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初期マルクスにおける物象の主体化について

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初期マルクスにおける物象の主体化について
Reserch
1988,
原
Journal
著
3, 23-32
初期 マ ル ク ス にお け る物 象 の主 体化 につ いて
佐
ON
THE
藤
SUBJECTIVATION
OF
Tomio
Atomi
Gakuen
Women'
富
雄
THINGS
IN EARLY
MARX
SATO
s University,
Niiza-shi,
Saitama
352
When the theoretical change of K.Marx is argued, generaly we think that the theoretical cutting between early
Marx and after Marx is important. It is the transference from the alienation theory to the reification theory. Even
if there are different views on the time of the transference, there is no objection to the difference itself of the
theoretical construction.
However the theoretical cutting is so emphasized that we tend to overlook the continuation of theoretical
intrest from early Marx to after Marx. K.Marx had continued the elucidation of subjectivation of things by the
different theoretical constructions. In this paper, the continuation of Marx's interest is made clear.
Key words: Alienation, Fetishism, Reification, Subjectivation,
Karl Marx
24
研 究 報 告1988年
は じめ に
マ ル クス の 理 論 的変 遷 が 問題 と され る とき ,一
般 に 初 期 マ ル クス か ら後 期 マ ル クス へ の理 論 的 切
断 に 焦 点 が お か れ る。 す な わ ち,疎 外 論 か ら物 象
化 論 へ の 移 行 が 議 論 の 中 心 とな っ て きた。 移 行 の
時 期 が 問 題 とな る と して も,初 期 と後 期 の理 論 構
第4号
る。 しか しな が ら,こ の論 文 で は,木 材 と一 体 に
な らな け れ ば な らな い人 間 の社 会 的存 在 が 意 識 を
規 定 す る とい う事実 を人 間の 普 遍 的 な あ り方 と し
て 記 述 して い る の で は な く,私 有 財 産 が主 体 化 し
て 人 間 を 規 定 して い る とい う主 体 と客 体 と の関 係
の 転 倒 に 対 す る批 判 と して書 か れ て い る。 さ らに
成 の 相 違 に 関 して は す で に 異論 の余 地 が な い とこ
ろ で あ る。 した が って,本 論 で は,マ ル ク ス の理
い え ば,私 有 財産 の存 在 そ の も の に対 す る批 判 で
論 構 成 の 移 行 に 関 して は 詳 細 に 論ず る こ とは しな
い 。 む しろ,理 論 構 成 の 移 行 を 前提 と しなが ら,
せ て し ま うよ うな意 識 に対 す る批 判 に議 論 の中 心
は な く,私 有 財産 と人間(客 体 と主 体)を 転 倒 さ
が あ る。(1)
物 象 の 主 体 化 の 解 明 とい うテ ー マ が初 期 か ら後 期
に か け て 一 貫 して い る流 れ て い る 点 を 明 らか に し
た い 。 とい うの も,理 論構 成 の切 断 が強 調 され る
あ ま り,初 期 と後 期 の 連 続 性 が 見落 とされ が ちだ
か らで あ る。
1物
神崇拝 に対す る批判
1.物神 崇 拝 の モ チ ー フ の 登 場
一 意 識 に 対 す る批 判 一
物 神 崇 拝 の モ チ ーフ が最 初 に あ らわ れ た の は,
1842年 に ライ ン新 聞 に掲 載 され た 木 材 窃 盗 取 締 法
を 批 判 す る論 文 に お い て で あ る。 こ の論 文 に お い
て マ ル クス は,ラ イ ン州 議 会 で の木 材 窃 盗取 締 法
2.物神 崇 拝 の現 実 的基 盤 に対 す る批 判
物 神 崇 拝 の モ チ ー フが 貨 幣 崇 拝 と い うか た ち で
明 確 に 展 開 され た の は,1843年
秋 に書 か れ た と推
定 され,1844年 二 月 のr独 仏 年 誌 』 に発 表 され た
「ユ ダ ヤ 人 問題 に よせ て 」 で あ る。 この 論 文 に お
い て,マ ル ク ス は,私 的 利 害 を 優 先 させ,人 間 的
価 値 を無 視す る利 己 的 な 意 識 に 対 す る批 判 に と ど
ま らず,利 己的 な意 識 を 支 配 して い る貨 幣 と私 有
財産 そ の もの の存 在 に 批 判 の 眼 を む け る。
マ ル クス は こ の論 文 に お い て,バ ウ アー の ユ ダ
ヤ人 の解 放 に関 す る論文 を 批 判す る とい う形式 を
と りな が ら,ユ ダ ヤ人 の 政 治 的 ・宗 教 的解 放 の 問
に 関す る審 議 内容 を批 判 的 に 検 討 し,ラ イ ン州 議
題 を 市 民 社 会 に お け る人 間 的 解放 の 問題 へ と転 回
させ て い る。② す な わ ち,ユ ダ ヤ教(3)の 現 世 的 基
会 とい う身分 制 議 会 が 木 材 と言 う非 人 間 的 な物 的
盤 で あ る実 際 的 欲 求 と利 己 主 義 が そ の 原 理 と な
な存 在 を 自ら の王 座 に まつ りあ げ,自 らの神 と し
て い る 点 を批 判 してい る。 私 的利 害 を代 表 す る身
り,ユ ダ ヤ人 の 世 俗 的 な神 で あ る 貨 幣 が そ の神 と
分 制 議 会 に と っ て,木
材 と い う私 有 財 産 が 物 神
(Fetisch)と な って い る事 実 を 批 判 す る の で あ
る。 しか し,こ の論 文 で は,『 経 済 学 ・哲 学 草稿 』
な った 市 民 社 会 を 批 判 し,市 民 社 会 に お け る人 間
的 解 放 を 貨 幣 と私 有財 産 の廃 棄 に 求 め る。 マル ク
スは 貨 幣 に つ い て 次 の よ うに 述 べ て い る。 「貨 幣
は 人 間 の 一 切 の 神 を いや しめ,そ れ らを商 品 に変
で の よ うに 自立 的 な 力 を もち主 体 化 した 私 有 財 産
え る。 貨 幣 は あ らゆ る一 般 的 な,自 立 的 な も の と
の存 在 そ の もの に 批判 の 目が 向 け られ てい る とい
して構 成 され た価 値 で あ る。 だ か らそ れ は 全 世 界
か ら,人 間界 か ら も 自然 か ら も,そ れ らに 固有 の
うよ り,む しろ,「低 劣 な物 質 主 義 」に対 す る批 判
に 論 議 の 中 心 が 置 かれ て い る。 す なわ ち,慣 習 的
に 森 林 で の枯 れ 枝集 め が許 され て いた 農 民 の 利害
価 値 を 奪 って しま った 。 貨 幣 は,人 間 の 労 働 と存
よ りも私 有財 産 所 有 者 の利 害 を 優 先 して 枯 れ 枝集
在(Dasein)と
が 人 間か ら疎 外 され た も の で あ っ
