...

U - 大阪府立大学学術情報リポジトリ OPERA

by user

on
Category: Documents
12

views

Report

Comments

Transcript

U - 大阪府立大学学術情報リポジトリ OPERA
 Title
Author(s)
海藻資源量の管理を目的とした藻場モデルの開発と実用化に関す
る研究
松井, 敦
Editor(s)
Citation
Issue Date
URL
大阪府立大学, 2011, 博士論文.
2011
http://hdl.handle.net/10466/12622
Rights
http://repository.osakafu-u.ac.jp/dspace/
大阪府立大学博士論文
海藻資源量の管理を目的とした
藻場モデルの開発と実用化に関する研究
2012年2月
松
井
敦
目次
1. 緒論
1.1 緒言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1
1.2 地球環境と海洋 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1
1.3 藻場 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3
1.4 数値モデルによる藻場管理 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4
1.5 海藻モデル構築に関する課題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6
1.6 本論文の構成 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8
1.7 結言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 10
2. 光合成実験
2.1 緒言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 11
2.2 海藻の光合成 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 12
2.3 モデルパラメタ取得に適した光合成実験手法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 13
2.4 短期光合成実験 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 17
2.5 長期光合成実験 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 20
2.6 クロメ生育実験 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 24
2.7 結言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 28
3. 藻場生態系モデル
3.1 緒言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 29
3.2 藻場海藻の増減要因とモデリング ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 30
3.3 海藻モデル ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 31
3.3.1 生長. ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 32
3.3.2 枯死. ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 36
3.3.3 発生. ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 37
3.3.4 競合. ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 42
3.4 付着生物海藻摂餌モデル ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 45
3.5 魚類海藻摂餌モデル ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 50
3.6 結言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 53
4. りんくう公園内海における海藻植生調査と藻場変動シミュレーション
4.1 緒言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 54
4.2 りんくう公園内海 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 55
4.3 藻場調査 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 57
4.3.1 水質調査. ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 57
4.3.2 海藻植生調査. ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 59
4.4 りんくう公園藻場モデル ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 64
4.4.1 海藻モデル. ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 64
4.4.2 計算条件. ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 66
4.4.3 数値実験. ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 69
4.5 結言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 73
5. 藻場モデルを用いた海洋深層水放流による藻場修復効果の予測
5.1 緒言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 74
5.2 海洋深層水による藻場修復 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 75
5.3 室戸藻場生態系モデル ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 76
5.3.1 海藻モデル. ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 76
5.3.2 ムラサキウニモデル. ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 78
5.3.3 魚類モデル. ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 80
5.4 海洋深層水放流挙動モデル ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 85
5.4.1 漁港内遊休水域における海洋深層水放流実験. ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 85
5.4.2 海洋深層水放流モデル. ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 91
5.5 藻場修復の数値実験 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 95
5.5.1 計算条件. ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 95
5.5.2 海洋深層水の藻場修復効果. ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 97
5.6 結言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・100
6. 結論 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・102
謝辞
参考文献
第1章
1.1
緒論
緒言
本研究は,将来的に有用な資源となる可能性がある「海藻」の利活用を目指
すため,沿岸域における海藻群落である「藻場」について,水温や栄養塩濃度
と い っ た 環 境 因 子 の 変 化 に 起 因 し た 海 藻 の 現 存 量 変 動 を 表 現 す る「 藻 場 モ デ ル 」
を取り扱い,海藻資源量の管理を行うことについて議論を行ったものである.
本章では,本研究の研究背景となっている,地球規模の環境問題と海洋の関
係について整理し,その中で藻場が果たしている役割と,藻場管理の重要性に
ついて指摘するとともに,藻場管理における,シミュレーション手法の必要性
を示すことで,本研究の動機,および目的などについて述べる.
1.2
地球環境と海洋
地球温暖化や異常気象などの気候変動問題,オゾン層の破壊,砂漠化など,
様々な地球規模の環境問題が騒がれ始めてから,ある程度の年月が経過した.
現在では人間側の認識もかなり進行し,深刻な問題としてとらえ始められた結
果 , そ れ ら の 環 境 問 題 に 対 す る 取 り 組 み と し て , 京 都 議 定 書 [1-1]で は 二 酸 化 炭
素などの温室効果ガス発生を抑えるための国際条約を交わし,また,ウィーン
条 約 中 の モ ン ト リ オ ー ル 議 定 書 [1-2]で は ,オ ゾ ン 層 の 破 壊 を 促 進 す る 有 害 な 化
学物質などの管理について定めるなど,世界の国々が問題解消に向けて協力す
る姿勢も見せている.
しかしながら,人間の活動水準を保ちつつ,環境に関わる問題を解決すると
いうことは簡単なことではない.その理由として,従来の人間活動は,自然の
恩恵を必要な時に必要な分だけ利用し,環境調整の役割を果たす,共存関係と
も言うべきものであり,いわば人間も自然の一部として,その役割を全うして
きたのである.しかし,産業革命以降の技術革新によって,世界産業は加速度
的に進行し,人口が急激に増加したことも相まって,自然環境の中における人
間活動は一方的に拡大し,バランスが大きく崩れた結果引き起こされたものが
昨今の環境問題であると考えられるためである.つまり,地球という大きなシ
ステムを修復できる革新的な方法がない限りは,人間活動を元の水準に戻すこ
1
としか,方法がないということになる.
このようなことが起こった原因の一つに,人間が自然の持つ自浄作用を過大
評価したことが考えられる.あるいは人間にとって都合の悪い部分を考えず,
後回しにした可能性もあるが,人間活動が自然環境に対して及ぼす影響を,見
誤ったことは間違いないであろう.現在のような状況において人間がとるべき
道として,科学的知見に基づいた論理的な根拠を持って,自然の恩恵を少しで
も 永 く 受 け ら れ る よ う な , い わ ゆ る 「 持 続 可 能 な 発 展 [1-3]」 を 行 う こ と が 挙 げ
られる.そのためには,自然環境の保護のみを盲目的に主張するのではなく,
人 間 も 含 め た 地 球 環 境 と い う シ ス テ ム の 中 で ,自 然 環 境 の 維 持・管 理 と い っ た ,
環境の保全に努めていくことが重要である.つまり,自然環境に極端な悪影響
を与えないよう折り合いをつけた上で,利用できる部分は積極的な利用を行う
ことが不可欠であり,その際には,自然環境容量の過大評価という過ちを再び
繰 り 返 さ な い た め ,自 然 環 境 の 特 性 や ポ テ ン シ ャ ル を で き る 限 り 詳 細 に 把 握 し ,
人間活動との関連性を予測していくことが非常に重要である.
地球環境の保全という概念において,海洋の存在は欠かすことのできないも
の で あ る . 地 球 の 表 面 積 の 70%以 上 が 海 で あ る と い う こ と も あ り , 海 洋 が 地 球
環境の維持に果たす役割は,あらゆる分野で非常に影響が大きい.物理的な役
割 を 考 え た 時 , 大 気 に 比 べ て 約 4 倍 の 熱 容 量 を 持 ち , 約 270 倍 の 質 量 を 有 す る
海 水 が 蓄 え る こ と の で き る 熱 エ ネ ル ギ ー は , 大 気 の 約 1000 倍 強 に あ た る た め ,
その海水が世界中を循環することにより,熱エネルギーの調整に大きな役割を
果たす.地球に生物が生息できるほど気温が安定していることは,他ならぬ海
洋が熱エネルギーを蓄えることによる恩恵である.化学的に見ても,地球温暖
化の根源と考えられている炭酸ガスは大部分が海洋で固定されており,また,
海洋に生息する生物が,炭酸ガスだけでなく無機栄養塩などの固定も行い,生
命活動の基盤となっていることも忘れてはならない.
環境問題の緩和のために,無理のない範囲で人間活動への利用を考える点に
おいても,レアメタルやメタンハイドレードなどの海底資源や,潮汐,波浪を
利用した発電など,開発を行う余地を残している海洋は,未知なる可能性を持
っていると言える.海洋と人間活動との接点である沿岸域において,海洋の生
産基盤の役割を果たす「藻場」にも,環境修復や持続的な発展へ向けた有効利
用の可能性が存在する.
2
1.3
藻場
新 井 [1-4]に よ る と ,「 藻 場 」 と い う 用 語 は 1924 年 に , ア マ モ (Zostera marine)
の密生地を表現するために使われ始めた言葉である.現在では藻場という言葉
は,水生植物の集合体を表現するためであれば,種子植物から藻類まで,種を
限らず用いられているが,本研究で取り扱う藻場という単語は,海藻が群落を
形 成 し て い る 海 藻 藻 場 (seaweed bed)を 示 す も の と す る . こ こ で , 海 藻 藻 場 と し
て 一 般 的 に 扱 わ れ る の は ,コ ン ブ 類 (Laminariales)の 優 占 す る 海 中 林 (Kelp forest),
ホ ン ダ ワ ラ 類 (Fucales)の 優 占 す る ガ ラ モ 場 (Sargassum bed), ア マ モ 類 の 優 占 す
る ア マ モ 場 (sea grass bed)な ど ,単 種 の 海 藻 が 優 占 し て い る 海 域 で あ る 場 合 が 多
いが,本研究においては,単種,複数種のどちらであれ,海藻が群落を形成し
ている海域を一括りにして,藻場として扱う.
藻場が持つ機能として,海藻の光合成による二酸化炭素,無機栄養塩の固定
と い っ た 水 質 浄 化 機 能 [1-5]の 他 , 海 藻 を 食 す る 付 着 生 物 の 棲 家 や , 魚 類 の 産 卵
場 所 , 稚 魚 の 避 難 場 所 と し て の 働 き も 持 つ [1-6]. ま た , 藻 場 の 海 藻 を 回 収 す る
ことで,人間の食用や家畜飼料とする他,がん予防や肥満予防に効果があると
言 わ れ る フ コ キ サ ン チ ン [1-7]な ど の 海 藻 に 含 ま れ る 有 用 成 分 を 抽 出 ,発 酵 処 理
に よ る エ ネ ル ギ ー 化 , 堆 肥 と し て の 利 用 [1-8]な ど , 人 間 活 動 に 大 い に 役 立 つ 資
源にもなり得る.つまり,藻場を積極的に拡大することで,環境容量と基礎生
産 量 の 増 加 と ,人 間 活 動 へ の 有 効 利 用 を ,同 時 に 目 指 す こ と が で き る と 言 え る .
しかしながら,近年では,その藻場においても環境問題と呼ぶべき事象が発生
している.具体的な例として,何らかの理由で経年変化の範囲を超えて海藻群
落が衰退,消失することによって,貧植生となることで,沿岸漁業に影響を及
ぼ す 「 磯 焼 け [1-9]」 と い う 現 象 や , 都 市 部 近 郊 の 閉 鎖 性 内 湾 の よ う に 過 栄 養 状
態であるがゆえに,限度を超えて発生した海藻が公害を引き起こした事例
[1-10]も 報 告 さ れ て い る . そ れ ら の 問 題 解 消 の た め に , 北 海 道 沖 に お け る 海 藻
食 性 の 生 物 の 摂 餌 圧 を 下 げ る た め の キ タ ム ラ サ キ ウ ニ の 除 去 [1-11]や , 海 中 林
造 成 の た め の 基 底 建 設 [1-12], 海 域 へ の 海 藻 移 植 な ど に よ る 磯 焼 け 対 策 や , 大
量発生した海藻に対して,腐敗前に回収を行うことで,悪臭発生や景観悪化を
防ぐ試みを行った例がある.このように,発生原因が様々に考えられる藻場環
境問題の性質上,万能の対策は存在せず,個々の現象に対応していく必要があ
るが,対策の効果検証のためには長い歳月と多大な費用がかかる場合も少なく
3
な く [1-13], そ の 間 に 藻 場 環 境 が 変 化 す る リ ス ク も 存 在 す る .
藻場の海藻を利用するためには,藻場の海藻が潤沢に存在していることが前
提であり,海洋が持つ環境容量の安定化という点においても,藻場の海藻資源
量の管理を行うことは非常に重要であり,そのためには,藻場の情報をできる
だけ正確に把握することと,取得した情報を基に,藻場の海藻量の変動予測を
行うことが必要であると考えられる.
1.4
数値モデルによる藻場管理
人間にとって重要な目標となる持続可能な発展のためには,海洋環境に対す
る知識と理解を深め,自然環境の保全に努めるとともに,環境との共生に歪み
を与えない程度に,上手く利用していく方法を考慮することが重要であり,そ
のために,藻場の海藻資源量を適切に管理する必要があることは既に述べた.
そのための最も基本的と思われる手法は,対象とした海域において,物理・化
学環境因子に関する計測や生物採取などの調査計測を行い,データを蓄積して
いくことである.これにより,長い年月をかけることで,経験的に藻場の変化
を予測できるようになる.ただし,広大な海洋においてデータを取得できる範
囲は,極めて狭い部分に過ぎず,問題が発生してからデータを集め出しても,
対応が難しい場合が多々ある.このような課題に対し,海域変動を予測するた
めに,理想化された条件の場を実験室内に作成し,必要な情報の計測,観測を
行うことや,実海域を実験場として用い,観測を行うことによって,変動予測
のための基礎情報を取得する方法や,自然現象を表現した数理モデルを用いる
ことで,発生する現象とその原因を予測する方法などが行われてきた.これら
の手法には,それぞれに長所短所が存在し,研究すべき項目と目的に適した手
法をその都度選択する必要がある.本研究で目指す藻場の管理においても,全
ての手法を用いる必要があるが,特に,海藻の回収や環境改善など,変化を人
為的に与えた時の影響予測に適している数理モデルを取り扱うことの有効性に
ついて検討を行う.
数理モデルを用いて,沿岸域の生態系で発生している実現象を,できるだけ
正確に表現することを目指す場合,物理・化学・生物因子とそれぞれの関連性
を 細 分 化 し ,要 素 と し て 考 慮 す る 必 要 が あ る .物 理 因 子 と し て は ,波 浪 や 潮 汐 ,
熱輸送などによる流動,化学因子として,炭素,窒素などの溶出,分解,吸収
4
過程,生物因子として,プランクトン,魚類,底生生物,そして海藻の現存量
や行動などが,表現対象の代表例として挙げられる.さらに,それらの要素間
においても,生物の存在によってその周辺の流れに生じる変化や,流れによっ
て物質の沈降速度や濃度に生じる差異,物質量変化によって生物の増加量や行
動 に 生 じ る 影 響 な ど ,そ れ ぞ れ の 関 連 性 は 際 限 な く 想 定 で き る .し か し な が ら ,
これら全ての要素を連携させるようなモデルを構築することが実際に可能であ
るかと言えば,実現可能性は非常に低いと言わざるを得ない.仮にできたとし
ても,複雑化しすぎたモデルは,その精度と引き換えに,多大な時間,費用を
構築のために消費するとともに,精巧なモデルであるほど,要素が欠ける,あ
るいは変更されることで,大きなズレが生じる危険性を含んでいるため,モデ
ルの汎用性までもが犠牲となる.海域のモデリングにおいては,目的を再確認
し,どのような予測計算を行いたいのか,十分に検討を行った上で表現対象を
決定することが,非常に重要な部分であると言える.
本研究では,藻場モデルを構築することそのものではなく,藻場の海藻資源
量管理のために,藻場モデルを活用できることを示すことを目標とするため,
精度の向上のみを目指したモデルではなく,海域の特徴に合わせて柔軟にフィ
ッティングできるモデル開発を提案する.そのようなモデルを作成することに
よって,海域調査や実験結果から得られたデータ,あるいは他の物理モデルに
よって得られた計算結果をモデル中に取り込むことで,海洋環境の変化に対す
る発生現象やその原因の予測だけでなく,対策を施した時の影響を予測するこ
とも可能な,予測対象と目的に応じた包括的な藻場モデルの構築を行うことが
できると考えられる.
ここで,一般に,海域の生態系を数理モデルで表現する場合に,よく用いら
れ る 「 生 態 系 モ デ ル 」 は , Riley[1-14]が 北 大 西 洋 に お け る プ ラ ン ク ト ン の 鉛 直
分布を微分方程式で表したものが原型となっており,その後,様々な形に発展
し,干潟の生態系における物質循環メカニズムの把握や,湾内の溶存酸素量変
化 推 定 な ど ,多 岐 に 渡 り [1-15]使 用 さ れ て い る .大 塚 ら [1-16]は , こ れ ら の 生 態
系モデルを大きく分類すると,浮遊生態系モデル型,底生生態系モデル型,個
体 群 動 態 モ デ ル 型 の 3 つ の グ ル ー プ に 分 類 で き る と し た . Kremer ら [1-17]に よ
ってベントスや魚類の摂餌を考慮して構築されたモデルを参考として,中田ら
[1-18]が Kishi ら [1-19]の 流 動 モ デ ル と 組 み 合 わ せ て 基 礎 を 築 い た 浮 遊 生 態 系 モ
5
デ ル や , Baretta ら [1-20]に よ っ て 表 在 ベ ン ト ス , 付 着 藻 類 , マ ク ロ ベ ン ト ス ,
バクテリアを中心として基礎構築された底生生態系モデルは,主として動植物
プ ラ ン ク ト ン や , 栄 養 塩 , デ ト リ タ ス を 要 素 と し た , い わ ゆ る P-Z-N-D モ デ ル
の応用形態であり,生態系による物質循環を表現することを主な目的としたモ
デ ル で あ る . ま た , 個 体 群 動 態 モ デ ル の 対 象 種 は 様 々 で あ り , Balchen[1-21],
Reed ら [1-22][1-23]が 先 駆 者 と な り 構 築 し た ,カ ラ フ ト シ シ ャ モ の 回 遊 行 動 を 表
現 し た モ デ ル や , Spaulding ら [1-24]に よ っ て 構 築 さ れ た , 流 動 モ デ ル の 計 算 結
果に対する卵や稚仔魚の運動を計算したモデルなどが挙げられるが,海藻を主
要素としているモデルは多くはない.しかしながら,藻場の海藻現存量管理を
目指すための藻場モデル作成において,海藻現存量を推定するモデルは不可欠
であるため,その原因の考察と,解決方法を考える必要がある.
1.5
海藻モデル構築に関する課題
上述したように,モデルによる推定精度を高めようとするほど,対象を複雑
にモデル化していく必要があるため,構造と機能を際限なく細分化することと
なり,モデルに使用するパラメタも増えるため,モデルを構築するために膨大
な調査と実験が必要となる.個々のモデル要素に対しても同様のことが言え,
特に,種によって適正水温や適性光量などに差異が見られ,多数のパラメタを
必要とする海藻は,モデル化するために必要な時間と費用の負担が大きく,生
態系モデルの主要素として取り扱われることが少ない.したがって,海藻モデ
ルを有効活用するためには,モデル構築の簡潔化が不可欠である.
海藻の生態学的な反応を理解することは,モデリングにおいても非常に重要
であるが,それらの反応を完全に表現することを目指し,モデルを複雑化しす
ぎた場合,対象海域を設定してモデルを完成させた時には,既にその海域の生
態系に変化が発生し,さらなるモデル構築や新たな対策が必要となる可能性も
ある.地球環境は常に変動しているものであり,問題解決のために迅速で適切
な対応をとるためには,モデリングにかかる時間を可能な限り短くすることが
必要である.逆に言えば,モデルを単純化することによって,モデリングにか
かる時間を短縮することができれば,藻場管理のために藻場モデルを用いる有
用性が高まる.しかし,そのためには,十分な予測精度を保ったまま,モデリ
ングを行うための方法を確立することが,大きな課題となる.
6
本 研 究 に お け る , 藻 場 生 態 系 を 表 現 す る モ デ ル の 構 築 プ ロ セ ス と し て , Fig.
1-1 に 示 す よ う な , モ ニ タ リ ン グ , 海 域 調 査 , 実 験 と い う 3 つ の 項 目 の フ ィ ー
ドバックによって,モデリングを進める手法を基本とする.現地モニタリング
では海域環境の変化を捉えるための物理・化学・生物指標のモニタリングを行
い,モデルの計算条件,あるいは検証データとして蓄積する.また,海域調査
では,モデル開発に必要となる生物相や現存量を調べる.さらに,文献では得
られない生物パラメタや,現地の生態系を表現する上で重要となる生物パラメ
タについては,現地実験や室内実験により取得する.ここで,上述した課題に
対して,海藻モデルにおける生物パラメタの取得を効率的に行うことのできる
実験手法を開発し,その実験結果から取得できる情報と連携した単純化した海
藻生長モデルを構築する手法を提案する.
Fig. 1-1 Concept of seaweed bed modeling
7
以上のような背景のもと,本研究は,海域環境の中でも人間生活と密接な関
係がある「藻場」を研究対象とし,藻場の管理という面において,数値シミュ
レーションを有効な手段として用いるために,海藻を中心とした藻場の要素を
表現する,包括的な藻場モデルを開発し,それが様々な海域と目的に適用可能
なモデルであることを実証することを目指す.また,海藻モデルを構成する生
物パラメタを取得するための実験方法,ならびに海藻モデルの構造について,
そ れ ぞ れ の 課 題 を 明 ら か に す る と と も に ,そ れ ら の 解 決 方 法 を 提 案 す る こ と で ,
海藻モデル構築に必要な時間を軽減したモデリング手法を開発する.さらに,
複数種の海藻による競合影響と,配偶体放出による新芽の発生,藻食動物によ
る摂餌を考慮し,実際に構築したモデルを特定の海域に対して用い,実海域に
おける海藻群落の植生変化の調査結果との比較や,磯焼け海域の藻場修復を目
指した対策の効果予測を行うことで,その有用性を示す.
1.6
本論文の構成
本論文は,以下の 6 つの章から構成される.
第 1 章では,自然環境問題に関する現状と,我々が取り組むべき姿勢につい
て述べるとともに,海洋が環境に与える影響とその重要性について指摘し,海
洋環境における生産基盤である藻場が持つ特性に着目した上で,藻場管理の重
要性と,藻場モデリングの必要性を示し,本研究の背景,動機,目的について
述べる.
第 2 章では,藻場生態系を表現する数理モデルを構築する上で,非常に重要
な要素である海藻の生長パラメタを取得するにあたって,既存の海藻モデルに
使用された実験手法について整理を行い,時間応答性や実験データ数,海藻切
片を用いて実験を行うことに課題が存在することを指摘した上で,海藻の生長
量と密接な関係がある光合成量に着目し,環境要因に対する生長応答を表現す
る生物パラメタの取得のための,光学式溶存酸素計を用いた海藻光合成実験手
法の提案を行う.また,提案した実験手法を用いて,短期的な光合成応答を調
べ る 実 験 と ,長 期 的 な 応 答 の 変 化 傾 向 を 調 べ る 実 験 を 行 い ,本 実 験 手 法 に よ り ,
水温,光量に代表される環境因子に対する光合成応答の傾向について,効率よ
く測定することが可能であること示す.
第 3 章では,藻場変動シミュレーションを行うにあたって,モデルの構築に
8
非常に時間がかかることが問題点であることを指摘し,藻場生態系を表現する
実用的なモデルを構築するために,藻場における海藻を中心とする生物間の関
わ り を 整 理 す る と と も に ,海 藻 現 存 量 に 変 化 を 与 え る 要 素 に つ い て 考 察 を 行 い ,
複数種の海藻と海藻食性の生物を藻場生態系モデルの基礎要素として取り扱う
ことを提案する.このモデルでは,海藻自身の生長,枯死,発生と,藻食性付
着生物と魚類による摂餌を,海藻の増減要因として考えることになるため,第
2 章で示した海藻光合成実験によって取得したデータや,その他の生物実験,
文献調査によって得られた生物パラメタを用いて,水温,光量,栄養塩濃度に
よって変化する生長速度,枯死速度の他,光と場所条件の競合や,遊走子放出
と配偶体成熟過程からなる発生を考慮した海藻モデル,および,摂餌速度の水
温,季節に対する依存性と,海藻種による摂餌選択性や,水温変動による忌避
行動などを表現した藻食生物の摂餌モデルを構築する.
第 4 章では,実海域の藻場における,海藻現存量の長期変動とその原因の把
握を目的として,定期的なモニタリングが可能な人工閉鎖性干潟である,大阪
府 泉 佐 野 市 り ん く う 公 園 内 の 内 海 (う ち う み )を 対 象 と し て , 現 地 調 査 と 藻 場 モ
デルによるシミュレーションを行う.調査に関しては,内海内の水質計測と繁
茂する海藻の種類と現存量の調査を行うことによって,存在する海藻の季節変
動や優占状態について考察し,一年を通して見られる海藻種と,ある季節に顕
著に出現する海藻種のそれぞれの特性について指摘する.また,調査によって
優占種と確認された 4 種の海藻に対して,光合成実験による生物パラメタの取
得を行い,りんくう公園内海を対象とした多種海藻競合モデルを構築し,モデ
ル予測精度の検証,ならびに,藻場の変動過程と考えられる原因について考察
を行う.
第 5 章では,藻場の衰退問題の解決,緩和を目的とした研究に,藻場モデル
が有効であることを示すため,磯焼け現象が問題視されている海域である,高
知県室戸岬周辺の海域を対象とし,磯焼けの発生原因が,黒潮接岸による海域
の高水温・貧栄養化によるものと指摘するとともに,その解決方法として,黒
潮とは逆の低水温・富栄養性という性質を持つ海洋深層水を放流することを提
案する.また,海洋深層水が持つ藻場修復効果を推定するために,室戸海域の
藻場生態系を表現したモデルを構築し,漁港内の遊休水域を用いた海洋深層水
放流実験を行うことによって,深層水を効率よく滞留させるためには,放流口
形状を多孔式にし,海底に滞留構造物を設置すればよいことを実証する.さら
9
に,深層水放流時の挙動を予測する数理モデルを構築し,藻場生態系モデルと
併用することで,様々な放流条件における海藻群落の現存量変動計算を行い,
海洋深層水による室戸海域の藻場修復の可能性を示す.
第 6 章では,本論文の全体的な総括を行い,得られた結論を要約する.
1.7
結言
本章では,本研究の背景と目的などを述べるために,まず自然環境問題に対
して,人間が取るべき姿勢について考え方を示し,そのために課題となる問題
と,海洋環境の果たす役割について整理を行った.その中でも生産基盤である
藻場について,その機能とそれに関連する問題を整理し,藻場管理の重要性を
述べた後,海藻に主眼を置いた藻場管理における藻場生態系モデルの有用性と
問題点を指摘することで,本研究の背景,目的などを述べた.
10
第2章
2.1
光合成実験
緒言
藻場の海藻現存量を適切に管理するためには,計測と予測が重要である.海
藻現存量の測定手法として,回収,種の同定,重量計測という基本的な手順以
外に有効な手段が確立していない現状では,特定の場所の海藻量変動は,一度
海藻を取り上げてからその先を知ることは不可能であり,取得された情報の連
続性に問題が発生するとともに,測定を行う間隔にも限界が生じる.予測のた
めのツールとして,藻場モデルを用いることは,将来の状況予測以外にも,そ
れらの連続性の欠如に対しても,測定間隔による空白を補完するためにも有用
である.しかしながら,そのための課題として,海藻モデルを簡潔に構築する
必要があることは,第 1 章で述べた通りである.
海 藻 を モ デ ル 化 し ,藻 場 の 生 産 量 予 測 を 試 み た 事 例 と し て ,桑 原 ら [2-1][2-2]
は,忍路湾の経年モニタリングと大水槽を用いた実験から,ホソメコンブ
(Laminaria religiosa)の 生 物 パ ラ メ タ を 決 定 し , ホ ソ メ コ ン ブ 生 産 力 モ デ ル を 構
築した.しかし,このモデル構築プロセスでは,モニタリング間に見られなか
った変化が海域に発生した時の予測を行うことはできず,また,1 種類の海藻
パラメタを取得するために,多大な時間と費用,大型の実験施設が必要になる
と い う 問 題 点 も 存 在 す る . 一 方 , 本 多 [2-3]は , 海 藻 切 片 を 用 い た 光 合 成 実 験 を
行 う こ と に よ っ て , 室 内 実 験 を 主 体 と し て カ ジ メ (Ecklonia cava)の 生 物 パ ラ メ
タを取得し,カジメ群落を表現するシミュレーションモデルを構築した.しか
し,その際に用いられた光合成実験の手法は,海藻の切片を用いるという性質
上,限定された部位の応答特性しか把握できず,また,繰り返し実験や長期的
な実験が難しい,といった課題を残しており,多種多様な海藻が存在する藻場
を表現するためには,より簡潔に,多量の情報を取得する実験手法が必要であ
ると考えられる.
本章では,藻場管理を行うための海藻モデルを構築するために,海藻の環境
要因に対する生長特性を考える上で,生長量と光合成量の関連性に着目し,従
来の光合成実験手法に改善が必要な点を整理するとともに,簡潔なモデル構築
に つ な が る 実 験 手 法 を 提 案 す る .さ ら に ,提 案 し た 実 験 手 法 で 得 ら れ た 結 果 と ,
生育環境をモニタリングしながら藻体を培養する実験の結果を比較することで,
11
得られた海藻の光合成応答傾向と,実験手法の妥当性について考察する.
2.2
海藻の光合成
海藻に限らず植物は,自らが生長するための養分を自分で作り出すことがで
き,その働きが光合成である.光合成に関わる反応を簡潔に述べると,光エネ
ルギー,水,二酸化炭素といった材料を,葉緑体という工場内で変化させ,酸
素分子,炭水化物を生成する作用であり,その過程で作成された炭水化物類を
藻体に同化していくことによって,植物は生長していく.光合成の反応過程を
大 き く 分 け る と , 光 エ ネ ル ギ ー を 化 学 エ ネ ル ギ ー に 変 え る 過 程 (明 反 応 )と , 化
学 エ ネ ル ギ ー を 用 い て 有 機 物 の 固 定 を 行 う 過 程 (暗 反 応 )が 存 在 し [2-4],そ れ ぞ
れの反応過程は,以下のような収支式で表される.
(明 反 応 )
12H2 O  12NADP  6O2  12NADPH  H+
(2-1)
72H+  24ADP  24Pi  72H+  24ATP
(2-2)
(暗 反 応 )
6CO2  12NADPH  18ATP  C6 H12 O6  12NADP+  18ADP  18Pi
(2-3)
光合成反応の詳細を考えた時,ここで挙げた反応に関して,実際には反応段階
ごとに反応速度に違いが見られるが,ここでは収支のみに着目することで,こ
れらをまとめると,光合成による物質変化の収支式は次式のように表される.
6CO2  12H2O  C6 H12O6  6H2O  6O2
(2-4)
この式からわかるように,植物の光合成は化学反応であるため,光合成によっ
て発生する酸素量や吸収される二酸化炭素量の収支を把握することができれば,
生成される炭水化物量の推定が可能であり,海藻の生長を把握することに繋が
る.
ここで,光合成には制限因子が存在することを考慮しなければならない.制
限因子とは,生物が必要とする様々な資源のうちで,最小必要量に最も近い量
で存在する資源であり,光合成という化学反応では,二酸化炭素濃度,水量,
12
光 強 度 , 温 度 , 栄 養 塩 濃 度 , 塩 分 濃 度 な ど が 律 速 要 因 と し て 挙 げ ら れ [2-5], 海
藻生長量のモデル化という点において,これら律速要因に対する海藻の光合成
応 答 傾 向 は , 種 に よ っ て 変 動 す る と 考 え ら れ る [2-6]. 海 藻 光 合 成 の 生 態 学 的 反
応を複雑化したモデルにおいては,これらの因子の相互関連性や,各反応段階
での反応速度の詳細を予測することによって,精度の高い光合成反応の予測を
行っているが,本研究では,簡潔なモデリング手法を開発することを一つの目
的としているため,海藻の光合成によって発生する酸素量を計測することによ
り,光合成応答を把握するための実験方法を提案する.また,制限因子に対し
ては,海域によって差が生じやすく,かつ,光合成量に大きな影響を与えると
考えられる,光強度,水温,栄養塩濃度の 3 つの項目に対して,それぞれを独
立した制限因子と考え,光合成の応答傾向の把握を目指すこととした.
2.3
モデルパラメタ取得に適した光合成実験手法
既存の海藻光合成量を調べることができる実験手法の例として,滴定を利用
し た ウ ィ ン ク ラ ー 法 [2-7] , 気 体 酸 素 の 移 動 を 利 用 す る プ ロ ダ ク ト メ ー タ ー 法
[2-8],酸 化 還 元 反 応 を 用 い た 酸 素 電 極 法 [2-9]な ど が 挙 げ ら れ る .し か し ,藻 場
に存在する海藻の生物パラメタを取得するという本研究の目的を考慮した時,
これらの手法には,単細胞藻類あるいは海藻片にしか使用できないことと,試
薬を必要とするために安定した結果の取得には熟練を要することが,大きな問
題点となる.第 1 章でも述べたように,多種多様な海藻が存在する藻場を表現
するためには,様々な海藻種ごとのモデル化を簡潔に完了する必要があるが,
実海域に近い状態の海藻に対してパラメタ取得を行わなければ,予測精度を保
つ こ と は 難 し い .ま た ,様 々 な 海 域 に 適 応 し て モ デ ル を 利 用 し て い く た め に は ,
誰が行っても安定した結果を得られる実験方法が望ましい.
従来の光合成手法が海藻片を対象としている理由は,海藻の酸素発生量を計
測 す る 手 段 が ,気 体 体 積 変 化 の 目 視 ,試 薬 に よ る 溶 存 酸 素 濃 度 (DO)の 測 定 な ど
に限定されていたことと,生理生態学的な反応を見るためであれば,海藻種に
よ る 違 い に こ だ わ ら ず ,海 藻 部 位 ご と の 情 報 で 十 分 で あ っ た た め と 考 え ら れ る .
近 年 に な っ て , DO 計 測 技 術 も 進 歩 し て お り , 膜 を 通 過 す る 酸 素 の 分 圧 を 利 用
し た 薄 膜 式 DO 計 [2-10]や ,酸 素 電 極 で は な く 蛍 光 と 励 起 の 原 理 を 利 用 し た 光 学
式 DO 計 [2-11]な ど が 開 発 さ れ て い る .こ れ ら の 内 ,海 藻 の 光 合 成 に よ る DO 変
13
化量の計測には,化学反応を起こさないためセンサー自身による酸素消費が無
く , 光 学 式 DO 計 が 適 し て い る と い え る .
以上より,本研究で提案する光合成実験手法は,海藻藻体全体を実験対象と
し て 使 用 可 能 で あ り , 光 学 式 DO 計 を 用 い て 光 合 成 に よ る 酸 素 発 生 量 の 測 定 を
行うものとする.この提案によって,切片よりも実海域に近い状態で海藻のデ
ー タ を 取 得 で き る こ と , セ ン サ ー に よ る DO の 自 動 計 測 に よ っ て 実 験 自 体 が 簡
易 に な る こ と , さ ら に , 実 験 水 槽 内 の 海 水 へ の 干 渉 (DO・ 栄 養 塩 濃 度 の 調 整 ,
採 水 な ど )が 可 能 に な る こ と か ら ,従 来 手 法 で は 不 可 能 で あ っ た ,実 験 中 の 海 水
に対する水温や栄養塩濃度などのモニタリング,ならびに長期的な実験が可能
となることが,利点として挙げられる.
a. 実 験 方 法
光 合 成 実 験 に 用 い る 水 槽 は , Fig. 2-1 に 示 す よ う に , 実 験 用 水 槽 (1)と 馴 致 用
水 槽 (3)の 周 囲 に 隣 接 し て ,水 温 調 整 用 水 槽 (2)を 配 置 す る よ う に 設 計 し ,ア ク リ
ル 板 で 製 作 し た . 実 験 時 に は Fig. 2-2 に 示 す よ う に , 水 槽 上 部 に 発 砲 ス チ ロ ー
ル 製 の 蓋 を 被 せ る こ と に よ っ て ほ ぼ 密 閉 状 態 と し , 水 中 ポ ン プ (PF-381, GEX)
