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赤谷プロジェクト - ESD-J

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赤谷プロジェクト - ESD-J
【関東 】
赤谷プロジェクト
― 生物多様 性と社 会の持 続 性のための協 働による国有林 管理 ―
●
地 域:群 馬 県・赤 谷 川 源 流 部
実 施 主 体:林 野 庁 関 東 森 林 管 理 局 、
赤 谷プロジェクト地 域 協 議 会 、
( 財 )日本自然 保 護 協 会
報 告:
( 財 )日本自然 保 護 協 会・保 護プロジェクト部 茅 野 恒 秀
1.はじめに
首 都 圏 の 水 源である利 根 川 の 上 流 部 、群 馬 県 みな
か み 町 北 部に「 赤 谷 (あか や )の 森 」と呼ば れる国 有
林 があります。2 0 0 4 年 3 月、谷 川 岳 から西 方 へ 延びる
新 潟 県との 県 境 稜 線 下 に 広 がるこの 森を、将 来 にわ
たって「 生 物 多 様 性 の 保 全 ・復 元 」と「 持 続 的な地 域
社 会 」のための 実 験 的な場とする協 定 が 、地 域 住 民 ・
林 野 庁 ・自 然 保 護 N G O によって 結 ば れました 。この
協 定にもとづく活 動を「 三 国 山 地 / 赤 谷 川 ・生 物 多 様
性 復 元 計 画( 通 称 :赤 谷プロジェクト)」といいます。協
定 ( 第1期 )は 、2 0 1 1 年 3 月まで の 7 年 間 にわ たり、国
プロジェクトエリアの遠 景
有 林 における環 境 管 理 の 新 たな 方 式と、2 1 世 紀 型 の
( 1 0 k m 四 方 )の 国 有 林 。ほ ぼ 全 域 が 上 信 越 高 原 国
自然 保 護 のあり方を模 索する一 環として位 置 づけられ
立 公 園 特 別 地 域 に 指 定され 、谷 川 岳 から西 に 延びる
ています。
8 k m ほど の 北 部 稜 線 一 帯 は 、特 別 保 護 地 区 に 指 定
赤 谷プロジェクトには 、地 元 みなか み 町 新 治 地 区 の
されています。最 下 流 部 から最も標 高 の 高 い 仙ノ倉 山
住 民を中 心とする「 赤 谷プロジェクト地 域 協 議 会 ( 会
( 2 0 2 6 m )ま で 、標 高 差 約 1 4 0 0 m に お よび 、東 日 本
員 数 5 5 名 、2 0 0 9 年 4 月時 点 )」、当 該 エリアの 国 有 林
に 典 型 的なブナ・ミズナラ林 が 広 がっています。江 戸
を管 理 する林 野 庁 関 東 森 林 管 理 局 、全 国で自然 保 護
時 代から近 隣 集 落 の 薪 山 ・秣(まぐさ)山として利 用さ
活 動を行ってきた日本自然 保 護 協 会 の3者 が 中 核 団
れていた 記 録があり、大 正 期には 火 薬 の 原 材 料となる
体として運 営にかかわっています。
木 酢 液 採 取 のため 、昭 和 初 期には 東 京 営 林 局 の 官 行
製 材 事 業 のため 、森 林を大 量 に伐り出した 記 録もあり
2.活動の背 景
(1)
「 赤 谷 の 森 」とみ な か み 町 新 治 地 区
ます。その 後 、全 国 の 国 有 林と同 様 、1 9 5 0 年 代 後 半か
ら始まる拡 大 造 林 政 策に基 づいて、広 葉 樹 林がスギ ・
カラマツ植 林 に 置き換えられ 、1 9 8 0 年 頃 には 1 万 ヘク
タール のうち 3 千 ヘクタール 弱 の 面 積 が 人 工 林 になり
「 赤 谷 の 森 」は 群 馬 ・新 潟 県 境 に 位 置し、利 根 川 上
現 在に至っています。また「 赤 谷 の 森 」には 、江 戸 時 代
流 部 の 支 流・赤 谷 川 の 源 流 部をなす約 1 万ヘクタール
に 五 街 道 に 次ぐ 主 要 街 道として整 備され た 三 国 街 道
30
Ⅱ 事例調査報告
( 現 ・国 道 1 7 号 線 )が 通っています。群 馬 ・新 潟 県 境
り組 むとともに、1 9 9 0 年 末 に日 本 自 然 保 護 協 会と連
の 三 国 峠 は 上 杉 謙 信 の 関 東 進 出 の 際に整 備され 、江
絡をとり、翌 年 1 月に 両 会 が 合 同 視 察を 実 施 、国 の 天
戸 期 には 参 勤 交 代 や 物 流 の 要 所として多くの 人々の
然 記 念 物 であるイヌワシ の ペア 飛 行を 観 察しました 。
往 来がありました 。
その 年 から両 会 は 、イヌワシ の 行 動 調 査を開 始しまし
地 元 みなか み 町 新 治 地 区 の 人 口は 7 0 1 5 人( 2 0 0 9
た 。その 後 、イヌワシ の 営 巣 地 が 発 見され た 赤 谷 川 源
年 3 月)。地 区 内には 、4 つの 温 泉 郷と三 国 街 道 の 宿 場
