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耳 川 水 系 総 合 土 砂 管 理 に 関 す る 技 術 検 討 会 山 地 領

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耳 川 水 系 総 合 土 砂 管 理 に 関 す る 技 術 検 討 会 山 地 領
資料-5
耳川水系総合土砂管理に関する技術検討会
山地領域ワーキング
目
次
1. 山地領域の現状と課題 .....................................................................................1
1.1
1.2
1.3
1.4
耳川流域の土砂生産
山地領域の現状と課題の関係
土砂に関わる問題の現状
総合土砂管理上の課題
1
7
8
16
2. 耳川水系の現状と課題のまとめ.....................................................................20
平 成 22 年 9 月 3 日
宮崎県河川課
1. 山地領域の現状と課題
1.1 耳川流域の土砂生産
地形
① 耳川の流域は地形が急峻で地質が脆弱であり、降水量も多いため、日本有数の土砂生産量を有している。
② 特に、豪雨時に大小の斜面崩壊が多数発生し、大規模な土砂災害が発生している。また、今後も豪雨発生時におけ
降水
地質
・山地が急峻
・脆弱な地質
(四万十帯等)
る大規模な土砂生産量が予測されている。
・豪雨の発生リスクの増大
■ 日本有数の土砂生産を有する耳川
我が国は世界有数の火山国であり、荒廃地は火山周辺に多く分布している。中でも北陸と中部地方は中央構造線
土砂生産・流出の素因
土砂生産・流出の誘因
周辺に重荒廃地が集中しており、ダムの堆砂量は、中部地方が突出して多い。
九州地方のダムの堆砂量は全国的に見て少ないが、
耳川流域に限れば全国でもトップクラスの堆砂量を示してい
る。
耳川流域は全国的にも非常に土砂生産量が多いエリア
図 3 耳川流域で土砂生産量が多い理由
1,200
1,000
■ 大規模洪水時に発生する局所的堆砂
800
600
耳川に位置する全利水ダムでの近年の年堆砂量の実績を図 4 に示す。大きな洪水が発生した年の堆砂量は、そ
400
の他の年に比べて大きな値を示している。また、日最大雨量や 48 時間雨量が大きくなると、土砂生産が活発にな
200
る。
地域
日最大雨量との比較
10,000
<出典>
国土交通省 HP より
年間堆積土砂量(千m 3)
図 1 地方別のダム比堆砂量の比較
土砂生産量強度マップ
0
9,000
200
8,000
400
平成1 7 年 9 月
7,000
600
堆砂量(7ダム合計)
日最大雨量 (日向)
日最大雨量 (諸塚)
日最大雨量 (上椎葉)
6,000
5,000
800
1000
4,000
1200
平 成1 6 年8 月
3,000
日最大雨量(mm)
全国平均
耳川流域
九州
四国
中国
近畿
中部
北陸
関東
1400
平成 5 年8 月
2008年
2007年
2006年
2005年
2004年
2003年
2002年
2001年
2000年
1999年
1998年
1997年
1996年
1995年
2000
1994年
0
1993年
1800
1992年
1,000
1991年
1600
1990年
2,000
48 時間雨量との比較
10,000
9,000
200
8,000
400
7,000
600
堆砂量(7ダム合計)
48時間雨量 (日向)
48時間雨量 (諸塚)
48時間雨量 (上椎葉)
6,000
5,000
平 成1 7 年9 月
800
1000
4,000
1200
平成 1 6 年8 月
3,000
1400
平成 5 年8 月
2008年
2007年
2006年
2005年
2004年
2003年
2002年
2001年
2000年
1999年
図 2 九州地方の土砂生産量強度マップ
1998年
2000
1997年
0
1996年
(出典 : ダム工学 Vol14,No.3,2004)
1995年
1800
1994年
1,000
1993年
1600
1990年
地形(標高,傾斜)と地質情報を
用いて地域毎の土砂生産量を予測
2,000
1992年
土砂生産量強度マップ
図 4 年堆砂量の経年変化(耳川流域に位置する 7 ダムの合計)
1
48時間雨量(mm)
年間堆積土砂量(千m 3)
耳川
0
1991年
東北
0
北海道
比堆砂量 (m3/年/km2)
比堆砂量実績図(直轄・水機構ダム)
耳川流域は、地すべり地形が分布しているとともに、今後も豪雨が起こる可能性が高く(図 5 参照)
、大規模な土
砂生産が起こる可能性が高い。
図 5 九州の地すべり地形分布と条件付降雨発生確率
【九州電力㈱ 提供資料】
2
〔大規模崩壊〕
■ 耳川流域での斜面崩壊
〔地すべり性崩壊〕
平成 17 年台風 14 号の影響により、地すべりや崩壊箇所が増加している(図 6 参照)
。
また、大規模な斜面崩壊等が、島戸地区等に発生している(図 7 参照)
。
耳川水系斜面崩壊箇所分布図(ダム湖、河川沿いを中心に調査)
赤土岸山 諸塚山
柳原川
向坂山
七ツ山川
CA=147.4k㎡
国見岳
CA=40.6k㎡
白岩山
延岡市
諸塚
日
豊
上椎葉
塚原
岩屋戸
×
山須原
本
西郷
CA=56k㎡
清水岳
線
CA=49.2k㎡
CA=143k㎡
大内原
CA=89.2k㎡
CA=211k㎡
日向市
高塚山
江代山
〔表層崩壊〕
〔ガリー(雨裂)崩壊〕
〔渓流崩壊〕
耳 川
〔林道など人工構造物からの崩壊〕
図 6 耳川水系崩壊箇所分布図(ダム湖,河川沿いを中心に調査)
【九州電力㈱ 提供資料】
3
■ 大規模な斜面崩壊状況(1)
1上椎葉ダム貯水池内(右岸)
2上椎葉発電所進入路(左岸)
6塚原ダム貯水池内(右岸)
7塚原発電所5号機進入路
(左岸)
8塚原ダム下流0.5km
(右岸)
赤土岸山
