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平成 25-26 年ツシマヤマネコの飼育下繁殖の取り組みについて(報告)
平成 25-26 年ツシマヤマネコの飼育下繁殖の取り組みについて(報告) 食 肉 類 事 業 調 整 者 林 輝昭 ツシマヤマネコ計画管理者 吉柳 善弘 1.経緯 (公社)日本動物園水族館協会では、平成 8 年より、環境省が実施している絶滅危惧種ツ シマヤマネコの保護増殖事業に協力し、国内の計 9 動物園において飼育下繁殖事業に取り組 んできました。 本種は平成 12 年4月に福岡市動物園で初めて飼育下繁殖に成功し、 平成 25 年春までに 45 頭が誕生しました(現在はオス 12 頭メス 9 頭の 21 頭が生存) 。しかし、平成 21 年以降に ついては繁殖しても生育する個体がなく、飼育下個体群の高齢化が進み、飼育下繁殖技術の 向上が課題となっていました。 そこで、平成 25 年度からは、JAZA が環境省との契約の下、生物多様性委員会保全戦略部 の域外保全パイロット事業と位置づけ、生物多様性委員会保全戦略部および飼育下繁殖取り 組み園、環境省とで検討を強化する仕組みを構築しました。この仕組みの中では、食肉類事 業調整者およびツシマヤマネコ計画管理者を中心とした飼育下繁殖推進会議を設置し、飼育 下繁殖計画の策定および飼育下繁殖に関する科学的データの収集解析から技術的な課題へ の応用について検討を進めてきました。 2.平成 25-26 年飼育下繁殖 (1)方針 飼育下繁殖推進会議での検討の結果、平成 25-26 年の繁殖期は以下の方針で行うこと としました。 ① 現在の状況では、繁殖の可能性が高い個体を分散させて、オス・メスと 1 個体ずつで のペアリングで繁殖に取り組むよりも、繁殖の可能性が高い個体を拠点となる園に集 め、メス 1 個体とペアリングできるオスを 2~3 個体で繁殖に取り組む。 ② 拠点となる施設は生息地環境に近い気候条件および多くのペアリングの組み合わせが 可能な施設を有する福岡市動物園および九十九島動植物園とする。 ③ 井の頭自然文化園は人工繁殖に向けた取り組み(採精)をおこなう。 ④ 域内においても交通事故死が多いことなどから、現状ではファウンダーは導入せずに 繁殖に取り組む。 ⑤ 4 年間繁殖に成功していないことから、血縁関係には留意するが、可能な限りのペア リングにより繁殖を成功させることを優先させる。 (2)繁殖結果 その結果、平成 26 年 4 月 11 日には福岡市動物園で同年 5 月 27 日には九十九島動植物 園で飼育しているツシマヤマネコのペアで出産に成功しました。 また、東京都井の頭自然文化園において、同亜種であるアムールヤマネコの人工授精に よる繁殖に成功しました。 ① 福岡市動物園での繁殖成功 平成 26 年 4 月 11 日(金) 午前 0 時 30 分ごろから午前 2 時ごろにかけて、自然分娩 により仔ネコ 3 頭(性別等未確認)の出産を確認しました。生まれた仔ネコ 1 頭は衰弱のた め翌 12 日 10 時頃に巣箱の中での死亡を確認しましたが、ほかの仔ネコ 2 頭は母ネコが 哺育し、平成 26 年 5 月 27 日現在、2 頭とも順調に成育しています。 A:生まれた個体 3 頭(性別不明)内 1 頭は翌 12 日に死亡を確認 B:両親 母親 №39(国内血統登録番号) 平成 18 年 4 月 1 日 福岡市動物園生まれ(8 歳) 平成 20 年 2 月 28 日 富山市ファミリーパークへ移動 平成 22 年 10 月 28 日 福岡市動物園へ移動 父親 №60(国内血統登録番号) 平成 21 年 12 月 28 日 対馬における保護個体(推定 5 歳以上) 平成 22 年 10 月 28 日 福岡市動物園へ移動 出産後の母子の状況(福岡市動物園提供;平成 26 年 4 月 11 日午前 6 時 33 分撮影) C:経緯 平成 26 年 1 月 18 日 見合い開始 1 月 25 日 同居開始 2 月 3 日~5 日 交尾の確認(24 時間同居) 4 月 2 日 レントゲン検査により 3 個体の胎児を確認 4 月 11 日 午前 0 時 24 分から午前 1 時 52 分にかけて 3 頭出産 ② 九十九島動植物園での繁殖成功 平成 26 年 5 月 27 日(火)午前 6 時 14 分ごろから午前 8 時 20 分ごろにかけて、自然分 娩により子ネコ 2 頭(性別等未確認)の出産を確認しました。6 月 9 日には 1 頭の開眼 も確認し、現在のところ順調に成育しています。 今回、九十九島動植物園で繁殖に成功した個体(両親)は、オスは盛岡市動物公園か ら昨年 12 月に、メスは富山市ファミリーパークから昨年 11 月に移動させた個体で、平 成 25-26 年の繁殖計画の大きな成果と考えています。