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第9回 構造解析法: 電子顕微鏡法, etc…

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第9回 構造解析法: 電子顕微鏡法, etc…
第9回 構造解析法: 電子顕微鏡法, etc…
今回の目的:電子顕微鏡による構造解析の概要を理解する
電子顕微鏡法はX線結晶回折法やNMRのように原子座標を得るのには適していな
いが、分子量限界が高く、超分子複合体の溶液状態の構造を解析できるという利
点を持っている。
電子顕微鏡による生体高分子の構造解析の利点
1) 
2) 
3) 
電子顕微鏡の分解能は最大で3Å程度。タンパク質などでは普通5∼10Å。よって電子
顕微鏡は、X線結晶回折法やNMRのような生体分子の原子構造の解析には向いていない。
タンパク質などの分子が複合体を形成した超分子(サイズは数十nm=数百Åより上)の構
造解析は、NMRではピークの分離ができないなどの理由でほぼ不可能であり、X線でも
巨大分子の回折能の高い結晶を得ることは極めて難しい。
電子顕微鏡はこの超分子複合体のスケールをカバーすることができる。
光学顕微鏡
電子顕微鏡
30 nm
X線・NMR
10 nm 2 nm
H3
核
細胞
μm(10-6m)オーダー
細胞内・核内の分子局在
DNA
超分子複合体
タンパク質
nm(10-9m)オーダー
Å (10-10m)オーダー
超分子複合体の構造
タンパク質の原子座標
61
電子顕微鏡の種類
e- SEM(Scanning Electro Microscope) 走査型電顕
1) 
散乱電子
試料
ディテクタ
電子顕微鏡には大きく
分けて走査型電顕と透
過型電顕がある。
透過電子
2)走査型電顕(SEM)は試料から散乱された電子を
ディテクタで検出し画像化する(立体感のある
画像)
TEM(Transmission Electro Microscope) 3)透過型電顕(TEM)は試料を透過した電子をフィ
透過型電顕
ルム・CCDなどで画像化する(平面的・影絵
的な画像)
4)その他、分子構造の解析に利用できる顕微鏡と
してSTM(接近した原子間に流れるトンネル
電流を検出する)やAFM(原子間に働く力によ
るカンチレバーのたわみを検出する)がある。
フィルム・CCD
STM(Scanning Tunnel Microscope) 走査型トンネル顕微鏡
AFM(Atomic Force Microscope) 原子間力顕微鏡
レーザー
プローブ
トンネル電流
カンチレバー
試料
試料
原子間力
透過型電子顕微鏡(TEM)の構造
1) 
2) 
透過型電子顕微鏡の構造は光学顕微鏡とほぼ同じで、電子線源(光源)からの電子(光)を集
めて強度を上げるコンデンサーレンズ、標本像をフォーカスするための対物レンズ、投
射(接眼)レンズからなる。
下の図で光学顕微鏡は通常と上下逆さまに描かれている。電子顕微鏡は普通、光源が上
で顕微鏡像は下に向かって投影される。電顕像は肉眼ではなくフィルム(原子核乾板)か
CCDで観察する。
ランプ
光源
フィラメント
透過型電子顕微鏡(TEM)
電子銃
コンデンサー
レンズ
試料ホルダー、
ゴニオメータ
標本
対物レンズ
鏡筒
中間像
観察室、蛍光板
投射レンズ
投射像
光学顕微鏡
電子顕微鏡
カメラ室(フィルム/CCD)
62
電子顕微鏡の原理(光も電子も波である)
1) 
電流
磁場B
z
x
y
N
電子�
-�
e
���
電磁石�
光学顕微鏡のガラスレンズと違い、電
子顕微鏡のレンズ(電子レンズ・電子
プリズムという)は電磁石の発生する
磁場で電子を曲げる
量子論的には物質はすべて波の性質を
持つ。電子も速度(v),質量(me),プラン
ク定数( h )により左図下の様に表され
る波長(λ)を持った波である。
2) 
F�=�(-e) v×B
磁場で電子を曲げる 3) 
S 磁場B
電顕の加速電圧( E )=100kVを使うと
