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鎖 骨 骨 折 の 保 存 的 治 療

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鎖 骨 骨 折 の 保 存 的 治 療
〔千葉医学 87:39 ∼ 48,2011〕
〔 総説 〕
鎖 骨 骨 折 の 保 存 的 治 療
−ボデイプランからみた鎖骨の特性−
齋 藤 篤
(2010年10月 4 日受付,2010年12月15日受理)
要 旨
無床診療所における鎖骨骨折は,低エネルギー外傷によるものが主であり保存的治療にてほぼ満
足すべき結果が得られた。鎖骨は哺乳動物のボデイプランとして線維性骨化を示し,内側骨端は20
代後半まで成長し,先天性偽関節や欠損症が存在する特殊な骨である。小児鎖骨骨折については,
9 カ月から15歳(82例)の症例のうち 0 − 3 歳までは29例で, 8 − 9 歳には 3 例と減少し,13−15
歳では24例と増加すると共に Robinson 分類 Type2B が多くなる(odds 比4.28)
。遠位端骨折(平均年
齢11.5歳 4 例)については,フエルトパッド付鎖骨骨折固定バンドにて骨癒合が得られた。脇の下
で抱くと泣く乳幼児は,鎖骨骨折が疑われた。成人鎖骨骨折は89例で平均年齢46.5歳(16−87歳)で
あった。外側端骨折は32例で平均年齢42.7歳であり,男性(男性25:女性 7 )と右側(右側22:左側
10)が多かった。鎖骨中 1/3 骨折は55例で平均年齢36.1歳,活動性の高い男性(男性40:女性15)の
青壮年層に多かった。Robinson 分類の Type2A1&2 が24例であり,Type2B1&2 は31例であった。
Type2B1 と比べて 2B2 の粉砕骨折に遷延性骨癒合が多い印象はなかった。 8 字固定ギプスや固定バ
ンドによる安静固定を 8 −10週間施行し,変形治癒を伴ったが偽関節形成はみられなかった。鎖骨
遠位端骨折は偽関節形成が多く Craig 分類 Type Ⅰは14.3%であるが,特に田久保分類 Type Ⅵは偽関
節形成83%( 6 例)が多かった。その一方では,高齢者における鎖骨遠位端骨折の偽関節形成は遺
残性の肩鎖関節脱臼と同様に患者立脚型アウトカムは容認された。疼痛を伴った活動的成人男性の
1 症例は,鎖骨遠位端切除で対処できた。両側性偽関節を示した胸肋鎖骨異常骨化症の鎖骨中 1/3
病的骨折の中年女性例は, 2 年後の追跡にて骨癒合がみられた。女性(平均年齢49歳( 3 例)例の
大根田分類Ⅴ型である鎖骨中 1/3 の横骨折は遷延性仮骨形成を示した。 1 例は12週以降に観血的治
療に移行し,2 例は24週以降に仮骨形成が両骨折端に架橋して出現し,1 年後には骨癒合が得られた。
このことは Robinson 分類 Type2B1 に中高年女性にみられる難治性骨折型の存在が示唆された。
Key words: 鎖骨骨折,保存的治療,骨癒合不全,肩章パッド付鎖骨バンド
Ⅰ.はじめに
定を長期に要すると共に変形治癒,遷延性骨癒合
不全や偽関節などの合併症が時にみられる。特に
鎖骨骨折は,プライマリケアを担当する整形外
外側骨折に偽関節が多くみられるが,肩鎖関節脱
科診療所において日常診療上よく遭遇する骨折の
臼と同様に愁訴は軽度で日常生活上の障害に影響
一つである。鎖骨は発生学的に四肢長管骨と異な
は少ない。
り,仮骨形成が良好なため保存的療法が推奨され
近年,骨折に対する内固定材の進歩により観血
てきた。その一方で,保存的治療は肩甲帯の外固
的に解剖学的整復と強固な固定が行なわれ,早期
都賀さいとう整形外科
Atsushi Saito: Conservative treatment of clavicular fracture: its anatomical significance.
Tsuga Saito Seikeigeka, Chiba 264-0025.
Tel. 043-497-5137. Fax. 043-497-5138.
Received October 4, 2010, Accepted December 15, 2010.