て,こ の疎 外 され た もの が 人 間 を 支 配 し,人 間 は
め を 禁 止 して し ま う とい う,人 間 よ りも私 有 財産
これ を崇 拝 す る ので あ る。」(4)
を優 先 させ る よ うな意 識 に対 す る批 判 に 主 眼 が置
か れ て い るの で あ る。
こ の よ うに,あ らゆ る もの を商 品,す な わ ち譲
もち ろん,し ば しば指 摘 され る よ うに,こ の論
渡 可 能 な も の に変 え,あ らゆ る もの の 固有 の価 値
を奪 う貨 幣 が 人 間 に よ って崇 拝 さ れ る こ とに よ っ
文 に 史 的 唯物 論 の発 端 が あ る と も考 え る こ とが で
て,類 的 関 係 や 男 女 の 関 係 も取 り引 きの対 象 とな
き る。 利 己心 を た ん に意 識 の面 か らの み で な く,
り,「 自己 目的 と しての 人 間 」 の 蔑 視 が 生 ず る と
マル ク ス は論L"て い る。 貨 幣 を神 とす る利 己的 な
それ を 規定 す る私 有 財 産 との 関 連 で と らえ て い る
点 で は,マ ル クス の理 論 発 展 に と って は重 要 で あ
意 識 ・欲 求 の も とで は,人 間 は,自
らの生 産 物 お
佐 藤:初 期 マル クス に お け る物 象 の 主 体 化 に つ い て
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よび 活 動 を貨 幣 とい う疎 遠 な もの の 支配 下 にお い
済 学 そ の もの か らそれ に 特 有 の言 葉 を も っ て 」⑥
て,そ の疎 遠 な存 在=貨 幣 の 意 味 を 与 え る こ とに
労 働 者 の惨 め な商 品へ の転 落,少 数 者 へ の 資 本 の
よ って しか実 際 に活 動 し,生 産 物 を つ く りだ す こ
集 中 と独 占,有 産 者 と無 産 者(資 本 家 と労 働 者)
とい う二 大 階 級 へ の分 裂 な ど,市 民 社 会 の 否 定 的
とが で きな い の で あ る。 マ ル クス は,利 己 的 な意
識 や 欲 求 の うち に人 間 固 有 の 価 値 を 奪 い,人 間 の
な側 面 を描 き 出 して い る。 そ の 中で マ ル ク スは 私
類 的 紐 帯 を 引 き裂 く原 因 を 見 出 して 入 る のだ が,
「ユ ダ ヤ人 問題 に よせ て 」 で は,そ うした利 己 的
有 財 産 ・貨 幣 ・資 本 な ど物 的 な ものが 主 体 化 す る
こ と に よっ て,そ うした否 定 的 な側 面 が 現 象 して
な 意 識 の批 判 に と どま って は い な い 。利 己的 意 識
くる こ とを 明 らか に して い る。
を 現 実 的 に支 配 してい る貨 幣 と私 有 財産 に批 判 の
眼 を 向け,貨 幣 と私 有 財 産 が 廃 棄 され れ ば,利 己
市 民 社 会 に おい て は,利 潤 追 及 と競 争 に よ って
生 み 出 され る経 済 法則 が人 間 を支 配 す る こ と,ま
的 な 意 識 や欲 求 の現 実 的 な 対 象 が 失 われ,利 己 的
た 経 済 法 則 の貫 徹 に よ って貨 幣 とい う死 ん だ 物 質
な 意 識 そ の もの が不 可 能 に な る と結 論 づ け る ので
に よ っ て人 間 が 完 全 に支 配 され て い るた め に,労
あ る。
働 者 の商 品へ の転 落,小 数 者 へ の資 本 の集 中 な ど
が 生 ず る こと な どが 明 らか に され る。 さ らに,市
以 上 の よ うに,「 ユ ダ ヤ 人 問題 に よせ て 」 で は,
私 有 財 産 を 崇拝 す る意 識 の 批 判 か ら,貨 幣 や 私 有
民 社 会 の批 判 的 解 明 は,経 済 法 則 を 絶 対 視 し,人
財 産 な ど物 的 な ものが 人 間 の 意 識 ・活動 を規 定 し
て い る こ とへ の批 判 へ とマ ル ク スの 関心 は変 化 す
間 そ の も の の あ り方 を無 視 す る 国民 経 済 学 に 対 す
る批 判 と もな って い る。
る。(5)その 後,市 民 社 会 に おけ る物 的 な もの に よ
る人 間 の 支 配 を批 判 的 に 解 明 す るた め に,マ ル ク
スは 市 民社 会 に つ いて の 学 で あ る国 民経 済 学 の批
「所 得 の三 源 泉 」(7)断
片の 「
資 本 の利 潤 」欄 に お
い て マ ル クス は,資 本 や利 潤 率,蓄 積,競 争,独
判 的 研 究 を本 格 的 に始 め る こ とに な るの で あ る。
「ユ ダ ヤ入 問題 に よせ て 」 に お い て は私 有 財 産 と
を 通 して,市 民 社 会 の運 動 原 理 を 明 らか に して い
占 な ど とい った 国 民経 済 学 に お け る基 本 的 諸 概 念
貨 幣 の い わ ゆ る概 念 的 把 握 は 行 わ れ て い な いが,
く。 こ こ での 焦 点 は,私 有 財 産 を 自 明の 前 提 と し
て市 民 社 会 の運 動原 理 を的 確 に とら え る国 民 経 済
そ こで 用 い られ た フ ォイ エ ル バ ッハ の宗 教 批 判 の
学が 「
人 間 に 対 す る無 関 心 」 に 基 づ い て い る こ
論 理(e疎
外 の論 理)は,国
民 経 済 学 の批 判 的 研
と,さ ら には 資 本 に よっ て構 成 され る市 民 社 会 の
究 に お い て は私 有 財 産 お よび 貨 幣 の 生成 の概 念 的
運 動 原 理 自体 が 人 間 を無 視 し支 配 して い る事 実 を
把 握 を 行 うた め に用 い られ る こ とに な る。
明 らか にす る こ とに あ る。 マル ク ス は,リ カー ド
が 「人 間 は消 費 し生産 す るた め の機 械 で あ る。 人
II資 本の運動法則 と非人格的関係
間 の 生 命 は一 つ の 資本 で あ る。 経 済 法 則 は 世 界 を
1.資本 の運 動 法則 の 貫 徹
盲 目的 に支 配 す る」(8)と
述 べ て い る こ とを 評 して,
「リカ ー ドに と って 人 間 は無 で あ り生 産 物 が す べ
1843年 に ライ ン新 聞 を 退 きパ リに 移 った マ ル ク
ス は,国 民 経 済 学 の批 判 的 研 究 を 本 格 的 に 開始 す
てで あ るJと
る。 マ ル クス は,国 民 経 済 学 の 批 判 的研 究 を通 し
て,私 有財 産 ・貨 幣 ・資 本 な ど物 的 な もの に よる
対 視 し,経 済 法 則 に よ る人 間支 配 と人 間無 視 を 自
人 間 支 配 とそ れ ら物 的 な もの の 絶 対 視 に対 す る批
して い る。 国民 経 済 学 の基 本 的 性 格
が,経 済法 則(資 本 の運 動 法 則,交 換 法 則)を 絶
明視 す る こ とに あ る と指 摘 して い る の で あ る。 マ
ル ク ス に とっ て こ うした 資 本 の運 動 法 則 の絶 対 化
判 を 行 うの で あ る。 こ う した 視 点 か らの,国 民 経
と人 間無 視 は,同 時 に 市 民社 会 の性 格 で も あ る。
済 学 の 批判 的 研 究 お よび マ ル クス 独 自の経 済 学 的
資 本 家 は,個 々 に,唯 一 の 目的 で あ る利 潤 率 の 増
大 を追 及 す る。 しか し,競 争 か ら生ず る資 本 法 則
に よっ て一 方 に資 本 家 の 没 落 が,他 方 に資 本 の 集
展 開 は,マ ル クス晩 年 の 『資 本 論 』 に 至 る ま で一
貫 して 行 わ れ るが,そ の 最 初 の 成 果 がr経 済学 ・
哲 学 草稿 』 で あ る。
『経哲 草 稿 』 第一 草 稿 の 「
疎 外 され た 労働 」 断
中 ・独 占 が生 ず る。 そ の 独 占に よ って労 賃 は 最 低
