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望ましい意志決定・行動選択につながるエイズ(性)
沖縄県立教育センター 長期研修員 第43集 研究集録 2008年3月 〈保健体育〉 望ましい意志決定・行動選択につながるエイズ(性)教育 -演劇鑑賞,グループワークを通して- 沖縄県立北谷高等学校教諭 Ⅰ 比 嘉 かずの テーマ設定の理由 中・高校生時の思春期は,性機能が急速に発達し,異性への関心や性的欲求が高まってくる時期でもある。 また,マスメディア等には,興味本位に性の問題を取り上げ,性的欲求を刺激し判断を誤らせる情報も少な くない。このような中,若者の性行動は活発化し,若い世代のHIVを含む性感染症の増加,10代の妊娠出 産,人工妊娠中絶等,問題が深刻化している。HIVは,わが県においても急増しており,厚生労働省によ り重点都道府県地域に指定されている。今年1月から9月末までに報告された県内のHIV感染者とエイズ 患者の合計数は23例と過去最多を記録している。人口10万人当たりの報告数は,東京の2.76に次ぐ1.68で全 国で2番目に高く,昨年の12例(全国11位)から倍増している。また,感染・発症報告数の83%を20代から30 代が占めていることから,HIVに感染した時期が10代であることも考えられ,HIVは緊急かつ重要な課 題と言えよう。HIVは正しい知識をもち,適切な注意と行動によって感染を回避できる疾病である。中・ 高校生のうちにHIVに関する学習を行い,その予防方法や意志決定・行動選択の能力を身に付けさせるこ とで感染を防ぐことができる。しかしこれまでの保健学習は,一方的な知識の伝達になってしまい,具体的 な行動につながるものではなかったと考える。生徒自身が,HIVの問題を自分のこととして捉えられず, 保健学習に興味・関心を示さなくなるのは当然だったと言えよう。自ら学び,自ら考え,よりよく問題解決 へと向かう力を習得させることが保健学習の目標であることから,HIVの問題を自分の事として捉え,行 動に結びつく授業を展開しなければならないと考える。 本研究では,演劇(ビデオ)鑑賞を行うことで生徒達の心を感動で揺さぶり,一斉学習,グループワークと 学習形態を工夫することで,エイズ(性)に関する正しい知識の習得と性に対する望ましい意志決定・行動選 択が高められるのではないかと考え,本テーマを設定した。 〈研究仮説〉 「エイズとその予防」の単元において,演劇(ビデオ)鑑賞による深い感動を味わわせ,グループワークを設 定することで,互いの関わりあいの中からエイズ(性)に関する正しい知識や性に関する価値観を高めること ができ,望ましい意志決定・行動選択の能力が高まるであろう。 Ⅱ 研究内容 1 エイズ・性教育について (1) 学校における性教育の考え方,進め方 平成11年に文部科学省は「学校における性教育の考え方,進め方」を全国の学校に配布した。学校に おける性教育の目標を「児童生徒等の人格の完成と豊かな人間形成を究極の目的とし,(中略)自ら考え, 判断し,意志決定の能力を身に付け,望ましい行動を取れるようにすることである。」とし,性教育は知 識を習得させるだけでなく,意志決定や行動選択のための技術・能力を身に付けることが重要であるこ とを示している。 (2) 若者の性意識と性行動の現状 木原雅子(2003)が行った地方中学生を対象にした調査により,中学3年生の約4割が「中学生が性関 係を持つこと」を容認し,6~7割が「高校生が性関係を持つこと」を容認していることが分かった。 また,HIVや性感染症の感染リスクを知らない生徒は,感染リスクがあることを知っている生徒の2 ~3倍性経験率が高いことも分かっている。性行動が早期化している要因として,テレビ・雑誌・イン ターネット等による氾濫する悪情報があげられる。その中でも携帯電話の普及率の高さも要因の1つで あると考える。携帯電話から容易に有害サイトにアクセスできることから,悪影響を受ける可能性が高 いと言える。本校においても,携帯電話を持っていない生徒が1クラスに2~3人しかいないという現 状がある。また,HIVや性感染症に関する予防情報や,自分の住む地域の流行情報に疎いことが調査 - 1 - により明らかにされている。