諸塚山
柳原川
向坂山
国見岳
七ツ山川
延岡市
諸塚
白岩山
9塚原ダム下流1.2km(右岸)
日
豊
塚原
本
上椎葉
岩屋戸
山須原
大内原
清水岳
線
西郷
日向市
12山須原ダム下流1.5km(右岸)
高塚山
耳川
江代山
3 岩屋戸ダム調整池内
(右岸)
5 塚原ダム貯水池内
(支流右岸)
4 塚原ダム貯水池内
(支流右岸)
10 山須原ダム調整池内
(右岸)
図 7(1) 耳川流域での大規模斜面崩壊の発生状況【九州電力㈱ 提供資料】
4
11 山須原ダム下流1.3km(右岸)
■ 大規模な斜面崩壊状況(2)
図 7(2) 耳川流域での大規模斜面崩壊の発生状況【九州電力㈱ 提供資料】
5
また、耳川流域は、平成 17 年に塚原ダム下流で発生したような、深層崩壊の発生頻度が特に高い地域として推定され
ている。
耳川
図 8 深層崩壊推定頻度マップ【国土交通省 河川局砂防部 HP より】
図 9 塚原ダム下流の深層崩壊の状況【国土交通省 河川局砂防部 HP より】
6
1.2 山地領域の現状と課題の関係
① 耳川流域では、近年の局地的豪雨の頻発や相次ぐ台風の襲来の影響等により、土砂生産量が増加しており土砂問題が顕在化してきた。
② 本日のWGでは、山地領域における土砂問題の現状を確認したいと考えている。
ここでは、現時点で把握している耳川の山地領域における土砂に関わる問題の現状について、発生している現象とその原因についてまとめるとともに、発生している現象により生じる課題についても併せて整理した。
土砂に関わる問題の現状
【
要 因 】
総合土砂管理上の課題
【 現 象
後述 1.3.1
地形・地質
】
【 課 題 】
後述 1.4.1
山腹崩壊
崩壊地からの土砂流出
降雨パターンの変化
土石流の発生
作業道等の開設
後述 1.3.2
砂防施設の機能低下
土砂流出
後述 1.4.2
砂防施設容量減少
裸地面積の増加
ダム・河道の堆砂増
後述 1.3.3
手入れの行き届かない森林の増加
流木発生
後述 1.4.3
ダム・河道へ流木流出
※黄色の網掛け部は下流のダム・河道・海岸領域に対して影響が強い項目
上記の図の説明として下記に示す項目について、次ページ以降に内容の詳細を示す。
―― 本日のワーキングで確認したい内容 ――
【山地領域の土砂に関わる問題の現状】
【総合土砂管理上の課題】
1.3.1 山腹崩壊の増加
1.4.1 山腹崩壊の増加に伴う課題
(1) 山腹崩壊の増加状況
● 治水面(防災面)
(2) 山腹崩壊増加の要因
・崩壊地からの土砂流出
・地形,地質
・土石流の発生
・降雨パターンの変化
・作業道等の開設
1.4.2 土砂流出量の増加に伴う課題
1.3.2 土砂流出量の増加
● 治水面(防災面)
(1) ダムの堆砂状況からみた土砂流出量の増加状況(経年変化)
・砂防施設容量減少
(2) 土砂流出量増加の要因
・ダムおよび河道の堆砂土砂増加
・砂防施設の満砂
● 利水面(利用面)
・山腹崩壊の増加および裸地面積の増加
・ダムおよび河道の堆砂土砂増加
・手入れの行き届かない森林の増加
1.3.3 流倒木の発生
1.4.3 流木の発生に伴う課題
(1) 流倒木の発生状況
● 治水面(防災面)
,利水面(利用面)
,環境面
(2) 流倒木の発生の要因
・ダムおよび河道への流木流出
・手入れの行き届かない森林の増加
・山腹崩壊の増加
7
【ワーキングの最終目的】
山地領域としてあるべき姿
(目指すべき目標)を決定
する。
1.3 土砂に関わる問題の現状
1.3.1 山腹崩壊の増加
裸地以外
裸地
(1) 山腹崩壊の増加状況
近年、崩壊地が増加している。これは、豪雨の局地化,相次ぐ台風の襲来の影響と考えられる。
ダム集水域
上椎葉ダム
岩屋戸ダム
裸地面積(ha)
流域面積
2
(km )
211.0
143.4
H15
裸地面積/流域面積 (%)
H17台風前 H17台風後
H15
H17台風前 H17台風後
77.8
52.3
179.5
129.8
199.3
215.9
0.37%
0.36%
0.85%
0.91%
0.94%
1.51%
諸塚ダム
40.6
7.0
27.5
64.7
0.17%
0.68%
1.59%
塚原ダム
56.2
14.2
50.4
111.2
0.25%
0.90%
1.98%
山須原ダム
147.4
32.2
137.2
274.1
0.22%
0.93%
1.86%
西郷ダム
大内原ダム
49.2
89.2
26.2
25.0
59.0
67.6
85.0
68.0
0.53%
0.28%
1.20%
0.76%
1.73%
0.76%
下流域
147.1
67.3
105.8
107.1
0.46%
0.72%
0.73%
合 計
884.1
302.0
756.8
1125.3
0.34%
0.86%
1.27%
H15 年に比べて裸地面積の割合が増加
裸地以外
裸地
図 10 耳川流域での崩壊地・裸地面積の推移【九州電力㈱ 提供資料】
(衛星データを用いたリモートセンシング解析による抽出結果)
図 11 耳川流域での崩壊地・裸地面積分布図【九州電力㈱ 提供資料】
8
(2) 山腹崩壊増加の要因
■ 地形・地質
【※1) 岩屋戸ダム~山須原ダム間での例】
流域の地質は、上流部に秩父帯の粘板岩・千枚岩・チャートなどが分布し、中流部の広い範囲に四万十累層群の
・耳川右岸に中~大規模崩壊が多数発生
砂岩・頁岩及びその互層などが分布しています。下流部には尾鈴山酸性岩類の流紋岩などが見られる。
・地質構造が「走向:北東~南西方向,北西傾斜」の構造である
これらの基盤は北東-南西方向に帯状に配列し、北西方向に傾斜した構造をなしている。そのため、P4 の事例
ため、流盤となる斜面で崩壊が多数発生。
に示したとおり、流盤となる右岸側斜面で多数崩壊が発生している※1)。
・衝状断層が多数存在
また、耳川流域は、仏像構造線によって造られた日本最大級の断層とその周辺には変性・圧縮によってもろくな
・岩屋戸ダム~岩屋戸発電所間については、流路が直線的で地形
った破砕帯が分布しているため土砂生産が活発であり、破砕帯の侵食によって大地が刻まれて急峻な地形となっ
