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卒業研究論文 1軸駆動太陽追尾型ソーラーパネルに関する研究

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卒業研究論文 1軸駆動太陽追尾型ソーラーパネルに関する研究
卒業研究論文
論文題目
1軸駆動太陽追尾型ソーラーパネルに関する研究
東北大学 工学部 情報知能システム総合学科
山田・大寺研究室
B2TB2066 加藤祐介
目次
1. 序論 .................................................................................................................................................3
1.1. 背景 ..........................................................................................................................................3
1.2. 目的 ..........................................................................................................................................4
2. 原理 .................................................................................................................................................5
2.1. 光起電力効果 ..........................................................................................................................5
2.2. 太陽電池の I-V 特性 ...............................................................................................................7
2.3. 太陽電池の変換効率...............................................................................................................7
2.4. 太陽電池の等価回路...............................................................................................................9
2.5. 太陽電池の種類 ....................................................................................................................10
3. 測定実験 .......................................................................................................................................12
3.1. 概要 ........................................................................................................................................12
3.2. 測定条件 ................................................................................................................................14
3.3. 測定に用いた回路.................................................................................................................15
3.4. 測定結果 ................................................................................................................................19
3.4.1. 雲が多い日の測定結果 ..................................................................................................19
3.4.2. 快晴の日の測定結果......................................................................................................21
3.4.3. 追尾にかかる消費電力の測定結果...............................................................................23
4. 考察 ...............................................................................................................................................25
4.1. 時角・赤緯系 ..........................................................................................................................25
4.2. 1 軸太陽追尾の理論的考察モデル......................................................................................27
4.2.1. 冬季(秋分~冬至~春分)の積算電力量 .....................................................................28
4.2.2. 夏季(春分~夏至~秋分)の積算電力量 .....................................................................28
4.3. 追尾/固定比の年間見積もり ..............................................................................................32
4.4. 実測値との比較 .....................................................................................................................33
5.結論 .................................................................................................................................................34
謝辞 ....................................................................................................................................................35
参考文献 ............................................................................................................................................35
2
1. 序論
1.1. 背景
2011 年 3 月に発生した東日本大震災と,それに伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故は,
地震や津波の影響を受けたエネルギー・インフラの課題や,原子力発電所の危険性を,これまで
にない形で顕在化する結果をもたらした.これまでにも,地球温暖化対策という視点も踏まえて,
日本のエネルギー構成のあり方が議論されていたが,震災によってその見直しの必要性がより強
まってきている.
日本のエネルギー構成及び自給率の変化を図 1.1 に示す.我が国におけるエネルギーの供給
のうち,石油や石炭,天然ガスなどの化石燃料が 2013 年では 9 割以上を占めており,そのほとん
どを海外からの輸入に依存している.また,化石燃料の市場価格が乱高下するなど,エネルギー
市場が不安定化している.加えて,化石燃料への依存は,温室効果ガスの増加,資源の枯渇な
ど環境面でも大きな懸念がある.
このような状況の中,エネルギーを安定的かつ適切に供給するためには,資源枯渇のおそれが
少なく,環境への負荷が少ない太陽光をはじめとした再生可能エネルギーの導入を一層進める
必要がある.
図 1.1 日本のエネルギー国内供給構成及び自給率の変化[1]
また,電力会社から提供される系統電源は,大規模な発電所で大量の電気を生み出し,広域に
送電している.電力の大量・常時供給という面では大きなメリットがある一方で,長距離送電によ
るエネルギーロス,災害時の大規模停電のリスクなどのデメリットもある.そのため,系統電源か
ら独立した分散型電源の普及が検討されている.資源の偏在性がなく,立地制約が少ない太陽
光発電は,分散型電源に最も適した発電方法の 1 つである.
太陽光発電では,発電量がソーラーパネルの面積に依存するため,パネルの設置スペースが
狭いと発電量も少なくなる.一般家庭の敷地やビルの屋上では,ソーラーパネルを設置できるス
ペースに限りがあるため,多くの発電量を得るするためには,工夫が必要である.その解決法の 1
3
つに,太陽追尾という方法がある.
ソーラーパネルは通常,南向きに固定して設置することが多い.このように設置した場合,太陽
が南に位置する昼は,パネルに正対に近い状態で太陽光が入射するため,パネルによく光が当
たるが,朝や夕方は,斜めに太陽光が入射するため,光量が少なくなってしまう.太陽追尾型ソー
ラーパネルでは,太陽の動きに合わせてパネルの向きを変化させるため,常に正対に近い状態
で太陽光を入射させられるため,発電効率を高めることができる.
本研究室では 2012 年度に,図 1.1 に示す太陽追尾型ソーラーパネルを用いて,固定型と比べ
て発電量がどれだけ向上するかについて研究が行われた.この装置は,可動式のアルミの架台
の上にソーラーパネルが固定されており,この架台をモーターで動かすことで,架台に固定された
ソーラーパネルの向きを変えられるようになっている.方位角と仰角の 2 軸で向きの調整が可能で
ある.天体に関する計算式から太陽の仰角・方位角を計算し,太陽追尾のタイムテーブルを作成
する.そのタイムテーブルをもとにして,太陽の方向を向くべくモーターを回すことができるようにな
っている.この方法により,追尾型は固定型に比べて,年間平均で 48%ほど発電量が向上すると
という結果が得られた.[2]
図 1.1 太陽追尾小型ソーラーパネル ひまわりくん[2]
1.2. 目的
前節で示した太陽追尾型ソーラーパネルは,2 軸で駆動するため,常に太陽とパネルが正対し
た状態をつくることができるというメリットがある.しかし,装置全体の製作費が 100 万円以上と大
変高価なため,コストに見合うだけの発電量の向上が見込めず,一般家庭などでの導入は難しい
と考えられる.
今回は,比較的安価な 1 軸で駆動する別の追尾装置を用いて,発電量の増加と追尾動作に関
わる消費電力の実測を行った.これらの結果から一般家庭などで追尾装置を導入するメリットが
どれだけあるのか定量的に評価することが本研究の目的である.
4
2. 原理
2.1. 光起電力効果
半導体にバンドギャップより大きなエネルギーの光を照射すると,電子正孔対が発生し,キャリ
ア密度が増え,その結果,電気伝導度が増加する.光で発生した過剰キャリアは再結合で消滅し
ていくので,光によるキャリア密度の増加および電気伝導度の増加(光伝導度)は,光の強さとキ
ャリアのライフタイム  に依存する.もし均一な半導体に均一の光が当たっているなら,過剰キャ
リア密度 n は
dn
n

