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卒業年度 2005 主 査 矢田秀昭 題 目 持久性競技における

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卒業年度 2005 主 査 矢田秀昭 題 目 持久性競技における
卒業年度
2005
主
矢田秀昭
査
題
目
持久性競技における競技力向上のための
トレーニングとその効果について
学籍番号
氏
名
02D083
溝上徳啓
キーワード
持久性競技
最大酸素摂取量(Vo2max)
心拍数(HR)
目
第Ⅰ章
次
緒言
P1
1 .目 的
2 .持 久 性 競 技 と は
1)10km走
2 ) フ ル マ ラ ソ ン ( 4 2 .1 9 5 k m )
3)山岳マラソン
3 .全 身 持 久 力 向 上 の 至 適 ト レ ー ニ ン グ 内 容 検 討
1)頻度
2)負荷
3)時間
第Ⅱ章
測定方法
P7
1 .被 験 者 の 特 性
2 .ト レ ー ニ ン グ
3 .ト レ ー ニ ン グ 効 果 判 定 の た め の 測 定 項 目
1)最大酸素摂取量=Vo2max
2)心拍数=HR
3)漸増負荷法による最大作業時間
4)10km走タイム
5)フルマラソンタイム
6)山岳マラソンタイム
2
第Ⅲ章
測定結果
P19
1 .最 大 酸 素 摂 取 量 = V o 2 m a x
2 .心 拍 数 = H R
3 .漸 増 負 荷 法 に よ る 最 大 作 業 時 間
4 .1 0 k m 走 タ イ ム
5 .フ ル マ ラ ソ ン タ イ ム
6 .山 岳 マ ラ ソ ン タ イ ム
第Ⅳ章
考察
P48
1 .酸 素 摂 取 量 に 対 す る ト レ ー ニ ン グ 効 果
1)最大酸素摂取量の増加について
2)最大下作業時における酸素摂取量の低下について
2 .心 拍 数 に 対 す る ト レ ー ニ ン グ 効 果
1)最大下作業時における心拍数の低下について
3.競技力向上の要因
第Ⅴ章
総括
P55
第Ⅵ章
謝辞
P56
第Ⅶ章
参考文献
P57
3
第Ⅰ章
緒言
1 .目 的
本研究の目的は、持久性競技に必要とされる全身持久力=最大酸素
摂 取 量 (V o 2 m a x )を 向 上 さ せ る た め の 至 的 ト レ ー ニ ン グ 内 容 を 検
討・実施し、それらが身体にどのような変化をもたらし、持久性競技
の競技力にどのような効果を及ぼすのかを調査する。
2.持久性競技とは
運動には大きく分けて有酸素運動と無酸素運動の二種類に分けられ
る。有酸素運動とはジョギング・ランニングなどが代表し、最大下で
の運動を長時間持続し続けるものである。これらは運動中、体外から
取り入れる酸素によって疲労の原因物質である乳酸を排出し、体内に
貯蓄されている脂肪を主なエネルギーとしている。
無酸素運動とは短時間に最大限の力を発揮するもので、ウェイトリ
フティング、体操などがこれらに含まれる。これらは運動中、酸素を
必要とせず体内に溜め込まれている糖やグリコーゲンなどを主なエネ
ルギーとしている。
しかし、数あるスポーツをこの二種類の運動に当てはめることは難
しい。サッカーやバスケなどが代表するように多くのスポーツは常に
走り、時に瞬発的な力を発揮するものであり、有酸素・無酸素運動の
複合運動であることが多いことから純粋な有酸素性の持久性競技とな
ると陸上中長距離・マラソン・水泳などと絞られてくる。
現在では持久性競技の競技力に全身持久力=最大酸素摂取量という
4
も の が 大 き く 関 係 し て い る と さ れ て い る 。Robinson(1937) 5 ) ら に よ っ
て全身持久性を競うスポーツ選手の最大酸素摂取量が一般人に比べて
著しく高いことが明らかにされて以来、多くの研究者によって全身持
久性を競うスポーツ種目の競技記録と最大酸素摂取量との間に有意な
相関関係があることが明らかにされてきた。
本研究では全身持久力の指標である最大酸素摂取量を向上させるた
めの持久性トレーニングを検討・実施し、以下に示す10km走・フ
ルマラソン・山岳マラソンの3種の持久性競技の競技力にどのような
効果が現れるのかを調査する。
1)10km走
陸上競技の中でも、短距離走は運動中に使われる全エネルギー量の
うち糖やグリコーゲンを必要とする割合が高く、全身持久力の指標で
ある最大酸素摂取量の重要性も少ない。
しかし距離が長くなるにつれ体外のからの酸素需要量は高まり、最
大酸素摂取量の重要性も高まる。一般的に陸上中・長距離の酸素摂取
量 へ の 依 存 率 は 1,500m 走 で 約 6 4 % 、5,000m 走 で は 8 7 % 、10,000
m 走 で は 9 3 % に な る と い わ れ て い る 。 こ の こ と か ら 、 10,000m = 1
0km走は十分に持久性競技であるといえよう。
私 の 参 加 し た 1 0 k m 走 は 、立 川 市 が 毎 月 第 二 日 曜 日 に 開 催 す る「 多
摩 川 ロ ー ド レ ー ス 」。多 摩 川 の 土 手 に あ る サ イ ク リ ン グ ロ ー ド を 一 度 折
り 返 す だ け の シ ン プ ル な も の で 、 起 伏 も ほ と ん ど な い 。 参 加 者 も 100
人前後の非常に小さく気軽に行ける大会なので、興味があればぜひ一
度参加されることをお薦めする。
5
10km走における男性の世界記録は26分17秒。日本記録は2
7分35秒である。
2 ) フ ル マ ラ ソ ン ( 4 2 .1 9 5 k m )
フルマラソンの酸素摂取量への依存率は約98%になるといわれて
