Comments
Description
Transcript
観光者自身の防災対策のあり方 TW2011-046 比留間
2013 年度卒業論文 観光者自身の防災対策のあり方 TW2011-046 比留間 翠 目次…………………………………………………………………………………………………………… 9 1章 調査に先立って………………………………………………………………………………………10 1-1 調査の目的と背景… ………………………………………………………………………………10 1-2 リスクマネジメントと危機管理 2章 観光と防災……………………………………………………………………………………………12 2-1 観光とは… …………………………………………………………………………………………12 2-1-1 国内での観光の定義… ………………………………………………………………………13 2-1-2 世界での観光の定義… ………………………………………………………………………13 2-1-3 日本と世界の定義の比較… …………………………………………………………………13 2-2 防災とは… …………………………………………………………………………………………13 2-2-1 防災の定義… …………………………………………………………………………………13 2-2-2 災害の定義… …………………………………………………………………………………14 2-2-3 災害の分類… …………………………………………………………………………………15 2-2-4 災害対策の現状… ……………………………………………………………………………16 2-3 観光と防災の関係性… ……………………………………………………………………………18 3章 日本の観光における防災の現状……………………………………………………………………18 3-1 日本の観光における防災について… ……………………………………………………………18 3-2 東日本大震災にみる観光防災の現状… …………………………………………………………19 3-3 日本の観光における防災の課題… ………………………………………………………………21 4章 観光者自身の防災調査………………………………………………………………………………23 4-1 調査概要… …………………………………………………………………………………………23 4-2 観光者自身の防災… ………………………………………………………………………………25 4-2-1 日常での防災… ………………………………………………………………………………25 4-2-2 観光者自身の防災… …………………………………………………………………………25 ─9─ 5章 観光者自身の防災の課題……………………………………………………………………………28 引用・参考文献………………………………………………………………………………………………30 謝辞……………………………………………………………………………………………………………31 参考資料………………………………………………………………………………………………………32 1章 調査に先立って 1-1 調査の目的と背景 先の東日本大震災では,日本三景の一つ,宮城県の松島を含む広範囲が地震及び津波の直接的被害 を受けた。また,直接的な被害の無かった周辺地域や沿岸部においても,風評被害という形で観光者 の減少という負の波及効果を受けた。この震災により日本国内の観光産業・観光地は,甚大な打撃 を受けることとなった。国全体の観光者数は回復しているが,東北 6 県においては 2011 年以降,対 2011 年同期比約 20%前後を推移しており,震災前の水準にはまだ回復していない現状にある(観光 庁 2014) 。 観光業を営む者にとって,災害は予期しがたく,かつ避けることのできないリスクファクターであ る。故に,観光産業を営む者としての防災対策・リスクマネジメントについては,以前から検討・議 論されてきた。しかし,日本において進められてきた観光地の防災対策は建物や災害物資の備蓄と いったハード面が多く,また災害時の協定や協力といった部分はそれぞれの観光地に委ねられていた 様であった。東日本大震災を受けて,ソフト面と言える有事の際の観光者の避難先や訪日外国人観光 者への情報提供といった事案の検討が,国や観光地で本格的に始まったばかりである。2020 年オリ ンピック・パラリンピック東京大会開催も決定し,訪日外国人観光者数が集中的に増加することも鑑 み,ソフト面での対応は急務であろう。 観光地や観光産業といった,受け皿側の防災対策強化は動き出した。だが,観光者側の防災対策に ついては,殆ど触れられていない。日本において,四季を通じて様々な災害に見舞われる国内観光者 (以後,観光者)は,受け皿側が行う対策にのみ頼っていて良いのだろうか。国民性として,日本人 には「何かあったらお役所に頼ればいい」という感覚が強くあり,自己責任という考え方が諸外国ほ ど進んでいないという指摘がある。 次の大地震が危惧される昨今,観光者はいつまでも受け身でいいのだろうか。自ら災害弱者への道 を歩み続けていて良いのだろうか。これらの疑問点をもとに,この論文では,観光と防災の関係を踏 まえた上で,観光者自身の防災意識を踏まえて観光者の防災対策のあり方について調査した。 1-2 リスクマネジメントと危機管理 本調査を始める以前,私は「リスクマネジメント=危機管理」であるから,防災はリスクマネジメ ─ 10 ─ ントの一部であると考えていた。しかし,資料を集めて行くにつれ,それは間違っていたことがわ かった。そのことについて,この場でいくらか触れておきたい。 「リスクマネジメント」という言葉が様々な分野で取り上げられるようになった昨今,その定義は 一元化されていない。 「リスク(risk) 」とは,直訳すると「(危害・損害などの)危険」であり,「マ ネジメント(management) 」とは「 (事業・金などの)管理,経営」である。しかし「リスクマネジ メント(risk management) 」は, 『危機管理』という言葉に訳される(ジーニアス大英和辞典)。他 方,旺文社の『カタカナ語新辞典』では, 「リスクマネジメント」とは「企業などのリスク(危険) を回避するための経営技術である。狭義では保険によるリスク回避,広義ではリスクの調査やそれに 対応する戦略なども含まれる。 」となっており,随分と語に対する印象が異なってしまう。 Glaesser(2008,p.29-31)は, 「危機管理(crisis management)」を説明するにあたり,「この危機 という用語は,リスク管理と区別されなければならない。リスク管理は,組織や観光地に対して深刻 なダメージや継続的なダメージを誘発しない出来事に焦点を当てる。 」と述べている。続く解説から リスクマネジメントは,本来“保険をかけ,補償を受ける”ことにより対応されてきた範囲であった 事が読み取れるだろう。リスクマネジメントに関する研究が保険会社にて活発に行われているのは, これに由来する。 また,インターリスク総研(2011,p.3-4)によると,2009 年 11 月にISO31000 リスクマネジメン ト規格がISO(国際標準化機構)から公表された。このリスクマネジメント規格の特徴は,企業等組 織のリスクに焦点を絞り,組織運営のための取り組みプロセスを明確化したことであるという。 以上のことから,リスクマネジメントとは, 「企業等の組織の経営リスクを対象とした,利益を守 るための保険をかけるなどの対応や戦略」ということになる。 このISO31000 をベースに,日本では 2010 年 9 月にJISQ31000「リスクマネジメント−原則及び指 針」が発行されたが,このリスクマネジメントのJIS規格化の経緯と遍歴の解説に,「リスクマネジメ ント」と「危機管理」の混乱の一端を見ることが出来た。 インターリスク総研(同)によると,阪神・淡路大震災を契機として,1995 年 10 月に「危機管理 システム規格検討委員会」が設置され,危機管理システムに関する調査研究が行われ,これがJIS規 格化へのスタートであったという。ところが 1998 年度から,この委員会は突然「リスクマネジメン トシステム規格委員会」に改組され,広範な関係者により審議を始めた。結論として「危機管理(ク ライシスマネジメント)はリスクマネジメントに含まれる」ものとして,リスクマネジメントという 用語で統一することになった。ここが,私も陥っていた「リスクマネジメント=危機管理」の起点で あった。 この「危機管理はリスクマネジメントに含まれる」という考えは,Glaesserの解説に合致しないだ ろう。Glaesserの解説に従うならば, 「危機管理とリスク管理は,区別されなければならないが重な り合う部分も多く,完全な線引きは出来ない」ということになる。そうでなければ,同じ部門で利益 を守るための対策と,災害対策のような利益を無視してでも対応すべき対策が同居することになり, 場合によっては災害対策などが疎かになる可能性が高い。 ─ 11 ─ ここまでに述べたリスクマネジメントの辞書的な意味や,日本におけるリスクマネジメントの規格 化の流れから,日本におけるリスクマネジメントと危機管理の混同がわかる。この混同がどういった 危険性を孕んでいるのかについて,非常に気になるところであり,今後機会があればさらに調べてみ たい。 この議論の結論として,この論文においてはGlaesserの解説に従いリスクマネジメントと危機管理 を区別した上で,それぞれを次のように定義する。 リスクマネジメントとは, 「企業等の組織の経営リスクを対象とした,利益を守るための保険を書 けるなどの対応や戦略」である。 危機管理とは,「企業等の組織に対して予期し得ない深刻なダメージや継続的なダメージを誘発す る出来事を対象とした,利益などを無視してでも行う対策や戦略」である。 2章 観光と防災 2-1 観光とは 2-1-1 国内での観光の定義*1 『広辞苑』の初版(1955,岩波書店)では, 「他国の文物・制度を視察すること。他国の風光などを 遊覧すること」となっていたが,第五版(1998,同)では「他の土地を視察すること。また,その風 光などを見物すること。観風。 」となっている。日本国民にとって観光旅行が自由かつ一般的なもの (大衆化)となったきっかけは昭和 45(1970)年の日本万博博覧会(大阪万博)であり,観光の主体 や目的の変化があったことがこの広辞苑の変化に繋がっているのである。 日本での観光の公的な定義は,昭和 45(1970)年に,前年の総理府観光施策審議会答申を受けて 出されたものがある。その後,平成 7(1995)年の答申によって見直され, 「余暇時間の中で,日常 生活圏を離れて行うさまざまな行動であって,触れ合い,学び,遊ぶということを目的とするもの」 と,定義されている。 この定義を概念化すると,①時間性:余暇時間,②空間性:非日常生活圏,③目的性:自発的であ り営利目的ではないこと,の 3 点に集約できる。ここで言う余暇時間とは,生活時間から睡眠・食事 等生理的に必要な時間と仕事・学業・家事・通勤・通学等の社会生活で必要な時間を除いた時間,つ まり“自由時間”である。日常生活圏・非日常生活圏は読んで字の如くである。 これより,広義の観光の定義は, 「非日常生活圏における余暇活動(自由時間活動)」のうち,「狭 義の観光(サイトシーイング) 」と「レクリエーション」を指すことになる。サイトシーイングは, その行動形態から「周遊型観光」と呼ばれる。それに対し,リゾートを「滞在型観光」と呼び,広義 の観光活動に含む場合がある。その場合, 「リゾート」は「長期滞在地あるいは繰り返し訪れる自由 時間(滞在)生活の場」 ,ひいては「自由時間都市」であり,「日帰り観光」は含まない*2。 ─ 12 ─ 2-1-2 世界での観光の定義 世界観光機関(以後UNWTO)によるツーリズムの定義は,以下となる。 Tourism comprises the activities of persons traveling to and staying in places outside their usual environment for not more than one consecutive year for leisure, business and other purposes not related to the exercise of an activity remunerated from within the place visited.(UNWTO,1994) 岡田訳:ツーリズムは,継続して 1 年を超えない期間で,レジャー,ビジネス,その他の目 的で日常生活圏外の場所を訪れ,そこで滞在する人々の諸活動であって,旅行・滞在先で報酬 を得ることを目的とする活動を除くものから成る(岡田,2013,p.3)。 2-1-3 日本と世界の定義の比較 先の日本における観光の定義と比較して,大きく異なる点は“旅行の目的”の範囲である。観光 白書の観光活動の規定では, 「純観光(純粋に観光目的の旅行) 」に加えて「兼観光(一泊以上の観 光旅行を付帯させた帰省やビジネス等旅行) 」という把握をしている。対して,UNWTOのツーリズ ムの定義では,日本でも近年活発になってきたMICE*3の様な興業・出稼ぎ以外のビジネス旅行や, VFR*4などのその他の旅行を含んでいる。 日本における観光の定義とUNWTOのツーリズムの定義において共通しているのは,どちらも“非 日常生活圏”における活動であるということである。 2-2 防災とは 2-2-1 防災の定義 松澤(1988,p.507)は, 「防災(disaster prevention)とは災害を防止することで,一般には自然 災害の場合に多く使われている。なお,災害対策基本法(1961 年)や行政上では,災害の復旧を含 めた広い意味で防災の語を用いている」と述べている。これに倣い,本論文では「自然災害の防災」 ─ 13 ─ を「防災」と呼ぶこととする。 2-2-2 災害の定義 松澤(同p.186)は,災害(disaster)を「自然作用または人為的作用が誘因で,地域の人間社会生 活環境に損傷や危害をあたえ,かつ,人命にかかわる現象もしくは人命にかかわるおそれのある現象 が災害である。したがって,災害は,人間活動の集団すなわち社会生活環境における事象を被害の対 象とする現象であって,個人的な災難は災害ではない」と述べている。 「無人島や無人の広野など人 間の社会生活環境のない地域に,大地震や火山爆発など上記*5の自然作用にもとづく大変動や大変 化が生じても,それは災害ではない」という例示から,人の生活への影響が災害か災害でないかの判 断基準であり,自然環境への影響如何は問わないととらえることが出来る。 対して寶(2012,p.1)は,災害という言葉は「何らかの原因で人や資産が被害を受けた場合」に 使われるとしている。これについて寶は, 「岩山でできた無人島に台風や津波が襲来したとしよう。 そこに災害はあるか。答えはノーである。この時自然災害とはいわない。原因事象(台風や津波)は 確かにあったのだが,結果は災害なし(被害ゼロ)だったのである。この無人島にいくら強い台風や いくら大きな津波が襲来しても被害はゼロである」という例示をしている。 もちろん,事象発生時に 1 人でも人がこの無人島に住んでいて,何らかの被害を受けたのであれ ば,自然災害ということになる。しかし, “資産”という観点で見ると,事象発生時に無人島が文字 通り“無人”であっても災害といえる場合があるだろう。それは,無人島が人の生活と関係が深い場 合である。たとえば,日本三景の宮城県松島の様に,無人島が重要な観光資源である場合や,無人島 に何らかの観測点があり,そこが被害を受けると,観測データから予期される結果の誤差が大きくな る場合は,無人島であっても資産が被害を受けたといえる。 近年,自然環境自体が人類にとって重要な資産であるという認識が広まってきた。しかし,自然環 境自体は所有権を明確に設定することが困難な公共財と見ることができるため,自然環境への影響が あった場合,それが誰にとっての損害なのか明言することは難しい。また,自然環境の変化は,どこ までが自然の摂理でどこからが災害であるのかという線引きが非常に困難である。故に,ある程度は 自然の摂理として受け入れられるべきことでもあり,自然環境が重要な観光資源だからといって現状 を維持することに固執するのは間違っているのではないかという議論もある。上記のような自然環境 の特性があるため,一概には言えないが,寶は,人の生活への影響がある場合,原因事象の自然環境 への影響も災害か災害でないかの判断基準としているという事が言えるだろう。 これらのことから,松澤と寶の定義の違いは,自然環境への影響の扱いではないだろうか。この 違いは,それぞれの時代背景にあるだろう。前者は 1987(昭和 62)年 6 月に施行されたリゾート法 を見ても分かるように,バブル期の大規模開発の只中である。自然環境への影響が,人の生活に対し てどのように,かつ,どれほどの影響を与えるのかはあまり活発に議論されていなかった時代であろ う。対して後者は,大規模開発の教訓や温暖化を始めとする地球環境問題など,公共財としての自然 環境が見直されてきた時代である。 ─ 14 ─ また,先にも述べたように,観光地にとって,自然環境自体が観光資源である場合も多く,自然環 境への影響自体が観光地の人々の生活に直ちに影響することも念頭に入れておきたい。 以上の事から,松澤の定義に対して下線部を追加することによって,本論文における災害の定義と したい。 災害とは, 「自然作用または人為的作用が誘因で,地域の人間社会生活環境に損傷や危害をあたえ, かつ,人命にかかわる現象もしくは人命にかかわるおそれのある現象,あるいは自然環境に損傷や危 害を与える現象が災害である。したがって,災害は,人間活動の集団すなわち社会生活環境における 事象や自然環境を被害の対象とする現象であって,個人的な災難は災害ではない」。 2-2-3 災害の分類 2-2-1 において,本論文中では「自然災害の防災」を「防災」と呼ぶこととしたが,ここで,災害 の分類を松澤(1988,p.186-187)を参照にし,以下のようにまとめた*6。 ① 自然災害と公害 災害発生の原動力が,主として自然作用にもとづくものが自然災害,主として人為的作用にもとづ くものが公害。現象が明瞭に異なり,災害の観念や災害に対する意識内容がいちじるしく違ってい る。 自然災害は,誘因となる自然作用の原動力が被害対象に接触し,攻撃を加えて生ずる。自然作用を 除去し,または消滅させることはきわめて困難で,ほとんど不可避である。対策はもっぱら防衛の方 策であり,災害の制御を計画し,被害の防除,軽減を図ることが重要な課題である。 地震,火山噴火,暴風雨など,その他諸種の自然作用により,地域社会生活環境に発生する地震災 害,火山災害,洪水災害,豪雪・豪雨・暴風などの気象災害,山くずれ・地すべり・地盤沈下などの 地盤災害,あるいは高潮・波浪などの海象災害がある*7。 公害は,誘因と成る作用が人為的であるから,理論的には,それを停止して完全に除去できる性格 のも。しかし,公害の皆無をはかるならば,そこには近代社会生活の向上も無く,究極的には原始的 な生活に戻らなければならないであろう。近代文明による高度の社会生活環境には,多かれ少なかれ 有害現象の発生がともなうものであるから,公害の対策は,それを抑止または排除するか,さもなけ れば,それが社会生活環境を侵害しないように調節することが重要である。 大気汚染,水質汚濁,騒音公害,交通公害など。産業の発達にともなう企業の生産活動によって一 般大衆や地域社会環境に及ぼされる人為的災害が公害であるとしている人もある。 ② 天災と人災 古くより,災害に対し,天災・人災と呼ばれている別な呼称がある。また一面,災害とは,自然と 人間の闘いにおいて,人間の敗れた姿であるという見方もある。強い暴風雨に対しても,河川の氾濫 や出水の起こらないように整備し,それに耐える建築を作っておけばもはや災害ではないというので あろう。 天災とは,辞書によれば,天然のわざわいであって,地震,暴風,雷,雪,洪水などによる災難と ─ 15 ─ いうことである。(語意にいささか漠然としたところもあるが)天災というのは,自然災害の同義語 とされる。公害が急激に増大して社会問題となる以前の災害は,おおかたが自然災害であって,災 害の発生を免れることは難しいという感覚から,天然のわざわいとして天災の語が使われたと思われ る。 人災については,災害は人間と自然の相対的関係で生ずるという見地である。主として水害に対し て災害対策が十分になされておれば災害にならないが,対策を怠ったり,おろそかであれば災害が生 じ,原因は,むしろ人間側にある。ゆえにそれは人災であると主張されている。 かつて,日本の水害は天災か人災かと議論が出されたことがある。このような理論は,異なる立場 の論拠を絡み合わせて述べているのであって,必ずしも正鵠を得たものではないと考える。 2-2-4 災害対策の現状 日本における災害対策の現状を林(2012,p.11-13)を参照に, 「自助」 「公助」 「共助」の 3 つから とらえ,以下のようにまとめる。 「自助」は近年よく使われるようになった言葉である。「自分の命や財産は自分で守る」のは,個々 人によって担われるべき責任として当たり前の事であるという,自己責任に基づく考えであろう。但 し,若年者や高齢者,身体障害者など自助しにくい人達は適宜支援することによって生命や財産を守 る手助けがなされている。 「公助」は自助に対する形でよく使われる。人類を襲う様々な自然災害に対して,何らかの対策を 施すことによって,災害に遭う可能性,負傷したり死亡したりする可能性を減らすことが出来る。土 木・建築技術の進歩,多目的ダムや各種堤防(河川堤防,防潮堤など) ,耐震性の建物の建築などの 成果により,被害者は減少傾向となっている(第2次世界大戦の後 20 年ほど,毎年数百から数千人 の被害者を出していたのに対して) 。こうした防災・減災の施策は,国や自治体によってなされる。 これがまさに「公助」であって,国や地方公共団体が負うべき責任である。 公助は基本的に法的根拠をもってなされる。法的根拠のないものには,国も地方も税金を投入で きないからである。災害に対する法制度と体制が整備されてきた経緯は,内閣府(2011)によって整 理されている。わが国の防災体制は,災害対策基本法の制定(1961)以来,徐々に整備が進み,2001 年の内閣府設置によってその体系を整えた。すなわち,国,都道府県,市町村のそれぞれのレベルで の防災体制が確立された。この公助の体制に応じて,共助・自助のレベルでの活動がなされている (公助の体制については,本論文の主旨から逸脱するため,省略)。 「共助」は自助と公助を取り持つかたちで存在する。これは,個人や世帯よりも大きな単位,すな わち「コミュニティ」と呼ばれる自治会や小学校の学区の様な広がりで,近隣住民が助け合いなが ら,自分たちの生命や財産を守ろうというものである。災害発生時に隣近所の人達を救助・支援する のはごく自然な美しい道徳的行動である。 共助とは,こうした被災時の助け合いのみならず,「自分たちの地域は自分で守る」という観点か ら,予防的な活動も含めて,普段から自主的に学習し,防災意識を高め,有事(実際に起こる災害) ─ 16 ─ に備えることである。いわゆる自主防災組織の活動がこの共助に相当する。地方自治体の公助だけで はきめ細やかな災害対応が出来ない現状を補う重要な役割を担いつつある。 また,阪神・淡路大震災(1995)以来,地域のみならず,遠方から支援にやってくる個人やグルー プも多くなってきた。これらの人々の活動は,防災ボランティアとよばれ,人手の足りない被災地に おいて復旧のための手助けをするありがたい存在となっている。 公助の体制と共に,自主防災組織やボランティア組織などの共助の機能が災害発生時に上手く働く ようにしておく必要がある。また,公助,共助を上手く組み合わせて災害に備えておくため,住民と 自治体が助け合うことも重要である。いわゆる「協働」とか「参画」,「住民参加」という共助の形態 である。行政側からだけではわからない地域の実情を,日常的に住民側から情報提供しておき,問題 点をあらかじめ協働して把握しておくこと,そしてそれを災害時に有効に活かすことも重要である。 これらの事から,災害対策は,行政側と住民側,そして共助を担う組織(自主防災組織やボラン ティア組織)が,常日頃からどれだけ備えておけるか,どれだけ協働体制を作り機能させておけるか が重要視されていることがわかる。 防災教育に関して矢守(2012,p.272-274)は,阪神・淡路大震災を機に,大きな転換を果たしたと 述べている。阪神・淡路大震災後 10 年間に「参加・連携・大衆」化が一気に加速したという。これ は, 「自助・共助の重視」もしくは「自助・共助・公助のバランス」をキャッチフレーズに急速に進 んだ,防災教育の草の根方向への拡大を目指す動きであった*8。 しかし,この動きに対するブレーキング反応が,2005 年以降顕在化してきたという。その理由と して,次の 2 点が上げられている。 ・防災教育の「参加・連携・大衆」化が,その主旨が徹底されない表面的なものにとどまり,防 災・減災への取り組みが依然多数の一般住民には浸透せず,ごく少数の「防災に熱心な人々」と それ以外の大多数という構図が維持されている。 ・ 「防災に熱心な人々」の多くも,こんにちの防災実践を底辺から支える理工学系の研究の蓄積に まで踏み込んだ成熟したものとは言い難い(専門性の再評価)。 この 2 点に対する懸念と苛立ちには,一定の根拠があると矢守(2012)はいう。この現状を解決す るには,一見きれいに二分されているように見える 2 つの世界(専門家の世界と,非専門家の世界) は,連続しており,潜在的には一連なりの「実践共同体」をなしていることを理解することが肝要 と,矢守は続けている。 居住地における地震対策について,齋藤(2014,p.64-67)は「「震災があっても避難所に行かない」 ことが,自助の第一歩であり,かつ「最大の自助」である」と述べている。防災計画などにおける避 難の基本的な流れのフローチャートは,次のようになっている。まず,防災活動(初期消火や安否確 認及び救出救護等)や避難行動を行う際に集団行動が必要になるため,一時集合場所等を活用する。 火災の発生や延焼の危険性がある場合は,公園や学校,広域避難場所などに避難する。家屋の倒壊や 消失によって自宅で生活できない場合は,避難所で応急的な避難生活を行う。自宅での生活が可能な 場合は,自宅で生活することが原則である。 ─ 17 ─ つまり,自宅の倒壊を防ぎ,少なくとも 3 日分の水や食料等を備蓄しておくなどの「避難しなく ても良い環境」を事前に整備することが重要である。この防災備蓄については,食品類の賞味期限管 理や保管に必要な容積の関係から,個人で行うのは困難である場合があるなどの理由から,賛否両論 である。また,過去の震災時,自宅生活を継続した被災者への支援物資の配給が行われない,あるい は遅れるという事案が多数発生している。これは,公助を担う行政側が,自宅生活者を意識するのに 時間がかかることや,自宅生活者への援助について事前に十分に議論されていないといった現状があ るのではないだろうか。 2-3 観光と防災の関係性 これまで,観光と防災の各種定義についての確認を行ってきた。