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2.子牛の飼料給与 .....................................................

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2.子牛の飼料給与 .....................................................
Ⅱ.出生からの子牛の飼養管理
***お産とその後の子牛の発育成長との関係***
子牛のへい死率は、難産の程度が重ければ重いほど増加する。難産で生まれた子牛
658頭のうち164頭が48時間以内に死亡したというデータもあるほどである。難産の場合
には、子牛は酸欠状態に陥り生命力や活力が低下するためと考えられている。
初産ホルスタイン雌牛の難産の程度が子牛のへい死率に及ぼす影響
難産レベル a
1
子牛の数
537
死亡した子牛数 b
44
へい死率(%)
8.2
2
3
358
169
36
59
10.1
34.9
4
5
合 計
87
44
1,195
48
21
208
55.2
47.7
17.4
(McDniel 1981)
a:1=補助なし、2=軽く牽引した、3=強く牽引した、4=ジャッキを使用した、5=獣医を呼んだ
b:死産ならびに生後48時間以内にへい死した子牛の頭数
2.子牛の飼料給与 ..........................................................................................................
1)初乳について
⑴ 初乳の基礎
①初乳の基本
ヌレ子では、免疫グロブリンの胎盤移行が行われないのでそのままでは感染と戦
う十分な免疫力を持っていない。このため、ヌレ子の免疫システムは初乳に完全に
依存している。初乳中の免疫グロブリンが、腸管から吸収されて初めて抗体が獲得
され、疾病から身をまもることが可能になる(受動免疫システム)
。
子牛の健康と生存を決定する上でもっとも重要なことは、高品質の初乳を出生後
できるだけ早期に、かつ適切な量を給与することである。初乳は、母牛が分娩後最
初に分泌するミルクで、特異的に免疫グロブリン(=γグロブリン)に富んでおり、
子牛の免疫防御機能を供給する。また初乳は栄養分も豊富なため、ヌレ子の最初の
栄養源であるという点でも重要である。
②牛と人間の胎盤の構造上の違い
牛と人間では胎盤の構造が大きく異なっている。霊長類(人間、サルなど)は血
絨毛膜性胎盤という、結合織の壁が無いことから、母親の免疫物質は胎児に容易に
移行する。牛などの反芻動物は結合織絨毛膜性胎盤で結合織の壁が何層にも厚く重
なり、免疫物質だけでなくウイルス・細菌も通過出来ない構造である。このような
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胎盤の構造の違いから、子牛は免疫物質を一切移行されていない「免疫ゼロ」の無
防備な状態で生まれてくる。子牛で免疫グロブリンを豊富に含んだ初乳を早く与え
る必要があるのは、人間は胎盤を通じて、これらの免疫グロブリンを移行するが、
牛では初乳を通じて移行するからである。
表3 動物の種類による抗体の移行様式
動物の
胎盤構造
種類
胎児期の
出生後の初乳中の抗体
抗体移行
量
経路
期間
人、サル
血絨毛膜
+++
±
腸
牛、綿山羊
結合織絨毛膜
−
+++
腸
24時間
豚、馬
上皮絨毛膜
−
+++
腸
24∼36時間
犬、猫
内皮絨毛膜
+
++
腸
24∼48時間
(「獣医領域における免疫学」より)
③子牛の免疫システムと初乳
子牛の免疫機能は出生時は発達しておらず、感染と戦う十分な量の免疫グロブリ
ンを持たない。つまり出生直後の子牛の免疫システムは初乳に完全に依存している。
初乳に含まれる免疫グロブリンが子牛の腸管からの吸収を介して移行することで初
めて免疫能(抗体)を獲得することになる。このことを受動免疫と称している。こ
の初乳から得た抗体が、子牛自身の免疫システムが機能するまで、子牛を疾病から
守ることになる。
初乳中の免疫グロブリンには大まかに分けて
IgG、IgM および IgA の3種類があり、そのうち 㪈㪈㪅㪇䋦
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約85%を占めるのが IgG で、もっとも重要な免疫
グロブリンである。
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ヌレ子の小腸は、生後から24∼36時間までの間