おり、最大酸素摂取量の優劣が競技力に大きな影響をもたらすと考え
られている。
私の参加したフルマラソンは富士五湖の一つ、河口湖をコースとし
た「 河 口 湖 日 刊 ス ポ ー ツ マ ラ ソ ン 」。非 常 に 有 名 で 大 き な 大 会 で 、2005
年度に第30回を迎えた。
ス タ ー ト 時 間 は 朝 の 7 時 50 分 。標 高 の 高 い 河 口 湖 の 朝 は 極 寒 で 、当
日の平均気温は5℃。選手が集まりだす日の出前は、時にマイナスに
なることもある。スタート前は確かにつらいが走り出してしまえば体
も温かくなり、きれいな河口湖、紅葉、富士山が一望でき、非常にさ
わやかな気持ちで走ることができる。
選手の受入態勢も万全で、日本一景観のきれいなマラソン大会とい
われる河口湖マラソン。こちらの大会は非常にお勧めできる。
マラソン競技における男子の世界記録は2時間4分55秒。日本記
録は2時間6分16秒である。
3)山岳マラソン
山岳マラソンの「山岳」=登山は典型的な有酸素運動であるといえ
る 。山 地 (1978) 9 ) ら に よ り 、登 山 中 は 常 に 平 常 時 よ り も 高 い 心 拍 数 を
示すことが報告されており、有酸素運動を行っていることが分かる。
山岳マラソンの「マラソン」は持久性競技の代名詞であり、これら
6
「山岳」と「マラソン」の組み合わさった「山岳マラソン」は非常に
高いレベルの持久性競技と考えられる。
こ の 度 卒 業 論 文 に 取 り 上 げ る 山 岳 マ ラ ソ ン は「 日 本 山 岳 耐 久 レ ー ス 」
通 称「 長 谷 川 恒 夫 C U P 」と 呼 ば れ 、今 年 度 で 13 回 目 を 迎 え る 。参 加
者 は 年 々 増 加 し 、 今 年 度 は 1600 人 を 超 え た 。
大 会 会 場 及 び コ ー ス は 、奥 多 摩 全 山 。舗 装 路 で は な く 登 山 道 を 走 り 、
コ ー ス 全 長 は 7 1 .5 K m 。2 4 時 間 以 内 の ゴ ー ル の み が 完 走 と 認 め ら
れる大変厳しい競技である。水・食料持参、途中のリタイヤも救助ポ
イントまでは自走しなければならず、大きな自己責任が求められる。
安易な気持ちでの参加はお勧めしない。
多くの参加者は完走を目標とする中、山岳マラソンにおけるトップ
選手は 8 時間台で完走する。
7
3.全身持久力向上の至適トレーニング内容
では持久性競技における競技力向上に大きな関係があるとされる全
身持久力=最大酸素摂取量を向上させるためにはどのようなトレーニ
ングを行えばよいのか。
持久性トレーニングの至適内容に関する研究は非常に多いが、いま
だ確立された理論はない。よって今回は持久性トレーニングのポイン
トである頻度・負荷・時間の三点を数ある先行文献を参考にしながら
至適トレーニング内容を決定した。
1)頻度
浅 見 俊 雄 (1973) 2 )ら は 健 康 な 男 子 大 学 生 12 名 を 対 象 と し て 、9 0 %
V o 2 m a x に 相 当 す る 走 ス ピ ー ド で の ト レ ッ ド ミ ル 走 を 、一 回 5 分 、
週 2・3・4・5 回 の 4 群 に 分 け ト レ ー ニ ン グ 実 験 を 5 週 間 実 施 し た 。
結果、Vo2maxの変化率は週 2 回107%・週3回109%・
週4回104%・週5回114%と全ての群において向上が見られた
が、頻度による差は見られなかった。
しかし、週2回群の中に唯一マイナスの変化率があったこと、それ
と同時に測定した漸増負荷法による作業時間及び 5 分間の走行距離に
おいて週2回群がいずれも変化率103%と最低値を示したことから、
週3回以上のトレーニングが持久性競技力向上に有効であると報告し
た。
2)負荷
上 記 の 報 告 を 受 け 、さ ら に 浅 見 俊 雄 (1974) 3 ) ら は 健 康 な 男 子 大 学 生
46名を対象として、週 3 回の頻度でトレッドミル走を用いてVo2
8
maxの90%5分・80%10分・80%5分・70%10分・7
0%5分の5群で 8 週間のトレーニング実験を実施した。
結 果 、V o 2 m a x の 変 化 率 は 9 0 % 5 分 1 0 4 .5 %・8 0 % 1 0
分 1 0 9 .5 % ・ 8 0 % 5 分 1 0 6 .2 % ・ 7 0 % 1 0 分 1 0 1 .5 % ・
7 0 % 5 分 1 0 1 .1 % と 8 0 % 1 0 分 群 が 最 も 高 い 変 化 率 を 示 し 、V
o2max向上には80%Vo2max、長時間のトレーニングが効
果的であると報告した。
3)時間
Sjodin(1985) 7 ) ら は 幅 広 い ラ ン ナ ー 層 の 週 間 ト レ ー ニ ン グ 走 距 離 と
平均マラソン速度を分析した結果、これらに直線的な関係があること
を報告した。
エ リ ー ト ラ ン ナ ー 層 で は 相 関 (r = 0 .5 7 )と や や 関 連 は 低 く な る が 、
一 般 ラ ン ナ ー 層 で は 非 常 に 高 い 相 関 (r = 0 .8 5 )を 示 し た 。
このことからトレーニングの距離=時間が長いほど持久性競技力の
向上に高い効果があると考えられる。
上記3点から本研究では、週 3 回・80%Vo2max・60分を
最大酸素摂取量向上のための、至適トレーニング内容とした。
9
第Ⅱ章
測定方法
1.被験者特性
被 験 者 は 健 康 な 男 子 学 生 一 名 。被 験 者 の 身 体 的 特 性 は 、年 齢 22 歳 ・
