...

第2章 授業力の向上を目指して

by user

on
Category: Documents
14

views

Report

Comments

Transcript

第2章 授業力の向上を目指して
第2章
授業力の向上を目指して
「授業力」とはどのような力でしょうか。生徒にとって分かりやす
い授業ができる力,生徒の興味・関心を喚起し学習意欲を高めさせる
授業ができる力,などいろいろあります。教師はだれもが「授業力」
を向上させたいと思っています。
皆さんが「授業力」を向上させるために,先輩や同僚の授業を参観
し,授業の基礎技術を学び,教材・教具を工夫してください。そして
生徒の学習活動を観察しながら,日々の授業を振り返り,改善するた
めの方策を常に考えてみてください。
A
計画と方法………………………………… 8∼20
B
学習意欲のもたせ方………………………21∼27
C
コンピュータの活用………………………28∼30
D
自己研修……………………………………31∼34
-7 -
<A
計画 と方法 >
A−1
教科書の例題や練習問題は,どのように指導すればよいか。
④
例題は,様々な事象を数学の対象として
易しい例題や難しい例題,実験的操
とらえる力を養い,数学的な見方や考え方
作によって一般化が類推できるような
を培うことのできる重要な問題である。そ
例題を組み合わせ,授業や単元全体の
こには,数学における基本的な概念や原理
指導計画に変化を付ける。
・法則の理解を助ける目的がある。また,
練習問題には,その理解を深め定着を図る
2
練習問題について
などの目的がある。それぞれの目的を考慮
(1) 練習問題の位置付け
例題と同様,練習問題の位置付けによ
し,すべての生徒が十分理解できるように
る指導法を考えよう。
指導したい。
①
1
練習問題が例題の意図を受けて設け
られている場合は,公式や定理の内容
例題について
が理解でき,そのよさが認識できるよ
(1) 例題の位置付け
うに指導したい。
例題をどのように位置付けるかによっ
②
て,その指導法は異なるものである。位
解法の習熟を図る,または理解度を
置付けに応じた指導法を考えよう。
生徒自身で確認する場合は,演習の時
①
間を十分に確保するようにしたい。
公式や定理を導入する場合は,公式
③
や定理の背景や意義,そして,なによ
数学的な原理や関係などに気付かせ
りも公式とすることのよさが理解でき
たい場合は,生徒の力で発見できるよ
るように指導したい。
うに,実験の機会を与えたり,発問を
②
工夫したい。
公式や定理の使い方を例示したり説
④
明したりする場合は,公式や定理の適
し,ポイントを明示するようにしたい。
切な使い方が理解できるように,その
(2) 練習問題を扱うときの留意点
意味を確認させながら指導したい。
③
要点をまとめる場合は,板書を工夫
複数の公式や定理を組み合わせた総
①
練習問題を指導する中で生徒からで
合問題により,問題解決のための手だ
てきた別解や誤答などは,新たな教材
てや着眼点を示す場合は,公式や定理
として全体に指導し,生徒の様々な考
をどのように適用したかが理解できる
え方を生かすようにしたい。
ように,公式の適用に至るまでの考え
②
授業で練習問題の演習を行う場合
は,解答する時間を十分に確保し,机
方を示すなどして指導したい。
間指導の時間にするとよい。解答が終
(2) 例題の工夫
対象生徒に適したものに変更する。
了した生徒には,自らの考え方を振り
例えば,文字を数字に変えたり,逆に
返させたり,問題を発展的に考えさせ
数字を文字に変えたりするのもよい。
たりするなど,授業時間を有効に活用
①
②
③
り,小問をカットしたりする。
③
したい。
同じ内容のものでも小問に分けた
教具やコンピュータなどを活用し
練習問題を宿題とする場合は,該当
範囲を明確にし,次時にチェックして,
生徒・教師両者の評価として活用したい。
て,理解しやすいように工夫する。
-8 -
<A
A−2
計画 と方 法>
どうしたら板書がうまくできるか。
設計では大切である。枠で囲むなど,様
板書は,生徒が学習内容を理解するため
々に工夫したい。
の補助手段というだけではなく,教師の思
いを表現する手段でもある。授業で指導す
(2) 書く位置
る例題や問題をうまく選んだとしても,板
生徒の黒板の見え方に考慮して,左右
書の仕方によっては教師の思いが伝わらな
及び下部は少し空ける。特に左端は黒板
いばかりか,生徒の自由な発想を妨げるお
が光って見えて,板書が見えにくいので,
それもある。板書の内容が整理されている
注意しよう。
かを,先輩教師の板書を参考にしながら常
(3) 文字
文字は丁寧に書こう。文字の大きさに
に反省し,いろいろ工夫していこう。
も配慮しよう。指数・添字は,見やすく
1
するために,大きめに書くようにしたい。
板書は計画的にしよう
板書は,生徒の実態を把握して計画的に
(4) 板書の姿勢・速さ・量
表示されるものでなければ,その教育効果
生徒の学習活動を視野に入れながらの
は半減してしまう。計画性のある板書が生
板書を心掛け,長時間黒板に向き過ぎる
きた板書である。
ことのないようにしよう。説明の際には
・
黒板は大きく三つ程度に分割する。
板書しながらでは効果的とは言えない。
・
学習内容のポイントは必ず残す。
併せて,教師の身体で板書を隠すことの
・
重要事項は明示する。
ないように立ち位置にも注意しよう。ま
・
視覚に訴えて,生徒が考えたり理解
た,生徒の能力に合わせたスピードと無
理なく書ける量に配慮しよう。
したりできるようにする。
板書自体は授業の目標ではないが,よい
(5) 板書で使用する語句
授業はよい板書を残す。併せて,生徒の授
生徒は無意識にまねをすることが多い
業ノートを見ることも行いたい。生徒の授
ものである。「よって」などの接続語,
業の理解度についての把握はもちろんのこ
記号,番号は正しく使おう。
と,教師自身の板書の欠点,授業の欠点が
(6) チョークの色
基本は白色で,必要に応じて黄色・蛍
見えるものである。
光色を使用する。赤色や青色の文字は見
2
づらいことに注意したい。
板書の仕方についての注意事項
(7) ノートを取る時間の確保
(1) 板書の設計
一つずつにまとまりがあり,見やすく,
この時間の確保は大切である。生徒に
「まとめ」の時間に1時間分の内容が見
とって,板書を書き写すのは時間がかか
渡せるようにしよう。
るものである。強調したい事柄は,ノー
また,板書の内容は生徒のノートの中
心になることを忘れないようにしたい。
トを取る時間を十分にとってから,説明
を聞かせるように指導したい。
生徒は,板書の内容をそのまま書き写す
また,この時間を利用して生徒の様子
場合が大半である。そのため,重要事項
を見るのも生徒を理解する有効な手段で
をどのような形で表示するかは,板書の
ある。
-9 -
<A
計画 と方法 >
生徒に板書させるときの留意点
(8) 板書の確認
机間指導の際に,黒板に書かれた字の
・
チョークは白色を使用させる。
大きさが適切か,文がゆがんで書かれて
・
書くスペースを考慮し,書く場所
いないか,チョークの色が有効に使われ
を指定する。
ているかなどを確認しよう。
3
・
背面黒板はできるだけ使わない。
・
生徒の誤答を利用する。間違えた
生徒に板書をさせるとき
生徒の気持ちを配慮しつつ,誤りの
問題の解答などを生徒に板書させると
部分をすぐ消さずに,生徒が正しく
き,生徒は「間違えたくない」と思ってい
理解するために生かす。
る。できる限りその気持ちにこたえたいが,
・
そうもいかない場合もある。そこで,学習
生徒自身に自分の解答を説明させ
る。
につまずいたり,試行錯誤したりすること
が自然に受け入れられる雰囲気づくりを日
ごろから心掛けたい。
4
授業は環境づくりから
生徒の板書は時間がかかるので,時間節
教室が汚れていたり,黒板に,前の授業
約のため,板書させる生徒を前もって指名
の板書が残っているようではよくない。最
しておくのも一つの方法である。ただし,
初に適切な指導をしておくことが肝心であ
このような方法ばかりでは,指名された生
る。教室の環境づくりは,ホームルーム担