も単調であり、構造的に安定していることから崩壊が少ない。
ている。以上より、耳川流域は山腹崩壊が発生しやすい地形・地質条件であると考えられる。
塚原ダム下流 1.2km(右岸)
諸塚ダム
上椎葉ダム 岩屋戸ダム
西郷ダム
大内原ダム
図 12 耳川流域の標高コンター図(九電提供資料を一部加工)
図 12 耳川流域の標高コンター図(九電提供資料を一部加工)
図 13 耳川流域の地質図
【宮崎県地質図説明書:引用】
諸塚ダム
四万十帯の分布と構造線・プレートとの関係
塚原ダム
仏像構造線
上椎葉ダム
岩屋戸ダム
山須原ダム
秩父帯
【岩盤力学入門 1986 に一部加筆)
】
西郷ダム
大内原ダム
四万十帯
矢印の位置が断層.秩父帯(三宝山帯)の石灰岩(左上)
が、四万十帯の破砕された砂岩泥岩互層(右下)の上へ
衝上している。
図 14 椎葉村仲塔の仏像構造線
図 13 耳川流域の地質図
9
5000
大きな変化なし
総雨量
総雨量 (5年移動平均)
4000
500
増加傾向
400
200
100
時間最大雨量
時間最大雨量 (5年移動平均)
100
60
近年増加傾向
40
20
0
西暦 年
総雨量
総雨量 (5年移動平均)
3000
2000
西暦 年
日最大雨量
日最大雨量 (5年移動平均)
300
200
西暦 年
120
60
40
10
1976
1977
1978
1979
1980
1981
1982
1983
1984
1985
1986
1987
1988
1989
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
上椎葉
1976
1977
1978
1979
1980
1981
1982
1983
1984
1985
1986
1987
1988
1989
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
1976
1977
1978
1979
1980
1981
1982
1983
1984
1985
1986
1987
1988
1989
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
・ 時間最大雨量は、上椎葉,諸塚で近年増加傾向である
雨量(mm)
・ 日最大雨量は、上椎葉、諸塚、日向ともに近年増加傾向である
雨量(mm)
・ 上椎葉、諸塚、日向ともに、年総雨量の明確な変化は認められない
雨量(mm)
日最大雨量
日最大雨量 (5年移動平均)
1976
1977
1978
1979
1980
1981
1982
1983
1984
1985
1986
1987
1988
1989
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
過去と比較すると総雨量に大きな変化は見られ
ないのに対して短期雨量(日最大,時間最大)
が増加しており、雨の降り方が変化している。
日数
近年、全国的に温暖化の影響と考えられる豪雨の局地化が発生している。気象庁のアメダスのデータから、全国的に時間雨量 80mm 以上の降雨の
回数は増加している傾向が見られる(図 15 参照)
。
耳川流域においては、下記のことがわかる(図 16 参照)
。
5000
500
近年増加傾向
時間最大雨量
時間最大雨量 (5年移動平均)
80
西暦 年
図 16 耳川流域における雨量の経年変化【出典:国土交通省 気象庁 過去の気象データ】
20
15
5
4000
1000
1000
1000
0
0
0
近年増加傾向
400
100
100
100
0
0
0
100
20
20
0
0
1976
1977
1978
1979
1980
1981
1982
1983
1984
1985
1986
1987
1988
1989
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
時間最大雨量
80
雨量(mm)
2000
1976
1977
1978
1979
1980
1981
1982
1983
1984
1985
1986
1987
1988
1989
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
1976
1977
1978
1979
1980
1981
1982
1983
1984
1985
1986
1987
1988
1989
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
3000
1976
1977
1978
1979
1980
1981
1982
1983
1984
1985
1986
1987
1988
1989
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
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1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
300
雨量(mm)
400
雨量(mm)
1976
1977
1978
1979
1980
1981
1982
1983
1984
1985
1986
1987
1988
1989
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
雨量(mm)
4000
1976
1977
1978
1979
1980
1981
1982
1983
1984
1985
1986
1987
1988
1989
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
日最大雨量
雨量(mm)
総雨量
雨量(mm)
■ 降雨パターンの変化
35
・1時間降水量の年間発生回数
・全国約1300地点のアメダスより集計
・1000地点あたりの回数としている
33
30
1976~1986平均
9.9回
10
11 11
5
6
27
1987~1997平均
