かれています。車の両輪であるべきだったと思います。また、特に注目すべきことは “社会的”という修飾語が外されたことです。当時、単純な社会現象ではないという認識の表れの ように感じたものでした。 全体的な印象では、「ひきこもり」は状態像であると云いながら、その因ってきたる病理性への 掘り下げが希薄なのです。実践的な支援指針を示すことに重点があったようです。精神保健福祉セ ンターなどには下知されていたようですが、精神医学系の学会人などで、このガイドラインを知る 人は少なかったようです。引きこもりの特性として致し方ない面もありますが、家族そのものを対 応対象としたために、国としての対応しなければならない精神保健スタッフの育成がおろそかにな った面は否めず、大いに反省しなければならない点です。一朝一夕には育たない人材が、日本では 現在、欧米の数分の1であることはよく知られた事実です。この2003年度の「ガイドライン」 (暫定版)の“後日談”について「こころの科学」123号(2005年)に特集が組まれていま “当時の精神医学的知見を した。前記(頁4)したように、伊藤順一郎主任の思いを推測すると、 -17- もっと盛り込みたかったが、うまくいかなかった” 、との思いだったのではないか、と私は推測し ているのです。 ~~~~ところで、少し脱線しますが~~~~ この2003年度版を読み直すと、驚くほど大規模で入念な調査がすでに行われていた事に驚か されます。例えば、ひきこもり当事者本人の年齢調査表( 「ガイドライン」のP135、表16) をグラフ化すると下図のAのようになります。また、最初の問題(不登校・ひきこもり)の発生年 齢(親の“思い出し”による)の調査表(P136、表17)をグラフ化すると下図Bのようにな ります。この二つのグラフを累積分布曲線で表すと下図Cのようになります。 A:来談時の当事者本人年齢 B:最初に問題を感じた時の年齢(思い出し) N=3293 N=3293 C:累積分布曲線 50%の累積パーセントで、来談時の年齢と最初に問題(不登校・ひきこもり)を感じたと時の 年齢(思い出し)の差をみると6年以上も経過していることが分かります。即ち、 「 “はてな?”年 数」があまりにも長いということです。 *公的機関に相談に来る前に、他の機関(学校、クリニック、民間の相談機関)などへ訪れ ている場合も多いと思われますが、公的な認知まで6年以上も過ぎていることは問題であると 思います。別の分析結果では、なんと、来談者の25%は10年を過ぎていたのです。 * 新版「ガイドライン」でも、定義として「・・・原則的には6 ヶ月以上にわたって概ね家庭に とどまり続けている状態・・・」と期間が明記されていまが、6 ヶ月間遠慮して様子をみることで はないでしょう! オーストラリアでは“数週間” 、韓国でも“3 ヶ月”と云われていま す。 -18- 7.新版ガイドラインの要諦 7-1.要旨の解説(調査部) 一般から、旧、新の「ガイドライン」は両方とも“ガイドライン”と呼ばれています。しかし、 2001年(暫定版)、2003年(決定版)の旧「ガイドライン」の研究課題名は「地域活動に おける介入に関する研究」であり、新版「ガイドライン」の研究課題名は「思春期のひきこもりを もたらす精神科疾患の実態把握と精神医学的治療・援助システムの構築に関する研究」であること が、象徴的に両「ガイドライン」の性格、視点の違いを表しているように見えます。 また、旧ガイドラインは「ひきこもり」は“状態像”としながらも、その精神医学的分析には深 く踏み込まず(踏み込み得ず)、とにかく、支援的介入→相談の啓蒙に指針の重点を置いたため、 漠然としたイメージであり続けたようにも見えます。したがって、相談機関に診断的発言の許され る精神科医が配置されているとは限らず、いわゆる“聞き型”相談に終始し、次の段階を指示する ことができない状態が続いてきたと思います。 下の左の図版は埼玉県大宮市でKHJ親の会が産声をあげた時(1999年)の写真で、 「NHKスペ シャル」の放映画像のコピーです。 “K・H・J”の文字が黒板に書かれています。 “K・H・J” の文字は俺の“命”との弁は15頁で紹介しました。