...

「授業をリフレクションすること −自分の授業実践を通してー」

by user

on
Category: Documents
9

views

Report

Comments

Transcript

「授業をリフレクションすること −自分の授業実践を通してー」
第 45 回勉強会「英語の教え方教室」
2016(平成 28)年7月9日(土)
簡易報告
14:00 17:00
報告者:中井弘一
「授業をリフレクションすること
−自分の授業実践を通してー」
大阪府立槻の木高等学校
南 侑樹
教諭
今回は、大阪府立槻の木高等学校の南侑樹先生に実践報告してもらった。大学院時代の講師 2 年を経て
大阪府の高校教員に採用後 2 年目の Fresh な先生である。若さに増して、何事にも実直に取り組まれて
いる姿勢が報告を聞きながら端々に感じられた。時期的なことと優れない天気のせいか、参加者は南先
生を併せて 7 人と少なかったが、その分みっちりと話し合うことができた。勉強会としては深みのある
ものであった。また、参加者には今年で定年退職され来年から特別嘱託教員としてもう少し英語教育に
携われる方がお二人おられた。年齢を重ねてなお自分の英語授業への研鑽に努められる姿には感動した。
A teacher to the last で私自身も頑張りたいと情熱をもらった。
はじめに、南先生は自己紹介された。バイオリンとビオラを演奏できることから、弦楽部の主顧問、陸
上部の副顧問と部活動にも追われ、土日の休みは月一度あるかないかということであった。最近文科省
では部活の休日日を設けるなどの施策を考えているが、根本的な解決策ではない。確かに学校現場では
授業以外の業務が多すぎると言える。リフレクションする間もない実態である。参加者同士で自己紹介
を含め日々の生活を話し合った。
次に、教員として教育情報をどのようにして得られているかとフロアーに尋ねられた。フロアーからは
まず、
「新聞」と声があった。新聞のどこに目を光らせ、どのような情報を得ているのかと私から尋ねた
ところ、最近の教育施策の動向と回答があった。確実性のある情報であるからとのことであった。次の
方に伺うと、私からの教職ネットの情報や同僚の体験や実際の活動報告とあった。その際、その友人・
同僚が脚色することなくありのままを話してくれる人を持つことが大切だと話された。また、テレビの
ニュースと回答される参加者が多く、世界の動向を生徒に語ることが大切であるとのことであった。私
自身は、新聞(主要紙のみならず日本教育新聞を含む)、書籍、雑誌、ネット等から得ている。勿論、フ
ォーラムや研究会で得る知識も大変役立つものである。ところが、ここでびっくりしたのは、南先生は
ツイッターでも情報を得るというものであった。公開されている信頼できる情報にアクセスしやりとり
をするということであった。これには多少年配が多かった今回の参加者はついていけないようであった。
次に、「リフレクションとは」の話しになった。リフレクションすることの目的(Allwright, 2003) は、
「教室で何かが行われている理解を深めることにより、生徒と教員における教室生活の向上に努めるこ
と」と話された。ここで「教室生活」とは何かとの議論になった。原文では、the quality of life in the
language classroom であるとのことであった。
「言語(学習)教室における生活の質」が逐語訳になる。
「学びの質」ではなく、
「生活の質」とはどういうことかについて、参加者から医学用語で使われる QOL
をイメージしているのではないかと話があった。QOL=Quality of life(クオリティ
1
オブ
ライフ)
は「生活の質」
「生命の質」などと訳され、患者さんの身体的な苦痛を取り除くだけでなく、精神的、社
会的活動を含めた総合的な活力、生きがい、満足度という意味で使われる。すると、単に学びだけでな
く、学校生活、教室で行われる活動で苦痛に思ったり辛いと思っていたりする事を取り除き、学びがい、
やり甲斐のある言語学習教室にして満足度を高めるということになる。一つの活動に対するリフレクシ
ョンというより、トータルな改善をめざすことがリフレクションの目的と考えられていることになる。
ただ、リフレクションは対象とする生徒がそれぞれ異なるので。一般化できない。南先生が考えるリフ
レクションの具体的なねらいは、
「授業で気になることの検証」
「授業で困っていることの明示化」
「望む
学習者像を知る」
「学習指導理論の実践における気になることを知る」ということであった。それらを知
るため、
「リフレクションペーパー」を通したアクションリサーチを毎授業終了間際の 3 分間を使って、
「今日の授業の中でわからなかったこと、わかりにくかったこと、もっと知りたいこと、など何でも具
体的に書いてください」と小片の紙を渡して記述させているとのことであった。生徒が回答した例とし
て、
・ It is difficult for me to understand… の説明をもう一回して欲しいです。
・読み方をもう少しわかりやすく教えて欲しいです。
・-ly がつくと必ず副詞なんですか?
・授業の説明の仕方が丁寧だけれど、眠たくなってしまう
・今日は先生がいつも以上に必死そうだった
などと書かれていたと紹介された。
リフレクションの他の方法には、
・ ティーチングジャーナルによる方法(自分/内)→自分で記述にどのような変容があるかを観察して