流 部で、
「 川 古 ダ ム」の 建 設 が 建 設 省 によって計 画さ
町 が 6 つ あり、猿ヶ京 に 関 所 が 設 けられ てい たことか
れていたことから、両 会 はこの 問 題にも取り組 むことと
ら、人 馬 の 継 立 や 関 所 の 役 務 、湯 役など、昔 から人々
なりました 。1 9 9 3 年 1 2 月に は 、日 本 自 然 保 護 協 会 が
の 往 来 に 対 するサービス= 観 光 業 に 従 事 する人々が
両 計 画 地 の 土 地 管 理 者 である林 野 庁 前 橋 営 林 局 に
いました 。現 在 の 主 要 産 業も、農 林 業と観 光 業となっ
意 見 書を提 出し、1 9 9 9 年 1 2 月に両 会は 、報 告 書『イヌ
ています。
ワシ ・クマタカの 子 育てが 続く自然を守る』を発 行しま
した 。
その 後 、2 0 0 0 年 1 月に、事 業 者 が 猿ヶ京スキー 場 計
(2)赤 谷 プロジェクト発 足 前 史
画 からの 撤 退を表 明し、同 年 9 月には 、関 東 地 方 建 設
赤 谷プロジェクトの 発 足 以 前に「 赤 谷 の 森 」では 、開
局 「 事 業 評 価 監 視 委 員 会 」において川 古ダム計 画 中
発 計 画と自然 の 保 護をめぐる問 題 がありました 。1 9 8 3
止 が 決 定されました 。2 つ の 開 発 計 画が 相 次 いで 中 止
年 1 2 月、新 治 村 議 会 が 「 三 国 山 系 開 発 促 進 計 画 」を
となった のを 受 け て、2 0 0 1 年 3 月に 林 野 庁 関 東 森 林
採 択したことをきっかけに、森 の 西 端 に 位 置 する法 師
管 理 局は「 赤 谷 の 森 」の 主 稜 線 一 帯を「 緑 の 回 廊 ・三
山 の 西 面を、大 手ディベロッパーが「( 仮 称 )三 国 高 原
国 線 」に指 定しました 。
猿ヶ京スキー 場 」に 開 発 することを計 画しました 。しか
し計 画 地 一 帯 は 、村 の 上 水 道 の 取 水 地 で あることか
(3)関 係 者 の 課 題
ら、1 9 9 0 年 に 村 の 有 志 による「 新 治 村 の自 然を 守る
会 」が 結 成されました 。
「 守る会 」は 水 質 調 査などに 取
赤 谷プロジェクトの 関 係 者 がもっていた 課 題 は 、ど
図1 赤 谷の森 位 置 図
「ESD×生物多様性」プロジェクト2009報告書
31
のようなものだったのでしょうか 。国 有 林を管 理する林
と、自然 保 護 活 動と地 域 づくりが 、表 裏 一 体であること
野 庁をめぐっては 、1 9 9 8 年 1 0 月、国 会 で 法 律 が 改 正
を 意 識していました 。そして、赤 谷プロジェクト発 足 時
されて、国 有 林 の 存 在目的 が 大きく変 化しました 。
「国
より地 域 協 議 会 の 中 心メンバーとして活 動しているC
有 林 野 の 管 理 経 営 に 関 する 基 本 計 画 」
( 1 9 9 8 年 )で
氏は 、
は 、従 来 、木 材 生 産 林( 5 4 % )、国 土 保 全 林( 1 9 % )、
「ダム計 画 中 止 後 は 、本 当 に 何もかもが 止まったか
自然 維 持 林( 1 9 % )、森 林 空 間 利 用 林( 8 % )としてい
のような 状 態 になった 。確 か に 道 路 はよくなったが 、そ
た 国 有 林 の 機 能 類 型 区 分を、水 土 保 全 林 ( 5 2 % )、
の 後に計 画されていた 諸 事 業 は 白 紙に戻ってしまい 、
森 林と人との 共 生 林( 2 7 % )、資 源 の 循 環 利 用 林( 2 1
はたして一 体この 地 域はどうなってしまうのだろうかと
% )とし、公 益 的 機 能を重 視 する森 林を 7 9 %に増 やす
考えていた 。ある意 味ダムの 底に沈む 予 定だった 豊か
こととしました 。また 、管 理 経 営 に 関 する計 画を公 告 ・
な自然 が 、国 の 政 策 変 更 でそのまま残され てしまった
縦 覧して、国 民 の 意 見を求めた 上で 実 施に移すことが
わけである。せっかく残された自然を大 事にしていくこ
決まったことは 、これまで 行 政 内 部 だけで 決 められ て
とで 何 かを 生 むきっか け にな れ たとしたら、それ は 大
いた 施 業 実 施 計 画 が 公 表されることで 、林 班ごとの 機
きな 意 味 があると思う。新 治 村 ( 当 時 )は 東 京 都 心 部
能 類 型 や 伐 採 計 画を知ることもできるようになった 点
や 関 東 圏 からは 2 0 0 k m 以 内という近 い 場 所に位 置し
で 大きな意 味を持ちました 。新 時 代 の 国 有 林 の 管 理を
ているし、実 際に水を供 給しているわけだから、まさに
