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判例研究
判例研究
内縁関係にある日本人父と外国人母の非嫡出子の
届出による国i籍取得
一国籍法違憲訴訟一
松井 直之
平成20年6月4日最高裁判所大法廷判決,退去強制令書発付処分取消等請求事件
平成18年(行ツ)第135号破棄自判(民集62巻6号1367頁,判時2002号3頁)
【事実の概到
(1)前提事実
X(原告,被控訴人,上告人)は,法律上の婚姻関係にないフィリピン国籍
を有する女性を母とし(以下,Aとする),日本国籍を有する男性を父とする(以
下,Bとする)男児である。 Xは,平成9年に日本で出生し,フィリピン国籍
を取得し,現在まで日本に継続して居住している。
Aは,平成3年1月2ユ日,興行の滞在資格(3か月)で日本に初めて入国した(こ
のとき使用したパスポートには,正式ではない氏名及び生年月日が記載されて
いた)。同年4月16日に在留期間更新許可(3か月)を受け,在留期限内の同
・年7月21日に帰国した。平成4年3月18日,AはT興行の在留資格(3か月)
で再び1ヨ本に入国した(このとき使用したパスポートには正しい氏名及び生年
月日が記載されていた)。同年6月8日に在留期間更新許可(3か月・在留期
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描浜国際経済法学第17巻第3号(2009年3月)
限は平成4年9月18日まで)を受けたが,それ以後は在留期間の更新許可を
受けることなく,日本に在留している。Aは,平成7年10月頃からBと交際
を始め,平成9年にXを出産した。
Bは,平成11年10月にXを認知した。なお,Bには前妻との間に娘が1人
おり,Xと完全な同居生活を送っているわけではない。しかしBは、 Xの出生後
Aに対して生活費を支給することでAとともにXをBの子として扶養し,週末
等定期的にA宅に宿泊し.A, Xと共に外出するなど家族としての交流を密に
しており,Xの通う幼稚園等の行事にもXの父親として積極的に参加し,対外
的にもXの父親としての役割を果たしている。
Xの親権者であるAは,平成15年2月4日に,BからXが認知を受けたこ
とを理由として千葉地方法務局において法務大臣宛の国籍取得届(以下,本件
届出とする)を提出した。ところが,Aは同月14日に千葉地方法務局長から
「平成15年2月4日付け国籍法第3条第1項の届出は,国籍取得の条件を備え
ているものとは認められない」との通知を受けた。
そこで,Xは, Y(国:被告、控訴人,被上告人)に対して日本国籍を有す
ることの確認を求めて,平成15年2月27Elに本件訴訟を提起した。その際に
Xは,出生後にBの認知を受けたことにより,選択的に国籍法2条1項に基づ
き出生時に遡って日本国籍を取得したのであって,認知を受けた非嫡出子につ
いて,父母の婚姻があったときに限り日本国籍の取得を認める国籍法3条1項
の規定は憲法14条1項に違反し違憲無効であるから,父母の婚姻という要件
を具備していなくとも日本国籍を取得した旨の主張をした。
なお.本件届出後のことではあるが,Aは再びBとの問に子を懐胎し. Bか
ら胎児認知を受けていること(平成17年6月19日出産予定)が認められる。
またAは,Xの出生時に,日本における在留資格を有していなかったことから,
A及びXに対して退去強制手続が行われ,本件訴訟に併合して、出入国管理及
び難民認定法49条1項に基づく両者の異議申出は理由がない旨の法務大臣裁
決及び東京入国管理局主任審査官の両者に対する退去強制令書発付の適法性が
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内繰問係にある日本人父と外国人母の非嫡出子の届出による国籍取得
それぞれ争われていた(東京地裁平成14年(行ウ)第404号,同411号事件)。
もっとも,平成16年12月28日に両者に期間1年間の在留資格が賦与された
ことから,これら両事件は平成17年1月18日,取下げによって終了した。
(2) 第一審半‖∼尭1}
国籍「法3条による国籍の伝来的取得制度の対象となる子の場合には,その
出生時においては我が国の国籍取得が認められなかったため,そのほとんどの
者が外国籍を取得し,その結果外国との間に一定の結びつきが生じているこ
とも当然に考えられる」。そこで「国籍の伝来的取得については,日本国民と
の間に法律上の親子関係が生じたことに加え,我が国との間に一定の結びつき
が存することを要求したのが法3条1項の規定であ」る。
しかし「日本国民の認知を受けた非嫡出子が,我が国との間で国籍取得を認
めるに足りる結びつきを有しているかどうかという観点から考えた場合⊥「そ
の父母が法律上の婚姻関係を成立させているかどうかによって.その取扱いを
異にするだけの合理的な理由があるものと認めることは困難である」。「日本国
民を親の一人とする家族の一員となっている非嫡出子として,我が国との結び
つきの点においては異ならない状況にあるにもかかわらず,その父母の間に法
律上の婚姻関係が成立している場合には国籍取得が認められるのに,法律上の
婚姻関係が成立していない場合にはそれが認められない」のは,「我が国との
結びつきに着眼するという国籍法3条1項本来の趣旨から逸脱し⊥「何らの合
理性も認、めることができない」。
「以上の次第で,」国籍法3条1項は,準正子と,父母が「内縁関係(重婚的
なものも含む。)にある非嫡出子との間で,国籍取得の可否について合理的な
理由のない区別を生じさせている点において憲法14条1項に違反する」。
国籍法3条1項の「父母の婚姻」という文言は,「合憲的解釈という観点から,
法律上の婚姻関係に限定されず,内縁関係も含む趣旨であると解することは不
可能ではない」。「これに対し,『嫡出子』という文言は,あくまでも父母の間
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横浜国際経済法学第17巻第3号(2009年3月〕
に法律上の婚姻関係が成立していることを当然の前提とした文言であると解せ
ざるを得ない」。したがって国籍法3条1項は,「子が『嫡出子』としての身分
を取得した場合にのみ国籍取得を認める旨の定めをしている点において一部無
効であると解するほかはなく,「父母の婚姻(内縁閲係を含む)及びその認知
により嫡出子又は非嫡出子たる身分を取得した子について,一定の要件の下に
国籍取得を認めた規定と理解すべきこととなる」。
Xと「A,Bの間には,完全な同居生活の成立こそ認められないものの. B
とAとの聞には内縁関係の成立が認められ,三者の間には家族としての共同生
活と評価するに値する関係が成立している」。したがってXは,「国籍取得の届
出をした平成15年2月4日に国籍を取得したものというべきである」。
Xの請求が認容されたため,これを不服としてYは控訴Lた。
(3)控訴審判決2)
国籍法3条1項は,「出生時に日本人である父との法律上の親子関係を有し
ていなかった嫡出でない子においても,父母の婚姻と父による認知という要件
を満たせば、届出による日本国籍取得の途を開いたものであって」,「血統主義
を採用した法において,出生時に日本人である父との法律上の親子閲係を有し
ていなかった嫡出でない子につき,準正(法例第19条,民法第789条)を理
由とする日本国籍の取得を認める補完的手段である」。
「仮に同項の規定が無効であるとすれば,父母の婚姻及び父による認知要件
を具備した子において日本の国籍を取得する規定の効力が失われるだけであっ