身 長 1 7 3 cm・ 体 重 5 9 kg・ L B M 5 1 .9 kg・ 体 脂 肪 率 1 2 %
ト
レ ー ニ ン グ 後 も 体 重 に 大 き な 変 化 は な か っ た 。( 表 1)
2.トレーニング
ト レ ー ニ ン グ は 全 て ラ ン ニ ン グ で 行 う 。頻 度 は 週 3 回 、負 荷 は 8 0 %
Vo2max、時間は60分とした。期間は5月から10月に行われ
る 山 岳 マ ラ ソ ン ま で の 5 ヶ 月 間 と し た 。( 表 2 )
ラ ン ニ ン グ 中 の 負 荷 は「 運 動 強 度 別 推 定 早 見 表 」(山 本 高 司 1989) 1 1 )
を 参 考 に 8 0 % V o 2 m a x を H R 1 6 8 と し 、心 拍 測 定 器 (S 6 1 0
i ポ ラ ー ル 社 製 )の 測 定 装 置 「 ト ラ ン ス ミ ッ タ ー 」 を 胸 部 に 取 り 付 け 、
手首に取り付けた心拍表示装置「レシーバー」で常にHRを確認しな
が ら ト レ ー ニ ン グ を 行 っ た 。( 図 1 . 2 )
10
表1
被験者データ
Pre
Post
身長(cm)
173
173
体重(kg)
59
58.2
LBM
51.9
52.5
体脂肪率(%)
12
9.9
11
表2
至適トレーニングメニュー
頻度
週3回
負荷
80%Vo2max
時間
60分
期間
5ヶ月間
12
トランスミッター
レシーバー
図1
心拍測定器装着図
13
200
心拍数(拍/min)
180
↑HR168
160
140
120
100
0
80
0
30
1
時間(min)
図2 トレーニング中のHR
14
60
3.トレーニング効果判定のための測定項目
1)最大酸素摂取量=Vo2max
最 大 酸 素 摂 取 量 の 測 定 に は 呼 気 ガ ス 分 析 装 置 (メ タ バ イ ン 、バ イ ン 社
製 )( 図 3 )を 用 い 、自 転 車 エ ル ゴ メ ー タ ー( 図 4 )に よ る 漸 増 負 荷 法
(図5)にてオールアウトまでの酸素摂取量を一分間毎に測定した。
呼気ガス分析装置の呼気採取マスク、ホースを漏れのないよう分析
器 に 接 続 し 、 安 静 時 酸 素 摂 取 量 を 測 定 し た 。( 図 6 )
次に最大酸素摂取量を測定するため自転車エルゴメーターに乗り込
み 、 初 め の 2 分 は 1 k p 、 次 の 2 分 は 1 .5 k p と 2 分 間 ご と に 0 .5
k p ず つ 負 荷 の 増 大 す る 漸 増 負 荷 法 に て 測 定 を 行 っ た 。( 図 7 )
エルゴメーターの回転数は1分間に60回転とし、電子メトロノー
ムを用いて1秒に1回転をペースとした。負荷が増大し、ペースを保
てなくなった時点をオールアウトとし、測定を終えた。
2)心拍数=HR
心 拍 数 の 測 定 に は 心 拍 測 定 器 (S 6 1 0 i ポ ラ ー ル 社 製 )を 用 い 、 最
大酸素摂取量測定と同時に、自転車エルゴメーターによる漸増負荷法
に て 、 オ ー ル ア ウ ト ま で の 3 0 秒 毎 の 心 拍 数 を 測 定 し た 。( 図 7 )
装置は心拍測定器本体「トランスミッター」を胸部に装着、その際
トランスミッターにエコージェルを塗布し胸部との隙間のないように
し た 。 次 に 心 拍 数 表 示 装 置 「 レ シ ー バ ー 」 を 手 首 に 装 着 し た 。( 図 1 )
3)漸増負荷法による最大作業時間
自転車エルゴメーターの漸増負荷法によるオールアウトまでの作業
時間を測定した。
15
図3
呼気ガス分析装置
16
メタバイン
図4
自転車エルゴメーター
17
6
負荷(kp)
5
4
3
2
1
0
0
2
4
6
8
10 1 12
14
時間(min)
図5 漸増負荷法
18
16
18
20
図6
呼気採取マスク装着
19
図7
最大酸素摂取量・心拍数測定中
20
4)10km走タイム及び作業中心拍数
ト レ ー ニ ン グ 前 後 に 1 0 k m 走 を 行 っ た 。そ の 際 、心 拍 測 定 器 (S 6
1 0 i ポ ラ ー ル 社 製 )を 装 着 し 、 タ イ ム 及 び 作 業 中 心 拍 数 を 測 定 し た 。
5)フルマラソンタイム
2004年度の3時間37分をPreタイムとし、2005年度の
記 録 を P o s t タ イ ム と し た 。な お 2 0 0 5 年 度 の み 、心 拍 測 定 器 (S
6 1 0 i ポ ラ ー ル 社 製 )を 装 着 し 、タ イ ム 及 び 作 業 中 心 拍 数 を 測 定 し た 。
6)山岳マラソンタイム
2004年度の19時間34分をPreタイムとし、2005年度
の競技記録をPostタイムとした。なお2005年度のみ、心拍測
定器を装着し、タイム及び作業中心拍数を測定した。
21
第Ⅲ章
測定結果
1.最大酸素摂取量=Vo2max
最 大 酸 素 摂 取 量 は ト レ ー ニ ン グ 前 の 7 0 .9 (ml/kg/min)か ら 7 6 .2
(ml/kg/min)と 5 .3 (ml/kg/min)増 加 し 、 変 化 率 は 7 .4 % だ っ た 。( 図
8表3)
最大下作業時における酸素摂取量では、%ofVo2ではほぼ全域で
同負荷時における酸素摂取量が低下した。
( 図 9 表 4 )測 定 開 始 役 6 分
頃 か ら 低 下 が 見 ら れ 始 め 、 6 分 2 k p の 時 点 で は − 4 .6 % 、 8 分 2 .
