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所有権に基づく担保と再建型倒産処理-フランス

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所有権に基づく担保と再建型倒産処理-フランス
所有権に基づく担保と再建型倒産処理
−フランス・フィデュシー法制の視点から−
− −
所有権に基づく担保と再建型倒産処理
−フランス・フィデュシー法制の視点から−
広島大学大学院法務研究科教授 小 梁 吉 章
− 目 次 −
1 問題提起
2 フランスの担保法
3 所有権担保とその存在意義
1 問題提起
⑴ 所有権に基づく担保
破産法や民事再生法などの倒産処理法にか
かわる最近の最高裁判所の判例のなかに、倒
産処理手続における担保、とくに民法には規
定のない、所有権に基づく担保権の有効性が
争われている事例が見受けられる。
たとえば最高裁平成18年 7 月20日判決⑴ は
集合動産に譲渡担保を重複して設定した債務
4 所有権担保と再建型倒産処理
5 総 括
が開始された事件で、リース契約に付された
倒産解除特約の効果が争われている。さらに
最高裁平成22年 6 月 4 日判決⑷ は、自動車の
販売会社と購入者のあいだに立って所有権留
保を条件として購入代金を立て替えた者の別
除権行使の可否が争点となっている。
これらの事件で争われた所有権に基づく担
保は、いずれも民法に規定のない非典型担保
である。この担保は所有権が債権者にあると
いう構成をとることで民法の規定する担保権
よりも強い実効性を期待しているものであ
者について民事再生手続が開始された事件で
あるが、ここでは譲渡担保権者と目的物を売
る。一般に担保は債務者の債務不履行に備え
た債権者の債権保全手段であるが、債務者に
買によって取得したとする者とのあいだで目
的物にたいする権利の優劣が争われている。
最高裁平成19年 2 月15日判決⑵ は継続的契約
から生じる現在および将来の売掛金債権に譲
渡担保を設定した債務者が実質的に倒産し、
その後破産手続に入った事件で、譲渡担保権
と国税債権の優劣が争点となっている。また、
最高裁平成20年12月16日判決⑶ はファイナン
ス・リースのユーザーについて民事再生手続
ついて倒産処理手続が開始されることは債務
不履行の典型である。倒産処理法は、所有権
者が倒産者に属しない財産を取り戻す権利を
認めているので⑸、債権者に目的物の所有権
があれば、本来倒産処理手続に煩わされない
はずである。前述した事件でいえば、譲渡担
保は債務者がその財産の所有権を債権者に移
転するものである。ファイナンス・リース取
引ではリース料債権を保全するためにリース
− −
信託研究奨励金論集第31号(2010.11)
会社が目的物の所有権を有し、ユーザーには
リース契約に付された倒産解除特約を「民事
目的物の利用権があるだけである。所有権留
保条件付の売買でも、売買代金の保全のため
文字通り売主は所有権を留保している。いず
れも所有権は債権者にあるから、所有権の排
再生手続の趣旨、目的に反する」として無効
とした。一方、譲渡担保に関する最高裁平成
18年 7 月20日判決と最高裁平成19年 2 月15日
判決はいずれも譲渡担保権者の権利を優先さ
他的な効力に期待しているのである。
そして信託にも所有権移転の効果がある。
せた⑻。この 2 つのうち後者は破産事件なの
で、債務者の事業再建の考慮の余地はなかっ
信託は委託者がその財産を受託者に移転する
契約であり、受託者は信託財産の所有権を有
し、受益者は受託者にたいして財産引渡しの
請求権(受益権)を有する取引であるから、
信託は所有権に基づく担保手段として利用す
ることができるはずである⑹。
前述した事件では倒産処理手続におけるこ
れらの所有権に基づく担保の効力が争われて
いる。
倒産処理手続には清算型と再建型がある。
清算型手続は限られた債務者の財産を換価処
分して債権者に配当する手続であるが、債権
者には担保を有する債権者と担保権のない一
般債権者がおり、その間の利益調整が微妙な
問題となる。再建型手続は債務者の事業を再
建するために債務の減免や猶予など債権者の
権利を変更するもので、とくに債権者が担保
権を有している場合には事業再建とのあいだ
の利益調整が困難な問題となる。倒産処理手
続は債権者の財産権に制限を加える手続であ
るから⑺、本来法律に規定を設け、債権者の
たが、前者は民事再生手続であった。この事
件自体は、動産譲渡担保を重複して設定した
場合の譲渡担保と売買の優劣が争点であり、
担保目的物は販売用品であって、債務者の事
業再建に不可欠ではなかったから、譲渡担保
が有効とされても問題は生じなかったが、仮
に譲渡担保の目的物が債務者の事業用機械の
ような事業再建に不可欠のものであったら譲
渡担保を有効とすると、目的物は担保権者に
よって処分されてしまい、債務者は事業を再
建できなくなる。
問題はとくに所有権に基づく担保を設定し
た債務者について再建型の倒産処理手続が開
始された場合である。しかし所有権に基づく
担保について民法にも倒産処理法にも規定は
なく、解釈にゆだねられている。これまでの
裁判例では所有権に基づく担保でも個々の事
情によって処遇が異なっている。信託を担保
に利用した債務者について再建型倒産処理手
続が開始された場合、担保としての信託がど
のようにあつかわれるか予測できない。現在
予測可能性を確保しなければならない。わが
国の法律は抵当権、質権など民法に規定のあ
る担保(典型担保)については担保権者と一
般債権者の利益調整、担保権と事業再建の利
益調整を規定しているが、上記のような所有
権に基づく担保については規定がない。そこ
で前掲のような事件が起こるのである。
前述した事件のうちファイナンス・リース
に関する最高裁平成20年12月16日判決は、民
事再生手続を再生債務者の「財産を一体とし
て維持」し、「債務者と全債権者との間の民
事上の権利関係を調整し、債務者の事業又は
経済生活の再生を図る」ものとしたうえで、
まで信託を担保目的で利用した場合について
は裁判例がないが、予測可能性のない担保は
実務では使いようがない。
⑵ 担保としての信託
わが国では旧信託法の時代には、信託の
担保利用として社内預金引当信託⑼や設備信
託⑽ などが行われた程度であり⑾、信託によ
る所有権の移転を明示的に担保として利用す
ることは少なかった。その後、クレジット債
権・リース債権などの資産や不動産の証券化
スキームで信託が利用されるようになってい
るが、これは一種の信託を利用した金融手法
所有権に基づく担保と再建型倒産処理
−フランス・フィデュシー法制の視点から−
− −
である。証券化とは「まず、資産を保有する
譲渡者の事業の再建の可能性については一切
企業(オリジネーターという)が保有する資
産を証券発行体(SPV)に譲渡することから
顧慮されていない⒂。しかし不動産や資産の
証券化は、過剰債務をかかえた会社が資産と
始まり」、この譲渡には売買譲渡の形をとる
場合と信託的譲渡の場合があり、「資産の譲
債務を切り離す手法であり、信託を利用して
行うディフィーザンスと同一の効果を有して
渡を受けた証券発行体は、その資産が生むキ
ャッシュフローを裏付けとした証券を投資家
いる。したがって経済的機能は信託を担保的
に利用した資金調達手段であり、不動産や資
に発行し、証券の販売代金から企業へ資産の
売却代金を支払うことにより、企業は資金調
達を達成」し、「証券発行体は資産が生むキ
ャッシュフローを基に投資家に対して証券の
元利金を返済」する取引であるが、「資産を
担保にした借入と証券化との違いは、信用力
の源泉」であって、証券化の場合には「自社
の信用力ではなく証券化の対象となる資産の
信用力」によって条件が決定されるので、
「資
産の原保有者の信用リスク、倒産リスクから
証券発行体を隔離するためには、対象資産の
真正売買を確保」しなければならない。そし
て「真正売買とは、証券化のために形式的に
行われた売買ではなく、正しく行われた売買」
を意味する。真正売買でないと「資産の原保
有者(オリジネーター)が倒産した際に債権
者や破産管財人が証券化の対象となった資産
を差し押さえることで、本来投資家に行くべ
きキャッシュフロ−が資産の原保有者の債権
者や破産管財人の方へ行ってしまうリスク」
があるとされている⑿。このように不動産や
産の証券化についても債務者の事業再建と債
権者の権利保護の利害調整という問題がある
はずである。
また、現在わが国では中小企業による「企
業が有する在庫や売掛債権、機械設備等の事
業収益資産を活用した金融手法」、すなわち
ABL(Asset Based Lending)の利用が推奨
されている⒃。これは集合動産や将来債権に
譲渡担保を設定することにより、資金を調達
する方法である⒄。譲渡担保を設定した債務
者が健全である限り問題は顕在化しない⒅。
しかし仮に債務者について民事再生手続や会
社更生手続が開始されると、ABL による担
保は債務者の事業の再建をきわめて困難にす
る。ABL という金融手法は所有権に基づく
担保の実効性と事業再建が正面から対立する
可能性が高いのである。すでに2003年に経済
産業省の研究会は ABL について「動産や債
権についても幅広く担保権が設定される事案
が増加すると、民事再生手続のように担保権
を手続外におく倒産制度よりも、会社更生手
資産の証券化については、売買譲渡または信
託的譲渡の目的が担保目的か否かという点が
着目され、オリジネーターに被担保債務がな
いこと、目的物の処分に限定がないこと(非
補充性)、オリジネーターが目的物を受け戻
す権利がないことを基準に譲渡の真正性が判
断されている ⒀。不動産を証券化し、オリジ
ネーターが引き続きテナントとして残るセー
ルス・アンド・リース・バックの場合でも、
真正譲渡である限り、オリジネーターについ
て倒産処理手続が開始されても証券化は影響
を受けないとされている⒁。このように証券
化については投資家の保護に焦点が集まり、
続のように担保権を手続内に取り込む制度の
ニーズが高まる」と予想し、「担保権者以外
の債権者の保護や倒産手続と新たな担保制度
の関連等、さらに検討を要する問題について
は、引き続き議論を掘り下げていくことが必
要」であるとしていた⒆。しかし依然として
問題は残されたままである⒇。
⑶ 比較対象としてのフランスの担保型フィ
デュシー
所有権に基づく担保と倒産処理との利益調
整の問題、とくに信託の担保的利用について
はフランス法の規定と議論が参考となる。フ
− −
信託研究奨励金論集第31号(2010.11)
ランスでは譲渡担保は信託に類似した「担保
しながら、ほとんどすべて清算で終わってい
型フィデュシー」(fiducie-sûreté)によって設
定されている。この点では信託類似の制度を
るという現実を前にして、倒産の予防が重視
されたためである。2005年倒産処理法25は、
譲渡担保に利用するフランス法制とわが国の
不動産・資産の証券化や ABL における譲渡
それまでの支払不能状態が生じた後に開始さ
れる裁判上の更生手続と裁判上の清算手続の
担保は一見、無関係のようではある。わが国
の判例は譲渡担保は信託と構成しておらず、
前置手続として、支払不能に陥る前の事業救
済手続を新設した。次に担保法の分野では、
2006年 3 月23日オルドナンス26によって民
学説も譲渡担保固有の法理が形成されている
としているからである21。しかし担保の実
効性と事業再建の対立の構造という点では共
通しているのである。わが国で譲渡担保を信
託と構成しないのは旧信託法の規定に起因す
るのであり22、現行の信託法では信託を譲
渡担保として利用することも可能であると理
解することもできる。またわが国でも債権者
を直接的に受託者兼受益者とするのではな
く、第三者を受託者、債権者を受益者とすれ
ば信託を譲渡担保として利用することは可能
である。
さらにフランスでは「担保型フィデュシー」
をめぐって法制化の当時からすでに「担保目
的の信託が普及すると再建の可能性が失われ
る」という問題が提起されていた23。2007
年のフィデュシーの法制化にあたって法律は
「担保の実効性と事業の再建のいずれを優先
しているのか」という批判も出され24、そ
の結果、頻繁に改正されることになるが、こ
れは担保型フィデュシーという実効性の高い
担保手法と再建型倒産処理の利害調整のため
の改正であった。信託の担保的利用と事業再
建の問題はこの担保型フィデュシーに凝縮さ
れているといっても過言ではない。
2 フランスの担保法
フランスでは2005年以降、倒産処理法、担
保法、フィデュシー(フランス型信託)の三
つの法分野で相次いで法律の改正・制定が行
われている。
もっとも先行したのは倒産処理法である。
これは倒産処理手続が事業再生を優先すると