限(生 存 費)に まで 引 き下 げ られ,労 働 者 は 窮 乏
の な か に投 げ 入れ られ る。 経 済法 則 の人 間 無 視 の
片 に 先立 つ,い わ ゆ る 「
所 得 の 三 源 泉」 断片 に お
い て,マ ル クス は 国民 経 済 学 の 諸 概 念,諸 法 則 を
性 格 は 労働 者 に端 的 に 現 れ るが,資 本 家 も また 経
前 提 に し,国 民経 済 学 に 内在 し な が ら,「 国 民 経
済 法 則 に従 わ な けれ ば 没 落 す る とい う意 味 で,経
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研 究 報 告1988年
第4号
済 法 則 に よ って 支 配 され る の で あ る。
家,一 個 の 人 格 と化 す る もの で あ る。」⑬ とマ ル ク
ス は述 べ て お り,さ らに 続 け て,土 地 所 有 者 と農
2.人格 的 支 配 関 係 の 消 滅一 貨 幣 貴 族 制 の 完 成一
奴 との 関 係 も,資 本 と商 品 と して の労 働 者 との関
係 の よ うに抽 象 的 な関 係 に あ るの で は な く,所 有
一被 所 有 関係
,畏 敬 関 係,義 務 関 係 とい った 直 接
「地 代」 欄 に お い て は,地 主 階 級 の消 滅 と労 働
者 階級 と資 本 家 階 級 とい うこ二
大 階 級 へ の二 極 分 化
の 必 然 性 を論 ず る こ とを通 して,市 民 社 会 に お け
る資 本 の運 動 法則 の貫 徹,さ
らに 産 業 資 本 とそ の
的 に人 格 的 ・政 治 的 関 係 に あ る と論 じて い る。 所
有地 の支 配 とい っ て も,封 建 的所 有 地 とそ の 所 有
担 い手 た る貨 幣 に よる人 間 の支 配 を 明 らか に して
い る。 工 業 生 産 の 支 配 的 と な っ た 社 会 に お い て
者 ・耕 作 者 との関 係 は,歴 史 的 に 個 性 化 され て 身
は,利 潤 追 求 を行 うか ぎ り,国 民 経 済学 が 市 民社
私 有 財 産 に よ る人 間 に対 す る非 人 格 的 な 支 配 は 人
会 の基 盤 と して承 認 す る私 有 財産 と利 害 対 立 に基
づ く競 争 原 理 が地 主 階 級 の 間 で も支 配 的 とな る。
格 的 な支 配 関 係 に よ って覆 い 隠 さ れ て い る の で あ
る。
分 的 ・政 治 的 な 人 格 的 関 係 とな っ て い るた め に,
した が っ て地 主 の封 建 的 性 格 は 消 し去 られ,土 地
そ れ に た い して,所 有 地 が資 本 とな り利 潤 を獲
所 有 者 も資 本 の運 動 法 則 のな か に 包摂 され産 業 資
得 す るた め の 手 段 とな る と,所 有 地 と土 地 所 有 者
・耕 作 者 との 人 格 的 な 関係 は消 し去 られ る。⑱ 人
格 的 性 格 に よ って 覆 われ て いた 所 有 地 に よる支 配
は,人 格 的 ・政 治 的 な性 格 を 脱 ぎ捨 て,私 有 財 産
本 に帰 属 させ られ て しま うた め に,地 主 階級 の 消
滅 は必 然 的 で あ る とされ るの で あ る。
こ う した 地 主 階 級 の 消 滅 は ま た,人 格 的 な 関係
を残 した 所 有 地 に よ る土 地所 有 者 の支 配 が,資 本
・貨 幣 に よ る土 地 所 有 者 の支 配 へ と転 化 す る こ と
や 資 本 の 純 粋 な 支配 と して現 れ る の で あ る 。 「安
を意 味 してい るの で あ る。 「ヘ ー ゲル 国 法 論 批判 」
に おい て 土 地 の長 子 相続 につ い て論 じられ た 部 分
で,マ ル クス は,長 男 が土 地 を相 続 す る ので は な
争 に 転 化 し」,α
゜この競 争 の 中 で資 本 とな っ た所 有
地 が,労 働 者 階級 に対 す る支 配 だ け で な く,資 本
の運 動 法則 を通 して所 有 者 自身 に 対 す る支 配 を 示
く,土 地 が 長 男 を 相続 す る ので あ って,主 語 は 物
で あ り,人 間 は述 語 で あ る と述 べ て い る 。(9)ここ
す こ とは必 然 で あ る,と マ ル クス は 論 じて い る。
こ う した所 有 地 の商 品化 や資 本 の運 動 法則 へ の 包
で は そ れ と全 く同 じ論 理 で,「 す で に 封 建 的 土 地
占有 の な か に 入 間 に対 す る土 地 の 支 配 が 疎遠 な 力
摂 に とも な い古 い貴 族制 は崩 壊 し,「貨 幣 貴族 制」
⑱
が最 終 的 に完 成 され るの で あ る。 マ ル クス は二 つ
と して横 たわ づて い る。 農 奴 は 土 地 の偶 然 的 付属
の諺 を用 い,そ
物(Akzidens)で
な い 土 地 は な い 〉 とい う中 世 の 諺 の か わ りに,
あ る。 同様 に,長 子相 続 者 つ ま
定 した 独 占が運 動 す る不 安 定 な 独 占 に,つ ま り競
うした現 象 を象 徴 的 に,「 〈領 主 の
り長 男 は土 地 に付 属 して い る。土 地 が長 男 を相 続
〈貨 幣 は 主 人 を もた な い〉 とい う別 の諺 が現 れ,
す る の で あ る」GNと述 べ られ て い る。 た だ こ こで
は あ くまで,私 有 財 産 一 般 に よる人 間支 配 の基 礎
人 間 に 対 す る死 ん だ物 質 の完 全 な 支 配 が い い表 せ
るの で あ る」⑱ と述 べ て い る。
と して土 地 の 人 間 に 対 す る支 配 が とら え られ て い
以上 の よ うに マ ル クス は,「 所 得 の 三 源 泉 」 断
る。 「
一 般 に土 地 占有 とと もに 私 有 財 産 の 支 配 が
片 に お い て,工 業 的 分 野 で の 競争 と利 潤 追 求 に基
づ く資 本 の運 動 法 則 や 商 品 の 交換 法 則 に よ っ て,
始 ま るの で あ り,土 地 占有 は私 有 財 産 の 基 礎 で あ
る」αDとされ る。
とは い え,所 有 地 に よる支 配 は,あ
らわ な 資 本
の支 配 と して 現 れ な い とい う意 味 で,未 完 成 な 私
有 財 産 に よ る支 配 と と らえ られ て い る。 な ぜ な ら
封 建 的 土 地 占 有 に お い て は,占 有 者 と土 地 との 間
に た ん な る物 的(sachlich)な 富 の 関 係 よ り親 密
な 人 格 的 関 係 が存 在 して い る か ら で あ る 。 「封 建
的 所 有 地 は,王 国 が そ の 王 に 称 号 を 与 え る よ う
に,そ の主 人 に称 号 を与 え る。 彼 の 家族 の歴 史,
あ る い は私 有 財 産 や 貨 幣,資 本 そ の も の に よ っ
て,労 働 者 だ け で な く資 本 家 や土 地 所 有 者 さえ も
支 配 され て い る と論 ず る。 もち ろ ん,厂 労 賃」欄 で
示 され る よ うに,マ ル クス の大 き な 関 心 は 労 働 者
の没 落 と貧 困 に あ った 。 しか し,マ ル クス は そ う
した 労 働 者 の 状 態 を 人 格 的 な支 配 関 係 の結 果 と し
ては と らえ て い な い 。 マ ル ク ス に と って,資 本 家
は資 本 の 担 い 手 に す ぎな い の で あ る。 労働 者 の没
彼 の 家 門 の歴 史 な ど,こ れ らす べ て は所 有 地 を個
落 と貧 困 の 原 因 は,資 本 家 さ え も それ に従 わ な け
れ ば 没 落 して しま う資 本 の運 動 法 則 に,さ らに そ
性 化す る もの で あ り,ま た 所 有 地 を 文字 通 り彼 の
の 運 動 法 則 を構 成 す る資 本(私 有 財 産,貨 幣)に
佐 藤:初 期 マル クス に お け る物 象 の主 体 化 につ い て