本内容の一部は第10回千葉県医師会医学会学術大会記念大会にて発表した。
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齋 藤 篤
就労やスポーツ復帰などが可能になった。しかし,
行に適した衝撃吸収機構を獲得している。イヌな
内固定材の抜去の問題,再骨折や感染,医療費な
どのような肉食動物の鎖骨も同様に退化して痕跡
どを考慮して保存的療法を希む症例も多い[1]。
的に骨塊が存在する。綿羊とネコの胎生期におけ
今回,1980年より19年間に保存的治療を行なっ
る鎖骨の組織学的研究によると,綿羊では一過性
た鎖骨骨折171例( 0 −87歳)について後向きに
に鎖骨の間葉性細胞の集団が形成されるものの,
検討を行なった。全例共,乳幼児を除き,X 線上
発達と共に 1 層の上皮細胞に囲まれ,骨膜の発達
骨癒合を確認し,遷延性骨癒合不全例は24週以上
は阻害されて破骨細胞が現われる。続発性の軟骨
追跡した。鎖骨骨折は,鎖骨の解剖学的特徴を理
形成がみられず骨形成に到らない。ネコでは,軟
解して年齢・性・日常生活などを基に治療法を選
骨形成は綿羊と同様にみられないが,骨膜がよく
択する必要を認めたので報告する。
発達して旺盛な骨芽細胞の出現により機能しない
痕跡的鎖骨が形成される[4]。
Ⅱ.鎖骨の解剖学的特徴
−偽関節形成の要因−
ヒ ト の 鎖 骨 の 発 生 に つ い て は,Mall に よ り
1906年,間葉系細胞が胎生 6 週間後に 2 つの集積
として発生することを認めた。近年,雄賀多らの
鎖骨は頭蓋骨や下顎骨のように線維性骨化によ
研究によると,胎児で最も早く骨化する鎖骨の両
り形成される附加骨である。脊椎動物のボデイプ
端に一次骨化中心である結合組織が出現する。そ
ランからみた鎖骨の形成は進化の過程で多様性が
れは次第に融合して軟骨組織となり,屈曲しなが
みられる。硬骨魚類の胸鰭の付着部はカマと呼ば
ら成長し S 字状になる。次に骨膜からの血管侵入
れ,鎖骨に相当する上擬鎖骨と擬鎖骨があり,そ
により骨髄が形成され,鎖骨の中外 1/3 の位置で
の中に肩甲骨と烏口骨が内蔵されている。これは
両側からの骨化が合体する[5]。この部位は,鎖
鯛ではタイの形をしている。ドイツのジュラ紀の
骨の上部に付着する僧帽筋と下部に付着する三角
地層から発見された始祖鳥には,恐竜にもみられ
筋や烏口鎖骨靱帯が,内側の上部に付着する胸鎖
る原生鳥類の癒合鎖骨(叉骨)がある。胸骨と連
乳突筋と鎖骨下部の骨溝に付着する鎖骨下筋と大
結した烏口骨と肩甲骨に,この叉骨は関節を形成
胸筋の境に一致する。この部位は,Deltopectoral
し羽撃きを制御する。暢思骨とも呼ばれている。
triangle とよばれ S 字状の曲がり角でもある。こ
ヒトでは烏口骨が烏口突起となり,肩甲骨と一体
こは約 2 % に見られるとされる鎖骨上神経孔があ
化し,肩鎖関節は烏口肩峰靱帯と烏口鎖骨靱帯で
る[6]。この神経は通常では鎖骨を皮下で跨いで
支持されている。霊長類のうちテナガサルは,鎖
走行しているが,X 線撮影で偶然に骨孔が発見さ
骨と烏口突起間で関節を形成している[2]。この
れることがある(図 1 )。
烏口鎖骨靱帯である菱形靱帯と円錐靱帯付着部周
鎖骨の先天性欠損は,遺伝子異常による鎖骨・
辺部の骨折は,その靱帯損傷を伴う肩鎖関節脱臼
頭蓋異形成症や原因が定かでない先天性鎖骨偽関
と同様に保存的治療による整復と固定に難渋す
節症などがある[7]。見目らの報告によると,機
る。しかし,遺残した肩鎖関節脱臼や鎖骨遠位部
能的には鎖骨の 2/3 未満の欠損例では機能上問題
の偽関節による肩関節機能障害は一般的に軽微で
がなく,鎖骨下の血管や神経が障害されたり疼痛
あり,疼痛も平素の日常生活に許容される。鎖骨
の原因になる症例は稀であるため小児では保存的
全体が S 字状を呈し,中 3 分の 1 に剪断力が集中
経過観察が推奨されている[8]。その一方で,先
するため,骨折が最も多く,髄腔は狭く厚い皮質
天性鎖骨偽関節に対して四肢の先天性偽関節症に
の骨片骨折が生じやすい。上肢が下肢より長く,
比べて骨癒合が良いことから仁木らは,心臓右方
ナックルウォークをする類人猿は烏口突起は大き
偏位,第一肋骨形成不全を合併した 6 歳児に断端
く,鎖骨は弯曲がより直線的になっている[3]。
切除と骨移植,鋼線固定を施行している。高位の
鎖骨が欠損しているシカなどの有蹄類では,胸廓
右鎖骨動脈による持続的圧迫が鎖骨に作用し,偽
が縦長の紡錘形で肩甲骨が櫂のように横径が発達
関節形成に原因を示唆している[9]。品田らは,
し,肩関節の内外転運動を犠牲にして,跳躍と走
乳幼児期に 2 回の手術を受けたが骨癒合の得られ
鎖 骨 骨 折 の 保 存 的 治 療
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摘出 6 例の報告がある。症例は25−46歳の煙草喫
煙者で骨折術後感染で多数回手術例や,鎖骨下静