法典に分散していた担保関係の規定が第4編
に集約された。さらにフィデュシーが、2007
年 2 月19日法27によって民法典の一章に加
えられ、法制度となった。
問題はこれらの法律制定・改正が相互の調
整もなしに進められたことである28。倒産
処理法の改正は事業再建を最優先し、担保法
の改正・フィデュシー法制化は担保の実効性
を重視したため、担保の有効性と事業再建の
実効性が正面から対立する結果となった29。
このため、2008年に倒産処理法については大
幅な改正があり30、またフィデュシー法も
数次にわたって改正されている31。これら
の改正は担保の実効性と事業再建の調整の欠
如を是正するものであった。本来、法律の制
定・改正には慎重を期すべきであろうが32、
この事情はかえって担保の実効性と事業再建
の問題を顕在化させる結果となったので、功
罪相半ばするともいえよう。
所有権に基づく担保については次のとおり
である。2006年の担保法改正までフランスの
民法典の担保法規定は、1807年の民法典制定
当時のままであった33。担保には人的担保
と物的担保があり、約定物的担保に不動産抵
当権、不動産質権、動産質権があり、法定物
的担保に留置権と優先権(先取特権)がある
というもので、所有権に基づく担保について
規定はなかった。わが国では法律に規定され
ていない担保が実務上開拓されると裁判例が
これを追認する形をとるが、フランスは物権
法定主義(numerus clausus)の法理に厳格で
ある34。物権である担保には法律上の根拠
を要するため、民法典には規定しないものの、
所有権に基づく担保と再建型倒産処理
−フランス・フィデュシー法制の視点から−
− −
個々に特別法を定めた。法律に根拠のない担
については従来、第三者対抗要件として債権
保は認めないのである35。所有権に基づく
担保については、まず所有権留保(propriété
retenue)条件付売買については、民法典の「売
者による占有を要したが、機動的な担保設定
の障害となるため、占有移転のない質権(gage
sans dépossession)を認めた(同2337条)。
買は契約と同時に所有権が買主に移転する」
(民法典1583条)の規定との関係が問題となっ
たが、同条は強行規定ではないとして、法律
上有効とされ、さらに1980年 5 月12日法36
で倒産処理手続が開始された場合の留保条件
の効果が明らかにされた。ファイナンス・リ
ース(crédit-bail)は、売買ではないので民
法典に根拠はなく、1966年 7 月 2 日法によっ
て金融機関だけに認められる金融手法37と
して法律上の根拠を与えられた38。債権の
譲渡および債権譲渡担保も民法典に規定がな
いが、1981年 1 月 2 日法によって同様に金融
機関だけが行うことのできる金融手法として
39
法律上認められた(cession Dailly)
。当初
は債権譲渡の対象は現存の債権に限られてい
たが、1984年 1 月24日法で将来債権の譲渡も
可能となった40。このほかに「非典型フィ
デュシー」(fiducies innommées)と呼ばれる
このように所有権に基づく担保は通貨金融
一連の取引がある。これらは金融機関のあい
だで財産の所有権を担保目的で移転する取引
である。証券担保の資金取引(レポ取引)は
1993年12月31日法で法制化され(pension de
titres)41、株式・債券等の証券貸借は1987年
6 月17日法で法制化された(prêt de titres)42。
2006年の民法典担保編の改正では、これら
の金融機関に限定された担保を従来同様に金
融取引の基本法である通貨金融法典にゆだね
る一方、民法典に所有権留保担保(propriété
retenue à titre de garantie)の規定を設け(民
法典に加えて、民法典にその場所を得ること
となった。前述のとおり、フランスでは譲渡
担保は信託に類似したフィデュシーの方法に
よることとされ、債務者が委託者となり、債
権者が受託者兼受益者となると法律構成され
ているが、2006年の担保法改正に一年遅れ
て、2007年にフィデュシーが民法典の所有権
取得編に規定された。この結果、譲渡担保
(propriété cédée à titre de garantie) が 法 制 化
され44、ようやく所有権に基づく担保が整
備されたのである。
以上の改正を経たフランスの約定担保法制
は次のとおりである。
まず担保の目的物として不動産、動産、債
権が対象となり、いずれも現存のものに限ら
ず将来のものについても担保設定は可能であ
る(民法典2011条)。次に担保物権の種類と
して不動産については抵当権(hypothèque)
( 同2393条 )、 不 動 産 質 権(gage)( 同2387
条)と担保型フィデュシーによる譲渡担保
(propriété cédée à titre de garantie)(同2488-1
条)が可能である。動産については動産質権
(gage)
(同2333条)、所有権留保担保(propriété
retenue à titre de garantie)(同2367条)と譲渡
法典2367条)、同時に商法典に商品在庫集合
質権(gage sur les stocks sans dépossession)の
担保(同2372-1条)が認められている。債権
については質権(nantissement)
(同2355条)、
譲渡担保(同2372-1条)が可能であり、さら
に金融機関が債権者である場合には従来と
同様に通貨金融法典に基づく債権譲渡担保
(cession Dailly)が可能である(通貨金融法
規定を設けた43。このほか民法典に分散し
ていた質権(gage)に関する規定を整理して
一節を設け(同2333条〜2350条)、債権質を
法制化し、かつ債務者が現在有している債権
や動産に限らず将来得る債権動産および集合
動産について質権設定を認めた。しかも質権
典 L313-23条)。動産質権、債権質、動産譲
渡担保はいずれも法令に基づく公示を条件と
して45、占有改定の方法が可能とされてい
る(sans dépossession)。すなわち債務者が引
き続き、動産を事業に使いながらこれらの担
保権を設定することが認められている(民法
− −
信託研究奨励金論集第31号(2010.11)
典2340条)。
れ50、さらに1967年法を抜本改正した1985
⑴ 所有権担保の二つのかたち
年倒産処理法では同様に債権者の権利行使を
禁じるとともに(1985年倒産処理法47条)、
それまで清算型手続と再建型手続は併置され
ていたところを、倒産処理にあたって再建型
当初民法典が予定していなかった所有権留
保などの所有権に基づく担保は、全体として
処理手続を前置し、再建の可能性がないと判
明した時点から清算手続を開始するとして事
フランスでは所有権担保(propriété-sûreté ま
たは propriété-garantie)と呼ばれ、1985年以
⑵ 所有権担保の存在意義
所有権担保が次々に開発されていることに
は二つの理由がある。
業再建の方向性を徹底させた51。また倒産
処理手続中に担保の目的物が売却されたとき
は、担保権者に代金の優先弁済受領権がある
とされていたが、現実に支払われるのはずい
ぶんあとになってからであったために、1985
年倒産処理法は「従業員と手続開始後の債権
者以外の債権者に犠牲」を強い、「企業の再
生を損なわないように典型担保は制限され」、
「担保者がもっとも割を食い、担保が消滅し
ても文句も言えない地位に置かれた」のであ
る52。わが国の民事再生法は、再生手続中
も担保権者に担保権の行使を認めているが
(民事再生法53条 1 項)、フランスの再建型手
続はわが国会社更生法における更生担保権と
同様に担保権の行使を停止したのである。そ
の後1994年に一部改正があり、担保を有する
債権者にたいする一部の支払いが認められ
たものの53、担保権の地位に大きな変化はな
く、2005年倒産処理法54も基本的には1985
年法を踏襲している。
このようにフランスの倒産処理法は、伝統
一つはフランス固有の事情ではあるが、同
国の倒産処理法が伝統的な担保の効力を減殺
してきたことである。同国では古法時代以
来、倒産処理手続とは倒産者を制裁する手続
であり、またその財産を清算する手続であっ
た48。ところが1967年倒産処理法49は一転し
て事業と債務者を峻別したうえで、債務者の
事業再建を最優先することとし、具体的には
倒産処理の手続がとられているあいだは債権
者による権利行使を禁じ、担保権者も倒産処
理手続に取り込むこととした(1967年倒産処
理法35条)。1984年に倒産予防のための和解
的整理(règlement amiable)の制度が新設さ
的な担保にたいする債権者の信頼を失わせて
きたということができる。担保権者は手続に
取り込まれ、そのうえ社会経済政策として労
働債権や租税債権など財団債権として優先す
る債権が増やされてきたため、手続に取り込
まれる担保権者にとって債権の回収はさらに
期待できなくなった。こうした事情が倒産処
理手続に煩わされず、より確実な担保として
「所有権担保」の開発を促したということが
できる。信託に類似するフィデュシー55の
法制化と担保利用はその一つである。
もう一つの理由は、時代とともに担保物の
価値が変容し、担保目的物が変化したことで
3 所有権担保とその存在意義
降、その実効性、有効性に関して議論が蓄積
されてきた46。信託も財産の所有権を委託
者から受託者に移転する契約であるから、信
託を担保目的で利用した場合も所有権担保の
一つである。
所有権担保は、財産の所有権の帰属によっ
て二つの類型に分けることができる。一つは
債権者が所有権を留保しつつ財産を債務者に
移転する形式であり、もう一つは債務者が
財産の所有権を債権者に移転する形式であ
る47。所有権留保やファイナンス・リースは
前者であり、譲渡担保や信託の担保的利用は
後者である。ABL やすでに行われている信
託を使った不動産や資産の流動化も債務者に
よる財産移転を伴うので、後者の形式である。
所有権に基づく担保と再建型倒産処理
−フランス・フィデュシー法制の視点から−
− −
ある。すなわち担保の目的物の価値が利用価
にたいしてリース料を請求した事件で「実質
値と交換価値とに分裂し、交換価値が財産の
価値を決定するようになった56。担保の目
はユーザーに対して金融上の便宜を付与する
ものである」とした61。金融取引であると
的物自体も抵当権を設定することのできる不
動産や質権の対象となる動産といった有体財
するとリースの目的物は担保であり、リース
会社はユーザーについて開始された手続が破
産ではなく、債権や知的財産権という無体財
産に移っている。もはや土地や動産は経済的
産手続、再生手続であれば目的物について別
除権を有することになる。別除権では満足で
に高い価値を生み出すものではなくなってい
るのである。交換価値さえあれば現存の財産
だけでなく、将来の財産にも財産価値がある。
しかし、将来の財産に抵当権や質権では対応
できず、譲渡担保によらざるを得ない。所有
権に基づく担保が評価されているのはこうし
た経済的な財産価値の変容と価値が認められ
る財産の変化によるのである。
⑶ 所有権担保の実効性
所有権担保の実効性について、まず債権者
が財産を移転する場合(所有権留保、ファイ
ナンス・リース)を検討してみよう。
わが国倒産処理法は倒産者(破産者、再生
債務者、更生会社)に属さない財産については
その所有権者に取戻権を認めているので57、
債権者が所有権を維持したまま債務者に財産
を引き渡す形式(所有権留保やファイナンス・
リース)では所有権者に取戻権があるはずで
ある。たとえば高松高裁昭和32年11月15日判
決58は、所有権留保条件の付された売買取
きないのであれば、リース会社が目的物自体
を取り戻すためには、あらかじめリース契約
を解除してユーザーの利用権を消滅させる必
要がある。このためユーザーが倒産処理手続
の開始を申し立てた場合は、自動的にまたは
リース会社の通知により契約が解除されると
いう「倒産解除特約」を付け、取戻権を確保
することが考えられた。しかし、冒頭に挙げ
た最高裁平成20年12月21日判決は再生手続が
開始された場合にはリース契約の倒産解除特
約によりリース会社が解除することは無効で
あるとした。結局、リース会社は別除権で満
足せざるを得ないのである。別除権は取戻権
と同じように倒産処理手続によらないで行使
することが認められているが、取戻権を有す
る者は債務者の倒産処理手続が開始されても
目的物をそのまま回復することができるが、
別除権の場合は目的物の価額が被担保債権額
よりも大きければ、この差額を債務者・倒産
者に返還しなければならない。また倒産処理