の 水 流 に よ っ て 水 槽 内 平 均 化 を 行 っ た 実 験 水 槽 に ,光 学 式 DO メ ー タ ー (HQ-40d,
LDO101-15, Hach)を 設 置 し , 水 槽 内 の DO(mg L - 1 )と 水 温 (℃ )を 1 分 間 隔 で 記 録
した.
実 験 時 の 条 件 設 定 は ,光 量 に つ い て は ,光 源 と し て 白 色 LED を 並 べ ,水 槽 と
の距離を変化させることで調整を行い,水温については,熱帯魚水槽用クーラ
ー (ZR-130E, ゼ ン ス イ ), あ る い は ヒ ー タ ー (SX-003+300W, GEX) を 用 い て 水 温
を調節した水を,水温調整用水槽内に循環させることで,水槽全体の水温調整
を 行 っ た . 実 験 中 , 海 藻 の 光 合 成 に よ っ て 水 槽 内 の DO が 上 昇 し た 場 合 は , 一
定 時 間 の エ ア ー レ ー シ ョ ン を 行 い , 実 験 開 始 時 の DO を 一 定 の 幅 (8.5~ 9.5 mg
L - 1 程 度 )に 保 つ こ と で , 発 生 し た 酸 素 の 溶 存 率 の 偏 り を 防 ぐ と 同 時 に , 空 気 か
らの二酸化炭素補給を行った.また,必要に応じて水槽内に気体窒素を通すこ
と で , DO 値 を 減 少 さ せ た . Fig. 2-3 に 実 験 時 の 様 子 を 撮 影 し た も の を 示 す .
14
Fig. 2-1 Experimental tank arrangement for photosynthesis experiment
Fig. 2-2 Experimental set up for photosynthesis experiment
Fig. 2-3 Images of photosynthesis experiment
15
b. デ ー タ 処 理
DO 計 が 取 得 で き る 情 報 は , 当 然 な が ら 水 槽 内 の DO(mg L - 1 )値 そ の も の で あ
る た め , 海 藻 が 行 う 光 合 成 活 性 度 を 評 価 す る た め に は , 各 条 件 に お け る DO の
変 化 速 度 を 求 め る 必 要 が あ る .Fig. 2-4 に 示 し た グ ラ フ は ,水 温 25℃ に お い て ,
光 量 を 変 化 さ せ て 光 合 成 実 験 を 行 っ た 時 に 取 得 で き た DO 値 を , 実 験 初 期 値 か
らの累積変化量としてまとめたものである.この図からわかるように,環境条
件 を 固 定 し た 時 の DO 変 化 は ほ ぼ 線 形 で あ る た め , こ こ か ら 得 ら れ る 傾 き を ,
DO 変 化 速 度 (mg L - 1 min - 1 )と し て 用 い る こ と と し た .こ こ で 得 ら れ た DO 変 化 速
度 に ,実 験 水 槽 内 の 海 水 体 積 (L)を 掛 け る こ と に よ っ て ,該 当 条 件 に お け る“ 酸
素 発 生 速 度 (mg min - 1 )”を 求 め ,ま た ,呼 吸 に よ る 酸 素 消 費 速 度 と の 差 分 を と る
こ と で“ 純 酸 素 発 生 速 度 (mg min - 1 )”を 算 出 し た .特 に 指 定 が な い 限 り ,本 研 究
中における,酸素発生速度,純酸素発生速度は,このようにして求めたもので
あるとする.
Variation of dissorved oxygen from initial value
(mg L-1)
0.15
I = 221
I = 127
0.12
I = 95
I = 56
0.09
I = 32
I = 22
0.06
I = 11
I=0
0.03
0
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9 10 11 12 13 14 15
-0.03
-0.06
Elapsed time (min)
Fig. 2-4 Variation of dissolved oxygen in various light conditions
16
2.4
短期光合成実験
海藻の光量と水温に対する光合成応答を把握するため,様々な水温状態にお
いて,光量を段階的に変化させて,光合成実験を高知県海洋深層水研究所内で
行った.実験用海水には,高知県海洋深層水研究所において取水した海洋深層
水 を 0.45μm 径 の メ ン ブ レ ン フ ィ ル タ ー (0.45μm HA, MILLIPORE)で ろ 過 し た 後 ,
硝 酸 ナ ト リ ウ ム (NaNO 3 )と リ ン 酸 二 水 素 カ リ ウ ム (KH 2 PO 4 )を 溶 解 さ せ る こ と で ,
栄養塩濃度を高濃度にしたものを使用した.使用する藻体は,高知県安芸郡東
洋町野根漁港でサンプリングした後,高知県海洋深層水研究所内の水槽で表層
水 と 深 層 水 の 混 合 状 態 で 培 養 し て お い た ク ロ メ (Ecklonia kurome)を 用 い る こ と
と し ,藻 体 を 馴 致 用 水 槽 に 移 し ,実 験 水 温 に お い て 明 ,暗 状 態 含 め 12 時 間 以 上
の馴致期間を設けてから実験を行った.全ての実験を終えた後,藻体の茎径,
茎長,全長の計測と,電子天秤による湿重量計測,葉面積解析用の写真撮影を
行 っ た .実 験 に 使 用 し た ク ロ メ 藻 体 の 項 目 を Table 2-1 に ,実 験 条 件 を Table 2-2
にそれぞれ示す.
Table 2-1 Items of Ecklonia kurome in short term photosynthesis experiment
Item
Value
Unit
Diameter of stem
Length of stem
Length of leaf
Wet weight
Leaf area
0.3
2.3
21.6
1.1
17.1
cm
cm
cm
g-wet
cm 2
108.5
Table 2-2 Experimental conditions of photosynthesis experiment
Water Temperature
(℃ )
Light Intensity
(μ mol m - 2 sec - 1 )
10
15
15 (2nd)
20
25
215,156,138,97,84,56,37,15,0
294,258,220,198,159,138,113,100,78,60,52,45,37,28,25,16,13,0
267,206,103,67,32,14,0
324,232,186,156,140,110,84,83,59,46,32,24,16,10,0
304,218,184,139,125,105,74,50,17,0
28
284,217,175,141,134,113,102,80,62,54,39,24,16,8,0
各実験で得られた,各水温条件における,光量変化に対するクロメの単位葉
面 積 (cm 2 )あ た り の 酸 素 発 生 速 度 を Fig. 2-5 に 示 す .
17
実験結果から,光量減少時に酸素発生速度が制限される傾向が見られた.植
物 の 光 制 限 に よ る 光 合 成 速 度 応 答 は ,一 般 に Monod 型 の 曲 線 を 示 す こ と が 知 ら
れており,今回の実験結果もそれに従っている.水温条件ごとの差に着目する
と,酸素発生速度の最大値と,光量による制限曲線の凸度に違いが見られた.
補償光以下の光量条件において,低水温域の光合成速度の初期勾配が大きくな
っ て い る こ と も 確 認 で き ,Ehleringer ら [2-12]に よ る ,高 温 条 件 に お い て 光 合 成
の初期勾配が低下するという報告と一致しているため,クロメの光合成応答は
適正に計測できているといえる.
1.5
Oxygen yield (μg min-1 cm-2)
1.0
0.5
0.0
0
50
100
150
200
250
Light intensity (μmol
m-2
300
sec-1)
-0.5
10℃
15℃
15℃ (2nd)
20℃
25℃
28℃
-1.0
Fig. 2-5 Oxygen yield rate of Ecklonia kurome relating to light intensity
上記実験結果から,各温度の酸素発生速度の最大値と,呼吸による酸素消費
速 度 (光 量 0μmol m - 2 sec - 1 の 時 の 酸 素 発 生 速 度 )を ま と め た も の を Fig. 2-6 に 示 す .
ク ロ メ が 発 生 さ せ る 酸 素 量 は 温 度 上 昇 に 伴 い 増 加 し ,あ る 水 温 を 超 え て か ら は ,
ほぼ横ばいとなる様子がみてとれる.一方,呼吸による酸素消費速度は,水温
上 昇 に 対 応 し て 増 加 を 続 け て い る .Lloyd ら [2-13]は ,陸 上 植 物 の 土 壌 呼 吸 速 度
の温度依存性は指数関数に近い式で回帰できることを示しており,海藻の呼吸
に対しても同様の傾向が見られることがわかった.
こ れ ら の 実 験 結 果 に (2-4)式 を 適 用 す る こ と で , 明 暗 12: 12 時 間 と 仮 定 し ,
日中の光合成による炭水化物生成量と夜間の呼吸による減耗量を求め,実験に
用 い た 藻 体 湿 重 量 で 割 る こ と に よ り ,一 日 あ た り の 相 対 生 長 率 (day - 1 )を 求 め た .
18
水 温 変 化 に 対 す る 相 対 生 長 率 を Fig. 2-7 に 示 す .
ク ロ メ の 酸 素 発 生 速 度 は , 水 温 上 昇 に 伴 っ て 大 き く な り , 20℃ 以 上 で 安 定 し
て い た が , 暗 条 件 時 の 呼 吸 に よ る 減 耗 率 を 考 慮 す る と , 20℃ を 超 え た 時 の 相 対
生長率は,大きく低下することが確認できた.これによって,温度上昇によっ
て,光合成反応は活性化されるが,呼吸速度はそれ以上に増加するため,クロ
2.5
0.0
2.0
-0.2
1.5
-0.4
1.0
-0.6
Photosynthesis
0.5
-0.8
Minimum oxygen yield
by respiration (μg min-1 cm-2)
Maximum oxygen yield
by photosynthesis (μg min-1 cm-2)
メ の 生 育 に 適 し て い る 水 温 は 20℃ 前 後 の 低 水 温 域 で あ る こ と が 確 認 で き た .
Respiration
0.0
-1.0
0
10
20
Water temperature (℃)
30
Fig. 2-6 Oxygen yield of Ecklonia kurome relating to water temperature
Relative growth rate (day-1)
0.004
0.003
0.002
0.001
0.000
0
10
20
30
Water temperature (℃)
Fig. 2-7 Relative growth rate of Ecklonia kurome
19
2.5
長期光合成実験
光や水温と異なり,栄養塩は海藻が消費するものであるため,完全密封を行
う 従 来 の 実 験 手 法 で は ,実 験 海 水 の 初 期 栄 養 塩 濃 度 を 調 整 す る こ と は で き て も ,
実験中の栄養塩変動を把握することはできなかった.しかし,本研究で提案し
た光合成実験手法を用いることによって,栄養塩濃度分析用の海水サンプリン
グを行いながら,光合成速度を計測することが可能となる.
栄養塩濃度変化に対する海藻の光合成応答と,栄養塩の吸収速度を把握する
ことを目的とし,栄養塩状態をモニタリングしながら,長期間に渡り光合成速
度を調べる実験を行った.対象海藻には,短期光合成実験時と同様に,高知県
海 洋 深 層 水 研 究 所 内 で 培 養 し た ク ロ メ を ,室 戸 表 層 水 を 入 れ た 水 槽 内 に 投 入 し ,
水 温 21℃ , 光 量 175μE m - 2 sec - 1 の 設 定 下 に お い て , 明 暗 周 期 12: 12 時 間 で 3
日間の馴致期間を設けた後,光合成実験を開始した.
こ こ で , 栄 養 塩 濃 度 の 測 定 に は , Arai ら [2-14]が 開 発 し た FIA(Flow Injection
Analysis) を 用 い た 栄 養 塩 連 続 計 測 シ ス テ ム を 用 い , DIN(Dissolved Inorganic
Nitrogen), DIP(Dissolved Inorganic Phosphorus= NH 4 - +NO 2 - +NO 3 - )を 対 象 と し
て , 30 分 間 隔 で 連 続 的 に 計 測 を 行 っ た . 実 験 期 間 は 2010 年 10 月 6 日 か ら 26
日 ま で と し ,10 月 6 日 (実 験 開 始 前 ),10 月 10 日 ,10 月 22 日 に ,室 戸 海 洋 深 層
水 の 追 加 と , 硝 酸 ナ ト リ ウ ム (NaNO 3 )溶 液 と リ ン 酸 二 水 素 カ リ ウ ム (KH 2 PO 4 )溶
液 の 添 加 を 行 う こ と に よ っ て , 水 槽 内 の DIN, DIP を 調 整 し た . 実 験 後 , 藻 体
の茎径,茎長,全長,湿重量の計測,葉面積解析用の写真撮影を行った.実験
に 使 用 し た ク ロ メ 藻 体 の 項 目 を Table 2-3 に 示 す .
Table 2-3 Items of Ecklonia kurome in long term photosynthesis experiment
Item
Value
Unit
Diameter of stem
Length of stem
Length of leaf
Wet weight
Leaf area
0.4
3.1
18.6
1.1
22.3
cm
cm
cm
g-wet
cm 2
135.1
2010 年 10 月 6 日 か ら 7 日 ま で の , 取 得 し た 光 合 成 に よ る 酸 素 発 生 速 度 に 対
し て , 栄 養 塩 計 測 時 間 を 中 心 に 30 分 間 隔 で 平 均 値 を と っ た も の を Fig. 2-8 に ,
20
DIN と DIP の 変 動 を Fig. 2-9 に そ れ ぞ れ 示 す . な お , 光 合 成 以 外 に よ る DO の
変動値を取り除くために,エアーレーションを行った時間と,その後 5 分間の
データはカットして平均値計算を行った.
実験時の酸素発生量からクロメ藻体が正常に光合成を行っていることが確認
できる.2 日目の後半に酸素発生速度が落ち込む現象が起こっているが,エア
ーレーションを行った後に酸素発生速度が少量ながら上昇することと,栄養塩
計測のための採水によって水位が低下し始めてから,酸素発生速度の減少が顕
著になったことから,二酸化炭素の不足によって光合成が制限されたと考えら
れ る . 栄 養 塩 濃 度 の 変 動 推 移 を 見 る と , DIN, DIP と も に , 実 験 開 始 直 後 の 減
少速度が最も大きく,夜間は少々の減速が見られる.これは,馴致段階で栄養
塩濃度の低い表層水を使い,また,馴致期間も長かったため,栄養塩に対して
飢 餓 状 態 に な っ て い た こ と が 大 き な 要 因 で あ る と 考 え ら れ る . ま た , 特 に DIP
において,夜間の吸収速度が小さくなった後,日中は再び吸収速度が大きくな
っているように見られる.これは,光合成を行うことによって消費した栄養塩
を,実験海水中から藻体内に補給しているためであると考えられる.
Average oxygen yield (μg min-1 cm-2)
3
2
1
0
10/6 8:00
10/6 20:00
10/7 8:00
10/7 20:00
-1
-2
Fig. 2-8 Average Oxygen yield of half hour of Ecklonia kurome
21
150
15
DIP
100
10
50
5
0
10/6 8:00
DIP (μmol L-1)
DIN (μmol L-1)
DIN
0
10/6 20:00
10/7 8:00
10/7 20:00
Fig. 2-9 Nutrient variation in the long term photosynthesis experiment
ここで,栄養塩に対して飢餓状態の藻体における,栄養塩吸収速度を確認す
る た め ,10 月 10 日 の 暗 条 件 時 に 栄 養 塩 添 加 を 行 い ,モ ニ タ リ ン グ を 開 始 し た .
10 月 10 日 21 時 か ら 12 日 20 時 ま で の DIN,DIP の 計 測 結 果 を Fig. 2-10 に 示 す .
実験結果から,暗条件下のために藻体は光合成を行っていないにもかかわら
ず , DIN, DIP の 減 少 速 度 は , 栄 養 塩 添 加 直 後 が 最 も 早 い こ と が 確 認 で き た ,
次に,実験期間中の酸素発生速度に対して,明条件と暗条件に分けて平均値
を ま と め た も の を Fig. 2-11 に 示 す .
平 均 酸 素 発 生 速 度 の 経 日 変 化 に 着 目 す る と , 10 月 6 日 , 11 日 , 12 日 と い っ
た 栄 養 塩 添 加 直 後 は ,相 対 的 に 高 い 酸 素 発 生 速 度 で あ る こ と が わ か る .こ れ は ,
添加直後の富栄養塩状態で一時的に光合成反応が活性化され,それ以降は通常
の 反 応 に 落 ち 着 い た と 考 え ら れ る . 10 月 22 日 に 栄 養 塩 添 加 を 行 っ た 後 に 大 き
な反応が表れていないことは,栄養塩の添加量よりも,それまでに消費した量
が大きく,藻体内に全て蓄積できたためと推定できる.また,実験水槽内の栄
養 塩 が 枯 渇 し た 状 態 で も ,光 合 成 は 安 定 し て 行 っ て い る こ と が 確 認 で き た た め ,
藻体内の栄養塩量により光合成量に差は生じるが,栄養塩を消費し尽くすまで
は , あ る 程 度 の 同 化 は 行 え る こ と が 推 察 で き る . な お , 10 月 19 日 の 平 均 酸 素
発 生 量 が 大 き く 減 少 し た 原 因 と し て , 10 月 18 日 の 暗 条 件 時 に エ ア ー レ ー シ ョ
ンが正常に行われず,実験水槽内が貧酸素状態となったため,一時的な機能不
22
全に陥ったと考えられる.しかしながら,このトラブルによって,異常な環境
変化が起きた後は,生産量が大きく減少するものの,適切な生育条件下におい
て 1 日程度経過すれば,元の状態に回復することが確認できた.
15
150
DIP
100
10
50
5
0
10/10 20:00
0
10/11 8:00
10/11 20:00
10/12 8:00
10/12 20:00
Fig. 2-10 Nutrient variation after added nutrient
Added nutrient points
Average oxygen yield (mg min-1cm-2)
0.2
0.1
0
10/6
DIP (μmol L-1)
DIN (μmol L-1)
DIN
10/9
10/12
10/15
10/18
10/21
10/24
-0.1
Lighting condition
Dark condition
-0.2
Fig. 2-11 Average oxygen yield of Ecklonia kurome
23
2.6
生育実験
光合成実験で得られた環境条件に対する光合成応答傾向が,実際の海藻生長
量 と 整 合 性 を 示 す か ど う か を 確 認 す る た め , 2007 年 9 月 13 日 か ら 2008 年 12
月 10 日 ま で ,高 知 県 海 洋 深 層 水 研 究 所 に お い て ,ク ロ メ 藻 体 の 生 育 実 験 を 行 っ
た . 実 験 に は 60cm×30cm×45cm の ア ク リ ル 水 槽 を 3 つ 用 い , 野 根 漁 港 で サ ン
プ リ ン グ し た ク ロ メ (全 長 15~ 22 cm, 湿 重 量 6.1~ 9.3 g-wet)を , 各 水 槽 に 2 株
ず つ 投 入 し , 室 戸 表 層 水 と 深 層 水 を Fig. 2-12 に 示 す よ う に , 3 段 階 に 混 合 割 合
を 変 化 さ せ て 注 水 し た .実 験 水 槽 内 部 に は ,CT セ ン サ ー (MDS-CT,ALEC)と 光
量 子 計 (MDS-MkV L - 1 , ALEC)を 設 置 す る こ と で , 実 験 水 槽 内 の 水 温 (℃ ), 塩 分
(PSU), お よ び 光 量 (μmol m - 2 sec - 1 )を 10 分 間 隔 で 計 測 し , 各 水 槽 の 採 水 , 化 学
分 析 を 行 う こ と に よ っ て DIN, DIP を 約 2 週 間 の 頻 度 で 測 定 し た . ま た , 生 長
量を調べる指標として,クロメ藻体の湿重量計測と,写真撮影による葉面積解
析を定期的に行った.
Deep ocean water
Tank ①
(S:D = 50:50)
Surface sea water
Tank ②
(S:D = 75:25)
Tank ①
(S:D = 100:0)
Drain out
Light sensor
CT sensor
Ecklonia kurome
Fig. 2-12 Experimental tank arrangement for growth experiment
実験期間中の水温,光量,栄養塩濃度,クロメ葉面積,湿重量の経年変動を
Fig. 2-13~ Fig. 2-17 に そ れ ぞ れ 示 す .な お ,2007 年 9 月 ~ 12 月 の 期 間 は セ ン サ
ーの設定失敗によって,水温,塩分,光量データが欠測となった.
まず,各水槽の生育環境について,水温に関しては,表層水温が低下する冬
季には水槽間の違いはあまり見られず,3 月以降から深層水混合による差が見
られ始めているが,水槽②と③の間で水温の逆転がしばしば発生している.こ
24
の原因は,深層水と表層水の流量制御が適切ではなく,混合割合が不安定であ
ったためであり,後述する栄養塩濃度の結果にも,その影響が確認できる.光
量 の 日 変 動 は 大 き い が , 各 水 槽 間 で 大 き な 差 は 見 ら れ な い . DIN に つ い て は ,
水 槽 ① は 年 間 を 通 し て 5μmol L - 1 弱 の 値 を 示 し て お り , 水 槽 ② と ③ を 見 る と ,
12 月 程 度 ま で は , 深 層 水 の 混 合 割 合 が 25%増 加 す る ご と に 10μmol L - 1 ほ ど の
DIN 増 加 が 見 ら れ る が ,混 合 割 合 が 安 定 し な く な っ た 2008 年 4 月 以 降 は ,水 槽
② の DIN が 上 が る と ,水 槽 ③ の DIN が 下 が る と い っ た 傾 向 が 見 ら れ る .こ れ は
実験水槽への注水構造上の問題であり,一方の流入量が減少すると,もう一方
の 流 入 量 が そ の 分 増 加 し た と 考 え ら れ る . ま た , DIP は DIN よ り も 変 動 が 大 き
い が , こ れ は , 室 戸 表 層 水 は DIP が 低 く , 深 層 水 の 混 合 割 合 に 受 け る 影 響 が 大
きいためである.
クロメの生長について,各水槽の実験終了までの変化傾向を見ると,同一水
槽内のクロメの葉面積と湿重量には,値そのものに少し差が生じているが,増
減の傾向は同様であることが確認できた.つまり,水槽内の環境によって,生
長傾向が決定されていると言える.それぞれの水槽において,実験終了時の葉
面積を比較すると,水槽②と③が同程度であるが,②の株 1 だけが比較的小さ
め と な っ て い る .株 ② -1 は ② -2 に 比 べ て 常 に 低 い 値 で あ る こ と か ら ,光 量 や 栄
養塩吸収における競合影響が働いたと考えられる.
生 育 環 境 デ ー タ を 計 測 で き た 範 囲 で ,季 節 変 化 に よ る 増 減 傾 向 に 着 目 す る と ,
2009 年 2 月 か ら 5 月 に か け て ,貧 栄 養 で あ る 水 槽 ① で 藻 体 が 生 長 し ,富 栄 養 塩
である水槽③で生長が制限されていることが確認できる.これは,水温による
影響であり,この期間は水温が低すぎるために生長が阻害されたと考えられ,
水 温 が 18℃ 程 度 で 安 定 し 始 め た ,2009 年 5 月 以 降 の 水 槽 ③ の 生 長 量 が 大 き く な
っていることも,同様の理由からであると考えられる.葉面積と湿重量は,ほ
ぼ 比 例 関 係 に あ る が ,2009 年 5 月 か ら 9 月 に か け て ,水 槽 ① の 葉 面 積 が ③ よ り
も大きく,湿重量は③よりも小さくなる逆転が起こっている.これは,貧栄養
状態による影響であると考えられ,測定時の水槽①の藻体は,③の株に比べて
色合いが薄く柔らかい印象があり,栄養塩を集めるために藻体の表面積を大き
くする方に力を使ったと考えられる.
以上より,クロメの適正生育温度は 1 月~4 月の水槽①,あるいは 8 月以降
の 水 槽 ③ の 水 温 ,つ ま り ,18℃ ~ 20℃ の 範 囲 で あ る と 判 断 で き た .こ の 結 果 は .
前 述 し た 光 合 成 実 験 の 結 果 に お け る , Fig. 2-7 で 示 し た 相 対 生 長 率 の 適 性 水 温
25
と類似している.また,貧栄養状況下においても,クロメの生長が完全に止ま
ることはないが,湿重量の生長は制限されることが確認できた.こちらの結果
も,長期光合成実験で得られた推察と同様であり,これにより,光合成実験に
よって取得した,環境条件に対する光合成応答によって,海藻の生長特性が十
分に把握できることがわかった.
Water temperature (℃)
30
Tank① (S:D=100:0)
Tank② (S:D=75:25)
25
Tank③ (S:D=50:50)
20
15
10
2007/12/15 2008/2/15 2008/4/15 2008/6/15 2008/8/15 2008/10/15
Fig. 2-13 Seasonal variation of water temperature
Light intensity (μmol m-2 sec-1)
150
Tank① (S:D=100:0)
Tank② (S:D=75:25)
Tank③ (S:D=50:50)
100
50
0
2007/12/15 2008/2/15 2008/4/15 2008/6/15 2008/8/15 2008/10/15
Fig. 2-14 Seasonal variation of light intensity
26
2
40
1.6
30
1.2
20
0.8
10
0.4
0
2007/9/13
0
2007/12/13
2008/3/13
2008/6/13
2008/9/13
Fig. 2-15 Seasonal variation of nutrient concentration
Leaf area (cm2)
1200
Tank① (S:D=100:0) 1
Tank② (S:D=75:25) 1
Tank③ (S:D=50:50) 1
Tank① (S:D=100:0) 2
Tank② (S:D=75:25) 2
Tank③ (S:D=50:50) 2
900
600
300
0
2007/9/13
2007/12/13
2008/3/13
2008/6/13
2008/9/13
Fig. 2-16 Leaf area of Ecklonia kurome in growth experiment
200
Wet weight (g-wet)
DIN (μmol L-1)
50
Tank② (S:D=75:25) DIN
Tank③ (S:D=50:50) DIP
Tank① (S:D=100:0) 1
Tank② (S:D=75:25) 1
Tank③ (S:D=50:50) 1
Tank① (S:D=100:0) 2
Tank② (S:D=75:25) 2
Tank③ (S:D=50:50) 2
150
100
50
0
2007/9/13
2007/12/13
2008/3/13
2008/6/13
2008/9/13
Fig. 2-17 Wet weight of Ecklonia kurome in growth experiment
27
DIP (μmol L-1)
Tank① (S:D=100:0) DIN
Tank③ (S:D=50:50) DIN
2.7
結言
本 章 で は ,藻 場 管 理 の た め の 藻 場 生 態 系 シ ミ ュ レ ー シ ョ ン を 行 う に あ た っ て ,
重要な要素である海藻モデルの簡潔なモデリングを目指した,海藻の生長特性
を把握するための実験手法を検討し,それを適用した実験を行った結果,以下
のような結論を得た.
(1) 光 合 成 に よ る 反 応 を 整 理 し ,光 合 成 量 と 生 長 量 の 関 連 性 を 考 察 す る こ と に よ
っ て ,簡 潔 な モ デ リ ン グ 手 法 を 開 発 す る た め に ,制 限 因 子 に 対 す る 海 藻 の 光
合成応答を計測する必要があることを指摘した.
(2) 海 藻 モ デ ル 構 築 を 考 慮 し た 時 ,従 来 の 光 合 成 実 験 手 法 は ,海 藻 葉 片 を 用 い る
こ と と ,デ ー タ 取 得 の 安 定 性 ,簡 便 性 に 欠 け る こ と が 問 題 点 で あ る こ と を 指
摘 し ,問 題 解 決 の た め に 光 学 式 溶 存 酸 素 計 を 用 い ,藻 体 全 体 の 光 合 成 速 度 を
取得する,新しい光合成実験手法を提案した.
(3) 提 案 し た 光 合 成 実 験 手 法 を , ク ロ メ (Ecklonia kurome)に 対 し て 用 い る こ と に
よ り ,水 温 ,光 量 の 変 化 に 対 す る 光 合 成 応 答 が 把 握 で き る こ と を 明 ら か に し
た .ま た ,光 合 成 応 答 の 取 得 と 栄 養 塩 モ ニ タ リ ン グ を 連 動 さ せ る こ と に よ り ,
海 水 中 の 栄 養 塩 が 枯 渇 し て も ,海 藻 は 一 定 量 の 光 合 成 を 行 う こ と を 確 認 し た .
(4) ク ロ メ を 様 々 な 生 育 環 境 で 培 養 す る 実 験 を 行 う こ と に よ り ,ク ロ メ の 実 際 の
生 長 傾 向 が ,光 合 成 実 験 に よ り 取 得 し た 光 合 成 応 答 傾 向 と 類 似 し て い る こ と
を 明 ら か に す る こ と で ,提 案 し た 光 合 成 実 験 手 法 の 妥 当 性 と ,モ デ ル へ の 適
用可能性を示した.
以上より,溶存酸素濃度を,光学式溶存酸素計を用いて計測することで,環
境条件に対する海藻の光合成特性を計測できる実験手法を提案し,海藻モデル
に用いる生物パラメタの取得に有効であることを明らかにした.また,藻体全
てを用いて実験を行えたことで,従来の実験手法では困難であった,糸状の海
藻や,形状が一様でない海藻に対しても,有効な光合成実験手法であることを
示した.
28
第3章
3.1
藻場生態系モデル
緒言
自然環境を維持・管理するという点において,自然環境が人間活動から受け
る影響を予測することが重要であり,藻場の変動を予測する手段として,藻場
モデルが有効であることは第 1 章で述べた通りである.本研究では,その中で
も,海藻現存量を評価・予測できるモデルを用いて,藻場適正な管理や生産力
を高める方法を議論することを目指しており,第 2 章では,海藻の生物パラメ
タを効率的に取得するための実験手法を提案し,その有用性を示した.これに
よって,海藻モデルの構築において非常に手間のかかっていた,海藻生長を表
現するパラメタの取得が簡潔に行えるようになった.しかしながら,多様な藻
場でのモデル利用のためには,生長特性を取得するだけでは不十分であり,そ
の情報を如何にしてモデル内で用いるかを考慮すること,つまり,モデル化を
行うことが必要となる.
沿岸域における生態系モデルを構築する方法を調べると,対象海域を選定し
た上で構成やパラメタの決定を行い,対象とした海域の表現に特化したモデル
を構築していく方法が一般的である.この理由として,表現したい事象が研究
毎に決定されることと,海域によって生態系の構成が異なっていることが挙げ
られる.例えば,干潟と垂直護岸では,海藻だけでなくプランクトンや微生物
の分布が違っているし,元々は同種の海藻でも,生育環境によってはその生態
に 差 異 が 見 ら れ る こ と が 報 告 さ れ て い る [3-1][3-2].こ の よ う な 事 情 か ら ,対 象
海域が変わる度に,一からモデリングを行うことは避けられず,モデルの構築
に時間がかかるということが問題点として挙げられる.
そ の よ う な 問 題 点 に 対 し て ,本 研 究 で は ,海 藻 の 増 減 に 関 わ る 基 礎 要 素 (ど の
海 域 に お い て も 大 き く 変 化 し な い 要 素 )に 対 し て ,モ デ ル 構 造 の 決 定 と 反 応 式 の
概 形 を 作 成 し て お く こ と に よ っ て ,海 藻 モ デ ル に 汎 用 性 を 持 た せ る こ と と し た .
これによって,対象海域選定後の海藻モデル構築のための主な作業内容を,海
域の優占種選定と,選定種に対する生物実験に限定することができ,海域毎の
特徴を追加で考慮することで,藻場モデル構築にかかる時間を大幅に短縮する
ことができると考えられる.そのためには,一般性を持ったモデル構造と反応
式の決定を行うことが課題となる.
29
本章では,藻場生態系における特色を海藻の増減要因を中心に概説し,藻場
における海藻現存量の変動現象を表現するために必要な構成要素について記述
する.その後,生物実験を行った結果と文献調査によって,環境因子と各現象
との関係性を表現したモデル構造と反応式を決定することにより,藻場モデル
の実用化に不可欠な,汎用性に富んだ海藻増減を表現するモデルを構築する.
3.2
藻場海藻の増減要因とモデリング
第 1 章でも述べた通り,藻場は沿岸生態系における基礎生産を担っており,
生物多様性が非常に高い場である.生物多様性が高い理由として,藻場の海藻
に付着した微細藻類や微生物が小型甲殻類などの餌となり,それを捕食する魚
類が集まることによって,生態系を多重に構成していくことが挙げられる.そ
れ ら の 集 ま っ た 魚 類 や 甲 殻 類 は ,藻 場 を 隠 れ 場 所 や 産 卵 場 所 と し て 使 用 す る 他 ,
中には海藻藻体を餌とする種が存在することが知られている.そのような海藻
食性の生物をここでは藻食動物と総称するが,藻場生態系シミュレーションに
よって海藻量の管理を行うためには,こういった藻食動物による影響など,環
境条件に起因する海藻の生長以外の増減要因も考慮しておく必要がある.
海藻の増加要因としては,海藻自身の生長や発生,母藻の移植など,また,
減少要因として,海藻自身の枯死,藻食動物による摂餌,自然災害などによる
流失,埋没,資源や廃棄対象としての回収など,様々な要因が考えられる.こ
こで,藻場モデルによる藻場の管理における,海藻現存量の変動予測という目
的の性質上,環境要因の変化による影響を受けやすい現象を優先的に表現する
必要があり,上記の中であれば,海藻の生長・枯死,新芽の発生,藻食動物に
よる摂餌が該当し,その他の現象は,海域や計算条件に合わせて発生確率と発
生規模を設定するものとする.
以上より,本研究で構築する,構造を単純化した藻場生態系モデルにおいて
取 り 扱 う モ デ ル 内 変 数 (以 降 コ ン パ ー ト メ ン ト (compartment)と 呼 ぶ )は , 任 意 の
“海藻”の他,藻食動物として移動量が少ない貝類などの“付着動物”と,比
較的自由に移動を行う“魚類”の計 3 つとし,微生物などの低次生態系の物質
変動の詳細は考慮しないものとする.また,それらによる海藻現存量の増減要
因 に は 海 藻 の “ 生 長 ・ 枯 死 ”,“ 発 生 ”, 藻 食 動 物 に よ る “ 海 藻 の 摂 餌 ” を 取 り
30
扱うこととした.藻場モデルにおける各コンパートメントと要因の関連性を示
し た 概 念 図 を Fig. 3-1 に 示 す . 海 藻 現 存 量 BSW の 変 化 は , 海 藻 の 生 長 速 度 VSW ,
枯 死 速 度 DSW , 新 芽 の 発 生 速 度 PSW , な ら び に , 付 着 生 物 に よ る 摂 餌 速 度 GU ,
魚 類 に よ る 摂 餌 速 度 GF を 用 い て ,次 式 の よ う な 微 分 方 程 式 で 表 現 す る こ と と し
た.
dBSW
 VSW  DSW  PSW  GU  GF
dt
(3-1)
本章では,これらの反応モデルについて,モデル構造と応答関数の概形を決定
することにより,必要な生物パラメタを指摘し,環境因子に対するそれぞれの
応答を表現する.
Herbivorous Fish
Grazing “GF”
Seaweed
Growing “VSW”
Death “DSW”
Phytogenic “PSW”
Grazing “GU”
Herbivorous
Sessile animal
Fig. 3-1 Basic scheme of seaweed bed ecosys tem model
3.3
海藻モデル
海 藻 の 生 長・枯 死 に よ る 現 存 量 変 動 を 表 現 す る 海 藻 モ デ ル の 構 造 は ,Fig. 3-2
に示すように,水温,栄養塩濃度,光強度,季節のインプットに対して,光合
成量と呼吸量を推定することによって生長速度と枯死速度,遊走子放出後の配
偶体成熟による新芽の発生をアウトプットとして算出する反応モデルに,海藻
同士の競合表現を追加したモデルとした.沿岸域に繁茂する海藻は多種多様で
あり,モデル概形はなるべく多くの海藻に対して使用できるものでなくてはな
らないが,ここではまず,コンブ目の海藻を主に取り扱うことで,環境因子と
の関連性と,モデル化の可能性について言及することを目指す.
31
Light Intensity
Nutrient
Water Temperature
Phytogenic
Photosynthesis
Breathing Wastage
Seaweed A
[Growing, Death, Genesis]
Competition
(Light, Area)
Seaweed B
[Growing, Death , Genesis]
Fig. 3-2 Basic scheme of seaweed model
3.3.1
生長
海 藻 生 長 を 表 現 し た モ デ ル の 例 と し て 挙 げ ら れ る ,本 多 [3-3][3-4]の カ ジ メ 群
落の生産力予測モデルは,カジメの光合成に関する生理学的知見に基づいて構
築された.しかし,生化学反応から詳細を表現したモデルは,精度の高い予測
が可能となる反面,数多くの生物実験や調査,検証が必要となると同時に,モ
デル自体も複雑なパラメタを有することとなり,多種多様な海藻が,相互に影
響を及ぼしあう藻場を想定した場合,非常に多くの生物パラメタを取得する必
要が生じる.
このような課題に対して,本研究では,効率的にパラメタを取得するための
実験方法を開発し,それに準じた簡潔な海藻モデル構築手法を提案するという
アプローチ方法を目指してきた.そこで,海藻の生長を表現するモデルには,
光,水温,栄養塩濃度などの環境因子による影響をそれぞれ関数化し,掛け合
わせることで相対生長率を算出し,複合的に生長速度を表現する手法をとるこ
と と し た . 海 藻 の 生 長 速 度 Vi (g-wet m - 2 day - 1 )は , 水 温 条 件 に よ っ て 決 定 す る 相
対 生 長 率 VTi (day - 1 )に ,光 条 件 に 対 す る 光 制 限 係 数 mIi ,栄 養 塩 に よ る 制 限 係 数 mNi ,
お よ び 海 藻 自 身 の 現 存 量 BSWi (g-wet m - 2 )を 掛 け 合 わ せ る こ と で ,次 式 の よ う に 表
現した.
Vi  VTi mIi mNi BSWi
(3-2)
な お ,式 中 に お け る i は ,複 数 種 の 海 藻 モ デ ル 構 築 を 想 定 し た ナ ン バ リ ン グ
であり,海藻種毎に対応する数字を与えることとする.
32
a. 相 対 生 長 率 VTi
藻 体 の 自 重 に 対 す る 相 対 生 長 率 VTi は , 水 温 T (℃ )に 依 存 す る 関 数 と し て , 次
式のように表現した.
VTi  kmax SWiSWi 1  SWi  ,  SWi
SWi
 T  Tmin SWi 