徒だけが予習をしてくるような状況になり
任と教科担任が連携を密にして行うように
がちである。ときには,授業時に指名を行
したい。生徒には,よい環境で勉強させた
うようにすることも必要である。
いものである。
< 教師の立ち位置と板書での注意点 >
板書が教師の身体で隠れることのないように,立ち位置は常に注意をする必要がある。
また,指示棒などを用いると,板書の位置との距離も取りやすく,教師の身体で板書を
隠すこともない。また,生徒にとっても教師が説明している板書の位置も分かりやすく,
より授業に集中できる。
黒
黒
板
板
の
の
左
右
端
端
を
を
空
空
け
け
る
る
黒板の下部を空ける
- 10 -
<A
<実際の板書の例
(数学Ⅰ:2次不等式)>
①
2次不等式の解法の説明
②
問題演習(生徒を指名し,黒板に解答を書かせる)
③
生徒の解答の答え合わせと解説
- 11 -
計画 と方 法>
<A
計画 と方法 >
A−3
発問したり,机間指導したりするときに,どのようなことに気を付けたらよいか。
生徒との人間関係は,まず名前を覚える
3
机間指導の目的
ことから始まる。指名するとき,「○○番
机間指導は,集団での一斉指導の中で,
の人」というような呼び方では親近感に欠
個を生かした指導ができる重要な機会であ
ける。生徒との信頼関係をつくるためにも,
る。目的をもち,一部の生徒に偏ることな
名前をできるだけ早く正確に呼べるように
く,全員に目を配る机間指導をしたい。
心掛ける。
(1)
1
指名の際の留意点
発問は,まず生徒全体に向かって行い,
一呼吸おいて生徒を指名する。指名された
生徒の理解度の把握
・
解法を確認する。
・
個のつまずきを見る。
・
共通の間違いを発見する。
(2)
授業態度・姿勢の把握
①
生徒だけが考えるのではなく,全員が考え,
個への対応
学級全体の中では発言できない生徒
指名された生徒が代表して答えるようにし
でも,教師と一対一ならば質問がしや
たい。
①
すくなる。また,中には教師から直接
人格を尊重し,「○○さん」と敬称
声を掛けられることで,意欲がわいて
を付けて呼ぶようにする。
くる生徒もいる。
②
生徒と視線を合わせる。
③
座席順や,日付に対応させるような
②
授業の緊張感
教師が近づくことによる緊張感も,
安易な方法は避ける。
④
指名回数が偏らないように心掛ける。
生徒を授業に集中させる要素の一つで
⑤
特定の生徒を飛ばさない。
ある。授業と無関係のことをしている
⑥
特定の生徒とばかり応答しない。
生徒を注意するときも,生徒の近くで,
静かに言う方がよい場合が多い。
2
発問の際の留意点
発問は,計画性のある具体的なものにし
たい。あいまいであったり,具体性に欠け
4
机間指導での留意点
(1) 学級全体への指導
①
る発問はかえって生徒を混乱させるので注
机間指導を始める前
・
意が必要である。
②
発問する際に生徒に応じて発問の難易を
学級全体に的確な指示をする。
途中で指示を追加するとき
選べば,全員の生徒が答えることができる。
・
教壇の正面に立つ。
「分かりません」で終わらせず,授業に参
・
生徒の学習を一時中断させ,全員
が聞く姿勢になってから指示する。
加させる指導を心掛けよう。たとえわずか
でも,「できた」という充実感を与えるこ
(2) 机間指導中の個への対応
とが大切である。個に応じた指導により,
生徒からの質問に答えたり,つまずい
生徒が主体的に学習に取り組む意欲をもて
ている生徒に適切なヒントを与えたりす
るように配慮していきたい。
る機会にする。
また,学習姿勢が崩れている生徒がい
れば姿勢を正させる。
- 12 -
<A
A−4
計 画 と方 法 >
プリント教材を作るに当たっての留意点は何か。
ようなときに,身近にある具体例や興味
プリント教材は,教科書による授業展開
を引く教材を用いる。
を補うものである。教材の主体は教科書で
あって,プリント教材はあくまでもその周
(p.46参照)
(2) 作業プリント
辺に位置付けるべきである。したがって,
図をかいたり,計算をしたりすること
プリント教材は教科書との対応が付けられ
で,法則性に気付かせるために用いる。
るように構成することが大切である。
①
習熟のための単純作業
教師に教材全体についての深い理解がな
②
発見のための作業
ければよいプリント教材は作れない。また,
③
公式を導き出す作業
(p.42,p.50,p.52参照)
プリント教材は授業展開や生徒の興味・関
心,習熟度への配慮が欠かせない。同僚や
(3) 演習プリント
先輩のものを参考にしたり,アドバイスを
教科書の練習問題と同程度の問題を授
受けたりするようにしたい。またこれらの
業中に解かせ,授業内容をより定着させ
プリントは評価の一部として使用すること
るために用いる。
(4) 発展応用プリント
も意識して作成したい。
教科書には載っていない発展的内容や
1
関連した話題を示したいときに用いる。
サブノートとして利用する場合
(p.61参照)
教科書中心の授業では難しすぎる場合や
時間の短縮を図りたい場合など,プリント
(5) 別解プリント
一つの問題でも多様な考え方や解き方
中心に授業を進めるときは,次のことに注
がある。生徒の主体的な取組を促すとと
意する。
①
もに,様々な考え方を示す。
単元全体を通して作成する。できれ
(p.58参照)
ば年間を通して作成する。
②
③
保存しやすいように配慮する。
・
ファイルを用意させる。
・
穴を開けて配付する。
・
通し番号を付ける。
3
宿題として利用する場合
生徒の学習意欲を高めたり,授業内容を
確実に理解させたりするのに,宿題として
プリントを用いるのは有効である。生徒全
書き込みスペースを多めに作る。
員が取り組めるようなプリントならば,学
2
習内容の定着と学習意欲の持続,さらに授
教科書の内容を補足する場合
この場合のプリントには,次のようなも
業に臨む積極的な姿勢が期待できる。その
のがある。なお,作成に当たっては,発見
際,宿題の質と量のバランスには配慮した
させたい内容や誘導的な部分を盛り込むよ
い。さらに,個に応じてプリントを利用す
うにしたり,ノートにはれるようにしたり
ることもできる。また,宿題をプリントに
するなどの工夫をしたい。
すると,回収しやすくなる利点もある。
(p.15参照)
(1) 単元の導入プリント
いきなり教科書で説明すると,内容が
抽象的で理解しづらい場合がある。その
- 13 -
<A
計画 と方 法 >
A−5
参考書や問題集を授業でうまく利用するにはどうしたらよいか。
参考書や問題集を授業中に利用すること
2
参考書や問題集を授業でうまく利用する
も考えられる。あらかじめ十分な教材研究
をした上で効果的に使えるようにしたい。
問題の精選
には,問題の精選が必要である。
①
1
参考書や問題集を使う目的と場面
(1) 教科書の内容を補足する場合
よい問題を選ぶ
・
すべての教材に目を通す。
・
問題の扱い方を考える。
②
教科書に,適切な例題や練習問題が見
欲張らない
当たらない場合,問題集から意図に合っ
・
欲張っては消化不良になる。
た問題を取り上げることで学習効果を高
・
多すぎるとポイントがぼける。
めることができる。
生徒の習熟度を見極めて取捨選択する
また,覚えておきたい公式や計算方法
が教科書では取り上げられていない場
ことが大切である。
合,参考書を利用することで,それらを
3
学習することができる。
留意事項
(1) 補助教材として扱う
(2) 問題の反復練習をする場合
教科書の問題だけでは定着が十分でな
授業で参考書,問題集のすべてを扱お
かったり,繰り返して練習したりすると
うとしても無理である。参考書や問題集
き,問題集を利用すれば基本事項の定着
はあくまでも補助教材であることを認識
を図ることができる。また,早く問題を
したい。
終えた生徒が問題集に取り組むことで,
(2) 取り決め事項を確認する
より多くの問題に触れることもできる。
学校や学年によっては,参考書や問題
いずれの場合でも,問題集はいつも用意
集を長期休業中の宿題にしたり,試験範
させておく方がよい。
囲に設定したりする場合がある。独り善