G
(2.1)
dt

を満たす.定常状態( n dt  0 )では n  G であるので,伝導度の増加  は次式で与えら
れる.
  q n n   p n   q n   p G
(2.2)
次に pn 接合に光が照射された場合を考える.図 2.1 に示すように,片方の電極がくし状で半導
体の面が露出しており,その露出した面に光が照射されたとする.このとき,pn 接合の内部では,
図 2.2 に示すように
① p 型,n 型の中性領域で発生した少数キャリアのうち,拡散で空乏層に達したものは,そこの
電界で空乏層の反対側へ掃き出される.
② 空乏層内で発生した電子,正孔は電界により電子は n 型側へ,正孔は p 型側へドリフトする.
これらキャリアの動きは pn 接合の逆方向電流と同じであり,違いはキャリア発生の要因が熱で
はなく光になったことである.理想的には,pn 接合に光を照射したときの電圧電流特性は図 2.3 の
ようになり,光のない状態の電流値のカーブがほぼそのままの形で負の方向にシフトする.つまり
印加電圧 V での素子の電流密度 J は
J V   J dark V   J photo ほぼ一定
(2.3)
と書ける.ここで J dark が暗時の電流密度であり, J photo が光によって発生したキャリアによる電流
(光電流)で,逆方向電流の向きである.
図 2.1 典型的な太陽電池の構造
5
図 2.2 pn 接合に光が照射されたときのキャリアの発生とその後の動き
光ダイオードは,pn 接合に逆方向電圧を印加し,光電流を測定して光の検出,光強度の測定を
行う素子である.動作点は図 2.3 に点線の楕円で示した領域である.逆方向電圧印加時は,暗状
態では小さな電流しか流れないので,光電流が感度よく測定できる.
一方,pn 接合に光をあて,正の電圧の領域,つまり図 2.3 の実線の楕円で囲まれた範囲を利用
する素子が太陽電池である.挿入図に示したように,電圧が負の範囲の光電流の向きは抵抗に
電流が流れる向きと同じだが,正の範囲では電流と電圧の関係が抵抗ではなく電池のそれになっ
ている.したがって実線の楕円の範囲では素子が起電力を示しており,これを光起電力効果
(photovoltaic effects)という.[3]
図 2.3 光照射された pn 接合の電圧電流特性の一例
6
2.2. 太陽電池の I-V 特性
図 2.4 の第 4 象限が発電装置の性能を表している.その
ため,この I-V 特性が I 軸,V 軸と交わる値が短絡電流,
開放電圧である.
短絡電流( I sc )は,太陽電池の両端子間を短絡した状
態で測定される電流である.光強度に比例して増加する.
開放電圧( Voc )は,太陽電池より負荷を切り離した状態で,
両端子間に現れる電圧である.光強度の自然対数に比
例する.
図 2.4 光強度に対する I-V 特性の
変化
ダイオードの I-V 特性をもとに光発電素子としての光発
生電流を表すと,それを負の方向に平行移動した形になる.電流の値が負だと分かりにくいので,
太陽電池の性能を表すときは,光発生電流を正方向にして表す.
太陽電池は,負荷曲線によって動作する電流,電圧が決まる.電流と電圧の積が負荷への出
力電力となるため,面積が最大になるように負荷を選択すれば,太陽電池の最大電力を取り出す
ことができる.
ある光強度に対する I-V 特性で,出力が最大になる時
の電流,電圧を最適動作電流( I p max ),最適動作電圧
( V p max ),出力( Pmax )を最大出力という.光強度が変
化 し て も , 常 に 最 大 電 力 を 得 る 回 路 を MPPT(Most
Power Point Tracking)回路と呼ぶ.I-V 特性と P-V 特性
は,図 2.5 のようになる.
I-V 特性は,太陽電池等価回路における直列抵抗や 図 2.5 太陽電池の I-V 特性,P-V 特性
並列抵抗によって,曲がり方が変化する(2.4 節で詳しく述べる).曲がり方が大きいと,十分な性
能を出せない状態になる.そこで,この I-V 曲線の曲がり方を表す曲線因子も,太陽電池の性能
を表す指標とされている.曲線因子(FF: fill factor)は次式で定義される.
FF 
I p max  V p max

Pmax
I sc  Voc
(2.4)
I sc  Voc
曲線因子は,電流の最大値となる I sc と電圧の最大値となる Voc の積で作られる四角形に,最適
動作電圧の積で作られる四角形が,どれだけ近いかを示しており,新たに太陽電池を作成したり,
製造工程を管理したりする時には,非常に重要な指標となる.[3]
2.3. 太陽電池の変換効率
太陽電池は,太陽光を直接電気エネルギーに変換できる半導体で作られている光電変換素子
で,入射光のエネルギーにほぼ比例した電気エネルギーを変換することができる.太陽電池の変
換効率は入射エネルギーあたりの電気出力であり,次式で与えられる.
7
Pmax [kW ]
(2.5)
E[kW/m 2 ]  A[m 2 ]
Pmax は最大出力, E は日射強度, A は太陽電池の全受光面積である.しかし,変換効率は分