 Tmax SWi  Tmin SWi 
(3-3)
こ こ で , km a xS W i( d 1 ), SWi , Tmax SWi (℃ ), Tmin SWi (℃ )は , 第 2 章 で 示 し た 光 合 成 実
験の結果を基に決定するパラメタであり,それぞれ,最適水温時の最大相対生
長率,凸度,生長可能限界水温の上限,下限を示す.第 2 章で行ったクロメの
実 験 結 果 に 対 し て 最 小 二 乗 法 を 用 い る こ と で 求 め た パ ラ メ タ を Table 3-1 に ,そ
れらのパラメタを用いて推定したクロメ相対生長率の水温依存性と実験値との
比 較 を Fig. 3-3 に 示 す . ク ロ メ の 相 対 生 長 率 は , 上 記 関 数 で 適 切 に 表 現 で き る
形状であることが確認できた.
Table 3-1 Parameters for temperature dependency of Ecklonia kurome
Defin iti on
Sym b ol
Va lu e
Un it s
kSWmax
0.01 4 7
da y - 1
ωSW
1.320
Lo wer li m it of wat er t emp era t ure
TSWmin
0
℃
Hi gh er lim it of wat er t emp era t ure
TSWmax
32.0
℃
Ma xi mu m rela t i ve growt h rat e
C on vexit y d egr ee
Relative groeth rate (day-1)
0.004
0.003
0.002
Fitted
0.001
Measured
0
0
10
20
30
Water temperature (℃)
Fig. 3-3 Estimated relative growth rat e of Ecklonia kurome
33
b. 光 制 限 係 数 mIi
光 条 件 に よ っ て 藻 体 の 光 合 成 が 制 限 さ れ る こ と を 表 現 す る 光 制 限 係 数 mIi は ,
光 強 度 I (μmol m - 2 sec - 1 )に よ る 制 限 係 数 と し て 次 式 の よ う に 表 現 し た .
mI 
PI  P0
PI  1  1  VT 0 / VTex  exp  i I 
1  P0 ,
(3-4)
こ こ で , VTex , VT 0 は そ れ ぞ れ , 水 温 T に お け る 最 大 相 対 生 長 率 , 暗 条 件 に お け
る 相 対 生 長 率 (負 の 値 と な る )で あ り ,  i は 制 限 曲 線 の 曲 率 パ ラ メ タ で あ る .
第 2 章で行った光合成実験結果を最小二乗近似することにより,クロメの光
制 限 パ ラ メ タ を Table 3-2 の よ う に 決 定 し た 時 ,光 に よ る 制 限 係 数 は Fig. 3-4 の
ように推定できた.一般的には光による律速は水温とは独立しているとされて
いるが,推定結果には,水温による曲率変化が見られた.
Table 3-2 Parameters for light limitation of Ecklonia kurome
Va l u e
Fo r c i n g
S y mb o l
T=8
T=15
T=20
T=25
T=28
Units
R e la t i v e g r o w t h r a t e a t T ℃
V Te x
0.00320
0.00543
0.00686
0.00539
0.00552
day-1
R e la t i v e g r o w t h r a t e a t T ℃ i n d a r k c o n d it io n
VT0
-0.00070
-0.00181
-0.00194
-0.00265
-0.00351
day-1
αT
0.023
0.014
0.015
0.007
0.009
m2 sec μ mo l-1
C u r v a t u r e o f l i g h t l i m i t a t io n
Limiting function of light intensity
1.00
0.75
Fitted
0.50
0.25
Measured
10℃
10℃
15℃
15℃
20℃
20℃
25℃
25℃
28℃
28℃
0.00
0
100
200
300
Light intensity (μmol m-2 sec-1)
Fig. 3-4 Limiting function of Ecklonia kurome relating to light intensity
34
c. 栄 養 塩 制 限 係 数 mNi
第 2 章の光合成長期実験の結果から,海域に栄養塩が無くなった場合におい
て も ,光 合 成 は 完 全 に は 制 限 さ れ な い こ と が 確 認 さ れ た が , Chapman ら [3-5]や
芹 澤 ら [3-6]に よ っ て ,栄 養 塩 濃 度 に 対 す る 生 長 速 度 の 依 存 性 が 報 告 さ れ て い る
た め , 栄 養 塩 制 限 係 数 mNi に つ い て は , 大 塚 ら [3-7]が カ ジ メ (Ecklonia cava)に 対
し て 行 っ た 栄 養 塩 制 限 に 関 す る 実 験 結 果 を 参 考 に ,DIN(溶 存 無 機 態 窒 素 ),お よ
び DIP(溶 存 無 機 態 リ ン )に よ る Monod 型 の 制 限 式 に ,低 栄 養 時 の 光 合 成 補 償 定
数 N min , Pmin を 用 い る こ と に よ っ て 次 式 の よ う に 表 し た .


[ DIN ]
[ DIP]
mNi  min 
 N min i ,
 Pmin i 
K DIPi  [ DIP]
 K DINi  [ DIN ]

(3-5)
こ こ で min [A,B]は , 括 弧 内 の い ず れ か 小 さ い 方 の 値 を 選 択 す る こ と を 意 味 し ,
k DINi (μmol L - 1 ),k DIPi (μmol L - 1 )は そ れ ぞ れ DIN,DIP に 対 す る 半 飽 和 定 数 で あ る .
パ ラ メ タ を k DIN =21.36, k DIP =1.23, N min =0.13, Pmin =0.15 と 決 定 し た 時 に 推 定 さ
れ る 栄 養 塩 制 限 と 大 塚 ら の 実 験 結 果 と の 比 較 を Fig. 3-5 に 示 す . な お , 光 合 成
補 償 定 数 に よ り ,栄 養 塩 高 濃 度 状 態 に お い て 制 限 が 1 を 超 え る 可 能 性 が あ る が ,
これは,光合成実験で確認された,藻体の許容量を超えた高栄養塩濃度による
1
Limitation function of DIP
Limitation function of DIN
一時的な光合成活性の表現とし,補正は行わなかった.
0.8
0.6
0.4
Fitted
0.2
Measured
0
0
10
20
30
40
1
0.8
0.6
0.4
Fitted
0.2
Measured
0
0
50
1
2
3
4
5
DIP (μmol L-1)
DIN (μmol L-1)
Fig. 3-5 Limiting function of Ecklonia cava relating to nutrient concentration
35
3.3.2
枯死
海 藻 の 枯 死 速 度 DSWi は , 呼 吸 量 に よ る 減 耗 が 関 係 し て い る と 考 え , 光 合 成 実
験 に よ り 明 ら か に な っ た ,水 温 上 昇 に 伴 う 呼 吸 速 度 の 増 加 現 象 を 参 考 に ,水 温 T
に 対 し て 指 数 関 数 的 に 増 加 す る 枯 死 率 に , 海 藻 自 身 の 現 存 量 BSWi を 掛 け る こ と
によって次式のように表現した.


DSWi   DSWi exp   DSWi T  TD max SWi    N DSWi BSWi
(3-6)
こ こ で  D S W,  DSW , N DSWi , TD max SWi は 枯 死 率 決 定 パ ラ メ タ で あ り , そ れ ぞ れ , 枯
死率の傾きと拡がり,固定枯死率,生育限界高水温を表し,これらは,光合成
実 験 に お け る , 各 水 温 状 態 で の 呼 吸 量 よ り 決 定 す る .  DSW =0.012,  DSW =0.17,
N DSWi =0.0004, TD max SWi =35.0 と し た 時 の ク ロ メ 枯 死 率 の 推 定 結 果 と , 第 2 章 で 行
っ た ク ロ メ 光 合 成 実 験 時 の 相 対 減 耗 率 の 比 較 を Fig. 3-6 に 示 す .
Water temperature (℃)
0
10
20
30
0
Firing rate (day-1)
-0.001
-0.002
Measured
-0.003
Fitted
-0.004
Fig. 3-6 Firing rate of Ecklonia kurome relating to water temperatu re
36
3.3.3
発生
藻体からの新芽の発生を表現するために,藻体から遊走子が放出されてから
生長可能な胞子体になるまでの過程のモデル化を行う.そのために,遊走子の
放出と基質への着底条件を表現した遊走子期と,着底後,配偶体が環境要因に
よって淘汰されていく過程を表現した配偶体期に分けて考え,文献調査結果に
基づいて,それぞれの反応式を構築する.
a. 遊 走 子 期
遊走子期を表現するために,遊走子を作成するための器官である子嚢斑の形
成 と ,遊 走 子 の 放 出 量 ,そ し て ,放 出 さ れ た 遊 走 子 が 基 盤 に 着 生 で き る 確 率 が ,
環境因子に由来するものかどうかを検討し,モデル化を行った.
(Ⅰ )子 嚢 斑 の 形 成
遊走子は成体葉部に形成される子嚢斑から放出されるため,まず,子嚢斑の
形 成 量 を 表 現 す る 必 要 が あ る . Aruga ら [3-8]は , 静 岡 県 下 田 市 鍋 田 湾 の カ ジ メ
群落において,葉面積と子嚢斑面積を測定することで,葉面積に対する子嚢斑
面 積 の 割 合 に は 季 節 依 存 性 が あ る こ と を 示 唆 し て い る . 本 モ デ ル で は , Aruga
ら の 計 測 結 果 を 参 考 に ,子 嚢 斑 形 成 率 Sp の 変 化 は 周 年 的 に 行 わ れ る も の と 考 え ,
次 式 に 示 す 日 数 d (day)に よ る 正 規 分 布 関 数 で 表 現 し た .
  d   2 
  Sp0
Sp 
exp  

2 2 
 2

Spmax
(3-7)
こ こ で Spmax ,  2 ,  , Sp0 は 子 嚢 斑 形 成 に 関 す る 生 物 パ ラ メ タ で あ り , そ れ ぞ
れ,子嚢斑最大形成率の決定係数,分散,子嚢斑形成率が最大となる日数,最
低 形 成 率 で あ る . Aruga ら の 計 測 結 果 と , パ ラ メ タ を Spmax =16.04 ,  2 =2089 ,
 =286, Sp0 =0.04 と 与 え た 時 の , 子 嚢 斑 形 成 率 の 季 節 変 動 推 定 を 比 較 し た も の
を Fig. 3-7 に 示 す . な お , 通 常 の 正 規 分 布 で は 日 数 に 関 す る 周 期 関 数 に は な ら
ないため,  を基準として日数 d の調整を行った.
37
0.2
Sorus fomation rate
Measured (Aruga,1997)
Fitted
0.15
0.1
0.05
0
J
F
M
A
M
J
J
A
S
O
N
D
Fig. 3-7 Seasonal change of sorus formation rate of Ecklonia cava
ここで,扱う子嚢斑の形成率は葉面積に対する面積割合であるため,子嚢斑湿
重 量 Sw (g-wet)は , 形 成 率 Sp か ら , 次 式 の よ う に 推 定 す る こ と と し た .
 B Sp 
Sw  exp  SWi   1.0
 1000 
(3-8)
(Ⅱ )遊 走 子 の 放 出
推 定 さ れ た 藻 体 表 面 の 子 嚢 斑 湿 重 量 Sw か ら ,海 藻 ご と に 遊 走 子 放 出 量 を 決 定
す る . カ ジ メ の 場 合 , 1 回 あ た り の 遊 走 子 放 出 数 は , 子 嚢 斑 1g あ た り 1.0~ 24
×10 5 個 で あ る こ と が , 須 藤 [3-9][3-10]に よ っ て 報 告 さ れ て い る . ま た , 遊 走 子
の放出によって,海藻重量は減少することが考えられるため,モデル計算時に
おいては,放出した遊走子の重量を湿重量から減算することとする.ただし,
子 嚢 斑 形 成 率 が 最 大 値 の 30%以 下 の と き は , 遊 走 子 を 放 出 し な い も の と 仮 定 し
た.
(Ⅲ )流 速 に よ る 遊 走 子 着 生 制 限 Q f
放 出 さ れ た 遊 走 子 の ほ と ん ど は ,24 時 間 以 内 に 基 盤 に 着 生 し な け れ ば 配 偶 体
に な れ な い . 荒 川 ら [3-11][3-12]は , 遊 走 子 の 流 速 に 対 す る 着 生 率 は , 流 速 3cm
s - 1 の 時 に 最 大 と な り , 流 速 が 3cm s - 1 を 超 え る と 次 第 に 低 下 す る と 報 告 し て い
38
る .本 モ デ ル で は ,荒 川 ら の デ ー タ を も と に ,流 速 U に よ る 遊 走 子 着 生 制 限 Q f
を 次 式 の よ う に モ デ ル 化 し た . そ れ ぞ れ の パ ラ メ タ を , a=4, b=0.1,  =-0.25,
C=3.8 と し た 時 の 推 定 結 果 と , 荒 川 ら の 調 査 結 果 の 比 較 を Fig. 3-8 に 示 す .
2

 U
 2 U


 
Q f  a        exp          b

  
  C
C  C


(3-9)
Zoospore adhesion rate
1.2
1.0
Measured (Arakawa, 1994)
0.8
Fitted
0.6
0.4
0.2
0.0
0
5
10
15
20
25
Current velocity (cm sec-1)
30
Fig. 3-8 Relationship between current velocity and zoospor e adhesion rate of
Ecklonia cava
(Ⅳ )付 着 基 盤 面 積 に よ る 着 生 制 限 QA
海藻の繁茂によって基盤の付着面積が占有されている場合,遊走子着生時に
制 限 を 受 け る と 考 え ら れ る た め ,後 述 す る 海 藻 競 合 に よ る 面 積 制 限 mA を ,遊 走
子 着 生 制 限 QA と し て 用 い た .
b. 配 偶 体 期
Mizuta ら [3-13]は , ホ ソ メ コ ン ブ 配 偶 体 に 対 す る 調 査 か ら , 成 熟 期 間 中 に 栄
養 塩 量 ,積 算 光 量 ,水 温 が 配 偶 体 の 成 熟 率 (雌 性 配 偶 体 の う ち 生 卵 器 を 持 つ 雌 性
配 偶 体 の 割 合 )を 制 御 す る と 報 告 し て い る .こ こ で は ,配 偶 体 の 成 熟 確 率 に 影 響
する環境要因を調べ,配偶体が生殖器をもち,受精にいたるまでの淘汰過程を
モデル化した.
39
(Ⅰ )光 量 及 び 温 度 に よ る 配 偶 体 成 熟 制 限 LIdT
配 偶 体 の 成 熟 に は ,日 平 均 し た 光 量 I (μmol m - 2 s - 1 )と 日 数 d (day)の 積 で 表 さ
れ る 積 算 光 量 I  d (μmol m - 2 s - 1 day)が 関 係 し ,積 算 光 量 が 大 き い ほ ど 成 熟 率 は 高
い と 考 え ら れ る . 成 原 [3-14][3-15], 松 井 ら [3-16]は そ れ ぞ れ , 宮 崎 県 , 山 口 県
のクロメを母藻とした,クロメ配偶体の生長・成熟に及ぼす温度,光量の影響
について報告している.これらの文献から,積算光量,水温と配偶体成熟率の
関 係 を 調 べ る こ と で , 水 温 T と 積 算 光 量 Id に 対 す る 配 偶 体 の 成 熟 制 限 LI d Tを ,
次 式 の よ う に モ デ ル 化 し た .成 原 の 実 験 結 果 を ま と め た も の と , =0.02, =2.02
と し た 時 の 推 定 結 果 と の 比 較 を , Fig. 3-9 に 示 す .
Limitation of gametophyte maturity
LIdT 
I d
I  d  exp   T    1
(3-10)
15.0℃
(Narihara,1988)
15.0℃ (Fitted)
1.0
0.8
17.5℃
(Narihara,1988)
17.5℃ (Fitted)
0.6
22.5℃
(Narihara,1988)
22.5℃ (Fitted)
0.4
23.5℃
(Narihara,1988)
23.5℃ (Fitted)
0.2
0.0
0
2000
4000
6000
8000
Imtegral light intensity (μmol m-2 s-1 day)
Fig. 3-9 Maturity ratio of gametophyte relating to integral light intensity and water
temperature
(Ⅱ )積 算 栄 養 塩 に よ る 配 偶 体 成 熟 制 限 LNP
Hsiao ら [3-17]は ,コ ン ブ 類 の 遊 走 子 に 対 し て ,異 な る 硝 酸 態 窒 素 濃 度 ,お よ
び ,リ ン 酸 態 リ ン 濃 度 ご と の 配 偶 体 成 熟 率 を 調 べ ,配 偶 体 内 へ の 栄 養 塩 蓄 積 が ,
成 熟 率 を 制 御 し て い る と 報 告 し て い る . こ れ ら の 文 献 か ら , DIN ・ DIP が 大 き
40
く な る ほ ど 成 熟 率 が 増 加 す る も の と 仮 定 し ,栄 養 塩 に よ る 成 熟 制 限 LNP は ,次 式
のように表現した.
 