脈閉塞症術後の癒合不全である。摘出術後はすべ
て肩関節可動域は改善,VAS(主観的疼痛スケー
ル 0 −100)は平均術前の95から術後15に改善し,
満足度が高いためサルベージとして推奨している
[14]。
鎖骨外側部 1/3 の骨折は保存治療に難渋し偽関
節を生じやすい。Kirschner 鋼線と軟鋼線による
固定,各種のプレートなどを用いた手術療法がお
こなわれている[15]。要因として,鎖骨遠位端に
図 1 30歳男性 左鎖骨上神経孔(矢印)
は骨端核は形成されず,骨折後の仮骨形成が旺盛
なかった右第 3 , 4 合指症と右小耳症を合併した
析した研究では,上肢の前方挙上は17.3°である
先天性鎖骨偽関節症の 5 歳児に,両親の希望で両
が,背中を掻く結帯動作では33.2°,外転時には
端の新創化の後,腓骨と腸骨からの骨移植を行
30.6°と増大している。鎖骨遠位関節前方の関節
い,下腿と共に良好な成績を報告している[10]。
軟骨面を介して上肢挙上に伴う肩甲骨側からの応
この偽関節は主に右鎖骨の中 1/3 に見られ,何
力が集中してくるため,鎖骨骨折部には回旋が生
らかの他の形成異常を右側に合併していることか
じることになる[16]。従来,鎖骨骨折の初期治療
ら HOX 遺伝子の影響が考えられている。従って
は90°以上の挙上動作は制限すべきとされている
胎生期に生じた両側の 1 次骨化の癒合障害が否定
が,上肢の屈曲運動など軸の回旋の少ない日常生
できない[11]。鎖骨は思春期より青年期まで鱗状
活動作をするよう留意させ,外転・伸展運動や荷
の骨端核が内側端に存在し,30歳に近づくまで成
重の加わる動作の制限は遷延治癒の予防となると
長する。外側端は肩甲骨と線維性軟骨の介在する
考える。
関節で骨端核が存在しない。鎖骨の右側は左側
手術療法の合併症としては,鎖骨遠位端骨折の
より短くて太く,女性の方が男性より顕著であ
治療に用いられた Kirschner 鋼線が骨折部で屈曲
る。鎖骨骨幹部には骨髄腔のほとんど無いものも
したり,術後約 2 年の経過中に折損し,反対側の
あり,個体差により骨片骨折後の治癒期間に差が
上肢皮下に移動例した症例報告もある[17]。時に
できることが想定される。鎖骨の骨膜を剥離する
は鋼線が,胸腔,気管,脊柱管,眼窩,心臓や大
と,動物実験的に鎖骨は対照側より長く伸びるこ
動脈などを損傷する重篤な合併症例についても言
とより,骨膜の欠損は骨形成に影響する。鎖骨の
及している。髄内固定の他に各種鎖骨用プレート
成長に関与する内側骨端核は法医学的に年齢推定
による小侵襲骨接合術も汎用されているが,術後
に役立ち,11−22歳で骨端核が出現し,16−26歳
プレート破損の報告もみられる[18]。治療法の選
で部分癒合が開始,22−27歳で完全癒合するとさ
択は,高齢者やスポーツなど活動的な青壮年,若
れる[12]。12−18歳の若年層でスポーツ外傷や事
年者など勘案して慎重に選択すべきであろう。
とはいえない。MRI による肩鎖関節の動きを解
故で嚥下呼吸障害を訴えたり,鎖骨内側や前胸部
の腫脹と疼痛を伴う外傷がある。また,ラグビー
や柔道により受傷することが多く,鎖骨近位骨端
Ⅲ.鎖骨骨折の分類法と治療上の予後
線離開が胸鎖関節後方脱臼として観血的治療によ
長管骨骨折の分類は,Orthopaedic Trauma
り確認されることがあるが,CT 検査で必ずしも
Associaton(OTA)のコードにより細分化され
確認されない。観血的整復の後,縫合固定で予後
て 活 用 さ れ て い る(Gustilo, R. B.: The fracture
は良好であり徒手整復は困難である[13]。鎖骨の
classification manual, St Luis, 1991, Mosby)。
後天的に欠損については,Krishnan らの鎖骨全
Rowe によると
[19]
,鎖骨骨折に関しては Allman
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齋 藤 篤
によるグループⅠの中 1/3,グループⅡの外側
存的治療を行なった症例について検討し,田久保
1/3,グループⅢの内側 1/3 の分類がよく用いら
分類Ⅵ型や特に興味深い大根田分類Ⅴ型について
れている。このうちのグループⅡは Neer によっ
言及する。
て,Ⅰ型は烏口鎖骨靱帯に損傷がない外側端の骨
折,Ⅱ型は外側端は烏口鎖骨靱帯と固定されてい
るが,その靱帯の中枢側で骨折し転位したもの,
Ⅳ.小児鎖骨骨折の特徴と予後
Ⅲ型は肩鎖関節にかけて遠位端が骨折しているも
新生児鎖骨骨折は,産科領域では約 2 % に発生
のに分類された。その後,Ⅱ型のうちで烏口鎖骨
し,乳児検診時に触知されるも 3 カ月以内に仮骨
靱帯が無傷なものをⅡ A 型,烏口鎖骨靱帯のう
形成による隆起は触れなくなるとの報告がある
ち,菱形靱帯は損傷されず,円錐靱帯のみが断裂
[23]。筋性斜頸や先天性股関節脱臼などの 3 カ月
して骨折したものをⅡ B 型,と Rockwood により
