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(H20.11.30) [PDF:3.0MB] ~巻頭言:環境水

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(H20.11.30) [PDF:3.0MB] ~巻頭言:環境水
80
●巻頭言
「環 境 水」
北海道大学名誉教授
(農村空間研究所代表、
協会理事)
梅田 安治
2
●平成20年度 第1回通常総会
総会の挨拶 ――――――――――――――――――――― 堀井 健次
平成20年度事業計画 ―――――――――――――――――――――――
第18回技術協会表彰 ―――――――――――――――――――――――
4
5
7
●新しい動き
「農業・農村施策の最近の動向」―
北海道開発局農業水産部農業計画課 事業計画推進室
9
●寄 稿
管路の予防保全に向けた取組み
埋設とう性管の安定とその要因 ――――――――――――― 秀島 好昭 12
ITを活用した農業関係機関とのコミニュケーションの拡充
新たな事業「農業ネットコンサルアルファ」の開設 ――――― 前田 忠 16
農村景域計画の検討について ―――――――――――――― 川尻 智之 19
●地方だより
土地改良区訪問 祖先の夢を未来につなぐ
渡島平野土地改良区 ―――――理事長 河村 康英 23
●第22回 豊かな農村づくり”写真展
「北の農村フォトコンテスト」 ――――――――――――――――――――― 27
●この人に聞く
わがまちづくりと農業 空知管内 妹背牛町 ――――――――――― 妹背牛町長 加藤 榮一 39
交流広場 「もったいないケニア話」 ―――――――――――― 立石 喜裕
「はじめての北海道生活」 ――――――――――― 武井 孝弘
「地盤の健康読本」 ―――――――――――――― 佐藤 謙司
初級技術者研修を終えて ――――――――――――――――――――――
平成20年度 道央及び安平川地域現地研修会(前記)報告 ―――――――
技術情報資料 ―――――――――――――――――――――――――――
協会事業メモ ―――――――――――――――――――――――――――
44
46
48
49
50
54
56
巻
頭
言
「環 境 水」
北海道大学名誉教授
(農村空間研究所長、協会理事)
梅田 安治
環境水とは1970年代から北米の河川で漁業資源保全のため、ある生態学的条件にお
いて、河川を維持するために必要な流況を示す語として環境流量
(Environmental Flow)
が考えられ、一般的に利用されるようになった。多様な生態系の保全や土砂輸送などに
も及び、流量としても年最小流量だけでなく、流量変動などまでも考えられ、
「無調整
かつほぼ自然な流況」
から
「決定的に改変された流況」
までのシナリオとして「環境管理等
級」が設定されたりしている。環境流量とは、水利用の競合であり、流量が調整されて
いる状況で、生態系やその他の便益を維持するために河川・湿地・海岸地域などに供給
技
術
協
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第
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号
されるべき流量であるとしている。
我々も土地改良法の改正(2001)により、環境との調和に配慮した事業実施が原則化さ
れ、いま、
この中で環境のための流量については、水路における年間の流量変動に対し、保
全対象生物の生息・生育に適した水深・流速が確保されるように水路の形状・構造
を設計するとともに、生物によっては、繁殖、生長といった生活史の段階に応じて
河川、水路、水田を移動することから移動経路が分断されないよう水路の落差工や
水田と水路の段差の縮小等にも配慮することにしている。また、非灌漑期などに流
量が大幅に減少する場合や流れが全くなくなる場合には、生息・生育可能な生物種
が制限されることから、新たな水量の確保の可能性についても検討することとして
いる
〔桃沢 靖/環境流量/水土の知76(5)〕
とされている。
かつての水田は田越かんがいで連坦し、用排兼用であった。その結果として地域の水
環境は連続していて、生態系はそれなりに保全されていて、水田ならば配慮は無用とい
うことで、生物多様性の生態系の中でのイネの栽培という状況だったのではないだろう
か。それが、生産性を求め、用排水路を分離し、水田の水管理の独立性などを求めたと
き、多くのものを削ぎ落としてきたのである。それらのものが陰ながらもっていた機能
をいかに復活させるかということであろう。
そのときの水は水田地域にほとんど滞留状況であったことが課題であり、流量はその
水の確保のための数字にすぎないことになる。ということから、ここで考えるのは水田
を含む地域の自然生態系と水の状況ということで、その地域での自然・生産(農地・水
田)・生活システムなどと相互通態することから地域特性的状況に対応するものである。
その意味からこの状況を地域(土着)環境水
(Vernacular Environmental Water)
から一
般化して環境水
(Environmental Water)
と呼ぶことにする。
いま、第一回アジア・太平洋水サミットの成果とでもいうべき
「Policy Brief 2007」
をうけて、
「環境のための水」
(Water for Environment)
として、農業用水の今後の政
策課題が提示されたりもしている。
(水田流域における
「環境のための水」
に係わる政策
課題/
「水土の知」
76(5))
。そこでは
「農業用水」
を
「灌漑用水」
としてだけでなく、環境
も含む多用途な
「地域用水」
としての利用も含む政策支持的事業の展開が紹介され、その
中で
「灌漑用水」
の一体的利用が論じられたりしている。さらに、
「河川生態系のための
環境流量に対し、水田生態系のための環境流量は提示し、流域全体の環境保全の視点に
立ちそれぞれの機能を相互に補完・強化していくことが重要である」
としている。この
流域という面に展開した状況に対応するのが農業の役割であり、技術対応できるところ
であろう。そのとき、日本の水田技術として心しなければならないのは、元来の
「環境
流量」
の考え方、それに附随してのGlobal Environmental Flow Calculaterなどが、
水のあまり豊富でない地域なども多く含めて提示されているということである。この中
では東南アジアから日本にかけてのモンスーン地域というのは小数派ということであ
る。そこでは、
「長い年月をかけて、水田農業が営まれてきた結果、農業用水路が張り巡らされ、
水に関するネットワークが構築されている、このネットワークが水生動物の生息域
となり、水田を経由して、河川、森林および湖沼への回遊に利用されるとともに、
ここに生息する魚類を貴重なタンパク源として活用している例もあるであろう」
とされているが、その中で水田はイネの生産構造に特化している日本としては昔のお話
のような気もする。環境流量を河川(線)的のみでなく将来的には、農業用水路、水田も
含めた水ネットワークを通して面的に広がっていく
「流域全体の流れ」
を捉えるという考
え方(INWEP)
もでてきていることは勇気を与えてくれる。水環境に関しては、ON/
OFF状態にまでコントロールされた水田、さらに排水路の整備により湿潤状態から脱出
した畑・草地の環境を自然生態系と共存する状態を持続するために、水環境(水状況)を
いかにするか。環境水のあり方を考えるときである。
北海道では農業・農地を展開するために、先ず排水をすることが必要であり、その後
に必要な水を持ち込む状況で農業・農地・水田の水環境を形成してきた。すなわち、水
量的には
「自然生態系>農業・農地」
なのである。そこで農業・農地を利用・持続しつつ
自然生態系と共存する環境を形成する水の状況の把握理解が第一の課題である。
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術
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総会の挨拶
平成20年度 第1回通常総会
平成20年5月28日(水) 京王プラザホテル札幌
総 会 の 挨 拶
会長理事 堀井 健次
本日は、ご多用の中、平成20年度第1回の通常総会にご出席いただきましてありがとうございます。
さて、皆様ご承知のように、公共事業関連の受注を主体とした、当業界は引き続き厳しい状況の中にあ
ります。全国的にも、原油、原材料価格の高騰で、業績失速の気配も見受けられ、この北海道において
も、色々な面で厳しい状況を迎えております。
このような中で、総人件費抑制に伴う開発局定員の大幅な削減の動き、日豪EPA交渉、さらに昨年から
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術
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始まった農政改革3対策、いわゆる品目横断的経営安定化対策、米政策改革及び農地・水・環境保全向上
対策は、今年度から実態に即した必要な改善が行われ、その着実な推進が図られることとされています。
当協会といたしましても、農業農村整備事業の調査設計の一翼を担う立場から、品質と価格で総合的に
優れた成果品を迅速、効率的に提供するよう、一層の自助努力を会員各社並びに協会として重ねなければ
ならないものと考えております。その一環として、技術向上を図るため、資格取得、特に北海道農業土木
技術士会の事務局を当協会は担当しておりますが、会員各社から平成17年度は13名、平成18年度は12
名、平成19年度は14名の技術士2次試験最終合格者を恒常的に出すことが出来ましたことは、一つの努
力の積み重ねという風に思っております。
また、地球規模で見ますと人口の増加と地球温暖化の影響やバイオ燃料の大幅増産、BRIC′s等経済成
長が著しい国の所得向上に伴う食糧需要の増加、更にミャンマーのサイクロン、中国四川大地震等の自然
災害等から、世界の食糧需給がいよいよ逼迫の兆しを見せ始め、さらに投資マネーが食料価格の高騰に拍
車をかけています。長期的に見ますと食料の安定的確保が困難化していく危険性を孕んでおります。こう
した中、食料の自給、良質な農産物の確保を図る上で、将来にわたり北海道の食料供給力の維持向上が我
が国にとって、重要であることを道内外に強く訴えていく必要があろうかと考える次第です。当協会とし
ても、
「食料の未来を確かなものにするために」従来続けて参りました各種の公益事業をさらに有効に活
用して、このことを訴えて参りたいと考える次第です。
また、公益法人改革のうごきでは、一昨年6月に公布されました公益法人改革関連3法を踏まえ、新た
に公益社団法人として当協会が認可を受ける条件として、この4月に内閣府公益認定等委員会から
「公益
認定等ガイドライン」
、
「公益目的事業のチェックポイント」
が取りまとめられられました。これによれば、
公益認定のハードルは極めて高いと認識いたしております。会員の
「共益」
と一般の不特定多数のための
「公
益」
、この狭間をどう埋めるか、また、公益認定を受けることの会員にとっての得失等、中央の動きも見
ながら今後、慎重に検討して参りたいと考えております。
今回の総会では、昨年度の事業報告と収支決算報告及び監査報告が議題となっております。宜しくご審
議の程をお願いいたします。
以上、簡単ではございますが平成20年度の第1回通常総会の挨拶とさせていただきます。
「平成19年度 第1回通常総会」
平成20年3月27日
(木曜日)
に、平成19年度第2回通常総会が、ND
ビル4F会議室において開催され、会員37社
(委任状含む)
の出席のも
と、平成20年度事業計画及び収支予算
(案)
が審議承認されました。
また、平成20年 5月28日
(水曜日)
には、平成20年度第1回通常総
会が、京王プラザホテル札幌において開催され、会員37社
(委任状
含む)
の出席のなか、平成19年度事業報告・決算及び監査報告につ
いて審議承認されました。
両通常総会とも、小林専務理事の司会のもと堀井会長理事の開会
挨拶の後、所定の手続のうえ議案審議に入り原案通り承認可決され
ました。
平成20年度 事業計画
▼
1.目 的
農業農村整備事業の意義を理解し、寒冷地におけ
る農業農村整備事業の調査、計画、設計、積算及び
施工監理並びに基幹農業水利施設の維持管理等にか
かわる技術の研究開発を行うとともに、その指導・
普及に努め、もって北海道農業の発展に寄与する。
以上の目的を達成するために、より一層、会員
の資質と技術力の向上を図り、もって公共の福祉の
増進に努めていく必要がある。そのため、
①協会関係機関との相互関係
②協会と会員との相互関係
③協会の独自活動
等の充実をはかるために次の事業を行う。
○土地改良研修会
(2∼3回程度)
○土技術向上対策研修会(技術士受験対策講習
会、VEリーダー講習会、技術検討討論会)
③ 技術情報の収集・交換・配布、情報交換事業
○農業土木に関する技術資料の作成・リスト化・
配布
○
(社)
農業土木学会、
(社)
農業土木事業協会等関
連学会、協会が実施する事業に参画し情報交換
④ 企業の育成のための情報提供、公益法人の
目的達成するために必要な事業
○農業農村整備事業推進課題の研究
(大学・外部
研究機関の活用・支援)
○協会ホームページの管理・内容の充実
○会員名簿の発行
○会誌
「技術協」
の発行
(年2回)
、
「報文集」
の発刊
(年1回)
○FM放送による一般市民
(消費者)
への食料・農
○農業水利施設の設計・施工・管理に関する研
究
(予防保全、地域用水、品質検査、性能規定
化、基準改定)
業・農村の啓蒙
・放送局 FMアップル 76.5MHZ
・番組名 『北の食物研究所』
(北海道の大地か
○情報技術の電子化に向けた調査・研究
(GIS、
文書電子化)
○畑地かんがい技術の研究開発
ら元気をもらおう!)