がりにならないように取り決めを守り,
(3) より高度な問題の演習をする場合
進度やバランスを考えて利用する。
総合問題を参考書から取り上げること
により,現在学んでいる内容がどのよう
(3) 問題を解くだけの授業にしない
な場面で有効に利用できるのかを理解す
「問題を解けるようにする」「試験で
ることができる。まとめを終えた後,発
よい点を取る」ためには,いろいろなタ
展や応用問題として取り上げるとよい。
イプの問題を解くことが必要かもしれな
い。しかし,次から次へと演習を繰り返
いずれの場合でも,目的に応じた適切な
すだけでは,「数学」=「問題演習(解
問題を選択し,授業の中での時間配分を考
けた・解けない)」という意識を植え付
えながら計画的に利用することが大切であ
けるだけであり,数学的な見方や考え方
る。
のよさを認識させることはできない。解
く過程の大切さを強調し,問題を解決す
るための工夫が身に付くような授業展開
を心掛けたい。
- 14 -
<A
A−6
計 画 と方 法 >
家庭学習の扱いは,どのようなことに気を付けたらよいか。
授業内容が定着するためには家庭学習は
・
不得意分野の克服
欠かせないものである。この家庭学習の大
・
参考書の応用問題
切さを認識させ,生徒が自主的に取り組め
2
るようにしたい。
宿題を出すときの留意点
(1) 問題の選び方
1
すべての生徒が取り組むことができる
家庭学習の方法とその内容
ように質と量に留意して問題を選ぶ。
(1) 日常の学習
(p.23参照)
生徒の日常の学習は,教科書や問題集
を用いた予習や復習が基本である。生徒
(2) 宿題の提出
が家庭学習の必要性を感じ,積極的に取
宿題は必ず提出させる。期日までに未
り組む気持ちになるような授業展開を心
提出の生徒がいたら,その理由を本人に
掛けたい。
確認し,提出できるように指導する。宿
題を提出しない生徒は何らかのつまずき
定期的に宿題を出したり,予告してこ
まめに単元ごとの確認テストを行ったり
を抱えているので,継続的に指導を行い,
することも個々のつまずきや理解度を知
家庭学習の意欲をもてるようにする。
宿題を提出させた場合は,添削したり,
る上で重要である。学習方法を自分で見
付けられない生徒へは,より具体的な指
コメントを書いたりして返却したい。コ
示を与えておく方がよい。
メントでは,「この着想がとてもよい」
のように生徒のよさを具体的に評価する
学習に取り組みやすいように,プリン
ことや,
「君のここがよくなったね」と,
トを作るなどの工夫もしたい。
個の伸びを認め,励ますことを重視した
(2) テストのための学習
い。
定期考査は日常の学習の延長にあるの
で,日ごろの復習を主とした比較的取り
3
組みやすいものであろう。
家庭学習の評価
中・長期的なテストの実施計画を示す
日々の予習や復習,また宿題は評価の対
ことができれば,それをペースメーカー
象となる。宿題を提出したか否かだけを問
として,自主的に取り組める生徒も育ち
うのではなく,それに取り組む姿勢も評価
やすいので配慮したい。
の対象とするべきである。
長期休業中の宿題は提出させて評価する
(3) 長期休業中の学習
計画的に取り組めるような宿題を課し
ことはもちろんだが,学期始めに課題テス
たり,テーマを決めて自由に取り組ませ
トなどを行うことによって,生徒の学習意
たりするなど,生徒の意欲に応じて学習
欲を高める工夫も必要である。
できるようにする。
①
②
宿題
・
問題集,参考書の問題
・
宿題用のプリントや冊子
自主的な学習
- 15 -
<A
計画 と方 法 >
A−7
ノート点検はどのように行ったらよいか。
生徒はノートを取ることで学習内容がよ
(3) コメントの記入
り正確に理解できたり,授業に集中するこ
ノート点検は,授業では十分に触れら
との助けになったりする。ノート点検を効
れない事項を個別指導するチャンスであ
果的に行って生徒の学習状況を把握し,授
る。つまずいている所に個々の理解の程
業をよりよいものにしていこう。
度に合ったコメントを書き,指導するよ
うにしたい。また,褒めたり励ましたり
1
するコメントで,生徒のやる気を促すよ
ノート点検の目的
うにするとよい。
(1) 生徒の理解度の確認
授業のノートや宿題のノートを点検す
(4) 早く返却する
ることで,生徒の理解度を確認できる。
返却が遅くなると理解・定着のタイミ
また,記号や用語の使い方の誤りや,形
ングを逸するばかりか,生徒の授業の準
式的に整っていない答案を発見するな
備の妨げにもなりかねない。提出させた
ど,生徒の間違いやすい箇所が分かるよ
ノートは,できるだけ早く返却したい。
(5) ノートの質を判断する
うになる。
板書や解答をただ何となく書き写した
(2) 授業に集中させる
学級の中には,教師の話をよく聞いて
だけで,明らかに理解できていないこと
いなかったり,板書事項を書かなかった
がうかがえるノートがときどきある。生
りと,授業に集中できない生徒もいる。
徒の授業への参加状況や家庭学習の成果
そのような生徒にも,確実にノートを取
を読み取りながら点検をしよう。
らせ,より真剣に授業に取り組ませるよ
うにしたい。
ノート点検の仕方を工夫しよう
2
留意事項
例えば・・・
(1) 全員に提出させる
期日に提出しない者は本人に確認して
☆
点検する箇所を開けて集める。
☆
問題番号の記入方法を統一し,
提出するように指導し,最終的には全員
が提出できるようにしたい。
問題を確認しやすくする。
☆
未提出者を何もせずに放置しておく
と,他の生徒もこれをまね,徐々に提出
しなくなる。また,未提出者を黙認する
と生徒は不公平感をもち,教師への信頼
集める係を決め,名簿や座席の
順に集める。
☆
ノートに書く名前の位置を指定す
る。
☆
をなくす。
問題の進度表を作り,チェック
できるようにする。
(2) 不備等の指導
☆
ノートが正しく取られていない場合
や,伝えたい事柄が正しく伝わっていな
い場合には,個別に指導するなどし,再
提出させるようにしたい。
- 16 -
提出の日付, 内容等が書き込め
るようにして表紙にはらせる。
☆
コメントでやる気を促す。
などなど
<A
A−8
計 画 と方 法 >
小テストを実施するとき,どのような点に注意したらよいか。
小テストにもそれぞれ目的がある。何を
(2) 実施時期
小テストは弱点の克服や特定分野の定
ねらって行うのか,どこまで要求するのか,
事後の指導はどうするのか,などを考えた
着, また単元をまとめたいときなどに使
上で小テストを実施したい。そして,テス
用される。いずれの場合もねらいを明ら
トをする以上は,しただけの効果があるも
かにしてタイミングよく行うと効果が大
のにしたい。
きい。小テストは狭い範囲であることが
また,定期テストだけでは,確認したい
多く, 生徒は自分自身のつまずきにいち
学習内容が多くなりすぎたり,指導の時機
早く気付くことができる。また, 教員は
を逸したりすることがある。小刻みに行え
生徒の理解できていない点を把握し, 自
る小テストを適宜利用していきたい。
分の授業を改善する材料とすることがで
きる。 そのため,事後指導にも気を配る
1
必要がある。
小テストの効用
小テストを授業の一環としてとらえ,生
(3) 事後指導の例
小テスト同様タイミング次第で効果に
徒と教師の双方が授業について反省するた
大きな差が生じる事後の指導は速やかに
めに利用したい。
生徒は,解けるかどうかを自己診断し,
行うことが大切である。また,生徒それ
理解していないところや間違えたところを
ぞれに 問題が解 けなかった理 由がある。
再度やり直すきっかけにする。
それを 理解して,今後の指導に生かして
教師は,理解や定着が不十分だった内容
いくとよい。
を見付けて補充したり,指導方法の改善の
①
追試を行う。
きっかけにしたりする。また,生徒個々の
②
やり直しをさせ,提出させる。
予習・復習の状況や学習内容の理解度を把
③
新たに類題を与える。
握し,個別指導の資料とするのもよい。学
④
個別に指導する。
習意欲の高揚を図る上で,小テストは定期
テスト以上の効果をもつ場合があることを
知っておきたい。
こんな小テストはどう?