15
15
13
10
5
諸 塚
西暦 年
西暦 年
11.5回
11 11
5
大きな変化なし
5000
120
時間最大雨量
時間最大雨量 (5年移動平均)
西暦 年
27
11
8 8
1998~2008平均
25
10
9
8
18.5回
20
23
14
8
日最大雨量
日最大雨量 (5年移動平均)
23
17
15
15
18
12
5
9
0
西暦 年
図 15 時間雨量 80mm 以上の発生回数の経年変化(全国)
日 向
総雨量
総雨量 (5年移動平均)
大きな変化なし
3000
2000
西暦 年
500
近年増加傾向
300
200
西暦 年
大きな変化なし
80
60
40
■ 作業道等の開設による斜面の不安定化
平成 17 年 9 月の台風 14 号で、耳川流域において発生した斜面崩壊の多くが作業道に接した箇所に位置してい
る。宮の元ダム流域では崩壊地面積うち約 7 割が、上椎葉流域では全崩壊面積に対して 5 割程度が作業道に関連
した箇所で崩壊が発生している。
これは、作業道の開設によって、自然斜面は切土斜面や盛土斜面に改変されることに加えて、排水不良により
斜面は不安定化し、斜面崩壊が発生しやすい状態になったためと考えられる。
7,000
作業道等有
作業道等無
崩壊面積(㎡)
6,000
5,000
4,000
3,000
2,000
【九州電力㈱ 提供資料】
図 18 作業道と崩壊地の発生状況(上椎葉ダム流域)
1,000
0
0
5
10
15
20
25
30
35
崩壊番号
図 19 上椎葉及び宮の元ダム位置図
表 1 森林計画区別林道密度及び林内路細密度
区
分
①:
林道密度
②-①:
公道密度
③-②:
作業道密度
②:
林内道路密度
(単位:m/ha)
③:
林内路網密度
耳川計画区
7.5
10.2
22.7
17.7
40.4
広渡川計画区
4.7
19.5
9.2
24.2
33.4
五ヶ瀬川計画区
7.4
10.1
17.9
17.5
35.4
大淀川計画区
4.1
17.2
9.1
21.3
30.4
一ツ瀬川計画区
4.3
8.1
14.3
12.4
26.7
県平均
6.2
11.9
16.7
18.1
34.8
※公道密度及び作業道密度は②林内道路密度と林内路網密度より算定した。
※林道密度:1ha 当たりの林道の密度
資料:
「平成 16 年度林内路網統計」を一部加筆
「耳川流域の森林保全に関する取組みについて 平成 22 年 7 月 20 日(九州電力資料)
」より
表 1 は耳川及び県内各地の林道・作業道等の密度を示している。耳川計画区の特徴としては、林道密度や公道密度
は県平均とほぼ同程度であるのに対して、作業道の密度は県平均に比べて非常に大きいことが分かる。
図 17 作業道と崩壊地の発生状況(宮の元ダム流域)
【九州電力㈱ 提供資料】
このように作業道の密度が高いことにより、前述の斜面の不安定化と相まって、山腹崩壊の発生が懸念される。
11
1.3.2 土砂流出量の増加
(1) ダムの堆砂状況からみた土砂流出量の増加状況(経年変化)
(2) 土砂流出量増加の要因
■ 貯水池内堆砂量の経年的増加
■ 砂防施設の満砂
耳川流域内の 7 ダムの堆砂実績を表 2,図 20 に示す。同図表より以下に示す事項がわかる。
図 21に砂防施設の計画堆砂量の経年変化を示す。
耳川流域では1950年代中頃より砂防施設の建設が始まり、
・ 各ダムとも堆砂量は経年的に増加している。
1970 年代に急速に砂防施設の建設を行った。
・ 2008 年(平成 20 年)時点における 7 ダムの全堆砂量は約 3,100 万 m3(東京ドーム 25 個分)であり、下流
図中に砂防施設の計画堆砂量の経年変化を示しているが、計画堆砂容量は年々増加していることより、土砂流
出量は減少していることが考えられる。また、表 3 にダム流域毎の砂防施設の堆砂量の内訳を示しているが、
河道の土砂動態に与える影響は非常に大きいものと想定される。
河口(大内原ダム下流域)および諸塚ダム流域以外の流域で、堆砂率が高くなっておりいずれも 70%以上の堆
・ ダム別の堆砂量では、約 80%を上流の 3 ダム(上椎葉、岩屋戸、塚原ダム)が占めており、特に最上流の
砂率となっている。
上椎葉ダムでは、全体の約 40%が堆積している。
耳川全体で見ても、平成 20 年時点において砂防ダムの堆砂率は約 75%まで達していることから、今後、砂防
・ ダムの改造・運用変更を計画している山須原,西郷,大内原ダムの堆砂量は、7ダムの総堆砂量の約 15%
ダムが満砂するにつれてダム・河道への土砂流出量は増加していくことが懸念される。
程度である。
2,000,000
表 2 ダム堆砂量の内訳表(2008 年度時点)
40.1%
3.2%
100.0%
※
ここでは、堆砂率は最低水位以下容量に対する実績堆砂量(2008 年)の割合を示す。
堆砂測量方法変更(2003 年)
35,000
大内原ダム
山須原ダム
岩屋戸ダム
諸塚ダム
マルチビーム
750,000
100,000
500,000
50,000
250,000
西郷ダム
塚原ダム
上椎葉ダム
合計(変更前)
0
25,000
堆積土砂量(千m3 )
0
1950
30,000
シングルビーム
150,000
1,000,000
2008
17.9%
2006
21.3%
2004
8.1%
2002
3.3%
200,000
2000
6.1%
各ダム堆砂÷
全ダム合計堆砂
1,250,000
1998
-
1996
46.7%
1994
106.5%
1992
282.5%
1990
45.3%
1988
85.5%
1986
83.17%
堆砂率
累計計画堆砂量
累計堆砂量
堆砂率
1984
33.2%
※
1,500,000
1982
30,871 千 m
1980
1,000 千 m
1978
12,375 千 m
1976
5,511 千 m
1974
6,586 千 m
1972
2,508 千 m
1970
1,023 千 m
1968
1,868 千 m
2008年(平成20年)
1,861,389
