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メトロマニラの地震災害脆弱性評価と防災体制

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メトロマニラの地震災害脆弱性評価と防災体制
8
9
総合都市研究第5
1号
1993
メトロマニラの地震災害脆弱性評価と防災体制
1.はじめに
2
. メトロマニラ地域の概要
3
. メトロマニラの地震災害脆弱性評価法
4
. 脆弱性評価と地震分布との関係
5
. 防災体制〈バレー断層に対する緊急対応計画〉
6
. あとがき
望月利男キ
荏本孝久村
楕木紀男…
天国邦博山*
要
約
フィリピンでは、 1
9
9
0年7
月1
6日にフィリピン地震 (
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7
.
8
)が発生し、約6
0
0
0人に及ぶ多数
の死傷者が生じた。この主な原因は、建物の倒壊による人的被害であった。フィリピンは、
日本と同様にプレート境界に位置しており地震活動や火山活動の極めて活発であり、数多く
0
0万人を擁している
の自然災害が発生している。現在フィリピンの首都圏を形成し、人口 8
メトロマニラ地域においても、歴史的な港湾都市であるマニラ市を中心として、過去に多数
の死傷者や建物被害をともなった地震災害を幾度も経験しており、上記フィリピン地震によ
る災害の教訓からも、この地域の地震災害に対する危険性が再認識されつつある。本報告は
国際防災の 10年 (IDNDR)の一環として、急速に発展しつつあるメトロマニラ地域の地震災
害脆弱性評価と防災体制に関する調査を実施し、その事例をまとめたものである。またメト
ロマニラ地域のサイスミックマイクロゾーニングを目的として、ややミクロに地域特性を検
討するとともに、 1
9
9
0年フィリピン地震におけるメトロマニラ地域の地震分布調査の結果に
基づいて、地域特性および、地震災害脆弱性評価の結果との関係についても若干の考察を行っ
た
。
牟東京都立大学都市研究センター
*事神奈川大学工学部
*ホ*関東学院大学工学部
日参都市研究センター研修生(パシフィックコンサルタンツ)
9
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9
3
総合都市研究第引号
1. は じ め に
2.
フィリピン共和国(以下、フィリピンと記す)の
2
.1 地 域 の 概 要
メトロマニラ地域の概要
3}4)
首都圏であるメトロマニラ地域 (MMA;M
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) は、フィリピン北部のルソン島に
フィリピンの全人口は約 6
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万人で、我が国の
位置しており、歴史ある港湾都市マニラを中心と
約1/2
であり、全国士面積は約3
0
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'で、我が国
して現在 1
7の市町 (
4市 1
3町)で構成されてい
とほぼ同じである。都市人口率は、現在我が国の
る九首都圏全体の人口は、約 8
0
0万人を擁する大
約 77%に対して、フィリピンでは約 43%である。
都市圏である。フィリピンは、アジア大陸の南東
第l
次産業の人口比率が約 4
1
.3%と高く、首都圏メ
縁で熱帯に属し、大小多数の島々で形成されてい
トロマニラの近郊にも広大な農村地帯が広がって
る。国土の中央を約 1
200kmに及ぶフィリピン中
いる。フィリピンでは、 1
9
0
3年からの人口データ
央断層が縦断しており、台風などの風水害を始め
があり、 1
9
6
0年代頃よりセンサスがまとめられて
として地震活動や火山活動が活発で、自然災害環
いる。これらのデータに基づいて全国およびメト
境の大変過酷な国である。特に、メトロマニラ地
ロマニラ地域における人口の変化を図 -1に示し
域周辺のルソン島における最近の地震災害として
た。全人口の増加は、センサス開始の 1
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8年 8月 2日のルソン地震 (
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メトロマニラ地域においては、ほぼ一定の割合(約
フィリピン地震 (
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7
.
8
)があげられ、 1
6世紀に遡
2割程度)で増加している。しかしこれらの人口
る過去の地震記録からも約 10 年 ~30 年程度の間隔
データにはセンサスの調査に含まれない流動人口
で、メトロマニラ地域に被害を及ぼすような被害
もかなりあると考えられ、特にメトロマニラの実
地震が発生している。
際の人口は、この数値よりもかなり多いものと考
本報では、まずメトロマニラ地域における人口
えられている。
分布および地震の際の震度分布に関して、ややミ
クロに検討するための調査を実施し、その結果を
まとめこの地域の地域特性の理解を深めた。そし
人口の変化
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て、具体的にはメトロマニラ地域において、
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)が中心となって実施した、一般的な
自然災害に対する脆弱性評価の報告書,)に基づい
て、メトロマニラ地域の地震災害の脆弱性評価の
概要をまとめるとともに、近い将来にこの地域の
近くで発生が予想される大地震を対象として、検
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図 1 フィリピンおよびメトロマニラ地域の人口
分布の変化
メトロマニラ地域は、図2
.表 1に示すように
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7市町で構成された地域で、面積約 6
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望月・荏本・楕木・天国:メトロマニラの地震災害脆弱性評価と防災体制
国土の 0
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0万人(全人口の約 1
3%)
とされている。最も人口の多い地区はケソン市で
あり、次いでマニラ市であるが、最も人口密度の
高い地区はマニラ市である。最近では、マニラ市
を中心として放射状に市街化と人口の集中が急速
に進んでいる。
表 1 メトロマニラ地域の市町の概要
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図 2 メトロマニラ地域の市町境界と地形の概要
2. 3 人 口 分 布 の 概 要
メトロマニラ地域における 1