それから約10年を経て、日本の80名余の 研究メンバーがそれぞれの研究成果を持ち寄りつつ、それらの全てを含むとする国のデータが発表 されたのです。ICD-10の国際基準やUSAの診断マニュアルも証左し、3年間の討議で打ち 出された結論です。 この(新版) 「ガイドライン(指針) 」は、単 に厚生労働省の補助金によるのみならず、内閣 府も関与しています。国会審議を経た、いわゆ る“法律”ではありませんが、 「ひきこもり」と いう“状態像”を法律の定義条項に組み込むた めの重要な理論的根拠となるものです。上記の 様に国際基準にも整合するものであるとした分 類や位置づけも極めて重要です。 すでに、地方行政の保健・医療・福祉機関に は通知済みのようですが、左の写真は厚生労働 省の「精神・障害保健課」が日本メンタルケア 協会のシンポジウムで紹介している写真です。 全国ひきこもりK H J 親の会を“ 「ひきこもり」を病気にしたがっている会”という揶揄を時々、いや、 長いこと耳にしてきました。 「ひきこもり」は病気ではない、でも“ (公的資金で)助けて下さい・・・” では、何なのですか? これに答えられなければ、餓死覚悟で、自助で生きるしかないでしょう、 が、奥山さんの行動哲学の原点のように見えます。 「ガイドライン」の逐条解説は次頁に紹介し ます。 -1 9 - <「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン」~目次と、その要旨解説(調査部会)> <厚生労働省公示: http://www.ncgmkohnodai.go.jp/pdf/jidouiseshin/22ncgm_hikikomori.pdf > < 目 次 > 1.はじめに 2.ひきこもりの定義・出現率・ 関連要因 -1.ひきこもりの定義 -2.ひきこもりと不登校 -3.ひきこもりとニート -4.我が国のひきこもりの出現率 -5.ひきこもりと思春期心性 -6.ひきこもりと精神障害 -7.ひきこもりと発達障害 -8.ひきこもりを支援対象とする理由 -9.ひきこもりの長期化とその予防に ついて 3.ひきこもりの評価 -1.評価のための基本的視点 -2.適切な評価が行われるための 環境 -3.ひきこもりと関係の深い精神 障害とその特徴 -4.特に留意すべき精神障害 -5.家族しか相談に訪れない場合 の精神障害の 評価についての 考え方 -6.ひきこもりの段階を知ること 4.ひきこもりに対する支援 -1.ひきこもり支援の多次元 モデル -20― < 要 旨 (調査部会長の所感) > このガイドラインを評価する場合、本当は2001年5 月に公示されたいわゆる暫定版や2003年 7 月の決定 版(主任研究者:伊藤順一郎)との連続において読まれる べきです。 基本的な流れは変わりませんが、暫定版が病理性を強く 示唆しながら、決定版では支援の具体的な留意点に重点が 移った感じで、“精神医学的理解”の基礎が鮮明でなかっ たと思います。即ち、今、“突っ込み”がより深まったこ とです。 そのために、旧版を雑に読んだ人達は“「ひきこもり」 は状態を表す言葉であって病名ではない”という表現を “病気ではない”と受けとり、“何で保健所に相談しなけ ればならないのか?”といった(珍)問答が実際に親の会 の話し合いであったことも事実でした。 今回の新版ガイドラインでは、より明確な定義が与え られ、特に①国際基準ICD-10やUSAの分類と診断 のガイドラインにも対応していると明確に述べられたこ と、統合失調症やその辺縁の病理、および様々な発達障害 群が含まれていること、従って、早期診断が強調されてい ること、②不登校の中核病理に精神障害が存在し、“登校 拒否(不登校)は病気ではない”といったイデオロギー的 な言説が否定されたこと、③いわゆる「ニート」との境目 が、精神医学的視点からより明確にされたことなど、国際 的にも通用する基準が示されたことです。加えて、「サポ ート・ステーション」などの施策が万能でないことが示唆 され、“ひきこもり支援”はなお、緒についた段階との謙 虚な認識も注目すべきことです。 ~~~~~~~~~ 評価の基本的視点としては USA の DSM-Ⅳの、いわゆ る「多(5)軸の評定」が応用され、発達障害の1軸が加 えられ、「6軸の評価」手順が構築されているようにみえ ます。 また、短期の観察のみならず、専門職による長期・継 続的な関与が強調されていることは、精神疾患~メンタル な病理の特徴として納得できるところです。 「ひきこもり」状態をもたらす具体的な病症名が例と して紹介されています; *適応障害 *不安障害(社交不安障害、全般性不安障 害、パニック障害など) *気分障害 *強迫性障害 * パーソナリティ障害 *統合失調症 *対人恐怖的な妄 想障害(醜形障害、自己臭恐怖、自己視線恐怖)や選択性 緘黙症など児童思春期に特徴的な精神障害 *注意欠 陥・他動性障害 *知的障害・学習障害など…。 特に注意すべきこととして、早期関与と感度を高めた 病理の弁別診断、カテゴリー分類、評価や段階ごとの的 確な治療が強調されています。また、 「ひきこもり」の特 性から家族を介した対応の留意点も述べられています。 -2.地域連携ネットワークに よる支援 ―a.ひきこもり支援を提供でき る機関 -b.地域の専門機関が連携す ることで得られるもの -c.地域における連携ネット ワ―クの設置の注意事項 -d.ひきこもり支援における プライバシーの保護と守 秘義務 -3.家族への支援 -a.家族しか来談していない 事例の相談 (3項目あり ・・・省略) -b.家族に向けた心理・社会 的支援法(2項目あり・ ・・省略) -4.当事者への支援 (6項目あり・・・省略) -5.訪問支援(アウトリーチ型 支援)6項目あり・・・省略) -6.支援をめぐるその他の課題 -a.専門機関に相談する前にで きること -b.ひきこもりの支援に関する 啓発活動 -c.緊急時の対応に関する考え方 5.今後の課題 -1.ひきこもり支援の 今後の課題 -2.本ガイドラインの課題 蛇足ですが、KHJ 親の会の K:強迫神経症、H:被害妄想・ 念慮、J:人格(パーソナリティ)障害のうち、H は病症 名でないとしながら重要な病理的特長の分野とされてい ます。 前記のプロセスを別に発表されている図版など含め紹介します。 <評価⇒診断~6軸の視点> 1)精神障害の有無 2)発達障害の有無 3)パーソナリティ傾向 4) 「ひきこもり」段階 5)環境要因の評価 6)以上の総合評価 <診断の実態(ICD-10,DSM-Ⅳ準拠の全て)> 〇第1群:統合失調症、気分、不安障害、etc. ・・・全体の≒1/3、~(薬物・心理療法/生活支援が中心) 〇第2群:広汎性発達障害、精神遅滞、etc. ・・・全体の≒1/3、~(心理療法/生活支援が中心) 〇第3群:パーソナリティ障害、適応障害、etc. ・・・全体の≒1/3、~(心理療法/生活支援が中心) このガイドラインでは; *第一の次元~背景にある精神障害に特異な支援 *第二の次元~ストレスの強い環境改善の支援 *第三の次元~自立過程の挫折克服の支援 および、推奨される地域連携のネットワークの構造と 機能~ケースマネージメントの骨格(下図)が示されています が、仔細の紹介と所感は省略します。 これまでの調査・研究を指針(ガイドライン)としてま とめられた到達点は画期的なものであると思います。 しかし、いわゆる“ひきこもり段階”からの理解の外枠 と、それを踏まえた支援の内枠で就学や就労の社会参加に なんとか成功しても、ある一定の割合(10%?)で不成 功状態(ひきこもり)を続ける群の存在を否定できないこ とが率直に指摘されています。 これを残された重大な課題で、早い段階で明確な方策が 提案されるべき(国の)責務であると結ばれています。 -21- 7-2.その数(内閣府調査) 新版「ガイドライン」の公示に呼応するように、7月に内閣府から「若者の意識に関する調査 (ひきこもり調査) 」が発表されました。全国対象の大規模調査で、 「自室からほとんど出ない~コ ンビニなどには出かける」程度のKHJ親の会でもイメージできる「 “真性”ひきこもり」の人口 群が24万人、いわゆる「ニート」と考えられる「 “準”ひきこもり」は46万人で、あわせて7 0万人という推定数字が発表されました。