どのように 進 めてゆけ ばよい か 、あるべき国 有 林 管 理
首 都 圏 に 住 む 人々の 命を 支 える自 然 だ 。もは や 公 共
のシステムとはどのようなものなのか 、その 具 体 的な姿
事 業 や 大 型 の 施 設 に 頼った 地 域 おこしは 過 去 のもの
を探る必 要があったといえます。
となった 。今 後 はこの自然を守り、育てることがこの 地
地 域 社 会においては 、開 発 計 画と自然 保 護をめぐる
域 の 活 性 化につながるような、新たな枠 組 みを一 刻も
意 見 が 、1 9 9 0 年 代 の 地 元 世 論 を 二 分していました 。
早く構 築 することが 求 められ ているので はないだろう
地 域にとっては 、大 規 模 開 発による経 済 効 果 の 期 待も
か 。」
( 2 0 0 3 年 9 月、赤 谷プロジェクト第1回 地 域 説 明
ありましたが 、日々のくらしの 中で 森 から得られる恵 み
会における地 域 協 議 会 代 表 幹 事C氏 の 発 言 )
― ―それ は 木 材 や 山 菜 ・キノコであり、水 源 や 温 泉 源
と、守ることが 決まった 地 域 の自然 環 境を活かして、新
で あり、子どもたちの 教 育 の 場 で あり、観 光 客を 癒 す
たな地 域 づくりを進めていく必 要 があることを宣 言しま
場でもある― ― の 価 値が 尊 重された 結 果となりました 。 した 。
「 新 治 村 の自然を守る会 」は 、2つ の 大 規 模 開 発 計 画
こうした 木 材 生 産 や 地 域 開 発と自 然 保 護 がもって
が 終 焉したことを 受 け て、今 後 は 村をよくするた め の
いた 過 去 の 対 立を超えて3者 が 協 働し、広 大な 森を、
組 織として生まれ か わることを宣 言して、発 展 的 解 散
原 生 的な自然を守るエリアから、人 工 林を育 成 するエ
をしました が 、会 員 の 多くは 、
「こんなに 良 好 な自 然を
リアまで 区 分し、か つての 経 済 活 動 によって生 物 多 様
壊してまで 、なぜスキー場をつくろうとしたのか 。もとを
性 が 失 わ れている場 所で は 、その 復 元を行うことにな
ただ せ ば 村を活 性 化しようという思 いだったに 違 いな
りました 。その 根 拠 は 、生 態 学を中 心とした 調 査による
い 。けれど、その 方 向 が 違ったのではないか 。」
(2001
科 学 的 な 取り組 みであり、プロジェクトの 活 動 には 多
年 4 月、N A C S - J の 取 材に対 する旧 守る会 会 員A氏 の
数 の 専 門 家 や 市 民ボランティアも加わっています。
発言)
「 私 は 十 数 年 来スキー場 から水 源を守る活 動をして
きた が 、それ は 村 の 人々にとってみ れ ば 、地 域 振 興 に
3.活動の目的・内容
反 対 する運 動だと思 わ れてきたかもしれない 。しかし、 (1)赤 谷 プロジェクトの 準 備・発 足 過 程
それ は 反 対 のための 反 対 運 動ではなくて、この 地 域を
将 来にわたっていい 状 態にしたいという思いから始め
2 0 0 3 年 4 月1 8 日、地 域 住 民 有 志 、日 本 自 然 保 護
たもの だ 。」
( 2 0 0 3 年 5 月、赤 谷プロジェクト準 備 会 議
協 会 、関 東 森 林 管 理 局 の 関 係 者 2 1 名 が 一 堂 に 会し、
における旧 守る会 事 務 局 長B氏 の 発 言 )
32
Ⅱ 事例調査報告
「( 仮 称 )三 国プロジェクト」の 第 1 回 準 備 会 議 が 開 か
れました 。会 議では 、現 在 の 赤 谷プロジェクトにつなが
うことに関 する、日本 におけるモデルを構 築 することを
る活 動 の 企 画 が 話し合 わ れ 、森 の 現 況 に つ いて共 有
目的とする。 」
し、引き続き準 備 会 議を開 催していくことが 決まりまし
協 定 は 、基 本 理 念 で 中 核 3 団 体 の 協 力 の 下 にプロ
た 。第 2 回 会 議ではプロジェクトの 名 称 、対 象 範 囲につ
ジェクトを進めることをうたい 、締 結 者を「 甲 」、
「 乙 」と
いて検 討しました 。第 3 回 準 備 会 議には 、名 称を「 三 国
いう言 い 回しで 区 別 することを廃していることからも、
山 地 / 赤 谷 川 ・生 物 多 様 性 復 元 計 画( 略 称「 赤 谷プ
これまで の 官 民 関 係とは 異なる姿 勢 が わ かります。締
ロジェクト」)」とすること、対 象 範 囲を利 根 沼 田 森 林 管
結 期 間 は 国 有 林 の 事 業 計 画 の 基 本 単 位である 5 年を
理 署 相 俣 担 当 区 全 域とすること、プロジェクトの 意 思
超 える 1 0 年を 単 位とし、プロジェクトで 得られ た 知 見