みるで、毎日授業振り返り日誌をつけているとのことであった。
・ 録音・録画による方法(自分・教員/内)
・ 人に授業を見てもらうという方法(教員/内)
南先生は先輩の教員に常に声をかけ授業を見てもら
いコメントをもらっているとのことであった。同時に自分が考えた活動をやってみませんかと勧誘
することも忘れず行っているとのことであった。
・ リアクションペーパーによる方法(生徒/内)
上記で紹介したものである。
・ 質問紙(アンケート)による方法(生徒/内)無記名・記名どうしていますか?
・ 本から学ぶという方法(自分/外)
・ 研究会に参加するという方法(自分/外)→+対話するということ
を話された。非常に熱心に取り組まれている
参加者にリアクションペーパーのようなリフレクションを行っているかと尋ねると、一人は気が向いた
ときに行うということであった。その目的も、「自分に自信が無いとき」「自分を褒めて欲しいとき」に
行うことがあるとのことで、教師の哀愁に満ちたリフレクションであると思われた。授業アンケートや
授業コメントを生徒にとることには、多少勇気が要る。つまらない授業、わからない授業と言われれば
どうしよう、めげてしまうのではないかと思う。それでも、やはり、教師を元気づけるのは生徒なのだ
2
と考えさせられる。また、学年開始時と終了時に行っている参加者もいた。南先生はそれを毎授業で行
うということであった。南先生の真摯に授業改善に向き合いたいと思う気持ちは伝わった。そんな時間
がよくとれるものだと感想を漏らす参加者もいた。ただ、毎授業後行うことは形骸化を生み出すかもし
れない。ユニット・レッスン毎の単位で行うことでも十分ではないかと言う意見もあった。
そこには南先生の教員としての矜持があるのだろう。Farrell(2015)の Framework for Reflecting on
Practice を紹介された。
□ Philosophy(自分の価値観によるもの)・教師としての自分・自分の背景,育ってきた環境
□ Principles(指針・原理)・「自分が思う」信念(belief)・教えること,学ぶことへの自分の考え
□ Theory(自分の持つ理論)・どんなアクティビティを行っているか
□ Practice(実践)・授業中教師はどうふるまっている、授業中生徒はどうふるまっているか、実際どん
なことが起こっているか
□ Beyond Practice(授業外でのこと)
学校全体の様子
学校の周りはどんな環境か
これらを授業者としての指針に毎回ガンバッテいるとのことであった。しかしながら、リフレクション
に書かれた生徒の言葉に非常にへこむことがあると心情を吐露されることもあった。授業アンケートの
近いコメントを書かせるには、教員側として勇気が要ることである。
後半になって、
リアクションペーパーを通じて知った、実際の授業での失敗例を話され、それらをもとに参加者で話し
合った。
最初に、2 年生(コミュニケーション英語 II)の場合について話された。1 年次の予習方法→英文を写す[移
す]、全訳する...という学習方法であったことを知って、何とかせねば!と考えられた。予習だけで満足
して、復習に割く時間がなかったと考えられた。効率よい予習をまず考えられた。
3
全訳を無くすため、語彙リストの中にフレーズ訳と対応する英語を予習させることを考えて作成された
ものである。新出語彙を文脈で理解させることを意図されている。リアクションペーパーで、これでは
どれが新出単語かわからないと生徒に指摘され以下に変更された。新出語を枠で囲むようにしたとのこ
とであった。
同時に、POLESTAR English Communication II の Lesson 3 Part I Table for Two - Helping Others
as You Eat 教科書例から、
How can those with plenty of food those who don t have enough? Some people in Japan
came up with a simple but very effective answer to that question.
According to the United Nations, more than 900 million people worldwide are thought to be
undernourished. On the other hand, a large number of people in developed countries, which
include Japan and the U.S., suffer from health problems caused by overeating.
A Japanese project known as "Table for Two (TFT)" is trying to address the imbalance that
exists between the rich and not-so-rich parts of the world. The name is meant to suggest that
a person in a developed country and a person in a developing country can eat at the same