しばらくは公式な数字として定着していくのではないか と思われます。 人口10万人あたり“真性”が200人、 “準”が400人となります。目に見えない対象ですが、 自分の住む市町の人口で計算してみてください。 <数値的理解のために> -22- 発表データを少し細かく、人口分布を加味して分析してみると、40歳を超える層でもあまり 減少せずほぼ同率で存在するのではないか、という結果が出ました。内閣府発表の各年齢層別 の “ひきこもり当事者率”のデータを見ると、各年齢層の当事者数の推定値を 15 歳から39歳 までの総数3,880万人で割っていますが、年長層に対して年少層が60%に減っている(少 子化) 、いわゆる“人口ピラミッド”の実態が考慮されていないように見えます。 各年齢層の当事者の推定人数を、分割されたその年齢層人口でそれぞれ割り算すると、上記右図 版のようにほぼ平坦になってしまうのです。これは40歳以上(父親年齢約70歳以上)でも、同 じように存在することを示唆しているのではないでしょうか。 “長期・高齢化”という大会テーマ を考える場合、見過ごせない視点だと思います。 <専門家の更なる分析と考察を期待したいと思 います>。 8.精神保健福祉法制をめぐる最近の動向 8-1.従来法のレビュー 私は門外漢ですが、日本のメンタルヘルス→精神疾患に関わる法律の体系は「障害者基本法」、 いわゆる「精神保健福祉法」 、最近の「自立支援法」 、 「発達障害者支援法」 、その他多くの保健、医 療、福祉関連の法律に基づいて制度設計されていると思います。かって、名古屋市で、ひきこもり 支援の NPO で、 若者が拉致的に連れ出され、 死亡するという“アイ・メンタル事件”が 起こりました。当時の新聞は一斉に“法の 不在”を指摘し、朝日新聞は社説にまで取 り上げました。当時の新聞報道の“見出し” を日記的に記録した図版を紹介します。 今、冷静に、“法の不在”とは具体的に 何を云っていたのか考えると、①:孤立防 止の支援、②:行政不在・民間任せ、③: 専門医の診断なしなど、確かに法の対象認 識の隙間・谷間・盲点を衝いているように 見えます。的を射ているとは思いますが、 何をどのように・・・が、いまひとつ見え てこないのです。 -23- 「ひ(引)きこもり」は、当事者も家族も国も (困った) “状態像”であることは論を待ちません が、法や制度的支援の枠組みの前提として、もう 少し分解して問題設定する必要があります。 ①: 「ひきこもり」とはいったい何か、 ②:社会参加の場にどうやって押し出すか、 ③:社会参加訓練の方法と就業の受け皿、 ④:②~③に失敗した場合のセーフティーネッ トといった課題になります。 今回の(新版)「ガイドライン」は、①の課題の指 針として、ほぼ9 5 % の「ひきこもり」は原因、ない し結果として、 “精神疾患”を有する精神保健福祉 法の対象と明確に規定しています。同時に、②、 ③についても概念的ですが、そのステップを示し ています。 病理性の有無は精神科医に診断権限があり、医療 の対象になります。制度上は統合失調症圏の疾患、 躁鬱、うつなどの他に、神経症、人格障害まで含 まれています。ただ、今まで医療制度を含め支援 の体制・社会的資源は、統合失調症の中核症状を 示す病理に重点が置かれ過ぎているように見えま す。従って、40年の歴史を持つ、いわゆる「精 神障がい者」支援の実態や法や制度を調べ、比較 する必要があります。極めて隣接し、重なりも多 いと感じます。②や③の支援の課題でも、いわゆ る“精神障がい者の支援施設”の活動を実査する と、すでに類型として、支援の実態があることに 驚かされます。 現在の法制下でも左の図版の示すように、 “重度 かつ継続”の医療給付の対象病理には、上記の病 理が含まれています。ただし、障がい年金におい ては、 “人格(パーソナリティ)障がいは原則とし て認定の対象とならず、神経症圏の病理も原則と して体象とならないが、精神病の病態を示してい る場合は準じて扱う、とされています。これは④ のセーフティーネットの課題~“親なき後”問題 につながります。 