27
あ るの で あ る。
立 的 な 力 を もち 人 間 を支 配 す るか を 問 うこ とに,
資 本 の運 動 法 則 や 商 品 の 交 換 法則,そ して 私 有
財 産 や 資 本,貨 幣 な ど物 的 な もの が人 間 を 支 配 す
そ して い か にす れ ば主 体 化 した 諸 物 象 を 制 御 し人
る現 象 を所 与 と と らえ ず に,生 成 に お い て解 明 す
間 の 手 元 に 置 く こ とが 出来 るか に あ った 。 こ う し
た 課 題 を 類 的本 質 の対 象 化 ・外 化 ・疎 外 の論 理 に
る作 業 が,『哲 学 草 稿 』の 「疎 外 された 労 働 」断 片
よ って 解 こ うと した のが 初 期 マル クス で あ る。ar,
を 出発 点 と してr資 本 論 』 に 至 る ま で の マル ク ス
の経 済 学 批 判 の作 業 な の で あ る。 い いか え る と,
私 有 財 産 は類 的活 動 で あ る労 働 の外 化 され,疎 外
され た 存 在(Wesen)と
して,貨 幣 とそ の価 値 は
物 的 な も のの 自立 化 ・主 体 化 の解 明 の作 業 と いえ
る か も しれ な い。 「
疎 外 され た 労 働 」断 片 か ら 『資
類 的 活 動 で あ る交 換 活 動(;相
本 論』 に至 る まで,主 体 化 して 人 間 を支 配 す る私
間 は,類 的 本 質 を,人 間 に とっ て外 的 な 自然 や 物
有 財産 や 貨 幣,商 品,さ らに 商 品 の交 換 法 則 や 資
本 の運 動 法 則 な ど の 生 成 を,労 働 ・交 換 分 業 と
い った社 会 的 動 物 と して の 人 間 に とっ て基 本 的 な
的 な 存 在 に 対 象化 ・外化 す る がゆ えに,人 間 自体
は類 的 本 質 を 喪 失 し,そ の物 的 な存 在 に支 配 され
互 補 完 的 な媒 介 的
活 動)の 疎 外 され た存 在 と して と らえ られ る。 人
る,と い うの が 基本 的 な論 理 で あ る。
活 動 か ら出発 して明 らか に して い く こと と な る。
なぜ 物 的 な もの が 自立 して 〈Macht>を もつ の
か。 そ の 間 の解 明 を,は じめ は疎 外論 の地 平 に お
2.私有 財 産 の主 体化
い て,後 には 史 的 唯物 論 の 自然史 的 な地 平 に お い
片 の 冒頭 に お い て,マ ル クス は,私 有 財 産 と い う
て行 っ て い る。 『哲 学 草 稿 』 と 「ミル 評註 」 で は,
事 実 か ら出 発 し,私 有 財 産 が た ど る物 質 的 過 程 を
一 般 的 ・抽 象 的 な諸 公 式 で と らえ る国 民 経 済 学 を
私 有 財 産 と貨 幣 は 人 間 の 類 的 本質 が対 象 化 され,
外 化 ・疎 外 され た 存 在 で あ るが ゆ え に,自 立 的 な
力 を持 ち,労 働 者 だ け で な く資 本家 を も支 配 す る
と考 え られ る。『ドイ ツ ・イ デ オ ロギ ー』で は,歴
史 的 に発 達 して きた 分 業 に 基 づ く生産 力 が 自然 発
生 的 で あ るが ゆ え に,そ の 力 が物 的 な私 有 財 産 の
『経 哲 草 稿』 第一 草 稿 の 「
疎 外 され た 労 働 」 断
批 判 して い る。 説 明す べ き事 柄 を 一 つ の 事 実 と し
て あ らか じめ仮 定 して しま う ことを 批 判 す るの で
あ る。 そ れ に 対 して マ ル クス は,私 有 財 産 を 所 与
の事 実 と しまわ ず に,私 有 財 産 を そ の 生成(Genesis)に お い て概 念 的 に 把 握(Begreifen)し
よう
力 と して人 間 を 支 配 す る と され る。r資 本 論 』 で
と試 み る。 す な わ ち,私 有 財 産 を実 践 的 な類 的 活
は,商 品 と剰 余 価 値 の 生産 を 目的 とす る資 本 主 義
動 で あ る労 働(=生 産 的 活 動)に よ っ て生 み だ さ
れ る もの と と らえ る の で あ る 。 私 有 財 産 は,「 外
的 生 産 様 式 に お い て は,無 政 府 的競 争 の 中で の 資
本 の無 限 の 自己 増 殖 が必 然 的 で あ る がゆ えに,資
本 は労 働 者 を も資 本家 を も支 配す る ので あ る。
こ う した 作 業 を 通 して,物 的 な ものが 人 間 を 支
配 して い る市 民 社 会(こ こで は資 本 主 義 的 生 産様
式 の一 般 化 され た 社会)を 批 判 的 に解 明 し,さ ら
化 され た 労 働 の産 物 で あ り,成 果 で あ り,必 然 的
帰 結 で あ る」⑱ とされ るの で あ る。
私 有 財 産 を そ の生 成 に お い て解 明す るに あ た っ
て マ ル クス は,「 労 働 者 は,彼 ら が 富 を よ り多 く
生 産 す れ ぼ す るほ ど,彼 の生 産 力 の範 囲 が 増 大 す
に私 有 財 産 や 商 品 を 人 間 労 働 の対 象化 物 や 社 会 的
れ ぼ す るほ ど,そ れ だ け貧 し くな る」⑲ と い う彼
諸 関 係 の結 果 と して と らえ ず に そ の存 在 を 自明 な
も の と して と らえ る意 識 を 批 判 し,人 間 が 商 品 に
が と ら えた19世 紀 中 頃 の労 働 とい う類 的 活 動 の あ
転 化 され て い る事 態 を も批 判 す る。 市 民 社 会 の あ
り方 へ の批 判,市 民社 会 に お け る意 識 へ の批 判,
私 有 財 産 そ の もの で は な く,こ う した 労 働,労 働
り方 に,焦 点 を あ わ せ る。 マ ル ク ス に と って は,
市 民 社 会 に お け る人 間 の あ り方 へ の批 判 は決 して
者 の あ り方 こそ 国民 経 済 学 上 の事 実 だ った わ け で
あ る。 この 事実 を前 提 と して議 論 が 展 開 され る こ
切 り離 され る こ とな く展 開 さ れ る の で あ る。
とに な る。
まず は じめ に,私 有 財 産 そ の も ので は な く,私
皿
初 期 マ ル クス にお け る物 象 の 主 体 化 の 証 明
1基 本 的 論 理 と して の対 象 化 ・外 化 ・疎 外
す で に 示 した よ うに,マ ル クス の課 題 は,物 的
な存 在(私 有 財産,商 品,貨 幣,資 本)が なぜ 自
有 財 産 に 転 化す る こ とに な る 労働 の生 産 物 が 考 察
の 対 象 と され る。 労 働 の生 産 物 は,「 対 象 の 中 に
固 定 され 物 的 に な った 労 働 で あ り,労 働 の対 象 化
で あ る」⑫0と規 定 され る。 この労 働 の 生 産 物 と労
働 との 関 係 か ら私 有 財 産 生 成 の分 析 を 行 うの で あ
2s
研 究 報 告1988年
る。
第4号
労 働 者 が 失 った,対 象化 され,外 化 され,疎 外 さ
他 方,労 働 とい う生産 的 活動 は人 間 固有 の類 的
れ た 労 働 で あ る生産 物 を享 受 す る人 格 と して私 的
な 活 動 で あ る と され る。 動 物 が生 命 活 動 と直 接 に
一 致 して い るの に対 して ,人 間 は労 働 とい う生 命
所 有 者 と資本 家 が と らえ られ る。 こ う して私 有 財
活 動 を 自分 の意 欲 や 自分 の意 識 の対 象 とす る点 に
お い て,動 物 か ら区別 され る 。 「動 物 は 単 に 直 接
帰結 と して,労 働 か ら出発 して概 念 的 に把 握 され
的 ・肉体 的欲 求 に支 配 され て生 産 す るだ け で あ る
が,他 方,人 間 自身 は 肉体 的 欲 求 か ら 自 由に 生 産