例えば<数列>分野で・・・
2
小テストの実施方法
☆
(1) 問題作成
①
等差数列, 等比数列の公式を確認す
る。
最低限理解させるべき基礎的・基本
的内容を明確にする。
②
ポイントを押さえた問題を作成する。
③
内容が盛りだくさんになりすぎない
ように留意する。
☆
Σの公式を確認する。
☆
階差数列の一般項から元の数列の一
般項を求める。
☆
和の式から一般項を求める。
などなど
また,実施に当たっては,学年担当者
の共通理解を得るようにしたい。
公式の確認から使いこなすための練習
まで目標をはっきりさせるとよい。
- 17 -
<A
計画 と方 法 >
A−9
定期考査の問題作成やテスト返却時には,どのような点に注意したらよいか。
生じるため、慎重に取り扱い、安易な
定期考査は授業の到達度を測るものとし
コピーは避ける。
て,日々の評価と併せてとても重要なもの
③
である。また定期考査での出題内容は,授
作成した問題は実際に解いてみて,
業の受け方や学習の仕方を左右すると言っ
その量や内容,解答スペースなどを確
ても過言ではない。問題作成に当たっては,
認する。
④
十分な配慮と慎重さが求められる。
テスト作成後は必ず他の複数の教師
に点検を依頼し、ミスのないように細
1
心の注意を払う。
作成に当たって
(1) 問題作成の基本
以下の点に考慮して作成するとよい。
①
2
(1) 早く返却する
信頼性
テストの返却は,早ければ早いほどテ
生徒の学力格差に対応し,一人一人
ストを実施した効果は大きい。テスト後
の学力を正確に反映する問題
②
妥当性
の最初の授業で返却するようにしたい。
目標・教材・難易度から見て妥当で
ただし、採点ミスや転記ミスのないよう
に十分注意する。
ある問題
③
(2) やり直しをさせよう
診断性
やり直しをさせることで,学習内容の
弱点やその原因を把握できる資料に
定着を図りたい。単に点数が「良い」
「悪
なる問題
い」で終わることのないよう,生徒に応
(2) 基本条件に関連した注意事項
①
じた声掛けの実施など,十分な事後指導
評価の四観点のバランスを考慮した
出題を心掛ける。
②
テスト返却時の注意事項
を行いたい。また,テストの感想を書か
(p.6参照)
せることも,生徒の新たな面を発見した
分野・観点・難易を多様に設定し,
り,認識を深めたりするきっかけになる。
テスト範囲から偏りなく出題する。
特に授業で力点を置いた箇所は必ず
3
出題する。
③
したい。生徒のつまずきの原因を分析する
授業での手応えや生徒の習熟度を考
とともに,教材の扱い方や教具の利用の仕
慮した上で,予想される誤答と誤答理
方,個別指導の在り方などを振り返り,授
由が考えられるような設問にする。
業改善の道を探
りたい。
(3) その他の注意事項
①
テストの結果を,教師の自己評価に生か
設問においては,正答が偶然に左右
されることのないようにする。
④
学級間の不公平が生じないよう,あ
らかじめ教師間で指導内容についての
共通理解を得ておく。
②
教師の自己評価
手作りで作成する。既成の問題を参
考にするのはよいが,著作権の問題が
- 18 -
<A
A−10
計 画 と方 法 >
授業進度が遅れる傾向にある場合,どう対処すればよいか。
限られた授業時間の中で必要な事柄を教
3
教材の精選
教材の精選は,生徒の状況に応じたゆと
えるのは,大変なことである。無駄を省き,
遅れることがないように,授業内容と方法
りのある授業展開を可能にする。その意味
を研究し,改善の努力を続けていきたい。
でも,教材の精選は教師にとって大切な仕
事である。
1
(1) 生徒の学力を把握
授業が遅れる理由
授業が遅れるのには,それなりの理由が
生徒の学力の把握は,教材を精選する
ある。自分の授業を今一度,振り返ってみ
ときの大前提である。生徒一人一人の理
よう。
解力は多様であり,学級間にも差がある。
(1) 実態に応じた進度計画か
個々の生徒の学力はもちろんのこと,集
団としてのレベルも把握し授業内容を決
年間指導計画を見て,周りの先生に何
めていきたい。
を重点的に教えるべきかを聞いてみる。
(2) 教材の精選
(2) 指導方法は万全か
・
ねらいがぼけていないか。
教材研究を十分行い,教材の精選を心
・
しゃべりすぎていないか。
掛けたい。指導する必要がないと思うと
・
同じことを繰り返していないか。
ころは,他の教師と相談の上,カットす
る勇気と決断力をもちたい。授業では,
(3) 始業時刻が守られているか
生徒の学力に合った「よい教材」で指導
少し早めに教室に行き,宿題や予習状
したい。
況を確認したり,生徒との交流を図れる
とよい。
4
(4) 生徒は授業に集中しているか
進度と指導のバランス
進度を考えるあまり,教師が一人で授業
(p.22参照)
を進める形になっては本末転倒である。限
2
られた時間の中で,生徒により深く理解を
充実した授業展開
させることが教師の大きな役割である。
(1) 目標をつくる
そのためには,生徒の理解度を日ごろか
年間の学習指導計画や学期・考査ごと
ら確認し,何を教え,何を生徒に発見させ
にどの単元に重点を置くか決める。
るのかを授業の前にきちんと確認しておく
(2) 計画を立てる
1回の授業の中でどこにどれだけの時
ことが重要である。
間を使うかを考える。
(3) 授業展開
「よい教材」って?
計画に合った形で進められればよい
☆
興味や関心を引く教材
が,生徒の実態を観察し,臨機応変に変
☆
すべての生徒が取り組める教材
更を加えよう。
☆
多様な考え方ができる教材
☆
一般化などへの発展性がある教材
などなど
- 19 -
<A
計画 と方 法 >
A−11
個別指導や少人数の指導は,どのように行えばよいか。
個別指導や少人数の指導は教育の最も素
2
少人数の指導について
朴な姿であるが,一人の生徒を教え育てる
少人数のスタディクラスに分けて授業す
営みの中に,教育にとって大切なものがす
ると,目が行き届きやすく,一人一人の理
べて含まれている。教師は,集団を指導す
解度のチェックが容易になる。そのため,
る力とともに,生徒一人一人を教える力を
生徒の反応によって指導法を変え,必要に
合わせもちたい。
応じて補足説明をする事も可能である。ま
た,1時間の授業で何回も指名・発問がで
1
き,授業への参加意識を高めることができ
個別指導をしよう
一斉指導と個別指導とを組み合わせ,生
る。
一方で,ホームルームが解体されるため,
徒の学習意欲を喚起するように指導した
い。
仲の良い友達と離れ,生徒同士で学習内容
(1) 授業についていけない生徒
の話合いができなくなってしまう。また,
①
②
授業中は,机間指導により個々の生
移動教室で休み時間が短くなり,授業の冒
徒のつまずきを把握し,その場で指導
頭が落ち着かないなど,留意すべき点もあ
する。
る。
(p.12参照)
授業後は,個別に呼んで指導し,分
(1) 習熟度別学習
1学級2展開,2学級3展開など習熟
かることの喜び,できることの喜びを
度に応じて編成するため,生徒の学力が
生徒が感じるように指導する。
③
ほぼ同じで,授業の焦点が合わせやすい。
生徒との面談により,なぜ数学がで
きないのか,なぜやる気がしないのか
一方,優越感や劣等感に対する精神的なフ
など,生徒が自身を振り返るチャンス
ォローが必要になる。
到達目標,評価規準・基準に関する教
をつくる。
科担任間の意志の疎通が不可欠である。
(2) 余力のある生徒
①
②
授業中は,生徒との応答により授業
(2) 少人数の学習
展開をリードさせたり,学習課題を様
実験や実習を伴う授業(例えばコンピ
々な観点でとらえさせたりし,数学へ
ュータ利用の授業)で,人数を制限する
の関心を更に高めるようにする。
必要がある場合に,名簿番号などによる
家庭学習では,応用問題のプリント
振り分けでスタディクラスを編成する。
や,発展的な課題プリントなどを学習
生徒一人一人がより積極的に授業に参加
するように指導し,その上で添削指導
し,活気のある授業展開が可能になる。
を行うなどして,数学的な思考力を一
(3) 一斉指導の中における個別学習
各個人に,自分の関心に沿った別々の
層伸ばすようにする。
課題に取り組ませる。個人の活動に根ざ
しているので意欲的な取組も可能である。
- 20 -
<B
B−1
学 習意欲 のも たせ 方>
数学に対する関心・意欲を育てるために,どのような授業を行えばよいか。
多くの高校が同じ悩みを抱えて苦労して
り着くことができる。図形やベクトルや座
いる。これを解決するには,まず全校的な
標などを使って,様々な解法を示すとよい。
取組が必要である。習熟度別学級編成やス
できそうな生徒にはヒントを出しながら,
タディルームを実施しているのはこのため
違う視点から解法を求めさせるなど,数学
である。ここでは,このような取組の他に
の奥深さを感じさせたい。
どのような方法があるか考えてみよう。
4
1
教材の工夫,コンピュータ,立体の活
用をしよう
生徒をつかもう
教科指導は生徒の実態把握をしなけれ
数学にはイメージしにくい図形や上手に
ば,どんなに素晴らしい授業も生徒に伝わ
かけないグラフなど,生徒にとってつまず
らない。生徒の実態をつかむ鋭敏な感覚と,
きやすい分野が多くある。そこで,コンピ
多感な青年期の心理を理解する心をもちた
ュータを活用して変化するグラフを映し出
い。
したり,立体を活用して平面ではかきにく
実態把握(学力や意欲など)の例
い形を実際に触れさせるなど,教材の工夫
・
生徒と面談する。
の仕方によって生徒の関心・意欲は大きく
・
授業やテストの感想を書かせる。
変わってくる。
・
小テストを実施する。
・
生徒のノートを見る。
5
(p.2参照)
課題学習を取り入れよう
「課題学習」とは,生徒が自ら課題を見
2
いだし,その解決に主体的に取り組む学習
いろいろな難度の問題を提示しよう
のことである。
(1) 例題や問題の精選
特に内容をよく理解している生徒に
数学の授業では,教師が問題を与え,そ
は,教科書の問題では意欲をもてないこ
れを解説するといった指導になりがちであ
とも多い。傍用問題集を上手に活用した
るが,生徒の学力差が大きいときは,課題
り,公式の証明をさせたり,何かを考え
学習を取り入れるのも有効である。
(p.64参照)
る時間をつくりたい。
やってみよう!
