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小児の救急対応について 子どもの突然の体調の悪化や
どんな時に救急対応が必要にな るか 小児の救急対応について 子どもの突然の体調の悪化や 事故などの時、慌てずに適切 に対応するための知識を持っ ておくこと。 柏市立柏病院小児科 鈴木正敏 1 今回は 様々な症状について「救急対 応が必要なのはどういう時 か」「原因は何か」などにつ いて解説します。 併せて自宅でできる対応法に ついても説明したいと思いま す。 2 Ⅰ.バイタル・サインに関わる症状 3 バイタル・サイン(生命徴候)とは? 1.「生きている証」を意味する。 2.一般的には、脈拍あるいは心拍数・呼吸 (数)・血圧・体温の4つを数字で表す。 意識も併せて評価する。 3.バイタル・サインに関わる強い症状があ れば、重篤な疾患である可能性が高い。 5 4 具体的には *顔色・唇・四肢末端の色が悪い *冷たくなっている *脈が触れない *意識がない(呼びかけに反応しない ~眠っているのではなく) *呼吸が苦しい~息をしていない *グッタリしている などがあれば急いで救急車を呼ぶこと 6 1 *小児の発熱の多くが感染症によるものであ る。なお特に夏期には「熱中症」による発 熱も見られる。 *小児は様々な感染を繰り返しながら、次第 に抵抗力を強めて行く。從って発熱が頻回 に繰り返されるのは珍しいことではない。 *緊急性があるもの(重症感染症)はこれら のごく一部であるが、次に示す項目に該当 するようなら、救急対応が必要になる。 Ⅱ.発熱 7 発熱があり、救急対応が必要な場合 8 重症感染症(1) *化膿性髄膜炎 *敗血症 *尿路感染症(腎盂腎炎) *肺炎 などの細菌感染症~特に乳幼児 1.高熱(>40℃)が続く 2.意識が朦朧としている 3.尿量が少ない、尿の色が濃い、皮膚や唇 が乾燥している(脱水徴候) 4.水分補給ができない 5.ひどい痛み(頭痛、腹痛、耳痛など)を 伴う 6. 3ヵ月未満で>38℃の発熱 一般的には全身状態の悪化と発熱を伴う。 末梢血白血球数が増加し、CRPなどが強陽 性になる 9 10 発熱時の一般的な対応(1) 重症感染症(2) *脳炎・脳症などの中枢神経系感染症 *あまり厚着はさせず、熱が放散しやすい楽な服装 にする。 *本人が寒がる時(熱が上がる時)には厳重な観察 のもとになら一時的に暖めてあげてもよい。但 し熱が上がりきったらすぐに中止すること。 *クーリング 腋窩や鼠径部など血管が多く通っているところ を濡れタオルや保冷剤をタオルに包んで冷やす のが効果的、但し本人が嫌がれば無理に行う必 要はない。 ウイルス感染に関連したものが多い。 ヘルペス脳炎・インフルエンザ脳症などが 特に重要。 一般に意識障害や痙攣、神経症状を伴う。 11 12 2 発熱時の一般的な対応(2) 解熱剤について① 発熱時の一般的な対応(3) 解熱剤について② *解熱剤は病気を治すものではない。 *発熱は本来侵入してきた病原体に対抗して 身体の側が反応して出現しているのであ るからそれ自体が身体に悪い訳ではない。 *但し発熱により(特に熱が上がるときに) 不快感が強かったり、体力を消耗するこ ともあり、解熱剤を使っていけないこと はない。 *逆に40℃以上の発熱だからといって使わなけれ ばならない、ということもない。(熱が上がり きってしまうと結構元気になる児も多い)。ま たせっかく眠っている児を起こして使用する意 味もない。 *これらを踏まえた上で 「発熱が≧38.5℃で、本人が具合が悪そうであれ ば、6時間以上間隔を開けて、1日2-3回は使用 して構わない。」ということ。 あくまでも「本人の状態、気分を楽にさせ、体力 の温存を図ること」が解熱剤使用の目的である。 13 14 けいれんとは? *「ひきつけ」「泡を吹いている」「白眼 をむいている」「ガタガタふるえてい る」など。 *一般的には意識がない。 *「悪寒」との区別を。 Ⅲ.けいれん 15 16 けいれん時の一般的な対応① けいれん重積 *けいれん重積とは、けいれんが30分以上 続く状態をさす。 *けいれんが続くと、それ自体が脳に傷害を 与えることがあるので、できるだけ早急 な対応が望まれる。 17 *まず仰向けにして寝かせ、顔を横向きにし 衣類をゆるめる。 *「口に物をくわえさせる」のは危険なので すべきでない。 *けいれんが収まる様子がなければ(3分-5 分)ためらわず救急車を呼び病院を受診 する。 18 3 けいれん時の一般的な対応(2) けいれんの原因 *てんかんあるいは熱性けいれんで予防薬(たいて いは「ダイアップ」という座薬)を使うように 指示されていて、まだ使っていなかった場合は、 これを入れてから受診するのがよい。 *一旦落ち着いた場合でも、翌日には必ずかかりつ け医(小児科専門医)を受診すること。 なお、熱性けいれんの場合解熱剤の使用は逆にけ いれんを誘発することもあり、控えた方が良い。 *熱性けいれん 最も多い。幼児期の児で熱が上がるとき によく見られる。 *脳炎・脳症 ヘルペス脳炎、インフルエンザ脳症など *髄膜炎(細菌性、無菌性) *頭部外傷 など 19 20 頭部外傷につて *受傷直後から意識が戻らない等の場合は頭 蓋内出血等の可能性があり、はじめから 脳外科あるいは三次対応が望ましい。 *受傷後24時間(特に受傷後2時間)は以下 の症状の出現に留意 顔色不良・激しい嘔気や嘔吐・激しい頭痛・名 Ⅳ.呼吸器症状 前を呼んでも返事がなくボーっとしている・意 識がはっきりしない・眼の焦点が定まらない・ けいれんがあった、など。 *なお受傷後2時間は食事(ミルク)を与え ないこと。 21 22 救急対応が必要な呼吸器症状 特に救急対応が必要な疾患 *顔色や唇の色が悪い *浅い呼吸または非常に苦しそうな呼吸 *呼吸回数がいつもよりずっと多い *ゼーゼー・ヒューヒューが強い *咳がひどくて眠れない *犬が吠えるような、またはオットセイの鳴き声の ような変な咳がひどい *声がかすれて出ない、話ができない *ひどい咳が始まる前になにか食べていた、または 口に加えて遊んでいた *胸痛が強い など 23 *急性細気管支炎 (RSウイルス感染症~特に乳児) *気管支喘息発作 *気道異物 *クループ症候群 *肺炎 *気胸 その他先に述べた症状を伴うもの 24 4 急性細気管支炎 喘息発作 *ほとんどがRSウイルス感染症による。 *乳児で呼吸状態が悪ければまず最初に考えるべ き疾患の一つである。幼児でも見られる。 *数日の潜伏期、数日間のかぜ症状に続いて、呼 吸困難が急速に進行する。呼吸回数が増加し、 ゼーゼー・ヒューヒュー、特に呼気時の呼吸困 難が強い。 *重症例は入院加療が必要となる。 *咳がひどく、苦しそう *顔色・口唇色不良 *胸で「ゼーゼー・ヒューヒュー」音が聞こえる (これを喘鳴(ぜんめい)という。) *息を吐く時間が延長している 気道異物 特にピーナッツ、大豆など(できれば耳鼻科対応 が望ましい) 乳児の場合はじめは単なるかぜのようであっても、上記のよ うな症状悪化があれば、救急対応が必要になる。 25 26 クループ症候群 *喉頭及びその近辺に炎症が波及したもの。 *かぜ症状が数日続いた後、声がかすれ「犬が吠え るような」あるいは「オットセイの鳴き声のよ うな」咳が出るようになる。 *特に夜間にひどい。非常に苦しそうな様子にな り、息を吸う時に「ゼーゼー」音が聴かれる。 Ⅴ.消化器症状 肺炎 *原因となる病原体によって重症度は多様。 *発熱、「呼吸状態が悪い」、咳がひどい、など。 27 救急対応が必要な消化器症状 28 特に救急対応が必要な疾患 *嘔吐を繰り返す (水分補給させても吐く) *ひどい下痢 *強い腹痛 *吐血・下血 *血便 *おなかがパンパンにはっている など *感染性(ウイルス性)胃腸炎(とくに嘔 吐・脱水・低血糖) *腸重積 *急性虫垂炎 その他先に述べた症状を伴うもの 29 30 5 ウイルス性胃腸炎② 症状と経過 ウイルス性胃腸炎① *冬季に流行する。感染性胃腸炎の大半を占 める *一般に冬季の全般にノロウイルス、後半に ロタウイルスが流行する傾向がある。 *ロタウイルスが比較的小児に限定されるの に対し、ノロウイルスは大人にもよく感 染する。 *1〜2日間の潜伏期間を経て発症。 *典型的には、嘔気・嘔吐、下痢・腹痛、発 熱が見られる。(一般に嘔気・嘔吐が下 痢に先行することが多い) *小児ではロタウイルスによる胃腸炎のほう が経過が長い傾向がある。便が白色にな ることもある。 31 ウイルス性胃腸炎③ どんな時に救急対応が必要か。 32 ウイルス性胃腸炎④ 家庭での対応その1 *嘔吐、下痢及び発熱で脱水及び低血糖を起こしや すくなっているので、こまめに少しずつ水分・ 糖分・塩分をとらせる。 *まず吐き気止めの座薬を用いて「水分・糖分・塩 分」ならとれることを目標とする。 *座薬を挿入して30分~1時間経過後、ごく少量 のイオン飲料(OS-1、アクアライトなど乳幼児 用のものがよい)から開始する。 *そのまま15~20分くらい様子を見て吐かなけれ ば、間を開けて少しずつ1回量を増やしていく。 1.数時間以上嘔吐を繰り返す。 2.水分を取らせても吐く。 3.尿が出ない。 4.泣いても涙が出ない。 5.お腹の皮膚がしわしわになっている。 6.ぐったりしている。など。 このような場合点滴が必要になることが多いので、 必ず病院受診が望ましい。 これでうまく行かなければ救急対応を。 33 34 ウイルス性胃腸炎⑤ 家庭での対応その2 ウイルス性胃腸炎⑥ 予防法その1 *特に嘔吐が繰り返された場合などは「お腹 を休めること」が最も重要なことなので、 あせって食事を開始する必要はない。 *本人が「水が飲みたい」「お腹がすいた」 と言っても、本人の希望通り与えると 「やりすぎ」になってしまい、お腹の負 担が増え、回復が遅れてしまうことがよ くあるので注意。 *本人の様子を見ながら少しずつ飲み物、食 べ物をレベルアップしていく。 1.手洗い ・排便後、外出からの帰宅後、また調理・食事の前 には石鹸と流水で手をよく洗うこと。 ・手洗い後に使用するタオルは共用にせず、なる べくペーパータオルがよい。 2.外出時なるべく人ごみは避け、マスクを着用す る。 35 36 6 ウイルス性胃腸炎⑦ 予防法その2 ウイルス性胃腸炎⑧ 予防法その3 3.家族・施設内に感染者がいたら ①糞便・吐物の処理に際しては必ず使い捨て手袋、 マスク、エプロンなどを着用する。 ②汚物はビニール袋に入れて、口をしっかり 縛って捨てること。 ③吐物や糞便が付着した場所及びその周辺には 広く消毒液(0.1%次亜塩素酸)を散布すること。 ④調理・食事に際しては、調理器具、ふきん、ス ポンジ、シンクその他は熱湯で消毒(85℃で1 分間以上)または消毒液(0.02%次亜塩素酸) で消毒する。 ⑤衣類に吐物や糞便が付着した場合、ビ ニール袋に入れ周囲を汚染させないよう に気をつけながら、捨てるか、熱湯消毒 するか、消毒液(0.02%次亜塩素酸)に 約1時間つけてから洗濯する。 ⑥ドアノブ、手すりなど多くの人が触れる 場所を念のため消毒液(0.02%次亜塩素 酸)で消毒する。 37 ウイルス性胃腸炎⑨ 消毒液の作り方 38 都内における感染性胃腸炎の報告件数 (小児科定点報告) ・ノロウイルス、ロタウイルスとも通常のエタ ノール、塩化ベンザルコニウム(逆性石鹸)な どによる消毒は無効、消毒には以下の塩素系消 毒剤を使用する。 ・消毒液の作り方 塩素系漂白剤(次亜塩素酸)~ハイターなど(塩 素濃度約5-6%のもの) 500mlのペットボトルを使用、キャップ1杯が 5mlなので、500mlの水に原液をキャップ2 杯加えると、0.1%(1000ppm)の消毒液ができ る。これを5倍希釈すれば0.02%(200ppm) の消毒液ができる。 39 40 腸重積 急性虫垂炎 *乳幼児(3ヵ月~3歳で60%以上)に多い。 *腸の中に腸がめり込むことによっておこる。 *突然に発症~嘔吐、腹痛(間欠的)など。 *当初は痛みのため激しく泣くが、次第に ぐったりして元気がなくなってくる。 *便にイチゴゼリー様の下血が見られる。 *就学年齢以降に多い。 *微熱・腹痛(特に心窩部痛)などで始ま り、痛みは次第に右下腹部に。 *「歩き方がおかしい」など →外科的対応 放置すると重大な事態に。 41 42 7 幼い小児はあらゆる物を口に入れるので、危険なものを児 の届くところに置かないよう徹底した配慮が必要である。 特に以下のものが重要である。 • • • • Ⅵ.異物誤飲 ボタン電池(リチウム) 防虫剤 薬剤 タバコ 2~3cm以上誤飲していれば胃洗浄が必要 、明らかにそれ以下であることが 確認できれば放置しても問題ない。 • 石油 これは肺に重大な損傷をきたす恐れがあり、 極めて緊急性を有する。 不明な場合日本中毒情報センター http://www.j-poisonic.or.jp/homepage.nsf に問い合わせると情報を得られる。 43 44 考えられる疾患 *不整脈 *てんかん(けいれん発作) *起立性調節障害 *一過性脳虚血(脳貧血) *貧血 など。 Ⅶ.失神(意識消失) その時の症状の度合いにより緊急性があるかないかが異な る。悩むくらいなら救急対応して良い。 45 46 アナフィラキシーショック 何らかのアレルゲンに反応、顔色不良、血圧 低下、脈拍が弱くなる、呼吸困難、蕁麻疹な どの症状を伴う。救急車で対応した方が良い。 既往のある人はエピネフリンの筋肉注射薬 (「エピペン」)を持っていてもらうことも 。 Ⅷ.アレルギー症状 蕁麻疹 全身に出現した場合は救急対応がよい。 アナフィラキシーショックや呼吸器症状(喘 息様症状)を伴う場合は重症。 47 48 8 まとめ 比較的よく見られる症状を中心に、どのような場 合に救急対応すれば良いのか、家庭での対応は どのようにすれば良いのか、等について解説い たしました。 当地域でも、十分とは言えませんが、小児の救急 疾患に対し時間外診療が可能です。きちんとし た知識を持って必要以上に慌てることなく対応 していただければ、と思います。 我々も日常診療の中で、必要なことは時間の許す かぎり説明しているつもりですが、疑問に思わ れることがあれば遠慮なく質問して下さい。 49 ご清聴有り難うございました。 50 9