光感度特性やセル温度などによって変化する.そこで,国際電気規格標準化委員会(IEC TC-82)
では,地上用太陽電池の公称効率を次のように定義している.
・入射光強度:1kW/m2 ・AM=1.5 ・セル温度:25℃
AM(Air Mass)とは,直達光が大気圏を通過した経路の長さのことである.図 2.6 のように,地表
面に直角に入射した場合に AM=1,地表面に対し約 42°の角度で入射した場合,AM=1.5 となる.
AM は緯度に依存する.また,AM が変化すると,入射光のスペクトル分布も変化する.
図 2.6 AirMass について
日射強度に対する I-V カーブの変化を図 2.7 に示す.このとき,太陽光スペクトル分布,セル温
度は基準状態と同じに固定されている.図中の白丸は最適動作点を示しており,それらの点をつ
なぐとダイオードの I-V 特性に似たカーブが得られる.変換効率はほぼ一定だが,日射強度が弱
い場合は減少する.
セル温度に対する I-V カーブの変化を図 2.8 に示す.このとき,日射強度と太陽光スペクトル分
布は基準状態と同じに固定されている.図中の白丸は最適動作点を示しており,セル温度が高く
なるにつれて最適動作電圧が小さくなっていることが分かる.変換効率は,セルの温度が上昇す
るにつれて減少する.この減少の割合を,セル温度係数という. [4]
図 2.7 日射強度に対する変化
図 2.8 セル温度に対する変化
8
2.4. 太陽電池の等価回路
代表的な太陽電池である単結晶,多結晶シリコン
素子の断面構造は図 2.9 に示すようになっている.
特に素子の直列抵抗としては,光が入射する側の
半導体層と表面電極形状が影響する.表面側は薄
い層を横方向に電流が流れる.
図 2.9 素子の断面構造
素子を等価回路であらわすと図 2.10 のようにな
る.この図に基づいて,発電状態における太陽
電池の I-V 関係式を示す.この回路で負荷に
流れる電流 I L は次式であらわされる.
I L  I ph  I D  I sh
(2.6)
ただし, I ph :光発生電流, I D :pn 接合の順方
向電流, I sh :pn 接合の漏れ電流.
また,電流 I D , I sh と pn 接合にかかる順電
圧 VJ との関係は,式(2.7),(2.8)であらわされ
図 2.10 太陽電池の等価回路
る.
  qV  
I D  Aexp J   1
  BkT  
(2.7)
ただし, A :pn 接合の材料特性による係数, B :材料による係数,k:ボルツマン定数,T:絶対温度.
I sh  VJ Rsh
(2.8)
ただし, Rsh :接合欠陥による分路抵抗.
VJ は RS と負荷抵抗 R L により決まるので,式(2.9)であらわされる.
VJ  VL  I L RS
(2.9)
ただし, VL :負荷両端つまり太陽電池出力端子間の電圧.
式(2.9)を式(2.7),(2.8)に代入し,さらに式(2.6)に代入すると次式が得られる.
q