5 k p で は − 7 .0 % 、 1 0 分 3 k p で は − 4 .5 % 、 1 2 分 3 .5 k p
で は − 6 .2 k p 、 1 4 分 4 k p で は − 1 3 .0 % 、 1 6 分 4 .5 k p で
は − 5 .3 % 、1 7 分 5 k p で は − 1 .4 % と 低 下 し 、6 分 以 降 の 最 大 化
運動時におけるVo2増加率は6%低下した。
22
Vo2max(ml/kg/min)
80
70
0
60
Pre
1
Post
2
図8 トレーニング前後におけるVo2max変化
23
表3 トレー ニング前後におけるVo2max変化
Pre
Post
70.9
76.2
(ml/kg/min) (ml/kg/min)
24
変化率(%)
7.4
(ml/kg/min)
100
%ofVo2
80
60
40
Pre
Post
20
0
1
3
5
7
9
11
13
15
17
19
時間(min)
図9 トレーニング前後における%ofVo2変化
25
表4
トレ ー ニ ン グ 前 後 に お け る Vo2トレ ー ニ ン グ 効 果
時間
( m in )
0
2
4
6
8
10
12
14
16
17
18
19
負荷
(kp )
0
1
1.5
2
2 .5
3
3 .5
4
4 .5
5
5
5 .5
7 6 .1
7 6 .2
9 9 .9
10 0 .0
実測値
P re
4 .3
14 .1
2 0 .4
2 9 .2
3 7 .4
4 4 .0
5 1.3
6 0 .3
6 9 .8
7 0 .9
( l/ m in / kg )
Post
5 .9
16 .6
2 4 .1
2 8 .9
3 6 .0
4 4 .7
5 1.1
5 5 .9
7 1.4
7 5 .2
低下値
P o s tP re
1.6
2 .5
3 .6
- 0 .2
- 1.5
0 .7
- 0 .1
- 4 .4
1.6
4 .3
上昇率
P re
0 .0
14 .7
2 4 .2
3 7 .3
4 9 .8
5 9 .6
7 0 .5
8 4 .1
9 8 .5
10 0 .0
(% )
Post
0 .0
15 .2
2 5 .9
3 2 .8
4 2 .8
5 5 .1
6 4 .3
7 1.1
9 3 .2
9 8 .6
変 化 率 (% )
P o s tP re
0 .0
0 .5
1.6
- 4 .6
- 7 .0
- 4 .5
- 6 .2
- 13 .0
- 5 .3
- 1.4
26
2.心拍数=HR
最大化作業時における心拍数が実測値、%ofHR共に全域で低下
し た 。( 図 1 0 図 1 1 表 5 ) % o f HR は 作 業 開 始 か ら 低 下 を 示 し 、 2
分 1 k p の 時 点 で − 2 .2 % 、 4 分 1 .5 k p で − 2 .2 % 、 6 分 2 k p
で 2 .3 % 、 8 分 2 .5 k p で − 4 .8 % 、 1 0 分 3 k p で − 1 .3 % 、 1
2 分 3 .5 k p で − 2 .3 % 、 1 4 分 4 k p で − 4 .2 % 、 1 6 分 4 .5 k
p で − 5 .5 % 、1 7 分 5 k p で − 4 .4 % と 低 下 し 、% ofH R 全 体 平 均
で 2 .7 % 低 下 し た 。
ま た 、負 荷 毎 の 平 均 心 拍 数 に お い て も 全 域 で 低 下 を 示 し た 。
(図12
表 6 )1 k p で は − 7 .3 拍 /min
1.5k p で は − 3.9 拍 、2 k p で は −
2.3 拍 、 2.5k p で は − 2.3 拍 、 3k p で は − 3.1 拍 、 3.5k p で は − 0.9
拍 、4 k p で は − 1.8 拍 、4.5k p で は − 0.4 拍 、5 k p で は − 1.0 拍 低
下 し 、 負 荷 毎 全 体 平 均 で 2 .5 拍 /min 低 下 し た 。
27
HR(拍/min)
200
150
Pre
Post
100
0
50
0
2
4
6
8
10
12
14
16
時間(min)
図10 トレーニング効果におけるHR変化
28
18
%ofHR(%)
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
Pre
Post
0
2
4
6
8
10
12
時間(min)
14
16
18
図11 トレーニング前後における%ofHR変化
29
表5
トレー ニ ング 前 後 に お け る HRトレー ニ ング 効 果
時間
( m in )
0
2
4
6
8
10
12
14
16
17
18
19
負荷
(kp)
0
1
1.5
2
2 .5
3
3 .5
4
4 .5
5
5
5 .5
実測値
P re
80
10 7
12 0
12 9
15 4
16 9
18 6
19 6
207
2 10
( 拍 / m in )
Post
74
10 0
114
13 0
14 7
16 8
18 5
19 3
203
208
2 12
2 14
低下値
P o s t - P re
-6
-7
-6
1
-7
-1
-1
-3
-4
-2
上昇率
P re
0
2 0 .8
3 0 .8
3 7 .7
5 6 .9
6 8 .5
8 1.5
8 9 .2
9 7 .7
10 0 .0
(% )
Post
0
18 .6
2 8 .6
4 0 .0
5 2 .1
6 7 .1
7 9 .3
8 5 .0
9 2 .1
9 5 .6
9 8 .6
10 0
変化率
(% )
P o s t - P re
0
- 2 .2
- 2 .2
2 .3
- 4 .8
- 1.3
- 2 .3
- 4 .2
- 5 .5
- 4 .4
30
220
HR(拍/min)
200
180
160
140
Pre
Post
120
100
0
80
1
1.5
2
2.5
3
3.5
負荷(kp)
4
4.5
5
5.5
図12 トレーニング前後における負荷毎平均HR変化