て」,「出生した後に父から認知を受けたが,父母が婚姻をしないために嫡出子
たる身分を取得しない子が日本の国籍を取得する制度が創設されるわけではな
い」。被控訴人の主張は,「控訴人の立法不作為の責任を追及する趣旨のものに
はなり得てもJ,「日本国籍を有することの確認を求める本件請求を認める根拠
とはなり得ない」。
国籍法3条1項は,「『父母の婚姻及びその認知により嫡出子たる身分を取得
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内縁関係にある日本人父と外国人母の非嫡出子の届出による国籍取得
した子』とその要件を明示し,『婚姻』,『認知』あるいは『嫡出子』という概
念によって,立法者の意思が一義的に示されて」おり,国籍法2条1号の「適
用のない者について,日本国籍取得を認める例外的,補完的な性質を有する規
定であって,本来むやみに拡張を許すべきものでないことを考えれば,法第3
条第1項の類推解釈ないしは拡張解釈によって,被控訴人の日本国籍取得を認
めることはできない」。
なお,国籍法3条1項の「婚姻」が事実上の婚姻関係(内縁関係)を含むと
解釈しても,「それは,結局,裁判所に類推解釈ないしは拡張解釈の名の下に
国籍法に定めのない国籍取得の要件の創設を求めるものにほかならない」。「裁
判所がこのような国会の本来的な機能である立法作用を行うことは許されな
い」。
仮に国籍「法第3条第1項が,憲法第14条第1項に違反し,その一部又は
全部が無効であったとしても,そのことから当然に被控訴人が日本国籍を取得
することにはならないし,また,被控訴人が法第3条第1項の類推適用ないし
は拡張適用によって,日本国籍を取得したというこ’ともできない」。
第一審とは逆にXの請求が全く認容されなかったため,これを不服としてX
は上告した。最高裁第一小法廷(才口千晴裁判長)は,本件を大法廷に回付した。
【判旨】
破棄自判3)
(1)国籍法3条1項による国籍取得の区別の憲法適合性について
①「国籍法3条1項は,同法の基本的な原則である血統主義を基調としつつ,
日本国民との法律上の親子関係の存在に加え我が国との密接な結び付きの指標
となる一定の要件を設けて,これらを満たす場合に限り出生後における日本国
籍の取得を認めることとしたものと解される。このような目的を達成するため
準正その他の要件が設けられ,これにより本件区別が生じたのであるが,本件
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横浜固際経済法学第17巻第3号(2009年3月)
区別を生じさせた上記の立法目的自体には,合理的な根拠があるというべきで
ある」。
「国籍法3条1項の規定が設けられた当時の社会通念や社会的状況の下にお
いては,日本国民である父と日本国民でない母との問の子について,父母が法
律上の婚姻をしたことをもって日本国民である父との家族生活を通じた我が国
との密接な結び付きの存在を示すものとみることには相応の理由があったもの
とみられ」t当時の諸外国における「国籍法制の傾向にかんがみても,同項の
規定が認知に加えて準正を日本国籍取得の要件としたことには,上記の立法目
的との間に一定の合理的関連性があったものということができる」。
「しかしながら,その後,我が国における社会的,経済的環境等の変化に伴っ
て」,「家族生活や親子閲係の実態も変化し多様化してきている」。「近年,我が
国の国際化の進展に伴い国際的交流が増大することにより,日本国民である父
と日本国民でない母との聞に出生する子が増加して」おり,「両親の一方のみ
が目本国民である場合には,同居の有無など家族生活の実態においても,法律
上の婚姻やそれを背景とした親子関係の在り方についての認識においても,両
←親が日本国民である場合と比べてより複雑多様な面があり、その子と我が国と
の結び付きの強弱を両親が法律上の婚姻をしているか否かをもって直ちに測る
ことはできない」。これらのことを考慮すると「日本国民である父が日本国民
でない母と法律上の婚姻をしたことをもって,初めて子に日本国籍を与えるに
足りるだけの我が国との密接な結び付きが認められる」とするのは「今日では
必ずしも家族生活等の実態に適合するものということはできない」。
また,「国籍法3条1項の規定が設けられた後t自国民である父の非嫡出子
について準正を国籍取得の要件としていた多くの国において、今日までに,認
知等により自国民との父子閲係の成立が認められた場合にはそれだけで自国籍
の取得を認める旨の法改正が行われている」。
「国内的,国際的な社会的環境等の変化に照らしてみると,準正を出生後に
おける届出による日本国籍取得の要件としておくことについて⊥「立法目的と
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内縁関係にある日本人父と外国人母の非嫡出子の届出による国籍取得
の間に合理的関連性を見いだすことがもはや難しくなっている」。
②国籍法は「父母両系血統主義を採用し」,「出生の時に父又は母のいずれか
が日本国民であるときには子が日本国籍を取得する」としていることから,「日
本国民である父又は母の嫡出子として出生した子はもとより,目本国民である
父から胎児認知された非嫡出子及び日本国民である母の非嫡出子も,生来的に
日本国籍を取得することとなる」。しかし,「日本国民である父から出生後に認
知された子のうち準正により嫡出子たる身分を取得しないものに限っては,生
来的に日本国籍を取得しないのみならず,同法3条1項所定の届出により日本
国籍を取得することもできない」。
日本国籍の取得が「基本的人権の保障等を受ける上で重大な意味を持つもの
であることにかんがみれば⊥このような「差別的取扱いによって子の被る不
利益は看過し難いもの」である。「日本国民である父から胎児認知された子と
出生後に認知された子との聞においては,日本国民である父との家族生活を適
じた我が国社会との結び付きの程度に一般的な差異が存するとは考え難く,日
本国籍の取得に関して上記の区別を設けることの合理性を我が国社会との結び
付きの程度という観点から説明することは困難である」。また,「日本国民であ
る母の非嫡出子が出生により日本国籍を取得するにもかかわらず,日本国民で
ある父から出生後に認知されたにとどまる非嫡出子が届出による日本国籍の取
得すら認められないことには,両性の平等という観点からみてその基本的立場
に沿わないところがある」。
国籍法が「非嫡出子についてのみ、父母の婚姻という,子にはどうすること
もできない父母の身分行為が行われない限り,生来的にも届出によっても日本
国籍の取得を認めないとしている点は,今日においては,立法府に与えられた
裁量権を考慮しても,我が国との密接な結び付きを有する者に限り日本国籍を
付与するという立法目的との合理的関連性の認められる範囲を著しく超える手
段を採用して」おり,「不合理な差別を生じさせている」。
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横浜国際経済法学第17巻第3号(2009年3月)
確かに,「国籍法8条1号所定の簡易帰化により日本国籍を取得するみちが
開かれている。しかしながら,帰化は法務大臣の裁量行為であり,同号所定の
条件を満たす者であっても当然に日本国籍を取得するわけではないから,これ
を届出によるEl本国籍の取得に代わるものとみることにより」,本件区別が「立
法目的との間の合理的関連性を欠くものでないということはできない」。
なお,「父母の婚姻により子が嫡出子たる身分を取得することを日本国籍取
