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OC・LEP 製剤と血栓症―安全処方のために
90 日エンドメトリオーシス会誌 ; : − 〔ランチョンセミナー〕 OC・LEP 製剤と血栓症―安全処方のために― )浜松医療センター )浜松医科大学健康社会医学講座 小林 隆夫 ),杉浦 和子 ) とくに肺塞栓症(pulmonary embolism ; PE)/ はじめに 海 外 で は 経 口 避 妊 薬(OC ; oral contracep- 深部静脈血栓症(deep vein thrombosis ; DVT) tives,低用量ピル)として使用されている女性 等の静脈血栓塞栓症 (VTE ; venous thromboem- ホルモン剤が, bolism) ,心筋梗塞,虚血性脳梗塞あるいは出 年以降,日本では月経困難 症の治療薬 (LEP; low dose estrogen progestin) 血性脳梗塞等の血栓症に関するものである〔 〕 . として保険適用され,その服用者は増加の一途 . OCが原因とされる世界初の肺塞栓症報告例 をたどっている.これらは OC とともに広く処 方され,避妊のみならず月経調整,月経痛や月 経過多の改善,月経前症候群の症状改善などの とその後の歴史的論争 OC と PE に 関 し て は, 年 に Jordan が Lancet 誌に PE に関する記載をしたのが世界最 目的で多数の女性に使用されている.こうした 初の報告である〔 〕 .子宮内膜症の治療で投与 なか,日本ではあまり知られていなかった血栓 された Enavid mg(ノルエチノドレル . mg 症による死亡例が報告されたことから,厚生労 /メストラノール . mg)および嘔吐と脱水が 働省は医療関係者などに注意喚起するように製 原因とされる PE である.これ以降, 薬会社に指示し,現在は OC・LEP ともに患者 から英米を中心に第 携帯カードが 義 務 付 け ら れ る ま で に な っ た することが注目され,エストロゲン量の低用量 〔 ,〕 .本稿では,女性ホルモン剤と血栓症の 化が進められた.しかし, ∼ 年代になっ 世代 OC(デソゲストレルおよびゲスト 現況を紹介し,安全な OC・LEP 処方および血 て第 栓症の早期診断を中心に解説する. デン)が第 .OC の効果と副作用 年代 世代 OC が VTE を誘発 および第 世代 OC(ノルエチンドロン系) 世代 OC(レボノルゲストレル,ノ OC の最も重要な効用は避妊効果であるが, ルゲストレル)と比べ VTE の発症率が高いこ いくつもの副効用が報告されている.すなわち, とが報告され〔 ,〕 ,使用を控えるべきである 子宮内膜症,月経困難症,過多月経,貧血,卵 という声明が出された.これに対しては反論も 巣癌,子宮体癌,大腸癌,骨粗鬆症,ニキビ, 多く大論争に発展した.この論争では,第 世 良性卵巣疾患等に対するメリットである.OC 代 OC の VTE リスクは高くても,心臓血管障 自体は自由診療であるが, 害および脳血管障害に関するリスクは低く,一 年以降,日本で は LEP(OC と本質的には同じ)が月経困難症 (子宮内膜症)の治療薬として保険適用されて 方, 第 世代 OC は VTE のリスクは低くても, 心臓血管障害および脳血管障害のリスクが相対 いることはすでに述べたとおりである.しかし, 的に高く,全体的には両者のリスクは同程度で その一方で最も頻度の多い嘔気・嘔吐をはじ あり,そしてこれらの疾患は生殖年代ではきわ め,多くの副作用も報告されているが,そのな めてまれであるため,いずれも安全性は高いと かでも生命にかかわる副作用は循環器系障害, いう結論に落ち着いた.そして 年代になる OC・LEP 製剤と血栓症―安全処方のために― 91 −Danish cohort study, 2001-9− 9 デザイン:デンマーク国内の医療登録情報を用いたコホート研究 解析対象:経口避妊薬服用者と非服用者について,血栓症の既往歴 がない15-49歳の非妊娠女性129万6120人 *調整因子:年,教育レベル,経口避妊薬の使用 8 調 整 発 生 率 比 * 7 6.58 6 5.29 5 4.01 4 3 平均値(95%CI) 2.91 1.99 2 1.32 1 0 15-19 20-24 25-29 (比較対照= 1 ) 30-34 35-39 40-44 45-49 (歳) 年 齢 文献〔 8 〕 を参照して作成 図 年齢別の静脈血栓塞栓症リスク 世代 OC(ドロ ス ピ レ ノ ン)の VTE リ と第 増加にとどまり,さらにプロゲスチン単剤では, スクについて米国で問題が提起されたが,FDA 発症リスクが約 は も動脈血栓症もリスクは増加しないと結論して 年にその時点での結論を公表した.