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国土文化研究所年次報告 - 株式会社建設技術研究所

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国土文化研究所年次報告 - 株式会社建設技術研究所
VOL.11 May. ’13
国土文化研究所年次報告
ANNUAL REPORT OF RESCO
Research Center for Sustainable Communities
はじめに
国土文化研究所長
池田駿介
建設分野の役割は、自然と社会の双方に目を向けながら、豊かな社会を作りあげること
であろう。戦後、土木技術者は先進諸国に比べて圧倒的に不足していた社会インフラを充
実させるために、昼夜を分かたず仕事に邁進した。このような状況では、何をなすべきか
について深く考察する必要性は低く、与えられた目標を実現し、建設する技術を磨き、向
上させればよかった。しかし、社会の要請は時代とともに着実に変化する。
これまで、建設分野において国や企業の研究所は、現場で生じる様々な技術的課題を解
決することが主要な役割であった。しかし、変容する社会においては、何をなすべきかに
ついて常に研究をしておく必要がある。例えば、世界企業である IBM は世界各地に巨大な
研究所を持っているが、その役割は端的に言えば地域のニーズに応じた製品開発を行うこ
とにある。電子産業のように、社会のニーズの変化や新しい技術開発が急速である分野で
は、この方向を見誤るとあっという間に企業は衰退する。そのために、IBM は毎年社員か
ら今後取り組むべき課題について意見を聴取し、自己点検を行って常に進むべき道を見直
しているようである。
社会インフラ整備は、電子産業のように急速な変化はないが、それでも社会は変化して
いる。例えば、1990 年代には治水・利水一辺倒であった河川整備の環境改善に対する要請が
起こり、21 世紀に入ってからは少子高齢化に伴う地域社会の衰退や地球温暖化にともなう
水・土砂災害の激化が現在も進行中であり、現在では、経済発展を支えた膨大な社会インフ
ラの老朽化が解決すべき大きな課題になりつつある。
国土文化研究所は、社会の動向を常に把握しながら、社会資本の整備や保全に関して先
導的な提案を行うために設立され、昨年には 10 年の節目を迎えた。この節目に改めて再点
検を行い、課題抽出が適切であるか、それが適切に現場業務に反映されているか、よりよ
い組織形態は如何にあるべきか、など、このユニークな組織が与えられた重要な役割を十
分に果たすことができるよう、その方向性を模索してみたいと考えている。皆様のご協力・
ご支援をお願いしたい。
さて、Vol.11 では、国土文化研究所や外部との連携で行われた研究の成果が 9 件掲載さ
れている。いずれも研究所員の努力の結晶である。さらなる向上のために、忌憚のないご
意見を頂戴するとともに、これらが適切に活用されることを期待したい。
国土文化研究所年次報告 VOL.11
目
はじめに
May.’13
次
国土文化研究所所長
池田
駿介
1
《研究報告要旨》
《研究概要》
原田
金子
田中
岡田
大堀
松嶋
眞鍋
邦彦
学
文夫
泰祐
勝正
健太
靖司
3
Colloborative research with local governments on resolution of
regional issues
国土文化研究所
〃
〃
〃
〃
東京本社 地球環境センター
大阪本社 計画室
インフラ維持管理の予算配分手法に関する研究
An optimal budgetary allocation model for Road maintenance
demands and The application example
国土文化研究所
〃
大堀
原田
勝正
邦彦
11
コンパクトシティ形成に係わる政策研究
国土文化研究所
東京本社 都市システム部
岡田
土屋
牛来
泰祐
信夫
司
16
観光事業開発研究
Tourist industry research and development
国土文化研究所
〃
東京本社 都市システム部
九州支社 環境・都市室
営業本部事業推進部
国土文化研究所
〃
原田 邦彦
木村 達司
牛来
司
和泉 大作
菅原 浩一
宮 加奈子
田中 文夫
26
水辺からの都市再生を核とするアジアのネットワーク研究
Development of Asian River Restoration Network for Waterfront
and Urban Renaissance
国土文化研究所
〃
和田
木村
彰
達司
35
生態・社会複合文化系の再構築に関する研究
A Study on Socio-Ecological Cultural Complex in Urban Milieu
国土文化研究所
〃
東京本社 環境部
東京本社 都市システム部
東京本社 水システム部
東京工業大学名誉教授
岡村 幸二
木村 達司
稲葉 修一
飯田 哲徳
高橋
孝
中村 良夫
43
地中構造物周辺空洞化に伴うリスク定量評価手法の研究
Research on quantitative risk assessment of the cavity around
underground structure
国土文化研究所
蛯原
53
地域課題の発掘と解決に関する自治体との実証的研究
自治体シンクタンク研究
地方中小都市を対象とした持続可能なまちづくり研究
Research on compact city for sustainable development for Small
ctiy in Japan
雅之
鉄道駅における歴史と現代的な構造
Historical and Modern Structures at the Railway Stations
国土文化研究所
木戸
エバ
63
文化財防災の研究
Study on Technique for Safeguarding Culture assets against
Earthquake fire
大阪本社 地圏環境部砂防室
大阪本社 環境室
山邊
松川
建二
徹
76
注)所属は、平成25年3月現在のものです。
研究報告要旨
地域課題の発掘と解決に関する自治体との実証的研究
自治体シンクタンク研究
Colloborative research with local governments on resolution of regional issues
この研究は,これまでの“与えられたテーマに対するコンサルティング手法”を転換し,“日常の中からの問題の発掘と解
決策の提示”といった“無形的な業務(シンクタンク業務)”に価値が形成されるか,また,それによって成功報酬を受けるよ
うな新たな事業モデルは構築可能かについて模索するものである.本年は,研究条件に適合し,研究合意の取れた2テー
マの実施概要を報告する.
インフラ維持管理の予算配分手法に関する研究
An optimal budgetary allocation model for Road maintenance demands and The application
example
2000 年頃から多くの土木官庁で維持管理予算の削減が行われており,限られた予算の有効活用が重要性を増してい
る.特に,多様な行政需要に直接携わる維持管理部門においては,予算が減少する中で安全性や供用サービスを保持
することが緊急の課題となっている.そのため,これから急増する修繕・更新・廃棄などに対する中長期戦略をふまえたうえ
で,管理地区ごとに異なる行政需要に対して適正な予算配分を実施するための理論的根拠が必要となっている.
本論文では,こうした課題を総合的に解決するため,行政需要を定量的に評価し,出先機関への予算配分を中長期と
短期の 2 段階で最適配分する手法を提案した.さらに,考察した手法の適用例を報告する.
コンパクトシティ形成に係わる政策研究
地方中小都市を対象とした持続可能なまちづくり研究
Research on compact city for sustainable development for Small ctiy in Japan
わが国は国際的にも突出した高齢化社会を向かえ,環境問題への対応とともに,持続可能な地域社会のあり方の検討
が大きな課題となっている.こうした問題を解決するひとつの解としてコンパクトシティの議論が進んできているところである
が,時間をかけ形成されてきた都市構造を改変する取り組みは非常に難易度が高く,その具体化が課題となっている.
こうした状況を鑑み,本論文では事例や政策研究等を通じ,クラスター型のコンパクトシティを現実的なコンパクトシティ
の都市構造と捉え,拠点やその他地域のあり方を考えるなどにより実現性を高めるための課題や検討の方向性を明確にし,
今後さらに研究を深めるべき重点ポイントについて報告を行う.
観光事業開発研究
Tourist industry research and development
我が国の次代の施策として最も注目を集めている「観光立国」については、国の重点施策にあげられ、省庁横断で様々
な事業が計画されている.当社でも、これまで新しく観光事業を立ち上げるべく試行錯誤が繰り返され、一部は地方自治
体の観光政策立案事業として具体化してきた.
本研究では、当社が得意とするインフラへのハード的な知見をはじめ、別途研究の進められてきている日本橋再生研究
での観光集客事業の取り組み成果等の知見をもとに、地域経済再生、地域活性化の実現に資する観光政策提案の事業
スキームを構築し、社会資本の意義と等しく感じられるような観光振興検討のガイドチャートを作成する.
水辺からの都市再生を核とするアジアのネットワーク研究
Development of Asian River Restoration Network for Waterfront and Urban Renaissance
本稿では,当社が公益財団法人リバーフロント研究所とともに共同運営する「アジア河川・流域再生ネットワーク
(ARRN)」及び「日本河川・流域再生ネットワーク(JRRN)」の2012年の活動成果を報告する.また,これら国内外ネットワー
クが,日本を含むアジアの河川再生に関わる知見の流通・普及のための新たな仕組みとして持続的に発展するための
道筋を示す.
1
生態・社会複合文化系の再構築に関する研究
A Study on Socio-Ecological Cultural Complex in Urban Milieu
本研究は,都市化の進展とともに我々の生活から自然がより遠い存在となってきていることを踏まえ,「自然(生態系)」と
「コミュニティ(社会)」の垣根を取り払って,複合文化系の再構築を図るための方策を提案するものである.その中で都市
のあるべき姿(生態・社会複合文化系と仮称)の概念を明らかにし,今後のまちづくりのなかで生態・社会複合文化系の再
構築をすすめていくための課題を整理する.かつて日本の都市は毛細血管のような細い遣り水に貫かれた山水の場であ
ったが,都市化の進展とともに失われていった.日本ではこれまで伝統的に“風土”と呼ばれているもの,すなわち「自然
(生態系)」と「コミュニティ(社会)」の垣根を取り払った生態・社会複合文化系の概念化を試みた.また、生態・社会複合文
化系の再構築に向けた提案を行った.
地中構造物周辺空洞化に伴うリスク定量評価手法の研究
Research on quantitative risk assessment of the cavity around underground structure
道路陥没や河川堤防の浸透破壊等を引き起こす要因として,地下水・浸透水等の水際に位置する地中構造物周辺で
生じる地盤中の空洞が挙げられ,空洞発生・拡大メカニズムや周辺影響について,多くの実験的研究が報告されている.
しかしながら,これらの因果関係や空洞化のメカニズム・リスクを定量的に分析する手法は整備されていない.そこで,構造
物や空洞を考慮した数値流動解析モデルの開発・検証を行い,これを河川分野(堤防・樋門等の安全性照査)へ適用す
る試みとして「樋管部・弱堤部等における照査手法の試行検討」「質的許容外水位の縦断分布評価手法の試行検討」を行
ったものである.
鉄道駅における歴史と現代的な構造
Historical and Modern Structures at the Railway Stations
Since 1980s, railway architecture has been experiencing “station renaissance”. Along with this trend, many historical
stations have been refurbished, upgraded and developed. Modern extensions need careful considerations of historical
heritage and its settings. Successful renovations add additional values of modernity and attractiveness to railway stations.
This paper examines refurbished stations on the example of Europe and Japan and concludes that these transport facilities
with their re-born buildings improving travel by rail, are the new-generation stations that play important role as
transportation hubs and urban nodes, and for their visual qualities they are often urban landmarks.
文化財防災の研究
Study on Technique for Safeguarding Culture assets against Earthquake fire
我が国では、近年大規模な地震により、甚大な被害を受けており、津波や地震火災等により、多くの文化財についても
損傷を受けている。京都では、世界遺産をはじめ、多くの文化財を有しており、地震火災から文化財の焼失を防ぐことが文
化財防災のひとつのテーマとなっている。
本論文は,地震火災から文化財を守るための取り組みとして、当社が事務局を行っている「地震火災から文化財を守る
協議会」の取り組みを紹介したものである。
2
地域課題の発掘と解決に関する自治体との
実証的研究
自治体シンクタンク研究
原田邦彦1・金子学1・ 田中文夫1・ 岡田泰祐1・
大堀勝正1・松嶋健太2・眞鍋靖司3
1株式会社建設技術研究所
2株式会社建設技術研究所
国土文化研究所(〒103-0013 東京都中央区日本橋人形町2-15-1)
E-mail: m-kaneko@ctie.co.jp
東京本社地球環境センター(〒103-8430 東京都中央区日本橋浜町3-21-1)
E-mail: matsushima@ctie.co.jp
3株式会社建設技術研究所
大阪本社計画室(〒541-0045大阪府大阪市中央区道修町1-6-7)
E-mail: manabe@ctie.co.jp
この研究は,これまでの“与えられたテーマに対するコンサルティング手法”を転換し,“日常の中から
の問題の発掘と解決策の提示”といった“無形的な業務(シンクタンク業務)”に価値が形成されるか,ま
た,それによって成功報酬を受けるような新たな事業モデルは構築可能かについて模索するものである.本
年は,研究条件に適合し,研究合意の取れた2テーマの実施概要を報告する.
Key Words : New municipality, Smart shrink, Administrative costs, CO2 reduction
1. 研究背景
後の自治体ビジネスへのアプローチ方法を検討すること
を第1の目的とする.
そして,技術的なノウハウを提供するだけでなく,
自治体職員の視点に立った課題発見や解決策模索の道筋
のアドバイス等を常時実施しながら,結果として政策評
価を高めることによって,成功時報酬を受けるような業
務モデル構築の可能性を摸索することを第2の目的とす
る.
更に,これらのOJTを通じて担当する当社職員のシン
クタンク的業務へのスキルを身につけることを第3の目
的とする.
(1) 新たな地域づくりの視点
近年の財源不足に加え,地域問題の多様化・複雑化
により既存の縦割り型の行政運営では解決できない課題
が増加している.一方で,地域課題を解決するためには
行政と住民双方の意識変容や協働が不可欠であり,多様
な問題に対する新たな地域づくりの視点が必要になって
いる.
(2) 新たなビジネス開発の視点
これまで我が社は,委託側(各事業課)の動機と,
既に「焦点化された問題」及び「解決策」等の提案を行
うコンサルティング手法であったため,どれだけ頑張っ
ても事業課から見た課題解決で終わってしまっていたと
言える.しかし,上記のような新たな地域づくりの視点
に対応するためには,分野横断の視点から問題を解決す
るようなビジネスモデルを開発する必要がある.
3.基本となる研究方法
本研究は,行政運営に関する課題を抱えていると思
われる地方自治体にアプローチし,自治体の検討組織
(プロジェクト)への参画、あるいは自治体担当者との
定期協議(供与資料等に基づくヒアリングや討議を含
む)等のプロセス(共同研究)を通じて研究の推進を図
る.
2. 研究目的
これらを背景として,本研究では自治体が抱える問
題に直に触れ,自治体職員との作業や議論を通じて,今
3
内部の予算や組織編成の基礎資料として用いられること
が多い.特に昨今では、厳しい財政状況の中で全体コス
(1) 研究プロジェクトⅠ:Y市における社会資本の提供
トを引き下げることを目的に行政評価を導入する自治体
費用(行政コスト)に関する調査研究
が増加しており、また、より中立的な立場で事務事業の
a) 研究の概要
評価を行う事業仕分けも注目を集めている.
1)研究の背景と目的
今後ますます行政の予算執行が困難を極めることが
我が国の人口減少と少子高齢化の進展は、財政制約
予想される中、従来通りの施策または事業間の優先度、
のさらなる厳しさと高齢者福祉(社会保障費)の増大を
重要度の評価だけでは、地域の実態に即したきめ細やか
促し、行政の予算執行は困難を極めている.特に、市町
村合併等により大きく広がった市域を持つ地方都市では、 な事業執行を実現することは不可能であると考える.
例えば、事業の効率性や困難さは地域によって異な
行政サービスの公平性の担保が難しくなっている.それ
るが、住民が享受する行政サービスを同じとする場合、
らを抜本的に解決するための手段として、国は集約型都
市構造(コンパクトシティ)への転換を提唱しているが、 本来、地域によって行政サービスにかかる費用は異なる
はずだが、実際には事業者による企業努力などで相殺さ
都市構造の転換そのものは一朝一夕にできるものではな
れていることが多い.これは、一見、行政コストを削減
く、現実的には現状の都市構造の中で予算の再配分や削
しているように見えるかもしれないが、その実、事業者
減、費用対効果の検証を行うことによる行政サービスコ
による委託費の過大請求や、この請求が通らない場合、
ストの削減にとどまっている.
行政サービスの低下につながる可能性も秘めている.
本研究では、立地環境や社会動態によって“差”が
よって、コンパクトシティを支える持続可能な社会
発生することが予想される地域別の行政サービスコスト
資本整備を実現していくためには、同じ事業において、
の明確化を図ることにより、地方都市において開発や縮
地域間での事業費の評価を行い、地域の実情に応じた事
退が位置づけられる地域における行政サービスの実態把
業内容や事業レベルを変更する等の工夫が必要となる.
握、また、集約型都市構造への転換の効果分析などに寄
そのためには、地域別の行政サービスのコストを正確に
与することを目的とする.また、分析対象地域としてY
把握することが重要になる.
市においてモデル地域(中心市街地、郊外市街地、谷戸
地域)を選定し、各地域における社会資本の整備・維持
c) 地域差が出そうな事務事業の考え方
にかかる行政コストの算出に必要な統計データの整理、
1)地域差の発生要因の整理
算定式の検討等について調査研究を行う.
行政サービスの提供にかかるコストは、地域のさまざ
2)研究のフロー
まな特性によってに“差”が発生すると予想される.こ
れは行政サービスを提供する地域の人口、世帯密度、道
1.地域別行政コスト算定の必要性
路、地形、行政サービス提供の際の移動距離の違いによ
・行政評価の概要
既往研究の分析
・事務事業の地域評価について
り、行政サービスを提供する人数や作業時間、効率性等
に差が生じ、それがコスト差となってあらわれるからで
2.地域差が出そうな事務事業の考え方
ある.ただし、高齢者や障害者、子供といった人の属性
・地域差の発生要因の分析
は、地域性との相関がはかりにくいため、行政サービス
・地域差が出そうな事務事業の考え方の整理
コストの地域差の発生要因とはなりにくいと考える.
4.プロジェクトの実施
平成 年~ 年
2
2
3
2
表-1 地域差の発生要因と影響する行政サービス
地域差の発生要因
内容
影響するサービス
施設の運営管理
人数
施設の整備
人口
密度
施設の整備
社会的
特性
戸数
訪問作業(時間)
世帯
訪問作業
密度
(効率性)
地理的
地域の
移動距離
訪問作業(時間)
特性
位置
狭あい道路
訪問作業(困難性)
(大型車通行不可)
工事作業
道路
救急活動
地形的
接道なし
福祉活動
特性
(階段のみ)
崩落対策
危険箇所
急傾斜地
転落防止
行政ヒアリングの
実施
平成 年
4.地域別コストの算定手法の検討
必要データの収集
・算定手法の検討
・対象地域における行政コストの算定
4
2
3.事務事業の仕分けと選定
・当初予算説明資料における
事務事業の仕分け
・地域差が出そうな事務事業の選定
5.研究成果のとりまとめ
図-1 研究のフロー
b) 地域別行政コスト算定の必要性
行政活動は主に政策-施策-事務事業の3階層に分け
られるが、それぞれに評価制度も存在する.個々の行政
評価は政策判断や施策の進行管理に活用されたり、行政
4
2)地域差が出そうな事務事業の考え方の整理
地域差の発生要因と考えられる地域特性と、影響しそ
うな公共サービスの関係性から、地域差が出そうな事務
事業の考え方を以下のように整理できる.
A.施設整備管理型事業
人口や世帯密度の違う場合、全市民に原則共通のサー
ビスを提供するような施設の整備や管理運営型事業等で、
一人当たりもしくは一戸当たりの行政コストに差が生じ
る可能性がある.
B.現場対応型事業
道路が狭い、急傾斜地がある等、地形に差がある場合、
その地形に特別に対応するための事業や、その地形によ
り作業が上乗せされるような事業で、行政コストが他の
地域より高くなる可能性がある.
C.訪問巡回型事業
行政サービスの拠点から離れている等の地理的に差が
ある場合、その距離を行政側が移動することで担保する
ような事業で、行政コストに差が生じる可能性がある.
d) 事務事業の仕分けと選定
1)分析対象の範囲や条件の整理
①予算関係資料を使用
社会資本サービスの費用の算定には、Y市の「平成22
年度予算関係資料(2010年度)」の各部署の本年度予算
額を使用した.
②国費や県費は考慮しない
社会資本の整備や維持費に関しては、当然市の財源だ
けでは賄えないため、国庫補助金や県補助金等が投入さ
れているが、本研究では、これらの補助金等は、全て市
の支出に含まれるものとした.
③個人が享受する社会資本サービスは同等
本研究においては、社会資本サービスを享受する個人
においては、地域によるサービス水準の差はないことを
前提とする.
④現時点の社会資本サービスの費用を算定
社会資本サービスの運営や管理は、将来にわたって継
続的に行われるものである.本研究では、将来の社会資
本サービスの費用を推計するものではなく、現在の費用
をできる限り正確に算定することとした.
2)地域差が出そうな事務事業の選定
地域でコスト差が出そうな事務事業の考え方やY市の
関係部署ヒアリングの結果を踏まえ、地域でコストに差
が出そうな事務事業の選定を行った.選定された事務事
業については、事業名、事業費(予算額)、事業の概要、
事業の委託の有無、地域差の発生要因について「地域で
コスト差が出そうな事務事業整理シート」に整理した
(表-2参照).
5
e) 地域別行政コストの算定手法の検討
1)算定対象事業の抽出
本研究では、地域差が出そうな事務事業の中で、以
下の条件に該当する事務事業を、地域別行政コストの算
定対象とする.
●行政コストの地域差が明確に出ると思われる事務事業
●地域別行政コストの算定が容易な事務事業
●地域別行政コストの代表的な算定手法例となる事務事
業
●事業費の額が大きく、地域別行政コスト算定の事業評
価の効果が大きい事務事業
2)算定手法の検討
①街路防犯灯等管理事業
算定にあたっては、対象地域の街路防犯灯の数、設置
及び管理の原単位、人口から、1人あたりの管理費を算
定する。街路灯の設置費用と管理費用の原単位について
は、1基あたりの設置コストと電気代を実績ベースで設
定する.
算定の結果、1人あたりの防犯灯の管理費は、人口密
度の低い谷戸地域では6,300円~10,900円となり、人口
密度の高い中心市街地では20円~1,400円となった.郊
外住宅地域では3,700円~4,300円となり,1人あたりの
防犯灯の管理費が最も高いのは谷戸地域、次いで郊外住
宅地域、最も安いのは中心市街地となった.
対象地域の住民 1 人あたりの防犯灯管理費(円/人)
Dn=
Gn
×E
Pn
Gn:対象地域の防犯灯の設置数(基)
Pn:対象地域の人口(人)
E :防犯灯の管理原単位(円/基)
n:対象地域
②学校施設維持管理費(小学校)
算定にあたっては、各学校施設の維持管理費用と敷
地面積から、1㎡あたりの維持管理費用を算定する。通
学区域の人口、面積に対する対象地域の割合から、対象
地域に相当する児童数と敷地面積を算定し、対象地域の
児童1人あたりの学校敷地面積を算定する.1㎡あたり
の維持管理費用と、対象地域の児童1人あたりの学校敷
地面積から、対象地域の児童1人あたりの維持管理費費
用を算定する.
算定の結果、児童1人あたりの学校施設維持管理費は、
谷戸地域の児童は73,000円~77,000円、中心市街地の児
童は4,000円~11,000円、郊外住宅地域の児童は25,000円
となり、児童1人あたりの維持管理費が最も高いのは谷
戸地域、次いで郊外住宅地域、最も安いのは中心市街地
となった.
表-2 地域でコスト差が出そうな事務事業整理シート
事業名
(主に細事業名)
年間
事業費 事業の対象は
(百万円) 誰(何)?
街路防犯灯等管
理事業
142
搬送サービス事
業(特別会計介
護保険費繰出
金)
ホームヘルプサ
ービス事業(自
律支援給付費)
29.6
自宅が高台
にあり通院
が困難な人
418
家族のいな
い障害者
道路橋りょう維
持修繕事業
ごみ収集直営事
業
1,084
市内全域の
道路
世帯(南)
76,895 戸
学校施設維持管
理費(小学校)
713
小学校
配水管、配水池
等の修繕費等維
持管理費
配水施設整備事
業費(配水管更
新整備)
給水管修繕、メ
ーター交換等の
維持管理費
194
配水管と配
水池
1,379
417
救命支援出動
(人件費)
44
4,689
防犯灯
25m間隔
事務事業の概要
事業の
受益者は 受益者をどんな
委託
誰?
状態にしたい?
設 置 と 電 気 市民
不安を取り
代の支払い
除いてもら
う
自 宅 か ら 移 自宅が高 負 担 を 軽 減
動 車 両 ま で 台 に あ り してもらう
の搬送
通院が困
難な人
家 事 の 手 伝 家族のい 負 担 を 軽 減
○
い
な い 障 害 してもらう
移動は
者
事業者
負担
舗装の補修、 周辺住民
快適に通行
排水の整備
してもらう
ごみ収集
対象地域 快 適 に 暮 ら
の住民
してもらう
光熱費、水道
代等の維持
管理
修繕等の維
持管理
児童
通ってもら
う
市民
快適に暮ら
してもらう
配水管とポ
ンプ設備
更新
市民
快適に暮ら
してもらう
給水管とメ
ーター
給水管の修
繕と、メータ
ーの購入・設
置、交換等
活動のサポ
ート・支援
事業対象
の家の住
民
救急、消防
活動
救急、消
防活動を
受ける住
民
安心しても
らう
世帯(世帯少な
い=1 戸当たり
管理費大)
地形(高台=搬
送費大)
距離(遠い=移
動費大)
地形(谷戸=狭
隘道路多い)
距離(遠い=移
動費大)
世帯(世帯多い
=回収時間大)
人口(児童少な
い=1 人あたり
管理費大)
人口(人口少な
い=1 人当たり
管理費大)
人口(人口少な
い=1 人当たり
の更新費大)
地形(谷戸=工
事費大)
地形(谷戸=支
援出動費大)
対象地域の1人あたりの配水池等の修繕費等維持管理費(円/人)
小学校の敷地面積あたりの維持管理費用(円/㎡)
Em=Mm/Dm
対象地域の児童1人あたりの維持管理費用(円/人)
En=Em×
地域差の
発生要因
何を実施?
Dn=
Cm(Hn/Hm)
Pn
Dm(An/Am)
Hn:対象地域の世帯数(戸)
Sm(Pn/Pm)
Hm:配水池の給水世帯数(戸)
Cm:配水池等の修繕等維持管理費(円/箇所)
Mm:小学校の維持管理費用(円)
Pn:対象地域の人口(人)
Dm:小学校の敷地面積(㎡)
n:対象地域
Sm:小学校の児童数(人)
m:配水池
Pm:通学区域の人口(人)
④道路橋りょう維持修繕事業
算定にあたっては、道路橋りょうの維持修繕の事業量
を表現する代替指標として1人あたりの市道延長(以下、
道路密度)を用いる。この道路密度をもとに地域別の維
持修繕費原単位を配分し、対象地域の1人あたりの道路
橋りょう維持修繕費用を算定する。なお、維持修繕費原
単位については、Y市の積算歩掛りと請負業者による実
績ベースの事業費から算定する。
Pn:対象地域の人口(人)
Am:通学区域の面積(㎡)
An:対象地域の面積(㎡)
m:小学校
n:対象地域
③配水管、配水池等の修繕費等維持管理費
算定にあたっては、配水池が受け持つ給水世帯数に対
する対象地域の世帯数の割合から、対象地域に相当する
配水池、配水管等の修繕費等維持管理費を算定する.そ
れを対象地域の人口で除することにより対象地域の1人
あたりの配水池等の修繕費等維持管理費を算定する.
対象地域の1人あたりの道路橋りょう維持修繕費(円/人)
Dm=Cm×
Lm
Pm
Lm:対象地域の市道延長(m)
Pm:対象地域の人口(人)
Cm:対象地域の維持修繕費原単位(円/m)
m:対象地域
6
時間等から原単位を算定する必要があるが、特に委
託事業の場合、実際の動き方を行政も把握しきれて
おらず、算定が非常に困難であることが判明した.
4)また、関係課ヒアリングを行ったことによって、行
政のさまざまな分野の事務事業の内容に触れること
ができたのが最大の成果であり、今後の自治体向け
シンクタンク研究における横断的で効率的な見地に
立った政策検討に活かしていきたい.
3)算定手法の課題
今回、提案した算定手法について、現時点での問題点
や課題を表-3に整理する.
街路防犯灯
等管理事業
学校施設
維持管理費
(小学校)
配水管、配
水池等の修
繕費等維持
管理費
道路橋りょ
う維持修繕
事業
ごみ収集
直営事業
表-3 算定手法の課題
本研究で算定対象とする街路防犯灯は1
種類としているが、実際には、電圧の違い
など複数の街路防犯灯があり、それぞれ電
気代や設置費用が異なる.地域の特性に合
わせている可能性もあり、それを算定式に
どう加味していくかが課題である.
本研究では、3つのモデル地域それぞれ
1~2校の小学校を対象に算定を行った.
今後、算定式の精度を高めていくために
も、入手しているY市内の全小学校での算
定を行っていく必要がある.
本研究では、各配水池の維持管理費が入
手できなかったため、具体的な算定ができ
なかった.今後汎用性の高い算定式とする
ためには、入手可能なデータによる算定式
の検討が必要である.
本研究では、道路の延長=維持修繕量と
し、算定式を作成したが、この事業は劣
化、損傷した箇所等に対する事業であり、
立地環境や交通量等によってその事業内容
が異なる可能性がある.今後、維持修繕内
容を精査し、それぞれの修繕項目と道路環
境との相関を計りながら、維持修繕原単位
を作成する必要がある.
本研究では、具体的な算定式を示すこと
ができなかった.今後、モデル地域におけ
るごみ収集の実績データを分析し、移動距
離や時間から、ごみ収集にかかる事業費原
単位を作成していく必要がある.
(2) 研究プロジェクトⅡ:東京都八王子市における「低
炭素型社会づくりに向けた取組普及促進手法」に関する
調査研究
a) 研究の背景と経緯
地球温暖化の防止に向けて,1992 (平成4)年に国際連
合で「気候変動に関する国際連合枠組条約」が採択され,
1997 (平成9)年には第3回締約国会議において先進国に
ついて排出削減のための数値目標などを定めた「京都議
定書」が採択されるなど,世界各国で二酸化炭素排出量
削減のための具体的な取り組みが進められている.
わが国においては,地球温暖化対策推進法(1998 (平
成10)年施行)が地球温暖化対策の基本法律となってお
り,その第20 条において,京都議定書目標達成計画を
勘案し,自然的・社会的条件に応じて行政区域内におけ
る全ての人為的な活動に伴う温室効果ガスの排出を抑制
するなどの目的のため,すべての自治体に総合的かつ計
画的な施策として「地域推進計画」を策定,実施するよ
うに求めている.
この法律に基づき,各自治体においては地球温暖化
対策地域推進計画を策定し,低炭素社会の実現に向けて
様々な取り組みを推進してきているところではあるが,
特に民生部門におけるCO2排出量の低減は,技術革新に
頼るもののみならず,環境問題等へ関心の薄い個人を含
めた国民のライフスタイルに働きかけ,暮らしや就業の
中で少しづつ変容を促し,着実に実行移すことが課題と
なっている.
自治体シンクタンク研究とは,こうした行政が実施
する定型業務では十分に処理できない自治体経営上の課
題をテーマとし,自治体職員や関係者などとともに調
査・研究することで,今後の新たな自治体支援のビジネ
スモデルの構築を目指している.
b) 研究目的
昨今、行政が策定する計画において市民との協働の
位置づけのない計画はほぼないと言って過言ではない.
しかしながら専門的知識を持たない市民にとって具体的
に対処できることは限られ,目的とする活動のモチベー
ションの持続や活動の発展に課題が生じる.また,計画
内に推進の体制や進め方を如何に詳細に記述しても,推
f) 結論
本研究では、Y市の平成 22 年度予算関係資料の事務
事業に関して、関係課のヒアリングを通して事業内容を
把握し、地域差の出そうな事務事業について、地域別の
行政コストの算定手法を検討したものである.
これにより得られた成果は以下の通りである.
1)本研究では「街路防犯灯の維持管理費」、「小学校
の維持管理費」の2つの事業で作成した算定式によ
り、人口密度の違う地域で行政コストに差が発生し
た.この算定式の考え方をベースにすれば、施設整
備管理型の事業については、比較的容易に算定式を
作成できると考えられる.
2)ただし、算定手法を作成するにあたって、事業の原
単位を入手できる、あるいは算定できるかどうかは
重要なポイントであり、算定方法が妥当でも、原単
位の入手が困難なものは、汎用性の面からも再検討
となる可能性が高いことも判明した.
3)一方、ごみ収集事業に見られるような、訪問巡回型
事業については、サービス拠点から派遣世帯までの
実際の動きをシナリオ的に分析し、その移動距離や
7
進過程にある地域の実情にあったものでなければ絵に描
いた餅になる部分も出てくる可能性が高い.
本研究においては,2010 (平成 22) 年 3 月に「地球温
暖化対策地域推進計画」を策定した東京都八王子市を研
究フィールドに,行政とともに地球温暖化防止に向けた
取り組みの協働推進組織として計画内で位置づけられて
いる「八王子市地球温暖化防止センター(以下:センタ
ー)」の運営委員会に参画し,計画が実行に移るプロセ
スの中における推進の課題を観察的に発掘することや,
計画の作りっ放しではなく計画推進にあたりフォローア
ップを期待されている事項等を整理し,今後の様々な行
政計画推進における自治体シンクタンクのビジネスモデ
ル構築に向け重視すべき着眼点等を整理することを目的
とした.
c) 実施方法
1)実施方法とスケジュール
共同研究は,図-2 に示すフローの通り八王子市環境
部環境政策課と建設技術研究所 国土文化研究所とで覚
書きを締結しスタートした.
【平成 22~23年】
現況調査,課題整理:八王子市の現況把握等
事例を介した課題の考察と対応方策(案)の提案
調査計画・実施
・運営委員会への参画により調査結果等を収集、分析
・社内調査による低炭素化の取り組み推進課題等の把握
啓発活動における課題
・広報手段の課題、インセンティブの課題 を整理
【平成 24 年】
・運営委員会へのオブザーバー参加による意見交換
・観察的な推進課題の発掘(検討体制面、施策の実行面)
研究成果のまとめ
・自治体シンクタンク研究(共同研究手法)の課題等の考察
図-2 研究フロー
その後,市民の中で取り組みに非協力的な無関心層
へ如何に働きかけるかが重要な推進課題であることから,
行政との役割分担の中で主に啓発活動を実施している温
暖化防止運営委員会にオブザーバー参加し,事務局等と
の意見交換などを行いながら進める方法に転換し,共同
研究最終年の本年も同様の方法で進めてきた.
ただし,本研究の着手時には,低炭素化に係わる施
策の実現性・実効性の高い方法を市民の具体的な係わり
を含めて見出すことが重要なテーマであったが,研究過
程において原子力発電所の稼働がほぼ停止し,CO2 排出
原単位が大きく変わったことから真の意味で低炭素化に
どれほどの効果があったかを必ずしも捉えた研究ではな
く,市民1人ひとりの節電への取り組み意識の醸成など
をはじめ、義務的に対策を必要としない小規模事業者な
8
ど市民総力で取り組んでいくために如何に効果的な啓発