は、免疫グロブリンや他のタンパク質のような大
きな分子であってもそのまま吸収できようになっ
ている。小腸細胞を通じて大きな分子を吸収して
血液中へ放出するという能力は、時間とともに減
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図7 初乳中の免疫グロブリン構成比
少してしまう。そのため小腸の閉塞が起こるまでに、子牛の受動免疫に必要な十分
な量の免疫グロブリンを摂取させなければならない。
ヌレ子の小腸は、巨大分子の吸収能力という点では非選択的である。例えば、初
乳を給与しなかった子牛に対して、大腸菌の感染試験を行った報告では速やかに小
腸上皮から吸収されたという報告もある。このため、病原菌に感染する前に初乳を
飲ませることが基本である。生後5∼6時間以内を目標としているのはこのためで
ある。
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Ⅱ.出生からの子牛の飼養管理
④子牛の腸管構造について
分娩後24時間以内(早いほうが良い)の子牛の腸管膜は、免疫グロブリンを効率
良く吸収する(24∼36時間で完全消失)。この時の子牛の腸間膜は広い間隙を有し
ており、通常では免疫グロブリンなどの分子量の大きな物質は通過出来ないが、こ
の時期に限り容易に通過できる。このことからも早めの初乳給与が重要である。反
面、細菌や病原体も容易に侵入することが可能であり、清潔な初乳を最初に腸管に
届ける必要がある。
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図8 初生子牛と通常牛の腸管の養分吸収の違い
⑤分娩後の母子の時間経過と免疫力の関係
子牛が初乳を介して母牛から免疫を獲得するには、子牛側と母牛側の時間経過が
重要なタイミングとなる。母牛は分娩の経過と共に初乳中の IgG 濃度が低下してい
く。また、初乳中の免疫グロブリンの吸収効率は時間とともに低下し、6時間で
40%、12時間で30%とされている。(図9、10)
図9 初乳中の lgG 濃度の時間的変化
図10 初乳中の免疫グロブリンの吸収効率
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さらに表4のように初乳中の免疫グロブリンの子牛血清への移行は、初乳を哺乳後10∼
14時間で成牛並となり1日で最高レベルとなり、その後は時間の経過とともに低下して3
∼7日ごろには成牛並みとなっていく。
なお、母牛からの移行抗体は一定の期間とともに消失していくが、子牛は胸腺、骨髄、
リンパ節等の免疫担当器官の発育で自己免疫を産生し成長していく。
表4 初乳中の免疫グロブリンの子牛血清への移行
免疫グロブリンクラス
(Molla 1978)
Ig G
Ig M
Ig A
総量
0.32
0.36
0.06
0.74
6時間
0.32
0.36
0.06
0.74
10時間
12.77
2.25
2.8
17.82
14時間
17.52
3.26
6.34
27.12
1日
21.72
4.62
5.4
31.74
3日
20.23
3.47
1.89
25.59
7日
13.14
1.51
0.51
15.16
14日
16.23
1.37
0.38
17.98
21日
13.96
1.94
0.32
16.22
採血時期
哺乳前
哺乳後
◎数字は平均濃度(単位:g /ℓ)
(「獣医領域における免疫学」より)
***免疫グロブリン***
生体が病原体や毒素など、自己と異質な物質(=抗原)に対し抗体ができて、発病を
おさえる現象を免疫という。免疫活性のあるグロブリン(アルブミンとともに血液中に
多く存在する単純タンパク質の総称)を免疫グロブリン(Immunoglobulin:Ig)という。
この Ig は一般に胎児期間に母体から移行するが、牛や豚の場合は初乳から分泌され、
初乳を飲むことによって初めて子畜に免疫グロブリンが取り込まれ、免疫を獲得する。
従ってヌレ子の場合は初乳を飲ませることが、疾病防止の上で非常に重要な飼養管理と
なる。
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Ⅱ.出生からの子牛の飼養管理
表5 ホルスタイン種1)および黒毛和種2)の初乳と常乳の成分値
ホルスタイン種
ホルスタイン種
黒毛和種
黒毛和種
初乳
常乳
初乳
常乳
比重
1.056
1.032
総固形分(%)
23.9
12.5
25.1
9.4
脂肪(%)
6.7
3.6
4.0
1.1
