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留学生の卒業後の進路状況について

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留学生の卒業後の進路状況について
ABK 留学生メールニュース
53 号
2006 年 2 月発行
【財団法人アジア学生文化協会 教育交流事業部】
留学生の卒業後の進路状況について
日本学生支援機構調査「平成 16 年度に卒業(修了)した外国人留学生の進路状況」の分析から
財団法人アジア学生文化協会 教育交流事業部
白
石
勝
己
日本学生支援機構調査による「平成 16 年度に卒業(修了)した外国人留学生の進路状況」が平
成 17 年 2 月に発表されました。これまでは内部の参考資料として調査が行われていたものを、一
般利用を期して 16 年度分から公表されることとなったとのことです。この新たに公表された調査
結果を下に、日本人のケースと比較しつつ、各在学段階別の状況分析を行いました。
1
全体の状況
図表1
進路
合計
日本・
出身
国(
地域)以外
その他
就職(日本)進学(日本)就職(
母国)進学(母国)就職(
第3国)進学(
第3国)
日本国内
5,705
22.9%
小計
不明
卒業
留学生
総数
4237
24,961
3,942
28,903
17.0%
100.0%
‐
‐
出身国(
地域)
11,445
45.9%
3149
12.6%
17,150
68.7%
171
0.7%
118
0.5%
3,320
13.3%
136
0.5%
254
1.0%
調査は大学、大学院、短期大学、高等専門
平成16年度に卒業・
修了した外国人留学生の進路(全体)
学校、各種学校(専門課程)、準備教育の認定
進学(第3国),
136
就職(
第3国)
,
118
進学(
母国)
,
171
を受けている日本語学校に対して行われまし
その他,
4,237
就職(
母国)
3,149
就職(
日本)
, 5,705
た。平成 16 年度(2004 年度)に卒業(修了)
する留学生の総数は 28,903 人で、留学生数
全 体
24,961人
(平成 16 年度 5 月 1 日現在)は 117,302 人
であることから、約 25%が卒業(修了)した
こととなります。
進学(
日本)
,
11,445
この留学生卒業生のうち 3,942 人の進路は
学校が把握していない不明分とされており、
行き先が把握されている者は、約2万5千人
となっています。
その内訳を表したものが図表 1 で、69%の 1 万 7 千人が日本国内で進学、あるいは就職してい
ます。母国へ帰国した者、または母国以外の第 3 国で就職・進学した者は、約 3,600 人で 14%で
す。
「その他」が 4,237 人で、17%にも上っていますが、調査を行った日本学生支援機構政策企画
部によれば、帰国後に就職活動を行う場合や、帰国準備のため「短期」の資格に変更し日本で滞
在するというようなケースであろうとのことでした。
1
ABK 留学生メールニュース
53 号
2006 年 2 月発行
【財団法人アジア学生文化協会 教育交流事業部】
この表から、
「就職」のみを取り出してみると、母国または第 3 国で就職した者は約 3,300 人で
あるのに対し、日本で就職した者が約 5,700 人おり、すでに日本での就職が母国での就職を上回
っていることがわかります。卒業後、さらに進学した者は 1 万 1 千 7 百人に上り、その内ほとん
ど 1 万 1 千人(46%)が日本で進学しています。
2
大学学部、大学院(修士)卒業生の進路状況
図表2
日本・
出身
国(
地域)以外
その他
就職(日本)進学(日本)就職(
母国)進学(母国)就職(
第3国)進学(
第3国)
日本国内
進路
大学学部
大学院
(修士)
2,245
31.0%
2,708
37.3%
598
8.2%
4,953
68.3%
1,424
30.8%
小計
不明
卒業
留学生
総数
1,591
7,253
1,387
8,640
21.9%
100.0%
‐
‐
761
4,623
1,181
5,804
16.5%
100.0%
‐
‐
出身国(
地域)
30
0.4%
22
0.3%
628
8.7%
1,526
33.0%
840
18.2%
2,950
63.8%
59
0.8%
81
1.1%
29
0.6%
869
18.8%
21
0.5%
22
0.5%
43
0.9%
留学生の大学学部と大学院修士課程の卒業後進路では、ほぼ同じ傾向を示しています。日本で
の就職、進学がそれぞれ卒業生の 30%台で、日本には 60%以上の割合で残っています。それに
対し、母国での就職は学部卒で 8%、大学院卒でも 19%で一般的に考えられるような「卒業した
ら帰国して、母国の発展に寄与する留学生」のイメージとはかなりかけ離れた数字となっていま
す。
日本人のケースと比較するために、文部科学省の平成16年学校基本調査から、各教育段
階別卒業生の進路を表にしました(図表3)。
図表3
区分
大学学部
(割合)
修士
(割合)
博士
(割合)
短大
(割合)
高専
(割合)
合計
(割合)
(注)
卒業後の状況調査
文部科学省学校基本調査−平成16年度−より作成
大学院等
への
進学者
64,610
11.8%
9,912
14.4%
167