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9
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年の国勢調査結
人口増加率を図 -4に示した。この結果によれば、
人口はマニラ市を中心とした都市地区に多く集中
2. 2 地 形 ・ 地 質 の 概 要
しており、マニラ市周辺の近隣地域には、人口の
増加率の高い地域が目立つ傾向を示している。特
メトロマニラ地域の地形・地質は概略的には、図
に、上記の沖積平野の地域に増加率が顕著な地域
-2に示すように比較的単純で、北部のシエラマド
が分布する傾向が認められ、今後土地利用等に関
レ山脈からの延長になる火山台地であるグアダ
する防災対策計画を考えていく必要があるものと
ルーペ台地が、メトロマニラ地域の中央を南北に
思われる。
縦断し、その東側には大きな湖であるラグナデベ
イとその周辺には低地が広がっている。特に、こ
の湖の北西部に流れ込むマルキナ川の流域には沖
積平野が存在している。また、台地の西側にはマ
ニラ湾に至る三角州状の沖積平野が存在している。
この東西両側の低地にあたる沖積平野は、かなり
軟弱地盤地域を形成している。
9
2
総合都市研究第 5
1号 1993
表 2 メトロマニラ地域における被害地震リスト
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v
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o
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et
h
剖13
0
0p
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V
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V
i
o
l
e
n
t
V
I
I
V
I
I
V
I
I
*;Rosil-Forel IntensityScale
2, 4 1990年フィリピン地震における
震 度 分 布5)
フィリピンでは、表-2に示すようにメトロマニ
ラ地域(主にマニラ市)を中心とした被害地震の
分布について、 PAGASA CPhilippine Atomospheric, Geophysical, and Astronomoca1
Services Administration) がデータをまとめて
記録が、 1
6世紀まで遡って記録されている。また、
いる。この表によれば、かなりの頻度で被害地震
近年これらの地震を含むフィリピンの地震の震央
が発生し、平均すれば約 10年に 1回程度の被害地
震が発生し、約数 1
0年に 1回程度の割合で多数の
死傷者を伴う地震災害を受けていることになる。
93
望月・荏本・椅木・天国:メトロマニラの地震災害脆弱性評価と防災体制
1
9
9
0年フィリピン地震では、ルソン島中部のパ
定し、人口の集中度との関係を示すべきであるが、
ギオ市,ダク守パン市などで多数の死傷者を始めとし
現在地区単位の正確な面積が不明確のため、ここ
て建物倒壊や地盤の液状化現象の発生により建物
では便宜的に人口分布を用いた。この結果によれ
や橋梁に大きな被害が発生したことは記憶に新し
ば、人口分布の多い地区において、相対的に震度
い。この地震では、震源断層がメトロマニラ地域
が高い傾向が認められ、メトロマニラ地域におい
から遠かったため、メトロマニラではほとんど被
ても人口が高く分布する地区は地盤条件が悪く、
害は発生しなかった。
一般的には地震災害の危険度が高い脆弱な地区と
この地震の際に被害集中地域である震源断層の
なっていることを示しているものと考えられる。
近くの 5つのプロビンズを対象として、アンケート
による震度分布調査を実施した。この地域の震度
ω7. 5
伺O
悶毘冨)
分布の推定結果については、すでにまとめ報告し
ているが、同時にメトロマニラ地域においても同
様な調査を実施した。この震度分布
(MM震度階)
の結果を図一 5に示す。全体では、平均的に震度 7
と推定されるが、地域や場所により多少の震度の
"
~
,
.
,
:7.0
ω
ω
ロ
高低が認められる。
今後の地形・地質との詳細な検討を必要とする。
またその結果は、メトロマニラ地域におけるサイ
スミックマイクロゾーニングに有益な情報を提供
o
,
.
,
E
羽
吋
ω
UJ
6. 5
-hu
することになると考えられる。
.
;
; 9
.0
o
58・0
UJ
〉
ー
μ 7 .0
H
a
同
ω
μ 6 .0
d
4
.0
.
3
.
5
重
,
,
,
⋮⋮⋮川柳側側側
15mmm
ω
n15mmm
向
-同
回
山側側側側側
nV
.5.5:
51
.
, <日
.
.
s重 1.
,<7.5
.7.5話加<5.5
5
04
門
ロha
・
Rarrk of Distributed Population
図5 1
9
9
0年フィリピン地震におけるメトロマニラ
地域の震度分布
2
.5 震 度 分 布 と 地 域 特 性 と の 関 係
9
9
0年フィリピン地震におけるメトロマ
上述の 1
ニラ地域の震度分布引の結果に基づいて、この地域
の地域特性としての人口分布と関係を図6に示し
た。人口分布については、実際には人口密度を算
図 6 震度分布と人口分布の関係
3
. メトロマニラの地震災害脆弱性
評価法
ここでは、 UNDROを中心としてまとめられた
脆弱性評価の報告を要約する。
9
4
総合都市研究第 5
1号 1993
近年、比較的大きな規模の幾つかの地震がル、ノ
慮されるべき大変重要な問題である。
ン島北部に発生した。その内で顕著な 2つは、マグ
フィリピンでは、この 2つの地震を契機として
.
3(
19
6
8
年8
月)と 7
.
2(
19
7
0
年4
月)の
ニチュード 7
UNDROの協力のもとにメトロマニラ地域を対象
地震である。この 2
つの地震においては、マニラ市
として、自然災害に関する脆弱性評価を実施した。
において被害が発生した。幸いなことに、市内で
この脆弱性評価の中で用いられた地震災害に関す
は2棟の建物が完全に損壊しただけで、大きな火災
る評価法のフロー図を図-7に示す。この図によれ
は発生しなかった。しかし、他の多くの建造物に
ば、主に地盤の硬軟の性状に基づいた応答特a生指
も比較的大きな被害が発生し、約 5
0
0
人以上の人々
標(I)と建物との共振現象に対する危険度を考
が死傷した。メトロマニラ地域のように急速に拡
慮した共振現象指標 (
R
)をクロスさせたI/Rグリ
大した都市においては、地震危険度評価の問題は
ットに基づいて地震災害の脆弱性評価を実施して
全ての計画段階で優先的に考慮されるべきもので
いる。
あり、あらゆるの社会活動のためにも積極的に考
マニラ首都圏の地震災害に関する脆弱性評価のフロー
土地・建築物規制
(
1
7
)項目
9
都市計画マスタープラン
図 7 メトロマこラ地域の地震災害脆弱性評価法のフロー図
95
望月・荏本・椅木・天国:メトロマニラの地震災害脆弱性評価と防災体制
3
.
