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Motivation Engineering Report Vol.18

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Motivation Engineering Report Vol.18
経営者が求める戦略的組織人事
~経営の未来を創る企業要件フレーム(5M)~
1
はじめに
リンクアンドモチベーショングループでは、2013年から中小・ベンチャー企業を対象にインキュベーション事業を手掛けており、
2014年11月段階で6社に出資支援を行っている。弊社の基幹技術であるモチベーションエンジニアリングをベースに、自社経験
ならびに顧客に提供している組織人事領域のコンサルティング技術を活用し、上場を目指すベンチャー企業にハンズオンでの直接
的支援を実行する事業である。出資先企業の選定要件は下記2点を置いている。
1. 「モチベーションカンパニー創り」に対する共感性
※モチベーションカンパニー=組織のモチベーションを成長エンジンとする会社
2. 組織人事強化による業績拡大の可能性
弊社が保有する組織人事に関するノウハウを提供することで、出資先企業の成長に寄与することが大目的である。
本レポートでは、インキュベーション事業での出資先企業への支援実績を踏まえて、企業経営という視点から見たとき、組織人事
領域において何を目的に置き、何をするべきかを示唆するツールとして整理した「企業要件フレーム」を紹介する。
後述する通り、シンプルに纏めた観点ではあるが、言い換えると「言われてみると当たり前だが、企業経営において意外に見落と
されがち」な観点だとも言える。
前提として私どもは企業経営の永遠のテーマは
「One for All, All for One=一人はみんな(全体)のために、みんな(全体)は一人のためにの実現」だと考えている。
古代から続く哲学や社会学の世界では、「主観 vs 客観」「全体 vs 個人」が根源的な対立テーマであった。
当然ながら、「for One」の視点に立つのか、「for All」の視点に立つのかで、現状の問題認識や解決の方向性は変化する。
そして「for One」=ミクロ視点と、「for All」=マクロ視点をいかに接続するのかが、哲学や社会学の世界の永遠のテーマであり
企業経営もまた然りだと考えている。この立ち位置から整理した「企業要件フレーム」を活用して、組織人としての役割や立場に
囚われず、自社の自己点検や変革施策の立案に活用していただきたい、というのが私どもの想いである。
2
企業要件フレームの概要
企業要件フレーム(5M)とは?
Ⅰ Message(事業戦略)
・事業が発するメッセージ
・メディアとしての商品サービス
Message
(事業戦略)
Ⅱ Mission(役割設計)
Mission
(役割設計)
Ⅲ Membering(人材開発)
Monitoring
(管理制度)
Membering
(人材開発)
Motivation(動機形成)
・職務分担、権限付与
・会議体や社内メディアなどのコミュニケーション設計
・人材採用(新卒、中途)
・人材育成、配置登用
Ⅳ Monitoring(管理制度)
・管理会計ルール
・人事管理ルール
Ⅴ Motivation(動機形成)
・従業員のモチベーションファクター把握
・事業戦略の実現に向けたモチベーション向上
1
<Mを頭文字とする5つのキーワード>
前頁に示した図の通り、企業要件フレームはMを頭文字とする5つのキーワードで構成される。
One for All, All for Oneの構図を踏まえると
Message(事業戦略)= All(マクロ)、Motivation(動機形成)=One(ミクロ)
と位置づけられ、両者を統合するための操作変数が
Mission(役割設計)、Membering(人材開発)、Monitoring(管理制度)
であると整理している。
All(効率)
One(能率)
Message
Motivation
【事業戦略】
【動機形成】
Mission
Membering
Monitoring
【役割設計】
【人材開発】
【管理制度】
AllとOneの統合を図るための3つの操作変数
3
5Mの各要素に求められる要件
次に、企業要件フレームの5M各要素について求められる要件を整理したい。
下記、各要素についての「2つのキークエスチョン」は、企業経営の「そもそも」を自己点検するためのものと言える。
大企業のように分業と専門化が進んでいる場合においても、企業全体を俯瞰した自己点検は極めて有効だと思われる。
企業が成長・拡大するためには分業と専門化による事業の効率化が不可欠であるが、大きなデメリットの一つは、従業員の
「Allの切り取り方」が矮小化していくこと、すなわち個別最適に陥りがちになり、企業が満たすべき要件から見たときの手段が
目的化してしまうことである(例えば、人材育成は事業成長の手段と言えるが、人材育成自体が目的化してしまうなど)。
「昔から相変わらず営業部門と製造部門の仲が悪く連携が不十分」
「ホールディングス化したものの、各社のガバナンスが効かず、笛吹けど踊らずな状態」
「経営計画策定が戦略スタッフの作業として儀式化・形骸化し、各事業部門は沈黙あるいは面従腹背で独自戦略を遂行」
…などといった昨今の企業経営を取り巻く問題群を解決の俎上に乗せるためにも、各担当領域での良し悪しという価値判断を
下す前に、会社全体を企業要件フレームで自己点検し、「自明」「当たり前」を建設的に疑うことが現状確認ならびに変革の
出発点だと言えるのではないだろうか。
<各要素に求められる要件とキークエスチョン>
Message(事業戦略)
・事業を通じて伝えたいメッセージが
明確になっているか?