そのことから木原は「このままでは,アジアのHIV大流行にわが国の若 者が巻き込まれるのは時間の問題」と指摘しており,予防対策の強化は急務の課題であると考える。本 校の生徒に行ったアンケートの結果から,HIV検査・性感染症に関する知識について「わからない」 と答えている生徒が半数以上いることが分かった。中学校でもHIV・エイズ・性感染症について学習 しているにも関わらず,知識が定着していないということであり,繰り返し学習を行う事が大切である と考える。また知識だけでなく,性に関する望ましい意志決定・行動選択の能力が高められるような学 習形態の工夫が重要であると考える。 2 望ましい意志決定・行動選択について (1)性に対する望ましい意志決定・行動選択とは 皆川興栄(2005)は意志決定・行動選択について「個人がある問題を判断し,解決するうえで,期待さ れた効果を最大限に実現するためにいくつかの選択肢の中から最良と考えられるものを1つ選択する行 動である」と述べている。すなわち意志決定・行動選択とは,何かを行う際,自分自身で決定し,その 決定に従って具体的に実行することであり,問題を解決する過程において自己コントロールができ,よ りよい結果が期待できるものでなければならないと考える。 現代の若者は,核家族・少子家庭が多いため,人間関係が希薄であり,自尊感情が低く,性意識が開 放的であると言われている。このような中にある生徒達に対して,単純にエイズ・性に関する知識を伝 達するだけでは,望ましい意志決定・行動選択の能力を高めることは難しいと考える。まず思春期にあ る自分の体の変化が自分にとってどのような意味をもつのか,自己の内面についてもしっかり考えさせ る必要がある。その上で,異性との関わりにおいてどのように配慮すべきかを理解させることが大切で あると考える。木原は「大切にしてくれる大人がいないと感じている生徒は,大切にしてくれると感じ ている生徒に比べ,性行為容認意識が2~3倍,性経験率が2~4.5倍高い。また,毎日一生懸命生きて いないと感じている生徒は,一生懸命生きていると感じている生徒に比べ性行為容認意識が2.5倍,性経 験率も3.5倍高い。」と指摘している。そのことから,人間的なつながりが,自己肯定感を高めることが でき,若者の性行動の大きな抑止力となると思われる。性に対する望ましい意志決定・行動選択能力を 高めるには,自己肯定感を高め,性の問題を主体的に捉えられるようになること,また異性理解を深める ことで,社会的な風潮やマスコミの情報に支配されることなく判断できる力を養うことが重要であると考 える。 (2) 感動体験による有効性について 戸梶亜紀彦(2004)は「感動体験は,強烈な情動体験であるため記憶に残りやすく,したがってその効 果には持続性があり,また感動体験は,すべてが肯定的体験であることから,想起することに抵抗を感 じることはなく,むしろ快い気分になると考えられ,さまざまな望ましい効果が期待される。」と述べて いる。「感動した出来事」については,思いやり,愛情,達成できた経験などがあげられる。他者から向 けられた愛情や思いやりのある行為によって,心が感動で満たされ,他者に対して好意的に接すること ができる等,変容が期待できるものと考える。また達成できた経験は自分自身のことだけではなく,他 者が達成できた姿を見ることでも感動を体験することができ,自分も努力すればできるようになるので はないかと心が前向きになることも分かっている。思春期における感動体験が人間的な成長につながり, その後の人生にも良い影響を与えるものと考える。 図1は,佐伯怜香(2006)らの研究による,感動体験が自己効力感・自己肯定意識に及ぼす影響を図式 化したものである。感動を体験することは,これまで保健学習に消極的であった生徒達の学習意欲も高 められると考える。そのため演劇(ビデオ)鑑賞による感動体験は,エイズ・性に関する学習への動機付 けとなり,意志決定・行動選択をすることの意義について考えるきっかけになると推察する。 