31
表6
トレー ニ ン グ 前 後 に お け る 負 荷 毎 平 均 HR変 化
負 荷 別 平 均 H R ( m in )
負 荷 (kp)
1.0
1.5
2 .0
2 .5
3 .0
3 .5
4 .0
4 .5
5 .0
5 .5
時間
( m in )
0∼ 2
2∼ 4
4∼ 6
6∼ 8
8 ∼ 10
10 ∼ 12
12 ∼ 14
14 ∼ 16
16 ∼ 18
18 ∼ 2 0
5月
10 3 .0
114 .8
12 4 .8
14 1.5
16 2 .8
17 5 .5
19 2 .8
19 9 .5
2 0 9 .0
9月
9 5 .5
110 .3
12 2 .3
13 8 .3
15 7 .8
17 4 .0
18 9 .3
19 8 .8
2 0 7 .0
変化率
(% )
- 7 .3
- 3 .9
- 2 .0
- 2 .3
- 3 .1
- 0 .9
- 1.8
- 0 .4
- 1.0
32
2 13 .0
3.漸増負荷法による最大作業時間
漸増負荷法による自転車エルゴメーターの最大作業時間はトレーニ
ン グ 前 の 1 7 分 か ら ト レ ー ニ ン グ 後 は 1 9 分 と 2 分 間 、1 1 .7 % 延 長
し た 。( 図 1 3 表 7 )
33
20
時間(min)
19
18
17
16
0
15
Pre
1
Post
2
図13 トレーニング前後における
自転車エルゴメーター作業時間変化
34
表7
自転車エルゴメーター作業時間変化表
Pre
Post
変 化 率 (% )
17分
19分
11.7
35
4.10km走
10km走タイムはPreを2005年5月多摩川ロードレース、
Postを同年11月多摩川ロードレースにて測定をした。
結果、タイムはPre45分16秒からPost43分18秒と1
分 5 8 秒 更 新 、 4 .4 % 短 縮 し た 。( 図 1 4 表 8 )
作 業 中 の 平 均 心 拍 数 は P r e 2 0 3 .9 拍 か ら P o s t 1 9 6 .5 拍
と 7 .4 拍 減 少 、 3 .7 % 低 下 し た 。( 図 1 5 表 8 )
Preのレース中の心拍数は、スタートから210、207、20
7 拍 /min と ハ イ ペ ー ス で 走 れ て い た も の の 、3 0 分 以 降 は 2 0 3 、2
00、204拍と終盤にかけて落ち込みが見られた。逆にPostで
はスタートから心拍数190台と落ち着いたペースで、Preとは対
照的に30分以降は心拍数200台でゴールまでペースを落とすこと
は な か っ た 。( 図 1 5 表 9 )
さらに、Preに比べPostはレース中平均心拍数が低下してい
るにもかかわらず、タイムは向上している。
以上のことから、トレーニング後は高い運動強度を長時間保つこと
が出来るようになり、より速い速度で走ることが出来るようになった
といえる。
36
時間(min)
46
44
42
400
Pre
Post
図14 10km走タイム比較
37
表8
10 km 走 タ イ ム 比 較
Pre
タイム
平均心拍数
(拍 /m in)
Post
4 5 分 16 秒 4 3 分 18 秒
20 3 .9
38
196 .5
変 化 率 (% )
-4 .4
-3 .7
心拍数(拍/min)
210
190
170
150
Pre
Post
130
110
0
10
20
3
40
時間(min)
図15 トレーニング前後における10km走心拍変化
39
表9
時 間 ( m in)
10 km 走 5 分 毎 平 均 心 拍 表
5
10
15
20
25
30
35
40
45
P re ( 拍 /m in )
194
20 5
210
20 7
20 7
20 3
20 0
20 4
20 8
P o st(拍 /m in )
16 9
196
199
198
199
20 1
20 2
20 3
20 2
-12 .7
-4 .2
-5 .2
-4 .3
-4 .2
-1.0
0 .8
-0 .5
-2.9
変 化 率 (% )
40
2.フルマラソンタイム
フルマラソンタイムはPreを2004年11月河口湖マラソン、
Postも同じく2005年11月河口湖マラソンにて測定した。
結果、タイムは2004年度3時間37分43秒から2005年度
3 時 間 2 6 分 2 9 秒 と 1 1 分 1 4 秒 更 新 、 タ イ ム を 5 .1 % 短 縮 し た 。
(図16表10)
2005年Post時のレース中心拍数は、スタートから140分
ま で は 1 8 7 、1 8 8 、1 8 4 拍 /min と ペ ー ス を 保 て た が 、1 4 0 分
を過ぎてからは179、177、177拍、と180拍を下回りだし
ペースが落ち始めた。しかし、ラスト10分は平均心拍182拍と再
び上昇した。終盤での心拍上昇・ペースアップは、140分過ぎた時
点で体力的な限界がきていたと考えると、心的要因が強かったと考え
ら れ る 。( 図 1 7 表 1 1 )
記録更新の要因として、10km走の結果から得られた高い運動強
度を長時間持続できるようになった点が関係してきていると考えられ
る。
41
3:38
3:36
時間(min)
3:33
3:30
3:27
3:24
3:21
3:18
2004
2005
図16 フルマラソンタイム比較
42
表 10
タイム
フルマラソンタイム比較
2004年
P re
2005年
P ost
更新時間
低下率
(% )
3:37:4 3
3:26:29
0 :11:14
-5 .1
43
200
心拍数(拍/min)
190
180
170
160
150
140
0
130
0:00
1:00
2:00
時間(min)
図17 フルマラソン中HR
44
3:00
図 11 フル マ ラソン 中 20分 毎 の 平 均 心 拍 数
時 間 (m in )
20
40
60
80
10 0
12 0
14 0
16 0
18 0
20 0
210
心拍数
(拍 /m in )
18 0
18 7
18 7
18 7
18 8
18 7