1 メトロマニラの概観
ような周期的かっ破壊的な地震が発生していない
という事実は、非常に興味深いことである。しか
ーその環境と物理的な条件一
し、このことは確定的な傾向として考える必要は
メトロマニラ地域はルソン島における、平坦で
ない。なぜならば最近の地震発生地域は、アジア
広大な中央平野の南西部への延長域とシエラマド
や中央アメリカのような他の地域に現れており、
レ山脈の南部への延長域とが統合された地域であ
地震の活動度は非常に予測が難しく、何の前兆も
る。メトロマニラ地域の地震災害脆弱性評価にあ
なしに新しい活動が発生するからである。
たって、地形・地質および地盤の分析が必要不可
欠であり、かなり詳細な検討が行われている。
1949年以降の地震の記録の調査によれば、毎年
マニラは震度 4程度の地震の揺れを受ける可能性
があり、これはマニラ市におかれている大部分の
1) 地 質 学 な 特 徴
地盤条件によって考えうる比較的高いレベルの震
全体としてフィリピンの地質やテクトニックな
度である。フィリピンにおいて、現在使用されて
構造に関する理論や意見は、種々の説があり各々
いる震度階はロッシフォーレル震度階である。
e
r
v
a
s
i
oによれば、フィリ
異なったものである。 G
1968年 8月ルソン島地震に関して、 PAGASAが
ピンは大きく 2つの部分で分けることができる。
示した震度分布図では、マニラ市のダウンタウン
フィリピンにおける地質学的な安定地帯はパワラ
に部分的に高い震度を示す場所が認められている。
ン,クヨ諸島,スール海とミンドロとミナダナオの
これは、この地域に分布している軟弱地盤によっ
一部を含んで構成されている。この地帯には、第
て生じたものである。歴史時代において、マニラ
3紀以降の地震活動や火山活動の証拠は残ってい
で観測された地震のなかでも最も強い震度階は震
ない。フィリピンモービルベルトはルソン,ビサヤ
0であり、その再現期間は平均約 1
3
0年である。
度1
ン海とミンタoナオを通って広がる。これは、環太
この最大で今後も発生する可能性のある震度階は、
平洋ベルトの 1つの区間であり、地震の震央分布と
現在検討されておる地震災害脆弱性評価の目標値
最近の活火山の集中によって特徴づけられる。こ
となっている震度階である。
の地帯に位置する北ル、ノン島フ、、ロックは、圧縮変
形の結果として、北ルソンの東海岸に凸状で円弧
形の地形を観察することができる。
3) 地 質 ・ 地 盤
メトロマニラ地域の地形学的な構造は、比較的
単純である。これは北方シエラマドレ山脈の麓か
2)
地震活動
ら、南方のタール火山の斜面まで広がる標高のあ
19世紀の初頭から、多くの研究者が 16世紀以降
まり高くない丘陵地によって形成されている。こ
フィリピンに被害を与えた地震の詳細な編集と解
の丘陵地形は、マニラ湾からラグナ湖を分離する
説を試みてきた。最近において、 PAGASAが地震
ように腕状の陸地を形づくり、東側の湖側および
発生月日,時間と震央位置を与える“主要なフィリ
西側の海岸側へと緩やかに傾斜して広がる両側の
ピンの地震"に関する研究報告を刊行した。その
堆積平野の境界にもなっている。マニラ市付近を
報告書の中で、 1949年以降の全ての地震の震度分
横切る模式的な断面によれば、地形,地質は 2つの
布を報告している。もし歴史時代を通して、マニ
大きな構成単位で特徴づけられている。火山層群、
ラに被害を及ぼした地震に閲するより詳細なリス
これはローカルにはアドベと呼ばれているグアダ
トを整理することができれば、恐らく壊滅的な地
ルーペ層群であるが、厚く連続的に堆積した火山
震が過去 3
00年間に何度も発生したことを確認す
性凝灰岩と凝灰岩質砕屑岩であり、更新世の最初
ることができるであろう。平均的には、マニラは
の氷河期(約 1
0
0万年前)の地層と考えられてい
1
5年毎に l回被害を与えるような地震を経験して
る。この層群の堆積層は、一般にこの地域の断層
0年間は、それ以前にそうであった
いる。最近の 6
活動に関係している。例えば、
N-S方向の走行を
9
6
総合都市研究第引号 1
993
もつマルキナ断層が考えられる。また、このグア
かつて段々と薄くなり、海岸堆積層の中に割り
ダルーペ層群は、メトロマニラ地域の基盤と考え
込んでいる。マニラ湾の下では、凝灰岩質基盤
られており、実際にメトロマニラ地域を横切って
の横方向への広がりの様子については、マニラ
北から南に広がる全ての地層の基底面を形成して
の東部と北部およびパナラケ周辺においては、
いる。
これらの凝灰岩は茶色で比重の重い粘性土や軽
くて灰色あるいは茶色がかかった小粒の粒状層
(a)
堆積平野
堆積平野は、第二氷河期(約 7
0万年前)の地層
である。この期間にカビテ州、│の大部分とタール火
を含んだ地層に覆われている。この層厚は、ケ
.5mから、北側のナパリチェス
ソン市付近での 0
付近での 2
.0mまでの範囲で分布している。
山の海中の斜面が、マルキナ断層線の南方への延
.マルキナ渓谷一沖積平野:一般に沖積層は、砂,
長によって地質学的な構造作用を受け、ダガイタ
醸や大部分は主に火成砕屑岩や火山岩の風化・浸
イ周辺において約 400m隆起した。このパナラケ
食作用から形成されたシルトや粘土の未固結堆
からラスピナスに至る隆起軸は、以前は連結して
積物の混合物により構成されている。多量の海
いたがマニラ湾からラグナ湖を分離するような形
洋性員殻片を含む砂層は、スカットやナピンダ
で自然堤防を形造った。これらの地形学的条件に
ン周辺において、地表から 6
.5mから 18mの聞
加えて、風化・侵食作用によりグアダルーペ軸の
の深さに見出すことができる。沖積層の層厚は、
両側に大規模な堆積層が形成された。
Omからピナグブハタンやナピンダンでの渓谷に
おける少なくとも 75mで基盤に到達する深さま
.マルキナ沖積平野:凝灰岩の急斜面と断層崖で
で変化しているものと思われる。この沖積層は、
境されて横たわるマルキナ渓谷が、マルキナ川
ノ〈ンブンクややノ fシックーから、ビナングブハタン
によって運撤された土砂で堆積されて形成され
やアンサノを通り、さらにマルキナ渓谷を横切