virtual table. In Japan, you can order a meal certified as healthy by TFT. A donation of twenty
yen per meal ordered in Japan is then sent to such developing countries as Ethiopia, Uganda,
and Malawi, where the money is used to pay for healthy school lunches. In this way, TFT
encourages healthy eating here in Japan and provides nutritious meals for schoolchildren in
distant countries.
4
予習プリントとして、
Part 1
According to the United Nations, a lot of people in the world are thought to be (1
). On
the other hand, people in developed countries suffer from health problems by overeating. TFT
is working on the (2
) around the world. In Japan, you can order a meal recognized
as healthy by TFT. A donation of twenty yen per meal (3
developing countries (4
) in Japan is used in
) the money is used to pay for healthy school lunches.
Therefore, TFT encourages healthy eating in Japan and provides (5
) meals for
schoolchildren in distant countries.
と要約した文章の空所を事前に埋めさせ、内容理解に努めさせているとのことであった。
新出単語などについては、教員が単語のリストのプリントを作成して生徒に回答させる事を行っている
のをよく見かける。生徒にとっては重宝である。穴埋めすればいいだけであるからである。ただ、単語
リストにすると、単語を逐語訳に覚えるだけになる。参加者からも生徒は本文を見ずに単語の訳を書い
ていて、テキストを読んではじめて意味がつながらないことに気づくことがあると発言があった。確か
に文脈の中での単語を意識させることが大切である。それでもこうして教員が準備すると、生徒自身の
主体的な学びにはならない。授業では全訳をしないと決められた南先生のギリギリの判断なのであろう。
サマリーの事前穴埋め課題も全体の流れを事前につかむようにという意図で行われている。ただ、テキ
ストから写す(移す)ということに終わらないかという懸念はある。
授業中のプリントは、次に示すとおりである。
英問英答も授業で行われているとのことであった。
また、音読テストを重視され、
5
を実施されているとのことであった。授業の変容をすることで、生徒の「わかった」は本当に「わかっ
た」なのか→処理の浅い学習はわかった(つもり)になりがちであることも肝に銘じておられた。
リアクションペーパーの変遷として授業の感想の紹介された。
□4 月当初のもの(代表的なもの)
・ 前のやりかたの方が良かった(1/3 程度)
・ Vocabulary list がおぼえづらい(5 人)
・ 授業はわかりやすいけど,予習をどうやっていいのかがわからない(3 人)
・ 英語で話されているから全然わからない,何度も言って欲しい。(3 人)
・ このやり方のほうが楽しい!前は苦痛で仕方がなかった。(3 人)
□6 月終わりごろ
・ 英語で残していくという先生の言葉がわかってきた。結構楽しい。
・ 難しいけど,音読テストは力になると思う。
・ 予習よりも復習のほうが大切というのがわかってきた。
・ 前よりも勉強が楽になったけど,こっちのほうが力つきそうな気がする。
・ やっぱり前のほうがいい。(3 人くらい)
復習がどのようなものかを話していただく時間は無かった。高校での英語学習では予習か復習かという
議論を参加者と少し行った。中学校では復習による定着が重要であると思われるが、多様な教科を寄り
深まった内容で学ぶ高校においては、事前に自分がどれだけのレディネスを持って授業に臨むかが、学
6
びの深まりに重要な役割をはやすと考えられる。授業内に理解の完結をしておかないと、追つかない量
を高校では学ぶ。英語が苦手な生徒にはこれが難しいのでどう対応するかがかだいであろう。
今日は、参加者と話しあいたい話題提供がたくさんあり、全てを詳細に話していただく時間を充分に持
てなかった。実習生を持たれてのやりとりの部分は割愛していただくことになった。話し合いとしては
深みが有り意味のあるものであった。何より参加者は、南先生の一生懸命に頑張る姿に優しい声をかけ
たくなる思いであった。退職を控えた先生が、自分と同じように授業をよくしようと思っている若い先
生がいることは本当に嬉しいことですと話された。私にはその先生が情熱を失わず、今なお授業改善に
取り組もうとしておられる姿に感銘を受けた。最後までやり抜く大切さを教わった。
南先生、午前中補習を 3 コマして発表に臨んでいただいたこと感謝します。
7
Fly UP