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不動産業にかかる消費税簡易課税の改正
川崎市中原区小杉御殿町1-868 電話 044-271-6690 Fax044-271-6686 E-mail:[email protected] URL:http://www.haratax.jp 2014 年 5 月 15 日 第 66 号 haratax 通信 不動産業にかかる消費税簡易課税の改正 今年の 4 月から消費税が 8%になったことはみなさまご存じのとおりです。 不動産賃貸業を営んでいる不動産オーナーに関して、もう一つ消費税の改正項目があることはご存知 でしょうか。 それは消費税の「簡易課税制度」における「みなし仕入率」の見直しです。 「簡易課税制度」や「みなし仕入率」といった言葉を聞いたことがないという方も多いと思いますので、今 月のharatax通信では消費税の基本的な仕組みから紹介いたします。 1. 消費税の納税義務 不動産賃貸を行っているオーナーの中にも消費税がかかる人とかからない人がいます。 基本的に、個人は前々年(法人については前々期)の課税売上高が 1,000 万円以下の場合には消 費税を納める義務がありません。 不動産賃貸の場合、土地の貸付けにかかる地代や住居の家賃は非課税ですので、住居以外の店 舗などの家賃や駐車場代が課税売上に該当します。 つまり、年間の家賃収入が 1 億円あっても、居住用マンションの家賃のみである場合には消費税を 納める義務がありません。一方で、居住用以外の不動産の家賃や駐車場代などの年間収入が 1,000 万円を超えると、その翌々年から消費税を納める義務が出てきます。 2. 消費税の基本的なしくみ 消費税は、最終的に消費者が負担する仕組みであるため、製造、卸売、小売の各段階で課税売上 に係る消費税額から課税仕入れにかかる消費税額を控除して納付するのが原則です。 原材料製造業者 売上 売上に係る税 ① 納付税額① 卸売業者 50,000 4,000 4,000 + 売上 売上に係る税 ② 仕入 仕入に係る税 ① 納付税 (②-①) 小売業者 80,000 6,400 50,000 4,000 2,400 + 売上 売上に係る税 ③ 仕入 仕入に係る税 ② 納付税 (③-②) 消費者 100,000 支払総額 108,000 納付税額 合計 8,000 8,000 80,000 6,400 1,600 = 消費税は見かけ上は各事業者が負担しているように見えますが、消費税部分が価格に上乗せされるので、 最終的には消費者が負担していることになります。 小売業者が卸売業者から 8,640 万円(うち消費税 640 万円)で仕入れた商品を消費者に 1 億 800 万円(うち消費税 800 万円)で売る場合、小売業者は課税売上にかかる消費税 800 万円から課税仕 入れにかかる消費税 640 万円を控除した 160 万円を納付することになります。 卸売業者は、課税売上 8,640 万円にかかる消費税 640 万円から原材料製造業者からの課税仕入 れ 5,400 万円にかかる消費税 400 万円を控除した金額 240 万円を消費税として納付し、原材料製造 業者は課税売上 5,400 万円にかかる消費税 400 万円を消費税として納付します。 このように、消費者が負担した消費税 800 万円を、製造から消費されるまでの各段階に応じて、そ れぞれの事業者が納付するのが消費税の基本的なしくみです。 3. 簡易課税制度とは 2 の原則的な計算方法を本則課税といいますが、一方で、中小事業者の事務負担に配慮して、課 税売上にかかる消費税に一定の率(みなし仕入率)を乗じることで課税仕入れにかかる消費税を計算 する簡易課税制度が設けられています。 不動産賃貸業では、年間の住居以外の家賃と駐車場代を集計することで、課税売上にかかる消費 税は比較的簡単に計算できますが、課税仕入れにかかる消費税を計算することは簡単ではありませ ん。 たとえば 1,2 階が店舗、3 階から 6 階までが居住系のマンションについて、1,2 階だけに関する支 払いであれば全額課税仕入れに該当しますが、マンション全体に関する支払である場合には支払額 のうち課税売上にかかる金額を区分する必要があります。 つまり、すべての支払いの都度、1,2 階のみにかかる支払、3 階から 6 階にかかる支払、マンション 全体にかかる支払に区分する必要があるということです。 中小事業者にとって、この区分処理は事務負担が大きいということで、課税売上にかかる消費税だ けを集計すれば、課税仕入れにかかる消費税を集計しなくても納付すべき消費税額を計算できる方法 が簡易課税制度です。 簡易課税制度は、前々年(法人については前々期)の課税売上高が 5,000 万円以下である場合に、 前年末までに一定の届出書を提出することにより選択することができます。 不動産賃貸業の場合、課税仕入れにかかる消費税が少なく、簡易課税を選択した方が有利である ことが多いため、年間の課税売上高が 5,000 万円以下の事業者は簡易課税制度を選択していること が多いです。(消費税の還付を受ける場合など、あえて簡易課税を選択しないこともあります。) ■簡易課税制度の概要 ・簡易課税制度は、課税売上高が5,000万円以下の中小事業者の事務負担への配慮から設けられている措置。 