得の要件とすることが,仮装行為による国籍取得の防止の要請との間において
必ずしも合理的閲連性を有するものとはいい難」い。
「今日において,国籍法3条1項の規定は,日本国籍の取得につき合理性を
欠いた過剰な要件を課するものとなって」おり,「国籍法3条1項の規定が本
件区別を生じさせていることは,憲法14条1項に違反する」。
(2)Xに日本国籍の取得を認めることの可否
「本件区別による違憲の状態を解消するために同項の規定自体を金部無効と
して,準正のあった子(以下『準正子』という。)の届出による日本国籍の取
得をもすべて否定することは,血統主義を補完するために出生後の国籍取得の
制度を設けた同法の趣旨を没却するものであり,立法者の合理的意思として想
定し難いものであ」る。「そうすると,準正子について届出による日本国籍の
取得を認める同項の存在を前提として,本件区別により不合理な差別的取扱い
を受けている者の救済を図り,本件区別による違憲の状態を是正する必要があ
ることになる」。
「このような見地に立って是正の方法を検討すると」,「日本国民である父と
日本国民でない母との間に出生し,父から出生後に認知されたにとどまる子に
ついても⊥「父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得したことという部分を除
いた同項所定の要件が満たされる場合に,届出により日本国籍を取得すること
が認められるものとすることによって」,「合惣的で合理的な解釈が可能とな
る」。Fこの解釈は,本件区別による不合理な差別的取扱いを受けている者に対
内縁閲係にある田本人父と外国人母の非嫡出子の届出による国籍取得
して直接的な救済のみちを開くという観点からも,相当性を有する」。
この解釈は,「日本国民との法律上の親子関係の存在という血統主義の要請
を満たすとともに,父が現に日本国民であることなど我が国との密接な結び付
きの指標となる一定の要件を満たす場合に出生後における日本国籍の取得を認
めるものとして,同項の規定の趣旨及び目的に沿うものであ」る。「この解釈
をもって,裁判所が法律にない新たな国籍取得の要件を創設するものであって
国会の本来的な機能である立法作用を行うものとして許されないと評価するこ
とは,国籍取得の要件に関する他の立法上の合理的な選択肢の存在の可能性を
考慮したとしても,当を得ないもの」である。
「したがって.日本国民である父と日本国民でない母との問に出生し,父か
ら出生後に認知された子は,父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得したとい
う部分を除いた国籍法3条1項所定の要件が満たされるときは,同項に基づい
て日本国籍を取得することが認められる」。Xは「国籍法3条1項の規定する
目本国籍取得の要件をいずれも満たしていることが認められる」ので,「法務
大臣あての国籍取得届を提出したことによって,同項の規定により日本国籍を
取得したものと解するのが相当である」。
以上の多数意見に対しては,以下のような反対意見補足意見等が複数ある。
① 横尾和子裁判官,津野修裁判官,古田佑紀裁判官の反対意見
国籍法は,「出生時において,血統のみならず,法的にも日本国民の子であ
る者に対して,一律に国籍を付与する一方で,日本国民の血統に属する子が出
生後に法的に1ヨ本国民の子となった場合には,出生後の生活状況が様々である
ことから、日本国民の子であることを超えた我が国社会との結び付きの有無,
程度を具体的に考慮して国籍を付与するかどうかを決することとしていると解
されるj。「国籍法が,準正子に届出による国籍の取得を認め,非準正子は帰化
によることとしていることは,立法政策の選択の範囲にとどまり,憲法14条
1項に違反するものではないあ
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横浜国際経済法学第17巻第3号(2009年3月)
なお,「非準正子が届出により国籍を取得することができないのは,これを
認める規定がないからであって,国籍法3条1項の有無にかかわるものではな
い」。また,「準正子に係る部分を取り除けば同項の主体が認知を受けた子全
般に拡大するということにはいかにも無理がある」。「そのような拡大をするこ
とは,条文の用語や趣旨の解釈の域を越えて国籍を付与するものであることは
明らかであり⊥「国籍法が現に定めていない国籍付与を認めるものであって.
実質的には立法措置であるといわざるを得ない」。
② 甲斐中辰夫裁判官,堀籠幸男裁判富の反対意見
「国籍法が,準正子に対し,届出により国籍を付与するとしながら,立法不
存在ないし立法不作為により非準正子に対し届出による国籍付与のみちを閉じ
ているという区別」は,「遅くとも,上告人が法務大臣あて国籍取得届を提出
した当時には,合理的な理由のない差別となっており」,憲法14条1項に反する。
「しかしながら,違憲となるのは,非準正子に届出により国籍を付与すると
いう規定が存在しないという立法不作為の状態なのである」。非準正子の届出
による国籍取得に関する立法不存在「が違憲状態にあるとして,それを是正す
るためには,法の解釈・適用により行うことが可能でなければ国会の立法措
置により行うことが憲法の原則である」。
③泉徳治裁判官の補足意見
国籍法3条「全体を廃止すること」は,「日本国民である父に生後認知され
た非嫡出子を現行法以上に差別するものであり⊥「国会が,この選択肢を採用
することは考えられない」。また,「日本国民である母の非嫡出子及び胎児認知
された非嫡出子についても,『父母の婚姻』という要件を新たに課する」こと
が考えられるが,これは,「非嫡出子一般をその出生により不当に差別するも
ので,憲法の平等原則に違反するから,国会がこの選択肢を採用することも考
えられないj。さらに,「日本社会との密接な結合関係を証するための新たな要
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内縁関係にある日本人父と外国人母の非嫡出子の届出による国轄取得
件を課する」ことが考えられるが,これは,「基本的に法律上の親子関係によ
り日本社会との結合関係を判断するという国籍法のlfiL統主義とは別の観点から
要件を付加するもので,国会がこの選択肢を採用するがい然性が高いというこ
ともできない」。結局,「『父母の婚姻』の部分を除いて同項を適用し,日本国
民である父が生後認知した非嫡出子に日本国籍を付与する方が,立法意思にか
なうものと解される」。
「もとより,国会が,将来において,国籍法3条1項を憲法に適合する方法
で改正することは,その立法裁量に属するところであるが,それまでの問は,
『父母の婚姻』の部分を除いて同項を適用すべきである」。「また,『父母の婚姻』
の部分を除いて国籍法3条1項の規定を適用することは,憲法の平等原則の下
で同項を解釈し適用するものであって,司法が新たな立法を行うものではなく,
司法の役割として当然に許されるところである」。
④今井功裁判官の補足意見
「国籍法の仕組みからすれば,3条は,血統主義の原則を認めつつ,準正要
件を備えない者を除外した規定といわざるを得ない」。「そして,3条1項が準
正子と非準正子とを差別していることが平等原則に反し違憲であるとした場合
には,非準正子も,準正子と同様に,国籍取得を認められるべきであるとする
ことも⊥「法律の合憲的な解釈として十分成り立ち得る」。
「国籍法の下における準正子と非準正子との閲の平等原則に違反する差別状
