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ΔΣ 変調器を用いたデジタルスピーカ駆動回路の一考察

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ΔΣ 変調器を用いたデジタルスピーカ駆動回路の一考察
ECT-10-068
ΔΣ 変調器を用いたデジタルスピーカ駆動回路の一考察
岩出 充弘* (法政大学) 新川 尚登 (東芝) 鈴木 遼太 (法政大学)
國吉 大吾 (法政大学) 安田 彰 (法政大学)
A study on a driver circuit using a delta sigma modulator for a directly digital driven speaker system
Mitsuhiro Iwaide*(Hosei University) , Naoto Shinkawa (Toshiba),
Ryota Suzuki (Hosei University), Daigo Kuniyoshi (Hosei University), Akira Yasuda(Hosei University)
Abstract
In this study, we discuss how to improve a performance of the driver circuit of a digitally direct driven speaker system. A
driver circuit using a delta sigma modulator is proposed in order to compensate a nonideality of the driver circuit. The
noise caused by the nonideality can be noise shaped.
キーワード:デジタルスピーカ,ΔΣ変調器,ドライバー回路,雑音,歪,
Key word:Digital speaker, delta sigma modulator, driver circuit, noise, distortion
1.
序論
信号に変換され,変換された信号はアナログアンプで
現在,音声信号は CD や DVD にデジタル信号として
増幅される.その後スピーカーを通して音として変換
記録されている.それに対し,スピーカーは未だにア
される.
ナログ信号駆動である.仮にデジタルの信号が入力さ
れてからスピーカーに接続されるまでのシステムをす
べてデジタル信号で駆動することが出来れば DAC や
パワーアンプはオーディオシステムから取り除くこと
が出来る.
我々は以下の方法により,スピーカーに接続される
までの工程を全てデジタル信号により処理するデジタ
ルスピーカーシステムを構成する方法を提案してい
る.
入力のデジタル信号のビット長をマルチビットΔΣ
変調器で低減し,さらに出力の2進コードを温度計コ
ードに変換し,ON-OFF 駆動の回路を用いて複数のサ
図1
ブスピーカーから出力する.デジタルスピーカーシス
Fig1. Conventional audio system
現在のオーディオシステム
テムによるメリットには,
(1)回路の集積化が容易に
なる.
(2)サブスピーカーの ON-OFF のみで駆動する
ことができ電力効率が良い.
(3)Δ∑変調によってノ
3.
デジタルスピーカーシステム
Digital
イズシェーピングされた帯域外雑音をマルチビット化
CD player
Optical Output
により低減することができる.本稿では,デジタルス
Serial Parallel Conversion
ピーカーシステムで使用される出力素子により生じる
16 Bit
非線形性の影響を低減する,サブスピーカーを駆動さ
Multi – bit DSM
せるための CMOS ドライバ回路に,ついての検討結果
3 Bit
Thermometer code
を記す.
CMOS Buffers
2.
現在のオーディオシステム
Loudspeaker sub-units
現在使用されているスピーカーを含む一般的なオー
ディオシステムを図1に示す.CD から出力される
PCM 信号は,DAC によりデジタル信号からアナログ
図2
デジタルスピーカのブロック図
Fig2. Block diagram of digitally driven speaker
1/6
我々が提案しているデジタルスピーカーシステムのブ
カーの構成では,各ドライバ回路によるミスマッチはミ
ロック図を図2に示す.CD プレイヤーからのデジタルデ
スマッチシェーパーによって低減されるので各ドライバ
ータは,まずマルチビットΔΣ変調器でマルチビット信
回路のミスマッチはあまり考慮しなくて良い.
号に変換される.ここでビット長の低減により生じた量
子化誤差は,高周波領域へシフトされる.その為,98dB
以下にデジタルスピーカーの構成要素および,提案す
るドライバ回路について述べる.
を越える高い SNR を実現出来る.その後,出力を等重み
の信号に変換し(2 進数から温度計コードへの変換)
,
CMOS バッファによりスピーカを駆動する.サブスピー
カーの音響性能は全て同じであるべきだが,実際には製
造精度によるミスマッチにより性能に誤差が生じる.こ
のミスマッチは音の精度を急激に下げる事になる.例え
ば,1%の音圧の誤差は SNR を 40dB に減尐させる事に
なる.