し,し か も肉体 的欲 求 か らの 自由 の なか で は じめ
産 は,外 化 され,疎 外 され た労 働 の産 物,必 然 的
た こ とに な る。
以上 の よ うに マ ル クス は,「 疎 外 され た 労 働 」
断 片 に お い て,疎 外 の論 理 を用 い て,労 働 の生 産
て 真 に 生産 す る」⑳ の で あ り,自 由 で意 識 的 な 活
物 が 労働 者 に対 して 自立 的 な力 を も ち,そ の労 働
の 生産 物 が私 有 財 産 や 資 本 に転 化 す る こ とを 明 ら
動 に よる 「
対 象 世 界 の実 際的 産 出」,「非 有 機 的 自
か に した。 そ こで は,資 本 家 や 私 的 所 有 者 が 生 産
然 の 加 工」⑫
勿(一 労 働)が,人 間 の類 的 な存 在 で あ
る こ との確 証 と され て い る。
この よ うに,マ ル クス は,労 働 の生 産 物 を 類 的
物 の所 有 者 と して,労 働 者 と労 働 活 動 を現 実 的 に
活 動 で あ る労 働 の対 象 化 と し て と らえ る。 そ し
て,先 に示 した,労 働 者 は生 産 す れ ば す るほ ど貧
した 人格 的支 配 関 係 そ の も ので は な く,先 に 示 し
た よ うに 人格 的支 配 関 係 を 規 定 し,労 働 者 を 含 め
し くな り,物 的世 界 の価 値 の増 大 に 直 接 に 比 例 し
て資 本 家 や 私 的所 有 者 を も支 配 す る私 有 財 産 ・貨
て 人 間 の 世界 の価 値 低 下 が ひ ど くな る とい うマ ル
クス の ど らえ た 国民 経 済 学 上 の事 実 を,こ の 観 点
幣 な ど の 「非 人 間 的 な 力 」㈱(unmenschliche
Macht)に
よ る人 間支 配 な の で あ る。 「
非人間的な
か ら解 明す るの で あ る。 そ の事 実 は,労 働 者 が 類
力」 に よる人 間支 配 は,「 ミル評 註 」 に お い て,私
的 な 活 動 で あ る労働 を対 象 に注 ぎ込 む と して も,
有財 産 の交 換(=相
対 象 化 され た 労 働 は対 象 の もの とな り,労 働 者 の
もの とは な って い な い こ との直 接 の帰 結 で あ る と
幣 に よ る支 配 と して生 じて くる こ とが 明 らか に さ
支配 して い る と述 べ られ て い る。 しか しなが ら,
マ ル クス が批 判 的 に解 明 し よ うとす る の は ,こ う
互 外 化)を 通 して,価 値 ・貨
れ て い る。
され る。 「
人 間 が 神 に 多 くの も の を 帰 属 さ せ れ ば
させ るほ ど,そ れ だ け ます ます 人 間 が 自分 自身 に
3.価値 ・貨 幣 の 主 体 化
保 持 す る もの は 少 な くな る。」⑳ の と同 様 に,対 象
「
疎 外 され た 労 働 」 断 片 に お い て は,私 有 財 産
化 され た 労働 で あ る生産 物 とい う対 象 的 世 界 が 大
と労 働 者 の関 係 が 中心 に 考 察 さ れ て い た が,「 ミ
ル評 註 」⑳ で は,私 有 財 産 と私 有 財 産 の 所 有 者 と
き くな れ ば な るほ ど,労 働 者 に帰 属 す る もの は ま
す ます少 な くな るの で あ る。 こ の よ うに 労 働 者 の
の関 係 が 考 察 の 中心 とな る。 そ して,私 有 財 産 の
生 命活 動 で あ る労働 が生 産 物 のな か に 対 象 化 され
交 換 を通 して,貨 幣 が 自立 的 な 力 を もち,私 有 財
外 化 され る とい う こ とは,労 働 者 の 労 働 が 「一 つ
の対 象 に,あ る外 的 な現 実 的 存 在 とな る こ と」 を
産 所 有 者 を も支 配 す る プ ロセ ス が,外 化 ・疎 外 の
意 味 す る だ け で な く,「 労働 者 の 外 に,彼 か ら独
立 して疎 遠 に存 在 し,か つ 労 働 者 に 対 して 一 つ の
自立 的 な 力(eineselpstandigeMacht)と
こ とを意 味 す る とされ て い る。
な る」
⑳
労 働 者 に対 して 自立 的 な力 を も った この 労働 生
論 理 に よって 明 らか に され る こ とに な る。
「
疎 外 され た 労 働 」 断 片 に お い て は,労 働 が 類
的 活 動 と して と ら え られ て い た の に 対 し て,「 ミ
ル 評 註 」 で は,交 換 活 動 が 人 間 の類 的 活 動 の あ ら
わ れ とされ る。 「ミル評 註 」 に お い て,マ ル ク ス
は,人 間 の 本 質 を 共 同 的 本 質(Gemeinwesen)に
産 物 が 私 有 財 産 へ と転 化 す る,と され る の で あ る。
マ ル クス は 自立 した 労 働 生 産 物 が 現 実 に お い て ど
求 め て い る。伽 マ ル クス は,共 同 的 本 質 を,そ
の よ うな姿 を とっ て い るか を 問 うて,「 生 産 物 が
立 す る抽 象 的 ・普 遍 的 な 力 で は決 して な く,そ れ
属 して い る の は 自然 で も神 で もな く人 間 自身 に ほ
か な らな い」㈲ と結 論 づ け てい る。 す な わ ち,生
産 物 と労 働 者,私 有 財 産(資 本)と 労働 者 の 関係
は,現 実 的 に は私 的 所 有 者 と労 働 者,資 本 家 と労
働 者 との支 配 関 係 と して現 れ る と考 え られ て い る。
の
本 質 を 発 揮 す る こ とに よ って,「 個 々 の 個 人 に 対
自身 固 有 の 本 質 で あ り,彼 自身 の 生 活,彼
自身 の
富 で あ る よ う な 社 会 的 組 織(geselschaftlich
Wesen)を
産 出 す る」四 こ とに見 出 し て い る 。 そ
して,交 換 とい う 「類 的 生 活 お よび真 に 人 間 的 な
生 活 の た め に 人 間 が 営 む 相互 補 完 的行 為 」⑳ を 、
29
佐 藤:初 期 マル クス に お け る物 象 の 主 体 化 に つ い て
共 同 的 本 質 を確 証 す る人 間 の 本 質 的 な活 動 と,と
ら え て い る。簡 単 に い えば,人 間 は,「社 会 的 な 動
人 間 の 媒 介 的 活 動 は,な ん ら社 会 的 運 動 で も人 間
物 」 で あ り,そ れ ゆ え に 人 間 は 相 互 に補 完 しあ う
れ は,私 有 財 産 の 私 有財 産 に対 す る抽 象 的 な関 係
で あ る。 そ し て,こ の 抽 象 的 関 係 が 価 値 で あ っ
活 動 を行 うわ け で あ る。 しか しな が ら,私 的 所 有
制 度 の も とで は,そ う した 共 同 的 本 質 を確 証 す る
はず の媒 介 的 活動 は,私 有 財 産 の 交 換 と して あ ら
的 運 動 で もな く,ま た 人 間的 な関 係 で もな い 。 そ
て,こ の価 値 と して の現 実 的実 在 が ま さ し く,貨
われ る。 そ の私 有 財 産 の交 換 を 通 して,抽 象 的 ・
幣 な の で あ る稗 と述 べ られ て い る よ うに,貨 幣
は,こ の抽 象 的 価 値 の担 い 手 に外 な らな い の で あ
非 人 格 的 価値 が一 つ の 自立 的 な 力 と して析 出 し,
る。 そ して,マ ル ク スに よれ ば,私 有 財 産 の 交 換
そ の 現 実 的 な 担 い 手 と して の貨 幣 が,人 間 か らも
に お い て は,交 換 を 行 う人 間 は,人 間 と して 相 互
私有 財 産 か ら も独 立 した 力 と な って,共 同 的本 質
に 関係 しあ うの で は な い 。 そ れ ゆ え,私
を 喪 失 した 人 間 を 支配 して い る事 態 を,共 同 的本
は,そ の本 質 で あ る人 間 的 所 有 ・人 格 的所 有 とい