18 4
17 9
177
177
18 2
45
3.山岳マラソンタイム
山 岳 マ ラ ソ ン (日 本 山 岳 耐 久 レ ー ス )の タ イ ム は P r e を 2 0 0 4 年
度大会、Postを2005年度大会にて測定した。
結果、タイムは2004年度19時間34分から2005年度14
時 間 1 7 分 と 5 時 間 2 7 分 競 技 記 録 を 更 新 、タ イ ム を 2 7 % 短 縮 し た 。
山岳マラソンは計4ステージに分けられている。第1ステージ4時
間 2 1 分 か ら 3 時 間 3 0 分 に 1 9 .5 % 短 縮 し た 。第 2 ス テ ー ジ は 5 時
間 3 5 分 か ら 4 時 間 1 7 分 に 2 3 .3 % 短 縮 し た 。第 3 ス テ ー ジ は 5 時
間 4 4 分 か ら 4 時 間 5 分 に 2 8 .8 % 短 縮 し た 。第 4 ス テ ー ジ は 3 時 間
5 4 分 か ら 2 時 間 2 5 分 に 3 8 % 短 縮 し た 。( 図 1 8 表 1 2 )
レース中の心拍数を2時間毎にみると、序盤をピークに189、1
69、162、150、147、142、140拍と、きれいに右肩
下がりになっている。これはペースダウンを示すもので、上記のPr
e10km走、フルマラソンと同様の傾向がみられた。
しかし山岳マラソンにおいても記録更新の要因に、高い運動強度を
長時間維持する能力の向上が関係していると考えられる。
(図19表1
3)
(表12)が示すように、ステージが進むにつれて所要タイムの変
化率が大きくなっている。これは2004年度に比べ2005年度の
ほうがペースの落ち込み方が緩やかになっていると読み取れる。
ちなみにレース中、大きく心拍の下がっている点は、足を止め食事
をしているからである。
46
20:00
20
19:34
3:54
14:17
時間(h)
15
15:00
2.25
5:44
10
10:00
4.05
5:35
4:17
5:005
4:21
3:30
2004
2005
0:000
図18 山岳マラソンタイムの比較
47
4ステージ
3ステージ
2ステージ
1ステージ
表 12
山岳マラソンタイム比較表
1ス テ ー ジ
2ス テ ー ジ
3ス テ ー ジ
4ス テ ー ジ
トー タ ル
2004
2 0 0 5 変 化 率 (% )
4 :21
5 :3 5
5 :4 4
3 :5 4
19:3 4
3 :3 0
4 :17
4 :0 5
2 :2 5
14 :17
48
- 19 .5
- 2 3 .3
-2 8 .8
- 3 8 .0
-27.0
220
HR(拍/min)
200
180
160
140
120
0
100
0
1
2
3
4
5
6 7 8
時間(h)
9
10
11
図19 山岳マラソン中HR
49
12 13 14
表 13
山 岳 マ ラ ソ ン 2時 間 毎 平 均 心 拍 数
時 間 (h)
2
4
6
8
10
12
14
心 拍 数 (拍 /m in)
18 9
169
162
15 0
14 7
14 2
14 0
50
第Ⅳ章
考
察
1.酸素摂取量に対するトレーニング効果
1)最大酸素摂取量(Vo2max)の増加について
酸素摂取量は運動強度の増加とともにほぼ直線的に増加する。しか
し、酸素摂取量の増加はどこまでも続くものではなく、いずれ頭打ち
になる。この時点での酸素摂取量を最大酸素摂取量といい、有酸素運
動 の 限 界 運 動 強 度 と な る 。つ ま り こ の 最 大 酸 素 摂 取 量 が 増 加 し た 場 合 、
さらに高い強度での運動を持続することが出来るようになるのである。
この酸素摂取量は動静脈酸素較差と密接に関係している。酸素は血
液で運搬され、筋組織で利用される。心臓から一回に拍出される血液
を 一 回 拍 出 量 (ml/拍 )と い い 、 一 回 拍 出 量 と 心 拍 数 の 積 、 す な わ ち 1 分
間 に 心 臓 か ら 拍 出 さ れ る 血 液 量 を 出 量 (心 拍 ℓ/min)と い う 。心 臓 か ら 拍
出 さ れ た 動 脈 血 に は 役 1 9 voℓ血 液 1 0 0 m ℓあ た り 1 9 m ℓ)の 酸 素 が
含まれるが、その酸素がすべて筋組織で利用されるわけではない。使
われなかった酸素は、静脈血に含まれ再び心臓に戻ってくる。したが
って筋組織で利用された酸素は、動脈血と混合静脈血の酸素含有量の
差 と な る 。こ れ は 動 静 脈 酸 素 較 差 (voℓ% )と い い 、酸 素 摂 取 量 と の 関 係
は 、「 酸 素 摂 取 量 = 心 拍 出 量 ×動 静 脈 酸 素 較 差 」 と い わ れ て い る 。
持久性トレーニングを行った場合、骨格筋の毛細血管が発達、血液
の循環量が多くなることから筋の酸素抜き取り率が向上し、動静脈酸
素較差も大きくなる。つまり最大酸素摂取量の向上は、持久性トレー
ニングによる動静脈酸素較差の変化によるところが大きい。
浅 見 ら (1974) 3 ) の 研 究 で は 週 3 回 の 頻 度 で 、強 度 8 0 % V o 2 m a
x、時間10分、8 週間の期間トレーニングを行った結果、最大酸素
51
摂 取 量 9 .5 % 増 加 し た と 報 告 し て い る 。し か し 本 研 究 で は 週 3 回 の 頻
度で、強度80%Vo2max、時間60分、5ヶ月間のトレーニン
グ を 行 っ た 結 果 、 最 大 酸 素 摂 取 量 は ト レ ー ニ ン グ 前 の 7 0.9
(ml/kg/min) か ら ト レ ー ニ ン グ 後 7 6 . 2 (ml/kg/min) と 7 . 4 % の 増 加
で あ っ た 。こ の 増 加 率 は 浅 見 ら (1974) 3 ) よ り も ト レ ー ニ ン グ 時 間・ 期
間が長い割には変化が少なかった。
先行研究以下の増加にとどまった原因に被験者のトレーニング前の
値が高かったことが考えられる。浅見らの研究に参加したトレーニン