この劣化を抑えるために,ミスマッチシェーパーを温
度計コード変換と CMOS バッファの間に置く(図3)
.
図4
出力素子による影響
Fig.4 Effect of output element
このミスマッチシェーパーにより,可聴域帯域外の高周
波領域へ雑音をシフト出来る.スピーカーの誤差が大き
い程,高次のミスマッチシェーパーが必要となってくる.
4.1
ΔΣ変調器
デジタル信号でスピーカーを直接駆動するには,駆動
Digital
し易い形に信号を変換しておく必要がある.このシステ
CD player
Optical Output
Serial Parallel Conversion
16 Bit
Multi – bit DSM
3 Bit
Mismatch shaper
CMOS Buffers
ムでは,急峻なノイズシェーピング特性を持つ(マルチ
ビット)ΔΣ変調器を用いる.
音楽データとして欲しいのは 20kHz 以下の部分であ
るので,誤差の影響にローパス型のノイズシェーピング
をかけられれば,特性の向上を実現できる.本稿では,
より高いノイズシェーピング特性を得るため,次数を上
げた 3 次ΔΣ変調器を用いる(図5)
.
Loudspeaker sub-units
図3 ミスマッチシェーパーを導入したブロック図
Fig.3 Block diagram of digital speaker with mismatch
shaper
4. 提案手法
デジタルスピーカースピーカーは 1,0 のデジタル信号
図5
3次ΔΣ変調器のブロック図
Fig.5 Block diagram of the 3rd order DSM
(矩形波)で直接駆動する. しかし,CMOS バッファで
スピーカーを駆動する際に,CMOS バッファのオン抵抗
α1,α2 及びα3 の値をそれぞれ 1,3,3 として,伝達
と駆動する素子(LC フィルタとダイナミックスピーカ
関数を求めると(1)式が得られる.
ー)による生じる非線形性により,図4のように波形が
Y  z 3 X  (1  z 1 )3 Q
変形してしまう.従来の構成でこの影響を低減するため
(1)
には CMOS バッファのサイズを大きくしなければならな
(1)より量子化誤差 Q に
く,消費電力も増大する.
かかるため,量子化誤差 Q に対して,3 次ノイズシェー
本稿では,従来の CMOS バッファのみのドライバ回路
という伝達関数が
ピングをかけることができる.実際に使用する 3 次ΔΣ
を,Δ∑変調の構成を用いたドライバ回路に変更するこ
変調器のノイズシェーピング特性を図6に示す(入力は
とで,この非線形性による影響を低減するための回路を
1kHz のサイン波)
.
提案する.
また,今回のデジタルスピーカーの構成ではスピーカ
ーは 8 つであるので,ドライバ回路は 8 つ必要となる.
通常,高い音質を実現するためには各ドライバ回路のミ
スマッチが問題となる.しかし,今回のデジタルスピー
2/6
図7 に NSDEM のブロック図を示す.出力は入力数
だけ加算するタイプの DAC と考える.これはデジタル
スピーカーの出力と考えてよい(複数の 0,1 の出力を加
算するスピーカーのため)
.NSDEM ではセル各々の選択
を示す 0,1 信号 を複数回積分し,その結果の小さい順
に入力数だけセルを選択する.すなわち各セルの使用の
有無の積分値が一定値になるように制御をかける形とな
っている.これにより,誤差成分は出力において n 次の
ノイズシェーピングを受ける.このため,従来使用され
ている 1 次シェーピング効果を持つ DEM よりも可聴帯
域内の雑音を低減することが可能となる.また,ミスマ
ッチシェーパーのシェーピング特性は使用するループフ
図6 3次ΔΣ変調器の出力スペクトル
ィルタ H(z)によって決定され,各出力はそれぞれの波形
Fig.6 Output spectrum of the 3rd order DSM
を見た場合も,ループフィルタの特性のノイズシェーピ
ングされた波形となる.
図6からも分かるように,可聴域(20kHz 以下)にお
実際に使用するミスマッチシェーパーには,2 次のロ
いて,3 次ΔΣ変調器により 3 次のローパス型のノイズ
ーパス型のノイズシェーピング特性を持つ NSDEM を
シェーピング特性(60dB/decade)が得られている事が分
使用した.スピーカー単体の出力スペクトルを図8 に,
かる.また,量子化誤差は出力数が増える程減尐する.