電圧-波長の式より、 λ=0.037Åと電
子の波長はÅより短くなり、原理的に
は原子レベルの分解能を持つので光学
顕微鏡と同様に物を見ることができる。
電子レンズ・電子プリズム�
4) 左図は塩化フタロシアニン
2次元結晶の透過電子顕微鏡写
真で、個々の原子が直接観察で
きる。生体分子のような「柔ら
かい」分子ではこれほどの分解
能を出すことは難しい(最大で
3Å程度の分解能で、個々の原
子は見えない。)
量子力学→電子は「波」
v
波長λ
λ = h/ me v =
e-�
���
電子�
塩化フタロシアニンの電顕像
(それぞれの黒点は原子)
(150/E) Å
電子顕微鏡の試料(1)
1) 
2) 
3) 
無染色
電子顕微鏡法で生体試料を観察する場合は、画
像のコントラストを得るために試料を染色する。
染色には酢酸ウラニウムなどの電子透過性の低
い重金属をもちいる。試料自体を染める方法を
ポジティブ染色、試料以外を染める方法をネガ 試料
ティブ染色という。
試料を染色物質で薄く覆う方法をシャドウイン
グという。この場合試料自体は洗い流してしま
うこと(レプリカ法)もできる。
ポジティブ染色
ネガティブ染色
シャドウイング
レプリカ
指示膜
ロータリーシャドウイング法
電流
重金属蒸着
白金線
試料回転
ロータリーシャドウイング法によ
るヌクレオソームビーズの染色像
63
電子顕微鏡の試料(2) : ネガティブ染色法
1) 
2) 
染色により生体分子を観察する場合は、分子自体を均一に染色することは難しいので、
ネガティブ染色法を使うことが多い。この場合は分子の溶けていた溶媒の残りに染色
剤を溶かして染色する(つまり分子の部分は電子が透過するが、分子意外の部分は透
過しない)。
下図のようなメッシュに薄い炭素膜を張った物に、染色剤を溶かしたタンパク質溶液
を垂らし、なるべく溶媒をとばした後に観測する。
e-
炭素支持膜
電子
染色剤(重金属)
1分子
銅(又はモリブデン等)メッシュ
タンパク質RuvABの負染色像
メッシュの直径は3mm
電子顕微鏡の試料(3):急速凍結法(無染色法)
1) 
2) 
ネガティブ染色であっても、重金属の存在はタンパク質などの生体分子の構造に悪影響
を与えるので、最近では全く染色無しにサンプルを凍結させて観察する、急速凍結法(ク
ライオ電顕法ともいう)をつかう。
下図の様にメッシュの穴に溶媒の薄層を作り、液体窒素漕などに落として急速に凍結さ
せ、そのまま観察する。ただしこの方法では像のコントラストは大変低く単一分子像で
はほとんど何も見えない。また、サンプルは一回の電子線照射で損傷する。
非晶質氷
e-
電子
膜穴炭素支持膜
タンパク質
液体窒素などで急速凍結
溶液
メッシュ
ネガティブ染色像
無染色像
64
電子顕微鏡単粒子解析(1): 影絵で分子構造を調べる
1) 
2) 
現在の電子顕微鏡による生体分子構造解析は、
無染色クライオ電顕(またはネガティブ染色)に
よる単粒子解析が主流である。
単粒子法とは、以下のように溶液中で様々な方
向を向いた分子の2次元投影像を採取し、投影
像からback projection(逆投影)により分子
の立体構造(3次元)を再構成する方法である。
タンパク質 (3D)
電顕像
(2次元)
画像の分類
計算機による
画像の平均化
画像処理
a) 
溶液(天然)状態の分子を急速
凍結し電顕像を収集する。
b) 
同じ方向を向いた分子の投影
像を分子の方向により分類す
る。
同方向に分類された像を平均
化する。
それぞれの平均画像が分子が
どの方向(オイラー角)を向い
た時の像であるか計算で求め
る。
c) 
d) 
画像のオイラー角
3Dマップ
Back projection
e) 
オイラー角を元に3次元像
(3Dマップ)を再構成する。
電子顕微鏡単粒子解析(2): 電子顕微鏡像を平均化する
粒子の選別
top views
side views
1) 
2) 
454 particles
199 particles
整列 & 平均化
averaged top view averaged side
view
