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トランス・キャビテーティング・プロペラ用翼型の 設計と性能
1998 年度修士論文概要 東京大学工学系研究科環境海洋工学専攻 応用流体工学研究室 M2 豊田真 ト ランス・キャビテーティング・プロペラ用翼型の 設計と性能評価に関する研究 1 はじめに SR230プロジェクト 最近、30 ノット以上の大型高速カーフェリーの実 現など高速貨物輸送の需要が高まっている。この様 な船舶に装着されるプロペラは、設計条件が従来型 プロペラとスーパーキャビテーションプロペラの中 間になる。従来型のプロペラをこの様な設計条件で 用いると、翼端ではスーパーキャビテーション状態 になることによる性能悪化、翼根側ではキャビティ の振動やクラウド・キャビテーションの放出による振 動、騒音、エロージョンが問題となる。この様なプ ロペラを設計する場合のアプローチとして、キャビ テーション数の低い翼端側ではスーパーキャビテー ション翼型 (以後 SC 翼型) 、翼根部ではキャビテー ションを発生しない非キャビテーション翼型 (以後 NC 翼型) を用いるハイブリッド 型のプロペラが考え られる。本研究ではこの考えに基づくプロペラをト ランス・キャビテーティング・プロペラ (以後、TCP) と呼び 、このプロペラのための翼型の設計及び性能 評価を行う。また最適化法を用いた SC 翼型の設計、 及び実際のプロペラ設計の際に必要となる高性能 SC 翼型のシリーズ設計も行う。なお、この研究は日本 造船研究協会第 230 研究部会、浅没水高馬力プロ ペラの研究 (SR230) の一環として行われ、NC 翼型 のシリーズ設計及びそれらのプロペラへの適用は、 SR230 プロジェクトで別途行なわれた。図 1 にトラ ンス・キャビテーティング・プロペラの概念及び 、 本研究の SR230 プロジェクトにおける位置づけを 示す。 本研究の対象 TCP Super Cavitation Sub Cavitation プ ロ ペ ラ へ の 変 換 SC翼型 NC翼型 SC翼型 ◎翼型の最適設計 ◎シリーズ設計と数式表現 ○翼型実験による性能確認と評価 NC翼型 ○シリーズ設計と数式表現 ◎翼型実験による性能確認と評価 (◎をつけた項目が本研究の対象) 図 1: トランス・キャビテーティング・プロペラと SR230 プロジェクトにおける本研究の位置づけ とが SR230 における初年度の研究で確認されてい る。NC 翼型に関しても、SR230-NC1 翼型というプ ロペラ 0.7R 位置での設計条件での翼型が設計、製 作、実験された。この翼型も高性能であるが、バブ ルキャビテーションや筋状 (ストリーク) キャビテー ションなどのシート状でないキャビテーションが発 生したとき、精度の良い性能予測ができないという 2 TCP 用翼型の設計及び性能評価 問題点があることがわかった。また NC 翼型の実験 は薄翼の NC1 しか行っていないので、厚翼による TCP 用翼型としては NC 翼型と SC 翼型がある 実験も必要である。 が、プロペラ設計のためにはこれらの両翼型の精度 そこで NC 翼型の従来理論による予測精度の確認 の良い理論予測が不可欠である。SC 翼型に関して と、バブルキャビテーション時の性能予測法の開発 はスーパーキャビテーション線形理論 (SC 線形理 のため、当研究室で新たに設計された 2 つの翼型に 論) を用いて精度良く設計及び性能評価ができるこ ついて実験を行い、理論との比較及び考察を行った。 1 NC 翼型の設計 2.1 新たに設計された 2 個の翼のうち、NC2 翼型は プロペラ 0.5R 位置での条件、NC3 翼型は NC2 翼 型と NC3 翼型の中間的な条件になるよう設計され た。これらの翼型は NC1 翼型と同様、翼背面の圧 力が平坦になる揚力係数 CL を設計 CL としている。 NC1 翼型と合わせて、設計条件を下表に、翼形状を 図 2 に示す。 翼型 翼型の設計条件 翼厚比 設計 CL σ(平坦部圧力) NC1 NC2 NC3 3.86% 9.71% 6.48% 0.197 0.282 0.23 0.19 0.36 0.26 に良く一致している。設計点での Non-Cavi. 翼性能 は以下のようになる。 迎角 α (deg.) 翼型 計算 実験 計算値 実験値 NC2 NC3 0.99 0.56 1.0 0.5 0.2892 0.2241 0.273 0.225 抗力係数 CD 揚抗比 L/D 翼型 計算値 実験値 計算値 実験値 NC2 NC3 0.00513 0.00491 0.0061 0.0048 56.3 45.6 45 47 一例として NC3 翼型の CL , CD の迎角に対する 変化を図 3 に示す。 