1,417,467
76.15%
図 21 砂防施設の計画貯砂量の経年変化
20,000
補正前※
15,000
表 3 ダム流域別の砂防施設の堆砂量の内訳表(2008 年時点)
河口
大内原
西郷
山須原
塚原
岩屋戸
上椎葉
諸塚
耳川全体
宮崎県全体※2
計画堆砂容量※1
234
123
58
956
27
55
394
15
1,861
15,791
累計堆砂量※1
100
90
44
782
27
41
325
9
1,417
8,827
42.8%
73.0%
76.1%
81.7%
100.0%
73.8%
81.8%
60.0%
76.2%
55.9%
10,000
5,000
0
1930年
※
堆砂率
1940年
1950年
1960年
1970年
1980年
1990年
2000年
※平成17 年を基準として、H17 シングルビームの値-H17 マルチビームの値を平成16 年以前(シングルビーム)に一律補正
※1
図 20 堆砂実績(累計)の経年変化図(2008 年度時点)
※2
参 考)ダム貯水池の堆砂測量方法について
【シングルビーム】
・ 複数の管理測線を横断測量し、各2 次元断面での面積と断面間の距離から堆砂量を算定する方法。
・ 管理測線の間が未測域となるため、精度は劣る。
【マルチビーム】
・ 貯水池底の堆積状況を 3 次元化することで、貯水池底の状況を立体的に把握することができる。
・ 堆砂量は、シングルビームと同様、2 次元断面での面積と断面間の距離から求めるが、断面数や断面間の距離を任意に設定できるため、
堆砂量の算定精度は高い。
従来、ダム貯水池の堆砂測量は、シングルビーム法で実施していたが、最近、マルチビーム法に移行しているダムが多い。
12
単位は千 m3
宮崎県合計値 1998 年時点
砂防施設の設置数(基)
250,000
3
1966
3
1,750,000
1964
3
合 計
1962
3
諸塚ダム
1960
3
上椎葉ダム
1958
3
岩屋戸ダム
1956
3
塚原ダム
1954
3
山須原ダム
1952
2008 年
累計堆砂量
西郷ダム
砂防施設の累計計画堆砂量(m3)
大内原ダム
300,000
砂防施設の設置基数
砂防施設の累計計画堆砂量
■ 山腹崩壊の増加および裸地面積の増加
先述した山腹崩壊,裸地面積の増加により、山林からの土砂流出量を増加させていると考えられる。
■ 手入れの行き届かない森林の増加
森林は深層崩壊を抑制するものではないが、森林が根系を張り巡らすことで表層崩壊を抑制する働きと、森林
の下層植生や落葉落枝が地表の浸食を抑制することによって土砂の崩壊を防ぐ役割を果たす。そのため、手入れ
が十分に行き届かない森林が増加すると、土砂流出を抑制する機能が低下すると考えられる。
平成 17 年度における宮崎県の林業就労者は、20 年前の 35%に減少しており、林業就労者のうち 50 歳以上が
67%(60 歳以上は 35%)を占めている(図 22 参照)
。今後、林業の伝い手不足や後継者不足によって、手入れの
行き届かない森林が増加することが懸念される。
林業就労者(県内)年齢別(平成17年度)
林業就労者(県内)の推移(国勢調査)
30%
12,000
10,120
女
10,000
男
25%
60歳以上:35%
20%
8,000
6,632
15%
20年前の
35%に減少
10%
2,311
5%
1,151
6,000
8,292
5,481
372
2,000
65歳以上
60~64歳
55~59歳
50~54歳
45~49歳
平成17年
40~44歳
昭和60年
35~39歳
昭和40年
30~34歳
0
25~29歳
0%
1,939
20~24歳
4,000
耳川計画区:623人
(H17,男女計)
15~19歳
林業就労者数(人)
1,828
50歳以上:67%
女
男
図 22 林業就労者の状況(宮崎県下)
13
1.3.3 流倒木の発生
諸塚中心部
(下流より望む)
(1) 流倒木の発生状況
椎原橋(諸塚中心部下流)
斜面崩壊が度々発生している耳川流域では、斜面崩壊や土砂流出とともに樹木が連鎖的に倒壊して多数の流木
が発生し、これらの流木がダム地点にまで流出している。
図 23 にダム地点に到達した流木等の引揚げ実績を示す。平成 6 年から 20 年度まで、年間約 6,500m3 の流木※1
が流入していることが分かる。この量は、他ダムに比べて多い※2。
※1
耳川流域内のダムには網場等の流木捕捉施設が設置されていないため、堤体位置まで流入してきた流木は一部
が捕捉され、
残りは下流へと流下している。
表中の値は堤体位置にて捕捉された流木の実績を示したものである。
20,000
大内原
岩屋戸
西 郷
上椎葉
山須原
諸 塚
塚 原
18,000
写真 1 大規模出水時の流木による被災状況
3
流木塵芥引揚げ量(m )
16,000
14,000
12,000
(2) 流倒木の発生の要因
10,000
8,000
■ 手入れの行き届かない森林の増加
6,000
先述したように、
手入れが十分に行き届かない森林が増加することが懸念される。
手入れが十分に行き届かず、
4,000
2,000
0
伐倒木及び風倒木が放置されるような状況において、河川付近に放置されたものは、大規模出水が発生すると河
H6年
H7年
H8年
H9年
H10年 H11年 H12年 H13年 H14年 H15年 H16年 H17年 H18年 H19年 H20年
0
諸 塚
上椎葉 1,000
0
岩屋戸
塚 原 680
0
山須原
0
西 郷
0
大内原
600
2,100
1,700
720
290
0
2,120
420
1,440
1,690
450
0
0
4,000
1,000
3,000
3,000
1,200
80
110
10,030
270
1,170
170
0
0
0
2,180
300
850
200
85
70
200
6,140
0
136
100
0
0
0
2,250
21
157
0
0
30
0
265
120
0
1,163
220
380
460
5,222
162