観光は,非日常生活圏における活 動であり,観光者にとって,非日常性を求める行動と言えるのではないだろうか。対して防災は,常 日頃の備えや防災への習熟度,地域での関係性といった,日常生活圏における日常性の強い活動とと らえることが出来る。つまり,観光と防災は,異なる状況である可能性が非常に高いことが見えてく る。 もちろん,観光産業に従事する側にとっては,職場である観光地や観光施設は日常生活圏であるた め,防災という課題に取り組むことに対する抵抗は少ないだろう。但し,車両が通行困難な細い路地 や階段の多い街並,重要伝統的建造物保存地区の様な木造家屋群などの景観が観光資源である場合, 防災との両立という困難に直面することになる。 しかし,それは生活者としての観光従事者であって,その防災活動に観光者を組み込むとなると, 途端に観光と防災の両立は困難なものとなる可能性が高い。なぜならば,非日常性を求める観光者 を,日常性の側である防災へ振り向かせることになるからである。非日常性と物語性を重要な観光資 源としている施設の代表である東京ディズニーランドでは,現実(日常性)への覚醒を防ぐ為に,ト イレに鏡を置かないといったことを過去に行っていたという話は有名である。現実への覚醒は,非日 常性や物語性を楽しむ行為に水を差す(興醒めする)という心理に基づくものだという。そうである ならば,観光者に対して防災的アプローチをする,あるいは観光者に防災を意識させることは,観光 の魅力を減少させることに繋がると言えるのでは無いだろうか。 3章 日本の観光における防災の現状 3-1 日本の観光における防災について 日本の観光における防災は,観光施設側で行う防災対策である,消防法や建築基準法に基づいた施 設側の火災対策・地震対策に,あるいは富士山噴火といった広域災害に対する防災対策と観光振興の 融合といったものに終始してきた。しかし,平成 23 年 3 月 11 日に発生した東日本大震災「平成 23 年(2011 年)東北地方太平洋沖地震(震源地:三陸沖,震源の深さ:24 キロメートル,規模:マグ ニチュード 9.0(国内観測史上最大) ,最大震度:7」を転機として変わりつつある。 ─ 18 ─ 東日本大震災は,東北地方の太平洋沿岸部を中心として全国各地に大規模な津波が押し寄せ, 「阪 神・淡路大震災」を上回る未曾有鵜の被害をもたらした。津波の影響により,東京電力株式会社福島 第一・第二原子力発電所が被災し,半径 20 キロメートル圏内が避難区域とされるなどの影響が生じ た。原子力発電所事故については,廃炉に向けた作業,放射線の除染作業のどちらも難航しており, 事故発生から 4 年が経とうとする現在も,避難生活を余儀なくされている方々が数多く居る。 この東日本大震災は,被災地域のみならず日本全体の観光に大きな影響を与えたのは言うまでも ないが,日本三景の一つである松島(宮城県)を含む観光地が被災しており,観光者自身も被災者と なった。国はこれに対し,国内旅行者の安否確認,旅館・ホテルの被害確認, (独)国際観光振興機 構(JNTO,通称:日本政府観光局)のホームページにおける震災情報等各種情報の提供や,同機構の 訪日外国人向け観光案内所であるツーリスト・インフォメーション・センター(TIC)における 24 時間体制での電話対応を行った(観光庁,2012) 。 東日本大震災発生以前から,たとえば,八重山諸島(石垣市)では台風接近時の,阿蘇山では火山 ガスや噴火の危険性が高まったときの観光者の避難誘導を厳密に規定しているという。しかし,前者 は離島対策,後者は火山対策という,常に予期される脅威がある地域であり,そういった目に見える 脅威のなかった観光地における防災とは一線を隔すであろう。 以上のことを踏まえ,これまで常に予期される脅威がある地域以外でも, 「観光中に観光者が被災 する可能性」に焦点を当てた議論が活発になってきた。 3-2 東日本大震災にみる観光防災の現状 観光中に観光者が被災する可能性に焦点を当てた議論は,3-1 で述べたように,東日本大震災以降 に活発化してきた。それは,実際に多くの観光者が被災者となったからに他ならない。東日本大震災 発生当時,宮城県松島町でどのような観光防災活動が行われたのかを大窪・林・前田による調査結 果*9を参照し,以下のようにまとめる。 松島町は,昭和 53 年の宮城県沖地震以来約 30 年にわたって毎年防災訓練を町全体で実施(当初は 初期消火,救助活動,放水,炊き出しの調理方法など)。全 12 行政区の代表者による防災訓練の報告 会,平成 19 年からは町役場での図上訓練,中央広場付近から瑞巌寺への避難訓練(火災を想定)な ど,様々な防災訓練を行っていた。 観光者を巻き込んだ訓練として, 「半鐘を利用した避難誘導システム検証」を実施,観光者への注 意喚起を促す方法についても確認がなされる。平成 20 年 3 月 24 日に,観光者や住民を安全に避難誘 導するため,松島海岸で避難誘導訓練を実施。町,県,国の職員の他,観光協会やホテルの従業員ら 約 100 人が参加した。当時新たに設置された避難誘導標識を確認しながら,迅速な誘導策を検討して いた。 観光者の津波避難場所への誘導については,観光者の多い松島海岸沿いを中心に誘導看板や路面標 示を約 30 カ所,平成 20 年 3 月までに町が県や国とともに設置された。エリア毎に瑞巌寺,田町歩道 橋,三十狩駐車場,ホテル大観荘駐車場へと誘導するように計画されていた。 ─ 19 ─ 震災前の平成 20 年 5 月 17 日より,松島町は地元の観光業者や観光協会などとの間に観光防災に関 する 2 つの協定( 『災害時における旅客船におおける観光客輸送の確保に関する協定書』と,『災害時 における宿泊施設等の使用に関する協定書』 )を結んでいた。 東日本大震災発生時,観光者誘導に携わった主な主体は,松島町役場,松島観光協会と船会社,瑞 巌寺の 3 者であった。瑞巌寺への避難は避難訓練で何度も確認されており,瑞巌寺への誘導を行った 全ての主体が, 「事前の避難訓練があったためにスムーズな避難が行えた」と述べている。結果,計 約 350 名(うち観光者約 150 名)が瑞巌寺へ避難した。 高台へ避難した観光者は,役場の指示や現地の判断により,地元住民とともに各ホテル及び瑞巌寺 に収容された。事前の協定により避難所開設を依頼されていたホテルだけでなく,瑞巌寺も観光者収 容に大きく貢献していたことが把握されている。ただし,協定を結んでいた各ホテルは後日避難所運 営費用が補償されたが,協定を結んでいなかった瑞巌寺は費用についても負担していた。 松島は津波被害が比較的軽微であったため,周辺道路は震災直後より使用可能であった。しかし, 周辺状況に関する情報確保,バスなどの輸送手段と燃料の確保が必要であり,帰宅支援については, ホテルや瑞巌寺が自主的に調整や輸送を行っていた事が把握されている。事前の協定書では各船会社 による観光者の帰宅支援が取り決められていたが,甚大な津波被害により船の使用が不可能であった ため,海上を利用した帰宅支援が出来なかった。自家用車やタクシーを使って自力で帰宅した観光者 も相当数いたと考えられるが,町とホテルがバスを提供し帰宅支援を行った事実も以下の通り確認さ れた。 ・松島町役場は,宮城県庁に仙台から東京までの帰宅ルートに関する連絡を要請,山形経由のルー ト確保の連絡を受け,町所有のバス 2 台でピストン輸送,4 往復で 200 人を輸送した。 ・瑞巌寺は,14 日に役場にて山形経由のルート確保の情報を得るも,瑞巌寺にバスが無いことか ら,観光客の仙台への輸送について役場と交渉。午後にバス 2 台を使い瑞巌寺にいた観光客焼く 50~60 人全員を帰宅させた。 ・ホテル大観荘は,避難所として観光者を収容していたが,14 日に観光者自身から要望あり,ホ テル所有のバス 1 台を緊急車両扱いにしてもらい,14 名を仙台駅まで輸送。 松島町では,事前の避難訓練や協定書の様に震災前からある程度の観光防災対策が施されていたと 言えるが,事前の協定による取り決めは避難誘導・収容・帰宅支援という観光者支援を一通りカバー してはいたものの,うまく機能しなかったものもあった。また,協定を結んでいなかった瑞巌寺が, 事前の対策範囲を超えて,多岐に渡る働きをみせるなど,各主体が臨機応変な対応で災害を乗り切っ たという事実がわかった。 観光者が観光地で被災した際,周囲に頼れる人脈や土地勘が無いため, (特に大規模災害時は)災 害時要援護者となる。故に,観光者を安全な場所へ一時避難させ,適切な避難所へ収容し,かつ無事 に帰宅できるよう支援をするための「観光防災」対策を,各観光地は早急に樹立する必要がある。 東日本大震災の発生時は,松島にとってオフシーズンで観光客が少なかったことを考慮すると,も しオンシーズンの震災であったならば,今回の対応で必ずしも全てを十分にカバーできたか疑問が残 ─ 20 ─ る。松島町のみならず,観光地は面的に点在する観光者に対応出来るような避難誘導方法の取り決め や,収容先の確保,帰宅支援の方策が今後とも必要であろう。 3-3 日本の観光における防災の課題 3-1 で述べた様に,日本では東日本大震災以降,やっと観光中に観光者が被災する可能性に焦点を 当てた議論が活発になってきた。