た沖積平野である。
って東方へ延び段々と薄くなっている。アン
.マニラ三角州平野:グアダルーペ台地軸の隆起
パーツ合流点(パシッグーナピンダン川分岐の
後に、囲い込まれた湖水からパシッグ川を通し
東側)において、沖積層の層厚は、岩門(ナピ
て流れ込んだ土砂とそれと同時期に河川の浸食
ンダンゲート)の北西端付近での 13mから、同
作用でできた土砂が、多量に海域での堆積物と
じゲートの南島端付近での 55mまで変化するも
混り合って急速に拡大し、大きな三角州平野を
のと考えられる。幾つかの土質試験結果に基づ、
形成したものである。
けば、マルキナ渓谷の沖積平野は、一般に軟弱
であり極めて低い支持力しか期待できない。例
(b)
表層の地盤条件
この地震災害脆弱性評価法では、上述した地形・
えば、モンガハン,ピナグブハタン,地域周辺では
2
1-2t/ft
程度であり、ナピンダン付近では、 0
.
5
.グアダルーペ層群(アドベ):グアダルーペ群層
2
程度である。ピナグブハタン地域では、
-1t/
f
t
N値)は深さ 10m以上に
平均的な標準貫入値 (
わたって 6程度である。さらに東側でタタイ,ア
ンサノ地域に近い地域では 10-12程度である 0
の大部分は火山灰,火山際や水品質砂の固結層に
.マニラ三角州平野:パシッグ川によって作られ
より形成された水成基盤岩で構成されている。
たこの平野は、マニラ地区を取り囲み、南側の
地質の構成により境される地域を対象としている
(
図 8と図 -9参照)。
西方のマニラ側に対して、この層群は海岸線に
パサイ市付近まで広がっている。この平野は、
沿う海砂,醸やシルトをともなった表層の地盤の
南側のパナラケの海岸や潟の堆積物と合流し、
下に位置し、舌状に広がる基盤として三角州堆
北側へはカローカン市やマラボン付近での規模
積物の基底となっている。この層は、西側に向
が大きく最も優勢な河口に形成された堆積物や
望月・荏本・楕木・天国:メトロマニラの地震災害脆弱性評価と防災体制
9
7
海岸の砂州堆積物と合流している。実際のボー
①砂とシルト質砂:この地盤は、しばしば貝殻片
リング資料の分析によると、一般にサンタクル
1
0以下であり、
を含んでおり、 N値はほとんと'
スの商業地区,サンパロック,クイアポ,エスコ
多くの場所において非常に緩い層の存在を示
/レタ,イントラムロス,ポートエリア,エルミタ,
している。その層の最上層は種々の盛土で構
パコやマラテなど、すべてマニラ市の市内に位
成されており、これは低地地域に建築現場と
置する地区は、塑性質の粘性土,シルトや砂,礁
しての高度を提供するために造成されたもの
で形成されており、これらは海岸性貝殻,珊瑚や
である。
腐食した植物の痕跡が複雑に入り混じっている。
②シルト質粘土,粘土質あるいは砂質シルト:こ
これらの地層は典型的なレンズ状を呈しており、
れは海岸線に沿ったほとんどの地域に分布し
基底に至るまで地層の横方向への連続性は非常
ている。
に乏しく、それほど発達していない。この地層
③シルト質粘土と粘土:この地盤は、黒色灰色
は、比較的厚い層厚の地層であっても、 3m程度
あるいは青色で非常に有機質で塑性的であり、
の短い広がりで急激にとぎれてしまうような分
布を示している。
圧縮性に富んでいる。
④シル卜質粘土と粘土:この地盤は上記の地盤
これらの層では、 61mから 90m程度の層厚
とはことなり、灰色で堅固である、 N値の範囲
が確認されている。最大の層厚は、クイアポ,ア
は 6-20程度である。この地盤は非常に良く
ベニダリサール,エスコルタやポートエリアにお
締め固められている。
けるパッシング川の堤防沿いに分布している。
以上のメトロマニラ地域の地質・地盤の性状に基
⑤凝灰岩質基盤:基盤岩およびそれに変わる堅
固なもの。
づいて、地震に関する 1
9
6
8年の UNESCOの報告
の中で、以下のような地盤の分類方法が提案され
ている。
この地震災害脆弱性評価法においても、この地
盤分類が基本的な表層地盤の地盤構成として用い
られている。
叫 J
g
~絞込官・)--.:::;申
図 8 メトロマニラ地域の地形・地盤の概要
図 9 メトロマニラ地域の断層位置と地盤図
総合都市研究第5
1号
9
8
1
9
9
3
る。すなわち、 (A) :基盤岩(凝灰岩質アドベ),
3. 2 地 盤 の 応 答 特 性 指 標
(
B
) シルト質粘土, (
C
)粘土, (D)砂質沖積層お
よび (E) 盛土である。一番最後の地盤種(盛土)
1) 地穣の応答特性指標の要素(i)
は、埋立地域における特殊な地盤や現在進行中の
(a)
標準地盤構成
(
G
)
埋立計画のために加えたものである。これらの地
メトロマニラ地域の場合には、基盤岩として考
盤種は、その層厚の変化との関連性を考慮して、
えられているグアダルーペ層群を除いて、堆積層
“地盤種別ユニット"としてグリッド上に設定され
はほとんど砂,粘土およびシルトで構成されてお
ている。このグリッド上の各々のユニットは、数
り、これらはシルト質粘土,シルト質砂や砂質シル
値(ランキング)で与えられている。これは、地
トなどの各種地層の組み合わせも多くなっている。
盤の層厚に関連して評価される地盤の応答特性の
物質的な特性に関するデータより、地盤は図1
0
関数となっている。このグリッド中に与えられた
に示されるように次の 5種類の地盤種に分類され
O
m
~ミ〈
数値が、メトロマニラ地域の脆弱性評価に適用さ
B
e
d
r
o
c
k
S
i
l
t
i
l
t
y
C
l
a
y
T
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)
(
B
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(
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A
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)
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)