0.80 0.06 NC2 0.70 NC3 0.04 NC1 Calc. CL(Exp.) 10CD(Exp.) 0.60 0.02 0.50 0.00 CL,10CD y/c 揚力係数 CL NC1 NC3 -0.02 NC2 0.40 0.30 0.20 -0.04 0.10 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 x/c 0.00 -0.10 図 2: SR230-NC1,NC2,NC3 の形状 -3.0 -2.0 -1.0 0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 Angle of Attack(deg.) 2.2 模型試験 図 3: 迎角に対する CL , CD の変化;SR230-NC3 翼型 試験は東京大学舶用プロペラキャビテーションタン ネル翼型用試験部で行い、翼模型に取り付けたロー ド セルにより揚力係数 CL , 抗力係数 CD , モーメン ト係数 CM を計測した。翼型の実験条件は以下の通 りである。 -3.0∼7.0(deg.) 迎角 一様流速 8.0 (m/s) キャビテーション数 0.14∼5.0 Reynolds 数 1.1 × 106 ∼1.3 × 106 2.2.1 2.2.2 キャビテーション時の翼性能 試験におけるキャビテーションの様子を図 4 に示 す。設計点 α=0.56 、σ=0.26 では設計意図通り、キャ ビテーションは発生していない。低迎角の状態では バブルキャビテーションしか発生しない。迎角を高 くしていくとシートキャビテーションが発生し 、そ の状態でキャビテーション数を下げるとキャビティ が振動し 、クラウドキャビテーションが発生しはじ める。更にキャビテーション数を下げると筋状キャ ビティが発生したり、スーパーキャビテーション状 態になる。 図 5 は NC3 翼型の実験でのキャビテーション初生 点と理論計算での翼面上の層流剥離点圧力係数、乱 非キャビテーション時の翼性能 非キャビテーション時の理論予測はポテンシャル 流のパネル解法と境界層の積分型解法の iteration に よる理論計算で行った。非キャビテーション時の性 能は NC2 翼型、NC3 翼型ともに理論予測値と非常 2 流遷移点圧力係数、最小圧力係数をキャビテーショ ンバケット図にして比較したものである。図中 Cptr は乱流遷移点の圧力係数、Cpsep は層流剥離点の圧 力係数、Cpmin は最小圧力係数を示す。実験点は シートキャビテーションが初生したときは▲ 、バブ ルキャビテーションが初生したとき■で示している。 このバケット図からキャビテーションの初生は、翼 面の境界層特性を考慮すれば比較的精度良く予測で きると言える。 算の流れを図 6 に示す。計算法の概要は以下の通り である。 Cavitation Number , σ (1)Non-Cavi. での翼面上の圧力分布を計算し 、こ の圧力分布を用いて気泡の成長崩壊方程式を解き、 気泡の半径の変化を計算する。 (2) これらの気泡半径分布の fitting を行い、翼面 上で発泡している気泡数を考慮した上で、これを排 除厚さとして新たな翼形状を作成する。 (3) (1) に戻り収束するまで繰り返す。 この理論によって計算された NC3 翼型の迎角 α と CL との関係を図 7 に示す。図中には実験点、及び 2.5 Sheet Cavitation 従来理論による計算値も示す。青曲線がバブルキャ Super Cavitation Streak + Bubble 2 ビテーション理論によるもの、他の曲線がそれぞれ Bubble Back Bubble + Face Cav. Face Cav. SC 翼型線形理論及びパネル法による部分キャビテー 1.5 ション翼型非線形理論 (PC 理論) を用いて計算され 1 Design Angle of Attack = 0.56 deg. た結果である。キャビティの状態が理論で想定した Cavity Oscillation 状態と一致する範囲を太線、一致していない範囲を 0.5 細線で示す。この図からバブルキャビテーション理 0 論によって従来の理論で性能予測できなかった範囲 -4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 5 6 7 8 Angle of Attack, α(deg.) での予測ができるようになっていることがわかる。 実験でシートキャビテーションが発生しているとき 図 4: 実験でのキャビテーションの様子;SR230-NC3 の翼性能は従来の理論予測結果と良く一致している。 3 SC 翼型の最適設計 翼型 4.0 Angle of Attack(deg.) 3.0 -Cptr -Cpsep -Cptr(Face) -Cpmin Bubble Sheet 高性能 SC 翼型を設計者の技量に左右されずに設 計可能にするため、最適化手法を用いた SC 翼型設 計法の開発を行った。