[ DIP]
LNP  exp  a 
  [ DIP]  K DIP


  [ DIN ]   1.0


(3-11)
こ こ で ,a は パ ラ メ タ ,K DIP は リ ン 制 限 の 半 飽 和 定 数 で あ る .a =0.0031,K DIP =3.5
と し た 時 の 推 定 結 果 と , Hsiao ら の 計 測 結 果 と の 比 較 を Fig. 3-10 に 示 す .
Limiting function of Nutrient concentration
0.1
DIP=1 (Hsiao,1973)
DIP=3 (Hsiao,1973)
0.08
DIP=5 (Hsiao,1973)
DIP=10 (Hsiao,1973)
0.06
DIP=15 (Hsiao,1973)
0.04
DIP=1 (Fitted)
DIP=3 (Fitted)
0.02
DIP=5 (Fitted)
DIP=10 (Fitted)
0
0
10
20
30
40
50
DIP=15 (Fitted)
DIN (μmol L-1)
Fig. 3-10 Maturity ratio of gametophyte relating to nutrient concentration
(Ⅲ )摂 餌 に よ る 淘 汰
成熟までの期間,配偶体は胞子体と同様に藻食動物による摂餌圧を受けるこ
とが考えられるが,配偶体は胞子体や成体に比べて小さく,狙われにくいと考
え ら れ る た め ,モ デ ル 内 で の 摂 餌 被 害 は 確 率 的 な も の と し て ,1 日 当 た り 1%の
配偶体が摂食されると仮定した.
以 上 の 条 件 に よ っ て 淘 汰 さ れ ず に 成 熟 し た 配 偶 体 の う ち ,雌 雄 の 割 合 は 1:1
であるとし,すべて受精し胞子体になると仮定することで,幼胞子体 1 体当た
り の 初 期 湿 重 量 を 0.05(g-wet ind - 1 )と し た .
41
3.3.4
競合
Maegawa[3-18]は ア ラ メ (Eisenia bicyclis)と カ ジ メ の 群 落 構 造 に 関 し て 調 査 を
行い,群落床部の光環境はその密度に強く支配され,アラメ群落の方が小形群
の発生が制限されることを報告している.また,海藻モデル計算における現存
量は,一つの数値情報であるため,区画に対する現存量を上昇させ続けること
も可能であるが,実海域の海藻が一定面積内に生育する量には,付着基盤の面
積や,藻体の生長限界による制限が存在すると考えられる.
これらのような,一定範囲の海藻自身,あるいは海藻同士の干渉を,本モデ
ル内では“競合”として取り扱うこととし,汎用性を持つと考えられる競合モ
構造として,藻体自身による光の減衰と,生育面積の奪い合いという 2 点につ
いて考慮し,表現した.
a. 光 競 合
太陽から照射された光が海中の藻体に当たるまで,間に存在する物質に影響
さ れ ,距 離 に 比 例 し て 減 衰 す る .背 の 高 い 海 藻 種 A と ,背 の 低 い 海 藻 種 B が 同
一 箇 所 に 存 在 す る と 仮 定 し た 時 , 海 面 光 量 I 0 (μmol m - 2 sec - 1 )が , 海 藻 A の 先 端
に 達 す る 光 量 I A (μmol m - 2 sec - 1 ), 海 藻 B の 先 端 に 達 す る 光 量 I B (μmol m - 2 sec -1 ),
水 底 に 到 達 す る 光 量 Ibottom (μmol m - 2 sec - 1 )に 減 衰 す る 過 程 の 概 念 図 を Fig. 3-11 に
示す.
Fig. 3-11 Image of light attenuation at seaweed bed
42
こ こ で , 海 面 光 量 I 0 と ,海 水 に よ っ て 減 衰 し な が ら 水 深 D (m)ま で 進 ん だ 時 の 光
量 I D と の 関 係 が , Lambert-beer の 法 則 を 用 い て , 次 式 の よ う に 表 さ れ る と す る .
ln
ID
  cW D
I0
(3-12)
I D  I 0  10 cW D  I 0 exp  kW D 
(3-13)
こ こ で ,kW (m - 1 )は 海 水 の 光 消 散 係 数 で あ り ,沿 岸 域 の 透 明 度 の 高 い 海 域 で は 0.1,
濁 度 の 高 い 汚 れ た 海 域 で 0.4 程 度 と な る . 本 モ デ ル で は , こ れ ら の 式 を 応 用 す
ることで,海藻による光遮蔽影響を表現する.
体 高 LSW (m)の 海 藻 の 先 端 に お け る 光 量 I と ,海 藻 通 過 後 の 光 量 I  の 関 係 性 は ,
藻 体 が 及 ぼ す 光 遮 蔽 効 果 が 均 質 で あ る と 仮 定 し た 時 の 光 消 散 係 数 kSW (m - 1 )に よ
って,以下の式で表現した.
I   I exp    kW  kSW  LSW 
kSWi   SWi exp  pISWi BSWi  ,  SWi 
(3-14)
log  20 / k100 SWi 
Bmax SWi  100
(3-15)
2
こ こ で , pI S W (m
g-wet - 1 )は 海 藻 種 毎 の 光 消 散 係 数 kSW を 決 定 す る た め の 光 遮 蔽 効
i
果 を 表 す パ ラ メ タ ,k100SWi は 現 存 量 が 100 g-wet m 2 で あ る 時 の 光 消 散 係 数 で あ る .
BSWi , Bmax SWi (g-wet m - 2 )は そ れ ぞ れ ,海 藻 の 現 存 量 と 最 大 現 存 量 で あ り ,こ れ に
より,海藻量によって光遮蔽効果が変化することを表現した.なお,2 種類以
上の海藻が存在する場合は,それぞれの海藻の光消散係数を足し合わせること
によって,藻体の重なり合いによる遮蔽を表現する.
海 藻 種 A と B に Table 3-3 に 示 す パ ラ メ タ を 与 え た 時 , kW =0.15m - 1 , D =5m
の 海 域 に お い て , 算 出 さ れ る 海 面 光 量 の 水 深 に 対 す る 減 衰 率 変 化 の 様 子 を Fig.
3-12 に 示 す .海 藻 の 存 在 す る 水 深 か ら は 減 衰 が 大 き く な る こ と が 表 現 で き て お
り ,ま た ,光 消 散 効 果 が 高 い 海 藻 B の 方 が , 減 衰 率 が 大 き く な る こ と が 確 認 で
きる.
43
Table 3-3 Parameters for light attenuation effect
Forc in g
Va lu e
Sym b ol
Un it s
s ea we ed A
s ea we ed B
Hei gh t of s ea we ed
L S Wi
1.0
0.5
m
Di s si pat i ve m odu lu s
k S Wi
0.5
1.0
m-1
Bi oma s s
B S Wi
100
100
g- wet m - 2
Fig. 3-12 Attenuation rate by seaweed screening
b. 面 積 競 合
海藻の生育面積の競合は,現存量増加によって制限が大きくなる形で表すこ
とで,付着基盤の減少と生長限界による制限を,同時に表現することとした.
生 育 面 積 に よ る 制 限 係 数 mA は , 現 存 量 BSW の 増 加 に 伴 い 生 長 に 制 限 を か け る 指
数 関 数 と し て ,海 藻 の 最 大 現 存 量 Bmax SW と 面 積 制 限 曲 率 パ ラ メ タ S を 用 い て ,次
式のように表現した.
   A  , A  BB
mA  1.0  exp S 1 
SWi
i
i
(3-16)
max SWi
こ こ で 算 出 し た 制 限 係 数 mA は ,生 長 速 度 V に 掛 け 合 わ せ る こ と に よ っ て ,生 長
制 限 と し て ,遊 走 子 の 着 生 制 限 QA と す る こ と で ,付 着 基 盤 面 積 の 制 限 と し て 使
用する.
44
3.4
付着生物海藻摂餌モデル
付 着 生 物 の 海 藻 摂 餌 モ デ ル は , Fig. 3-13 に 示 す よ う に , 季 節 , 水 温 と い う 環
境因子と,海藻種情報をインプットすることにより,各海藻に対する摂餌速度
と付着生物の自然死速度をアウトプットとして算出するモデルであり,付着生
物の現存量は海藻摂餌量に依存して変化するように表現した.海藻を主食とす
る 付 着 生 物 と し て ,ア メ フ ラ シ (Aplysia kurodai),ア ワ ビ (Haliotis sorenseni),ウ
ニ 類 (Sea urchin)な ど が 挙 げ ら れ る が , 本 研 究 で は , 多 く の 海 域 に 生 息 し , そ の
食 圧 が 海 藻 群 落 に 大 き な 影 響 を 与 え る と 考 え ら れ て い る [3-19] , ウ ニ の 中 で も
ム ラ サ キ ウ ニ (Anthocidaris crassispina )を 対 象 と し て , 摂 餌 モ デ ル の 構 築 を 試 み
た.
Herbivorous
Sessile animal
[Growing, Death]
Seaweed A
Grazing
(Water Temperature, Season)
Choice
Seaweed B
Fig. 3-13 Basic scheme of sea urchin model
ム ラ サ キ ウ ニ の 海 藻 摂 餌 速 度 GUSWi (g-wet m - 2 day - 1 )は , Kawamata[3-20]の キ タ
ム ラ サ キ ウ ニ モ デ ル の 構 成 を 基 礎 と し , 各 海 藻 に 対 す る 摂 餌 率 GUSWi max (day - 1 )
に ,密 生 に よ る 摂 餌 制 限 係 数 mU ,海 藻 種 に 対 す る 摂 餌 選 択 係 数 kUSWi ,お よ び ム
ラ サ キ ウ ニ 自 身 の 現 存 量 BU (g-wet m - 2 )を掛 け る こ と に よ っ て , 次 式 の よ う に 表
現した.
GUSWi  GUSWi max mU kUSWi BU
(3-17)
a. 摂 餌 率 GU S Wmj a x
ム ラ サ キ ウ ニ の 摂 餌 率 GUSWj max (day - 1 )は , 海 藻 の 相 対 生 長 率 推 定 で も 用 い た ,
水 温 T (℃ )に よ っ て 制 限 を 受 け る 関 数 に よ っ て , 次 式 の よ う に 表 し た .
45
U
 T  TU min 
GUSWi  SUdU 1  U  , U  

 TU max  TU min 
(3-18)
こ こ で , TU m i n, TU max (℃ )は そ れ ぞ れ , ム ラ サ キ ウ ニ の 摂 餌 可 能 水 温 の 低 温 限 界
と 高 温 限 界 で あ る .ま た , SUd は ,季 節 に よ る 最 大 摂 餌 率 の 変 化 を 表 現 す る 関 数
で あ り , 日 数 d (day)に 依 存 す る も の と し て , 次 式 の よ う に 表 現 し た .

SUd  gUSWi max exp  U


 d  dopt  


1  cos  2
 
365  




(3-19)
こ こ で , gU S Wmi a x(day - 1 )は 年 間 最 大 摂 餌 率 , U は 季 節 係 数 , d o p t(day) は 摂 餌 量 が
最大となる日数であり,季節変動による最大摂餌率の変化を周期変動として表
現している.
ム ラ サ キ ウ ニ の ク ロ メ 摂 餌 実 験 を 行 い , 水 温 に よ る 制 限 係 数 U 1  U  と , 年
間 最 大 摂 餌 率 SUd の 季 節 変 動 を 求 め , そ れ ら を Table 3-4 に 示 す パ ラ メ タ を 与 え
て 推 定 し た 結 果 と 比 較 し た も の を , Fig. 3-14, Fig. 3-15 に そ れ ぞ れ 示 す . 実 験
結果から,水温が上昇するにつれて摂餌率の増加がすること,また,最大摂餌
率は夏季よりも冬季の方が大きくなることが確認できた.低水温の時に上下に
幅が生じる傾向があることは,摂餌選択性の項で後述するが,海藻の初期配置
に影響を受けやすいためであると考えられる.推定精度に関しては,実験条件
でズレが生じる部分も多々あるが,傾向は表現できている.
Table 3-4 Parameters for grazing rate of Sea urchin
Defin iti on
Sym b ol
Va lu e
Un it s
g U S Wi m a x
0.286
da y - 1
S ea s on a l c oeffic i en t
αU
0.394
Ma xi mu m da ys of gra zin g c on su mpt i on
dopt
250
da y
Lo wer li m it of wat er t emp era t ure
TUmin
5.0
℃
Hi gh er lim it of wat er t emp era t ure
TUmax
40.0
℃
ωU
2.20
Ann ua l ma xi mum gra zin g rat e
C on vexit y d egr ee
46
Limitation function of water temperature
0.3
Fitted
Measured
0.2
0.1
0
0
10
20
30
40
Water temperature (℃)
Fig. 3-14 Limiting function of sea urchin grazing rate relating to water temperature
Maximum grazing rate (day-1)
0.4
0.3
0.2
0.1
Fitted
Measured
0
J
F
M
A
M
J
J
A
S
O
N
D
Fig. 3-15 Maximum grazing rate of sea urchin relating to season
b. 密 生 摂 餌 制 限 係 数 mU
海藻現存量が小さくなる,あるいはウニの現存量が大きくなった海域では,
ウ ニ の 個 体 あ た り が 食 べ る こ と の で き る 海 藻 量 が 減 少 す る と 考 え ら れ る .Breen
ら [3-21]に よ る と , ウ ニ の 多 い 海 域 に は コ ン ブ が 少 な い と い う 逆 相 関 や , ウ ニ
を除去することによる海藻林の回復が指摘されており,ウニと海藻資源量の相
互関係が明らかになっている.
そ こ で ,密 生 に よ る 摂 餌 制 限 係 数 mU は ,対 象 エ リ ア の 海 藻 現 存 量 に 依 存 し て
働くものとして,海藻現存量の合計
B
SWi
る関数として次式のように表現した.
47
と , ウ ニ の 現 存 量 BU に よ っ て 決 定 す
mU  1 
1
, LSW 
1  500exp   LSW  BU 
30
BSWi

(3-20)
c. 摂 餌 選 択 性 kU S W i
ウニの移動速度は付着動物の中では速い部類ではあるが,基本的には定位置
で 生 活 を 行 う こ と が , 北 原 ら [3-22]や Domenici[3 -23]に よ っ て 報 告 さ れ て お り ,
ウニの周辺に複数種の海藻が存在した場合,優先的に摂餌を行う海藻種が存在
す る 可 能 性 が あ る . 今 井 ら [3-24]は , 方 形 枠 に よ る ウ ニ と 海 藻 の サ ン プ リ ン グ
と,内容物調査によりムラサキウニの食性を調査し,ウニの食性傾向は基本的
には海藻の現存量比率に依存するとしている.この調査は,自然界に存在する
ムラサキウニを対象としたものであるため,詳細な摂餌選択性を確認するため
に ,海 藻 の 配 置 を 調 整 し た 摂 餌 実 験 を 行 っ た .選 択 摂 餌 実 験 の 配 置 図 を Fig. 3-17
に ,そ の 結 果 を Fig. 3-17 に 示 す .実 験 結 果 か ら ,ム ラ サ キ ウ ニ は ,近 く に あ る
海藻から順に食べるため,海藻種の配置によって摂餌率に差が生じることが確
認できた.
以 上 よ り , 摂 餌 選 択 係 数 kU S W は
, 基 本 的 に は 海 藻 現 存 量 BS W jの 比 率 に 依 存 す
j
る が ,一 度 食 べ 始 め た 海 藻 種 の 摂 餌 を 続 け る 形 で ,前 日 の 摂 餌 選 択 係 数 YkUSWj に
も影響されるものとして,次式のように決定した.
 B

SWi
kUSWi  
 YkUSWi  2


BSWj



(3-21)
Fig. 3-16 Layout of the experimental tank for choice grazing experiment
48
0.04
Grazing rate (day-1)
Ecklonia kurome
Gelidium elegans
0.03
0.02
0.01
0
18℃
14℃
Pattern 1
18℃
14℃
Pattern 2
Fig. 3-17 Grazing rate of sea urchin for choice grazing experiment
d. 現 存 量 BU
ウ ニ の 現 存 量 BU (g-wet m - 2 )の 変 化 は , 海 藻 種 i に 対 す る 摂 餌 速 度 GU S W に
同化
i
率  SWi を 掛 け た 成 長 量 か ら ,死 亡 速 度 DU (g-wet m - 2 day - 1 )を 差 し 引 く こ と に よ り ,
次式で表現した.
dBU

dt
 G
i
USWi


 DU , DU   DU exp   DU T  40    N DU BU
(3-22)
こ こ で , 下 茂 ら [3-25]に よ っ て , ウ ニ 類 は 高 水 温 に よ っ て 死 亡 率 が 上 昇 す る
こ と が 報 告 さ れ て い る た め ,ウ ニ の 死 亡 速 度 DU は ,水 温 T の 上 昇 に よ っ て 指 数
関 数 的 に 増 加 す る 枯 死 率 に , 自 然 死 に よ る 一 定 量 の 死 亡 率 N DU を 加 え , ム ラ サ
キ ウ ニ 自 身 の 現 存 量 BU を 掛 け る こ と に よ っ て , 次 式 の よ う に 表 現 し た .
式 中 の  DU , DU は 水 温 に よ る 死 亡 率 決 定 パ ラ メ タ で あ る .な お , Lawrence[3-26]
により,ウニは基本的には藻食性であるが,場合によっては動物質を摂食し,
また,絶食時は自らの組織を消化しながら生きると報告されているため,摂食
量減少に対する死亡率の上昇は考えないものとした.
49
3.5
魚類海藻摂餌モデル
遊 泳 可 能 で あ り ,行 動 範 囲 が 広 い 魚 類 は ,付 着 生 物 よ り も 摂 餌 選 択 性 が 強 く ,
また,回遊によって現存量が大きく変動すると考えられる.本研究における魚
類 モ デ ル は ,Fig. 3-18 に 示 す よ う に ,水 温 に 対 し て 算 出 す る 摂 餌 速 度 と ,季 節 ,
海藻種によって決定する摂餌選択性,回遊性による現存量変化を考慮すること
で,海域内の海藻摂餌量を表現するモデルとした.
Herbivorous
Fish
Migration
Season
Grazing (Water Temperature)
Choice (Season, Kind of seaweed)
Seaweed A
Seaweed B
Fig. 3-18 Basic scheme of herbivorous fish model
藻 食 魚 類 に よ る 海 藻 摂 餌 速 度 GFjSWi (g-wet m - 2 day - 1 )は , 各 魚 種 の 最 大 摂 餌 率
GFj max (day - 1 )に , 摂 餌 選 択 係 数 k FjSWi , 魚 類 の 現 存 量 BFi (g-wet m - 2 )を 掛 け る こ と に
よって次式のように表現した.
GFjSWi  GFj max kFjSWi BFj
(3-23)
a. 摂 餌 率
魚 類 の 海 藻 摂 餌 に 関 し て , 山 内 ら [3-27]は , ア イ ゴ (Siganus fuscescens)に 対 す
る カ ジ メ 摂 餌 実 験 に よ り , 水 温 の 上 昇 す る 8~ 10 月 に 摂 餌 が 大 き く な り , そ の
他の月にはほぼ海藻摂餌を行わないことを明らかにした.ここから,魚類の摂
餌量には,ムラサキウニと同様に水温が大きく影響すると考え,藻食性魚類の
海 藻 摂 餌 率 GFj m a xは , ウ ニ の 摂 餌 率 GUSWi と 同 形 の 水 温 T に 依 存 す る 関 数 を 用 い ,
次式のように表現した.

GFj max  g FjSWi max Fj 1   Fj

 T  TFj min
,  Fj  
 TFj max  TFj min

50
Fj




(3-24)
こ こ で , k Fj m a x, Fj , TFj max , TFj min は 魚 類 摂 餌 パ ラ メ タ で あ り , 付 着 動 物 の 時 と
同様に,摂餌実験結果を基に決定する.ニザダイに対してカジメの摂餌実験を
行 っ た 結 果 と , 摂 餌 パ ラ メ タ を k Fj m a x=0.0768 , Fj =1.0 , TFj max =13.7 , TFj min =27.4
と し て 摂 餌 率 を 推 定 し た 結 果 の 比 較 を Fig. 3-19 に 示 す .
0.03
Measured
Grazing rate (day-1)
Fitted
0.02
0.01
0
10
15
20
25
30
Water temperature (℃)
Fig. 3-19 Grazing rate of Prionurus scalprum for Ecklonia cava
b. 摂 餌 選 択 係 数
魚類は行動範囲が広く,近場の海藻から優先的に摂餌するウニとは異なり,
摂餌対象となる海藻種に強い選択性が存在すると考えられる.魚類の摂餌嗜好
性 に 関 し て , 桐 山 [3-28]に よ っ て , ア イ ゴ は ワ カ メ 類 を 特 に 好 み , ノ コ ギ リ モ
ク を 嫌 う こ と が 実 験 に よ っ て 検 証 さ れ て い る . ま た , 山 内 ら [3-27]の 報 告 に も
見られるように,藻食性とされる魚種でも,海藻を主として食べる時期と,動
物性プランクトンを摂食している時期があることが考えられる.例えば,ブダ
イ (Calotomus japonicus)は ,夏 季 は 甲 殻 類 や 石 灰 藻 を 食 べ る が ,冬 季 に は 海 藻 を
食 べ る た め 身 の 臭 み が 消 え , 冬 季 の み 食 用 と さ れ る [3-29].
これらの情報から,魚類が i 種の海藻を食べる割合を表現する摂餌選択係数
k FjSWi は ,海 藻 種 に 対 す る 好 き 嫌 い を 表 現 し た 嗜 好 指 数 CFiSWj と ,季 節 に 依 存 す る
摂 餌 傾 向 S Fj を 掛 け る こ と に よ っ て , 次 式 の よ う に 表 し た .
51
kFjSWi  CFjSWi SFj
CFjSWi 
(3-25)
STI FjSWi BFi
 STI
FjSWi
BSWi


 d  doptFj

, S Fj  exp   Fj 1  cos  2
365






 


(3-26)
i
こ こ で , STI FjSWi は 海 藻 選 択 指 数 で あ り , 様 々 な 海 藻 が 十 分 に 繁 茂 し て い る 状 態
に お い て ,任 意 の 種 の 海 藻 に 対 し て 魚 類 が 選 択 摂 餌 を 行 う 割 合 を 示 す 値 で あ り ,
doptFj は 任 意 の 海 藻 種 の 摂 餌 が 最 も 大 き く な る 日 数 で あ る .
c. 現 存 量 BFj
魚 類 の 現 存 量 BFj に つ い て , Katayama ら [3-30][3-31]は , ノ レ ソ レ (Conger
myriaster)の 漁 獲 量 を 調 べ る こ と で ,回 遊 性 魚 類 が 海 流 と 季 節 変 動 に 起 因 し た 水
温変化によって移動を行っていることを検証した.また,ブダイのように,季
節が変わっても同一海域での生息が確認されている種も存在する.そこで,現
存 量 BFj は , 対 象 海 域 の 漁 獲 量 を 基 準 に 決 定 し た 潜 在 的 資 源 量 M Fj max に 対 し , 回
遊性を持たない定着性魚類には一定値を与え,回遊性を持つ魚類には,水温に
よる正規関数で季節変動を与えることで,次式のように表現した.
 M Fj max 定着性魚類