(
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1
5
m
3
0
m
5
」
一
一
図1
0 メトロマこラ地域の地盤ユニットの分類
1
=
2
T
o
t
a
l Ground
Response (1)
Resonance (R)
1
=
5
1
=
1
0
1
=
1
5
1
=
2
3
Weak
S
t
r
o
n
g
Very
S
t
r
o
n
g
V
i
o
l
e
n
t
(A)
(
B
)
(
C
)
(
D
)
A1
B1
Medium 2
C2
D2
Long 3
C3
D3
O
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t1
5
m
3
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o
ta
p
p
l
i
c
a
b
l
ei
n MMA
図1
1 メトロマニラ地域の総合的な地震災害脆弱性評価のグリッド(I/R)
望月・荏本・楕木・天国:メトロマニラの地震災害脆弱性評価と防災体制
9
9
指標の値を設定する場合には、 4を掛けて 1
0進法
の数値に変換している。
(b)
地 盤 の 応 答 特 性 指 標 (i)
上記の方法により標準地盤構成がわかると、与
えられた地域あるいは場所に関する基本的な地盤
G:標準的な地盤構成
s
緩い砂層の存在
の応答特性指標の値は、下記の算定式を適用する
R: 共振現象
i:基本的な地盤の応答特性
f 断層の存在
総合的な地震災害脆弱性
ことによって求めることができる。すなわち、
指標のゲリヲド(I/R)
時c
から地震に対する脆弱性
の評価値
(i
)
=
n,
A +n2B+,
nC+n
.D
ここで、 n,
+n2十n,+n.はグリット中に定義さ
総合的な地盤の応答特性指標
,b,C,dに対応して与えられ、地盤の層
れた層厚 a
厚別に考慮された各地盤種(A, B,C,D
)の割合
を表している。
図 12 各メッシュの脆弱性評価指標値の表示方法
(
C
) 液 状 化 砂 層 の 存 在 (5)
れている。非常に強い地盤の応答特性は、 30m以
これまでにメトロマニラ地域においては、地震
上の層厚をもっ盛土に生じるであろうと考えられ
の際に地盤の液状化現象によって大きな被害が発
る。このような評価により、メトロマニラ地域に
生したという確かな痕跡は存在していない。しか
関して、地盤の応答特性の最も弱い地盤種タイプ
しながら砂地盤の液状化の危険度は無視できない。
(基盤岩上の薄い堆積層地盤)から(厚さ 30m以
なぜならば、メトロマニラ地域においては、緩い
上)盛土の地盤で期待される最も強い地盤種タイ
砂層の厚い堆積があり、特に海岸部を埋立てた造
プの範囲で評価のための数値が設定されている。
成地域がこれに該当する。また、イントラムロス
当然考えられるように、メトロマニラ地域内に
(ビノンデおよびサンタクルス)のある地域では、
おいて任意に区分した領域(メッシュ)において、
地盤沈下や傾斜が生じている。これらは明らかに、
常に 5種類の地盤種のすべてが存在しているわけ
マニラ三角州平野に存在する緩い砂層の液状化
ではない。実際に分類してみると、これらの地盤
(少なくとも部分的なもの)に起因したものであ
種のうち 4っ以上が同時に存在することはなかっ
る。ある程度の液状化現象は、マニラにおいても
た。従って、設定した領域における地盤種の割合
1
6世紀末頃までに、大きな地震に見舞われた際に
は4
つの種類
発生した可能性がある。
0/4を掛け合わせる)に分割され、
4つの地盤種 (B,C,D及び E) によって、標準地
盤構成は、次式のように表されることになる。
このように、地盤の液状化現象の要因は、メトロ
マニラ地域の地震災害脆弱性評価を行う場合には、
当然考慮するべき要素である。特に、マルキナ渓
(
G
) = n2B+,
nC+仏 D+I
l
sE
=0
/4)B+(
1
/4
)C+0/4)D+0/4)E
谷のように、まだ十分に発展あるいは都市化され
ていない地域においては大変重要である。この脆
弱性評価法では、メトロマニラ地域における液状
また、 2つあるいは 3つの地盤種だけで構成され
化現象の要素は 5=2であると評価している。この
る領域の場合には、結果として示される割合もま
値は、メトロマニラ地域における地震時の液状化
た 1/4を単位とした形の統ーして表示することと
現象発生の可能性に関する経験的な評価に基づい
し、便宜上この割合は、基本的な地盤の応答特性
て設定されたものである。
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図 13 メトロマニラの地震災害脆弱性評価のメッシュマップ
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一
:
総 合 都 市 研 究 第 51号 1993
1
0
0
望月・荏本・楕木・天国:メトロマニラの地震災害脆弱性評価と防災体制
(d)
地震断層の存在(f)
メトロマニラ地域に関する限り、特にこの地域
1
0
1
各々のメッシュに関するこの指標値は、図 1
3の
メッシュ内に表示されている。
内においては、これまでの壊滅的な被害を受けた
被害地震の場合であっても、断層変位に関する実
質的な痕跡は存在していない。
3. 3 地 震 脆 弱 性 評 価 グ リ ッ 卜
(1/R) の 作 成
しかしながら第二氷河期まで遡れば、断層変位
(および関連した地変)の証拠は認められている。
1
1に示すように、地盤の総合応答特性指標
図-
従って、最後の断層活動の痕跡は約 1
5000年程度
(I)は、 2から 23まで変化する。地盤の応答特性
以前のことであり、その時期までは、断層運動は
の変化は、非常に多様であると考えられるが、そ
活発であったと推定されている。しかしながら、
の指標値の大小により仏、この地震災害脆弱性評価
過去の断層変位(パシッグにおいて 80m以上)の
5
弱
5
恥