・放送日時 毎週金曜日
○
『北の農村フォトコンテスト』公募、応募作品
による写真展
(第22回)
開催
○上記を利用したカレンダー、ポストカードの
2.事 業
① 調査・研究事業
② 技術研修会・講演会・見学会事業
(CPD対象)
○初級技術者研修会
(4月下旬)
○現地研修会
(道内研修:2回)
作成、発刊図書による一般市民(消費者)への
食料・農業・農村の啓蒙
技
術
協
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第
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号
「平成19年度 第1回通常総会」
■役員名簿
(平成20年11月現在)
技
術
協
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●
第
80
号
会 長 理 事
堀 井 健 次
(株)
農土コンサル 代表取締役
副会長理事
常 松 哲
(株)
イーエス総合研究所 代表取締役
〃
田 村 源 治
(株)
地域計画センター 代表取締役
〃
中 井 和 子
専 務 理 事
小 林 博 史
理
板 谷 利 雄
長沼町長
〃
梅 田 安 治
農村空間研究所 代表
〃
加 藤 範 幸
〃
神 谷 光 彦
〃
駒 村 勝 善
〃
本 間 恒 行
北海道ワイン
(株)専務取締役
〃
眞 野 弘
北海土地改良区理事長
堂 守 敏 和
堂守税理士事務所所長
島 田 昭 三
サン技術コンサルタント
(株)代表取締役
事
監
事
〃
中井景観デザイン研究室 代表
(社)
北海道土地改良設計技術協会
(株)
三幸測量設計社 代表取締役
北海道工業大学教授
(株)
ドーコン常務執行役員
■平成20・21年度部会委員一覧
◎は部会長
技 術 検 討 部 会
◎ 蒲原 直之 荒木 義恭 駒井 明 加藤 正巳
鈴木 扛悦 青山 裕俊 小笠原 武
研
修
部
会
◎ 荒金 章次 中川 健二 松永 和彦 白井 延治
黒江 公則 吉田 宏 林 英雄
小竹 克美
広
報
部
会
◎ 明田川洪志 寺地 明夫 小澤 榮一 林 嘉章
浅井 要治 夏伐 一夫 矢野 正廣
宮本 治英
第17回 技術協会表彰
第18回 技術協会表彰
平成20年度
(第18回)
表彰式は平成20年5月28日通常総会終
了後開催されました。
この表彰は、会員会社の役職員などを対象として、会社の
繁栄と土地改良事業の振興と発展に顕著な功績のあった方々
に贈られるものです。今年度は、次の52名の方々が表彰され
ました。
◆おめ でと うござ いま す。
(順不同敬称略)
■勤続精励賞
■特別功労賞
平瀬 巧
【職員の部
(25年勤続)
】
株式会社アルファ技研
事業部主任技師 谷本 和紀
■経営功労賞
総務部室長 森本 準子
株式会社農土コンサル
代表取締役社長 堀井 健次
株式会社環境保全サイエンス
企画管理室取締役兼務室長 佐藤 貢一
企画管理室取締役兼務技師長 三浦 秀彦
■勤続精励賞
【役員の部】
株式会社イーエス総合研究所
サン技術コンサルタント株式会社
総務課 島田みつ子
常務取締役営業部長 下原 英一
二水測量設計株式会社
取締役技術部次長 敦賀和二三
株式会社農土コンサル
専務取締役 前佛 榮一
サンスイコンサルタント株式会社 北海道支社
技術部技術第1グループグループ長 山口 義博
株式会社ズコーシャ
本社技術部調査計画課主任技師 木戸 薫
営業部次長 岡田 孝一
■勤続精励賞
本社技術部設計1課副技師長 小室 博邦
【職員の部
(35年勤続)
】
株式会社ズコーシャ
本社技術部設計1課主任技師 杉山 正一
株式会社農土コンサル
地域計画・調査部専門部長 立石 喜裕
農村環境・技術部部長 戸内 勝浩
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第17回 技術協会表彰
(順不同敬称略)
■勤続精励賞
■勤続精励賞
【職員の部
(15年勤続)
】
株式会社アサヒ建設コンサルタント
【職員の部
(15年勤続)
】
株式会社ズコーシャ
土木部サブリーダー 沼倉 一博
本社技術部設計1課課長 福井広一郎
農業・環境部サブリーダー 大野 一司
環境評価センター建設環境調査室技師 五十公野健二
農業・環境部チーフ 福井 敏
本社技術部設計2課技師 小林 利文
農業・環境部スタッフ 朝岡 宏
株式会社ドボク管理
株式会社アルト技研
設計部主任技師 前田 輝
技術部調査課長 清水 茂夫
技術部設計主任 森山 寛子
設計部技師 瀬部 涼子
内外エンジニアリング北海道株式会社
株式会社イーエス総合研究所
技術部技術課プロジェクトリーダー 米山 和彦
施工管理部技術課課長代理 長坂 勉
施工管理部調査課課長代理 上野 哲也
技
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函館支店技術課課長 岡村 正樹
帯広支店技術課課長 伊東 伸司
釧路支店技術課主任 野理 英仁
株式会社環境保全サイエンス
農村地域振興室主任技師 多田 充
農村地域振興室副室長 野口 誠
サン技術コンサルタント株式会社
設計課設計係長 野口 和彦
二水測量設計株式会社
主任技師 中橋 賢二
株式会社農土コンサル
農村環境・技術部専門部長 林 英雄
農村環境・技術部主任技師 藤澤 達広
冨洋設計株式会社北海道支社
技術部技術第2課主任 若槻 英明
株式会社フロンティア技研
水利環境部部長 森田 貴志
用地課調査係長 渡井 達也
北王コンサルタント株式会社
サンスイコンサルタント株式会社北海道支社
企画設計部企画設計課次長 大森 和男
技術部技術第1グループ技師 大黒谷朋洋
企画設計部企画設計課主任 斉藤 淳一
技術部技術第3グループ事務員 柳川 弘美
事業部調査課主任 原 博人
技術部技術第1グループ事務員 古澤 理絵
設計部事業課主任 清水 一宏
総務部総務課主任 福西 重了
事業部技術課技師 北澤 恵美
新しい動き
新 し い 動 き
「農業・農村施策の最近の動向」
1はじめに
外農産物の安全性等が社会問題化しているところで
す。
我が国の農業施策については、平成17年3月に策
これらの問題点も踏まえ、平成21年度農林水産予
定された
「食料・農業・農村基本計画」
に基づき、従
算概算要求にあたっては、今年5月7日に食料・農
来型の農業施策を見直しながら、政府一丸となって
業・農村政策推進本部で決定された
「21世紀新農政
集中的に取り組んでいます。平成19年度から本格的
2008」
等に沿って、
「国際的な食料事情を踏まえた食
に始まった
「品目横断的経営安定対策」
は北海道にお
料安全保障の確保」
、
「農山漁村の活性化」
、
「資源・
ける加入状況が畑作4品では作付面積のほぼ100%を
環境対策の推進」
の3つの柱を基本として、農林水産
対策加入者によってカバーしており、米についても
行政の喫緊の課題に対応するための施策を重点に概
本年から創設された市町村特認制度による加入者増
算要求を行っています。
などもあり、作付面積の8割以上を対策加入者によっ
てカバーしている状況です。また、同時にスタート
した
「農地・水・環境保全向上対策」
についても、北
海道における採択状況は平成19年度の83市町村から
平成20年度予算概算要求の概要
2
(概算要求基準、重点要望)
平成20年度は100市町村へ、取組面積も約26万haか
ら約38万haへと大きく伸びており、食料の安全・安
平成21年度予算
(概算要求)
については、経済財政
心な供給を支える農業生産基盤の保全に加え、美し
諮問会議での議論を経て、平成20年6月27日に
「経済
い農村景観や自然環境の保全を含めた持続的で潤い
財政改革の基本方針2008」
が閣議決定され、過去2
のある農村の実現に、総合的な取組が進められてい
カ年の基本方針に引き続き、歳出改革の努力を緩め
ます。
ることなく、国、地方を通じ最大限の削減を行う予
一方、平成19年度食料需給表によれば、食料自給
算編成の原則を引き続き遵守するとともに、ムダ・
率(カロリーベース)
は、40%と平成18年度の39%
ゼロに向けた見直しを断行し、真に必要なニーズに
から持ち直したものの、国の大きな施策目標(平成
こたえるための財源の重点配分を行うこととされま
27年までに45%)
とはまだまだ隔たりがあります。
した。
農業者の減少・高齢化や耕作放棄地の増加、海外で
その後、7月29日に閣議了解された概算要求基準
のバイオ燃料需要の拡大による穀物需給の逼迫はも
(シーリング)
では、公共事業関係費の総額を対前年
とより、原油高による燃料油や肥料等資材価格の高
比95%の範囲内に抑制し、地方の自立・活性化、我
騰が追い打ちをかける中、国内で農産物を安定的に
が国の成長力強化、防災・減災等による安全・安心
生産することが益々重要となっており、速効性のあ
の確保等の観点から、真に必要な社会資本を選別す
る対策が必要となっています
るとともに整備水準や普及率の上昇、産業構造の変
また、食の安全に対する消費者の意識は益々高
化等を踏まえた事業分野ごとのメリハリ付けを強化
まっており、今年も、原産地や加工食品の偽装、海
し、投資の重点化を一層推進することとされまし
技
術
協
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●
第
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新しい動き
た。
技
術
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●
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号
等、担い手への農地の一層の利用集積を通じた生産
公共事業関係費の要望額については、対前年比95
性の向上を図るとともに、農産物の高付加価値化、
%に1.25を乗じた額まで要求できるとされました
競争力強化のために安全で高品質な農産物の生産を
が、
「基本方針2008」
を踏まえた、政策の徹底的な棚
可能とする基盤整備の推進等図ることとしていま
卸しや各経費に係るムダ・ゼロに向けた見直しを断
す。
行するとともに、歳出全体の徹底的な洗い直し行っ
これらの方向に則し、北海道の農業農村整備事業
た上で、制度・施策の抜本的見直しや各経費間の優
予算は、事業効果の早期発現、既存施設の有効活用
先順位の厳しい選択を行って、真に必要なニーズに
を念頭に置いた配分としています。直轄事業では、
応えるための予算配分の重点化・効率化を行うこと
農業生産性の維持・向上を図るための
「国営かんがい
が明示され、大変厳しい内容となっています。
排水事業」
「国営農地再編整備事業」
とともに、既存水
今後は、年末の予算編成過程において、
「基本方針
利ストックの計画的な更新整備を行って施設の長寿
2008」
を踏まえた投資の重点化、費用対効果分析等
命化を図る
「国営造成土地改良施設整備事業」
を推進
による事業評価を一層活用した事業の厳格な選択、
します。また、環境と調和した農業展開として家畜
PFIの活用や既存ストックの有効活用および事業間の
排せつ物等を有効利用する
「国営環境保全型かんがい
連携強化によるコスト縮減の継続、談合の廃絶など
排水事業」
と多様な自然災害の発生に備える防災・減
入札・契約の透明性・公正性を確保して執行段階の
災対策を通じた安全な地域社会の形成のために
「国営
競争促進、不要不急な経費の見直しや必要性・効率
総合農地防災事業」
を実施します。
性を踏まえた政策棚卸し等の徹底、公共事業から公
これらの取組に必要な概算要求額は、北海道農業
共事業以外のより適正な政策手段へのシフト、各地
農村整備事業費全体額として、国費ベースで対前年
域における社会資本の整備状況や必要性への配慮な
比118.8%の1,287億円
(全国7,300億円)
となってお
どに着目して、要望額の査定が行われることとなり
り、直轄分については、国費ベースで対前年比
ます。
118.6%の878億円
(全国2,731億円)
、補助分
(機構
分含む)については、409億円(全国4,568億円)と
なっています。
平成21年度予算概算要求の概要
3
(北海道)
北海道は、大規模な農業経営に適した広大な農用
地を有し、我が国の食料基地として重要な役割を
担っています。食料や飼料自給率の向上が農政の大
きな目標となっている今、北海道が果たす役割は極
めて大きなものになっています。
直轄事業の新規着工地区については、施設機能の
加えて、
「食料・農業・農村基本計画」
の中で位置
低下が著しいなどの緊急性や事業効果の早期発現な
付けられた、担い手への支援の集中化・重点化を推
どを考慮して、熟度の高い地区を要求しており、国
進することをはじめ、農業水利施設等の適切な更
営かんがい排水事業
「安平川(二期)地区」
「美女地区」
、
新・保全管理などの対策を講じることにより、力強
直轄明渠排水事業
「利別川左岸地区」
、国営造成土地
い農業構造を実現していくことが求められていま
改良施設整備事業
「北見地区」
「東地区」
、国営農地再
す。
編事業
「上士別地区」
「中鹿追地区」
の7地区になってい
このため、平成21年度予算の概算要求について
ます。
は、北海道に求められている食料供給力強化の観点
から、ほ場の大区画化や分散農地の連たん化の推進
新しい動き
4 平成21年度新規・拡充事業の概要
18年度から実施されている基幹水利ストックマネジ
メント事業を引き続き要求するほか、これを団体営
でも実施可能にするため、
「地域農業水利施設ストッ
全国を対象とした新規制度要求においても、前述
クマネジメント事業」
(新規、公共20億円)を要求して
した食料安全保障の確立、農山漁村の活性化、資
います。
源・環境対策の推進という3つの柱立てを行って、予
農山漁村の活性化については、都市との共生・対
算の要求を行っています。
流を柱に農山漁村活性化プロジェクト支援交付金の
食料安全保障の確立では、国内における食料供給
ほかに、引き続き
「農地・水・環境保全向上対策」
(非
力の強化に向けた
「水田等の有効活用推進対策」
(非公
公共302億円)等を要求し、併せて
「地域用水環境整備
共、526億円)や
「耕作放棄地等再生利用緊急対策交付
事業(歴史的施設保全事業)」
(拡充、公共1.3億円)を要
金」
(非公共、230億円)等と
「農地有効活用緊急基盤整
求しています。また、安全・安心な農山漁村づくり
備事業」
(公共20億円)、
「耕作放棄地解消・発生防止
の推進として、
「地域ため池総合整備事業」
(新規、公
基盤整備事業」
(拡充、公共11億円)などを新規に要求
共30億円)、
「水源の里保全緊急整備事業」
(新規、公
し、食料供給の基盤づくりを推進します。併せて、
共8億円)を要求しています。
国内農業の体質強化に向けて、担い手のサポートに
資源・環境対策の推進については、地球温暖化対
資する各種非公共事業に加え、面的集積を効率的に
策や国産バイオマス燃料の生産拡大、利活用の推進
行うために所有者、耕作者、面積、基盤整備状況な
及び生物多様性保全の推進を図るための各種施策を
どの農地に関する情報と地図情報を結合した農地情
要求しています。
報図(GIS)の整備を支援する
「水土里情報利活用促進
これらの新規、拡充事業については、時代の変化
事業」(拡充、非公共107億円)や、
「農地情報共有化支
に的確に対応した事業要望であり、国内外の諸課題
援事業」
(非公共11億円)、
「農地情報提供支援事業」
(新
に適切に対応していくため、農政改革とともに、時
規、非公共0.3億円)などを要求しています。
代に即した農業構造の基礎を築くための事業と考え
これらに加え、既存施設の長寿命化や適時更新に
られます。
よるライフサイクルコストの低減を図るために平成
北海道開発局農業水産部農業計画課事業計画推進室
技
術
協
●
11
●
第
80
号
寄 稿
◆表-1 管路の構造的安定とその条件・項目
管路の予防保全に
