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リーディング・インダストリーとしての 化学産業(装置型産業)の役割

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リーディング・インダストリーとしての 化学産業(装置型産業)の役割
解説編 -1
リーディング・インダストリーとしての
化学産業(装置型産業)の役割
佐武 弘章
Point
化学産業は組立型産業の対極にある装置型
(プロセス型)産業である。日本には世界最大規模の超
巨大企業は存在しないが、特定市場でシェアが首位または上位の企業はきわめて多い。世界市場で
の競争優位な企業の特徴をみると、その製造工程では生産技術と区別される現場技術の水準が高く、
その製品はユーザー企業の製品の部品ではなく新素材または品質改良材として使用されていること
が多い。これらの特徴をもつ製品の開発と技術水準向上を意識的な課題として推進することが、化
学産業がリーディング・インダストリーになるための条件になる。
円に次いで第2位である
(表1)
。ところが付加価
リーディング・
インダストリーの条件
値額ではすでに 1990 年代以降 15 兆円以上と第1
位であり、自動車産業の約 13 兆円よりも多い。ま
化学産業は今後日本産業のリーディング・イン
た化学産業の従業員数は 2000 年には自動車産業よ
ダストリーの役割を果たすことが期待されている。 りも多かったが、90 年以降一貫して減少している。
20 世紀のリーディング・インダストリーは電気・
時系列に見たこれらの数値は各産業の生産拠点
電子機器産業や自動車産業であった。その役割を
の海外移転の規模と時期にかかわっており、多く
21 世紀には化学産業が担うことになる。
の論点をはらんでいるが、ここでは詳説しない。
本稿の課題は、化学産業がリーディング・イン
表1は化学産業が規模の点ですでに日本産業のリ
ダストリーの役割を担う背景を確認し、各企業が
ーディング・インダストリーになる水準にあるこ
相応の認識をもって経営改革に当たるために必要
とを示すために掲げた。
な要因を明らかにする点にある。
ところが化学産業には、自動車産業のトヨタの
日本の化学産業の出荷額は 2010 年に年間約 40
ような売上高で世界首位を争うような超巨大企業
兆円であり、自動車産業(輸送機製造業)
の約 54 兆
は存在しない。化学産業の特徴は、その主要製品
表1 化学工業の出荷額・付加価値額・従業員数の推移(10 人以上企業)
年 度
産業中分類
2010 年 化学工業
輸送機製造業
2000 年 化学工業
輸送機製造業
1990 年 化学工業
輸送機製造業
出荷額
(単位百万円)
付加価値額(同右)
39,543,778
15,085,206
従業員数
835,744
53,988,315
13,534,904
926,255
37,543,878
17,293,548
955,535
44,447,438
11,869,916
863,043
37,834,372
16,964,931
1,034,496
46,949,699
12,634,796
957,590
出所:経済産業省『工業統計表』各年版
12
Vol.59 No.10 工場管理
特集 一歩先を行く装置産業の生産現場に学ぶ
が特定市場で世界シェアが首位または上位にある
国内生産して輸出するよりも、多くが海外の消費
企業がきわめて多いという点にある。
地域で現地生産・販売されている。輸出とは異な
経済産業省の「化学ビジョン研究会報告書」
(平
り、日本流の経営組織の原則維持と現地社会への
成 10 年)によると、いま日本産業のリーディン
適応の難しさに直面している。
グ・インダストリーの役割は化学産業とくに機能
(2)組立型製品はモジュール化の傾向にある。モ
性化学工業に求められている。この役割を果たす
ジュール化とは組み立てる材料の標準化・規格化
ためには、化学産業は少なくとも次の2つの条件
を意味し、市販されている材料もある。端的な事
を意識的な課題として「現場技術」の改革を推進
例ではパソコンは市販部品から組み立てることが
する必要がある。
でき、自動車も全体として擦り合わせる部分もあ
(a)リーディング・インダストリーの交替の背景
るが、漸次モジュール化された部品で組み立てら
にある産業構造の変化とくに情報化とグローバル
れる方向にある。レゴブロックのように組み立て
化を十分に認識し、これによる国民経済の変容に
られる生産体制では日本独自の技術と作業者の高
対応することが肝心になる。
い技能は重視されなくなる。
(b)電気・電子機器産業や自動車産業は組立型
問題はプロセス型
(装置型)
産業にこのモジュー
産業であるが、化学産業は装置型
(プロセス型)
産
ル化の傾向がどこまで浸透するかにある。組立型
業である。両産業タイプの区別・相違を明確にし、 製品にもモジュール化の浸透に格差があるが、プ
装置型(プロセス型)産業の優位さをフルに発揮す
ロセス型
(装置型)
製品は最もモジュール化の難し
ることが求められる。
い製品とみられる
(表2)
。
組立型産業とプロセス型
(装置型)
産業
理由はプロセス型製品の製造では各工程の順序
上掲表1は次の事実を前提にしている。日本経
は生産技術と区別された「現場技術」が決定的な
済の高度成長期から低成長期を通じて、個人生活
重要さをもつ。この点を事例中心に検討したい。
を大きく変容させたのは消費生活への機械・機器
その前に結論の一部を先取りすると、リーディ
の浸透であった。冷蔵庫・テレビなど3種の神器
ング・インダストリーとしての化学産業にとって
や自家用車ブームがこの経過を象徴的に表現して
必要な要因は次のように要約することができる。
いる。個人的消費の機械化は 80 年代には飽和状態
製品については組立型産業の部品を生産すること
に達し、90 年代のゼロ成長期にはその焦点は海外
を避け、品質改良や生産性向上に役立つ新素材や
市場に移っていく。
品質改良材を生産すること
(表3)
、その製造工程
日本の電気・電子機器産業や自動車産業の直面
では生産技術を前提とした「現場技術」の継続的
する難問は2点ある。
改革に取り組む独自の体制を確立することにある
が決まっており、工程内で物質が変化する必須の
内容がある点にある。それゆえプロセス型産業で
。
(1)製品市場は海外の新興国が中心になっており、 (表4)
表2 組立型製品とプロセス型(装置型)製品の特徴
工程内容
工程編成
工程結果
モジュール化
工程の順序不同
部品が製品中に存在
容易
材料と異なる製品
困難
組立型製品
部品と部品の組付け
装置型製品
材料の物質・形態の変化 工程の順序厳守
表3 部品と新素材・品質改良材の特徴
開発・設計段階
製造工程段階
部品
○
△
価格(コスト)低減
開発設計部門
生産改良材
×
○
効果(品質など)重視
生産技術部門
工場管理 2013/08
経営課題
使用部門
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