VL  I L RS   1  VL  I L RS
I L  I ph  Aexp
BkT
Rsh


(2.10)
直列抵抗が入ることにより,どのように I-V 特性が変化するか図 2.11 を用いて考察する.外部か
ら見た特性は,理想的な I-V 特性に直列抵抗による電圧降下分が差し引かれる.つまり,
V  IRS の直線を電圧軸方向に加えたものである.全体として点線で示す曲線となり,最大出力,
曲線因子,変換効率を減少させる.
9
並列抵抗が入ることにより,どのように I-V 特性が変化するか図 2.12 エラー! 参照元が見つかり
ません。を用いて考察する.理想的な I-V 特性は,暗状態のダイオード順方向電流から光発生電
流を引いたものである.これに,並列抵抗に分路した電流を加える.つまり, I sh  V Rsh の直線
を電流軸方向に加えたものである.全体として点線で示す曲線となり,最大出力,曲率因子,変
換効率を減少させる.[4]
図 2.11 直列抵抗による I-V 特性の変化
図 2.12 並列抵抗による I-V 特性の変化
2.5. 太陽電池の種類
太陽電池を材料で分類したのが図 2.13 である.現在,太陽電池に使われている半導体材料は,
シリコン系と化合物半導体系に大別される.シリコン系には,バルク結晶を用いる結晶シリコン系
と,薄膜を用いる薄膜シリコン系,バルク結晶と薄膜のハイブリッド系がある.
結晶シリコンは,もっともよくつかわれている太陽電池用半導体材料である.結晶シリコンのうち
単結晶系は,効率が高いがコストも高いのが欠点である.もっとも普及しているのは,多結晶系
(小さな結晶がモザイク状に集まったもの)である.効率は少し低くなるが,単結晶の切断くずを溶
解してつくるシリコンの「鋳物」であるため,省エネルギー・低コストで製造できる.結晶系シリコン
太陽電池は,原料をたくさん使うのが問題である.これに対し薄膜シリコンは,アモルファスシリコ
ンや微結晶シリコンを使うので,低温で大面積を高速製膜でき,製造コストが低いほか,結晶シリ
コンの 10 分の 1 以下の厚みでよいので省資源である.しかし,効率がやや低いことと,光劣化が
起こることが問題である.最近,結晶シリコンに薄膜シリコンをつけたハイブリッド系が開発され,
高効率な太陽電池として期待されている.
化合物半導体系には,Ⅲ-Ⅴ族と CdTe 系,CIGS 系などの薄膜系がある.Ⅲ-Ⅴ族は,GaAs 単結
晶基板にさまざまな組成比のⅢ-Ⅴ族半導体薄膜を層状に製膜したもので,高い変換効率を発揮
する超高性能太陽電池だが,高価なため主に宇宙用に用いられている.CdTe 系,CIGS 系は薄
い膜でも中程度の効率が得られ,省資源であり製造コストが安いため,普及が始まっている.
これに加えて,有機半導体系や,少し発電原理の異なる色素増感系の研究が進められている
が,市場に現れるのはこれからである.
さまざまな材料の太陽電池の,セル効率およびモジュール効率,コスト,材料に関連する資源問
10
題,各電池の特徴をまとめると,表 2.1 のようになる.[5]
図 2.13 材料による太陽電池の分類
表 2.1 太陽電池の比較
材料に
よる分類
現状の変換効率[%]
小分類
モジュール
セル
資源
単結晶系
22.7
24.5
△
高効率
多結晶系
17.0
20.4
△
低コスト
薄膜系
10.4
20.0
○
低コストで大面積可能
化合物
Ⅲ-Ⅴ族系
36.1
41.6
△
超高効率,宇宙用
半導体系
CIGS 系
13.6
20.0
○
大面積効率に難
CdTe 系
10.9
16.7
△
低コスト,中効率,Cd 使用が問題
色素増感系
8.5
11.2
○
低コスト,中効率,液体使用が問題
有機半導体系
3.5
7.9
○
低コスト,中効率
シリコン系
化学系
11
特徴
3. 測定実験
3.1. 概要
追尾装置として,ECO-WORTHY 社製の 1 軸太陽追尾装置を使用した.センサー及びコントロー
ラーとして品番 ZZCF-1,アクチュエータとして品番 TGF-1 という製品を用いた.これらの画像を図
3.1 に示す.
図 3.1 ZZCF-1(左),TGF-1(右)の外観
ZZCF-1 の光センサーは,直交して配置された小型のシリコン太陽電池からなる傘に似た形をし
たもので,中央部はステンレスの支柱である.コントローラーは,それぞれの小型の太陽電池の
光量を検出し,光量が異なる場合にはその差分の信号により,接続したアクチュエータに対して伸
縮動作を行わせる.曇天日などの光量が少ない場合は追尾の必要が無いため,追尾動作を停止
するようにもなっている.コントローラー内の半固定抵抗のつまみを回すことによって,光検出の
感度を調整することが可能である.ZZCF-1,TGF-1 の仕様を表 3.1,表 3.2 にそれぞれ示す.
表 3.1 ZZCF-1 の仕様
電源
DC12V
寸法
115x80x35mm(コントローラー)
標準出力
DC12V
最大電流
8A
動作温度
-20~60℃
制御精度
±1.5°
防水防塵性能
IP65 準拠
12
表 3.2 TGF-1 の仕様
電源
DC12V
ストローク長
450mm
固定長
600mm
伸縮速度
5.7mm/s
始動時電流
0.8A
最小電流
0.8A
最大電流
3A
動作温度
-25℃~65℃
防水防塵性能
IP54 準拠
続いて,今回使用したネクストエナジー・アンド・リソース(株)販売のソーラーパネル HA-130-12
の仕様を表 3.3 に示す.また,仕様値をもとに作った I-V 特性図を図 3.2 に示す.
表 3.3 HA-130-12 の仕様
公称最大出力
130W
公称開放電圧
21.1V
公称短絡電流
8.11A
公称最大動作電圧
17.2V
公称最大動作電流
7.56A
公称重量
12kg
図 3.2
HA-130-12 の I-V 特性
13
図 3.3 に示すように,スチールの穴あきアングルを用いて,向きを回転できるパネルスタンドを製
作し,実験を行った.
図 3.3 太陽追尾ソーラーパネルの外観
3.2. 測定条件
追尾型と固定型のソーラーパネルの発電量を比較するために,2 枚の同じソーラーパネルを使
って,発電量の測定を行った.どちらかのパネルに影が入ると 2 枚の発電量の比較が困難になる
ため,影などの影響が少ないと思われる,東北大学工学部・工学研究科 電子情報システム・応
物系 2 号館の屋上(北緯 38.26 度,東経 140.84 度)にて測定を行った.パネルの配置などの概略
図を図 3.4 に示す.また、パネルの仰角が異なるとパネル間で発電量を比較できないので,今回
は両方とも仰角を 20 度に統一した.なお,年間を通した発電量が最大になる仰角は,緯度によっ
て異なることが知られている.今回製作した追尾型ソーラーパネルのスタンドでは,最適仰角にす
るのは困難であったため,それよりも小さい 20 度とした.また,朝や夕方には周辺の構造物によっ
て影ができやすかったため,2 枚のパネルが陰になるタイミングにずれが少なくなるよう考慮して,
南北方向にパネルを並べて設置した.追尾型のパネルについて,太陽光量センサーは,パネル
の北側の縁に設置した.アクチュエータは西側の縁に設置した.
今回の追尾装置は,センサーからの信号をもとに追尾が行われるため,30 分~1 時間の間隔で
東西方向での回転角を測定した.固定型と同じ角度の状態を 0 度とし,西側に傾いたときはマイ
ナス,東側に傾いたときはプラスとして記録を行った.測定には,土木用勾配目盛を使用した.
14
図 2.4 パネルの配置などの概略図
3.3. 測定に用いた回路
太陽電池は,2.3 節で示したように日射強度やセル温度によって I-V 特性が変化する.それに伴
い最大電力を取り出すための電流や電圧も大きく変わることになる.気象条件等によって変化す
る最適動作点を自動で追従する仕組みとして,最大電力点追従方式(MTTP: Maximum Power
Point Tracking)がある.一般的な MPPT 回路は,山登り法(Hill Climbing Method)と呼ばれる方法
によって制御が行われている.常に電流,電圧をモニターし,常に最大電力となるように DC-DC コ
ンバーターで制御する.
このような MPPT 回路は,得られる電力が最大になるように動作点を追従するため,MPPT 回路
自体には論理演算機能が必要であるためコストが高くなってしまうという欠点がある.この問題を
解決するために,本研究室で 2012 年度行われた研究において,演算機能などが不要な疑似的な
MTTP 回路が考案された.[2]
太陽電池の I-V 特性の日射強度依存性は図 2.7 に示すように,最適動作点を結んだ曲線は指
数関数的な変化をする.この曲線がダイオードの I-V 特性に似ていることから,ダイオードを負荷
に用いることで疑似的な MPPT 回路を実現できる.なお,この疑似 MPPT 回路では,太陽電池の
I-V 特性のセル温度依存性については考慮に入れていない.また,ダイオードの I-V 特性と最適
動作点を結んだ曲線の変化の仕方は,完全には一致するものではないため,実際には最適動作
点からある程度のずれがあることに注意する必要がある.
15
今回の測定でも,この疑似的な MPPT 回路を用いて測定を行った.2012 年度の研究と同様に,
整 流 用 Si シ ョ ッ ト キ ー ダ イ オ ー ド (SBM1045VSS) ( 最 大 定 格 45V ・ 10A ) を 使 用 し た .
SBM1045VSS の 25℃での I-V 特性を図 3.5 に示す.
図 3.5 SBM1045VSS 1 個の I-V 特性(25℃)
今回使用した太陽電池 HA-130-12 の公称最大動作電圧は 17.2V,公称最大動作電流は 7.56A
である.一方,ダイオード 1 個の場合,電流が 7.56A のとき電圧が 0.41V となる.17.2÷0.41≒42
となることから,42 個のダイオードを直列につないだものを負荷に用いることによって,図 3.6 に示
すように公称の最大電力点で動作させることが可能になる.
図 3.6 SBM1045VSS 42 個直列接続の I-V 特性/太陽電池 HA-130-12 の I-V 特性
実際にダイオードを負荷として接続すると,ダイオードは発熱するため理論的なものとはずれた
結果が得られた.ダイオード SBM1045VSS の温度特性を,表 3.5 に示す.温度が上昇するにつれ
て V F の値が小さくなることから,疑似的な MPPT 回路を実現させるためには,先ほど算出した 42
16
個よりも多くする必要があると考察した.そこで,ダイオードの個数を変えながら図 3.6 に近くなる
ダイオードの個数を求めた.
表 3.5
温度
25℃
125℃
SBM1045VSS の温度特性
I F [A]
V F [V]
3
0.34
5
0.37
10
0.44
3
0.26
5
0.32
10
0.42
ダイオード SBM1045VSS を 46 個直列に接続したものを負荷にしたときのデータを図 3.6 中にプ
ロットすると,図 3.7 のようになった.なお,ダイオード回路は,固定型パネル,追尾型パネルそれ
ぞれの測定用に同じものを 2 つ用意して測定した.理論値の負荷曲線の近傍に点が多くプロットさ
れていることが分かった.また,2 つのダイオード負荷回路に大きな差が存在しないことも確認す
ることが分かった.この結果から,測定にはダイオード SBM1045VSS を 46 個直列接続したものを
使用することとした.
図 3.7
SBM1045VSS を 46 個直列に接続したときの電流・電圧
測定に用いた回路の回路図を,図 3.8 に示す.ダイオードは発熱するため,水で冷やし一定時間
ごとに水の交換を行った.また,データの収集を自動化するためにデータロガーを用いた.今回用
いたデータロガーは 0V~4.68V の電圧を測定可能である.しかし,今回の太陽電池は公称最大
17
動作電圧が 17.2V であり,データロガーの測定可能範囲を超えてしまうため,そのまま測定するこ
とができなかった.そこで,負荷に対して並列に分圧抵抗を接続することによって,測定を行った.
ダイオード 46 個直列接続したものの微分抵抗は 1 のオーダーで,データロガーの内部抵抗は
1M  のオーダーであるため,その中間の抵抗値となる分圧抵抗を用いるべきだと考え,1k  と
3.9k  の抵抗を使うことにした.また,データロガーでは電流値を直接測ることはできないため,
直列に 0.05  の抵抗を接続し,そこでの電圧降下を測定することで間接的に電流の値を求めた.
図 3.8 中の文字を使うと電流,電圧はそれぞれ式(3.1),(3.2)で計算することができる.
V2
R3
(3.1)
 R 
R1  R2
V1  1  2 V1
R1
R1 