グ 被 験 者 の 最 大 酸 素 摂 取 量 は 平 均 4 6 .3 (ml/kg/min)と 一 般 成 人 男 性
の 最 大 酸 素 摂 取 量 で あ る 約 3 5 ∼ 5 0 (ml/kg/min)あ て は ま る 。し か し 、
本 被 験 者 の ト レ ー ニ ン グ 前 の 値 は 7 0 .6 (ml/kg/min)と 長 距 離 走 選 手
らと同等の値であった。
Sharkey(1970) 6 ) ら は 被 験 者 の ト レ ー ニ ン グ 前 の 数 値 が 高 い ほ ど 、ト
レーニング効果が出にくいと報告しており、今回の結果と一致する。
最 大 酸 素 摂 取 量 が 7 0 (ml/kg/min)を 超 え る 競 技 者 レ ベ ル に な る と 、お
およそ週5から6日、一週間あたり100kmを超えるランニングト
レーニングを行っている。本研究で検討した至適トレーニングメニュ
ーは上記の一般成人男性を対象とした先行研究から検討したものであ
り、一週間あたりの走距離は30km程度であったことから、一般成
人男性よりも競技者に近く高い最大酸素摂取量を示した本被験者に当
てはめると、トレーニング頻度・時間が軽すぎたのではないかと考え
られる。
しかし増加率は少なかったものの、確かに最大酸素摂取量は向上し
た 。山 地 ら (1990) 8 ) は 最 大 酸 素 摂 取 量 が 高 い ほ ど マ ラ ソ ン の 競 技 記 録
も 高 い と 報 告 し 、 さ ら に 山 地 ら (1992) 1 0 ) は 最 大 酸 素 摂 取 量 の 向 上 は
52
ランニングスピードに影響するとも報告している。
これらの報告どおり、本研究では持久性競技として測定した10k
m走・フルマラソン・山岳マラソンの三種全てにおいて、トレーニン
グ前の競技時間を更新していることから、本研究で検討・実施した持
久性トレーニングは最大酸素摂取量の向上に有効であり、持久性競技
の競技力向上に対しても影響があるといえる。
2)最大下作業時における酸素摂取量の低下について
本研究において漸増負荷法による最大酸素摂取量に至るまでの酸素
摂取量推移をトレーニング前後で比較したところ、最大下作業時にお
ける酸素摂取量の増加率に低下が見られた。
測定開始役6分頃から低下が見られ始め、14分負荷4kpでは最
大の−13%にもなった。
酸素摂取量の低下とは身体にかかる負荷の低下を表す。つまり、今
回トレーニング後に見られた同負荷時における酸素摂取量の低下とは、
同じ力を発揮しながらも身体にかかる負荷は少なくなっているという
ことであり、トレーニング前後で同じ速度で走っていたとしても、ト
レーニング後は身体への負担が少ないわけであるから、疲労が蓄積し
に く く 、長 時 間 運 動 を 持 続 す る こ と が で き る よ う に な る と 考 え ら れ る 。
この変化が10km走の後半のペースダウンをなくし、長時間に及
ぶフルマラソンのペース維持、山岳マラソンのステージごとのペース
ダウンを抑えていたとも考えられる。
53
2.心拍数に対するトレーニング効果
1)最大下作業時における心拍数の低下について
心臓は血液を循環させるポンプであり、血液は筋に酸素を供給する
媒体である。心臓は運動強度に見合う量の酸素を血液とともに送り出
し、強度の増加にあわせ心拍数を上げながらそれに対応する。上記で
も触れたが、心臓が一回の拍動で送り出せる血液量を一回拍出量とい
い、心臓のポンプ機能の大きさを表す。一回拍出量の小さい場合、酸
素需要量に対し心拍数の増加で対応するが、一回拍出量の大きい場合
は一度に送り出せる酸素量も多いので少ない心拍数で済み、心臓への
負担も少ない。一般成人男性の一回拍出量は110∼120mlであ
るが、持久性競技者は150∼200mlにも達する。
本研究におけるトレーニング後、わずかではあるが最大下作業時に
おける心拍数が全域で低下した。
持久性トレーニング後、最大下作業時における心拍数の低下は多く
の 先 行 研 究 に よ っ て 報 告 さ れ て い る が 、 本 研 究 の 変 化 は 浅 見 ら (1964)
の週3回 5 分間オールアウトまでの持久性トレーニングを行った結
1)
果、最大下作業時における心拍数が全域で低下したものと酷似する。
このことから本研究におけるトレーニングについても、持久性トレー
ニングの効果として心拍出量の増大があったものと考えられる。
トレーニングによる最大下作業時における心拍数低下は、運動中心
臓から拍出される血液量の増加、つまり送り出す酸素の量が増えたこ
とを意味し、同一負荷の運動に対しては、心臓への負担が少なくてす
むことを示している。このことは疲労蓄積の軽減につながり、長時間
に及ぶ持久性競技において疲労によるペースダウンを防ぐことにもな
る。
54
さ ら に 浅 見 ら (1976) 4 ) は 男 子 大 学 生 8 名 の 1 0 分 間 走 に お け る 走 ス
ピードと心拍数の関係を調べた結果、運動中の心拍数が低いものほど
走スピードが速いと報告した。この報告に本研究の変化を当てはめる
と、心拍数の低下したトレーニング後は、ランニングスピードも上が
っていると考えられる。
以上のことから、最大下作業時における心拍数の低下は、身体への
負担を軽くすることにより、長時間の運動を持続させることが出来る
ようになり、さらにランニングペースも上がる効果があるといえる。
これらの効果は10km走における後半のペースダウンがなくなっ
た点、山岳マラソンでのペースダウンが緩やかになった点、フルマラ
ソンでの記録更新に現れていると考えられる。
55
3.競技力向上の要因
持久性競技とされる10km走・フルマラソン・山岳マラソンにお
ける競技力の向上は、最大酸素摂取量の増加によるランニングスピー
ドの向上、最大下作業時における心拍数の低下がもたらす身体への負
荷軽減、この二点によってもたらされたものだと考える。
10km走での記録更新には後半のペースダウンがなくなったこと
が大きい。Postのレース中心拍数がPreに比べ低いのは、心拍
出量の増加に伴う心拍数の低下であり、ペースが遅かったわけではな