向けた取組み
埋設とう性管の
安定性とその要因
秀島 好昭
技
術
協
●
12
●
第
80
号
はじめに
表-1の個々の詳細(写図や解説)は割愛するが、例え
ば、整理記号T-1の傾斜地形では敷設勾配方向の荷重
畑地帯の灌漑用水供給目的や水田地帯の水路更新
外力や地下水流の集合の有無、S-2では土質材料に
として管路の建設実績が伸びてきている。40余年ち
よっては飽和により力学性が変化すること、S-3では
かく供用を経過したコンクリート製の開水路に比
地下水流による粗粒材料の分級と点支持への変化、
べ、近年に始まった管路構造物の供用年数は浅く、
D-2は隣接する管種(剛性)の違いや巻立て断面の相違
現在は供用後の実態を蓄積・分析し、ストックマネ
など管の変形・変位および管路の安定性に関わる要
ジメントの準備や方法を着実に構築する段階にあ
素である。これら要素の関わりや階層を次節に示
る。また、管路建設においても、自然環境や使用土
す。
質材料に地域的な特徴が現れることから、地域の特
徴を反映した管理方法も加えて検討することが重要
諸要素の関係と階層
である。ここに、幾つかの現場で得た管路の供用機
能の調査結果等を基に、管路の安定性に関わる要因
要素間の関係や階層を分類することは、管理の具
等を要約し、今後の予防保全技術の構築につながる
体的方法や評点作業の検討に有益であることが多
資料としたい。
い。ここでは、表-1の内容(整理記号を参照)に
「管の
変形・変位・安定性」
の項目を加えた16項目の関係
埋設とう性管路の安定性と諸要素
を探った。
この方法に、階層構造をもつ有向グラフを作成す
表-1は管路の供用性(ここでは構造的安定)に関わり
るのに使用されるISM手法(潜在構造分析モデル;参
のあった内容を示している。表-1中の地震を除く固
考文献1,2)が詳しい)を用いた。解析のスタートとな
有・静的な条件・項目が供用性を大きく左右し、設
る要因間の2値マトリックス(要素Aが直接的に要素
計段階から管理段階においても留意が必要な事項で
Bに関係するとしたら1を与える、それ以外は0の要
ある。
素間マトリックス)は、表-2のとおりである。
寄 稿
◆表-2 要素間の関係のマトリックス
例えば、要素番号2番(整理記号G-1)の
「地山(基盤)
の地質・土質」
は要素番号5番
「反力係数」
、要素番号
7番
「粒度組成(支持状態)」
、要素番号11番
「路線方向
の断面構成の差」
、要素番号13番
「出来型・品質・丁
寧さ」
、要素番号16番
「管の規格および安全率」
と直接
的に関係があるとしたほか、それぞれの要素は自分
自身と関係があることを表-2が示している。これら
の階層構造が図-1のように示される。
◆図-1 供用後の管路の構造的安定性に関わる要素の相互関係と階層
技
術
協
●
13
●
第
80
号
◆表-3 各要素間の関係と分析に向けて
*記号等は図-1を参照
寄 稿
図-1によれば、地形条件の
「平坦・傾斜地形」
を下
将来に、このような要素と階層と現場の対照か
位の7層とし、順次、最上位1層の
「管の変形、変位
ら、監視すべき内容や方法の選択、さらに、重点的
および管路の安定」
まで構造的につながっている様子
に監視すべき場所の抽出などが行える方法論を検討
が指向ベクトルから良くわかる。各要素間のフロー
したい。
が無い、あるいは、断ち切ることができれば、上層
や同層の指向先要素につながらないことを意味す
管路の状態把握と管理
る。
技
術
協
●
14
●
第
80
号
図-1のフローに番号を付したが、その具体的な意
管路の状態を把握するには、落水後の管・管路の
味合いは重要で、表-3にその内容を記した。
変状を、直接に観察したり計測することが確実な方
表-3の幾つかの具体例を述べると次のようであ
法の一つである。落水するとそれまでの内外圧の均
る。
衡が変わることや時間的制約等のリスクがあり、落
・(フロー番号;6-2) 埋戻しに使用する火山灰など
水せずに管路の状態を分析・評価できる方法が見い
は、その組成(噴出起源)、締固め状態によっては水
だせれば、予防保全はさらに前進する。
浸することにより土の力学性が大きく変化するこ
図-2は管のたわみ量を経時的に計測した事例であ
とがある。
る。資料は、土被り2∼4mで埋設されたφ800mmの
・(フロー番号;5-9) ドレーン管が破損するとその部
FRPM管の供用後のたわみ率である。計測年A年は敷
位から集水が漏れ、周囲土の礫が顕在化する恐れ
設施工後8年経過し、さらに4年経過した時点でのた
がある。
わみ率の比較を示している。両者を比較すると、ほ
・(フロー番号;5-7) 凍結した粘性土は、凍結時は見
ぼ等値であり、経年的に変化する様子はなく、安定
掛けは堅く、良く締まった状態にみれるが、融解
した状態にあると判断できる。上述のリスクが考え
時には空隙が大きいことや軟弱化することで力学
られるが、適当な期間を置いて、たわみ量を計測管
性が大きく変化しやすい。
理することで有益な情報を得ることができる。
・(フロー番号;4-9) 管底に基床を設けるが、不陸や
◆図-2 管路のたわみ率の経年計測と比較
その材料の消失で基盤との直接支持となることが
ある。
図-3によれば、その多くの要素は上層2層の
「敷設
管力学性(規格・安全率)」
に集合する。すなわち、管
の力学的安全率が高いと、最終の
「管の変形、変位お
よび管路の安定性」
の事象に続かずに、管品質のもつ
バッファーで吸収される。ここに、ともすれば
「管の
強さ」
に過度の期待をかけやすい構図がみられるが、
管は所要の規格(および余裕)のものを設けるものであ
り、規格能力を大きく超えて、管資材に期待するこ
また、落水することで管路の不陸の有無を目視点
とは不適である。また、図-3によれば「敷設管力学
検できたり、管の内空状態の目視や触診から外圧や
性」
を通らずに下位の層から直接に、
「管の変形、変
支持の状態を予想することもできる。
位および管路の安定性」
につながるフローもある。こ
図-3は基盤が礫質の場所において、単管の相対的
の場合は、おもに管路の安定性に関わるもので、縦
な凹凸を50cm間隔で計測した事例で、管底の水溜ま
断方向の管路の不陸の有無や荷重条件・反力の様子
りの様子も示している。ここでは管底が礫により点
の差など施工からも影響が考えられるものである。
支持状態になっていることが予想され、今後の予防
すなわち、資材と施工の両者から
「管の変形、変位お
的措置の検討が必要となる。落水後の内空監視によ
よび管路の安定性」
が左右されていることがわかる。
り、管路の安定性が直接的に評価できる。
寄 稿
◆図-3 管径の局部的相違や管底の様子
適している)。
非破壊で迅速な調査補助技術の開発
管内空に亀裂などがみられると、部材内部への進
行の程度を推定したり、また、外見上にて健全と思
える部位との部材強度比較が必要となる機会があ
る。管の部材はコンクリートと異なる特性をもつも
のの、超音波伝播速度を利用した亀裂規模の推定技
術の実証や健全部位と変状部位のインピーダンスの
差に注目した調査法の検証などが行われており、こ
れらの応用性が確認できると具体的な調査・分析作
業が簡便になる。
管内の無人観察方法の開発とともに具体的な現地調
査技術の進展がまたれる。
断面の開削を伴うような管理は、各種のリスクが
おわりに
多く、地表部からの管理を検討することが考えられ
る。前述のように管の変形性や管路の安定性は周辺
管路の予防保全技術を構築するための実態分析を
土との干渉から決まることから、周辺土の様子を定
行っており、その内容の一部を予報した。そのこと
期的にモニタリングすることで安定性の判断に有効
から本報は、予防保全の具体的作業等を提案したも
な情報を与える。
のはない。今後、より具体的な事例解説も含めた資
◆図-4 地表部からの周辺土の状態監視
料の作成を予定しており、別の機会に発表とそれに
対するご意見をいただけることを期待している。
参考文献
1)
秀島好昭(2007):L字型ブロック水路(フリューム)
の水路機能の評価、個人出版物
2)
秀島好昭ら(1985):農業用フィルダムの計測管理
について、農業土木北海道Vol.7,pp32-42、全国農
業土木技術連盟北海道支部
図-4はサウンディング試験による管周辺土の状態
を探査するスケッチである。標準貫入試験、コーン
貫入試験は支持力を調査するもので、土の反力係数
等の工学的性質を直接に与えるものではないが、
キャリブレーション等により、サウンディングの指
数値によりおよそ工学的性質と数値が推量できる
(尚、標準貫入試験は軟らかい土層の力学性の差を比
較するには不向きで、比較的堅い周辺土層の調査に
(独)
土木研究所寒地土木研究所
寒地農業基盤研究グループ長
技
術
協
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15
●
第
80
号
寄 稿
ITを活用した農業関係機関とのコミニュケーションの拡充
−新たな事業
「農業ネットコンサルアルファ」
の開設−
前田 忠
はじめに
ばれてきましたが、先のことと現実感をもって受け
取ることの無い状況でありました。
技
術
協
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16
●
第
80
号
当社は、1977年
(昭和52年10月)
に設立した農業系
更に、原油の高騰等によるトウモロコシを始めと
のコンサルタント会社で農業土木部門を中心とした調
する農産物のエタノール利用、投機マネーの流動、
査・計画、設計、管理を業務の主体として展開すると
異常気象等は世界の食料事情を一転させることとな
ともに、農業経済部門も順次追加し、
「農業・農村に
り、これまで将来における問題としてきた食料不足
関わる総合コンサルタント」
(ISO認証)
として道内の農
は現実のものとなり、トウモロコシ、大豆、小麦等
業・農村のコンサルティングを手がけ、様々なノウハ
の穀類は、大幅な価格上昇を招いており、後進国に
ウを身に付けさせていただいてきました。
おける農産物輸入国では十分な食料が確保できず、
折しも、2006年(平成18年)に創立30年目を迎
食料不足に対する暴動が発生する事態にまで至って
え、その記念事業として「農業ネットコンサルアル
います。
ファ」
を開設しました。
わが国の食料は、主要品である米を除いていずれ
本事業は、これまで成長させていただいた関係各
も諸外国からの輸入に頼っており、国内の食料自給
位への感謝の一環として、当社スタッフと農業・農
率も40%に低迷しています。また同時に食糧生産者
村に関わる著名な先生方の協力もいただきながら、
は、国内農産物の品質の高さや生産物の安全・安心
私達がこれまでの業務で修得させていただいた技術
を確保し、広く消費者に理解していただき生産を展
を生かし、インターネットを媒体として、皆さんが
開する必要に迫られています。
抱える農業・農村に関わる諸問題等に対し可能な範
これまで、消費者にとって農畜産物の生産現場で
囲でアドバイスさせていただくものであります。
ある農業・農村は、毎日の
「食」
を通して極めて深い関
係にありながら、疎遠な状況にありました。いまこ
農業・農村の動向
そ、生産の当事者である農家や農村から消費者に国
内農産物の魅力や農村のすばらしさを広く伝え理解
国内農業は戦後の食料不足の時代を経て、開田や
していただくこと、国産品の安心・安全をPRする
開畑による耕地面積の拡大や各種の基盤整備によっ
こと、コスト面を超えて自給率の向上は地球環境に
て効率化や収益性の向上が図られてきました。米を
貢献することなど、国産農産物の魅力を広げるマー
始めとする農産物は、一定の国内自給を確保するま
ケティング、ブランド作りが求められています。
でに成長しましたが、生産環境を取り巻く諸条件
は、規模面や圃場立地面で先進農業国に比べ制約条
農業関係者の課題
件などのハードルが高く、農産物の品質は優れてい
るが、コスト面での国際競争力は極めて低い状況で
北海道は、わが国の食料基地として大きな責任を
食糧の生産が展開されております。
担ってきましたが、これまでの農業は、国の保護下
世界食料の長期需給見通しでは、常に将来の砂漠
の基で生産が展開されてきました。しかし、食料の
化と耕地の塩害や人口の増加などから食料不足が叫
国際化の進展は、農業・農村の生産や振興を大きく
寄 稿
変える事態となっています。農産物は、製品による
ンサルタントであることを“誇り”に、今日まで
価格差が生じる時代となり、地域全体での戦略的な
「積極的な提案を行える創造力を養い、常に誠意
生産展開によって市場価値を高め、地域ブランドを
を持って業務に取り組むこと、信頼していただ
構築することが重要となっています。
ける確実な仕事に努めること」を社是としなが
農業・農村の振興は単に生産物のブランド化に留
ら、おかげさまで創業30周年をむかえました。
まらず、地域の魅力をどのように発信し、更に農産
これからも「人は資源なり」をモットーに、日々
物の魅力に結びつける総合的なマーケティングが必
ますます技術の研鑽に励み、社員一丸となり
「お
要となっています。
客様の期待に応えられるコンサルタントを目指
近年、地域振興に積極的な市町村や法人は、農家
す」
決意を新たにしております。
民宿、体験農業、直売施設での販売、農業者自身に
現在、北海道を中心とした事業を展開してお
よる農産物の加工販売など様々な地域情報の発信に
りますが、将来は、日本各地や世界に向けた活
取り組んでいます。
動を行うことを、当社のビジョンとして持ち続
農業・農村の振興を担う担当者に求められること
けたいと考えております。
は、より効果的な情報を素早く受け取り活用して効
平成18年8月1日
率的な農産物の生産を展開させるとともに、地域の
魅力を発信し、消費者とのコミュニケーションを通
じて地域づくりに貢献することが求められるように
どのような仕組み
なりました。
1.当社の組織
「農業ネットコンサルアルファ」設立への思い
当社の組織は次図に示すとおりで、
「農業ネットコ
ンサルアルファ」は、会長・社長直下の組織であり
「農業ネットコンサルアルファ」
は、第一義的には
『農業・農村相談室』
に置かれ、専任の担当者を配置
これまでの農業関係者のご愛顧に対する感謝の意を
しております。また、各委員会や技師長、各事業部
表すものですが、同時に当社のスタッフが現場や地
門および管理部門が必要に応じて問い合わせに機動
域で起こっているさまざまな諸問題や課題および皆
的に応じる体制を構築しております。
様のご要望等を把握し、当社が使命としている「農
更に、もう一つの特徴は、当社のみの力量ではお
業・農村の発展に貢献する」
ことを目指す思いの一環
答えできないことも想定されることから、あらゆる
として設立した訳であります。その背景は、会社は
質問に向け、
「農業土木に関する事項」
、
「農地土壌に
創業30年での将来ビジョンにおける宣言に基づく心
関する事項」
、
「農業経済に関わる事項」
、
「農作物に
構えがありました。
関わる事項」
、
「専門的な農業各種研究に関わる事項」
において、当社と関わりの深い学識経験者からの協
「農業・農村」
に寄せる熱い思いを
(創業30周年宣言から)
力体制を構築していることです。
なお、当社の事業内容は、三部に分かれており、
21世紀に入り、地球資源の有限性や環境問題
設計・調査・管理・水利・地域の各計画・実施部門
の重要性がクローズアップされる中で、国民の
を有し、外部の学識経験者や技術集団との連携を通
「いのち」の根幹に関わる食料の生産と「うるお
して総合的な農業・農村のコンサルティング事業を
い・やすらぎ」
の場の提供
「国土と環境の保全」
な
展開しています。
どを支える農業・農村の価値が再認識されてき
ました。
2.本方式の特色
私たちは、この大切な農業・農村の活力ある
当社は、ISO2001:2000の構築を契機として
未来を切り開いていくための一翼を担う総合コ
2002年度からICT方式
(情報管理システム:社内