・商品サービスがメッセージを体現する
メディアになっているか?
Mission(役割設計)
・組織内で適切に職務分担、権限付与が
できているか?
・あるべき行動を促すための会議体や
社内メディアがあるか?
Motivation(動機形成)
・従業員のモチベーションファクターを
把握できているか?
・事業戦略の実現に向けて従業員の
モチベーションを高めているか?
Membering(人材開発)
・質、量ともに適切な人材採用(新卒・
中途)ができているか?
・人材育成、配置は適切に
行われているか?
Monitoring(管理制度)
・事業戦略や商品特性を反映した
管理会計ルールとなっているか?
・現在の事業環境や従業員ニーズに
即した人事管理ルールとなっているか?
2
4
事業の成長ステージ
企業要件フレームは、「そもそも」を問い、「One for All, All for Oneの実現」という企業経営の永遠のテーマを直視した際に
「普遍的に不可欠だと考えられる観点」を整理している。このため、個別具体的に企業で起きている事象を括り、概念的に理解し
自己点検する用途で効果を発揮する。ただし、「5Mはわかった。で、具体的に何をどうすればいいの?」という施策レベルでの示唆
を得るためには、ある一定の時間軸と段階的な空間軸の中に企業を位置づける必要がある。これが「Mode」とも言うべき事業の
成長ステージという概念である。人間と同様、企業にも発達段階がありライフサイクルを持つという前提で整理している。
拡大期
成功パターン
を一気に推し
進める時期
多角期
安定成長の
ため事業の
複線化を図る
時期
再生期
新たな価値の
創出を模索す
る時期
勿論、大企業であれば、各事業毎に成長ステージが異なるこ
とも有り得ると想定される。
例えば、会社設立時からの事業で昔は花形だったが、現在は
「再生期」に入っている事業もあるだろうし、花形事業部で
培った要素技術を転用し、大きな成功を収めようとしている
「拡大期」に突入している事業もあるだろう。
また、会社立ち上げからの「拡大期」が一段落し、主力事業を
軸としつつ「多角期」に入ったベンチャー企業もあるだろう。
バブル崩壊、リーマンショックを経て、「日本経済はいよいよ再生期を脱しつつある」、「いやいや、まだまだ構造的な改革が必要だ」、
「いやいや、そもそも日本企業の強みは失われていなかった」といった国家レベルでの様々な見立ては可能であるし、また業界という
括りでも「成長が期待できるのはIT、製薬(バイオ)、金融のみ。各種製造業はおしなべて再生が必要。」という達観はできる。
ただ、私どもとしては、日本のどの業界を見ても「キラリと光る経営を実践している企業は必ず存在している」という立場に立ちたいと
考えている。これまでの組織変革支援の実感値からも確信できるし、「キラリと光る企業」が日本にもう存在しないのであれば、
ビジネス誌が取り上げる企業がもう枯渇しているはずだ。そして、「キラリと光る」優良企業群は、「企業要件フレーム×事業の成長
ステージ」という観点でも「言われてみれば至極当たり前」の経営をしているのではないか?というのが私どもの仮説である。
上記前提を踏まえ、弊社のインキュベーション事業・これまでの組織人事コンサルティングの知見から「企業要件フレーム」を軸に
「事業の成長ステージ」毎のポイント(施策を示唆する要点)を見ていきたい。
「拡大期」の対応のポイント
顧客ニーズが高まり、事業が「拡大期」に突入すると、これまで前面に露見しなかったミドルマネジメントの機能不全や、仕事が
人に付いていて業務プロセスが見えないという属人化の症状が突如問題として現れる。これにより、次から次へと舞い込む仕事に
対応しきれず、業務過多が常態化し、従業員のMotivationが急速に悪化する。
Message
【事業戦略】
顧客ターゲット決定
商品サービスの絞込み
対応策としてはMissionにおける機能・階層分化や
仕事の標準化、Memberingにおける外部からの
人材調達の加速、人材の早期戦力化に加え、
マネジメント不全
Monitoringにおけるシンプルな管理会計の仕組み
業務プロセス属人化
構築、行動を促進するインセンティブ設計などが必要
になる。ただし、経営陣も含め非常に多忙なため、
打ち手が間に合わず、さらにMotivationが悪化する
という悪循環に陥る。ポイントは、Messageにおける
Monitoring
顧客ターゲットの決定や商品サービスの絞り込みだが、
【管理制度】
シンプルな管理会計 経営陣は拡大にブレーキがかかるのでは?という