検診で鎖骨骨折が診断されることは極稀といえ
区別された。その後に Craig は非常に稀な骨膜損
る。乳幼児が歩行を開始すると椅子や机によじ登
傷を伴う骨折をⅣ型に,粉砕骨折をⅤ型として 5
り転倒し骨折する。鎖骨骨折は肩の直達外力が主
型に分類した。その後本邦の報告で,Neer 分類
な原因で生じる[24]。当院で治療を行なった 9 カ
のうちでⅠ型に属しているものの中に,20歳前後
月から15歳までの82例は,男児49例,女児33例で,
にみられて CT 像で烏口鎖骨靱帯が断裂したもの
右側30例,左側53例(両側 1 例)であった。骨折
があり,それをⅥ型として区別した。保存療法で
の部位別では,近位端骨折の疑いのある少数例は
は偽関節形成を生じ易く,観血的療法の対象にな
紹介転医のため 0 例,中内 1/3 は 1 例,中央 1/3
る難治性骨折として報告している[20]。Craig は,
は41例(42骨折),中外 1/3 は36例,遠位端は 4
Rockwood 分類によるグループⅢの近位端骨折を
例であった。Sarwark らの報告では,外側 1/3 は
遠位端骨折と同様にⅣ型として骨端離開を含むも
10−21%,内側 1/3 は 3 − 5 % と外側骨折の比率
のと分類している。
が多いが,高エネルギー外傷等で搬送収容される
鎖骨近位部の骨折は骨幹部骨折に比べ頻度は
基幹病院とは比率が異なっていた。骨折は鎖骨中
少 な い。 単 純 X 線 検 査 で は Rockwood 撮 影 で も
1/3 骨折が主であり,遠位端骨折は 4 例(全例男
鎖骨近位骨端離開の診断には難渋し,CT 検査に
児平均11.5歳)で Craig 分類の Type Ⅱ A 1 例,Ⅱ
よる 3 D 画像診断が有用であるとされる。英国
B 1 例,Type Ⅲ例 2 例(Neer 分類も同じ)であ
の Robinson は1000例におよぶ鎖骨骨折を分析し
り,鎖骨固定バンドで治療した。Type Ⅱ A は西
て独自の分類を報告した。近位端骨折の分類は
堀ら[25]の変法で肩バンド下に厚さ2.5㎝の名刺
肋鎖靱帯に関わる骨折を Type1 とし,非転位の
大で軟らかくしたフエルト片を肩章として挿み固
TypeA1 と A2 に, 転 位 の あ る Type1B1 と 1B2
定した(図 2 A)。この10歳男児の症例は,旺盛
に分けている。鎖骨中 1/3 骨折については Craig
な仮骨形成により隆起して骨癒合がみられた(図
はグループⅠとしているが,Robinson は Type2
2 A,B)。年齢別では,処女歩行がしっかりする
として,骨皮質の連続し転位のないものを 2A1,
3 歳迄の乳幼児期が29例で最も多く, 8 歳と 9 歳
角状変形のあるもの 2A2 とし,転位があるが単
では計 3 例と最も少なく,小学生入学後の時期に
純なものを 2B1,単純で 1 個の蝶形骨片のあるも
減少する。その後,13歳になると急に12例と増加
のを除き,粉砕または分節状骨折を伴うものを
し,中学生入学後クラブ活動等によるスポーツ
2B2 としている[21]。
外傷で増加する。骨幹部中 1/3 小児鎖骨骨折の
本邦において大根田らは,独自に骨折線をもと
Robinson 分類では,生後より 3 歳までの28例中
にしてⅠ−Ⅴ型の分類を報告している。その中で
24例が Type2A であり骨片骨折を伴うものは稀で
注目すべきは,Ⅴ型の単純な斜骨折が138例中 3
例の少数例にみられたことである。また全症例は
あるが,13歳より15歳までの 3 年間の24例のうち
Type2A が14例 で あ っ た。Odds 比 は4.28,χ2検
仰臥法による治療で保存的に完治したと報告して
定は P <0.025であり,思春期になると Type2B が
いる[22]。今回著者は以上の骨折分類をもとに保
増加する。宮城県下の病院における小児骨折の集
鎖 骨 骨 折 の 保 存 的 治 療
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際こどもが泣く場合は,まず鎖骨骨折を疑って X
線検査をすべきであろう。年長児の早期スポーツ
復帰は再骨折に留意する。固定は固執せずに保存
的治療で早期に治り,観血的治療は特別の合併損
傷例に限定されると考える。
Ⅴ.成人鎖骨骨折の特徴と予後
年齢は16歳より成人とし,症例(16−87歳,平
図 2 A 10歳男児 左鎖骨遠位骨折
Neer 分類Ⅱ A 型
短冊型肩章パッド付き鎖骨バンド固定
均年齢46.5歳)は89例であった。鎖骨骨折のプラ
イマリケアにおいて,早期にスポーツ復帰のため,
16歳以下でも基幹病院のスポーツ整形外科専門医
による手術療法を希望したり,代替療法による通
院を希望して転医を申し出る症例も少なくない。
鎖骨内側端骨折については,3 例の高齢者で(72
−87歳,平均78.3歳)であった。若年者でスポー
ツ外傷により内側端骨折が疑われた症例は基幹病