もちろん,3-2 の松島町の避難誘導システムの様に,独自の観光防 災対策を行ってきた観光地もある。しかし,観光地で行われている観光防災対策が本当に有用なの か,どれほど有効なのかは,実際に災害が発生してみないとわからない部分が多いということも,松 島は教えてくれている。なお,先に述べた離島や火山の様な,常に予期される脅威のある地域につい ては,その脅威とどのように折り合いをつけるかが地域の存続に関わる最大の命題である為,そう いった脅威を持たない一般的な観光地に絞って考えていく。 観光における防災の課題を考えると,①観光産業の従事者や観光地は防災の専門家ではないこと, ②観光者自身の不在あるいは観光者への働きかけの不足,という 2 点が考えられるのではないだろう か。それぞれの課題を見ていく。 ① 観光産業の従事者や観光地は防災の専門家ではない 観光産業の従事者や観光地は,観光地としての経営や産業としての観光の経営に対して,ある程 度のノウハウがある(観光産業の経営と観光地経営は求められるものが違うが,この辺りは割愛す る)。しかし,当然ながら彼らは防災の専門家ではない。専門家ではないこととノウハウがないこと は直結しないが,防災に精通している観光産業・観光地の経営者は,現状どれほどいるだろうか。防 災に精通した経営者がいたとしても,2-3 で触れた観光と防災の関係性を鑑みるに,観光と防災の両 立は容易ではないと考えられる。 専門家でないことに起因する防災に対する知識不足やノウハウ不足から,観光産業従事者や観光地 は,受け身の姿勢,あるいは場当たり的な姿勢であったのではないだろうか。消防法といった防災に 関連する法令にとりあえず準拠,あるいは災害対策基本法を根拠とするような災害発生時の協力協定 を(可能な範囲で)求められるまま締結といった状況であったと考えられる。それがどのように経営 に影響するか,という部分での議論はなされるだろうが,防災対策そのものに突っこんだ形での議論 というのは,経営に追われる中防災について新たに学ぶ必要があり,実際には難しいであろう。 また,防災は行政が行うものという感覚が,一般的には根強いだろう。これは,戦後に政府が防災 対策を主導し,公助機能の強化を図ってきた結果,防災は行政が行うものという認識が強まり,そ れまでの経験則に基づいた(ある意味民間療法的な)自助や共助の減少に繋がったとの指摘がある。 「餅は餅屋」ではないが,専門家がより専門的に行うものという様な向きがあったとみられる。この, 防災は行政という認識が,専門家ではない人が積極的に防災に取り組むということに対する壁になっ ていると考えられる。しかし実際には,地方自治体には専門家が少なかったり,市町村長自身が防災 の専門家でない場合がほとんどであるなど,様々な要因から行政組織の対応が遅れる場合があると, 林(2012,p.14)は解説しており,行政≠専門家という現実がある。 ─ 21 ─ ② 観光者自身の不在あるいは観光者への働きかけの不足 観光者自身の不在についてであるが,2-1 で述べた様に,観光者にとっての観光地は,非日常生活 圏である。つまり観光者は,普段はそこに存在しない人物群ということである。普段その場に存在し ないということは,観光地としての防災訓練を実施したとしても参加し得ない,あるいは観光者から 見た防災訓練の課題という視点が存在し得ないということになろう。これは,観光者が災害発生時に 実際に何を求め,どんな行動に出るのかという様なシミュレーションが十分に出来ないということに 繋がる。もちろん,想定外の事態に直面するのが有事の常であり,シミュレーションを行った範囲内 に物事が収まる事の方が稀と考えるべきであり,完璧を目指す必要はないが,想定をより現実に近づ けさせるに当たって,当事者やそれに類する者(観光者)の意見があるか無いかというのは,重要な 部分である。 また,観光者というのは,非日常生活圏への訪問者であり,大多数の観光者は観光地に(主に地理 的な意味で)詳しくない人々である。リピーターの様な複数回同じ観光地を訪問する観光者層などの 現地住民と遜色ないレベルで地域を知っている場合は例外と考えるべきである。普段からその土地に 対する知識を持っている人々(住民等)と,知識を持っていない人々(観光者)では,災害発生時の 危機感や安全性の判断といった部分に差が出てくる。結果,観光者の逃げ遅れや 2 次災害への遭遇率 が高くなるということが考えられる。もちろん,有事の際はその当りに留意した形で避難誘導などが 行われることになるだろう。 さらに,防災の担い手という角度から観光者を見る必要もある。2-2-4 の災害対策の現状を鑑みて, 観光者が担うことになるのは,まず「自助」である。個々人の自己責任の担い手としての観光者は, 多くの場合不在であるだろう。なぜならば,2-3 で述べた様に,観光行動は非日常性を求める行動で ある。対して自己責任に基づく行動は,現実への覚醒によるものであり,日常性の高い行動である。 観光を楽しむ為に,観光者は意識的・あるいは無意識的に日常性を放棄し,自助の担い手という立場 を意識した行動を避けている可能性が考えられる。 また,有事の際は,観光者も「共助」を担うことになるのではないだろうか。避難時に誰かに手を 貸したり,あるいは避難所で炊き出し等を手伝ったりといった可能性は大いにあるだろう。しかし, そんな事を想定しながら観光している観光者がどれほど居るだろうか。同時に観光地側は,観光者 の手を借りることを初めから想定した防災対策を計画したりしているだろうか。観光者側は無意識的 に,観光地側は意識的に共助の担い手から観光者を除外している可能性があるだろう。 防災の担い手としての観光者の不在により,発生する問題はなんだろうか。崔・豊田・谷口・鐘ヶ 江・伊津野が京都清水寺周辺で行った調査結果*10 から,次の様な可能性を得た。 誰かに避難場所への移動を勧められた場合, 「躊躇しないで言われたとおりにする」人が 30.6% で最も多いが,逆に 7 割近い人が何らかの不安や心配要素を抱えていた。その不安や心配要素の中 の「自宅・乗用車・観光バスまたはホテルへ戻りたい(28.6%) 」「家族と約束したところへ行きたい (25.5%) 」 「信用できない(17.3%) 」と答えた人々に注目してもらいたい。複数回答であるため,7 割近い人の内のどれほどがこういった考えを持っているのかはわからないが,これらの人々は, 「避 ─ 22 ─ 難指示に従わない可能性のある人」 ,あるいは「避難行動に逆行する可能性のある人」と言えるので はないだろうか。彼らがその欲求に従って行動を起こした場合を拡張的に考えると,それが避難行動 を阻害し,あるいは混乱を招き,最悪,彼らに同調し,危険性の高い所へ一緒に移動した誰かが命を 落とす,ということもあり得てしまうのである。これは矢守(2011,p.92-97)の言う「自然災害の犯 罪化(現代社会においては,自然災害について責任の所在が問われる)」の発生と考えて良いだろう。 これは極論であるが,こう言った事態の発生は, 「自分がこの行動を取ったら,避難行動にどんな 影響を与えてしまうのか」といったことを,防災の担い手としての立場から考える事が出来れば防げ る可能性が高いのではないだろうか。 次に観光者への働きかけの不足であるが,これは観光者自身の不在に起因する部分が大きいだろ う。居ない存在に働きかけるというのは,なかなかに困難なことであるし,防災の担い手という立場 を避けている,非日常性を求めている相手に対し,防災の担い手として働きかけ,日常への覚醒を促 すというのは,観光の魅力を減少させてしまう可能性が高く難しい。そういった事から,観光者に向 けた防災情報の発信や啓発行動は,観光産業や観光地ではタブー視されていた可能性がある。結果, 観光者への積極的な働きかけが行われていなかったと考えられる。 以上が,観光における防災の課題であると考えている。上記の課題は,観光と防災のそれぞれの性 質やこれまでの災害対策の動き,観光者自身の問題という様に多岐に渡り,解決は容易ではないこと は想像に難くない。これらを踏まえて,4 章では観光者の持つ防災に対する意識に焦点を当てていく。 4章 観光者自身の防災調査 これまでに見てきた観光と防災の関係性や,観光における防災対策の現状を踏まえ,観光者自身 はどういった防災意識を持っているのか,観光に際して防災対策を行っているのかを知る為の調査を 行った。 4-1 調査概要 ● 調査目的 千葉県君津市のレジャー施設「ロマンの森共和国」を訪れた高校生以上の男女を対象に,回答者 の属性,日常での防災と観光においての防災を尋ね,回答者の属性と防災意識や,日常での防災と観 光においての防災の関係性を明らかにし,現状での観光者自身の防災意識を抽出することを目的に実 施。 ● 調査期間 2014 年 10 月 4 日(土)~26 日(日) ● 調査対象 千葉県君津市豊英のレジャー施設「ロマンの森共和国」を訪れた高校生以上の男女*11 ● 調査方法 ─ 23 ─ 10 月 4 日(土)及び 10 月 18 日(土)については,調査員 2 人により園内を巡り,来訪者に直接, アンケート用紙へその場での記入を依頼。それ以外は従業員にアンケート用紙の来訪者への配布を依 頼し,回答があった分のみを回収。 ● 有効回答数 107 件 ● ロマンの森共和国の概要 南房総の中央に位置し,清和県民の森に隣接するなど,自然に恵まれたレジャー施設である。都心 から車で 90 分,JR鴨川駅から車で 20 分,東京湾フェリー金谷港から車で 30 分と,自家用車での観 光の多い南房総では恵まれた立地である。敷地面積は 40 万㎡と広く,自然の断崖を活かしたフィー ルドアスレチックを中心とした「遊びランド」と,日本グラウンド・ゴルフ協会認定コースである天 然芝の「グラウンドゴルフ場」にエリアが分かれる。宿泊施設は,ホテル・コテージ・キャンピング ロッジ・オートキャンプ場と様々。季節毎のイベントや旬の味覚狩り,100mの断崖を望む露天風呂 「白壁の湯」も人気がある。 2013 年の年間利用者数*12 は,遊びランド入園者約 28,000 人,宿泊者数(実数)15,508 人,グラウ ンドゴルフ場約 8,000 人,露天風呂約 6,000 人,苺狩り約 6,000 人,ホタル観賞約 6,500 人である。な お,入園者については,3ヶ月以内の再来園無料を利用した方や,宿泊により複数回入園した方,経 営母体を同じくする老人マンション「サン・ラポール南房総」の入居者およびその家族については集 計されていないため,入園者延べ数に含まれない。また,グラウンドゴルフ場については,宿泊して 複数回コースに出る場合を 1 宿泊で 1 人と集計しているため,利用者延べ数ではない。露天風呂につ いては,ホテル・コテージの無料利用者を除外し,有料利用者数を集計している。 ● 回答者の属性 来訪者の性別を見ると,66.3%が女性となった。年齢では 19~39 歳が 43.9%と最も多く,次い で 40~59 歳が 25.2%,60~74 歳が 19.6%となった。家族連れ向きの施設であることから,子供を 連れた保護者と合致する。職業については,会社員の 34.5%を抜いて,その他が 42%と最も多かっ た。その他の内 64.4%が主婦と答えており,女性の 40.8%を主婦が占めていた。同行者については, 62.6%が家族と来ていた。なお,同行者について,友人・知人やその他と答えた内の殆どがグラウン ドゴルフを目的としていた。来訪回数については,66.3%が初めての来訪であるが,2 回目以上であ る人の約半数がグラウンドゴルフを目的としている。来訪目的については,70%が遊びランドを目的 としており,グラウンドゴルフは 16.8%となった。目的別に見ると,グラウンドゴルフの占める割合 は少ないが,グラウンドゴルフはリピート率が高く,来訪者として重要な位置を占めていることがわ かる。 ロマンの森共和国を知るきっかけとなった情報源は,公式ホームページや旅行サイト,個人のSNS やブログといったWEBが 30.9%と多いが,家族と友人・知人の合計が 38.1%となっており,人づて の情報が非常に重要であることがわかる。 ─ 24 ─ 4-2 観光者自身の防災 4-2-1 日常での防災 観光者自身の防災を問う前段階として,日常での防災について確認した。地域で行われている防 災訓練に 66.3%が参加していないと回答している。その理由については,「日時が合わない(16 人)」 「何時実施しているのかわからない(7 人) 」という回答があった。日時が合わない場合でも,職場等 では避難訓練に参加しているという回答もあり,地域の防災訓練に参加していないからといって,防 災に対する関心が低い訳ではないようである。 普段行っている防災対策(複数回答可)を見ると, 「していない(2 人) 」 「無回答(3 人) 」以外は,何かしらの備えを行っている事がわかった。具体的 には, 「災害備蓄品の用意」78 人と「避難場所の確認」66 人が群を抜いている。これらは普段から行 いやすいものであるが,実際に災害が起きた際に問題なく使えるよう「災害備蓄品の点検・管理」を 行っているのは 32 人に過ぎず,半数が備蓄品を用意した“だけ”という状態であった。また,「避難 経路の下見」を行っているのは,たったの 9 人であった。避難場所自体は開けた場所であるが,そこ に至るまでの道中で−例えばブロック塀が倒壊するなど− 2 次被害が出る可能性については十分に検 討している人は少ないと言える。災害時は通信手段が途絶する事が多く,その場合の連絡手段を事前 に決めておくことは,家族の状況を素早く把握する上で重要であるが,「災害時の連絡方法の確認」 を行っているのは 30 人と,決して多くはない。そういった取り決めや情報共有の場である「家族防 災会議」を実施しているのは 14 人に留まる。これらを踏まえると,災害時により効果を発揮するで あろう防災対策を行っているのは全体の 3 割ほどであると推定される。 4-2-2 観光者自身の防災 次いで,普段の観光時の防災について確認した。旅先を決めるに当たって,意識していると答えた のは 31.7%,意識していないと答えたのは 63.5%であった。旅先の決定において,防災は多くの場合 意識されていないことがわかった。意識していると答えた方に,何を意識しているのかを複数選択で 聞いた。その結果を把握しやすいように,各項目を「火災,非常口・避難経路=常にある災害」,「地 ─ 25 ─ 震,津波,土砂災害=予期されない災害」 , 「台風,大雨・洪水,強風・竜巻,大雪=季節性の災害」, 「避難場所や周辺の地理,災害時の帰宅ルート=減災に必要な情報」という 4 つに分類してみる。す ると, 「常にある災害」が 4 割弱, 「予期されない災害」が 7 割強,「季節性の災害」が 6 割弱,「減災 に必要な情報」が 3 割弱となった。 日本は地震大国であり,震度 3 以下の地震は日常茶飯事であるが,震度 4 以上の明確な被害が予想 される地震の発生はそう多くなく,何より予測が困難である。地震大国であるが故に意識されている ことが,この「予期されない災害」の 7 割という数字に表れている。それと同時に,予期されないが 故に対策を講じづらい部分に意識が向いてしまっている現状があるともいえるだろう。 「季節性の災 害」については,被害の大小はあれど,毎年ほぼ必ず苛まれることになる自然事象であり,日本にお いては意識されて当然といえることが 6 割という数字に反映されているだろう。 防災という観点でいえば,どんな災害が予期されるかよりも, 「減災に必要な情報」が何であるか を精査する能力の方が重要ではないだろうか。この項目を意識している人は,旅先の決定において防 災を意識している人の 3 割と考えれば十分に多いのかもしれない。しかし,全体の 1 割にも満たない ことを考えると,効果の高い方向で防災を意識した旅先の決定を行っているのはほんの一握りである といえるだろう。 観光を計画する段階で災害情報などを得る為に活用している情報源は, 「テレビ・ラジオの天気予 報(災害) 」が 58 人と最多で,次いで「テレビ・ラジオの交通情報(32 人) 」 , 「観光地の自治体の HP(25 人) 」 , 「気象庁のHP(25 人) 」となっている。メディアが多様化している現代においても, 未だにテレビ・ラジオに頼った情報収集活動が主流であることがわかる。テレビやラジオは,事象の 重大性や話題性,あるは時間枠の縛りといった様々な要因から伝えるニュースを取捨選択している。 また,視聴者側とのタイミングが合わずに情報が伝わらないという事が発生するため,十分な情報を 得るのが難しいように感じる。また,土砂災害の詳細や一般道の通行止め情報に強い「国土交通省の HP」や,テレビ・ラジオへの道路情報の発信元である「日本道路交通情報センターのHP」はそれぞ ─ 26 ─ れ 2 人と,あまり活用されていない事がわかる。 旅先で観光中に防災を意識することがあるかについて,意識することはあると答えたのは 44.8%, 意識することはないと答えたのは 50.4%と,僅差ではあるが意識することはない人の方が多かった。 意識することがあると答えた方に,何を意識しているのかを複数選択で聞いた。その結果を把握しや すいように,各項目を「火災対策,非常口・避難経路=常にある災害への対策」,「地震対策,大雨対 策,土砂災害=予期されない災害への対策」 , 「公衆電話,避難場所や周辺の地理,同行者との合流 や連絡手段,災害時の帰宅ルート=災害時に有用な情報等」,「天気予報(災害)=防災以外でも意識 するもの」の 4 つに分類してみる。すると, 「常にある災害への対策」が 7 割弱,「予期されない災害 への対策」が 6 割強, 「災害時に有用な情報等」が 4 割弱,「防災以外でも意識するもの」が 4 割弱と なった。 これは,ホテルなどの宿泊施設では,チェックインの際に非常口・避難経路についての確認を促 すことが多いことが影響しているのではないだろうか。ここで興味深かったのは, 「情報」に対する 意識の変化が少なからず見て取れることである。たとえば,旅先を決めるに当たって「災害時の帰宅 ルート」を意識しているのは 5 人であったが,観光中に意識している人が 12 人と増えたといった具 合である。全体における割合も 2 割弱と,若干であるが増えていることから,実際に観光地を訪れて みると思うところがある,という場合が多い可能性が窺える。 