また,内容の定着の不十分な生徒には,
教科書のどの問題がまず解けるようにな
オイラー線の証明をしよう
ってほしいかを考え,授業の中で重点的
に教えていくとよい。
(p.8参照)
(2) プリントの利用
重 心 G・垂 心 H は 常 に 一 直 線 上 に あ り ,
2 OG=GH ) の 証 明 方 法 は い ろ い ろ あ る
何種類かの問題を準備し,全員が解答
3
オイラー線(三角形において,外心 O・
ので一度自分でやってみよう。
するものと理解度に合わせて解くものを
①
解析的解法
平面座標上を用いる
提示する。
②
幾何的解法
幾何的意味を用いる
③
ベクトルを用いた解法
(p.13参照)
視点を変えた解法の解説をしよう
などなど
数学は様々な解法を用いて,答えにたど
- 21 -
<B
学習 意欲の もた せ方 >
B−2
生徒が授業に集中しないので困っている。
授業に対して無気力・無関心である生徒
にはどう対応したらよいのだろうか。また、
3
教師自身が気を付けよう
(1) 授業時間を必ず守る
集中力が持続できず,居眠りや私語をする
教師は,始業のベルが鳴るときには教
生徒も見られる。そのような生徒を集中さ
壇に立っており,終業のベルが鳴ったら
せるには,授業展開に工夫が必要である。
すぐ授業を終わるようにすべきである。
教師が時間にルーズであれば,生徒もこ
1
れにならうことが多く,授業全体の緊張
参加型の授業にしよう
を欠く原因にもなる。時間を守ることは
生徒自身が集めたデータを用いたり,コ
社会生活の基本である。
ンピュータなどの教具を利用したりする授
業であると,生徒は積極的に授業に参加し,
(2) 授業計画をしっかり立てる
達成感や充実感を味わうことができる。こ
生徒のためにと思い,多くのことを教
のような参加型の実験・実習授業には,生
えようと頑張って授業を延長することが
徒はおのずから集中して取り組む。
あるが,これはよい結果を招くとは限ら
また,作業プリントを用いて学習するの
ない。集中力が欠けて,内容の徹底がで
も集中させる一つの手段である。この場合
きないことが多い。授業を延長しなくて
は,作業を通して生徒が何かを発見し,そ
よいように授業計画をしっかり立て,教
の発見を更に発展できるようにすることが
師自らが始めと終わりでけじめを付ける
大切である。
ようにしたい。
いずれにしても,生徒自身の数学的活動
を通じて得られる気付きや発見を大切にし
4
喜びを見いだせる授業にしよう
授業では,生徒にどんどん発問して参加
て,生徒と教師の相互作用によって,数学
意識を高めよう。よい意見に対しては大い
を「創る」ような授業にしたい。
(p.42,p.44,p.50参照)
に褒めよう。意見交換の中で導かれた公式
には「○○さんの公式」と命名したり,授
2
業の展開に使えそうな意見を大きく取り上
授業にアクセントを付けよう
最初から生徒を引き付ける授業のできる
教師はまれである。しかし,授業で,学習
げたりすることによって,自分たちで授業
をつくり上げる喜びを味わわせよう。
内容に関連した興味深い例を示したり,生
徒が関心をもつ話題,教師自身が最近気に
5
学習環境を整えよう
なっている話題,学校行事に関する話など
机上や周りに不要な荷物があったり,移
を多様な話題として取り入れて気分転換を
動教室などで,授業開始直後落ち着いてい
図ったり,ポイントごとに発問して要点を
ない場合がある。一度,生徒の視点に立っ
確認したりするなどの工夫はできるのでは
て,何が授業への意識を阻害しているのか
ないだろうか。
をよく考えてみよう。
- 22 -
<B
B−3
学 習意欲 のも たせ 方>
宿題をやってこない生徒が多くて困っている。
宿題をやってこない生徒が多い原因は何
3
宿題を評価しているか
であるのか。「生徒にやる気がないから」
宿題を出した場合,宿題を解説する時間
という声をよく聞くが,本当にそうであろ
を設けたり,宿題と同様な問題を小テスト
うか。生徒は,多かれ少なかれ勉強したい
として実施することによって,生徒の要求
という気持ちをもっているものである。宿
にこたえたい。また,ノートを点検し,宿
題をやってこない場合に,まず自分自身の
題をやってきたことを褒めることで生徒の
取組を点検し,反省してみよう。
やる気を引き出すこともできる。宿題の点
検は,代表生徒が宿題の解答を板書してい
1
る間や,問題演習中の机間指導の間にもで
授業が理解されているか
宿題の前にあるのが授業である。授業が
きる。さらに,ノート点検の際や,宿題の
分からなければ補充や確認としての宿題は
解答を板書させたときに,誤答分析をする
できるはずがない。宿題の取組状況は授業
ことで適切な宿題かどうか確認し,次回の
に対する評価と素直に受け止め,生徒が授
授業や宿題に反映させたい。
業内容をどの程度理解しているかをチェッ
4
クし,反省しよう。
やる気を引き出す指導をしているか
(1) 明確な授業目標と気迫
2
明確な授業目標と「分からせよう」と
実態に応じた宿題を与えているか
生徒からは「解法が分からないのでやる
する教師の気迫が,生徒の理解しようと
気が出ない」「問題を解くきっかけがつか
する気持ちを引き出す。また,「分かっ
めない」といった声もよく聞かれる。生徒
た」という充実感が,宿題をやってくる
の学力差は,私たちが考えるより大きいこ
原動力にもなる。逆に,「どうせやって
とがある。実態に応じた宿題を与えている
こないだろう」とあきらめてしまうと,
か,もう一度見直してみよう。
生徒もそれを敏感に感じ取り,ますます
①
(2) 個に応じた宿題の提示
を起こすような適切なものにする。
②
③
勉強しなくなってしまう。
宿題の分量や難度を,生徒がやる気
宿題を解いたその場で正解が分かる
必要に応じて個別に宿題を提示し,指
ことも意欲の持続につながるので,宿
導するのも効果がある。一教師対一生徒
題を与えると同時に,答や略解をプリ
の関係をつくることが大切であり,それ
ント等で提示する。
によってやる気を出す生徒も出てくるも
取り掛かりやすくするために,ヒン
トを与えたり,計画的に授業の最後10分
程度を考えさせる時間に充てたりする。
- 23 -
のである。
<B
学習 意欲の もた せ方 >
B−4
発問に対して「分かりません」と答える生徒にどう対処すればよいか。
発問と応答は授業展開を左右する重要な
(4) 授業に集中していない場合
ポイントである。よい発問は生徒の思考に
授業態度に対する注意を与えるととも
「揺さぶり」を掛け,内容のある答えを引
に,授業に引き入れる工夫が必要である。
き出すことができる。効果的な発問と応答
普段から意欲が感じられない生徒とは,
への適切 な 対 処 に努 め,生徒の力を educate
日ごろの指導を通じて良好な人間関係を
(引き出す)したい。
つくっておきたい。
1
「分かりません」という返答について
なぜ「分かりません」と言ったのかを考
2
(p.18参照)
発問の仕方の留意点
(1) 全体に投げ掛ける
え,対応していくことが大切である。
発問は全体に投げ掛け,その後に生徒
(1) 発問に問題がある場合
を指名して応答させるのが基本である。
発問が大ざっぱであったり,具体性に
(2) 「間」(考える時間)をとる
欠けたりしているとき,生徒は何を答え
必ず考える時間をとる。間の長短は発
てよいのかに迷う。思い付きの発問では
問の難易によって決めればよい。このと
なく,よく準備された具体性のある発問
きに,教師が不必要に発言をすると生徒
を計画的に行うようにしたい。
は考える機会を失ってしまうので注意し
(2) 生徒に自信がない場合
よう。
分かっていても自信がない場合に,生
(3) 文章で答えさせる
徒は「分かりません」と答える傾向があ
応答は「単語」ばかりではなく,考え
る。間違えて発言してもかまわないとい
を述べさせる。このことが論理的な思考
った学級の雰囲気づくりをしたい。それ
力や表現力の育成につながる。文章で答
でも,このような気配を察知したときは,
えさせるには,発問にそれなりの工夫が
一定の時間,隣同士で話し合わせるのも
必要である。
よい。この応答前のペア協議は発言に自
(4) 整理して伝える
信を与え,「分か りません」という素っ
発問・応答の主旨は教師が整理して,
気ない応答を避けることができる。
生徒全員が理解できるようにすべきであ
(3) 本当に理解していない場合
る。特に生徒の答が要領を得ないときは,
本当に分からないのなら,補助発問や
その生徒に補助発問をして整理できるよ
ヒントを出して答えに近づけるようにし
うにするか,教師が整理して全体に正確
たい。時間がかかっても,何らかの支援
に伝えるようにしたい。
によって生徒の力を引き出し,必ず答え
(5) 評価する
られるようにしていきたい。ただし,無
生徒の応答を十分尊重し,努力を認め
理に「答」に近づける誘導的な発問は思
るとともに適切な評価をしたい。それが
考放棄になることが多く,生徒の自信に
応答の意欲を育てることになる。
もつながらないので注意したい。
- 24 -
<B
B−5
学 習意欲 のも たせ 方>
(1)「私はどうせできないから」と言って努力しない生徒に困っている。