左に示す表は、いわゆる“障がい者”支援に関 わる法律の主なものを挙げ、 「ひきこもり」ケース への適用の可能性を話題にした広島大会の分科会 資料です。当事者の実態、特に重度の場合は、 (新 版) 「ガイドライン」により、筋道が開かれたと思 います。 2008年の広島大会で、「喝破道場」の野田大燈老 師が“荒地をブルドーザーで切り拓くように、先ずは 「筋道を拓くことが重要」”と動議的意見提起をされ たことを思い出します。今、拓かれたのです。 -24- < 年金問題と社会保険庁通達> ・・・いわゆる「教科書(養成講座)問題」 この<年金問題と社会保険庁通達>は今後の論点の一つにしなければならない重要な訴求 テーマであろうと思います。最新の平成14年3月15日付けの「社会保険庁運営部長通知・ 第12号」によれば、精神の障害による障害の程度は、下記のように運用基準が定められてい ます; 1)関連の要点は左記のように人格(パーソナリテ *人格障害は、原則として認定の対象とな ィ)障害は対象としない、 らない。 2)神経症(こういう病名はないはず)も原則、認 *神経症にあっては、その症状が長期間持 めないと定められています。他の解説書によれ 続し、一見重症なものであっても、原則 ば、認定すると治癒への自助努力をしなくなるか として、認定の対象とならない。ただし、 ら、と書かれています。 その臨床症状から判断して精神病の病 3)このことは、精神保健福祉士の養成講座などに 態を示しているものについては、精神分 も書かれており、社会通念を形成する、いわゆる 裂病またはそううつ病に準じて取り扱 「教科書(養成講座)問題」と指摘する人もい う ます。 再度、頁20、21の(新版)ガイドライン:「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン」の要点を示します。 [Ⅰ]<評価⇒診断~6軸の視点> 1)精神障害の有無 2)発達障害の有無 3)パーソナリティ傾向 4)「ひきこもり」段階 5)環境要因の評価 6)以上の総合評価 [Ⅱ] <診断の実態> (ICD-10,DSM-Ⅳ準拠の全て) 〇 第1群:統合失調症、気分、不安障害、etc. ・・・全体の≒1/3、~(薬物・心理療法/生活支援が中心) 〇 第2群:広汎性発達障害、精神遅滞、etc. ・・・全体の≒1/3、~(心理療法/生活支援が中心) 〇 第3群:パーソナリティ障害、適応障害、etc. ・・・全体の≒1/3、~(心理療法/生活支援が中心) [Ⅲ] <支援のガイドライン> *第一の次元~背景にある精神障害に特異な支援 *第二の次元~ストレスの強い環境改善の支援 *第三の次元~自立過程の挫折克服の支援 法律はその時代の問題点やニーズの訴求に 基づいて立法府で立案、審議・制定され、制 度化されていくものですが、その審議過程や 下位法制、条令、運用規則などを監視してい く必要があります。これは、当事者というよ り「親の会」などの重要な役割です。 「ひきこもり」は、その性格上“群盲象を 評する”の言葉どおり、大変に漠然としたも のでした。今回の新しいガイドライン・ 「ひき こもりの評価・支援に関するガイドライン」 は、左記のような一連のプロセスが国の標準 的指針として示されたもので、画期的なこと だと思います。現実に即し、また国際基準に 照らしても妥当なものと思われます。 しかし、これは指針であって、法律そのも のではありません。従って、調査・研究過程で の知見や診断~支援のプロセスが、 義務/責務 として、 法や施行規則にどのように組み込まれ て行くかが注目されます。 今後の会の中心テー マでしょう。 8-2.総合福祉法(仮称)と精神疾患対策基本法(仮称) 昨年の後半から日本の障がい者制度や精神障がい⇔メンタルヘルス関連の法制はその基本からの 見直しを迫られ、変革の渦の中に入っています。従来からあった内閣府や厚生労働省の恒常的諮問委 員会にとどまらず、当事者、親の会、福祉・支援、医療関係者をも含んだ複数の検討委員会が立ち上 げられ、単なる要望にとどまらず、法律そのものが“提言、または試案”として厚生労働大臣に提出 されています。