法上、担保権には消滅請求の制度があるが、
引の売主には買主破産の場合に取戻権がある
とした。しかしその後の裁判例は所有権留保
を担保権としており、取戻権を認めず、別除
権59だけを認めるようになっている60。
所有権留保では売買は代金支払いと引渡し
で完了するが、ファイナンス・リースはリー
ス会社がユーザーに継続して使用させる債務
を負う契約関係であり、より複雑である。わ
が国ではファイナンス・リースについて目的
物の賃貸借であるとする説(賃貸借説)とリ
ース目的物は未払いリース料債権の担保であ
るとする説(金融取引説)が対立しているが、
最高裁は倒産処理手続が開始されたユーザー
取戻権にはこの制度がない点も異なる。まと
めると、わが国では、所有権留保の売主やフ
ァイナンス・リースのリース会社には取戻権
は認められていないが、担保権者として認め
られ、破産手続と再生手続では別除権が認め
られる。担保としての実効性はあり、いずれ
も抵当権や質権と同様に優先弁済権が認めら
れており、法定担保物権である先取特権や留
置権以上の効力はある62。
フランス法での所有権留保やファイナン
ス・リースのあつかいはわが国とは異なって
いる。いずれも所有権担保であるとされ、フ
ランスでは取戻権が認められている。フラン
− −
信託研究奨励金論集第31号(2010.11)
ス法上所有権留保では売主に所有権が残る
(民法典2367条)と理解されているからであ
る。ただ、倒産処理手続の公告後 3 か月以内
だしオリジネーターによる譲渡がその財産を
に訴えによって行使しなければならない(商
63
。またファイ
法典 L624-9条、L624-16条)
によって否認される可能性はある。
信託を担保目的で利用した場合、譲渡担保
ナンス・リースは金融取引ではあるが、継続
的な双務契約であるとされ、倒産処理手続の
と同じ構造となるが、譲渡担保と同様に信託
法にも倒産処理法にも基本的に規定がない。
管財人に契約の履行と解除の選択権が与えら
れ(同 L622-13条)、仮に管財人がリース契
約を解除した場合には、リース会社は取戻権
を 3 か月以内に訴えによって行使しなければ
ならず(同 L624-9条)、仮に契約を履行する
とした場合にはファイナンス・リース契約は
継続する。わが国ではファイナンス・リース
を金融取引であり、別除権を認めていること
と違っているのである。また重要な点として、
わが国と異なりフランス倒産処理法は1985年
以降、倒産解除特約を一般的に無効とすると
規定していることも挙げておかなければなら
ない64。冒頭に挙げた最高裁平成20年判決
は倒産解除特約を再生手続の目的に反すると
して無効としたが、法律に根拠となる規定
があるわけではない65。なおフランス法で
は「裁判所は質権の目的動産、または適法に
留置された物を回復するため、あるいは譲渡
担保の目的とされた権利・動産を得るため
に、手続開始決定前の債権の弁済を許可する
単に詐害信託の否認について規定されている
に過ぎず、解釈にゆだねられている67。信
託を担保目的で利用することは、債務者の財
産を受託者に移転するという構成において
は、譲渡担保と同様であるから譲渡担保に準
じて考えることができよう。ではフランス法
はどのように規定しているのだろうか。まず、
担保型フィデュシーの法規定を確認する必要
がある。
ことができる」という規定を設けている(同
L622-7条 II 第 2 項)。わが国の担保権消滅請
求の制度に対応するものである。
次に債務者が財産を債権者に移転する場合
(譲渡担保)を検討しよう。わが国では担保と
して債務者が財産を債権者に移転する場合、
譲受人・債権者は担保権者であり、破産手続・
再生手続では別除権を認められている66。
当事者間に担保とする旨の合意がない場合に
は真正譲渡とされ、譲受人は目的物の所有権
を得ることができる。単なる譲渡ならば、譲
渡人が倒産しようと譲受人は財産の所有権を
確保することができるのである。不動産や資
産の証券化における投資家の立場である。た
毀損し、その債権者全体を詐害する行為であ
れば、詐害行為として手続開始後に管財人等
⑷ フランスの譲渡担保−担保型フィデュシ
ー
フランスでは1990年代に三回、フィデュシ
ーの法制化が試みられたが68、政治的理由
や制度濫用への懸念、法理論上の不整合性69
などから成立しなかった。しかし経済がグロ
ーバル・コンペティションを続けている時代
は「法制度のグローバル・コンペティション」
も生じており、「税制や法制が魅力的な国に
70
経済取引が移転しかねない」
。こうした現
状認識から、英米法のトラストに対抗するこ
とのできるフランス法制の整備が求められて
いた。フィデュシー法案は2005年 2 月 8 日に
提出され、審議を経て2007年 2 月19日法によ
って民法典の所有権取得編に新設され、同月
21日に公布、22日に施行された。
英米法のトラストに対抗するという、フィ
デュシーに課せられた課題はきわめて現代的
であるが、フィデュシーの起源は古代ローマ
の「フィデュキア」(fiducia)である。古代
のフィデュキアには財産管理型フィデュキ
ア(fiducia cum amico)と担保型フィデュキ
ア(fiducia cum creditore)の二種類があった
が、現代フランスのフィデュシーも同様に、
所有権に基づく担保と再建型倒産処理
−フランス・フィデュシー法制の視点から−
管理型フィデュシー(fiducie-gestion)と担保
型フィデュシー(fiducie-sûreté)の二種類が
あり、「古代のフィデュキアが地下水脈とし
てローマ時代から現代フランスまで営々と流
れて」きたのである71。フィデュキアは財
− −
動産、債権は現存のものに限定されず将来の
債権や集合動産でもよいとされ(同2011条)、
委託者から受託者への占有移転は要件ではな
い(transfert sans dépossession)82。移転対象
の財産に付着した負債の移転も可能であり、
産の移転契約であり、その後、担保としての
フィデュキアから質権制度が生じ、財産管理
また債務超過でもよいので、フィデュシーを
利用してディフィーザンスを行うことができ
としてのフィデュキアから預金が分岐して、
古代のフィデュキアは歴史の中に消えていっ
た72。その意味で原始的な制度ということ
ができ、現代のフィデュシーは一種の復古的
な現象であるが、所有権担保である譲渡担保
がフィデュシーとして求められているのは、
財産価値の変化という現代的な事情が背景に
ある73。また英米法のトラストは担保の設
定を目的としないが74、フィデュシーは法
制化のあとで行われた三件がすべて担保型フ
ィデュシーであったように75、譲渡担保の
手法と位置づけられている。フィデュシーは
英米法のトラストと古代ローマのフィデュキ
アの折衷なのである76。
フィデュシーに関しては民法典「所有権取
得の方法」編77でその一般規定が定められ、
「担保」編で譲渡担保としてのフィデュシー
について規定されている。
フィデュシーは英米法のトラストやわが国
の信託と同様に委託者、受託者と受益者の三
ると解されている83。これらの点について
はわが国信託と同様ということができる(信
託法 3 条 1 号)。
フィデュシー契約は様式契約である。移転
対象、期間、委託者、受託者、受益者を明記し、
受託者の任務を定め(民法典2018条)、さら
に契約後 1 ヶ月以内に所定の機関への登録を
要する(同2019条)。この登録は欧州共同体に
おける要請である84。受託者はフィデュシー
の財産について第三者にたいして所有権者と
しての権限を有するが(同2023条)、受託者
について倒産処理手続が開始されてもフィデ
85
ュシーの財産に影響はない(同2024条)
。
わが国信託法では自己信託の設定は公正証書
等の方式によって行い、不動産など登記・登
録のある財産については第三者対抗要件とし
て登記・登録を要するとされているが(信託
法 3 条 3 号、14条)、自己信託以外について
は委託者・受託者の意思の合致により形成さ
れるので、フランス法のような様式性や原則
者によって構成される法律関係であるが、わ
が国と同様78フランスのフィデュシーは委
託者と受託者の契約によって設定される(民
79
法典2011条)
。この点ではトラストと異な
っている。ただし、フランスのフィデュシー
は民法典の「所有権取得の方法」編に規定さ
れているように、形成には所有権の移転が前
提となっており、委託者が単独で行うことは
できない。自己信託は委託者が受託者を兼ね
る信託であり、財産の移転がないので、フラ
ンスでは認められていない80。この点は自
己信託を認めるわが国信託法と異なってい
る。また、フィデュシーの目的財産として動
産・不動産、債権および担保権81が認められ、
としての登記義務はない。一方、わが国信託
法では受託者は信託財産について管理処分権
を有し(同26条)、また受託者の倒産処理手
続から隔離されているので(同25条 1 項)、
これらの点はフランス法と大きく異なる点は
ない。
さて、2009年の改正によって外国会社を含
むすべての法人・自然人はフィデュシーの委
託者となることができ、金融機関と弁護士の
みがフィデュシーの受託者となることができ
る(民法典2015条)。この点は英米法のトラ
ストに比較すると制限的であるが、わが国で
も信託業について免許制としており(信託業
法 3 条)、信託と同様フィデュシーがもっぱ
− 10 −
信託研究奨励金論集第31号(2010.11)
ら商事を目的としているためであろう。
フランスのフィデュシーの受益権は譲渡可
能である(民法典2019条)。この点もわが国
信託法と同じである(信託法93条)。受益権
の証券化についてフィデュシー法制には規定
はないが、投資ファンドを介することにより
証券化は可能と考えられる86。また受益権
に優先劣後の差を設けることについても規定
はないが、フィデュシー法制は当事者の契約
自由原則に立っているので、契約の中に明記
することを条件に、受益権に優劣の差を設け
ることは可能と解されている87。
さらに民法典担保編は譲渡担保として利
用する場合を定め、動産・債権の譲渡担保
(民法典2372-1条)、不動産の譲渡担保(同
2488-1条)は担保型フィデュシーによって行
うと規定し、フィデュシーの方式・効力につ
いては財産取得編の規定によることになり、
登録によって公示される。
4 所有権担保と再建型倒産処理
さてようやく本題である。所有権担保は再
建型倒産処理においてどのようにあつかわれ
ているのだろうか。
わが国の事情は次のとおりである。わが国
の民事再生法は事業再建を法律の目的とし
(民事再生法 1 条)、債権者の同意を得てその
権利を変更する手続とされている。再生債務
者が引き続き事業財産の管理・処分権を維持
することとされているが、これも事業を再建
するためには営業環境や顧客を熟知した再生
債務者が事業を継続することが適当であるか
らである(民事再生法38条 1 項)。再生手続
が開始されれば原則として再生債務者は手続
開始前に原因のある債務を弁済することがで
きないが、その事業の継続に必要な少額債権
については弁済も認められる(同85条 5 項)。
再生債務者が事業の継続に必要として資金を
借り入れた場合には返還請求権は共益債権と
され(同119条 5 号、120条)、再生債務者の
業務に関する費用の請求権も共益債権とされ
ている(同119条 2 号)。これらは債務者によ
る事業の再建を支えるための規定である。ま
た再生債権は現在化されることはなく、再生
債権者による相殺についても制限されている
(同92条)88。
しかしその一方で、民事再生法は再生債務
者の財産上の担保権(特別の先取特権、質権、
抵当権または商事留置権)を別除権とし、再
生手続によらないで、行使することができる
としている(同53条 1 項 2 項)。会社更生手
続では更生担保権として手続に取り込まれる
ことと対照的であり、民事再生法はかならず
しも事業再建を貫徹しているとはいえない
が、これは同法が中小企業の再建型手続とし
て構成されているために手続の簡素化を図っ
た結果であるとされている89。所有権担保
については前述のとおり、規定自体がない。
裁判例では所有権留保、ファイナンス・リー
ス、譲渡担保は担保として別除権とされるが、
不動産や資産の証券化の場合、真正譲渡なら
ば譲渡財産は債務者の倒産処理手続から隔離
され、事業再建は考慮されない。さらに最近
では将来債権や集合動産を対象とする ABL
は健全な事業を想定しており、事業倒産の場
合についての備えは明らかにされていない。
前述のように、フランス倒産処理法は1967
年以降、倒産処理にあたって事業再建を優先
する方針を維持してきた。2007年のフィデュ
シー法制化によっていったん、事業再建優