(2)「すべての生徒に数学を教える必要があるのか」と考えてしまう。
本来,生徒には知的好奇心がある。毎日
開けることを信じて悪戦苦闘する中に知恵
の授業の中で「分かった」「自分の力で解
もわいてくる。そうした努力を重ねて生徒
けた」という喜びを与えることができれば,
の考え方や生き方に少しでも関与できたと
意欲をもって努力を始めるのではないだろ
き,教師としてのやりがいを感じるのでは
うか。
ないだろうか。
また,数学を学ぶ意義や具体的な生徒へ
「数学ができない生徒は,他の面でよい
の対応については p.26∼ p.27を参考にし
所を発揮させればよいのではないか」とい
てほしい。
う考え方もあるが,そこに自分へのごまか
しはないだろうか。もしかして伸びる芽を
1
摘んでいるのではないだろうか。生徒の多
教師の情熱
「数学が苦手だ」という先入観や,「数
様化に対処するというのはよいが,それが
学ができない」という劣等感をもっている
極端になって,「勉強したくない者はやら
生徒がいる。このような場合,簡単なこと
なくてよい」「できない生徒はやっても無
から始めて段階を踏みながら,生徒が「や
駄だ」となっては,教師の存在理由が問わ
ればできる」という自信をもつまで粘り強
れることになる。「自分の勝手だから,ほ
く指導していきたい。また,「最低限必要
っといてくれ」と言う生徒にも,教育者と
なことは必ずできるようにしてみせる」と
しての使命感をもって,粘り強く接してい
いう教師の姿勢も大切である。教師の情熱
きたい。それが教師のあるべき姿であり,
が生徒の気持ちを奮い立たせるのである。
その姿を生徒はじっと見ているのである。
特に,新しいスタートラインに立った入
学当初の生徒への激励が最も重要である。
3
個別指導
生徒の状況をできるだけ早く把握するよう
個別指導は教師と生徒の直接の人間関係
にしたい。そして,生徒に「この先生の言
の基に,その生徒に応じた指導と評価を行
うことならやってみよう」と思われるよう
う教育である。集団を効率よく指導するこ
な教師になりたいものである。
との重要性もさることながら,一方で,集
団指導の中で個が埋没し,学習意欲を失っ
2
ていくようであれば,真に効率が上がって
教師の使命感
「やる気のない生徒に,なぜ嫌な思いを
いるとは言えない。教師に一人の生徒を導
してまで数学を教えなければいけないの
く力がなくて,どうして個の集まりとして
か」と感じることもあろう。どんなに懸命
の学級を導くことができるだろうか。
に指導しても,やる気を起こさない生徒も
数学に対してマイナスの先入観や劣等感
いる。「努力が報われなくてむなしい気持
をもっている生徒には,是非個別指導の手
ちになる」と悩むこともあろう。しかし,
を差し伸べたい。
努力が報われず,挫折感を味わっても,や
る気のない生徒に意欲を起こさせようと努
力するからこそ教師の値打ちがある。道が
- 25 -
(p.20参照)
<B
学習 意欲の もた せ方 >
B−6
「数学をやって何になるの?」と生徒から質問されて困っている。
ら回避できるのではないだろうか。疑問
以下に述べていることは答の一例に過
をもたないことや,判断しようとしない
ぎない。数学を学ぶ意義について,一人
のは,数学力が不足している姿とも言え
一人の数学教師が悩み,深く考え,答を
る。
(2) 問題解決能力
追究していきたいものである。教育は,
現実の諸問題をいろいろな視点で見た
絶えず成長している人間を育てるもので
り,与えられた条件の中で解決したりす
あり,教師には不断の努力が求められる。
ることは,数学の問題を解く過程と同じ
である。また,その方法を他人に理解し
「生きる力をどう育てるか」は教育にお
てもらうには,自分の考えを論理的にま
ける大きなテーマである。このことは数学
とめ,筋道立てて表現しなければならな
教育においても同じである。数学では,自
い。数学では,数学的な見方や考え方,
ら考えたり実験したりする学習の場を設定
あるいは考える態度の育成を通じて問題
しやすく,主体的な思考力や問題解決能力
解決能力を育て,正に社会で生きる力の
の育成を図ることができる。また,豊かな
基盤をつくっているのである。
社会を支える文化としての側面からも説明
2
できるようにしておきたい。
この質問の出る背景を知ろう
生徒が「数学をやって何になるの?」と
1
質問する背景には,次の二つが考えられる。
数学の意義
現代社会では様々な情報が氾濫し,それ
(1) 勉強からの逃避の場合
らの情報の価値判断を自ら行うことが困難
数学という教科の問題だけでなく,生
になっている。しかし,このような事態だ
活態度の問題でもあり,一教科担任だけ
からこそ,誤りの少ない判断をスムーズに
で取り組めないことが多い。しかし,教
行うための「数学的な見方や考え方」がだ
科の立場から見ると,自信を失い,興味
れにとっても重要であると言える。数学を
や関心をなくしているケースも考えられ
学ぶ過程で「なぜ,そのように判断される
る。そんな時は,できることから始め,
のか」と自ら問うことを日常化させること
生徒の努力を認めることを通して自信を
の意義は大きい。ここでは,数学を学ぶ意
回復させるようにしたい。
(2) 数学の奥にあるものが気になる場合
義について更に深く考えてみよう。
練習問題を解くうちに数学の奥にある
(1) 「なぜ」からの出発
「なぜ」という疑問が次の発展への最
ものが何なのか,ふと気になることは,
初のステップである。疑問が発見を生み,
数学の成績がよい生徒に多く見られる。
発見したことを具体化したり抽象化した
数学を問題演習(公式の当てはめ)とし
りする一連の行為が数学である。
て一面的にとらえ,むなしさを感じてい
例えば,マルチ商法なども「なぜもう
ることも考えられる。資質の高い生徒が,
かるのだろう」という疑問をもち,解明
数学の意義を感得できるように,教師も
・判断しようとすれば,被害はおのずか
授業の改善に努めるようにしたい。
- 26 -
<B
3
学 習意欲 のも たせ 方>
解決する糸口を与えてくれる。
生徒にどう応えるか
数学的内容・知識が失われようとも,
生徒が「数学をやって何になるの?」と,
真剣に考えているのであれば,教師は,そ
数学的な思考法など,なおその後に残る
の疑問に対して自分の考えを説明しなけれ
構造的な部分がある。目には見えにくい
ばならない。
が,考えるときに血肉をなすものの意義
を忘れてはならない。これこそが数学的
Q:数学を学ぶことで何が得られるの。
な知識を直接利用しない者が数学を学ぶ
A:個人としては,以下のようなことが,
意義である。
以上のことから,数学の勉強も,ただ
数学を学ぶ過程で身に付けられる。
①
公式を覚えて答えを出すようなやり方で
多様な見方をする。
はなく,その基本的な考え方を身に付け
物事にはいろいろな見方や考え方があ
るようにしていくとよい。
り,知識や考え方の幅を広めることは,
生活や心を豊かにすることにつながる。
実際の生活場面でも,今もっている知識
Q:数学は,私にはあまり関係ない。国
や情報を基に判断を下すようなとき,数
語や英語の方が役に立つし,中学校まで
学的な見方や考え方が必ず役に立つこと
の数学で十分。計算は割り算まででいい。
A:高校数学で学ぶ内容は,
だろう。
②
論理的に考える。
図形と計量……測量・GPS の原理
2次関数……パラボラアンテナ
物事の真偽を筋道立てて考えること
は,数学の演繹的思考過程で大切にされ
確率……降水確率や宝くじ
る。それは,現実の問題に対処するのに,
対数関数…… pH やマグニチュード
順序立てて解決の道をたどっていくこと
など,身の回りにあるものと密接につな
が重要であるのと同様である。また,近
がっている。また,数学では単に計算の
頃,自己アピールをしたり,プレゼンテ
方法を学ぶだけではなく,数学を通じて
ーションしたりする機会が増え,その能
物事を筋道を立てて考える力を身に付け
力が重要視されている。このような,他
ることも目的としている。将来高校数学
人に対して物事を論理的に説明する場合
を直接使わなくても,数学を通じて身に
に必要なコミュニケーション能力を補強
付けた「物事を筋道を立てて考える力」
することができる。
は大切なものとなるであろう。
③
問題解決の力を身に付ける。
高校で学ぶ内容が社会生活でそのまま
Q:数学的に考える場面はあまりない。
役立つ場合は多いとは言えない。ただ,
A :「 数 学 的 」 な ど と 構 え ず ,「 見 通 し を
この変化の激しい時代においては,いく
もち筋道を立てて考えること」と身近に
ら知識を得ても,それだけでは十分とは
とらえておけばよい。例えば,自分の今
言えず,絶えず新しい内容を吸収してい
後の予定を考えるときに,いろいろな条
かねばならない。そこで必要になるのが,
件や場合に分けて考えていれば,もうそ
様々な情報の中から自分に必要なものを
れは数学的であり,円滑に行うには「 訓
選び出し,分析研究して自分のものとし
練」が必要である。論理的な考えや「抽
ていく力である。これが,正に生きる力
象化」「一般化」「類推」などの数学的な
である。数学的な見方や考え方は問題を
考え方は様々な場面で存在している。
- 27 -
<C
コン ピュー タの 活用 >
C−1