技
術
協
●
17
●
第
80
号
寄 稿
ラン)
による技術情報の蓄積・活用に取り組んでいま
す。現在、全ての社内決済を電子化し、各種の技術
情報の蓄積を進め直ちに必要な外部情報及び社内情
報を活用できる状況となっています。
本方式は、これらの蓄積された情報とスタッフの
技術力および農業関係の学識経験者の協力のもと、
市町村、JA、水土里ネット、関係機関技術者、地
域サークル、農業者などの課題や疑問点に対してア
ドバイスする方式です。
通信の手段は、メールによる相談が主体となりま
すが、相談を希望する方が有している電話,FA
X、などあらゆる通信手段による方法を取り入れて
います。
ご相談費用は、原則無料としております。特別な
現地調査、報告書作成、打ち合わせ、分析、解析等
での費用が必要な場合は、事前に提示させていただ
技
術
協
●
18
●
第
80
号
くことにしておりますので、ご利用者には安心して
利用いただけるものと考えております。
窓口は、E-mail:anca@alpha-giken.co.jp)
電話 011-662-1201 FAX 011-662-1301です。
この取り組みを通して目指すもの
第一の願いは、当社の使命である北海道の農業・
農村の発展に貢献することと考えています。「農業
ネットコンサルアルファ」
は、転換期にある北海道農
業の発展に少しでも役立つ組織でありたいと考え、
間接的ではありますが農業・農村の振興に関わる働
きをされている組織、団体の方々や技術者、農業者
個人に当社が有している技術の範囲でお手伝いした
いと考えております。 第二の願いは、これらの相
談を通して、農業・農村で起こっている様々な取組
みや課題を学ばせていただくことを通してより地域
のニーズを把握し当社の使命とする技術面の充実・
強化を図りたいと願っているものです。
当社は、直接的・間接的にいろいろな方法で農
業・農村の発展に貢献することを願いながらこの事
業に取り組みたいと考えています。
株式会社 アルファ技研
寄 稿
農村景域計画の検討について
川尻 智之
はじめに
整備を効率的かつ効果的に実践していくため、農業
農村整備事業における
「景域計画」
策定の手法や課題
わが国では、農業農村整備事業の実施にあたり、
等に関する検討を行った事例を紹介する。
平成13年度改正の土地改良法
(昭和24年法律第195
号)や平成17年度に閣議決定された新たな食料・農
調査地区の概要
業・農村基本計画において、「環境との調和への配
慮」
をすることが明記され、その取り組みが進められ
調査対象地域は、国営農業用水再編対策事業が実
ているところである。
施されており、平坦部では水田が広がり、これに接
農村地域の環境全体(景域※1)は、地域の自然(土
する台地では畑作や果樹栽培が行われ、道内では珍
地・水・動植物等)
とそこに暮らす人々の営み
(営農
しく明治以前からの発展過程を有し、歴史的文化的
などの土地利用、歴史、文化等)
が相互に関係して形
に形成されてきた貴重な景観が存在している大野平
成されたものであり、農業農村整備事業の実施に当
野地域である。
たって必要とされている「環境との調和への配慮」
大野平野地域における景域計画の調査対象区域
は、このような地域全体を対象とすることが望まし
は、①地理的にまとまりがあり、②地域に住む人々
い。
が視覚的に把握することが可能で、価値がある郷土
しかし、現在の農業農村整備事業での環境配慮の
の景観として意識を共有し、③歴史的に一体性を有
手法や対策は、各事業で景観、生態系、親水等の各
するものとして、平坦部を中心に一望される稜線部
環境要素に対して個別に行われているのが実態であ
をつなぐ範囲に設定した。
る。
そこで、
「環境との調和への配慮」
の取組をより一
層推進するには、農業農村整備事業の実施に際して
策定される環境配慮計画で、事業対象区域における
自然と人々の営みの相互作用によって形成された環
境
(景域)
を維持・保全する地域合意が必要であり、
景観要素である自然や歴史・文化等の特性を総合的
に考慮した計画とすることが必要である。
本文は、このような観点から、地域の環境特性を
▲大野平野地域全景写真
把握し、良好な農村景観の保全と土地改良施設等の
※1 景域とは
「地域における土地
(自然)
と人々の営みによって形成された空間の全体像」
であり、生態系や、外見としての景観
を内包した概念である。良好な景域を維持・保全するためには、その背後にある土地
(自然)
と人々の営みを健全な形で維
持する必要がある。
(竹内和彦
「ランドスケープエコロジー」
からの抜粋
技
術
協
●
19
●
第
80
号
寄 稿
住民に情報発信することを目的に、第一段階とし
て、農業の関係機関である土地改良区の組合員28人
を対象にアンケート調査を実施した。
意識・意向調査結果
アンケート調査では、①住宅が持つ景観特性の把
握、②土地利用における農地が持つ景観特性の把
握、③集落特有の景観の把握、④今後の景観整備へ
の意思が把握できる設問とした。
各項目の調査結果の概要を以下に示す。
1.住宅が持つ景観特性の把握
地域の住宅は、北海道の他の積雪地域と異なり、
幹線道路沿いや市街地に隣接する集落では敷地境界
を生け垣やブロック・石積みで区切る住宅が多く、
技
術
協
●
20
●
第
80
号
低平地の独立した集落では敷地境界に障害物を作ら
ない家が多い。
▲景域区域図
2.土地利用における農地が持つ景観特性の把握
(1)
ほ場区画のイメージ
景観特性を構成する環境要素
農地のほ場は、大部分の集落では整然とまとまっ
ているが、不整形で整然としていない集落は小規模
地域の景観、生態系、歴史・文化等の環境特性に
水田地帯
(4集落)
に見受けられた。
ついての認識を把握するため、北海道景観形成基本
計画
(平成11年3月策定)
や地域の田園環境マスター
(2)
作物イメージ
プラン、先行地区の環境計画をもとに、景観特性を
低平地集落の大部分は水稲であり、水稲の中に転
構成する要素として挙げられている地形や植生、動
作作物である長ネギ、大豆、大根、キャベツ、馬鈴
物や土地利用状況、交通立地や史跡・名勝などの項
薯が見られる。北部の集落は水田作と畑作、酪農経
目について検討を行った。
営が錯綜した地帯であり、水稲のほか人参、大豆、
環境要素の項目のうち、植生や土地利用状況、交
馬鈴薯、ほうれんそう、長ネギ、デントコーン、牧
通立地等については公表されている既存文献等を用
草が栽培されている。西側の台地の集落は水田作と
いた客観的データにより把握を行ったが、このよう
野菜作の混在した地帯で水稲と畑作の大根、人参、
な既存資料により得られたデータからは、地域住民
長ネギ、ほうれん草が栽培されている。
が地域の景観をどのように意識し、理解しているか
を把握することはできない。
(3)
農業用用排水路のイメージ
そのため、地域住民の環境の捉え方、景観に対す
用水路は、土水路で曲線的な集落は4集落、排水
る意識を把握し、将来の地域景観の保全、形成の方
路が土水路
(石積を含む)
で、曲線的な集落は8集落
向性等を検討するための情報の収集、分析を行うこ
であった。
とが必要であった。
用水路、排水路がともに土水路
(石積を含む)
でか
ここでは、大野平野地域の景観特性について地域
つ曲線的である集落は3集落となる。
寄 稿
◆表-1 農業用用排水路のイメージ
アンケート調査からは、用・排水路がともに景観と
落を除き整備されている。
調和していると感じている集落は11集落があり、こ
のうち用・排水路が土水路で曲線が好ましいと感じ
(2)
歴史的建造物、伝統行事の存在
ている集落は1集落のみである。
歴史的建造物や伝統行事は、水田低平地と東側の
表1で見ると環境との調和は素材や線形とはあま
集落に集中している。開拓の歴史からみれば、低平
り関係なく、整然かつ画一的である直線で構成され
地から海岸沿いにかけて開発が先行した結果と推定
る空間も一つの調和として受け止めている。
される。
低平地集落や西側集落及び浜の集落では、市街地
(4)
景観を形成する農業用施設のイメージ
農業用施設で、曲線で構成されるD型倉庫は東部
の外縁的拡大に飲み込まれた集落で伝統行事の意識
が消失しているように見受けられる。
の集落に多く、切り妻の倉庫は中央部から西部、北
部の集落にかけて多い。ハウスは本地域では水稲、
(3)
河川の印象
ネギ、キャベツの育苗、ほうれん草の雨よけ栽培、
河川を人工的と感じている集落は、市街地周辺集落
ビニールトンネルは馬鈴薯や人参、カボチャの早出
と台地を含み流れ落ちる渓流を有する集落で、砂防
用等に用いられ、転作地や畑作地に点在している。
工事や河川改修が実施され、護岸や砂防堰堤、落差
早春から夏にかけて白く非常に目立つ。その分布は
工が施工されている地域の集落である。
集落的にはあまり差がない。
河川が自然的とイメージしているのは4集落のみで
あった。
3.集落の持つ景観特性の把握
(1)
道路のイメージ
4.今後の景観整備への意思の把握
概して道路はいずれの集落も直線的であるが、市
「いまの景観をこのまま存続したい」
と回答した集
街地に近い2集落は集落内、集落間のいずれの道路
落は11集落であった。しかし、
「抜本的改善を図る
も曲線的であり、地形からくるものと考えられる。
べき」
と回答した集落は2集落であり、1つは低平地
低平地の水田集落は集落内、集落間のいずれの道
の中央にある小集落、他方は市街地の拡大に飲み込
路も街路樹がない集落が多い。集落内道路または集
まれた集落であった。
落間道路、あるいは両者に道路脇花壇を有する集落
ただし、ここでは抜本的に改善するべき内容につ
は西側の台地にある8集落である。
いてまでは把握できなかった。
集落内道路の歩道は北部の集落や低平地の集落を
除き、よく整備されている。集落間道路の歩道も6集
技
術
協
●
21
●
第
80
号
寄 稿
課 題
があるが、哺乳類や鳥類、魚類などの生息環境に関
するデータは調査範囲が記されているものの正確な
既存文献による客観的データ及び地元土地改良区
確認位置情報は示されておらず、森林部、農地部な
の組合員を対象とした聞き取り調査を通じ、景域計
どの陸域、河川、農業用排水路などの水域における
画を検討するにあたり課題となる事項を以下に示
詳細な生態系情報が整備されているところは稀であ
す。
る。
本地域の場合も、哺乳類動物に関する情報は少な
1.多くの地域住民の意見を取り入れた
く、また、森林部及び地域の半分については、生態
配慮計画が必要
系情報が確認できなかった。
農村は食料などの生産の場であると同時に、豊か
以上より、既存の資料を有効に活用しながらも、
な自然や伝統・文化が受け継がれてきた大切なふる
景域計画を策定する上では地域全体の生息状況を把
さとであり、この地域の景観を保全していくために
握するための環境調査を行う必要がある。
は、より多くの地域住民の意見を取り入れた配慮対
策を策定する必要がある。
4.地域住民団体等との連携が必要
地域には、積極的な環境保全活動を行っている環
技
術
協
●
22
●
第
80
号
2.景観配慮に係る地域住民の主体的な
境NPO法人があり、円滑な事業推進を図るために
取り組みが必要
は、配慮計画策定時から意見交換を行うなど、地域
農村景観は、長い時間の経過のなかで地域住民の
住民団体との連携も図ることが重要である。
生活を基に歴史や文化が育まれ形成されてきたが、
その維持管理は行政が主体となっており、今後は、
住民の意思を反映させた景観づくりと住民が主体的
あとがき
に参加する維持管理が必要である。
環境配慮の方法が市町村や事業毎に異なるため、
3.景観計画策定は、ある程度の時間が必要
地域全域を統括する環境配慮計画を策定すること
(意見集約・環境調査)
は、地域の環境特性を活かし、良好な農村景観の保
個別施設の景観配慮は比較的検討しやすいが、地
全と土地改良施設等の整備を効率的かつ効果的に実
域住民の多様な価値観をひとつにまとめ上げ、地域
践するためには重要であるとともに、地域住民にい
の景観計画とそれに基づく景観管理を行うために
かに理解し参加して頂きながら計画づくりを進めて
は、地域における合意形成などある程度の調査期間
いくべきか、地域住民が持続的にインセンティブを
を要する。
感じる行動計画をいかに考えられるかが非常に重要
であると思いました。
また、地域の景域計画の策定には、地域に生息す
最後に、このような検討の機会を与えて頂きまし
る動植物のデータが欠かせない。
た函館開発建設部及びご協力して下さいました関係
植生に関するデータは、環境省の生物多様性情報
者の皆様にお礼を申し上げます。
システムで公表され、1kmメッシュによる調査結果
株式会社 地域計画センター
地方だより
歩となり明治19年
(1886)
には1879町歩にも拡が
地方だより
りました。 土地改良区訪問
「祖先の夢を未来につなぐ」
水土里ネット渡島平野 区域図
渡島平野土地改良区
理事長
河村 康英
技
術
協
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23
●
第
80
号
歴史と気候に恵まれて
であり、北洋漁業の本拠地として繁栄しました。道
南の行政・経済・文化の中心であったところでありま
水土里ネット渡島平野
(北斗市本町711番地1、河
す。
村康英理事長)
は昭和38年7月30日、大野、七飯、上
磯、亀田の4土地改良区が合併して誕生した組織で
す。 北海道稲作の始まりの地
渡島平野は道南の渡島半島に位置し、函館市、北
斗市
(大野町と上磯町がH18合併)
、七飯町の2市1町
渡島平野には松前藩が統治していた元禄5 年
を区域としています。南に函館湾、東から北にかけ
(1692)
に北海道で初めて稲作が行われた記録が残さ
てに横津岳、裾野を国道五号線が縦貫し、西は大野
れています。 これを記念した
「北海道水田発祥の地」
川を境としている。地形は北の山手から函館湾に向
の碑が昭和24年
(1949)
に北海道庁によって北斗市
かって扇状地形をなしており泥炭質土が堆積してい
(旧大野町)
文月に建立されています。
る。気候は北海道の西南端に位置することから比較
幕府は蝦夷地を治めるためには食料の確保が必要な
的温暖で夏の気温は道央に比べて平均1∼2度低く、
ことから、文化2年
(1805)
に越後などの農民を集め
日照時間も少ない。
現在の北斗市
(旧大野町)
に140町歩の開田を行いま
国道5号線を大沼から隋道を抜け峠を下ると眼下に
した。その後、幕府から松前藩に変わりますが、冷
渡島平野が広がり、南端には巴港
(函館湾)
と臥牛山
害や藩の財政悪化により開田された水田の多くは荒
(函館山)
が遠望できます。函館は古くから拓け江戸
廃するが、稲作は農民の手によって細々と続けられ
時代は北前船の寄港地として、また北海道の玄関口
て、開拓史が設置された明治2年(1869)には332町
地方だより
には採択されました。
調査は昭和26年にスタートし、担当は発足したば
かりの函館開発建設部開墾建設課の初仕事でありま
した。
当時は今のような技術もなく広い平野を自転車で走
り回るなど苦労が多く、満足のいくものではありませ
んでした。調査が進むにつれ農民から苦情が寄せられ
るようになり、それは日毎に激しくなりました。昭和
27年
(1952)
に申請書が提出され翌28年
(1953)
には
事業推進母体となる「大野平野開発促進期成会」が発足
しました。その年から農民より寄せられた苦情に応え
▲北海道水田発祥の地の碑―北斗市
渡島平野の農民の夢
『国営大野かんぱい事業』
るため渡島平野の各所で集会がもたれ、場所によって
は論議が紛糾し怒号が飛び交い、流血騒ぎにまで発展
しました。問題解決のため北海道開発局をはじめ農林
省、北海道、地元関係機関を巻き込んで地元説得にあ
たりました。反対派との交渉は一進一退を繰り返して
技
術
協
●
24
●
第
80
号
稲作の始まった頃は平野の中に噴き出る湧水を利
いたが、昭和35年
(1960)
頃になると誠意ある対応が