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強
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,
法では、“守
痕跡が示す重要な証拠と地震が発生した場合にメ
い"に対応する 4つのカテゴ、リーに均等な分布とな
トロマニラ地域が強い地震動を受けやすい脆弱な
るように分類している。同様に、軟弱層の層厚も
地域を形成しているという事実を考慮して、この
3区分に分類している。これは共振現象に関して、
要素が総合的な地震脆弱性評価に取り入れられて
各々異なった特性を示すことが考えられることに
いる。それために、断層線を横切る各々の地区に
関連したもので、過去の地震被害の記録に基づい
ついては、新しい指数値として f= 1を考慮してい
たものである。
る。しかし、この程度の小さな指数値は、脆弱性
評価に対して相対的には、それ程重要でないこと
によるものである。
3. 4 地 震 に 対 す る 脆 弱 性 評 価
1
2
地震危険度評価に関するすべての要素は、図(e) 地盤の総合応答特性指標(I)
地盤の総合応答性指標(I)は、
に示す表記方法により地震災害脆弱性評価のメッ
シュ図(図ー 1
3
) の中に表示されている。
このメッシュ図の中には、大きく分けて 2つのタ
1=i+s+f
イプの値域が分布していることがわかる。すなわ
ち
、
で算定されている。この指標値が、メトロマニラ
地域の地震災害脆弱性評価を示すものとしてメッ
-比較的に脆弱性の低い地域は、北から南に延び
の値は、 1=2-1=23
シュ図に適用されている。 I
ている。これらはノバリチェス,ケソン市,グア
まで変化する。
ダルーペとパナケラ丘陵である。
各々のメッシュに関する値は、図1
3のメッシュ
中に表示されている。
・比較的に脆弱性の高い地域は、歴史的に伝統の
あるマニラ地区とマルキナ平野を形成している
地域であり、最も危険なゾーンはパシッグ川の
(f)共振現象指標 (R)
1698年と 1970年に発生した地震の際に、マニ
ラ市内の多くの建物が大きな被害を受けたり崩壊
河口付近に位置しており、またマルキナ平野の
南部にもある。
マニラ湾の表層地盤は、おそらく層厚で 60m
(例えば、ルビータワー)した。地震動と建物の聞
以上の層厚をもち、ほとんど締め固まっていな
っと
の共振現象は、構造的な被害を与える原因の 1
いシルトや泥土で構成されている。そして多く
して重要なものである。最も大きな被害を受けた
の場所では、かなり地盤の締め固めなしでは、重
多くの建物は、軟弱な沖積層厚の厚い地盤上に位
い荷重に耐えられないであろう。さらに、マニ
置していた。
ラ湾に沿って埋立てられた地盤の場合のように、
総合都市研究 第 51号 1993
102
盛土(砂,シルト,粘土)を上にともなう際には、
これら上述の堆積層は、盛土地盤の造成過程に
おいて締め固めることはできない。結果として、
3. 5 土 地 利 用 と 建 物 の 規 制
建物自体の重量で地盤を締め固めることになり、
上述の地震に対する脆弱性評価方法を考慮して、
建物自体の安定性と構造的な健全さは保証でき
土地利用と建物の規制項目を以下のように設定し
ないことになる。地震危険度に関して、マニラ
ている。
湾の埋立て地域の脆弱性およびそれに関連する
1:空地のみ可
影響については、特に強調しておきたい。
2:低層 (0-2階建)建物は不可
3:中層 (3-7階建)建物は不可
そして、特にこの地域の地盤の特性としては、以
4:高層 (
7階建以上)建物は不可
5:公共の施設等は不可
6:危険物の工場等は不可
7:地域に重要な工業やサービス施設等は不
下のように区分される。
①地震動の増幅効果により加速度が増大する地
盤
②大規模な液状化現象を発生させる地盤
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図 14 メトロマニラの地震災害脆弱性評価に対する土地利用と建物の規制の関係
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図 15 地震災害脆弱性評価指標と震度の関係
望月・荏本・楕木・天国:メトロマニラの地震災害脆弱性評価と防災体制
1
0
3
て調査研究がなされているにもかかわらず、将来
4. 脆 弱 性 評 価 と 震 度 分 布 と の 関 係
的に地震がいつどこで発生するかと言う正確な予
測がなされずにいる。地震に係わる災害で考え得
上記の地震災害脆弱性評価法は、メトロマニラ
る最悪のケースとしては、大災害、洪水あるいは
地域の地盤性状に基づいて評価されたものであり
その他の災害が、地震の後あるいは地震と同時に
l
/Rグリット上の各エレメントに対して、 3
.5節
発生するケースであろう。
に示した土地利用と建物の規制を考慮する基礎と
この対応計画の目標には、 PHILVOCSによって
なっている。ここでは、 1
9
9
0年フィリピン地震に
作成される地震後のシナリオが基本的に設定され
おける震度分布と脆弱性評価における震度分布と
ている。
脆弱性評価法における震度分布との関係について
若干の検討を行った。すなわち、震度が算定され
た地区のメッシュを図 1
3から抽出し、そのメッシ
ュの評価
(A1-A3)を読み取った。結果を図1
5
に示した。実際には、この A1-D3の指標のうち、
該当するエレメントは、
A1,B
,
lB
2,C2
,D
2,D3,
の 6つの評価指標しか無かったため、グループ I
(
A
1,B1),グループ I (
B
2,C
2
)およびグループ
m(D2,D3)の3グループにまとめて図1
5に、震
度の頻度分布とその単純平均値を示した。この結
5. 1 緊 急 対 応 計 画 の 目 標
この計画の基本的な目標は、メトロマニラとそ
の周辺地域に発生する破壊的な地震および他の災
害が発生した時に、人名の損失を防ぐこと,不必要
な被害を防止すること,財産を守ることそして被害
を最小限に防止することである。
5. 2 緊 急 対 応 と 組 織 の 概 念
果によれば、地域全体の平均震度は 7
.