決 定 会 合として企 画 運 営 会 議 、調 整 会 議を設 置するこ
を国 有 林 の 事 業 計 画 に 反 映させることも盛り込まれ 、
とを決 定しました 。3 度 にわたる準 備 会 議で は 、プロジ
これらは い ず れも、国 有 林としては 初 め てのことでし
ェクトが 何を行うのかを定める「 総 合 企 画 書 」の 検 討 ・
た 。また 、関 東 森 林 管 理 局 は 、赤 谷プロジェクトに専 門
修 正を繰り返しました 。
に 取り組 む 組 織として、2 0 0 4 年 4 月より「 赤 谷 森 林 環
同 年 9 月1 日に、地 域 住 民 で 組 織される「 赤 谷プロ
境 保 全 ふ れ あ い センター」を 設 置し、4 人 の 職 員を 配
ジェクト地 域 協 議 会 」が 結 成され 、3 者 の 体 制 が 整 い 、
置しました 。
1 1 月2 1 日に 第 1 回 企 画 運 営 会 議を 開 催し、赤 谷プロ
協 定 締 結 後 、中 核 3 団 体 以 外 にプロジェクトにか か
ジェクトは 正 式 発 足しました 。会 議 で は 、総 合 事 務 局
わるグ ループとして、専 門 家と市 民 サポーターの 参 加
を日本自然 保 護 協 会におくことを決め 、
「総合企画書」
の 道 筋を整 備しました 。2 0 0 4 年 9 月に、プロジェクト活
と、対 象 地 域 のゾ ーニングと中 心 的 機 能 に つ い て 検
動 につ いて科 学 的な 立 場 から助 言を行う「自然 環 境
討 ・確 定させました 。また 、プロジェクト推 進 にか かる
モニタリング 会 議 」を設 置して、景 観 生 態 、森 林 生 態 、
協 定 の 締 結 につ いてもその 必 要 性 が 提 起され 、2 0 0 3
哺 乳 類 生 態 、鳥 類 生 態 、自然 地 理 、林 政 学 ・環 境 社 会
年 度 中に協 定を締 結することを決めました 。
学 の 各 分 野 の 専 門 家で 構 成されたアドバイザリーボー
総 合 企 画 書 で 定 められ た 赤 谷プロジェクトの目 的
ドを設 けました 。また 、プロジェクトに 市 民 の 立 場 で か
は 、以 下 のように整 理されています。
かわる「 サポーター」の 募 集を 2 0 0 3 年 5 月から開 始し、
「 本プロジェクトは 、このような自 然 ・社 会 状 況 にある
2 0 0 4 年 7 月から当 座 の 拠 点となる「 いきもの 村 」で 活
三 国 山 地 一 帯 の 地 域において、生 態 系 の 保 全 管 理 の
動を開 始しました 。
ための 新 時 代 の 協 働 の 枠 組 み 構 築 、生 物 多 様 性 保 全
こうして、赤 谷プロジェクトは 、その目的 、対 象 範 囲と
に 資 する科 学 的 な 地 域 環 境 管 理 計 画 の 実 現 、そして
ゾ ーニング 、総 合 事 務 局と中 核 3 組 織 ・関 係 者 の 協 働
高い 持 続 性をもつ 地 域 社 会 づくりの3点を整 合 的に行
体 制を約1年 半かけて決 定していきました 。
スギ林を自然 林に誘 導する実 験
2 0 0 9 年に中 央 部 撤 去した治 山ダム
「ESD×生物多様性」プロジェクト2009報告書
33
(2)赤 谷 プロジェクトの 具 体 的 取り組 み
校 、町 内 施 設を 訪 れる 千 葉 市 立 中 学 校 、放 送 大 学
群 馬 学 習センターなどに対して教 育 活 動を実 施して
赤 谷 プ ロジェクトで は 、3 つ の 目 標 を 設 定していま
います。代 表 的なプログラムには 、自動 撮 影カメラを
す。第 1 に、地 域自然 環 境 の 科 学 的 か つ 確 実な保 全 の
用 いて森 に 棲 む 野 生 動 物 の 姿を記 録 する手 法と成
実 現 。第 2 に、地 域 生 態 系 の 非 消 耗 型 活 用 。第 3 に、地
果を用 いた 体 験 型 授 業 ( 野 生 動 物 の 行 動について
域と地 域自然に関 係する諸 団 体 の 行 為を伴う連 携 。
解 説 →フィールドでカメラの 設 置 体 験 →デ ータ回 収
① 「 地 域自然 環 境 の 科 学 的 か つ 確 実な保 全 の 実 現 」
→ 撮 影 結 果 のフィードバック授 業 の 実 施 、という一
の た め の 取り組 み は 、生 物 多 様 性 保 全と生 態 系 機
連 の 過 程 )や 、人 工 林を自然 林 に 回 復させるため の
能 の 向 上 、復 元を 計 画 することをうた い 、自 然 環 境
技 術 試 験 地で の 専 門 学 習 ( 植 物 相 の 変 化をデータ
のモニタリング( 継 続 的に動 向を調 べること)を基 盤
を 用 いて解 説し、か つ 固 定 調 査 区 の 追 跡 調 査を 行
にしています。特に、イヌワシ、クマタカ、ホンドテンな