1.1%
12,502
11.2%
3,929
39.2%
91,120
12.1%
就職者
306,338
55.8%
45,217
65.5%
8,531
56.3%
69,022
61.6%
5,422
54.2%
434,530
57.5%
専修学 一時的な
左記以外 死亡・不
校・
仕事に
の者
詳の者
外国の 就いた者
12,412
24,754 110,035
22,699
2.3%
4.5%
20.0%
4.1%
427
873
9,616
3,028
0.6%
1.3%
13.9%
4.4%
276
492
3,916
1,736
1.8%
3.2%
25.8%
11.5%
2,886
8,521
17,709
1,366
2.6%
7.6%
15.8%
1.2%
199
16
445
−
2.0%
0.2%
4.4%
0.0%
16,200
34,656 141,721
28,829
2.1%
4.6%
18.8%
3.8%
計
548,897
100.0%
69,073
100.0%
15,160
100.0%
112,006
100.0%
10,011
100.0%
755,147
100.0%
1 大学院の博士課程の卒業者には,所定の修業年限以上在学し,所定の単位を修得した後,学位をとらずに満期退学
した者を含む。
2 「
大学院等への進学者」
とは,大学院研究科,大学学部,短期大学本科,大学・短期大学の専攻科,別科へ入学した
者である。また,進学しかつ就職した者を含む。
3 「
左記以外の者」
とは,家事の手伝いなど就職でも「
大学院等への進学者」や「
専修学校・
外国の学校等入学者」等でも
ないことが 明らかな者である。
2
ABK 留学生メールニュース
53 号
2006 年 2 月発行
【財団法人アジア学生文化協会 教育交流事業部】
これを見ると判る通り、日本人の場合は大学学部卒の 12%、修士課程卒の 14%がそれぞれ上
の教育レベルへと進学しています。従って、留学生の卒業後の進学率は極めて高いと言うことが
できます。
これは、日本ではアルバイト、奨学金などを併用しつつ勉学継続のための経済的な基盤を形成
することができる。海外で正規課程留学を志す学生はもともと勉学志向、キャリア指向が強い。
あるいは、日本での就職と進学の二股をかけ、結果的に進学を選択した、などという理由も考え
られるかもしれません。いずれにしても、上位の教育レベルを目指すことができる環境があると
いうことは、日本留学のポジティブな面として捉えてよいのではないでしょうか。
3
大学院(博士)卒業生の進路状況
図表4
進路
大学院
(博士)
日本・
出身
国(
地域)以外
その他
就職(日本)進学(日本)就職(
母国)進学(母国)就職(
第3国)進学(
第3国)
日本国内
577
31.2%
49
2.7%
小計
不明
卒業
留学生
総数
402
1,849
555
2,404
21.7%
100.0%
‐
‐
出身国(
地域)
744
40.2%
626
33.9%
8
0.4%
58
3.1%
752
40.7%
11
0.6%
69
3.7%
次に、留学生の大学院博士課程卒業後の進路について見ます(図表4)。ここでは、当然のこと
ながら、進学の選択肢はほぼなくなり、母国での就職が 40%と第一位になっています。また、日
本での就職も 31%と大きい割合となっています。博士課程の場合は、母国の大学、研究所、行政
機関などから派遣され、課程終了後は派遣元に復職することが義務付けられているケースもある
と考えられます。
留学生の場合、博士課程卒の 70%が就職しているのに対し、図表 3 で日本人の場合を見ると、
卒業者の就職率が 56.3%に留まっています。その一方で「左記以外の者」、つまり「就職でも進
学もないことが明らかな者」も 25.8%と高い割合を占めています。
4
専修学校専門課程(以下 専門学校)卒業生の進路
図表5
進路
専修学校
(専門課
程)
日本・
出身
国(
地域)以外
その他
就職(日本)進学(日本)就職(
母国)進学(母国)就職(
第3国)進学(
第3国)
日本国内
1,248
14.9%
5,029
60.1%
6,277
75.0%
小計
不明
卒業
留学生
総数
1104
8,364
697
9,061
13.2%
100.0%
‐
‐
出身国(
地域)
855
10.2%
80
1.0%
935
11.2%
17
0.2%
31
0.4%
48
0.6%
留学生の専門学校卒業生の特色としては、進学が 60%と圧倒的に高い割合となっていることで
す。実は、専門学校の外語系の学校では日本語課程を設置している所もあることから、日本人と
まったく同様に、専門教育のみが対象となっているとは言えない部分もあります。さらに、留学
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ABK 留学生メールニュース
53 号
2006 年 2 月発行
【財団法人アジア学生文化協会 教育交流事業部】
生の場合、日本語教育の期間が 2 年間までと制限されており、大学進学を希望しながらも、十分
に日本語能力が得られず、受験が不振に終わった場合は、ビジネス系の専門学校をブリッジして
再度大学に進学するというケースも多いと推察されます。
また、2 年課程以上で、かつ授業時間数 1700 時間以上の専門学校を卒業した場合、大学の 2・