質 の 疎 外 と私 有 財産 の 相互 外 化 か ら解 明 して い く
の で あ る。
う意 味 を失 うこ とに な る。 した が って 私 有 財産 と
有 財産
は じめ に,貨 幣 を,人 間 の類 的 活 動 で あ る人 間
私 有 財 産 との 関係 は,私 有 財 産 が 自己 自身 を 外 化
・疎外 して い る関係 で あ り,私 有 財 産 間 の 関 係 と
相 互 の媒 介 活 動 が 外 化 され疎 外 され た 物 質 的 定 在
して の 価 値 とそ の担 い手 と して の貨 幣 は,「 外 化
と,と ら え る。「人 間 は,媒 介 活動 そ の もの を 外 化
され た 私 有 財産 」 な ので あ る。
さ ら にマ ル クス は,私 有 財 産 が 外 化 され た 私 有
す る こ とによ って,こ
こで は 自己 を喪 失 した 非 人
間化 され た 人 間 と して 活 動 して い る にす ぎな い 。
財 産 で あ る抽 象 的 価値 一 貨 幣 に規 定 され,そ
物 と物 との関 係 そ の もの,物 を 操作 す る人 間 の 作
用 が,人 間 の外 に,し か も人 間 の 上 に存 在 す る実
象 的 価 値 が 主 体 化 す るプ ロセ ス を,す なわ ち交 換
を,私 有 財 産 所 有 者 間 の相 互 外 化 と して とら え る
在 の作 用 にな っ て い る」¢Dと述 べ られ,人
間 の類
こ とに よっ て考 察 す る。 マ ル クス に よれ ば,人 間
的活 動 が外 化 ・疎 外 され る こ とに よ って,人 間 は
ます ます 無 力 とな り,外 化 され 疎 外 され た 類 的 活
で あ る 相互 補 完 的 な 活動 を行 うが,私 有 財 産 の前
動 の物 質 的 存 在 で あ る貨 幣 は,ま す ま す 力 を も
ち,現 実 的 な神 とな っ て入 間 を 支 配 す る とされ て
い る。
の抽
は,必 要 や エ ゴイ ズ ムな どか ら共 同的 本 質 の確 証
提 の も とで は,そ の 活動 は,私 有 財 産 の交 換 と し
て現 れ る。 私 有 財 産 所有 者 は,自 らの所 有 物 で あ
る私 有 財産 を外 化 ・譲 渡 して のみ 交 換 を行 う こ と
こ うした貨 幣把 握 の論 理 は 基 本 的 に は,「 ユ ダ
が で き るの だか ら,私 有 財産 の交 換 は,私 有 財 産
ヤ人 問題 に よせ て」 の貨 幣 崇 拝 の 論 理 と同 じも の
所有者 間の 「
外 化 の相 互 関 係」 か ら成 り立 っ て い
で あ る。 しか しな が ら,「 ミル評 註」 で は さ らに,
る 。 この私 有 財 産 所 有 者 間 の 外化 の相 互 関 係 に お
い て,私 有 財産 は,第 一 に そ の 人 格性 を喪 失 し,
貨 幣 が 「外化 され た私 有 財 産 」 と して 私 有 財産 と
の関 連 か ら と ら え られ る。 そ うす る こ と に よ っ
第 二 に 抽 象 的 価 値 に 還 元 さ れ て し ま う。 す な わ
て,貨 幣 の実 体 が 私有 財 産 相 互 の抽 象 的 な 関 係 と
ち,私 有 財 産 は私 有 財 産 所 有 者 に 帰 属 し排他 的 に
して の価 値 に あ りる こ とが 明 らか に され る こ とに
な る。 貨 幣 が 価 値 を も って いた の は,も と も と私
占有 され る こ とに よ って そ の所 有 者 と人 格 的 な結
び つ き を も って い た の に対 し,交 換 が 前 提 と され
有 財 産(一 商 品)を 表 す 限 りで あ った に もか か わ
る私 有 財 産 は7等 価物 と して の あ り方 の み が 問 題
らず,国 民経 済 学 的状 態(私 的 所 有 制 度)の も と
で は逆 に,私 有 財 産 が価 値 を もつ の は,貨 幣 を 代
と され るの で あ る。 等価 物 と して のみ 問 題 に され
る とき,私 有 財 産 は そ の 本質 で あ る人 格 性 を 喪 失
表 す る限 りとな り,私 有 財産 と貨 幣 との本 源 的 関
し,抽 象 的 価 値(一 貨 幣)へ
係 は転 倒 して い る,と マル クス は論 ず る,私 有 財
値 と関 係づ け られ て の み 価 値 を もつ こ とに な る。
この よ うに,交 換 を 前 提 と した私 有 財 産 は,抽
産 の価 値 は,貨 幣 に外 化 され て い るわ け で あ る。
た だ し,こ の時 に貨 幣 とは,金 や銀 ・紙 とい っ
た物 質 的 定 在 と して と ら え られ るの で は な く,私
と還 元 され 抽 象 的 価
象 的 価 値 に よって 規 定 され るが,そ う した価 値 の
主 体 化 は,交 換 を 前 提 と した 生産 に お い て も 同様
有財 産 と私 有 財 産(e商
品 と商 品)の 交 換 を通 し
て あ らわ れ る抽 象 的 価 値 の担 い手 と して と らえ ら
に 生ず る と され る。 交 換 を 前 提 とす れ ば,生 産 物
れ る 。pD私有 財 産 の 前提 の も とで は,「 交 換 を 行 う
品)に 転化 す る こ とは 必 然 的 で あ り,し た が っ
が抽 象 的価 値 に よっ て規 定 され た 私 有財 産(;商
30
研 究 報 告1988年
第4号
て,生 産 物 は 私 有 財 産 と同 様 に そ の価 値 に よっ て
法 と は異 な って い る とい え る だ ろ う。 しか し,疎
規 定 され る。 さ らに は,生 産物 を 生産 す る 労働 も
抽 象 的 価 値 に よ って 規 定 され る こ とに な る の で あ
外 の論 理 に 全 面 的 に 依存 して いた 「
疎 外 され た労
る。 こ う した 抽 象 的価 値 の 主体 化 は,分 業 に よっ
て さ らに 強 ま る,と マ ル クス は述 べ て い る。 活 動
・生 産 そ れ 自体 の 内部 で の 相互 的 な補 完 と交 換 が
分 業 と して 現 れ る と,分 業 の 内部 で の生 産 の対 象
が,生 産 す る諸 個 人 に とっ て無 関 心 な も の と な る。
そ れ に 対 応 して,私 有 財 産 へ と転 化 す る生 産 物
は,抽 象 的 価 値e貨 幣 との 関係 に お い て のみ,す
な わ ち 等 価 物 と して の み意 味 を もつ よ うに な るの
で あ る。
以 上 の よ うに 類 的活 動 と して の相 互 補 完 的 な活
働 」 断 片 に 比 べ る と,「 ミル 評 註 」 に お い て は,
『資 本 論 』 へ とつ な が る新 た な論 理 展 開 が み られ
る こ と も確 か で あ る。 す なわ ち,私 有 財 産 間 の関
係 と して,価 値 が,そ して貨 幣 が と らえ られ,そ
の関 係 と して の価 値 が人 間を 支 配 して い る とみ な
す 視 座 は 明 らか に後 期 マル ク スへ とつ なが る も の
で あ る。 もち ち ん,資 本 論 で の よ うに,価 値 の源
泉 は 人 間 労働 に求 め られ て も いな い し,関 係 そ の
もの は私 有 財 産 間 の関 係 と して と らえ られ,人 間
と人 間 の 関係 と して は とらえ られ て い るわ け で は
動 が,疎 外 され た 形態 で私 有 財 産 の交 換 と して現
な い 。 とは い え,関 係 の主 体 化 へ の着 目は,rド イ
ツ ・イ デ オ'ロギ ー』 や 『資 本 論』 へ とつ な が る も
れ る と き,私 有 財 産 もそ の所 有 者 も,さ ら に私 有
の で あ る。
財 産 に 転 化 す る生 産物 を 生産 す る生 産 者 も,交 換
を 通 して 自立 的 な 力 と して あ らわ れ る抽 象 的 価 値