563
267
0
420
221
2,414
368
3,425
150
483
300
246
6,296
1,738
3,200
106
1,041
2,129
35
3,251
129
1,042
465
0
567
951
2,597
30
660
408
0
276
46
3,461
川沿いや渓流沿いの倒木が河川へ流出し、結果として流木量が増加することが考えられる。
94
1,608
267
0
170
113
673
(手入れが行き届いている森林)
(手入れが行き届いていない森林)
※参考)日向土木事務所管内の沿岸域(五十鈴川河口~耳川河口付近)での流木引揚げ量:8,490m3(平成 17 年度)
図 23 流木処理実績
※2【他ダム流域の実績データを用いた、耳川流域の 7 ダムにおける流木発生量の試算】
発生流木量は、流域の土地利用特性,洪水の規模・頻度により異なるが、既設ダムのアンケート調査計結果に基づき、耳川流域の 7
ダムの流域面積(737km2)から発生流木量を推定すると 1,300m3/年となる。よって、耳川流域の流木発生量約 6,000m3 は、他ダムと比
大規模出水時の流木量が多い
べて多いと考えられる。
図 24 手入れの行き届いていない森林の状況(イメージ)
比流木発生量=21.7-3.02・ n(A)=21.7-3.02× n(737 km2)=1.76m3/km2/年
流木発生量=比流木発生量×流域面積=1.76 m3/km2/年×737km2=1,297≒1,300 m3/年
■ 山腹崩壊の増加
山腹を被覆している樹林は山腹崩壊時に土砂とともに流出する。そのため、山腹崩壊の増加が流倒木発生の増
加の一因と考えられる。
出典:
「ダム管理設備基本設計要網(案) H9.2」
ダム管理設備基本設計要網検討委員会
14
1.3.4 山地災害の被害状況
先述したような土砂の流出,流倒木の発生は、下流のダム・河道への影響に限らず、山地の土壌流出や森林資源の
流出につながる。
山腹崩壊や保安林内の山地災害に対する被害費も、
平成 17 年災の耳川計画区で 145 億円と高額なものとなっている
(表 4 参照)
。また、県内の被害額に対する耳川計画区の割合も大きい。
表 4 山地災害の被害報告額
単位:千円
管内別
/
平成15年災
平成16年災
平成17年災
平成18年災
平成20年災
平成19年災
平成21年災
災害別
箇所
日向市
耳
川
1
箇所
5,000
被害額
箇所
被害額
5
16,000
門川町
8
118,000
東郷町
1
60,000
2
90,000
箇所
1
5,000
被害額
箇所
119,000
1
7,000
5
90,000
8
168,500
1
312,000
2
30,000
100,000
33
836,047
62
2,905,000
1
325,200
7
2,840,350
13
1,527,000
北郷村
3
15,000
3
41,829
11
354,000
2
20,000
3
16,500
諸塚村
7
64,000
29
1,176,250
21
2,713,000
4
1,550,000
8
216,000
椎葉村
6
264,500
37
3,713,562
52
6,992,000
7
293,000
3
130,000
8,802,038 161
14,581,000
19
2,021,000
36
687,000
84
2,971,822 270
40% 54%
21,806,706 300
56% 16%
26,090,785 122
77% 44%
2,634,300
被害額
11
3
26% 46%
153,000
箇所
西郷村
773,700 123
5
被害額
南郷村
計
21
県の被害額に
対する割合
25%
県計
被害額
82
6
39% 29%
1,745,700
402,000
箇所
1
200,000
1
200,000
26% 25%
21 1,524,838
被害額
4
44%
451,815
過去7ヶ年(平成15~平成21年)における林地被害状況※流域別算出資料に供するため旧新市町村で作成
30,000
26,091
耳川以外
25,000
耳川
21,807
11,510
被害額(百万円)
20,000
13,005
15,000
10,000
14,581
5,000
2,198
0
1,424
774
8,802
2,634
613
2,021
1,746
1,525
1,059
687
1,123
402
452
252
200
平成15年災 平成16年災 平成17年災 平成18年災 平成19年災 平成20年災 平成21年災
15
1.4 総合土砂管理上の課題
1.4.1 山腹崩壊の増加に伴う課題
(1) 治水面上(防災面)の課題
■ 崩壊地からの土砂流出
■ 土石流の発生
平成 17 年台風 14 号災害においては、大規模な斜面崩壊が発生しており、崩壊した土砂が、河川へ流出して河
山腹崩壊の増加に伴い、土石流が発生する事(頻度の増加)が懸念される。
道の閉塞や,河床の上昇等を引き起こしている。
近年の土石流被害としては、平成 17 年台風 14 号災害において、椎葉村で土石流が発生し、死者 3 名、家屋
図 25 は同台風災害時における斜面崩壊土砂量について、崩壊した土砂量として「①耳川周辺で崩壊した土量」
、
全壊 7 戸、半壊 2 戸の被害が発生した。村外に通じる道路は全て寸断され、電話などの通信網は使用不能に陥
今後崩壊する恐れのある土砂量として「④将来崩壊するリスクのある土量」とに分類している。①の土量につい
るなど、村は一時完全に孤立した。
ては「②河川へ流出した分」
,
「③斜面に残存した分」に分類しており、上記の河道閉塞や河床上昇は②に該当す
る土砂により発生している。
以上は、崩壊が発生した直後に生じる問題であるが、今後の課題としては、
「③斜面に残存した分」や「④将
来崩壊するリスクのある土量」が流下するおそれがあることである。
山腹崩壊が増加傾向にある中で、
上記のように問題が生じるまでのタイムスパンに違いがある崩壊地からの土