促進インセンティブ 葛藤に悩まされる。結局は現状維持のまま、従業員
がついてこられず、事業拡大が止まってしまうケースも
ある。
Motivation
【動機形成】
Mission
【役割設計】
Membering
【人材開発】
機能・階層分化
仕事の標準化
外部調達の加速
早期戦力化
3
「多角期」の対応のポイント
成長の基盤となる事業が確立すると、自社の要素技術を新事業に派生させたり、あるいはM&A等を行って規模拡大・収益の
安定化を狙う事業の「多角期」に突入する。Messageにおける旧事業の差別化、派生事業の選択は経営陣の意思決定による
与件となることが多い。事業の多角化の結果、「自分たちは何屋なのか?」という従業員の自己アイデンティティが喪失したり、
全社視点の欠落・視野狭窄によりMotivationが低下する。
Message
【事業戦略】
旧事業の差別化
派生事業の選択
対応策としてはMissionにおける更なる分化と
全社を統合するミッションの言語化、
Memberingにおける事業リーダーの開発、
アイデンティティ喪失
複数事業を跨がる経営管理部門の強化に加え、
全社視点欠落
Monitoringにおける会計指標・評価指標の
共通化などが必要な打ち手になる。
事業体の遠心力が強まるため、全社の「統合」に
Monitoring
より求心力を強めることが不可欠である。現場に遠
【管理制度】
慮・躊躇して統合が不十分な場合は、
会計指標・評価指標
「笛吹けど踊らず」「現場の面従腹背」といった
の共通化
問題が至る所で発生し、全社ガバナンスが効かない
状況に陥る可能性が高い。
Motivation
【動機形成】
Mission
【役割設計】
更なる分化
全社ミッションの
言語化
Membering
【人材開発】
事業リーダー開発
管理部門強化
「再生期」の対応のポイント
顧客ニーズの変化や技術の陳腐化スピードが早くなる昨今、気付いていたら自社の中核事業が「再生期」に入っていたという
ケースも多々存在する。上場企業の場合は株主からの圧力も強まるため、経営陣としてはMessageにおける事業の取捨選択、
ビジネスモデル再構築を進めることになるが、時に拠点閉鎖、人員の再整理などの痛みを伴う。Motivationにおいても、「どうせ
変わらない」という既決感の蔓延や、顧客視点が欠落した内向き思考に陥るケースが多い。
Motivation
【動機形成】
Message
【事業戦略】
事業の取捨選択
ビジネスモデル再構築
5
既決感の蔓延
顧客視点の欠落
Mission
【役割設計】
Membering
【人材開発】
部門の統廃合
組織のフラット化
変革リーダーの調達
新陳代謝の促進
Monitoring
【管理制度】
PCを括る
※PC=プロフィットセンター
評価の信賞必罰
対応策としてはMissionにおける部門の統廃合、
組織のフラット化、Memberingにおける
変革リーダーの調達、新陳代謝の促進に加え、
Monitoringにおけるプロフィットセンターの統合、
評価の信賞必罰などが必要な打ち手になる。
やるべきことは比較的明確であるが、組織の慣習の
見直しと個人の成功体験の打破という、組織・個人
双方の変革が求められる難しい局面である。
「そもそも顧客が再生を望んでいるのだろうか?」と
いう根源的な問いから、外部・顧客視点を取り戻す
ことが変革のキーとなることが多い。
最後に
ポイントは「統合」や「AND(両利き)の経営」
「企業要件フレーム(5M)」は企業経営の自己点検にのみ適用できる観点ではなく、担当事業・組織を預かるマネジャー
(経営幹部や次世代リーダー含む)が持つべき視界だとも言える。トップダウンでの指示命令のみで部下に「滅私奉公」を暗示的
に強いているケースもあるだろうし、「個の尊重」に寄りすぎ、組織的な統合が図られず「烏合の衆」と化しているケースもあるだろう。
改めて、企業経営のポイントは「for One」だけ、「for All」だけではない両者の有機的な「統合」であり、ORではなく
「AND(両利き)の経営」であるということを再確認できるのではないだろうか。
http://www.lmi.ne.jp/
株式会社リンクアンドモチベーション
モチベーションエンジニアリング研究所
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〒104-0061
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