ができるかなど主とする活動の中で進めてきたものであ
ることを断り書きとして加えさせて頂く.
2) これまでの研究成果
初年度の研究では,地球温暖化防止の取り組みが全
国的に広がらない原因を 1)環境への関心や意識の低さ,
2) 実践移行期の知識・ノウハウ不足,3) 資金面の不安,
4) インフラ等の環境整備の不足 を主な原因と考察し,
さらに普及・啓発活動の推進の手法として重要な点を
「参加のきっかけづくり」や「効果的かつ継続的な啓発
手法」等を整理した.
昨年度の研究では,初年度の手法の検討結果を踏ま
え,社内調査によって関心の薄い層へも一歩踏み込んだ
調査できっかけづくりを与えることが実際に満足度の高
い結果につながることが検証できた.さらにインセンテ
ィブの有効な使い方について施策推進の検討余地がある
ことを課題として整理した.
また,市民意識の醸成の程度や行動変容の状況を捉
えることが今後,的確な広報活動へ注力でき取り組みの
普及促進ににつながると考えたが,住民と直接接する自
治会の調査負荷が大きく,運営委員会の活動としては,
当面PDCAサイクルのD(啓発)を様ざまな手段で地
道に発信し,環境学習会への参加者数や家庭のエコ診断
調査の参加者数などの量的目標の達成を図らざるを得な
いと状況を把握できた.
d) 運営委員会への参画結果
1)地球温暖化防止センター運営委員会概要
八王子市は、「八王子市地球温暖化対策地域推進計
画」において、CO2 排出量の削減目標を「2019 (平成 31)
年度の CO2 排出量を 2000 (平成 12) 年度比で、人口一人
あたり 25%削減、総排出量 18%削減」と定めた。
この目標を達成するための支援組織として、市民・
事業者・市が連携し、様々な分野の人材、ノウハウ等が
集積する「温暖化防止センター」が設立された。
図-3 温暖化防止センターの概要
なく一旦,自治会で調査票を収集するプロセスに抵
2)センターの事業展開
2
抗がありインセンティブ破棄(調査意義には賛同し
CO 排出量の多い家庭・事業者・運輸の3部門について、
て調査票は記入するが,住所を記入せず応募は控え
それぞれ家庭部会・事業者部会・交通部会を設置し、各
る状況)の動きがあった.
分野の委員の母体を中心にCO2削減に向けた取り組みを
●結果,用意した景品等は,自治会単位で優秀な自治会
実施しはじめている.
表-4 平成 24 年度 温暖化防止センター事業方針
へインセンティブとして付与される結果となったと
1.運営委員会
のことであった.
委員会開催:6 回/年(奇数月)
三部会開催:各部会 6 回/年(偶数月)
●一方,意識の高い市民が応募するグリーンカーテンコ
○啓発事業(イベント開催)
:集客 200 人規模、2 回以上/年
・みどり東京温暖化防止プロジェクト市町村助成金により別途啓発イベント
ンテストでは,緑被率的な緑の総量を評価基準とす
を開催(600 人規模程度)
・啓発事業(講座・教室):20 回以上/年(各部会実施除く)
るのではなく,小さい面積でも頑張っていることが
○若者参加の環境活動推進の仕組み検討・確立
○細部活動推進:各部会に合った活動推進
評価される基準づくりが課題とされた.
○各事業者、各団体等の CO2 削減の取り組みと成果報告
2.各部会の活動
●また,広報啓発による市民の意識醸成の段階からより
①家庭部会
○家庭の省エネチャレンジの実施(節電中心。年間省エネチャレンジ家庭増へ)
具体的に市民が取り組める内容へとステップアップ
目標:100町会、自治会への要請
実施期間:夏の実施 7~9 月 冬の実施 12~2 月
する要望が意識の高い市民から意見が挙がったり,
実施対象:町会自治会連合会を通して町会単位で実施
(市民センターを拠点とする地域住民協議会にも協力を仰ぐ)
上映会などの環境学習会の感想にターゲットを誰に
指導員養成:(節電及び省エネ等)現在 9 人→20 人程度
啓発事業:各地域の町会・自治会・小・中学校にて、身近な講座等開催。20 回
据えているものかという意見が見られたことからは,
程度
(エコドライブ、自転車、徒歩等を推奨活動)
1つのツールで 参加市民の全てが満足する広報啓
②事業者部会
・大規模事業者の共通出来る省エネ施策(従業員対策等)検討
発を行うことは難しく,逆に市民側が案内された調
・中小事業者へは、自社のエネルギー使用状況(工程毎等)調査・把握。
(法人会、商工会議所加入事業者)
査や環境学習会がどのレベルのもので,自分にあっ
・中小事業者への改善アドバイスシステムの構築
(大規模事業者の人材活用により)
たものかどうかを選択できる仕組みが課題として確
③交通部会
・従業員向けの啓発取り組みの検討(講座・教室等)
認された(これは,昨年度の社内調査の被験者の感
・トラック業界へのCO2削減アンケート実施(70社対象)
・各業界内のCO2削減・取り組み検討
想と類似している).
(出所):温暖化防止センター委員会資料
e) 研究成果総括・今後の課題
3)委員会参画による推進課題等の把握
本年の研究にて把握した課題を含め,八王子市にお
【運営体制上の課題】
ける3ヶ年の自治体シンクタンク研究を総括する.
推進の運営体制面の課題の主な意見としては,
1) 実行性の高い計画策定に関する知見の蓄積
・ 運営委員会の委員は,専門的知識のないメンバーで
達成の程度は,市や運営委員会の働きによるところ
構成されているため,推進計画と活動との乖離が生
大きいが,弊社で策定した推進計画は,行政,企業,市
じていないかの懸念(市・運営委員)
民それぞれの立場で何をすべきかを具体的に記載してあ
・ 1年目は委員会立上げの年で,体制の構築を主とし
ることが実行に円滑に推移するための重要なポイントで
ていたため,2ヶ年目の取り組み実践の段階におい
あったと考えられる.
て専門家の助言を期待(市・事務局)
推進計画を再度,概観しても運営側が気に留めるほ
・ 運営委員会からの自治会や委員への押し付け的な取
どの実行との大きな乖離や矛盾はない.ただし,本研究
り組みではなく,自主的な活動推進によるボトムア
では対象としなかった定量的に低炭素へ向かっているか
ップ型の地域総力の向上が課題(事務局)
どうかについては,専門的な調査分析を必要とする部分
・ 運営委員会委員から,参加することでのメリットあ
であり,市民等のやる気と行動が如何に効果に結びつい
ると参加意欲が湧くという意見が多々ある.活動の
ているかを分かり易く示しながら参画委員や市民のモチ
自主性を重んじる委員との温度差の解消も課題(事
ベーションを保つ観点での計画推進のフォローにシンク
務局)
タンク的役割(専門的アドバイザリー)のニーズがある
などが挙げられた。
と考えられる.
【各種施策の実行面での課題】
2) 共同研究方法の検証
また,個別の取り組みの実行における課題としては,
共同研究として一定に相互の利益につながることを
昨年の研究においては有用性が認められたインセンティ
目指しながら進めることができたと考えるが,行政計画
ブの適用に際して留意すべき以下の新たな課題が発見で
の推進における課題(内情)を十分に把握するところま
きた.
で十分に踏み込んでいけなかった課題が残る.
●自治会を通じ節電に参加してもらい達成量を記入しプ
その理由としては,①我々が目指した実行性の強化
レゼントに応募する取り組みに対しては,参加市民
の対象を無関心・非協力的市民の改善においた為,取り
の過剰な個人情報の保護意識からか直接の応募では
9
そらく難しいと考えられる.
研究によってもたらされる社内利益を受託に限定せ
ず新たな知見や技術の習熟に置き換えると,運営委員会
には供給事業者や大学コンソーシアム,商工会等の通常
の業務では接する機会の少ない多様な主体が参画してい
ることから,まだ,十分に委員相互の参加が持つネット
ワークやスキルのシナジーが発揮されていない点の解消
などに研究視点を置き,行政計画を地域側から支援する
技術を研究によって蓄積していくことに関して,今後の
技術領域拡大や研究の発展可能性があると捉えている.
組み促進手法としては啓発の関係が主に関係することと
なったが,行政と運営委員会の役割を試行錯誤しながら
進められてきた中で啓発に関しては行政の比重が軽くな
ってきたこと,②予め決めたことを調査・研究・分析す
るという通常業務のスタイルではなく,継続した関与の
中で課題発見と助言,調査試行,分析することを目指し
たが,事務局の所管業務量や自治会への負担の観点から
フレキシブルな調査導入が難しかったこと,③ 計画策
定企業の CSR 的な立場としての使命や新領域分野におけ
る派生的な行政課題の把握という営業的見地からは,計
画推進のフォローアップとして無償で実施する共同研究
という事業スキームは手法として導入意義が高いと考え
るが,受委託業務の延長で共同研究をスタートすると相
互の利益を目指すという研究理念や方法,双方の利益と
しての期待等をすり合わせるための時間を要するといっ
た課題もある.
3) 研究としての発展可能性
運営委員会は,八王子市から環境学習室の運営委託
されている NPO が事務局となっており,研究部分のみを
抽出し受託研究を行うことは難しい.
また,行政も環境行政における予算の少ない中で
「市施設(小学校等)への太陽光発電装置設置事業」な
ど民間活力を交えて取り組んでいる状況であり,効果を
測定しづらい市民力の発展部分を研究委託することはお
謝辞:本研究に際し,覚書を取り交し、共同研究および
それに関わる協議を実施させて頂きました各自治体ご担
当課の皆様には、有益な情報と助言を賜りました.ここ
に記して,深く感謝申し上げます.
参考文献
1) 監査法人トーマツ:Q&A行政評価の導入と実践、pp2-5,
中央経済社,2005
2) 山口 達也,宮川 仁,福田 裕恵,明野 斉史,中島 裕之:中
間レベルの CO2 排出削減のインセンティブ施策に関する研
究(中間報告):国土交通政策研究所報第 41 号 2011 年
夏季,pp. 34-43
CORROBORATIVE RESEARCH WITH LOCAL GOVERNMENTS ON DIGGING
OUT AND RESOLVING REGIONAL ISSUES
Kunihiko HARADA Manabu KANEKO Fumio TANAKA Taisuke OKADA
Katsumasa OHORI Kenta MATSUSHIMA Yasushi MANABE
This research is to grope whether an intangible project will have worth for example digging out
regional issues from ordinary day and showing of resolutions and whether we can build a new project
model that we get contingency fee from the project for we have to grow out of a consulting method for a
given theme so far.
We report the implementation outline of research projects of two cities which reached a research
agreement.
10
インフラ維持管理の予算配分手法に関する研究
大堀 勝正1・原田 邦彦2
1博士(公共政策分析) 技術士(総合技術監理・建設部門)
株式会社建設技術研究所 マネジメント技術部 兼 国土文化研究所
(〒103-8430 東京都中央区日本橋浜町3-21-1)
E-mail: oohori@ctie.co.jp
2技術士(建設部門)
株式会社建設技術研究所 国土文化研究所
E-mail: [email protected]
所長
2000年頃から多くの土木官庁で維持管理予算の削減が行われており,限られた予算の有効活用が重要性
を増している.特に,多様な行政需要に直接携わる維持管理部門においては,予算が減少する中で安全性
や供用サービスを保持することが緊急の課題となっている.そのため,これから急増する修繕・更新・廃
棄などに対する中長期戦略をふまえたうえで,管理地区ごとに異なる行政需要に対して適正な予算配分を
実施するための理論的根拠が必要となっている.
本論文では,こうした課題を総合的に解決するため,行政需要を定量的に評価し,出先機関への予算配
分を中長期と短期の2段階で最適配分する手法を提案した.さらに,考察した手法の適用例を報告する.
Key Words : maintenance, budgetary allocation, portfolio optimization , risk management
1. はじめに
いては,点検手法や劣化予測に基づくライフサイクルコ
スト分析などを扱った研究は近年増えているが,経営面
のマネジメントについては小澤(2008)2)が指摘したよう
に理論の蓄積に乏しい.
人員のマネジメントについては,大堀ほか(2008)3)が
官民の定員管理手法をふまえたうえで,行政需要に応じ
て複数の出先機関にバランスよく技術職員を配分する数
理統計的手法を提案している.その手法をさらに発展さ
せた手法として,大堀ほか(2010)4)は,維持体制におけ
る人員配置の最適化問題にポートフォリオ理論を応用し,
行政需要や人的能力などの質的特性もふまえた定量化モ
デルを提示した.また,維持業務の民間企業へのアウト
ソーシングが急増することに伴う安全性確保や苦情増大
などの問題に対して,企業選定において価格のみならず
技術力やサービス能力を総合的に評価するために,大堀
ほか(2009)5)は,管理地区の行政需要を基本として企業
の地域精通度や地域貢献度をより適切に評価するための
点数配分手法の提案を行った.このように,近年,道路
維持を主な対象とした理論構築と試行が進展している.
予算のマネジメントについては,行財政においては
財政学や経済学を中心とした理論的根拠があり,インフ
ラの投資判断においては工学や経済学を基本ベースとし
た土木計画学が多くの理論的根拠を提供してきた.イン
フラを資産として捉えた観点からは,近年,会計学をベ
我が国では,インフラ施設の老朽化が深刻化する一
方で,財政悪化や行政改革等等により技術職員や予算が
大幅に削減されており,インフラの維持管理における経
営資源配分において客観的かつ合理的な理論的根拠と対
外説明が重要な課題となっている.
本研究は,この課題を解決するため,技術職員と予
算の「経営資源の配分問題」に着目し,効率性・有効
性・公平性といった複数の価値基準をバランスよく考慮
した客観的かつ合理的な理論的根拠と対外説明に資する
経営手法の技術開発を目的として行ったものである.
本論文では,インフラ(管理施設)を直接的に維持
管理する複数の出先機関に予算配分を行う最適化の方法
論について研究した結果の概略報告を行う.
2. 関連研究と本研究の位置づけ
近年,インフラの維持管理を中長期的な観点から計
画的にコスト縮減とサービス保持の両立を図ろうとする
アセットマネジメント(以下,AM呼ぶ)の考え方が普
及しつつある1).その研究対象は,図-1に示すように構
造物を対象とした工学的な側面と,資金や人員等を対象
とした経営的な側面がある.構造物のマネジメントにつ
11
構造物のマネジメント
経営面のマネジメント
図-2 予算配分ポートフォリオの概念図
図-1 アセットマネジメントの各種要素と体系
(出典)小澤(2008)に大堀が一部加筆
(
)
ースとしたインフラ会計の理論化が進展しつつある1)6).
このようにインフラの資産管理においては,会計・経
済・財政等のマクロ的視点で理論化や制度化の取り組み
が行われている.
本研究では,こうした関連研究をふまえつつ,既存
インフラの維持管理を適切に行うために,限られた予算
を行政需要に応じて複数の出先機関に配分する最適化の
方法論について研究した.
3.評価モデルの概要
(
12
)
(1) 基本的な考え方
経済学では,ミクロとマクロに分けて分析すること
が一般的である.これまでの中央官庁や土木学会 1)等
の有識者においてもAMの理論や実務の検討において,
ミクロとマクロを分類の基本として推奨してきた.しか
しながら,道路や河川といったインフラを利用者や地域
住民の視点から捉えた場合,広域の経済圏や行政区分を
単位とするマクロでは大き過ぎ,個別施設を対象とする
ミクロでは小さすぎる.そこで行政需要に対応した予算
配分を分析する場合,「ミドル」のような単位を基本と
することが望ましいと考える.このミドルとは,具体的
には国土交通省や都道府県の出先機関(土木事務所等)
の管理地区である.この規模は新設や維持管理において
行政が効率的かつ効果に現場対応するために経験的・制
度的に設けられたものであり,地域に根ざしている.そ
こで,本研究では予算配分の基本単位を出先機関とした.
そのモデル化にあたっては,出先機関への予算配分
を工夫することで業績を全体的に向上させるととも に,
業績目標の達成度を高めることを目指す.モデル構築の
基本として,金融資産運用の理論的基礎となっているポ
ートフォリオ理論を参考とした.すなわち,予算配分の
経営判断等によって変動する業績率(以下,リターンと
も呼ぶ)を確率変数と捉え,その業績率の期待値(以下,
図-3 中長期戦略をふまえた予算配分の概念図
期待業績率または期待リターンと呼ぶ)と標準偏差(以
下,リスクとも呼ぶ)に着目し,図-2に示すように一定
の期待業績率を確保しながらリスクを最小化する,ある
いはリスクを抑えながら期待業績率を最大にする予算配
分手法を考察した.
(2) 短期・中長期の予算配分(案)
出先機関への予算配分は,中長期的な施設管理を意
図したポートフォリオ・マネジメントと捉えることがで
きる.そこで本研究では,図-3に示す2段階方式による
予算配分のポートフォリオ問題として定式化定した.2
段階方式とは,次の定義に基づく方式である.
1) 中長期的基本予算配分
(SAA:Strategic Asset Allocation)
中長期的観点(3~10 年程度)から各出先機関
の行政需要に基づいて予算配分を決定する.
2) 短期的予算配分(TAA:Tactical Asset Allocation)
短期的観点(1~2 年程度)から各出先機関にお
ける行政需要の特殊性や経営資源(出先事務所
等)の状況を考慮して配分する予算額を特定する.
(3) モデルの定式化
総額 m 円の予算を n 箇所の出先機関 j ( j = 1,…, n )に配
分する際,予算配分担当者は,ある一定期間(たとえば
1 年度)ごとに,予算配分を行う場面を想定する.予算
配分担当者はなるべく大きな業績を得たいと考えるが,
出先機関をとりまく状況は,時々刻々変化するので,予
算配分による将来の業績を現時点で確実に知ることは不
可能である.このような状況の下で,予算配分担当者が
どのように振る舞うべきかを数理モデルとして定式化す
る上で平均・分散モデル(Mean-Variance Model)7)を基
本とし,リスクとリターン双方のバランスを考慮した予
算配分手法を提案した.
市場メカニズムが機能しないインフラ維持管理におい
て需給バランスを人為的に調整する必要があるため,苦
情・要望などの需要情報に着目して「維持サービスはタ
ダではなく,サービスに見合った投資が必要である」と
いう APT(Arbitrage Pricing Theory,裁定価格理論)と同様の
原理を適用した.そのことによって,各出先機関の維持
サービスに大きな影響を与える複数の要因を用いること
で,予算配分の需給バランスを図る手法を考案した.
維持管理の需要と供給(ここでは予算配分)の適切な
対応づけを図るうえで,①エンドユーザーの視点を基本
として需要を捉えること,②予算の運用実態をふまえる
こと,③短期~中長期の時間軸に留意することの 3 点が
特に重要になると考える.これまでの AM においては,
国や地方公共団体の長寿命化計画にみられるように修繕
工事のコスト削減に注目が集まっているが,エンドユー
ザーの視点からは日常的な安全やサービスへの関心が高
く,維持管理予算の運用実態からは修繕のみならず維持
や災害防除を目的とした予算も含まれており,それらが
一体的に予算執行されている.さらに中長期にわたる対
策も考慮すると,表-1 に示すように維持管理予算を 3
分類して投資判断することが望ましいと考える.
表-1 道路維持管理費の分類(例)
大分類
小分類
路線一括管理
維持費
環境整備
・交通安全施設の補修、更新
・情報システムの運用
道路公園の整備や植樹など
舗装補修
舗装の修繕
橋梁補修
橋梁の修繕
擁壁、水路、路肩などの
路側施設の修繕
災害を予防するための法面対
策、擁壁工やトンネル・標識・情
報板等の道路施設の修繕・更新
交通安全2種
修繕費
路側整備
災害防除費
業務概要
・パトロールや軽微な修復などの
日常的な維持管理
・外部委託も行われる。
道路災害防除
4.評価モデルの適用例
13
(1) 想定場面の概要
わが国 C 県土木部門の地域性や行政需要が大きく異
なる「都市部の 2 出先機関」と「地方部の 2 出先機関」
の合計 4 出先機関(土木事務所)を対象として,道路維
持に関する過去の実績データ数値の傾向が大きく変わら
ない程度に変更した事例を基に,3.で提案したモデル
の適用例の概要を以下に示す.
C 県の道路維持管理費(表-1 の大分類)の年度予算
の年度推移を図-4 に示す.
図-4 道路維持管理費の当初予算推移(C 県)
(2) 中長期的基本予算配分(SAA)の適用例
道路維持の予算配分においては,先ず現実的な制約と
して各出先機関の業務量に応じて必要な予算額を確保す
る必要がある.そこで,業務量の直接的な要因である管
内人口,道路延長,交通量,苦情要望件数,凍結防止剤
散布量などの行政需要の関連データから各出先機関の業
務量と予算額の関係を重回帰分析等で推定し,必要と考
えられる予算額を一定範囲に絞る.運用スタンスとして
は,現時点の予算額と現実的なリスク許容度の制約から,
表-2 に示す 3 つの典型的な長期的基本ポートフォリオ
の例を構築した.ここで,平等型とは均等な配分予算額,
集中型とは行政需要が集中する都市部に予算を重点的に
配分するスタンス,中間型とは平等型と集中型の中間的
な予算配分である.
表-3 に示す業績率の変動構造推定式を利用すれば予
算額と他の要因(職員数等)を変動させたときの各事務
所の業績率の変化を予想することができる.各事務所の
H6-20 年の平均業績率は表-2 の 3 タイプの予算配分スタ
ンスによって得られる-7.5~-8.8%の期待業績率と近
似しているが,この範囲が将来的な目標設定の基本にな
ると考えられる.
予算配分の評価において,予算総額を一定として出先
期間への配分比率のみを変えた場合の業績への影響を把
握したいというニーズが行政関係者にある.そのニーズ
に応じた感度分析の例を以下に示す.たとえば,平成
20 年度の時点で 3.(3)のモデルを用いて最適化した表-4
の予算配分比率で次年度(平成 21 年度)の業績変動を
図-6 予算配分最適化(-7%)による H21 の感度分析例
(H21:H20 と同条件で予算配分比率のみを変更)
図-5 H6-20 実績に基づく効率的フロンティアと予算スタンス
通行規制回数
(S61~H18実績)
表-2 予算配分スタンスと中長期的基本ポートフォリオ案
出
先
機
関
表-3 重回帰分析による業績率の変動構造分析例
説明変数の係数
出先
機関
維持班
職員数
(人)
0.51700
(-1.96)
0.20100
事務所2
(0.51)
0.62788
事務所3
(0.74)
-0.07953
事務所4
(-0.52)
事務所1
管理水準
交通規制
維持予算
で比率配
時間
(百万円
分した道路
(h/年)
/年)
延長(km)
管内
人口
(千人)
交通量の
断面平均
(10台/日)
凍結防止
剤の
散布量
(t/年)
定数項
0.00002 -0.12271 0.0000001 -0.61438 0.01080 -0.00030 91.19628
(0.01)
(-1.59)
(0.02)
(-1.74)
(0.30)
(-0.10)
(1.72)
-0.00479 -0.15816
0.00005 -0.25484 0.03162 -0.00343 57.70420
(-1.15)
(-1.07)
(0.71)
(-1.29)
(0.39)
(-0.41)
(0.86)
-0.00315 -0.19712
0.00002 -1.36851 -0.07009 0.01422 94.78746
(-0.46)
(-0.54)
(0.58)
(-0.66)
(-0.72)
(0.49)
(0.64)
0.00121
0.10874 -0.00002 0.23904 -0.00930 -0.00119 -29.00764
(0.51)
(0.51)
(-1.51)
(0.44)
(-0.49)
(-0.34)
(-0.45)
注)H6-20年度のデータを使用, ( ):T値
シミュレーション
(1万回)による
通行規制回数
平均
標準偏差
95%
タイル
(回/年)
③に基づく
予算配分比率
通行規制の社会的影響
(管内の全路線)
最も適合度
が高い
確率分布
①交通量の
断面平均
②95%タイル
×交通量の
断面平均
③影響
の割合
(台/24h)
(台/24h)
(②の%)
(回/年)
(回/年)
A
22.1
17.9
58.4
ワイブル分布
3,687
215,409
11.6%
B
5.9
8.4
22.2
ワイブル分布
5,171
114,536
6.2%
C
6.6
17.3
30.8
ワイブル分布
4,576
140,748
7.6%
D
8.0
11.6
30.5
ワイブル分布
2,763
84,135
4.5%
E
15.8
14.1
45.0
ガンマ分布
7,107
320,105
17.2%
F
5.4
6.1
17.9
ワイブル分布
12,591
224,748
12.1%
G
6.5
6.2
19.3
ワイブル分布
7,540
145,303
7.8%
H
4.0
6.7
16.2
ガンマ分布
1,146
18,586
1.0%
I
5.5
5.7
17.2
指数分布
7,428
127,840
6.9%
J
7.4
8.4
24.4
ワイブル分布
4,032
98,502
5.3%
K
3.3
3.4
10.3
ワイブル分布
9,812
100,963
5.4%
L
6.2
7.4
21.2
ガンマ分布
3,395
71,876
3.9%
0%
5%
10% 15% 20
11.6%
6.2%
7.6%
4.5%
17.
12.1%
7.8%
1.0%
6.9%
5.3%
5.4%
3.9%
M
4.9
5.2
30.3
ワイブル分布
3,315
100,473
5.4%
5.4%
N
12.5
13.6
39.0
ワイブル分布
2,498
97,392
5.2%
5.2%
平均
8.2
94.0
27.3
-
5,361
146,510
7.1%
7.1%
図-7 通行規制実績に基づく予算配分比率(例)
表-4 目標期待業績率-7%のときの最適配分予算(最適型)
感度分析してみる.この場合,平成 20 年度と予算総額
も含めて他の条件も同じとして,予算比率のみを表-4
のように変更し,各出先事務所の行政需要と行政供給の
対応関係の推定式である表-3 を用いてヒストリカルデ
ータから図-6 のように分析することができる.図-6 の
結果から,予算比率を工夫することによって期待業績率
が-2.2%から 10.6%と大幅に増加することが推定される.
また,出先事務所間の業績率の格差を示す標準偏差が
20.2%から 31.1%と増加することもわかる.このように
H6~H20 の業績変動推移から予算配分のバランスを検
討するうえでこうした分析は有用であると考えられる.
14
(3) 業績測定の拡張例
3.(2)の適用例では,業績データとして苦情・要望件
数を採用した.その主な理由は,次のとおりである.
◆維持,修繕,災害防除の 3 分類の行政需要を受益者が
直接的に表明したため
◆時系列的に変動を正確に捉えることができる
◆質的な内容も含めて分析を深めることが可能である
業績測定の拡張例として,苦情要望の最大要因であっ
た通行規制とその社会的影響に基づいて各出先機関への
災害防除費の予算配分比率を決定する適用例を図-7 に
示す.図-7 に示すように各地の通行規制の発生実態を
確率分布として具体化することよって,その行政需要を
より的確に予算配分に反映するための客観的かつ合理的
な説明根拠になり得ると考えられる.
5.結論
本論文では,インフラの維持管理において多様な行
政需要に応じて複数の出先機関に限られた予算を客観的
かつ合理的に配分する手法を考察し,リスクとリターン
双方のバランスに基づいて評価する定量的な方法論を提
案し,その適用例を示した.
この予算配分手法を用いることによって,土木官庁
は,必要な予算の根拠を対外的に説明しやすくなるとと
もに,エンドユーザーの視点からサービス向上が推進さ
れ,出先機関への予算配分手続きにおいて透明性,合理
性,正当性等を向上させることができると考える.
今後の課題としては,1) データ蓄積と数理モデルの精
緻化,2) 行政現場での普及・応用に基づく改良,3) 財政
制度や合意形成を考慮した政策評価があげられる.
1)
2)
3)
4)
5)
謝辞:本研究に際し,C 県をはじめとする,国・県・市
の多くの行政担当者にご意見をいただきました.ここに
記して,深く感謝申し上げます.
6)
7)
土木学会編:アセットマネジメント導入への挑戦,
技報堂出版,2005.
小澤一雅:社会資本へのアセットマネジメント導入
の方法と課題,地質と調査,2008.3.
大堀勝正,森岡弘道,森地茂:道路維持体制の人員
配分手法と適用事例,土木学会論文集 F,Vol.64,
No.4,pp.381-393,2008.11.
大堀勝正・森地茂:道路維持における行政需要に応
じた人員配置の最適化手法土木学会論文集F,Vol.
66, No. 3 pp.412-431, 2010.8.
大堀勝正,長岡克典,田中浩一,曽我好則:道路維
持業務委託の総合評価方式に関する考察,土木学会
建設マネジメント研究論文集, 2009.12.
江尻良:インフラ会計概論,summer school 2009 建設
マネジメントを考える,2009.8.
Luenberger, D.: Investment Science, Oxford University
Press, 1998.
参考文献
AN OPTIMAL BUDGETARY ALLOCATION MODEL
FOR ROAD MAINTENANCE DEMANDS AND THE APPLICATION EXAMPLE
Katsumasa OHORI and Kunihiko HARADA
Budget cuts have been done in a lot of civil engineering governments in Japan. Through the
administrative reforms, it is necessary for each civil engineering government to allocate the budget for
some maintenance offices reasonably in view of retaining the customer service.
In this paper, the optimal budgetary allocation model under infrastructure demand uncertainty is
formulated as portforio optimization. In the processes, we propose some practical policies and techniques
of matching the expected performance based budget with the maintenance demands in the two phases
which are consisted of a short-term view and a medium-long-term view, as numerical counting processes
with reference to investment science. Furthermore, we also report on the application example against the
approximate road maintenance data concerning a prefecture for considering the applicability of the
methodology.
15
コンパクトシティ形成に係わる政策研究
(地方中小都市を対象とした持続可能なまちづくり研究)
1
2
3
岡田 泰祐 ・土屋 信夫 ・牛来 司
1技術士(建設部門)
株式会社建設技術研究所 国土文化研究所
(〒103-8430 東京都中央区日本橋人形町2-15-1)
E-mail: ta-okada@ctie.co.jp
2技術士(建設部門)
株式会社建設技術研究所 東京本社都市システム部
(〒103-8430 東京都中央区日本橋浜町3-21-1)
E-mail: [email protected]
3技術士(総合技術監理・建設部門)
株式会社建設技術研究所 東京本社都市システム部
(〒103-8430 東京都中央区日本橋浜町3-21-1)
E-mail: gorai@ctie.co.jp
わが国は国際的にも突出した高齢化社会を向かえ,環境問題への対応とともに,持続可能な地域社会の
あり方の検討が大きな課題となっている.こうした問題を解決するひとつの解としてコンパクトシティの
議論が進んできているところであるが,時間をかけ形成されてきた都市構造を改変する取り組みは非常に
難易度が高く,その具体化が課題となっている.
こうした状況を鑑み,本論文では事例や政策研究等を通じ,クラスター型のコンパクトシティを現実的
なコンパクトシティの都市構造と捉え,拠点やその他地域のあり方を考えるなどにより実現性を高めるた
めの課題や検討の方向性を明確にし,今後さらに研究を深めるべき重点ポイントについて報告を行う.
Key Words : Sustainable Development, compact city ,Process control , Form of the city
1. はじめに
ちづくりとしてのコンパクトシティの実現方法等を政策
研究としてとりまとめることを目的とする.
なお,本研究は3ヶ年の計画で実施している2ヶ年
目の研究である.
1年目は,社会的な要請の高まる「低炭素都市づく
り」の具現化の姿としてのコンパクトシティをめざし,
低炭素都市づくりに係わる法制度,施策体系とともに,
そもそものコンパクトシティの系譜,事例都市研究など
を進めてきた.研究を進める中で,低炭素の切り口はコ
ンパクトシティ政策が成功した暁にある1つの評価軸に
過ぎず,研究としては少し広範にコンパクト化のために
検討すべき視点を今後の課題として整理してきた.
2年目は,これらを踏まえ望ましい都市構造(コン
パクトシティ像)や中心市街地と周辺拠点地区等のあり
方,さらにそれらの地区の相互補完の考え方,コンパク
トシティとしての現在の状況や将来的な実現度合を評価
する望ましい指標等を検討してきた.
(1) 研究背景と目的
わが国では,地球温暖化対策の一環として低炭素社
会づくりを目指し,関連法やガイドラインの整備が進め
られコンパクトなまちづくりへの期待が高まっている.
また,超高齢化を迎えたわが国にとって財政制約の面か
らも社会資本の維持・更新が厳しい時代となり,今後の
都市のあり方としてもコンパクトシティへの注目が非常
に高まってきているところである.
これまで都市計画マスタープランにおけるビジョン
や理念で語られることの多かったコンパクトシティであ
るが,わが国は人口減少局面に入り,特にその傾向が顕
著な地方の中小規模の自治体において今後,本格的にコ
ンパクトシティの実現が求められている.
そこで,建設技術研究所で推奨するコンパクトシテ
ィ像やその実現プロセス管理に求められる考え方,形成
過程を検証するための分析方法(指標),また,コンパ
クト化と併せ求められるサブ的な社会システムとしての
政策等を研究会をベースに討議しながら,持続可能なま
16
平成 23 年
「(1)a)望ましい都市構造の多様性への対応」について
は,都市形成の歴史から様ざまな都市構造が考えられる
が,都市計画マスタープラン等をはじめとする行政計画
での位置づけを見ていくと,どうも,国内におけるコン
パクトシティの構造は,大小の規模は様々であるがクラ
スター型で考えていくことに落ち着き始めており,「地
方中小都市を中心としたクラスター型コンパクトシテ
ィ」を都市構造のベースとして検討するものとした.
(1) 低炭素化の必要性,背景等の整理
(2) 低炭素化に関わる関連法規の整理
(3) 国内外の先進事例等の調査
(4) コンパクトシティについての再定義
b) 選択したくなる地域づくりの指標検討
「(1)b) 選択される集約拠点づくり」については,低
炭素のみならず「持続可能性」をキーワードとした指標
の検討,提案を行うものとした.
c) 集約拠点と周辺エリアの関係についてのあり方検討
「(1)c) 縮退エリアの社会資本整備のあり方」につい
ては,集約拠点のあり方の検討や,また,クラスター型
(都市と中山間地等の関係を含め)の互恵関係をベース
としたコンパクトシティのあり方の検討,提案を行うも
のとした.
d) 持続可能なまちを支えるコンパクトシティ政策検討
の進め方
「(1)d)きめ細かい計画人口の設定」については,これ
までコンパクトシティは,低炭素化や中心市街地活性化,
高齢化への対応などの様ざまな目的を単体もしくは複合
的に達成するためのビジョンとして示されてきた.
しかしながら,人口減少や超高齢化が目前にある現
代においては,都市の個別課題への対応もさることなが
ら,人口減少下においても成り立つ都市経営を実現する
ための姿として考える必要がある.
そこで,低密な都市構造が課題で国内で最も先進的