授業でコンピュータをどのように利用するか。
社会の情報化が進む中で,数学の学習指
(2) 1人から2人に1台(実験・実習)
導でもコンピュータを利用することが求め
コンピュータルームを1学級若しくは
られている。積極的にコンピュータを用い
少人数で利用する。生徒が主体となった
る授業を考えてみよう。
学習活動ができる。
①
1
関数のグラフで定数を変えたときの
変化を見たり,シミュレーションから
コンピュータ利用の目的
結果を予想する。
数学の授業におけるコンピュータ利用の
②
目的は,コンピュータの操作に関する事柄
表計算ソフトを用いて,統計計算や
簡単なグラフ作成に役立てる。
を指導することではない。コンピュータの
③
活用によって数学をより深く理解させるこ
数学に関するサイトを紹介し,興味
をもたせる。
とである。このような授業展開のために,
次のような目的をもって授業に取り組んで
3
みよう。
教師がコンピュータの操作に慣れておく
(1) 学習の動機付け
①
生徒の興味・関心を高め,学習意欲
ことは必要であるが,ハードフェアやソフ
トウェアに関する高度な知識がなくても十
をもたせる。
②
発見的・実験的な学習を体験させ,
分活用できる。あまり敷き居は高くない。
また,コンピュータルームで授業を行う
主体的な学習態度を養う。
場合は,以下の点に注意するとよい。
(2) 学習内容の定着
①
正確なグラフや図を提示し,視覚的
(1) 多くのものを持ち込ませない
教科書やノートがあると操作のじゃま
に納得させる。
②
になることが多い。コンピュータ室には
複雑な数値計算を行う。
筆記具だけを持参させる。必要に応じて
(3) 学習の応用・発展
①
プリントなどを用意する。
より多くの場合について,仮説を確
(2) 説明中は操作を止めさせる
かめさせる。
②
自由な発想で取り組ませる。
③
数学のもつ美しさを発見させる。
授業を進める上での注意事項
最近はコンピュータを所有している生
徒も多く,それでなくても好奇心の旺盛
な生徒は操作をしたがる。実習の目的を
2
明確にし,適切な操作をさせるためにも,
授業でのコンピュータの利用形態
説明中はキーボードやマウスに触れさせ
(1) 教室に1台(一斉提示)
1台のコンピュータを一斉指導の中で
ないことを徹底する。ノート型パソコン
用いる。プロジェクターで画面を生徒に
の場合,電源を入れたまま画面を閉じさ
提示しながら授業を行うことで,黒板だ
せるのもよい。
けでは説明しづらい内容も分かりやすく
(3) 生徒の操作を観察する
表現することができる。1時間の授業の
生徒は,教師が予想しないところでつ
一部分で利用することで,メリハリのあ
まずいたり,逆に新しい方法に気付いて,
る授業展開にすることができる。
自分から先へ進めていったりする。操作
- 28 -
<C
コ ンピュ ータ の活 用>
に手間取っている生徒には手助けが必要
ピュータを用いて簡便に学べることの意
である。一方,先に進んでいる生徒には,
義は深い。
問題の応用発展にも積極的に取り組ませ
(3) プレゼンテーションソフト
たい。コンピュータ利用の授業では,生
徒を自由にさせることも大切である。
生徒に教材を提示する場合,見やすく
効果的に提示することができる。またス
ライドにリンクを張り,他のソフトと連
携させることもできる。
4 利用するソフトウェア
コンピュータを利用する授業では目的に
参
応じて適切なソフトウェアを選択しなけれ
考
ばならない。
1
(1) グラフ描画・作図ソフト
「コンピュータを活用する高校数学」
愛知県総合教育センターのHPに
グラフや図形をコンピュータの画面上
のページがあり,多くの授業展開例や
に表示できる。活用例の多いフリーソフ
教 材 が 掲 載 さ れ て い る 。 Grapes, GC
トとしては,Grapes,GC などがある。
などのフリーソフトについても紹介さ
(2) 表計算ソフト
れている。
広く利用されている表計算ソフトなど
http://www.apec.aichi-c.ed.jp/shoko/
も,統計計算や簡単なグラフ作成に利用
できる。
kyouka/math/index.htm
2
特に,数学Bの「統計とコンピュータ」
Grapes は大阪教育大学附属高等学
校池田校舎
友田勝久氏作成の関数グ
の単元では,表計算ソフトを用いた統計
ラフ表示ソフトである。高等学校で出
処理が学習内容として含まれている。
てくるほとんどの関数のグラフを表示
できる。詳細は(「grapes」で検索可)
http://www.osaka-kyoiku.ac.jp/
∼ tomodak/grapes/
3
GC(Geometric Constructor)は愛知
教育大学
飯島康之氏作成の作図ツー
ルである。図形をいろいろな角度から
考察することができる。詳細は(「飯
島研究室」で検索可)
http://www.auemath.aichi-edu.ac.jp/
teacher/iijima/index.htm
4
愛知県高等学校数学研究会では,
各委員会の活動や研究会等について,
以下のHPから情報発信を行っている
例えば,統計関数を用いてテストの得
(「愛知県数学研究会」で検索可)。
点の度数分布を作成したり,グラフ機能
http://www.tcp-ip.or.jp/~aisuu/
を利用して折れ線グラフを描くなどの処
5
理を学習する。統計は,小・中学校の学
教育情報委員会では,コンピュータを
習指導要領から削除されており,情報化
用いた授業の研究を行っている。
社会を生き抜く生徒たちにとって,コン
- 29 -
愛知県高等学校数学研究会数学科
<C
コン ピュー タの 活用 >
C−2
コンピュータを授業の中で活用した具体例を教えてください。
積極的にコンピュータを用いることで,
<ソフト> Grapes
<方法>生徒実習
数学の理解を深める授業展開をいろいろと
<利点>計算によって円の方程式は求め
考えてみよう。
られるが,具体的にはイメージしにくい。
実際に線分RQを動かすことで点Pの動
1
コンピュータの授業活用例
例1
きが分かる。
<発展>Pを中点ではなく,線分RQを
2次関数のグラフ
m:n に分ける点にしたらどうなるか。
f ( x ) = ax 2 + bx + c
m,n を自由に入力して考えさせる。
例3
<ソフト> Grapes
<ソフト> Geometric Constructor
<方法>生徒実習
<方法>一斉提示
<利点>パラメータを変化させることに
<利点>三角形の変化に応じて3点が移
動し,普遍的な性質が読み取れる。
より,2次関数のグラフがどのように変化
するかを具体的に確かめることができる。
例2
2
軌跡と方程式
x 軸上の点Qと y 軸上の点RがRQ=4
を満たしながら変化するとき,RQの中点
Pの軌跡を求めよ。
2
る。単元の導入や指導事項の確認場面でス
コンピュータの利用は,生徒の興味・関
P
1
O
示型ならば,豊富な教材例がネット上にあ
ティームティーチングが有効である。
R
1
コンピュータを授業で活用するとき,提
よい。また,実習では少人数の授業展開や
3
2
1
2
3
Q
心を高め,数学の面白さを発見する機会と
x
なる。できるだけ主体的に取り組ませたい。
1
2
とにかくやってみよう
ポット的に利用することから始めていくと
y
3
平面図形(オイラー線)
実習に失敗は付き物である。失敗を恐れ
ずに,とにかく一度取り組んでみよう。
3
- 30 -
<D
D−1
自 己研 修>
入試問題を授業で扱うときの留意点は何か。
入試問題は良問の宝庫である。その指導
一方,入試問題は扱い方によって問題の
法を工夫することで、よい教材として授業
見方や考え方の幅を広げる重要なアイテム
で取り上げることができる。
となる。
だからこそ,入試問題を扱うときには,
1
それらを通して,生徒自身が筋道を立てて
入試問題を研究しよう
考えたり発見したりすることができるよう
(1) 授業での入試問題の位置付け
①
数学的な見方や考え方を含め,総合
な授業を心掛けたい。
的な力を養う。
②
入試問題の演習を通して,基礎的・
3
大学入試のためだけに数学を勉強させる
基本的な内容を見直す。
③
既習事項を組み合わせたり応用した
のは本来の姿ではない。
入試問題を授業で扱うときも,数学がも
りして解答に至るまでの思考の流れを
っているよい特徴を実感できるように指導
組み立てる練習を行う。
④
入試問題がもつ数学的内容の背景を
したい。
(1) 問題を解く楽しさ
紹介する。
入学試験では,問題を解くのに制限時
(2) 入試問題を利用するときの留意点
①
間がある。しかし,そもそも数学の問題
問題の精選や指導方法などについて,
を解くのに時間の制限はない。数学には,
十分に研究する。
②
③
入試のための数学ではない
問題の背後にある数学的な事実や解
時間を忘れて試行錯誤を繰り返し,新し
法の基になる数学的な見方や考え方に
い発見をしていく楽しさがある。何日も
ついて考察し,授業の幅を広げる。
かけて解けたときの喜びは格別である。
解法は技巧的なものより,一般性や
(2) 答えが出てからが数学
数学では,問題解決後に,「条件を変
発展性のあるものを選ぶ。
