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日本と海外の車~排出ガス規制~
日本と海外の車~排出ガス規制~ 瀬古 俊之((財)日本自動車研究所) 1.は じ め に 自動車は高い利便性や移動性を人間社会にもたらした反 面、各種の環境問題を引き起こしてきた。局所的な環境問 題としては、窒素酸化物(NOx)や粒子状物質(PM)な どによる大気汚染、 広域的には NOx等による酸性雨問題、 地球環境的には温室効果ガス(CO2)による地球温暖化問 題などである。これらの環境問題を軽減するために、日米 欧を中心に排出ガス規制強化が行われており、さらに今後、 図 1 日本における排出ガス規制の推移(1) 2010 年ころまで従来にない厳しい排出ガス規制の施行が 考えられている。また、発展途上国においても日米欧の排 出ガス規制に追従する形で規制強化が進んでいる。ここで は、日本と欧米との排出ガス規制に関する比較を行い、そ れぞれの特徴を紹介する。 2.日米欧の排出ガス規制の現状と今後の動向 現在、日米欧の排出ガス規制レベルは世界で最も厳しい レベルであり、発展途上国においては日米欧で実施された 以前の排出ガス規制が施行されるケースが多い。最初に、 図 2 米国連邦における排出ガス規制の推移(1) 日米欧の排出ガス規制の推移を示す。 2.1. 日本の規制動向 日本では、1960 年代にモータリゼーションの進展に伴い、 自動車排出ガスによる大気汚染が生じ、深刻な社会問題と して提起されてきたため、1966 年(昭和 41 年)に自動車の 排出ガス規制が開始された。それ以来、現在までに排出ガ ス規制強化が行われてきた。図 1 に、1998 年から 2010 年ま での排出ガス規制の推移を図示する。 また、重量車を対象に 2010 年ころに「ポスト新長期規制」 の施行を検討しており、この規制では新長期規制値の半分 図 3 米国カリフォルニア州における排出ガス規制の推移(1) 程度の規制値が見込まれている。 2.2. 米国の規制動向 米国のカリフォルニア州では、1960 年に世界で初めて排 出ガス規制が制定された。今でもカリフォルニア州は米国 連邦とは異なった厳しい排ガス規制を施行している。図 2 および図 3 に、1998 年から 2010 年までの米国連邦とカリフ ォルニア州の排出ガス規制の推移を示す。 米国連邦では、2004 年からは乗用車および軽量車 図 4 欧州における排出ガス規制の推移(1) (Light-duty)を対象に、Tier 2 規制が施行されている。 り、2010 年ころまでには排出ガス規制強化が大幅に進むこと 2003 年までは NLEV (National Low Emission Vehicle)規制 がわかる。また、1998 年から 2003 年ころの規制値比較では が 行 わ れ た 。 こ の NLEV 規 制 で は 、 『 フ リ ー ト 平 均 欧州および米国は、NOx よりも PM に厳しい規制となってお NMOG(Non-Methane Organic Gases)規制』が適用された。こ り、それに対し、日本は NOxに対して厳しい規制になって の、『フリート平均 NMOG 規制』とは、各自動車メーカーに いることがわかる。これは、それぞれの国の事情が異なって 対し、各モデルイヤー毎に販売した自動車の NMOG 基準値の いるためで、日本では、前は光化学スモッグ対策が大きな課 平均値(フリート平均 NMOG 排出量)が「フリート平均 NMOG 題になっており、光化学スモッグの起因である NOxの低減 基準値」を満足するように、 「Tier 1、TLEV (Transient Low が急務であったためである。 Emission Vehicle) 、LEV (Low Emission Vehicle)、ULEV 図 6 に、日米欧のガソリン乗用車とディーゼル重量トラッ (Ultra Low Emission Vehicle) 、 ZEV (Zero Emission クの排出ガス規制値の比較を示す。2005 年以降は日米欧とも Vehicle) の任意の組み合わせ」にて、車両を販売すること ほぼ同レベルの排出ガス規制値になることがわかる。 を義務付けた規制である。Tier 2 規制では、同様の考え方 を採用し、規制対象ガスを NMOG ではなく、NOxに変更して いる。また、Tier 2 規制への移行をスムーズにするために 0.3 2.3. 