2

 T

BFj  
optFj  T  

M
exp

回遊性魚類

  Fj max
 Fj 2



(3-27)
こ こ で , To p t F(℃
)は 最 適 水 温 ,  Fj (℃ )は 分 散 で あ り , 対 象 海 域 で の 漁 獲 量 に
j
対して最小二乗近似を用いて決定することとする.
52
3.6
結言
本章では,藻場生態系モデルの構築にあたり,海域毎にモデル要素の選定と
関数化が必要であることによって,モデリングに時間がかかることが大きな課
題であることを指摘し,その解決のために,藻場生態系における基本的な機能
を整理し,実験,文献調査の結果に基づいてモデル化の検討を行った結果,以
下のような結論を得た.
(1) 海 藻 の 生 長 ,枯 死 ,新 芽 の 発 生 に 加 え ,藻 食 動 物 に よ る 海 藻 摂 餌 を 表 現 し た
モ デ ル 構 造 と 反 応 式 を 構 築 す る こ と で ,環 境 要 因 の 変 化 に 対 す る 藻 場 の 海 藻
現存量変動予測において,海域に共通な基本要素であることを指摘した.
(2) ク ロ メ に 対 す る 光 合 成 実 験 の 結 果 に 基 づ い て ,水 温 に 対 す る 相 対 生 長 率・枯
死 率 と ,光 量・栄 養 塩 濃 度 に 対 す る 光 合 成 制 限 の 関 数 化 を 行 い ,海 藻 生 長 を
表現するモデルの概形を構築した.
(3) 生 物 実 験 の 文 献 調 査 結 果 を 基 に ,季 節 に よ る 子 嚢 斑 形 成 率 ,流 速 に よ る 遊 走
子 着 生 制 限 ,光 量・水 温・栄 養 塩 濃 度 に よ る 成 熟 率 制 限 を 関 数 化 し ,海 藻 の
発生現象を表現した.
(4) 海 藻 の 繁 茂 に よ る 影 響 を 想 定 す る こ と で ,藻 体 の 光 消 散 影 響 に よ っ て 光 量 を
減 衰 さ せ る モ デ ル 構 造 を 構 築 し ,海 藻 種 の 体 高 に よ る 光 競 合 を 表 現 し た .ま
た ,現 存 量 に よ る 制 限 係 数 を 決 定 す る こ と で ,付 着 基 盤 の 競 合 に よ る 海 藻 の
生長限界と新規着生制限を表現した.
(5) ム ラ サ キ ウ ニ と ニ ザ ダ イ に 対 し て 行 っ た 海 藻 摂 餌 実 験 の 結 果 よ り ,藻 食 動 物
の 海 藻 摂 餌 量 の 水 温 お よ び 季 節 依 存 性 ,摂 餌 選 択 性 を 明 ら か に し ,関 数 化 を
行うことで,藻食動物による海藻摂餌モデルを構築した.
以上より,海藻の生長,種の競合や加入,藻食動物の摂餌などを含めた,海
藻の主要な変動要因をモデル化することによって,環境変化に対する海藻量変
動を予測することが可能であることを明らかにした.
53
第4章 りんくう公園内海における海藻植生調査と藻場変動シミュレーション
4.1
緒言
実海域において環境変化が藻場に与える影響を考える時には,水質などの環
境因子と海藻資源量などの情報を同時に把握し,従来のデータと比較すること
によって初めて,藻場自体がどのように変化したかを推測することができる.
蓄積されたデータが不足していれば,異常な変化が起こっているのか,通常変
化の範囲内であるのかの判断ができず,変動が起こった原因を推測することは
困難である.昨今の沿岸域における急激な変化をとらえるためには,客観的で
あり,論拠となるデータが必要であるが,海藻の資源量把握には多くの課題が
存在する.
大 塚 ら [4-1]の り ん く う 公 園 内 海 (う ち う み )の 調 査 報 告 で は , 内 海 内 の 海 藻 被
度分布が示され,様々な海藻の生育が確認されているが,細かなポイント毎の
海藻現存量の詳細については調べられていない.この報告に限らず,海藻の被
度分布は調査していても,現存量分布にまで言及している報告は少ない.この
理由の一つに,海藻の現存量を調査する手段として,潜水作業を伴うコドラー
ト 法 や ベ ル ト ト ラ ン セ ク ト 法 [4-2]に よ っ て 海 藻 を 回 収 し た 後 ,陸 上 に て 海 藻 種
の同定を行う以外に有効な手法が確立されていないことが挙げられる.そのた
め,調査ポイント,調査回数を増やすほど,手間と費用の負担が大きくなり,
また,一度海藻を取り上げた場所は海藻が無くなるため,同一箇所において変
化をモニタリングすることが困難となる.しかしながら,どのような海藻がど
の程度生育しているかを把握することは,藻場変動の様子を知る以外に,海藻
による環境浄化能力や生産力の評価のためにも不可欠である.このような要求
に対しても,数値モデルによる予測が有効な手段となる.海藻被度分布や現存
量 の 調 査 デ ー タ に 対 し て ,藻 場 モ デ ル を 用 い れ ば ,分 布 域 の 変 動 過 程 の 推 定 や ,
調査間の現存量変動の補完も行うことができ,空間的,時間的にデータを拡充
することが可能であると考えられる.
本研究では,藻場における問題の発生メカニズムの把握や,藻場修復を目指
した対策の可能性を探るために,藻場の現存量変動を予測するシミュレーショ
ンモデルを用いることが有力な手段であるとし,モデルを十分に活用するため
に,第 2 章では,海藻モデルに使用する生物パラメタを効率的に取得するため
54
の実験手法の提案を行い,第 3 章では,海藻量の変動に起因する基礎要素を表
現するためのモデル構造と反応式を検討することによって,藻場モデルの構築
を簡潔に行える方法を提案した.
本章では,実海域における藻場の変動を把握するため,都市部近郊型の人工
閉鎖性干潟である大阪府泉佐野市りんくう公園内海において,海域水質と海藻
現存量を調査し,同一海域内における場所毎の植生を考察する.また,対象海
域内で優占種と考えられる海藻を要素として,りんくう公園内海を表現する藻
場モデルを構築し,実海域で起きている現象を再現することで,本研究で提案
したモデリング手法の有効性を示す.
4.2
りんくう公園内海
り ん く う 公 園 内 海 (う ち う み )は ,Fig. 4-1 に 示 す 大 阪 府 泉 佐 野 市 の 関 西 国 際 空
港対岸に位置するりんくう公園内に存在する,石積み防波堤によって仕切られ
た閉鎖性の人工干潟であり,一種の潟湖を形成している.閉鎖性干潟は停滞水
域の水質を浄化する方法として,
「 海 洋 の 空 (う つ ろ )」と し て 赤 井 [4-3]に よ っ て
提唱された.これは,透過性の石積み堤体で囲まれた潮位変化のある水域を示
し,堤体の空隙間に付着した微生物によって行われる接触酸化,水面の静穏化
による沈殿浄化,堤体での波浪爆気など,様々な水質浄化機能を有していると
いわれている.
石積み堤体で囲まれた浅場の持つ水質浄化機能に関しては,堤体での礫間接
触 酸 化 効 果 に 着 目 し た 小 田 ら [4-4][4-5][4-6]の 研 究 や ,実 海 域 モ デ ル を 用 い た 辻
ら [4-7]の 研 究 ,内 水 域 の 物 質 循 環 モ デ ル を 用 い た 中 谷 [4-8]の 研 究 な ど ,様 々 な
アプローチが行われているが,その浄化能力を評価するためには,物質循環は
もちろんのことながら,浄化機能に大きな役割を果たすと思われる海藻の現存
量変動についても言及する必要がある.
ここでは,りんくう公園内海を対象として,各海藻の現存量とその分布を調
査するとともに,水域内に存在する海藻を要素とした藻場生態系モデルを開発
し,内海内の海藻分布の変遷過程を推定する.
55
N
Osaka Bay
Kansai International Airport
Kobe
Osaka
Osaka
Bay
Rinku Park
Inner Sea
Rinku Town
Wakayama
Fig. 4-1 Location of artificial lagoon in Rinku Park
内 海 は Fig. 4-2 に 示 す よ う な ,100m×150m 程 度 の 細 長 い 形 状 を し て お り ,外
海側はテトラポットを設置した石積み防波堤で仕切られている.内海側は周囲
を 石 積 み 護 岸 で 囲 み , 中 央 部 の 潜 堤 を 境 と し て , 内 海 奥 側 (図 )は 水 深 0~ 2.5m
の 砂 浜 ,外 海 側 は 水 深 3~ 4m の シ ル ト 底 質 と な っ て い る .こ の あ た り の 平 均 潮
位 差 は 約 0.6m,大 潮 の 時 で 約 1.0m で あ り ,平 均 的 な 水 深 は 約 1.5m と な り ,比
較的浅い水域であるため,特に石積み護岸において,海藻の生育が顕著に見ら
れる.なお,外海との海水交換は,外海と内海を仕切っている防波堤で主に行
わ れ る が ,防 波 堤 に は 直 径 1m の 鋳 鉄 管 が 2 本 設 置 さ れ て お り ,そ の 下 3 分 の 2
は土壌で塞がれている.
Fig. 4-2 General arrangement of the artificial lagoon in Rinku Park
56
藻場調査
4.3
り ん く う 公 園 内 海 の 藻 場 調 査 に よ っ て ,場 所 ご と の 海 藻 分 布 を 把 握 す る た め ,
Fig. 4-3 に 示 す よ う な ゾ ー ニ ン グ を 行 っ た . 水 質 調 査 用 に , 潜 堤 の 外 海 側
(A-Zone)と 奥 側 (B-Zone)に エ リ ア を 分 割 し ,各 ゾ ー ン の 中 央 で CTD 計 (ALEC 電
子 , ASTD650), DO 計 (ALEC 電 子 , AOP-CMP)に よ る 水 温 ・ 塩 分 ・ 溶 存 酸 素 濃
度 (DO)の 鉛 直 分 布 計 測 と , 化 学 分 析 に よ る DIN(Dissolved Inorganic Nitrogen=
NH 4 - +NO 2 - +NO 3 - ),DIP(Dissolved Inorganic Phosphorus)の 測 定 を 行 っ た .ま た ,
海藻の植生調査のために,内海周囲の石積み堤体をⅠ~Ⅶのゾーンに分割し,
そ れ ぞ れ の ゾ ー ン で 方 形 枠 (コ ド ラ ー ト )を 用 い て 枠 内 の 海 藻 を 刈 り 取 り , 海 藻
種の同定や湿重量計測を行った.
Fig. 4-3 Measurement points for seawater quality and seaweed cover degree
investigation
4.3.1
水質調査
2010 年 6 月 ~ 2011 年 12 月 の 期 間 に お け る , 水 温 ・ 塩 分 ・ DO の 鉛 直 分 布 計
測 と 栄 養 塩 濃 度 の 測 定 結 果 を Fig. 4-4~ Fig. 4-7 に そ れ ぞ れ 示 す . な お , 水 温 ・
塩 分 ・ DO は ,計 測 し た デ ー タ に 対 し て ,水 深 0.2m 間 隔 の 平 均 値 と し て 表 示 し
て い る . 鉛 直 分 布 の 範 囲 を 見 る と , A と B に は 1.5m 程 度 の 水 深 差 が あ る こ と
57
が わ か る .水 温 に つ い て は 深 い 方 の Point-A で 1~ 1.5℃ 程 度 の 差 が 見 ら れ る 他 ,
季 節 の 影 響 を 受 け て ,周 期 的 に 変 動 し て い る 様 子 が わ か る が ,Point-A と Point-B
において大きな違いは見られない.塩分に関しては,季節に対する変化もあま
り 見 ら れ な い が , 2010 年 8 月 の デ ー タ の み , 他 の 値 よ り も 小 さ い 値 を 示 し た .
DO の 鉛 直 分 布 を 見 る と , Point-A で は 最 底 層 部 で DO の 減 少 が 見 ら れ る こ と が
あ る が ,こ れ は ,泥 質 で あ る Point-A に セ ン サ ー が 接 地 し た た め と 考 え ら れ る .
栄養塩濃度については,季節変動が大きいが,基本的には外海の濃度変化に合
わ せ て ,内 海 の 濃 度 も 変 化 し て お り ,内 海 内 の 海 藻 量 が 多 い 初 夏 の 時 期 は ,DIN,
DIP と も に 外 海 よ り も 低 く な る 傾 向 が あ る .
Water temperature (℃)
Water temperature (℃)
5
10
15
20
25
30
5
35
10
15
20
25
30
35
0
0
2009/6/19
2009/6/19
1
2009/12/2
2010/2/25
Depth (m)
Depth (m)
1
2
2010/5/19
2009/12/2
2010/2/25
2
2010/5/19
2010/8/11
2010/8/11
3
3
2010/9/3
2010/9/3
2010/12/8
4
2010/12/8
4
Fig. 4-4 Vertical profile of water temperature (left:Point -A, right:Point-B)
Salinity (PSU)
20
25
30
Salinity (PSU)
35
20
0
2009/6/19
1
2009/12/2
2010/2/25
2
2010/5/19
35
2009/12/2
2010/2/25
2
2010/5/19
2010/8/11
2010/8/11
3
3
2010/9/3
4
30
2009/6/19
Depth (m)
Depth (m)
1
25
0
2010/9/3
2010/12/8
4
2010/12/8
Fig. 4-5 Vertical profile of salinity (left:Point -A, right:Point-B)
58
DO (mg L-1)
5
6
7
8
DO (mg L-1)
9
10
5
0
6
7
8
9
2009/6/19
1
2009/6/19
1
2009/12/2
2010/2/25
Depth (m)
Depth (m)
10
0
2
2010/5/19
2009/12/2
2010/2/25
2
2010/5/19
2010/8/11
2010/8/11
3
3
2010/9/3
2010/9/3
2010/12/8
4
2010/12/8
4
Fig. 4-6 Vertical profile of dissolved oxygen (left:Point -A, right:Point-B)
30
6
25
5
Open sea_DIN
20
4
15
3
10
2
5
1
DIP (μmol L-1)
DIN (μmol L-1)
Point-B_DIN
Point-A (Surface)_DIN
Point-A (Bottom)_DIN
Open sea_DIP
Point-B_DIP
Point-A (Surface)_DIP
Point-A (Bottom)_DIP
0
0
J F MAM J J A S O N D J F MAM J J A S O N D
2009
2010
Fig. 4-7 Seasonal variation of DIN and DIP
4.3.2
海藻植生調査
2009 年 2 月 23 日 ~ 2010 年 12 月 8 日 ま で ,計 8 回 の コ ド ラ ー ト 調 査 を 行 っ た
結 果 , り ん く う 公 園 内 海 内 に は , ア オ サ (Ulva pertusa) , ツ ノ マ タ (Chondrus
ocellatus), ム カ デ ノ リ (Grateloupia asiatica), ミ ル (Codium fragile), カ バ ノ リ
(Gracilaria textorii) , オ ゴ ノ リ (Gracilaria vermiculophylla ) , タ マ ハ ハ キ モ ク
(Sargassum muticum )な ど , 様 々 な 種 類 の 海 藻 の 繁 茂 が 確 認 で き た . こ れ ら 以 外
に も , マ ク サ (Gelidium elegans) や フ ク ロ ノ リ (Colpomenia sinuosa) , ワ カ メ
(Undaria pinnatifida),フ ダ ラ ク (Grateloupia lanceolata)な ど が 少 量 見 ら れ る こ と
59
もあり,緑藻・紅藻類を中心に生育が確認されたことは,石積み堤体が主な海
藻の付着基盤であり,それらが比較的浅い水深域に存在するためであると考え
られる.優占種と考えられる海藻種毎の湿重量を,全ゾーンの総量として経年
変 化 を ま と め た も の を Fig. 4-8, Fig. 4-9 に 示 す .
湿 重 量 で は ミ ル が 圧 倒 的 に 優 占 し て お り ,他 の 海 藻 の 10 倍 近 く 繁 茂 し て い る
期間も見られる.また,各海藻に季節による出現傾向があることがわかる.ミ
ルとツノマタはほぼ全ての季節に渡って安定して生育しているのに対し,その
他 の 海 藻 種 は 一 定 の 期 間 に 出 現 ,消 失 を 繰 り 返 し て お り ,特 に カ バ ノ リ は 冬 季 ,
アオサは夏季にのみ発生した後,消失しており,季節による出現傾向が顕著で
あることが確認できた.
40000
8000
Codium fragile
(Miru)
30000
6000
20000
4000
10000
2000
0
Wet weight of seaweed (g-wet)
Wet weight of Codium fragile (g-wet)
2009
6/19
9/3
Gracilaria textorii
(Kabanori)
Grateloupia asiatica
(Mukadenori)
Gracilaria vermiculophylla
(Ogonori)
Chondrus ocellatus
(Tsunomata)
Sargassum muticum
(Tamahahakimoku)
0
2/23
Ulva pertusa
(Aosa)
12/2
Fig. 4-8 Seasonal variation of seaweed biomass in Rinku Park at 2009
40000
8000
Codium fragile
(Miru)
30000
6000
20000
4000
10000
2000
0
0
2/25
5/19
8/11
12/8
Wet weight of seaweed (g-wet)
Wet weight of Codium fragile (g-wet)
2010
Ulva pertusa
(Aosa)
Gracilaria textorii
(Kabanori)
Grateloupia asiatica
(Mukadenori)
Gracilaria vermiculophylla
(Ogonori)
Chondrus ocellatus
(Tsunomata)
Sargassum muticum
(Tamahahakimoku)
Fig. 4-9 Seasonal variation of seaweed biomass in Rinku Park at 2010
60
次 に , 各 海 藻 種 の 現 存 量 経 年 変 化 を ゾ ー ン 別 に ま と め た も の を , Fig. 4-10~
Fig. 4-16 に 示 す . ゾ ー ン 毎 の 海 藻 現 存 量 の 様 子 か ら , ミ ル は 内 海 内 全 域 で 生 育
しているが,外海との海水交換路であるⅢ,Ⅳではあまり見られない.また,
他の海藻の勢力が弱まる冬季に多く発生することもあり,多種との競合に対し
ては弱いが,一度定着すれば安定して増加する傾向があるといえる.アオサは
夏季にしか出現せず,その出現場所は主にⅡとⅥに集中しており,ⅠとⅦにも
見 ら れ る こ と も あ る た め , 砂 浜 側 (B-Zone)に 出 現 し や す い と い え る . こ の 原 因
として,アオサは浮遊性のものが寄り藻として多く存在し,また,その増殖速
度は他の海藻を圧倒するため,競合相手の少ない砂浜側まで流れ込んで増殖す
るためであると考えられる.それに対してカバノリは,Ⅲ,Ⅳ,Ⅴという外海
側 (A-Zone)の 場 所 に 限 っ て 冬 季 か ら 夏 季 に か け て 確 認 す る こ と が で き , ア オ サ
同 様 に 短 期 間 で 発 生・減 少 す る 様 子 が 見 ら れ る .2010 年 夏 場 の Ⅴ に カ バ ノ リ が
見られなかったのは,Ⅴの周辺にミルが定着し,カバノリの入る余地がなかっ
たためであると考えられる.ツノマタはミルが繁茂していないⅢ,Ⅳで安定的
に生育しているが,他の海藻と同様に冬季に減少する傾向にあるため,ミルの
ように全域に拡がることができず,海水交換口付近を優占していると考えられ
る.オゴノリとタマハハキモクは,海水交換が最も盛んであるⅣを中心に不規
則 に 出 現 し て い る た め ,ミ ル や ツ ノ マ タ な ど の 競 合 影 響 が 小 さ い 時 に 入 り 込 み ,
自然淘汰されると考えられる.
15000
Biomass (g-wet m-2)
Ⅰ
12000
Ⅱ
9000
Ⅲ
Ⅳ
6000
Ⅴ
Ⅵ
3000
Ⅶ
0
J F M A M J J A S O N D J F M A M J J A S O N D
2009
2010
Fig. 4-10 Seasonal variation of Codium fragile (Miru) biomass
61
400
Biomass (g-wet m-2)
Ⅰ
Ⅱ
300
Ⅲ
Ⅳ
200
Ⅴ
100
Ⅵ
Ⅶ
0
J F M A M J J A S O N D J F M A M J J A S O N D
2009
2010
Fig. 4-11 Seasonal variation of Ulva pertusa (Aosa) biomass
4000
Biomass (g-wet m-2)
Ⅰ
Ⅱ
3000
Ⅲ
Ⅳ
2000
Ⅴ
1000
Ⅵ
Ⅶ
0
J F M A M J J A S O N D J F M A M J J A S O N D
2009
2010
Fig. 4-12 Seasonal variation of Gracilaria textorii (Kabanori) biomass
4000
Biomass (g-wet m-2)
Ⅰ
Ⅱ
3000
Ⅲ
Ⅳ
2000
Ⅴ
1000
Ⅵ
Ⅶ
0
J F M A M J J A S O N D J F M A M J J A S O N D
2009
2010
Fig. 4-13 Seasonal variation of Chondrus ocellatus (Tsunomata) biomass
62
3000
Biomass (g-wet m-2)
Ⅰ
Ⅱ
2000
Ⅲ
Ⅳ
Ⅴ
1000
Ⅵ
Ⅶ
0
J F M A M J J A S O N D J F M A M J J A S O N D
2009
2010
Fig. 4-14 Seasonal variation of Grateloupia asiatica (Mukadenori) biomass
800
Biomass (g-wet m-2)
Ⅰ
Ⅱ
600
Ⅲ
Ⅳ
400
Ⅴ
200
Ⅵ
Ⅶ
0
J F M A M J J A S O N D J F M A M J J A S O N D
2009
2010
Fig. 4-15 Seasonal variation of Gracilaria vermiculophylla (Ogonori) biomass
1000
Biomass (g-wet m-2)
Ⅰ
800
Ⅱ
600
Ⅲ
Ⅳ
400
Ⅴ
Ⅵ
200
Ⅶ
0
J F M A M J J A S O N D J F M A M J J A S O N D
2009
2010
Fig. 4-16 Seasonal variation of Sargassum muticum (Tamahahakimoku) biomass
63
りんくう公園藻場モデル
4.4
4.4.1
海藻モデル
りんくう公園内海の藻場モデルの要素として,海藻現存量調査の結果を参考
に,四季を通して優占種であるミルとツノマタ,局所的な発生が見られたカバ
ノリ,アオサを選定し,第 2 章で提案した光合成実験手法を用いて,それぞれ
の海藻の生物パラメタ取得を行った.光合成実験により得られた,各海藻の水
温 と 光 量 に 対 す る 酸 素 発 生 量 の 変 化 を Fig. 4-17, Fig. 4-18 に , 水 温 に 対 す る 相
対 生 長 率 を Fig. 4-19 に , 呼 吸 に よ る 減 耗 率 を Fig. 4-20 に そ れ ぞ れ 示 す .
実験結果から,光量に対する光合成制限は光量減少に伴って大きくなってい
るが,ミルの高光量域で酸素発生量が逆に下がっている現象については,強光
に よ る 光 合 成 阻 害 [4-9][4-10]を 起 こ し た 可 能 性 が あ る . 光 量 制 限 の 凸 度 に つ い
ては,カバノリ以外の海藻種については,それほど変化が見られなかった.水
温に対する相対生長率と減耗率を見ると,カバノリやアオサといった,調査で
一定期間にしか見られなかった海藻は,相対生長率,減耗率が共に高く,特に
アオサは他の海藻と桁が異なっていた.また,ミルとツノマタのように四季を
通して生育していた海藻は,相対生長率は低いものの,同時に呼吸量も少ない
ために,水温変化の影響に耐えることができると考えられる.
実 験 結 果 か ら 決 定 し た 海 藻 パ ラ メ タ を Table 4-1 に 示 す .な お ,発 生 に 関 す る
パラメタは,海藻現存量の調査結果を参考に,現存量がピークになる月を基準
に , 前 後 60 日 程 度 が 子 嚢 斑 の 形 成 期 間 と な る よ う に チ ュ ー ニ ン グ を 行 っ た .
0.008
Oxygen yield (mg min-1 g-wet-1)
Oxygen yield (mg min-1 g-wet-1)
0.006
0.004
0.002
0
0
100
200
300
Light intensity (μmol m-2 s-1)
-0.002
-0.004
-0.006
10℃
15℃
20℃
25℃
30℃
0.006
0.004
0.002
0
0
100
-0.002
-0.004
200
300
Light intensity (μmol m-2 s-1)
10℃
15℃
20℃
25℃
30℃
Fig. 4-17 Photosynthesis rate relating to light intensity of Codium fragile (Miru, left)
and Chondrus ocellatus (Tsunomata, right)
64
0.08
Oxygen yield (mg min-1 g-wet-1)
0.012
0.008
0.004
0
0
100
200
300
Light intensity (μmol m-2 s-1)
-0.004
10℃
-0.008
15℃
20℃
25℃
30℃
0.06
0.04
0.02
0
0
100
200
300
Light intensity (μmol m-2 s-1)
-0.02
10℃
-0.04
15℃
20℃
25℃
30℃
Fig. 4-18 Photosynthesis rate relating to light intensity of Gracilaria textorii
0.5
4
0.4
3.2
0.3
2.4
0.2
1.6
0.1
0.8
0
0
0
10
20
30
Water temperature (℃)
-0.1
Relative growth rate of Ulva pertusa
(day-1)
Relative growth rate (day-1)
(Kabanori, left) and Ulva pertusa (Aosa, right)
-0.8
Gracilaria textorii
(Measured)
Chondrus ocellatus
(Measured)
Codium fragile
(Measured)
Gracilaria textorii
(Fitted)
Chondrus ocellatus
(Fitted)
Codium fragile
(Fitted)
Ulva pertusa
(Measured)
Ulva pertusa
(Fitted)
Fig. 4-19 Relative growth rate of seaweed in Rinku Park
Water temperature (℃)
10
20
30
0
0
-0.05
-1
-0.1
-2
-0.15
-3
-0.2
-4
Relative wastage rate of Ulva pertusa
(day-1)
0
Relative wastage rate (day-1)
Oxygen yield (mg min-1 g-wet-1)
0.016
Gracilaria textorii
(Measured)
Chondrus ocellatus
(Measured)
Codium fragile
(Measured)
Gracilaria textorii
(Fitted)
Chondrus ocellatus
(Fitted)
Codium fragile
(Fitted)
Ulva pertusa
(Measured)
Ulva pertusa
(Fitted)
Fig. 4-20 Relative wastage rate of seaweed in Rinku Park
65
Table 4-1 Biological parameters o f seaweed in Rinku Park
Va lu e
Defin iti on
Sym b ol
Un it s
Nu mb er of s ea we ed
[R elat i ve growt h rat e]
Ma xi mu m rela t i ve growt h rat e
C on vexit y d egr ee
Lo wer li m it of wat er t emp era t ure
Hi gh er lim it of wat er t emp era t ure
[ Gen esi s]
Ma xi mu m form at i on ra t e of a s cus
Mini mu m form at i on ra t e of a s cus
Av era ge for form at i on ra t e of as cu s
Va rian c e for format i on ra t e of a scu s
4.4.2
Ul va
per tu sa
1
2
3
4
0.594 7
1.305
0.0
32.0
1.646
1.532
0.0
31.0
7.269
2.659
0.0
30.0
0.013 6
℃
℃
0.440
1.411
0.0
30.0
α
m2
0.02
0.015
0.013 6
0.5
0.05
2.0
0.3
3.0
0.3
0.20
0.05
10
8000
6.0
10
0.15
0.1
10
4000
4.0
10
0.20
0.1
5
4000
3.0
10
0.28
0.05
5
400
1.0
10
0.20
0.13
35.0
0.001
0.15
0.14
35.0
0.015
0.23
0.11
35.0
0.065
5.0
0.13
35.0
0.4
23.04
0.038 5
350
60.26
7.3
0.024
91
36.5
9.63
0.016
35
42.3
18.33
0.01
130
30.0
L S Wi
γ S Wi
p S Wi
[ Fi rin g]
Fi rin g pa ra m et er -1
Fi rin g pa ra m et er -2
Li m i tin g wa t er t em p eratu re fo r vi ab le
Fi xed fi rin g ra t e
Grac ila r ia
tex to ri i
da y - 1
KN S Wi
KP S Wi
[C om p et it i on func ti on]
Ma x h ei ght of s ea weed
gam m a
Sc reen in g effec t of s ea we ed le a f
Ma xi mu m bi oma s s of s ea weed at un it a rea
Sc reen in g effec t at 100 g -wet / m 2
Cu rva tu re of a rea lim it ati on
Chond ru s
oce lla tu s
k m a x S Wi
ω S Wi
T m i n S Wi
T m a x S Wi
[ Li gh t li mi t func ti on]
Cu rva tu re of li ght lim it ati on
[Nu t ri ent c onc ent rati on li mi t funct i on]
Ha lf s atu rat i on c on s tan t for DIN
Ha lf s atu rat i on c on s tan t for DIP
Codiu m
fra gil e
m
m-1
B m a x S Wi
k 1 0 0 S Wi
S S Wi
g-wet m-2
α D S Wi
β D S Wi
T D S Wi
N D S Wi
da y - 1
℃
da y - 1
S om a x S Wi
S om i n S Wi
μ S Wi
σ 2 S Wi
計算条件
a. 水 質
りんくう公園内海モデルにおける環境条件については,りんくう公園内海の
水 質 調 査 に よ り 得 ら れ た 計 測 結 果 と , 国 土 交 通 省 [4-11]が 公 開 し て い る 関 西 国
際 空 港 MT 局 の 観 測 デ ー タ を 参 考 に , Table 4-2 に 示 す よ う に 決 定 し た .
Table 4-2 Values of boundary condition in R inku model
Defin iti on
Wat er Tem p eratu re
Di s s olved In organ ic Nit rogen
Di s s olved In organ ic Ph osph or us
Notat i on
Un it s
Va lu e
T=19 .35 +9 .72 sin ( 2π (da y-1 38 )/ 365 )
T
℃
D IN
μm ol L - 1
D IP
μm ol L
Li gh t int en si t y of s ea su rfac e
I0
μm ol m
Di s si pat i ve m odu lu s of s ea wa t er
kw
m-1
66
-2
20.0
-1
s
0.19
-1
I 0 =6 25+ 256 sin ( 2π (d a y-8 0 )/36 5)
0.31
b. 基 質
モデル構築において,りんくう公園内海の特徴として考慮する必要がある要
素の一つに,石,砂,泥の 3 種類の底質が挙げられる.潜水調査時に確認した
範囲では,石積み堤体には海藻群落が繁茂していたが,砂浜にはアオサやアオ
ノリなど,限られた海藻種のみが生育し,泥基質には寄り藻以外に海藻は生育
し て い な か っ た . そ こ で , そ れ ぞ れ の 基 質 に 対 す る 各 海 藻 の 適 性 を Table 4-3
の よ う に 設 定 し ,モ デ ル 計 算 時 の 生 長 量 と 遊 走 子 付 着 率 に 掛 け あ わ せ る こ と で ,
海藻が持つ基質への適性を表現した.
また,りんくう公園内海は人工閉鎖性干潟であるが,大阪湾と海水交換を行
っているため,外海から遊走子や胞子体が流入することが考えられる.これを
表現するために,海水交換口であるゾーンⅢ,Ⅳを中心に,各ゾーンに遊走子
着底ポイントを設定し,割り当てたポイントに対して,各海藻の子嚢斑形成率
がピーク値の 3 分の 2 以上となる時に,一定量の遊走子が流れてくると仮定す
ることで,モデル内での外海からの流入を表現した.
Table 4-3 Take off coefficient of seaweed
Defin iti on
S ym b ol
Un it
Nu mb er of s ea we ed
[ Ta k e off t o b a s e]
t o st on e
t o sa nd
t o si lt
St S W i
Sa S W i
Si S W i
[ In flo w from out s ea]
In f lo w c on dit i on b ord er
In f lo w wei ght of zoosp erm
IFb S W i
IW S W i
In d .
Va lu e
Va lu e
Va lu e
Va lu e
Codiu m
fra gil e
Codiu m
fra gil e
Codiu m
fra gil e
Codiu m
fra gil e
1
1
1
1
0.8
0.1
0.1
0.8
0.1
0.1
0.9
0.1
0.1
0.8
0.6
0.1
0.9
2.0× 10 6
0.5
4.0× 10 6
0.7
1.0× 10 6
0.7
2.0× 10 6
c. 遊 走 子 の 移 動
りんくう公園藻場モデルでは,流動を考慮していないため,遊走子の拡散移
動は水深に依存するものとした.藻体から発生した遊走子の拡散スキームは,
Fig. 4-21 に 示 す よ う に , 藻 体 の 存 在 す る セ ル と 周 囲 の セ ル の 水 深 を 比 較 し て ,
分配割合を決定するものとした.
67
Acquisition of depth data from the sea area around objective cell
Pattern classification to depth level (shallow, same, deep, land)
compere to objective cell
Providing the partition coefficient to depth class
(shallow:1, same:3, deep:5, land:0, center:10)
Calculation (partition coefficient) / (total partition coefficient )
to each cells
1.3 m
1.6 m
0m
2.1 m
2.5 m
1.8 m
2.5 m
3.0 m
2.8 m
1.3 m
1.6 m
0m
2.1 m
2.5 m
1.8 m
2.5 m
3.0 m
2.8 m
1
1
0
1
10
1
3
5
5
1/27
1/27
0
1/27
10/27
1/27
3/27
5/27
5/27
Fig. 4-21 Scheme to determine spreading rate of spore
d. 計 算 範 囲 の 設 定
り ん く う モ デ ル は , Fig. 4-22 に 示 す よ う に , 内 海 を 73×50 セ ル (1 セ ル : 2m
×2m)に 分 割 し , そ れ ぞ れ の セ ル に 基 質 , 水 深 の 情 報 を Fig. 4-23 の よ う に 与 え
ることで,各セルに対して各海藻種の生長,枯死,発生の計算を行うものとし
た.
Fig. 4-22 Cell splitting of artificial lagoon in Rinku Park
68
Depth (m)
Land
Stone
0
3.5
Sand
Silt
Fig. 4-23 Distribution of bottom condition (left) and water depth (right)
4.4.3
数値実験
前項の計算条件において,計算開始日を1月1日,計算ステップを 1 日とし
て,りんくう公園内海内の海藻分布変動の計算を行った.なお,海藻の初期現
存 量 は Ⅰ , Ⅱ , Ⅳ , Ⅴ , Ⅶ の 各 ゾ ー ン の う ち 1 セ ル に , ミ ル を 5g-wet m - 2 ず つ
与えたのみであり,他の海藻については外部からの流入のみとした.計算結果
から求めた各海藻の現存量の等高線図について,計算開始から 1 年経過まで並
べ た も の を Fig. 4-24 に , 1 年 経 過 か ら 3 年 経 過 ま で 並 べ た も の を Fig. 4-25 に ,
それぞれ示す.
初年度の植生に着目すると,遊走子の流入が無い 1 月,2 月はミル以外の海
藻は見られないが,3 月からツノマタとカバノリが入り込み始め,Ⅱ,Ⅲ,Ⅳ
といった海水交換口の近くで繁茂し始めている.5 月あたりからは,アオサが
急激に増加し,ほぼ全域に拡がっているが,ツノマタとカバノリが優占してい
たⅢ,Ⅳにはあまり見られず,競合の影響が大きく現れている.水温が上昇す
る 8 月,9 月になるとカバノリとアオサは消失し,比較的高温に強いツノマタ
が局所的に優占状態となり,その後冬季にはミルが勢力を強めていく.2 年目
以降は,各海藻の発生時期に大きな変化はないが,1 年目と比べてカバノリと
アオサの発生範囲が狭くなっている.これは,ミルの生息域が拡大することに
より,付着基盤が占有された影響であり,ミルやツノマタなどの海藻は,増加
速度こそ遅いものの,群落を形成すれば競合に有利であることが表現できてい
る.その後も,変動は見られるものの,与える環境条件が周期的であることか
ら,年間を通じて完全に消えることのないミルとツノマタが,徐々に勢力を増
していき,3 年目にはカバノリとアオサはごく一部でしか見られなくなった.
69
モデル計算結果を海域調査結果と比較すると,各海藻の繁茂する場所と季節
の傾向は上手く表現できている.しかしながら,実際の海藻現存量の調査結果
よりも,全体的に多めに見積もる結果となった.これは,本モデルでは,調査
時に見られたカキによる場の占有や,ガンガラなどによる摂食を考慮していな
いことの影響と,生長速度や枯死速度を株単位ではなく現存量ベースで考慮し
ているために,本来なら生育限界の大きさである株の方が,相対生長率による
生長判定が大きくなるためであると考えられる.さらに,実際の海域では,ム
カデノリ,オゴノリ,タマハハキモクなど,モデル化しなかった海藻が生える
ことにより,競合条件が厳しくなることも考えられるため,今回の計算結果が
実計測よりも多めの現存量を見積もったことは,ある種妥当な結果であるとも
いえる.
生育場所に関しては,計算結果ではⅢをツノマタ,Ⅳをミルが占有する傾向
が見られるが,調査結果ではⅡ~Ⅲの範囲にミルが繁茂し,ツノマタはⅢより
もⅣよりに多く生育していることが確認されている.これは,本モデルでは考
慮していない潮通しの影響と考えられ,実海域では海水交換量に差が生じ,潮
の動きが大きいⅣ~Ⅴにツノマタが生えやすく,凹形状で流れが停滞するⅡ~
Ⅲ間はミルが生育しやすいと考えられる.これらのような問題点は,必要とす
るモデル予測精度に合わせて,摂餌モデルや他種の海藻モデル,流動モデルを
構築し,追加することによって,対応できると考えられる.
70
Biomass (g-wet m-2)
Elapsed
time
0
Codium fragile
(Miru)
4000
Chondrus ocellatus
(Tsunomata)
Gracilaria textorii
(Kabanori)
Biomass (g-wet m-2)
0
400
Ulva pertusa
(Aosa)
Start
(1/1)
31 days
(2/1)
59 days
(3/1)
90 days
(4/1)
120 days
(5/1)
151 days
(6/1)
181 days
(7/1)
212 days
(8/1)
243 days
(9/1)
273 days
(10/1)
304 days
(11/1)
334 days
(12/1)
Fig. 4-24 Contour maps of each seaweed biomass at the first year
71
Biomass (g-wet m-2)
Elapsed
time
0
Codium fragile
(Miru)
4000
Chondrus ocellatus
(Tsunomata)
Gracilaria textorii
(Kabanori)
Biomass (g-wet m-2)
0
400
Ulva pertusa
(Aosa)
365 days
(1/1)
424 days
(3/1)
485 days
(5/1)
546 days
(7/1)
608 days
(9/1)
669 days
(11/1)
730 days
(1/1)
789 days
(3/1)
850 days
(5/1)
911 days
(7/1)
973 days
(9/1)
1034 days
(11/1)
1095 days
(1/1)
Fig. 4-25 Contour maps of each seaweed biomass at the 2nd and 3 rd year
72
4.5
結言
本章では,実海域における藻場の海藻量変動傾向を把握するため,りんくう
公園内海内の海藻現存量経年変化の調査と,対象海域内の海藻優占種を対象と
した予測計算を行った結果,以下のような結論を得た.
(1) り ん く う 公 園 内 海 に お け る 調 査 か ら ,ミ ル と ツ ノ マ タ が 通 年 的 に 優 占 し ,カ
バ ノ リ や ア オ サ ,オ ゴ ノ リ が 季 節 を 限 定 し て 発 生 す る 傾 向 が あ る こ と ,な ら
び に ,ミ ル は 停 滞 域 で 多 く 見 ら れ ,潮 通 り が 良 い 場 所 で は ,多 様 な 海 藻 か ら
なる藻場が形成されることが確認された.
(2) ミ ル ,ツ ノ マ タ ,カ バ ノ リ ,ア オ サ に 対 し て 光 合 成 実 験 を 行 い ,そ れ ぞ れ の
海 藻 の 生 物 パ ラ メ タ を 取 得 し た .ま た ,取 得 し た 生 物 パ ラ メ タ を 用 い ,さ ら
に 基 質 に よ る 生 育 傾 向 の 差 と ,外 部 か ら の 遊 走 子 流 入 を 組 み 込 ん だ ,4 種 海
藻による藻場競合モデルを構築した.
(3) 単 種 の 海 藻 の み を 表 現 し た モ デ ル で は 行 わ れ て い な い ,海 藻 同 士 の 競 合 を 表
現 し た こ と に よ り ,ア オ サ や ツ ノ マ タ の 増 殖 速 度 は 大 き い も の の ,付 着 基 盤
を他の種に先に占有されている場合は,増殖が抑えられることがわかった.
(4) 突 発 的 な 減 少 要 因 と な る 事 象 が 発 生 し な い 限 り は ,年 数 が 経 過 す る ほ ど ,四
季を通して生育できる海藻にとって有利になり,季節的に発生する海藻は,
年々現存量が減少していくことが再現できた.
以上より,調査結果を基に選定した 4 種の海藻の加入と競合を考慮した藻場
生態系モデルによる計算結果は,実地調査で得られた藻場の長時間の変動をあ
る程度再現できており,本研究で提案する藻場モニタリング手法の実用例を示
すことができたものと考える.
73
第5章
5.1
藻場モデルを用いた海洋深層水放流による藻場修復効果の予測
緒言
本研究において,藻場の海藻資源量管理に数値モデルを利用することに着目
した理由のひとつに,様々な海域の藻場変動を把握することに留まらず,海藻
が関わる海域環境問題の解決,緩和を行うためのツールとして有効活用できる
点が挙げられる.そこで,生物パラメタの多い海藻種のモデリングにおいて,
簡潔で信頼性に足るモデル構築を可能にするための手法を確立するため,第 2
章で,海藻モデルの生物パラメタ取得に適した,海藻光合成特性把握のための
実験手法を提案し,第 3 章で,藻場生態系をモデルで表現する際の,海藻現存
量の増減に起因する要素の決定と反応式の構築を行った.また,第 4 章では,
それらのプロセスを利用したモデルを構築し,藻場の変動予測計算を行い,実
海域の調査結果と比較することで,本モデルの予測精度と有用性について述べ
た.本章では,近年,藻場に関わる問題として,主に水産関係で様々な被害が
報告されている磯焼けを取り上げ,藻場生態系モデルを用いて,対象海域にお
ける磯焼け原因の解明と,その解決方法の提案を試みる.
本 章 に お け る 藻 場 モ デ ル 構 築 の 対 象 海 域 と し て ,20 年 以 上 前 か ら 磯 焼 け の 発
生が確認されている高知県室戸岬周辺海域を取り上げた.磯焼けの発生によっ
て 海 藻 の 持 つ 水 質 浄 化 効 果 や , 魚 類 成 育 の 場 が 失 わ れ る こ と [5-1]は , 第 1 章 で
述べた通りであるが,室戸海域においても,磯焼けの進行に伴って,アワビの
漁獲が減少した例が報告されている.このような問題を解決するためには,ア
ワビの餌となる大型の海藻を繁茂させる必要がある.磯焼けとなった藻場を修
復するための試みの例としては,単純な海藻移植の他,海藻摂餌圧が非常に大
き い ウ ニ の 排 除 や , 海 中 林 造 成 の た め の 基 底 建 設 な ど が 挙 げ ら れ る [5-2]が , 対
象海域である室戸は,富栄養性,低温安定性,清浄性といった,海藻の生育に
適 し た 性 質 が 備 わ っ て い る 海 洋 深 層 水 [5-3]の 取 水 を 日 本 で 最 初 に 始 め た 場 所
で あ り ,海 洋 深 層 水 を 安 定 し て 利 用 で き る と い う 利 点 が あ る [5- 4]た め ,本 研 究
では,海洋深層水を用いた藻場修復の可能性について,藻場生態系モデルを用
いて検討することとした.
74
5.2 海 洋 深 層 水 に よ る 藻 場 修 復
高 知 県 室 戸 岬 東 岸 で は , 20 年 以 上 前 に は , カ ジ メ (Ecklonia cava)場 が 形 成 さ
れていた.ところが,近年,カジメの海中林は消滅し,石灰藻が繁茂する典型
的な磯焼け状態になっている.また,高知県の土佐湾,手結地先においても,
同 様 の 現 象 が 芹 澤 ら [5-5]に よ っ て 報 告 さ れ て い る .こ れ ら の 海 域 で 磯 焼 け が 同
時期に起こった原因として,高水温,貧栄養の黒潮が接岸することによって,
海藻生長が抑制され,藻食性動物の摂餌が活発になることが考えられる.
これに対して,室戸岬沿岸に位置する高知県海洋深層水研究所の深層水放流
口付近において,マクサやトゲモクなどの海藻がパッチ状に生育していること
が 確 認 さ れ て お り , ま た , 蜂 谷 ら [5-6]に よ っ て , ア オ ノ リ 養 殖 に 用 い た 海 洋 深
層水の排水プールにおいて,クロメ藻場が形成された事例が報告されている.
こ れ ら の 現 象 は ,汲 み 上 げ た 海 洋 深 層 水 が 現 地 海 域 に 放 流 さ れ る こ と に よ っ て ,
黒潮の影響を打消し,海藻が繁茂しやすい状況を作り上げていることを示して
いる.
本研究ではこの点に着目し,海域に海洋深層水を放流した時の藻場への影響
を検証するため,室戸海域に対応した藻場生態系モデルに加え,漁港のような
閉鎖的な海域に,海洋深層水を放流した時の挙動を予測する流動モデルを構築
することで,海洋深層水の放流によって期待される藻場修復効果の予測を行っ
た . モ デ ル 構 築 の 対 象 と す る 室 戸 海 域 は , Fig. 5-1 に 示 す 高 知 県 室 戸 岬 東 岸 に
位置する海洋深層水研究所東側の海域である.室戸岬東側の海岸は転石帯であ
り , 水 深 は 沿 岸 方 向 に は あ ま り 変 化 が な く , ほ ぼ 2.5% 勾 配 で 岸 沖 方 向 に 深 く
なっている.また,潮流はほぼ一定の早さで南北方向に流れることが多い.
Kochi prefectural Deep
Seawater laboratory
Hyogo
Osaka
Tokushima Wakayama
Mitsu Fishing
port
Takaoka
Fishing port
Kochi
Observation
field
Fig. 5-1 Location of Muroto coastal area in Kochi prefecture
75
5.3
室戸藻場モデル
高知県海洋深層水研究所地先の海域においてコドラート調査とヒアリング調
査 を 行 っ た 結 果 か ら , 海 藻 優 占 種 と し て マ ク サ (Gelidium elegans), 藻 食 性 付 着
動 物 と し て ム ラ サ キ ウ ニ (Anthocidaris crassispina ) , 藻 食 魚 類 と し て ブ ダ イ
(Calotomus japonicus),イ ス ズ ミ (Kyphosus lembus),ニ ザ ダ イ (Prionurus scalprum)
を室戸海域における藻場モデルの対象種として選定し,藻場修復の対象とする
海 藻 と し て , 環 境 省 [5-7]の 藻 場 調 査 に よ っ て , 室 戸 海 域 の 約 25km に 位 置 す る
野 根 漁 港 に て 自 然 生 育 が 確 認 さ れ て い る ク ロ メ (Ecklonia kurome)を 選 定 す る こ
と で , 計 6 種 を 室 戸 藻 場 モ デ ル の 構 成 要 素 と し た . Fig. 5-2 に 室 戸 藻 場 モ デ ル
の構成概要を示す.
Grazing (T, S, K)
T : Temperature
S : Season
N : Nutrient concentration
Eclonia kurome
Competition (A, I)
Anthocidaris
crassispina
Death (T)
Growth (T, I)
Death (T, N)
A : Area
K : Kind of seaweed
Grazing (T, K)
Gelidium elegan
I : Light intensity
Calotomus
japonicus
Biomass (S, T)
Kyphosus
lembus
Behavior (T)
Prionurus
scalprum
Fig. 5-2 Total scheme of the seaweed bed ecosystem model at Muroto area
5.3.1 海 藻 モ デ ル
クロメ,マクサ,それぞれに対して第 2 章で示した光合成実験を行った.そ
の 結 果 得 ら れ た 水 温 に 対 す る 相 対 生 長 率 と , 推 定 し た 相 対 生 長 率 の 比 較 を Fig.
5-3 に 示 す . ま た , 決 定 し た 生 物 パ ラ メ タ を Table 5-1 に 示 す .
76
Table 5-1 Parameters of seaweed growth rate
Va lu e
Defin iti on
Sym b ol
Un it s
Ec klon ia
kuro me
Ge lid iu m
el egan s
No.
1
2
k m a x S Wi
ω S Wi
T m i n S Wi
T m a x S Wi
da y - 1
℃
℃
0.01 4 7
1.32
0 .0
32 .0
0.024 6
1.23
0.0
36.0
α
m2
0.013 6
0.004 9
13.2
0.856
2.33
0.151
0.6
0.2
10.0
2000
4.0
10
0.15
0.02
6.0
1500
2.0
11
0.012
0.17
35.0
0.002 5
0.012
0.17
39.0
0.002 5
16.04
0.040
286
45.7
8.3
0.034
91
37.5
Nu mb er of s ea we ed
[R elat i ve growt h rat e]
Ma xi mu m rela t i ve growt h rat e
C on vexit y d egr ee
Lo wer li m it of wat er t emp era t ure
Hi gh er lim it of wat er t emp era t ure
[ Li gh t li mi t func ti on]
Cu rva tu re of li ght lim it ati on
[Nu t ri ent c onc ent rati on li mi t funct i on]
Ha lf s atu rat i on c on s tan t for DIN
Ha lf s atu rat i on c on s tan t for DIP
KN S Wi
KP S Wi
[C om p et it i on func ti on]
Ma x h ei ght of s ea weed
gam m a
Sc reen in g effec t of s ea we ed le a f
Ma xi mu m bi oma s s of s ea weed at un it a rea
Sc reen in g effec t at 100 g -wet / m 2
Cu rva tu re of a rea lim it ati on
L S Wi
γ S Wi
p S Wi
B m a x S Wi
k 1 0 0 S Wi
S S Wi
[ Fi rin g]
Fi rin g pa ra m et er -1
Fi rin g pa ra m et er-2
Li m i tin g wa t er t em p eratu re fo r vi ab le
Fi xed fi rin g ra t e
α D S Wi
β D S Wi
T D S Wi
N D S Wi
[ Gen esi s]
Ma xi mu m form at i on ra t e of a s cus
Mini mu m form at i on ra t e of a s cus
Av era ge for form at i on ra t e of as cu s
Va rian c e for format i on ra t e of a scu s
m
m-1
g-wet m - 2
da y - 1
℃
da y - 1
S om a x S Wi
S om i n S Wi
μ S Wi
σ 2 S Wi
Ecklonia kurome (Fitted)
0.01
Relative groeth rate (day-1)
Ecklonia kurome (Measured)
Gelidium elegans (Fitted)
0.008
Gelidium elegans (Measured)
0.006
0.004
0.002
0
0
10
20
30
40
Water temperature (℃)
Fig. 5-3 Relative growth rate of Ecklonia kurome (Kurome) and Gelidium elegans
(Makusa) relating to water temperature
77
5.3.2 ム ラ サ キ ウ ニ モ デ ル
ムラサキウニの海藻摂餌量については,クロメ,マクサそれぞれに対する摂
餌 実 験 を 行 っ た . 実 験 結 果 か ら 得 ら れ た , 水 温 に 対 す る 摂 餌 率 変 化 を Fig. 5-4
に 示 す .ま た ,こ の 実 験 結 果 か ら ,摂 餌 パ ラ メ タ は Table 5-2 の よ う に 決 定 し た .
ムラサキウニに対する摂餌実験で得られた摂餌率と,実験時の水温・季節条件
を モ デ ル に 代 入 し た 時 の 予 測 摂 餌 率 の 相 関 を Fig. 5-5 に 示 す . 摂 餌 率 が 小 さ い
時にある程度のズレが見られ,マクサの摂餌率予測は少々高めの値になる傾向
があるが,概ね推定はできている.
0.05
0.05
Dec. Jan. Feb.
Dec. Jan. Feb.
Apr. May
0.04
Jun. Jul. Aug.
Grazing rate (day-1)
Grazing rate (day-1)
0.04
Apr. May
Sep. Oct. Nov.
0.03
0.02
0.01
0
Jun. Jul. Aug.
Sep. Oct. Nov.
0.03
0.02
0.01
0
10
15
20
25
30
10
Water temperature (℃)
15
20
25
30
Water temperature (℃)
Fig. 5-4 Grazing rate of sea urchin to Ecklonia kurome (left) and Gelidium elegans
(right)
Table 5-2 Parameter of sea urchin grazing rate
Va lu e
Defin iti on
Sym b ol
Nu mb er of s ea we ed
[ Gra zi n g rat e]
Ann ua l ma xi mum gra zin g rat e
S ea s on a l c oeffic i en t
Ma xi mu m da ys of gra zin g c on su mpt i on
Lo wer li m it of wat er t emp era t ure
Hi gh er lim it of wat er t emp era t ure
C on vexit y d egr ee
g U S Wi m a x
αU
dopt
TUmin
TUmax
ωU
78
Un it s
to Ec klon ia
kuro me
to Geli diu m
ele gan s
No.
1
2
da y - 1
0.286
0.394
250
5.0
40.0
2.20
0.596
0.843
250
5.0
40.0
2.80
da y
℃
℃
0.04
Ecklonia kurome
Grazing rate of sea urchin
from model estimation
Gelidium elegans
0.03
0.02
0.01
0
0
0.01
0.02
0.03
0.04
Grazing rate of sea urchin from experiment
Fig. 5-5 Correlation of sea urchin grazing rate between experimental and simulated
results
高 知 県 海 洋 深 層 水 研 究 所 の 排 水 口 付 近 (Point-1)と 沖 潜 堤 (Point-2)に お い て ,ム
ラ サ キ ウ ニ と マ ク サ の 現 存 量 を 調 査 し た 結 果 と ,変 化 率 (現 存 量 変 化 ÷調 査 イ ン
タ ー バ ル 日 数 )の 相 関 を Fig. 5-6 に 示 す .ム ラ サ キ ウ ニ と マ ク サ の 変 化 率 に は 負
の相関があり,お互いの現存量に影響を受けていると考えられるため,この海
sea urchin (point-2)
Gelidium elegans (point-1)
Gelidium elegans (point-2)
150
500
120
400
90
300
60
200
30
100
0
'06/08/21
0
'07/08/21
'08/08/20
Changing rate of sea urchin (g-wet m-2 day-1)
1.5
sea urchin (point-1)
Biomass of Gelidium elegans (g-wet m-2)
Biomass of sea urchin (g-wet m-2)
域では,ムラサキウニの密生制限を考慮することができる.
Point-1
1
Point-2
0.5
0
-4
-3
-2
-1
0
1
2
3
4
-0.5
-1
-1.5
Changing rate of Gelidium elegans (g-wet m-2 day-1)
Fig. 5-6 Seasonal variation of biomass (left) and correlation of changing rate (right)
of sea urchin and Gelidium elegans (Makusa)
79
5.3.3 魚 類 モ デ ル
魚 類 の 摂 餌 と 行 動 を 表 現 す る 魚 類 モ デ ル の 生 物 パ ラ メ タ は ,Table 5-3 に 示 す
ように決定した.ここで,摂餌に関するパラメタについては,室戸モデルで対
象 と し た 藻 食 魚 類 に 対 す る 摂 餌 実 験 [5-8]の 結 果 を 用 い る こ と と し た .摂 餌 実 験
の 結 果 と 摂 餌 率 推 定 結 果 の 比 較 を Fig. 5-7 に 示 す .
Table 5-3 Parameters of herbivorous fish grazing and moving
Va lu e
Defin iti on
Sym b ol
Nu mb er of h erbi vorou s fi sh
Un it s
j
[ Gra zi n g rat e]
Ma xi mu m gra zin g ra t e for E ck lonia k uro me
Ma xi mu m gra zin g ra t e for Ge l idiu m e lega ns
C on vexit y d egr ee
Lo wer li m it of wat er t emp era t ure
Hi gh er lim it of wat er t emp era t ure
gFjSW1max
gFjSW2max
ωFj
TFjmin
TFjmax
[ Gra zi n g s el ect i vi t y]
S elec t i vi t y ta st y i nd ex for Eck lonia k uro me
S elec t i vi t y ta st y i nd ex for Ge l idiu m e lega ns
Op ti mu m d at e for gra zin g
P eri od c oeffi ci ent for gra zin g of s ea weed
ST I F j S W 1
ST I F j S W 2
doptFj
αFj
[P ot en ti a l bi oma s s]
Ma xi mu m bi oma s s of fi sh at u nit a rea
Op ti mu m wa t er t emp erat u re
Va rian c e
mFjm a x
ToptFj
σ2
da y - 1
da y - 1
℃
℃
da y
g-wet m - 2
℃
℃
Calo to mu s
japon ica s
Pr ionu ru s
sca lp ru m
Kypho su s
le mbu s
1
2
3
0.561
0.022
2.0
5.0
35.0
0.457
0.018
1.3
5.0
30.0
0.067
0.002
1.1
13.0
28.0
1.00
0.02
280
0.88
1.00
0.20
192
1.20
1.00
0.81
203
2.36
11.37
-
3.16
19.8
30.0
10.59
18.7
30.0
Grazing rate (day-1)
0.2
Calotomus japonicus
(Fitted)
Calotomus japonicus
(Measured)
Kyphosus lembus
(Fitted)
Kyphosus lembus
(Measured)
Prionurus scalprum
(Fitted)
Prionurus scalprum
(Measured)
0.15
0.1
0.05
0
5
15
25
35
Water temperature (℃)
Fig. 5-7 Measured and estimated grazing rate of herbivorous fish
80
海洋深層水の放流を行うことで,放流影響範囲のみが水温低下を起こし,魚
類が忌避行動を行う可能性が考えられる.水温低下によって,生理学的に魚類
の 行 動 が 抑 制 さ れ る こ と は 板 沢 [5-9]に よ っ て 報 告 さ れ て お り ,変 温 動 物 で あ る
魚類は,水温の影響を非常に受けやすく,摂餌量だけでなくその現存量にも影
響を与えると思われる.そこで,室戸藻場モデルでは,回遊性による現存量の
変 動 に 含 ま れ な い ,忌 避 行 動 に よ っ て 生 じ る 海 域 内 の 魚 類 移 動 を ,移 動 係 数 T を
用いて表現する.
実際に水温変化が起こった時に,魚類がどのような忌避行動を見せるのかを
確 認 す る た め に , 一 定 水 温 で 馴 致 を 行 っ た ブ ダ イ (Calotomus japonicus)に 対 し ,
低温海水を放流することで,時間経過によるブダイの位置変化を調べる実験を
行 っ た .実 験 時 の 配 置 と 実 験 結 果 を ,Fig. 5-8,Fig. 5-9 そ れ ぞ れ に 示 す .な お ,
実 験 前 の ブ ダ イ は ,放 流 口 の 下 (以 下 ,0m と す る )に 位 置 取 り ,ほ と ん ど 動 き を
見 せ な か っ た .実 験 結 果 を 見 る と ,水 温 の 低 下 に 伴 う ブ ダ イ の 行 動 に は ,0m ポ
イ ン ト に 留 ま る , 0m ポ イ ン ト か ら 離 れ て 動 き 回 る , 放 流 口 か ら 約 6.5m 離 れ た
場所に身体を傾けて停止する,という 3 つの状態が見られた.また,動きが停
止した状態から馴致水温の海水放流を開始すると,水温上昇に伴って活動が再
開した.
Drain out
Drain in
1.0m
①
②
③
1.5m
7.0m
Fig. 5-8 Image of fish behavior experiment
81
Distance from the drain in (m)
0
1
2
3
4
5
Water temperature (℃)
20
21
22
7 19
6
0
Elapsed time (sec)
Position of Calotomus japonicus
300
Inflow of low temperature water
600
①
②
900
Inflow of initial temperature water
③
1200
Fig. 5-9 Position of test fish (left) and water temperature change (right)
実験結果より,行動による移動係数 T は,水温変化,あるいは周囲との水温
差によって決定するものとし,モデル内では,水温低下時にそこから離れるよ
う に 移 動 す る “ 忌 避 ”, 移 動 を 行 わ な く な る “ 停 止 ”, 水 温 上 昇 時 に 行 動 が 活 発
に な る“ 活 性 化 ”と い う 3 つ の 傾 向 を ,水 温 差 に よ る 停 止 係 数 C f と 忌 避 係 数 Pf
を掛け合わせることで,次式のように表現した.
T  C f Pf
(5-1)
(1)停 止 係 数 C f
魚 類 の 活 動 が 可 能 か 否 か を 判 断 す る 停 止 係 数 Cf は ,水 温 T の 変 化 量 に 依 存 す
るステップ関数として,次式のように表現した.