旅先で実際に防災対策を行っている人は 10.2%と非常に少なかった。実際に行っている対策は「非 常口・避難経路確認」 , 「非常食や災害グッズを携行」の他,「懐中電灯やラジオを携行」,「情報収集」 であった。災害グッズとして「乳幼児の備品を多めに持っていく」という意見は,これまでの災害時 に,支援物資としてなかなか乳幼児に必要なものが入ってこなかったという経緯を踏まえていると思 われる。 今後の観光に取り入れたい防災対策があるかについて,85.9%が特にないと答えている。取り入れ たい防災対策として唯一例に挙がったのは「常に天候などの情報をチェックする」であった。これ は,旅先で観光中に約半分の人々が防災について意識するが,観光者自身が防災対策を行う,取り入 ─ 27 ─ れるとなると,途端に敷居が高くなるということであろうか。 観光地や施設に行って欲しい防災対策について聞くと, 「設備の防災対策(49 人) 」 , 「災害時の情 報提供(48 人) 」 , 「避難誘導(48 人) 」がほぼ同数で,次いで「防災情報の発信(広域避難場所など) (46 人) 」,「災害備蓄品の充実(36 人) 」となった。これらの項目の内,「災害時の情報提供」,「避難 誘導」「災害備蓄品の充実」は,被災時に観光者が受ける「災害時サービス」と言い換えることが出 来るのではないだろうか。こちらが提示した選択肢があまり良くなかった可能性も否めないが,この 結果から,観光者は受け身の姿勢で「災害発生時は頼り切るからよろしく!」と言っているように感 じる。 「観光者参加型の防災訓練」を行って欲しいと答えたのは 5 人のみであり,観光者自身が積極 的に防災に取り組む姿勢というのは,極少数であることがわかった。このことは,観光の目的が非日 常性ということであるかもしれないと考える。 観光地や施設が,観光者参加型の防災訓練を実施する場合,参加するかについて,参加すると答え たのは 34.5%,参加しないと答えたのは 61.6%であった。参加しない理由としては,殆どが「観光の 時間を削りたくない・観光優先」というものであった。ここが,最も観光と防災の反発する部分であ ることは 2・3 章から予想されていた。その他,参加型防災訓練の意義を問うものや,観光者は防災 の主体ではないという意見,普段から防災を心掛けているからこそ自衛で十分という意見があった。 逆に参加すると答えた理由は, 「いざという時のために必要」や「何事も経験」 , 「知らない土地での 訓練は貴重な体験」といった積極的なものと, 「タイミングが合うなら」という消極的なものと両方 あった。このことから,観光者参加型の防災訓練を実施する場合,その意義を如何に観光者にアピー ル出来るか,どれだけ観光行動の妨害にならないか,あるいは観光行動の一部に組み込めるかが課題 であるとわかる。 5章 結論:観光者自身の防災の課題 これまでの調査を通じて,まず,日常の防災対策自体,個人差が大きく,かつ実際に災害が発生し た際に自助としてより効果的な防災対策を行っている人は少ない事がわかった。これは, 「備えあれ ば憂いなし」を物心両面の準備ではなく,物的準備で終わらせてしまっていることが多いということ ではないだろうか。日常での防災として 7 割もの人が物的準備を実施しており,今後はより一歩踏み 込んだソフト面での防災に向けた働きかけを行っていくべきだろう。 4 章のアンケート結果から,観光者としての防災意識は,観光前の方が観光中より低いという傾向 が見えてきた。これは,当初予想していなかった結果である。これについては,観光前において,観 光中の自分はイメージの中の存在であり,実際に観光してみると観光中の自分が現実の存在として捉 えられるからではないだろうか。現実である観光中の自分を如何に自助するか(自己責任で自分や家 族を守るか)という問題について,頭の片隅ででも意識している人が 4 割を超えていることから,如 何にこの人達に,防災を考慮した観光を意識するよう働きかけることが出来るかが,観光者自身の防 災意識の醸成への足がかりではないだろうか。 ─ 28 ─ 以上のことから,観光者自身の防災意識の醸成への足がかりは確かにあると言っていいだろう。し かし,そこへ向けて働きかけるということ自体が,観光の魅力の減少や観光行動の妨害と観光者に受 け止められる可能性が非常に高い事も,アンケートを通じてより明確になった。 「自己責任をもっと 強調してもいいのでは」という意見もあったが,多くの観光者にとって防災対策は積極的に取り入れ るものではないという認識があるようである。 「観光者は助けてもらう側」という主旨の,積極的受 け身の姿勢ともとれる意見もあり,観光と防災の性質は相反する可能性が高いことを踏まえて,総体 としての観光者は防災に対して消極的であるというのが現状であろう。 「観光を楽しんでもらう」ということが観光地や観光施設において最大の命題であるから,それを 阻害する可能性が高い状態で,観光中の観光者自身に防災に向けた働きかけを行うことは,非常に困 難である。しかし同時に,観光前よりも観光中の方が,観光者自身の防災意識が高まることがアン ケートからわかった。なかなか困難なことかもしれないが,観光中に観光を楽しむことを妨害するこ となく,観光者自身の防災意識を高めることができるような方策を導き出すことができれば,観光者 自身の防災意識の醸成を効率的に促すことができるのではないだろうか。 きっかけさえあれば,観光者自身が観光中の防災意識の低さに気がつくということも,アンケート を通じてわかった。そのきっかけが何であれば観光者にとってプラスになるのか,あるいはきっかけ が何であれ観光者にとって防災に意識を向けることはマイナスであるのかという踏み込んだ情報ま で,今回の調査では近づくことが出来なかった。観光者自身も防災を行うこと(自助)が,観光者に とってプラスであるということを如何に観光者に対してアピールしていけるかが,最初にして最大の 問題であろう。 居住地における震災時の最大の自助は, 「避難所に行かない」ことであった。これを観光者に当て はめると,その最大の自助は「観光地に留まらず速やかに自宅へ戻ること」となるだろう。そのた めには,速やかな交通機関の復旧が必要である。しかし,この最大の自助において最も重要なのは, 「公助を含めた他者からの支援に頼り切らないこと」だと思われる。 もちろん,不確定な情報や間違った情報をもとに行動するのは非常に危険である。より正確な情報 という観点から言えば,観光地や観光施設の側が,平常時・災害発生時の区別無く,観光者の自助に 必要な防災情報を発信・共有できる方法を模索し,提示して初めて観光者の自助が力を発揮すると言 えるだろう。しかし,災害はいつ起こっても不思議ではないことを踏まえると,観光地や観光施設側 の情報提供の方策が整うまでは,観光者は自助しなくて良い,ということにはならない。災害は待っ てはくれないのだからこそ,観光時の防災を拒絶することなく, 「いつでも・どこでも・誰にとって も防災は必要なものである」という認識を持つことが,観光者にとって望ましい自助であり,観光者 自身の防災のあり方なのかもしれない。 今回の調査では対象とした観光施設を訪れる観光者の誘致圏が非常に局地的であり,かつ回答者の 属性に偏りが見られた。また,回答者の属性と防災意識の関係性について分析するには十分な数の回 答者数を確保することができなかった。より一般的,客観的な観光者自身の防災の現状を求めるに は,更なる調査が必要である。観光者にとってプラスとなるアプローチを実現するためにも,調査を ─ 29 ─ 今後とも続けたい。 注 *1 本学の阿比留教授の解説(2011 年 4 月 26 日配付資料)をまとめたものである。 *2 なお,近年台頭してきた持続可能な観光(サスティナブル・ツーリズム)においては,非日常性(日 常と違うこと)ではなく異日常性(自分の生活地と異なる他地域の日常)を志向する。後述するよう に防災は日常性の高い行動であるから,日常圏ではない観光地での行動を日常と区別するため,以後 の表記は非日常性で統一する。 * 3 MICEと は, 企 業 等 の 会 議(Meeting), 企 業 等 の 行 う 報 奨・ 研 修 旅 行( イ ン セ ン テ ィ ブ 旅 行 ) (Incentive Travel),国際機関・団体,学会等が行う国際会議(Convention) ,展示会・見本市,イベ ント(Exhibition/Event)の頭文字のことであり,多くの集客交流が見込まれるビジネスイベントな どの総称である(観光庁HP)。 *4 VFR(Visit Friends and Relatives)とは,友人・親族訪問を意味する略語で,海外で観光統計の旅 行目的の分類に用いられる(黒須宏志,2013)。 *5 松澤は先に自然災害についてを取り上げているため。 *6 なお,防災基本計画における災害は,自然災害と事故災害から構成され,自然災害は地震対策,風 水害対策,火山災害対策,雪害対策を対象とし,事故災害は,海上災害,航空災害,鉄道災害,道路 災害,原子力災害,危険物等災害,大規模火災,林野火災を対象としている(内閣府 2011) 。 *7 寶(2012,p.1)は,竜巻,台風,土石流,雪崩,干ばつ,熱波,林野火災なども例示している。 *8 矢守は,この動きを元に「生活防災」を提唱したと見られる。 *9 立命館大学歴史都市防災研究所「震災後に観光客を支えた民間による「観光防災」活動の実態調査」 (2013)より。 *10 立命館大学歴史都市防災研究所「地震時における避難行動の意思決定プロセスに関する研究−京都 清水寺周辺地域をケーススタディとして−」(2013)より。 *11 観光に際して訪問先の決定や移動手段の選択といった判断が可能な方を対象とするため,中学生以 下の若年齢者には回答を依頼していない。 *12 2014 年 10 月 25 日(土)取材より。 引用・参考文献 インターリスク総研(2011)「リスクマネジメント規格」インターリスク総研コンサルティング第一部 ERMグループ編 http://www.ms-ins.com/houjin/product/lineup/pdf/rm/rmplan.pdf(閲覧日 2014 年 12 月 30 日) 大窪健之・林倫子・前田紀樹(2013)「震災後に観光客を支えた民間による「観光防災」活動の実態調査」 立命館大学歴史都市防災研究所『歴史都市防災研究−東日本大震災プロジェクト研究成果−』2 号 (2013.3),p.1-6 岡田豊一(2013)「ツーリズム・デスティネーション・マーケティングの基本的フレームワークについて」 城西国際大学観光学部『城西国際大学紀要』第 22 巻第 6 号(2013) ,p.3 観光行政研究会編著(1995)「答申の読み方・前文」運輸省運輸政策局観光部監修『観光立国への戦略 解 説観光政策審議会答申「今後の観光政策の基本的な方向」 』 (社)日本観光協会,p13-15 観光庁(2011)『平成 23 年版観光白書』 観光庁(2014)『平成 26 年版観光白書』 観光庁HP(2014)「MICEの開催・誘致の推進」 http://www.mlit.go.jp/kankocho/shisaku/kokusai/mice. html(閲覧日 2014 年 12 月 9 日) 黒 須 宏 志(2013)「VFRが ひ ら く ツ ー リ ズ ム の 未 来 」 公 益 財 団 法 人 日 本 交 通 公 社 編『 研 究 員 コ ラ ム 』 vol.185,公益財団法人日本交通公社 http://www.jtb.or.jp/researcher/column-visit-friends-relativeskurosu(閲覧日 2014 年 12 月 9 日) 崔青林・豊田祐輔・矢口仁士・鐘ヶ江秀彦・伊津野和行(2013) 「地震時における避難行動の意思決定プロ セスに関する研究−京都清水寺周辺地域をケーススタディとして−」立命館大学歴史都市防災研究所 ─ 30 ─ 『歴史都市防災論文集』vol.7(2013.7),p.23-30 齋藤實(2014)「おかしくないか?日本の防災対策 第 1 回「震災時に避難所へ行かない」 ,これが「最大 の自助」」『リスク対策.com』vol.41(2014.1),新建新聞社,p.64-67 寶馨(2012)「1 自然災害と防災」京都大学防災研究所監修,寶馨・戸田圭一・松本学編, 『自然災害と防災 の事典』丸善出版,p.1 内閣府(2011)『日本の災害対策』 林春男(2012)「1.2 防災・減災」京都大学防災研究所監修,寶馨・戸田圭一・松本学編, 『自然災害と防災 の事典』丸善出版,p.11-14 松澤勲(1988)松澤勲監修『自然災害科学事典』築地書館,p.186-187,507 矢守克也(2011)「5.2 自然災害の犯罪化」『増補版〈生活防災〉のすすめ 東日本大震災と日本社会』ナカ ニシヤ出版,p.92-97 矢守克也(2012)「6.4 人と防災」京都大学防災研究所監修,寶馨・戸田圭一・松本学編, 『自然災害と防災 の事典』丸善出版,p.272-274 ロマンの森共和国HP「ロマンの森共和国とは」 http://www.romannomori.co.jp/about.php(閲覧日:2015 年 1 月 7 日) D.Glaesser(2008)「2.3 危機管理とは何か」安村克己・橋本佳恵・大井達雄訳『危機管理論と観光Crisis Management in the Tourism Industry 2nd edition』くんぷる,p.29-31 謝辞 本調査に当たって,ロマンの森共和国の皆様には多大なるご協力をいただきました。また,指導教 官である渡辺淳一先生には,漠然としていたビジョンを形にしていくにあたり,論点の整理や理論の 死角をご指摘いただくなど,根気強く何度もご指導をいただきました。この場を借りまして深く感謝 いたします。副査として貴重なコメントをいただきました阿比留勝利先生,アンケート結果の分析の 示唆を頂きましたDavid Williams先生にも,心より感謝いたします。 ─ 31 ─ ཧ⪃㈨ᩱ ほග⪅ࡢ㜵⅏ࡘ࠸࡚ࡢࣥࢣ࣮ࢺㄪᰝ ࡇࡢㄪᰝࡣࠊᇛすᅜ㝿ᏛほගᏛ㒊࠾ࡅࡿ༞ᴗㄽᩥ◊✲ࡢ୍⎔ࡋ࡚ࠊほග⪅ࡢ㜵⅏ព ㆑㛵ࡋ࡚ᐇ⮴ࡋࡲࡍࠋほග⪅⮬㌟ࡀ㜵⅏ࡘ࠸࡚ࡢࡼ࠺⪃࠼࡚࠸ࡿࢆ▱ࡿࡇ࡛ࠊ ほග࠾ࡅࡿ㜵⅏ࡢ⌧≧ࢆ᥈ࡿࡇࢆ┠ⓗࡋ࡚࠾ࡾࡲࡍࠋ ኚᜍ⦰࡛ࡣࡈࡊ࠸ࡲࡍࡀࠊࡈ༠ຊࡼࢁࡋࡃ࠾㢪࠸⮴ࡋࡲࡍࠋ 㸺ࣥࢣ࣮ࢺࢆ࠾⟅࠼࠸ࡓࡔࡃᙜࡓࡗ࡚ࡢὀព㡯㸼 z ≉ูࡢグ㍕ࡢ࡞࠸㉁ၥࡘ࠸࡚ࡣࠊ ࡘࡢ㉁ၥᑐࡋࠊ ࡘ࠾⟅࠼ࡃࡔࡉ࠸ࠋ z ࠕࡑࡢࠖࢆ࠾㑅ࡧࡢ㝿ࡣࠊᚲࡎ࢝ࢵࢥෆࡑࡢෆᐜࢆࡈグධࡃࡔࡉ࠸ࠋ z ࡇࡢࣥࢣ࣮ࢺࡣࠊ୧㠃༳ๅ࡞ࡗ࡚࠾ࡾࡲࡍࠋ࠾ᡭᩘ࡛ࡍࡀࠊ㠃ࡶࡈᅇ⟅ࡃࡔࡉ࠸ࠋ $࠶࡞ࡓ࣐ࣟࣥࡢ᳃ඹᅜࡘ࠸࡚ 㸬࠶࡞ࡓࡢᛶูᖺ㱋ࠊ⫋ᴗࠊᒃఫᆅࢆᩍ࠼࡚ࡃࡔࡉ࠸ࠋ ᛶู㸸㸦a㸧⏨ᛶ 㸦b㸧ዪᛶ ᒃఫᆅ㸸 㒔㐨ᗓ┴ ᖺ㱋㸸㸦a㸧㹼18 ṓ 㸦b㸧19㹼39 ṓ 㸦c㸧40㹼59 ṓ 㸦d㸧60㹼74 ṓ 㸦e㸧75 ṓ㹼 ⫋ᴗ㸸㸦a㸧♫ဨ 㸦b㸧⮬Ⴀᴗ 㸦c㸧බົဨ 㸦d㸧⏕ᚐ࣭Ꮫ⏕ 㸦e㸧ࡑࡢ㸦 㸧 㸬ᮏ᪥ࠊ࣐ࣟࣥࡢ᳃ඹᅜࡣ࡞ࡓࡈ୍⥴ࡈ᮶ᅬ࡛ࡍࠋ 㸦a㸧ᐙ᪘ 㸦b㸧ே࣭▱ே 㸦c㸧㛵ಀ 㸦d㸧ࡑࡢ㸦 㸧 㸬࣐ࣟࣥࡢ᳃ඹᅜࡣఱᅇ┠ࡢࡈ᮶ᅬ࡛ࡍࠋ 㸦a㸧ึࡵ࡚ 㸦b㸧2 ᅇ┠ 㸦c㸧3 ᅇ┠ 㸦d㸧4 ᅇ௨ୖ 㸬࣐ࣟࣥࡢ᳃ඹᅜࢆఱࡽ࠾▱ࡾ࡞ࡾࡲࡋࡓࠋ 㸦a㸧ᐙ᪘ 㸦b㸧ே࣭▱ே 㸦c㸧㞧ㄅ㸦ࡿࡿࡪࠊࡄࡿࡗ༓ⴥࠊ⛅ Walkerࠊࡑࡢ 㸧 㸦d㸧WEB㸦බᘧ HPࠊ᪑⾜ࢧࢺࠊಶேࡢ SNS ࡸࣈࣟࢢࠊࡑࡢ 㸧 㸦e㸧ࢸࣞࣅ␒⤌㸦ࢻ⾤ࢵࢡኳᅜࠊ㯤㔠ఏㄝࠊࡑࡢ 㸧 㸬ᮏ᪥ࡢࡈ᮶ᅬࡢ࡞┠ⓗࡣఱ࡛ࡍࠋ㸦」ᩘᅇ⟅ྍ㸧 㸦a㸧㐟ࡧࣛࣥࢻ 㸦b㸧ࢢࣛࣥࢻࢦࣝࣇ 㸦c㸧㣗 㸦d㸧㟢ኳ㢼࿅ 㸦e㸧ᐟἩ 㸦f㸧ࡑࡢ㸦 㸧 %᪥ᖖ࡛ࡢ㜵⅏ࡘ࠸࡚ 㸬ᆅᇦ࡛⾜ࢃࢀࡿ㜵⅏カ⦎ཧຍࡋ࡚࠸ࡲࡍࠋ 㸦a㸧ཧຍࡋ࡚࠸࡞࠸㸦⌮⏤㸸 㸧 㸦b㸧ཧຍࡋ࡚࠸ࡿ㸦⌮⏤㸸 㸧 㸬ᬑẁ⾜ࡗ࡚࠸ࡿ㜵⅏ᑐ⟇ࡣఱ࡛ࡍࠋ㸦」ᩘᅇ⟅ྍ㸧 㸦a㸧⅏ᐖഛရࡢ⏝ព 㸦b㸧⅏ᐖഛရࡢⅬ᳨࣭⟶⌮ 㸦c㸧㑊㞴ሙᡤࡢ☜ㄆ 㸦d㸧⅏ᐖࡢᣢࡕฟࡋရ‽ഛ㸦1 ࢝ᡤ⨨ࡃࠊࣜࢫࢺࢵࣉ࡞㸧 㸦e㸧㑊㞴⤒㊰ࡢୗぢ 㸦f㸧⅏ᐖࡢ㐃⤡᪉ἲࡢ☜ㄆ 㸦g㸧㜵⅏ᐙ᪘㆟ 㸦h㸧ࡑࡢ㸦 㸧 㸺㠃⥆ࡃ㸼 25 ─ 32 ─ ཧ⪃㈨ᩱ &ᬑẁࡢほග㜵⅏ࡘ࠸࡚ 㸬࠶࡞ࡓࡣᬑẁࠊ᪑ඛࢆỴࡵࡿᙜࡓࡗ࡚ࠊ㜵⅏ࡘ࠸࡚๓ព㆑ࡋ࡚࠸ࡲࡍࠋ 㸦a㸧ព㆑ࡋ࡚࠸࡞࠸ 㸦b㸧ព㆑ࡋ࡚࠸ࡿ 㸬㸦E㸧ព㆑ࡋ࡚࠸ࡿ⟅࠼ࡓ᪉࠾ఛ࠸ࡋࡲࡍࠋࡢࡼ࠺࡞ࢆព㆑ࡋ࡚࠸ࡲࡍࠋ 㸦 ࡘࡲ࡛㸧 㸦a㸧ⅆ⅏ 㸦b㸧ᆅ㟈 㸦c㸧ὠἼ 㸦d㸧ྎ㢼 㸦e㸧㞵࣭ὥỈ 㸦f㸧ᙉ㢼࣭❳ᕳ 㸦g㸧㞷 㸦h㸧ᅵ◁⅏ᐖ 㸦i㸧㠀ᖖཱྀ࣭㑊㞴⤒㊰ 㸦j㸧㑊㞴ሙᡤࡸ࿘㎶ࡢᆅ⌮ 㸦k㸧⅏ᐖࡢᖐᏯ࣮ࣝࢺ 㸦l㸧ࡑࡢ㸦 㸧 㸬ほගࢆィ⏬ࡍࡿࡁ⅏ᐖሗ࡞ࢆ▱ࡿⅭά⏝ࡍࡿሗ※ࡣఱ࡛ࡍ㸦」ᩘᅇ⟅ྍ㸧 㸦a㸧ほගᆅࡢ⮬యࡢ HP 㸦b㸧㒔㐨ᗓ┴ࡢ㜵⅏ HP 㸦c㸧Ẽ㇟ᗇࡢ HP 㸦d㸧ࢸࣞࣅ࣭ࣛࢪ࢜ࡢኳẼணሗ㸦⅏ᐖ㸧 㸦e㸧Ẽ㇟ᗇ௨እࡢ࢙࢘ࢨ࣮ࢧࢺ࣭ࣉࣜ 㸦f㸧ᅜᅵ㏻┬ࡢ HP 㸦g㸧᪥ᮏ㐨㊰㏻ሗࢭࣥࢱ࣮ࡢ HP 㸦i㸧ࢸࣞࣅ࣭ࣛࢪ࢜ࡢ㏻ሗ 㸦j㸧ࣞࢫ࣮࢟ࣗࢼ࣭࢘ࢻࢵࢺ࣭ࢥ࣒ 㸦k㸧ࡑࡢ㸦 㸧 㸬᪑ඛ࡛ほග୰㜵⅏ࡘ࠸࡚ព㆑ࡍࡿࡇࡣ࠶ࡾࡲࡍࠋ 㸦a㸧ព㆑ࡍࡿࡇࡣ࡞࠸ 㸦b㸧ព㆑ࡍࡿࡇࡣ࠶ࡿ 㸦E㸧ព㆑ࡍࡿࡇࡣ࠶ࡿ⟅࠼ࡓ᪉࠾ఛ࠸ࡋࡲࡍࠋࡢࡼ࠺࡞ࢆព㆑ࡋ࡚࠸ࡲࡍࠋ 㸦 ࡘࡲ࡛㸧 㸦a㸧ⅆ⅏ᑐ⟇ 㸦b㸧ᆅ㟈ᑐ⟇ 㸦c㸧㞵ᑐ⟇ 㸦d㸧ᅵ◁⅏ᐖ 㸦e㸧බ⾗㟁ヰ 㸦f㸧㠀ᖖཱྀ࣭㑊㞴⤒㊰ 㸦g㸧㑊㞴ሙᡤࡸ࿘㎶ࡢᆅ⌮ 㸦hྠ⾜⪅ࡢྜὶࡸ㐃⤡ᡭẁ 㸦i㸧⅏ᐖࡢᖐᏯ࣮ࣝࢺ 㸦j㸧ኳẼணሗ㸦⅏ᐖ㸧 㸦k㸧ࡑࡢ㸦 㸧 㸬᪑ඛ࡛⾜ࡗ࡚࠸ࡿ㜵⅏ᑐ⟇ࡣ࠶ࡾࡲࡍࠋࡑࢀࡣఱ࡛ࡍࠋ 㸦a㸧ᑐ⟇ࢆࡋ࡚࠸࡞࠸ 㸦b㸧ᑐ⟇ࢆࡋ࡚࠸ࡿ㸦 㸧 㸬ᚋࡢほගྲྀࡾධࢀࡓ࠸㜵⅏ᑐ⟇ࡣ࠶ࡾࡲࡍࠋࡑࢀࡣఱ࡛ࡍࠋ 㸦a㸧≉࡞࠸ 㸦b㸧ྲྀࡾධࢀࡓ࠸ᑐ⟇ࡀ࠶ࡿ㸦 㸧 㸬ほගᆅࡸタ⾜ࡗ࡚ḧࡋ࠸㜵⅏ᑐ⟇ࡣ࡞ࢇ࡛ࡍࠋ㸦 ࡘࡲ࡛㸧 㸦a㸧タഛࡢ㜵⅏ᑐ⟇ 㸦b㸧㜵⅏ሗࡢⓎಙ㸦ᗈᇦ㑊㞴ሙᡤ࡞㸧 㸦c㸧ほග⪅ཧຍᆺࡢ㜵⅏カ⦎ 㸦d㸧⅏ᐖࡢሗᥦ౪ 㸦e㸧㑊㞴ㄏᑟ 㸦f㸧⅏ᐖഛရࡢᐇ 㸦g㸧ࡑࡢ㸦 㸧 㸬ほගᆅࡸタࡀࠊほග⪅ཧຍᆺࡢ㜵⅏カ⦎ࢆᐇࡍࡿሙྜࠊ࠶࡞ࡓࡣཧຍࡋࡲࡍࠋ 㸦a㸧ཧຍࡋ࡞࠸㸦⌮⏤㸸 㸧 㸦b㸧ཧຍࡍࡿ㸦⌮⏤㸸 㸧 㸬ほග⪅ࡢ㜵⅏ࡘ࠸࡚࠾ẼࡁࡢⅬࡣఱ࠶ࡾࡲࡍࠋ ࡈ༠ຊ࠶ࡾࡀ࠺ࡈࡊ࠸ࡲࡋࡓࠋ 26 ─ 33 ─