自 己 効力 感を 高め る 充 実感 を高 める 感 動 体 験 でき た 喜び 頑張 っ てい る姿 ポジ ティ ブ にな る 自己 肯定 意識 を高 め る 自 己 表明 ・対 人的 積極 性 を高 める 寛容 ・友 好 的 積極 的に 交 流 自 己閉 鎖 性・ 人間 不信 が低 下 する 信頼 感・ 心 を開 く 図1 感動体験の有効性(佐伯『児童期の感動体験が自己効力感・自己肯定意識に及ぼす影響』を参考に作成) - 2 - ( (3) グループワークの有効性 表1 グループワークの目標 皆川興栄(2005)は,グループワークに ①個人の成長・集団の成長・人間関係力の向上 ついて「4~6名程度の小集団でメンバ ②自分の良さ,他者の良さ,協力するとはどういうことかに気付く。 ーの一人ひとりが主体的に活動し,メン ③グループの動きに対する感受性を高め,把握する。 バー一人ひとりが資源となり,課題を多 「グループプロセス」を見る目を養うこともねらいとする。 面的に捉え解明する力を育てるものであ ④自分の姿に気付き,自らの態度,行動を変容させていく。 る。」とし,自己理解,他者理解に有効であることを述べている。また,横浜学校GWT研究会が揚げた グループワークの目標(表1)では,グループワークとはグループの相互作用を利用して,体験的に人間 関係を学んでいき,クラスの中で認められたよりよい人間として自ら成長していく過程を助けることを ねらいとしている。本校の生徒の実態として,自分から積極的にコミュニケーションが取れず,自分が どう思われているのか不安になるなど,これまで些細なことで悩んだり,トラブルに発展することが多 く見られた。本校において,コミュニケーション能力の育成が大きな課題のひとつでもある。グループ ワークは,人とのふれあいが基本となることから,繰り返し行うことで,コミュニケーション能力が高 められ,対人関係の大切さも理解できるようになると考える。グループワークを行うことによって,ふ れあうことの楽しさ,分かり合えること・共有できる喜びを感じることができるようになることで,自 己受容,他者受容することができ,望ましい意志決定・行動選択の能力が高められると考える。 3 学習形態の工夫 (1) 演劇(ビデオ)鑑賞について 学習させたい内容を視覚的に訴えることは,学習者に強いインパクトを与えることができ,分かりや すさを高める上で,とても効果的であると言われている。そこで導入として,2004年高校生エイズフォ ーラムで上演された「光の扉を開けて」を鑑賞させることで,生徒の心を揺さぶり感動を体験させ,エ イズ・性に関する学習への興味・関心・意欲が高められると考える。この作品は高校生を中心に演技・ 構成され,エイズ・ハンセン病を取り上げ,差別・偏見について深く考えさせる内容になっている。演 じている生徒達もこの作品に真剣に取り組んでいくうち,差別・偏見を受けることの苦しみを自分自身 のこととして捉え,今自分にできることは何かを積極的に考え,前向きに行動しようとする心の変容が 見られ,そのひたむきに演じる姿に,観ている者に更なる感動を与えるものと推察する。 戸梶亜紀彦(2004)の「自他を問わず一生懸命な様に感動が喚起される」という研究成果があることか ら,演劇鑑賞による感動体験が,本校生徒にエイズ・性を自分自身の問題として考える動機付けになる と考える。また自分のことだけでなく,他者を思いやる心も高められることが期待されるため,互いの 関わりあいが重要となるグループワークへとつなげていきたい。 (2) ペアディスカッションについて 望ましい意志決定・行動選択能力を高める授業展開の工夫 グループを2人1組(ペア)で行う。本校は, 他地区から通学している生徒が多く,出身中 演劇(ビデオ)鑑賞 学同士でグループを作りあまり他校出身の生 1 時 感動体験 徒と仲良くできない傾向がある。 間 目 感想文 また,アンケートの結果から,「エイズ・性 自己受容 興味・関心・意 に関する授業」は,大半の生徒が男女別に行 他者受容 欲の高まり 2 ってほしいという結果が出ている。そのこと 時 HIV・性感染症・性の問題に関する知識の伝達 間 から,まずは,同性同士にペアを組ませ,話 目 知識の定着 し合いがスムーズに行われるようになってか グループワーク ら,4人組,また小グループへと発展させて コミュニケーション 能力の高まり いきたいと考える。 3 発表 時 自己受容 (3) 授業の組み立て 間 他者受容 目 図2は,授業の流れを図式化したものであ 音楽鑑賞 感動体験 検 る。