砂流出に対して、今後どのように対応していくかが課題となる。
〔 平成17年台風14号による斜面崩壊土量の内訳 〕
約約470箇所
490 箇所
④将来
リスク
38%
(1,420万m3 )
① 耳川周辺で崩壊した土量
② 河川へ
流出
29%
3
(1,060万m )
2,270万m3
② 河川へ流出した分 1,060万m3
③ 斜面に残存した分 1,220万m3
④ 将来崩壊するリスクのある土量 1,420万m3
③ 斜面に
残存
33%
(1,220万m3 )
残存
33%
20万m3 )
⑤ 不安定土量 (③+④)
2,640万m3
④将来リスク
① 崩壊土量
写真 2 椎葉村上椎葉の土石流(平成 17 年台風 14 号災害)
③残存分
土石流の発生の仕方として、山崩れが起っている場合が多いが、その内容は、
②河川へ流出
①山腹崩壊の崩壊土砂が、多量の湧水や表流水を得て流動化し、渓流内に流れ込みそのまま土石流化する。
② 河道閉塞箇所やダムが決壊して、土石流化する場合。
③ 大雨により河川流量が増えることで、渓流内に堆積している不安定な土砂が流動化し、土石流となる。
④ 火山噴火により流出した物体や崩壊した山の一部が、雪や水と一緒になって流れる。
(万m3)
2,500
2,000
1,500
1,000
500
0
とされている。
:既に顕在化している不安定土砂量
(今後流入の恐れがある土砂量)
75
162
1,238
上椎葉
土石流の発生原因と山腹崩壊は間接的なものを含めると上記の①~③までが該当し、
土石流と山腹崩壊には密
:H20年度末までの実績堆砂量
386
551
659
岩屋戸
塚 原
接な関係があると言える。
1,815
182
251
山須原
102
西 郷
山腹崩壊の増加に伴い、土石流の発生する頻度が増加することが懸念される。
16
187
大内原
【九州電力㈱ 提供資料】
図 25 平成 17 年台風 14 号による斜面崩壊土砂量の内訳
16
1.4.2 土砂流出量の増加に伴う課題
(1) 治水面上(防災面)の課題
■ 砂防施設容量減少
堆砂進行により
前述したように耳川流域では 1950 年代中頃より砂防施設の建設が始まり、現在まで継続的に建設されている
排砂が懸念される領域
諸塚地区
にもかかわらず、平成 10 年、20 年度時点での砂防ダムの堆砂率は約 75%であり、計画堆砂容量(満砂の状態)
125
に近づいてきている。また、近年においてはダムの堆砂進行速度は、若干ではあるが増加傾向にある。
今後、土砂流出量(生産量)が増加していくと、砂防ダムの堆砂率は更に増加することが想定され、結果とし
120
常時満水位:EL.123.333m
最低水位 :EL.120.303m
て下流河道への、土砂流出量は増加して行くことが懸念される。
標高(EL.m)
115
■ ダムおよび河道の堆積土砂増加
①. 背水※およびダム貯水池内上流部の堆砂による流下能力低下
山須原ダム上流の諸塚村で浸水被害が発生した、平成 17 年の洪水時の最大流入量を表 5 に示す。
110
105
平成 17 年台風時の流入量は最大で 4,110m3/s(設計洪水流量の 121%)であり、諸塚村の浸水被害は、異常
出水による影響に加え、貯水池上流部の河床上昇と背水に伴う水位の上昇により、被害を助長させたと考えら
100
初期河床
H17河道
4,000
5,000
れる。
95
※背水:ダムの水位の影響により上流側の水位が影響を受けること。
0
1,000
2,000
3,000
山須原ダムからの距離(m)
表 5 耳川流域内のダム設計洪水流量と既往大規模洪水時の最大流入量
上椎葉ダム
岩屋戸ダム
塚原ダム
山須原ダム
西郷ダム
大内原ダム
諸塚ダム
設計洪水流量
1,800 m3/s
2,127 m3/s
2,650 m3/s
3,387 m3/s
3,572 m3/s
5,000 m3/s
600 m3/s
平成17年
台風14号
1,736 m3/s
(96%)
2,684 m3/s
(126%)
3,040 m3/s
(115%)
4,110 m3/s
(121%)
4,940 m3/s
(138%)
5,454 m3/s
(109%)
372 m3/s
(62%)
図 27 山須原ダム堆砂形状(初期河道・平成 17 年河道)
※( )
:設計洪水流量に対する割合
背水による堰上げ
洪水位
水位の上昇
堆砂による水位上昇
水位の上昇
洪水位
(背砂がない場合)
貯水池
堆砂(背砂)
貯水池
ダム建設前の河床高
①ダム建設直後
ダム建設前の河床高
②堆砂進行
図 26 背水および貯水池内上流部の堆砂による影響のイメージ図
17
6,000
②. 河道の異常堆積による流下能力低下
(2) 利水面上(利用面)の課題
耳川下流河道の一部では、土砂の異常堆積により流下能力が低下していることから、経年的に河床掘削を実
■ ダムおよび河道の堆砂土砂増加
施している。河床掘削位置図を図 28 に、河床掘削前後の状況写真を写真 3 に示す。
①. ダム利水容量の減少による減電
ダム貯水池に流入した土砂は、有効容量内にも堆積する。その堆積量が少ない間はダム機能上大きな問題と
地点
掘 削 前
はならないが、特別な対策を講じないかぎり堆砂が進行するとともに有効容量内の堆積量も増加し、利水に使
掘 削 後
用できる有効容量が減少する。堆砂の進行が原因で有効容量の減少が顕在化したダムでは、有効容量の維持・
回復を目的に,掘削・浚渫を実施しているダムや排砂バイパストンネルを設置しているダムもある。
490
広 瀬
常時満水位 480.000
480
470
460
平成 21 年 1 月 24 日撮影
450
平成 22 年 5 月 18 日撮影
440
最低水位 435.000
有効容量の減少
⇒減電
430
420
410
400
八重原
H17
390
元河床
380
370
0
平成 21 年 1 月 26 日撮影
1000
2000
3000
4000
5000
6000
7000
8000
9000
平成 22 年 5 月 18 日撮影
図 29 貯水池内堆積土砂の形状(上椎葉ダム)