態を裁判所が解釈によって解消するには,準正子に与えられた効果を否定する
か,非準正子に準正子と同様の効果を与えるしかない」。裁判所が「国籍法3
条1項の合憲的解釈として,非準正子について国籍取得を認めたからといって,
今後,国会がその裁量権を行使して,日本国民を父とする生後認知子の国籍取
得につき,準正要件に代えて,憲法に適合する要件を定める新たな立法をする
ことが何ら妨げられるものでないことは,いうまでもないところであり,上記
のような解釈を採ることが国会の立法裁量権を奪うことになるものではない」。
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⑤ 田原陸夫裁判官の補足意見
「生後認知子における準正子と非準正子との区別の問題と並んで、生後認知
子と胎児認知子開の区別の問題も,憲法14条1項との関係で同様に重要であ
る」。「準正子となるか否かは,子の全く与り知らないところで定まるところ,
その点においては,胎児認知子と生後認知子との関係についても同様である。
しかし,準正の場合は,父母が婚姻するという法的な手続が経られている。と
ころが,胎児認知子と生後認知子との間では,父の認知時期が胎児時か出生後
かという時期の違いがあるのみである」。「我が国社会との結び付きの程度とい
う観点」からすれば,「胎児認知子に当然に日本国籍の取得を認め,生後認知
子には準正子となる以外に日本国籍の取得を認めない国籍法の定めは,憲法
14条1項に違反する」。
⑥近藤崇晴裁判官の補足意見
「父母両系」tUISSi主義を基調としつつも,日本国民との法律上の親子関係の存
在に加え,我が国との密接な結び付きの指標となる一定の要件を設けて・これ
らを満たす場合に限り出生後における日本国籍の取得を認めることとするとい
う立法目的自体には,合理的な根拠がある」。「したがって,国籍法を改正する
ことによって我が国との密接な結び付きの指標となるべき他の要件を設けるこ
とはtそれが立法目的との間に合理的閏連性を有するのであれば立法政策上
の裁量権の行使として許されることになる」。
⑦藤田宙靖裁判官の意見
国籍法3条1項が「準正要件を定めているのは,準正子でありかつ同項の定
めるその他の要件を満たす者についてはこれを特に国籍取得の上で優遇する趣
旨なのであって,殊更に非準正子を排除しようという趣旨ではない」。「非準正
子が届出という手続によって国籍を取得できないこととなっているのは,同項
があるからではなく,同法2条及び4条の必然的結果というべきなのであって」,
336
内繰関係にある日本人父と外国人母の非嫡出子の届出による国籍取得
「いわば,同項の反射的効果にすぎないというべきである」。「それ故また,同
項に準正要件が置かれていることによって違憲の結果が生じているのは,多数
意見がいうように同条が『過剰な』要件を設けているからではなく」,むしろ「『不
十分な』要件しか置いていないからというべきなのであ」るe「同項の合理的
解釈によって違憲状態を解消しようとするならば,それは『過剰な』部分を除
くことによってではなく,『不一卜分な』部分を補充することによってでなけれ
ばならない」。
国籍「法3条1項の存在を前提とする以上,現に生じている違憲状態を解消
するためには.非準正子についても準正子と同様の扱いとすることが,ごく自
然な方法である」。「考え得る立法府の合理的意思をも付度しつつ,法解釈の方
法として一般的にはその可能性を否定されていない現行法規の拡張解釈という
手法によってこれに応えることは,むしろ司法の責務というべきであって,立
法権を纂奪する越権行為であるというには当たらない」。
【研究】
はじめに
本件は,2002年最高裁判所判決4〕の事案と,外国人母と日本人父との間に
生まれ,生後認知を受けた非嫡出子(婚外子)という点で同様である。20e2
年最高裁判決の法廷意見は,日本国憲法10条について「国籍の得喪に閲する
要件をどのように定めるかは,それぞれの国の歴史的皐情,伝統.環境等の要
因によって左右されるところが大きいところから.日本国籍の得喪に関する要
件をどのように定めるかを法律にゆだねる趣旨であると解される」として,そ
の「法律の要件における区別が,憲法14条1項に反するかどうかは,その区
別が合理的な根拠に基づくものということができるかどうかによって判断すべ
き」だとした。そして,国籍法2条1号は「子の出生時に日本人の父又は母と
法律上の親子関係があることをもって我が国と密接な関係があるとして国籍を
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横浜国際経済法学第17巻第3号(2009年3月)
付与しようとするものであ」ll ,「生来的な国籍の取得はできる限り子の出生
時に確定的に決定されることが望ましい」ことなどから、憲法14条1項に反
しないとされたのであるe
もっとも傍論としてではあるが,事案によっては違憲判決が下されることを
予感させる補足意見が付された「・〕。すなわち,亀山継夫判事が国籍「法2条1
号が日本人の父から胎児認知された非嫡出子に国籍の生来的取得を認めている
こととの対比において」,同「法3条が認知に加えて『父母の婚姻』を国籍の
伝来的取得の要件としたことの合理性には疑問をもっており,その点が結論に
影響する事件においては,これを問題とせざるを得ない」とし,梶谷玄・滝井
繁男両判事も,国籍「法3条が父母の婚姻をも国籍取得の要件としたことの合
理性を見いだすことは困難であ」り,特に「両親がその後婚姻したかどうかと
いった自らの力によって決することのできないことによって差を設けられるべ
きではないjことなどから,「憲法14条1項に反する疑いが極めて濃い」とし
たのである。「3条の解釈だけをとってみれば,裁判官5名中3名が合理性に
疑問を呈しているのだから,実質的な違憲判断ともいえる」だろうG)。
このような流れのなかで,2005年4月に,本件第一審判決において国籍法3
条1項が日本国籍の取得につき区別を設けていることが違憲であるとする判断
が下された。しかし,この判決は本件控訴審判決において覆されている。また
本件と同様に,日本国籍を有する父とフィリピン共和国籍を有する母との間に
出生し,出生後父から認知されたことを理由として国籍取得届を提出した子ら
9名が日本国籍を有することの確認を求めた事件(平成19年(行ツ)第164
号事件)の第一審判決”では,国籍法3条1項のうち準正要件を定める部分の
みが違憲無効とされた。この判決も,控訴審帥において,国籍法3条1項が憲
法14条1項に反してその一部又は全部が無効であるか否かに関わらず届出に
よって国籍を取得することはできないとして棄却された。最高裁大法廷は、本
件判決と同日に,この事件についても本件と同様の理由により請求を認容すべ
きものとする判決を下した。したがって本件判決は,最高裁の中でも,下級審
内緑閏係にある日本人父と外国人母の非嫡出子の届出による国籍取得
の中でも意見の割れていた,国籍法3条1項の準正要件による区別の問題に,
最高裁として初めて違憲判断を下したものとして重要な意義を有すると言えよ
う%
1 国籍の取得
(ユ)国籍の取得における差異
本件最高裁判決は,日本国籍が「我が国の構成員としての資格であるととも
に,我が国において基本的入権の保障,公的資格の付与,公的給付等を受ける
上で意味を持つ重要な法的地位でもある」とする。
日本国憲法はT「日本国民たる要件は,法律でこれを定める」(10条)と規
定している。これを受けて,国籍法は日本国籍の得喪に関する要件を規定する。
そこでは,出生,準正,帰化による日本国籍の取得が定められている。