な取り組みを実施している富山市をケースとし,持続可
能なコンパクトシティの導入方法を検討するものとした.
(5) 低炭素社会の社会資本整備のあり方検討
(6) コンパクトシティの検討のあり方検討
平成 24 年
(7) わが国における C.CITY のモデル構造整理
(8) 持続可能なコンパクトシティの検討
(9) スタディ検討(実現化への考え方整理)
平成 25 年(計画)
(10) 再建団体等のシビルミニマム調査
(11) コンパクトシティ実現化工程等の検討
(12) とりまとめ
図-1 本研究の検討計画フロー(案)
2. 昨年度研究のレビュー
(1) 過年度研究で整理した重視すべき検討視点
昨年の研究においては,今後のコンパクトシティの
検討のあり方として以下に示す4点を整理し,本年はこ
れをさらに具体化するためにどこで何を考えていくべき
かなどの考え方,視点等の検討を進めた.
a) 望ましい都市構造の多様性への対応
→歴史,景観,防災,環境等に配慮したコンパクトシテ
ィ像のタイプ分類の設定
b) 市民への都市の目標像への理解を深め,選択される
集約拠点づくり
→選択したくなる地域づくりの可視化
c) 縮退エリアの社会資本整備のあり方の明確化
→集約拠点と周辺エリアの関係性の明確化
d) きめ細かい計画人口の設定
→人口の低密拡散に歯止めをかける施策の展開,調査・
分析等の方法
(2) 今年度の研究の視点
a) 研究ターゲットの設定
3..コンパクトシティ関連の事例動向
国内におけるコンパクトシティの構造は,これまで
「一極集中型」と「クラスター型」の2タイプに大きく
分類できていたが,その後,計画の見直しなどにより概
ねクラスター型に集約されてきた.
青森市の計画が「一極集中型」から「クラスター
型」に転じた経緯は,1つには首長が変わり市民が求め
る政策を転換したとも言われているが,コンパクトシテ
ィが中心市街地だけの問題から,郊外には郊外なりのコ
ンパクト化,中心部には中心部なりのコンパクト化を目
指すことが持続可能なまちづくりとしての目下の課題と
してあり,コンパクトシティも理念的な取り扱いから多
様な政策の組み合わせによる都市の持続的な経営の実践
へとステップアップしてきた結果と捉えられる.
17
都市政策を議論する際に,最も用いられる指標のひ
とつとして人口密度がある.
一方,中心市街地の地価を高止まりさせることが,
都市の持続可能(固定資産税や都市計画税の安定面で)
において重要という見方がある.
住宅地の地価と関連がある指標を検討した結果,人
口密度が高い都道府県では全用途又は住宅地の地価も高
い傾向にあるという結果がある.この結果からは特に地
価を高止まりさせるために人口密度を高めることが重要
であると考えられる.
図-2 青森市のコンパクトシティ像
(出典)青森市HP
表-1 コンパクトシティの国内事例の代表例
都市名
青森市
類
一極集中型から
→クラスター型に
発展
仙台市
富山市
宇都宮市
夕張市
クラスター型
クラスター型
型
都市機能集約型から
→複数の拠点を交通
機関等で有機的に結
ぶ方向に発展
軌道系交通機関を中
心とした集約型
図-4 47 都道府県の人口密度と住宅地・平均地価
(出典)国土交通省HP
一方,ある自治体の都心部と郊外部の地価と人口密
度の関係を図化したところ,業務エリアなど夜間人口が
少ない場合,夜間人口のみで評価すると,地価と人口密
度の関係には逆相関が見られ,上記のグラフのトレンド
を示さない問題がある.
その為,Fouchier(2004)が,都市密度を「都市内
1ヘクタール当たりの人口と雇用の合計」として測定し
ている通り,コンパクトシティの観点からは,市街地に
おける人口(または雇用その他の都市活動の人口)の密
度のほうが都市的土地利用の効率性を測るには適してい
る.
〃 (将来)
段階的な集約化のプ
ロセスを都市マスタ
ープランに明示
また,夕張市では将来都市構造のコンパクト化への
再編プロセスを拠点毎のコンパクト化,都市構造軸への
集約の2段階で設定している.
当面の市街地
将来の市街地
400000
都心居住が進むも、夜間人口の
みだけでは土地価格との関係性
を言えないエリアが存在する
350000
300000
図-3 夕張市のコンパクトシティ像
円/㎡
250000
y = ‐943.97x + 133019
R² = 0.2688
200000
150000
(出典)夕張市HP
100000
4..選択したくなる地域づくりの指標検討
50000
コンパクトシティの進捗度合など,政策の効果を測
定していくための定量的な指標の設定が必要である.
各自治体が推進するコンパクトシティのビジョンが
どの程度進展しているのかを,議会や一般市民は測定で
きない.そのため,コンパクトシティを推進するための
施策等の選択と集中に対し、広く市民に理解されやすい
指標を検討する必要がある.
(1) 人口密度と地価の関係
0
0
20
40
60
80
100
120
140
人/ha
図-5 人口 40 万規模の都市の中心部の人口密度と地価の関係
18
(2) 新たな指標提案の考え方
コンパクトシティの指標を定義づけすることは,非
常に難しい.既往の研究の中では,公共交通との接続性
や人口密度など一定のコンパクト性を示す指標を用いて
評価した結果,都市の負の遺産である木造密集市街地が
一様に高いと評価され指標化の課題を示したものもある.
学識者や先進自治体の首長の意見を鑑みた上で,今
日的に必要とされている持続可能なまちづくりに関する
指標の考え方として重要な点は次の3つが考えられる.
a) わかりやすく説得力のある指標
富山市長は,これからの基礎自治体のリーダーシッ
プは,「説明責任」から「説得責任」が必要であると答
えている.先達がどう考えてきたか,また,将来市民が
どう評価するかを含めて説得していける指標設定が必要.
b) 新たな価値観にもとづく公平性を説明する指標
都市経営上の持続可能を示す一連の指標は,政策と
明確な関連性を持つことが必要.
例えば,中心市街地から得られる地価に起因する都
市計画税や固定資産税が周辺へ再投資されている現状を
踏まえ,中心市街地へ重点投資することへの市民合意を
得ていくような指標の見える化が必要.
c) 測定可能な指標
基礎自治体では,社会資本ストックに関する情報の
整備状況がまちまちであるが,上水道,下水道,道路,
橋梁等の社会資本ストックの情報を整理し,GIS等を活
用して分析できるようにすることが必要.
(3) 合意形成に用いることのできる指標の提案
市民への説明指標においては特に分かり易さを意識
した指標設定が必要と考える.それを踏まえ既往の指標
研究事例を評価すると,コストで示せるアフォーダビリ
ティや公共サービスの指標が,説得力や公平性への理解
が高いと考えられる.
表-2 市民合意を得やすい持続可能指標検討・評価
指
標
①
説得
②
公平
③
測定
力
性
可否
1. 人口増加と市街地の成長 都市圏内の人口と市街地の年間増加率
○
2. 市街地人口密度
都市圏内の市街地表面積に対する人口
○
○
3. 既存市街地の「改装」
グリーンフィールドではなく既存市街地で行わ
れる都市開発の割合
○
○
4. 建物の高度利用
住宅およびオフィスの空室率
○
○
5. 住宅形態
総住宅戸数に占める集合住宅の割合
○
○
6. トリップ距離
通勤/全トリップに関する平均トリップ距離
○
7. 都市的土地被覆
都市圏に占める市街地の割合
○
8. 公共交通機関を利用した 総トリップ数に占める公共交通機関を利用した
トリップ数
トリップ数の割合(通勤/全トリップ)
9. 公共交通機関への近接性 公共交通機関の駅から徒歩圏内(例、500m)の
人口(および/または雇用)が総人口に占める割
○
○
○
△
要整
○
○
△
○
○
○
合
10. 職場と住宅の適合
近隣規模における職場と住宅のバランス
11. 地域サービスと住宅の 近隣規模における地域サービスと住宅のバラン
適合
ス
備
12. 地域サービスへの近接 地域サービスから徒歩圏内(例、500m)の人口
性
の割合
13. 徒歩および自転車によ 総トリップ数に占める徒歩および自転車による
るトリップ数
トリップ数(通勤/全トリップ)の割合
14. 公共空間と緑地
一般市民が利用できる緑地から徒歩圏内(例、
500m)の人口の割合
△
○
要整
備
○
○
○
△
要整
○
備
15. 交通のエネルギー利用
1 人当たり交通エネルギー消費量
16. 住宅のエネルギー利用
1 人当たり住宅エネルギー使用量
17. アフォーダビリティ
総家計支出に占める住宅および交通に対する家
計支出の割合
18. 公共サービス
都市インフラ(道路、給水施設など)の維持に対
する 1 人当たり支出
○
○
◎
◎
○
◎
◎
△
要整
備
19
5. 集約拠点と周辺エリアの関係についてのあり方
検討
(1) コンパクトシティを取り巻く社会の動き
a) 低炭素まちづくり推進法
社会経済活動その他の活動に伴って発生する二酸化
炭素の相当部分が都市において発生しているものである
ことに鑑み,都市の低炭素化を図るため,都市の低炭素
化の促進に関する基本的な方針の策定,市町村による低
炭素まちづくり計画の作成及びこれに基づく特別の措置
並びに低炭素建築物の普及の促進のための措置を講ずる
こと目指し,平成24年2月28日に閣議決定された.
・都市の低炭素化の促進に関する基本方針の策定
・低炭素まちづくり計画に係る特別の措置
・低炭素建築物新築等計画の認定制度の創設
図-6 低炭素まちづくり計画の概説
(出典)国土交通省 HP
「低炭素都市づくりガイドライン」(2010)は法的拘
束力のない政策文書で,地方政府に低炭素な都市開発に
取り組むことを促すものであったが,今後,自治体にお
いては,本法律に基づき低炭素まちづくり計画を策定し,
積極的な低炭素化への取り組みを推進することとなる.
コンパクトシティが実現された都市において低炭素
化は結果であるが,低炭素都市づくりとの関係において
は,都市機能の集約を図り過度に自動車に依存しない歩
いて暮らせるまちづくりの点において大いに関係を持た
せる必要がある.
b) 定住自立圏構想
わが国の,特に地方圏においては,大幅な人口減少
と急速 な少子化・高齢化が見込まれている.
このような状況を踏まえ,地方圏において,安心し
て暮らせる地域を各地に形成し,地方圏から三大都市圏
への人口流出を食い止めるとともに,三大都市圏の住民
にもそれぞれのライフステージやライフスタイルに応じ
た居住の選択肢を提供し,地方圏への人の流れを創出す
ることが求められている.
c) クラスター型コンパクトシティ形成に向けて拠点エ
リアで考えるべき視点
クラスター型のコンパクトシティ検討にあたって,
集約拠点(都心部等)で考えるべき視点を以下のように
整理する.
《前提条件》
・衛星的な周辺クラスター拠点については,最低限の日
常生活が行える機能が確保され,中心的都心部は,
市民の望む機能(就業,商業,居住,文化,医療,
教育等)が全てそろっており多様なニーズに応えら
れるエリアとして形成すること
・高齢者社会に対応した歩いて暮らせる範囲であること
《検討の視点》
ⅰ) 多様な機能の集約する拠点エリアの形成
・居住地の選択は自由であるが,都市的な生活を全ての
拠点で提供する非効率性を市民に理解してもらうこ
とが重要である.
ⅱ) 拠点における都市の代謝促進(低未利用地の有効活
用,開発誘導)
・核の都心エリアについてはローリスク・ローリターン
の駐車場などの土地利用の増加など,中心部の活力
の増加につながらない利用を解消していく必要があ
る.
ⅲ) 拠点間で機能補完しあうアクセス性の向上
・各拠点で重複する機能を減らし,財政負担を軽減して
いく必要がある.また,適切な機能の役割分担のも
とそれらの利用がしやすい公共交通機関のサービス
レベルを定める必要がある.
d) クラスター型コンパクトシティ形成に向けた拠点エ
リアのあり方
ⅰ) 集約拠点(都心)の設定基準の考え方
富山市では団子と串の都市構造という分かり易さを
重視しているため,単円での拠点範囲設定を行っている
が,誘導施策の補助対象地区として定める場合において
は,中心からの市民サービスレベルをアンケートなどで
確認した上で地形地物,路線を加味した時間距離範囲の
設定方法をより理解されやすい方法として提案する.
ⅱ) 拠点における都市の代謝促進(低未利用地の有効活
用,開発誘導)
核となる都心エリアについては何らかの土地地用が
なされていると考えられるが,ローリスク・ローリター
ンの駐車場などの土地利用の増加など,中心部の活力の
増加につながらない利用を解消していく必要がある.そ
のためには,スマートグロース政策における優先投資地
区(PFA),富山市における公共交通沿線における居
住推進地区など積極的な誘導施策が必要である.
ⅲ) 拠点間で機能補完しあうアクセス性の向上
そのため,定住自立圏構想は,このような問題意識
の下で,市町村の主体的取組として,「中心市」の都市
機能と「周辺市町村」の農林水産業,自然環境,歴史,
文化などを相互に役割分担し,連携・協力することによ
り,地域住民のいのちと暮らしを守るため圏域全体で必
要な生活機能を確保し,地方圏への人口定住を促進する
政策であり,クラスター型コンパクトシティのモデルと
しても活用できると考えられる.
図-7 定住自立圏のイメージ
(出典)定住自立圏情報 HP
(2) 集約拠点(都心部等)のあり方検討
a) 集約拠点(都心部等)の現状と課題
わが国におけるコンパクトシティの指向が強まった
背景には,都市部における以下の課題が挙げられる.
・人口減少,高齢社会への対応
・自動車を使わなくても生活できる暮らしの実現
・質の高い都市生活への欲求
・単身世帯の増加と都心居住指向の増大
・中心市街地(商店街)の空洞化対策
・空閑地・空き建物の有効活用
・大都市への民間投資の誘導などによる経済再生政策
b) 集約拠点(都心部等)の望ましい姿
前述の課題を解決していくための拠点エリアの理想
像について,以下のように提案する.
■少子化に歯止めがかかり,極端な人口増減がない.
■長期優良住宅として低未利用地の再整理が進み,都心居住者が増
える.
■通勤時間,労働の短縮により,子育てや余暇,地域活動への時間を
増やせる.
■歩いて暮らせる範囲に生活に必要な機能が集約,もしくは公共交通
によって利用しやすい状況が整っている.
■都心で育った子ども世代も地域に愛着を持ち,郊外居住を選択しな
い.
■自動車交通の減少で道路空間の再配分やバリアフリー化や自転車
道整備が進み,歩きやすく,自転車も安全な走行ができる.
■また,移動制約者もパーソナルモビリティを用い,活動範囲が広が
る.
■身の丈にあった開発(単独)が連担し,スカイラインやファサードの整
ったまとまりのある空間であり,かつ,開発によって順次,エネルギ
ー効率の良い建物へと更新される.
■良好な都市建築や空間が数十年後に歴史的な価値を増す.
20
クラスター型のコンパクトシティ検討にあたって,
周辺エリアで考えるべき視点を以下のように整理する.
《前提条件》
・周辺エリアのなかでも住むことができるあるいは住
むに値するエリアと危険,不快などの理由で住むべ
きでない,あるいは行政投資が膨大になることから
住むことに値しないエリアを特定すること
・上記のコンパクト化によって残されたエリアの適正
な跡地管理も考えて行かなければならないこと
《検討の視点》
ⅰ) 拠点エリアの形成
・地方自治体の財政状況から見てもすべての集落を残
すことは不可能であり,地域の持続性の観点から見
ても現実的ではないといえる.
・そのため,少数の拠点エリアを地域の文化や二次的
な自然を守る拠点として残すことが必要である.
ⅱ) 拠点以外のエリアへの対応
・拠点エリア以外については,「集落再生の余力を残
した段階での集団移転(コミュニティ転居)」か
「尊厳ある最後(むらおさめ)」を行うことが必要
である.
ⅲ) 適正な跡地管理への対応
・集団移転やむらおさめによって跡地となったエリア
に残された,森林,農地,建物,道路等の公共施設
の管理についても合わせて検討していくことが必要
である.
d) クラスター型コンパクトシティ形成に向けた周辺エ
リアのあり方
ⅰ) 拠点エリア形成のあり方
拠点エリアの形成においては,拠点の文化や技術,
知恵を継承する担い手の世代交代が可能であることが重
要であるといえる.
ただし,現状では,地元住民だけで継承していくこ
とは困難であることから,30代くらいの若者世代や団塊
の世代におけるIJUターン者との連携による取り組み
が必要である.
一方,拠点エリアの持続的・自立的な発展にむけて
は,前述のとおり,集約拠点との互恵関係づくりが重要
であり,集約拠点と拠点エリアとの役割分担によって,
提供される価値と対価の支払いを対等に行うような連携
が必要である.
参考として,(財)中部経済連合会が提言している
「人口減少時代に適応した新しい社会地域づくり」では,
以下のように提案している.
《互恵関係形成に向けた重要な視点》
【自立性】
相互依存関係に片寄りを生じないこと.どちらかが一方
居住地の選択は自由であるため,低廉でゆとりある
郊外居住のニーズは自家用車を使える世代において今後
も一定程度存在し続けると考えられるが,新たなバス路
線などの追加的需要を生まないことが重要である.
歩ける距離の長い世代には極力,徒歩圏+αの距離
(300~1000m程度)で将来の移動手段を確保できる居
住地を選択するように誘導することが必要である.
(3) 周辺エリア(郊外部)のあり方検討
a) 周辺エリア(郊外部)の現状と課題
周辺エリアは,郊外地域から中山間地域を対象とし
て現状を整理する.特に日本の国土面積の65%を占める
中山間地域は,水源涵養や洪水・土砂流出防止,食料生
産,教育・レクリエーションの場の提供など,下流域の
都市住民を含む国民の財産・豊かな暮らしを守っている
地域といえる.
その中で周辺エリアを取り巻く状況は非常に厳しく
以下のような課題を抱えているといえる.
■働き口の減少
→定住への障害
■耕作放棄地の増大
→鳥獣害の増加,ゴミの不法投棄の誘発,水害・土砂災害の増加
■鳥獣害の発生
→営農意欲の減退,耕作放棄地の拡大への影響
■空き家の増加
→治安の悪化や景観の悪化,進まない空き家の活用
■公共交通の利便性の低下
■小児科・産婦人科の減少
→マイカー依存の生活
→若い世帯の定住への障害
b) 周辺エリアの望ましい姿
前述の課題を解決していくための周辺エリアの理想
像について,以下のように提案する.ただし,周辺エリ
ア単独では,その実現が困難であり,集約拠点と「強
み」「弱み」を相互に補完・依存するクラスター型コン
パクトシティを目指していく必要がある.
■好きで住んでいる人は,静かな環境が維持されたまま住み続けられ
る.
■資金的な問題で転居できず住み続けている人は,集団移転による
道路管理等の行政コストの縮減との対比によって十分な効果があ
ると判断された場合に行政が主導して公営住宅などへ転居できる.
■一定のまとまりのある集落へ集約することで,除雪や冬期転居等の
行政サービスの負担が軽減している.
■拠点集落では,生活感のある空き家を活用した心因的負荷の小さ
いグループホームが整備されている.
■地域資源であるジビエの加工施設や流通体制が整い,獣害が軽減
する.
■生産効率の悪い場所でも地産できる量程度が収穫でき,現金収入
になる.
■ITC の発展により
→地域診療所でおおむねの事が対処可能となる.
→対処できない時,ドクターヘリなどの緊急要請が速やかに行える.
→買い物や学習,娯楽等で困ることがほぼない.
c) クラスター型コンパクトシティ形成に向けて周辺エ
リアで考えるべき視点
21
的に借りを作らないこと
【役割分担】
得意とする分野で効率よく社会全体に向けて価値を生産
すること
【持続性】
役割分担に基づく価値の交換や循環が長く持続すること
【互恵性】
自然や生態系を守る「連帯責任」を役割分担に基づき負
担し,自然や生態系から得る「連帯利益」を役割分担に
基づき分配すること
(集約拠点)
■集団移転のメリット
・通院や買い物が便利になる
・公共交通への漠然とした不安がなくなる
・田畑も比較的に多く残り,のどかな風景(圃場整備も可能)
・移転前に比べ坂道が少なく,道路も舗装しており,移動しやすい
・住民共同活動の支援も期待できる
イ むらおさめのあり方
総務省が平成23年に実施した「過疎地域等における集
落の状況に関する現状把握調査」によれば、今後10年以
内に消滅の可能性のある集落は454集落,いずれ消滅す
る集落は2342集落あり,ある程度集落が消滅するのはや
むを得ない状況である.しかし,なしくずし的な消滅を
待つのではなく,残存世帯の世帯員のQOL(生活の
質)を最後まで維持しながら,積極的な撤退を行ってい
くことが必要である.ただし,撤退にあたっては,その
集落の跡地管理や集落独自の知恵や技術を伝承していく
ため,以下のような取り組みが必要である.
(周辺エリア:拠点)
図-8 集約拠点との互恵関係イメージ
■集落消滅後における集落内の農林地と家屋の管理
(出典)「人口減少時代に適応した新しい地域づくり」p16を一部加筆
→集落構成員の死去に伴う遺産相続をスムーズにし,資産の流
動化を促すための目録化が必要
ⅱ) 拠点以外のエリアへの対応のあり方
拠点以外のエリアについての対応について,「余力
を残した段階での集団移転」のあり方と「むらおさめ」
のあり方について提案する.
ア 集落再生の余力を残した段階での集団移転のあり方
まずは,余力を残さない消極的な撤退を行えば,生
活全般への急激な変化はない分,徐々に地縁組織や共同
体組織は消滅し,出て行った若い世帯は戻らず,逆に子
どもたちから都市的な生活(強制的な移住)を強要され
ることも想定される.
一方,余力を残した段階の集団移転では,生活全般
の変化は大きいが,農村的な生活も可能であり,場所は
違うが地縁組織・共同体組織は維持され,若い世帯が戻
ってくることも可能であることから,まだ動けるうちに
積極的(自主的)な移転を行うメリットの方が大きいと
いえる.その具体的なイメージは以下に示すとおりであ
る.
■集落に蓄積された知恵のアーカイブ
→集落内に伝わった習慣や宗教行事,農林業技術などの知恵,
文化,民俗の目録化が必要
ⅲ) 適正な跡地管理への対応のあり方
跡地利用で問題となるのは,前述のとおり,所有者
の分からない土地が多く発生することで,その土地が管
理されなくなり,もともと有していた機能が低下すると
ともに景観の悪化やごみ問題などの新たな問題が発生す
ることである.そのため,以下のような取り組みを行っ
ていくことが必要である.
■荒廃人工林への対応
→強間伐による針広混合林
→カーボンオフセットの導入による森林整備
■耕作放棄地やその直前の田畑への対応
→選択と集中による田畑の耕作(田畑として存続)
→復田も考えた田んぼの放牧地化・自然地化
■使用頻度が低い・使用されなくなった道路への対応
→管理の簡素化(撤収を含む)
■実施のポイント
→ゴミ投棄防止のための進入禁止
→地縁がつくる安心感が維持されるコミュニティ転居(同時に
同じ場所へ)
6. 持続可能なまちを支えるコンパクトシティ施策検討
の進め方(富山市をケーススタディとして)
(1) コンパクトシティを目指す理由
富山市では,大きく以下の3点よりコンパクトシテ
ィを目指している.
・自動車を利用できない市民のモビリティに対する懸念
・公共サービスの提供の有効性と効率の低下が見込まれ
ること
→もともと交流がある地域への移転は,移転先との合意形成が
図られやすい
→流域の視点を導入し,水でつながっている「運命共同体」へ
の移転の方が協力を得やすい
■移転先イメージ
→小児科等の病院の立地を考慮すると,概ね5万人程度の都市
→鉄道によって,中規模以上の都市に繋がっている地方小都市
22
中心部等への投資妥当性についての市民説明には,
市税の約5割を占める固定資産税・都市計画税のうち
22.3%が,面積でわずか0.4%の中心市街地によるもの
となっており,中心部を活性化させるための投資を行い
地価の下落を抑えることが,市全体へ再投資することが
できるという説明がされてきている.
・中心市街地の衰退,地価下落,固定資産税の減収
(2) コンパクト化に向けての取り組み
市では,地域サービス(商業,医療,福祉,行政サ
ービスなど)の利便性向上のため,公共交通体系を改善
しモビリティを強化し,都市機能を中心市街地および鉄
道やバス路線に沿った地域に集中させる「富山コンパク
トシティ・モデル」を提案している.
図-9 富山市のコンパクトシティ像
(出典)富山市資料
市では,居住推進地区の人口増加を目指している.
バス路線沿線の目標人口密度は,将来的に都市地域
図-10 固定資産税・都市計画税の地域別内訳
と定義する水準の40人/ha(現在の密度は34人)とし
(出典)富山市資料
ている.鉄道沿線の目標密度は50人/ha(現在の密度
は44人)としている.
(3) 持続可能なまちを支える施策検討の進め方
また,この目標を達成するために下表に示す様ざ
今後,著しい人口減少や生産年齢人口の減少に向か
まな助成を実施し,規制ではなく誘導的に都市構造
う中,基礎自治体において最も大きな問題になると考え
の展開を目指している.
られることは,自治体経営の持続可能という点である.
表-3 市の助成制度
この点では,コンパクトシティは,これまでの課題解決
対
型の政策として位置づける像ではなく,必然として市民
象
対象者
助成対象となる費用
助成限度額
区
や議会に理解してもらい積極的に手を打つべき(バック
域
キャスティングすべき)政策であるといえる.
都 建 設 事 業 共同住宅の建設費用
100 万円/戸
そのためには,まず,ビジョンとして揺るぎないコ
心 者
優良賃貸住宅の建設費用
50 万円/戸
ンパクトシティ像を形成することが,持続可能なまちを
地
オフィス・商業ビルを共同住 100 万円/戸
区
宅に改修する費用
支えるための第一歩である.行政の目指すところが明確
共同住宅内に店舗,医療・福 2 万円/m²
になることで民間投資の誘導についても期待できる.
祉施設を整備する費用
次に,選択と集中に対して説得力を持つデータを示
住 宅 を 購 住宅または共同住宅の 1 戸を 50 万円/戸
す必要がある.そのためには,社会資本ストック(道路,
入 ・ 賃 借 購入するための借入金
橋梁,公園,上水道,下水道,河川施設,除雪,ごみ処
する市民
まちなかに転居して賃貸住宅 1 万円/月(3 年
に入居した場合の家賃
間)
理等の市民サービス,場合によっては山間部の棚田等の
公 建 設 事 業 共同住宅の建設費用
70 万円/戸
水源涵養機能など)や,人口動態等の GIS 化を図る必要
共 者
優良賃貸住宅の建設費用
共有スペースの
がある.
交
費用の 3 分の 2
また,都市の状況は結果であり市民には,施策の効
通 住 宅 を 購 住宅または共同住宅の 1 戸を 30 万円/戸
沿 入 ・ 賃 借 建設・購入する費用
果(逆に無策の場合のデメリット)が見えにくい.その
線 する市民
(二世帯住宅用特別加算)
(10 万円/戸)
ため,GIS データ整備後の分析としては,集約に向けた
(外部からの転居者に対する (10 万円/戸)
積極的な誘導シナリオ(WITH)と現状趨勢のシナリオ
特別加算)
(WITHOUT)によって非効率な状況をどれだけ回避でき
23
ているかを表現することが良い.
さらに,コンパクトシティの実現による行政コスト
の縮減を図るためには,5.(3)周辺エリア(郊外部)の
あり方検討のうち,ⅲ)適正な跡地管理への対応のあり
方で示したとおり,手放すストックや管理レベルを押さ
えるストックを増やしていく必要がある.
これは,図-11 に示すとおり,いずれの自治体におい
ても社会資本の整備,維持管理における財政制約は喫緊
の課題であるが,多くの自治体ではまだこの問題を如何
に解消すべきかについては取り組まれていない.(例え
ば,道路整備計画は新設投資,橋梁長寿命化計画は更新
費に該当し,社会資本トータルで如何に圧縮していくか
の検討は皆無である.)
7. 結び
コンパクトシティの概念は,自然環境や農地を守る
ための都市の拡大の抑制策から,持続可能性を含む多目
的政策へと進化してきた.今やコンパクトという言葉を
当てはめることを見直す必要があるのではないかとの意
見もあるようである.
国際的には,大都市における都市緑化やブラウンフ
ィールドなどの低未利用地の有効利用などの事例に見ら
れるように,歴史や環境の保全,都市の魅力を高める持
続可能なまちづくりの側面が強いが,日本のコンパクト
シティ政策は人口減少に向かう局面での必然であり,コ
ンパクトシティに向かう中でインフラの整備や維持管理
のあり方を見直す喫緊の課題であることを整理した.
この著しい超高齢化や人口減少局面におけるわが国
のコンパクトシティ政策のあり方は,今後,追随する先
進国からの注目が高まることが予想される.
参考文献
1) コンパクトシティ政策――世界5 都市のケーススタ
ディと国別比較 © OECD 2012
2) 海道清信「コンパクトシティの計画とデザイン」,
学芸出版
3) 国土交通省HP「低炭素まちづくり推進法」
4) コンパクトシティ事例「青森市HP,仙台市HP,
富山市HP,宇都宮市HP,東北地方整備局HP」
5) 総務省HP「定住自立圏構想」
6) (財)国土地理協会HP「定住自立圏情報」
7) (社)中部経済連合会「人口減少時代に適応した新
しい地域づくり(H22.3)」
8) 総務省「過疎地域等における集落の状況に関する現
状把握調査(H23.4)」
9) (株)建設技術研究所,「地域社会の安心に関する
調査業務報告書(H24.2)」
10) 林直樹,齋藤晋編著「撤退の農村計画(H23.7)」,
学芸出版
11) 東日本大震災復興構想会議「復興への提言~悲惨の
なかの希望~(H23.6.25)」
12) (財)農村開発企画委員会「平成18年度 限界集落
における集落機能の実態等に関する調査(H19.3)」
図-11 維持管理費の増加と更新費の不足
(出典)業務過程においてイメージとして新規作成
以上のことから,将来,人口が減少することで1人
当りの行政コストが著しく増大する.
また,現在の社会資本の更新,管理の方法を続けた
場合,将来的には現在の維持管理費相当分の土木費しか
なくなり,災害復旧費,更新費が確保できなくなり,適
正な都市行政が破たんする.
そのため,図-12に示すとおり,社会資本の更新,管
理のやり方を見直し,かかるコストを圧縮することによ
り,30年後には,少ない土木費の中で,災害復旧費,更
新費,維持管理費を賄うことが必要となる.財源となる
土木費も他の歳入項目との調整により可能な限り確保す
る努力が必要である.
図-12 社会資本整備・管理費の原資確保・圧縮イメージ
24
RESERCH ON COMPACT CITY FOR SUSTAINABLE DEVELOPMENT
FOR SMALL CTIY IN JAPAN
Taisuke OKADA, Nobuo TSUCHIYA and Tsukasa GORAI
Japan has become the aging society and needs to cope with it in addition to global warming, that is we
need to think sustainable communities. Then compact city has been discussed that can be a solution of
these prblems, but it is so difficult to change urban structure.
In this paper, some problems of sustainable development for compact city are made clear through
examples and researches, and important things we have to study hard are informulated
25
観光事業開発研究
原田 邦彦1 木村 達司2 牛来 司3 和泉 大作4
菅原 浩一5 宮 加奈子6 田中 文夫7
1株式会社建設技術研究所
国土文化研究所
(〒103-0013 東京都中央区日本橋人形町2-15-1(フジタ人形町ビル6階))
E-mail: harada-kunihiko@ctie.co.jp
2技術士(総合技術監理部門・建設部門)株式会社建設技術研究所
国土文化研究所
(〒103-0013 東京都中央区日本橋人形町2-15-1(フジタ人形町ビル6階))
E-mail: tt-kimur@ctie.co.jp
3技術士(総合技術監理部門・建設部門)株式会社建設技術研究所
東京本社都市システム部
(〒103-8430 東京都中央区日本橋浜町3-21-1)
E-mail: gorai@ctie.co.jp
4技術士(総合技術監理部門・建設部門)株式会社建設技術研究所
九州支社環境・都市室
(〒810-0041 福岡県福岡市中央区大名2-4-12シーティーアイ福岡ビル)
E-mail: d-izumi@ctie.co.jp
5株式会社建設技術研究所
東京本社営業本部事業推進部
(〒103-8430 東京都中央区日本橋浜町3-21-1)
E-mail: sugahara@ctie.co.jp
6株式会社建設技術研究所
国土文化研究所
(〒103-0013 東京都中央区日本橋人形町2-15-1(フジタ人形町ビル6階))
E-mail: k-miya@ctie.co.jp
7株式会社建設技術研究所
国土文化研究所
(〒103-0013 東京都中央区日本橋人形町2-15-1(フジタ人形町ビル6階))
E-mail: f-tanaka@ctie.co.jp
我が国の次代の施策として最も注目を集めている「観光立国」については、国の重点施策にあげられ、
省庁横断で様々な事業が計画されている.当社でも、これまで新しく観光事業を立ち上げるべく試行錯誤
が繰り返され、一部は地方自治体の観光政策立案事業として具体化してきた.
本研究では、当社が得意とするインフラへのハード的な知見をはじめ、別途研究の進められてきている
日本橋再生研究での観光集客事業の取り組み成果等の知見をもとに、地域経済再生、地域活性化の実現に
資する観光政策提案の事業スキームを構築し、社会資本の意義と等しく感じられるような観光振興検討の
ガイドチャートを作成する.
Key Words : Japan Tourism ,Regional vitalization,Tourism Promotion,Guide chart
課題となっており、観光まちづくりを通した地域活
性化に期待する自治体は確実に増えている.観光振
興を復興の基軸と考える東日本大震災で被災した自
治体等では、観光振興と地域活性化は切実な問題と
なっている.
観光を後押しする事業や制度が整備され、今後ま
すます観光まちづくりに取り組みたい自治体が全国
各地で増えていく中で、当社の観光事業も、地方自
治体や市町村等から観光仕組み作りの計画策定や地
域活性化計画策定などでの業務委託として一部は実
現しているが、これらの事業により、より自律的・
1. はじめに
我が国の次代の施策として注目を集めている「観
光立国」については、国の重点施策にあげられ、省
庁横断で様々な事業が計画されている.また、「着
地型観光」「ニューツーリズム」といった新しい観
光のキーワードを耳にする機会も増えており、地方
自治体を中心に「観光まちづくり」への取り組みは
加速している.
一方、人口減少や高齢化が進行する中、多くの地
方自治体では地域経済の活性化、地域振興が大きな
26
f.地域にプラスの効果を与え続ける取り組みを見つ
ける
観光振興ビジョンに必要なソフトやハードの取り
組みに対して、観光客の満足度、地域への波及効果、
経済性等の効果を検証することにより、観光客や地
域にプラスの効果をバランスよく与え続ける取り組
みを見つける方法を分析する.
(2) 研究の進め方
上記のaからfの視点を中心に、本研究では図-1に
示すような観光振興検討の流れを構成する.
また、本研究では実際に観光振興を望む自治体を
フィールドとしたケーススタディを行うことにより、
提案する観光振興検討の手順や考え方の妥当性を評
価する.
循環的な成長を達成している地域はまだまだ少ない
のが現状である.
そこで、「観光振興を通した持続可能な地域活性
化」を実現すべく、当社のこれまでの観光関連業務
の実績と、別途進めている日本橋観光集客事業の取
り組み成果等の知見を背景に、より現実的な計画提
案や事業提案が可能で、確実性の高い事業展開につ
なぐことができる観光振興検討の手法について研究
する.
以下、本研究では、2.において本研究の方法や
進め方を示す.次に、3.において本研究で開発し
た新しい観光振興検討の手法をまとめる.4.では
新しい観光振興検討の妥当性を検証したケーススタ
ディの結果をまとめる.最後に5.において本研究
で得られた成果と課題をまとめる.
2. 研究の概要
(1) 研究の方法
本研究では、以下のような観光振
興検討の6つの視点に立ち、それぞ
れの具体的な方法を分析する.
a.観光の“強み”と“弱み”を見つ
ける
観光に関する地域資源やサービス
の現状及び取り巻く社会経済の現状
を把握することにより、地域の観光
の強みや弱みを見つける方法を分析
する.
b. 観光振興のビジョンを見つける
地域資源やサービスの強みと弱み
の分析から、観光振興のビジョンを
見つける方法を分析する.
c.地域に必要な資源やサービスを見
つける
目指すべき観光振興のビジョンが
実現したと想定し、ターゲットとな
る観光客の目線に立って、地域での
観光行動や意識をシミュレーション
することにより、地域に必要な資源
やサービスを見つける方法を分析す
る.
d.解決すべき本当の課題を見つける
ターゲット分析により想定された、
地域に必要な資源やサービスに対し
て、関係する資源やサービスの現状
とのギャップから、観光振興の本当
の課題を見つける方法を分析する.
e.優先度の高い施策パッケージを見
つける
解決すべき課題に対して、観光客
に対する効果や難易度なども考慮し
た、優先度の高いソフト施策とハー
ド施策の組み合わせを見つける方法
1 観光の現状分析
地域の総合的な環境分析(3C分析)
観光客/競合地域/ 自地域
地域資源の要因分析(SWOT分析)
強み/弱み/機会/脅威
2 観光振興ビジョンの策定
観光振興のテーマの設定
ビジョンの策定