い。Preのレース前半の平均心拍数は205を超えており、ほぼ1
00%Vo2maxに近い値で走っていることから、10kmの間維
持できるものではなかった。
Postでの記録更新は、ペースはそのまま、またはそれ以上であ
りながら作業中心拍数が低下、身体への負担も軽くなり10kmの間
ペースを崩さず走りきれたからであると考える。
フルマラソンに関しても最大下作業時における心拍数の低下による
負荷軽減の効果があったと思われる。Postでは2時間の時点から
ペースダウンが始まっているが、昨年度のPreではもっと早い時点
からペースダウンが始まっていたように思う。終盤もPreではほと
んど走ることもままならないほどだったが、Postではゴールまで
ランニングを貫くことが出来た。
3時間半に渡るフルマラソンという競技においては、最大酸素摂取
量の増加によるランニングスピードの向上が非常に効果を発揮したと
思われる。たとえその効果が小さなものであったとしても、積み重な
り、10分いう時間を縮めてくれたのであろう。
山岳マラソンの大幅な記録更新も10km走・マラソンで述べた最
56
大酸素摂取量の増加からくるランニングスピードの向上、最大下作業
時における心拍数の低下による身体への負担軽減が大きな要因である
と考えられる。しかし、5時間17分もの大幅な更新にはそれだけで
はないようにも思える。レース当日のコンディション、天候及び路面
状況、昨年度の経験から得た装備、食料対策などによるところも大き
いと思われる。
だがしかし、5ヶ月間トレーニングを積んできたという自信と根性
で30分、みなさまの応援のおかげで1時間、タイムが縮まったこと
は間違いない!
57
第Ⅴ章
総括
本研究では、全身持久力の向上が持久性競技の競技力(競技時間)
に及ぼす影響を明らかにするため5ヶ月間持久性トレーニングを行っ
た。その結果、下記のような変化がみられた。
1 ) 最 大 酸 素 摂 取 量 に つ い て は ト レ ー ニ ン グ 前 後 に お い て 7 0 .9
(ml/kg/min)か ら 7 6 .2 (ml/kg/min)へ と 5 .3 (ml/kg/min)増 加 し た 。
増 加 率 は 7 .4 % で あ っ た 。
2 ) 心 拍 数 に つ い て は 最 大 下 作 業 時 に お け る 、 実 測 値 ・ % ofH R ・ 負
荷 毎 全 て に お い て 全 域 で 低 下 を 示 し た 。 実 測 値 平 均 − 3 .6 拍 、 低 下 率
平 均 − 2 .7 % で あ っ た 。
3)10Km走の競技記録については45分16秒から43分18秒
へ と 1 分 5 8 秒 更 新 、 4 .4 % 短 縮 し た 。
4)フルマラソンの競技記録については 3 時間37分43秒から 3 時
間 2 6 分 2 9 秒 と 1 1 分 1 4 秒 更 新 、 5 .1 % 短 縮 し た 。
4)山岳マラソンの競技記録について19時間34分から14時間1
7分へと 5 時間27分更新、27%短縮した。
以上のことにより、持久性トレーニングは最大酸素摂取量の向上、
最大下作業時における心拍数の全域低下に効果を示し、これらの変化
が持久性競技である10km走・フルマラソン及び山岳マラソンの競
技力向上に効果があることを明らかにした。
58
第Ⅵ章
謝辞
卒業論文を終えるにあたり、終始ご指導を賜りました和光大学人間
関係学部発達学科矢田秀明教授、国士舘大学大学院スポーツ・システ
ム研究科角田直也教授、和光大学熊川大介先生、国士舘大学研究生小
室 輝 明 さ ん 、国 士 舘 大 学 大 学 院 生 森 本 昌 伯 さ ん に 深 く 感 謝 い た し ま す 。
また、本研究での測定および用いた機材の使用に関してご協力頂き
ました、国士舘大学大学院スポーツ・システム研究科の皆様に対して
心から感謝申し上げます。
最後に、測定のたびに多くのご声援戴きました矢田研究室の仲間に
も、心から感謝申し上げます。
59
第Ⅶ章
参考文献
1)浅見俊雄:心拍数からみた持久性能力.
体 育 の 科 学 .14(5).270-276.1964
2 ) 浅 見 俊 雄 : 全 身 持 久 性 の ト レ ー ニ ン グ 処 方 に 関 す る 研 究 (1 )
頻度の違いによるトレーニングの効果について.
体 育 科 学 .1.35-40.1973
3 ) 浅 見 俊 雄 : 全 身 持 久 性 の ト レ ー ニ ン グ 処 方 に 関 す る 研 究 (2 )
強度と時間の違いによるトレーニング効果について.
体 育 科 学 2.117-122.1974
4 ) 浅 見 俊 雄 : 走 る 運 動 と 心 拍 数 . 体 育 の 科 学 26(12).851-854.1976
5 ) Robinson: New records in hu-man power.Sci.
85.409-410.1937
6 ) Sharkey: Intensity and duration of training and
the development of cardio-respiratory endurance
Med.Sci.sports.2.197-202.1970
7 ) Sjodin: Applied physiology of marathon running
sports Med.2.83-99.1985
8)山地啓司:最大酸素摂取量から陸上中長距離、マラソンレースの
競 技 記 録 を 占 う こ と が 可 能 か . ラ ン ニ ン グ 学 研 究 .1.7-14.1990
9)山地啓司:心拍数からみた登山中の運動強度.
体 育 の 科 学 .28(9).648-655.1978
1 0 ) 山 地 啓 司 : 最 大 酸 素 摂 取 量 の 科 学 . 62-63.1992
11)山本高司:運動処方のための年齢・運動強度別推定心拍数早見
表 . 中 京 大 学 体 育 学 論 .30.67-73.1989
60
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