出生による国籍の取得については,」虹統主義を原則とし,出生地主義が加味
される。したがって,出生時に「父又は母」が日本国籍を有するときには,子
も日本国籍を取得することになる(国籍法2条)。もっとも国籍法には,家族
関係の成立に関する規定がない。国籍法における家族関係は,原則として民法
に基づく。よって,ここにいう「父又は母」とは,学説1°}及び判例川ともに
「法律上の父又は母」と解し,「事実上の父又は母」は含まれない。それは,民
法がその定める手続に従い届出がなされることで婚姻の成立を認める「法律婚
主義」を採用しているからである。
例えば 日本人父と外国人母が結婚している場合,父の本国法である日本法
が準拠法となり(法の適用に関する通則法28条),その間に生まれた子には嫡
出が推定されることから(民法772条1項),出生により法律上の父子関係が
成立し,嫡出子(婚内子)として当然に日本国籍を取得することになる。他方
で,外国人父と日本人母が結婚していない場合,その問に生まれた子(非嫡出子・
婚外子)については,母親との法律上の親子関係が出産という事実により無条
件に発生するため日本国籍が認められる。しかし,日本人父と外国人の母が結
339
横浜【巡隅ξ蒲…i斎法学第17巻第3号 (2009年3月)
婚していない場合,その間に生まれた子(非嫡子・婚外子)については、父親
の認知がなければ出生時に法律上の親子関係が認められないことになる(民法
779条)。
ところで,国籍取得の場合には,認知の遡及効(民法784条)が認められてい
ない1:)。父は子の「出生時」に確定している必要があり,国籍取得につき認知
の遡及効を認めると,非嫡出子の国籍は認知があるまで確定できないことや外
国人母の国籍を既に取得していることもあり得るので,国籍が不安定になる、
とされているからである(国籍の安定性)S:D。したがって,日本人父と外国人
母との間に生まれた非嫡出子につき,日本人父が生まれた後に認知をしても日
本国籍は認められないことになる14)。日本人父と外国人母の間に生まれ,出生
前に日本人父によって認知されなかった非嫡出子は,法務大臣の許可を得たう
えでの帰化による日本国籍の取得(国籍法4条)に頼らざるを得ないのである。
もっとも,外国人母が子を懐胎した場合に,日本人父がその子を胎児認知(民
法783条1項)すれば,国籍法2条1号によりその子は出生の時に日本国籍
を取得する,とする判決もある(最判平成9年10月17日民集51巻9号3925
頁)。したがって,日本人父と外国人母の問に生まれ,出生前に日本人父によっ
て認知されなかった非嫡出子は,日本国籍の取得という点で,結果として嫡出
子との関係だけでなく,出生前に認知された非嫡出子や,日本人母の非嫡出子
と比べて異なる取扱いを受けることになる。それどころか,日本国内で出生し
た場合,母が無国籍で父が不明の子ですら日本国籍を取得できること(2条3
項)と比べても,日本人父と外国人母の問に生まれt出生前に日本人父によっ
て認知されなかった非嫡出子は,日本国籍の取得に関して差別されることにな
る1㌔
(2)人権享有主体性
このような国籍の取得に関する差別について争う前提として,そもそもt出
生前に日本人父によって認知されなかった非嫡出子が日本国憲法の保障する人
340
内経閲係にある頂本人父と外国人母の非嫡出子の届出による国籍取得
権の享有主体であったのか,という疑問が生じてこよう16)。一般的には,無国
籍者を含む外国人は人権享有主体であるとされている17〕。最商裁も「憲法第3
章の諸規定による基本的人権の保障は,権利の性質上日本国民のみをその対象
としていると解されるものを除き,わが国に在留する外国人に対しても等しく
及ぶものと解すべきであ」るとする1帥eしたがって,出生前に日本人父によっ
て認知されなかった非嫡出子であるXも日本国憲法の保障する人権の享有主体
と言ってよいのである。
もっとも,本件最高裁判決は「憲法10条の規定は、国籍は国家の構成員と
しての資格であり,国籍の得喪に関する要件を定めるに当たってはそれぞれの
国の歴史的事情,伝統,政治的,社会的及び経済的環境等,璽々の要因を考慮
する必要があることから,これをどのように定めるかについて,立法府の裁量
判断にゆだねる趣旨のものであると解される」とする。さらに,横尾和子裁判
官,津野修裁判官,古田佑紀裁判官の反対意見は「国籍が基本的人権の保障等
を受ける上で重要な法的地位であるとしても,特定の国の国籍付与を権利とし
て請求することは認められないのが原則であ」るとしている。
しかし,「」且統主義を採用している以上,子どもが親の国籍を取得するのは,
当然のことである」1%また,「1血統主義をとる日本の国籍法の下では,本来,
日本国民の子は,婚姻内の子か婚姻外の子の区別なく、親との上血統に基づき出
生により『日本国籍の取得を期待しうる者』である」:’°)。よって,国籍取得に
関して立法によって採用される方策は,「『日本国籍の取得を期待しうる者』に
対して不必要に日本国籍の取得を妨げるものであってはなら」ない211。
このように「血統主義」を強く読み込めば出生前に日本人父によって認知
されなかった非嫡出子について,日本国籍の取得に関して排除が生じることに
は大きな問題があると言えよう鋤。したがって,「血統主義」を原則とするな
らば,基本的には親が国民である者は国民であるべきか,あるいは日本国民は
子に国籍を取得させる権利を有しておりZ”),子は平等権を援用して国籍の取得
を求めることができる,と言えようL4}。
341
横浜国際経済法学第17巻第3号(2009年3月)
2 法の下の平等
(1)国籍取得と法の下の平等
憲法14条1項は,法の下の平等を定めている。この規定に関してはT「平等
権」と「平等原則」を巡る論争が見られた書)。人権保障規定が人権の侵害の禁
止を公権力に義務付ける客観的な法原則としての意味を持つと同時に個人に具
体的な権利を保障する規範であることを踏まえると,「平等権」と「平等原則」
は互換的に用いられていると言えよう2G]。本件の場合,いずれにせよ, Xが国
籍取得に関して「他の人と異なって取り扱われていること」2了}が問題なのであ
り,そのような取扱いを受けないことを主張することができるのである。
法の下の平等における平等とは,様々な事実的・実質的な差異を前提として,
同一の事情と条件の下では均等に取扱う相対的平等を意味する2S)。本件最高裁
判決も,「日本国籍の取得に閤する法律の要件によって生じた区別が合理的
理由のない差別的取扱いとなるときは,憲法14条1項違反の問題を生ずるこ
とはいうまでもない」として,立法府に与えられた「裁量権を考慮してもtな
おそのような区別をすることの立法目的に合理的な根拠が認められない場合,
又はその具体的な区別と上記の立法目的との間に合理的関連性が認められない
場合には,当該区別は,合理的な理由のない差別として,同項に違反するもの
と解されることになる」とする。「我が国の構成員としての資格である」けれ
ども,「我が国において基本的人権の保障,公的資格の付与,公的給付等を受
ける上で意味を持つ重要な法的地位でもある」日本国籍の取得に関して,立法
府の裁量権を無限定に認めるのではなく,日本国籍の取得に関する法律の要件
によって生じた区別が合理的理由のない場合には,癌法14条1項によって制
約される,とするのは妥当であろう。
(2)非嫡出子と「社会的身分」
もっとも実際には,合理的な区別か,不合理な差別かの判断は難しい。憲法
14条1項後段にはt国民が「人種,信条,性別,社会的身分又は門地」により.