3 ターゲットの分析
ターゲットの観光行動の
シミュレーション
地域に必要な資源やサービス
4 観光振興の課題整理
ギャップ
地域に必要な資源やサービス
資源やサービスの現状
(乖離)
観光振興の“真の”課題の整理
5 観光振興の取り組みの立案
観光客への効果、難易度などを考慮した取り組みの検討
(優先度の高い施策パッケージ)
6 持続可能性の検討
プラスの効果を与え続ける取り組みの検討
(観光客の満足、地域経済への貢献、地域住民へのプラス効果)
を分析する.
図-1
27
観光振興検討の流れ
表-1 SWOT 分析表
強み(Strength)
弱み(Weakness)
他地域と比べて優れて 他地域と比べて劣って
いる要因
いる要因
機会(Opportunity)
脅威(Threat)
事業に追い風となる要 事業に逆風となる要因
因
(2)観光振興のビジョンの策定
a.観光振興のテーマの設定
SWOT 分析をベースとした「強み」「弱み」の内部要
因と「機会」「脅威」の外部要因とのクロス分析から、
地域が目指す観光振興のテーマと方向を策定する.
【SWOT 分析をベースとしたクロス分析の考え方】
「機会」×「強み」:
「機会」を最大限に活用しながら自地域の「強み」
を伸ばしていくためのポイントを示すものであり、
観光振興のテーマとなる.
「機会」×「弱み」:
「弱み」により観光振興のビジョン達成の「機会」
を逃さないためのポイントを示すものであり、「弱
み」の改善に必要な方向を示す.
「脅威」×「強み」:
観光振興のビジョン達成の「脅威」を回避するため
のポイントを示すものであり、「強み」そのものの
価値を向上させ、他地域との差別化に必要な方向を
示す.
「脅威」×「弱み」:
観光振興のビジョンが「脅威」や「弱み」で失敗を
招かないためのポイントを示すものであり、避けら
れない「脅威」や「弱み」に対する観光振興の方向
を示す.
表-2 観光振興のテーマの設定
内部要因
強み
機会
弱み
ビジョン達成の機会を逃さな
観光振興のテーマ
いための方向
ビジョン達成の脅威を回
ビジョンの失敗を招かない
(弱みの改善)
脅威
外部要因
(1)観光の現状分析
a.環境分析
観光振興検討の最初のステップでは、対象となる地
域及びその地域を取り巻く環境の把握を行う.本研究で
は、図-2に示す「Customer(観光客)」「Community(自
地域)」「Case(事例)」の頭文字を取った3C分析※と
いう環境分析の手法を用いる.
※3C分析:通常、企業の商品開発の際等に用いられる
手 法 で あ り 、 「 Customer ( 顧 客 ) 」
「Company(自社)」「Competitor(競合企
業)」の頭文字を取ったものである.
①観光客の分析(Customer)
自地域がターゲットと想定する観光客がどのような
ニーズを持ち、どのような視点で自地域と他地域を比
較して、自地域の何に価値を見出して選択しているの
かを分析する.この時、想定する観光客を狭くしすぎ
て、観光客の真のニーズをとらえ損ねないよう注意が
必要である.
②自地域の分析(Community)
自地域の資源やサービスを把握することにより、観
光振興の方向やポテンシャルを分析する.この時、他
地域での取り組みと比較し、差別化できる要因は何か、
そして、自地域は観光客に対してどのような価値を提
供できるのかを分析する.
③事例の分析(Case)
他地域の地域資源やサービス、それらを活用した観
光振興の状況を把握する.この時、上記の観光客に対
して、他地域ではどのような取り組みを行っているの
か、自地域との戦略の違いは何なのかも分析する.
b.資源の要因分析
環境分析で総合的に分析した自地域の主な資源やサ
ービスについて、表-1に示すように内部要因(強み、弱
み)と外部要因(機会、脅威)のそれぞれの観点から分
析するSWOT分析を行い、地域がもつ潜在的な資源やサー
ビスについても掘り起こす.
内部要因 外部要因
3. 観光振興検討の手法
避するための方向
ための方向
(強みの差別化)
(避けられない脅威や弱みへの対応)
Customer:観光客
市場環境の規模・成長状況等→観光客の真のニーズ
価値の提供
価 値 の 選 択
Community:自地域
差別化要因
自地域の資源やサービス→自地域のポテンシャル
Case:事例
他地域の観光振興策→競合事例、参考事例
図-2 環境分析(3C 分析)の概念
28
設定した観光振興のテーマについては、環境分析や
SWOT 分析などで整理した様々な地域資源や要因から、
背景となる状況を整理するとともに、テーマの目的や主
な取り組みの方向について分かりやすく整理することも
重要である.
b. 観光振興ビジョンの策定
ここでは、観光振興のテーマの実効性の高さとインパ
クト、また、各テーマの相互作用による効果等に着目す
るとともに、地元住民や行政職員ら関係者とのディスカ
ッションを踏まえ、地域が目指すべき観光振興ビジョン
を策定する.
ビジョンの策定にあたっては、地域の歴史風土や環境、
社会情勢などから、地域の価値を表現する特定のキーワ
ードを見つけることが重要である.また、そのキーワー
ドは、今後の様々な観光振興を通して地域で観光客に感
じてもらいたい感情を具現化したものとするのがポイン
トである.そのようにして策定したビジョンは、行政、
市民、事業者に地域イメージの共有化を促し、テーマに
合わせた観光振興のプラットフォームづくりにも効果的
である.
内部要因
外部要因
強み
弱み
機会
外部要因
脅威
次に観光客がどんなニーズを持っていて、何に価値を
見出すのか.また、そんな観光客のニーズに対して、観
光振興ビジョンはどんな価値を提供するのか.それを知
るために「観光客と地域」の物語を紡ぐ作業が必要であ
る.ここでのポイントは、自分が観光振興ビジョンのタ
ーゲットになったつもりで物語を紡ぐことである.自分
が観光客だったらどう行動し、どう感じるか.なるべく
多くの計画関係者が、自分の価値軸で一連の観光行動を
考えることにより、漏れのない、きめ細やかな観光振興
の検討が可能になるとともに、観光振興ビジョンの方向
性の共有化にもつながる.
表-3 ターゲット設定の視点
□趣味・嗜好(最近注目しているモノ、コト)
□ライフスタイル(普段の生活行動、休日の過ごし方など)
□旅行の志向、スタイル(一人旅、日帰り観光など)
など
観光客の行動は、観光前日までと観光当日とに大別で
きる.観光前日までは、どんなことがきっかけで旅行し
ようと思ったのか、また、どんなことが決め手となって
旅行先を決めたのか等について想像する.観光当日は、
旅のテーマとなるコア施設及びコア施設に至る過程にお
いて、どんなことで満足感が得られたのか、また、コア
施設以外においても、どんなことで満足感が得られたの
かについて想像する.特に旅のコアとなる資源や施設は、
観光振興ビジョンの中心となることから、十分な時間と
適正な人員によるおもてなし、豊富なコンテンツが提供
されることを前提として想像する必要がある.
表-4 サービス利用シーンのシミュレーションシート
観光振興のテーマ
テーマの実効性、
インパクト
観光振興ビジョン
観光前日まで 観光当日
旅の
コア
「地域の価値」を表すキーワード
ターゲットの観光行動
のシミュレーション
○旅行しようと思ったきっかけ
○旅行先を選んだ決め手
など
地域に求められる
資源やサービス
○満足感や癒しが得られた資
源やサービス
など
(4)観光振興の課題整理
ターゲットの観光行動のシミュレーションから明らか
となった“地域に求められる資源やサービス”について、
(3)ターゲットの分析
現時点の状況とのギャップを検証することにより、解決
観光客については、背景やニーズが様々であるため、
観光振興ビジョンに応じたターゲットを絞り込むことが、 すべき課題を整理する.
このギャップの分析では、地域に求められる資源やサ
観光振興の効率的な実現を果たすためには有効である.
ービスが整った状態を、観光振興のビジョン(理想)が
ターゲットの設定にあたっては、SWOT 分析で整理し
た地域の観光基盤や、現代の観光客の志向や動向等から、 実現した姿であるとするが、理想と現実の間には常にギ
ャップ(乖離)が存在する.このギャップこそが解決す
ターゲットの居住エリアをある程度絞り込むことから始
べき課題となる.
める.その上で、策定した観光振興ビジョンやテーマに
また、ギャップを検証する際、現在の資源やサービス
合致する趣味や嗜好、ライフスタイルを有する人々に着
で、そのまま使えるものがあるか、改善すれば使えるも
目し、ターゲットとして設定する.
図-3 観光振興のテーマ設定の概念
29
フトとハードの施策パッケージを、優先度が高く、短期
に実施すべき施策パッケージとして位置づけることが可
能となる.
のがあるかといった観点で整理するとともに、これまで
うまくいかなかった理由や足りない点等についても検証
することが重要である.
理 想
Vision
観光振興の課題
地域に求められる
資源やサービス
=
ギャップ
観光客の
満足度
解決すべき本当の課題
現 実
Now
資源やサービスの現状
ソフト
施策
図-4 ギャップ分析による解決すべき課題の抽出
表-5 観光振興の課題の抽出シート
地域に求められる
観光振興
関係する資源やサービスの現状※
資源やサービス
の課題
□現在の資源やサービスでそのま
ま使えるものはあるか
□現在の資源やサービスで改善す
れば使えるものはあるか
□現在の資源やサービスの足りな
い点、うまくいっていない理由は
何か
など
取り組みの
難易度
ハード
施策
ソフト
施策
ハード
施策
観光客の満足度に対する
効果が最も高く、かつ実
現性が高い
観光客の満足度に対する
効果が低く、かつ実現性
が低い
優先度の高い施策パッケージ
優先度の低い施策パッケージ
図-5 優先度の高い施策パッケージの抽出
(6)持続可能性の検討
持続可能な地域づくりと地域活性化を実現していくた
めには、観光振興の取り組みが、観光客だけでなく、地
域経済、社会に対してバランスよくプラス効果を与え続
けることが重要である.
本研究では、観光客の満足(Demand)、地域経済への
貢献(Distribution)、地域住民へのプラス効果
(Destination)といった持続可能性の評価指標となる
3つのDを定め、3Dへのバランスの良い効果の発現を
検証することにより持続可能な地域活性化方策の検討を
行う.観光客の満足については、資源やサービスに対す
るプラス感情の継続性と、リピーターとしての満足度を
検証する.地域経済への貢献については、地域に対する
認識やイメージ、また、地域における消費活動や滞在時
間等の貢献度を検証する.地域住民へのプラス効果につ
いては、住民の雇用創出や健康増進、生活環境の向上等
の効果を検証する.
※資源やサービスの現状は、3C 分析における自地域の分析結果や
SWOT 分析における内部要因を参考に整理
(5)観光振興の取り組みの立案
地域に求められる資源やサービスの課題を解決し、観
光振興ビジョンを着実に実現していくためには、効果的
なソフトやハードの取り組みを展開、連携していく必要
がある.
その際、必要な観点として、観光客の観光行動におい
てどのような満足度につながるのかの位置づけと、難易
度を考慮した取り組みの時系列の整理が重要であり、観
光客の満足度に対する効果が最も高く、かつ実現性の高
いソフトとハードの組み合わせが、優先度の高い施策パ
ッケージとなる.
観光客の満足度については、以下のような3つの視点
での分類が可能であり、それらが重複するほど観光客に
対する効果が高い取り組みとなる.
誘致力向上:旅行に対する「気軽さ」や「安心感」を
感じる.観光客の誘致力を高める.
魅力向上:観光地において「快適さ」や「楽しさ」、
「癒し」を感じる.観光地の魅力を高
める.
1 ランクUP:観光地において「めずらしさ」や「身
になる」を感じる.1ランク上の観光
地を目指す.
ソフト、ハードの取り組みの難易度については、取り
組みへの支援の有無や事業費の大きさ、合意形成のしや
すさ等から取り組みの容易性を定性的に評価する.
これにより、観光客への効果が高く、難易度が低いソ
観光客
の満足
Demand
バランス
地域経済
地域住民
への貢献
Distribution
へのプラス効果
Destination
図-6 観光振興の 3 つの“D”
30
4. ケーススタディによる検証
内部要因
(2)観光振興ビジョンの策定
a. 観光振興のテーマの設定
観光の SWOT 分析結果から、野田市の観光振興のテー
(1)対象地区の観光の現状分析
マを策定する.ここでは「機会」を最大限に活用しなが
a.対象地区の概況
ら「強み」を伸ばし、最も積極的に経営資源を注力して
本研究では、千葉県野田市をケーススタディ対象地区
いく方向として「強み」と「機会」のクロスから、以下
とした.野田市は、東京近郊に位置しながら豊かな自然
の6つの観光振興のテーマを策定した.
や歴史文化が残るという、観光振興のポテンシャルの高
1 自然体験型観光
い地域であるが、それを十分に活かしきれていない側面
2 歴史を活かした街なか観光
もある(当社分析から).
3 食観光(フードツーリズム)
概況を整理すると、野田市は人口約 15 万7千人、市
4 サイクリング観光
域面積約 100 平方キロメートル、千葉県北西部に位置し、
5 農業観光
東京都心からは約 30 ㎞、千葉市からは約 45 ㎞と、県庁
6 産業観光
所在地より東京が近い立地環境にある.周囲は利根川、
b. 観光振興ビジョンの策定
江戸川、利根運河等の河川に囲まれており、江戸時代は
6つの観光振興のテーマの中で、実効性の高さとイン
水上交通の要衝として栄え、水運をいかした醤油醸造の
パクト、また、6つのテーマの相互作用による効果に着
まちとして発展した.
目するとともに、野田市関係部署の担当職員とのディス
b.観光の現状分析
カッションを踏まえ、野田市が今後目指すべき観光振興
野田市での観光の現状分析の結果を表-6 に示す.観
ビジョンを、『水辺や緑地空間での体験型観光と、市街
光の強みとしては、特に豊かな自然環境があげられ、近
地での街なか観光が一体となった日帰り観光の構築』と
年、利根運河沿いの江川地区ビオトープにおいて、今後
策定した.
予定されているコウノトリの放鳥は、野田市の観光事業
また、市内外における観光振興ビジョンの共有化を促
開発の大きな契機になると考えられる.また、しょうゆ
進するため、キャッチフレーズとして「気軽にのんびり
産業に関連する近代遺産がまちのそこかしこに点在して
野田探訪」を設定した.これは、野田市の立地環境や資
おり、それらも重要な観光資源としてのポテンシャルを
源特性から、遠方からではなく主に東京近郊の住民が、
有する.他には東京近郊にもかかわらず盛んな農業や、
かしこまらずに行ける観光をイメージしたものであり、
大規模な自転車道等の充実したスポーツ環境等がある.
野田市のいろいろな観光資源を周りながらのんびり過ご
一方、観光の弱みとしては、東京からのアクセス環境
す観光をイメージしたものである.
の弱さや観光資源のネットワーク不足に加え、インパク
トのある観光資源がないことや、観光振興を先導してい
く組織や財源がないことがあげられる.
(3)ターゲットの分析
表-6 野田市の SWOT 分析結果
a. ターゲットの設定
強み
弱み
SWOT 分析で整理した野田市の観光基盤の現状や、現
①自然地ネットワークの未形成
①豊かな自然・生態系
代の観光客の志向や動向等から、ターゲットの居住エリ
②しょうゆ産業と近代遺産、利根川舟 ②歴史・文化の喪失(物語の断絶)
③歩行者、自転車の空間不足
運の歴史
アを絞り込み、その上で、策定した観光振興ビジョンや
④インパクトのある観光資源、特産品、
③安全な農作物(枝豆など)と販売所
土産物がない
④充実したスポーツ環境や公園施設
テーマに合致する趣味や嗜好、ライフスタイルを有する
⑤宿泊飲食施設が不十分
⑤寺子屋講座の存在
人々に着目し、ターゲットを設定する.
⑥市街地景観が雑然とし、魅力がない
⑥16 号沿いの工場群
⑦サイン、緑陰、トイレ、休憩施設など
⑦大規模自転車道
野田市の観光振興ビジョンのターゲットは、首都圏在
の不足
⑧江戸期以来のせんべい
⑧観光振興の中枢となる組織体制が
⑨昭和レトロの雰囲気
住のファミリーや中高年層で、自然や歴史、まち歩きや
弱い。財源が少ない
⑩活動的な NPO・ボランティア団体
サイクリングに興味があるといった属性を設定した.
⑨東京からのアクセスが弱い
外部要因
機会
①食の安全志向
②健康志向と生涯スポーツ
③時間と体力のある高齢者の増加
④都市近郊の自然・生態系への関
心の高まり
⑤農業ビジネスの活性化
⑥観光目的の多様化
⑦地産地消に対する関心の高まり
⑧TX の開通による都心アクセスの
改善
⑨「安近短」の旅行ブーム
⑩利根運河を軸としたエコロジカル
ネットワークの動き
⑩近代遺産の多くが非公開
脅威
①節約ムードと一点豪華主義
②企業、個人の所得減少
③車離れ社会
④若い世代の旅行離れ
⑤長期滞在型へのシフト
⑥日帰り観光地の普及・増大(競
争相手の拡大)
⑦LCCの普及・増加(競争相手の
拡大)
⑧放射能ホットスポットの風評
野田市の観光振興ビジョンのターゲット
●首都圏近郊で家族と 1 日のんびり過ごしたいと思って
いる都心住民
●都心在住で、比較的お金と時間に余裕のある中高年層
●自然観察または自然の中での過ごすことが好きな人
●街の歴史文化に興味がある人
●街歩きやサイクリングに興味がある人
31
b. 観光行動のシミュレーション
表-7 に、設定したターゲットの目線で、野田市を訪
れる前日までと当日における観光に関する行動について、
物語を紡ぐように整理した.
特に観光前日までは、野田市の観光情報の入手に関す
る行動について、観光当日は、駅からのアクセス、ビオ
トープにおける野鳥観察、中心市街地でのまち歩き等の
行動についてシミュレーションした.
このシミュレーションにより、「観光のコンシェルジ
ュサービス」や「コウノトリの観察環境」、「快適な歩
行空間」等、観光振興ビジョンに必要な地域資源やサー
ビスが明らかになった.
表-7 自然体験型観光のターゲットのシミュレーション
ターゲットの観光行動のシミュレーション
・ネットの口コミで、東京から気軽に行けて、自然観
察や街歩きができ、1 日のんびり過ごせる場所
観光前日まで
があると知った。
・実際に行った人の感想を読み、非常に興味を持
ち、観光の窓口に連絡してみた。
・居住地や旅行人数、行きたい場所等を伝えると、
簡単な日帰り旅行プランを作ってくれた。
・地元の人しか知り得ないような穴場スポットも含ま
地域に求められる
資源やサービス
○第 3 者の視点
による信頼性の
○リアルな昭和の
街並み
○街なかの自転車
利用環境
○旅の記憶に残る
土産物
○温泉施設
高い観光情報
○地域に精通した
観光の総合案
内(観光コンシ
ェルジュサービ
ス)
れており、期待が高まった。
・最初に訪れたビオトープ公園には、駅からの分か
りやすい案内やサインで迷わずに着いた。
・ビオトープ公園の目玉であるコウノトリは、観察施
設の中だけでなく、田園環境の中にいる姿を見
ることができ、それだけでも貴重な体験となった。
・地元の人が中心となった野外活動にも参加し、野
田市の人や参加者同士が仲良くなれた。
・近くの緑地公園では、ビオトープ公園とは違った
自然体験や交流を楽しめた。
・その後、中心市街地に移動する時に乗ったバス
観光当日
がかわいいことと、すぐに乗れたことが好評価だ
った。
・中心市街地には、快適に歩ける歩道やサイン、休
憩施設等があって、歩行者にやさしいまちだっ
た。
・街なかの近代化遺産では、今でも生活しながら保
存展示されているものもあり、リアルな昭和の街
を堪能することができた。
・途中、レンタサイクルで、河川敷の自転車道まで
サイクリングすることもできた。
表-8 自然体験型観光の解決すべき課題
地域に求められる
資源やサービス
○第三者の視点に
よる信頼性の高
い観光情報
○観光のコンシェ
ルジュサービス
○駅からの快適な
アクセス路
○コウノトリの観
察環境
○地元の人が中心
となった野外活
動プラン
○エコロジカルネ
ットワーク
○利便性の高いバ
ス
○快適な歩行空間
資源やサービス
の現状
観光振興の課題
ギャップ
○ソーシャルネットワークサ
ービス等を活用した、信頼
性の高い地域情報の発信
○ガイドブックには載ってい
ない観光プランの提案
○駅からの分かりやすい案内
と休憩ポイントの確保
○他とは違ったコウノトリの
見せ方
○地元住民と来訪者の交流が
発生する仕かけづくり
ギャップ
ギャップ
ギャップ
ギャップ
ギャップ
ギャップ
ギャップ
ギャップ
ギャップ
ギャップ
ギャップ
○エコロジカルネットワーク
の構築
○観光にも対応したコミュニ
ティバス
○中心市街地における安全で
快適な歩行者空間の形成
○時代テーマの共有と官民連
携による街並み景観の統一
○レンタサイクルや自転車走
行空間の整備
○物語性のある土産物の開発
○市内の温泉施設との連携
○駅からの快適な
アクセス路
(5)観光振興の取り組みの立案
野田市の観光振興ビジョンの課題を解決するため、
観光客の満足度に対する効果と取り組みの難易度を考慮
し、優先的に取り組むべきソフトとハードの施策パッケ
ージを提案した.
○コウノトリの観察
環境
○地元の人が中
心となった野外
活動プラン
○エコロジカルネ
表-9 優先度の高い観光振興の施策パッケージ
ットワーク
○利便性の高い
観光振興の取り組み
優先度が高い
優先度がやや低い
バス
○快適な歩行空
SNS等を活用した、
信頼性の高い地域
情報の発信
ガイドブックには載っ
ていない観光プラン
の提案
間
○リアルな昭和の
街並み
○街なかの自転
車利用環境
○旅の記憶に残る
観光にも対応したコ
ミュニティバス
□コンシェルジュサービスマ
ニュアルの作成
□住民による観光コンシェル
ジュの育成
□分かりやすいガイドマップ
等の作成
■ベンチ、案内板等の整備
□観察プログラムの開発
□専門ガイドの育成
□地元住民と来訪者が一緒
に野外活動するメニュー
の開発
□3 市のHPにおける緑地情
報の共有化
■レンタサイクルの整備
□休日ダイヤの導入(観光
対応)
中心市街地におけ
る安全で快適な歩
行者空間の形成
□分かりやすいガイドマップ
等、案内ツールの開発
□主要施設周辺における通
駅からの分かりやす
い案内と休憩ポイン
トの確保
他とは違ったコウノト
リの見せ方
地元住民と来訪者
が交流する仕掛け
づくり
エコロジカルネットワ
ークの構築
土産物
○温泉施設
・市内のお店では、野田市の食材を使った、旅の
記憶に残る特産品をお土産に買って帰った。
・最後に、旅行プランで推薦していた温泉施設でさ
っぱりして帰った。
(4)観光振興の課題整理
ターゲット分析で明らかとなった、観光振興ビジョン
の実現に必要な資源やサービスについて、現時点の状況
とのギャップを検証することにより、解決すべき課題を
整理した.
32
□第三者による情報提供基
盤の整備
□コンシェルジュサー
ビス運営組織の設
立
■トイレ、街路樹(緑
陰)等の整備
■コウノトリ観察ゾーン
の整備
□貸里山プログラムの
開発
■フットパスの整備
■3市の緑地を結ぶ循
環バスの導入
■中心市街地と観光
拠点を循環するシャ
トルバスの導入
■歩道の設置
■歩道のバリアフリー
化
時代テーマの共有と
官民連携による街並
み景観の統一
レンタサイクルや自転
車走行空間の整備
物語性のある土産
物の開発
市内の温泉施設との
連携
過交通の流入抑制
■ベンチ、案内板等の整備
□時代テーマを共有するた
めの街並み協議会の発足
□街並みスタイルのルール
づくり
■コミュニティサイクルの導入
□野田市の歴史や文化にま
つわるエピソードの発掘
□土産物の開発
□市内観光施設利用者の温泉
施設の割引制度の導入
■建物のファサードの統
一
■歩道の拡幅、自転
車との分離
■建物のファサードの
統一
■コミュニティサイクルの
導入
■歩行者と分離した自
転車走行空間の整備
□歴史や文化にまつわ
るエピソードの発掘
□土産物の開発
□市内温泉施設の割引
制度の導入
■シャトルバスの整備
■歩行者と分離した自転
車走行空間の整備
■シャトルバスの整備
★表面的なデザインの統一ではなく、既存建物
等の質感を活かしながら、連続性に配慮する
☆行政が補助金などの支援を実施
★観光客だけでなく、市民が通勤・通学や買い
物、通院等でも利用できるよう配慮する
★中心市街地の駅と、外縁部の自転車道をつな
ぐ、幹線的自転車ネットワークを形成する
☆これまであまり知られていないエピソードにスポ
ットをあてる
☆野田市の短所を長所に変える
☆協力してもらう温泉施設に対する税制優遇など
を実施
★ビオトープや自然地と温泉、温泉と駅をアクセ
スするよう配置する
□ソフト施策 ■ハード施策
5. 結論
(6)持続可能性の検討
観光振興ビジョンのソフトやハードの取り組みが、
野田市の持続可能な地域づくりと地域活性化に貢献する
よう、観光客(リピーターとして)の満足や野田市の経
済への貢献、野田市民へのプラス効果という視点で検証
し、持続可能性に向けた補足事項を表-10に整理する.
本研究では、観光振興を通した地域活性化に取り組む
地域において、地域の資源特性から、目指すべき将来像
と必要な取り組みの方向を明らかにするための考え方や、
各種のソフト・ハードの取り組みをより効果的に相互連
携させるための考え方を、観光振興検討のガイドチャー
トとしてとりまとめた.
今後、千葉県野田市でのスタディ結果を反映するとと
もに、より多くの地域での観光振興検討を踏まえ、実践
的で使いやすいガイドチャートにしていくことが課題で
ある.
表-10 持続可能性に向けた補足事項
観光振興の取り組み
□第三者による情報提
供基盤の整備
□コンシェルジュサービ
スマニュアルの作成
□住民による観光コンシ
ェルジュの育成
□コンシェルジュサービス
運営組織の設立
□ガイドマップ等の作成
■ベンチ、案内板等の
整備
■トイレ、街路樹(緑陰)
等の整備
□観察プログラムの開発
□専門ガイドの育成
■コウノトリ観察ゾーンの
整備
□野外活動メニューの
開発
□貸里山プログラムの開発
□3市のHPにおける緑
地情報の共有化
■レンタサイクルの整備
■フットパスの整備
■循環バスの導入
□休日ダイヤの導入
■シャトルバスの導入
□ガイドマップ等、案内
ツールの開発
□主要施設周辺における
通過交通の流入抑制
■ベンチ、案内板等の
整備
■歩道の設置
■歩道のバリアフリー化
■歩道拡幅、自転車分離
□街並み協議会の発足
□街並みスタイルのルー
ルづくり
持続可能性に向けた補足事項
☆ソフト ★ハード
☆野田市のコアなファンづくり
☆市役所内にSNS責任部署の開設
☆コンシェルジュ勉強会の定期開催
☆コンシェルジュの指名制導入
☆来訪者の属性や嗜好に応じた決め細やかな
プラン提案
☆買い物情報等も交えた幅広いプランの提案
☆住民からの定期的なコンシェルジュの拡充
謝辞:本研究に際し,共同研究の覚書を取り交した千
葉県野田市の関係職員の方々には、有益な情報と助言
を賜りました.ここに記して,深く感謝申し上げます.
☆周辺の買いもの情報等も入れたガイドマップの
作成
★誰もが散策したくなる水辺と一体となった環境
整備
☆観察プログラムの有料化
☆記念グッズの開発
☆地元住民による専門ガイドの育成
☆コウノトリにまつわる物語の作成
☆常に新しい見せ方の工夫
参考文献
1) 特許庁 中小企業支援「知的財産経営プランニングブック」
第Ⅲ章支援の進め方1~現状を把握する~
☆寺子屋講座と連携したテーマの開発
☆プログラム有料化による貸里山管理人の設置
☆3市連携による運営組織の設立
★各緑地で乗り捨て可能なコミュニティサイクルの
導入
★利根運河を軸とし、緑地と主要な駅や施設も結
ぶフットパスの整備や循環バスの導入
☆観光客のピーク時間にあわせたダイヤ調整
★市民も利用できるよう、生活利便施設も経由す
るよう配慮
☆周辺の買いもの情報等も入れたガイドマップの
作成
☆歩行者動線としたい商店街で、通過交通の流
入抑制を実施
★ターゲットの中高年層を考慮し、短い間隔でベ
ンチや案内板を設置
★市民の生活環境の改善にもつながるよう、観光
施設及び生活利便施設周辺の道路を中心に
実施
☆市民が共感できるルールづくりに配慮する
33
TOURIST INDUSTRY RESEARCH AND DEVELOPMENT
Kunihiko HARADA and Tatushi KIMUEA and Tukasa GORAI and Daisaku IZUMI
Kouichi SUGAHARA and Kanako MIYA and Fumio TANAKA
About the "JAPAN TOURISM " which attracts attention most as a measure of the next generation of our country, it is raised to
the important measures of a country and various enterprises are planned by ministries-and-government-offices crossing.
Trial and error were repeated in order to start the tourist industry newly, and the part has so far been materialized as a tourism
policy planning enterprise of a local self-governing body also in our company.
The hard knowledge to the infrastructure made elated [ our company ] in this research is begun, Based on knowledge, such as a
measure result etc. of the sightseeing collection visitor enterprise in the Nihonbashi reproduction research to which research has
been advanced separately, the business scheme of regional economy revival and the tourism policy proposal which contributes to
realization of regional vitalization is built, and the guide chart of sightseeing promotion examination which is felt equal as the
meaning of social capital is created.
34
水辺からの都市再生を核とする
アジアのネットワーク研究
和田
彰1・木村
達司2
1技術士(建設部門),工修
株式会社建設技術研究所 国土文化研究所
(〒103-0013 東京都中央区日本橋人形町2-15-1 フジタ人形町ビル6階)
E-mail: [email protected]
2技術士(総合技術監理・建設部門),工修
株式会社建設技術研究所
E-mail: [email protected]
国土文化研究所
本稿では,当社が公益財団法人リバーフロント研究所とともに共同運営する「アジア河川・流域再生ネ
ットワーク(ARRN)」及び「日本河川・流域再生ネットワーク(JRRN)」の2012年の活動成果を報告する.
また,これら国内外ネットワークが,日本を含むアジアの河川再生に関わる知見の流通・普及のための新
たな仕組みとして持続的に発展するための道筋を示す.
Key Words : River Restoration, Asian Network, Knowledge Sharing, Partnership, CSV
1. はじめに-アジアの河川再生の今
の暮らしの貴重な資源・財産と捉え,川の再生を軸とし
て地域の活性化を図る取組みが,アジア各地の近年の潮
流となりつつある.6)
こうしたアジア各地での取組に関わる情報・知見を
共有することを目的に,「アジア河川・流域再生ネット
ワーク(ARRN)」及びその日本窓口組織として「日本
河川・流域再生ネットワーク(JRRN)」が2006年11月
に設立された.
当社では,本研究を通じてARRN及びJRRN設立当初よ
り両事務局運営に携わり,2009年からは(公財)リバー
フロント研究所との共同研究「アジア河川・流域再生ネ
ットワーク構築と活用に関する共同研究」の一環で両ネ
ットワークを公益を目的に共同運営している.7), 8)
ARRN及びJRRN活動では,各地域に相応しい河川再生
マレーシアの首都・クアラルンプールでは,中心部
を流れるクラン川の再生による地域経済の活性化を目指
した「River of Life」プロジェクトが2011年に始動した.1)
さらにフィリピンでは,「My River, My Life」をテーマと
する初めての国際河川サミットが,大統領も参加し地方
都市・イロイロ市で2012年5月に開催された.2)
隣国に目を向けると,中国・北京市郊外を流れる永
定河の再生を通じた周辺地域の開発事業が急ピッチで進
められている.3) また,2003年の事業着手からわずか3年
で完成した韓国・ソウル市中心部を流れる清渓川再生事
業は,今やアジアのみならず世界を代表する都市と河川
の再生事例として認知され,他国の都市河川再生の動き
に少なからず影響を及ぼしている.4)
我が国も決して負けてはいない.2012年の東京スカイ
ツリー開業と合わせた隅田川及び江東内部河川の水辺を
活用した地域活性化の取組みや,2009年より始まった
「水都大阪」による水辺を活かした賑わいづくり,その
他にも国内各地で川を基軸とした都市と地域の再生に向
けた取組がこれまで数多く進められてきた.5)
これら都市と河川が一体となった再生においては,
地域経済活性化,パートナーシップ(協働),生物多様
性,民間資金活用など,再生事業の持続性に関わる様々
な視点や工夫が共通して含まれ,都市を流れる川を人々
の技術や仕組みづくりの発展に寄与することを主目的に,
河川再生に関わる様々な情報・知見をネットワーク会員
とともに生み出し,すべての活動成果はARRNウェブサ
イト(英語)及び以下のJRRNウェブサイト(日本語・
英語)を通じて国内外に公開してきた.
JRRNウェブサイト: http://www.a-rr.net/jp/
本稿では,はじめにARRN及びJRRNの組織概要を述べ
た上で,2012年のネットワークの主な活動について,特
にその狙いや具体プロセス等に焦点を当てて紹介する.
加えて,本ネットワークの今後の展開として,こうした
活動が持続的に発展するための方策を提示する.
35
2. ARRN及びJRRNの設立経緯及び組織概要
また,ARRN の活動計画や組織体制は,各国を代表す
る RRN で構成される ARRN 運営会議で決定され,円滑
かつ発展的な活動を推進するため,情報委員会(運営企
画及び情報共有基盤整備を担当),技術委員会(河川再
生の技術整備を担当),及び事務局が設置されている.
ARRN設立から 2012 年 11月までの 6年間,玉井信行
ARRN 会長(東大名誉教授)の下,JRRN(日本)が
ARRN 事務局を担ってきたが,第 6 回 ARRN 運営会議
(2011年 11月・東京開催)での決議に基づき,2012年
11月に北京で開催された第 7 回 ARRN 運営会議におい
て,Zhiping LIU 新 ARRN 会長(中国水利水電科学研究院
副院長)及び CRRN(中国)が務める新 ARRN 事務局へ
と引き継がれ,新体制による 7 年目の活動を迎えている.
(1) ARRN 及び JRRN の設立経緯
2006年 3月にメキシコで開催された第 4回世界水フォ
ーラムにおいて,日本・韓国・中国が中心となりアジア
の河川再生を目的とした分科会が開催された.この分科
会では,「アジアの河川・流域再生に関する事例・情
報・技術・経験などを技術者・研究者・行政担当者・市
民で共有する仕組みを構築すること」,「アジア・モン
スーン地域で利用できる河川再生ガイドラインを構築し
関係者の知識・技術の向上を図ること」の二つが提言さ
れ,これらを達成するために 2006 年 11月に「アジア河
川・流域再生ネットワーク(ARRN)」が設立された.
また,各国の窓口組織として「日本河川・流域再生ネッ
トワーク(JRRN)」,中国(CRRN),韓国(KRRN)の
3-RRN が同時に設立された.9)
(3) JRRN の活動目的及び組織構成
JRRN は,河川再生に関わる事例・経験・活動等を,
ウェブサイトや刊行物発行,更に交流行事等を介して交
換・共有することを通じ,日本の各地域に相応しい河川
再生の技術や仕組みづくりの発展に寄与することを主目
的に活動している.また,先に示した ARRN の日本窓
口組織として,日本の優れた知見をアジアに向け発信し,
同時に諸外国の素晴らしい取組みを日本国内に還元する
役割も担っている.
ARRNと同様,活動趣旨に賛同する会員(会費無料)
との協働(ナレッジパートナー)を基本に JRRN 活動を
展開し,2006年 11月の設立当初は約 60名の個人会員で
スタートした JRRN だが,2012 年 12月現在,約 600名の
個人会員(所属内訳を図-2に示す)と約 50の団体会員
(内訳:市民団体・NPO: 52%, 民間企業: 35%, 行政機関・
公益法人: 10%, 研究機関: 2%)で構成されている.
また JRRN の活動企画及び日々の運営は,JRRN 設立
以来事務局長を務める佐合純造氏を代表に,序章で示し
た当社及び(公財)リバーフロント研究所による共同研
究で組織する JRRN 事務局が務めている.なお,2012年
11月の ARRN新体制移行を受け,JRRN の今後の運営体
制(定款,法人格等)に関わる協議を進めており,
JRRN の持続的発展に向けた新たな組織体制を 2013年前
半までに定める予定である.
(2) ARRN の活動目的及び組織構成
2012年 9月に改定した ARRN 組織図を図-1 に示す.
ARRN は,上記設立趣旨を踏まえ,ウェブサイトや年
次国際フォーラム等の行事開催を通じて河川再生に関わ