に よ って 支 配 され るの で あ る。 そ の価 値 の 現 実 的
な 感 性 的 ・対 象 的 定在 が貨 幣 な ので あ る。 貨 幣 の
『経 哲 草 稿 』 「ミル評 註 」に お い ては,労 働 ・交
換 ・分業 が類 的 活 動 あ るい は そ の 疎外 され た形 態
と され,人 間 の疎 外 され ざ る あ り方 が 理念 的 に 想
支 配 に つ い て,マ ル ク ス は次 の よ うに 述 べ て い る。
「貨 幣 に お い て,す なわ ち,私 有 財 産 の 材 料 の 性
定 され て は い るが,労 働 ・交 換 ・分業 を 出発 点 と
質,私 有 財 産 の特 有 の 自然 的 性 質 に 対 して も,ま
た私 有 財 産 所 有 者 の人 格 性 に 対 して も完 全 に 無 関
とす る作 業 は,『 資 本 論 』 に 至 る ま で 一 貫 して い
心 で あ る貨 幣 に お いて,疎 外 され た 物 象(Sache)
の人 間 に対 す る完 全 な 支 配 が 現 象 す るに い た って
や 『ドイ ツ ・イ デ オ ロギ ー』 以降,労 働 ・交 換 ・
して,物 的 な 存 在 に よ る人 間 の支 配 を解 明 し よ う
る。 確 か に,「 フ ォイ エル バ ッハ に 関 す るテ ーゼ 」
い る。 人 格 に 対 す る人 格 の 支 配 で あ る もの が,い
分 業 は,自 然 史 的事 実 あ る い は歴 史 的 事 実 と して
とらえ られ,疎 外 され ざ る人 間 の あ り方 は,抽 象
まや 人 格 に対 す る物 象 の,生 産 者 に対 す る生 産 物
の普 遍 的 な 支 配 とな って い る。」G°
的 な 理 念 と して で は な く,歴 史 の 必 然 と して未 来
へ と投 影 され る こ とに は な る。
「
疎 外 され た 労 働」 断片 に お い て,労 働 か ら 出
発 して 私 有 財 産 の 労働 者 に対 す る支 配 が 明 らか に
され て い た の に続 い て,「 ミル評 註 」 で は,厂 所得
註
(1)こ の論 文 に おけ る重 要 な 論 旨 に,私 的利 害 の
の 三 源 泉」 断 片 に お い て課 題 と され た 貨 幣 とい う
優 先 に よ って 生 ず る私 的利 害 と 国民 全 体 の普 遍
「死 ん だ物 質 に よる人 間 の支 配」 を,人 間 の 実 際
的 利 害 との 乖 離 に 対す る批 判 が あ る こ と も付 け
的 な 活動 で あ る交 換 活 動 か ら出発 して,概 念 的 に
把 握 し よ うと試 み て い る と考 え て よ い だ ろ う。
加 え て お く。
(2)マ ル クス は 人 間解 放 を 「
人 間 の世 界 を,諸 関
(す で に私 有 財 産 が対 象 化 され た 労働 と して把 握
され て い た とい う意 味 で,そ の展 開上,労 働 との
つ な が りも 開 らか で は あ るが,明 示 は され て い な
係 を 人 間 そ の もの へ と復 帰 させ る こ と」 と規 定
し,人 間解 放 は 「現実 の個 体 的 個 人 で あ りなが
い。 貨 幣 の 資 本 へ の 転 化 と資 本 の 主 体 化 の 考 察
政 治 的 な 力 と して認 識 した と き」 に は じめ て 達
成 され る と して い る。 市 民 社 会 に お いて は,人
は,『 経 済学 批 判 要 綱 』 『資本 論 』 ま で待 た れ る こ
ら,類 的存 在 とな り,人 間 固有 の力 を社 会 的 ・
と に な る。)
「ミル 評 註 」 で は,確 か に,人 間 は 自 らの 人 間
間 固有 の力 は貨 幣 の力 と して認 識 され,個
的 本 質 を 物 的 な 存 在 へ と対 象 化 ・外 化 す る こ とに
よ って そ の 物 的 な 存在 に支 配 され る,と い う疎 外
互 に対 立 して い る。 人 間 の 関係 が,貨 幣 の 力 に
よ って 引 き裂 か れ て い るの で あ る。 そ れ ゆ え,
の 論 理 に 依存 して い る点 で は,後 期 マ ル クス の 方
人 間的 解 放 の 実 現 の た め に は,政 治 的 ・宗 教 的
々の
人 間 は利 己 的 意 識 に と らわ れ モ ナ ドと化 して 相
佐 藤:初 期 マル クスに お け る物 象 の 主 体化 につ い て
解 放 で は 不 十 分 で あ り,市
民社 会 そ の も のか ら
31
で の 身 分 的 な 関 係 が,貨
幣 関 係 に解 消 され る と
の 解 放 を 必 要 とす る と 主 張 す る の で あ る 。(引
み て い る。 『資 本 論 』に お い て も,中 世 で は 人 と
用 は,K.Marx,1884a,S.370,邦
人 と の 社 会 的 関 係 は 物 と物 と の 社 会 的 関 係 に 変
(3)ド
訳53頁 か ら)。
イ ツ語 で ユ ダ ヤ 教 を 意 味 す るJudentum
装 さ れ て は い な い と の べ て い る 。cf.K.Marx
は,「 商 売 」 と い う派 生 的 な 意 味 を も っ て い る
undF.Engels,1845-6,S.90ff,邦
と い う。 マ ク レ ラ ン は,こ
下 。1867,S.92,邦
の意味が
「ユ ダ ヤ 人
問 題 に よせ て 」 の な か で 最 も 大 き な 意 味 を も っ
αのK.Marx,1844c,S,505,邦
て い る と し て い る 。cf.D.Mclellan,1970,邦
⑮ibid.,s.505,邦
訳76頁 。
⑯ibid.,s.505,邦
訳78頁 。
訳2
14頁 。
(4)K.Marx,1884a,S.374-5,邦
(5)マ
訳62頁 。
⑭
論 へ の,あ
る い は 唯 物 論 的 社 会 観 へ の 転 回 は,
批 判 序 説 」 の二 論 文 を 含 む
て 行 わ れ た と指 摘 さ れ て い る 。cf.山
972,127頁
谷 昂,1979,17頁
以下 。細
稿』や
訳84頁 。
所 得 の 三 源 泉 」 断 片 は,A.ス
の分 類 に従 って
「ミル 評 註 」 を 読 む 限 りで は,疎
と 考 え る の が 妥 当 で あ ろ う。
⑱K,Marx,1844c,S.520,邦
訳102頁 。
の三 つ の 欄 に 分 か れ て い る。 マ ル ク ス の草 稿 に
⑲bd.,S.511,邦
訳86頁 。
お い て は,こ
⑳bid..,S.511,邦
訳87頁 。
⑳bd.,S,517,邦
訳96頁 。
⑳bd.,S,516,邦
訳96頁 。
の 三 つ の 欄 は,一
枚 の紙 が 縦 線 に
か ら 「労 賃 」 「資 本 の 利 潤 」
「
地 代 」 の 順 に 書 か れ て い る と い う。 一 般 の テ
キ ス トで は,そ
れ を 再 現 で きな い ため に左 か ら
㈱bd.,S.512,邦
訳88頁 。
ーピ
⑳bd.,S.512,邦
訳88頁 。
本
㈱bd.,S,519,邦
訳100頁 。
「労 賃 」 の
⑳bd.,S.554,邦
訳164頁 。
⑳
位 置 に つ い て,N.1.ラ
順 に 載 せ ら れ て い る 。 し か し,N.1.ラ
ン な ど の 研 究 に よ り,マ
的には
「資 本 の 利 潤 」 →
ル ク ス の 執 筆 は,基
厂
地代」→
順 で 進 め られ た こ とが 明 らか に な っ てい る。 そ
の 順 序 は,は
外は特
機 と して 否 定 的 な ニ ュ ア ン ス で 用 い ら れ て い る
ミス の所 得
「労 賃 」 「
資 本 の 利 潤 」 「地 代 」
よ っ て 区 切 ら れ,左
外概念の
に 人 間 とそ の産 出物 との対 立 的 な関 係 を 生 む契
以下。
(6)K.Marx,1884c,S,510,邦
(7)「
野 渉(1967)は,疎
肯 定 的 側 面 を 強 調 し,対 象 化 ・外 化 ・疎 外 は 同
一 の 意 味 を 表 す と し て い る 。 し か し,r経 哲 草