欧州の規制動向 欧州では、EU(European Union)を中心に、1970 年に EU 統一自動車指令として排出ガス規制を発布した。図 4 に、 PM (g/kWh) 緩めの暫定規制も平行して設けている。 図 5 に、試験モードは異なるが、日米欧の重量ディーゼ ル車に対する PM と NOx の排出ガス規制値の比較を示す。 日米欧とも PM、NOxとも規制値は近年大きく低下してお 図 6 日米欧の排出ガス規制値の比較(2) JPN'03 0.2 US'98 US'04 0.1 1998 年から 2010 年までの EU の排出ガス規制の推移を示す。 2.4. 日米欧の排出ガス規制値の比較 JPN'98 JPN'05 US'07 EURO4('05) EURO3('00) 0 0 1 EURO5('08) 2 3 4 NOx (g/kWh) 5 6 図 5 日米欧における重量車の PM、NOx規制値の比較 3.排出ガス試験方法の比較 排出ガス試験方法における大きな流れとしては、国連を 主体に世界統一の試験モードを策定しようとしている。こ れは、重量車や乗用車などの各カテゴリー別に検討されて おり、重量車では、WHDC(World-wide harmonised Heavy Duty Certification)の案が提案されている。しかし、現実 はまだ各国で試験モードは異なっており、試験モードが統 一されるには 10 年以上かかることが見込まれる。 日米欧の乗用車や軽量車(Light-duty)の排出ガス試験 図 7 代表的な排出ガス試験装置のレイアウト(3) では、シャシ・ダイナモメーターに車両をセットし、規定 の試験モードを走らせ、その試験期間の排出ガスを測定す る。米国連邦の排出ガス試験装置のレイアウトを図7に示 す。基本的には Light-duty の排出ガス試験はこのような試 験装置で行なわれる。一方、Heavy-duty の排出ガス試験は エンジン単体で行なわれることが通例である。 Light-duty の試験モードパターンの比較を図 8 に示す。 日本では、10・15 モードが使われており、冷間始動には、 11 モードが使われている。今後は、試験モードは過渡モー ドに移行されることが決まっている。欧州では、2000 年以 降の排出ガス規制強化に伴い、試験モードが変更され、 UDC+EUDC モードが制定された。米国連邦では、LA#4 モード が使われている。この LA#4 モードは、都市内走行と高速道 図 8 Light-duty 試験モードの比較 路走行を合わせたモードであり、ロサンゼルスのダウンタ ウンを中心としたルートを、朝の通勤時間帯に実走行した 表1 Light-duty 試験モードの特長比較 パターンである。表 1 に、日米欧の試験モードの特長の比 較を示す。日本の試験モードでは冷間始動用モードと暖機 用モードが分かれているが、欧米では一つのモードで両方 を兼ねている。また、モードの平均車速が日本の場合、欧 米に比べて低く、最高速度も低くなっている。これは各国 テスト前条件 平均車速(km/h) 走行距離(km) モード時間(sec) アイドル時間比率(%) 最高車速(km/h) 11モード 冷機 29.1 4.083 505 25.5 60 日本 10・15モード 暖機 22.7 4.165 660 31.4 70 米国 LA-4 冷機+暖機 31.5 11.99 1372 17.8 91.2 欧州 UDC+EUDC 冷機 33.6 11.013 1180 23.7 120 の使用実態が異なるためと考えられる。 Heavy-duty の試験モードパターンは、日本等で用いられ ている定常モードから構成される試験モードと米国で用い られている過渡試験モード(図 9)に分けられるが、今後は heavy-duty 分野においても試験モードは過渡モードに移行 される。 このように、Light-duty および Heavy-duty の両方の分 野において、試験モードは過渡モードへの移行が進んでい る。これは過渡モードの場合の方が定常モードの場合より リアルワールドに近い排出ガス実態になるためである。 参考文献 (1) 排出ガス・燃費関連「法規制動向」、株式会社デンソ ー出版、2001 (2) 柴田芳昭:JCAP からみた日本の排気規制と大気汚染 防止効果について、国際交通安全学会誌、Vol.29、No.2、 2004 (3) BOSCH、AUTOMOTIVE HANDBOOK、1996 図 9 米国で用いられている過渡モードによる Heavy-duty の試験モード(1)