先の倒産処理法にほころびが生じたが90、
2008年12月18日オルドナンスで債務者が現に
使用している財産については担保型フィデュ
シーの効果を制限することとし、フィデュシ
ー法制化によって生じた事業再建優先の倒産
処理手続のほころびをつくろっている91。
事業再建に不可欠の財産であるか否かをメル
クマールとしているのである。
所有権に基づく担保と再建型倒産処理
−フランス・フィデュシー法制の視点から−
− 11 −
⑴ 事業再建に不可欠な財産の処遇
したことが担保と認められるとは限らない。
⒜ 現存の財産である場合
わが国信託法には規定がないが、信託の設
定にあたっては財産の占有の移転は要しない
と解されている92。したがって委託者として
唯一法制化されている手段は、信託法の詐害
行為信託の否認である(信託法12条)。この
否認権を行使する余地がなければ、信託財産
は債権者が処分することになる。
債務者が信託の形式で財産に担保を設定しな
がら、引き続き占有して事業に使い続けるこ
フランス・フィデュシー法制では、委託者
の債権者の保護の観点から詐害信託の取消し
とができるが、わが国の信託法や倒産処理法
にはこの債務者について民事再生手続が開始
された場合にこの信託財産がどのように処遇
されるか規定はない。したがって債権者は担
保権として別除権があると考えられるので、
仮に再生債務者がこの財産を事業の再建に不
可欠であると判断するなら、目的物の受戻し
93
(民事再生法41条 1 項 9 号)
あるいは担保
権消滅請求の制度(同148条)を利用して、
財産を回復しなければならない。資金を要す
るので障害が高い94。
不動産を証券化し、オリジネーターがセー
ルス・アンド・リースバックによって引き続
きこの不動産を使用している場合にオリジネ
ーターについて再生手続が開始されると、真
正譲渡である限り、この信託財産はオリジネ
ーターの財産ではなく、一般の賃貸借契約の
賃借人について再生手続が開始された場合と
同じであり、再生債務者に賃貸借契約の解除
または継続の選択権があることになろう(同
51条)。一方、たとえば借入人が機械設備を
と否認が規定されていることはわが国と同様
である(民法典2025条 1 項)。さらに債務者
が現に使用している財産については明文の規
定がある。これが債務者の事業再建を可能な
ものにしているのである。
担保型フィデュシーの設定にあたっては、
わが国と同様に、動産の占有の移転は必須で
はなく、委託者である債務者が財産を占有
し、使用し続けることができるが、フランス
法は現存する財産が担保型フィデュシーの目
的物であっても、債務者が現に使用してい
るときは(de laquelle le débiteur constituant en
conserve l'usage ou la jouissance)、これらの財
信託財産として、融資者を受益人として受託
銀行に信託を設定したが、引き続きこの機械
設備を占有して利用している場合はどうだろ
うか。機械設備の賃貸借契約を結んでいれば、
セールス・アンド・リースバックの場合と同
様であるが、契約がなければ、信託財産の所
有権は受託者にあるから、借入金の返済が不
能であれば、受益者である融資者は機械設備
を売却して債権の回収を図ることになろう。
この信託の設定が担保と解されれば、別除権
の目的物の受戻し(同41条 1 項 9 号)や担保
権消滅請求の制度(同148条)を利用して機
械設備を取り戻すことになるが、信託を利用
産はフィデュシーの財産には含まれないとし
ている(商法典 L622-23-1条)。したがって
フィデュシーの委託者である債務者について
再建型倒産処理手続が開始されても、担保権
を有する債権者も担保権を行使することがで
きない。担保権者には犠牲が強いられるので
ある。債務者の事業再建に極めて有効な手段
であるといえよう。営業用動産や無体財産権
を含む「事業の基盤」
(fonds de commerce)95の
場合も同様である。「現に使用していること」
がメルクマールなのである。
担保と事業再建の調整に関するこの規定は
担保型フィデュシーに限らず、質権の場合も
同様である。2006年担保法改正で非占有質権
が認められたが、質権者である債権者が目的
物を占有している場合、債務者について倒産
処理手続が開始されても、質権は対抗するこ
とができるが、質権者・債権者が占有してい
ない場合には手続期間および計画の履行中は
対抗できないとして、所有権担保との平仄を
とっている96。
− 12 −
信託研究奨励金論集第31号(2010.11)
⒝ 集合動産、将来債権の場合
題があった。フィデュシーの法制化以前には
「現に使用していること」がメルクマール
であるから、フランス法上、集合動産や将来
金融機関が債権者である場合を除いて譲渡担
保が法制化されていなかったため、債権担保
債権は別のあつかいをうけている。わが国で
は債権譲渡の対抗要件に関する民法の特例等
の方法には債権質(nantissement)しかなく、
加えて将来債権については質権を設定するこ
に関する法律(債権譲渡特例法)によって、
集合動産、将来債権の譲渡の対抗要件を具備
とができなかった。この場合、債務者に倒産
処理手続が開始されると手続開始後に現実化
することができる。判例も将来債権につい
ての譲渡担保の設定97や集合動産について
の譲渡担保の設定98を認めており、ABL は
この方法をとることになる99。ABL は譲渡
担保であるが、機能の点ではフランスの担保
型フィデュシーと同じである。ABL に基づ
いて在庫や売掛金を担保に資金調達をおこな
った債務者について民事再生手続が開始され
れば、債権者には別除権が認められることに
なるので、債権者は在庫を処分し、売掛債権
を取り立てて債権回収することになろう。た
とえばテナントからの定期的賃料債権に譲渡
担保を設定していた債務者について民事再生
手続が開始された場合には債務者には手続開
始後には収入がなくなり、再生計画を策定す
ることができなくなる。この場合、民事再生
手続は廃止され、破産手続に移行することに
なる(牽連破産)。将来債権や集合動産に担
保権を設定することを認めることは債務者の
事業の再建を危うくしかねないのであるが、
わが国信託法や倒産処理法に規定はない。
した債権にも担保の効力が及ぶか否かという
ことが問題になった。前述のわが国の指摘と
同じである。この点について、破毀院の判断
はまちまちであった101。手続開始後に現実
化する債権には譲渡の効果が及ばないとすれ
ば、債務者はこの債権を収入として期待する
ことができる。2006年の担保法制の改正によ
って将来債権、集合動産への質権の設定が認
められ(民法典2333条)、さらに2007年のフ
ィデュシー法制化によって譲渡担保としてフ
ィデュシーを設定することも可能となり(同
2018条)、現在では手続開始後の動産、債権
にも質権、譲渡担保の効果は及ぶと考えられ、
この問題は解決された。ただし事業再建の上
では問題がある。
フランス法では、前述のとおり現存の財産
については債務者が「現に使用しているか否
か」をメルクマールに倒産処理における処遇
が異なっている。現存の財産であって、債務
者が現に使用している場合には、前述の制限
があるが、将来債権や集合動産は債務者の事
ABL については「再生手続や更生手続開始
前に事業用資産担保貸付が行われ、在庫商品
や売掛債権等について譲渡担保が設定された
場合に、手続開始後に再生債務者や更生管財
人の活動によって会社が取得する商品や売掛
債権等にも譲渡担保の効力が及ぶのか、それ
とも、譲渡担保の効力が手続開始によって切
断され、手続開始時に会社が有する商品や売
掛債権等に担保目的物が限定されるのか」と
いう点は指摘されている100。ただし、これ
は手続開始の前後で譲渡担保の対象を区別す
るだけのことである。
フランスでも2000年以降、まったく同じ問
業に現に使用されているわけではないから、
前述の制約を受けず、倒産処理手続が開始さ
れても譲渡担保権者は担保権を行使すること
ができる。抵当権や質権などは倒産処理手続
上、その行使が禁じられるが、担保型フィデ
ュシーを使った将来債権や集合動産の譲渡担
保の場合には実効性が高く、これが債務者の
事業再建の障害となることは明らかであり、
この点を批判する意見もある102。
フランス法の「現に使用しているかどうか」
というメルクマールはひとつの参考にはなる
が、将来債権・集合動産の譲渡担保を倒産処
理手続上どうあつかうべきかという問題は依
所有権に基づく担保と再建型倒産処理
−フランス・フィデュシー法制の視点から−
然として残されている。
− 13 −
合にその効力を認めるべきか⒝という二つの
問題がある。
⒞ 担保目的物の放棄
再建型手続の問題ではなく、清算型手続の
問題ではあるが、将来債権や集合動産を目的
⒜ 契約当事者について再建型手続がとら
れた場合
物として譲渡担保を設定することには別の問
題がある。債務者について破産手続が開始さ
① 受託者について開始された場合
わが国の信託やフランスのフィデュシーは、
れたときに債務者の特定の財産に経済的な価
値がない場合、破産管財人は原則として裁判
所の許可を得て破産財団から放棄することが
できるとされている(破産法78条 2 項12号)。
しかし前掲の例のように不動産業を営む債務
者が所有する不動産の賃料債権が包括的に譲
渡されている場合、この財産には経済的な価
値がないから、売却することは困難であり、
破産管財人としては財産の放棄を考えざるを
得ない。破産財団から放棄された財産は破産
者の自由財産となるが、仮に破産者が法人で
あるとすると破産手続の終結にともなって破
産者は解散する。この不動産に賃借人がいる
とすると不動産の賃貸人は不在となり、賃料
債権者は存在することになる。賃借人として
は、修繕の要求などをどのような形で行うべ
きか問題が多い。
⑵ 信託契約の処遇
倒産処理手続は債務者の財産関係の整理手
続であり、わが国倒産処理法は清算型手続に
英米法のトラストと異なり、原則として委託
者と受託者の契約により成立する。このため
倒産処理手続が開始された場合には契約とし
て整理の対象となる。
わが国の信託法は受託者について清算型の
破産手続が開始されたときは、信託は終了す
るとしている(信託法56条 1 項 3 号)。倒産
処理法固有の規定によれば、双方未履行の双
務契約として受託者の破産管財人に契約の履
行と解除の選択権があるはずであるが、信託
財産は受託者の破産手続開始に影響を受けず
(同25条 1 項)、したがって信託契約も受託者
の破産の影響を受けないので、破産管財人に
はこの履行・解除の選択権がない104。
また受託者について民事再生や会社更生と
いう再建型手続が開始された場合、信託契約
は終了しない(同56条 5 項、 7 項)。信託財
産は受託者の民事再生手続には影響されない
から(同25条 4 項 7 項)、信託財産は再建型
倒産処理手続の対象の財産ではなく、再生債
務者には信託契約の解除・履行の選択権はな
限らず、再建型手続であっても債務者の契約
を整理の対象とし、債務者が結んだ双務契約
については破産手続の場合には破産管財人に、
再生手続の場合には原則として再生債務者に
この契約の解除または履行の選択権があると
している。破産管財人、再生債務者が契約の
履行を選択した場合、契約相手方は倒産処理
手続が開始されていても契約の履行をせざる
を得ないが、その代わりに代金等の請求権を
優先的な債権とすることで保護される103。
信託契約の処遇については、倒産処理手続
が開始された場合の信託契約の処遇⒜と債務
者・委託者が危機時期に信託契約を行った場
いと考えられる。
フランス法では、受託者について清算型手
続が開始されるとわが国信託法と同様にフィ
デュシー契約は終了するが(民法典2029条 2
項)、再建型手続(事業救済または裁判上の
更生)が開始された場合については規定がな
い。倒産処理手続の管財人は倒産した債務者
の契約の履行・解除の選択権を持つが(商法
典 L622-13条 1 項)、債務者が当該財産等を
自己使用している場合を除いて、フィデュシ
ー契約には適用しないとされているので(同
L622-13条)、管財人等は解除することができ
なくなる。
− 14 −
信託研究奨励金論集第31号(2010.11)
② 委託者について開始された場合
定し、その後に倒産処理手続が開始された場
一方、委託者について倒産処理手続が開始
された場合について、わが国信託法は倒産処
理法の規定を前提としている(信託法163条
8 号)。したがってこの場合には管財人等が
合、信託財産は原則として倒産処理手続から
隔離されるが、債務者の信託設定が債権者の
信託契約の履行・解除の選択権を有すること
になる。
フランス法は詐害行為否認について倒産処