すな わち,疫学的調査によれば,ドロスピレノンは 世代 OC や他のプロゲスチンより 倍のデポー製剤を除き,VTE いる〔 〕 .これに対して,ドロスピレノン含有 倍ほど OC は VTE も動脈血栓症も他の OC とは有意 リスクを上げると報告されているものの,リス 差が認められなかったという観察研究の結果が 第 クに差はないとする論文もあり,はっきりとし た見解は明らかになっていない.したがって, 年に報告されている〔 〕 .今後のさらな る疫学調査の結果が待たれる. 医師は服用者に対してリスクとベネフィットを なお,加齢とともに VTE リスクが上昇する きちんと説明し,使用するかどうか選択させる ことが明らかになっている.血栓症の既往歴が .例えば,海外の疫学調査で べきである〔 ― 〕 ない ∼ 歳の非妊娠女性を対象としたデンマ は,非妊婦や OC 非服用者の VTE 発症リスク ークのコホート研究〔 〕において, ∼ 歳 は,年間 における VTE リスクを 万人あたり ∼ 人,OC 服用者で とした場合,加齢に 後 週間 伴いリスクが上昇し, ∼ 歳で . 倍, ∼ では同 ∼ 人であるため〔 〕 ,OC 服用者は 歳では . 倍になることが示されている(図 妊産婦に比べてまだまだ低く,ベネフィットが ) . 同 ∼ 人,妊婦は同 ∼ 人,分 リスクを上回るであろうという見解である. Lidegaard は従来の報告をまとめた総説のな .OC・LEP と活性化プロテイン C 抵抗性 )主な血液凝固制御系 世代 OC を高リスク 健常人の生体内での凝固制御系は,主として OC と位置付け,VTE の発症リスクは,OC 非 制御系がある.それは,① TFPI(組織因子 倍,低リスク OC と位置付けた 経路抑制因子)凝固制御系,② AT(アンチト かで,第 世代および第 服用者に対し 第 世代 OC および第 約 倍としている.一方,虚血性脳卒中や心筋 世代 OC 服用者に対し ロンビン)凝固制御系,③ APC(活性化プロ テイン C) 凝固制御系,である(図 〔 ) , , 〕 . 梗塞などの動脈血栓症リスクは,プロゲスチン TFPI 凝固制御系と AT 凝固制御系は,それぞ の種類に関係なく差はわずかで約 ∼ れに強力な凝固制御活性があり,TFPI 凝固制 %の 92 小林ほか 内因性経路 XII ③ プロテインC(PC)/ プロテインS(PS) (APC)凝固制御系 外因性経路 XIIa IX IXa VIIIa VIIa VII 組織因子(III) Ca2+,リ ン脂質 プロテインS 活性化プロテインC (APC) プロテインC X Xa Va プロトロンビン ① 組織因子経路抑制因 子(TFPI)凝固制御系 X プロテインS Ca2+,リン脂質 トロンビン フィブリノゲン トロンボモジュリン ② アンチトロンビン(AT) 凝固制御系 フィブリン 血栓 TFPI : tissue factor pathway inhibitor ; AT : antithrombin ; APC : activated protein C ; PC : protein C ; PS : protein S ; Va, VIIIa 等の a は,活性化血液凝固因子を意味する.文献〔 , , 〕 を参照して作成 図 主な血液凝固制御経路 御系は“組織因子の阻害”で,AT 凝固制御系 /PS 複合体を形成してはじめて十分なセリンプ は“トロンビンおよび活性化血液凝固第 X 因 ロテアーゼ活性(=APC 凝固制御系)を発揮 子(FXa)をはじめとする活性化凝固因子の阻 し,活性化血液凝固第 V 因子(FVa)の 害”を通して凝固を制御する.とくに AT はト 目をまず切断し,次に ロンビンに対するもっとも強い凝固制御系であ 切断し,FVa を不活性化して凝固活性を抑制す る.一方 APC 凝固制御系は,凝固系が活性化 る.すなわち,PS は APC 凝固制御活性を左右 されトロンビンが形成されて初めて動き始める する重要な因子である.一方,欧米白人の血栓 凝固制御系で,その活性は凝固系の活性に比例 性素因である Factor V Leiden(FVL)変異で して調節される.