るアジアの知見を交換・共有し,またアジアで利活用で
きる河川再生ガイドラインを構築することを主な目的と
して,ARRN 規約に基づき活動を展開している.
活動趣旨に賛同する会員を柱として,各国・地域内
のローカルネットワークである RRN(River Restoration
Network:河川・流域再生ネットワーク)会員,及びネッ
トワークを形成していない Non-RRN(個別)会員で構
成され,2012 年 12 月現在,JRRN(日本),KRRN(韓国),
CRRN(中国),2012 年 12 月に加わった TRRN(台湾)の 4 RRN 組織,及び Non-RRN メンバーとしてタイ国天然資
源環境省水資源局をはじめとする 5 つの政府機関,
NGO,民間企業等が加入している.また,2012 年 12 月
時点で,マレーシア天然資源・環境省排水灌漑局が
Non-RRN 会員としての加入に向けた最終調整段階にあ
る.
図-1
ARRN 組織図(2012 年 9 月改定)
図-2 JRRN 個人会員の構成(2012 年 12 月現在)
36
フェーズ1
アジアを含む諸外国の優れた知見やニーズを吸収しなが
ら,それらを必要とする日本国内の JRRN 会員を含む関
係者へ還元する機能の強化も図った.この海外知見の習
得に際しては,河川再生に関わる技術や施策等の情報の
みならず,次章の持続的なネットワーク運営に向けた制
度面の事例についても学んだ.
図-3で示した発展プロセス毎の 2012年の成果一覧を
表-1に示し,主要な取組みについて,目的や具体的プロ
セス,また今後の取組み等を次頁以降に個別に整理する.
また,ARRN 及び JRRN による国内外ネットワーク活動,
更には次章で述べるネットワークの持続的発展に向けた
検討を含む,本研究内容の全体図を図-4に示す.
フェーズ2
新秩序創出
(ステップV)
2012年
(6年目)
社会的価値向上
啓発・研修・教育
(ステップIV)
組織基盤確立
(ステップIII)
固有知的財産蓄積 ・普及(ステップII)
情報基盤整備・交流促進 (ステップI)
2007年
(1年目)
2010年
(4年目)
2013年
(7年目)
2016年
(10年目)
図-3 ネットワークの段階的発展プロセス
表-1
(4) ARRN 及び JRRN の段階的発展プロセス
本研究で設定した両ネットワークの段階的発展プロ
セスを図-3に示す.
ネットワーク設立後からの第 1 フェーズ(2007 年~
2009 年)では,ネットワークを通じた「情報・交流基
盤の整備」を重点目標に,国内及び海外向けの情報媒体
(ウェブサイト)の充実化を図るとともに,河川・流域
再生に関わる最新情報共有を目的とした国内外交流行事
を開催し,本分野の基礎的情報の蓄積及び国内外への普
及を推進した.
また,第 2 フェーズの 2010 年~2012 年の 3 年間は,
第 1 フェーズの活動を発展的に継続しつつ,かつネット
ワークとしての「知的財産の蓄積」及び「組織基盤確
立」に重点的に取り組んだ.特にこのフェーズでは,ネ
ットワーク設立当初の事務局中心の諸活動から,ネット
ワーク会員の協働を柱とする新たな価値創造に注力し,
合わせて,後述する会員増強に向けた組織体系の改善を
図りながら,日本を含むアジアの河川・流域再生分野の
リード組織としてのプレゼンス向上に努めた.
なお,このネットワークの段階的発展プロセスは,
ARRN については欧州河川再生センター(ECRR)を,また
JRRN については英国河川再生センター(RRC)をモデルと
している.ECRR及び RRC両事務局からの助言を得な
がら,外部環境の変化やアジアに相応しい内容にカスタ
マイズして順応的に運用している.
発展プロセス
ステップ I
情報整備
及び
交流促進
ステップ II
知財蓄積
3.2012年のネットワーク活動成果
2012年は,産官学民で構成される JRRN 会員との協働
を基軸に,日本国内の河川再生に関わる知見やニーズの
相互共有を促進する役割を担うとともに,この国内での
知見がアジア各国の ARRN 会員に活用されるための中
間支援機能の強化に取組んだ.合わせて,ARRN活動及
び ARRN・JRRN が有する海外ネットワークを活用し,
ステップ III
組織強化
37
2012 年の ARRN 及び JRRN の主な活動成果
活動成果
(情報整備)
・JRRNfacebookサイト開設(1月)
・JRRNウェブサイト再構築(4月)
・ARRN/JRRNウェブサイト継続更新
・JRRNニュースメール発行(毎週・全 51回)
・JRRNニュースレター発行(毎月・全 12回)
(交流促進)
・JRRN会員及び国内外要請支援(不定期)
・諸外国来日視察団の支援・交流(全 4 回:3
月-台湾高雄市政府・3 月-韓国 NGO・11 月-フ
ィリピン自治体・12月-マレーシア政府)
・第 1回フィリピン河川サミット参加(5 月)
・マレーシア河川フォーラム参加(9月)
・第 15 回国際河川シンポジウム参加(10 月)
・第 9回 ARRN水辺・流域再生にかかわる国際
フォーラム開催(11月)
・JRRN/ARRN 講演会「市民による河川環境の
見かた・調べかた」開催(12月)
・第 9 回 JRRN 河川環境ミニ講座-中国河川生
態系 講演録発行(1月)
・第 8回 ARRN水辺・流域再生にかかわる国際
フォーラム 英語版講演録発行(2 月)
・ARRN 河川再生手引き ver.2 日本語版発行(2
月),英語版発行(3月)
・桜のある水辺風景 2012写真集発行(6月)
・第 1 回フィリピン国際河川サミット参加報告
書発行(8月)
・マレーシア河川フォーラム 2012 参加報告書
発行(9月)、月刊河川への寄稿(10月)
・PRAGMO 日本語版-河川及び氾濫原再生の
順応的管理に向けたモニタリングの手引き
発行(11 月)
・第 15 回国際河川シンポジウム参加報告書発
行(12月予定)
・ARRN会員入会に関わる内規制定(9月)
・ARRN事務局分掌に関わる内規制定(9月)
・第 7回 ARRN運営会議開催(11月)
・JRRN→CRRNへ ARRN事務局移管(11月)
・JRRN組織体制検討(継続中)
成果のWEB集約
ARRN既会員協働
韓国
海外
中国
ARRN非会員勧誘
マレーシア
フィリピン
etc.
台湾
アジア連携強化
・情報共有(web構築・行事開催)
ARRN運営
・河川再生手引き共同編集
・海外来日研修支援
・日本の知見普及
ARRNウェブサイト
会員・支援者拡大
欧豪連携強化
・先進事例共有
・専門家網構築
・連携事業
英国
欧州
JRRNウェブサイト
国内
-
情報基盤整備・普及
豪州
交流促進
ネットワーク持続発展性検討
JRRN運営
(2) 河川再生に関わる国際行事の参加を通じた国内外ネ
ットワークの拡大
2012年は,ネットワーク活動成果の普及及び関係団
体との連携強化を目的に,ARRN/JRRN 事務局として以
下の 4件の河川再生に関わる国際行事に参加した.
・web運営
・情報媒体発行
・データベース運用
第 1回フィリピン国際河川サミット(5月)
マレーシア河川フォーラム(9 月)
第 15回国際河川シンポジウム(10月)
第 9 回 ARRN 水辺流域再生国際フォーラム(11月)
研究活動
・非営利組織の運営実態分析
・ネットワーク将来展開検討
会員協働活動
・出版、翻訳
・インターンシップ
・教育支援
前述した ARRN 及び JRRN の活動目的の達成に向け,
各行事への参加を通じては次の共通の取組みを行った.
・講演会
・研修会
1. ネットワーク活動成果の論文発表や講演,配布を
通じた河川再生分野の日本の知見の海外への普及.
2. 行事参加者との意見交換を通じた ARRN/JRRN 紹介,
会員勧誘活動,及び発展に向けた助言等の獲得.
3. 各行事での河川再生に関わる情報を集約し,参加
概要報告書に取りまとめ日本国内に情報還元.
4. 各行事で交流した海外・国内関係者との継続的な
情報交換,及び来日時の視察・研修等の支援.
5. 上記 4.に関連し,海外機関と日本国内の関係機関と
の繋ぎ役を担い,本分野の国際交流を促進.
図-4 ARRN・JRRN による国内外ネットワーク活動の概要図
(1) JRRN ウェブサイト再構築及びソーシャルメディアの
活用による情報共有基盤の強化
JRRN では,データベース及び交流機能を有する
JRRN ウェブサイトを 2007 年 8 月に立ち上げ,その後約
4 年半に渡り運用してきた.その間,国内外ネットワー
ク活動で蓄積した河川再生に関わる様々な情報・知見の
集約を図るとともに,JRRN 会員への複数回のアンケー
トを通じ,更なる情報共有に向けた利用者ニーズとのマ
ッチングや利便性向上のための部分改良を続けてきた.
しかし,利用者ニーズの拡張やウェブ技術進化へ対応す
るため,「掲載情報へのアクセス性向上」「双方向交流
機能の強化」「運用管理労力の低減」に向けた運用シス
テム変更を含む全面的な再構築を 2012年前半に進め,
2012年 4月中旬に現在の JRRN ウェブサイト(日本語ペ
ージ)へリニューアルを図った.
双方向交流機能強化ではソーシャルメディアを活用
し,2012年 1月より facebook の試行を始め,上記ウェブ
サイトのリニューアルに合わせ本格運用を開始し,ウェ
ブサイトへの継続的な情報蓄積,週刊ニュースメールに
よる新規情報伝達,更に facebookによるユーザー評価を
連動させた情報共有基盤の強化を図った.(図-5)
河川再生分野の情報共有と普及を活動の柱とする
JRRN にとって,ウェブサイトは組織の顔としての機能
も担うため,今後も継続的に改良を進めていく.
こうした一連の活動により,国際行事参加後も関係
団体との交流が継続しており,国際交流とその成果の国
内還元の組み合わせにより,国内外における両ネットワ
ークの信用と信頼の獲得に努めた.
(3)国内外の要請対応を通じた連携強化と情報蓄積
2012年の ARRN 及び JRRN に対する主な要請案件の一
覧表を表-2に示す.
両ネットワーク会員からの要請に加え,ウェブサイ
ト公開アドレスを経由しての海外からの依頼案件も非常
に多く,先に示したウェブサイト充実化や国際行事への
参加を通じた交流の成果とも言える.なお,ARRN 及び
JRRN で別々のメールアドレスを設けていることから,
海外からの要請に対しては,ARRN/JRRN どちらのウェ
ブサイトを介した要請であるかを判別することができる.
主な要請のタイプとしては,河川再生に関わる情報
提供依頼,講演や研修支援の要請,また国内外関係機関
への繋ぎ役を頼まれるなど様々である.
こうした ARRN 及び JRRN に対する外部からの要請に
対しては,前述の両ネットワーク活動目的を達成するた
めの貴重な機会と位置付け,要請機関との連携強化のみ
ならず,ARRN/JRRN として要請に応じた活動成果を可
能な限り公開することにより,河川再生に関わる情報・
知見の拡充を合わせて進めることとした.
図-5 JRRN の新ウェブサイトと facebook サイト
38
表-2 2012 年の ARRN 及び JRRN への主な要請案件一覧表
No.
年月
1
不定期(複数)
2
不定期(複数)
3
2012年1月
4
2012年1月
5
2012年2月
6
2012年2月
7
2012年2月
8
2012年4月
9
2012年4月
10
2012年5月
11
2012年6月
12
2012年6月
13
2012年7月
14
2012年7月
15
2012年7月
16
2012年8月
17
2012年8月
18
2012年8月
19
2012年8月
20
2012年9月
21
2012年10月
22
2012年10月
23
2012年10月
24
2012年11月
25
2012年12月
連絡先
JRRN ARRN
●
●
●
●
●
●
●
●
●
要請元属性
国内
海外
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
19
6
●
12
要請団体名
要請内容
行事主催者
イベント広報
出版社、著者
新刊書籍等の広報
要請内容分類
情報 研修 講演 広報 繋ぎ
●
●
JRRN会員団体
川の通信簿に関わる協力
国内の大学大学院
大学院講義担当
台湾・高雄市政府
来日視察に伴う関係機関調整
韓国・未来資源研究院
河川環境法体系の情報収集
サミット実行委員会
フィリピン河川サミット参加要請
国内の大学研究室
JRRNでのインターンシップ希望
JRRN会員
JRRN英語ホームページ
●
●
英国河川再生センターRRC アジアの河川再生蓄積状況
国内の大学研究室
海外インターンシップ先推薦と調整
台湾TRRN
河川再生教材やツール広報
JRRN会員団体
中国水環境分野の専門家紹介
国内の大学研究室
海外での河川環境教育調査協力
香港政府(都市局・排水局等) 来日視察に伴う関係機関調整
●
香港政府(都市局・排水局等) 来日視察に伴う関係機関調整、セミナー開催
国内の財団法人
発行物へのJRRNweb掲載記事転用
Citynet (NGO)
フィリピンJICA研修協力
国内の大学研究室
地域ワークショップ企画協力
2010年以降のJRRNとの継続交流
●
2007年以降のARRNとの継続交流
●
インド・環境NGO
都市河川再生シンポ2013の講師派遣
国内の地方自治体
来年Riverprizeへの応募相談
JRRN会員
●
2007年以降のJRRNとの継続交流
●
●
●
2011年JRRN河川環境ミニ講座
JRRN会員、国際行事参加報告書
●
2010年以降のJRRNとの継続交流
●
●
●
JRRNホームページ
ARRN関係者を通じた紹介
JRRNホームページ
●
フィリピン河川サミット交流
●
●
●
第15回国際河川シンポジウム交流
●
●
●
8
4
5
会員を通じた紹介
マレーシア河川フォーラム交流
●
欧州河川再生センターECRR 来年の欧州河川再生大会参加要請
来年Riverprizeへの日本河川応募
JRRN英語ホームページ
JRRN会員
●
●
マレーシア政府排水灌漑局 来日視察に伴う旅程提案と関係機関調整
国際河川財団(豪州)
2007年以降のJRRNとの継続交流
●
●
●
●
JRRN会員
会員を通じた紹介
●
台湾・市民大学全国促進会 川と街の再生に関わる講演講師派遣
13
JRRN会員
●
マレーシア・地球環境センター マレーシア河川フォーラム講師派遣
要請経緯等
その他
第15回国際河川シンポジウム交流
ARRNホームページ
3
7
●
5
会員を通じた紹介
(5) 諸外国有用文献の JRRN 会員による翻訳・出版活動を
通じた会員連携及び海外組織連携の強化
ネットワーク設立以降の新たな取組みとして,英国
河川再生センター(RRC)より 2011 年 11月に無料公開さ
れた河川モニタリング手引き「PRAGMO」を,RRC事
務局の協力を得ながら,公募による JRRN 会員ボランテ
ィア及び事務局の計 12名で共同翻訳し,「PRAGMO日
本語版 河川及び氾濫原再生の順応的管理に向けたモニ
タリングの手引き」(監修:白川直樹筑波大学准教授)
として 2012 年 11月に ARRN/JRRN より発行した.
また,この日本語版発行を記念した講演行事を 2012
年 12月に東京にて開催し,PRAGMO 製作責任者である
RRC幹部を講師として招聘することで,JRRN 会員及び
国内関係者との技術交流を深めた.
この PRAGMOは,河川再生の順応的管理に向けたモ
ニタリングの考え方や具体的な手法について,簡単にで
きるものから高い専門性を要するモニタリングまで分か
りやすく解説された手引きである.我が国での河川再生
への市民団体等の更なる参加促進に向け,この日本語版
の活用が期待され,JRRN では本冊子の普及と活用に向
けた 2013年以降の新たな企画準備も進めている.
加えて,JRRN 会員ボランティアとの日本語版共同制
作活動を通じ,今後の更なる会員協働に向けた経験を蓄
積することができた.本企画に賛同し様々なご支援を頂
いた RRC事務局,JRRN 会員,筑波大学白川(直)研究
室,講演行事参加者,(財)河川環境管理財団(河川整
備基金助成事業として実施)等の共同成果と言えよう.
(4) 河川再生手引きの更新活動を通じた日中韓ネットワ
ーク間の連携強化
ARRN では,アジアで利活用できる河川再生ガイドラ
インの構築を継続的に進めており,ARRN 技術委員会監
修のもと,2012 年 11 月まで ARRN の事務局を務めてき
た JRRN が企画及び編集を担ってきた.
2009 年 3 月に初版となる「アジアに適応した河川環境
再生の手引き ver.1」を発行し,第 5回世界水フォーラム
(2009 年 3 月・トルコ開催)で普及を図ったが,この初
版制作の教訓として「ARRN 主要構成メンバーの共同作
業により,日中韓の知見をより充実させること」「各国
が抱える河川再生における課題共有を優先させること」
などを得た.
これらを踏まえ,2011 年後半から 2012 年初めにかけ
て,日中韓協働による更新版制作に取組み,「アジアに
適応した河川環境再生の手引き ver.2」の日本語版を
2012 年 2 月に,また 3 月には英語版を発行し,第 6 回世
界水フォーラム(2012 年 3 月・フランス開催)において
オンライン版発行案内チラシの普及を図った.
Ver.2 制作のプロセスでは,各国の河川環境面の課題
やその克服に向けた取組みの情報共有が促進されたが,
一方でメールや電話でのコミュニケーションによる共通
成果製作の難しさも学んだ.このプロセスで得た教訓を
更に活かしながら,ARRN 技術委員会の下で,第 7 回世
界水フォーラム(2015 年 3 月・韓国開催)に照準を合わ
せた ver.3更新活動を進めていく予定である.
39
「国」ではなく「地域」としての参加)を基本とする
ARRN 組織構造(図-1)に改めることで ARRN 主要メン
バーでの合意に達し,2012年 9月の内規運用開始,更に
2012年 12月の地域ネットワークとしての TRRN(台
湾)加入が実現した.合わせて,本内規運用開始により
新規入会方法が対外的に明示されたことで,2012年 10
月には,オーストラリア河川再生センター(ARRC)やマ
レーシアに拠点を置く地球環境センター(GEC)等の NGO
が新たに加わり,今後の情報共有が期待される.
また,後者の事務局に関する内規では,2012 年 11月
の ARRN 事務局移管を円滑に行うため,ARRN 事務局の
分掌及び事務局移管時のルールについて内規として明確
に定めることとし,前者と同様に 2012 年 9 月の本内規
運用の開始,またその内規に基づき,2012 年 11月に
ARRN 事務局が移管された.(写真-1)
図-6 2012 年の主な発行物一覧
(8) ARRN 事務局移管による ARRN 運営の更なる活性化
前述の通り,ARRN 設立後から 7 年目にして,初めて
ARRN 事務局の移管が 2012 年 11 月に実現した.ARRN
規約(第 10 条)では「事務局は各国内ネットワーク
(RRN)のローテーションにより選ばれる.但し,ARRN
運営会議で承認された場合は,事務局の再選が可能とな
る.事務局の任期は 2 年とする.」とあり,これまで 2
回の再選により JRRN が三期連続・6 年間に渡り ARRN
事務局を務めてきた.
この事務局移管に 6 年を要した背景の一つとして,
「ARRN 事務局の活動資金は事務局によって賄われる」
(ARRN 規約・第 11 条)という ARRN 活動資金に関わ
る問題があった.そこで,前述の ARRN 事務局運営に
関わる内規制定を通じては,まずその職務を明確にし,
更に 1-RRN 単独の負担とならないよう,事務局業務の
各国 RRN のワークシェアリングを前提とする分掌及び
引継ぎルールとすることで,新体制への移行が実現した.
特に初となる今回の事務局移管の密な事前協議に際
しては,これまで事務局を担った JRRN が引き続き担う
職務とその理由,新事務局が新たに担う職務,更に新体
制下での各 RRN 事務局間の情報共有及び意思疎通のル
ールの合意形成を図り,今回の事務局の移管を,各
RRN 事務局間のホットライン構築の機会と捉えること
で,関係者全員の積極的な協力を得ることができた.
この ARRN 事務局移管前後の様々な調整段階におい
ては,新事務局となる CRRN(中国)事務局関係者から
の様々な協力とこれまでの JRRN 貢献に対する感謝の言
葉を頂くとともに,KRRN(韓国)事務局関係者からも
的確な助言と多大な協力を頂き,これも ARRN 運営体
制強化と活性化に向けた大きな成果の一つと考える.
写真-1 第 7 回 ARRN 運営会議及び事務局移管式の様子
(6) 各種活動成果物の公開による固有知財の蓄積と社会
的信用の獲得
2012 年は,ARRN 及び JRRN 会員の協力を得ながら,
表-1(ステップ II)及び図-6 に示す成果物を製作し,ウ
ェブサイトを通じ無料公開した.
特に,利用者に活用されるネットワーク固有知財
(オリジナル・コンテンツ)の蓄積は,信頼向上に伴う
会員増加や他組織からの運営面での支援獲得など,ネッ
トワーク諸活動の持続的な発展に大きく寄与することか
ら,今後も成果物の量と質の両面の強化に努めていく.
(7) ARRN 会員増加及び円滑な運営に向けた ARRN 内規
制定による ARRN 運営基盤の強化
2011年 11月に東京で開催した「第 6 回 ARRN 運営会
議」での決議に基づき,ARRN の更なるネットワーク拡
大及び円滑な事務局運営に向けた以下の二つの内規制定
を,2012年に ARRN 情報委員会のもとで実施した.
1. ARRN への新規会員入会手順に関わる内規
2. ARRN 事務局運営に関わる内規
前者の会員入会に関わる内規制定には,2008年以降
の ARRN 懸案事項となっていた台湾加入問題に関わる
ARRN 組織構造の改定も含まれ,中台間の政治事情を勘
案し,オリンピック方式(オリンピック憲章に基づく
40
表-3
組織名
国
設立年
活動
目的
形態
スタッフ
活動
財源
その他
回答者
ベースで捻出している実情を説明頂いた.これらを踏ま
え,非営利活動の資金源の特徴を図-7に示す.
RRC発行の PRAGMO,また GEC共催マレーシア河川
フォーラムともに,冊子表紙及び行事開催会場において,
政府から NGO,更に民間企業まで,実にたくさんのロ
ゴが表示されていた.このことからも,大口スポンサー
による安定的資金援助は稀であり,組織の目的を達成す
るための企画を提案し,その趣旨に賛同する支援者(人
材面・資金面・技術や制度面含む)を地道に募り,賛同
者とのパートナーシップを基本に自ら汗をかきながら成
果を生み出していくことの継続が,それぞれ組織設立後
15年が経過した今なお,社会に貢献する発展的な活動
を展開していることが,これら事例から読み取れた.
2012 年に交流を深めた非営利組織の運営上の特徴比較
英国河川再生センター
英国
1998
河川再生推進及び持
続可能な河川管理
非営利有限責任会社
常勤 7名
理事会 9 名
諮問委員会 6 名(準
政府機関関係者)
助成金,会員会費,
受託業務,行事参加
費,研修費
常勤スタッフは大学
職員として雇用.事
務局も大学内設置.
Dr. Jenny Mant
科学技術部長
地球環境センター
マレーシア
1998
環境保全と持続的な天然
資源利用の推進
NPO法人
常勤 15-20名
理事会 2名
諮問委員会 7 名(国際
NGOや政府 OBなど)
(事業ベースで)ドナー
機関,国際 NGO,政府,
民間企業(CSR)
国内外事業に参加.マレ
ーシア政府機関と強い連
携関係あり.
Dr. K.Kalithasan
河川愛護事業 Coordinator
(2) 今後のネットワーク活動の展開
これまでの ARRN 及び JRRN 活動実績,先の海外非営
利団体運営事例,その他国内外での非営利活動に関わる
知見等 11-14)から,本ネットワーク活動の持続的発展に向
けては,会員協働・海外連携・民間資金活用・成果共有
を柱とする新規価値創造プロセスが有効と考えられる.
ネットワークとは,個々の活動主体を横断的に結び,
それぞれの知見を共有しながら事業推進の効率化を図る
システムである.国内外には本分野に関わる様々な組織
が既に存在し,各団体に豊富な知見と人材が蓄積されて
いる.こうした既存組織との様々な形での協働を基本に,
ネットワークへの参加者(運営者及び会員含む),支援
者,さらに受益者のすべてをパートナーと位置づけ,
個々の組織または個人の資源を寄せ集めたながらネット
ワーク活動を発展的に展開していきたい.(図-8)
4.ネットワークの持続的発展に向けて
これまでの活動実績を踏まえ,図-3に示した発展プロ
セスに基づき,蓄積成果を活用した社会啓発や研修,教
育などの分野にも展開していくことを予定している.
一方,ネットワークによる国内外活動を持続的に発
展させていくためには,社会に役立つ成果を継続的に生
み出すことはもちろんのこと,それら諸活動に参加する
人材を増やすこと,また活動資金の捻出も欠かせない.
そこで,本年に交流を深めた海外非営利組織の運営
面の特徴を参考としながら,ARRN及び JRRN の持続的
発展に向けた今後の展開について以下に述べる.
内発的財源(安定的・小口収入)
(1) 海外非営利組織の運営事情
PRAGMO 日本語版製作を通じて交流を深めた英国河
川再生センター(RRC)とは,非営利組織の運営面の工夫
や苦労についても意見交換を重ねた 10).また,9月のマ
レーシア河川フォーラム共催団体として交流を深め,そ
の後 ARRN に加入した地球環境センター(GEC)とも,
RRC同様に非営利活動の持続的発展に関わる議論を行
った.表-3に両組織の概要を示す.
両組織ともに常勤スタッフは限られており,諸活動
を担う人材については,プロジェクトベースで各活動に
要する専門性を有する人材を募り(選定し),パートナ
ーシップを基本として,目的を達成するための活動にコ
ーディネーター役として関わる共通性が見られた.
またその活動資金源については,「とても一言では
述べられない」とほぼ同じ回答を両者から得たように,
助成金(ドナー組織,国際 NGO,政府機関等),業務
受託,会費,企業 CSRによる資金援助まで,様々な財
源を関係者への熱意ある説得を通じて,各プロジェクト
会費
寄付(定常的)
支援性財源
(運動性・非課税)
補助金(行政)
助成金(財団)
協賛金(企業)
寄付(一時的)
対価性会費(サービス利用料)
行事参加収入、出版収入
講師派遣収入
対価性財源
(事業性・課税)
行政・企業からの委託事業収入
(指定管理、調査業務等)
外発的財源(変動的・大口収入)
図-7 非営利活動の資金源
JRRN基幹事業
国内顧客
官公庁
【1】情報整備事業(国内向)
JRRN会員
支援者
企業等
(協賛金)
CSR
財団・基金
(助成金)
行政
(補助金)
その他
(寄付金)
民間資金活用型
地方自治体
Web運営(日本語)
情報DB(行事・書籍・ニュース等)
技術・事例DB
ニュースメール、広報誌等定期配信
各種加工情報の提供
-個人会員
-団体会員
(学協会、行政機
関、市民団体、
企業等)
公益法人
民間企業
研究機関
市民団体
協働
【2】啓発・人材開発事業(国内向)
(委託費)
講演会・セミナー開催
研修・教育
出版(事例集・手引き・翻訳本)
各種行事開催支援(共催・後援)
海外顧客
会員協働型
運営スタッフ
-常勤
-ボランティア
-インターン
-その他
【3】国際連携事業(海外向)
講師派遣、研修・視察受入
日本の知見普及・情報発信
Web運営(英語)
各種連携の支援
アジア非会員
欧米豪連携機関
海外連携型
援助機関
(委託費)
成果共有型
原則、活動成果はすべて公開し社会還元
図-8 ネットワークの今後の展開図
41
【凡例】 情報・労力・
価値の流れ
資金
の流れ
5.おわりに
参考文献
ARRN及び JRRN の 2012年の活動を通じ,会員を含む
国内外の多くの方々と交流する機会に恵まれ,持続的な
河川管理や健全な人と川との関わり等について,様々な
専門知,思想,アイデア,助言等を頂くことができた.
中でも多くの方々がその必要性を強調されていたのが
「川に対する所有感(ownership)の醸成」というキーワ
ードである.親が我が子を育てるのと同じ感覚で,地元
の川を地域住民が大切に世話をする社会を実現すること
が,持続的な河川再生に向けた一つのゴールになるとい
う考え方である.
幸運にも,我が国には約半世紀に及ぶ河川再生の歩
みの中で,川を愛し,健全な川と地域の再生に向け,
日々奮闘する担い手が産学官民それぞれのセクターで多
数活躍している.こうした方々の熱意と知見を繋ぎ合せ,
一部協力を得ながら河川再生に寄与する新たな価値を創
造し,河川再生活動で悩む人々や関心を持つ人々へと届
けること,更には上記「所有意識」を高めることに寄与
することが,ネットワークに求められる役割であろう.
言わば「河川再生のコンシェルジェ(道先案内人)」と
しての機能を ARRN 及び JRRN の活動を通じ果たしてい
くことが大切と考える.
本研究は,CSR 活動を更に拡張させた CSV(Creating
Shared Value: 社会課題の解決と企業の利益・競争力向上
を両立させ,社会と企業の両方に価値を生み出す共通価
値の創造)15)のコンセプトに基づき実施している.本研
究成果が,日本国内の各地域に相応しい河川再生の技術
や仕組みづくりの発展に寄与するとともに,アジアの河
川再生の課題克服に向け日本が培った経験や技術が活か
され,国際貢献につながることを強く期待する.
1) JRRN:「マレーシア河川フォーラム 2012(2012.9.6・マレー
シア国プトラジャヤ市)」参加報告書, 2012.
2) JRRN:「第 1回フィリピン国際河川サミット(2012.5.30-6.1・
フィリピン国イロイロ市)参加報告書, 2012.
3) ARRN:「第 9 回水辺・流域再生にかかわる国際フォーラム
~都市流域圏の包括的取組(2012.11.24・中国北京市)」講演
資料, 2012
4) 朴賛弼:ソウル清渓川 再生―歴史と環境都市への挑戦,
鹿島出版会, 2011.
5) JRRN:よみがえる川~日本と世界の河川再生事例集, (財)
リバーフロント整備センター, 2011.
6) 吉川勝秀・伊藤一正:都市と河川―世界の「川からの都
市再生」, 技報堂出版, 2008.
7) 和田彰:国際人材ネットワーク基盤研究, 国土文化研究所年
次報告 Vol.8, 2010.
8) 和田彰・伊藤一正・佐合純造・沼田彩友美・後藤勝洋・河川
再生に向けた国際的な産学官民ネットワークの構築, 河川技
術論文集 第 16巻, 2010.
9) 財団法人リバーフロント整備センター:アジアにおける河川
環境再生の動向と国際ネットワーク構築の取組み, リバーフ
ロント研究所報告, 19号,2008.
10)The River Restoration Centre: Business Plan – 2010 to 2015, 2011.
11) 塩見英治:現代公共事業~ネットワーク産業の新展開,
有斐閣ブックス, 2011.
12) 関西ネットワークシステム:現場発!産学官民連携の地域
力, 学芸出版社, 2011.
13) 奥野信宏・栗田卓也:新しい公共を担う人々, 岩波書店, 2010.
14) P.F.ドラッカー: 非営利組織の成果重視マネジメント, ダイヤ
モンド社, 2000.
15) Harvard Business Review:マイケル.ポーター 戦略と競争優位,
ダイヤモンド社, 2011.
(2012. 12. 21 受付)
謝辞:ARRN 及び JRRN の諸活動に日々ご協力頂いている
関係者各位に対し,深く感謝を申し上げます.
DEVELOPMENT OF ASIAN RIVER RESTORATION NETWORK FOR
WATERFRONT AND URBAN RENAISSANCE
Akira WADA and Tatsushi KIMURA
The “Asian River Restoration Network (ARRN)” and “Japan River Restoration Network (JRRN)”,
which is one of national networks of ARRN, was established in November 2006 based on the suggestion
in the special session on the 4th World Water Form. This paper reports major activities and achievements
by ARRN and JRRN in 2012 as the 6th year since its establishment. In addition, this paper proposes the
sustainable organizational framework of ARRN and JRRN for promoting effective knowledge transfer
and human resource exchange.
42
生態・社会複合文化系の再構築
に関する研究
1
1
2
3
4
5
岡村幸二 ・木村達司 ・稲葉修一 ・飯田哲徳 ・高橋孝 ,中村良夫
1技術士(総合技術監理・建設部門)
株式会社建設技術研究所 国土文化研究所
(〒103-0013東京都中央区日本橋人形町2-15-1フジタ人形町ビル6F)
E-mail: okamura@ctie.co.jp
2株式会社建設技術研究所
東京本社環境部
(〒330-0071埼玉県さいたま市浦和区上木崎1-14-6CTIさいたまビル)
E-mail: inaba@ctie.co.jp
3技術士(建設部門)
株式会社建設技術研究所 東京本社都市システム部
(〒103-8430 東京都中央区日本橋浜町3-21-1日本橋浜町Fタワー)
E-mail: y-iida@ctie.co.jp
4技術士(建設部門)
株式会社建設技術研究所 東京本社水システム部
(〒103-8430 東京都中央区日本橋浜町3-21-1日本橋浜町Fタワー)
E-mail: t-takahs@ctie.co.jp
5
(共同研究者)工学博士
東京工業大学名誉教授
本研究は,都市化の進展とともに我々の生活から自然がより遠い存在となってきていることを踏まえ,
「自然(生態系)」と「コミュニティ(社会)」の垣根を取り払って,複合文化系の再構築を図るための
方策を提案するものである.その中で都市のあるべき姿(生態・社会複合文化系と仮称)の概念を明らか
にし,今後のまちづくりのなかで生態・社会複合文化系の再構築をすすめていくための課題を整理する.
かつて日本の都市は毛細血管のような細い遣り水に貫かれた山水の場であったが,都市化の進展とともに
失われていった.日本ではこれまで伝統的に“風土”と呼ばれているもの,すなわち「自然(生態系)」
と「コミュニティ(社会)」の垣根を取り払った生態・社会複合文化系の概念化を試みた.また、生態・
社会複合文化系の再構築に向けた提案を行った.
Key words: Socio-ecological cultural complex, labyrinthian stream network, eco-symbolism, Machiniwa, field, body
1.はじめに
共生社会」を見据えた “現代の山水都市”eco-symbolic
かつて日本は,山や川などの自然を巧みに利用した, cityの構想につながるであろう.
「山水都市」が自然に寄り添うように形成され,都市
の中の毛細血管にあたる川や水路網がどの地域にも存
2. 生態・社会複合文化系研究の意義
在していた.しかし,戦後の急激な都市化の中で,水
日本では都市に住む人々が自然を感じる方法として,
路が暗渠化され良好な水循環系が失われたことで,河
「水の流れの音を聞く」「ホタルを観賞する」「庭先
川や水路の水質は著しく悪化して平常時の流量は大幅
にアサガオやキクなどの鉢植えを飾る」などは多くの
に減少してドブ川化したことで,コンクリート水路や
人の習慣となっていた.
暗渠下水道となり,人と自然の繋がりは分断されるに
その後、急激な都市化によって河川・水路沿いのまち
ようになった.
の姿は大きく変わってきたが,今でも水路を町の中心
このような中で,水辺・水網に導かれる自然が都市
に引き込んで,辻広場やインフォメーションなどの諸
の文化として取り込まれる様々なケースを検討して,
施設を誘導するなど,自然と賑わいの両立を図ってい
「自然(生態系)」と「コミュニティ(社会)」の垣
る事例が残されている.
根が取り払われた,生態・社会複合文化系の再構築の
生態・社会複合文化系の再構築とは,人が水・緑に
あるべき姿を研究する.その複合系構造の分析は,現
象徴される自然を都市の中に取込むことで,都市にお
代社会が直面する持続可能な「循環型社会」,「自然
ける文化の醸成をはかるための場づくりである.
43
1.
生態・社会複合文化系の再構築とは,我が国が直面
する「循環型社会」「自然共生社会」を見据えた持続
可能な社会を実現することでもあり,生物多様性を地
域の文化に取り込んだ“現代の山水都市”をつくるこ
とである.
はじめに
2. 生態・社会複合文化系研究の意義
3.先行事例研究の整理・分析
4 生態・社会複合文化系のモデル水路網の検討
.
(1) 金山水路
網の研究
(2) 山形御殿
堰の研究
3. 先行事例研究の整理・分析
近代化,都市化の進展の中でも生態・社会複合文化
系のシステムを維持させてきた京都府京都市,東京都
日野市,東京都江戸川区における水辺・水網事例を研
究の基本認識として重視した.
(3)江戸川区上
小岩親水緑道
5. 生態・社会複合文化系の再構築を促すために
(1) 近代化の中でも同時にアメニティ創出
(京都の高瀬川や祇園白川の制御された遣り水型)
(2)「まちニワ」の役割
(1) 水辺・水網の役割
検討
京都の扇状地を流下する鴨川改修に関わる水辺活用
6. 結論-再構築に向けての提案
の先進性は日本では特筆に値する.鴨川の風物詩であ
図-1 検討フロー図
る“床”は河川敷の河原そのもので行われていた.河
川改修後に現在の御そそぎ川から高瀬川への水を引き
日本の近代化によって生態・社会複合文化系が失わ