院に依頼した。治療は鎖骨骨折固定バンド装着が
主であるが, 1 例は初診時に 8 字ギプス固定法等
を採用した。固定期間は平均 7 週間を指示した。
しかし,高齢者は必ずしも固定には固執せず,早
期には仰臥安静を保つように指導し,更衣や入浴
図 2 B 受傷後 1 週
は支援のもと許可した。4 週後には疼痛も軽減し,
12週後には骨折部の愁訴がほぼ消失していた。
鎖 骨 外 側 端 骨 折 は,32例 で あ り, 平 均42.7歳
(23−79歳)男性25例,女性 7 例,右22例,左10
例であった。骨折の部位は,肩鎖骨関節から菱形
靱帯と円錐靱帯が烏口鎖骨靱帯として鎖骨遠位を
支えているが,肩鎖関節と菱形靱帯の間の骨折を
Craig 分類Ⅰ型,その靱帯に損傷のない骨折をⅡ
A 型,円錐靱帯のみ損傷した骨折をⅡ B としたが,
そのうち烏口鎖骨靱帯の断裂を伴いⅠ型と同じ部
図 2 C 受傷後 12週
骨愈合と自然矯正を示す
位で骨折する田久保分類Ⅵ型の骨折の判定は,単
純 X 線像のみで判断するのには難渋した。肩鎖骨
関節損傷における分類Ⅵ型のうち,Ⅲ−Ⅵ型は保
計では, 0 − 4 歳までは肘関節周辺骨折が最も多
存治療では整復位に保持する事が困難であるよう
く,次に鎖骨骨折が約16% にみられた。10−14歳
に,烏口鎖骨靱帯断裂を伴う鎖骨遠位端骨折の治
では,前腕骨折が最も多くなり,骨折全体のうち
療成績は劣る。症例は田久保分類Ⅰ型14例(平均
鎖骨骨折は約 5 % となり減少する[26]。乳幼児の
年齢49.7歳),Ⅱ型 5 例(平均年齢43.2歳),Ⅲ型
鎖骨骨折における主な臨床症状は,(1)こどもが
3 例(平均年齢55.7歳),Ⅳ型なし,Ⅴ型 4 例(平
「手」を痛がる,
(2)胸に手を当てて抱くと痛がる,
均 年 齢36.5歳 ), Ⅵ 型 6 例( 平 均 年 齢51.5歳 ) で
(3)シャツの着脱で痛がる,などを主に保護者が
あった。偽関節形成については,Ⅰ型14.3%,Ⅱ
訴える。診断には脇の下に両手を当て抱き上げる
型40.0%, Ⅲ 型33.3%, Ⅴ 型50.5%, Ⅵ 型83.3% で
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齋 藤 篤
図 3 45歳男性 右鎖骨遠位骨折
Neer 分類Ⅱ B 型 図 4 52歳女性 左鎖骨 1/3 骨折
Robinson 分類 2B1
大根田分類Ⅴ型
A.受傷後 24週 偽関節形成 ゴルフスイング時の疼痛あり B. 1 年後 遠位部切除にて疼痛消失 A.受傷後 1 週 ギプス固定 B.受傷後 1 年 架橋による骨愈合 あった。遠位部骨折ではⅠ型が最も偽関節形成が
週後に遷延治癒のため観血的に Kirschner 鋼線固
少なく,烏口鎖骨靱帯断裂を伴うⅥ型骨折が最も
定を選択し,20週で骨癒合が得られた。約10% を
多かった。偽関節形成により運動時に疼痛を伴う
占める 5 例(男性 2 例,女性 3 例,平均年齢53歳
症例では,遠位端の切除により対処できた(図 3 )。 (23−81歳))は骨癒合が12週で得られなかったが,
鎖骨遠位部の骨折の予後は,癒合不全が生じて
24週後には全例癒合が完成した。
も肩鎖関節脱臼Ⅲ度と同様に愁訴は許容され,北
鎖骨骨折のうち骨幹部中 1/3 骨折は約70% を占
欧の長期追跡報告と同様の結果であった[27]。
めており,20歳以下では保存的治療で早期に骨癒
鎖骨中 1/3 骨折は,55例であり平均年齢36.1歳
合が得られた。2B2 型の粉砕骨折であっても安静
(16−86歳)であった。活動性の高い青壮年で男
固定と仰臥位保持で, 1 週間以後には経時的に血
性が多く40例,女性は15例であった。受傷側は右
腫が縮小し骨片が集結してきた。変形は避けられ
が23例,左は32例であった。Robinson 分類によ
ないが,仮骨形成は良好であった。高齢者で遷延
る症例の内訳は,2A1 型が 7 例,2A2 型が17例,
治癒を示した症例も,偽関節形成をみた症例は幸
2B1 型が18例,2B2 型が13例であった。転位や骨
い無かった。スポーツ外傷であったり,社会的要
片を伴う骨折が30例と過半数を占めていた。興味
因により観血的療法を希望して基幹医療施設に転
深いことに 2B1 型斜骨折の 3 症例は女性であり
医した症例もあり,偽関節形成の発生率は定かで
平均年齢49歳(44−54歳)であった。これは大根
ない。一般に頭部外傷や脊髄損傷に合併した骨折
田分類Ⅴ型の斜骨折であるが,骨折先端部に仮骨
は骨癒合が旺盛であるとの印象があるが,一過性
形成が出現して架橋による骨融合が完成するには
の意識障害を伴う頭部外傷に鎖骨骨折を合併した
24週間を要した(図 4 )。49歳の 1 例は外固定14
20歳代の 2B1 型男性 2 例は,保存的治療14週で
鎖 骨 骨 折 の 保 存 的 治 療
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X 線上仮骨形成がほとんどみられず,遷延性骨癒