(3.2)
I
V
図 3.8 測定用回路
式 (3.2)では,計算をする際に 2 つの抵抗値の比を用いる.
R1 1k
しかし,抵抗には多少の誤差があるため,より正確な値をも
とめるためには定格抵抗値からのずれも考慮する必要が
R2 3.9k
V1
ある.今回は図 3.9 に示すように,直列接続した分圧抵抗に
電圧を変えながらかけ,それぞれ抵抗の電圧降下をテスタ
ーで測定した. R1 , R2 の電圧降下をそれぞれ横軸,縦軸
としてプロットし,最小 2 乗法で 1 次関数に近似をした式を
図 3.9 分圧抵抗比の測定用回路
求めることで, R2 R1 を算出した.追尾,固定それぞれの測定回路での結果を図 3.10 に示す.こ
の結果から, R2 R1 を追尾は 3.93,固定 3.90 として計算に使用することにした.
18
図 3.10 分圧抵抗の電圧
3.4. 測定結果
3.4.1. 雲が多い日の測定結果
2015 年 10 月 15 日の電力,積算電力量,パネルの東西方向への傾き角の時間推移をそれぞれ
図 3.11,図 3.12,図 3.13 に示す.なお,図 3.13 中の角度の理論値は,第 4 章で詳しく説明する時
角のことである.この日の天気は晴れであり,雲量はおよそ 6~8 と多めであった.また,追尾可能
な角度は-43 度~33 度であった.図 3.11 を見ると,時間ごとに電力が大きく変動していることが分
かる.これは,雲が広く広がっていて,太陽が雲の陰になるときとならないときが,短い周期で繰り
返されるためであると考えられる.また,図 3.11,図 3.12 を見ると,追尾と固定であまり大きな差が
ないことが分かる.これは,主に雲の陰になるタイミングで太陽から直接届く直達日射の成分が少
なく,空気中で散乱されたり,周囲の物体に反射したりして届く散乱日射の割合が大きいためであ
ると考えられる.角度も理論値から大きくかけ離れた値で変動が不規則であることが分かる.この
日の積算電力量は,追尾型が 750.11Wh,固定型が 660.72Wh であった.追尾をすることによって
積算電力量は 14%向上した.この結果から,雲が多い日には追尾をすることによる発電量の向上
が小さいため,追尾の効果は薄いと考えられる.
19
図 3.11 2015/10/15 電力の時間推移
図 3.12 2015/10/15 積算電力量の時間推移
図 3.13 2015/10/15 角度の時間推移
20
3.4.2. 快晴の日の測定結果
2015 年 11 月 4 日の電力,積算電力量,パネルの東西方向への傾き角の時間推移をそれぞれ
図 3.14,図 3.15,図 3.16 に示す.この日の天気は,一日中雲がほとんどない快晴であった.また,
追尾可能な角度は-39 度~35 度であった.13:00 以降,追尾,固定ともに電力が突然大きくなって
いるのは,負荷であるダイオードの冷却水の交換の際に冷却水の量を増加させたことで,冷却の
効率が変化したことが原因の 1 つであると考えられる.追尾,固定とも約 1.11 倍になっていること
から,電力が大きくなっている時間帯での電力を 1.11 で割って補正を行った.補正後の電力,積
算電力量の時間推移を図 3.17,図 3.18 に示した.図 3.17 を見ると朝と夕方の時間帯で追尾が固
定に比べて電力が大きくなっていることが分かる.グラフは,固定型が対称的な形をしているのに
対し,追尾型は午後の電力が小さくなるタイミングが早くなっている.これは,追尾可能な角度が,
東側に比べ西側が小さいためであると考えられる.また,電力の立ち上がり,立下りのタイミング
に固定と追尾にずれがある.これは,朝や夕方は図 3.19 に示すように周囲の構造物の影が長くな
り,設置場所の制約上陰になるタイミングを合わせることができなかったためである.図 3.16 から,
角度は理論値との差が雲が多い日に比べて小さく,変化も規則的である.この日の積算電力量
は,追尾型が 882.61Wh,固定型が 663.32Wh であった.追尾をすることによって積算電力量は
33%向上した.なお,朝と夕方に追尾と固定で陰になるタイミングが違うことから,向上率は若干
小さく見積もる必要があると思われる.以上の結果から,雲が少ない日には追尾をすることによる
発電量の向上が大きいと考えられる.
図 3.14 2015/11/4 電力の時間推移(補正前)
21
図 3.15 2015/11/4 積算電力量の時間推移(補正前)
図 3.16 2015/11/4 角度の時間推移
図 3.17 2015/11/4 電力の時間推移(補正後)
22
図 3.18 2015/11/4 電力の時間推移(補正後)
図 3.19 朝や夕方にできる長い影
3.4.3. 追尾にかかる消費電力の測定結果
追尾にかかる消費電力の測定には,電力測定
用の回路をそのまま利用した.その回路図を図
3.20 に示す.この回路を利用して 2015 年 11 月 16
日,雲量 7~8 の晴れの日に測定を行った.消費
電力の時間推移を図 3.21 に示す.追尾動作をしな
い待機時は低い値で推移し,動作時に瞬間的に
高い値になることが分かった.積算消費電力量の
時間推移を図 3.22 に示す.消費電力の多くは待機 図 3.20 追尾にかかる消費電力の測定用
しているときのものであるため,積算電力量は経 回路
過時間に比例することが分かった.最小 2 乗法で
23
比例の式に近似して近似式を求めると,1 時間当たり約 2.5W の電力を消費すると算出された.こ
の結果をもとに,快晴時測定を行った 11 月 4 日の日の出~日の入りの時間を 10.5 時間として計
算すると,積算消費電力量は約 25.56Wh となった.これは,追尾の積算電力量の 3%程度である
と計算された.しかし今回の測定では,測定中の電流値がおよそ 0.6~0.7A に対して,測定前か
ら 0.1A 程度の電流値となっていることから,実際には電力をもう少し小さい可能性があると考えら
れる.
図 3.21 追尾にかかる消費電力の時間推移
図 3.22 経過時間と積算消費電力量の関係 (赤点:11 月 4 日の計算値)
24
4.
考察
4.1. 時角・赤緯系
太陽の位置を表すための座標系には,地平座標系,時角・赤緯系,赤道座標系など様々ある.
この中から今回の考察をするにあたって用いた時角・赤緯系について説明する.
ここでは,観測者が北半球にいる場合を考える.すると図 4.1 に示すように,天球上の天頂と北
点との間に北の北極 P がある.P は地平線上の北点から子午線に沿って観測者の緯度 φ だけ上
に昇った点である.天の南極は,北半球の観測者からは地平線の下側にあり,直接見ることはで
きない.
ここで,図 4.1 で見るように,天の北極 P からちょうど 90°離れた天球上の大円を考える.この大
円が天の赤道である.「天の」を略して,単に赤道ということも多い.天の赤道では,地平線上に見
える部分も見えない部分をあるが,天球を一周している.子午線と交わる点を Q とする.
天の北極 P から X を通り,天の南極 P'に達する半大円を引く.この半大円が天の赤道と交わる
点を R とする.こうすると,X の位置は,∠QOR と∠ROX との二つの角で表すことができる.∠
QOR を時角といい,Q から西側にプラス,東側にマイナスとして測る.ここでは,時角をギリシャ文
字の  (タウ)で表すことにする.また∠ROX を赤緯という.赤緯は R から天の北極 P の方向をプ
ラス,天の南極 P'の方向をマイナスとして測り,ギリシャ文字の  (デルタ)で表示する.すなわ
ち,
  QOR ,
(4.1)
  ROX
である.こうして,X の位置は時角  ,赤緯  によって表現され,X  ,   と書き表すことができる.
このように時角と赤緯で天球上の位置を表記する座標系を時角・赤緯系という.
時角も赤緯も角度であり,どちらも度単位で表すことができる.時角は  180    180 である
が,この範囲を越える表現をこともある.赤緯は  90    90 である.[6]
25
図 4.1 時角と赤緯
赤緯  (単位:度)は式(4.2)で表すことができる.[7]
  0.33281 22.984 cosJ   0.34990cos2J   0.13980cos3J 
 3.7872sinJ   0.03250sin2J   0.07187sin3J 
ここで,   2 365 , J :元日からの通算日数+0.5 とする.
時角  (単位:度)は式(4.3)で表すことができる.[7]
  135 