込み,コントロールされた親水水路として実現した.
れた要因としては,市街化の拡大で雨水流出量が増大
また,祇園界隈においては,琵琶湖疎水事業の一環と
し,河道の拡幅・直線化やコンクリート護岸化,下水
して,祇園の街並みと一体の祇園白川に導水して京都
道整備や水循環系ネットワークの崩壊などによって,
の風情ある地域を作り上げた.
これまで都市にうるおいを与えていた水辺・水網の存
昭和初期の河川改修により水辺が遠くならないよう
在が都市化の圧力により失われてきたことによる.さ
に,夏の風物詩の“納涼床”が形を変えて今日に活か
らに都市における水辺・水網環境の悪化や生活スタイ
されている.祇園界隈では,街並みと一体に琵琶湖疎
ルの変化により,人々は河川・水辺から離れていくよ
水による祇園白川の流れを,奥山の自然を街並みに取
うになった.
り込んで風情ある景観に仕上げた.(図—3 参照)
近世初期の鴨川の納涼床の形式は,現在とは大きく異
なり,持ち運びが可能な床机形式であり,設置場所も
中州や水際など河原全体に並べられたものであった.
その後,時代とともに変化して、大正から昭和にかけ
ての河道改修の結果,川の流れが速くなり床机形式の
納涼床が禁止された.鴨川右岸の高水敷の計画に対し,
納涼床を出せなくなることを憂えた木屋町,先斗町の
図-2 生態・社会複合文化系の関係図
店々の陳情により,右岸高水敷の河岸の建物のすぐ脇
これまでに経済最優先の近代化・都市化の過程で,
にみそそぎ川が開削され,以後,鴨川右岸より高床形
洪水の危険性や衛生面の問題など川や水路が負の側面
式の納涼床だけが,このみそそぎ川に脚をつけて出さ
を抱えるようになると,地域が連携して対応してきた
れるようになった.(田中・川崎・牧田,水辺におけ
歴史を棄て,それらの対処を行政に任せ,すなわち自
るアメニティの変遷に関する研究 1999)
分たちの暮らしから水辺を遠ざけるという選択がなさ
このような歴史をもつ鴨川の納涼床は,現在,バー
れた.こうして効率化優先の中で人間と自然の繋がり
やカフェ等の新しい形態も含めて,京都鴨川納涼床協
を分断した結果,それまで保たれていた自然と社会の
同組合によってその伝統文化が継承・保存されている.
適度な緊張感や環境のバランスが崩れるとともに,人
近世における白川は,祇園白川地区の固有な水辺景
と水との関わりの中で生まれるコミュニティや伝統的, 観や防災機能を支える安定した水路網の形成を促すよ
精神的な規範が薄れ,地域の個性やアイデンティティ
う計画され,近代における琵琶湖疏水挿入にも白川の
をも失うこととなった.「人」が介在して「自然」と
水位安定を果たすための巧みな配慮がなされ,近世の
「コミュニティ」とが相互作用を重視するが,ここで
自然河川を巧みに利用した水辺形成の技術と近代的イ
いう自然とは,荒々しい自然ではなく,象徴的な自然
ンフラストラクチャーによる総合的治水技術が,相互
を社会の中に取り込むことを想定している.
44
補完的に働くことにより,都市基盤の形成が実現され,
水辺を基盤とする都市環境が歴史的に保持されてきた
という.(田中・川崎,祇園白川地区における都市景
観形成と白川・琵琶湖疏水の役割に関する史的研究
2001)
京都の近代化の中で都市のアメニティ創出に水網ネ
ットワークの果たした役割は極めて大きいといえる。
図-4 日野市の用水網図
(3) 親水水路を都市の環境改善の重要な施設に
(江戸川区の親水水路ネットワーク創出の取り組み)
江戸川区の沖積平野部にあった農業用水路は,1960
年代までに農業の利用が激減して,市街化とともに水
質悪化が進んだ。これに対して江戸川区は1972年に
「美しい水と緑をつくる計画」を策定して都市生活に
おける人間回復をテーマに取り組んだ.計画の特徴は,
雨水排水計画と親水計画を同時に策定したことであり,
30年以上かけて区全域にわたり雨水排水の暗渠化がす
すみ,その後に水路再生の親水水路ネットワークが実
現している.人口稠密な都心にこのような親水水路網
が存在する自治体はほとんどない.低平地における水
辺・水網計画は,水源の確保と流路勾配の設定など,
コスト面で多大な費用を必要とし,維持管理面でも公
園管理並みの体制が必要である.親水公園及び親水緑
道の中を流れる水路を活かして,街並みとの一体性,
生態系の回復を重視して,生態と社会が複合化された
空間が生まれている.
専門家の研究成果としては,親水公園の供用後に環
境的な価値への効果についても調査している.
a)都市のヒートアイランド緩和の効果
親水公園の水辺環境と緑地が,周辺市街地に与える
熱的効果を明らかにし,都市の水辺と緑地の有用性を
評価している.親水公園内では水面とともに樹木等の
植栽が分布する中間層で低温域を形成しており,周辺
市街地においてもこれらの冷気のにじみ出しが確認さ
れている.
b)親水公園利用としての価値
親水公園の周辺環境に関する調査によれば,親水公
園ができて圧倒的に「町の美観がよくなった」「町全
体のイメージアップ」になったと答えており,水が生
かされた場所には利用者が多く集まることが分かった.
3 つの事例によれば,生態・社会複合文化系において,
水網ネットワークが重要な基本要素であるといえる.
図-3 祇園白川の静かな流れ(京都市)
(2) 用水の水利権に新たな価値を導入
(東京郊外部日野市の用水保全に関する取り組み)
日野市の用水路をめぐる取り組みは,市民が行政と
ともに用水を守る活動の中心となっていることが特徴
で,この活動を学識者などが理論的に支えてきたとい
える.そのフィールドは,都市部(中心市街地)とい
うより郊外住宅地や里地里山周辺が中心である.
日野市はかつて東京一の米どころであり,多摩川・
浅川からの水に恵まれた東京郊外部の都市である.都
市部の扇状地形を巡る用水路は、都市化の拡大によっ
て急速に失われ,そのほとんどがコンクリート護岸と
なったが、今も用水延長126kmが使われている.市民
の幅広い活動が進められているが,水利権は環境用水
として年間を通じて維持されている.専門家・学識者
との連携も強く,「用水の多面的価値」の研究が進ん
できた.今後の課題としては,①行政と市民の役割分
担.維持・管理を誰がどのように行うのか.②全国に
先がけて策定された「環境保全に関する条例」をさら
に発展させること.③用水の多面的価値として,「景
観的価値」「歴史文化的価値」「環境浄化機能」など
の取り組みを必要としている.(法政大学大学院エコ
地域デザイン研究, 2006年度研究報告書「水の郷・
日野 用水路再生へのまなざし」, 2007)
日野市の経験・実績は,全国に広がる用水保全の
取り組みなどに対して,「用水の多面的価値」を活
かした取り組みとして評価することができる.
45
戦後一度は子供の転落防止のため暗渠化や柵付きの
コンクリート水路になったが,かつての石積水路を再
生する動きが広がった.数年前には中心市街地の七日
町通りに面した民間再開発に際して,「先代より受け
継ぐものを次世代に伝える」(基本コンセプト)こと
を目指して,御殿堰を復活させて中心市街地の賑わい
をとり戻すために,「七日町御殿堰」株式会社を設立
してオープン化した水路(公)と建築(私)の一体的
な整備を行った.(図-7 参照)特記すべき点は次の
とおりである.(a)暗渠水路のオープン化による石積み
水路の再現.(b)広場と一体の伝統建築風の「七日町御
殿堰」と呼ぶ多目的施設の建設.(c)水路の周りに居心
地のよい空間(まちニワ)の創出.
親水さくらかいどう
上小岩親水緑道
下小岩親水緑道
西小岩親水緑道
興農
親水緑道
鹿本
親水緑道
鹿骨
親水緑道
流堀親水
はなのみち
本郷用水親水緑道
椿親水緑道
一之江境川
親水公園
仲井堀
親水緑道
東井堀
親水緑道
鎌田川
親水緑道
篠田堤親水緑道
小松川境川
親水公園
江戸川区
宿川
親水緑道
古川
親水公園
葛西親水
四季の道
新長島川
親水公園
新左近川
マリーナ
左近川
親水緑道
新左近川
親水公園
親水緑道
親水公園
図-5 江戸川区親水水路ネットワーク図
1
4. 生態・社会複合文科系のモデル水路網の検討
全国54か所の水辺・水網事例調査を行い,河川の機
能(治水河川、用水路、掘割など)と地形条件(扇状
地,デルタ、台地など),地元の要望,防災機能への
活用などを存続理由とする類型タイプの中から,3つの
モデル水路網として金山水路網,山形五堰,上小岩緑
道を選定した.金山町では,100年かけての景観まちづ
くりを進めている小さな町に残される水路網を市民自
らの手で管理している.山形五堰は,400年の歴史をも
ち,昭和初期までの生業,生活のための水路から,近
年再開発と一体の水路や生物にやさしい水路を目指し
ている.江戸川区の上小岩緑道は,一度はどぶ川化し
た水路を再整備して街並みと一体の親水水路を実現し
ている.いずれも水網ネットワークが都市化された居
住環境に入り込み家々の間を流れる「生態・社会複合
文化系」の重要なデザイン要素となっている.
霞城
山形
山
山形
山形
天沼
図-6 山形五堰の水網ネットワーク(山形市)
(1) 山形五堰(山形市)
(公私一体による居心地よい空間づくり)
400年前に生活用水,灌漑用水を目的とした山形市の
中心を流れる山形五堰は,馬見ケ埼川から取水して扇
状地の急こう配の地形を東から西へ流れる.かつては
生活用水や水車などの生業がさかんであり,「御殿堰
には水車が2つあって一つは浄善寺角に第一工場があ
った・・」(昭和初期の記録)と言われ,生活や産業
と密接な関係をもっていた.(図-6参照)
このように市街を網目のように流れる用水は全国で
もめずらしく,山形のまちを特徴づける風景となって
いる.御殿堰の流れは家と家の敷地の境を,大きな寺
社などは敷地内を流れている.現在,御殿堰や笹堰で
は地域や小学生が中心となり,バイカモの生息やホタ
ルの復活を目指す活動を進めている.
図-7 再開発で生まれた「まちニワ」(山形市)
図-8 家いえの間を流れる御殿堰(山形市)
46
(2) 金山水路網(金山町)
(家々の間を縫うように流れて庭にまで入り込む)
優良建築材の金山杉を使った金山住宅と,全町公園
化構想により「100年かけての景観まちづくり」が進め
られた山形県金山町は,山間の小さな扇状地に広がる
まちで,骨格河川である金山川から取水した水網ネッ
トワークが維持され,融雪溝としても活かされている.
(図-9参照)用水路を流れる水量が豊富で,扇状地の
地形から流速も比較的速く「豊かな流れ」を感じさせ
る.公私の境を越えて家屋敷の中まで躙り入り町じゅ
うに張り巡らされたこの“遣り水”が町の生活と文化
の基層的な場を成している.骨格の河川からより細い
水路へと編み目状に階層的に振り分けられることで,
大自然から小自然へと,山奥の息づかいを象徴的に身
近に引き寄せている.水網は大地の毛細血管として,
都市という「場」に生命を吹き込む.このような「遣
り水都市」は生態・社会複合文化系の典型である.
(図-10参照)そのようにまちが維持されている背景と
しては,英国の旅行家イザベラ・バードの舞台でもあ
るため,町は「100年かけて景観をつくる」ことに強い
願いを共有している.毛細血管のように広がる水路網
が道路沿いから私有地の庭の中まで入り込むことで,
町なかでも象徴的な自然を感じることができる.
(3) 上小岩親水緑道(江戸川区)
(プライベートグリーンで居心地がよくなる )
本来,河川・水路のネットワークが成立していれば,
骨格河川から導水されて小河川さらに小水路や用水路
に振り分けられる.江戸川区では昭和の始めまで農業
用水が無数に広がっていたが,戦後の市街化により農
業用水の役割が急速になくなり,一時期用水はどぶ川
化して区民の遠い存在となった.前述した区政の大転
換により,1970年代の古川親水公園に始まり,親水水
路のネットワークは,現在では緑道が18か所,公園が5
か所にまで広がった.このように街なかに小水路を通
すテーマは,当初の「親水」から「生物多様性」や
「賑わい」に発展し,「公共の公園・緑地」から市民
の「庭先のみどり」へと様変わりしてきている.用水
の水源は江戸川などから河川水を導水し,区間ごとに
繰り返しポンプアップしながら,必要に応じて循環さ
せる.これにより水面の高さが近く保たれる.
江戸川区において多くの親水水路が実現している背
景には,都市環境の時代(1970年代)に,排水路の下
水道事業と新たな親水事業を区の長期計画として取り
上げ,その後の事業化への道につながった.親水水路
の多くは,親水公園・親水緑道の公共の緑とともに,
庭先の緑(プライベートグリーン)が重要な役割をは
たしている.
図-11 住宅地を流れる上小岩親水緑道(江戸川区)
図-9 街なかを流れる水路網(金山町)
図-12 庭先と親水緑道の壁が取り払われる(江戸川区)
図-10 大堰公園内を流れる用水路(金山町)
47
5. 生態・社会複合文化系の再構築を促すために
(1) 生態・社会複合文化系における水辺・水網の役割
日本の主要都市の近代化の過程において,都市生活
に潤いをもたらしていた河川や水路,樹林地などの多
くが失われてきたことにより,人と自然が身近に寄り
添える場が少なくなってきたと言える.例えば東京荒
川区や文京区などの都心地域に見られるように,多く
の水路がすべて下水道として暗渠化されたのも事実で
ある.生態・社会複合文化系が維持されている地域社
会は様々な取り組みが必要とされるが,とくに河川・
水辺のもっている役割は大きいと考えられる.
a)持続可能な水系・地域社会が維持されていること
生態・社会複合文化系社会においては,自然と社会
の相互作用が失われることなく,地域の自然の象徴で
ある河川・水路や湧水などが,特に地方都市において
は今でも農業用水や生活用水に活用され,持続的な水
系が維持されていること.
b)骨格河川と水網のネットワークが存在すること
長い年月をかけてできた沖積平野や扇状地などの地
形条件によって生まれた水系において,骨格と呼ばれ
る河川と結びついた水網ネットワークが存在し,舟運
や用水などに象徴される水と地域社会が密接に結びつ
いて発展してきた.これらの水網ネットワークの水路
からは“奥山の自然”の余韻が感じられること.
c)川とまちの一体化で新たな魅力が生まれること
水網ネットワークの存在が重要であるのは、降雨ご
とに増水を繰り返す都市河川とは違って,自由度の高
い制御された流れによって,川とまちがより身近にな
る条件を有している.しかし、かつての舟運機能も失
われ,水網ネットワークの役割がなくなった地域にお
いては,新たに “環境用水”の位置付けにより,水辺
の賑わい・交流の場の実現によって新たな付加価値が
生まれること.
図-14 大堰から敷地内へ水が入りこむ(金山町)
(2) [まちニワ]の基本的性格と役割
a) まちニワの曖昧性
「まちニワ」とは,町を意味する「まち」と現代日
本語で庭園を意味する「ニワ」の2つの言葉で成り立
っている.「ニワ」の語源としては,共同体の行事,
作業などにつかわれる都市の半公共的で自由な「場」
であり,「路地」「辻」「火除け地」「橋詰め」「水
辺」「社寺の境内」などに見られる.その中でも自然
が都市の懐(ふところ)深く入り込み,水辺・水網に
面した場所は,自然(生態系)とコミュニティ(社会)
が深く影響し合った結果として,「居心地のよい」場
が生まれる.かつて日本全国にも多く存在した「山水
都市」のように,生態系を都市の文化の中へ取り込む
(自然が人間の懐深く入り込む)ことで,自然(生態
系)とコミュニティ(社会)が影響し合う場として,
半公半私の場である「まちニワ」が形成されている.
「まちニワ」の成立にとっては「曖昧性」や「賑わい
性」が重要なキーワードとなっているが,象徴的な自
然を都市の文化に取り込むことで,持続可能な発展が
可能となる.生態・社会複合文化系の再構築していく
ための要となる存在である.
図-15 中山道の板橋(江戸名所図会より)
この新しい言葉として「まちニワ」と呼びたい.こ
の言葉の意味における古典的な庭のもつ元気なバイタ
リティの復活を公共空間に想定している.その基本的
図-13 大堰公園から背景の山を眺める(金山町)
48
ティ形成機能を満たしている.
(a)維持管理を共同して行うこと;金山町における融
雪溝管理,郡上市における洗い場の清掃当番制などい
ずれも住民の自主管理である.(b)水辺の祭事を通じ
た歴史の学習.広島の太田川では,市民による河川清
掃の伝統行事が祭事となっている.(c)公共コミュニ
ティの場につくられる水辺のカフェ,レストランの営
業.(d)江戸川区の親水水路に接する街並みのように,
水路沿いの民家における玄関周りの私的庭園の公共化.
(e)所有意識を持たせるための水路の命名(金山町)
(f)食器洗い,野菜,洗濯などの共同作業場の維持;
郡上市,金山町
以上のような活動と利用により,水路沿いの空間は,
祭礼,歓楽,日常生活,清掃維持作業などの交流を通
じて社交と言論の場を形成する基盤となっている.こ
うして,都市の水網がつくる「場」と「身体」と「言
語」の交差から生まれる“ランドスケープ”と“場の
気配”は,「身体」と「言語」を通じて社会性を獲得
するといえる.「まちニワ」はその中心である.
な性格は以下のとおりである.(図-15参照)
・空間としてのモノの形ではなく,場の雰囲気や表情
が感じられること
・人の気配やコミュニティの存在などの社交性・賑わ
い性があること
・「公」と「私」の境界が曖昧で,そこに「間」が存
在し,「半公半私」の状態であること
・公私の曖昧な境界を構成する「庇」や「縁台」のよ
うな身体的に居心地の良い適所から快適な眺めを楽し
むことができる.
・自然と社会の両方が重なる領域で,背後の自然,山
水の気配が感じとれること
・地域の人々のよりどころとなり,複雑な微地形を回
遊できる構造となっていること
・水路の引き込まれた「まちニワ」の自然は,生態・
社会複合文化系の典型例であり,その中で人工的なも
のの近くに置かれる自然は,生態系というより象徴的
自然である.(図-16 参照)
自然
社会
公
d) 現代のまちに活かされる「まちニワ」
「まちニワ」の設立は,かつて水辺が生活空間の一
部であった時代に戻ることで,歴史的町並みのように
それらを復元するといったノスタルジー的な発想では
なく,現在都市においても「まちニワ」が水辺社交の
場として欠かせない存在であるからといえる.
山形五堰の中でも,山形城跡の霞城公園の濠に流れ
込む御殿堰は,七日町再開発の場所に新しい伝統的建
築といっしょに用水路を再現した.これによって地域
の情報文化発信の拠点として,質の高い賑わいが生ま
れている.ここに生まれた「まちニワ」には魅力的な
店舗が並び,山形の文化をリードする奥山清行のデザ
インショップなど中心市街地の目玉となっている.
私
私
私
まちニワ
公
私
図-16 「まちニワ」の基本構造
b) 「まちニワ」における「場」の気配
「まちニワ」のもう一つの性格は,「場」の気配に
関することである.日本語でいう「場」は,先に述べ
た「ニワ」という言語を用いることは注目に値する.
「まちニワ」の特徴は,空間造形としてのモノの形よ
りも,その場の雰囲気や強い印象によって生まれる.
家が建てこむ都市のなかで,細く浅い水の流れが入り
込む「まちニワ」に身をおくと,瀬音がきこえ,雲の
流れ,風の流れ,月影がそれに加われば,山は見えなく
ても都市を取りまく山谷の気配,季節の移り変わりを
感じることができる.さらにまた,軒先の鉢植え,軒
下の風鈴,よく手入れされた松の枝からは,人々の生
活の気配がつたわってくるだろう.それらの風物は,
その象徴性によって周辺の環境を詩的な“場”に変え
ることができる.
c)コミュニティの形成
都市の環境の中で水網の存在は次のようなコミュニ
図-17 「七日町御殿堰」に生まれた半公半私の場
49
6. 生態・社会複合文化系の再構築に向けて
(1) 風景の再定義に向けて
自然,社会,個人の中間に浮遊する生態・社会複合
文化系は,日本語では伝統的に風土(Fudo)とよばれ
るもので,地方の人類学上のシステムに相当する.こ
の方法論的な特性の重要性,もしくは中間的な性格は
しばしばオギュスタン・ベルクにより強調されている.
(参照:オギュスタン・ベルク)これは風土の世界観
と呼んでもよい.ここに示す3つの要素は,それぞれ
別々に存在しているわけでも対立しているわけでもな
く,相互に混ざり合った関係をもっている.さらにデ
ザインの実質的な段階において,風土は身体と場と言
語が絡み合って融合する世界の中で,具体的に自己表
現をするに違いない.その中で「まちニワ」は,建築
や庭のように,重要な“場”であると共に,風土のエ
ピソードで満たされている.実際に身体には生まれな
がらにして,個々の主観も存在する.言語も個別の社
会とつながっており,社会は自然に取り囲まれた場の
懐の中で形成される.
図-18 風景の中に身をおく「まちニワ」
スケープの概念を改訂する企てを議論する上で,次の
ような補足が考えられる.
図-19に示す「生態・社会複合文化系」の関係図では,
「自然」「社会(公)」「人(私)」の三角形の頂点
によって構成される中間の場に,生態・社会複合文化
系(Socio-eco Cultural Complex)の概念が示される.
また,「自然」と「社会(公)」の中間的位置が「場」
であり,「自然」と「人(私)」の中間的位置が「身
体」である.また,「社会(公)」と「人(私)」の
間は「言語」が関与している.
(a)風景(ランドスケープ)は,自然と社会の関係を実
際のもの以上に象徴的な関係として理解される.
(b)風景(ランドスケープ)は我々の身体から遊離して
独立しているのではなく,自己言及的な存在である.
我々の身体は場のまわりと固くつながっている.この
ような「場」と「身体」が混合し,双方向のシステム
においては,風景としての山は常に対象物として見ら
れるのではなく,逆にこちらを凝視している.
図-19 生態・社会複合文化系
風景は身体の全感覚と言語のあらゆる知識を介して,
場を体験し解釈することである.このように総合化さ
れ象徴的なプロセスをより効果的に繊細に説得力をも
ってするには,風景デザイン(ランドスケープ)が欠
かせない.このような洗練されて詩的なプロセスを経
ることなしに,記憶地図により事前に調査したり,エ
コロジーやバイオを課題とすることは,混沌の中に入
りこんで後味の悪いものとなる.生態・社会複合文化
系が現実のものとなって,生態学や心理学を科学的に
考えることより,人間の尊厳の最高の領域への詩的な
解釈を通じてのみ昇華することができる.
したがって,ランドスケープのマネジメントやデザ
インをするには,個別のクリエイティブな発想が求め
られるが,科学的な示唆,現象学的な洞察などに関し
て常に注意深いことが必要である.要するに,ランド
50
(c)我々の身体は場の中を動きまわったり前に進んだり
して,うまく場の中に入りこんでいる.
(d)みんなが共有される風景(ランドスケープ)と個人
個人が眺める風景(ランドスケープ)のどちらも考慮
されなくてはならない.
(e)風景(ランドスケープ)のプロセスは限りなく扱わ
れていくものであり,コミュニティの中から次々と新
たな解釈や経験が生まれ続けるものである.
(f)身体感覚を駆使して総合的な体験が生かされなけれ
ばならない.たとえば食事の時に風景(ランドスケー
プ)を楽しむ人にとっては,地域ならではの香りがあ
れば,すばらしい料理がより美味しものに見える.
(g)「身体」と「場」の総合的な原則によれば,デザイ
ンのプロセスは,対立する環境要素を巧みに扱うこと
だけでなく,人々の風景に対する価値観の変質が増幅
生態・社会複合文化系の再構築を今後進めていく上
で,重要と考えられる方策を示す.
a.生態・社会複合文化系の考え方を将来像に盛り込む
(2) 再構築の基本的スタンス
生態・社会複合文化系の再構築を進めるにあたり,
◇地域のたどった軌跡や地形的・地理的な分析などを
都市の中に様々な方法により自然を取り込むためには, 行って,地域らしさ=「風土」の特徴を重視する.
次の3つの基本スタンスが重要である.
◇江戸川区の「内河川整備計画(1972)」にあるように,
a) エコ・シンボリズムの感覚を大切にすること
水網ネットワークや親水水路の計画にあたり,個別的,
都市の近代化に伴い,一度失われた水網ネットワー
部分的な対応ではなく,自治体の上位の計画の中にト
クや水・緑の共有空間が,装いを変えて都市内に新た
ータル的に盛り込むことが必要である.
に成立することは,持続可能な社会の実現にとっても
b.失われたかつての水路・水網を復元する
有益なことである.日本人が古くから自然を大切に思
◇一度暗渠化された水路であっても,ワークショップ
いながら都市生活の中で獲得してきた作法として,都
などにより地域住民の願いを受け入れて,水源の検討
市の中に自然を象徴的に取り込むこと,すなわち一筋
を含めてオープン水路化を積極的に進めていく.
の水の流れやまちかどの1本の樹木などから奥深い自然
(横浜市の下谷本せせらぎ水路など)
を予感する.用水路の脇に植えた鉢植えの花や水辺の
◇水路を復元(オープン化)できない場合でも過去の
野草,軒下を流れる水路などからは,山紫水明の自然
履歴を活かして,街路や公園の計画に水路・水網の記
の気配が感じられるであろう.このように自然を象徴
憶を反映させる工夫をする.
的に取り込むことを,ここでは“エコ・シンボリズム” c.河川・水路の水循環系または水源を回復させる
と呼び,生態・社会複合文化系の再構築を進めるため
◇水質の浄化,都市用水の回復に取り組んだことで,
の重要なとらえ方の一つとする.
近江八幡や柳川掘割の水路が復元されたことは広く知
b)「まちニワ」を人と自然が触れ合う場に
られている。これらの維持管理には市民自らのボラン
「まちニワ」は歴史的にみても「道」「広場」「水辺」 ティア活動が力となっている.
「水網」「みどり」「社寺」など,様々な領域にお
◇都市部の厳しい地下水事情においても,新宿区玉川
いて,人と自然と触れ合う場として位置付けること
上水内藤新宿分水の水路整備のように,地下水規制の
ができる.その中でも人が水を利用する接点となる
枠を再検討や下水処理水の再利用を大胆に活用するこ
場所,例えば,水汲み場,洗い場,渡し場,橋詰な
とも検討する.
どの「水辺・水網」の空間は,人と自然が触れあう
d.もう一度まちの顔を川に向ける
ことのできるコミュニティ空間である.人が集まり
◇河川・水路と建築・公園施設を接近・一体化させる。
賑わう場所でもある「まちニワ」は,生態・社会複
河川・水路が余り単調にならないように,できれば民
合文化系の中心的存在である.居心地の良い「まち
地との境界には柵は設けずに,建築の壁や生垣・植栽
ニワ」においては,人物,家,樹木,道などを含め
などが直接に面するように配置する.
て,輪郭性に乏しい身体感覚としての自己の一部と
◇「半公半私」の曖昧な境界部とするために,民地の
して機能している.
植栽と河川・水路の植栽とを明確に分けることをせず
c) 生態・社会複合文化系の成立にとっては緩やかに近
に,両者が混然一体となるように工夫する.
代化が進められること
e.水辺近くで飲食のできる賑わいの顔をつくる
インフラとしての水辺・水網の機能が一度失われる
◇一度離れた水辺を生活空間の中に取り込むために,
と,雨水排水のシステムや構造などが変わるため,容
河川・水辺に近くにぎわいのあるカフェやレストラン
易に元に戻すことはできない.逆に江戸川区の例のよ
がある場合は,店の表が仮に裏側でも,河川・水辺の
うに事業のタイミングさえ合えば,他の地域でも住民
側にももう一つの出入口を設けるように工夫する.◇
の要望を踏まえた上で,元は水辺・水網となっていた
河川法や道路法などの制約条件を緩和して,公共空間
場所に親水水路として整備することは十分可能であろ
にも商業活動などができるようにして,賑わいと活気
う.そのためには,行政として当面の効率化だけに走
が生まれるように工夫する.
らずに,じっくりと50年,100年先を見据えたマスター
f.生態・社会複合文化系の中心「まちニワ」をつくる
プランづくりが必要である.
◇人と人が共有できる半公半私の場をつくる.公共空
間の「公」だけの場ではなく,「私」としての民家や
(3) 生態・社会複合文化系をまちづくりの計画・実施
商店や路地やシンボル樹などが混ざり合って存在する.
に活かすための方策
◇行政と市民が一体となって、生態・社会複合文科系
する.
51
参考文献
の集中点である「まちニワ」の創出をはかる.その場
所にかかわる過去の歴史的経緯や文化的な意味付けな
どを市民の立場から重視する.
1)
2)
K.Lynch、Image of the city , MIT press 1965
J.J Gibson, The Ecological Approach to Visual Perception、
Boston, 1979
これらの課題を推進する上で,都市行政や河川行政
を担う自治体などの組織が,従来と変わらない縦割り
構造であっては難しいといわざるを得ない.したがっ
て,自治体の首長及び企画調整部局が自治体組織全体
に及ぶ行政展開を進めることが必要であろう.
地域が一度水辺・水路というインフラを失うと,雨
水排水のシステムや構造が変わってしまい,元に戻す
ことは容易ではない.
3)
Y. NAKAMURA, ‘La raison-coeur des cosuscitationspaysageres’
4)
http://www.mesologiques.com, mai 2012
5)
中村良夫,都市をつくる風景,藤原書店,2010
6)
(財)リバーフロント整備センター編,河川景観デザイ
ン,2007
中村良夫,都市をつくる風景,藤原書店,2010
法政大学大学院エコ地域デザイン研究, 2006 年度研究報
告書「水の郷・日野 用水路再生へのまなざし」, 2007
山田圭二郎,間と景観,技報堂出版,2008
田中・川崎,祇園白川地区における都市景観形成と白
川・琵琶湖疏水の役割に関する史的研究,土木学会論文
集 No.681/Ⅳ‐52,pp.77-86,2001.7)
田中・川崎,祇園白川地区における都市景観形成と白
川・琵琶湖疏水の役割に関する史的研究,土木学会論文
集 No.681/Ⅳ‐52,pp.77-86,2001.7
オギュスタン・ベルク,風土の日本,ちくま学芸文庫,
1992
渡部一二、水の恵みを受けるまちづくり、鹿島出版会、
2010
御殿堰旧城濠土地改良区、御殿堰と水・農民、1995
信州大学工学部建築工学科松本研究室,長野市・松代三
7)
8)
◆謝辞
本研究は,東京工業大学名誉教授の中村良夫先生と
の共同研究として進めてきた.定期的な研究会の場で,
研究課題に対する問題提起を議論し,紹介された事例
箇所の現地調査やヒアリング調査を実施してきた.本
研究の成果は,生態・社会複合文化系の再構築に向け
ての実践課題としての今後の取り組みが欠かせない.
最後に,共同研究者としてご指導いただいた中村良夫
先生に心からお礼申し上げる.
9)
10)
11)
12)
13)
14)
15)
町水路活性化についての調査報告書,1985
A STUDY ON SOCIO-ECOLOGICAL CULTURAL COMPLEX IN URBAN MILIEU
Koji Okamura, Yoshio Nakamura, Yoshinori Iida,
Tatsushi Kimura, Shuuichi Inaba, Takashi Takahashi
The Japanese cities used to be landscaped fields integrated with a labyrinthian stream network like capillaries, but they have been lost with the
development of urbanization. Based on a number of on-site studies, the authors came to generalize such tradition and to conceptualize a socioecological cultural complex without barriers between "nature" (ecosystem) and "society" (community), traditionally called “Fudo” in Japanese.
And beyond objective landscape appeared to be opposed to subjectivity, we came to understand the importance of the fused sphere that consists
of body-field-language. In this context, the study was carried out and expanded into epistemological dimensions as to suggest revised concept of
landscape, as one of the symbolic expressions of“Fudo”. The socio eco-symbolic landscape is attributed to the sense of life, stemming from
human body engaged in an expanse of field and society. Keeping its ambivalent structure in mind, the paper finally intends to propose concerned
aspects of landscapeand also the role of landscape managementandeducation.
52
地中構造物周辺空洞化に伴う
リスク定量評価手法の研究
蛯原 雅之1
1技術士(総監・建設)
博(工) 株式会社建設技術研究所 国土文化研究所
(〒103-8430 東京都中央区日本橋浜町3-21-1)
E-mail: ebihara@ctie.co.jp
道路陥没や河川堤防の浸透破壊等を引き起こす要因として,地下水・浸透水等の水際に位置する地中構
造物周辺で生じる地盤中の空洞が挙げられ,空洞発生・拡大メカニズムや周辺影響について,多くの実験
的研究が報告されている.しかしながら,これらの因果関係や空洞化のメカニズム・リスクを定量的に分
析する手法は整備されていない.そこで,構造物や空洞を考慮した数値流動解析モデルの開発・検証を行
い,これを河川分野(堤防・樋門等の安全性照査)へ適用する試みとして「樋管部・弱堤部等における照
査手法の試行検討」「質的許容外水位の縦断分布評価手法の試行検討」を行ったものである.
Key Words : sluice pipe, cavity, continuous levee, numerical simulation, risk assessment
1. はじめに
めのモデル解析ツールの開発
・洪水時における,空洞・連通状況と堤体内水頭分
布の対応に関する感度解析と浸透破壊の弱点部に
おける安全管理・減災対策の考察
・樋管部・弱堤部等における照査手法の試行検討
・質的許容外水位の縦断分布評価手法の試行検討
なお,上記の試行検討にあたっては,国道交通省関東
地方整備局下館河川事務所より小貝川の堤防・樋門等の
現況,既往地質調査・点検調査等に関する資料を貸与頂
き参考としている.
従来より,樋門・樋管等の堤防横断構造物設置部にお
ける河川堤防の被災要因として,圧密や土粒子流失によ
る構造物周辺空洞化に起因する進行性破壊が指摘され,
巡視点検・変状調査や連通試験・空洞探査等による空洞
管理や,埋め戻し等の補修が行われている 1)2)3).
しかし,「再空洞化の可能性があるため,ある一時点
の調査・対策で将来的な安全まで担保できない」といっ
た堤防劣化の時間管理に関わる課題,「連通試験では高
水位時の高い圧力状態までは通常考慮していない」,
「空洞化や連通の状況(程度・分布)と,それが進行性
破壊や破堤を引き起こす危険性との対応は解明されてい
ない」等の安全性評価に関わる課題,さらには「周辺の
堤防一般部との相対的な安全性照査(弱点か否か)が定
量的になされていない」といった一連堤防としての質的
管理に関する課題等,議論すべき課題は多い.また,空
洞調査・対策を行っても,「急激な内部浸食進行」,
「止水矢板の脱落」等により突発的な被災を生じる可能
性があるといった特性を認識し,そのような状況が生じ
ても,極力「破堤」を回避するための危機管理や,容易
に崩壊しない対策を付加することが望ましいといえる.
このような背景を踏まえ,以下の検討を行った.
・堤体内構造物,空洞等を適切に考慮でき,一連堤
防における浸透破壊に対する弱点部を検討するた
2. 構造物,空洞等を考慮できる解析手法の開発
河川堤防の浸透に対する安全性照査では断面二次元飽
和不飽和浸透流解析が用いられ,その前提として,堤防
をいわゆる「金太郎飴」的な線状構造物とみなし,代表
断面あるいは要注意箇所等の弱点断面で解析している 2).
しかし,堤防は縦断方向に土質構成が変化する盛土構
造物であり,よりミクロには,築堤履歴や築堤年代等に
も土質構成が左右されている.この点を踏まえれば,あ
る特定の堤防横断面に対して,法面形状や土質断面を厳
密にモデル化する断面二次元解析で高精度の安全率を算
出するアプローチの一方,横断面のモデル化を多少簡略
化してでも,縦断方向の変化を考慮した堤防一連として
の検討を行うことが有用と考えられる.
53
特に,樋門設置部のように断面二次元解析の適用条件
を満たさない場合には面的な浸透挙動の考慮がより重要
であり,また,樋門周辺空洞部は,浸透流解析の前提で
あるダルシー流動ではないため,空洞内の水の挙動の適
切な取り扱いも必要となる.
そこで,下記の要件を満たす解析手法を開発した.
・堤防縦断方向の条件変化や,堤体内構造物等によ
る浸透流の面的な迂回・集中等も考慮できること
・樋門周辺空洞における不飽和から飽和にいたる貯
留,流動状況を適切に考慮できること
・検討目的から求められる解析精度と計算負荷・モ
デル化負荷の低減を両立すること
解析手法の概要,及び数値実験による従来手法との比
較,模型実験との比較を以下に示す.
∑
k  x , y ,z
αM w,k  βM w _ DW ,k   ρws qws
ΔV