げ法(着衣内の懐固定など)のどちらを選択す
合を示したため骨移植による観血的治療に移行し
るかについて外固定不必要の論争が行なわれて
骨癒合を得たので集計からは除外した。保存的治
いる[31,32]。鎖骨骨幹部骨折の保存療法の成績
療を行なった16歳男性 1 例は骨癒合後,早期にス
について諸家の報告によると,岩田らは小児か
ポーツ復帰にて再骨折を経験したが,保存的治療
ら高齢者を対象とした鎖骨固定帯による治療で
で早期に骨癒合が得られた。
94%(平均41歳,10−98歳,67例)に骨癒合が得
られ,楔形第 3 骨片のある Robinson 分類 2B1 型
Ⅵ.考 案
の 3 例に遷延治癒および偽関節を報告している
[33]。Robinson は,保存療法による癒合不全の
鎖骨骨折は,わが国において明治時代より保存
危険性について多数例における解析の結果,24週
的治療を選択すべきか,または手術的治療を選択
後の診断では遅いため,癒合不全を予測し早期発
すべきかの論争が行なわれている。臼井は,鎖骨
見により外科的治療の選択を推奨している。しか
骨折簡単治療法として「仰臥法」を 3 症例に行い
し,90% の骨幹部骨折と,80% の外側端骨折は12
「畳に薄き蒲団一枚を展べ患者を仰臥せしめ,肩
週で治癒しなくても,24週までには骨癒合が得ら
甲部に T 字枕をもちふることをよしとす」と述
れるため,多くは保存的治療を選択してよいとし
べており,田代も,日本整形外科学会誌第 1 巻に
ている。高齢女性の骨幹部粉砕骨折では,12週で
「鎖骨骨折は折片整復到底理想的に行なはざるこ
72.4% に骨癒合が得られず,24週でも38.3% に癒
とあれども然れども機能的障碍を残さざるを以て
合不全が認められているため偽関節形成を考慮す
多くの場合手術的整復法を施さず」と述べている
べきであるとしている。活動性の高い青壮年は観
[28]。欧米では数多く保存的固定法の報告がある
血的治療を推奨されるが,20歳代男性の転位した
が,患側に胸当て木板を用いバンドで整復固定を
骨折は,12週で41.6% に骨癒合が得られないが,
行なう Bohler 式鎖骨スプリントなどは遠位端骨
24週になると92.6% に骨折が癒合するとしている
折や肩鎖関節脱臼の治療にも有効と報告されてい
[34]。McKee らは,転位を伴った中 1/3 骨幹部
る[29]。1965年大根田は138例の鎖骨骨幹部骨折
骨折(平均年齢37歳)では,肩関節可動域が約10°,
をⅠ−Ⅴ型に分類し,臼井法による 6 週間仰臥安
筋力は約20% におよぶ低下がみられ,DASH 評
静による保存的療法で偽関節形成もなく満足すべ
価 で は,24.6点( コ ン ト ロ ー ル10.1点/100点 最
き成績を得たと述べている。特筆すべきことは,
悪)と上肢機能自己評価は従来の報告より思わし
3 例のⅤ型の斜骨折の存在である。自験例の 3 例
くなく,また短縮≧ 2 ㎝は予後不良としている
(女性平均49歳)は遷延性骨癒合不全を示し,12
[35,36]。しかし,骨折部位が 2 ㎝以上におよぶ
週になり X 線上骨折部両端に初めて仮骨形成が
短縮は,高エネルギー外傷や体格の大型な症例に
みられた。 1 例は観血的治療に移行したが, 2 例
限定されると考えられる。ドイツにおける鎖骨骨
は24週後に骨癒合が両骨折端に認められ, 1 年後
幹部骨折に対する治療法の調査では,単純骨折の
に強固な架橋形成となった(図 4 )。鎖骨骨折の
88% に 8 字固定法による保存療法が行なわれてい
保存的治療は,体幹ギプス固定法や,各種補装具
るが,転位を伴う骨折では56−75% に手術的治療
による多数の固定法による治療が古典的に行なわ
がなされ,活動的な若年者や成人の52−64% にプ
れているが,骨折部の整復と固定の主眼は,肩甲
レート固定法56%,髄内固定法43% が採用されて
骨の挙上と肩の外転(Akimbo)姿勢による 8 字
おり,カナダでは転位した鎖骨中央部骨折はプ
固定ギプス(襷掛け)法や鎧型の体幹ギプス固定
レートによる観血的治療を行なった方が,保存的
法が汎用されてきた[30]。
治療より優れており癒合不全もなく推奨すべき治
我国では平成になると市販の鎖骨骨折固定帯
療法であるとしている[37]。保存的治療と観血的
が常用されて次第にギプス固定による治療は限
治療の比較について本邦に於ける報告では,少数
定的治療法となった。1960年代の英国では,鎖
例であるが転位した中 1/3 骨折の他施設との比較
骨中 1/3 骨折治療について 8 字固定法と吊り下
では,手術療法に変形や機能障害等の合併症が多
46
齋 藤 篤
く見られ,保存療法では偽関節はみられなかった
としている。しかし,患者報告による評価法など
の検討はなされていない[38]。
救急医学における鎖骨骨折治療の動向は,若く
て活動的な症例に対しては,積極的に観血的治療
を選択し,転位のある遠位端骨折については保存
療法では偽関節のリスクが高いものの,活動性の