0であるが、
この計画は基本的には、 1
9
8
8年 8月 24日付けの
グループ Iでは 6
.
6
,グループ Eでは 7
.
0,グループ
Eでは 7.4と若干平均震度の値に差が生じている。
NDCC (
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il)の“災害および自然災害の対応計画"の
C
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この地震は、前述したように震央がメトロマニラ
特色を採用している。これは、国および地方自治
地域から遠く離れており、メトロマニラ地域での
体民間組織および一般公共団体を含む、政府と民
震度は全体的に低い。 M M震度階で震度 7は
、
間の全ての資源を有効に利用することを考えてい
JMA(気象庁)震度階では、震度 4に相当する。こ
る。これは自助と相互援助の精神を頼りにしてお
の程度の震度では、ここで示したメトロマニラ地
り、発災後直ちに近隣の各種組織,団体や上級官庁
域の震度の差異については、やはり地盤性状によ
からの支援を依頼する以前に当該地域における利
るものと考えられる。このことは、震度災害脆弱
用可能な資源を有効に活用するために、異なった
性評価の結果と震度分布は概ね整合しているもの
期間や作業グループと共同行動することができる
と考えられる。特に、平均震度より震度が高い地
ように調整するものである。
区については、より詳細な検討が必要であろうと
思われる。
そして計画では、以下に記す 2つの局面を想定し
ている。すなわち、地震の発生前と地震発生後で
ある。ここでは、被害情報収集と初期警戒からレ
5. 防 災 体 制 〈 バ レ ー 断 層 に 対 す
る
緊急対応計画〉
スキュー,避難および救助オペレーションまでの災
害直後の短期間の局面についてだけ考窟している。
復興,再建,移転や再定住なと、の局面について
比較的規模の大きな地震が、メトロマニラとそ
は、状況が安定した時点で対応することが可能で
の周辺地域に良く発生する。これらの地震は、総
あり、これらの問題については、その基本的な対
称してバレーフォールト (VF) と呼ばれている断
応責任をもっ関連機関によって、より適切に処理
層上に発生する。これまで数多くの研究者によっ
されるものになろう。どのような緊急事態に対し
1
0
4
総合都市研究第 5
1号 1993
ても、迅速かっ組織的でタイムリーであり、良く
表者と構成要因で組織される。
役割分担されされた対応を確保するためには、日
'MMA
.DECS
• DPWH
• DSWD
• DOTC
'PNP
'DOH
• KBP
• PIA
'PNRC
• AFP
• NGOs
常の訓練や練習が重視されるべきである。
そして、この対応計画を円滑に実施するために、
1
6に示され、以下
全ての関係した期間と組織が図に説明されているように組織化されることになっ
③作業グループ
m(レスキューと避難グループ)
このグループは、以下の機関/組織からの代
ている。
表者と構成要因で組織される。
(i)国家災害対策会議 (NDCC)
市民擁護局 (OCD) を通して、国家災害対応会
議 (NDCC)は、全ての指揮管理を統括し、全レベ
ルの緊急対応に支持と援助を与える。
.CAPCOM
・A
l
l Gov
t
.Agencies
.BMGS
• NGOs
④作業グループ I
V (援助オペレーショングルー
プ)
このグループは、以下の機関/組織から代表
(i
i)メトロマニラ災害対策会議
者と構成要因で組織される。
• DSWD
・DOH
レー" (MMTFV)を通して、メトロマニラ災害対
・DILG
• PNRC
策会議 (MMDCC) は、メトロマニラ地域におけ
• BMGS
.NGOs
メトロマニラ地域の機動部隊 (
TaskF
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)“
バ
る各災害対応機関と組織を傘下に治め、ローカル
'DBM
.NEDA
(i
i
i)機動部隊のオペレーション
な作業グループの活動を取りまとめる。 MMTFV
機動部隊のオペレーションは、メトロマニラ地
の議長は、メトロマニラ行政庁 (MMA:Metro
域の 1
7の市/町の作業グループを準備する。更
1
a Agency) の長であり、 PNP首都司令部
Mani
に、その作業グループは、 4つの作業ティームを構
(CAPCOM) の地域責任者を勤めることになって
成する。すなわち、被害調査と警戒ティーム,準備
いる。
と公共情報ティーム,レスキューと避難ティームお
機動部隊は、その日常の活動を取り扱うことお
よび全ての緊急対応の局面を含めて各種の機関/
よび援助オペレーションティームである o
全ての作業グループは、その独自のオペレーシ
組織の間の運営を円滑にするためにオペレーショ
ョンセンターをもつことになる。そして各々の市
ンセンターを保有する。オペレーションセンター
町長がグループの責任者となる。各市町長は、オ
には、 MMA,CAPCOMとその他の関連機関/組
ペレーションセンターに人員を配置したり、異な
織からの代表者と構成要因を配置することになる。
った作業ティームをその能力に基づいて適切に組
また、機動部隊は実行部隊として次に示す 4つの作
合せて共同行動できるように指揮するため、各々
業グループをもっ。
の市/町の災害対策会議 (C/MDCCs) を活用す
①作業グループ 1(被害調査および警戒グルー
る。作業グループは、その各々の地域において円
プ)
滑に対応できるよう地域の災害緊急対応の訓練を
このグループは、以下の機関/組織からの代
実施する。
7の作業グループ (TGs)を統括
また、 TFVは 1
表者と構成要因で組織される。
• PHILVOCS • PAGASA
• BFPS
して、オペレーションの制御 (OPCON)を訓帝廉し
• PIA
• DOTC
• PNP
ておく必要がある。 TGsは、初期に各々の市/町
• PAF
• NGOs
• KBP
・BMGS
において組織し活動が展開される。 TFVの各作業
②作業グループ I
I (準備と公共情報グループ)
このグループは、以下の機関/組織からの代
7のTGsの各々
グループは、機能的な指揮および 1
の対応する作業ティームを構成するが、それは、機
動部隊の予備グループとして組織される。
望月・荏本・楕木・天国:メトロマニラの地震災害脆弱性評価と防災体制
1
0
5
地震時の緊急対応として、 TFVは被害程度に応
機動部隊は、 4つの Pの頭文字をもっオペレーシ