 T  Tp  Ct min or Ct max  T  Tp
 0 Cf  
1 Ct min  T  Tp  Ct max


 d  d max
Ctd  sin  2
365


(5-2)


 d  d max
  2.0 , CTr  sin  2 365


82

  2.5

(5-3)
こ こ で , Tp は 前 日 の 水 温 , Ctr , Ctd は そ れ ぞ れ 水 温 上 昇 ,低 下 に 対 す る 変 化 許 容
限 界 で あ り , 夏 季 で -3.0℃ 以 下 あ る い は 1.5℃ 以 上 , 冬 季 で -1.0℃ 以 下 あ る い は
3.5℃ 以 上 の 水 温 変 化 が 生 じ た 時 ,魚 類 の 活 動 が 停 止 す る よ う ,水 温 が 最 大 と な
る 日 数 d m a xを 定 め , 日 数 d に よ る 周 期 関 数 と し て 決 定 し た .
(2)忌 避 係 数 Pf
水 温 変 化 に よ る 魚 類 の 移 動 を 表 す 忌 避 係 数 Pf は ,対 象 区 画 の 移 動 率 m f を 用 い
ることで,次式のように表現した.
Pf  1  m f
(5-4)
こ こ で , 移 動 率 m f は , 基 本 的 に 海 域 を 2×2 に 区 切 っ た エ リ ア で 考 慮 す る も の
と し , 最 低 水 温 ( T min と す る )エ リ ア か ら は , 忌 避 行 動 に よ り 魚 類 が 減 少 し , そ
の他のエリアに魚類が移動することにより,相対的に水温が高いエリアで行動
が 活 性 化 す る こ と を 表 現 し た . 各 エ リ ア に お け る 移 動 率 mf を 次 式 に 表 す .
mt min 
 T  Tave 2 
 d  d max
 , S  0.35sin  2
exp   min