用していましたが、文化2年
(1805)
の大開田になる
功を奏し、問題は残ったが事業開始の目処が立ったの
と大野川を堰き止め農業用水として利用していた
です。
が、開田が進むにつれ深刻な水不足に陥りました。
昭和36年12月8日
(1961)
着工式を迎え、翌37年
明治25年(1892)、あらゆる水源を使い果たし、最
(1962)
には大沼からの取水施設を手がけ昭和40年2
後に考えられたのは大沼の水を導水する
「大沼疎水計
月11日
(1965)
には発電所の運転を開始し、渡島平
画」
でありました。たまたま港湾の仕事で来函してい
野に大沼の水が流れたのです。昭和53年(1978)
の
た北海道庁の
「広井 勇」
技師に概算工事費の算出を
完了までに頭首工4ヶ所、揚水機3ヶ所、用水路6条
依頼しました。
31,614m、排水路3条14,738mの基幹水利施設が完
概算工事費は31,895円となり、その当時補助金を
成しました。
見込んでもあまりにも高額な事業であるため計画倒
れとなりました。その10年後の明治25年(1902)亀
田、七飯、大野、上磯の4村の村議会から5名ずつに
よる
「大沼疎水組合」
が結成されたが、労働力や負担
金の問題などで4ヶ村の折り合いがつかず解散となり
ました。
その後も大野一村で決行しようと試みたが当時大
沼の水利権をもっていた渡島水電株式会社と折合が
つきませんでした。それでも大沼から導水する考え
は捨てきれず渡島の農民の夢としてくすぶり続けて
いました。
これらの農民の夢が報われる時代が来たのは、戦
後でありました。
昭和25年
(1950)
国土開発法が成立すると同時に
「国営大野かんぱい事業」の陳述書が提出され、翌年
▲完成した基幹水利施設
地方だより
平成18年度
(2006)
から事業実施となり今年で3年目
を迎えております。この事業も農家の経済状況が悪
いなかで行うため組合員と協議を重ね、工事完了
後、借り入れせずに償還することで合意しておりま
す。
▲整備された渡島平野の水田
事業の始まりは戦後、経済復興のための食糧増産
が目的でありました。
又、農地開発によって零細かつ均質な自作農のも
とで生産力を高めていくためには土地改良事業の推
進が効果的であることから昭和35年を境に農業基盤
整備事業に新たな投資が増加しました。渡島平野で
▲国営大野平野地区による施設改修工事
も昭和39年
(1964)
から北海道でも始めての圃場整
備事業が平野の南部で始まりました。
農業用水の多面的機能の推進
先祖の夢が世紀を超えて実現し、渡島平野の農業
を飛躍的に発展させました。
渡島平野も高度成長期の他産業の発展により農村
の混住化が進んだことから施設管理の高度化が求め
られ、それに対応する施設も求められるようになり
更新時期を迎えた基幹水利施設
ました。水路周辺が市街化されたことにより安全施
設の整備、環境への配慮、洪水の受入れ、防火用水
期待どおり大沼の水は温かく収量は伸び農家の経
等今まで農業用水としての機能のみではなく地域用
営も安定しましたが、昭和45年頃になると高度成長
水機能の増進を図り、併せて、施設の維持管理を地
期を迎え、今までの農業施策が一転し、米の余剰や
域ぐるみで行い、将来に亘り土地改良施設が良好に
対外貿易による国内の米の過剰傾向にたいして、米
の減産と水稲からの作物転換を推進することに重点
を置き減反政策に入りました。農民は生産性を高め
るために稲以外の作物に転換することが出来る汎用
性のある基盤づくりに努力しました。
国営大野かんぱい事業で造成された施設も築造後
40年以上経過し老朽化が進み、漏水、不同沈下等で
の溢水が多くなり、配水不能と施設の補修など維持
管理費が年々増加することから
「大野平野地区 国営
農業用水再編対策事業
(地域用水機能増進型)
」
による
施設改修を計画し、平成13年
(2001)
から平成16年
(2004)
まで調査、平成17年
(2005)
全体実施計画、
▲田んぼの生きもの教室
技
術
協
●
25
●
第
80
号
地方だより
維持できるようにするため、「地域用水対策協議会」
を設置し、広報活動や地域交流の一環としてワーク
■水土里ネット渡島平野の概要
ショップに取り組んでいます。
[地区面積] 2,708ha
又、「渡島平野地区推進協議会」では農業用水の持
[組 合 員] 1,347名
つ多面的効果を一般住民に認識してもらうため農業
[主要施設]
水利施設見学会
(年4∼5回実施)
、函館開発建設部が
◆主要水源
行う小学生を対象とした
“田んぼの生き物教室”
への
国定公園 大沼湖
協賛など、積極的な啓蒙活動に取り組んでおりま
二級河川 大野川
す。その活動が参加者から口コミで拡がり消費者団
◆共同施設
体が行う
“体験ツアー”
のコースに入るなど啓蒙の輪
姫川切替工 L=7,864m
が広がっていま
大沼浚渫工 L=1,490m
※北海道電力や大沼合同遊船等から協賛の申し出が
導水路工 L=4,017m
あり協力をいただいています。
久根別川改修工 L=3,667m
◆頭首工
大野川頭首工
新しい時代に更なる飛躍
技
術
協
●
26
●
第
80
号
七飯頭首工
追分頭首工
「国営大野かんぱい事業」により大沼からの導水が
◆揚水機
実現し、渡島平野の農業は大きく変わり、当初の目
稲里揚水機
的であった食糧増産が可能となりました。
七飯揚水機
収量が増えたことにより飢えが満たされ、生活が
追分揚水機
安定することによって余裕が生まれ、次には
「うまい
ものが食べたい」
ことから誕生した
“ふっくりんこ”
は
道南の銘柄米としての地位を確固たるものにしまし
た。
近年は食べ物の栄養についての正しい知識、安全
な食品の選び方、生産される過程、伝統的な食文化
の伝承など
「食育」
が重要な課題となっております。
食べることは生きることの基本、食べるものを作る
ことは
『命』
を支えること、農業はそれを担っていま
す。
祖先が築き上げた農業資産を守り、それをまた後世
に伝えなければならない。と決意を新たにしている
ところです。
第22回 「豊かな農村づくり」
写真展
北の農村フォトコンテスト
(社)
北海道土地改良設計技術協会
第22回
「豊かな農村づくり」
写真展―北の農村フォトコンテスト―の応募
は、道内はもとより道外からも多くの作品が寄せられ、総数233点にもな
りました。
各賞の審査は、平成20年5月15日に審査委員会を開催し、審査委員各位
の厳選なる審査の結果、入賞作品は次頁のとおりに決まりました。
●審査委員名
梅田 安治
(北海道大学名誉教授・農村空間研究所所長)
(敬称略)
清水 武雄
(写真家)
中井 和子
(景観デザイナー)
森 久美子
(作家・
「北の食物研究所」
パーソナリティー)
高峰 彰
(北海道開発局農業水産部長)
堀井 健次
((社)
北海道土地改良設計技術協会会長理事)
明田川洪志
((社)
北海道土地改良設計技術協会広報部会長)
札幌駅コンコース写真展
「北の農村フォトコンテスト」
写真展
は第22回目を迎え、平成20年8月28
日
(木)
から8月30日
(土)
の3日間、J
R札幌駅西口・北出口コンコースにて
開催され、応募作品全233点を一挙公
開しました。
会場には多数の来場者が訪れ、用意
した新作のポストカード1,500組が品
切れになる程の盛況で、大好評でし
た。
写真展会場での説明、ポストカード配
布など、多大なご協力を頂きました皆
さんに深く感謝の意を表するととも
に、大成功のうちに開催できましたこ
とを報告致します。
技
術
協
●
27
●
第
80
号
【第22回 入賞作品一覧】
(敬称略)
金
賞 「さあ!暖かくしてあげる」
(苫前町)―――――――― 山 崎 永 尋
「春の丘」
(富良野市)―――――――――――――― 浜 崎 多 佳 子
「収穫の時」
(安平町)―――――――――――――― 澤 田 孝 夫
銀 賞 「牧草ロールの丘」
(上富良野町)―――――――――― 長 瀬 芳 伸
「雨の日の田んぼ」
(長沼町)
―――――――――――― 星 野 則 子
「夏、過ぎて」
(美瑛町)―――――――――――――― 坂 根 蘭 子
銅
技
術
協
●
28
●
第
80
号
賞 「ラベンダーの刈り取り」
(富良野)
――――――――― 田 中 康 夫
「始まりの季節」
(美瑛町)
――――――――――――― 相 馬 守
「丘の上の小屋」
(美瑛町)
――――――――――――― 林 洲 一
協 会 賞 「羊蹄山麓の夏」
(真狩村)
――――――――――――― 福 森 美 悠 紀
「春を待つ上川百万石」
(上川町)
―――――――――― 鳴 海 昌 義
「朝靄流れる牧場」
(幕別町)
―――――――――――― 加 藤 修 治
圃場景観賞 「どこまでも続く蕎麦の花」
(幌加内町)――――――― 林 大 作
佳 作 「天高く」
(大空町)
―――――――――――――――― 末 廣 ひ か り
「春霞の大地」
(清里町)
―――――――――――――― 浜 崎 和 樹
「晩秋の新緑」
(芽室町)
―――――――――――――― 高 田 悦 也
「春 耕」
(小清水町)――――――――――――――― 松 井 英 一
「豊作の予感」
(上湧別町)――――――――――――― 鈴 木 徹
「雪化粧」
(幕別町)
―――――――――――――――― 佐 藤 敏 郎
第23回 北の農村フォトコンテスト
作品募集中!
応募要領はポスター、チラシを参照してください。
または、
(社)
北海道土地改良設計技術協会のホームページ
にも掲載しています。
■ホームページアドレス
http://www.aeca.or.jp
「さあ!暖かくしてあげる」
【苫前町にて撮影】
山崎 永尋
「春の丘」
【富良野市にて撮影】
浜崎多佳子
「収穫の時」
【安平町にて撮影】
澤田 孝夫
技
術
協
●
29
●
第
80
号
「牧草ロールの丘」
【上富良野町にて撮影】
長瀬 芳伸
技
術
協
●
30
●
第
80
号
「雨の日の田んぼ」
【長沼町にて撮影】
星野 則子 「夏、過ぎて」
【美瑛町にて撮影】
坂根 蘭子 「ラベンダーの刈り取り」
【富良野にて撮影】
田中 康夫
「始まりの季節」
【美瑛町にて撮影】
相馬 守 「丘の上の小屋」
【美瑛町にて撮影】
林 洲一
技
術
協
●
31
●
第
80
号
協会賞
「羊蹄山麓の夏」
【真狩村にて撮影】
福森美悠紀
「春を待つ上川百万石」
【上川町にて撮影】
鳴海 昌義
技
術
協
●
32
●
第
80
号
「朝靄流れる牧場」
【幕別町にて撮影】
加藤 修治
圃場
景観賞
「どこまでも続く蕎麦の花」
【幌加内町にて撮影】
林 大作
佳 作
「天高く」
「春霞の大地」
【大空町にて撮影】
【清里町にて撮影】
末廣ひかり
浜崎 和樹
技
術
協
●
33
●
第
80
号
「晩秋の新緑」
【芽室町にて撮影】
「春 耕」
高田 悦也
【小清水町にて撮影】
松井 英一
「豊作の予感」
「雪化粧」
【上湧別町にて撮影】
【幕別町にて撮影】
鈴木 徹
佐藤 敏郎
技
術
協
●
34
●
第
80
号
技
術
協
●
35
●
第
80
号
技
術
協
●
36
●
第
80
号
技
術
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●
37
●
第
80
号
技
術
協
●
38
●
第
80
号
この人に聞く
こ
の
人
に
INTERVIEW
聞
く
わがまちづくりと農業
空知管内 妹背牛町
妹背牛町長
加藤 榮一
妹背牛町は、空知支庁管内の北部に位置し、
南は石狩川、西に雨竜川、北に大鳳川が流れる空知で
は唯一山の無い平坦な町です。道内有数の高品質米生産
地帯として知られ、市街地を一歩出ると畦畔にハーブが植栽
された美しい水田が広がっています。
このような、豊かな自然に溢れ、ハーブが薫る妹背牛町の加藤榮一町長
に、農業とまちづくりについてお話をいただきました。
【妹背牛町の開発の歴史】
水害対策の歴史が開拓の歴史
置している泥炭地帯の順に開拓されていきました。
当時、鬱蒼たる原始林に覆われ、それこそ熊が生
息していたと聞いております。石狩川等の原始河川
妹背牛町の町名は、アイヌ語のモセウシ
(mose-u-
は頻繁にその流れを変化させ、北部の泥炭地帯で
si)
、
「いらくさの生い茂るところ」
から町の名前が出
は、一度野火が起こると、一ヶ月ぐらい泥炭が燃え
来ています。難読町名で、
「もせうし」
と言う名前を
燻っているという様な場所であったようです。
まともに読んでくれる人がいなかったのですが、妹
このような土地へ入植された先人達の苦労は想像
背牛商業高校の女子バレー部が昭和53年に全国制覇
を絶するものがあった事と思いますが、餓えをしの
を達成して以来、全国大会の常連校になりましたの
ぎ、汗と血を流し、ひたすら理想郷を目指してがん
で、名前を覚えて頂けるようになったのではと思っ
ばってくれたのではないかと思います。こうした先
ています。しかし、残念なことに、同校は来年の春
人達のご苦労を後世に語り継ぐために、妹背牛郷土
に閉校することになりました。
館では、開拓期からの貴重な資料を保存・展示して
妹背牛町は、南の音江連山と北の沼田方面の山々
います。
との狭間に位置する平坦な土地で、まちの南側を流
れる石狩川がかつて原始河川だった頃には、大雨の
洪水の度に流れが北にいったり、南にいったりと、
その流れが移動する場所でした。その影響で、土壌
的な特徴としては、泥炭土と砂利が広がっているほ
か、石狩川の支流の雨竜川との合流点付近は粘土地
帯となっているなど、大きく分けてこれらが1/3ぐら
いずつ分布する土壌的特徴がある場所です。
開拓の歴史としては、一番最初に石狩川の川縁から開
拓が行われ、その後、雨竜川の粘土地帯、北部区域に位
▲妹背牛郷土館
技
術
協
●
39
●
第
80
号
この人に聞く
技
術
協
●
40
●
第
80
号
このような土地を農地として利用するために、古く
済的には農家は苦労しております。なぜなら、米価の
から客土を中心にした土地改良が繰り返し行なわれて
低迷が直接経営に影響を及ぼすためなのですが、例え
きましたが、近代的な農業の基盤が確立されたのは、
ば、平成5年頃の米価は、当時の自主流通米でだいた
昭和30年代の後半、北海道が行ったほ場整備事業で
い22,000∼23,000円/俵ぐらいの価格を付けていま
す。妹背牛町では先陣をきってこの事業に取り組みま
したが、現在は、11,000∼12,000円/俵ぐらいにま
したが、当時の山下町長の農地の一区画をお借りし
で低下してしまい、半値になっています。
て、試験を行ったことから始まっています。町内では
水稲の生産面での特徴としては、近年、食の安
30年代後半から40年代へと順次ほ場整備を進め、北
全・安心の意識の高まりから、生産者へは、これま
部の泥炭地域の整備が終わる50年代の半ばまで、全
で以上に安全・安心な農産物の生産が求められてお
町に渡ってほ場整備を行いました。同時期に、国営か
ります。こうした事から、農薬や化学肥料の使用を
んがい排水事業北空知地区の整備も進められ、農業用
極力押さえて生産していて、米については北海道が
水も安定して確保することが出来ました。
定める成分量との比較では、基準の半分程度の成分
また、妹背牛町は、北空知の中でも鍋底のような所
量で生産しております。妹背牛米は、クリーン米と
で、海抜38m∼41mぐらいとほとんど高低差があり
いうことで非常に評判が良く、生産した年のうちに
ません。さらに、町の周囲は石狩川、雨竜川、大鳳川
販売先が全て決まってしまい、翌年には一粒も残っ
の3河川が流れており、大雨が降るたびに大きな洪水
ていないという状況です。品質面では抜群に良いと
に見舞われるような場所でしたから、水害対策が妹背
いうことで高い評価を得ていますが、価格の面で
牛の開拓の歴史そのものであったと思っています。
は、北海道米という括りの中で、他の町村とそれほ
こうした水害を解消するために、大きく3つの排水
ど差が付かない状況になっています。それだけに、
対策事業が行われました。最初に農用地整備公団に