Δt
∑
k  x , y ,z


α  β M g ,k  ρgs q gs
ΔV

Δt
(3a)
 ρwφS w  t  Δt   ρwφS w  t  0


(3b)
ρg φS g  t  Δt  ρg φS g  t  0
ここで, α 及び β は以下の定義による指標, ΔV は微
小領域の体積, q ps は格子からの標準状態の流出入量,
φ は間隙率である.
0 : 空洞
α
 1:地盤
0 : 地盤
β
1:空洞
c) 解析精度の確保と計算負荷・モデル化負荷の低減
三次元解析を想定する場合,実用上,計算負荷やモデ
ル化負荷を軽減することが望ましい.
(1) 解析手法の概要
断面二次元解析が実用で用いられる背景には「洪水時
a) 堤防縦断方向及び堤体内構造物の考慮
は堤防横断方向の流れが卓越するため,金太郎飴的な構
一連堤防の中での樋門設置部の安全性を検討する点,
造を前提とする断面二次元モデルで評価可能」との前提
及び縦断方向における堤防断面や土質分布の変化,樋
がある.同様の考えから堤防縦断線形を直線とみなす.
門・樋管,橋台,遮水矢板等の堤体内構造物の空間配置
また,選定した代表断面に対して厳密に法面形状や土
等も考慮できることを考慮したモデルとした.
質境界を mm 単位でモデル化するより,ここでは縦断方
空洞分布は,空洞調査結果や沈下計算結果に基づく範
向における弱点抽出や相対評価を趣旨とする点から堤体
囲・形状設定を想定しており,また,任意の箇所で水頭, 法面の微小形状までは考慮せず,断面形状誤差±10cm
間隙水圧・空気圧,流速ベクトル,動水勾配等の時間変
を許容する階段状の差分格子(最小格子幅 20cm)を想
化を出力できる仕様としている.
定する.但し,解析結果に直接的に影響する境界水位や
b) 樋門周辺空洞等の考慮
変動水位等は厳密に設定する.
空洞の有無による浸透流動や圧力伝播への影響を適切
これらの前提により有限差分法を適用し,特に以下の
に考慮するため,土質内及び土質と空洞間の流れには式
点で計算負荷・モデル化負荷の軽減を図った.
(1)に示す一般化ダルシー流れの式を適用する一方,空
・有限要素法に比べて計算負荷が小さく,三次元解
洞内には開水路運動方程式の拡散波近似モデルを式 (2)
析においても比較的計算所要時間が短い.
に示す圧力単位の式に変換して導入し,従来の飽和不飽
・要素メッシュ分割の必要が無く,入力データをテ
和解析の機能を一部拡張している 4)5).以下に,適用し
キストエディタ,エクセル等で簡便に作成できる.
た流れの式と支配方程式を参考文献 5)より引用する.
・遮水矢板を格子間の透水性で設定できるため,矢
ρ p K x k rp,x
∂Ψ p
板配置変更等に伴う要素メッシュの再設定等の計
(1)
M p ,x  
Ax
μp
∂x
算ケース毎のモデル修正が不要.
M w_DW ,x   ρw
R 2 3WHS w
n ρw g
 Ψw
x
(2)
∂Ψw
∂x
ここで,添え字 p は水相 w または気相 g を示し,
M p ,x は流体相 p の質量流速[kg/s], ρ p は密度[kg/m3],
K x は絶対浸透率[m2], μ p は粘性係数[Pa・s], k rp ,x は
p 相の x 方向相対浸透率, Ax [m2]は流動断面積, n は
マニング係数, R [m]は径深, H [m]は空洞高, S w は
飽和率である.また,Ψ p は圧力単位の水理ポテンシャ
図-1 開発モデルの概要(考慮できる事象)
ル[Pa]である.
これらと質量保存則により式 (3a)及び式 (3b)の支配
(2) 数値実験による従来手法との比較検証
方程式を得て,陰的に連成(カップリング)して解く.
従来の飽和不飽和浸透流解析手法から拡張した「空洞
54
実施した.なお,水面勾配を表現するため,式 (4)に示
す擬似毛管圧力を導入し,空洞部の水深(飽和率)を圧
力単位に置き換えて考慮した 4)5).
考慮機能」の部分を対象に,連通試験を想定した数値実
験により従来手法と本手法の比較を行った.
数値実験には図-2 の格子モデルを用い,0.5m×0.5m×
0.5m×15 格子の空洞中央部に,全く水を含まない初期
状態から,空洞中央に毎秒 0.005m3(毎分 0.3m3)で継続
注水を設定した 5).
空洞内流れを従来の飽和不飽和解析で取り扱う場合に
は,実務的に高透水媒体を仮定し,十分粗い礫程度の透
水係数を与える場合がある.この点を考慮し,空洞部分
の絶対浸透率を K =1E-9m2(透水係数 1E-0cm/s 相当)か
ら K =1E-6m2(透水係数 1E+3cm/s 相当)まで段階的に変
化させ,間隙率は 1.0 とした.また,地盤の毛管圧力曲
線及び相対浸透率の設定には,「河川堤防構造検討の手
引き」の砂礫地盤のデータを用いている 2)5).
結果は図-3 に示すとおりであり,絶対浸透率を 1E-6m2
程度(透水係数では約 103cm/s)とし,擬似毛管圧を使
うことで,空洞内注入水の滑らかな広がりが計算される
ものの,絶対浸透率が小さい場合や擬似毛管圧を使わな
い場合には,初期の広がりに誤差を生じる傾向があり,
客観性や一意性の点で課題があることがわかった 5).
Pc  ρw gH 0.5  S w 
(4)
結果は図-4 に示すとおりで,実現象をできるだけ忠
実に考慮する目的で開水路運動方程式を導入したことに
より,空洞内の水の流動,地盤と空洞間の流動等が,よ
り適切に表現されることを確認した 5).つまり,ダルシ
ー流れの適用外である樋門周辺空洞内の流れを考慮する
場合には,本開発手法が従来の飽和不飽和浸透流解析よ
り現象再現性および汎用性が高いといえる.
(3) 模型実験との比較検証
樋門設置部および空洞を模した室内浸透実験を行い,
適切な境界条件と透水係数の設定により実験時の堤体内
圧力分布等を再現計算できるか否かを検証した.
実験装置は,図-5 に示すとおり,堤防横断方向の長
さ 130cm,奥行き 30cm,高さ 60cm のステンレス製の水槽
で,前面をアクリル板で透明とし,実験実施毎に川砂で
内部に堤防を整形する.なお,前面には樋門を模した断
面 5cm 四方の角柱を固定しており,さらに堤防の中央お
よび両端部付近に,必要に応じて遮水矢板を設置できる
構造とした.
図-2 数値実験モデルの概要
空洞部分
水深(m:満水=0.5)
0.5
の絶対
浸透率
K=
1E-9m2
1分後
2分後
4分後
6分後
中央格子か
0.4
ら順次保水
0.3
0.2
及び順次飽
0.1
0.0
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15
和
空洞内格子番号
空洞部分
水深(m:満水=0.5)
0.5
の絶対
浸透率
K=
1E-6m2
1分後
2分後
4分後
図-5 実験模型の概要(図の左側を河川側と想定)
6分後
0.4
中央格子か
0.3
ら順次保水
0.2
0.1
後に自然な
0.0
水深分布
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15
堤防横断方向の断面を示した図-6 で,各遮水矢板の
両側に赤点で示した位置には圧力計を配置し,河川水位
を上昇・下降させる際の水頭変化を観測する.
また,図-6 に示した A,B,C,C'位置の樋門設置方向
の断面を図-7 に示す.図中の紫ハッチの部分が遮水矢
板であり,上下方向に可動であり,「樋門に密着する位
置」から「樋門との間に 1cm の空間を空けられる位置」
までの任意の高さで固定できる.
水槽の両端部には目の細かい金網で仕切った幅 5cm の
空間を取り,図の左側では河川水位変動(上昇.下降)
を流入水量の調整で制御し,右側では排水用の堰(樋管
空洞内格子番号
図-3 従来の飽和不飽和解析の結果(水深分布の経時変化)
水深(m:満水=0.5)
0.5
1分後
2分後
4分後
6分後
0.4
0.3
0.2
0.1
0.0
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15
空洞内格子番号
図-4 開発手法による解析結果(水深分布の経時変化)
一方,空洞内流れに開水路運動方程式を適用する本開
発手法の場合は,粗度係数を n =0.025 として 1 ケースを
55
②部分的な空洞の影響に関する比較結果
【空洞は生じておらず,矢板は全て機能している場
合】,および【中央下部に空洞が生じたが,矢板は全て
機能している場合】の実験と三次元モデル計算を行った.
結果図を図-10 に示す.
【空洞は生じておらず,矢板は全て機能している場合】
は,樋門の下部に空洞が生じる前の状況であり,遮水矢
板がすべて機能していることにより,計測点aとb,c
とd,eとfで水圧差が計測されている.ただし,計算
上は遮水矢板前後の水圧差が実測に比べて小さく算出さ
れており,より精度良く計算するためには,パラメータ
調整あるいは非ダルシー流れ(乱流域)として透水係数
を見直す等の条件設定改善の余地がある.
また,【空洞は生じておらず,矢板は全て機能してい
る場合】は,樋門の中央下部に空洞が発生した場合であ
るが,遮水矢板は全て機能していることから水圧分布に
大きな変化は見られず,空洞内の中央矢板裏側dにおい
て若干水圧が低下した程度の変化となり,計算上も同様
の状況が算出されている.
下面高を中心に 1cm の幅で高さを調整可能)を超えた水
は排水される構造とした.
図-6 実験模型断面図(堤防横断方向)
図-7 実験模型断面図(樋門設置方向)
図-8
③部分的な空洞および矢板の影響に関する比較結果
【中央下部に空洞が生じたが,矢板は全て機能してい
る場合】,および【中央下部に空洞が生じ,さらに天端
下部の矢板が機能せず連通した場合】の実験と三次元モ
デル計算を行った.
結果図を図-11 に示す.
【空洞は生じておらず,矢板は全て機能している場
合】に対して,【中央下部に空洞が生じ,さらに天端下
部の矢板が機能せず連通した場合】では,中央の矢板に
よる遮水機能が失われて矢板前後の空洞が連通するため,
計測点cと計測点dの計測値は一致し計算上も同様の状
況が算出されている.
なお,このケースでは空洞は川表側や川裏側にまでは
広がっていないため,前述の【堤体幅全体に空洞が生じ,
さらに天端下部の矢板が機能せず連通した場合】とは異
なり,計測点bとc,および計測点dとeの水圧差は,
実測においても計算においても残っている.
実験模型の外観
①空洞および矢板の影響に関する比較結果
【堤体幅全体に空洞が生じたが,矢板は全て機能して
いる場合】,および【堤体幅全体に空洞が生じ,さらに
天端下部の矢板が機能せず連通した場合】の実験と三次
元モデル計算を行った.
結果図を図-9 に示す.
【堤体幅全体に空洞が生じたが,矢板は全て機能して
いる場合】では,遮水矢板はすべて機能しているものの,
以上の実験結果および比較計算の結果から,空洞連通
各矢板間で空洞が連通しているため,計測点bとc,お
に伴う圧力連動や遮水矢板の効果による水圧分布の変動
よび計測点dとeで,同程度の水圧が計測されており,
傾向を,作成したプログラムにより計算上概ね表現でき
計算上も同様の状況が算出されている.
るものと判断した.
また,【堤体幅全体に空洞が生じ,さらに天端下部の
矢板が機能せず連通した場合】では,空洞が連通してい
る状況で,さらに中央の矢板の遮水機能が失われたため,
川表側と川裏側の両矢板間にある計測点b・c・d・e
の計測値が 2cm 程度の幅の中に集中し,計算上も同様の
状況が算出されている.
56
a 表のり尻 矢板表側
c 天端下部 矢板表側
e 裏のり尻 矢板表側
流入水位
流出量(cm3/s)
側
実験結果
b 表のり尻 矢板裏側
d 天端下部 矢板裏側
f 裏のり尻 矢板裏側
流出水位
計算結果
【堤体幅全体に空洞が生じたが,矢板は全て機能している場合】
a 表のり尻 矢板表側
c 天端下部 矢板表側
e 裏のり尻 矢板表側
流入水位
流出量(cm3/s)
側
実験結果
b 表のり尻 矢板裏側
d 天端下部 矢板裏側
f 裏のり尻 矢板裏側
流出水位
計算結果
【堤体幅全体に空洞が生じ,さらに天端下部の矢板が機能せず連通した場合】
図-9
①空洞および矢板の影響に関する比較結果
a 表のり尻 矢板表側
c 天端下部 矢板表側
e 裏のり尻 矢板表側
流入水位
流出量(cm3/s)
側
実験結果
b 表のり尻 矢板裏側
d 天端下部 矢板裏側
f 裏のり尻 矢板裏側
流出水位
計算結果
【空洞は生じておらず,矢板は全て機能している場合】
a 表のり尻 矢板表側
c 天端下部 矢板表側
e 裏のり尻 矢板表側
流入水位
流出量(cm3/s)
側
実験結果
b 表のり尻 矢板裏側
d 天端下部 矢板裏側
f 裏のり尻 矢板裏側
流出水位
計算結果
【中央下部に空洞が生じたが,矢板は全て機能している場合】
図-10
②部分的な空洞の影響に関する比較結果
a 表のり尻 矢板表側
c 天端下部 矢板表側
e 裏のり尻 矢板表側
流入水位
流出量(cm3/s)
側
実験結果
b 表のり尻 矢板裏側
d 天端下部 矢板裏側
f 裏のり尻 矢板裏側
流出水位
計算結果
【中央下部に空洞が生じたが,矢板は全て機能している場合】
a 表のり尻 矢板表側
c 天端下部 矢板表側
e 裏のり尻 矢板表側
流入水位
流出量(cm3/s)
側
実験結果
計算結果
【中央下部に空洞が生じ,さらに天端下部の矢板が機能せず連通した場合】
図-11
③部分的な空洞および矢板の影響に関する比較結果
57
b 表のり尻 矢板裏側
d 天端下部 矢板裏側
f 裏のり尻 矢板裏側
流出水位
3. 感度解析および安全管理・減災対策方法の検討
表-2 計算ケース番号一覧(後述の追加計算を含まない)
case-d30,d40,d20
case-d31,d41,d21
遮水機能維持
空洞部が連通
中央のみ空洞化
d41c,d31c,d21c d41cr,d31cr,d21cr
中央と川裏側が空洞化 d41u,d31u,d21u d41ur,d31ur,d21ur
中央と川表側が空洞化 d41o,d31o,d21o d41or,d31or,d21or
川表~川裏が空洞化 d41a,d31a,d21a d41ar,d31ar,d21ar
9
8
7
6
360
720
1080
0
水頭 a~f (m)
1080
1440
時間(分)
8
7
a
b
c
d
e
f
10
水頭 a~f (m)
a
b
c
d
e
f
9
8
7
6
0
360
720
1080
1440
時間(分)
0
360
720
d41cr
1080
1440
時間(分)
(左:遮水機能,右:空洞部連通)
中央のみ空洞化
水頭 a~f (m)
9
8
7
6
0 4 8 12 16 20 24
時間(hr)
9
8
7
6
0
d41u
a
b
c
d
e
f
10
水頭 a~f (m)
a
b
c
d
e
f
10
河川水位(m)
降雨(mm/hr)
720
樋門設置時
9
d41c
360
720
1080
1440
時間(分)
0
360
720
d41ur
1080
1440
時間(分)
(左:遮水機能,右:空洞部連通)
中央と川裏側が空洞化
図-14 解析結果(いずれも case-d4)
図-12 設定外力(降雨波形・河川水位波形)
b) 計算ケース
地盤定数の組合せ 3 パターン各々に対して,表-2 に
示す空洞・連通条件による感度解析を行った.
なお,空洞の配置は図-13 に示す通りである.
(3) 洪水時の感度解析結果
「堤防一般部(樋門設置前)」「樋門設置時」「中央
のみ空洞化」及び「中央と川裏側が空洞化」のケースに
ついて,各遮水工の表側及び裏側(図-13 中の a~f)の
水頭変化を図-14 に示す.
「堤防一般部(樋門設置前)」と「樋門設置時」を比
較すると,設置時に川表側 a,b で若干水頭差を生じるも
のの,両ケースに大きな相違はみられない.これは,堤
体幅や堤防縦断方向の延長に比べて遮水工の幅が小さい
点に加え,低透水性の case-d4 と case-d3 では河川水位
境界からの距離により,また,高透水性の case-d2 では
面的な迂回浸透により,変化が生じにくい状況である.
また,「中央のみ空洞化」した場合と,「中央と川裏
側が空洞化」した場合も,空洞部の連通の有無により c
と d の一致,d と e の一致等の変化は見られるものの,
全体的な水頭分布は樋門設置時と大きく変わらない.
ただし基礎地盤の透水性が大きな case-d2 の場合では,
図-15 のとおり「中央と川裏側が空洞化かつ連通」の川
図-13 解析モデルの概要
表-1 地盤定数の組合せ
堤体
1.0E-4 cm/s
1.0E-3 cm/s
1.0E-3 cm/s
360
d41
10
10
8
6
4
case-d4
case-d3
case-d2
7
堤防一般部
(2) 計算条件
a) 外力条件
洪水時を想定し,図-12 に示す降雨波形と河川水位波
形を設定して非定常解析を行った.
0 4 8 12 16 20 24
時間(hr)
8
1440
時間(分)
6
10
5
0
9
6
0
d40
(1) 解析モデル
樋門を中心に縦断方向片側 20m,堤体幅 20m,裏のり
尻から堤内側に 60m,堤体高 4m,のり勾配 2 割,最小格
子幅 20cm の設定で三次元モデルを設定し,堤体と基礎
地盤の透水性は,表-1 に示す組合せとした.
a
b
c
d
e
f
10
水頭 a~f (m)
a
b
c
d
e
f
10
水頭 a~f (m)
柔構造樋門が導入されてから 10 年以上が経過してい
るが,現在も既設樋門の多くは剛構造樋門であり,空洞
点検や連通調査等が引き続き行われている 1).しかしな
がら,空洞や連通の有無・分布等を調査・対処する一方,
それらが洪水時に堤体内の浸透状況へ及ぼす影響につい
て分析した事例は少ない 6)7).
そこで,空洞の有無・連通状況等により洪水時の堤体
内水頭分布等がどのような影響を受けるのかを感度解析
した上で,安全管理や減災対策について考察した 8).
堤防一般部
樋門設置時
基礎地盤
1.0E-3 cm/s
1.0E-3 cm/s
1.0E-2 cm/s
58
9
8
7
6
360
720
d21a
1080
時間(分)
0
360
720
1080
7
1440
時間(分)
0
360
720
1080
1440
水頭 a~f (m)
8
7
6
9
8
360
720
1080
0
360
720
d21or
1080
水頭 a~f (m)
9
8
7
6
360
720
1080
1440
時間(分)
0
d41or
360
720
1080
8
7
0
360
720
d41ar
水頭 a~f (m)
7
1080
1440
時間(分)
a
b
c
d
e
f
10
9
8
7
6
360
720
1080
1440
時間(分)
0
360
720
d21u
a
b
c
d
e
f
水頭 a~f (m)
9
8
7
1080
1440
時間(分)
0
d21or
a
b
c
d
e
f
10
9
8
7
6
6
360
720
1080
0
1440
時間(分)
d21ur
360
720
1080
1440
時間(分)
case-d4(左:川表護岸連通,右:川裏側遮水)
図-18 解析結果(川表護岸連通及び川裏遮水工)
次に,「川表から川裏まで全区間が空洞化」の結果を
図-17 に示す.基礎地盤の透水性が大きな case-d2 で遮
水工が全て連通した場合では川裏側の水頭が上昇し,周
辺堤防一般部や樋門設置前に比べて浸潤線が高く,浸透
破壊を助長する可能性がある.よって,このような状況
(高透水性の基礎地盤・川表~川裏側に空洞・遮水部も
連通)が想定される場合は,周辺堤防一般部や樋門設置
前と比較して相対的な弱点箇所になっていないか評価す
ることが望ましい.ここで,弱点評価が望ましいとする
場の条件は,前述図-5 の状況(高透水性の基礎地盤・
川裏側に空洞・遮水部も連通)に含まれている.
なお,全区間で空洞化や遮水部の連通が生じた場合に,
川裏側の水頭が大きく上昇するケースと上昇しないケー
スがある.そこで最も厳しい境界条件を仮定して,「川
表から川裏まで全区間が空洞化」かつ「連通」とする各
ケースに対して,更に「空洞が川表護岸に達して河川水
が直接流入する状況」,及び対策例として「川裏側の遮
水機能を回復した場合」の試算を行った.
6
0
d41o
7
8
10
a
b
c
d
e
f
8
a
b
c
d
e
f
case-d2(左:川表護岸連通,右:川裏側遮水)
1440
9
1440
9
1440
時間(分)
9
0
時間(分)
10
水頭 a~f (m)
a
b
c
d
e
f
1080
a
b
c
d
e
f
d21
case-d2(左:遮水機能,右:空洞部連通)
10
720
6
7
1440
時間(分)
360
10
6
0
d21o
1080
時間(分)
case-d4(左:遮水機能,右:空洞部連通)
図-17 解析結果(川表~川裏が空洞化)
a
b
c
d
e
f
10
水頭 a~f (m)
a
b
c
d
e
f
720
6
時間(分)
一方,図-16 に示す「中央と川表側が空洞化」では,
「中央のみ空洞化」に比べて川表水位境界と空洞が近接
するが,透水性により水頭分布への影響は異なる.
「遮水工が機能」しているケースでは,基礎地盤の透
水性自体が大きな case-d2 では全体的な水頭に大きな変
化はなく,川表側 b と中央 c の水頭が,「中央のみ空洞
化」ケースでの値の平均程度で一致する.一方,cased4 と case-d3 では,川表側 b と中央 c の水頭が,「中央
のみ空洞化」ケースでの中央 c の値程度となった.
これは,case-d2 はそもそも高透水性のため,上下流
周辺一般部も水頭が高く,川表側 b と中央 c の水頭が高
い位置で連動・一致するのに対して,case-d4 と case-d3
は低透水性のため,川表水位境界の影響を比較的受けに
くい上に,空洞部から周辺への浸透を生じて水頭が比較
的低い状況と考えられる.この空洞部から周辺への浸透
を生じている点は,「空洞部が連通」したケースの結果
で川表 a の水頭が低下している点からも示唆される.
9
7
0
(左:堤防一般部,右:中央と川裏側が空洞化かつ連通)
図-15 解析結果(case-d20,d21ur)
10
8
d41a
d21ur
360
10
水頭 a~f (m)
a
b
c
d
e
f
9
6
6
d21
0
d21ar
水頭 a~f (m)
6
8
7
1440
水頭 a~f (m)
7
9
8
case-d2(左:遮水機能,右:空洞部連通)
水頭 a~f (m)
水頭 a~f (m)
8
a
b
c
d
e
f
10
水頭 a~f (m)
a
b
c
d
e
f
9
9
6
0
10
10
a
b
c
d
e
f
10
水頭 a~f (m)
a
b
c
d
e
f
10
水頭 a~f (m)
裏側 e,f の水頭が「堤防一般部(樋門設置前)」の中央
c,d の値程度まで上昇し,周辺堤防一般部や樋門設置前
に比べて浸潤線が高く,浸透破壊を助長する可能性があ
る.沈下予測や点検調査等からこのような状況(高透水
性基礎地盤・川裏側に空洞・遮水部も連通)が想定され
る場合は,周辺堤防一般部や樋門設置前と比較して相対
的な弱点箇所になっていないか評価することが望ましい.
1440
時間(分)
case-d4(左:遮水機能,右:空洞部連通)
図-16 解析結果(中央と川表側が空洞化)
59
(4) 安全管理・減災対策に関する考察
前述の「安全性評価に関わる課題」,「堤防劣化の時
間管理に関わる課題」,「一連堤防としての質的管理に
関する課題」の観点から,今後は下記の手法による安全
管理・減災対策を付加することが有用と考えられる.
図-18 によると,いずれのケースも河川水の直接流入
を受けて,川表側 a は河川水位と同程度となるが,空洞
内ではあっても必ずしも水頭を維持するわけではなく,
川裏側ほど低下する.これは,case-d2 は高透水性のた
め上下流堤防と同程度の水頭に近づき,case-d4 は空洞
部から上下流堤防へ浸透している状況である.
また,川裏側の遮水機能を回復した場合,高透水性の
case-d2 では高透水性の面的な迂回浸透のため,その他
のケースでは上下流堤防への浸透で水頭低下しているた
め,結果的に大きな変化は生じない.
一方で,透水性や土質構成によっては,図-19 の裏の
り鳥瞰図に示すように,堰上げ・迂回浸透に伴う上下流
堤防における裏のり浸潤線の上昇が懸念される場合もあ
るため,樋門設置部を含む一連堤防全体として,堤体内
浸透水の面的な挙動にも留意する必要がある.
しかしながら,「川表護岸まで空洞が達する状況」や
「川表から川裏まで空洞化が生じ,かつ連通している状
況」は,本来は日常の維持管理において事前察知及び措
置すべきものである.
a) 安全性照査における一連堤防としての解析検討
土質構成,空洞分布,連通状況等によっては,周
辺堤防一般部や樋門設置前に比べて浸潤線が上昇し
て浸透破壊が助長されたり,また,遮水工による堰
上げ・迂回浸透に伴い上下流堤防の浸潤線が上昇す
る場合もある.よって,樋門等設置部における堤防
の安全性照査や対策検討に際しては,樋門設置部を
含む一連堤防全体として縦断方向を考慮した解析を
行い,堤体内浸透水の面的な挙動や弱点化にも配慮
することが望ましい.また,橋台等の堤体内構造物
による上下流堤防への影響や内部侵食・浸透破壊の
助長等に関しても同様である.
b) 洪水時の水頭変化による空洞・連通状況の察知
経年的な堤防劣化を考慮した安全管理の面では,
空洞・連通状況の継続的な把握あるいは予測が重要
であるが,連通試験・空洞探査等は,平常時の,あ
る一時点の状態を把握するものである.一方,ある
時点で空洞調査を行った後に,引き続き水頭分布や
その経時変化のモニタリングを継続すれば空洞・連
通状況の変化を察知することが期待でき,また,空
洞拡大や新たな連通による水頭分布変化を事前予測
解析すれば,継続管理や水防活動における危険察知
チェックリスト等への活用も考えられる.
堤体
樋門
浸潤面
遮水工による堰上げ 縦断方向への浸
透・迂回ベクトル
堤内地
遮水工位置↓↓ ↓
空洞部→
基礎地盤
裏のり尻付近の浸潤面分布・流速ベクトルの解析結果鳥瞰図
図-19 遮水工による堰上げ・迂回浸透等の状況(case-d2)
c) 空洞起因の破堤を防ぐための対策の付加
一連堤防における弱点箇所の定量評価を行えば補
修や対策の緊急度・優先度等を議論できるが,それ
を維持補修計画等に反映する場合は,川表護岸まで
の空洞拡大による河川水の直接流入や矢板脱落・連
通といった万一への備えも重要と考えられる.今回
の感度解析では,遮水工が浸透路長を確保すること
による水頭伝播の抑制として寄与する状況は多くな
く,流出水そのものを止めることにより土粒子の流
出をも防ぎ,急激な内部侵食拡大による進行性破壊
を防ぐ効果が主と解釈されたが,一方で河川水が直
接流入するケースを除けば,空洞内は徐々に湛水す
る傾向であった.これらを踏まえると,万一への備
えとして,ある程度の裏のり漏水量を許容し,透水
性ジオテキスタイルやドレーンを配置することによ
り,安全に水を受け流すといった,堤防一般部に準
じた対策が有効な場合があるといえる.
よって,そのような状況は例外とした上で,水頭上昇
に起因する裏のり浸透破壊に主眼を置くと,今回の感度
解析からは下記の点が示唆される.
・基礎地盤の透水性が大きく(本検討では 1.0E-2cm/s の場
合),かつ沈下予測や点検調査等から川裏側に空洞化と
連通が想定される場合には,周辺堤防一般部や樋門設置
前と比較して相対的な弱点箇所となる場合があり注意を
要する.また川裏側の遮水が機能している状況では,樋
門周辺堤防への迂回流など,堤体内浸透水の面的な挙動
にも留意する必要がある.
・ただし,そのような厳しい状況が重ならない場合は,空
洞の有無や分布,連通状況によらず周辺堤防一般部や樋
門設置前と同様の浸潤状況である場合が多い.
・遮水工が水頭(圧力)伝播の抑制として貢献する状況は
必ずしも多くなく,むしろ川表護岸まで空洞が連通する
万一の状況が生じても,流動水そのものを止めることに
より土粒子の流出を防ぎ,急激な内部侵食拡大による進
行性破壊を防ぐ役割が主である.
60
4. 樋管部・弱堤部等における照査手法の試行検討
解析コードを適用し5)8),離散化は,鉛直方向を堤体付近
50cm・深部40cm~2m・樋管下部1cm~3cm,横断方向を
(1) 試行検討の概要
河川堤防の安全性照査は,主に堤防一般部を対象に,
浸透流解析および円弧すべり計算による安全率等の評価
が行われている2).一方,堤防横断構造物である樋管や
近傍の弱堤部に対しては質的な定量評価は行われておら
ず,樋管等の周辺堤防は,外観・函内観察や連通試験等
による変状調査・補修により対症療法的な管理がされて
いる1).そこで,一連堤防としての安全性照査を行う上
で,樋管設置部や近傍の弱堤部を含めた評価を行うため
の手法について,過去に空洞・連通を生じた履歴のある
樋管を対象に事例検討を行った.
堤体付近50cm・堤内地を1m~5m・堤外側を1.5m~5m,
縦断方向を樋門付近50cm~3m・堤防一般部を4m~10m
程度の格子幅に差分展開した.
また,既存の連通試験データを用いてモデルキャリ
ブレーションを行い,土質定数設定,空洞・連通状況,
遮水矢板の止水機能低下(設定透水係数)等の調整設定
を行った.
(2) 対象樋管および隣接堤防の概要
検討対象は,設置後70年以上が経過した小規模排水樋
管である.応急対策工事で門柱を付け替えた際に門柱部
分を支持杭基礎とし,門柱下部に長さ3mの止水矢板を
設置した経緯があり,また,空洞化対策として2度のグ
ラウト充填対策を行っている.樋管の主な諸元および現
地の外観を図-20に示す.
樋管取付部の堤防は,上下流の堤防一般部と比べて
堤体や高水敷が薄く,一連堤防としての安全性の観点か
ら弱堤部となっている可能性がある.
(4) 洪水時の予測解析
当該箇所は,堤体が粘性土,基礎地盤浅部が砂質土,
深部が粘性土の土質構成であることから,裏のり尻の浸
透破壊および樋門下部の空洞・連通による影響に着眼し
て,洪水時の予測解析を行った.
現地条件は,以下の4ケースを想定し,外力条件は,
河川堤防の構造検討の手引き2)に準拠して河川水位波形
を設定した.
ケース1:現況(門柱付近で空洞・連通,連通試験時点)
ケース2:空洞化無し・止水機能維持(樋門設置時点を想定)
ケース3:空洞拡大時(天端下部までの空洞・連通拡大を想定)
ケース4:空洞拡大時(裏のり尻付近までの空洞・連通拡大を想定)
局所動水勾配(鉛直)
解析結果から洪水時の局所動水勾配(鉛直)の縦断
分布を図-21に示す.ケース1~3はほぼ同様の結果と
なり,ケース4のみ樋管付近で比較的大きくなった.こ
れは,基礎地盤の透水性が比較的高く,空洞・連通が堤
設置年 :昭和12年
主な応急対策工事:門柱付け替え(S60)
体幅全範囲程度まで拡大しない限りは,川表から川裏へ
グラウト対策(S62,H11)
の水頭伝播や流動が止水矢板や空洞の有無に大きく影響
函体構造:0.6m(管径)×1連×18.0m(長)
基礎形式(函体):木杭,杭長4.0m
されずに生じている状況であり,止水矢板は止水機能よ
基礎形式(門柱):支持杭(PC杭),杭長17.0m
りもむしろ,土粒子の移動・流失等を防ぐ位置付けと考
えられる.
また,縦断方向の分布では,樋管付近や距離-40m位置
で比較的大きな値となっている.樋管付近は堤体や高水
敷が薄く平均動水勾配が大きいことが影響し,距離-40m
位置は局所的な窪地による影響であった.なお,樋管付
川表側
川裏側
図-20 対象樋管の諸元・外観
近も距離-40位置も安全性照査の基準値(<0.5)は全ケー
スで満たしているが,ケース4では樋管部で基準値の8
(3) モデル化手順および計算手法
割程度まで上昇するため,裏のり側で継続的に水圧モニ
現地の堤体形状および地盤高の分布は,LP(レー
タリングを行うことにより,空洞・連通拡大による水頭
ザプロファイラ)データから抽出した断面形状を適用し, 伝播状況の変化を察知することが水防上有効となる可能
土質構成と層厚は周辺の既存柱状図から土質想定縦断図
性がある.
を作成して設定した.また,樋管設置箇所の堤内側排水
0.50
ケース1:現況
↓樋管位置
路はLPデータでは形状を反映できないため直接設定し,
ケース2:空洞化無し・止水機能維持
0.40
ケース3:空洞拡大時(天端下部まで)
設置時に開削されたと想定される樋管本体周辺盛土(元
0.30
ケース4:空洞拡大時(裏のり尻付近まで)
0.20
は基礎地盤の部分)は地盤物性を堤体と同等としている.
0.10
下流側
上流側
計算には,ダルシー則に基づく地盤内浸透流動に加
0.00
えて,開水路運動方程式を圧力単位式で導入することに
-80
-60
-40
-20
0
20
40
60
80
距離(m)
より地盤内の空洞部および空洞内の水の挙動も考慮した
図-21 局所動水勾配(鉛直)の縦断分布
61
・既存の代表断面照査結果に加えて,さらに9.4kmと17.2km
の付近も要注意であると示唆された.
5. 質的許容外水位の縦断分布評価手法の試行検討
標 高 ( Y.P .m )
18
(1) 試行検討の概要
※ 降雨に影響される 箇所は対象外とし、許容外水位がHWLを 超える 場合はHWL高とした
16
河川堤防の詳細点検や設計では,数百m~数kmの一連
14
天端高(Y.P.m)
12
区間に対して,その代表断面で質的な安全性照査2) が行
HWL(Y.P.m)
↑
許容外水位(本検討)
10
われる(ここでは耐浸透機能を対象).一方,河川改修
既 存 詳 細 点 検 でNG( 1 3 .5 km )
既存代表断面の照査結果
8
等の議論では,細かい縦断ピッチ(例えば0.2km毎)で
8
9
10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 距離
24
流下能力等を量的に評価するものの,質的な安全性の縦
図-23 浸透破壊に対する質的な許容外水位の縦断分布
断分布は詳細には考慮していない.このような背景から,
「縦断分析の観点で質的安全性を評価する横断簡略化モ
6. まとめ
デル」,「安全率を満たす限界河川水位(以下,質的な
許容外水位と呼ぶ)」等について事例検討を行った.
本研究では,構造物周辺の空洞化に伴う浸透流動の
変化を数値的に評価する解析ツールの開発・検証を行い,
(2) 縦断分析のための横断簡略化モデル
これを河川堤防の一連としての安全性評価や弱点箇所の
詳細点検等では,代表断面で測量や地質調査を行い, 抽出・評価等に適用する試行検討を行った.今後も検討
断面・土質形状を精緻に再現した有限要素モデル解析が
事例を蓄積して開発モデルの改善および実現場への適用
行われるが,細かい縦断ピッチで同等の解析を行うと多
性の向上を図りたいと考えている.
大な手間を要する.そこで,既存柱状図等から「土質想
謝辞: 試行検討にあたり,国道交通省関東地方整備局
定縦断図」を作成し,定期横断測量データに重ねて,図
下館河川事務所より小貝川の既往調査・点検資料を貸与
-22のような簡略化モデルを作成した.
頂き参考としました.ここに厚く謝意を表します.
土質想定縦断図より粘性土・砂質土・礫質土区分と層厚を設定
裏のり尻
川表のり肩
参考文献
止水工はのり肩設定
基礎地盤第一透水層
水平設定
水平設定
深部不透水層
図-22 簡略化モデルの設定仕様
(3) 自動モデル化ツール作成および縦断分析
簡略化モデルであっても有限要素法の断面メッシュ
モデルを多数構築する作業負荷は大きいため,「定期横
断測量データ」「川表のり肩と裏のり尻部の土層区分・
層厚」のみで,自動的に格子モデル(堤体付近格子幅
20cm)を生成して浸透流解析を行うツールを作成して
用いた.縦断分析の結果,以下の新たな知見が得られた.
1) 国土交通省:樋門等構造物周辺堤防点検要領,2012.
2) 財団法人国土技術研究センター:河川堤防の構造検討
の手引き,2002.
3) 中山修,金石勝也,勝山明雄:連通試験法を適用した
樋門周辺堤防の漏水危険度の検討,河川技術に関する
論文集,Vol.6,pp.49-52,2000.
4) 登坂博行:地圏水循環の数理,東京大学出版会,2006.
5) 蛯原雅之,伊藤豊,楊雪松,横田圭史,登坂博行:地
中空洞流れを考慮した浸透流解析手法の研究,土木学
会論文集B1 Vol.68, No.4, 2012.
6) 荒金聡:樋門・樋管構造物周辺堤防の空洞化対策選定
手法に関する研究,土木研究所資料,No.4155,2009.
7) 恒岡伸幸,古本一司,小畑敏子,若狭聡:樋門・樋管
における矢板の遮水効果に関する解析的検討,第37回
地盤工学研究発表会発表講演集,pp.1293-1294,2002.
8) 蛯原雅之,伊藤豊,楊雪松,横田圭史,登坂博行:樋
門等設置部における一連堤防としての安全管理に関する研
究,土木学会河川技術論文集 Vol.18, 2012.
RESEARCH ON QUANTITATIVE RISK ASSESSMENT
OF THE CAVITY AROUND UNDERGROUND STRUCTURE
Masayuki EBIHARA
The cavity around underground waterside structure has been recognized as primary factor of cave-in in
the road, seepage-failure of the river levee, etc. There are numbers of experimental studies on the
mechanism of hollowing out. However, no research has yet been carried out to clarify the causal
relationship with numerical description. In this paper, we developed a 2-phase groundwater flow model
by incorporating Manning's law for intracavernous flow. Its applicability is shown by numerical
experiments, actual scale calculations andsome laboratory experiments. Finally, we conducted
experimental case studies using a development model.
62
Historical and Modern Structures at the Railway
Stations
「鉄道駅における歴史と現代的な構造」
木戸エバ
Ewa Maria KIDO
株式会社建設技術研究所
国土文化研究所(〒103-8430 東京都中央区日本橋人形町2-15-1-6F)
E-mail: kido@ctie.co.jp
Since 1980s, railway architecture has been experiencing “station renaissance”. Along with this trend, many historical
stations have been refurbished, upgraded and developed. Modern extensions need careful considerations of historical
heritage and its settings. Successful renovations add additional values of modernity and attractiveness to railway
stations. This paper examines refurbished stations on the example of Europe and Japan and concludes that these
transport facilities with their re-born buildings improving travel by rail, are the new-generation stations that play
important role as transportation hubs and urban nodes, and for their visual qualities they are often urban landmarks.
Key words: Railway station; station building; heritage architecture; refurbishment; structure.
1.
Introduction
In Europe, where introduction of high-speed trains (HST) had popularized travel by rail and since 1980s, stations have
experienced the most notable development since the introduction of railways in 19th century. In Japan, railways have
had always strong popularity and stations were important public and commercial facilities. “Station renaissance” trend
has stimulated the development of new generation of stations [1]. These stations include completely new infrastructure,
such as e.g. in Europe - Lyon Gare de Saint-Exupéry TGV (1994), Gare Lille-Europe (1994), Berlin Hauptbahnhof
(2006), Liège-Guillemins (2009), and in Japan, e.g. - Kyoto (1997), Nagoya (1999), Kagoshima-Chuo Station (2004),
Iwamizawa Station (2009), Kochi Station (2009), Asahikawa Station (2011), Hakata Station City (2011) and Osaka
Station City (2011). Many existing stations have undergone general refitting and extension by new structures, e.g.
London St Pancras (2007), and Tokyo Station City (2012). Both in Europe and Japan there are examples of stations that
combine heritage architecture with new one. Historical stations with new extensions are challenging, because they
require unique structures that can accommodate various functions and blend in together. New extensions need to be
equal to historical buildings and not superimposed, like it has been achieved at the Gare de Strasbourg.
This paper analyzes the aspects of coordination of historical and modern structures at the railway stations on the
example of stations in Europe – Madrid Atocha (1985), London Waterloo (1993; 2003; 2012), Stadelhofen Bahnhof
(1994), Leipzig Hauptbahnhof (1997), Paddington (1999; 2012; 2017), Gare du Nord (2001), Dresden Hauptbahnhof
(2006), London St Pancras (2007), Gare de Strasbourg (2007), King’s Cross (2012), Gdynia Glowna (2012); and in
Japan – Ueno Station (2002) and Tokyo Station City (2012). The conclusion is that in Europe old buildings have been
refurbished based on careful historical studies and new extensions have been added with respect and after many
considerations. In Japan, due to different circumstances, more often has been preserved basic style – essence of the
building and less often actual old structures. Refurbished stations with their structures have a high quality of structural
art.
2. “Station renaissance”
2.1
“Station renaissance” in Europe
“Station renaissance” has been a driving force resulting in total improvement of railway stations both in Europe and
Japan. It was initiated for the first time by railway companies in Europe in 1980s, as their response to various
challenges in railway sector and respectively, as a result of technological potential of high-speed trains, and as a factor
of urban renewal, reflecting growing environmental concern. As Thorne [2] noted: “It has been commonly observed that
railway architecture has been experiencing a “renaissance” since the 1980s” and as a result, station architecture has
been very much improved. German Deutsche Bahn Aktien Gesellshaft (DB AG), French Societe Nationale des Chemins
de fer Francais (SNCF), Network Rail (NR) in United Kingdom, and other European operators put “renaissance” of
stations along with technological improvements of trains and tracks, on the top of their policies. At the current stage of
re-urbanization, railway projects – particularly development of HST stations and airport stations - have been often a part
of urban renewal projects. Railway planners see trains as a part of broad transportation network. Therefore railway
63
stations have been conceived as multimodal hubs, connected with bus stations, light rail transit (LRT), subways,
parking lots and pedestrian walkways.
Current multi-modal stations, often resembling air terminals, must respond to different requirements than before. Today,
according to the concept of “seamless journey”, railway stations include all facilities arranged for ticketing, waiting,
transfer, shopping and even recreation. Promotion of railways incorporated a wide range of activities, and polices
related not only to construction of new railway lines and stations but also to station refurbishment. Refurbished stations
often combine historical architecture with new extensions, which are structurally and functionally innovative.
2.1.1 “Station renaissance” in Germany
In Germany, Deutsche Bahn AG, which was privatized in 1994, was reorganized in 2010 and divided in four companies.
Among them, DB Stations & Service, belonging to DB Netze, manages passenger operations and stations. “Station
renaissance” in Germany, which has been based on DB comprehensive station development program - “Emergency
Program” (2002), was established on the assumption that each station is a “visiting card” of the city and responsible for
conveying their identity. The program had had three goals - quality, economy and brand products. The “Emergency
program” was mainly related to the renovation of railway stations, such as modernization and refurbishment of station
buildings, concourses and facilities; adjustment of platforms for high-speed trains; implementation of new corporate
design (in graphics, platform furniture); construction of new urban stations and new HST and airport stations. Among
the most successful projects were renovation and development of Leipzig Hauptbahnhof (1997), Dresden Hauptbahnhof
(2006), and construction of Berlin Hauptbahnhof (2006).
The concept of corporate design has been realized through the reliance on aesthetic features, overall unity and diversity
of elements [3]. Corporate design approach replaced former non-consistent approach of the various railway brands
using various individual products – with a reliable railway product as a harmonized design for all railway sections.
Through the concept of a “forum station” – a station fulfilling a function of a stage for public life and an attraction, DB
emphasized the importance of aesthetic experience – something that previously was disregarded. DB provided through
architecture and interior design aesthetic spaces at the station buildings, realizing their goal of “well-being feeling
stations”.
2.1.2 “Station renaissance” in France
In France, railways have also gone through the process of restructuring, particularly by splitting-off infrastructure and
operation [4]. French Infrastructure Authority RFF (Réseau Ferré de France), which since 1997 has been operating
national infrastructure, is responsible for nationwide rail development, including construction of new TGV lines based
on plans jointly programmed with SNCF. Societe Nationale des Chemins de fer Francais is the only national rail
operator for intercity railways, responsible for administration and maintenance of infrastructure based on the agreement
with RFF. SNCF has been divided into five main business sectors. Among them is created in 2009 SNCF Gares &
Connexions, which manages 3000 stations. Groupe AREP is responsible for civil engineering.
According to the policies of refurbishment many stations have been modernized, and among them main terminals in
Paris: Gare de’l Est (1988), Gare d’Austerlitz (1989), Gare Montparnasse (1986-1990), Gare du Nord (2001), Gare de
Lyon (1994) and Gare Saint-Lazare (1996), and many projects still are going on. While station renewal was based on
careful studies on historical architecture, new stations, such as the Lyon Gare de Saint-Exupéry TGV (1994) or Gare
Lille-Europe (1994), have been designed as innovative buildings with an airport terminal-like image due to expressive,
light-weight structures. SNCF has expanded its “station renaissance” policies, through strengthened corporate design,
vigorous station renewal and introduction of new type of amenity, combining transportation function with city services,
such as recreation and retail. SNCF introduced certification for stations, which comprise of 45 criteria, including
aesthetics. New approach based on “Station Organization Plan” (POG) (Plan d’Organisation des Gares) – is a
comprehensive plan for intermodal transport and commercial development. The aim of this program is to develop
special methods related to spatial positioning of transport-related fixtures and fittings and the pedestrian routes, which
as result are defined and integrated into one coherent network. That program was followed by commercial development
plan, which determinates the location of commercial facilities.
2.1.3 “Station renaissance” in the United Kingdom
In the United Kingdom, like in Germany, national railways have been divided and privatized in 1994. Infrastructure has
been separated from operation, and since 2002, Network Rail has owned and managed railway facilities, while
passenger operations have been franchised under the Private Finance Initiative (PFI) and have been operated by various
Train Operating Companies (TOCs). Since privatization, “station renaissance” has been reflected in diversification and
expansion of station trading and in new commercial developments in newly created station spaces. Stations also have
been better prepared to match their social context – through provision of parking lots for cars and bicycles, better
accessibility, provision of services in accordance to local needs, and through better quality of operations, services and
design that includes such principles, as public involvement, competitions, and aesthetic guidelines.
64
In order to achieve new station image – safe, configured to seamless process, comfortable, enjoyable, preserving
historical heritage – NR has promoted new railway station’s goals, such as: quality (improvement and renewal);
operation (balanced services); and access (provision of interchanges, barriers-free). Polices boosting new image of
railway have been reflected in NR guidelines, such as “Developing modern facilities at stations”, “NR heritage
guidance”, “Way finding and signing guidance”, and “Advertising design strategy”. Implementation of these policies
has been reflected in refurbishment of historical stations according to major stations renewal program - “Station 2000”
(e.g. St Pancras, 2007; King’s Cross, 2012 - scheduled connection with St Pancras in 2013), and in realization of new
ones (e.g. Stratford Regional, 1999; Manchester Piccadilly, 2002). Fourteen historical terminals in London have been
modernized in collaboration with TOCs and municipal government, as a part of urban development projects. Historical
terminals have been modernized to accommodate platforms for high-speed trains, larger interchanges and new facilities,
including shopping and food outlets (e.g., Waterloo International, 1994; and Paddington, 1999; King’s Cross, 2012).
Refurbished stations have shown integration with other public and environmentally benign transportation modes and
became attractive modern additions to historical buildings.
2.2
“Station renaissance” in Japan
In 1987, based on national reform, Japan National Railways have been privatized and divided. Currently, Japan
Railways Group consists of seven operating companies, including six passenger operators. Unlike in Europe, Japanese
railways are divided by regions, not by operation and infrastructure - therefore they have been willing to expand and
profit from related business fields. Railway companies in Japan have been promoting “station renaissance” since 1990s.
Their aim is to attract more customers by improving railways through better services and attractive appearance of
stations. The scope of “station renaissance” has included refurbishment of existing major terminal stations, planning and
construction of new stations on existing lines - as a response to local needs, and on new lines accompanying the growth
of cities, and also development of shinkansen stations.
Refurbishment has been based on amenity improvement programs. They enhanced aesthetics through barrier-free
design, inclusion of amenities (new entrances, toilets), better information signs, new facilities, and commercial
developments. East Japan Railway Company, known as JR East (JRE), which is operating in Tōhoku, Kantō, and
Kōshin'etsu, has completed several successful renewal projects in Tokyo, such as Ueno (2002), Shinagawa (2004),
Omiya (2005), Tachikawa (2007), and has been carrying out new development projects at Shinjuku, Shibuya and Tokyo
stations. Some stations have been built new. Kanazawa Station, which was completely rebuilt in 1990 and developed
with new shopping center in 1991, has boosted its image in 2005 by a grand Tsuzumi Gate and Motenashi Dome. Other
stations with outstanding architecture include Kyoto (1997), Nagoya (1999), Iwamizawa Station (2009), Hakata Station
City (2011), and Osaka Station City (2011). These stations have new building however platforms have remained not
upgraded yet.
3.
3.1
Aesthetic factors of structural art and their realization in refurbished stations
Structural art
Structural art is an art accomplished in the work of structure. Art forms have developed after Industrial Revolution in
late 19 century along with the introduction of new materials – iron, structural steel, reinforced concrete, prestressed
concrete, and later - structural glass, composite timber, other composites and fiber reinforced plastic. New materials
allowed for new structural forms, such tensile structures, shells, grid shells, space frames, etc. These forms have
determined the shape of engineering structures such bridges and buildings. Billington [5] has defined three goals of
structural art – efficiency, economy, and elegance. These goals correspond with the need of the conservation of
environment and accountability of funds while satisfying the need of aesthetics in public life and preservation of
historical monuments. Structural art - as opposed to fine architecture which seeks the beauty of pleasing shapes
independent of the structural skeleton of the building – is based on engineering structure that is fully visible and
aesthetically pleasing in its own right being the prime source of the beauty of the building.
3.2
Aesthetic factors of structural art
Structures and buildings to achieve structural art need to fulfill particular aesthetic criteria. Aesthetics of railways can
be defined as a balance between exterior and interior of station, between building architecture, engineering structure and
transportation function - in consideration of its planning, layout, details and context. Transportation functions needs to
be sensitively distributed and clearly distinguished from other functions. Aesthetic station has to be clear, easy
approachable and easy to understand, but at the same time it needs to provide a rich environment. Aesthetic factors of
station design include objective qualities, such size and scale, proportion, form and shape, space, visual weight, light,
texture, color, composition, movement and rhythm, and details [6]. In subjective response to built form, there are
image-based elements related to design context, representation of the image of railways, of a brand of train operators,
landmarks features, and to inclusion of artistic elements. Aesthetic factors are also related to distribution of commercial
role of the station and treatment of advertisements. Their explanation and relation to railway stations, is as follows.
65

Size and scale
The size of building and its interiors affects emotional response and visual weight generated by their impression. The
size of the station depends on how many passengers use it. The scale of station building is perceived in comparison to
human scale. In case of large European railway terminals, like London’s St Pancras, Paddington or Victoria, they were
designed not only to provide adequate space for passengers but also to impress by their large scale. Such stations like
Gothic cathedrals had many meanings – political, social and urban. Smaller stations were designed more in relation to
human scale. The light contributes to the perception of scale – even if the station is small, good lighting design can
make station visually more spacious. Large scale of recent European stations is accompanied by human-scale elements.
These stations respond to different objectives than in the past; they have been built with spacious spaces designated for
various functions connected with a chain of a “seamless journey”.

Proportion
Proportion is related to shape – for example slender or squat, and to scale. In the history of built forms, there have been
favored proportions, such as 1.6 to 1 – the so called “golden mean”, etc., developed in ancient architecture by architects
and aestheticians, or in modern times – based on the analysis of buildings which are generally considered as beautiful,
such as “modulor” system by Le Corbusier [7]. Examples show that compositions made of simple geometrical figures
are usually successful. In modern architecture there are also shells, tents and other modern, which, have been not
analyzed like the rectilinear structures in the past. It is probably good, if the proportions of station building delivered
from the geometry are based on the laws of nature.

Form and shape
Form has more “solid” meaning, while shape is more outline of the object. Buildings have three-dimensional forms and
there are some clues that are relevant to their perception, like distance, angle, colors, amount of textural details, etc.
Complex forms can be identified through relationship to simpler forms. According to Ching, essentially, forms are built
of primary elements: points, lines, planes, and volumes [8]. Superimposition of basic forms leads to “formal collision”
of geometry. Forms are arranged from elements. Such arrangements can be centralized, linear, radial, clustered, or
grid-like [8]. Station to be recognizable need to have forms, which can be identified and comprehend by the users.

Space
According to some concepts, space exists between objects and permeates them (Plato). Ching envisages a relationship
between form and space as a “unity of opposites” [8]. Sometimes may be considered that space posses “direction”,
particularly when in a sequence, one space comes after another. Such sense of directionality is important at the railway
stations. Space is an essential factor for a station because it must provide a room for many people using it every day.
Station space serves to move through it, to wait, to purchase tickets, to prepare before embarking for a travel and after
arriving at the destination. Appropriate and well-designed space provides security and well-being. Space may not need
to be “defined”; rather it may be “suggested” in a subtle way, to help people to navigate through spaces. Recently glass
is often used in architecture. Glass encloses spaces but leaves their visual connections. Such space can be “permeable”.
Glass elevators decrease the feeling of confinement, and as a part of universal design provide convenient access for
physically challenged passengers. Transparency of glass creates station more spacious and understandable. Depending
on the surface design, it is possible to speak about the “degree of permeability” and the “degree of closure”. Visual
clues about the nature of spaces include vision and peoples’ movement - motion. Among non-visual clues of the
permeability of space is admission of light, weather syndrome (rain, breeze). Well-designed barrier-free space at
railway station provides feelings of spaciousness, lightness, security and well-being.

Visual weight
As Holgate points out, visual “weight” of areas and volumes is of major importance in the unity, balance, and
composition of built forms [6]. It is influence by light, color, and texture. Modern frame and shell structures at the
stations tend to look “light” and nowadays it is synonymous with “beautiful”.

Light
Light with shadow helps to emphasize the nature of form. Play of light can influence the perception of texture. The
quality of space is affected by changes in the angle and color of the daylight. Light is necessary for a station to perform
its function. At large stations, where the role of architecture and structure is paramount, the admission of daylight can
increase the expression of structure which can become a landmark feature. Daylight in daytime is preferable; therefore a
provision of glazing increases the possibility of natural light’s penetration inside the station. Visual connection between
platforms and concourses increases the amount of a daylight passed on the platforms. Admission of daylight through the
glass walls highlights their architectural expression. It also improves the clarity of station layout because passengers can
easily notice distinguished by light entrances and exits. Artificial lighting is functional as well, and can increase visual
expression of the station. Top lights create secure environment and enhance architectural features of the interior.
Lighting has also informative function – properly lit signs, information posters, stations names, etc., enable passengers
to move in right direction easily and safely. Successful lighting depends on combination of lighting levels and types of
66
lighting fixtures. Design of lighting may create desirable atmosphere. With most railway stations, the combination of
architecture, light and space can be achieved.

Texture
Texture is the nature of the surface – size and organization of the particles constituting a surface. The texture can be
smooth or rough; can be also rich by the repetition of small design elements. Texture has a great effect on visual weight.
Objects with smooth surfaces are perceived less “heavy” than those which have rough surfaces.

Color
Perception of color is subjective and influenced by size, other colors and light. Colors may have also influence on the
“visual weight”. Some colors, which are “warm”, make spaces visually smaller, while “cool” colors make them visually
larger. At the station, color can be created by using colorful materials and colorful artificial lighting. Bright colors
visually increase space; warm colors increase the feelings of safety. Colors are also used to express the design concept.
They can be also used as a guiding or safety tool – for example by emphasizing railings or elevators by particular color.
Colors combined with light can be used for aesthetic and functional arrangement at the station, to underline particular
functional elements or show directions.

Composition
Composition may provide balance, unity, and harmony. Three-dimensional balance in built forms provides
comprehensive equilibrium between visual forces. “Unity” is sometimes equaled with “beauty” of built form. In
complex composition it can be referred to situation when all elements are grouped together or descend in some direction,
or are integrated through broader outlines, through texture, colors and details. Composition is a very important factor of
railways stations, where it helps to solve functional issues and provides easy to understand station.

Movement and rhythm
It is affected by human eye-sight and brain. Impression of “movement”, for example by use of columns, can help to
direct flow of passengers. At the stations, rhythm of some facades can underline main entrance and main station hall
and distinguish them from other spaces.

Details
Details include various aesthetic qualities, such as listed above. At the railway stations details should be designed with
particular purpose in mind – to provide direction, information, guidance, barrier-free access and to fulfill numerous
other station functions. Such well coordinated and recognizable details should be integrated with the form (structure),
space and light, and distinguished by textures and colors (materials). Details should be carefully designed in case of
information signs. All the information should be readable for visually impaired people and easy to understand by
domestic and foreign travelers. The quality of design at such stations, e.g., Berlin Hauptbahnhof or St Pancras, has a big
impact on well-being of passengers and their safety. Aesthetic design helps also to control flow of passengers – by
employing guiding lights at platforms and concourses. If elements like elevators are colorful and modern, they can be
well visible as well. Thus aesthetic design can improve the efficiency of a station – passengers can leave the platform
more quickly and in more comfortable way, if they are provided with attractive and clear guiding information,
escalators and elevators.

Image-based elements
Image can be expressed through the design. Very often built forms express their association with their particular
location – “sense of place” (genius loci). In case of railway stations, which are gateways to particular cities, they might
express the image of their locations as well. Stations represent rail companies and it is also reflected in aesthetic design
that contains a particular image of railways. Image-based elements include design expressing the image the railways or
the image of train operators. Image of railways can be created for example through marking station entrances. The
company logo, which is a part of a corporate design concept, has been redefined by many European operators and
applied at the station entrances as an informative, decorative and signature element.

Landmarks
Stations are perceived as landmarks, if their image-based elements are strongly related to their urban, historical, cultural,
and social context and if they are harmonized with urban surrounding. Image-based elements give the station the value
of an urban landmark. Historically, main railway stations in Europe were distinguished by their elaborated large forms
and by a prominent location, since they were often facing the main street and had a plaza in front of the main entrance.