う)などがあります。また 、2 0 0 7 年 からは 地 域 の 観 光
ど、森 林 環 境 の 指 標となる種が 、どのような生 息 場 所
資 源 である三 国 街 道 の 旧 道を自 然 歩 道として活 用
( h a b i t a t )を 利 用しているの かを 詳 細 に 調 査し、森
し、地 元 温 泉 郷 の 宿を拠 点としたツアーの 試 行など
が 豊 かな状 態を維 持したり、その 総 合 的な向 上 のた
を行っています。
めの 森 林 管 理 の 手 法 研 究を行っています。
ここで の ポイントは 、その 手 法 に 従 来 に は なしえな
ここで の ポイントは 、① の自 然 再 生 のため の 取り組
かった 革 新 的な手 法を用いていること( 例えば 人 工
みが 、地 域 再 生 の 取り組 みと連 動して成 果が 活 用され
林を自 然 林 へ 誘 導 する伐 採 方 法 の 体 系 的 な 研 究 、
ていること、また 地 域 再 生 の 文 脈に引き寄 せられた 地
渓 流 環 境を回 復させるために 全 国 で 初 めて治 山 ダ
域 住 民 が 参 加 する道 筋 が 作られていることで 、自然 再
ムを撤 去 するなど)と、モニタリングを基 盤におくこと
生も地 域に根ざした 力を持 つことだと考えています。
で 、その 結 果を現 場にフィードバックする「 順 応 的 管
理 」を行う枠 組 みが 整えられていることだと考えてい
ます。
③ 「 地 域と地 域自然 に 関 係 する諸 団 体 の 行 為を伴う
連 携 」の 取り組 みは 、運 営 面で 中 核 組 織 内 の 協 働 ・
連 携を 強 化し、この 中 核 組 織 から常 に 何 か が 共 同
② 「 地 域 生 態 系 の 非 消 耗 型 活 用 」のため の 取り組 み
提 案され ていくというような、実 践 の モデ ルとなりう
は 、環 境 の 保 全 管 理を 伴 った自 然 活 用 の 実 践 モデ
る協 働・連 携 の 構 築をうたっています。赤 谷プロジェ
ルとして機 能させることをうたっています。自然 環 境
クトの 取り組 み は 、年 間 2 回 開 催される企 画 運 営 会
の モニタリング の 成 果を 教 材 に 学 校 教 育 ・社 会 教
議を 経 て 決 定しています。この 場 に は 、それぞ れ が
育 のプログラム開 発を進め 、地 元 小 中 学 校 、高 等 学
企 画 するプログラムを起 案しあい 、プロジェクトの 主
旨に整 合 するか が 検 討され 、調 整 ・合 意 が 図られま
す。逆 に 言えば 、この 会 議 で 合 意 が 得られ ないもの
は 、実 行 に 移 すことが できませ ん 。法 律 で 定 めた 森
の 管 理 者 は 林 野 庁 で あるが 、関 東 森 林 管 理 局 は 、
国 有 林 野 の 地 域 管 理 経 営 計 画などに 赤 谷プロジェ
クトの 成 果を 反 映させることが 協 定 に 明 記され 、国
有 林 の 共 同 管 理 のしくみが 作られています。
赤 谷 プロジェクト=森 の 生 物 多 様 性
:基 礎 体 力を高 めるとりくみ
旧 三 国 街 道でのガイドの様 子
34
Ⅱ 事例調査報告
とに登 録 更 新 制 )。私たちは 所 属 組 織にか か わりなく、
(3)活 動 実 施 体 制
全 員 が おそろい の 帽 子をか ぶり、森 の 生 物 調 査 や 地
これらの 取り組 み は 、企 画 運 営 会 議 等 の 意 思 決 定
域との 接 点 づくり、昔ながらの 炭 焼きなどに取り組んで
体 制と、自 然 環 境 モニタリング 会 議 に 連 なる7つ のワ
います。この 場を「 赤 谷 の日」と名 づけています。
ーキンググループ ( WG )によって活 動 実 施 体 制 が 構
「 赤 谷 の日」のそもそもの 発 端 は 、2 0 0 4 年 7 月に、赤
築されています。WG には 、専 門 家に加え、中 核 3 組 織
谷プロジェクトの 当 座 の 活 動 拠 点として「いきもの 村 」
のスタッフが 必 ず 参 加し、具 体 的な活 動を協 働で 進め
の 整 備を開 始したことによります。
「 いきもの 村 」は 、昭
るための 場となっています。
和30年 代 から国 有 林 に 植 林 するスギ やヒノキなど人
工 林 の 苗を育てる「 苗 畑 」として7ヘクタールの 畑と、
事 務 所をもつ 事 業 所 だった 場 所 で 、平 成 に 入る頃 に
(4)日々 の 協 働
は 、事 業 所が 閉 鎖され 、空き地になっていました 。赤 谷
7つ のワーキンググ ループ が 、縦 割りに 活 動を 行 っ
プロジェクト発 足 時に、手 頃な(か つ自由 度 の 高い )活
て いる の で は 協 働とは い えま せ んし、そ れ ぞ れ の 活