現在では、同じ空知の水田地帯の中でも転作率の比
よる大鳳川の内水処理対策が行われ、その後、雨竜
較的高い南部の方が所得が高いということで、妹背
川の捷水路整備事業と大鳳川の床上浸水緊急特別対
牛町の農業者は苦戦しています。しかし、妹背牛町
策事業の二つを同時進行で行いました。どのような
は、米の町、米で発展してきた町ということで、今
事業かといいますと、大鳳川と雨竜川の合流点
後とも米を主力にして、販売戦略、生産戦略を立て
4.2kmをなくしてしまい、それぞれ、雨竜川と大鳳
ていきたいと考えています。
川それぞれを単独で石狩川に繋げるという内容で、
この事業の結果、河川の水位を2.19m下げることに
成功しました。
このように内水排除事業と床上浸水緊急対策事
業、捷水路事業等により、この地域での水害が解消
され、生活空間や産業空間として安全で安心できる
地域として生まれ変わったというのが、これまでの
▲ライスターミナル
▲妹背牛米
(北彩香)
開拓の歴史と言えます。
畦畔へのアップルミントの植栽
【わが町の農業の現状と特色】
ハーブの薫る妹背牛町農業を目指して
米の生産については、減農薬、化学肥料を極力抑
えるということでがんばっていますが、品質面での
妹背牛町の農業は、稲作が中心となりますが、水田
取組みとしては、タンパク含量について目標を6.8%
農業では、全道的にもトップクラスに位置づけされる
以下にする努力をJAが先頭に立って取り組んでい
高品質米生産地帯となっています。従って、転作率も
ます。同時に減農薬栽培については、黒色米、秋ウ
北海道一少ない状況にあるのですが、このために、経
ンカの被害を抑えるために、水田の畦畔とか農道、
この人に聞く
町道、道道の路肩といったところに、ハーブ
(アップ
もう一つ地下かんがいシステムに期待している点
ルミント)
の植栽を進めています。
は、転作作物を作った翌年に水稲を作付けする還元
アップルミントは草勢が強くて、1m間隔で定植す
田として利用する場合は、化学肥料の投入量が通常
ると3∼4年程度で、他の雑草を抑えて畦畔全体が
の40%ぐらいで済ませられることです。大体3年ぐ
アップルミント一色になります。これまでにブラッ
らい作付けするとトータルで1年分ぐらいの肥料代
クペパーミント等、違うハーブについてもいろいろ
の軽減ができると見込んでいます。さらに、化学肥
と試してみましたが、草勢が強く効果の高いハーブ
料の投入量を減らせるということは、それだけ環境
はアップルミントだけでした。また、アップルミン
への負荷を減らすことができるとも言えます。最
トが畦畔への植栽に有効だったのは、水を嫌う点で
近、農村地帯では、化学肥料の多量投入による地下
す。水を張る水田の中に入りませんので、水田の畦
水汚染や排水汚染など、環境負荷が課題とされてい
畔へ植栽するには最適だったと言えます。一度に全
ますが、還元田利用による除草剤、化学肥料の投入
町への植栽は難しいですから、毎年少しずつ植栽を
量が減らせれば、自ずと環境負荷も減らせます。
拡大していき、将来的には妹背牛町の全域にまで
もちろん、最近の農業資材価格の高騰に対して
ハーブの植栽を広げていき、ハーブの風薫る町とす
も、投入量の節減により、経営費に対する効果もか
ることを将来の目標としているところです。
なりのものとなります。
それと、温暖化現象で去年あたりは、雨竜川水系
【土地改良事業の評価と今後の農業】
地下かんがいシステムで水資源の
有効活用に期待
では節水をやっていました。今年は3月、4月の雪解
けで、山の雪が一気に解けて流れ出してしまいまし
た。今年は、6月頃に雨が多かったのですが、去年は
それがなかったので、大豆などが播種してからもの
妹背牛町では、古くから数多くの土地改良事業を
すごい差がつきました。でも、今度地下かんがいに
行ってきました。道営のほ場整備事業は道内の先駆
なればこういう事は無いのかと思います。こういう
けとなったわけですが、これから、妹背牛町の農業
点では、水田の干ばつも緩和できるし、畑の干ばつ
が目指す方向は、担い手が減少していく事が予測さ
も緩和できるということで、地下かんがいは大きな
れる中で、限られた農業経営者による効率的な農業
効果が出ると思います。
経営をやっていかなくてはいけないということで、
農地再編整備事業
「妹背牛地区」
による基盤整備には
担い手の負担軽減を図るために
期待しています。
農地再編整備事業では、水田区画の大区画化と同
担い手農業者については、既に兆候が現れていま
時に地下かんがいシステムの整備が計画されていま
すが、将来の担い手確保が大きな課題として残され
す。近年、地球温暖化現象の影響などで、水が非常
ています。農業者が減少し、高齢化も進むなど、担
に貴重な資源となり、将来的には確保が難しくなる
い手の確保は非常に厳しい状況にあります。こうし
のではないかと考えています。こうした状況によ
たことから、限られた担い手による効率的な営農を
り、今後、限られた水資源をいかに有効に活用して
目指し、効率の良い機械体系の確立、効率の良い労
いくかと言うことを考えると、確保することだけで
働配分が出来るように、町内全域で基盤整備を進め
はなく、確保した水資源を無駄なく有効に活用する
ているところです。現在、北部と南部の区域ではパ
ということも重要であると考えています。さらに、
ワーアップ事業による道営経営体育成事業で、中部
農地の水をどうコントロールするかと言うことも、
地域は今回の国営農地再編整備でそれぞれ効率の良
作物に与える影響に非常に大きなものがあると思い
い水田経営が出来るように整備を行っています。向
ますので、かんがいと暗渠排水も兼ねたこのシステ
こう10年で全て基盤が整う事になると思います。お
ムに期待しているところです。
そらく、町内の農地全面積が大区画になるというの
技
術
協
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第
80
号
この人に聞く
は、日本でも珍しい地域になると思いますが、日本
されていますが、この施設は、オープン以来延べ
一基盤の整った水田地域として生まれ変わることに
370万人、年間24万人に利用して頂いています。
期待しております。
また、温泉に隣接する区域にカーリングホールを
また、担い手が不足する事が予測される中で、排
新たに整備しました。冬期オリンピックで注目を集
水路や用水路、農道の管理等、農業者だけでは維持
める競技になっていますが、実際にオリンピック選
管理作業が難しくなると考えられることから、「農
手も合宿に来ていますし、全日本選手権大会、全道
地・水・環境保全向上対策」
の取り組みとして一部の
選手権大会のような大きな大会も開催しています。
排水路等での草刈りを行っているほか、現在行って
こういった、交流の機会も町外への情報発信の場と
いる農地再編整備事業の中では、将来の担い手不足
して期待しています。
により、農業水利施設の維持管理の負担が大きくな
ることを想定し、排水路や用水路についてパイプラ
イン化による整備を進める計画になっています。
今までは、農業、食料生産は、胃袋を満たすだけ
の産業というように一般的には位置づけられていた
と思いますが、これからは違うと思います。もちろ
ん今までと同じように、胃袋を満たす産業に変わり
技
術
協
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第
80
号
はありませんが、これからの農業、農村は安全・安
心な食料を提供していくという役割を担い、消費者
の心の面も十分満たしていく事が求められているの
▲カーリングホール
ではないかと思います。このような生産空間の創造
この他、パークゴルフ場や遊水公園なども町外か
が、新しい農業農村の果たす使命だと感じます。
ら訪れる方や町内のお年寄りにも好評で、自己の健
康管理に喜んで使って頂いており、健康維持やス
【まちづくりについて】
ポーツ交流の場として大いに活用していきたいと考
えております。
妹背牛町は農業が基盤の町になります。現在、農
妹背牛町は、札幌圏からはJRで1時間圏内に位
業基盤整備を進め、新たな農業に取り組んでいると
置しており、町内の診療所のドクターも札幌から通
ころです。これからのまちづくりの条件として、こ
勤しており、十分に通勤圏と言って良いと思いま
のような取り組みについて、きちんと情報発信をし
す。国や道の出先機関もいろいろありますが、月曜
ていかなくてはならないと思っています。
日に来て金曜日に帰るということで、大体、札幌に
妹背牛町からは、平成5年1月16日にオープンした
半分、妹背牛に半分という状況になっております。
保養施設
「妹背牛温泉ペペル」
が、町内からの情報発信
リタイア後に定住してゆっくりのんびりしたいと
基地としての役割を担うことになります。現在、町外
言う人がいれば、定住化促進事業を活用して妹背牛
からもたくさんの方に来て頂いて交流の場として利用
町に住んで見るのも良いのではないでしょうか。住
宅建築用の土地は、坪5千円の安価な価格帯で提供し
ておりまして、現在数戸が入居しています。だいた
い、土地込み1,200万円程度の価格帯で最初のモデ
ルハウスを建築していますが、定住してみようとい
う方は、それぞれの好みがあるでしょうから、建物
は自分の好みのハウスメーカーに頼んで建築するの
も良いのではないでしょうか。
▲妹背牛温泉
「ペペル」
今後のまちづくりは、少子高齢化社会が今後も進ん
この人に聞く
でいくであろうと言うことで、担い手の育成に力を入
今後、アップルミントが町内全域で生産されるこ
れていきたいと思っていますし、同時に人口減の歯止
とになったときには、アップルミントを使っていろ
めに定住化促進に力を入れていこうと思っています。
いろなことが可能になると期待しています。例え
それから、今年7月に洞爺湖サミットがありまし
ば、刈り取った後、緑色が失わない状態で乾燥して
た。主な議題として取り上げられたのが環境問題、
固形化してまくらに使うとか、消臭剤等ですが、こ
エネルギー問題、食糧問題でしたが、エネルギー問
れから研究し、開発できたら商品化も可能じゃない
題につきましては、地方でも、農村でもこれから担
かと思います。新しい産業として何か可能性を秘め
わなければならない部分があるのではと思っていま
ていると思います。
す。現在検討段階ですが、稲わら等の農産物の副産
物として発生する物を有効に利用するなど、エネル
水田地帯の景観の向上をめざして
ギー問題についても、取り組める事があれば取り組
んでいきたいと考えております。
日頃から感じていることですが、全体的に水田地
また、全体的なまちづくりとして、現在、農地再
帯の農村景観はあまり良くないイメージがありま
編事業を進めておりますけど、その中で特徴のある
す。同じ農村景観でも、酪農地帯や畑作地帯と比べ
地域作りと言うことで自然体験ゾーンを創設してい
ると、水田地帯はいまいちの感があります。
こうと考えています。ビオトープの造成、緑地帯の
何故かというと、昭和39年の洞爺丸台風の時に、
造成等、これまで地域全体で失われてきた物を少し
家のまわりの屋敷林などが次々と倒れてしまったこ
でも取り戻していきたいと考えており、町のイメー
とと、昭和30年代から始まった道営ほ場整備事業の
ジアップを目指した地域作りを進めています。
頃は、食料増産が叫ばれる中で、農地は貴重だと言
うことで、屋敷林を伐採して農地にしてしまったと
アップルミントを活かしたまちづくり
ころ、水田地帯には木がほとんど無くなってしまっ
たのです。こうした事が水田地帯に対するイメージ
畦畔等へアップルミントの植栽など、ハーブでま
を悪くする要因になってしまったと感じているの
ちづくりを進めていますが、現在、アップルミント
で、今後は水田が少し減ったとしても、その分を緑
を使った焼酎を商品化しています。商品開発当時、
地帯として整備し、水田地帯の景観の向上を図って
白糠町で作って話題になっていた「」というシソを
いきたいと思っています。もちろん、農家の人達の
使った焼酎があったため、うちはアップルミントを
理解を得ないと出来ないことですが、畑作酪農地帯
使ったら良いのではということで試作したところ、
に負けない水田地帯特有の景観作りに期待して下さ
意外と飲みやすくて、香りもさわやかなものができ
い。
ました。ただ、これを大量に流通させることは難し
いものですから、今は道内の一部と町内の店舗販売
と役場でPR用にということで販売しています。
加藤妹背牛町長には、お忙しいところ、まちづく
りについて語っていただきありがとうございまし
た。妹背牛町の益々のご繁栄を祈念いたします。
[取材:広報部 夏伐・宮本]
▲焼酎
(葉舞な里から)
技
術
協
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第
80
号
交流広場
もったいないケニアの話
立石 喜裕
には充分だが、隣人が集まりヤギやニワトリなどを
大量に料理したりした時は骨、野菜の切れ端で一杯
になる。しかし、1週間もすると菌や小動物が処理
してくれ跡形も無くなるのだ。考えてみると、ケニ
技
術
協
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44
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第
80
号
ケニアのワンガリ・マータイさんが先日、来道し
アのゴミは生ゴミばかりで、ビニールや紙くずすら
た。7月に開催される地球環境問題を大きなテーマと
もゼロだった。たまに青空マーケットで肉の塊を
して扱う洞爺湖サミットに花を添えた活動の一環であ
買った時に包まれる古新聞があったが、料理の火の
る。彼女が30年も前から地元ケニアで行なっている
焚きつけとして使うので捨てることはない。しか
植樹等を中心とした一連の環境活動が認められ、ノー
も、火をおこす最小限に節約して使う。私も野外生
ベル平和賞を受賞し注目を浴びた。その後、日本を何
活を長くしていたので火おこしは得意なものだった
度も訪れる中、
「もったいない」
という日本語とその裏
が、ケニア人に
「セーブ・エナジー!」
といつも指導
にある日本人の美徳について聞き知って大変感激し、
された。おかげさまで私も帰る頃には新聞紙1枚あ
それを国連演説で訴え世界中に広めてくれた。
れば着火出来るようになった。現地ではそれが子供
私は彼女の母国、ケニアで1984∼1986年にかけて
でもこなす平均レベルなのだ。
暮らした。会社を休職し、青年海外協力隊の農業土木
技術者としてケニアに日本の技術を伝えることが使命
★快楽を独占するのはモッタイナイ
であったはずなのだが、逆に学ぶことばかりの3年
品数は少ないがケニアの田舎の雑貨屋でもガム、
だった。全く、いろんな意味でモッタイナイ日々。
キャンディーをバラ売りしている。1個2∼3円で
もったいぶってこの場でその一端をお伝えしたい。
あるが、なにせ一人当り平均賃金が日本の1/500で
ある。子供達は滅多に口に出来ない。彼らはこの禁
★タバコの火もセーブ・エナジー
断のお菓子を、憧れを込めて
「スウィート」
と呼ぶ。
ケニアに行く前、現地で喜ばれるお土産の第1位
よく私と遊んで、いや、現地語を教えてくれた近所
は
「使い捨てライター」
だと聞き、大量に持参した。
の子供にキャンディーを1個あげると彼はその場で
しかし彼らの辞書には「使い捨て」という言葉は無
食べず、あとから奥歯で割り兄弟と分け合って食べ
い。現に、使い切ったガスやすり減った石を取換え
るのだ。一人占めする子供を見たことが無い。彼ら
トコトンまで使い切る。また、タバコは箱で買わず1
は言う
「美味しいものを一人で味わうのはモッタイナ
本ずつ買うのが普通である。そして、ライターや
イ」
。何と言う慈悲深さ!これぞ、真の人間の姿。生
マッチを持っていてもめったに使わない。必ず誰か
きる希望が湧いてくる。
吸っている人に近づき、種火を
「セーブ・エナジー」
と言って分け合うのだ。エクスキューズミーは無
★農地で食料を作るのはモッタイナイか?