365
2
S
0.4 2



1
m j  mT min rT , rT 

  0.5

T j  Tmin
(5-6)
 T  T 
i
(5-5)
min
こ こ で , Ta v e, Ti は そ れ ぞ れ ,対 象 と し た エ リ ア 全 体 の 平 均 水 温 と 各 エ リ ア の 水
温を表し, S は日数 d による周期関数で表現する季節関数である.最低水温と
な っ た エ リ ア に 与 え ら れ る 移 動 率 m f を Fig. 5-10 に 示 す .
海 域 を 2×2 セ ル 以 上 に 区 切 っ た 場 合 の 計 算 に お い て は , 上 記 の 計 算 方 法 を 基
本として,繰り返し計算を行うことで,全セルの移動率を求める.その場合の
忌 避 係 数 Pf は ,全 て の 計 算 に お い て 算 出 さ れ た 移 動 率 を 足 し 合 わ せ た も の の 平
均 値 m f を と る こ と で 表 し た . 計 算 ス キ ー ム を Fig. 5-11 に 示 す .
83
Difference of water temparature (℃)
-3
-2.5
-2
-1.5
-1
-0.5
0
0.0
Migration rate at the lowest
water temperature area
5/1
-0.2
8/1
11/1
-0.4
2/1
-0.6
-0.8
-1.0
Fig. 5-10 Migration rate of fish at lowering of temperature
Marking water temperature off the sea area
20 ℃
20 ℃
18 ℃
19 ℃
17 ℃
18 ℃
18 ℃
17 ℃
16 ℃
Retrieval the lowest water temperature cell within 2×2 area
20 ℃
20 ℃
19 ℃
17 ℃
Applying moving function to the lowest water temperature cell
Allocation change rate on the basis of temperature difference
0.375×m17 0.375×m17
0.25×m17
m17
+0.15
+0.15
+0.1
-0.4
+0.13
-0.1
+0.038
+0.075
+0.07
-0.1
+0.038
-0.15
Calculation the other 2×2 areas in the same way
+0.1
+0.05
-0.2
+0.05
Calculation average moving rate “mf” at each sell
Decision avoiding coefficient “Pf”
mf
+0.15
+0.125
+0.05
+0.115
-0.166
+0.063
+0.07
-0.031
-0.15
Pf
1.15
1.125
1.05
1.115
0.834
1.063
1.07
0.969
0.85
Fig. 5-11 Calculation flow of fish moving function
84
5.4
海洋深層水放流挙動モデル
海洋深層水が海域に放流された時の挙動を予測するために,流動モデルを用
いることで,条件設定に応じて,様々なパターンの挙動推定が可能となるが,
モデル構築のためには,海域の初期条件,放流水の条件,渦動粘性係数などの
設定が必要となる.そこで本研究では,漁港内の遊休水域を用いて海洋深層水
を実際に放流し,その挙動を確認することで得られた実験データを基に,深層
水放流モデルの構築を行った.
5.4.1
漁港内遊休水域における海洋深層水放流実験
放 流 実 験 に は , Fig. 5-12 に 示 す 場 所 に 位 置 す る 高 知 県 室 戸 市 室 戸 岬 町 高 岡 漁
港 内 の 泊 地 を 用 い る こ と と し た .泊 地 内 の 水 深 は 潮 汐 変 動 を 考 慮 し て 約 3~ 4 m
であり,漁港の奥部に位置するため,波浪によるかく乱影響はほぼない.実験
時は,漁港に隣接するアオノリ養殖工場でアオノリ養殖に用いた後の深層水排
水 を 放 流 し , Fig. 5-13 左 に 示 す 12m×25m 範 囲 内 の 24 個 の 計 測 ポ イ ン ト で ,
CTD セ ン サ ー を 用 い て , 水 温 , 塩 分 の 鉛 直 分 布 を 計 測 し た . 計 測 ポ イ ン ト は ,
図 内 の 泊 地 左 下 か ら の 距 離 座 標 ((0,0)~ (12,25))で 示 す も の と す る . な お , 詳 細
な海底地形調査は行っていないが,各計測ポイントの最大水深を参考に,漁港
内 の 海 底 傾 斜 を 推 定 し た 等 高 線 図 を Fig. 5-13 右 の よ う に 作 成 し た .
0m
Cultivation center of green laver
50 m
Idle area
100 m
N
Takaoka fishing port
Fig. 5-12 Location of Takaoka fishing port in Muroto city
85
3m
N
4m
5m
25
5m
20
15
Discharge
nozzle
10
5
Measurement
point
Discharge
direction
0
0
3
7
12
Fig. 5-13 Dimension and measurement points of the experimental area
a. 深 層 水 放 流 に よ る 水 温 変 化
海 洋 深 層 水 の 放 流 挙 動 を 調 べ る こ と を 目 的 と し て , Fig. 5-14 左 に 示 す ト リ カ
ル パ イ プ 放 流 口 (φ 50mm×4m,孔 径 1mm×1mm)を ,ブ ロ ッ ク を 用 い て Fig. 5-14
右のように水底に固定し,連続的に放流実験を行った.なお,実験時の表層水
温 は 27-28℃ , 放 流 水 水 温 は 13.5-16℃ , 平 均 放 流 量 は 6.0t h - 1 で あ っ た .
Fig. 5-14 Shapes (left) and setting (right) of discharge nozzle
放 流 実 験 の 計 測 結 果 か ら ,海 底 と 5cm 上 の 層 に お け る ,初 期 状 態 か ら の 水 温
変 化 量 を 等 高 線 図 と し て 表 し た も の を , Fig. 5-15 に 示 す . な お , 時 間 経 過 に よ
っ て 起 こ る 漁 港 内 海 域 全 体 の 水 温 変 化 を 考 慮 し , 各 ポ イ ン ト に お け る 水 深 1~
86
2m の 水 温 平 均 値 を ベ ー ス 水 温 と し て 用 い る こ と で ,深 層 水 放 流 に よ る と 考 え ら
れる水温変化量のみを計算した.
結 果 か ら ,岸 で 計 測 し た ポ イ ン ト で は 水 温 変 化 は ほ ぼ 見 ら れ な い の に 対 し て ,
放 流 口 の 前 方 の (3,15)で は 大 き な 水 温 低 下 が 確 認 で き た .こ れ は ,深 層 水 の 放 流
方向が前方方向であることと,漁港の壁面形状により,岸側では最下層部まで
セ ン サ ー が 降 り な か っ た こ と が 原 因 と 考 え ら れ , 放 流 口 で あ る (0,15)よ り も ,
(3,15)や (7,15)に お け る 水 温 低 下 の 方 が 大 き い こ と も , 同 様 の 原 因 で あ る と 思 わ
れ る .深 層 水 の 影 響 範 囲 は ,放 流 開 始 か ら 90 分 経 過 し た あ た り か ら ,目 立 っ た
変 化 が 見 ら れ な く な っ た .ま た ,水 底 と そ の 5cm 上 部 の 層 で は ,水 温 低 下 が 生
じている範囲はほとんど変わらないが,水温の低下量は水底の層が大きくなっ
ている.このことから多孔性のトリカルパイプを用いて,流速を抑えて放流さ
れた深層水は,底面を這うように動いていることが確認できた.
Change value of water temperature (℃)
0-0.05 m
3m
N
4m
-2.0
0
5m
25
5m
20
15
Discharge
nozzle
0.05-0.1 m
10
5
Measurement
point
Discharge
direction
0
0
3
7
12
30 min.
90 min.
150 min.
Elapsed time
210 min.
270 min.
Fig. 5-15 Profile of water temperature change (porosity pipe)
等高線図で見た時に,深層水放流の影響が大きかった計測ポイントである
(3,15), (7,15), (12,15)に お け る 水 温 変 化 鉛 直 分 布 の 平 均 値 を と っ た も の を Fig.
5-16 に 示 す .な お ,図 中 に は ,同 様 の 条 件 で 塩 ビ L 字 パ イ プ を 用 い て 放 流 実 験
87
を行った結果も同時に示してある.
鉛 直 分 布 で 見 る と ,深 層 水 の 高 さ 方 向 へ の 影 響 が よ く わ か り ,底 層 か ら 15cm
程 度 ま で の 水 温 低 下 が 確 認 で き た .ト リ カ ル パ イ プ 放 流 と L 字 パ イ プ 放 流 を 比
較すると,トリカルパイプを用いた時は距離に応じて水温低下量に差が生じて
いるが,L 字パイプの時はその傾向は見られなかった.このことから,狭い範
囲で高い放流効果を得たければトリカルパイプが,広範囲に拡散させたければ
L 字パイプが適していることが確かめられた.
0.5
(3, 15)
0.4
(12, 15)
(3, 15) - Elbow pipe
0.3
(7, 15) - Elbow pipe
(12, 15) - Elbow pipe
0.2
0.1
Distance from bottom (m)
(7, 15)
0
-2
-1.5
-1
-0.5
0
Water temperature change (℃)
Fig. 5-16 Vertical profile data of water temperature change
b. 滞 留 構 造 物 に よ る 影 響
放流口形状を多孔式にした時,放流水は水底に溜まりやすいことが確認でき
たため,流れを堰き止める構造物を用いて,放流水の影響をより高めるための
滞 留 効 果 を 検 証 す る 実 験 を 行 っ た . 滞 留 構 造 物 に は , 10cm×40cm×20 cm の ブ
ロ ッ ク を Fig. 5-17 左 に 示 す よ う に 組 み 合 わ せ , 80cm×90cm×40cm の 滞 留 構 造
物 を 作 成 し , Fig. 5-17 右 に 示 す よ う に , (7,15)の 計 測 ポ イ ン ト を 囲 む よ う に 設
置し,構造物周辺の 4 ポイントを計測ポイントとして追加した.また,放流に
はトリカルパイプを用い,放流水量を 2 段階に変化させて実験を行った.実験
時 の 表 層 水 温 は 27-28℃ , 放 流 水 水 温 は 14-17℃ , 平 均 放 流 量 は 5.6 t h - 1 と 3.1 t
h-1 で あ っ た .
88
Fig. 5-17 Enclosed structure (left) and setting point (right)
各計測から得られた,設置した構造物周辺の水温変化平均値の鉛直分布を,
Fig. 5-18 に 示 す .
ブロック周辺ポイントにおける水温変化の鉛直分布は,構造物の入り口付近
(6,15)で は な く , 構 造 物 側 面 (7,14)が 最 も 大 き く な り , そ れ 以 外 の 場 所 に 大 き な
差異は見られない.流量を減少させた時もその傾向は同様であり,この現象の
原因は,構造物の設置位置が図面通りではなく,入口が深層水放流口方向を正
確 に 向 か ず ,左 下 に 傾 い た た め と 考 え ら れ る .こ の こ と を 検 証 す る た め ,(7,10),
(7,15)の 2 計 測 点 に お い て ,今 回 の 実 験 結 果 と ,滞 留 構 造 物 を 設 置 し な か っ た 時
の 水 温 変 化 鉛 直 分 布 と 比 較 し た も の を Fig. 5-19 に 示 す .放 流 口 の 正 面 位 置 で あ
る (7,15)を 見 る と ,水 温 変 化 の 大 き さ は ,構 造 物 な し > 構 造 物 あ り (流 量 多 )> 構
造 物 あ り (流 量 少 )と い う 順 で あ る が , (7,10)で は , 構 造 物 あ り (流 量 多 )> 構 造 物
あ り (流 量 少 )> 構 造 物 な し の 順 に な っ て い る こ と が わ か る . こ の こ と か ら , 構
造物を設置することによって,滞留効果を得ることが可能であることが確認で
きた.
89
0.5
0.5
(6, 15)
0.4
(7, 15)
(7, 16)
0.3
(8, 15)
0.2
0.1
(7, 14)
Distance from bottom (m)
(7, 14)
0.4
(7, 15)
(7, 16)
0.3
(8, 15)
0.2
0.1
0
0
-2
-1.5
-1
-0.5
Distance from bottom (m)
(6, 15)
-2
0
-1.5
-1
-0.5
0
Water temperature change (℃)
Water temperature change (℃)
Fig. 5-18 Vertical profile data of water temperature change at around the enclosed
structure
0.4
0.3
0.2
0.1
Distance from bottom (m)
0.5
(7, 10) with, 3.1t/h
(7, 15) with, 3.1t/h
(7, 10) with, 5.6t/h
(7, 15) with, 5.6t/h
(7, 10) without, 6.0t/h
(7, 15) without, 6.0t/h
0
-2
-1.5
-1
-0.5
0
Water temperature change (℃)
Fig. 5-19 Vertical profile data of water temperature change at the inside and left side
of the enclosed structure
90
5.4.2
海洋深層水放流モデル
本研究で構築した海洋深層水放流挙動モデルは,高岡漁港内で行った深層水
放流実験の流場を数値計算によって再現し,実験では行うことができなかった
発展的条件の放流を行った場合の放流水挙動の予測を行うモデルである.計算
結果の検証は,放流実験の結果と比較することによって行う.
計 算 対 象 と し て , 幅 B ×長 さ L ×深 さ D の 密 度  の 流 体 で 満 た さ れ た 湾 内 に ,
高 さ H の 放 流 口 か ら 密 度   0 の 流 体 を 流 速 U 0 で 放 流 す る 場 合 を 考 え る こ と と
し た . Fig. 5-20 に 対 象 問 題 の イ メ ー ジ を 示 す . 簡 単 の た め , 放 流 す る 深 層 水 と
表層水の水温,塩分の変化は,密度変化のみで表現した.
B
H
U0
D
Fig. 5-20 Image of deep ocean water discharge model
a. 計 算 方 法 と 条 件
放流された深層水の挙動予測計算には,不均一流体のナビエ・ストークス方
程式,連続の条件,および密度の相対的変化量に関する輸送方程式を,有限体
積 法 を 用 い て 解 く 方 法 [5-10]を 用 い る . こ れ ら の 支 配 方 程 式 を , 代 表 長 さ , 代
表 速 さ と し て ,そ れ ぞ れ 排 出 口 の 高 さ H (m),浅 水 波 の 伝 播 速 度 U  g H (m s - 1 )
を 用 い て 無 次 元 化 す る と , 支 配 パ ラ メ タ と し て , フ ル ー ド 数 Fn , レ イ ノ ル ズ 数
Rn , 密 度 の 拡 散 パ ラ メ タ RS は そ れ ぞ れ , 以 下 の 式 の よ う に 表 さ れ る .
Fn 
U
UH
UH
, Rn 
, RS 