動 拠 点 が 欲しいと思っていた 私たちは 、古びた 小 屋を
動 が 相 乗 効 果を 生 みませ ん 。赤 谷プロジェクトで は 、
再 生し、空き地( 草 地 )を生 物 観 察 のフィールドに換え
WGごとの 活 動を 単 位としながら、それらが 串 で つな
ました 。この 時 に 集った サポーターの 活 動 が 母 体とな
がるような活 動 の 場を設けています。
って、2 0 0 4 年 1 0 月から、毎 月第 一 週 末を「 赤 谷 の日」
として定 期 活 動日にすることが 、誰 からともなく発 案さ
① 赤 谷 の日
れ 、賛 同を得ました 。
毎 月第 一 週 の 週 末 、赤 谷プロジェクトの 活 動 拠 点
「 赤 谷 の日」は 、サポーターやプロジェクト中 核 組 織
に30名 弱 の 人々が 集まります。所 属 は 地 域 協 議 会 会
の スタッフが 、お 互 い に 学 び あうという関 係 を、大 切
員 、関 東 森 林 管 理 局 職 員 、N A C S - J 職 員 、そして赤 谷
に 運 営しています。サポーターには 、森 林 生 態 や 猛 禽
プロジェクト理 念 に 共 感し、その目 標 実 現 に 向 け てと
類 、ほ 乳 類 などの モニタリング 活 動 や 、地 域 に 残る炭
もに活 動するプロジェクト・サポーター(ボランティア)
焼きなどへ の 参 加 の 道が 、研 修プログラムとセットで 開
などさまざまで す。サポーターは 関 東 一 円 から集まり、
か れ 、赤 谷プロジェクトの 各 WG は 、
「 赤 谷 の日 」に 活
毎 年50∼60名ほどの 人々が 登 録をしています( 年ご
動テーマを提 案し、それらを参 加 者とともに達 成してい
図2 赤 谷プロジェクト取り組み体 制 図
「ESD×生物多様性」プロジェクト2009報告書
35
ます。活 動は 、もう丸5年になります。
地 域レベルの 政 策 の 双 方 に、その 芽を感じることがで
きます。
②ムタコの日
赤 谷プロジェクトが 発 足した 翌 年 の 2 0 0 5 年 、林 野
「 赤 谷 の日」の 継 続 的 か つ 地 道な 活 動 は 、赤 谷プロ
庁 は 九 州 森 林 管 理 局 が 所 管 する宮 崎 県 綾 町 の 照 葉
ジェクト地 域 協 議 会にか か わる地 元 住 民を刺 激しまし
樹 林 をフィー ルドに、綾 町 、宮 崎 県 、地 元 N P O 、日 本
た 。彼らは「 赤 谷 の日」にならって、地 域 の 上 水 道 の 水
自然 保 護 協 会 、九 州 森 林 管 理 局 の5者 が 協 定を結 ぶ
源で 、か つての自然 保 護 活 動 の 発 端となったムタコ沢
「 綾 の 照 葉 樹 林 プ ロジェクト」が 発 足しました 。これ
流 域 の 森 林 整 備を 進 めて、水 源をか ん 養 する機 能を
は 、赤 谷プロジェクトに 続く林 野 庁 の モデ ル 的 取り組
高めたいと、
「ムタコの日」と呼 ぶ 定 期 活 動日を設ける
みであり、その 後も各 地 の 国 有 林で 、規 模 の 大 小 はあ
ようになりました 。始まった の は 2 0 0 7 年 で 、開 催 頻 度
れ 、生 物 多 様 性を 取り戻 すため に 多 様 な 主 体 が 協 定
は 「 赤 谷 の日」には 及びませ ん が 、水 源 に 近 いカラマ
などで 連 携 するプロジェクトが 開 始され ています。従
ツ人 工 林 の 間 伐 作 業 や 、森 林 の 保 水 力を実 感 する実
来 、国 有 林 で 民 間 団 体 が 活 動 するた め に は 、管 理 者
験 、沢 にすむ 水 生 昆 虫 の 観 察 会など、水 に 関 わるさま
である森 林 管 理 署 などと土 地 の 貸し付 け に 類 する協
ざまなプログラムを組 み 立て、地 元 小 学 生 の 参 加も広
定を結 ぶ ( 林 野 庁 はフィールド提 供を行 い 、民 間 団 体
がっています。プログラムづくりや 講 師などには 、赤 谷
が 活 動する)というスタイルしか 選 択されていませんで
プロジェクトの 各 WG メンバーが 参 画しています。協 働
した が 、赤 谷プロジェクト以 降 は 、官 民 協 働 が 基 本 的
で 進 む 赤 谷プロジェクトの 取り組 み が 、単 なる自 然 再
な形となりました 。
生 にとどまらず 、人と自 然との か か わりを 根 本 から見
地 域 社 会レベルに お いては 、地 元 みなか み 町 へ の
直すことにつながることが 期 待されています。
影 響 が あります。2 0 0 5 年 の 町 村 合 併 時 に、新 た に 発
足した みなか み 町 のスローガンは 「 水と森 林 の 防 人 」
4.活動の効 果 、評 価
(1)赤 谷 プロジェクトの 波 及 効 果
でした 。2 0 0 8 年 3 月にまとめた「 水と森を育むまちづく