本 則 課 税 =消費税額 上 高 ) 仕入高×5% 売上高 × 5% - =納付税額 × み な し 仕 入 率 売 上 高 × 5 % 売 上 高 × 5 % ) 高 売 上 高 × み な し 仕 入 率 ( 高 売 ) 入 仕 入 高 × 5 % 売 上 高 × 5 % 本則課税のよる 納付税額 ( 仕 上 ( 売 簡 易 課 税 簡易課税制度 による納付税額 制度の趣旨 中小企業者の事務負担 への配慮から設けられ ている特例措置 売上高×みなし仕入率×5% 売上高 × 5% - =納付税額 ○ 簡易課税制度 = 売上高だけから納付税金額を計算する制度 ○ 適 用 要 件 = 前々年(個人)又は前々事業年度(法人)の課税売上高が5,000万円以下であり、かつ、 「簡易課税制度選択届出書」を事前に提出していること ○ みなし仕入率 = 事業の種類ごとに、仕入高の売上高に通常占める割合を勘案して定められている。 卸売業 90% 小売業 80% 製造業等 70% サービス業等 50% その他事業 60% (注)サービス業等とは、サービス業、運輸・通信業、不動産業をいう。 ○ 簡易課税制度を選択した事業者は、2年間以上継続した後でなければ、選択をやめることはできない。 (自民党税調小委員会平成25年11月28日資料) 4. みなし仕入率の改正 いままで不動産業は第 5 種事業に区分され、みなし仕入率は 50%と定められてきました。 つまり、課税売上に係る消費税額のうち半分を控除し、残り半分を納付すればよかったのです。 平成 24 年 10 月 4 日に会計検査院から報告された「消費税の簡易課税制度について」において、 2,031 事業者の決算書等を基に試算したところ、すべての事業区分でみなし仕入率が実際の課税仕入 率を上回っており、特に第 5 種事業の差が大きいことが確認されました。 その後、平成 26 年度の税制改正の議論で、第 5 種事業の不動産業と第 4 種事業の金融保険業 の差が特に大きいということで、それらの業種に限って、みなし仕入率の改正が行われることになりま した。 平成 27 年 4 月 1 日以後に開始する課税期間について、金融保険業は第 4 種事業(みなし仕入率 60%)から第 5 種事業(みなし仕入率 50%)に、不動産業は第 5 種事業(みなし仕入率 50%)から第 6 種事業(みなし仕入率 40%)に変更されます。 5. 消費税の簡単な計算例 課税売上高(店舗家賃+駐車場代) 3,240 万円(うち消費税額 240 万円) 課税仕入高(管理費ほか諸経費) 540 万円(うち消費税 40 万円) (1) 本則課税(原則的計算方法) 240 万円-40 万円=200 万円 (2) 改正前の簡易課税 みなし仕入率 240 万円-(240 万円×50%)=120 万円 (3) 改正後の簡易課税 みなし仕入率 240 万円-(240 万円×40%)=144 万円 (1)の本則課税(原則的計算方法)では納付すべき消費税額が 200 万円となりますが、簡易課税を 選択すると、控除できる消費税額を、実際の課税仕入高と関係なく、みなし仕入率 50%で計算できる ため 120 万円にすることが可能でした。 これが改正後はみなし仕入率が 40%になるため、納付すべき消費税額が 144 万円となります。 つまり、不動産業のみなし仕入率が 50%から 40%に改正されることで、消費税額が 20%増えるこ とになります。 6. 経過措置 4 のみなし仕入率の改正は平成 27 年 4 月 1 日以後に開始する課税期間から適用されますが、今 年の 9 月 30 日までに簡易課税制度を選択する届出書を提出した場合、2 年間は改正前のみなし仕 入率を適用することができるという経過措置が設けられています。 通常、簡易課税制度の適用を受けるためには、その課税期間開始の日の前日までに届出書を提 出しなければなりません。 平成 27 年から簡易課税制度を適用しようと考えている個人事業主は、本来、今年の年末までに 「簡易課税制度選択届出書」を提出しなければなりません。今年の年末近くに届出書を提出する場合、 上記の経過措置は適用されないので、平成 28 年から改正後のみなし仕入率が適用されます。 これが、今年の 9 月 30 日までに届出書を提出すれば、経過措置が適用されるために、平成 27 年、 平成 28 年は改正前のみなし仕入率、平成 29 年から改正後のみなし仕入率が適用されます。 これから簡易課税制度を選択しようとしている事業者は、届出書の提出時期によって消費税額が 変わりますので、注意が必要です。 7. まとめ 平成 26 年の 4 月から消費税が 8%となり、平成 27 年 10 月には 10%に上がることが予定されてい ます。これに加え、簡易課税を選択している個人の不動産オーナーは平成 28 年からみなし仕入率の 引下げがあるため、平成 26 年から 3 年連続で消費税増税の影響を受けることが考えられます。 消費税がかかる不動産オーナーにとって、今年から数年間は消費税の負担が増えているように感 じると思いますが、消費税は最終的には消費者が負担する税金の一部を事業者が納付しているだけ なので、増税分を価格に上乗せする限りにおいては、事業者として消費税の負担が増えているわけで はありません。 本当に問題なのは、消費税の増税のタイミングで家賃の値上げの話をすると、逆に値下げ交渉を されたり、退去される可能性があるため、家賃や駐車場代を値上げできない場合です。 不動産オーナーにとって、消費税増税への一番の対抗策は、物件の魅力を高め、家賃をキープす ることなのだと思います。