導入として演劇(ビデオ)鑑賞を行い,生 意志決定・ 証 行動選択能力 授 徒の心を揺さぶり,エイズ・性を自分自身の の高まり 業 教師からのメッセージ こととして捉えさせる学習を行う。その感動 意志決定・ 行動選択能 したことを忘れさせないよう,すぐに感想を 力の重要性 感想文・アンケート 書かせる。次時間には感想文の中で,特に印 象的なもの,心の変容が顕著なものを取り上 図2 授業の流れ - 3 ) げ,発表させ,エイズ・性感染症の知識の定着を図る一斉授業を行う。3時間目には,ペアディスカッ ション,4人組等のグループワーク,発表を行い,エイズ・性に対する望ましい意志決定・行動選択の 能力を高められるよう検証を行う。 Ⅲ 指導の実際 1 2 単元名 「エイズとその予防」 単元目標 ・エイズ及び性についての正しい知識を身に付け,望ましい意志決定・行動選択ができるようになる。 ・エイズを正しく理解することにより,差別や偏見をなくし,共生への課題を主体的に考え,行動するこ とができるようになる。 3 学習評価の工夫 沖縄県教育委員会が発行した「高等学校体育指導資料~目標に準拠した評価の実践~(平成17年3月) 」 を活用し,学習指導要領に記された目標に照らして,生徒の学習到達度を客観的に評価を行う。また生徒 一人ひとりの学習への取り組み方など,評価規準(表2)観点別評価(表3)を取り入れ,自己評価や授業観 察,ワークシートの記述内容や感想などを総合的に評価する。 4 単元の評価 表2 評価の観点 単元の評価規準 具体の評価規準 評価方法 関 心 ①演劇鑑賞(ビデオ)し,自分の言葉で感想文が書ける。 意 欲 ②積極的にペアディスカッション,4人組等のグループワークに ・発表 態 度 ・授業観察 参加することでき, 望ましい意志決定・行動選択ができる。 ・ワークシート(感想文) ①演劇鑑賞(ビデオ)し,一斉授業,ペアディスカッション・4人 ・授業観察 思 考 組等のグループワークにおいて,エイズや性感染症について, ・ワークシート(感想文) 判 断 自分たちに与えられた課題を把握し,その解決方法を考え,自 ・自己評価 ら意志決定・行動選択ができる。 ①演劇鑑賞(ビデオ)し,一斉授業,ペアディスカッション・4人 ・授業観察 知 識 組等のグループワークにおいて,エイズや性感染症の予防につ ・ワークシート(感想文) いて,学習内容を言ったり,書き出すことができる。 理 解 ②他者の意見を聞き,理解し,受容することができる。 ③エイズの日本や世界の状況,エイズや性感染症について知り, 正しい知識を持つことができる。 5 本時における評価規準 表3 A(十分満足できる) 具体の評価規準 B(おおむね満足) C(努力を要する生徒への手立て) ①演劇(ビデオ)鑑賞を行い,観 ①演劇(ビデオ)鑑賞を行い,観て感 ①演劇(ビデオ)鑑賞を行い,ストーリー て感じたことを意欲的に感想 関 じたことを感想文に書ける。 文が書ける。 を確認させ,観て感じたことを書くこ とができるよう声かけをする。 心 ②エイズの実態(日本・世界)を ②エイズの実態(日本・世界),また ②エイズの実態(日本・世界),またエイ ・ 知り,またエイズや性感染症 エイズや性感染症の予防について ズや性感染症の予防について,ワーク 意 の予防について積極的に取り 取り組むことができる。 シートに書き込むことができる。 欲 組むことができる。 ・ ③一斉授業,ペアディスカッシ ③一斉授業,ペアディスカッション, ③一斉授業,ペアディスカッション,4 態 ョン・4人組等のグループワ 4人組等のグループワークに参加 人組等のグループワークに参加できる 度 ークに積極的に参加すること することができ,望ましい意志決 よう声かけし,仲間と相談しながら, ができ望ましい意志決定・行 定・行動選択ができるようになる。 動選択ができるようになる。 望ましい意志決定・行動選択とは何か を考え,その重要性を理解させる。 ①演劇(ビデオ)鑑賞,一斉授業, ①演劇(ビデオ)鑑賞,一斉授業,ペ ①演劇(ビデオ)鑑賞,一斉授業,ペアデ 思 ペアディスカッション,4 アディスカッション,4人組等の ィスカッション,4人組等のグループ 考 人組等のグループワークを グループワークを通して,エイズ ワークを通して,エイズや性感染症の - 4 - ・ 通して,エイズや性感染症 や性感染症の現状・問題を把握し, 現状・問題を説明をしっかり聞かせ, 判 の現状・問題を把握し,そ 仲間と一緒に考え,意志決定・行 ワークシートに書かせ,仲間と一緒に 断 れを自分のこととして捉え, 動選択することができる。 考え,意志決定・行動選択することの 自ら積極的に意志決定・行 大切さを知る。 動選択することができる。 ①演劇(ビデオ)鑑賞,一斉授業, ①演劇(ビデオ)鑑賞,一斉授業,ペ ①演劇(ビデオ)鑑賞,一斉授業,ペアデ ペアディスカッション等のグ アディスカッション等のグループ ィスカッション等のグループワークを 知 ループワークを通して,エイ ワークを通して,エイズや性感染 通して,エイズや性感染症の予防知識 識 ズや性感染症の予防知識を知 症の予防知識を知り,その学習内 を理解させること,仲間とコミュニケ ・ り,その学習内容を説明する 容を理解し,書き出すことができ ーションが取れるよう目を配り,声か 理 ことができ,書き出すことが る。 けをする。 解 できる。 ②他者の意見を聞き,理解し, ②他者の意見を聞き,理解すること ②他者の意見を聞くことができるよう, 受容することができる。 ができる。 発表者の方に体を向けさせる。 6 本時の展開(3/3) (1) 本時の目標 ・グループワークを通して,コミュニケーション能力を高め,エイズ・性感染症を自分の問題として捉 えさせ,主体的に取り組むことの大切さを知る。 ・エイズ・性に対して,望ましい意志決定・行動選択ができ,問題を解決する資質や能力を養う。 (2) 授業の仮説 グループワークの場を設定し,自分の意見を言い,他者の意見を聞くことができ,エイズ・性の問題 を自分のこととして捉え,望ましい意志決定・行動選択の能力が高まるであろう。 (3) 本時の展開 学習の活動・内容 □教師の支援 導 1.前時からの流れと本時の学習の目標を明示する。 ○評価の観点と方法 □本時の目標,学習活動を確認し意識づけをさせる。 入 10 2.ペアを作らせる。 □仲の良い者同士,早くペアを作らせ席を移動する。 分 3.事例1「神様がくれたHIV」 □事例1の資料を配布する。 ・ペアで交互にロールプレイ □シナリオを読み,役になりきるよう指示する。 ・ペアで意見を出し合いワークシートに書き出す。 □ペアでも意見が出ない場合,ヒントを与える。 ・ペアの意見をまとめ,ワークシートに書く。 ○【思考・判断】ワークシート ・隣のペアと4人組になりディスカッションする。 □急いで隣のペアと4人組にさせディスカッションが ・4人組の意見をまとめ,ワークシートに書く。 スムーズに行われているか各グループを回る。 展 開 35 ・発表 ・代表して1名の女子 生徒に北山翔子の役 をさせ各グループ発 表させる。 □各グループの代表に発表させ発表者に注目させ る。 ○【関・意・態】授業観察・ワークシート 分 4.『エイズ予防キャンペーンを企画しよう』 □活発な意見が出るよう助言する。 ・4人組でブレインス トーミング。 □キャッチフレーズ・キ ・ワークシートに書き ャンペーン内容の例を 出す。 示し,他にどういうこ とが考えられるかアド バイスする。 - 5 - ・キャッチフレーズを考え,そのねらいにそって訴え □ 色 画用 紙 ・マ ジ ック を配 布 たいことが伝わるポスターを作ってみる。 し,手早くインパクトのある ◆キャンペーン例 展 ポスター作りをすることを指 ①HIV検査街頭で行う! 示する。 ②講演会開催 開 □レイアウトをよく考て描くよ ◆キャッチフレーズ例 うアドバイスをする。 □発表の心構えをさせる。 ○【関・意・態】授業観察・ポスター作成 ①あなたはエイズを選びますか! 35 ②エイズと共に生きていこう! ・4人組の中から代表して 1人が発表する。 ・他の生徒は発表している 生徒に注目し,しっかり 聞く。 分 □発表者は大きな声で発表させる。他の生徒は姿勢を 正し,発表者にしっかり注目させる。 □発表者にポスターが見えるよう掲げさせる。 ○【関・意・態】授業観察・ワークシート 5.学習のまとめ ま ・日頃の生徒の学校生活の模様を写した写真とメッセ □スライドショーに注目させる。 