り構 想 」で は 、町 の 施 策 指 針 のひとつ に 赤 谷プロジェ
クトをモデルとしてエコツーリズムの 推 進 が 挙げられま
した 。ただし、この 具 体 的な 取り組 みは 、まだ 緒 につ い
赤 谷プロジェクトの 波 及 効 果 は 、国レベル の 政 策 、
たばかりでもあります。
「ムタコの日」の様 子
イラスト
( 赤 谷の日の活 動の様 子 、平 田 美 紗 子さん作 成 )
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Ⅱ 事例調査報告
(2)多 様 な 主 体 の 巻き込 みと協 働 の 教 育 効 果
だことのないプログラムの 処 方 箋 は 作 れませ ん 。プロ
ジェクトには 立 場 の 異なる多 様な 主 体 が 参 画し、多 様
赤 谷プロジェクトが 開 始され て、地 域 社 会 で は 、そ
な 文 脈 が 交 錯します。その 文 脈 の 相 異を理 解しつ つ 、
れまで の自然 保 護 活 動に参 加していなかった 人々が 、 「 同 床 異 夢 」がいわば 「 異 床 同 夢 」となるような協 働を
プロジェクト活 動 に 参 加 することが 増えました 。現 在 、
成 立させる必 要があります。
赤 谷プロジェクト地 域 協 議 会 には60名 ほどの 会 員 が
これまで 、自然 環 境を科 学 的 に 把 握 するという取り
加 入していますが 、か つての 開 発 問 題に対 立する自然
組 み は 、行 政 にとっては 予 算を 獲 得し委 託 事 業 で 発
保 護 活 動に参 加していた 人々は10∼15名 ほどです。
注して成 果 品を受け 取るの み 、地 域 住 民にとっては 専
逆をいえば 、残りの 人々は 、赤 谷プロジェクトの自然 再
門 家 が 行 った 成 果 の 説 明を 受 けるの み 、という関 係
生・地 域 再 生 の 輪 の 広がりに共 感して加わった 人々と
が 支 配 的 で あったように 思 います。赤 谷プロジェクト
いえるでしょう。
で は 、2 0 0 5 年 3 月に 策 定した 「自然 環 境 モニタリング
地 域 協 議 会 会 員 の P TA 関 係 者を通じて、地 元 小 中
基 本 方 針 」で 、赤 谷 の 森 に おける調 査 研 究を、
「地域
学 校でも赤 谷 の 森 の 生 物 多 様 性を伝える授 業を企 画
住 民に対してプロジェクト・エリアに対する関 心を醸 成
するなど、赤 谷 の 森 の 存 在 は 、か つ てスキー 場とダ ム
するような、啓 蒙 的 要 素 の 織り込 みを認 識 する」、
「林
の 開 発 対 象だった 時 代に比 べて、多くの 人々が 感 心を
野 庁 職 員 、日本自然 保 護 協 会 職 員 、地 域 協 議 会 会 員
寄 せ 、そこから学 び た いと思うプラットフォームになっ
等 のプロジェクト関 係 者 や サポーターに対 する専 門 教
ています。地 元 新 治 小 学 校 の 利 根 川 太 郎 校 長 は 、赤
育 機 会として活 用されることを織り込 む 」と規 定してお
谷プロジェクトが 「 赤 谷 学 」のような蓄 積につながるこ
り、協 働 がときに< 発 注 − 下 請け > の 関 係に陥ってし
とを期 待し、会 合などで 発 言をされています。
まうことを防ぐ工 夫を施しています。
赤 谷プロジェクトの 特 徴 のひとつ は 、原 則として全
てのプログラムが 関 係 者 の 協 力 のもとに 行 わ れ 、プロ
(3)地 域 の 持 続 性 の た め に
グラムを一 者 の みで 企 画 ・実 施 することがないことで
す。これ は 当 初 から関 係 者 間で 約 束してきたことであ
こうした 赤 谷プロジェクトが 、地 域 の 持 続 性 のため
り、関 東 森 林 管 理 局 のプ ロジェクト責 任 者 は 初 期 の
に、どのように貢 献が 可 能でしょうか 。
企 画 運 営 会 議で、
「 林 野 庁 の 職 員 全 体 がもっと環 境
まず 、その 発 足という出 来 事 が 、開 発と自 然 保 護を
や 生 態 に 詳しくならなけ れ ば ならない 。赤 谷プロジェ
めぐって世 論を二 分した 地 域 社 会 が 、赤 谷プロジェク
クトを担 当 する者 にはその 先 鞭をつけて欲しいと考え
トという装 置 によって、生 物 多 様 性と地 域 の 持 続 性と
ている」と発 言され ています。このことは 、協 働 に 関 与
いう2つ のテーマを 追 求 することに つなが ったことが
する主 体に教 育 効 果をもたらします(「 協 働 の 教 育 効
挙 げられます。プロジェクト関 係 者 は 、様々な 場 面 で 、
果 」)。仕 事で 森 に 入る林 野 庁 職 員も、木 のことは 詳し
地 域 住 民 が 実 業 ・日常 にか か わるところでプロジェク