え る と 結 論 が ど う 変 わ る か 」,「 逆 は 成
2
り立つか」,「本質的な原理は何か」,「一
受験テクニックに偏らないようにしよ
う
般 化 で き る か 」,「 発 展 性 は あ る か 」 な
受験テクニックだけを教える授業になる
どを追究することも大切である。また,
それが面白さでもある。
ケ−スにおいては,次のようなことが考え
(3) 数学的な見方や考え方のよさ
られる。
①
解法の基にある見方や考え方に主眼
を置いていない。
簡潔さや明瞭さなどに代表される数学
的な見方や考え方のよさが実感でき,数
②
パターン化された解法の練習だけに
なっている。
ような授業を実践し,入試問題もそのよ
③
技巧的な解法ばかり扱っている。
うな授業の中に位置付けるようにした
このような授業では,数学的な見方や考
え方のよさを認識することが難しい。
- 31 -
学を活用しようという意欲が高められる
い。
<D
自己 研修>
D−2
入試問題などで解けない問題があった場合にどうするか。
入試問題に限らず難問・奇問といったた
2
研究会などに積極的に参加しよう
ぐいの問題を,生徒から質問されることが
研究会などを利用して,他の教師の研究
ある。どのような内容の問題であるのか,
発表を聞いたり,一緒に研究したりすれば
その場で判断できる力量を養いたい。また,
視野も広がる。様々な機会を通して,問題
問題を解く力だけでなく,作る力,発見す
発見能力・問題作成能力を含めた数学の力
る力を磨き,そのトータルである教材開発
を付けるようにしたい。
(p34.参照)
の力を鍛えるようにしたい。
3
1
考える楽しさも伝えよう
数学オリンピック,日本数学コンクール
解く努力と誠意ある対応をしよう
(1) 質問に対してすぐに答えられないとき
など,数学的なセンスを評価しようとの試
・
後日答えることを約束する。
みがある。また,校内で数学コンクールな
・
時間をかけて,生徒と共に考える姿
どを実施している学校もある。これらを通
して,数学は「公式に当てはめて問題を解
勢を大切にする。
・
文献などで関連事項を調べる。
くだけ」の教科ではなく「考える楽しさ」
・
自分で考えるとともに,同僚の教師
や「作っていく楽しさ」をもった教科であ
に相談する。
ることを感じ取らせることができる。この
対応する際には,ごまかして不信感を
ような楽しさを自信をもって生徒に伝えら
れるように努力したい。
与えないように留意する。
(2) 教材研究をする
生徒に持たせる問題集や参考書につい
ては,事前に問題を解いておき,生徒に
適切なヒントやアドバイスを与えられる
考えてみよう
国際数学オリンピック
問題例(2007年 ベトナム大会)
a,b を正の整数とする。
ようにしておきたい。
4ab −1が(4a 2−1)2 を割り切るなら
(3) 問題を解く力を付ける
①
数学全科目の教科書をできるだけ早
期に読み終え,高校数学の全体像を把
直径3cmの球形をしたチョコレ−ト
最新の入試問題だけでなく,いろい
を箱に詰め ま す。なるべく容積の小
ろな問題を解く。
③
日本数学コンクール
問題例(2006年 問題の要約)
握する。
②
ば,a = b であることを示せ。
別解や関連事項,一般化などの発展
さい箱に詰めます。箱の形は三角錐・
三角柱・四角錐・四角柱のど
性について考える。
れかの形を使います。このとき,
(4) 問題を見る目を養う
①
10個入りの箱はどんな形がよい
・
どんな内容か。
・
解法のポイントは何か。
・
つまずきやすいのはどこか。
②
9個入りではどうでしょうか。
・
関連する事項,内容は何か。
③
いろいろな個数での最適な形は?
・
生徒にとってよい問題か。
でしょうか。
- 32 -
<D
D−3
自 己研 修>
「話が聞き取りにくい(分かりにくい)」と言われたらどうするか。
てしまう。ポイントを絞って授業の指導
「聞き取りにくい(分かりにくい)」と
内容を考えることが大切である。
言われる授業では,せっかくの指導も効果
半減である。教材研究だけでなく,「話し
方」もいろいろな機会を通して学ぶように
3
技術的にどうすればよいか
したい。
(1) 語尾をはっきりと言う
日本語の特徴として言葉の最後に肯定
1
や否定がくるので,特に語尾をはっきり
原因を考えてみよう
と言うことが大切である。
「聞き取りにくい(分かりにくい)」と
(2) 生徒とのコミュニケ−ションを大切に
言われる原因は幾つか考えられる。
する
・
声が小さい。
・
焦って早口になる。
・
語尾があいまいである。
う。生徒とのやり取りで授業を展開する
・
準備不足で自信がない。
場合は,慌てず意見をしっかり聞き,全
・
多くを教えすぎようとしてしまう。
員に内容をフィ−ドバックすることを心
・
しゃべりすぎてしまう。
掛ける。
・
言葉を精選していない。
生徒の様子をしっかり見て授業を行
(3) 話し方の癖を直す
生徒のノートを見たり,授業の感想を
生徒の視点に立って,自分の授業を観察
書かせたりして,生徒サイドに立ち,自
するスタンスをもっていたい。
分の気付かなかった癖を発見する。
2
(4) しゃべりすぎない
授業前の心構えとして
学習の主体は生徒である。言葉を尽く
(1) 言語活動のマナ−に気を付ける
普段から,言語活動のマナーには自分
して説明することも大切だが,教師のし
も気を付け,生徒にも教えていきたい。
ゃべりすぎは生徒の思考の妨害になる。
・
教師の役割は,知識や技能を生徒に教
人の話を聞く姿勢をつくる。
え込むことだけではなく,生徒自身が自
「話し上手」=「聞き上手」である。
・
分なりの方法で納得し理解できるように
人の発言中に言葉を挟まない。また,
指導することである。
会話に断りもなく介入しない。
・
発言する場合は,意思を明確に表す。
4
(2) 授業の準備を怠らない
話し方の工夫を心掛けよう
教材研究が十分でないと,指導に自信
教師も,講演や研修などあらゆる機会を
がもてず,説明などがあいまいになる。
とらえて話し方の向上をしていきたい。生
授業の構成をしっかり組み立てるように
徒に「説明を聞け」「静かにせよ」と要求
心掛けよう。
する前に,聞きやすい話し方の工夫をする
ことが教師としての務めである。
(3) 授業のポイントを絞る
多くの知識やポイントを教えようとし
てしまうと,授業の目標がはっきりせず,
何をやっているのかが分かりにくくなっ
- 33 -
<D
自己 研修>
D−4
よりよい授業を目指すために必要なことは何か。
ける努力を続けたい。
学生時代に中学や高校で「魅力的な先生」
に出会い,啓発されたという話をよく聞く。
これは,生徒個人の学び方と同時に,教師
2
研修の必要性
の教え方あるいは学ばせ方が重要であるこ
(1) なぜ研修が必要なのか
教育は,教師と生徒との全人格的な触
とを示す例と言える。
幅広い教養と自信をもち合わせた,人間
れ合いを基本とするものである。教師の
味のある教師として,生徒と共に成長する
職務は,単に知識や技能を授ければよい
ような授業を行いたいものである。
というものではない。教師には,高い資
質・能力と教養が要求されており,この
そのためには,研修を怠らず,教師が日
さん
ために研修が必要なのである。
々研鑽を積むことが生徒の成長につなが
(2) 教育の理念の実践
る,ということを常に意識したい。
学習指導要領に示されている事柄を具
1
体的な指導計画に載せ,実践していくの
大学で学んだ数学は授業の基盤
は他ならぬ教師自身である。その意味で
(1) 大学数学の利用
も,教師は常に研究的な視点をもって,
大学で学んだ数学をそのまま高校の授
学習指導に当たりたいものである。
業には利用できない。しかし,大学数学
の視点から高校数学の教材を見直せば,
自分が高校生であったときとは異なった
3
研修の方法
見方ができるはずである。問題の背景を
(1) 校内での研修
教科の研究会(研究授業など),校内
十分に理解し,その意義を踏まえた授業
研修会などが研修の場である。
にしていきたい。
(2) 校外での研修
(2) 授業で扱うときの留意点
高校数学に大学数学への橋渡し的な内
校外での研修や研究会に参加すること
容の教材は幾つもある。しかし,授業で
で自分の資質を高める機会を積極的に作
の深入りは避けねばならない。発展的な
るとよい。
内容であっても,あくまで高校の内容の
・
各地区での数学研究会の内容や研究
延長にとどめ,知識よりも見方や考え方
大会の案内などが愛知県高等学校数学
が身に付くように指導したい。また,発
研究会のHPに掲載されている。
展的な事柄の指導に当たっては,十分な
http://www.tcp-ip.or.jp/~aisuu/
・
教材研究が必要である。
愛知県総合教育センターでの研修講
座など教育センターのHPに,「研
(3) 取り上げる話題の工夫
・
指導内容とかかわりをもった話題
修講座案内」のページがあり,研修事
・
数学での時事的な話題
業の案内が掲載されている。
・
数学史に関する話題
http://www.apec.aichi-c.ed.jp/kenshu/
・
興味関心を引く話題
index.htm
数学史など多くの書物を読んで話題を
豊富にし,数学的な教養や知識を身に付
- 34 -
Fly UP