低い高齢者には適しているとしている[39]。以上
のように鎖骨はボデイプラン上の位置づけと発生
上の特性から保存的治療が基本であると考えられ
る。骨折端に軟部組織の介在による骨癒合不全,
変形,年齢,性,血管・神経等の合併損傷,骨折
部位,社会的不利など多角的要素を基に観血的
治療が選択される必要が報告されてきた[40,41]
。
胸肋鎖骨異常骨化症に伴う病的骨折の観血的治療
後に再骨折をきたしたとの報告があるが[42],自
験例の両側性病的骨折54歳女性の症例は放置観察
2 年間の経過中に骨癒合を認めている。日常生活
動作の障害や疼痛など許容される症例では, 1 年
以上の追跡で骨折癒合不全が治癒する可能性があ
ることも考慮すべきであろう
結 語
鎖骨骨折は骨折部位,転位度,合併症,年齢,
性,日常生活上の活動性等を勘案して治療法を選
択する必要性を認めた。観血的治療は若年者には
限定的であり,保存的治療の対象といえる。外側
端骨折の高齢者は保存治療による偽関節形成の合
併症が,日常生活上の障害が軽度であることを理
解して治療法を選択すべきものと考える。24週過
ぎまで骨癒合が期待できなくても,肩関節機能障
害や疼痛の自己評価が満足されれば48週の追跡の
上で偽関節形成に対する観血的治療の選択を考慮
しても良と思われた。特に,大根田分類Ⅴ型,久
保田分類Ⅵ型は遷延治癒や偽関節形成がみられる
ため,保存的治療は説明と同意のもと行なうべき
である。小児の鎖骨骨折は保存的療法が原則とい
える。活動的な成人の鎖骨骨折の手術的療法の選
択については文献的考察を行なった。
SUMMARY
Clavicular fractures are among the most common
of all fractures. Recent studies have shown that
operative treatment results in improved outcome
and a lower rate of nonunion in active adult patients;
however, superb union rates have also been reported
with nonoperative treatment. The aim of this study
was to evaluate the clinical results of low-energy
fractures of the clavicle treated conservatively
in our clinic. A series of 171 consecutive patients
(range, 0-87 years)came to our clinic for ambulatory
treatment. The treatment included a figure-of-eight
bandage in most patients or a plaster-of-paris cast
in selected adults. The method incorporated a pad
placed under each axilla with the arms in the akimbo
position. During the initial phase of treatment, the
patients were instructed to remain supine as the pain
subsided; however, their activities of daily living were
not restricted.
Union of the fractured clavicle occurred in 82
patients(78 middle third, 4 lateral end)under 15
years of age. The majority of these 82 fractures
occurred in younger(29 from 0-3 years old)and
older patients(24 from 13-15 years old), with only
3 fractures in patients 8-9 years old. A clavicular
fixation band with a large biscuit-sized felt pad
attached to the shoulder strap on the fractured side
was effective in an older child with a Neer type Ⅱ
distal fracture.
Clavicular fractures were also evaluated in
89 adult patients with a median age of 46.5 years