Public art
Public art plays a significant role in enhancing image of railways. Railway companies understand the importance of
introducing a design and culture into the stations. Art has become a part of cultural value of the rail brand design. It has
been acknowledged that customers’ satisfaction increases with better designed stations, with comfortable waiting areas,
with clear information signs, and additionally – with public artworks, cultural and community events and with other
67
activities that can enrich the modern concept of the experience of travel. In Europe, some transport agencies have
introduced a “percent for the art” policy, based on a fixed percentage (from 0.5% to about 1%) of all budgets for new
developments allocated to the purposes of art. The issue of the art and design at public transportation has been discussed
for the first time at the International Union of Public Transport (Union Internationale des Transport Publics - UITP)
Congress in 2001. In Newcastle, in the effect of collaboration with private sector, the city developed a “percent for art”
policy which gives up to 1% of their annual capital construction program on arts projects. In the course of the program
which has been running for 26 years, at the beginning mostly permanent art works were installed at the stations but later
more often temporary works such as lighting installations and live art events were installed and organized. In Europe,
public art projects are often financed by government; for example the art program run in Brussels is financed by a
government body set up in 1990 by the Public Works Ministry and it is related to artworks at all transit facilities. In
Japan art is also applied at many stations – for example at station halls of renovated stations, conceived by local artists
(like stained-glass artworks at the Ueno Station), and at the new shinkansen stations.

Commercial function
Distribution of commercial function at the stations and clear arrangement of station space in regard to its function is
important factor of relation between form and function. Along with the process of evolution of railway stations, more
functions have been added, such as retail, hotels, restaurants, leisure, etc. Ross [9] has listed forms of retail that include:
small shops, small size walk-in units, kiosks often located at the platforms, trade stands, vending machines, public
telephones, auto-teller machines (ATMs), promotional activities and internet facilities. Intermodal stations became
interchanges providing access for air, other rails, bus, underground and LRT services, and a part of a new urban and
commercial center accommodating businesses, hotels, and shopping centers. Shopping malls and convenience stores
have been often installed around stations concourses. Stations have become transportation nodes offering many
attractions and experiences as a part of efforts of changing railway companies trying to improve their products to reflect
their corporate prestige. The development of many functions at railway stations caused problems with their proper
arrangement. In Japan, more functions have led to confusion at some stations, where the priority was put on commercial
facilities over rail travel activities. Retail is important but secondary function at the railway stations. It attracts
passengers and makes station multifunctional but it also needs to be properly distributed to prevent the station to
become a “department store” or a maze through which passengers cannot easily find their ways. The problem of
separation of transportation and commercial function and at the same time making commercial facilities easily available
is very difficult, particularly at historical stations, which need to be modernized to nowadays standards.
Commercial developments can be designed as “concentrated shopping malls” integrated with public areas of the station
and distinguished from other services for passengers or as “lines of shops” usually developed in the form of corridors of
retail surrounding the main operation areas. If a separate mall approach is impossible, shops line in the areas bordering
the platforms. In Japan at large stations, retail is often located in the main operational areas (e.g. Ikebukuro Station)
filling the station spaces as much as possible. The piecemeal approach is incoherent, resulting in adverse affect of
commercialization of stations. These adverse effects of retail that may occur at any ill-conceived stations include clutter
and congestion, clashing with architectural style and interior design, and obstruction in passenger operation. When
installed at the main concourse, the retail has to be balanced and to include many kinds of services, such as small shops
and restaurants.

Advertisements
Treatment of advertisement reflects approach to aesthetics in public spaces. Currently a wide range of advertising media
is available, such as various kinds of posters – traditional, illuminated, back-lit posters in illuminated casing, which are
often applied at the subway platforms. It also includes moving displays, TV and plasma displays, other displays at the
stair cases and along escalators, on the train bodies, inside the trains, branding the entire stations to one advertiser,
various sales and campaigns installations. The advertisement can be a part of aesthetic design, if it is a part of the design
concept. In such design, it is important to maintain the balance between the size of the station and the amount and sizes
of advertisements. Advertisements should be associated, if possible, with the context of the station environment, may
have a reference to healthy lifestyle products, culture, etc. – to enhance the value of the station image. Particularly
sensitively should be handled the advertisements at historical stations, where they should be well integrated with station
architecture.
In Japan the trend to place many advertisements is stronger than in Europe. It is maybe because the recognition of
aesthetics of public facilities has been weak here since the post-war economic development, followed by the destruction
of landscape since 1970s, when stations displayed lack of architecture, and “despite their public character, station
buildings are literally covered with so much commercial advertising that it is often difficult to tell whether they are
station facilities or commercial buildings” [10]. Railway stations have been often virtually covered by advertisements.
Even modernized elevation of Shibuya Station, designed by arch. Kengo Kuma (2003), has been covered with large
advertisement panels.
Currently the implementation of aesthetics is being realized by railway companies - through their policies, including
68
amenity improvement programs, through new concepts of corporate design, and modern architectural design. Aesthetic
railway stations have been successfully achieved through involvement of well-known architects. There is always a
question of cost of aesthetics. Aesthetics and economy have been often seen, as contradicting each other. Since the
separation of architectural and engineering professions, some engineers thought that satisfying of aesthetic requirements
involves additional cost. However there are many examples of structures and buildings being beautiful and economical
at the same time. Implementation of aesthetics has been carried out in renewal projects as well as in new projects.
European stations, which have been more than one hundred years old, were in a need for modernization and
refurbishment. Historical European stations had reputation for design excellence and recent past has seen renaissance of
station architecture reflected in new stations design and in renovation of old ones. Particularly in Europe, renewal of
railway stations focused on enhancement of cultural values and on brand design of particular railway operators. Design
features tended to link stations with local communities through collaboration with local residents, promotion of cultural
activities - organizing various events, concerts and through design competitions, and linking current stations with rich
historical heritage. Also in Japan, railway companies have been making many efforts to advertise its brand name
through attractive stations.
3.3
Refurbished stations in Europe
Many of refurbished European stations are large terminals that consist of historical buildings and new extensions.
Splendid new railway stations resembling air terminals, are often connected with airports, and serving high-speed trains.
European stations have such a common feature, that modern developments are respectfully connected with preserved
historical buildings into “integrated stations”. These stations express structural art of the past and present.
3.3.1
Madrid Atocha (1985)
The original station of 1851 was largely destroyed by fire some 10 years after its construction. In 1892 it was replaced
by a larger station with a wrought-iron vault. It was designed in a wrought iron renewal style by Martín Alberto Palacio
Elissagüe who collaborated with Gustave Eiffel. As part of a large infrastructure project, the Atocha Station was
expanded in 1985 with a new structure designed by architect Rafael Moneo. The train tracks were moved from the
original structure to the new terminal while the “old” Atocha Station was completely renovated and turned into a large
rest area featuring a tropical garden, shops and eateries (Fig. 1). Another part of the project replaced the bridges on the
square in front of the station - the Plaza del Emperador Carlos V - by tunnels. As a result the passers-by can now enjoy
an open view of the beautiful train station. Glass roof looks light, while separation of commercial function from
transportation makes station easy to navigate.
3.3.2
London Waterloo (1993; 2003; 2012)
Waterloo Station, known also as London Waterloo, is a historical London terminal. Present building was originally built
in 1922 and part of it is listed as heritage. The station has undergone renovation and extension, to become international
terminal to serve as the Eurostar terminal from 1994 to 2007. New extension for Eurostar including train shed (1993)
designed by Nicholas Grimshaw & Partners was developed in the manner of air terminal (Fig. 2). New structure of a
flattened asymmetrical three-hinge bowstring arch blended well into historical setting. The roof follows the curve of the
railway and increases in span down the length of the station. Each arch and the related cladding are different as the roof
changes width along the curved tracks. The cladding on the trusses on one side is made of glass, and another side of
stainless steel. The next train shed refurbishment was carried out between 2001 and 2003, when a new roof over the
other platforms was constructed. The train sheds at Waterloo are reminiscent of the great 19th century railway
architecture and engineering. From one side, the old building was preserved as much as possible including historical
details, and from another new outstanding structures have been added with careful considerations and using similar
materials. Glass was used for new shed similar to the roof over the concourse. Later on, retail was removed from the
concourse and first floor offices were converted into retail space – the “Waterloo Balcony”, which was completed in
2012. New balcony has glass, light lit floor and transparent railings. It has well balanced proportions, looks modern and
not obstructive. London Waterloo is an example of good combination of historical and modern structures that are
engineering works of art.
3.3.3
Stadelhofen Bahnhof (1994)
Stadelhofen Bahnhof, built in 1894, is an important local station in Zurich. The station was remodeled in 1984. Later,
Spanish engineer-architect Santiago Calatrava was commissioned to accommodate a new third track. The architect's
challenge was to accommodate a third track in an existing train station built for 300 meters along a curved railway line
running round a hillside in the town center. Calatrava's design has excavated the hillside to add the track, and then built
the hillside back with a multilevel structure that restores the walkways and bank above, while providing an open,
naturally lit platform underneath for the new track (1994). He adopted structures of steel frames and glass, including a
graceful curving glass-roofed canopy developed with counterpoised steel. Walkways extend along the length of the
track at four levels: the platforms themselves, an underground arcade beneath them, a cantilevered concrete promenade
re-forming the hillside above the new platform, and the original hillside above that. Original elegant station building
was preserved. The station successfully expresses the balance between “static” historical architecture and “dynamic”
69
modern structure (Fig. 3).
3.3.4
Leipzig Hauptbahnhof (1997)
Leipzig Hauptbahnhof was designed by architects W. Lossow and M.H. Kühne, who were chosen in design competition
organized in 1906. The renewal of Leipzig Hbf was realized in 1997 through the collaboration between DB, private
investors and local government. Design concept relied on the combination of tradition with modern architecture,
openness of station hall and provision of daylight - all in the manner of airport terminals. With the respect for the
cultural heritage, the stations structure was not modified but the original design idea was extended by a new vertical
development of the transverse platform hall. The modernization of station included also the renewal of building façade,
historical train shed of 1915, and renovation of train platforms.
Station hall was modernized and developed according to the competition winning project by ECE Projektmanagement.
The design idea was to open up the ceiling of the transverse platform and to create a new vertical development - a
3-floor market place “Promenaden Hauptbahnhof Leipzig”, with lively shopping and entertainment zone comprising of
around 140 specialist stores on approximately 30,000 m2 (Fig. 4). New shops have been integrated into the protected
historical structure without interfering with transportation function. Station halls, large train shed and platforms have
been renovated as well. Leipzig is currently Europe's largest railway station by floor area (83,460 m2; 24 platforms).
The station has revitalized the surrounding area. The “Promenaden” at the Leipzig Hauptbahnhof was granted in 2004
in Madrid for the first time the “ULI1 Award for Excellence”, as a trend-setting pilot example of the revitalization of
train stations. The successes prompted DB to renovate the longitudinal platform halls at a cost of about 200 million DM.
Tenner [11] observed that the station became the center of attraction in the heart of the Saxon metropolis and is visited
by an average of 150,000 people every day, while before renovation 70,000 passengers per day were counted at the
station.
Fig. 1 Madrid Atocha Station, 1985
Fig. 5 London Waterloo, train shed, Fig. 2 Zurich Stadelhofen Bahnhof,
1993
1990
3.3.5
Paddington Station (1999; 2012; 2017)
Paddington Station, known also as London Paddington, is one of central London terminals connected also with
underground, which serves as the portal from Heathrow into the rest of the city. Current building, originally designed by
engineer Isambard K. Brunel and architect Sir Matthew D. Wyatt was built in 1854 and undergone renovations. The
spectacular train shed was cast-iron with arabesque details at the large windows. Today, Paddington has 14 terminal
platforms; platforms 1 to 8 are below the original three spans of Brunel's train shed and platforms 9 to 12 are beneath
the later fourth span. The station concourse stretches across the head of platforms 1 to 12, underneath the London end of
the four main train sheds. The area between the rear of the Great Western Hotel and the station concourse is
traditionally called “The Lawn”. It was originally unroofed, but was later built up to form part of the station's first
pedestrian concourse.
The improvements carried out between 1996 and 1998 involved the refurbishment of platforms 6, 7 and 8,
electrification of platforms 3 to 12, reconstruction of the footbridge between platforms 6 and 10 and the concourse area
(“The Lawn”), extension of the station concourse and London Underground ticket offices, and improvement of signage
and customer information systems. The station has also received a facelift as part of an improvement program. The
improvement was designed by Nicholas Grimshaw and Partners in association with Rodney Fitch. It added a new
customer information system and retail, food and drink outlets on “The Lawn”. The renovation included the re-roofing
of “The Lawn”, and its separation from the concourse by a glass screen wall. It is now surrounded by shops and cafés
on several levels (1999; Fig. 5). The design expresses historical heritage and “sense of place”. Renovated structure
looks light and elegant. New developments are coordinated with historical building.
The fourth span was renovated in 2011, involving repair and restoration of the original Edwardian glazed roof. So that
1
Urban Land Institute (ULI) founded in 1936 in Washington D.C. is a non-profit organization for scientific research and education
70
platforms 9 to 12 can once again have daylight. Currently, the station is undergoing the most significant redevelopment
since the historic station was completed. Local firm Weston Williamson is in charge of the renovation, which calls for a
number of new sections to be constructed as well as retrofitting the older ones to accommodate increased ridership and
new London Crossrail line, which now under construction. The Grade I listed station is located on a potential UNESCO
World Heritage Site and the design balances many issues, like heritage, conservation, transport integration, way-finding,
orientation, servicing and security. The renovation will create a new great space that responds to Brunel’s original
concept of a “great interior”. New ticket hall will have a glass canopy. Renovations are currently underway and are
expected to be complete in 2015 and by 2018 the new London Crossrail line should be in operation. The project known
as the Paddington Integrated Project (PIP), involves construction of a new station. The station will be built by Crossrail,
a subsidiary of Transport for London (TfL), which was set up to develop a new infrastructure to address congestion and
capacity improvement on London's existing railway network. New Crossrail stations, designed by renowned architects
will be constructed along the central route at Paddington, Tottenham Court Road, Bond Street, Farringdon, Liverpool
Street, Whitechapel and Canary Wharf. The project of rebuilding the Paddington Station has a target completion date of
2017.
Fig. 5 Paddington Station – „The Lawn”,
London, 1998
Fig. 6 Gare du Nord extension, Paris
2001
Fig. 4 Leipzig Hauptbahnhof – “Promenaden”, 1997
3.3.6
Gare du Nord (2001)
The station was originally built in 1865 by Jacques Hittorf and in years it had accumulated many additions. The
modernization of the Gare du Nord was undertaken in order to prepare it for the commissioning of the TGV Nord. The
project included the layout and roofing for the Eurostar TGV service, extension of the Eurostar terminal, the
reconstruction of all main line tracks and platforms, as well as creation of new underground interchange with parking
lot and approaches to RER (Reseau Express Regional) and subway line. Original structure of the station was restored.
The project was based on careful studies and respectful approach of modern intervention in old structure, which was
reflected in choice of materials (stone, wood, metal and glass) and the coherence that extends to every aspect of the
restoration program. The design complies with the SNCF polices in regard to historical restoration included in ”POG”
and provides barrier-free access through escalators and transparent elevators with glass walls.
New interchange (1992-2001) has been composed of a double-roof hall that blends with the roofing of a historical
building (Fig. 6). The hall constructed of glass and metal is completely transparent and accommodates well-lit space
that is centered around central access to various transportation modes on five levels, including high-speed trains, local
trains and subways. Entrances to each transportation mode have been distinguished in style: white tiling is applied for
accessing the Paris Transport Authority RATP (Regiè Autonome des Transports Parisiens), red coating is used on the
beams and columns for accessing the regional express trains RER. Transparency of the building provides daylight in the
interior and visual link with the street and heritage station architecture. The station is still under the development – a
new connecting hallway between Gare du Nord and Gare de l'Est is scheduled to be opened when the new LGV Est
begins serving the station.
3.3.7
Dresden Hauptbahnhof (2006)
Dresden Hauptbahnhof is one of two main inter-city transit hubs in Dresden. Originally one of the most impressive
late-nineteenth-century railway stations in Europe designed by Ernst Giese and Paul Weidner and built in 1897. The
station has three halls; the biggest central hall covers the terminating tracks. Parts of the tracks are terminal. The arrivals
hall is situated in front of the terminating tracks giving the station the character of a terminal station. The station was in
poor condition and required renovation.
Renovation and expansion of the station was part of a wider masterplan to revive the surrounding area. The station
redevelopment removes various additions and alterations made to the building over the last hundred years in order to
restore the integrity of the original design. Circulation within and through the station has been rationalized and the
71
design allows for the future expansion of the station by extending the barrel-vaulted roof over the outer platforms by
200 meters, providing a cover for the new high-speed trains, which are almost twice the length of the old platforms. For
that purpose, the refurbishment included new 30,000 m² roof, covered by a canopy made from Teflon-coated fibre glass,
which was designed by Sir Norman Foster (Foster and Partners) with lightweight fabric roof design by Sir Edmund
Happold (Buro Happold; Fig. 7). Refurbishment included redevelopment of an entrance building and reconstruction and
glazing of dome and arches. Restored structural elements fit well to new structures that use new materials. Details and
colors contribute to the total image of the modernized historical station.
3.3.8
London St Pancras (2007)
St Pancras Station, often termed in history as the “cathedral of the railways”, is located in central London near King’s
Cross Station. Magnificent historical station and hotel (Midland Grand Hotel) designed by an architect Sir George
Gilbert Scott were completed in 1868 and 1876 respectively. A single-span iron-and-glass train shed with beautiful and
biggest of its kind for decades arch roof was designed by William Henry Barlow and Rowland Mason Ordish. When the
station was first opened in 1868, a 74 m-wide train shed was a spectacular structure that held the world record for the
largest enclosed space.
St Pancras unused for decades was successfully refurbished and developed and still remains one of the greatest
Victorian buildings in London. The master plan for the extension was created by Sir Norman Foster and modified by
Alistar Lanley and Arup. After a decade-long project the station was officially re-opened as the St Pancras International
in 2007. It serves as a final destination for Eurostar and high-speed rail in the UK. After opening of the station, the
number of Eurostar passengers increased for about 20%; annually 45 million passengers pass through the station.
Fig. 7 Dresden Hauptbahnhof, 2006
Fig. 8 St Pancras, London – “The Arcade” Fig. 9 St Pancras – new entrance
2007
The building, with the most recognizable features - the red brick façade with neo-gothic arched windows and clock
tower, has been renovated. As part of the redevelopment plan, a train shed was extended by 200 m, to accommodate
domestic rail services. About 18,000 panes of self-cleaning glass were added to the extension. The roof of the shed was
also reglazed and repainted its original pale sky blue color. “The Arcade” – independent food and boutique retailers are
located on the first floor, beneath the Victorian brick arches (Fig. 8). The station was also extended by an entrance on
east (Fig. 9). The old and new structures are separated by a glass transept of more than 100 m. The various domestic
service platforms, both above and below ground level, are accessed via a street-level domestic concourse - ”The
Market”, that runs east to west at the point where the old and new, the domestic and international concourses meet at a
right angle, forming a “T” shape. The main pedestrian entrance is at the eastern end, opposite the King`s Cross Station.
The station is connected with King’s Cross via a new concourse opened in 2012. In restoring St Pancras, modern
interventions have been designed to be subservient to the original architecture whilst enhancing its grandeur. The total
design concept was to express the beauty of glass arched roof, its painted ironwork, in combination with red brick and
modern materials such as glass for railings, elevators and walls. The artistic beauty of past and present engineering has
been enhanced by good coordination with architectural details, finishes and art.
3.3.9
Gare de Strasbourg (2007)
Gare de Strasbourg is a main station in Strasbourg, and the second largest train station in France, which was originally
opened in 1846 and rebuilt in 1883. It was designed in 1883 by an architect Johann Jacobsthal. It serves also TGV lines,
since 2012 – Frankfurt - Strasbourg – Marseille. To adjust station quality to TGV services, in 2007 the station has
metamorphosed in into an intermodal transportation hub. In this renovation, historical building was framed by a 120 m
long glass shell designed by Jean-Marie Duthilleul, the architect for the SNCF (Fig. 10). The four hectares of a square
in front of historical station, edged by a series of imposing buildings with the pink sandstone station facade and its long
enclosing glass gallery serving as the main backdrop, have been transformed into a garden. The 25-metre high “winter
garden” serves as the entrance building and as the link between train tracks and trains, trams, buses, taxis as well as the
underground. In this project by AREP, landscape design was done by an architect Michel Desvigne. The extension won
the Brunel Award in 2008. Outstanding aesthetic design features structure that is light and expressive but does not
72
overshadows historical architecture. The balance has been achieved between new intervention and old valuable
heritage.
3.3.10
King’s Cross Station (2012)
King’s Cross Station completed in 1852, is a major London terminal designed by an architect Lewis Cubitt for Great
Northern Railway, who also designed a nearby Great Northern Hotel. The restoration project started in the 1980s, with a
plan by Foster & Partners, which strengthened connections with neighboring St Pancras International. In an effort to
return the station to former glory and provide comfortable environment for 47 million annual passengers, Network Rail
undertook in 1990s a conservation and redevelopment project by architect John McAslan & Partners. Around 60 %
passengers at King’s Cross, change trains between train and Tube, or between King’s Cross and St Pancras.
Transformation of King’s Cross Station combined three different styles of architecture: re-use, restoration and new
build. The train shed and range buildings have been adapted and re-used. The station’s obscured Grade I listed façade
has been very precisely restored. To deliver an efficient space, the new development included the insertion of a grand
semicircular building – Western Concourse – that provided better environment for the purpose of an interchange (Fig.
11). The project including also re-glazing of the arched roof and various repair works, was opened in 2012. The area
between St Pancras and King’s Cross stations was covered by new structure with a stunning roof that McAslan says is
the largest single-span station structure in Europe, measuring 54 m from centre to circumference [12]. The architectural
expression of the structure was described as “some kind of reverse waterfall, a white steel grid that swoops up from the
ground and cascades over your head towards 16 perimeter columns in a flurry of 1,200 solid and 1,012 glass triangular
panels…Like the 1852 train sheds, this is a structure that is at the limit of what’s possible, and the components are
celebrated” [12]. Historical heritage architecture has been exposed and ticket office retained its original decorations.
The space is modern, bright and with an array of food and retail outlets has an image of an airport rather than a
conventional station facility. It is spacious and easy to understand. The refurbishment of the historic station is in final
phase; it will end in 2013 with the creation of a new public square and open-air plaza facing Euston Road (the landscape
design for which is being carried out by Stanton Williams Architects).
Fig. 10 Gare de Strasbourg, 2007
Fig. 11 King’s Cross Station, 2012
Fig. 12 Gdynia Główna, 2012
3.3.11 Gdynia Główna (2012)
Gdynia Główna is one of the largest stations in Poland, with five tracks serving also international trains ICE. Originally
it was built in 1870. It was demolished during the WWII and rebuilt in 1950-54 by an architect Wacław Tomaszewki in
a stylistic combination of Socialist Realism and Modernism. It was quite handsome and functional building with large
ticket hall, information and waiting room, etc. The building was simple and proportional, with well executed details.
The building was registered as national heritage in 2008. The restoration of the building was supervised by the
Historical Heritage Conservator and like it is usually in Poland, everything was approved from the preservation point of
view.
Among details were frescoes in waiting room on the walls and ceiling, done by an artist Juliusz Gizbert-Studnicki in
1957. These frescos, which have been discovered during renovation, were restored to their original shape, as well as
sculptures, mosaics, and many details in wood and stone (Fig. 12). The renovation included also refurbishment of the
station hall, canopies at the platforms and new signalizing system. Original colors of the facade and interior walls have
been reconstructed, as well as all wooden and stone details, wooden panelling, old lamps, etc. New functional and
commercial spaces have been developed on the ground floor and in newly constructed basement. Refurbishment of
Gdynia Główna succeeded in good coordination of modernity with preservation of architectural heritage of a building
and its interiors. The station with its heritage serves not only as a transportation hub but also plays cultural role, housing
many cultural events, such as experimental theatres, music and multimedia festival - “Transvizualia”, etc.
3.4
Refurbished Stations in Japan
Two types can be distinguished in recent stations in Japan. “Station tower” is characterized by high-rise station building.
“Station city” – has a large block-type multifunctional station building. Even smaller stations, for example Tokyo
metropolitan stations, have often high-rise station buildings, which include stations and hotels, offices, and shops. One
of such newest building is Hikarie (2012) at Shibuya Station. The second type -“station city” has many facilities like a
73
city, above the ground and underground, and other urban functions accommodated in large station complex, with station
squares on both sides. Both types include renovated historical buildings - preserved or rebuilt, with consideration of
their structure and the need to satisfy seismic standards. Many historical stations are being rebuilt from the beginning
and their preservation is related to their essence or elements rather, than a whole.
3.4.1
Ueno Station (2002)
Ueno is a main intercity terminal in Tokyo and the eighth busiest stations in Japan. About 380,000 commuters and
visitors pass through the station every day. Ueno Station has been subjected to a successful refurbishment project under
the JRE. Historical modernist building of 1932 was preserved; station hall was refurbished, added glass roof and
connected with concourses with food and retail (Fig. 5). New structure fits well to historical building and makes it more
convenient and attractive. Many elements, emphasizing the location and history, including art, have been installed. At
the gallery has been created space for concerts. The accomplishment of refurbishment and adding new aesthetic
structures has been a bright and more convenient station related to local community and harmonized with surrounding
area. The balance between historical part and modern interventions has been kept and due to the modernization station
became more attractive and more popular among users than before.
3.4.2
Tokyo Station City (2012)
Tokyo Station is the main intercity terminal in Tokyo and the eighth busiest stations in Japan. About 180,000
commuters and visitors pass through the station every day. Annually, the station is used by more about 14 mln
passengers. It has two sides with different symbolic: Marunouchi side with historical neo-renaissance Marunouchi
Building (1914), designed by architect Kingo Tatsuno; and – symbolizing future Yaesu side with new office towers and
new entrance portion with a roof, now under construction. JRE, along with four other companies including Mitsui
Fudosan, have been redeveloping Tokyo Station since the 2004, as a part of efforts to revitalize the heart of the capital.
The new Tokyo Station realizes a new concept of a conglomerate “station city”. Tokyo Station City consists of
historical and modern buildings developed on both sides of the railway track. On Yaesu side, the “Sapia Tower” with
offices, Hotel Metropolitan Marunouchi and conference facilities, and the “GranTokyo” twin south and north
200-meters high-rise towers designed by Helmuth Jahn, housing the Daimaru department store, were completed in 2007.
Central part on Yaesu side will be replaced by a lower than before structure, with a 240-meter-long pedestrian deck
under large dynamic and airy canopy covering outdoor and loading areas and of 10,700 m2 plaza (scheduled for
completion in 2013). The deck designed by Helmuth Jahn will be covered by a huge white roof – “GranRoof” - that
resembles a sail. Shops will be positioned along the deck overlooking the spacious plaza. On the Marunouchi side, a red
brick Marunouchi building has been demolished and restored again to its original shape from before wartime damage
and in consideration of seismic standards (Fig. 6). Original bricks and stones have been re-used. Third story was added
and octagonal domes have been rebuilt into original form. In the interiors, relief decoration was restored and existing
structure was utilized (Fig. 7). The surrounding area will be converted into w station square giving more space for
pedestrians and extending towards wide walkway to Imperial Palace (scheduled for completion in 2013). It will be seen
how this important place in the heart of Tokyo will be designed.
The beauty of engineering has been directly delivered from the concept of “crystal towers” – glass structures for
high-rise towers and from the concept of “a sail of light” for the “GranRoof’s” membrane structure. Aside from the
modernization of historical building and new building construction, among modernized spaces are newly developed
underground interiors – “Tokyo Station Media Court” (2000), “Silver Bell” (2002) – a recreation space designed by an
architect Edward Suzuki, “Kitchen Street” (2004) - a mall with restaurants, and a “GranSta” (2009) - “a stage” created
for people to rest and enjoy various facilities that has been opened on the first basement. Aesthetics of Tokyo Station
has been expressed through the combination of old and new – reconstructed historical building on the Marunouchi side,
and new part with expressive structures on the Yaesu side. Tokyo station with its prominent location, large volume,
dynamic forms and high-tech structures has the aesthetic qualities of a landmark station.
Fig. 5 Ueno Station, Tokyo – main hall,
2006
Fig. 6 Tokyo Station – Marunouchi side,
2012
Fig. 7 Tokyo Station – refurbished hall
74
CONCLUSIONS
Combination of historical buildings and modern structures needs careful approach. All aesthetic factors should be
considered in such project. It requires consideration for the heritage, particularly if station is large and listed as a
heritage building (e.g. St Pancras and Tokyo Station). The outcome – architecturally rich and structurally innovative
station - can be rewording. Insertion of new outstanding structures can transform station into better environment, like in
the case of King’s Cross Station, when new canopy was designed against structural constraints. Renovated stations are
the new-generation transport facilities, which have the image of air terminals because of their high quality. These new
stations are urban landmarks, with their central location, grand visual architecture, unique structures, and
multifunctional facilities.
References
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Congress, Seoul, 2012, 2B, pp. 148-156.
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1997, pp. 22-29.
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No. 34, 2003, pp. 32-41.
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Transport International, No. 01, 2001, pp. 7-9.
[12]
LONG K., All Change at King’s Cross, London Evening Standard, 12 March, 2012.
75
文化財防災の研究
山邊 建二1・松川 徹2
1技術士(建設部門)
株式会社建設技術研究所 大阪本社 地圏環境部砂防室
(〒541-0045 大阪市中央区道修町1-6-7)
E-mail: k-yamabe@ctie.co.jp
2博士(工学)
株式会社建設技術研究所 東北支社東北復興推進センター
(〒980-0014 仙台市青葉区本町2-15-1)
E-mail: matukawa@ctie.co.jp
我が国では、近年大規模な地震により、甚大な被害を受けており、津波や地震火災等により、多くの文
化財についても損傷を受けている。京都では、世界遺産をはじめ、多くの文化財を有しており、地震火災
から文化財の焼失を防ぐことが文化財防災のひとつのテーマとなっている。
本論文は,地震火災から文化財を守るための取り組みとして、当社が事務局を行っている「地震火災か
ら文化財を守る協議会」の取り組みを紹介したものである。
Key Words : Earthquake fire, Pilot project, NPO
1. はじめに
かけ、近く起こるとされる東南海・南海地震等が
発生する前に、早期に実現するための活動組織と
して、「地震火災から文化財を守る協議会」が平
成9年に設立され、当社は協議会の事務局として
活動してきた。
その活動から、日本の歴史や文化の象徴である
京都を国家財産として守り活かす「京都創生」の
中で、文化財を震災から守る総合的な文化財防災
対策の一環として、京都市と連携し、清水地域の
「文化財とその周辺地域を守る防災水利モデル整
備」(以下、防災水利整備という)パイロット事
業が認可され、平成 20 年度に長年の夢である防災
水利整備構想の一部(高台寺公園の地下に 1500 ㎥
の貯水槽及びポンプ室と配管の整備)が完成し、
現在水路網を整備しているところである。
本論では、「地震火災から文化財を守る協議
会」の事務局としての、当社の活動について、紹
介するものである。
我が国は、高温多湿のアジア・モンスーン気候
に属しており、天より授かる豊富な雨水は豊かな
水と緑をもたらし、先人達は長い歴史を通じて世
界でも類を見ない「木の文化」を育んできた。そ
の結果生み出された、日本の木造建造物とこれで
構成される伝統的な町並みは、いまや人類にとっ
てのかけがえのない文化的資源となっている。
一方で、木は燃えやすいという危険性を持つ。
特に地震等に起因する同時多発火災に対する脆弱
性は、既に歴史が証明するところとなっている。
しかし、文化遺産をはじめとする伝統的な木造
文化の様式を、火災に弱いという理由だけで早計
に世から消し去ってしまうことは、文化的多様性
や地球環境の保全という視点から見ても、人類に
とって計り知れない損失となる。木造文化の都市
をまもるためには、建造物を不燃化する方向性だ
けではなく、「万一燃えてもすぐ消すことのでき
る安全な環境を実現する」ための、消防戦略を考
慮した環境づくりが重要である。
阪神淡路大震災後に、上記の観点から、国に対
して、日本の文化をまもる取り組みを行政に働き
2. 既往調査研究
文化財防災として、国土交通省、内閣府、京都
市から、研究開発費や業務を受託し、当社は京都
大学等の協議会関係者と連携、協力しながら下記
76
に示す報告書のとりまとめを行い、防災水利整備
事業の推進に大きく寄与してきた。
(1)国土交通省「H13 年度建設技術研究開発費補
助金」研究報告書(H13 年度)
(2)内閣府「文化財保護と防災まちづくりに関す
る 調査業務」(H15 年度)
(3)内閣府「災害から文化遺産と地域をまもる検
討調査業務」(H16 年度)
(4)国土交通省「文化遺産を核とした地域の防災
力向上の取組みによる地域の活性化」による
検討(H16 年度)
(5)京都市「自然流下式消防水利システムの研究
調査業務」(H17 年度)
(6)京都市「清水地域の防災水利整備事業に関す
る研究調査業務」(H17 年度)
(7)京都市「清水地域の地域特性に応じた消化シ
ステムに関する研究調査業務」(H18 年度)
平成13年度の研究報告書は、地震火災から木造
都市を守る環境防災水利整備に関する研究開発と
して、①地震火災の特徴を踏まえた環境防災水利
整備の基本理念導出、②事例調査に基づく環境防
災水利整備のための技術情報データベースの構築、
③京都市を事例とした地震火災の危険地域推定手
法の開発と水利整備指針の導出、④ケーススタデ
ィ地域に対する環境防災水利整備計画と支援シス
テムの開発についてとりまとめを行った。
平成15~16年度は、平成13年度の研究成果を踏
まえ、内閣府の委員会において、地震災害から文
化遺産と地域をまもる対策のあり方をとりまとめ
た。これらの成果を受け、災害から文化遺産と地
域をまもるための今後の展開として、①防災基本
計画等における文化遺産の防災対策の位置づけ、
②地域における事業の早期実現(パイロット事業
の取り組み支援)、③地方公共団体への文化遺産
の防災対策の意識の普及、④指定文化財等におけ
る総合的な防災対策の推進(文化財所有者への防
災対策支援)、⑤自主防災組織の活性化(防災ま
ちづくりに対する支援)が位置づけられた。
内閣府の委員会において、「地震災害から文化
遺産と地域をまもる対策のあり方」(平成16年7
月)がとりまとめられた結果、京都市の清水寺地
域におけるパイロット事業を国が支援することと
なった。パイロット事業の計画・設計に関連する
業務が発注され、清水寺地域における防災水利整
備事業について検討を行い、延焼防止放水システ
ムの配置設計等を実施した。
図-1は清水寺地区の文化財の地震火災による
77
焼失を防ぐために設置する延焼防止放水システム
の配置を示したものである。山裾の標高の高い位
置に、防火水槽を設置し、自然の力で、放水を可
能としており、水量については、延焼シミュレー
ションを実施し、延焼時間や延焼幅や延焼防止に
必要な単位水量等より算出している。
図-1 清水寺地区文化財延焼防止放水システム配置図
現在、延焼防止放水システムの開発は、メーカーが
主体となり、消火実験等を行いながら、放水ノズルの形
状や、放水の自動化等に取り組んでいるところである。
3.フォーラム開催
地震火災から文化財を守る協議会では、文化財
をまもる意義や地域と一体となってまもる必要性
を市民に広く伝えるために、年に1回のペースで、
フォーラムを平成9年から開催してきた。当社は、
フォーラムの準備から運営まで行っており、今年
度は毎日新聞社の共催で、文化庁、奈良県、奈良
県教育委員会、大和郡山市、大和郡山市教育委員
会、大和郡山市商工会、NHK奈良放送局、奈良
テレビ放送、立命館大学歴史都市防災研究センタ
ーの後援、イオンモール大和郡山の協賛を得て、
イオンモール大和郡山2Fイオンホールにて、平
成 23 年 11 月 17 日(土)の午後1時から5時で、
フォーラムを開催した。フォーラムの概要は以下
のとおりである。
「第 16 回地震・火災フォーラム
大和郡山から歴史の風が吹く
~“言の葉遺産”の魅力を語ろう~」
○基調講演
「私の万葉体験」
篠田 正浩 (映画監督)
○パネルディスカッション
パネリスト
井上さやか(奈良県立万葉文化館主任研究員)
篠田 正浩(映画監督)
橋本 弘隆(大和郡山市古事記
1300 年紀事業実行委員)
中川 明子(奈良文化財研究所所長)
コーディネーター
土岐
憲三(NPO 災害から文化財を
守る会理事長、立命館大学教授)
4.情報ネット
NPO 法人「災害から文化財を守る会」から情報
ネットを機関誌として会員(300 名弱)に配布し
ている。情報ネットでは、フォーラム開催内容の
報告や地域拠点、学識経験者からの投稿記事を掲
載しており、地域拠点での活動の呼びかけている。
広報活動を通じて、協議会活動の地方拠点(NPO)
は広がっており、奈良をはじめ、金沢、山口にも拠点が
できつつあり、会員の増員を期待しているところである。
当社は上位組織の事務局として、NPO 法人を支
援しており、情報ネットについては、学識経験者
への原稿依頼やフォーラムの原稿作成等も行って
いる。
図-2 第 16 回フォーラムチラシ(表面)
5.おわりに
平成9年に発足した「地震火災から文化財をま
もる協議会」の事務局として活動を行ってきた成
果として、現在京都市清水地区において、産寧坂
伝統的建造物群保存地区の無電柱化事業とあわせ
た地震火災延焼防止放水システムを設置するパイ
ロット事業が実施されている。
延焼防止システムの開発ポイントは、①少量の
水で延焼を防止することができ、②平時には景観
面に配慮したコンパクトなシステムとすることで
あり、放水部について現在メーカーが鋭意開発を
進めているところである。なお、無電柱化事業に
応じて、管路網は先行して敷設している。
この放水システムは、平時の利用も想定してお
り、地域住民の手でいつでも利用でき、いざとい
うときには住民の手で通常火災にも使えるシステ
図-3 第 16 回フォーラムチラシ(裏面)
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ムとしており、地域住民に有効利用されることが
期待されている。
平成 24 年の当社の活動は、協議会の事務局とし
て、幹事会の運営、広報活動を主体に行ってきた。
地震火災への取り組みは、協議会発足当時に比べ
て着実に進んできているが、近未来に予想される
関東直下型地震や東南海・南海地震等を考えると、
協議会活動をさらに活発にしていく必要があり、
当社は協議会の事務局として支援を継続して行っ
ていく予定である。
参考文献
1) 「地震災害から文化遺産と地域をまもる対策のあり方」
http://www.bousai.go.jp/oshirase/h16/040708bunkaisan.html.
図-5 無電柱化事業(産寧坂伝統的建造物群保存地区)
Study on Technique for Safeguarding Culture assets against Earthquake fire
Kenji YAMABE and Toru MATSUKAWA
Downsizings Kyoto City began construction of the disaster prevention water supply maintenance
in Kiyomizu district in 2006. This research is what the NPO Engineering Department association of
incorporated nonprofit organization "NPO for Protection of Cultural Heritages from Disaster " executed it
to be effectively and appropriately enforceable of the disaster prevention water supply maintenance plan
And corporate public relations activities NPO, held a forum every year, doing a paper published
quarterly.
79
国土文化研究所年次報告 VOL.11 May.’13
平成 25 年 5 月 20 日
発
行
編集・発行 株式会社建設技術研究所 国土文化研究所
住所 東京都中央区日本橋人形町2-15-1 6F
〒103-0013 TEL 03-3668-0451(大代表)
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