と ージ性の高い曲に乗せたスライドショーを流し,ク ○【関・意・態】授業観察 め ラスの雰囲気を高め教師のメッセージへとつなげる。 □教師が生徒の活動状況をまとめて,総評を行い,意 5 ・教師の話を聞く。 志決定・行動選択能力を高めることが重要であるこ 分 ★教師からのメッセージ とを説明する。 ・ 自分を大切にすること,相手を大切にすることが重 □しっかり注目させる。 要であり,自分の将来につながることを説明する。 ○【思考・判断】ワークシート・感想文 7 仮説の検証 研究仮説に基づく授業実践により「演劇鑑賞による深い感動を味わわせ,グループワークを設定するこ とで互いの関わりあいの中から,エイズ(性)に関する正しい知識や性の価値観を高めることができ,望ま しい意志決定・行動選択の能力が育つであろう」と研究を進めてきた。検証前後のアンケートの結果や毎 時間ごとの感想を分析し考察する。対象は本校の1年生1クラス男子13名,女子16名の計29名である。 (1) 演劇鑑賞及び感動体験の有効性の観点から 検証後,図3「①演劇鑑賞をして感動を味わうことができましたか」の問いに,男子は半数が「普通 ・どちらかというと感動しなかった」と答えているのに対し,女子は16名中15名が「感動した・まあま あ感動した」と肯定的に答えている。また,図3「②演劇鑑賞をして学習への意欲が高まりましたか」 の問いにも男子は「普通・どちらとも言えない」と約半数の生徒が答えているが,女子はほとんどの生 徒が肯定的である。エイズ・性における問題は,女子にリスクを負う場合が多いため,今回の演劇鑑賞 においても女子は自分の立場に置き換えて考えることがスムーズにできたが,男子においては身近な問 題であると捉えることが難しかったのではないかと考える。男子については細かい配慮が必要であった と考えるが,全体では75%が肯定的に捉えていることから,演劇鑑賞は感動体験を促す手段として有効 であったと推察する。 ②演劇(ビデオ)鑑賞をしてエイズ・性に関する学 習への意欲が高まりましたか ①演劇(ビデオ)鑑賞をして感動を味わうことができま したか 男子 感動し た , 3 まあまあ感動し た, 4 男子 3 普通, 3 意欲が高まった , まあまあ 4 高まった, 高まった 3 3 言えない, 女子 女子 感動した , 8 普通, 1 た, 20% 40% まあまあ感動した 60% 普通 80% 100% どちらかというと 感動しなかった 図3 表4 高まった, 高まった 4 7 0% 0% 感動した 2 1 まあまあ 意欲が高まった, まあまあ感動し どちらかとも 普通, 20% 意欲が高まった 40% まあまあ 高まった 60% 普通 2 10 どちらかとも 言えない 80% 100% 高まらなかった 演劇(ビデオ)鑑賞の意義 演劇(ビデオ)鑑賞後の生徒の感想より ・ 「光の扉を開けて」のビデオを観て,HIVに感染した人は差別されて,とても辛い思いをしてかわいそう でした。今日はとても勉強になったし,もっといろんなことを知りたいと思いました。 ・みんなとっても演技が上手くて感動しました。私もきちんと正しい知識を身に付けて,差別などを絶対 しない人になりたいなと,このビデオを見て思いました。 - 6 - ・このビデオを見たことで,自分が分からなかったことも理解できた。HIV,ハンセン病,そして過去に何 があったかも知れた。このビデオを見れてとても良かった。 (2) グループワークの有効性の観点から グ ル ー プ ワ ー ク は どう で した か ど ち ら とも 検証後,図4「グループワークはどうでした ま あまあ 良かった, 3 男子 言え ない, 3 良か っ た , 7 か」の問いに「良かった」が10名,「まあまあ良 かった」が14名と83%の生徒が肯定的に答えて ま あま あ 1 良 かった, 7 1 女子 良か っ た , 7 いる。ペアを組み話し合って答えを導き出すと いう作業に,最初戸惑っている様子も見られた。 0% 20% 40% 60% 80% 100% しかし,ロールプレイやポスターを描く作業の 良 か った ま あ まあ ど ち ら とも どち ら か と 良かった 言えない い う と 嫌 だ った 中で,自分の意見を出し他者の意見に耳を傾け, 協力し合う姿が全体を通して見ることができた。 