  15 Ts 
 e   180

15

(4.2)
(4.3)
ここで,Ts :中央標準時(JST)(単位:時間),  :経度(単位:度), e :均時差(単位:時間)である.
均時差とは,天球上を一定な速さで動いた平均太陽と,実際の太陽との移動の差である.
均時差 e (単位:時間)は式(4.4)で表すことができる.[7]
e  0.0072cosJ   0.0528cos2J   0.0012cos3J 
 0.1229sinJ   0.1565sin2J   0.0041sin3J 
26
(4.4)
4.2. 1 軸太陽追尾の理論的考察モデル
今回は,4.1 節で述べた時角・赤緯系をもとに 1 軸太陽追尾の理論的考察モデルを考えた.なお
簡単のため直達日射によるもののみ考え,散乱日射に関しては一切考慮に入れていない.また,
直達日射量は全ての時間帯において一定とした.測定実験と同じになるように北緯 38.26 度,東
経 140.84 度に設定した.概念図を図 4.2 に示す.太陽の日周運動は,天の北極と天の南極を結ん
だ直線を軸とした 1 軸の回転運動となっている.そのため,太陽光パネルをその軸に合わせて設
置するモデルとした.固定型はその軸に合わせて南向きに固定してあり,追尾型はその軸に合わ
せて回転できるようになっている.今回は,可動範囲角度は   ~   と定義し,東西方向に対
称なものを考える.太陽の仰角(地平線と太陽との間にできる角度) h は式(4.5)であらわすことが
できる.
(4.5)
h  sin 1 sin sin   cos cos cos 
ただし,  は赤緯,  は緯度,  は時角である.式(4.5)において, h  0 とすることによって日の
入り時の時角を求めることができる.日の入り時の時角を  とすると,  は式(4.6)で表される.な
お  の範囲は, 0     である.
  cos1  tan  tan  
(4.6)
 は,春分~夏至~秋分の期間では 90 度以上,秋分~夏至~春分の期間では 90 度以下にな
る.一方で,固定型パネルは,時角 90 度を超えると太陽がパネルの裏側に位置することとなり,
発電ができない状態になる.このような季節に依存する制約があるため,季節ごとの積算電力量
を考察する必要がある.
図 4.2 1 軸太陽追尾の理論的考察モデル
27
4.2.1. 冬季(秋分~冬至~春分)の積算電力量
冬季は日の入り時の時角  が 90 度以下になるため,固定型,追尾型ともに時角  が  