また、この生まれた個体が順調 に成育すれば、両親ともに飼育下繁殖個体のペアでの繁殖の初めての成功例となります (今までに繁殖し、成育した個体については、両親はどちらかまたは両方が野生由来の ファウンダーであった) 。 A:生まれた個体 2 頭(性別不明) B:両親 母親 No.42(国内血統登録番号) 平成 19 年 5 月 9 日 福岡市動物園生まれ(7 歳) 平成 20 年 10 月 27 日 富山市ファミリーパークへ移動 平成 25 年 11 月 5 日 九十九島動植物園へ移動 父親 No.36(国内血統登録番号) 平成 17 年 5 月 3 日 福岡市動物園生まれ(9 歳) 平成 18 年 11 月 21 日 対馬野生生物保護センターへ移動 平成 22 年 10 月 13 日 富山市ファミリーパークへ移動 平成 23 年 10 月 18 日 盛岡市動物公園へ移動 平成 25 年 12 月 13 日 九十九島動植物園へ移動 C:経緯 平成 25 年 12 月 19 日 見合い開始 平成 26 年 2 月 4 日 同居 3 月 22 日および 23 日 交尾を確認 5 月 27 日 出産 出産後の母子の状況(九十九島動植物園提供平成 26 年 5 月 27 日午前 10 時 44 分撮影) ③ 東京都井の頭自然文化園におけるアムールヤマネコの人工授精による繁殖の成功 アムールヤマネコの人工授精による繁殖に成功しました。平成 26 年 1 月 9 日に人工 授精したアムールヤマネコが同年 3 月 17 日に 2 頭(1 頭は死産)を出産し、現在オス 1 頭が順調に生育しています。ツシマヤマネコと同亜種であることから、この取り組みは、 今後のツシマヤマネコの飼育下繁殖への応用が期待できるものです。 3.現在までの飼育状況 今回の繁殖により、現在の飼育下個体群は対馬野生生物保護センターで飼育しているもの も含めて 10 施設で 30 個体(オス 16、メス 10、不明4;表 1 参照)となります。 また、 現在までの飼育個体の総数はファウンダーの 18 個体を含めて合計 68 個体となり (死 亡個体を含む。平成 26 年 6 月 1 日現在) 、平成 26 年 6 月現在までに、飼育下で 50 頭が誕 生し、 (現在はそのうちオス 12 頭、メス 9 頭、不明 4 頭の計)25 頭が生存しています。フ ァウンダー18 個体のうち繁殖に貢献したファウンダーは 7 個体(オス 4 頭、メス 3 頭)と なります。 表1:ツシマヤマネコの飼育下繁殖に取り組んでいる施設および飼育頭数 (平成 26 年 5 月 27 日現在 今回、生まれた個体含む) 施設名 飼育頭数 合計 オス メス 性別不明 盛岡市動物公園 1 1 0 0 東京都井の頭自然文化園 3 2 1 0 横浜市立よこはま動物園 2 2 0 0 富山市ファミリーパーク 3 2 1 0 名古屋市東山動物園 1 0 1 0 京都市動物園 1 0 1 0 福岡市動物園 9 4 3 2 九十九島動植物園 8 3 3 2 沖縄こどもの国 1 1 0 0 対馬野生生物保護センター 1 1 0 0 30 16 10 4 合計 4.今後の展開 今回の繁殖した子供が無事に成長できるように管理しながら科学的データの蓄積をおこ なっていきます。しかし、依然として飼育下個体群は全体として高齢化していることには変 わりないため、飼育下繁殖の推進に一層の努力をしていくこととなります。 そのため、平成 26 年度についても、昨年度同様に環境省と契約を締結し、個体の状況や 飼育状況を掌握したうえで、環境省および(公社)日本動物園水族館協会生物多様性委員会、 飼育下繁殖事業取り組み園で検討を重ね、夏までに平成 26-27 年の繁殖計画を策定し、来 冬の繁殖期に向けて準備をする予定です。 また、飼育下個体群の遺伝的多様性の維持のため、本種の生息域外保全の中長期計画を検 討策定し、当面はファウンダーの導入について積極的に導入することを環境省の関係会議で 議論してもらえるようにはたらきかけていく予定です。 ※ツシマヤマネコについて 学名:Prionailurus bengalensis euptilurus 英名:Tsushima leopard cat 分類:食肉目ネコ科 環境省第 4 次レッドリスト(2012) :絶滅危惧ⅠA 類(CR) 日本では長崎県対馬だけに生息する野生ネコ科動物で、1971 年には国の天然記念物に、 1994 年には種の保存法に基づく国内希少野生動植物種に指定。野生下の個体数は 70 また は 100 個体と推定されている。1 月から 3 月に交尾し、約 65 日の妊娠期間を経て出産。