3 年次へ入学できる「編入学制度」が整備されつつあります。このようなことからも、今後とも
専門学校の卒業生が大学等へ進学する割合が高くなってゆく可能性があると考えられます。
その一方で、専門学校が、実質的な職業教育である割には、日本での就職が 15%台と振るいま
せん。それは当然のことで、「専門士」の資格制度が出来る 1997 年まで、専門学校を卒業した留
学生の就職は認められていませんでした。現在でも、大学を卒業した留学生と比べた場合、ビザ
の変更時に勉学内容と就職先の仕事との密接な関連性がより強く求められたり、外国人の就業が
制約されている国家資格があったりするので、専門学校の卒業生は容易には就労ビザへの変更が
認めらないと認識されています。
5
短期大学、高等専門学校、準備教育機関(日本語教育機関)卒業生の進路
図表6
進路
短期大学
高等専門
学校
準備教育
機関
日本・
出身
国(
地域)以外
その他
就職(日本)進学(日本)就職(
母国)進学(母国)就職(
第3国)進学(
第3国)
日本国内
189
15.1%
765
61.2%
73
5.8%
954
76.4%
8
6.5%
0
0.0%
122
98.4%
14
0.9%
0
0.0%
1
0.8%
39
2.6%
8
0.6%
8
0.6%
0
0.0%
1
0.8%
1,254
83.7%
1,268
84.6%
17
1.4%
90
7.2%
114
91.9%
小計
不明
卒業
留学生
総数
197
1,249
94
1,343
15.8%
100.0%
‐
‐
1
124
2
126
0.8%
100.0%
‐
‐
181
1,499
12.1%
100.0%
出身国(
地域)
0
0.0%
0
0.0%
6
0.4%
0
0.0%
45
3.0%
5
0.3%
5
0.3%
26
‐
1,525
‐
最後に、短期大学、高等専門学校、準備教育機関(日本語教育機関)の卒業生の進路をまとめ
て図表 6 で見ます。
短期大学も専門学校と同じ傾向が出ており、日本国内での進学が 61%と極めて高い割合になっ
ています。図表3で、日本人の短大卒業生の進路では、就職が 62%、進学が 11%となっており、
その割合がまったく逆転しています。やはり理由は専門学校の場合と、ほぼ同様のことが言える
のではないか。また、ここ数年の短大の傾向として、中国などから留学生を直接招聘することも
あったので、これらの留学生が 2 年の在学期間後に、他の大学に入りなおしたり、編入したりす
るケースも多かったのではないかと考えられます。
4
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53 号
2006 年 2 月発行
【財団法人アジア学生文化協会 教育交流事業部】
全国の高等専門学校には、文科省国費留学生とマレーシア政府派遣留学生が各学年に数名ずつ
配置されています。これらの留学生は日本語予備教育を経て 5 年課程の内の 3 年次に編入し、日
本人の学生の中で大変密度の濃い技術者教育を受けています。
高専を卒業した学生は、編入試験を経て大学の 3 年生へ進学する道が開かれており、日本人の
進学率は 39%に上っていますが、留学生の場合はほぼ全員、なんと 92%が大学等へ進学してい
るという結果が出ています。
筆者は 2000 年からマレーシア政府派遣留学生のカウンセリングのため、毎年 10 校程度、日本
全国の高専を訪ね歩いていますが、キャンパス内の学生寮に宿泊し、指導教官やチューターに囲
まれ、少数精鋭でしっかり技術者として育て上げられる留学生の姿を見てきました。工業高専で
十分な実力を養った留学生が、さらに工学系学部 3 年次に編入し学位を取得するコースは、あま
り一般には知られてはいないものの、日本のエンジニア教育のエッセンスが集約していると常々
思っています。
日本の大学等の高等教育機関に入学するためには、12 年の学校教育が修了していること、18
歳に達していることが必要です。しかしマレーシア、フィリピン、モンゴルなど、国によっては
中等教育が 12 年未満であるところもあります。「準備教育機関」とは、文部科学大臣が指定する
課程・教科を設置している日本語教育機関で、中等教育が 12 年未満の国からの留学生でも、これ
ら学校で日本語や基礎科目の教育を受けると、12 年の学校教育を修了したと同等とみなされ、日
本における大学入学資格が付与されます。2005 年時点では日本国内には 18 校あります。このよ
うな学校群ですので、その目的どおり日本国内での進学が目的であり、84%の者が進学していま
す。
6
おわりに
今回、初めて公開されたデータですが、さらにいろいろな方向から分析すると、また別の示唆
を得ることができるのではないかと思います。今後、留学生の受け入れは、出口戦略が重要であ
ると認識され始めており、このような調査データの公開は重要です。JASSO のホームページでは
この「留学生の卒業(修了)した外国人留学生の進路状況」調査と同時に「平成 16 年度に卒業(修
了)した外国人留学生の学位取得状況」調査も公表されています。こちらの分析は次号で行う予
定です。
出典:http://www.jasso.go.jp/statistics/intl_student/data05_d.html
(了)
5
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