じて 3つのタイプの市/町に対応することになろ
ョン戦略を包括することになる。すなわちそれは、
う。それは、大被害地域と要救援地域,軽被害で自
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),防止 (
R
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nt),準備 (
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)
予測 (
助できる地域および無被害地域の 3つのタイプで
と行動 (
P
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m
)である。機動部隊の活動/オペ
ある。そして TFVは、その最大の対応努力を大被
レーションは、いわゆる地震発生後の 2つの局面に
害地域および要救援地域に集中することになろう。
ついて実行される。実行すべき戦略のパッケージ
それは、その地域における機動部隊の予備グルー
は、統合化された対応戦略に基づいていなければ
プにより初期の段階に組織され展開し、その後に
ならない。この中には、地震災害の大きさ,範囲そ
無被害地域の市/町からの作業グループにより支
してこのような対応の継続が含まれており、被害
援されることになる。軽被害地域の市/町の
規模のレベルに釣り合っているべきである。また
DDCsは、単に監視活動のみに従事しているオペ
これらの対応は、そのおかれた状況,被害の制御ま
レーションセンターを通して、機動部隊とともに
たは援助協力が保証されれば、段々と縮小/保留
各々の災害援助オペレーションを自動的に組織し
されることになろう。そして必然的の結果として、
て援助の手を差し伸べることになる。市/町長は、
作業グループは段々と大被害地域から引き上げ、
被害がどう推移するかに対して、各々の地域にお
元の組織単位/部署にもどることになる。
ける災害援助オペレーションに責任をもつことに
なる。
TF “VALLEY"
OPNS CENTER
4CDCCs/13 M D C C s r h
;
「
CrTY/MUN T G s l l
BGY DISASTER
VOLUNTEER BDEs
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-・一ーーーー一一一一ーーー一一ーー一一ーー一ーーー- 111
ーーーーーーーー一ーーー一一ーー一ーーーー .11
1・
」一一一ーーーー一一一ーーーーーーーーーー一一ー一~..J
図 16 バレー断層に対する緊急対応計画の組織図
1
0
6
総合都市研究第 5
1号 1993
で可能な限り正確な地域設定を目指すことが急務
6.
あとカfき
であり、その結果を用いて統計データを整理し、地
震災害脆弱性評価を行ってサイスミックマクロ
メトロマニラ地域を対象として、地震災害脆弱性
ゾーニングマップをまとめていく必要があるもの
評価と防災体制に関する事例をまとめた。この地
と考えられる。
域の地震危険度の調査研究については、ややマク
ロな観点から主に地質・地盤性状に基づいた検討
が進められており、基本的に大変重要であること
参考文献
は当然のことであるが、非常に基本的な検討に留
まっている。この脆弱性評価の基礎となっている
1
) MMA
地質・地盤の分析結果によれば、メトロマニラ地
1
9
9
1
域の沖積平野の地盤性状は極めて悪く、しかも多
2
) UNDRO
数の建物や人口が集中する地域となっている。今
1
9
7
8
後より実際的に有用性のある地震災害脆弱性の評
などに関する危険度を考慮した詳細な検討が不可
C
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価を行っていくためには、より工学的な観点から
建築物,土木構造物,ライフライン施設,人口分布
Metro Manila
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e Metro Manila Area
3
) NCSO
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9
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0 Census o
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欠であり、その検討結果に基づいたサイスミック
HousingP
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nbyBarangay:
マクロゾーニングマップの作成が早急に要望され
Metro Manila
る。現在、メトロマニラ地域の北東部に位置して
いるマルキナ渓谷に存在するマルキナ断層上の M7
4
) NCSO
1
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UrbanP
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クラスの近地地震の発生が問題となっており、こ
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y,by Region,P
の断層はマニラ市から約lOkn程度の近距離にある
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y/M
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t
y and by
ため、実際に発生した場所を考えるとかなりの規
模の被害が予測される。従って、メトロマニラ地
域の地震災害危脆弱性評価と緊急対応計画の策定
Barangay:1
9
7
0,1
9
7
5 and 1
9
8
0
5
) UNESCO
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IDNDR (国際防災の 10年) Metro Manila Area (メトロマニラ地域)
Seismic Vulneravility Analysis (地震災害脆弱性評価)
Contingency Plan (緊急対応計画)
望月・荏本・楠木・天国:メトロマニラの地震災害脆弱 性評価と防災体制
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