すなわち,トロンビンは凝固 は,第 V 因子の 系の活性が亢進しすぎると自らネガティブフィ ミンに変異しているために,APC 凝固制御系 ードバックをかけて凝固系を制御し,凝固活性 では切断されなくなり,FVa の不活性化が健常 と凝固制御活性のバランスの調整を行っている 人の場合よりも遅れることになる.APC 凝固 と考えられる.したがって,凝固系と APC 凝 制御系は FVL 変異の 固制御系との間で適切なバランスが崩れると異 は切断可能であるので,FVa はそのうちに切断 常な血栓形成が起こることが推測される. ・不活性化されるが,健常人に比較して凝固制 番 番目のアルギニンを 番目のアルギニンがグルタ 番目のアルギニン部分 )APC 凝固制御系の機序〔 , 〕 御が遅れる. その結果, FVL 変異保因者では, プロテイン C(PC)はセリンプロテアーゼ 凝固活性が APC 凝固制御活性より相対的に強 の前駆体であり,凝固系の最終産物であるトロ くなって過剰な血栓形成が起こり,血栓症が発 ンビン・トロンボモジュリン複合体で PC 分子 症しやすくなると考えられる.そして PS 活性 の一部分が切断され,その結果できた APC が 低下に代表されるアジア人,とくに日本人の血 セリンプロテアーゼ活性を発揮できるようにな 栓性素因では,PS 活性が低下しているために る.しかし,健常人の場合でも APC 分子はそ APC 凝固制御系活性全体が低下し,凝固制御 れだけでは十分なプロテアーゼ活性を示すこと がかかり難くなる.この場合も凝固活性が APC はできず,プロテイン S(PS)と結合した APC 凝固制御活性よりも相対的に強くなって血栓形 OC・LEP 製剤と血栓症―安全処方のために― 成傾向が起こり,血栓症を発症しやすくなると 考えられる.このような状態を APC 抵抗性と )APC 感受性比と OC・LEP APC―sr は OC 非服用者に比 し 第 が約 性とのバランスが,生体内での血栓形成調節に OC 非服用者が約 PS 徳島変異は日本人に比較的多く,健常日 倍,第 服用者が約 世 代 OC 世代 OC と FVL 変異保 因 者 で いう.すなわち,APC 凝固制御系と凝固系活 重要な役割を果たしていることを示している. 93 倍,FVL 変異保因者で OC 倍高くなるデータが示されている 〔 〕 .これは APC―sr が高くなるにつれて血栓 名の頻度でヘテロ接合体として 症発症リスクが増加することを意味する.わが 見いだされている〔 〕 .PS 徳島変異と VTE 国でのデータがないので明確なことは言えない の因果関係に関しては,①日本人では,PS 徳 ものの,おそらく PS 変異保因者も FVL 変異保 島分子をヘテロ接合体で保因する健常人が % 因者と同様なことが言えると考えられる(デー 弱の頻度で存在すること,②その割合が DVT タ未発表) .APC―sr は APC 抵抗性の指標であ 患者で上昇し,オッズ比が .― .になること り,その高値は易血栓傾向を示すが,APC―sr 本人の 名に などから,PS 徳島変異は日本人における有力 な血栓性素因の つであると考えてよい〔 ― は 遊 離 型 PS お よ び TFPI 抗 原 量 と 逆 相 関 し 〔 〕 ,SHBG (sex hormone binding globulin) 〕 . レベルと正の相関を示す〔 〕ことが報告され )APC 抵抗性と APC 感受性比 てい る.た だ し,APC―sr,TFPI,SHBG は 通 (APC sensitivity ratio ; APC―sr) APC 抵抗性はこれら先天性血栓性素因以外 常のラボでは測定できないが,遊離型を含めた PS 抗原・活性は通常検査可能で,保険適用さ に OC・LEP 服用や妊娠,抗リン脂質抗体症候 れている. したがって, APC 抵抗性の指標は, 群,悪性疾患などによっても後天的に起こるこ PS 抗原・活性で代用でき,一般臨床で活用可 .OC・LEP に含 とが報告されている〔 ― 〕 能と考えられる.しかし,OC・LEP を服用す まれるエストロゲンには血液凝固因子産生亢進 ると PS 活性は低下するので,PS 測定は OC・ や抗凝固系に働く PS 産生を抑制する働きがあ LEP 投与前に測定しなければ PS 変異保因者を り,その服用により易血栓性になる.とくに, 含めた APC 抵抗性のスクリーニングには役立 服用中に水分摂取が少なかったり,体を動かさ たないことに留意されたい.なお,図 ずにいると凝固しやすくなる.