SC 翼型の最適設計は与えら れた設計条件に対して CD が最小になる、つまり揚 抗比 L/D が最大になる翼型が得られるように行な う。このために最適化プログラムと線形理論による SC 翼型設計プログラムを用いて、SC 翼型最適設計 プログラムを作成した。 Calculation Experiment 2.0 1.0 Design Angle of Attack=0.56 deg. 0.0 SC 翼型の設計プログラムは設計 CL 、キャビテー ション数、及び翼正面の圧力分布を入力して翼形状、 キャビティ形状などを求めるものである。そこで 、 -2.0 最適化の方法として翼正面の圧力分布を適当なパラ -3.0 メータで表現し 、これらのパラメータを設計変数と 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 し 、翼の強度条件の制約の下で揚抗比を最大にする。 σ,-Cpmin,-Cpsep,-Cptr 一例として σ = 0.20, CL = 0.30 でこのプログラ 図 5: キャビテーションバケット図;SR230-NC3 翼型 ムを用いて設計した結果を記す。制約条件は翼強度 で、無次元断面係数 Z ∗ ≥ 0.2 × 10−4 、後縁付近最 小厚さ ≥ コード 長の 1%とした。図 8(1) は最適化プ 2.3 バブルキャビテーション時の性能評価 ログラムにかける前の、手入力で決定した翼正面圧 従来性能予測のできていなかった激しいバブルキャ 力分布パラメータの初期値をそのまま用いた翼形状 ビテーション時の翼性能理論予測法を開発した。計 (背面はキャビティ形状) 及び圧力分布である。初期 -1.0 3 0.8 0.7 σ= 0. 70 σ=0.20(Exp.) σ=0.26(Exp.) σ=0.30(Exp.) σ=0.35(Exp.) σ=0.40(Exp.) σ=0.50(Exp.) σ=0.70(Exp.) Calculation of Bubble Radius at Respective Points 0.6 Curve Fitting of Bubble Radius 0 0.5 Partial Cavitation σ= Oscillation Lift Coefficient 0.5 .40 σ=0 0.4 0.3 Reduce the area of section to fit the Cavity Volume .35 σ=0 σ=0.30 σ=0.30 σ=0.26 σ=0.26 0 0.2 =0.2 σ σ=0.40 Super Cavitation σ=0.35 σ=0.30 σ=0.26 σ=0.2 Bubble+Streak 0.1 0 Bubble Cavitation Re-Calculation of Pressure Distribution of Thickened Body 0 0 図 6: バブルキャビテーション理論における計算の 流れ 1 2 3 4 5 Angle of Attack,α(deg.) 6 7 図 7: 種々のキャビテーション数における迎角と CL の関係 ; SR230-NC3 翼型 ; 青線がバブルキャビテー 条件では、揚抗比は 46.2 であるが、翼正面の圧力分 ション理論、黒線がシートキャビテーション理論で、 布を最適化プログラムで変化させると図 8(2) のよ 破線が PC 理論、実線が SC 理論による計算結果 うにキャビティが薄く、短くなり揚抗比も 69.9 と高 させ、5 個ずつ翼型を設計した。また、揚抗比、無 いものになった。図 9 は最適化の履歴を示す。 次元断面係数、設計迎角などの翼性能パラメータも 翼形状と同様に CL ,σ, 強度条件パラメータの 3 つを 4 SC 翼型のシリーズ設計 変数として近似関数表現した。近似関数で表現され 実際のプロペラ設計の際には翼型を個別設計する た SC 翼型の形状の一例を図 11 に示す。 なお、NC 翼型のシリーズ設計については、既に のではなく、与えられる条件に対して、すぐに翼型 や翼性能が得られるチャートが必要となる。そこで SR230 プロジェクトにおいて別途行われている。 種々の設計点 (σ, CL ) に対して SC 翼型のシリーズ設 まとめ 計及び翼型と翼性能パラメータの数式近似を行った。 5 SC 翼型と NC 翼型の使い分けの目安は大まかにいっ 本研究ではトランス・キャビテーティング・プロペラ て CL > σ の時は SC 翼型、CL < σ の時は NC 翼 用翼型の設計法の確立のために以下のことを行った。 型となる。シリーズ設計の際は多少の over lapping zone を設ける。