理法に規定があり、債務者に裁判上の更生手
フランス法では委託者について倒産処理手
続が開始された場合に関する規定はない。
特定の財産について担保型フィデュシーを
設定しようとする債務者は債権者である受託
者にこの財産を移転させないうちは、債権者
が与信を供与しないから、委託者に倒産処理
が開始される場合には、委託者に未履行の債
務はないと考えられている。そうすると双方
未履行の双務契約にはあたらないので、担保
型フィデュシーの委託者が倒産しても管財人
等には契約の解除または履行の選択権がな
く、原則としてフィデュシー契約は継続する
ことになる105。一方、賃料債権のように定
期的に生じる債権について担保型フィデュシ
ーを設定しているときに、債務者である委託
者について倒産処理手続が開始された場合に
は、フィデュシー契約を締結したときに、賃
料債権の受領権限は債務者の手を離れて、債
権者である受託者に移転していると考えられ
るので、委託者に未履行の債務はないことに
なり、双方未履行の双務契約には該当しない
続または清算手続が開始された場合に手続開
始前の危機時期に債務者が債権者を詐害する
行為を行っていたときは、手続開始後に訴え
によってこの行為を否認することを認めてい
る(商法典 L632-1条)。フランス法上の詐害
行為否認の対象は、債務者の無償行為、債務
者の提供が受領分を超過する交換行為、既存
の債務のための担保の供与などに加えて、フ
ィデュシーへの新規の財産移転
(同 I 項 9 号)
107
と変更(同10号)である 。この点にわが
国倒産処理法と違いはない。ただし、2005年
倒産処理法が設けた事業救済手続には否認権
が認められていない108。
わが国信託法とフランス法には一つ違いが
ある。わが国信託法は第11条の詐害行為取消
権の規定に準じて、第12条で破産者、再生債務
者による一定の行為について、手続開始後に
管財人等が否認権を行使することを規定して
いる。この規定は破産法160条、民事再生法
127条の規定を読み替えるものであるが、こ
れらの倒産処理法の規定は債務者による担保
ことになる。
の供与・債務の消滅行為を除いて、財産減少
行為だけを対象としている。そうすると債務
者が一部の債権者にたいして担保として信託
を設定する行為は信託法上の否認の対象には
ならないことになり倒産処理法上の偏頗行為
否認の規定によって否認権を行使することに
なると考えられるが(破産法162条、民事再
生法127条の 3 )、やや分かりにくい。一方、
フランス倒産処理法は「同時交換的に債務契
約が行われた場合を除いて、危機時期にフィ
デュシーへの財産を移転すること」を否認の
対象としており、財産減少行為のほかに偏頗
的な返済や担保供与も対象となると考えられ
⒝ 債務者の危機時期の担保目的の信託設
定
わが国信託法は、詐害信託についての債権
者の取消訴訟を規定し(信託法11条)、委託
者について倒産処理手続が開始された場合
に、委託者が危機時期に行った信託設定につ
いて手続開始後、否認権を行使することを認
めている(同12条)。とくに問題なのは、わ
が国信託法があらたに認めた自己信託の場合
である。債務者が恣意的に信託設定するおそ
れがあるからである。仮に債務者が信託を設
利益を詐害する場合には債務者の管財人等は
否認権を行使することになろう106。
所有権に基づく担保と再建型倒産処理
−フランス・フィデュシー法制の視点から−
− 15 −
る。信託を担保として利用する場合には偏頗
の制限には法律上の根拠がなければならず、
的な担保供与となる可能性があるので、フラ
ンス法の規定は参考とすべきであろう。
その意味で倒産処理手続には公法的な性格、
公序としての性格がある。公序を潜脱するよ
5 総 括
うな契約であれば、公益的観点からその効果
を否定すべきであろう。
担保手法の開発は日進月歩である。経済的
会社の資金調達の手法を多様化することは
経済活動を促進するためには、必要不可欠な
なニーズ、金融市場の要請、あるいは起業の
促進のため担保方法が次々に開発され、法律
はその後を追いかけている。従来、信託の利用
は貸付信託など利殖を目的とした形態が主流
であったが、資産流動化目的信託など、
「創意
工夫を凝らした新しいタイプの信託スキーム
の開発や利用がいっそう進むことが期待」109
されており、債権確保の手段としても信託は
重要な手段であり続けよう110。信託は委託
者・受託者・受益者と財産を構成要素とする
が、この要素を駆使すればさまざまな金融ス
キームを想定することができよう。
担保は債権者にとっては債権回収の手段と
いう意義があるが、社会経済的にも存在意義
がある。債権者は担保があるからこそ安心し
て債務者に融資することができるし、担保が
あればこそ債権回収のリスクが低くなるか
ら、金利も下げることになる。担保の実効性
を保障することは円滑な資金循環の必要条件
なのであり、債務者にとっても担保の提供は
けっしてネガティブなものではない。ただし
ことであり、ABL はこの点から評価するこ
とができるが、譲渡担保という法律に規定の
ない担保、倒産処理にあたっての処遇が明ら
かでない担保を促進することは、問題を将来
に先送りすることになる。もともと債権者・
債務者が契約で自由に設定する譲渡担保とい
う担保と公的な手続である倒産処理手続は抵
触するのである。しかも譲渡担保の目的物が
現存の動産から、将来の集合債権や流動集合
動産に拡大しているが、譲渡担保と倒産処理
の関係について議論は収束していない。
フランスのフィデュシーは満を持して法制
化されたものではあるが、当初からその不備
を批判され、改正に改正を繰り返す羽目に陥
っている。しかも英米法のトラストと異な
り、主として担保の手法である。フランスの
ように財産権の神聖不可侵を墨守し、物権法
定主義を厳格に守る国では、自由な権利、あ
たらしい担保の開発には時間がかかり、フィ
デュシー法制にも不備が目立った。しかしわ
が国での不動産・資産の証券化では放念され
これも債務者の事業が健全な場合に限られ
る。いったん債務者に倒産処理手続が開始さ
れると、実効性の高い担保は債務者の事業再
建の障害となるからである。
倒産処理手続は多数の債権者にたいして債
務の完全な弁済ができない債務者についてと
られる措置である。私人間には契約自由の原
則があるが、法律関係が契約当事者のあいだ
にとどまるのであれば、その自由は尊重され
るべきではある。しかし倒産処理手続は契約
当事者にとどまらず、労働債権者、租税債権
者など多様な関係者にも及ぶものであり、そ
の間の利害調整を要する。利害調整、財産権
ている事業の再建を意識していること、また
予測可能性を維持するために法律による規整
を必須としていることには充分な合理性があ
る。倒産処理手続が公序の性格を有するもの
であるからなおさらである。債権者や債務者
の自由な担保設定には制約を加えるべきであ
ろう。
【注】
(1)最高裁平成18年 7 月20日第一小法廷判
決・民集60巻 6 号2499頁。被告・被控訴
人・上告人(売主)は、鮮魚を目的物と
して、占有改定により複数の債権者のた
− 16 −
信託研究奨励金論集第31号(2010.11)
めに譲渡担保を設定し、さらに原告・控
告人は売買代金を立て替えたが、自動車
訴人・被上告人(買主)に目的物を売却
した。その後、売主について民事再生手
の登録名義は販売会社に残されていた。
控訴審(札幌高裁平成20年11月13日判決)
は原告・控訴人の請求を認めたが、上告
審は控訴審判決を破棄、原告・控訴人・
続が開始され、買主が所有権確認の訴え
を提起した。第一審(宮崎地裁日南支部
平成16年 1 月30日判決)は請求を棄却、
控訴審(福岡高裁宮崎支部平成17年 1 月
28日判決)は第一審判決を取り消した。
上告審は原判決を破棄し、差し戻した。
(2)最高裁平成19年 2 月15日第一小法廷判
決・民集61巻 1 号243頁。譲渡担保の目
的物は継続的な商取引契約から生じる現
在の売掛代金債権と販売受託手数料債権
およびその後一年間に取得する同種の債
権であった。譲渡担保設定者が手形を不
渡りにし、その後破産手続が開始された。
国税局が滞納を理由に差押処分をし、譲
渡担保権者がその処分の取消しを求め
た。第一審(さいたま地裁平成15年 4 月
16日判決)は、譲渡担保権者の請求を認
め差押処分を取り消したが、控訴審(東
京高裁平成16年 7 月21日判決)は第一審
判決を取り消した。上告審は控訴審判決
を破棄し、国税の控訴を棄却した。
(3)最高裁平成20年12月16日第三小法廷判
決・民集62巻10号2561頁。リース契約は
ユーザーについて倒産処理手続の開始の
申立てがあったときは、リース会社は催
被上告人の請求を棄却した。
(5)破産法62条、民事再生法52条 1 項、会社
更生法64条 1 項。
(6)大阪高裁平成20年 9 月24日判決・高民集
61巻 3 号 1 頁。これは旧信託法の下での
事例であるが、信託の担保利用が可能で
あることを示している。不動産の賃貸借
にあたって賃貸人が賃借人といったん契
約を結び、賃借人が転借人と契約し、転
借人が敷金を賃借人に差し入れ、賃借人
が賃貸人に同額を差し入れていた。賃借
人に再生手続が開始されたため、転借人
が敷金について転借人を委託者兼受益
者、賃借人を受託者とする信託契約が成
立していたとして、敷金返還請求権を有
することの確認を求めた。信託財産であ
れば、再生手続にかかわらず、転借人は
敷金相当額に取戻権を有するとしたもの
である。第一審は請求を認め、賃借人の
再生会社が控訴した。その間に賃貸人は
敷金相当額を供託したので、控訴審では
原告・被控訴人は供託金請求権のあるこ
との確認に請求を変更した。控訴審は転
告せずに契約を解除できる旨を規定して
いた。ユーザーについて民事再生手続の
借人と賃借人間に信託契約は成立してい
ないとして、原告・被控訴人の請求を棄
申立てがあり、リース会社が契約を解除
し、目的物の返還とそれまでのリース料
却した。
(7)最高裁昭和45年12月16日大法廷判決・民
集24巻13号2099頁。
(8)なお、最高裁平成16年 7 月16日第二小法
廷判決・民集58巻 5 号1744頁と最高裁平
成16年 9 月14日第三小法廷判決も債権譲
渡担保契約の事件であるが、倒産処理手
続の開始を譲渡担保成立の停止条件とし
たもので、譲渡担保の成立の問題であっ
たから平成19年 2 月15日判決の事件とは
争点が異なる。
の支払いを求めた。第一審(東京地裁平
成16年 6 月10日判決)は原告リース会社
の請求を認容したが、原判決(東京高裁
平成19年 3 月14日判決)はリース会社の
請求を認めず、上告審はリース会社の上
告を棄却した。
(4)最高裁平成22年 6 月 4 日第二小法廷判
決。被告・被控訴人・上告人が自動車を
購入するにあたり、原告・控訴人・被上
所有権に基づく担保と再建型倒産処理
−フランス・フィデュシー法制の視点から−
(9)「賃金の支払の確保等に関する法律」(昭
和51年法律第34号) 3 条は、会社におけ
る社内預金の保全措置を求めている。
(10)動産設備や不動産設備の売買に信託銀
行が関与するもので、ファイナンス・リ
ースまたは所有権留保条件付売買に類似
する。
(11)旧法下の信託の担保的利用については、
今村和夫「信託と担保」星野英一 = 鈴
木禄弥ほか編著『担保法の現代的諸問題』
別冊 NBL No.10(1983年)224頁、松本
崇「信託法と担保法との交錯する領域」
判例タイムズ480号50頁、武藤達「信託
の担保的利用の現状」米倉明=清水湛ほ
か編著『金融担保法講座 1 巻』
(筑摩書房、
1985)79頁を参照。2001年に商事信託法
要項が発表され信託法改正機運が高まっ
てから担保目的の信託が議論され、2001
年 6 月12日付けの金融法委員会「信託法
に関する中間論点整理」では、退職給与
信託、顧客分別金信託、実質的ディフィ
ーザンス(債務者が債務とその返済に充
分な資産を信託財産として切り離し、債
務者のバランス・シートの圧縮を図るこ
と)、信託財産を引当として受益権に優
劣を付す事例、住宅金融公庫の貸付債権
担保債券の例を挙げている。
(12)2004年経済産業省「創業・起業促進型
− 17 −
れている(山本和彦「証券化と倒産法」
ジュリ1240号(2003年)16頁)。
(15)道垣内教授は「真正譲渡であるとされ
ても、なお、それによって設定される信
託が、担保目的のものであるとされ、委
託者の倒産時などにおいて、受益者が担
保権者として処遇される可能性があるこ
とが十分に認識されてこなかった」と述
べられている(道垣内正人「担保として
の信託」金法1811号(2007年)28頁)。
(16)2008年 5 月発表の経済産業省「ABL ガ
イドライン」は、「ABL は、不動産等の
担保提供資産が少ない企業への融資、ラ