くても生 物 を 見る目で 森 に 入 っている 人 は 少 な い で
トとの 接 点をつくり出 せるよう意 識しています。地 域 住
す。地 域 に 根ざした自 然 保 護 が 重 要と主 張 する自 然
民といっても、当 然 ながら観 光 業 、農 業 、林 業 、漁 協 、
保 護 N G O のスタッフも、地 域を一 面 的なイメージで 見
狩 猟 、炭 焼き、教 育 、文 化 活 動など 多 様な 関 係と関 心
ている可 能 性もあります。もっとも森 に 近 い 地 元 住 民
があり、関 係 づくりはオーダーメイドの 世 界になります。
が 、実 は 森を知らない ・・・など、お 互 い のコミュニケ
三 国 街 道 の 旧 道をエコツーリズ ムの 拠 点として 活 用
ーションの 基 盤となる共 通 認 識がなければ 、協 働 は 形
する「 旧 三 国 街 道フットパス網 計 画 」は 、2 0 0 6 年に構
だけで 終 わってしまいます。誰しも、自身 が 経 験したこ
想 、2 0 0 8 年 に 企 業 から助 成 金を 得 て、旧 道 の 調 査と
とは 生き生きとした 言 葉で 話 すことができるように、プ
ともに、連 続ワークショップを開 催しました 。この 取り組
ロジェクトの 活 動を、自らのものとして経 験し、実 感し、
みで 得られ た 地 域 の 歴 史 的 文 脈を埋 め 込 むことを通
理 解 することができなけ れ ば 、眼 前 にある森 の自然 の
じて、赤 谷プロジェクトは自然 再 生 から地 域 再 生 へ の
基 礎 体 力を 向 上させるという、これまで 誰も取り組 ん
文 脈をより明 確 に 持 つようになりました 。プロジェクト
「ESD×生物多様性」プロジェクト2009報告書
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の 進 行 過 程では 、個 人 のさまざまな思いが 組 織に交わ
できるような関 係 づくり( 各 組 織 のスキルアップと協 働
り、組 織 のさまざまな 思 いがプロジェクトに 交 わってい
関 係 の 深 化 )が 、今 後 の 赤 谷プロジェクトが 、パイロット
きます。地 域 づくりも、そのような 側 面を 多 分 にもって
プロジェクトとして成 長していくため のカギであると考
います。
えています。
5.課 題
赤 谷プロジェクトのこれまで の 活 動を 踏まえた 、課
題を列 挙してみます。
① 森 の 管 理 の 時 間 軸と、それに見 合ったスピードで
日本 社 会 や 行 政 機 関が 施 策を維 持していくことができ
るの か ― ― 樹 が 育 つ の に 数 十 年 ∼ 百 年 単 位 の 時 間
が か かるように、生 物 多 様 性 の 復 元 は 一 朝 一 夕 に 達
成 できるもので はありませ ん 。長 期 にわ たる赤 谷プロ
ジェクトの 実 験 的とりくみの 中で 、定 期 異 動 のシステム
を抱える行 政 機 関 で は 、担 当 職 員 が 途 中 で 何 度も入
れ 替 わることとなります が 、赤 谷プロジェクトとして共
有 する目標を常 に 継 承させていくことが 大 事な 課 題と
考えています。
② 同 様 に、地 域 の 持 続 性をは かる 指 標 が 、充 分 に
整 備されていないこと― ―これまで の 観 光 地 は 、来 訪
者 数 や お 客さん が 落とす お 金 が 右 肩 上 がりのグラフ
を示しているかが 、唯 一といってよい 評 価 基 準でした 。
しかし温 泉も有 限な自然 資 源 であることや 、森と密 接
な つながりを 有しているとわ か った 今 、その 資 源を 持
続 的に活 用することは 、ヒト・モノ・カネで 量ることは 困
難で す。地 域 社 会 の 幸 せ や 希 望 、夢を追うといった 変
化を、どのように 指 標 化 するか が 問 わ れ ていると思 い
ます。
6.今 後の展開の見通し
2 0 1 1 年 3 月に、赤 谷プロジェクトは 第1期 協 定 期 間
を終え、次なる 1 0 年 間を締 結 期 間とする第2期 協 定を
締 結することになります。このため 、2 0 1 0 年 度はこれま
で の7年 間 の 活 動を総 合 的 に 評 価 するため の 検 討を
実 施し、生 物 多 様 性と社 会 の 持 続 性 のため に 取り組
むべき課 題を再 設 定します。
赤 谷プロジェクト地 域 協 議 会 は N P O 法 人 化をめざ
しており、現 在 は N A C S - J が 総 合 事 務 局を務めていま
すが 、協 働3者 が 持ち回りで 総 合 事 務 局を担うことが
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Ⅱ 事例調査報告
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