342
内縁関係にある日本人父と外国人母の非嫡出子の届出による国籍取得
「政治的,経済的又は社会的関係」において差別されないことが規定されている。
最高裁は,同項に「列挙された事由は例示されたものであって,必ずしもそれ
に限るものではない」(最大判昭和39年5月27日民集18巻4号678頁)とし
て、列挙事由に特別な法的意味を認めていない。列挙事由を例示的に解したと
しても,不合理な差別は14条1項前段によって全て禁止されることになるか
らである。では,これらの列挙事由は、単なる例示的なものであって全く法的
な意味がないと言い切れるのであろうか。
5つの列挙事由とは,歴史的に特に差別されてきた代表的なものであること
を踏まえると,差別の疑いが強いものと言えよう。したがって,列挙事由に基
づく取扱いの違いは,差別の疑いが強いものであるから,立法目的が必要不可
欠なものであり,立法目的達成手段が必要最小限度のものであるかを判断する
厳格審査によって合憲性が審査されるとする学説が有力になっている。このよ
うに解すると、列挙事由をそれぞれ定義することが重要となる。列挙事由に当
てはまるかどうかで,厳格審査が適用される対象となるか否かが決定されるか
らである。
本件のように「類型的な親子関係の差異を理由として国籍取得に区別を設け
ることは,むしろ子の『社会的身分』による差別を認容することにつながるお
それすらある」us)との主張も見られる。「社会的身分」について,最高裁は、
社会において+・一・一・時的にではなしに占める地位(広義説)と解する。しかし,列
挙事由に基づく取扱いの違いを差別の疑いが強いものと推定する立場をとる
と,広義説は,その定義が広きに失することになる。逆に,出生によって決定
され,自己の意思では離れることのできない固定した地位(狭義説)と解する
と,出生によって決定される社会的地位である「門地」とほほ同趣旨というこ
とになる。そこで,「門地」と異なる内容を持たせるためには,生来の身分の
ほかに,人が社会において一ll寺的ではなく占めている地位で,自分の力では脱
却できず,一定の社会的評価を伴う地位(中間説)と解するのが妥当とされて
きた。とは言え,列挙事由に基づく取扱いの違いを差別の疑いが強いものと推
343
横浜国際経済法学第17巻第3号 (2009年3Ji])
定し,合憲性の推定を排除し,厳格審査が適用されると解する場合,定義の意
味内容は明確でなければならない:1°)。「門地」を生来の身分のなかでも社会的
に「プラス評価」を伴うものであるとすると1・),「社会的身分」とは,社会に
おける継続的な地位で,自力では脱却できず,社会から「偏見(マイナス評価)」
をもって見られるものとして解することができるIL)eこのように解すると,生
来の身分のほかに,破産者や前科者も該当することになろう:B)e
最高裁は,非嫡出子が「社会的身分」に当たるか明言してこなかった。しか
し,非嫡出子翻、尊属35)や卑属といった親子関係は,出生により固定される
ので,「社会的身分」に該当するものと考えられる。本件最高裁判決では,「父
母の婚姻により嫡出子たる身分を取得するか否かということは,子にとっては
自らの意思や努力によっては変えることのできない父母の身分行為に係る事柄
である」との見解を示している。そして,自らの意思や努力によっては変える
ことのできない「事柄をもって日本国籍取得の要件に関して区別を生じさせる
ことに合理的な理由があるか否かについてはt慎重に検討することが必要であ
る」とする。
とは言え,自らの意思や努力によっては変えることのできない事柄に基づく
取扱いの違いについて「慎重に検討することが必要である」とするのは,その
検討の際に必要な具体的な判断基準の点から妥当ではなかろう。確かに最高裁
は,日本国籍取得の要件に関して区別を設ける立法目的の合理性とその立法目
的と認知に加えて準正をH本国籍取得の要件とすることとの問の合理的関連性
に着目することによって、国籍法3条1項を違憲と判断している。しかし,抽
象的に「慎重に検討することが必要である」とすることによって,裁判所が個
別具体的に合理的関連性を判断することになり.恣意約判断が入り込む危険性
が多くなる。自らの意思や努力によっては変えることのできない事柄に基づく
取扱いの違いについては,明確な基準に基づき合憲性を厳格に判断すべきであ
ろう。
344
内縁閏係にある日本人父と外国人母の非嫡出子の届出による国籍取得
3 非嫡出子の国籍取得合憲性
(1)立法目的
国籍法3条1項は,1984(昭和59)年の国籍法改正によって「出生による
国籍の取得について父母両系血.統主義が採用された際に,出生時に日本国民の
嫡出子である子との均衡を図ることを目的として新設された制度である」:旧。
そして,この「出生1時に日本国民の嫡出子である子との均衡を図ること」自体
は,正当なものであるとの主張も見られる:刑。
もっとも,国籍法3条1項が「Jfn統主義を補完する制度として導入された」w)
ことを踏まえると,国籍法3条1項の立法目的について考察するには,「」血L統
主義」に基づく国籍の取得について規定している国籍法2条1号についても検
討する必要があろう。最高裁は,国籍法2条1号を「日本国籍の生来的な取得
についていわゆる父母両系血統主義を採用したものであるが,単なる人間の生
物学的出自を示す」阯統を絶対視するものではなく,子の出生時に日本人の父又
は母と法律上の親子関係があることをもって我が国と密接な関係があるとして
国籍を付与しようとするものである」とする。
そして,その目的として「生来的な国籍の取得はできる限り子の出生時に確
定的に決定されることが望ましい」と「国籍の浮動性の防止」を挙げている。
例えば,父の生後認知により,子又は母の意思に関係なく当然に日本国籍の取
得を認めることは,子の原国籍を喪失するといった深刻な弊害が生じる可能性
もあるし,個人の尊厳の理念にそぐわないと言えるかもしれない鋤。「国籍の
浮動性の防止」という立法目的は,様々な不便と困難4帥をもたらす「重国籍
の防止」などの観点からtあるいは必要不可欠なものなのかもしれない。
とは言え,生活関係の国際化,多様化のもとで,国際結婚した夫婦や家族に
とって重国籍が認められないことは,実生活のうえで不合理な結果が生じるこ
ともあるil)。また,国籍が人権保障の必須要件ではないとするとt「国籍の浮
動性の防止」という立法目的は.果たして必要不可欠とまで言えるのか疑問で
ある。
345
横浜国蹄経済法学第17巻第3』号(2009年3月)
では,このような「国籍の浮動性の防止」という立法E的を達成するための
手段は,必要最小限のものと言うことができるのであろうか。国籍取得に関す
る争いの多くが乳幼児であることを踏まえれば,早期の保護が必要となってく
る・1:)。認知による国籍取得を一定年齢の未成年者までに限定すれば,「国籍の
浮動性の防止」を害することはなかろう。本件最高裁判決に対して「手段審査
では立法事実について比較的丹念な検証がなされ,併せて日本国民の父から胎
児認知された子等との区別も検討されていることから,本判決は単なる合理性
の基準よりも厳しく審査している」との評価も見られる41t)。
(2)立法目的達成手段
国籍法2条1号の立法目的を踏まえて,最高裁は「出生後に認知されるか否
かは出生の時点では未確定であるから,法2条1号が,子が日本人の父から出
生後に認知されたことにより出生時にさかのぼって法律上の父子関係が存在す
るものとは認めずt出生後の認知だけでは日本国籍の生来的な取得を認めない
ものとしていることには,合理的な根拠があるというべきである」とする(最
判平成14年11月22日判時1808号55頁)。
もっとも,D血統主義」を「子が,その出生に際し,親の」血統に従って,親
と同じ国籍を取得する主義」であって,「国家が自国国民から生まれた子に,
自国の国籍の取得を認める主義」4−1)であると解した場合,認知と準正との問に
国籍取得に閤して不均衡が生じることは整合的ではない一tS)。1984年国籍法改
正の際にも「法律上の親子関係の成立を認める点では認知も準正も同じではな
いか」,「血統主義を採用している以上,認知の場合と準正の場合とを区別すべ
き合理的な理由はあまりないのではないか」と主張されていた+S「〕。
これに対して,認知の場合と準正の場合とを区別する理由としては.仮装認
知による悪用のおそれがあること’S7),単なる認知の場合には,準正の場合と異
なり,認知した者と子との問に生活の一体化がないことが多く,両:者には生活
実態に差があると考えられていることaS”)などが挙げられてきた4%これらの