ちょうど飛行機 に OC・LEP 服用前後の PS 活性の変化を,図 等の長時間旅行に際して起こる VTE,いわゆ 〔 〕に D ダイマー値の変化を示す. るエコノミークラス症候群と同様な現象であ る. .わが国における血栓症発症の実態調査 女性ホルモン剤と血栓症に関する近年の日本 APC 抵抗性は,内因性トロンビン産生能(endogenous thrombin potential ; ETP)に基づく APC―sr を測定することによって把握できる. ETP とは,合成基質(S― 〔 〕 )を用いて血漿中 での調査報告は, 年に全国 施設で実施された Adachi らの の産婦人科 ∼ 年の 年間の調査しかなく, 年間で 症例の報告 があったのみである〔 〕 .しかし,日本人に のトロンビン産生を経時的に測定する方法で, は血栓性素因としての PS 異常症が多く,約 現在では合成基質に代り蛍光基質 (ZGGR―AMC) 人に を用いた測定法となっている.本測定系に APC 可能性が高くなる.現在,われわれは,女性ホ を添加・反応させることで ETP を抑制するこ ルモン剤使用中に発症した静脈血栓症および動 とができるため,患者血漿と正常男性コントロ 脈血栓症の発症頻度とその記述疫学像を明らか ール血漿にそれぞれ .nM の APC を添加した にし,もって安全な女性ホルモン剤使用に資す 際の ETP の抑制率を比で表したものを APC―sr ることができることを目的として,最近 年間 として算出する. における女性ホルモン剤使用による静脈血栓症 人程度は OC 使用中に血栓症を発症する 94 小林ほか 160 % * p<0.05 120 プロテイン 活性 S ** ** ** * ** ** 80 ** 投与前 3 周期 正常下限 60 6 周期 40 0 n=52 n=35 n=9 n=30 n=17 n=24 n=28 NGM CPA GSD NET LNG DRSP DRSP EE35 EE35 EE20 EE35 EE30 EE30 EE20 NGM:ノルゲスチメート CPA:酢酸シプロテロン GSD:ゲストデン NET:ノルエチステロン LNG:レボノルゲストレル DRSP:ドロスピレノン EE:エチニルエストラジオール 文献 〔23〕 を参照して作成 図 OC・LEP 服用前後のプロテイン S 活性の変化 1000 *p<0.05 µg/ml 800 ダイマー値 D ** ** ** ** ** ** 600 500 正常上限 400 投与前 3 周期 6 周期 200 0 n=52 n=9 n=35 n=30 n=17 n=24 n=28 NGM CPA GSD NET LNG DRSP DRSP EE35 EE35 EE20 EE35 EE30 EE30 EE20 NGM:ノルゲスチメート CPA:酢酸シプロテロン GSD:ゲストデン NET:ノルエチステロン LNG:レボノルゲストレル DRSP:ドロスピレノン EE:エチニルエストラジオール 文献 〔23〕 を参照して作成 図 OC・LEP 服用前後の D ダイマー値の変化 および動脈血栓症の後方視的研究を行っている 事 例 が 散 見 さ れ る.OC・LEP を 服 用 す る と 〔 〕 . %を超える回答率で Adachi らの 年 APC 抵抗性になり凝固亢進状態になるので, 間で 症例という報告数をはるかに凌駕する症 長距離旅行,長時間座位によるデスクワークや 例が集積されている.今後,これらの調査結果 ゲーム,長時間の観劇やスポーツ観戦などに加 を解析することにより,女性ホルモン剤使用中 え水分補給が不足すると,血栓症を発症しやす に発症した血栓症の発症頻度やリスク因子等を くなると思われる. 明らかにし,安全な女性ホルモン剤使用に関す る提言を行う予定である. なお,本調査で登録された PE 症例の中には, 長時間の不動や脱水が発症リスクを高めている .OC・LEP の安全処方のために 薬剤の種類を問わず OC・LEP を使 用 す れ ば,頻度は低いものの血栓症を発症することが あり,いったん発症すると重篤化するケースも OC・LEP 製剤と血栓症―安全処方のために― 95 投与に際しては,問診をしっかり行い,リスクと症候を説明して, 本人の同意のもとに処方.