各出力に対して 3%の誤差を与えた時の NSDEM の各出
そのためサブスピーカーの数が増える程,デジタルスピ
力が合成された時のスペクトルとミスマッチシェーパー
ーカーの性能は向上し,また音圧も上がることになる.
なしの特性を比較したものを図9 に示す.可聴域
そのため,提案する方法を使用する事は,低電圧で高出
(20kHz 以下)において,合成したときのスペクトルと,
力の実現に繋がる.
単体のときのスペクトルはともに 2 次ΔΣ変調器と同様
に,素子のバラつきによる雑音に対しても 2 次のローパ
4.2
ミスマッチシェーパー
提案手法では出力素子が複数必要となるため,出力特
ス型のノイズシェーピング特性(40dB/decade)があるこ
とが確認出来る.
性が違う素子の場合にはそのバラつきにより雑音が生じ
る.例えば,スピーカーの音圧特性のバラつきが 1%存在
したとすると,理論的に S/N は 40dB に減尐することに
なる.バラつきによって生じる誤差にΔΣ変調のように
高次のノイズシェーピングをかけることが可能であれ
ば,可聴帯域内の雑音をさらに減尐させることが出来る.
提案手法では,素子のバラつきによる雑音を低減させる
ため,NSDEM(1)(Noise Shaping Dynamic
ElementMatching)を用いる.
図8
スピーカー単体の出力スペクトル
Fig.8 Output spectrum of speaker
図7
NSDEM のブロック図
Fig.7 Block diagram of NSDEM
図9
全ての出力を合成したスペクトル
Fig.9 Spectrum conflated all output
3/6
4.3
ドライバ回路
タの周波数特性を図14に示す.
図10 に従来のドライバ回路を示す.従来では信号を
そのまま出力するものと,インバーターによって反転さ
せたものと合わせる,プッシュプルの構成で LC フィル
タとスピーカーを駆動していた.しかし,インバーター
に使用する CMOS のオン抵抗と駆動する素子で生じる
非線形性の影響によって波形が歪み,雑音となって出力
の SNR を劣化させてしまう.
そこで,提案手法ではドライバ回路において 2 次ΔΣ
変調器の構成を用いることで,CMOS インバーターで生
じる非線形性に対してミスマッチシェーパーと同じ 2 次
のノイズシェーピング特性を与え,非線形性を低減させ
る.提案手法の具体的な回路構成を図11に示す.
図12
デジタルスピーカー全体の構成図
Fig.12 Architecture of digitally driven speaker
図10
従来のドライバ回路
Fig.10 Conventional driver circuit
図13
出力 LPF とスピーカーのモデル
Fig.13 Model of output LPF and speaker
図11
提案手法のドライバ回路
Fig.11 Proposed driver circuit
また,今回のドライバ回路を実現する際,係数に抵抗
を用いると,数十 kΩの面積の大きなものを使用すること
になるので,より小さい面積で係数を実現するために抵
抗の代わりに OTA を使用した.
図14
LPF の周波数特性(カットオフ周波数 50kHz)
Fig.14
Frequency response of LPF (cut off
frequency 50 kHz)
5
シミュレーション条件
今回,シミュレーションする全体の構成を図12に
今回は入力を 15kHz のサイン波とし,
これを MATLAB
示す.シミュレーションするに当たり,3ΔΣ変調器か
の 3 次ΔΣ変調器モデルによって温度計コード 8 値の 1,
ら温度計コード変換,ミスマッチシェーパーまでのデ
0 の信号へと変換後,ミスマッチシェーパーに入力し,こ
ジタル部は,MATLAB でシミュレーションし,アナロ
のミスマッチシェーパーの出力を Spectre で作成したド
グ部は CADENCE 社の Spectre を用いて提案するド
ライバ回路に入力してシミュレーションした.このとき
ライバ回路のシミュレーションを行った.また,この
出力素子であるローパスフィルタの入力端にある,イン
ときの出力素子として使用するカットオフ周波数を
ダンクタンスとスイッチング増幅段となるインバーター
50kHz に設定した 4 次バターワース・ローパスフィル
のオン抵抗による時定数によるものが,今回のシミュレ
タとスピーカーのモデルを図13 に,ローパスフィル
ーションでは主な非線形性の原因となる.また,表 1 に
4/6
シミュレーション条件をまとめる.