346
内縁間係にある日本人父と外固人母の非嫡出子の届出による国籍取得
準正要件を設ける理由が正当なものでなければ,認知の場合と準正の場合とを
区別することが正当なものではないと言うことができるだろう。
仮装認知による悪用のおそれについては,学説からも既に批判されているこ
とを踏まえると,本件最高裁判決が示すように「父母の婚姻により子が嫡出子
たる身分を取得することを日本国籍取得の要件とすること」と「仮装行為によ
る国籍取得の防止」との間には合理的関連性があると積極的に解することは難
しいだろう。
生活実態の差について,本件最高裁判決は「国籍法3条1項の規定が設けら
れた当時の社会通念や社会的状況の下においては⊥「同項の規定が認知に加え
て準正を日本国籍取得の要件としたことには、上記の立法目的との問に一定の
合理的関連性があった」とする。しかしt「今日では,出生数に占める非嫡出
子の割合が増加するなど,家族生活や親子関係の実態も変化し多様化してきて
いる」と社会状況の変化を指摘している。そして「両親の一方のみが日本国民
である場合には,同居の有無など家族生活の実態においても,法律上の婚姻や
それを背景とした親子関係の在り方についての認識においても,両親が日本国
民である場合と比べてより複雑多様な面があり,その子と我が国との結び付き
の強弱を両親が法律上の婚姻をしているか否かをもって直ちに測ることはでき
ない」との認識を示す。そして,「日本国民である父が日本国民でない母と法
律上の婚姻をしたことをもって,初めて子に日本国籍を与えるに足りるだけの
我が国との密接な結び付きが認められるものとすることは,今日では必ずしも
家族生活等の実態に適合するものということはできない」としている。
これまでの下級審判決のなかにも「子が日本国民である親と生活の同一性が
あるとか我が国との強い結びつきがあるといった事情がなくとも,国籍法2条
1項により国籍の取得が認められることがあり,逆にこのような事情があって
も,同法3条1項が適用されないときもあることを考えると,国籍法の解釈上,
我が国との結びつきないし帰属関係が強いこと,具体的には日本国国民である
父との生活の同一性等を,父母両系ユflll統主義と並び立つような重要な理念と位
347
描浜国際経済法学第17巻第3号{2009年3月)
置付けることはできない」とするものも見られる(東京地判平成18年3月29
日判時1932号51頁)。父母が法律上の婚姻閤係にあることと,子が「我が国
と密接な関係」にあることとの間に相関関係があると認めることは難しいだろ
う。父母が法律上の婚姻関係にあるか否かは,子が「我が国と密接な関係」に
あるか否かを端的に示すものではないのである。
また,日本国民である父から胎児認知された子と出生後に認知された子との
間に「日本国罵である父との家族生活を通じた我が国社会との結び付きの程度
に一般的な差異が存する」と解した場合,「我が国社会との結び付きの程度」
の違いとは,どこに具体的に現れてくるのであろうか。胎児認知と出生後の認
知の違いは,父としての確信性の差異を示すものではないEia)。例えば,前夫と
の離婚が成立していない女性との間に生まれた子の場合、嫡出推定(民法772
条1項)のため,現在の夫は胎児認知ができない。前夫との離婚の成立後,親子
関係不存在確認訴訟によって前夫と子の親子関係が否定されなければ,現在の
夫の子として認知できないといった「特別の事情」などもあり得るのである51)。
胎児認知された子と出生後に認知された子との間に「我が国社会との結び付き
の程度」に違いがあると捉えることは,本件最高裁判決が示すように難しいよ
うに思われる。
たとえ簡易帰化の制度(国籍法8条1号)が設けられているとしても,「帰
化は法務大臣の裁量行為であり,同号所定の条件を満たす者であっても当然に
日本国籍を取得するわけではない」。このことを踏まえると,父母が法律上の
婚姻閲係にない非嫡出子の日本国籍の取得を,簡易帰化による日本国籍の取得
によって完全に補完することはできないのである。
このように考えると,国籍法3条1項の準正要件は,立法目的を達成するた
めの必要最小限度の手段とは言えないように思われる。日本人父の非嫡出子に
限り,父母が婚姻しなければ,帰化によって日本国籍を取得できないとするの
は,やはり憲法14条1項に違反するのである。最商裁の本件における違憲判
断は,結果としては妥当であると考えられる。
348
内kl]N係にある目本人父と外国人母の非嫡出子の届出による国籍取得
おわりに
国籍法3条1項については,従来多くの学説によって,世界的に非嫡出子と
嫡出子の平等化がみられることなどを考慮し,血統主義を徹底して,国籍取得
に関して準正の場合と認知の場合とを平等に取扱うべきであるとの批判が立法
論として提起されてきた5z)。本件最高裁判決においても「国籍法3条1項の規
定が設けられた後 自国民である父の非嫡出子について準正を国籍取得の要件
としていた多くの国において.今日までに,認知等により自国民との父子閤係
の成立が認められた場合にはそれだけで自国籍の取得を認める旨の法改正が行
われている」ことが指摘されている。
そして「国籍法3条1項の規定は,日本国籍の取得につき合理性を欠いた過
剰な要件を課するものとなっているというべきである」とする。もっとも反対
意見において,違憲となるのは非準正子に届出により国籍を付与するという規
定が存在しないという立法不作為の状態なのであるとして,「準iE子に係る部
分を取り除けば,同項の主体が認知を受けた子全般に拡大するということには
いかにも無理がある」との指摘も一理あろう。藤田裁判官意見も述べているよ
うに,国籍法3条1項の存在を前提とする以上,現に生じている違憲状態を解
消するためには,非準正子についても準正子と同様の扱いとすることが,ごく
自然な方法である。国籍法3条1項の合理的解釈によって違憲状態を解消しよ
うとするならば,それは「過剰な」部分を除くことによってではなく、「不十
分な」部分を補充することによってでなければならないのかもしれない。
本件最高裁判決を受けて,2008年11月4日,日本人父によって出生後に認
知された非嫡出子が日本国籍を取得することができるようにする国籍法改正案
が閣議決定された=sc)。その後の紆余曲折を経てM),改正国籍法が同年12月5
日に参議院本会議で賛成多数で可決されて成立した。その際には,虚偽認知の
防止策を盛り込んだ附帯決議割も採択された。
改正により,1)両親が結婚しているかに関わりなく,出生後.日本人父の
349
横浜国際経済法学第17巻第3号(2GO9年3月)
認知によって子がEI本国籍を取得することを認める,2)2003年1月以降に改
正国籍法の条件を満たしている者は,遡って日本国籍の取得を認める,3)虚
偽の国籍届出に対する罰則などが新たに規定されることになった軌しかし,
「仮装認知」の増加などに対する懸念は今なお残されているt7)oとは言え,違
憲とされた旧国籍法に戻ることは最早できない。改正国籍法によって不都合が
生じる可能性がある場合には,旧国籍法とは異なる対応をしなければならない
のである。本件最高裁判決は,違憲とされた法令やその運用を認めることがで
きないことを改めて認識させることになったのではなかろうか。
1)東京地判平成17年4月13日判時1890号27頁。本判決の評釈として,近藤敦「判批」法学
セミナー607号(2005年)118頁,峯金容子「判批」民事研修581号(2005年)33 ft、清
水真琴「判批」民事月報60巻9号(2005年)36頁,近藤敦「判批」判例セレクト2005〔法
教306号別冊付録〕(2006年)4頁,君塚正臣「liuJ批」判例評論566号(2006年)176頁な
ど参照。
2)東京高判平成18年2月28日家月58巻6号47頁。
3)最大判平成20年6月4日民集62巻6号1367頁。本判決の評釈などとして,奥田安弘「国
籍法違憲訴訟に関する最高裁大法廷判決」法律時報80巻10号(20e8年).森英明「判批」ジュ
リスト1366号(2008年)93頁,榎透「判批」法学セミナー645号(2008年)126頁.竹下
啓介「判批」法学セミナー647号(2008年)6頁,高橋和之=岩沢雄司=早川眞一郎「鼎談・
国籍法違憲判決をめく・bて」ジュ1」スト1366号{2008年)44頁.長谷部恭男「判批」ジュ
リストユ366号(2008年)77頁などがある。
4)最判平成14年11月22日判時1808号55頁。本判決の評釈としてt二宮周平「判批」戸籍
時報554号(2003年)11頁,薔敏文「判批」平成14年度重要判例解説(2003年)281頁.