中 隆 次,1
以 下 。 城 塚 登,1970,103頁
外(Entfr-
関係 に つ い て は多 様 な 解 釈 が み ら
れ る 。 た と え ば,藤
『独 仏 年 誌 』 に お い ・
訳78頁 。
化(Entauf3erung),疎
emdung)の
「ユ ダ ヤ 人 問 題 に よ せ て 」 と 「ヘ ー ゲ ル 法 哲 学
以
。
『経 哲 草 稿 』 で の 対 象 化(Vergegenstantlichung),外
ル ク ス の 思 想 に お け る社 会 的 ・経 済 的 疎 外
訳107頁
訳103-4頁
「ミル 評 註Jの
ー
じめ に 資 本 家 の 立 場 か ら 明 ら か に
ピ ン な ど の 文 献 考 証 の 結 果,「 ミル 評 註 」 は 『
経
され た 市 民 社 会 の経 済 的諸 原 理 を 国民 経 済 学 に
哲 草 稿 』 第 一 草 稿 と第 二 草 稿 の 間 に 書 か れ た も
内 在 して 把 握 し た 後 に,そ
れ を労 働 者 の 視 点 か
の と 推 定 さ れ て い る 。 す な わ ち,「 疎 外 さ れ た
ら と らえ 直 す 作 業 が 行 わ れ た こ とを示 す もの だ
労 働 」 断 片 に続 い て書 かれ た も の と推 定 され て
と 言 わ れ て い る 。cf.N.1.Lapin,1962。
い る 。cf.N,1.Lapin,1962。
次,1971な
中山隆
ど。
㈱
(8)K.Marx,1844c,S,494,邦
(9)K.Marx,1843,s.311,邦
訳57頁 。
訳348-9頁
⑩K.Marx,1844c,S.505,邦
似 田 貝 香 門(1972)は,『
と
て い る 。す な わ ち,類
。
経 哲 草 稿 』第 一 草稿
「ミル 評 註 」 の 間 に 主 体 概 念 の 転 回 を 見 出 し
的 本 質(Gattungswesen)
か ら 共 同 的 本 質(Gemeinwesen)へ
訳76頁 。
の転 回で あ
αDibid.,s,505,邦
訳76頁 。
る 。 共 同 的 本 質 を 前 提 とす る こ と に よ っ て,そ
⑫ibid.,S.505,邦
訳77頁 。
の 疎 外 態 と して の貨 幣 の支 配 を 論 ず る こ とが可
⑬
期 に い た る ま で,資
マ ル ク ス は,後
本主義的
能 とな るわ け で あ る。
生 産 様 式 の 普 遍 化 し た 社 会 の 特 徴 の 一 つ を,人
⑳K,Marx,1844d,S.451,邦
格 的 関 係 か ら非 人格 的 な関 係 へ の転 化 に 見 出 し
(3①ibid.,s.451,邦
訳370頁 。
て い た と 考 え ら れ る 。 『ドイ ツ ・イ デ オ ロ ギ ー 』
㈱ibid.,s,446,邦
訳364頁 。
に お い て は,分
㈱
業 の発 達 に とも な って 生 産 の場
訳369頁 。
「ミル 評 註 」 に お い て,考
察 の 対 象 が 階級 関
32
研 究 報 告1988年
係 論 的 地 平 か ら 商 品 関 係 論 的 地 平 へ,直
接的労
働 過 程 か ら商 品 交換 関 係 へ移 行 した とされ て い
る 。 私 有 財 産 の 交 換 や そ の 関 係 か ら価 値 を 引 き
出 し,そ
の 担 い 手 と し て 貨 幣 を と ら え る議 論
は,『 経 済 学 批 判 』(1859)や
『資 本 論 』(1867)
の 価 値 形 態 論 へ とつ な が る も の で あ ろ う。
(33)K.Marx,1844d,S。446-7,邦
Gのibid.,S,455,邦
訳365頁 。
訳374頁 。
第4号
Bd,1.(城
塚 登 訳
「ユ ダ ヤ 人 問 題 に よ せ
て 」 『ユ ダ ヤ 人 問 題 に よ せ て
法 哲 学 批 判 序 説 』 所 収,岩
・ヘ ー ゲ ル
波 文 庫)
Marx,K.,1844c,CSkonomisch‐philosophische
ManuscripteausdemJahre1844,
MEW,Erg.1.(城
済学
塚 登
・田 中 吉 六 訳r経
・哲 学 草 稿 』 所 収,岩
波 文 庫)
Marx,K.,1844d,AuszugeausJamesMillsBuch
1844,MEW,Erg.1.
Marx,K.,1845-6,DiedeutcheIdeologie,hrsg.
参 考 文 献
藤 野 渉,1967,「
67年2月
細 谷 昂,1979,『
マ ル ク ス の 疎 外 概 念 」 『思 想 』19
号,4月
号 。
vonWataruHiromatsu,herausgegeben.
KawadeshoboshinshaVerlag,1974.(花
マル クス 社 会 理 論 の 研 究 一 視 座
と方 法一 』 東 京 大 学 出版 会 。
崎皋 平 訳
『新 版
Lapin,N.1.,1962,VergleichendeAnalysedre
Marx,K.,1867,DasKapital,MEW,Bd.23.(「
dreiQuellendesEinkommensinden
論 」 第 一 巻,『
okonomisch‐philosophischenManu-
集 』 第23巻a,大
scripten"vonMarx,DeutscheZeitschri-
似 田 貝 香 門,1972,「
ftfurPhilosophie,Heft2,17,1969。(細
見 英 訳
「マ ル ク ス の
『経 済 学
・哲 学 草
城 塚 登,1970,『
山 中 隆 次,1971,rr経
号)
Mclellan,D.,1970,MarxbeforeMarxism,
牟 田久 雄
『マ ル ク ス 主 義
草 書 房,1972)
論 。
LandtagsoVoneinemRheinlander,
DritterArtkel.Debattenuberdas
Holzdiebstahls‐Gesetz,MEW,Bd.1.
(「第 六 回 ラ イ ン 州 議 会 の 議 事 一 ラ イ ン
三 論 文
木材 窃盗 取 締 法 に関 す
る 討 論 」 『マ ル ク ス ・ エ ン ゲ ル ス 全 集 』
第 一 巻 所 収)
Marx,K.,1843,ZurKritikderHegelschen
RechtsphilosophieKritikdesHegeischen
Staatsrechts(ァァ261-313),MEW,Bd.1.
(「ヘ ー ゲ ル 法 哲 学 の 批 判 か ら
ル 国 法 論 批 判 〕 『マ ル ク ス
ヘ ー ゲ
・エ ン ゲ ル ス
全 集 』 第 一 巻 所 収)
Marx,K.,1844a,ZurJudenfrage,MEW,Bd.1.
「ユ ダ ヤ 人 問 題 に よ せ て 」 『ユ
ダ ヤ 人 問 題 に よ せ て ・ヘ ー ゲ ル 法 哲 学 批
判 序 説 』 所 収,岩
『経
・哲 』
・ 『ミ ル 評 註 』 に
。
若 きマ ル クス の思 想 』 勁 草 書 房 。
済 学
・哲 学 草 稿 』 と
波 文 庫)
Marx,K.,1844b,ZurKritikderHeglschen
Rechtsphilosophie,Einleitung,MEW,
一 」 『思 想 』1971年11月
山 中 隆 次,1972,『
Marx,K.,1842,Verhandlungendes6reinischen
(城 塚 登 訳
・エ ン ゲ ル ス 全
月 書 店)
『抜 粋
ノ ー ト』 の 関 係 一 ラ ー ピ ン 論 文 に よ せ て
以 前 の マ ル ク ス 』,勁
州 人,第
マ ル ク ス
『社 会 学 評 論 』 第23巻1号
析 」r思
想 』1971年3月
資 本
お け る マ ル クス の ゲ マイ ン ヴ ー ゼ ソ論 」
稿 』 に お け る所 得 の 三 源 泉 の 対 比 的 分
Macmillan,(西
ドイ ツ ・イ デ オ ロ ギ ー 』
合 同 新 書,1966)
号
。
初 期 マ ル クス の 思 想形 成 』新 評
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