禁忌症例や高リスク症例には特に注意 (以後 6 ヵ月毎)には受診してもらい,服用状況や症状の有無を確認 初回処方 1 ヵ月後, 3 ヵ月後* (*最初の 3 ヵ月は毎月受診も可) ACHES (ー) の場合 ACHES (+) の場合は,いつでも (処方医が望ましい) 継続処方 緊急性なし 服用を中止 産婦人科受診 緊急性あり Wells score等 (臨床的可能性) VTE可能性低い Dダイマー低い 服用可とし,経過観察 循環器科,脳神経外科,救急科等受診 VTE可能性高い (Dダイマー測定) Dダイマー高い 患者携帯カードを提示し, 女性ホルモン剤服用を伝える 循環器科,脳神経外科等紹介 循環器科,脳神経外科等紹介 患者携帯カードを提示し, 女性ホルモン剤服用を伝える ACHES : A(abdominal pain), C(chest pain) , H(headache) , E(eye/speech problems) , S(severe leg pain) ; Wells score:臨床的に深部静脈血栓症や肺塞栓症の可能性を判断するスコア ; VTE : venous thromboembolism 文献〔 〕より引用 図 OC・LEP 処方と血栓症診断・治療に関するフローチャート ある.したがって,OC・LEP 処方と血栓症診 くらはぎの痛み・むくみ,握ると痛い,赤くな 断・治療に関するフローチャート(図 〔 〕 ) っている)等がみられた場合は,直ちに服用を を参考にして安全な処方を心がけることが大切 中止し,処方元の医療機関に連絡するように指 である.投与に際しては,問診をしっかり行い, 導する.患者から連絡があった場合は,自施設 リスクと症候を説明して,適応と禁忌等を遵守 で対応する場合もあるが,その症候に応じて循 し,本人の同意のもとに処方することは言うま 環器内科,血管外科,脳神経外科等の専門医に でもない. 歳以上,血栓性素因,肥満,糖尿 診断・治療を依頼する. 病,喫煙,高血圧,前兆を伴う片頭痛等の血栓 VTE を臨床的に疑うには Wells score が有用 症リスク因子をもっている女性には注意が必要 とされる.既往歴,現症,診察所見等で非侵襲 である.最初の 的に DVT〔 〕および PE〔 〕が一定の確率 ヵ月から ヵ月目にかけての 発症が多いとされているので,最初の処方後 をもって診断可能なスコアである.また凝固線 ヵ月目, 溶系検査では, D ダイマーが有用とされている. ヵ月目には受診し,問診と診察(血 圧・体重測定等)を行う.服用中は長時間不動 D ダイマーの陰性適中率はきわめて高いため, 姿勢を取らないなど,生活習慣における注意を D ダイマーが正常上限未満であれば血栓症はほ 喚起する.とくに問題がなければ,以後間隔を ぼ否定できるが,正常上限を超えた場合の解釈 空けての診察でよいが,もし,服用中に血栓症 が難しい.前述したように OC・LEP 服用後に に起因すると思われる症候(ACHES〔 〕 ) , は,正常範囲内であっても D ダイマー値が増 すなわち,A(abdominal pain;激しい腹痛) , 加することが知られている(図 C(chest pain;激しい胸痛,息苦しい,押し て,D ダイマー値の変動があり,血栓症を否定 つぶされるような痛み) ,H(headache;激し できない場合は,超音波検査等で精査すること い頭痛) ,E(eye/speech problems;見えにく が望ましい.一般に海外の試薬は い所がある,視野が狭い,舌のもつれ,失神, 正常上限であり,国内の試薬は けいれん,意識障害) ,S(severe leg pain:ふ 常上限であることが多いので,使用する試薬に ) .したがっ ng/ml が ng/ml が正 96 小林ほか よって異なる結果となることに注意されたい. なお,連絡時に緊急性が高いと判断した場合 は救急車を要請する.救急車の要請は,その緊 〔 急性に応じて自己判断でも構わない.何事も早 期診断・早期治療が大切である. 終わりに 〔 OC と血栓症に関する概要を解説した.日本 人でも OC・LEP を服用すれば一定頻度で VTE をはじめ動脈血栓症のリスクを高めることは紛 れもない事実である.OC・LEP の処方に際し 〔 ては,OC のリスクとベネフィットを十分に説 明し,リスクである血栓症も常に念頭に置いて, 〔 安全な処方と血栓症の早期発見・早期診断に心 がけることが肝要である. 文 献 〔 〕小林隆夫.低用量ピルによる血栓症リスク.日本 医事新報 ;No : − 〔 〕小林隆夫ほか.女性ホルモン剤と血栓症.鈴木重 統,後藤信哉編集,止血・血栓ハンドブック.東 京:西村書店 ; − 〔 〕低用量経口避妊薬の使用に関するガイドライン(改 訂版) .日本産科婦人科学会編 ; − 〔 〕Jordan WM. 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