い。近くに火種があるのに自分だけマッチをするな
私がケニアに到着したのは1984年4月、2年前か
んてモッタイナイのである。
ら続く干ばつで飢餓難民が溢れていた時期である。
国連の非常事態宣言を受け、各国から大量の食糧援
★ゴミもセーブ・エナジー
助が寄せられた。アフリカ救済キャンペーンソング
現地で私に与えられた住宅の裏に、隣人がゴミ捨
のウイー・アー・ザ・ワールドが流行ったのもこの
て用の穴を掘ってくれた。彼らは
「お前の2年分には
頃である。確かに緑は少なかった。乾き切って土ぼ
充分だ」
と言って用意してくれたものだ。一人暮らし
こりの道を首都のナイロビから任地に向う車の中か
交流広場
ら見た光景が忘れられない。札幌の街並みと見た目
学を諦めざるを得ないのが実態だ。かくして識字率
そん色の無い中心街をあっと言う間に過ぎ、周辺の
の低下→技術力・生産性上がらず→更に貧しく、と
スラム街に溢れる飢えた人々の波、そこを抜けると
いう貧困の悪循環から抜け出る術が無い。昨今の原
周囲をフェンスで仕切られた広大な野生動物保護
油値上げで輸送コストが上がると、真っ先にカット
区、やがて、見渡す限りの緑の農地。周辺が乾いて
されるのは原料費であり、さらにケニアでの賃金が
一面茶褐色の中、豊かな緑が広がっているではない
低くなる。このマネーゲームのルールは弱者が更に
か!聞くと、ここはイギリス企業が経営するタバコ
弱くなるよう出来ている。
農園。緑溢れるのは会社が独自で地下水を水源とす
るかんがいを行なっているから。この後も、任地へ
★モッタイナイを忘れない
向かう約300kmの道程で同じような農園を幾つも目
人間は与えられた環境にたちまち慣れる動物であ
にする。何れも外資系企業が経営するコーヒー、
ることをたくましく、また哀しく感じる。私がケニ
茶、サイザルなど、食料ではなくいわゆる換金作物
アの電気や水道のない生活を、はじめは不便と感じ
の農園である。なぜ!?食料不足で飢えた人々が溢
ていたのに、いつの間にかむしろ快適に感じるよう
れている中、ケニア人の狭いトウモロコシ畑は乾き
になったこと。日本に戻って、時間の流れる速さに
きり草も生えていない横で、食料ではなく金のなる
ついていけないギャップを感じ、食べ物、持ち物が
木に水をまく、これがアグリビジネスの実態なの
あまりにも簡単に捨てられていることに驚いていた
か、この事実をしばらく理解できなかった。
のに、いつの間にか無感覚になっていること。世界
の半分が飢えているのに日本では農地の半分でしか
★健康飲料茶の裏側
食料を作らないことに義憤を感じていたのに、今で
ケニアで農業以外に賃金収入を得る手段はほとん
はそれが当たり前と思うようになってしまったこ
ど無く、彼らの生活は厳しい。どんな奥地にでもグ
と。ケニアにいた時はケニア人のあまりにも大らか
ローバリズムが浸透している中、衣食住、教育費、
な性質に腹を立て、やっぱり律儀な日本人が一番、
生きて行くには現金が必要である。彼らの賃金収入
と感じていたけど、帰国後は、やっぱり人間はケニ
源は上記のような農園で働くか、自分の畑で換金作
ア人のように地球人として、・・など等、忘れっぽ
物を栽培するかしかないのである。しかも、労働賃
く、いつも揺れ動いている。
金は圧倒的に安い。世界2位のシェアーを誇るケニア
せっかくマータイさんがモッタイナイという日本
の代表的輸出品である紅茶を例にする。ケニア茶
語とその精神文化を敬愛し、世界に向け私たち日本
は、気候、土壌に恵まれ、味が良いばかりでなく健
人を誉め称えていただき、かなりこそばゆい感じが
康に良いとされるカテキンが高濃度であることで、
するが、忘れない内に、お返ししておきたい。私の
日本のあるメーカーのお茶の原料にもなっている。
わずか3年のケニア滞在で理解したことは、ケニア
この農園で1年間働いて得られる賃金は一人1万円
人こそ、かつて日本人が持っていたモッタイナイと
弱、日本の1/500程度である。ちなみに農園での茶
する美徳を備え、自分だけ良ければではなく、他人
葉の売値は200円/kg。これが日本で1個2gのティー
にも、次世代に対しても、思いやった生き方の出来
バッグだと500個分で約1万円、健康に良い○○○○
る人たちであり、すばらしい品性を持つ国民である
茶だと500本分で10万円相当と、何と原料費の500
ということである。そんなケニアの人に誉められる
倍になるのである。これが日本との平均賃金差にほ
のだから、まだまだ日本人も捨てたものではないの
ぼ匹敵している。一方、衣食住に必用な生活用品は
かも知れない。だから、モッタイナイと思う心、忘
ほとんど輸入品で賃金に比べると非常に高く、生活
れないようにしたい。
を圧迫している。義務教育で授業料は無料だが筆記
用具や制服代など、子供を学校に行かせる経費を捻
出するには無理があり半分は労働の担い手として通
[株式会社 農土コンサル]
技
術
協
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第
80
号
交流広場
はじめての北海道生活
武井 孝弘
は換気の問題と結露の原因となるため使用禁止と
のことでした。4月も寒かったのでFF式ガスヒー
ターを使用しましたが、換気の必要がなく快適そ
のものでした。ということでいままで使用してい
私は岐阜県美濃地方の山間部出身で、平成4年に
技
術
協
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46
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第
80
号
たものはお蔵入りとなりました。
三祐コンサルタンツに入社しました。以来、名古
・玄関前の風除室と二重窓、冬対策として納得です。
屋、東京、岡山での勤務を経て本年4月に札幌勤務
・部屋が暖かい
となり、家族
(妻、子供小4、小1)
を同伴しての赴
春のぽかぽか陽気の岡山から来た当初は、外は
任となりました。
まだ岡山の真冬だと思ったほどです。しかし、寒
今まで個人的にも仕事上でも北海道とは縁がな
冷地仕様の家はどの部屋もさほど寒さを感じない
く、北海道といえばラベンダー、旭山動物園など観
ためとても快適でした。これまでは、朝起きたと
光地しか浮かばないのに、いざ住むとなると冬の寒
きに寒暖を肌で感じましたが、こちらの住居では
さを始めとして諸々の心配が胸中をよぎりました。
わかりません。山奥で朝晩は冷え込む実家は、家
3月に住居探しに來札した折、寒さと道路横の雪の
の構造から外気温と同じくらい冷え込むため、こ
山を目の当たりにして、ここで生活することになる
のぐらい暖かければ父母の体にもよいのにと思い
のだが本当に暮らしていけるのだろうかと不安が更
ました。
に強まりました。これは、気温がほとんどマイナス
にならず、雪の降らない地方からきたものの正直な
思いです。
【小学校編】
・制服、体操服等
日本の国土は狭いとはいえ南北に長いことから、
小学校では私服にお揃いの体操着・上履き・体
所変われば品変わるの例えのようにその土地の気候
育館シューズがあるというイメージですが、こち
風土に根ざしたいろいろ異なったところがあるので
らはお揃いのものは必要なく自由です。たまたま
は思っていました。まだ5ヶ月の生活体験ですが、
岡山では、小学校から制服がありました。このた
それらをいくつかを紹介したいと思います。全く何
め、妻は子供たちの私服などを揃えるのに四苦八
の足しにもならないでしょうが筆休めのひと時にで
苦していました。
も目を通していただければ幸いです。
・桜
次男の入学式が4月にありました。桜前線が
【住居編】
・部屋の方位と洗濯物の室内干し
やってくるのには1ヶ月早く桜は咲いていませ
ん。私の入学式のイメージは、桜満開なので少し
アパート・マンションの間取りをよく確認する
寂しいものがありました。でもこちらは5月に桜、
と方位表示がなく、ベランダが無い物件が多い。
梅などが一斉に咲くのは見事でした。ちなみに長
不動産会社に尋ねると部屋の方位は必ずしも南向
男の岡山での入学式では葉桜でした。
きではなく洗濯は室内干しなのでベランダが無い
・集団登下校
物件も多いとのこと。しかし、住居探しの際には
岡山などでは安全のため集団登下校をしていま
日当たりを考えた南向きと洗濯の室外干しをする
す。札幌にはありません。冬の寒い中全員が待つ
ためのベランダ付きの条件は譲れないポイントで
ことができないからだと思います。
した。
・冷房と暖房
・運動会
運動会は、9・10月に開催し、残暑でまだ暑い
冷房する必要のないことからエアコンの配管用
というイメージです。こちらは、5・6月で、しか
の穴がない。ひと夏を体験して納得しました。地
も寒い。真冬に運動会という感覚でした。でも父
下鉄に冷房がないのも納得です。ファンヒーター
兄の応援は熱いものがありました。また、こんな
交流広場
寒い状況の中、息子が通学する小学校では開始数
時間前の未明から席取をする方がたくさんいると
いうことには驚きました。
・体育館
【JR編】
・客室にもドア
住宅の玄関と同じで、これなら冬でも客室は暖かい
だろうなと思います。名古屋も冬は寒いのに、何分も
冬の体育館は寒く、ぶるぶる震えていたイメージ
停車するときにでも開けっ放しにするときがあります
があります。こちらの体育館には暖房があり快適で
ので、同様なドアがあればよいなと思います。
す。暖かいのでついウトウトなってしまいます。
【車・道路編】
【地下鉄編】
・荷棚
大きな荷物は荷棚に置く習慣があるため荷棚な
いのは辛いです。特に朝のラッシュ時に荷物を床
におくのは恐縮します。
・優先席でなくて専用席
地下鉄を利用し始めた当初、優先席がいつも空
いているので非常にマナーが良いと感心しまし
た。でも何故?と思いよく見ると「専用席」
と表示
がありました。調べてみましたら、日本の他の乗
り物で専用席となっているものはないようです。
・携帯電話はマナーモードでなくて電源オフ
車内で携帯電話を利用している人がいないので
こちらもマナーが良いと感心しました。特に電子
音が苦手な自分にとってはとても快適です。この
ことに気がついたときにはあわてて電源オフした
ことはいうまでもありません。
・共通ウィズユーカード
プレミアムがついています。しかも¥10,000の
カードには¥1,500もついているので太っ腹と思い
ました。でも調べてみると上には上がいるようで、
福岡市営地下鉄では、¥1,900でした。首都圏や関
西圏では、プレミアが無いので得した気分です。
・エスカレーターの片側空け
札幌・東京・名古屋は右側、近畿・仙台は左側
のようです。こちらは、私の慣れている右側なの
・道路の幅
広いのでとても快適です。冬はどうなるので
しょうか。
・燃費
郊外に出かければ、以前に比べ燃費が2割以上
アップです。ガソリン代が高騰しているのであり
がたいです。
【公園編】
・自然林の公園
住居近くの青葉中央公園は、周囲がすべて宅地に
もかかわらず自然そのものが残っています。熊や鹿
などが出没するのではないかと思うぐらいです。
・白石サイクリングロード
住居近くにある鉄道跡地を利用した白石サイクリ
ングロードでは、いつもたくさんの人で溢れていま
す。しかも、道路との交差部は立体交差となってお
りとても快適です。岡山にも同様のものがありまし
たが、道路との交差部は平面交差でした。
【買い物編】
4月は野菜の価格が岡山に比べ高いと思ったので
すが、お盆を過ぎて道産品が出始めるとお値打ち
になり、うれしい限りです。また、こちらでは牛
肉をあまり食べないということに驚きました。そ
の代わり、羊肉が当たり前のように置いてあり、
さすが北海道だなと思いました。
で違和感がありません。
・幅広の電車
これまでの5ヶ月間の生活の中で思い付いた事を紹
日本では新幹線の次に幅広とか。ゆったりして
介しました。家族一同この地にもすっかり慣れ、こ
いて快適です。逆に幅の狭い東京の銀座線や名古
れから短く凝縮された秋や、厳しい冬の季節を迎え
屋の東山線では反対側の座席がすぐ目の前にある
ますが、またいろいろ新しい体験ができるのではな
という感じでした。
いかと心待ちにしている今日この頃です。
[株式会社 三祐コンサルタンツ札幌支店]
技
術
協
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第
80
号
交流広場
地盤の健康読本
佐藤謙司
す。
例えば地盤を調査する技術は、よく医療技術と対
比されます。地質踏査:問診・触診、弾性波探査:
超音波エコー、ジオトモグラフィ:CTスキャン、ボ
技
術
協
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第
80
号
世は健康ブーム真っ盛りであり、テレビでも健康
アホールカメラ:内視鏡、動態観測:心電図といっ
番組が大流行で、血のドロドロ、サラサラした流れ
た具合です。
が画面にまで登場しています。人体内部を調べる技
こうした技術を活用し、地盤を正確に把握してジ
術が、レントゲンのように投影する手法から、CT
オドクターが診断を下すことが、どれだけ有用なこ
スキャナのように3次元的に可視化する技術にまで進
とかを広く知っていただくことが、災害に強い国づ
展し、さらには血のサラサラ具合といった性状まで
くりを行なううえで大変重要であると思います。
動態的に可視化できるようになるなど、画期的に進
こうした思いも込めて、当社では創立50周年の記念
歩を遂げています。
事業の一環として、一般向けに地中のことを紹介す
複雑な要因で進行し発病に至ると考えられる生活
る本を出版しました。
習慣病予備軍を抽出するメタボの判定方法が至って
日本の地盤がいかに複雑であるか、地震や地下水
シンプルに感じますが、国民へのわかりやすさを追
汚染など地盤に関わる諸問題の解説、地盤の診断技
求して導き出したものであろうと、自分の体型と判
術、地盤にまつわるロマンなどについて、本来精緻
断基準は
(やや)
合わんと各論反対の立場ながら、エ
な図面もすべて単純なイラストに置き換え、肩肘張
ンジニアとしては感嘆する一面を有しているように
らずに読んでいただける内容を目指し、出来るだけ
も思います。ちょうど大雨警報や道路の通行止めと
人目を引くタイトルにしました。言ってみれば地盤
なる雨量と同じように基準値を数値化したものと言
の健康読本のようなイメージです。地盤にも生活習
えるのでしょう。
慣病のような病気を抱えている箇所や予備軍がいる
さて、人体同様に内側の診断を要するのが地盤で
ことの理解が、少しでも広まってくれればとの思い
す。国民の地盤に対する関心は、健康や気象に比べ
もあります。
如何でしょうか。大雨や大地震が発生すると、テレ
もし本屋で見かけることがありましたら、一度手
ビからは
「大雨や地震で地盤が緩んでいる恐れがあり
にとってご覧いただければ幸いです。
ますので、十分に警戒してください」
というアナウン
スを聞きますが、いつの間にかアナウンスは流れな
くなり、緩んでいる地盤がいつ元に戻ったのか、ど
うやったら緩んだ地盤が元に戻るのか、いつから警
戒しなくて良くなったのか、なんて思うのは私だけ
でしょうか。少なくとも自分はそのような質問を頂
いたことは無いと、ある気象台の方は言っていまし
たが、それほど厳密に意味まで検討されたものでは
無いようです。このようなアナウンスを自分に降り
かかる恐れのある問題として意識できる人は、メタ
ボへの警戒心を抱く人より少ないのではないでしょ
うか。 健康問題と同様、地盤にかかわる諸問題に対して
「それでもピサの斜塔は倒れない」
国民の目が向き関心が高まると、否応なしに説明責
(幻冬舎、1,365円)
任が増し、地盤で起こっている現象をより判りやす
く表現する技術が進展するのではないかと思いま
[応用地質株式会社札幌支社]
初級研修を終えて
平成20年 初級研修会を終えて
ていませんでしたが、数値で見ればまさに今がその
状態なのだと認識させられました。都府県の農業の
Aさん
現状からして、北海道の農業はまさに日本を背負っ
「コンサルタントとは、どのような仕事か」と聞か
て立つ大変な役割を担っています。北海道の農業を