図4 グループワークの意義 感想から「たくさんの先生方見ていたから恥ずかしかったけど,ペアで話し合えて答えが出せたから良 かった。 」「ペア・4人組で、人の意見を聞くことでいろいろな考え方があることがわかった。」などの声 が聞かれた。演劇鑑賞によって高められたであろう,生徒達の物事を肯定的に捉える感情の変容や,そ の題材への興味・関心の高まりを経て,グループワークを取り入れたことは,相互にふれあうことで, グループ内に信頼関係を形成し,協力して意見をまとめるために有効な手段であると考える。また,エ イズ・性に対する意識の変容も見られたと考える。 高 校 生 が 性 行 為 をす る こ とに つ い てど う思 い ま す か (3) 生徒の意識の変容の観点から 事前 事後 16 高 校 生 で は 早 い と思 う 図5は,検証前後におけるアンケート結果 10 6 40 で,「高校生が性行為をすることについてどう 結 婚 す る と 決 め た 相 手 な ら して も よ い 7 相 手 を 尊 重 し 相 手 が 嫌 だ と言 え ば し な い 10 思いますか」という問いに対して「高校生で 44 お 互 い が 好 き であ れ ば よ い 25 は早いと思う」が,検証前は16%,検証後は1 1 5 高 校 生 で も して も よ い 9 6 0%と若干減少した。これは ,「結婚すると決 あまり 考 えた ことが ない 3 6 質 問 の意 味 が 分 から ない めた相手ならしてもよい」は,検証前6%に 3 0 10 20 30 40 50 対し,検証後は40%と上昇していることから も,特定のパートナーであれば,エイズや性感 図5 高校生が性行為をすることの容認度(%) 男女交際について真剣に考えるこ とができましたか 染症の感染リスクが低いということを理解し, 男女交際のあり方について真剣に考えるよう ど ちら とも まあまあ考える 真剣に考える 2 になったからであると考える。また「お互い 男子 ようになった, 3 言 えな い, 3 ようになった , 5 が好きであればよい」と答えた生徒は,検証 真剣に 考え る まあまあ考える 1 前は44%と高かったのに対し,検証後は25% 女子 ようになった, 6 ようになっ た , 9 と減少している。このことから,お互いに好 0% 20% 40% 60% 80% 100% きであっても,リスクを考えて,安易な性行 ①真剣に考える ②まあまあ考える ③どちらとも ④あまり考えない ようになった ようになった 言えない 動は避けるべきであることを認識するように なったことが推察される。図6は「男女交際に 図6 男女交際の容認度 のついて真剣に考えることができましたか」の結果である。 「真剣に考えるようになった」は29名中14名, 「まあまあ考えるようになった」が9名と79%の生徒が肯定的に答えている。特に女子はほとんどの生 徒が,また男子も半数以上が肯定的に捉えている。一斉授業においては,HIV・エイズ,性感染症の 問題だけでなく,人工妊娠中絶・若年離婚の増加が社会問題になっていることも学習していることから, 自分を大切にすること,相手を尊重することが重要であり,それが自分の将来につながることも理解で きるようになったと考える。 (4) 意志決定・行動選択の能力が高まったか 図7は, 「エイズ・性に関する学習を通して意志決定・行動選択の力が高まったと思いますか」の結果 である。「高まった」が29名中11名,「まあまあ高まった」が10名と72%の生徒が肯定的に答えている。 また図8の「エイズ・性に関する授業を受けてどうでしたか」の問いにも「良かった」15名,「まあまあ 良かった」が8名と79%が肯定的に答えている。表5の生徒の感想からも,演劇鑑賞による感動体験度 の低かった男子も,一斉授業,グループワークの過程を通して,エイズ・性に対する学習意欲が高まり, 意志決定・行動選択能力を高められてきていることが推察できる。このことから演劇鑑賞,一斉授業, グループワークの流れで行ったエイズ・性に関する授業展開は,性における意志決定・行動選択の能力 を高める手段として有効であったと考える。 - 7 - エイズ・性に関する学習を通して意思決定・ 行動選択の力が 高まったと思いますか エイズ・ 性に関 する授 業 を受 けて どうで し たか まあまあ まあまあ どちらとも 男子 男子 高まった, 6 良か っ た , 4 普通, 2 高まった, 2 言えない, 1 良かった, 6 1 4 まあまあ まあま あ 女子 高まった, 5 2 高まった, 0% 20% ①高まった 40% ②まあまあ 高まった 女子 1 良 か った , 11 8 60% ③どちらとも 言えない 良かった, 80% 100% ④どちらかというと 高まってない 図7 意志決定・行動選択能力の高まり 0% 20% ①良かった 40% ②まあまあ 良かった 60% ③普通 2 普通, 80% 2 1 100% ④どちらとも 言えない 図8 興味・関心・意欲度 表5 検証授業後の生徒の感想より ・今まではエイズのことをよく知らなかったし興味もなかったから,周りがエイズの話をしていても聞きもしなかった。 だけど,保健の授業でエイズのことを演劇鑑賞をして興味がわいたし,エイズ患者が差別・偏見されていることにも 気づき,かわいそうだと思った。自分はエイズに罹らないと思っていたけど,今の時代は皆がエイズに罹る可能性が あることに気付いてびっくりした。 ・今までいろいろとHIV・エイズについて勉強したけど,今回の勉強でより深いところまで分かった。性について話 すのは,みんな恥ずかしいと言うけどこの授業でそんなこと言ってられないと思った。エイズが遠い国の話じゃなく なった。沖縄でもエイズがどんどん広がっている。それをくいとめないと大変なことになる。だから授業を受けられ て良かった。これからも多くのことを勉強していきたい。 ・この授業を受けて高校生での性行為は早いと思いました。もし妊娠させてしまったら中絶は女性にとって心も体も傷 つくことだと知り,無責任な行動はできないと感じました。高校生の経済力では養っていけないし,高校を中退せざ るを得なくなり将来に対して不安が生まれる。この授業を通して学びました。 ・沖縄でもHIV・エイズが急激に増加していて,身近にもしかしたら感染者がいるかもしれないことを知りました。 私はHIVやエイズについて勉強して良かったと思います。これからも自分を大切に生きていきたいと思います。 Ⅳ まとめと今後の課題 本研究では,「望ましい意志決定・行動選択につながるエイズ(性)教育」をテーマに,演劇鑑賞・グループ ワークを取り入れて研究を行った。その結果,以下のような成果と課題が得られた。 1 成果 ・導入として,演劇鑑賞を取り入れることで,学習への興味・関心・意欲を高め,エイズ・性の問題を 自分のこととして捉え,主体的に考えるきっかけになった。 ・グループワークにおいて,相互にふれあうことで,自分の意見を言うこと,他者の意見に耳を傾ける ことができ,エイズ・性に関する正しい知識及び性に関する価値観を高めることができた。 ・自分を大切にすること,相手を尊重することが大切であり,今どうあるべきか,将来のことも考えら れるようになり,性に対する望ましい意志決定・行動選択の能力が高まってきた。 2 課題 ・演劇鑑賞について,男子生徒の約半数が否定的な答えを出していることから,普段の学習態度を踏ま えて,鑑賞前に観る視点をしっかり理解させることなど,細かい配慮が必要である。 ・グループワークを行う際,生徒の実態に応じたグループ編成とコミュニケーション能力があることが 前提となる。その前提であるコミュニケーション能力を高めることが本校生徒の課題である。充実し たグループワークを行うためにも,教科・総合的学習また教育活動全体を通してライフスキルトレー ニングを取り組む必要がある。 ・性に関する望ましい意志決定・行動選択能力を高めるには,客観的に判断する力を身につけることが 必要であるため,常に新しい情報を提供すること,学習形態の工夫,有効な教材開発が課題である。 〈主な参考文献〉 木原雅子 2006 『10代の性行動と日本社会』 ミネルヴァ書房 戸梶亜紀彦 2004 『 「感動」体験の効果について』 - 人が変化するメカニズム - 皆川興栄 2002 『ライフスキルの基礎基本』 明治図書 - 8 - - 9 -