の時間帯で発電可能であると考えることができる.固定型,追尾型の電力をそれぞれ Ps   ,
Pd   とすると, Ps   , Pd   は次式で計算できる.なお,太陽とパネルが正対した状態を 1 とす
る.
Ps    cos cos

cos
Pd    
cos cos   

 


     
(4.7)
(4.8)
一例として,冬至 12 月 22 日の Ps   , Pd   をグラフで表すと図 4.3 のようになる.ここでは,  を
30 度とし,時角  は時刻に変換し表現した.
図 4.3 冬至 12 月 22 日の Ps   , Pd   (  =30[deg])
積算電力量は,電力を積分することで求めることができる.固定型,追尾型の積算電力量をそ
れぞれ Ws , Wd とすると, Ws , Wd は次式のようになる.

Ws   Ps  d  2 cos sin 

(4.9)

Wd   Pd  d  2 cos   sin   

(4.10)
これらを用いて積算電力量の追尾/固定比を求めると次式が得られる.
Wd   sin   

Ws
sin 
(4.11)
4.2.2. 夏季(春分~夏至~秋分)の積算電力量
夏季は日の入り時の時角  が 90 度以上になるため,固定型,追尾型とで発電可能な時間帯が
異なる.固定型はパネルの表側に太陽があるときのみ発電可能であるため,時角  が-90 度~90
度のときに発電可能である.追尾型の場合,時角が 90 度を超えたとしても,太陽がある方向とパ
ネルの法線方向のなす角度が 90 度を超えなければ発電可能である.日の入り時刻近傍では追
28
尾型パネルは可動限界  まで傾いた状態になるため,太陽がある方向とパネルの法線方向のな
す角度は    と表される.よってなす角度が 90 度となる時角  は   2 となる.これと  の大
小関係で場合分けをして固定型,追尾型の電力 Ps   , Pd   ,及び積算電力量 Ws , Wd を求め
た.
まず,   2   かつ 0     ,すなわち   2     の場合を考える.固定型,追尾型
の電力 Ps   , Pd   は次式で計算できる.なお,太陽とパネルが正対した状態を 1 とする.
Ps    cos cos

cos
Pd    
cos cos   


  
2



     
(4.12)
(4.13)
一例として,夏至 6 月 22 日の Ps   , Pd   をグラフで表すと図 4.4 のようになる.ここでは,  を
30 度とし,時角  は時刻に変換し表現した.
図 4.4 夏至 6 月 22 日の Ps   , Pd   (  =30[deg])
29
積算電力量は,電力を積分することで求めることができる.固定型,追尾型の電力をそれぞれ
Ws , Wd とすると, Ws , Wd は次式のようになる.

Ws   Ps  d  2 cos
(4.14)
Wd   Pd  d  2 cos   sin   
(4.15)



これらを用いて積算電力量の追尾/固定比を求めると次式が得られる.
Wd
   sin   
(4.16)
Ws
次に,   2   かつ 0     ,すなわち 0      2 の場合を考える.固定型,追尾型
の電力 Ps   , Pd   は次式で計算できる.なお,太陽とパネルが正対した状態を 1 とする.
Ps    cos cos


  
2

(4.17)

   
cos

Pd    

(4.18)




cos

cos







 


2



一例として,夏至 6 月 22 日の Ps   , Pd   をグラフで表すと図 4.5 のようになる.ここでは,  を
15 度とし,時角  は時刻に変換し表現した.
図 4.5 夏至 6 月 22 日の Ps   , Pd   (  =15[deg])
30
積算電力量は,電力を積分することで求めることができる.固定型,追尾型の電力をそれぞれ
Ws , Wd とすると, Ws , Wd は次式のようになる.

Ws   Ps  d  2 cos

(4.19)