表1
シミュレーション条件
Element number
8
Sampling frequency
5MHz
DSM order
3rd
NSDEM order
2nd
Driver circuit order
Cut-off frequency(Low-pass
filter)
Low-pass Butterworth filter
order
Supply voltage (Driver circuit)
2nd
Device model
6.
50kHz
4th
3.3V
TSMC 0.35um
CMOS
図17
提案手法と従来手法の出力波形(LPF 後,差動)
Fig.17 Output signal of proposal and conventional
circuit
(after LPF, differential output signal)
シミュレーション結果
サブスピーカー単体のローパスフィルタ前の出力波形
のシミュレーション結果を図15,16に示し,ローパス
フィルタ後のシミュレーション結果を図17,18に示
す.
図18
図15
提案手法と従来手法の出力スペクトル(LPF
提案手法と従来手法の出力波形(LPF 前,差動)
Fig.15 Output signal of proposal and conventional
circuit
(before LPF, differential output signal)
後)
Fig.16 Output spectrum of proposal and
conventional circuit (after LPF)
ローパスフィルタ前の出力波形である図15とローパ
スフィルタ後の出力波形である図17の結果からは共
に,提案手法と従来手法の時間領域での違いは殆ど見受
けられない.しかし,図16,図18のように周波数領
域でのシミュレーション結果をみると,可聴帯域内での
ノイズフロアが提案手法では約 20dB 近く低減されてい
るのがわかる.また可聴帯域内での SNR には,16.6dB
の改善が見られた.
次に空気中でスピーカーから出力される音がすべて合
成されると仮定し,8 つすべてのスピーカーの出力を合成
した時のローパスフィルタ前の出力のシミュレーション
結果を図19,20に示す.
図16 提案手法と従来手法の出力スペクトル(LPF
前)
Fig.16 Output spectrum of proposal and
conventional circuit (before LPF)
5/6
7. 結論
本研究では,デジタル直接駆動型スピーカーに 2 次
ノイズシェーピング特性を持った出力ドライバ回路を
用いることで出力段の CMOS のオン抵抗による非線形
性による影響を低減することを提案した.Spectre を用
いたシミュレーションにおいて,提案手法によって
SNR がサブスピーカー単体の時で 16.6dB,8 つのスピ
ーカー出力を合成した時で 16.3dB の改善を確認する
ことが出来た.また,8 つの出力を合成した時,従来手
法では全体のシェーピング特性劣化しているのに対し
て,提案手法では,大きく改善されていた(図 17,18)
.
今回はサンプリング周波数が 5MHz であったため,従
来ではシェーピング特性の劣化による SNR の低減があ
まり見られなかったが,より低いサンプリング周波数
であるときはこの劣化が SNR に大きく影響すると考え
られる.これらのことから,提案手法は CMOS のオン
図19 従来手法の出力スペクトル(8素子合成
後,LPF 前)
抵抗による非線形性による影響を低減する技術として
Fig.19 Output spectrum of conventional circuit
有効であり,サンプリング周波数を低くした時も有効
(before LPF, Spectrum conflated all output)
であることが分かった.
文
献
(1) A.Yasuda, H.Tanimoto, T.Iida, “A Third-order ΔΣ modulator using
second-order noise-shaping dynamic element matching”, IEEE
J.Solid-State Circuits, Vol.33, pp.1879-1886, (Dec.1998)
図20 提案手法の出力スペクトル(8素子合成
後,LPF 前)
Fig.19 Output spectrum of conventional circuit
(before LPF, Spectrum conflated all output)
図19,20をそれぞれ比較してわかるようにサブス
ピーカー単体の時と同様に従来手法の可聴帯域内での
ノイズフロアが約 20dB 向上しているのがわかる.可聴
帯域内でのダイナミックレンジは従来が 64.2
dB に対して提案手法では 80.5dB となり,16.3dB 向
上されている.また,図19,20をそれぞれ比較し
てわかるように従来に比べ提案手法ではより理想に近
いシェーピング特性となっている.
6/6
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