次頁に図解を示しますが、 「ひきこもり」問題⇔メンタルヘルス~精神疾患問題~障 がい者問題には題記の“総合福祉法(仮称)と精神疾患対策基本法(仮称) ”などが深く関わって来 ます。すでに「ガイドライン」で示された公的な支援の路線に乗るには、 「ガイドライン」を受け入れ、積極的 に利用し、育てるということが重要です。そのためには、親の会や当事者の側にも大変な意識の変革を求めら れることになります。ただし、このことは“申請主義”であることは知っておく必要があります。強制ではあ りません。 -25- 左の重層的に表現した図 版は保健・医療・福祉法制の “維新”といわれる現在の状 況を示しています。さる4月 19日、奥山理事長も内閣府 によばれ、 「障がい者制度改 革推進会議」で意見具申をさ れました。 色々な福祉関連法制が並 行的に進んでいますが、それ ぞれの整合性がはかられな がら、H25年度半ばには、 基本法を成立させる計画だ そうです。 特に「こころの健康政策実 現会議」の提言は精神科系の 専門家集団の提言であり、重 みのあるものです。 9.まとめと残された課題 9-1. 考察結果のまとめ~「ひきこもり」問題の理解と対応の到達点 1) 不登校は一過性に終わらず、30%前後はその後の社会参加に困難をきたし、 「長期・高齢化」 と表現される状態に至っている。10%前後は色々な精神的・身体的二次障害を惹起し、重度 な状況にある。従って、精神医学的な早期関与と「長期・高齢化」対策の幅広い対応が求めら れる。 2) 欧米では“病理の状態像”との認識が初めから徹底されており、扱いが違っていたように思 われる。社会文化的現象との脈絡で解釈することは無いに等しく、日本のように“騒がれて” いない。従って、実数についても定かでない。オーストラリアでは不安障害を4大精神病理に 挙げている。 3) 日本では反対に、社会・文化的要因や家族原因説に偏り、対象が茫漠となったり、矮小化さ れ、遷延化させてしまったのではないかと後悔される。そのため医療機関の認識、早期対応の 体制が遅れ、社会的資源の整備、あるいは対応の巾を広げることが遅れたのではないかと思わ れる。 4) (新版) 「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン」は“霧を晴らす”ものであり、 画期的である。特に、国際基準のICD-10やUSAのDSM-Ⅳなども証左されているな ど、更なる情報交流のための共通基盤が得られ、閉塞感が打破され、偏見やスティグマの低減 が期待できる。 5) 上記ガイドラインが、 「ひきこもり」理解の外枠や対応の柱として、 “筋の通った”体系とし て定着することを期待したい。更に、民間NPOなどで開拓されてきた知見や経験とも融合さ れることが重要と思われる。そのためには、国の財政確保による体系の整備、特に人材育成が 重要である。 6) 上記ガイドラインの示すところでは、精神医学的診断が必須の第一関門とされているので、 受診の啓蒙と診断の精度・信頼性の確保が重要となる。同時に、いわゆる“生きにくさ~社会 参加(究極は所得確保) ”を統合した福祉的支援体制の整備が重要となる。 -26- 7) 「ひきこもり」は“状態像”で、病理とは“コインの表裏”の関係にあると規定され、納得 されても、そのことがひきこもり脱出の“必要条件”であっても“必要十分条件”とはならない。 されど“ひきこもり”の課題は残る。これへの課題は残されるが、社会に生きる路があることを示 し、自力脱出の希望を与えることが肝要である。 9-2.今後の制度的展望と期待 (新版) 「ガイドライン」に示された「ひ(引)きこもり」をもたらす病理が多彩である(頁 19の円グラフ参照)ならば、対応の法制も、支援のシステムも多彩を包含するものである必 要があります。総合福祉法(仮称)や精神疾患対策基本法(仮称)はそのような理念で検討さ れています。 ~~~基本理念(3 本の矢)~~~ (新版)「ガイドライン」にも、診断・評価・対応に“多軸”の発想が 随所にみられました。下記の図版を最後に紹介します。 ~~~~~~~~ 最後に、以上は現在の個人的理解の単なる“到達点”に過ぎない事を申し添えます。 -27-