Wd   Pd  d  2 cos   1

(4.20)
これらを用いて積算電力量の追尾/固定比を求めると次式が得られる.
Wd
  1
Ws
(4.21)
31
4.3. 追尾/固定比の年間見積もり
式(4.11), (4.16), (4.21)を総合すると,  を変数として,積算電力量の追尾/固定比の年間を通
した見積もりをすることができる.  を 10 度~70 度まで 10 度ごとに変化させた状態(図 4.6 中凡
例の数字は角度を示す)と常に正対した状態(図 4.6 中凡例の MAX,以下 MAX と記述)で追尾
/固定比の年間変化をグラフで表すと図 4.6 のようになる.MAX は,    と設定し,赤緯によ
る減少が無いことから追尾/固定比を cos で割っている.MAX は常に正対した状態を保つ条
件であるため,2 軸駆動のソーラーパネルでの理論値として考えることができる.
図 4.6 可動限界  に対する追尾/固定比の年間変化
追尾/固定比の年間平均の可動限界  による変化をグラフに表すと図 4.7 のようになる.可動
限界が大きくなるにつれて,追尾/固定比の年間平均も大きくなった.なお,MAX の追尾/固定
比の年間平均は 1.66 と算出された.
図 4.7 追尾/固定比の年間平均
32
4.4. 実測値との比較
2015 年 11 月 4 日における電力の実測値と理論値を並べた図を図 4.8 に示す.実測のほうでは,
可動範囲が-39 度~35 度であったので,理論値の可動限界  もそれに近い 37 度に設定した.理
論値では,日の出,日の入りの時刻に固定,追尾とも同時に立ち上がり,立ち下がりをする形に
なっているが,実測値のほうは,陰になるタイミングにずれがあることが分かる.また,追尾可能な
範囲が実測では東西方向に対称ではないため,理論値の追尾のグラフの形は対称であるのに対
し,実測値の追尾のグラフの形は非対称である.また,図 3.16 に示すように追尾の角度は理論値
からずれている時間帯がある.そのずれの分,実測値のほうが小さくなっていると考えられる.さ
らに,理論値では直達日射成分のみを考えているが,実測値では散乱日射成分も含まれるという
違いがあることにも注意が必要である.
それぞれの積算値の追尾/固定比を算出すると,どちらも 1.33 であった.先に述べたように実
測値と理論値の相違点は複数存在するため,単純に両者の比較を行うことは難しいが,追尾/
固定比の値が大きなずれにはなっていないことを考えると,理論値を用いて追尾による積算電力
量の向上をある程度予想することは可能であると考えられる.
図 4.8 理論値と実測値の比較
33
5.結論
本研究により,太陽追尾を 1 軸駆動で行った場合も 2 軸駆動と同様に,朝や夕方の発電量の落
ち込みを抑制されることが確認でき,太陽追尾による有効性が認められた.太陽の軌道は季節ご
とに変化するため,追尾の有効性も異なるが,11 月 4 日においては 1.33 倍の違いが出ていること
が実測の結果から確認できた.また,追尾に要する消費電力を測定した結果,1 時間当たり 2.5W
となることが実測をすることによって求めることができた.この値を用いて積算消費電力量を求め
ると,25.56Wh と算出され,追尾型ソーラーパネルで発電した積算電力量 3%であると算出され
た.
さらに,太陽の動き方から,追尾型ソーラーパネルと固定型ソーラーパネルに照射される太陽光
の直達日射成分を比較することによって,発電量の向上を見積もることができた.追尾/固定比
は,追尾可能な範囲に依存するが,可動範囲を今回の測定条件に近い-37~+37 度とすると,11 月
4 日では約 1.33 倍と算出された.それと同じ可動範囲で,追尾/固定比の年間平均を求めると,
約 1.44 倍と算出された.これに追尾にかかる消費電力として積算電力量の 3%差し引いて実質の
追尾/固定比を求めると,1.40 倍と算出された.これをもとに追尾装置を導入するメリットを考え
る.
まず,装置の初期投資でのコストの観点で比較をする.ソーラーパネル 1 枚の価格を x [円],
追尾装置 1 つの価格を y [円],追尾/固定比の年間平均を k ,発電量の年間平均を P [W]とす
る.1W あたりに必要な初期投資のコストは,パネル 1 枚を追尾した場合,パネル 2 枚を並べた場
合,それぞれ式(5.1),(5.2)で表される.
C1 
x y
[円/W]
kP
(5.1)
2x x

[円/W]
(5.2)
2P P
C1 C2 は式(5.3)で表される. C1 C2  1 ならば単位電力の発電に必要な初期投資のコストを,
C2 
追尾をすることによって抑えられることとなり,優れていると言える.
C1 x  y

(5.3)
C2
kx
今回の測定で用いた装置では, x  40000, y  25000, k  1.40 である.式(5.3)に代入すると,
C1 C2  1.16 と算出された.これは,単位電力の発電に必要な初期投資のコストが,追尾した場
合 16%高くなることを示している.このことから,初期投資でのコストに見合うだけの発電量の向上
は見込めないという結果が得られた.
もし,初期投資のコストに見合うだけの発電量の向上をさせるためには,①同じ装置で 62.5%の
発電量の向上,②62,500 円以上のソーラーパネルを用いる,などの方法が挙げられる.①の場合,
2 軸追尾のように常に正対した状態で追尾する場合に 66%の向上となることから,同じ装置で 2
軸駆動並みの追尾動作を実現させるということであり,現状のシステムでは実現が難しいと考えら
れる.②の場合, C 2 の値が今回以上のソーラーパネルを用いることが必要である.具体的には,
34
面積が大きなパネル,変換効率の高いパネルを用いるなどの方法が考えられる.
続いて,設置面積の観点で比較する.パネルを多数並べる場合は,パネルの枚数に比例して必
要な設置場所が増える.メガソーラー発電施設のように広い敷地が用意されている場合には,パ
ネルを多数設置することにあまり問題点はないが,一般家庭の場合は,設置可能な場所には限
界がある.追尾装置を導入すると,設置面積を半分近く縮小することができるメリットがある.初期
投資のコストが 16%程度増えたとしても,限られた面積で発電量を確保したいと考えている人にと
っては,追尾装置の導入は十分メリットがあることだと言える.
謝辞
指導教員である山田博仁教授には,本研究を進めるにあたり,測定系の準備や多くのご指導
をいただき,様々な面でお世話になりました.
本研究室の大寺康夫准教授,北智洋助教には,主に研究室のゼミを通じて有用なアドバイスを
数多くいただき大変お世話になりました.
また,本研究室で一緒に研究を進めてきた同期・先輩方については,新鮮な視点でのアドバイ
ス等,参考になる意見を多数いただき,研究を進める上での大変役に立ちました.以上の方々に
この場をお借りして改めて感謝申し上げます.
最後に,本研究は ECO-WORTHY 社製の太陽追尾センサー付 1 軸アクチュエータを用いて行
ったものです.本装置をモニターとしてご提供いただいた株式会社オータムテクノロジーの岡本
洋様に深謝します.
参考文献
[1] 資源エネルギー庁編,エネルギー白書 2015,p.110,2015.
[2] 志田健太郎,”太陽追尾型ソーラーパネルに関する研究”,東北大学工学部情報知能システ
ム総合学科卒業論文,2013.
[3] 市村正也,太陽電池入門,オーム社,2012.
[4] 谷辰夫・安藤靜敏・平田陽一・関口直俊,21 世紀のクリーンな発電として 太陽電池(原理か
ら応用まで)〔改訂版〕,パワー社,2008.
[5] 佐藤勝昭,イチバンやさしい理工系 「太陽電池」のキホン,ソフトバンククリエイティブ,2011.
[6] 長沢工,日の出・日の入りの計算―天体の出没時刻の求め方,pp.9-11,地人書館,1999.
[7] ”太陽の高度と方位角”,音と色と数の散歩道,
http://k-ichikawa.blog.enjoy.jp/etc/HP/js/sunShineAngle/ssa.html.(参照 2016-01-05)
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