(range, 16-87 years). Thirty-two lateral-end fractures
occurred in 25 men and 7 women,(mean age, 42.7
years) with right-sided fractures in 22 and leftsided in 10. The rate of nonunion in 6 patients with
Takubo’
s type Ⅵ classification was 83.3%(mean
age, 51.5 years). This was higher than the nonunion
rates of 14.3%(2/14 patients), 40.0%(2/5 patients),
33.3% (1/3 patients) and 50.0% (2/4 patients)
in Takubo’
s type Ⅰ , type Ⅱ , type Ⅲ and type Ⅴ
fractures, respectively. Many patients with nonunion
were asymptomatic or had slight acceptable pain
with few limitations of activities of daily living.
In the 89 adults that had clavicular fracture, a
midshaft fracture occurred in 55(mean age, 36 years
old). The majority of these were young and active
men (40 men, 15 women). Of these 55 patients,
24, including a patient with bilateral fractures, had
a fracture that was classified as Robinson’
s type
2A1 and 2A2, and 21 patients with type 2B1 and
2B2. Most type 2(A and B)fractures were healed
uneventfully, but 3 middle-aged women(mean age,
49 years old)with Oneda’
s type Ⅴ fracture showed
delayed union. One patient required surgery. Two
other patients ultimately healed after time periods of
up to 24 weeks. A case of distal nonunion(type Ⅵ ,
鎖 骨 骨 折 の 保 存 的 治 療
active man)fracture required resection of the lateral
end of the clavicle with satisfactory results. Medical
clavicular fractures were also observed in 3 elderly
patients and these fractures were united and the
patients were asymptomatic at 12 weeks.
This study demonstrated that a watershed of 24
weeks for the diagnosis of nonunion is acceptable.
Furthermore, we were unable to predict the risk
of nonunion 12 weeks after clavicular fracture. In
addition, most of the diaphyseal fractures were
healed with traditional, nonoperative treatment. The
nonunion of distal-end fractures in elderly patients
was not related to pain or limitations in activities
of daily living. The nonunion of clavicular fractures
was discussed based on anatomy and function.
Nonoperative treatment should be the prevailing
approach, especially for pediatric and geriatric
clavicular fractures.
文 献
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