横溝大「判批」法学教室272号{2003年)118頁,国友明彦「判批」ジュリスト1257号(2003年)
129頁.澤田雀三「判批」戸籍747号(2003年)1頁,村重慶一「判批」戸籍時報560号(2003
年)50頁,山元一「判批」判例セレクト2003〔法教282号別冊付録〕(2004年)5頁など参照。
5)佐野寛「判批」判例評6完539号(2004年)164,167頁参照。
6) 二宮’前掲註4)ユ3頁。
7)東京地判平成ユ8年3月29日判時1932号51頁。本{牛の評釈として、高佐{智美「判批J法学
セミナー620号(2006年)6頁t甲斐素直「判批」tl“1例評論577号{2007,年)180頁など参照。
S) 東京高判平成19年2月27日判例集未登載。
裁判所ホー一ムページ(http:〃www.courts.go.jp/hanrei/pd f,/20071016113022.pdf)参照。
350
内縁閲係にある日本人父と外国人母の非嫡出子の届出による国籍取得
9) 榎・llif掲註3)126頁参旦1[。
10)江川英文=山田錐一=早田芳郎r国籍法』〔第3版〕(宥斐閣,1997年)63頁参照。
11)最判平成9年10月17日民集51巻9号3925頁。本判決の評釈として.佐藤やよひ「判批」
ジュリスト1134号(1998年)132頁,大橋寛明「判批」ジュリスト1132号(199S年)103
頁,藤下健「判批」法律のひろば51巻11号(1998年)32頁.国友明産「判批」平成9年
度重要判例解説(1998年)285頁.同「判批」国際私法判例百選〔新法対応補正版〕{2007年)
212頁など参照。
12)奥田安弘「家族と国籍一国際化の進むなかで」〔補訂版〕(有斐閣.2003年)ユ2[L121頁参照。
13)木棚照一「国籍法逐条解説{5)」戸籍時報467号(1996年)12頁参照。
14)国友明彦「家族と国籍」国際法学会編『日本と国際法の100年第5巻:個人と家族』(三省堂,
2001年)109頁以下参照。
15)君塚・前掲註1)178頁。
16)君塚・同上同頁参照。
17〕芦部信喜『憲法学fi人描総論』(有斐IUI,1994年)121頁以下,松井直之「判批」横浜国際
経済法学17巻1号(2008年)201頁以下参照。
IS)最大判昭和53年10月4日民集32巻7号1223頁。本判決の評釈として,齋藤蛸夫「判批」
憲法判例百選1〔第5版〕(2007年)6頁など参照。
19)奥田安弘『家族と国鯖一国際化の進むなかで』〔補訂版〕(有斐悶,2003年)ユ27頁。
20)鳥居淳子「判批」ジュリスト1197号(2001年)94頁。
21)藤井俊夫「判批」判例評治273号(1981年)21頁e
22)山元・前掲註4)5頁参照。
23)松井茂記『H本固憲法」〔第3版](有斐悶,2007年)314頁参照。
24)君塚・前掲註1)179頁。
25)辻村みよ子教授は,金城溝子教授からの憲法14条の解釈をめぐる憲法学への批判と問題提
起を踏まえたうえでT「平等権」と「平等原則」の]YJ係について「仮に『〔裁判規範性の点に
変りがなければ)区別の実質的意味はない」としても,歴史的用法上も憲法理論上も区別可
能であって」,「それをめぐる理論的・解釈論的検討を怠ってはならないように思われる」と
する。そして,両者の区別に批判酌な見解は「男女平等原則違反といoても女性の平等権違
反といってもよいとするが,たとえ結果が同じ{無効)であっても,当王lr者適格の問題以外
にも憲法論上の理論構成は異なるはずであ1),その差異を明確にしていくことが憲法学の課
題ではないだろうか」と主張する(辻村みよ子「女性の権利と「平等」一「男女平等欄を
めぐる諭争と現行法制上の諸問題」杉原泰雄=樋口F島一『論争憲法学」(日本評論社,1994年)
202・206頁参照)。
26)芦部信喜「憲法学皿人権各論(1)』〔増補版〕(有斐摺,2000年)17−19頁参照。
27)松井・前掲註23)371頁。
28)芦部・前掲註26)20頁参照。
29)鳥居・前掲註20)93頁.佐野寛「判批」判例評論539号(2004年)166頁参照。
30) 松Jl:・1il「掲n主23)388頁参据{。
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横浜国際経済法学第17巻第3号(2009年3月)
31)渋谷秀樹『池i渕(有斐閣,2007年)199頁。
32}渋谷・同上198頁。
33)渋谷・同上同頁。
34}最大決平成7年7月5N民集49巻7男・17S9頁。
35)最大判昭和48年4月4日Il』集27巻3号265頁。
36)峰金・前掲註1)40頁。
37)峰金・同上41頁,清水・前掲註1)51頁参照。
38)溜池良夫『国際私法講義』〔第3版〕(有斐iRl,2005年)104頁参照。
39)国友・前掲註14)99頁参照。これは,(昭和25)年の国籍法改正の際に,旧国籍法が認めて
いた身分行為による国籍取得を廃止した理由の1つでもある{溜池・同上同頁参照)。
40)其体的には,「重国籍の場合,同一の個人が複数の国家から国民としての義務,たとえば兵
役義務の履行を要求され,著しい不利益をこうむることがあ」ることなどが指摘されている
(}工Jlllま」カ・・1∼1「ナ局註10)22−23頁参1照}。
41)奥田・前掲註19)22−23頁参照。
42)奥田安弘『国籍法と国際親子法」〔有斐摺,2004年〕191頁参照。
43)榎・前掲註3)126頁。
44)江川ほか・前掲註10)59頁。
45)峯金・前掲註1)38頁.近藤・前掲註1)4頁参照。
46)池原季雄呈久保田きぬ子=塩野宏=田申康久=林良平=宮崎繁樹=山田鐡一「座談会・国籍
法改正に関する中間試案をめぐって(上)」ジュリスト788号(1983年)20頁〔山田銃一発言〕。
47)山田錐一「国籍法改正に閨する中間試案」法学教室32号(1983年)78頁参照。
48)池原ほか・前掲註46)20頁〔田申康久発雷〕ロ
49〕溜池・前掲註38)104頁,細川清「改正国籍法の概要」法務省民事局内法務研究会編「改正国籍法↑
戸籍法の解説玉(金融財政皐情研究会,1985年)8頁。
50>奥田・前掲註42)199頁参照。
51)高佐・前掲註η7頁参照。
52)江川ほか・前掲註10〕91頁以下,木棚照一一「国籍法の改正一国籍法はどの程度f国際化』さ
れたか」法学セミナー一 359号{1984年}60頁参照。
53)朝日新聞2008年11月4日夕刊14而。
54)朝日新聞2008年11月27B朝刊5而。
55〕「国籍法の一部を改正する法律案に対する附帯9と議」参議院ホームページ(http://www.
sangiingo.jp/japanese/gianjohe/ketsugi/170/fO65_120401.pd.f#search=’国籍法改正付帯決議
1}参照。
56)朝日新聞2008年12月5日夕刊1而。
57) 臣刀日新II}J 2008ゴF 12月51ヨ朝干lj 2 iif] o
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