イフサイクルに応じた企業への支援、内
部留保が手薄な成長志向の企業への融資
や、借り手と貸し手のリレーションの構
築、或いは強化に役立つため、我が国の
中堅・中小企業金融の円滑化、企業の潜
在的な成長力の顕在化などに資するもの
と期待されており、不動産担保や個人保
証に過度に依存しない新たな金融手法と
して、その普及を促すことが重要である」
としている。金融庁の金融検査マニュア
ルは2007年 2 月の改訂で、動産・債権担
保を「一般担保」とあつかうこととした。
(17)2003年 1 月の経済産業省の企業法制研
究会(担保制度研究会)報告書は「動産
への担保設定については、民法典上は質
人材育成システム開発等事業−地域金融
人材育成システム開発事業」「地域金融
権の規定しかなく、質権は、担保権者が
対象動産の占有を取得することが成立要
人材育成プログラム・テキスト」固定資
産の流動化」から。
(13)山本和彦「マイカル証券スキームの更
生手続における処遇について」金法1653
件となっているので、担保権設定者に占
有を委ねたままで当該動産を約定によっ
号(2002年)44頁。
(14)山本教授は「倒産隔離は証券化取引の
不可欠の前提」であり、「倒産隔離にお
いて最も重要な問題となるが、対象資産
の SPV(注:資産の受け皿)への譲渡
が真の売買とされるか、担保取引として
再構成されるか、という点である」とさ
て担保とする場合は、一般に譲渡担保の
手法によることになる」とした。
(18)ABL については「拡大した事業に伴っ
て在庫や売掛金も増大すれば、それに応
じて運転資金の枠も拡大するというメリ
ット」があり、「事業そのものが健全で
あれば、例えば仕入れ価格の一時的な上
昇で赤字になったとしても、そのことを
よく理解している金融機関から安定的に
− 18 −
信託研究奨励金論集第31号(2010.11)
融資を受けられる」としており(野村
条に違背するので、本件譲渡担保契約は
総研レポート「動産・債権等の活用に
よる資金調達手段〜ABL(Asset Based
無効であると主張した。大審院は、信託
財産は「受託者に絶対(的)に移転する」
Lending)〜テキスト金融実務編」(2006
年 3 月) 2 頁から引用、下線は筆者)、
ABL の機能は事業が健全であることを
前提にしている。
(19)平成15年 1 月企業法制研究会『企業法
制研究会(担保制度研究会)報告書〜「不
動産担保」から「事業の収益性に着目し
た資金調達」へ〜』。
(20)伊藤教授は「在庫商品または売掛債権
等に対する譲渡担保が、設定者について
倒産処理手続、特に民事再生手続や会社
更生手続という事業再生型手続が開始さ
れた場合に、どのように取り扱われるべ
きかについて、かねてから議論が存在し、
現在に至っても、いまだ収束をみていな
い」とされている(伊藤眞「集合債権譲
渡担保と事業再生型倒産処理手続・再考
−会社更生手続との関係を中心として」
法曹時報61巻(2009年) 9 号2758頁)。
(21)大審院昭和19年 2 月 5 日判決・民集23
巻 2 号52頁。土地建物を購入した債務者
が資金を融資した債権者のために、資金
の返済と公租公課・保険料等の完済を買
戻しの条件として、当該土地建物につき
譲渡担保を設定し、所有権移転登記を行
った。当該建物には賃借人がおり、賃借
料を前記の貸金債権の利息に充当するこ
ととされていた。その後、債務者が資金
を返済しようとしたが、債権者は公租公
課等の支払いに不足するとしてその受領
を拒み、債務者は不足はないばかりか超
過しているとして、所有権移転登記を求
めた。第一審、控訴審いずれも債権者に
所有権移転登記に応じる義務があるとし
た。債権者は上告理由で、本件譲渡担保
は債務者から債権者への土地建物の信託
譲渡であり、債権者たる受託者が信託の
利益を享受することは(旧)信託法第 9
が、譲渡担保では「第三者に対する外部
関係においてのみ」移転するので、譲渡
担保は信託法上の信託ではないとして、
上告を棄却した。
(22)旧信託法は「受託者は共同受益者の一
人たる場合を除くの外、何人の名義をも
ってするを問わず信託の利益を享受する
ことを得ず」
(第 9 条、新仮名遣いとした)
と規定していた。現行法は「受託者は、
受益者として信託の利益を享受する場合
を除き、何人の名義をもってするかを問
わず、信託の利益を享受することができ
ない」
(第 8 条)と規定している。また、
受託者は「旧法第 9 条とは異なり単独受
益者となることもできる」とされている
(寺本昌広『逐条解説・新しい信託法』
(商事法務、2007)52頁)。一方、受託者
が単独の受益者を兼ねることには法律上
の制限があり(信託法163条 2 号は受託
者が受益権の全部を固有財産で有する状
態が 1 年間継続したときには信託は終了
すると規定している)、中長期債務の担
保として債権者を受託者と定めて信託的
に移転し、この債権者を受益者とする譲
渡担保を形成することには慎重な対応を
要そう。
(23)R. Dammann et G. Podeur, Cession
de créances à titre de garantie: la
révolution n’a pas eu lieu, D., 2007,
p.319; les mêmes, Fiducie-sûreté et droit
des procédures collectives: évolution
ou révolution ?, D., 2007, p.1362: R.
Dammann et M. Robinet, Procédures
collectives-La fiducie redistribue les
cartes, Revue banque, no. 720, 2010, p. 34.
(24)F.-X. Lucas et M. Sénéchal, Fiducie vs
Sauvegarde, il faut choisir, D. 2008, p.29.
(25)事業救済に関する2005年 7 月26日法律
所有権に基づく担保と再建型倒産処理
−フランス・フィデュシー法制の視点から−
番号2005-845。同法は商法典第 6 部「窮
境にある事業」の改正である。2005年倒
産処理法の制定経緯については拙著『フ
ランス倒産法』(信山社、2005年) 1 頁
を参照。
(26) 担 保 に 関 す る2006年 3 月23日 オ ル ド
ナ ン ス 番 号2006-346。 フ ラ ン ス の 立
法 形 式 に は ロ ア(loi)、 オ ル ド ナ ン ス
(ordonnance)、デクレ(décret)があり、
ロアは憲法34条に基づき議会承認を要
し、オルドナンスは憲法38条に基づき委
任を受けて政府が閣議決定によって行
い、デクレは首相単独または関係閣僚な
いし大統領の連署によって行う。
(27)フィデュシーを設ける2007年 2 月19日
法律番号2007-211。同法は民法典所有権
取得編にフィデュシーを設けた。
(28)R. Dammann, Réflexion sur la réforme
du droit des sûretés au regard du droit
des procédures collectives: pour une
attractivité retrouvée du gage, D., 2005,
p. 2448.
(29)ただし、この改正のさいに民法典(担
保編)2287条は「担保編の規定は倒産処
理手続(事業救済、裁判上の更生・清算、
個人多重債務整理)の開始の場合、その
適用を妨げるものではない」と規定し、
倒産処理法の規定が民法典の担保法の規
定に優先することが明記された。一般に
特別法は一般法に優先するが、フランス
では倒産処理法は商法典に規定されてお
り、担保法は民法典に規定されているた
めに両者の関係を明確化したものと思わ
れる。
(30)窮境にある事業に関する法律を改正
す る2008年12月18日 オ ル ド ナ ン ス 番 号
2008-1345。経済の近代化に関する2008
年 8 月 4 日法律番号2008-776に基づく倒
産処理法の改正であり、経済近代化法74
条 1 項 9 号は「裁判上の清算手続におけ
るフィデュシーと非占有担保などの担保
− 19 −
の実効性を高めること、および事業救済
と裁判上の更生手続での担保の効果の調
整」を命じていた。拙稿「2008年フラン
ス債務整理法改正の意義」広島法学33巻
2 号254頁を参照。
(31)フィデュシー法制化後、主要なものだ
けで 4 回の改正があった。2008年 8 月 4
日法律番号2008-776(経済近代化法)は、
委託者の適格性をフランス法人税の課税
対象法人に限っていたところをすべての
法人・自然人に拡大し(同法典2014条の
廃止)、受託者として金融機関のほかに
弁護士を追加し(同法典2018条)、フィ
デュシーの設定期間を33年から99年へ延
長した(同法典2018条 2 号)。2008年12
月18日オルドナンス番号2008-1345は倒
産処理手続において双方未履行双務契約
に関する27条をフィデュシー契約に適用
しないこととした。2009年 1 月30日オル
ドナンス番号2009-112は担保型フィデュ
シーに関する規定を新設し、2009年 5 月
12日法律番号2009-526(手続簡素化法)
は、前記オルドナンスを承認した。前記
のスクーク債券を規定した2009年10月19
日法律番号2009-1255は、結局同条項を
削除したが、同16条はフィデュシーに関
連していた規定なので、これを加えると
全部で 5 回の改正となる。
(32)アイネス教授らはフィデュシー法の頻
繁な改正を「半年ごとに改正される法
制をいったいだれが信用するのか」と
批 判 し て い る(L. Aynès et P. Crocq,
La fiducie préeservée des audaces du
législateur, D., 2009, p. 2559)。
(33)Y. Picod, Droit des sûretés, Puf, 2008, p.
9.
(34)物権法定主義はフランスにおける通説
であり、民法典543条に基づくとされる
(Ph. Malaurie et L. Aynès, Droit civilles biens, la publication foncière, 4é. éd.,
Cujas, 1998, p. 91)。同条は、物上に所
− 20 −
信託研究奨励金論集第31号(2010.11)
有権、用益権、あるいは地役権を有する
ことができると定める。
(35)担保の物権法定主義が問題となった事
件として、最近では破毀院2006年12月19
日商事部判決がある。事件当時、フィデ
ュシーは法制化されていなかったので、
債権担保を債権の譲渡担保ではなく、
債権質とした。フォーラム社は1992年
1 月 7 日付けの金銭消費貸借契約によ
る CGER 銀行の融資資金で商業不動産
を買収し、担保として同不動産の賃料債
権を担保として譲渡した。借入人のフォ
ーラム社は1995年 6 月27日に倒産し(裁
判上の更生手続)、CGER 銀行は1997年
5 月30日に貸金債権を信金に担保ととも
に譲渡し、譲渡はフォーラム社に通知さ
れた。信金(原告)は賃借人(被告)に
賃料の支払いを求める訴えを提起し、原
判決(パリ控訴院2005年 3 月 2 日判決)
は信金が賃料債権の譲渡担保であるとし
て信金の請求を認めたが、破毀院はこれ
を債権質であるとし原判決を破毀、パリ
控訴院に差し戻した。信金は、賃借人か
ら賃料の支払いを受けることができれ
ば、債権を一定程度回収できるが、破毀
院判決によると、債務者は倒産処理手続
中なので、債権の減免などの権利の変更
を受けざるを得ない。この判決には実体
を考慮していないと批判が集中し 、フ
ィデュシー法制化を促進する結果とな
っ た(X. Delpech, Pas de consécration
générale de la cession de créance à titre
de garantie, D., 2007, p. 76; R. Dammann
et G. Podeur, Cession de créances à
titre de garantie: la révolution n’a pa
eu lieu, D., 2007, p. 319; Ch. Larroumet,
La cession de créance de droit commun
à titre de garantie, D., 2007, p. 344: L.
Aynès, La cession de créance à titre
de garantie: Quel avenir ?, D., 2007, p.