翼型の設計には前節で示した SC 翼 1. 異なる設計条件、翼厚比で新しく設計された 2 つの NC 翼型について、非キャビテーション時、 型最適設計プログラムを用い、設計条件 (CL ,σ, 強度 条件パラメータ) を色々に変化させて計 150 個の翼 およびキャビテーション時の実験を行い、理論 型を設計した。さらに最小 2 乗法を用いてこれら 3 計算による予測と比較をした。その結果、異なっ つの設計パラメータを変数とする近似関数で翼形状 た設計条件で設計された NC 翼型に対しても、 を表現した。図 10 に設計点 (σ と CL の関係) を示 非キャビテーション時には精度の良い翼性能の す。図に示したそれぞれの設計点で強度条件を変化 理論予測ができることが確認された。またキャ 4 ビテーション時においてもスーパーキャビテー ション状態またはシートキャビテーション状態 では比較的精度良く理論予測ができる。 -1.00 -0.80 -0.60 -0.40 CP 2. 従来の理論計算では予測の出来ないバブルキャ ビテーション時の翼性能の予測法の開発を行っ た。バブルキャビテーション状態での翼性能計 算について、気泡の成長崩壊方程式を用いて翼 面上の圧力分布を iteration によって求める新 しい手法を開発し 、実験との比較により有用性 を確認した。 Angle of Attack = 0.4515 deg. Reynolds Number = 108 Lift coefficient = 0.3000 Lift/Drag Ratio = 46.2 σ = 0.1999 -0.20 0.00 0.20 0.40 L.E 0.20 0.40 0.60 0.80 y/c 0.10 0.05 0.00 -0.05 L.E T.E. Cavity 0.20 0.40 0.60 0.80 T.E. x/c 3. 最適化法と SC 線形理論を用いた SC 翼型の最 適設計手法を開発した。 (1) 初期条件での圧力分布、翼正面形状、 キャビティ形状;L/D=46.2 4. SC 翼型最適化プログラムを用いて SC 翼型の シリーズ設計を行い数式近似を行った。これに よって実際のプロペラ設計の際に翼型を個別設 計をする必要がなく、形状の連続した高性能翼 型を得ることができる。 -1.00 -0.80 -0.60 CP -0.40 Angle of Attack = 0.4376 deg. Reynolds Number = 108 Lift coefficient = 0.3000 Lift/Drag Ratio = 69.9 σ = 0.2000 -0.20 0.00 5. 本研究は、日本造船研究協会にて行われた第 230 研究部会「浅没水高馬力プロペラの研究」の一 部として行われた。そこでは NC 翼型のシリー ズ設計と数式近似も行われており、本研究の SC 翼型と組み合わせたトランス・キャビテーティ ング・プロペラも設計され、実験によりその性 能が確認されている。これにより種々の条件で 高性能トランス・キャビテーティング・プロペ ラを設計することができるようになった。 0.20 0.40 L.E 0.20 0.40 0.60 y/c 0.10 0.05 0.00 -0.05 L.E 0.80 T.E. Cavity 0.20 0.40 0.60 0.80 T.E. x/c (2) 最適化した圧力分布、翼正面形状、 キャビティ形状;L/D=69.9 100 0.05 0.045 L/D,Z*×1.0E5 80 0.04 0.035 L/D 60 0.03 0.025 40 0.02 Tnte 0.015 20 0.01 Z* 0 0 0 100 200 300 400 500 600 700 800 900 Number of Function Evaluation 図 9: SC 翼型の最適化履歴 5 0.005 Minimum Thickness near T.E.(Tnte) 図 8: 最適化手法を用いた高性能 SC 翼型の設計 0.45 0.4 Lift Coefficient, CL 0.35 0.3 0.25 0.2 0.15 0.1 0.05 0 0 0.05 0.1 0.15 0.2 0.25 Cavitation Number,σ 0.3 0.35 図 10: SR230-SC 翼型シリーズの設計点; 各設計点 において 5 個ずつ、合計 150 個の SC 翼型を設計 0.2 CL=0.175 CL=0.200 CL=0.225 CL=0.250 CL=0.275 CL=0.300 0.15 y/c 0.1 0.05 0 -0.05 -0.1 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 x/c 図 11: 数式表現後の SR230-SC 翼型の一例、σ=0.2 6