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Title
Author(s)
Citation
Jean-Paul de Lagrave(éd.), Madame Helvétuis et la
Société d'Auteuil. Avec concours de Marie-Thérèse
Inguenaud et David Smith. Oxford, Voltaire
Foundation, 1999, xviii+142pp.
森村, 敏己
日本18世紀学会年報, 17: 33-34
Issue Date
2002-06
Type
Article
Text Version publisher
URL
http://hdl.handle.net/10086/17670
Right
Hitotsubashi University Repository
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+142pp.
森 村 敏
己 (
一橋大学)
エルヴェシウス夫人 (
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のサロンは、夫の生前 には百科全書派 を中心 とす る著名なフイ
ロゾーフたちが、 またその死後、彼女が当時 はパ リ郊外だったオー トウイユに移 り住 んでのちは
イデオローグ と呼ばれ る人々が集 った場 として知 られている。
1
8世紀のサロンといえば、タンサ ンやジ ョフラン、あるいはレスピナス といった女性 たちの名
前が思い浮かぶが」エルヴェシウス夫人 のサロンはいわゆる啓蒙思想の全盛期か らナポレオンの
クーデタの時期 まで存続 した とい う点で特異 な位置 を占めている。啓蒙の世紀の主役 となった思
想家たち と、彼 らの影響の もとで自らの知的形成 を行 い、革命 とい う社会的変革 に現実 に参加 し
た若 い世代 とを結びつける空間、そう考 えれば、エルヴェシウス夫人 のサ ロンは啓蒙研究 にとっ
て も、 またイデオ ローグを初 め とす る革命期 の思想研究 に とって も興味深いテーマであるに違 い
ない。
本書 は、序 とエルヴェシウス夫人の簡潔 な伝記、お よびオー トウイユ時代 のサロンの常連たち
を対象 とした諸章か ら成 っているo取 り上 げ られ るのはアン ドレ ・モル レ、マルタン ・ル フェ「
ヴル ・ドゥ ・ラ ・ロシュ、カバニス、ベ ンジャ ミン ・フランク リン、 ジャン ・アン トワ-ヌ ・ル
シェ、ヴォルネの六人。 カバニス とヴォルネは著名 なイデオローグであ り、モル レもその回想録
が
1
8世紀後半か ら革命期 にか けての貴重 な史料 とされてい ることか らその名 は広 く知 られてい
る。 フランク リンについては言 うまで もない。 しか し、残 る二人 の知名度 は明 らかに低 い。 それ
で もまだル シェは、当時 は名の知れた詩人だった し、革命期 にはジャーナ リス トとして も活躍 し
ているが、 ラ ・ロシュに関 してはどうだろう。エルヴェシウス研究者以外 に彼 の名 に出会 う人が
どれだけいるだ ろうか。
こうした知名度 の違 いは各章 のテーマ設定 にも影響 しているように見 える。エルヴェシウス夫
人 と彼女 を取 り巻 くサ ロンの常連たち との関わ りに焦点 を当てなが ら、六人の著述家の思想や活
動 を描 く、 とい う本論集の趣 旨に添 った記述 となっていることはどの章 にも共通 しているが、カ
バニス とヴォルネについては、エル ヴェシウス は もち ろんサ ロンの主要 なメ ンバーだった ドル
バ ックか らの影響 を確認 した上で、イデオローグ世代 の独 自な思想的展開を分析す るとい う方法
が採 られている。 こうしたテーマを設定 したのは、 この二人 のイデオ ローグの思想的重要性 を考
慮 しての ことだ ろう。カバニスが医学、生理学 を基盤 としなが ら、内的感覚 あるいは内的印象 と
い う概念 を用いることで、身体組織 と知的・
心理的活動 との関係 をより密接 に理解 しようと努め、
エルヴェシウスの唯物論的感覚論 を発展 させた とす る解釈や、 またヴォルネがモラルの問題 を一
定 の法則 に従 う自然科学 として扱 うとい う点でエル ヴェシウスや ドルバ ックを受 け継 ぎなが ら
も、政治的平等や 自由意志の主張 において、「
革命 の哲学者」であった とす る指摘 は確かに興味深
い。
一方、モル レとル シェは革命がサ ロンのメンバーの間 にもた らした亀裂 を象徴す る人物 として
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描かれている。革命 によりそれ まで築 き上 げた地位 と財産 を失 うことになるモル レは、民衆の直
接行動 を野蛮な下層民 による暴動だ として嫌悪 し、カバニスやラ ・ロシュと決別、オー トウイユ
・
を離れ る。一方、立憲.
王政の支持者ル シェは共和派 を批判す る言論活動 に身 を投 じ、恐怖政治の
犠牲者 となる。二人 は革命前か ら保守的な人物 としてサロンの中で孤立 していたわ けではない。
専制 と宗教的抑圧への嫌悪、言論 ・出版 の自由、政治的改革主義の要求 はすべてのメンバーに共
通 しているoいわば 「
啓蒙の大義」への共鳴が彼 らを結びつける杵だったo二人 のサロ ンか らの
離脱 はある意味では啓蒙思想の政治的プログラムの暖昧 さを表 しているのか も知れない。
フランクリンに関 しては、主 にエルヴェシウス夫人 との親密 さに焦点 をあてた記述 となってい
る。7
0歳 を越 えたフランク リンが 6
0歳 のエルヴェシウス夫人 に結婚 を申 し込 んだ とい う有名 な
逸話 は彼一流の冗談だった として も、二人 の友情が社交 を越 えた真聾 な ものであった ことは確か
なようだ。パ リ条約締結後、病 を得てアメ リカに戻 った フランク リンが夫人 にあてた手紙 は、オー
トウイユで彼女 と過 ごした時間へのノスタル ジックな回想 に満 ちている。
最後 にラ ・ロシュ。彼 はエルヴェシウスの 『
人間論』の死後出版 に尽力 し、 その後 2度 に渡 っ
てエルヴェシウス全集の編者 を務 めたが、革命期 の政治状況 に合わせてエルヴェシウスの作品を
改宜 した ことで悪名高い人物である。確かに彼の生涯 は激動期 を生 きた一人 の知識人 の人生 とし
て興味深い ものだが、詳細 な史料調査 に基づ く叙述 もラ ・ロシュを魅力的な人物 として描 き出 し
ているとは思えない。
1
8世紀か ら革命期 にか けての思想的 ・政治的運動 に、サ ロンとい う場が大 きな役割 を果た した
ことは疑いない。 しか し、サロンがその重要性 の多 くをそ こで交わ された会話、つ まり研究者 に
とっては資料的に確認す ることが困難 な要素 に負 っていることも事実である。本書 は回想録や書
簡 を用いることで、サロンの空気 を再現 しようとしているし、 また、各章 はそれぞれ面 白 く読 め
る。 しか し、それで もある種 の もどか しさが残 るのは、テーマの性質上やむをえない ことなのだ
ろう。
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