962)。
(36)売買契約にある所有権留保条項の効果
に関する1980年 5 月12日法律番号80-335
は、当時の倒産処理法(1967年法)の手
続と本条項の関係を規定し、手続が開始
された場合、所有権を留保した売主が 4
か月以内に取戻の訴えを提起することを
条件に売主の取戻権を認めた。これは現
在、手続開始後 3 か月に短縮されたが、
同様に取戻権が認められている。
(37)フランス法上、ファイナンス・リース
は金融取引とされている。破毀院1980年
6 月10日第三民事部判決は、フル・ペイ
アウトのファイナンス・リースを金融取
引であり、賃貸借契約に関する規定の適
用を受けないとした。
(38)ファイナンス・リース業者に関する
1966年 7 月 2 日法律番号66-455。現在は
通貨金融法典 L313-7条以下に規定され
ている。
(39)会社の金融の円滑化に関する1981年 1
月 2 日法律番号81-1の第 1 条により商取
引債権を金融機関に担保として譲渡する
制度として導入され、現在は通貨金融法
典 L313-23条に編纂されている。法案の
提案者(エチエンヌ・ダイイ上院議員)
にちなみ、債権譲渡をダイイ譲渡と呼ぶ。
(40)1984年 1 月24日法(法律番号84-46)第
61条は、ダイイ譲渡を定めた1981年 1 月
2 日法の 1 条 2 項を改正し、「将来の債
権も譲渡が可能」とした。現在の通貨金
融法典 L313-23条2項を参照。
(41)1993年12月31日法(法律番号93-1444)。
同法はフランス銀行、保険、信用および
金融市場に関する法律であり、その12条
が現先・レポ取引を規定した。
(42)貯蓄に関する1987年 6 月17日法律番号
87-416の第31条以下に規定され、その後、
通貨金融法典 L432-7条に規定された。
(43)2006年担保法改正で商法典 L527-1条〜
L527-11条に設けられた。設定は私署証
書によるものとし、商事裁判所の登録に
所有権に基づく担保と再建型倒産処理
−フランス・フィデュシー法制の視点から−
よって公示することとされている。
(44)担保法改正の草案作りに当たったグ
リマルディ委員会草案は、所有権担保
(propriété-sûretés)として所有権留保担
保 と 譲 渡 担 保(propriété cedée à titre de
garantie)を提案していたが、2006年に
は前者だけが法制化された。
(45)民法典2338条は動産質の公示を規定す
るが、同条の適用と占有移転のない動産
質 の 公 示 に 関 す る2006年12月23日 規 則
(デクレ番号2006-1804)第 1 条は、公示
のための登録を設定者の住所地を管轄す
る商事裁判所書記官が行うものとしてい
る。占有を移転しないので、重複して担
保を設定することができ、この場合には、
優劣は登録の順序による(民法典2340
条)。
(46)C. Witz, Les transferts fiduciaires
à titre de garantie, Les opérations
fiduciaires, Colloque de Luxembourg,
LGDJ, 1985, p. 55; P. Crocq, Propriété et
garantie, LGDJ, 1995, p. 251; M. Cabrillac
et Ch. Mouilly, Droit des sûretés, 5e éd.,
Litec, 1999, p. 431; Y. Picod, Droit des
sûretûs, Puf, 2008, p. 449. このうちとくに
クロク教授の「所有権と担保」の著作が
所有権担保を総括する代表的文献であ
る。クロク教授は立法者が倒産処理にお
いて事業再建を優先していることが所有
権に基づく担保の要因であるとし、「優
先的債権(注:財団債権あるいは共益債
権)が増えて、倒産処理法は伝統的な担
保の実効性を失わせており、倒産処理が
開始されたら、債権者が財産の所有権に
救いを求めるのも当然である」とし、と
くに1985年 1 月25日の倒産処理法が担保
の実効性を低減させたとしている。この
分析は多くの論者の共通認識である。
(47) 所 有 権 留 保やリースは、債権者が目
的物の所有権者であり、所有権が債務
者に移転することはないから譲渡担保
− 21 −
やフィデュシーとは異なる(P. Crocq,
Propriété et garantie, LGDJ, 1995, p. 38)。
(48)とくに1955年倒産処理法は当時の政府
の経済政策であった商業の浄化・健全化
を目的として、懲戒的な性格が強かった
(ルノー(拙訳)「フランス倒産法の歴史
−債務者の清算制裁から債権者を犠牲に
した再生へ」広島法学27巻(2004) 3 号
143頁)。
(49)裁判上の更生、財産の清算、個人破産
および詐欺破産罪に関する1967年 7 月13
日法律番号67-563。ある事業の経済的財
政的更生を容易にするための1967年 9 月
23日オルドナンス番号67-820の第16条を
参照。
(50)事業の窮境の予防と和解的整理に関す
る1984年 3 月 1 日法律番号84-148。
(51)ただし、1994年改正で更生の見込みが
ない事業については、裁判上の更生を経
ることなく、即時に裁判上の清算手続の
開始決定をすることが認められた。
(52)ルノー(拙訳)「フランス倒産法の歴史
−債務者の清算制裁から債権者を犠牲に
し た 再 生 へ 」 広 島 法 学27巻(2004) 3
号126頁。同様の趣旨は多くの論考に述
べられている。D. Legeais, La réforme
des sûretés, la fiducie et les procédures
collectives, Revue de sociétés, 2007, p.
690; A. Cerles, La fiducie, nouvelle reine
des sûretés?, JCP E, no. 36, 2007, p.
20; A. Jacquemont, Droit des entreprises
en difficulté, 5e éd., Litec, 2007, p. 9; C.
Saint-Alary-Houin, Droit des entreprises en
difficulté, 6e éd., Montchrestien, 2009, p.
28.
(53)事業の窮境の予防と裁判上の清算に関
する1994年 6 月10日法律番号94-475第26
条は、1985年倒産処理法37条を改正し、
主任裁判官(倒産処理手続担当裁判官)
が担保権を有する債権者への支払いを認
めることができるとした。
− 22 −
信託研究奨励金論集第31号(2010.11)
(54)事業救済に関する2005年 7 月26日法律
番号2005-845の第 L622-21条。
(55)ウィッツ教授は、質権は占有移転を要
するので(現在は要しないこととされて
いる)、占有移転を要しない所有権担保
としてフィデュシーが注目されるとし
た(C. Witz, Les transferts fiduciaires
à titre de garantie, Les opérations
fiduciaires, Colloque de Luxembourg,
LGDJ, 1985, p. 58)。
(56)我妻博士は譲渡担保について「担保権
者は、目的物の所有権を取得しているけ
れども、実質的に把握しているのは被担
保債権の額だけである」、「その目的物の
有する価値は、担保権者と設定者とに分
属している」「いわゆる所有権の価値的
分属である」、「譲渡担保権者から目的物
を譲り受ける者は、目的物そのものを取
得するのではなく、譲渡担保権者が把握
している価値しか取得しえない」として
いる(我妻栄『新訂・担保物権法』(岩
波書店、1968)600頁、607頁)。譲渡担
保についてクロク教授は債権者に交換
価値、債務者に利用価値が分属すると
している(P. Crocq, Propriété et garantie,
LGDJ, 1995, p. 280)。
(57)破産法62条は「破産手続の開始は、破
産者に属しない財産を破産財団から取り
戻す権利(取戻権)に影響を及ぼさない」
と規定する(民事再生法52条 1 項、会社
更生法64条 1 項も同旨)。
(58)高松高裁昭和32年11月15日判決・高民
集10巻11号601頁。同判決は「所有権留
保約款附月賦販売契約の法律的性質」に
ついて、「売主が目的物件の所有権を留
保するのは代金債権担保のため」である
とし、「買主破産の場合は売主が取戻権
を有し、買主が他の債権者より差押を受
けたときは売主は第三者異議の訴を起し
得る」とした。
(59)破産法 2 条 9 項は「破産手続開始の時
において、破産財団の属する財産につき
特別の先取特権、質権又は抵当権を有す
る者がこれらの権利の目的である財産に
ついて」別除権を有するとし、同65条 1
項は破産手続によらずに行使することを
認めている(民事再生法53条 1 項も同
旨)。会社更生法は、質権、抵当権など
の被担保債権を「更生担保権」とし、更
生手続に取り込んでおり(会社更生法 2
条10項、135条 1 項)、破産手続、再生手
続とは異なる。
(60)札幌高裁昭和61年 3 月26日決定。同決
定は「本件所有権留保ないし本件譲渡担
保の実質的な目的は、あくまでも本件立
替委託契約とこれによる本件弁済に基づ
く抗告人の求償債権を担保することにあ
り、いずれにしても本件自動車の所有権
の抗告人に対する移転は確定的なもので
はない」とした。
(61)最高裁平成 7 年 4 月14日第二小法廷判
決・民集49巻 4 号1063頁。これは事務機
器のリースのユーザーについて会社更生
手続が開始された事件で「ファイナンス・
リース契約は、リース期間満了時にリー
ス物件に残存価値はないものとみて、リ
ース業者がリース物件の取得費その他の
投下資本の全額を回収できるようにリー
ス料が算定されているもの」とした。
(62)東京高裁平成21年 9 月11日判決・金融
法務事情1877号37頁は、将来債権譲渡担
保契約のもとで、譲渡対象の債権の支払
いのため第三債務者が振り出した手形を
破産管財人が取り立てた事件で、譲渡担
保権者の信金は手形金と同額の不当利得
返還請求権を有するとされた。最高裁昭
和63年10月18日第三小法廷判決は、信用
金庫に手形の取立て委任した債務者につ
いて破産手続が開始された事件で、信金
は商人ではなく、信金は取立手形に民法
上の留置権を有するのみであり、手形の
取立ての権能はないとした。法定担保で
所有権に基づく担保と再建型倒産処理
−フランス・フィデュシー法制の視点から−
− 23 −
ある留置権には優先弁済権はないが、所
「委託者から受託者に移転しているのが
有権担保である譲渡担保には認められる
という違いがある。
(63)わが国倒産処理法には取戻権の行使に
期間の制限はない点もフランス法の異な
譲渡担保権にすぎない場合と、委託者か
ら受託者へは完全な所有権が移転してお
る点である。
(64)倒産処理手続の管財人の履行・解除の
選択権をそこなうためである。1967年法
の下では明確でなく、学説もまちまちで
あったが、1985年法は「いかなる法律
の規定、契約の条項にかかわらず、契
約の不可分性、解約、解除は裁判上の
更生手続の開始の事実によって生じな
い」とする明文規定を設け、現行の商法
典 L622-13条に継承されている。破毀院
1993年 3 月 2 日商事部判決を参照。
(65)最高裁平成20年12月16日第三小法廷判
決について、伊藤教授は「担保権実行の
手段としての解除条項は、再生手続及び
更生手続という事業再生手続との関係で
は、手続の趣旨、目的に反するものとし
て無効とされるという判例法理を確立し
た」とされている(伊藤眞「集合債権譲
渡担保と事業再生型倒産処理手続・再考
−会社更生手続との関係を中心として」
法曹時報61巻 9 号2783頁)。
(66)最高裁昭和41年 4 月28日第一小法廷判
決・民集20巻 4 号900頁。同判決は「譲
担保手段にすぎないと評価される場合と
の区別がきちんとなされてこなかった」
渡担保権者は、更生担保権者に準じてそ
の権利の届出をなし、更生手続によつて
のみ権利行使をなすべきものであり、目
的物に対する所有権を主張して、その引
渡を求めることはできない」とした。
(67)すでに2001年 6 月12日金融法委員会「信
託法に関する中間論点整理」(ジュリス
ト1217号(2002年)159頁)は「担保目
的による信託については、一般的にはそ
の効力が認め得ると解されるが、委託者
(兼受益者)の倒産時における取扱いに
ついては議論があり得る」と指摘してい
たが、道垣内教授はこの部分を引用し、
り、受託者は目的財産の完全な所有権を
有しているが、信託スキーム全体として、
と指摘されている(道垣内正人「担保と
しての信託」金融法務事情1811号(2007
年)28頁)。
(68)1975年に公証人協会がフィデュシー法
制化を求めたことがあるが、立法化の最
初の動きは1990年 2 月13日のリヨンにお
けるシンポジウムである。その後、1992
年、1995年に立法が試みられた。
(69)法主体は唯一の財団(patrimoine)を有
するとするパトリモワン法理(Aubry et
Rau, Cours de Droit civil français d’après
la méthode de Zacharie, tome II, 6e éd.,
Marchal & Billard, 1935, p.8) と の 抵
触、信託財産にたいする二重所有(legal
oqnership と equitable ownership)と所有
権絶対原理との抵触の問題があった。
(70)2005年 2 月 8 日のマリニ上院(元老院)
議員が提出した上院へのフィデュシー法
案趣旨による。
(71)C. Witz, Rapport introductif, Les
o p é r a t i o n s f i d u c i a i re s , C o l l o q u e d e
Luxembourg, LDGJ, 1985, p. 5.
(72)ユスティニアヌス法典にもフィデュキ
ア に 関 す る 記 述 は な い(J. Gaudemet,
Droit privé romain, 2 éd., Montchrestien,
2000, p. 268, P. 299)。
(73)クロク教授は所有権担保を一種の「再
発見」としている(P. Crocq, Propriété
et garantie, LGDJ, 1995, p. 2, p. 280)。
(74)M. Elland-Goldsmith, Fiducie et trust:
élement d’une comparaison, Banque
& droit, no. 14, 1990, p. 241; P. Crocq,
Propriété et garantie, LGDJ, 1995, p. 154;
Ch. Larroumet, La loi du 19 février 2007
− 24 −
信託研究奨励金論集第31号(2010.11)
sur la fiducie, Propos critique, D., 2007,
p. 1350; C. Witz, La fiducie française
face aux expériences étrangères et à
la convention de La Haye relative au
“trust”
, D., 2007, p. 1370.
(75)フィデュシー法はフィデュシー契約の
登録を義務づけており(民法典2019条)、
この登録は国税庁(Direction générale
des impots) の も と で 行 わ れ、 現 在 は
2010年 3 月 2 日付けデクレに基づきコン
ピューター化されている。最初のフィデ
ュシー契約は2008年 2 月 6 日付けで、事
業会社が債務の特定調停手続をとり、調
停案に沿って租税債務の支払猶予の担保
として、国税を受益者として所有不動産
を受託者に移転した担保型である。第二
号もフランス・ガスが委託者、受託者は
貯蓄供託金庫の担保型、第三号も裁判上
の更生手続に入った合板メーカー・プイ
ソロル社が債権者銀行のために集合動
産(在庫商品)に担保を設定したもので
あ る(2009年10月29日 付 け 日 刊 経 済 紙
Agefi を参照)。
(76)Ph. Dupichot, Opération fiduchie sur le
sol français, JCP E, no. 11, 2007, p. 5. フ
では二重領有(double ownership)により、
権利者の行為または法律の規定により分
離して別異の人に即することがありこれ
を信託というとし、わが国では二重領有
の観念が民法の原則に重大な変革を及ぼ
すとした(池田寅二郎「信託法案の概要」
法協38巻(1920年) 7 号846頁)。
(79)フィデュシー法制は、約定フィデュシ
ーのほかに法定フィデュシーを認めて
いる(2012条)。これは本文に記述した
とおり、金融取引で非典型フィデュシ
ー(特別法に基づくフィデュシー的構成
の金融取引)が存在し、契約当事者がフ
ィデュシーであると明示しなくても、こ
れらの非典型フィデュシーもフィデュシ
ーとしたものである。フィデュシー法制
がフィデュシーとは「委託者が受託者
に(目的物を)移転するオペレーション
(opération)をいう」と定義(2011条)
して、契約(contrat)に限定しなかった
のはこのためである。
(80)R. Libchaber, Les aspects civils de la
fiducie dans la loi du 19 février 2007,
Defrénois, 2007, p. 1009.