SNF(%)
16.7
8.6
総タンパク質(%)
14.0
3.2
17.6
3.6
カゼイン(%)
4.8
2.5
アルブミン(%)
0.9
0.5
免疫グロブリン(%)
6.0
0.09
IgG(mg/mℓ)
32.0
0.6
40.2
0.5
乳糖(%)
2.7
4.9
カルシウム(%)
0.26
0.13
0.21
0.14
マグネシウム(%)
0.04
0.01
0.03
0.01
リン(%)
0.14
0.15
0.20
0.11
ビタミン A(μg/100g)
295
34
511
9
ビタミン E(μg/gfat)
84
15
1)Foley and Otterby(1978)
2)全農飼料畜産中央研究所(1988)
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図11 子牛の血清中 IgG 濃度と生存率(NAHMS 1993)
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⑥最初の栄養素
初乳は豊富な栄養素を含んでいるが、最初の飼料としての栄養的な重要性は見落
とされがちである。常乳の約2倍の総固形分を含んでおり、ミネラルやビタミンも
非常に豊富である。さらに初乳は、子牛の成長にとって重要と考えられている多く
の成長因子やホルモン、サイトカイン(免疫反応等によって細胞から体液中に分泌
されるタンパク質で、標的の細胞に働きかけて色々な生理的な効果を及ぼす)等を
含んでいる。
⑵ 初乳給与のポイント
①初乳の品質管理
生後可能な限り早期(遅くとも分娩後6時間以内)に初乳を給与する。初乳の量
と質を保証し、さらに母牛からの感染症を防ぐためにも母牛の乳首から直接吸わせ
るのではなく、できればほ乳ビン等を用いて給与することが必要である。
初乳中の免疫グロブリン濃度は糖
度計(屈折計)で推定できる。初乳
の糖度計数値と免疫グロブリンが相
関関係にあることを利用した簡単な
推定法である。
初乳の品質に影響を与える要因と
して、産次(経産牛の方が濃い)、
分娩後経過時間(分娩直後がもっと
も濃い)等があげられる。また分娩
前に漏乳している場合は、免疫グロ
ブリン濃度が低下するだけでなく細
菌感染の可能性もあるので避けるべ
きである。
なお、余剰の初乳は凍結保存が可
能である。1年間は成分のロスもな
く保存できるので初乳が不足する場
合に備えて保存しておくことが必要
である。使用時は45∼50℃の湯せん
ですばやく溶解し給与する。
写真5 デジタル糖度計
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Ⅱ.出生からの子牛の飼養管理
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図12 ホルスタイン種乳用牛の初乳中 IgG 濃度のばらつき(GAY 1994)
②適切な量を給与する
子牛血清中の IgG 濃度が10mg/mℓを下回るとへい死率が著しく高くなる。血清
中の IgG 濃度を10mg/mℓ以上にするためには、体重が30kg の初生和子牛の場合は、
初乳が高品質(IgG 濃度が40mg/mℓ)で吸収効率を低めに見積もったとき、2ℓ
給与すれば血清中の IgG 濃度がちょうど10mg/mℓになる。生時体重が45kg 程度の
ホルスタイン種子牛であれば3ℓが適切な量になる。
つまり十分な免疫抗体を得るた
めには、出生後可能な限り早期に
2∼3ℓの高品質初乳を摂取させ
る必要がある。もし初乳の質がわ
からない、あるいは低品質初乳し
か入手できないのであれば、12時
間以内(できれば6時間以内)に
再び2∼3ℓ給与するとよい。
子牛の状態によっては、設定量
の初乳を飲めないことがある。こ
写真6 ストマックチューブによる強制投与
のような場合には、ストマック
チューブ等を利用して強制投与する方法もあるが、無理に飲ませず子牛が欲するま
で待つのも一つの方法である。ただしその場合でも6時間以内に全量を飲ませるよ
う、何回にも分けて根気よく飲ませることが必要である。
2)生後3日間の初乳のほ乳瓶給与による誤嚥の注意点について
初乳を哺乳瓶で給与するときに乳首由来の誤嚥性肺炎に注意が必要である。発生の原
因としては、スモールが乳首を吸い→エアー抜きが十分に開いていない→子牛が一生懸
命に吸う→哺乳瓶内が陰圧となる→ミルクの出が悪い→子牛は吸うのを止める→哺乳瓶
内に空気が一気に入り陰圧の解消→再度スモールが飲んだときに一気にミルクが流れ出
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