gH
(5-7)
こ こ で ,  (m 2 s - 1 ),  (m 2 s - 1 )は そ れ ぞ れ , 動 粘 性 係 数 及 び 拡 散 係 数 で あ る .
境 界 に つ い て は ,流 入 条 件 と し て 流 入 口 で 一 様 流 速 が U 0 ,圧 力 の 勾 配 が 0 と
なる条件を与え,流出条件には流出境界で圧力,速度の勾配が共に 0 となる条
91
件を与えた.また,その他の境界は壁面境界とした.
計算条件は,高岡漁港泊地内で行った実験をもとに設定した.放流水はその
密度が大きいために海底面を這うように進行することを想定し,計算領域を
24m×32m×4m の 実 験 海 域 の 海 底 面 か ら 0.4m の 領 域 を 切 り 出 し た 部 分 と し ,計
算 格 子 は , 60×80×10 セ ル に 分 割 を 行 っ た . ま た , 深 層 水 の 放 流 に つ い て は ,
放 流 水 滞 留 に よ り 効 果 的 で あ る ト リ カ ル パ イ プ を 用 い る こ と を 想 定 し , 0.04m
×4m の 放 流 口 と 設 定 し た . Fig. 5-21 に 計 算 領 域 の 概 念 図 を 示 す .
実験海域は,漁港内の最も奥に位置するので,外海からのかく乱が小さいと
考えられる.さらに,計算対象領域の鉛直方向と水平方向のスケールが同程度
であることを考慮に入れて,鉛直方向と水平方向いずれも,拡散幅を数センチ
程 度 と 考 え , 拡 散 係 数 RS =320 と し た .
Fig. 5-21 Setting area and cell splitting of model calculation
b. 数 値 実 験
深 層 水 放 流 時 の 拡 散 挙 動 予 測 は , Table 5-4 に 示 す 7 種 類 の 条 件 設 定 で 行 っ た .
Table 5-4 Calculation conditions of discharge model
Cat egori es of c ond iti on
Un it s
Va lu e
Nu mb er of es ti ma ti on p att ern
No.
1
2
3
4
5
6
7
Dens it y d iffer enc e rat e b et wee n su rfa c e an d d i sch a rged wa t er
Si d ewa ll s i ze of th e enc los ed st ru ct u re
Si ze of th e enc los ed st ru ctu re
Th e en c los ed s t ruc tu re s ett in g p oi nt
Di s cha rged wat er qua nti t y
%
m
m
m
t h-1
0.07
6.0
0.21
6.0
0.40
6.0
0.21
12.0
0.21
1.2
1.6
7.2
6.0
0.21
1.2
1.6
7.2
12.0
0.21
1.2
5.2
4.8
6.0
92
計 算 結 果 の 検 証 デ ー タ と し て , Fig. 5-15 に 示 し た ト リ カ ル パ イ プ に よ る 深 層
水放流実験の,海底部分の放流水の平均混合割合を求めたものと,同条件を想
定 し た (No.2)放 流 予 測 計 算 の 結 果 を 用 い , 実 験 の 計 測 ポ イ ン ト と 同 座 標 の 計 算
結 果 に お い て ,放 流 水 の 最 下 層 セ ル の 混 合 割 合 を 比 較 し た .検 証 結 果 を Fig. 5-22
に示す.なお,実験において,岸壁付近の正確な計測が困難であったことを考
慮に入れ,岸壁付近の測定ポイントは除いて比較した.これらの結果を比較す
ると,放流口付近の各計測点において,モデルによる計算値の方が若干大きく
なる傾向がみられるが,実験と計算の結果は概ね一致していることが確認でき
た.
3m
N
4m
5m
25
5m
20
15
Discharge
nozzle
10
Deep ocean water mixing rate
0.25
Model estimation
0.20
In-situ experiment
0.15
0.10
0.05
5
Measurement
point
0.00
Discharge
direction
0
0
3
7
(3,5) (3,10) (3,15) (3,20) (7,20) (7,15) (7,10) (7,5) (12,5) (12,10) (12,15) (12,20)
12
Coodinate of measurement Point
Fig. 5-22 Estimate accuracy of deep ocean water discharge model
それぞれの計算条件に対し,海洋深層水の放流影響が顕著に現れる最下層セ
ル の 放 流 水 の 混 合 割 合 に つ い て 等 高 線 図 を 作 成 し た も の を Fig. 5-23 に 示 す .な
お ,横 方 向 の 表 示 範 囲 は ,実 際 に 計 算 し た 範 囲 (32m)で は な く ,実 験 計 測 を 行 っ
た 範 囲 に 合 わ せ て 12m と し た .
等高線図を見ると,いずれの放流条件においても,放流口付近は放流水の混
合割合が大きいが,放流口から離れるにつれて拡散し,割合が小さくなってい
ることがわかる.また,密度差を変更して計算を行った場合は,混合割合の拡
が り 方 が 異 な っ て お り ,密 度 差 が 小 さ い 方 が ,拡 散 範 囲 が 大 き い こ と が わ か る .
今回の推定結果では,放流量が少ない設定条件における深層水影響の到達距離
は , 放 流 口 か ら 7m 程 度 で あ っ た た め , ブ ロ ッ ク に よ る 滞 留 効 果 は そ れ ほ ど 顕
93
著ではないものの,流量を増やした条件においては,ブロック手前で放流水の
混合割合がブロック無しよりも大きくなり,逆にブロック裏側は混合割合が低
くなっていることから,モデル計算において,ブロックの滞留効果を表現でき
ていることが確認できた.また,滞留ブロックを大きくし,放流口に近づけた
場合,放流口と滞留構造物の間の部分の放流水混合割合が大きくなる滞留効果
が 現 れ ,滞 留 構 造 物 に 堰 き 止 め ら れ て 行 き 場 を 失 っ た 放 流 水 が ,両 側 に 拡 が り ,
放流口近くで滞留しており,その範囲においては,流量が多い場合と同程度の
混合割合となった.
No. 1
No. 2
No. 3
No. 4
24m
No. 5
No. 6
No. 7
12m
Mixing rate
0
Fig. 5-23 Discharged deep ocean water mixing rate pattern
94
0.4
5.5
藻場修復の数値実験
5.5.1 計 算 条 件
a. 海 域 水 質 と 計 算 範 囲
室 戸 藻 場 モ デ ル を 用 い た ,海 洋 深 層 水 の 藻 場 修 復 効 果 の 予 測 計 算 を 行 う た め ,
表層水,深層水,それぞれの水質条件は,高知県海洋深層水研究所で取水した
海 水 か ら 取 得 し た デ ー タ を 参 考 に , Table 5-5 の よ う に 与 え た . ま た , 室 戸 藻 場
モ デ ル の 計 算 領 域 は , 深 層 水 放 流 モ デ ル に 準 じ , 12m×24m の 領 域 を 30×60 セ
ルに分割することで,混合比計算を適用できるようにした.
Table 5-5 Values of environmental condition in Muroto model
Defin iti on
Notat i on
Wat er Tem p eratu re
T
Va lu e
Un it s
T S =2 2.1 +6. 1s in ((2 π/ 365 )(d a y- 132 ))
13
2.04
86.0
0.19
1.92
Di s s olved In organ ic Nit rogen
D IN
μm ol L
Di s s olved In organ ic Ph osph or us
D IP
μm ol L - 1
Li gh t In t ens it y
I
Depth
D
μm ol m
Deep Oc ea n Wa t er
-1
℃
-2
Su rfac e Wat er
s
I= (2/ π )(625 +25 6s in (( 2 π/3 65 )(da y-80 )))
-1
m
5
b. 深 層 水 混 合 比
海 洋 深 層 水 放 流 時 の セ ル 毎 の 混 合 割 合 と し て ,Table 5-6 に 示 す 6 つ の 条 件 に
おいて,前項で示した放流挙動モデルによる計算結果を用いた.ただし,深層
水 の 放 流 を 行 わ な い こ と を 仮 定 し た 条 件 6 に は , 0~ 0.001 ま で の 深 層 水 混 合 比
を各セルにランダムで与え,セル毎に若干の差を与えた.
Table 5-6 Conditions of deep ocean water discharge
Ca lcu lati on c on dit i on
Nu mb er of es ti ma ti on p att ern
Un it s
Va lu e
No.
1
2
3
4
5
6
Si d ewa ll s i ze of th e enc los ed st ru ct u re
m
-
-
1.2
1.2
1.2
-
Si ze of th e enc los ed st ru ctu re
m
-
-
1.6
1.6
5.2
-
Th e en c los ed s t ruc tu re s et t in g p oi nt
Di s cha rged wat er qua nti t y
m
-
-
7.2
7.2
4.8
-
t h-1
6.0
12.0
6.0
12.0
6.0
0
なお,表層水温の変化によって,放流水と表層水の密度差に変化が生じ,深
層 水 混 合 割 合 に は 季 節 差 が 生 じ る と 考 え ら れ る . そ こ で , Table 5-4 に 示 し た
95
No.1, 2, 3 の 密 度 差 を 与 え た 計 算 デ ー タ を 用 い て , 密 度 比 0.21(%)を 基 準 と し
た 時 の 混 合 比 変 化 量 分 布 を Fig. 5-24 の よ う に 算 出 し ,こ の 分 布 を 用 い て ,混 合
比 の 経 年 変 化 を 算 出 し た .推 定 結 果 を Fig. 5-25 に 示 す .推 定 結 果 は 季 節 変 更 を
良好に示しており,他の条件に対しても,同様の分布を用いた計算を行うこと
によって,季節による密度変化影響を表現することとした
Increase rate of mixing rate
2.5
2.0
0.4%
0.07%
0.3
0.4
1.5
1.0
0.5
0.0
0
0.1
0.2
0.5
Mixing rate in basic density difference condition
(0.21%)
Fig. 5-24 distribution of mixing rate increase
day=1
day=41
day=101
day=161
day=221
day=281
day=341
Estimation
by distribution
Estimation
by model
Mixing rate
0
day=40
day=166
day=254
Fig. 5-25 Estimated seasonal variation of mixing rate
96
0.4
5.5.2
海洋深層水の藻場修復効果
計算開始日を1月1日,計算ステップを 1 日として,漁港内のように閉鎖的
であり,波浪によるかく乱影響がほぼ無い条件を想定し,クロメとマクサの現
存 量 変 動 の 予 測 計 算 を 行 っ た . 生 物 の 初 期 現 存 量 は Table 5-7 の よ う に 設 定 し ,
全 セ ル に 与 え た .Table 5-6 で 示 し た 各 条 件 に お い て ,計 算 開 始 か ら 3 年 経 過 し
た 時 の 各 海 藻 の 現 存 量 分 布 を 示 し た 等 高 線 図 を Fig. 5-26 に 示 す .
Table 5-7 Values of boundary condition in Muroto model
Defin iti on
Ec klon ia kuro me
Ge lid iu m el ega ns
S ea Urch in
Notat i on
SW1
SW2
U
Un it s
Va lu e
g-wet m
-2
300
g-wet m
-2
300
g-wet m - 2
80
深層水放流口付近は,どの条件においてもクロメ現存量は増加しているが,
放流口から離れるにつれて現存量が小さくなっていることがわかる.また,滞
留構造物の内部の現存量は,周囲と比較して若干大きくなっている.これらの
ことから,室戸海域の条件では,クロメは深層水の影響量に依存して,増加割
合が決定されることが示された.ここで,深層水の放流がない場合,3 年経過
した後のクロメが完全に消失する結果となったことは,対象海域である室戸に
おいて,クロメの近縁種であるカジメが消失した事実と一致している.
マクサに関しては,深層水放流時はほとんどの領域で増加し,深層水放流な
しの条件においてのみ,減少する場所が見られた.対象海域の現在の海藻生育
状況として,マクサがパッチ状に優占していることが確認されているため,こ
の結果からも実海域の傾向を表現できているといえる.
97
No.1
No.2
No.3
No.4
No.5
0
500
0
500
No.6
Biomass of Ecklonia kurome (g-wet m-2)
Biomass of Gelidium elegans (g-wet m-2)
Fig. 5-26 Numerical results of seaweed biomass on model estimation after 3 years
藻食生物の摂餌を考慮せずに計算を行った時の,3 年経過後のクロメ,マク
サ そ れ ぞ れ の 現 存 量 を Fig. 5-27 に 示 す .藻 食 生 物 に よ る 摂 餌 が あ る 時 と 比 較 す
ると,クロメの生息できる範囲が圧倒的に増加しており,摂餌圧による減少影
響は非常に大きいものであることがわかった.また,深層水の放流が無い場合
においても,摂餌が無ければクロメも生育することはできるが,増加していく
ことは難しいことが確認できた.これは,夏場の高温によってクロメ藻体が衰
退し,低栄養な室戸海域では,回復することが困難であるためであり,第 2 章
で 示 し た ク ロ メ 生 育 実 験 の 結 果 と 同 様 の 傾 向 を 示 し て い る .マ ク サ に 関 し て は ,
摂餌がある時よりも若干現存量が減少しているように見える.これは,クロメ
の勢力が強くなったために,光競合に負けたからである.これらの結果から,
マクサとクロメを同時に繁茂させるには,滞留構造物を用いて,局所的にクロ
メ生育に適した場所を作成し,それ以外の場所でマクサを生育させることが有
効であると考えられる.
98
No.1
No.2
No.3
No.4
No.5
0
500
0
500
No.6
Biomass of Ecklonia kurome (g-wet m-2)
Biomass of Gelidium elegans (g-wet m-2)
Fig. 5-27 Numerical results of seaweed biomass on model estimation after 3 years
without grazing of herbivore
以上の結果より,海洋深層水を放流することによってクロメ藻場を回復させ
る た め に は , 取 水 量 が 2000t day - 1 (83t hour - 1 )で あ る 高 知 県 海 洋 深 層 水 研 究 所 程
度の取水施設を利用するならば,外乱影響を受けにくい閉鎖的な海域において
滞留構造物を上手く利用する,あるいは,藻食動物が摂餌を行えないような区
画を造成するといった工夫が必要であることが示された.
99
5.6
結言
本章では,磯焼けの発生が報告されている高知県室戸海域において,その原
因を分析し,対策方法として海洋深層水の放流を提案するとともに,藻場モデ
ルを用いて藻場の修復効果を予測した結果,以下のような結論を得た.
(1) 室 戸 海 域 に お け る 磯 焼 け 原 因 は , 黒 潮 接 岸 に よ る 水 温 上 昇 と 栄 養 塩 濃 度 低
下によって,海藻生長量の抑制と藻食生物の行動活性化が生じるためであ
ることを指摘し,その解決方法として,黒潮と逆の低温・富栄養という性
質を持つ海洋深層水を用いて藻場修復を行うことを提案した.
(2) 室 戸 海 域 に お け る 調 査 に よ っ て , 室 戸 の 藻 場 生 態 系 を 表 現 す る 上 で 重 要 な
優占種を決定し,それぞれの種に対して生物パラメタを取得するための生
物実験や文献調査を行うことで,室戸藻場生態系モデルを構築した.
(3) 実 海 域 へ の 海 洋 深 層 水 放 流 時 の 挙 動 を 把 握 す る た め に , 漁 港 内 の 遊 休 水 域
を用いて,深層水放流実験を行うことによって,放流口形状を多孔式にす
ることで底層部分の混合が抑えられること,構造物を設置することで局所
的に滞留効果が得られることを示した.
(4) 放 流 実 験 を 行 っ た 遊 休 水 域 内 と 同 ス ケ ー ル の 深 層 水 放 流 挙 動 モ デ ル を 構 築
し ,実 験 結 果 と の 比 較 を 行 う こ と で モ デ ル 予 測 精 度 を 検 証 し た .ま た ,様 々
な放流条件において放流による深層水拡散計算を行い,季節による拡散の
変化と,構造物設置時の滞留効果が再現できることを示した.
(5) 深 層 水 放 流 モ デ ル の 計 算 結 果 を 用 い て , 室 戸 藻 場 生 態 系 モ デ ル に よ る 海 藻
現存量変動予測を行った結果,深層水の放流を行わない場合,クロメは完
全に消失し,マクサは場所によっては生育するのに対して,深層水を放流
した場合は,放流口付近ではクロメが生育可能であり,構造物を設置した
内部はその効果が顕著となることがわかった.また,藻食生物による摂餌
を抑えることができれば,深層水の影響がわずかでもあれば,クロメは生
育可能であることがわかった.
100
以上より,深層水放流挙動モデルと室戸藻場生態系モデルを併用することに
よって,深層水放流時の海域への影響と,その影響による海藻の現存量変動を
推定することが可能であることが示された.これは,本研究で提案する藻場モ
デリング手法の有用性を示しているものと考える.
101
第6章
結論
本 研 究 で は ,地 球 環 境 の 保 全 と 食 糧・エ ネ ル ギ ー な ど の 諸 問 題 解 決 の た め に ,
沿岸域における海洋の生産基盤である藻場の海藻資源量を管理することが重要
であるとの立場から,藻場の海藻増減に起因する要素を表現する藻場モデルを
用いた環境シミュレーションの有用性を示し,実用化に向けた課題を整理する
とともに,その課題を解決するための新たな手法を組み込んだ藻場モデルの開
発を試みた.
従来,海藻の生産力を表現したモデルは,単種の海藻群落を表現したものが
一般的であり,これによって表現できる海域は限定的であった.ここでは,ま
ず,海藻モデルの生物パラメタ取得に適した効率的な実験手法を開発し,複数
種の海藻が存在する時の影響を考慮したモデル構造を作成することで,簡潔な
モデリング手法を確立し,従来のモデルでは困難であった,多種の海藻現存量
を同時に計算できる藻場モデルを構築した.また,構築したモデルを用いて,
複数種の海藻が存在する海域における藻場変動の推定,磯焼け海域における海
洋深層水放流効果の推定を行い,実海域での調査結果と比較することにより,
その有用性を示した.
本研究で得られた結論を,以下に要約する.
第 1 章では,自然環境問題に関する現状と,我々が取り組むべき姿勢につい
て述べるとともに,海洋が環境に与える影響とその重要性について指摘し,海
洋環境において生産基盤である藻場が持つ特性に着目した上で,藻場管理の重
要性と,藻場モデリングの必要性を示し,本研究の背景,動機,目的について
述べた.
第 2 章では,藻場生態系を表現する数理モデルを構築する上で,非常に重要
な要素である海藻の生長パラメタを取得するにあたって,既存の海藻モデルに
使用された実験手法について整理を行い,時間応答性や実験データ数,海藻切
片を用いて実験を行うことに課題が存在することを指摘した上で,海藻の生長
量と密接な関係がある光合成量に着目し,環境要因に対する生長応答を表現す
る 生 物 パ ラ メ タ の 取 得 の た め の , 光 学 式 DO メ ー タ ー を 用 い た 海 藻 光 合 成 実 験
手法の提案を行った.また,提案した実験手法を用いて,短期的な光合成応答
を調べる実験と,長期的な応答の変化傾向を調べる実験を行い,本実験手法に
102
より,水温,光量に代表される環境因子に対する光合成応答の傾向について,
効率よく測定することが可能であること示した.
第 3 章では,藻場変動シミュレーションを行うにあたって,モデルの構築に
非常に時間がかかることが問題点であることを指摘し,藻場生態系を表現する
実用的なモデルを構築するために,藻場における海藻を中心とする生物間の関
わりを整理するとともに,海藻現存量に変化を与える要素について考察を行う
ことで,複数種の海藻と海藻食性の生物を,藻場生態系モデルの基礎要素とし
て 取 り 扱 う こ と を 提 案 し た .こ の モ デ ル で は ,海 藻 自 身 の 生 長 ,枯 死 ,発 生 と ,
藻食性付着生物と魚類による摂餌を,海藻の増減要因として考えることになる
ため,第 2 章で示した海藻光合成実験によって取得したデータや,その他の生
物実験,文献調査によって得られた生物パラメタを用いて,水温,光量,栄養
塩濃度によって変化する生長速度,枯死速度の他,光と場所条件の競合や,遊
走子放出と配偶体成熟過程からなる発生を考慮した海藻モデル,および,摂餌
速度の水温,季節に対する依存性と,海藻種による摂餌選択性や,水温変動に
よる忌避行動などを表現した藻食生物の摂餌モデルを構築した.
第 4 章では,実海域の藻場における,海藻現存量の長期変動とその原因の把
握を目的として,定期的なモニタリングが可能な人工閉鎖性干潟である,大阪
府 泉 佐 野 市 り ん く う 公 園 内 の 内 海 (う ち う み )を 対 象 と し て , 現 地 調 査 と 藻 場 モ
デルによるシミュレーションを行った.調査に関しては,内海内の水質計測と
繁 茂 す る 海 藻 の 種 類 と 現 存 量 の 調 査 を , 2009 年 か ら 2010 年 に わ た り 年 4 回 行
うことによって,存在する海藻の季節変動や優占状態について考察し,一年を
通して見られる海藻種と,ある季節に顕著に出現する海藻種のそれぞれの特性
について指摘した.また,調査によって優占種と確認された 4 種の海藻に対し
て,光合成実験による生物パラメタの取得を行い,りんくう公園内海を対象と
した多種海藻競合モデルを構築し,モデル予測精度の検証,ならびに,藻場の
変動過程およびその原因について考察を行った.
第 5 章では,藻場の衰退問題の解決,緩和を目指すために,藻場モデルが有
効であることを示すため,磯焼け現象が問題視されている海域として,高知県
室戸岬周辺の海域を対象とし,磯焼けの発生原因が,黒潮接岸による海域の高
水温・貧栄養化によるものと指摘するとともに,その解決方法として,黒潮と
は逆の低水温・富栄養性という性質を持つ海洋深層水を放流することを提案し
た.また,海洋深層水が持つ藻場修復効果を推定するために,室戸海域の藻場
103
生態系を表現したモデルを構築し,漁港内の遊休水域を用いた海洋深層水放流
実験を行うことによって,深層水を効率よく滞留させるためには,放流口形状
を多孔式にし,海底に滞留構造物を設置すればよいことを実証した.さらに,
深層水放流時の挙動を予測する数理モデルを構築し,藻場生態系モデルと併用
することで,様々な放流条件における海藻群落の現存量変動計算を行い,海洋
深層水による室戸海域の藻場修復の可能性を示した.
最 後 の 第 6 章 で は ,本 論 文 の 全 体 的 な 総 括 を 行 い ,得 ら れ た 結 論 を 要 約 し た .
本研究は,藻場に関する環境問題に対し,数値シミュレーションを活用する
ことを前提として,そこに含まれている問題点を明らかにするとともに,それ
らを解決する様々な手法を提案し,その有効性を確かめたものである.ここで
提案した手法は,モデル構築可能海域の拡大や,対象海域毎の目的に適した施
策の評価などに発展させることができる可能性を持っており,藻場の海藻量変
動のシミュレーション手法の実用化に関する検討が行えたと考える.
104
105
謝辞
本研究において,細部にわたるご指導を賜った大阪府立大学大学院工学研究
科海洋システム工学分野
大塚耕司教授に心より感謝の意を表します.また,
本研究をまとめるにあたって,有益なるご討論,ご助言をいただきました,大
阪府立大学大学院工学研究科海洋システム工学分野
教 授 ,21 世 紀 科 学 研 究 機 構 エ コ ロ ジ ー 研 究 所
馬場信弘教授,山崎哲生
石井孝定教授に深く感謝いたし
ます.
本研究を進めるにあたって,的確なご指導,ご助言をいただきました大阪府
立大学大学院工学研究科海洋システム工学分野
中谷直樹准教授,新井励助教
に 厚 く 御 礼 申 し 上 げ ま す .ま た ,本 研 究 を 進 め る に あ た っ て ,多 大 な ご 支 援 と ,
ご協力をいただきました高知大学海洋生物教育研究センター
平岡雅規准教授
に深く感謝いたします.
本研究を遂行するにあたり,りんくう公園の調査において数々のご支援と,
ご助言をいただきました財団法人大阪府公園協会りんくう公園管理事務所
小
田清彦所長に深く感謝いたします.また,室戸海域の調査や生物実験,サンプ
ル提供について,快く協力していただきました高知県海洋深層水研究所元研究
員
阿部祐子氏,渡辺貢氏,黒原健朗氏,現研究員
林芳弘氏に深く感謝いた
します.また,海洋深層水の放流挙動計算において,多大なご尽力とご助言を
いただいた奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科博士後期課程
桂樹哲
雄 氏 (当 時 大 阪 府 立 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 海 洋 シ ス テ ム 工 学 分 野 博 士 後 期 課
程 )に 深 く 感 謝 い た し ま す .
本研究の解析,実地調査,生物実験を行うにあたって,長期に渡り多大な協
力をいただいた,海洋システム工学分野大塚研究室,中谷研究室,山崎研究室
の学生及び卒業生の方々に,心から御礼申し上げます.
本 研 究 の 一 部 は , 科 学 研 究 費 補 助 金 基 盤 研 究 (B)(課 題 番 号 : 18360423), な ら び
に 造 船 学 術 研 究 推 進 機 構 (REDAS)の 助 成 を 受 け た も の で あ る こ と を こ こ に 示 し
ます.
106
107
参考文献
第1章
[1-25] 地球温暖化対策推進本部事務局:京都議定書目標達成計画の全容:チーム・マイナス 6%,
小学館クリエイティブ,2005
[1-26] 外務省:オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書,2002
[1-27] 国連事務局監修(環境庁・外務省監訳)
:アジェンダ 21 –持続可能な発展のための人類の行動
計画,海外環境協力センター,1993
[1-28] 新井章吾:藻場,21 世紀初頭の藻学の現況,日本藻類学会,p.85-88,2002
[1-29] 能登谷正浩:海藻類による環境修復,21 世紀初頭の藻学の現況,日本藻類学会,p.92-94,2002
[1-30] 新井章吾,細谷誠一,藤井実:藻場の自然史 –ガラモ場と海中林の世界を知る,アニマ 239,
pp.48-53,1992
[1-31] H. Maeda, M. Hosokawa, T. Sashima, K. Funayama and K. Miyashita : Fucoxanthin from edible
seaweed, Undaria pinnatifida, shows antiobesity effect through UCP1 expression in white adipose tissues,
Biochemical and biophysical research communications, 332, pp392-397, 2005
[1-32] Yamakita, M. and Otsuka, K.:A Study on Methane Fermentation of Marine Biomass, Proc. 3rd East
Asian Workshop for Marine Environment, pp.131-138, 2007
[1-33] 藤田大介:磯焼け,21 世紀初頭の藻学の現況,日本藻類学会,p.102-105,2002
[1-34] 矢持進,柳川竜一,平井研:都市近郊干潟域におけるアオサの大量発生が底質環境に及ぼす
影響,日本船舶海洋工学会講演会論文集,2K,pp.99-100,2006
[1-35] 吾妻行雄,松山恵二,中多章文,川井唯史:北海道日本海沿岸のサンゴモ平原におけるウニ
除去後の海藻群落の推移,日本水産学会誌,63(5),pp.672-680,1997
[1-36] 谷口和也,山根英人,佐々木國隆,吾妻行雄,荒川久幸:磯焼け域におけるポーラスコンク
リート製海藻礁によるアラメ海中林の造成,日本水産学会誌,67(5),pp.858-865,2001
[1- 37] 佐藤仁,渡辺光弘,山本潤,黄金崎清人,清水恵理子,鳴海日出人:自然環境調和型沿岸構
造物における藻場造成効果の持続性の検討,海洋開発論文集,VOL.26,pp.735-740,2010
[1-38] Riley, G. A., H. Stommel, and D. F. Bumpus:Quantitative ecology of the plankton of the western North
Atlantic, Bull., Bingham Oceanogr., 12, pp.1-169, 1949
[1-39] 岸道郎:海洋生態系の数値モデル研究,日本海洋学会,海の研究 17(1),pp.7-18,2008
108
[1-40] 大塚耕司,上月康則,重松孝昌:沿岸生態系モデルの類型化および特徴抽出,海と空,第 77
巻 第 2 号,pp.47-52,2001
[1-41] Kremaer, J.N. and Nixson, S.W.:A coastal marine ecosystem, simulation and analysis, Ecological
Studies 24, Springer- Verlag, New York , 1978
[1-42] 中田喜三郎,堀口文男,田口浩一,瀬戸口泰史:沿岸海域の 3 次元生態 –流体力学モデル,
公害資源研究所報告,26 (4),pp.57-123,1983
[1-43] Kishi, M.J., Nakata, K. and Ishikawa, K.:Sensitivity analysis of a coastal marine ecosystem, J. Oceanogr.
Soc. Japan, 37, pp.120-134, 1981
[1-44] Baretta, J.W. and Ruardij, P.:Tidal flat estuaries, simulation and analysis of the Ems Estuary, SpringerVerlag, New York , 1988
[1-45] Balchen, J.G.:Modeling, Prediction, and Control of Fish Behavior, Control and Dynamic Systems,
Academic Press, pp.99-146, 1979
[1-46] Reed, M. and Balchen, J.G.:A Multidimensional Continuum Model of Fish Population Dynamics and
Behavior, Model, Identification and Control, 3, pp.65-109, 1982
[1-47] Reed, M.:A Multidimensional Continuum Model of Fish Behavior, Ecol. Model., 20, pp.311-322, 1983
[1-48] Spaulding, M.L., Salia, S.B., Lorda, E., Walker, H., Anderson, E. and Swanson, J.C.:Oil-Spill Fishery
Impact Assessment Model, Application to Selected Georges Bank Fish Species, Estuar. Coast. Shelf Sci., 16,
pp.511-541, 1983
第2章
[2-15] 桑原伸司,佐々木秀郎,北原繁志,松山恵二,清野克徳,谷野賢二:藻場生産力予測シミュ
レーションモデルの開発,海岸工学論文集,第 45 巻,pp.1101-1105,1998
[2-16] 桑原伸司,松山恵二,竹田義則,北原繁志,清野克徳,金川均,谷野賢二:藻場生産力予測
シミュレーションモデルの開発(第 2 報)
,海岸工学論文集,第 46 巻,pp.1156-1160,1999
[2-17] 本多正樹:カジメ群落の生産力・現存量動態に関する数理生態学的研究,九州大学学位論文,
2001
[2-18] 小林正美:光合成とエネルギー変換,化学と教育,46 (6),pp.338-341,1998
[2-19] ODUM E. P.:Fundamentals of Ecology, 3rd edn, W. B. Saunders Co., Philadelphia, 1971
[2-20] W. M. Darley:Algal Biology: a physiological approach, Blackwell Scientific Publications, 1982
[2-21] 敦賀花人,新田忠雄:海藻の生理学的研究,内海区水産研究所業績,第 59 号,pp.37-41,1957
109
[2-22] 有賀祐勝,井上勲,田中次郎,横濱康繼,吉田忠生:藻類学 実験・演習,講談社サイエンテ
ィフィク,pp. 108-117,2000
[2-23] 鈴木祥弘:海洋と湖沼における光合成・環境要因の測定法,低温科学,Vol.67,pp.143-148,
2009
[2-24] 植松喜稔:隔膜電極法による水中溶存酸素の測定,工業用水,176,pp.51-53,1973
[2-25] 寺沢啓:新世代の蛍光式溶存酸素測定技術 –蛍光式溶存酸素計,産業と環境,39(8),pp.41-43,
2010
[2-26] Ehleringer, J. A., and Björkman, O.:Quantum yields for CO2 uptake in C3 and C4 plants. Plant Physiol.
59, pp.86–90, 1977
[2-27] Lloyd J. and Taylor J.A.:On the temperature dependence of soil respiration. Functional Ecology 8,
pp.315-323, 1994
[2-28] Rei Arai, Kazuhiro Akita, Taichi Nishiyama, Naoki Nakatani, Koji Otsuka and Takeichi Nishiyama:
Measuring Instrument for Dissolved Inorganic Nitrogen and Phosphate Ions, International Journal of Offshore
and Polar Engineering, Vol.21 (1), pp.44-49, 2011
第3章
[3-32] 喜田和四郎,前川行幸:アラメ・カジメ群落に関する生態学的研究-Ⅱ 熊野灘沿岸各地域に
おける群落の分布と構造,三重大水産研報,第 10 号,pp.57-69,1983
[3-33] 富永春江,芹沢如比古,大野正夫:土佐湾,手結地先の異なる水深に生育するカジメの形態,
密度および現存量について,高知大学海洋生物教育研究センター,No.19,pp.63-70,1999
[3-34] 本多正樹:カジメ場造成への数値シミュレーション応用,水産工学,42(2),pp.179-183,2005
[3-35] 本多正樹:カジメ群落の生産力モデル - 光と温度の関数として - ,藻類学会,
vol.44,pp149-158,1996
[3-36] Chapman ARO, Craigie JS.:Seasonal growth in Laminaria longicris relations with dissolved inorganic
nutrients and interval reserves of nitrogen, Mar. Biology, 40, pp.197-205, 1977
[3-37] 芹澤如比古,高木裕行,倉島彰,横浜康継:伊豆半島南部,下田市鍋田湾における海水の硝
酸態窒素濃度と褐藻カジメの光合成活性の季節変化,日本水産学会誌,67(6),pp.1065-1071,2001
[3-38] Otsuka, K., Takakura, K., Moriyama, T. and Abe, Y.:Modeling the Seaweed Bed Ecosystem in a Deep
Ocean Water Discharged Area, Proc. of 15th Int. Offshore and Polar Eng. Conf., Vol. 1, pp. 697-704, 2005
110
[3-39] Yusho Aruga, Akira Kurashima, and Yasutsugu Yokohama: FORMATION OF ZOOSPORANGIAL
SORI AND PHOTOSYNTHETIC ACTIVITY IN ECKLONIA CAVA KJELLMAN (LAMINARIALES,
PHAEOPHYTA), Journal of Tokyo University of Fisheries, vol.83, No.1・2, pp.103-128, January 1997
[3-40] 須藤俊造:昆布科植物の遊走子の放出,運動並びに着生(海藻胞子付けの研究 第一報)
,日
本水産学会誌,vol.13, No.4,1948
[3-41] 須藤俊造:ワカメ・カジメ及びアラメの遊走子の放出について-Ⅱ. (海藻胞子付けの研究 第
13 報)
,日本水産学会誌,vol.18 No.1,1952
[3-42] 荒川久幸,森永勤:褐藻類カジメ・ワカメ遊走子の着生率と基質傾斜の関係,日本水産学会
誌,Vol.60(4), pp.461-466, 1994
[3-43] 荒川久幸,松生洽:褐藻類カジメ・ワカメの遊走子の沈降速度および基質着生に及ぼす海中
懸濁粒子の影響,日本水産学会誌,Vol.56(11), pp.1741-1748,1990
[3-44] Hiroyuki Mizuta, Hideto Narumi, and Hirotoshi Yamamoto : Effects of Nitrate and Phosphate on the
Growth and Maturation of Gametophytes of Laminaria religiosa Miyabe (Phaeophyceae),
SUISANZOSHOKU, vol.49(2), pp.175-180, 2001
[3-45] 成原淳一:クロメ配偶体の生長・成熟に及ぼす温度ならびに照度の影響,水産増殖,vol.35(1),
pp.1-6,1987
[3-46] 成原淳一:クロメ配偶体の生長・成熟に及ぼす温度ならびに照度の影響-Ⅱ,温度と照度の影
響の相互関係,水産増殖,vol.36(2),pp.71-78,1988
[3-47] 松井敏夫,大貝政治,大島芳明,古原和明:コンブ目植物数種の配偶体の成長・成熟および
胞子体(幼葉)の成長に及ぼす光質・光量の影響,日本水産学会誌,vol.58(7),pp.1257-1265,1992
[3-48] Stephen I.C.Hsiao and Louis D. Druehl: Environmental control of gametogenesis in Laminaria
saccharina. Ⅱ. Correlation of nitrate and phosphate concentrations with gametogenesis and selected
metabolites, Canadian Journal of Botany, THE NATIONAL RESEARCH COUNCIL OF CANADA, vol.51,
No.5, 1973
[3-49] Miyuki Maegawa:Ecological Studies of Eisenia bicyclis (KJELLMA) SETCHELL and Ecklonia cava
KJELLMAN, Bull. Faculty of Bioresources, Mie University, No.4, pp.73-145, 1990
[3-50] 川井唯史:北海道日本海沿岸における大型海藻群落の保全と造成に関する研究,水産工学,
Vol. 42 No.3,pp.219-224,2006
[3-51] Kawamata, S.:Modelling the Feeding Rate of the Sea Urchin Strongylocentrotus nudus (A.Agassiz) on
Kelp.Journal of Experimental Marine Biology and Ecology, 210, pp.107-127, 1997
[3-52] Breen PA, Mann KH:Destructive grazing of kelp by sea urchins in eastern Canada, J Fish Res Board
Can, 33, pp.1278-1283, 1976
111
[3-53] 北原繁志,佐藤朱美,大澤義之:江良海域におけるウニの行動と人工動揺基質による藻場形
成の試み,寒地土木研究所月報,No.646,pp.17-24,2007
[3-54] Domenici P., D. Gonzales-Calderon and R. S. Ferrari:Locomotor performance in the sea urchin
Paracentrotus lividus, Journal of the Marine Biological Association of U. K., Vol.83, pp.285-292, 2003
[3-55] 今井利為,児玉一宏:ムラサキウニの食性,水産増殖,Vol.34(3),pp.147-155,1986
[3-56] Lawrence:On the relationships between marine plants and sea urchins, Oceanogr Mar Biol Ann Rev, 13,
pp.213–286, 1975
[3-57] 下茂繁,秋本泰,高浜洋:海生生物の温度影響に関する文献調査,海洋生物研究所研究報告,
第 2 号,pp.300-310,2000
[3-58] 山内信,木村創,高橋芳明:アイゴのカジメに対する摂餌率の日変化と季節変化,和歌山県
水産試験場研究報告書,第 1 号,pp.13-16,2009
[3-59] 桐山隆哉:魚の海藻に対する好き嫌い,長崎県漁業協同組合連合会漁連だより,2 月号,pp.7-9,
2003
[3-60] 藤田大介,野田幹雄,桑原久実:海藻を食べる魚たち-生態から利用まで-,成山堂書店,pp.15-25,
2006
[3-61] Katayama S., T. Ishida, Y. Shimizu and A. Yamanobe:Seazonal change in distribution of Conger eel,
Conger myriaster, off the pacific coast south of Tohoku north-eastern Japan, Fisheries Science, Vol.70, pp.1-6,
2004
[3-62] Katayama S. and Y. Shimizu:Occurrence pattern of white-spotted conger larva, Conger myriaster, in
southern Tohoku area, Bulletin of Japanese Society of Fisheries Oceanography, Vol.70, pp.10-15, 2006
第4章
[4-12] 大塚耕司,中谷直樹,沢田守,中西敬,吉村直孝:りんくう公園内海の水質浄化機能,りん
くう公園内海調査報告書,2003
[4-13] 大垣俊一:コドラートとトランセクト -海岸調査の精度論,Argonauta,No. 16,pp.16-24,2009
[4-14] 赤井一昭:水域の浄化システム,第 11 回建設技術発表会論文集,pp.76-79,1984
[4-15] 小田一紀,岡本良治,大家博史,倉田克彦:海水浄化への生物膜法の応用に関する基礎的研
究,海岸工学論文集,第 37 巻,pp.838-842,1990
[4-16] 小田一紀,大家博史,斉藤美香,倉田克彦:生物膜の海水浄化効果に関する水槽実験 -冬季
海水を対象として-,海岸工学論文集,第 38 巻,pp.871-875,1991
112
[4-17] 小田一紀,貫上佳則,重松孝昌,綱潔之,倉田克彦:礫間生物膜の海水浄化効果と現地への
その応用に関する研究,海岸工学論文集,第 39 巻,pp.991-995,1992
[4-18] 辻博和,石垣衛,小林真,喜田大三,宮岡修二,藤井慎吾:石積み浄化堤による海水浄化工
法の開発 -実海域の浄化堤実証施設における水質浄化特性-,ヘドロ,No.61,pp.47-52,1994
[4-19] 中谷直樹:海域環境シミュレーション手法に関する研究,大阪府立大学博士論文,2005
[4-20] Osmond, C.B. :What is photoinhibition? Some insights from comparisons of shade and sun plants,
Bios Science Publishers, Oxford, 471, pp.1-19, 1994
[4-21] 向井譲:低温条件下で樹木が受ける光ストレスとその防御機能,
日本林學會誌,
86(1),
pp.48-53,
2004
[4-22] 国土交通省 近畿地方整備局:大阪湾水質定点自動観測データ配信システム,2010 年,
http://222.158.245.253/obweb/data/c0/c0_1.html
第5章
[5-11] 谷口和也:磯焼けを海中林へ,裳華房,1998
[5-12] 谷口和也:磯焼けの機構と藻場修復,恒星社厚生閣,pp.84-120,1999
[5-13] 高橋正征:海にねむる資源 海洋深層水,あすなろ書房,2000
[5-14] 大塚耕司,板東晃功,松本吉倫:海洋深層水の使用可能量および価格に関する一考察,海洋
深層水'99 佐賀大会講演要旨集,pp.18-19,1999
[5- 15] 芹澤如比呂,井本善次,大野正夫:土佐湾,手結地先における大規模な磯焼けの発生,Bulletin
of Marine Sciences and Fisheries,Kochi Univ.,No. 20,pp.29-33,2000
[5-16] 蜂谷潤,平岡雅規,野中克典:海洋深層水放流域に新規に形成された褐藻クロメ藻場の拡大,
海洋深層水利用学会第 14 回全国大会講演要旨集,pp.13,2010
[5-17] 環境省自然環境局:浅海域生態系調査(藻場調査)報告書,pp.176-178,2008
[5-18] 社団法人日本海洋開発産業協会:エネルギー使用合理化海洋資源活用システム開発 -モデル
実証研究及び基盤研究- 成果報告書,pp.904-908,2004
[5-19] 板沢靖雄:温度と魚の生理,海洋生物研究所研究報告,第 3 号,pp.57-72,2001
[5-20] 川中幸一,馬場信弘:2次元重力流の計算,日本造船学会論文集,第 178 号,pp. 33-39,1995
113
本論文の基礎となる発表論文
No.
論文題目
著者名
1
Modeling of a Seaweed Bed Ecosystem at
a Barren Ground Area
A. Matsui
K. Otsuka
N. Nakatani
2
A Study on Estimation of Seaweed Bed
Restoration Using Deep Ocean Water
-Behavior of Discharged Deep Ocean
Water-
A. Matsui
K. Otsuka
N. Nakatani
3
A Study on Estimation of Seaweed Bed
Restoration Using Deep Ocean Water
Discharge with an Enclosed Structure
A. Matsui
N. Nakatani
K. Otsuka
T. Katsuragi
114
発表誌名
Proc. of East Asian Workshop
on Marine Environments,
pp.29-44 (Busan, Korea,
2009)
Proc. of the 5th Asia-Pacific
Workshop on Marine
Hydrodynamics, pp.325-328
(Sakai, Japan, 2010)
Proc. of the 21th Int. Offshore
and Polar Engineering Conf.
pp.887-894 (Maui, Hawaii,
2011)
本論文との
対応
第3章
第5章
第5章
115
Fly UP