ィデュシーはフィデュキアと同様に契約
によって成立する点でトラストと異なる
が、フィデュキアの場合には受託者に委
(81)したがってセキュリティ・トラストの
直接設定が可能である。
(82)イギリスの IFLR 誌は「占有移転をし
ない担保目的フィデュシーがビジネス
託された財産は受託者の財産に混在する
ことになった。
(77)民法典の「所有権取得の方法」編(第
3 部)は、相続、贈与、売買、交換など
を所有権取得方法としている。フィデュ
シーも受託者が委託者から託された財産
に所有権を取得する方法である。
(78)わが国の現行信託法は「旧法の起草者
(池田寅二郎博士)が採用し、旧法の制
定初期から有力に唱えられてきた、いわ
ゆる債権説」に立つとされている(寺本
昌広『逐条解説新しい信託法』(商事法
務、2007)25頁)。池田博士は、英国法
上は委託者にもっとも関心を呼ぶだろ
う」とコメントしている(J. Leavy, Not
much help to creditors, IFLR, February
2009, p. 54)。
(83)2008年 4 月 3 日 会 計 規 則 委 員 会 規 則
2008-01は、フィデュシーに関して会計
準則番号99-03を改正し、改正規則付則
1-b は、移転対象は資産と負債である
こと、移転された財産は特別の財団を
形成すること、資産が負債を上回る場
合、負債が資産を上回る場合いずれも可
能としている(L. Kaczmarek, Propiété
fiduciaire et droits des intervenants à
所有権に基づく担保と再建型倒産処理
−フランス・フィデュシー法制の視点から−
l’opération, D., 2009, p. 1846)。ただしリ
ブシャベール教授は、本文から見て債
務は移転できない、したがってディフ
ィーザンスは不可能であるとしている
(R. Libchaber, Les aspects civils de la
fiducie dans la loi du 19 février 2007 ⒜ ,
Defrénois, no. 15-16, 2007, p. 1101)。
(84)倒産処理手続に関する2000年 5 月29日
欧州理事会規則2000/1346の第 2 条⒢は、
倒産処理の対象財産について「公的登
録」を求めているので、フィデュシーに
ついて登録機関を設けた(R. Dammann
et G. Podeur, Fiducie-sûreté et droit
des procédures collectives: évolution ou
révolution ?, D., 2007, p. 1360)。
− 25 −
Fiducie-sûreté et droit des procédures
collectives: évolution ou révolution
?, D., 2007, p. 1360)。 さ ら に こ れ を
前 提 と し て、 被 担 保 債 権 を 根 担 保 型
(rechargeable)とする場合は優先劣後
の差を設けることはできないとする意見
が あ る(I. Legrand, La fiducie-sûretés:
le bilan d’une aventure législative de
3 ans, Banque & droit, no. 128, 2009, p.
(85)フィデュシー契約前に公示された担保
権による追及効のある権利を有する債権
者の権利は害されないが、フィデュシー
財産は、その保管管理によって生じた債
権者にのみ差押えが可能であり、フィデ
ュシー財産で受託者の不足の場合、委託
者の固有の財産が債権者にたいする一般
担保となるが、フィデュシー契約で受託
者の負担とする場合はその限りでない
(2025条)。受託者に債務不履行がある場
合にはその固有の財産により責任を負う
(2026条)。
(86)わが国の投資信託に当たる集合的証券
21)。
(88)破産手続では債権者の自働債権と受働
債権はいずれも期限が未到来でも手続開
始のときに期限がきたものとされ(現在
化)、債権者は相殺することができるが
(破産法67条)、民事再生手続では再生債
権者の自働債権・受働債権はいずれも現
在化されず、「債権届けの期限までに相
殺適状になったときにのみ相殺すること
ができるとされている(92条)。相殺に
は担保的な機能があり、債権者の担保的
機能についての期待は合理的であれば保
護されるべきであるが、民事再生手続で
は債務者の事業再建を優先し、清算型手
続である破産法とは異なった規定として
いる。
(89)深山卓也ほか著『一問一答・民事再生法』
(商事法務研究会、2000)14頁。
(90)フィデュシー法制は倒産処理法とは無
投資スキームをフランスで集合有価証券
ファンド(OPCVM)と呼んでいる。そ
の一つでは集合債権ファンド(FCC)
に受益権を移転し、ファンドが証券化す
ることが可能である。なお、OPCVM、
FCC は投資信託に類似するから、一種
の無名フィデュシーであり、他の無名
フィデュシーと同様に特別法で法制化
さ れ て い る(1988年12月23日 法 律 番 号
88-1201)。
(87)フィデュシー契約で受益権に優先劣
後の差を設けることは可能とする意
見 が あ る(R. Dammann et G. Podeur,
関係に行われ、担保型フィデュシーによ
る譲渡担保は倒産処理手続に服さない実
効性の高い担保がいったん認められる結
果となった。
(91)ルカ教授らはこのほころびを指摘し
(F.-X. Lucas et M. Sénéchal, Fiducie vs
Sauvegarde, il faut choisir, D. 2008, p.
29)、改正後も「一方で倒産隔離の担保
を設けながら、他方で事業救済を促進し
ようとする立法者の姿勢には一貫性がな
く、担保型フィデュシーは事業救済の必
要性を無視していた」と批判し、フィ
デュシー法制化でいったん担保権者の
− 26 −
信託研究奨励金論集第31号(2010.11)
保護に傾斜しすぎたが、2008年改正が
均衡させたとした(F.-X. Lucas, Fiducie
vs sauvegarde, un arbitrage équilibré,
Bulletin Joly Société, fév. 2009, p. 105)。
グリマルディ教授らは、2008年の倒産処
理法改正が担保との関係で有意な結果
をもたらしたとする(M. Grimardi et R.
Dammann, La fiducie sur ordonnances,
D., 2009, p. 674)。
(92)小野傑=深山雅也編著『あたらしい信
託法解説』(三省堂、2007)16頁。
(93)フランス倒産処理法にも同様に裁判所
の担保権目的物の受戻し許可の制度があ
る(商法典 L622-7条)。
(94)実務研究会編『信託と倒産』
(商事法務、
2007)262頁を参照。また「主要な会社
財産としての外形はそのまま維持されな
がら、その実『信託』という名の下に重
要な会社資産が一部投資家からの資金調
達の引当てとされ、その受益権の具体的
内容も投資に対する担保を目的としたも
のである場合、そうした会社資産の概観
を信頼して取引を継続し、あるいはこう
した取引を通じて傾いた会社を支援しよ
うとした各種の債権者を犠牲にとして、
一部の投資家だけのリターンを確保する
ことが公平といえるかは、疑問といわざ
るを得ない」としている(同・264頁)。
(95)フォン・ド・コメルスは「生業の基」「事
業の基盤」を意味し、共和暦 9 年テルミ
ドール29日(1801年 8 月16日)パリ控訴
裁判所の判決は、フォン・ド・コメルス
の譲受人と相続人の対立の事案で、この
売買の有効性を認めており、18世紀には
すでに成立していた概念である。営業用
動産、在庫などの有形財産のほか賃借権
(pas de porte)、 顧 客(clientèle) な ど の
無形財産を含み、広く事業継続に必要な
財産全般を指すとされているが、法律に
定義規定はない。わが国における紹介と
して、田中昭「フランス法に於ける営業
財産保護に関する一考察」大阪経済大論
集19号(1957年)96頁がある。
(96)R. Dammann et M. Robinet, Procédures
collectives-La fiducie redistribue les
cartes, Revue banque, no. 720, 2010, p. 35.
(97)最高裁平成12年 4 月21日第二小法廷判
決・民集54巻 4 号1562頁、最高裁平成13
年11月22日第一小法廷判決・民集55巻 6
号1056頁、最高裁平成19年 2 月15日第一
小法廷判決・民集61巻 1 号243頁などを
参照。継続的取引契約に基づいて現在お
よび将来生じる商品売掛代金債権と商品
販売受託手数料債権について債権譲渡担
保設定契約が結ばれている場合には、倒
産処理手続において別除権として処遇さ
れる。
(98)最高裁昭和54年 2 月15日第一小法廷判
決・民集33巻 1 号51頁、最高裁昭和62年
11月10日第三小法廷判決・民集41巻 8 号
1559頁などを参照。倒産処理手続におい
て別除権として処遇される。
(99)経済産業省平成20年度 ABL インフラ
整備調査委託事業「ABL の普及・活用
に関する調査研究報告書」平成21年 3 月・
株式会社野村総合研究所を参照。
(100)伊藤教授は、この問題の判断基準は当
該債権譲渡としての法的性質が維持され
ているか否かであるとし、さらに債務者
の倒産手続開始により債務者の期限の利
益を喪失させ、すでにその時点で発生し
ている債権を担保目的物とする「固定化」
条件があれば、集合債権譲渡の担保とし
ての性質はなくなり、譲渡担保権者は、
再生債務者の事業再生の見込みを踏ま
え、譲渡担保を実行して、目的物の範囲
を固定化し、その時点での担保目的物の
価値を確定的に把握するか、それとも、
譲渡担保の実行を自制して、再生債務者
等に目的物の処分を許しながら、その後
に再生債務者が取得する目的物を譲渡担
保によって捕捉するか、いずれかを選択
所有権に基づく担保と再建型倒産処理
−フランス・フィデュシー法制の視点から−
するとされている(伊藤眞「集合債権譲
渡担保と事業再生型倒産処理手続・再考
−会社更生手続との関係を中心として」
法曹時報61巻(2009)9 号2761頁)。同「倒
産処理手続と担保権−集合債権譲渡担保
を中心に」NBL872号(2008)60頁を参照。
(101)破毀院2000年 4 月26日商事部判決は、
将来債権譲渡の効果は手続開始後に現実
化する債権には及ばないとしたが、破毀
院2002年11月22日 混 合 部 判 決、 破 毀 院
2004年12月 7 日商事部判決、破毀院2005
年11月22日商事部判決は将来債権も債権
譲渡の契約時点で確定的に移転している
とした。ただし、破毀院2006年12月19日
商事部判決は債権への担保権設定が債権
譲渡ではなく、債権質であるとして、将
来債権への担保権の効果を否定した。
(102)R. Dammann, Réflexions sur la
réforme du droit des sûretés au regard
du droit des procédures collectives:
pour une attractivité du gage, D., 2005,
p. 2447; I. Legrand, La fiducie-sûreté:
le bilan d’une aventure législative de 3
ans, Banque & droit, no. 128, 2009, p. 28;
R. Dammann et M. Robinet, Procédures
collectives-La fiducie redstribue les
cartes, Revue banque, no. 720, 2010, p. 35.
(103)管財人等の解除権については、破産法
53条 1 項、民事再生法49条 1 項、会社更
− 27 −
生法61条 1 項、相手方の請求権の地位に
ついては、破産法148条 1 項 7 号、民事
再生法49条 4 項、会社更生法61条 4 項を
参照。
(104)寺本昌広『逐条解説・新しい信託法』
(商事法務、2007)101頁。
(105)R. Dammann et G. Podeur, Fiduciesûreté et droit des procédures collectives:
évolution ou révolution ?, D., 2007, p.
1361.
(106)寺本昌広『逐条解説・新しい信託法』
(商事法務、2007)38頁。
(107)倒産処理法を改正した2008年12月18日
オルドナンス番号2008-1345第88条によ
り加えられた。
(108)事業救済手続手続は、原則として債務
者がフランス法上の「支払停止」(ただ
しわが国でいう支払不能に相当する)の
状態にない場合に申し立てる手続であ
り、事業救済手続が開始されても債務者
は事業・財産の管理処分権を失わないの
で、財産処分に制限が課せられていない
ためである。
(109)寺本昌広「『信託法改正要綱試案』の
概要」信託223号(2005年) 6 頁。
(110)フランスのフィデュシーについては、
起源、過去の立法案とその蹉跌など重要
な論点があるが、本稿では担保としての
信託と倒産処理の関係に絞った。
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