3) 
50Å
2次元平均化像
50Å
電顕像の分類ができたら、それぞ
れ同一アングルから同じ分子を見
ていると思われる像を整列(位置と
平面上の角度をそろえる)して平均
化する。平均化によりノイズは減
少して分子像が強調される。
左図の例は、 RuvB オリゴマーの
単粒子解析の途中経過で、それぞ
れ分子を「上」から見た像454枚
と、分子を「横」から見た像199
枚を平均化している。平均化に
よって、上から見るとドーナツ状、
横から見ると壺のように見えるこ
とが分かる。
2次元平均化像から、この分子に
は対称性があることが読みとれる。
実際、RuvBは単独では7量体リ
ングを形成する(直径137Å-高さ
68Å)。電顕像からは、各7量体
リングが更に結合して2重リング
を形成していることが分かる。
65
電子顕微鏡単粒子解析(3) :3次元再構成(back projection)法
e-
back projection法
試料
1) 
3D
3D
平均化像
2D
2次元投影像
オイラー角 2) 
オイラー角の決定•平均化
3) 
フィッティング
再構成像
分子モデル
3次元の分子像を得るた
めに、それぞれの平均化
像が分子をどちらの方向
からみているか(像のオ
イ ラ ー 角 ) を 決 定 す る。
オイラー角を決定すれば、
back projection法によ
り再構成像が得られる。
電顕からの分子再構成像
とは、電子を散乱する物
質(主に原子核の陽子)の
密度マップである。
分子モデルを作成するに
は、X線結晶解析などで
求めたモデルを再構成像
(密度マップ)に従って当
てはめる(フィッティン
グという)。
実データ
電子顕微鏡単粒子解析(4) :ラベル法
1) 
電子顕微鏡法のもう一つの長所は,ビオチン-アビジン(ビオチンはビタミンの一種で、タ
ンパク質のアビジンはビオチンに非常に安定に結合する)や金クラスターなどのラベル
を簡単に導入できる点である。
2)  ラベルによってタンパク質に対するDNAの方向や、SH基(システイン)の位置を特定す
ることができる。
タンパク質を金クラスターでラベル
DNAをビオチン-アビジンでラベル
ss末端ラベル複合体
ds末端ラベル複合体
Au
5
3
非ラベル体
3
5
5
3
3
差マップ
HS
5
非ラベル体
Au
1.4 nm
66
その他の顕微鏡(1分子計測・原子マニピュレーション)
1) 
STM
プローブ
2) 
励起電流
3) 
原子
STMによる原子お絵かき
電子顕微鏡の単粒子解析では多数の分子像を使って平均化し
た像から分子構造を求めるが、STMやAFMでは単一分子の
像を得ることもできる。アクチンの上を歩くミオシンを直接
観察可能。
STMでは分子を見るだけではなく、プローブに1原子を結
合して移動する原子マニピュレーションも可能。
ただし、これらの顕微鏡による生体分子の観察ではアーティ
ファクト(偽)像が得られることも多い(下図は結局、偽画像で
あることが分かったDNAのSTM像)。
STMによる「偽」DNA像
ミオシン
原子�
滑り運動=筋収縮
アクチン�
第9回のポイント(講義ノート)
1)  電子顕微鏡には大きく分けて走査型電子顕微鏡(SEM)と透過型電子顕微鏡(TEM)
がある。
2)  電子顕微鏡の試料は染色する必用がある。試料以外の部分(溶媒)を染める方法
をネガティブ染色といい、重金属の蒸着などでコントラストをつける方法を
シャドウイングという。また、生体分子試料を染色することなく凍結して観察
する方法を急速凍結法という。
3) 
単粒子解析とは、さまざま方向からの分子像を、同じ方向からの像を整列・
平均化し、それぞれの画像のオイラー角を求め、back projectionにより3次
元像を再構成する方法である。
4)  電子顕微鏡法の利点は、結晶を作る必用がない(X線結晶回折法に対しての利
点)、溶液状態で超分子複合体を観察できる(NMRに対しての利点)ことである。
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