れると、うまく説明できない状態でしたが、今回の
元気にしていかなくてはならない、と講師の先生が
研修会に出席して、少し頭の中が整理されました。
おっしゃっていましたが、まさにその通りだと思い
コンサルと言っても、様々な業務内容があり、幅広
ました。そして、コンサルタント業務に関わる仕事
い知識と創意工夫、応用力が求められていることを
をする上で、このような様々な背景を理解し、個人
知りました。自分の専門分野だけにとらわれず、
の仕事だけではなく社会全体を見渡す広い視野も必
日々様々な分野にアンテナをはって、いろいろな情
要であると思いました。
報を得ることが重要だと感じました。
研修全体を通じて分かったことは、コンサルタント
日々、会社に出勤し仕事をしているだけでは、なか
業務には資格が必須であるということです。技術士
なか今回のような話を聞く機会は無く、かといって
は、資格と実力両方を兼ね備えていなければならな
自分でこれだけの資料をまとめ勉強することは非常
いと講師の先生がおっしゃっていました。社内にも
に難しいと思います。しかし、一度ざくっりとした
技術士の資格を持って第一線で活躍している先輩方
話を聞くことができると、今まで分からなかった分
が多くいらっしゃます。ひとつの業務に取り組むに
野の話が少しだけ分かるようになり、理解しやすく
しても、幅広い知識と経験が必要であることを目の
なります。公共事業や財源、公共財といった話は、
当たりにし、まだまだ道のりは長いですが私も日々
聞くからに堅苦しい単語に思えていましたが、まと
努力していかなければならないと感じています。そ
められた資料に沿って話を聞くと、完璧ではないで
して今の初心を忘れないように、研修で学んだこと
すが理解することができました。今回の研修では、
を日々の業務に生かしていきたいと思います。
今まで何となく敬遠していた言葉の意味を理解する
非常によい動機付けになりました。
Cさん
今後は、今回の研修で学んだことを生かし、幅広い
初級技術者研修会では、コミュニケーションやマ
知識を持った技術者になれるよう、日々努力してい
ナーなど社会人として不可欠な心構えや、コンサル
きたいと思います。
タントの業務概要と歴史および動向、北海道農業の
概況などについて学びました。
Bさん
北海道農業の現状についての講義によって、我々が
今回の研修は、私にとっては初めての技術者研修
農業と、受益者である農家の方のために仕事をして
でした。農業土木や土地改良など、学生時代の専攻
いるということを強く認識することができました。
とは少し違う分野であるため、入社間もない私に
また、我々がコンサルタントの技術者として何を行
とっては耳慣れない言葉が多かったです。しかし、
うのか、そのためにどのようなスキルや知識が求め
講師の先生方の丁寧な説明や配付資料のおかげで、
られているのかということが、見積りの作成、技術
講義内容を理解することができました。
情報やCPDなどの説明を受けて具体的に理解するこ
中でも
「北海道農業の現状と課題」
という講義が、特
とができました。
に印象に残っています。世界的にも国内でも食糧問
講義時間内に覚えきれなかった部分も多々ありまし
題が大きな課題となっていますが、やはり都府県に
たが、これから技術者として
「何を、どのように学べ
おける農業の崩壊も大きな問題であります。特にそ
ばよいか」
ということがわかりました。
の生産力は戦後並み、ということを聞いて驚きまし
講義を通じて、自分の中での目的や目標が明確に
た。戦後といえば食料が乏しく、国民に充分な食料
なったと感じています。今回学んだことを生かして
が行き渡らないという漠然としたイメージしか持っ
働いていきたいと思っています。
技
術
協
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第
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号
現地研修会報告
平成20年度
道央及び安平川地域現地研修会
(前期)
報告
渡邊 兼太郎
写真-2は、FRPM管路の埋戻し風景で、浮上防止
シートの設置作業途中の写真である。
私自身は、これ程の規模の管路実施設計に関わった
はじめに
経験がなく、ましてや現場を間近で見たのは初めての
平成20年8月5日、北海道土地改良設計技術協会主
経験だったので、非常に興味深い光景であった。
催の道央及び安平川地域現地研修会に参加させて頂
きましたので、その内容についてご報告致します。
今回の研修会では、①道央注水工新川南部工区工事
技
術
協
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第
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号
(道央用水(三期)地区)、②東三川北工区区画整理建設
工事(由仁地区)、③旭用水路外一連建設工事(安平川
(一期)地区)の3地区の現地見学を行い、この内、以下
の2現場の研修について感想を述べさせて頂きます。
道央用水(三期)地区農業水利事業
道央注水工新川南部工区工事
▲写真-1 「FRPM管とホロカ調整工の接続部」
道央用水(三期)地区は、江別市、岩見沢市、千歳
市、安平町など6市5町にまたがる農業地帯におい
て、老朽化したダム、頭首工及び用水施設の整備等
によって、かんがい効果を大幅に向上させ、土地生
産性の向上、農作業の効率化、水管理の合理化を図
ることを主な目的とした事業である。
見学した工事現場は、FRPM管φ3000
(L=384.51m)を使用した大規模な用水管路工事で
あった。
▲写真-2 「管体工の埋戻し」
以前パイプラインの積算業務において土工の埋戻
区分について細かく分類し数量をとりまとめた内容
と、実際に行われている工事が同じように進められ
ていることを実際に見ることができ、改めて数量の
取りまとめの重要性を実感できた。
安平川
(一期)
地区農業水利事業
旭用水路外一連建設工事
本事業は、北海道勇払郡安平町の水田185ha、畑
▲図-1
1,246haを対象に、安定的な農業用水を確保するため
現地研修会報告
夕張シューパロダムに水源を依存する用水施設(新設・
改修)と排水路施設
(改修)
を整備するものである。
この内、現地見学を行った工事現場は、光起排水
路(No0∼No2+15区間)で、排水路本線(ブロック護
岸)・合流工(安平川)
・遊水池区間(沈砂池)・橋梁工
(L=12.56m) ・水路横断工・流入工3カ所という施設
が施工されるものである。
▲図-2 「遊水池区間の断面図」
この排水路設計は、当社が設計を担当したもの
で、仮設計画図通りの施工状況
(進行状態)
を目に出
来て、非常に感銘した。
合流工を含む下流区間の路線計画では、取得困難
な用地に囲まれながらも、何とか水路として望まし
い線形を与えるのに、かなり苦心した場所であっ
た。
▲写真-3 「合流工」
こうした、用地的制約から来る問題は、非常に難
しい問題ではあるが、本件での経験を生かし、今後
線形や護岸形式について、社内で検討を加えていき
たいと思う。
また、今回の現地研修を通じ、仮設計画の重要性
を改めて理解し、そのための現地調査は設計者自身
が現地を歩き状況を把握しなければならないと感じ
た。
▲写真-4 「橋梁工」
見学時の施工状況としては、合流工と橋梁工がほ
あとがき
ぼ完成しており、この後、遊水池区間や水路横断工
私にとって、由仁町や長沼町というのは、よく面
に着手してくとのことだった。
整備の設計を担当する関係で、現地の人達とふれ合
写真-5は、建設途中の遊水池区間で、複断面形状
う機会が多く、とてもなじみ深い土地です。
の計画断面のうち、低水路部分の掘削が進められて
また、中樹林地区がある南幌町でも仕事をきっか
いるところであった。以後、右岸部15mの高水敷が
けに農業法人のフローアさんで、毎年お米を買うよ
建設されていくとの事だった。
うになりました。
道営・国営による基盤整備の恩恵を身近に感じる
一方で、仕事の中で出会う農家さんの高齢化や担い
手の減少を強く感じるのが現実です。
今回の現地研修を通して、より良い農業を育むた
めの技術者として、よりいっそう練磨していきたい
と感じました。
[アルスマエヤ
(株)
]
▲写真-5 「遊水池区間」
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術
協
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号
現地研修会報告
海野 ちぐさ
はじめに
平成20年度道央及び安平川地域現地研修会
(前期)
が
8月5日に実施されました。研修のテーマは、
「道央及
び安平川地域における農業農村整備事業」
という内容
であり、当日の日程と研修場所は以下の通りです。
道央用水
(三期)
地区農業水利事業
▲道央用水
(三期)
地区建設現場
(ホロカ調整工)
道央注水工新川南部工区工事
↓
技
術
協
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国営農地再編整備事業由仁地区
由仁地区
東三川北工区区画整理建設工事
②東三川北工区区画整理建設工事
↓
由仁地区では、土地利用の整序化、担い手への農
講話
地集積及びほ場の大区画化による農業生産性の向上
札幌南農業事務所管内における事業展開
を目指すために、小区画で不整形なほ場の区画整理
↓
を行なっています。
安平川
(一期)
地区農業水利事業
今回見学したほ場は成形がすでに終っており、今
旭用水路外一連建設工事
後は客土と暗渠を施工することとなっています。客
↓
土に用いる客土材は町内の土取り場から運ばれてき
安平川
(一期)
地区 ます。暗渠の疎水材はもみがらを利用するそうです
道営畑地かんがい推進モデルほ場
が、確保に苦労しているとのことです。
ほ場には、客土用の土が盛られており、端のほう
には暗渠管が規則的に並べてありました。来年の春
道央用水
(三期)
地区
までには、ほ場の工事は完了するそうです。実際の
①道央注水工新川南部工区工事
作業を全部見ることはできませんでしたが、大まか
国営かんがい排水事業道央用水
(三期)
地区は同安平
な施工手順を把握できました。また、工事によって
川地区を合わせた6市5町
(受益面積 29,010ha)
に
農地が利用できない期間は、緑肥の転作によって補
またがる農業地帯に、水田用水と畑地かんがい用水を
助金が出ることも学びました。
安定確保するために整備するもので、平成16年に着
工し24年度に完了予定で施工が進められています。
今後、道央注水工へ注水試験を行なう際は、濁水
が発生しないよう環境に配慮した施工を行なうとの
ことでした。
トンネル区間の内部は、18m3/secもの農業用水が
流れるというだけあり、管水路は大変大きく直径が3
mほどありました。施工現場をみるのは初めてで、
図面等で描いていたイメージが、実物を見ることに
より実感することができました。今後、工事完了後
の現状も見学してみたいと思いました。
▲東三川北工区区画整理建設現場
(客土材搬入状況)
現地研修会報告
③講話
安平川地区
ながぬま温泉の会議室にて、札幌南農業事務所の
⑤道営畑地かんがい推進モデルほ場
河端明所長から
「札幌南農業事務所管内における事業
安平町追分地域の耕地面積は2,587ha
(平成16年)
展開」
について拝聴しました。千歳外3市、長沼外3
であり、水稲や畑作とメロンを組み合わせた複合経
町では、自然豊かな都市近郊田園地帯として「緑」
営が中心となっています。
「水」
「田園」
をテーマに都市住民や消費者との交流を
モデル事業を導入している7戸の農家では、
目指した農村整備にも積極的に取り組んでいます。
6.8haのほ場を用いて試験を行なっています。散水
地域では、農産物直売所や農家レストラン等を介
の最大水量
(1,200ℓ/min)
は決まっているので、農
して生産者と消費者が顔の見える関係の構築を図っ
家ごとにローテーションをしながら、それぞれのほ
ており、更に全国から小・中学生・高校生を対象と
場面積に応じてかん水しているとのことでした。
した農業体験学習
(一週間程度)
を受け入れる農家が
見学したほ場は、ハウス栽培が主体で、メロンに
増加しているそうです。また観光農園の中には、マ
は多孔管
(点滴タイプ)
が利用されていました。今後
スコミに取り上げられる農家もいるそうです。札幌
これらが一般化され農業用水の有効利用が図られる
に住んでいることから身近なところでの、先進的な
とよいと思いました。
農家の活動を知ることができてよかったです。
安平川
(一期)
地区
技
術
協
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第
80
号
④旭用水路外一連建設工事
国営かんがい排水事業安平地区
(胆振支庁管内勇払
郡安平町
(旧早来町及び旧追分町)
)
では、頭首工、揚
水機、用水路及び排水路を整備するとともに、取水
施設の統廃合を行ない、併せて、関連事業により用
排水施設、ほ場の整備を行ない、土地生産性の向
上、農作業の効率化、水管理の合理化を図ることを
▲道営畑地かんがい推進モデルほ場(出荷前のハウス栽培のメロン)
目的としています。
工事施工に至るまでには、地域の天候、土壌条件
おわりに
及び河川の流域面積等、様々な条件を考慮しながら
研修に参加して、農業農村整備事業の具体的な建
設計されていることを知りました。
設工事や現場の方のお話を聞くことができ貴重な体
現場では、排水路施工中にもかかわらずその他の
験ができました。今回学んだことを今後の業務に活
場面でも安全対策を考慮している点を垣間見ること
かしていければと思います。また機会があれば、こ
ができました。
のような研修に参加したいです。
最後に、この研修会を企画・実行されました主催
者の北海道土地改良建設技術協会、並びに協力して
くださった北海道開発局、施工業者の皆様に心より
感謝申し上げます。
[
(株)
地域計画センター]
▲旭用水路外一連建設現場
(新排水路施工現場)
技
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第
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号
協会事業メモ
技
術
協
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第
80
号
編集後記
「技術協」
第80号をお届けいたします。
今回も大変お忙しい中、多くの方々に有益な稿をいただき、誠にあり
がとうございました。
また、第22回”
豊かな農村づくり”
写真展につきましても、沢山の出展
をいただき大変好評のうちに終わらせていただきましたことに感謝申し
上げます。
安心・安全な食と農業を支える基盤は、整備された農地・用排水路な
どです。農業農村整備事業も、時と共に制度等は変化しても、その役割
は一層重要になってくると確信しています。
今号から、
「趣味の広場」
を
「交流広場」
と改称して、気軽に色々な情報の
交流コーナーとして、趣味・各種資格試験やご当地検定試験の挑戦感想
文、生活や仕事に役立つ話など幅広く募集することとしました。
今後とも、本協会の広報部会の活動に対し、ご支援とご協力をお願い
申し上げます。
広報部会
「技術協」 第 80 号
平成20年11月30日発行 非売品
発 行 (社)
北海道土地改良設計技術協会
〒060 - 0807 札幌市北区北7条西6丁目NDビル8F
TEL 011
(726)
6038 ●農村地域研究所 TEL 011(726)
1616
FAX 011
(717)
6111 広報部会委員 明田川洪志・寺地明夫・小澤榮一・林 嘉章
浅井要治・夏伐一夫・矢野正廣・宮本治英 制作 (有)
エイシーアイ
※本雑誌は自然保護のため再生紙を使用しています。
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