写真 3 河床掘削前後の状況
②. ダム貯水池内堆砂による取水口の埋没
岩屋戸ダムでは、右岸側支川がダム地点近傍で合流しているが、支川から大量の土砂が流入しておりダム堤
体付近において土砂が多く堆積している。図に示すとおり左岸側に位置する取水口 2 号の敷高以上まで堆積が
進行しており、このまま河床が上昇すると、発電取水の機能障害が懸念される。
340
大内原ダム
330
常時満水位 326.400
取水口1号敷高 321.0m
320
310
取水口2号敷高 300.0m
300
元河床
290
H17
元河床
280
0
500
1000
1500
2000
2500
3000
図 30 貯水池内堆積土砂の形状(岩屋戸ダム)
図 28 耳川の河床掘削位置図
18
3500
4000
1.4.3 流木の発生に伴う課題
(1) 治水面上の課題
(2) 利水面および環境面上の課題
■ ダムおよび河道への流木流出
■ ダムおよび河道への流木流出
①. 流木による放流設備の機能障害
①. 河道領域での課題
流木の到達状況を写真 4 に示す。倒流木がダム地点まで到達すると、放流施設および取水施設に対して機能
利水面の課題・・・ 取水設備に流木が到達すると、施設故障の原因となり洪水後の流水管理が困難とな
障害を生じさせるおそれがある。
ることが懸念される。
放流設備に機能障害(放流能力の低下等)が生じた場合には、適切なダム操作(主に流入量=放流量)を行
②. 河口・海岸領域での課題
うことが困難となり、放流量不足による貯水位の上昇を引き起こすことや、流木の急激な流出により放流能力
利水面の課題・・・ 流木の漂流にともない、船舶の航行や操業中のトラブルも発生する事が懸念される。
が回復すると急激な放流量の増加を引き起こすことが懸念される。
環境面の課題・・・ 耳川河口は海岸保全区域に指定されているが、打ち上げあげられた漂着木をそのま
ま放置しておくと景観や環境へ影響や、海岸利用者等への接触等が懸念される。
海岸保全区
美々津港
被災箇所
被災箇所
写真 4 流木到達状況【九州電力㈱ 提供資料】
耳川
②. 河道領域での課題
・洪水時に大量の流木が流出するため、河川管理施設や人家で氾濫が発生した場合に、被害を助長する恐
れがある(参照)
被災箇所①
被災箇所②
・橋梁において流木が補足されることにより洪水の流下を阻害する恐れがある。
(参照)
写真 5 氾濫時の流木到達状況(諸塚中心部)
写真 6 橋梁における流木の補足状況(諸塚中心部下流:椎原橋)
【平成16年災害】異常出水によって発生した漂流物の埋塞(流木)による被害状況 (美々津港 美々津地区)
被災箇所①
被災箇所②
写真 5 氾濫時の流木到達状況(諸塚中心部)
【九州電力㈱ 提供資料】
【平成17年災害】異常出水によって発生した漂流物の埋塞(流木)による被害状況 (美々津港 美々津地区)
19
2. 耳川水系の現状と課題のまとめ
表 6 各領域の現状と総合土砂管理上の課題
関係者
(機関名称)
領域
山地
河口
・海岸
流域
治 水 面 ( 防 災 面 )
森林管理者
① 山腹崩壊の増加
表 6 各領域の現状と総合土砂管理上の課題
国
・ 地形・地質的特性
県森林整備課
・ 降雨パターンの変化
・ 作業道等の開設
県自然環境課
日向市,美郷町,諸塚村,椎葉村
② 土砂流出量の増加
・ 砂防施設の満砂
林業事業体
・ 山腹崩壊の増加および裸地面積の増加
森林所有者
・ 手入れの行き届かない森林の増加
砂防施設管理者
③ 流倒木の発生
県砂防課,
・ 手入れの行き届かない森林の増加
道路管理者
・ 山腹崩壊の増加
県道路保全課,日向市,美郷町,諸塚村,椎葉村
ダム管理者
九州電力(株)
④ 土砂流入量の増加
・ 山地領域からの土砂流出量の増加
⑤ 土砂移動の連続の遮断
⑥ 流倒木の流入
・ 山地領域からの流木流出
河川管理者
県河川課
利水者
県農村計画課
県漁港漁場整備課
県水産政策課
企業局
日向市(水道)
土地改良区
利用者
漁業協同組合
⑦ 河床上昇
(ダム下流区間および堰取水部で発生)
⑧ 河床低下および局所洗掘
・ ダムによる土砂移動の遮断
・ 橋脚・護岸近傍の局所洗掘や河床低下
⑨ 河床構成材料の変化(粒径の変化)
・ ダムによる土砂移動の遮断
⑩ 濁水の発生
・ ダムによる土砂移動の遮断
⑪ 瀬・淵の地形変化
・ ダムによる土砂移動の遮断
⑫ 流倒木の流入
・ 山地領域からの流木流出
⑬ 河口・港湾部の河床上昇
⑭ 海岸浸食
・ ダムによる土砂移動の遮断(供給土砂量の現
象)
⑮ 瀬・淵の地形変化
・ ダムによる土砂移動の遮断(供給土砂の減
少)および砂利採取
ダム
(利水)
河道
総合土砂管理上の課題
土砂に関わる問題の現状
港湾管理者
県港湾課
県漁港漁場整備課
県水産政策課
海岸管理者
県港湾課
県漁港漁場整備課
県水産政策課
利用者
漁業協同組合
地域住民
日向市,美郷町,諸塚村,椎葉村
利 水 面 ( 利 用 面 )
環 境 面
① 山腹崩壊の増加に伴う課題
・ 崩壊地からの土砂流出
・ 土石流の発生
② 土砂流出量の増加に伴う課題
・ 砂防施設容量の減少
③ 土砂流入(出)量の増加,土砂移動の連続
性遮断に伴う課題
・ 背水および貯水池末端部の堆砂による流
下能力の低下
④ 流木の発生に伴う課題
・ 流木による放流設備の機能障害
⑤ 河床上昇に伴う課題
・ 河道の異常堆積による流下能力の低下
⑥ 河床低下,局所洗掘に伴う課題
・ 局所洗掘に伴う橋脚の被災
・ 河床低下に伴う護岸堤脚部の被災
⑦ 流木の発生に伴う課題
・ 氾濫発生時の被害拡大
・ 橋脚部等の流木の捕捉による流下能力低
下
① 土砂流入(出)量の増加,土砂移動の連続
性遮断による課題
・ 利水容量の減少による減電
・ 取水口の埋没
② 流木の発生に伴う課題
・ 流木による取水設備の機能障害
③ 河床上昇に伴う課題
・ 河床上昇による取水口の埋没
④ 河床低下に伴う課題
・ 河床低下による取水の不安定化
⑤ 流木の発生に伴う課題
・ 流木による取水設備の機能障害
⑥ 河床構成材料の変化,濁水の発生,瀬・淵
の地形変化に伴う課題
・ 流出土砂量の減少に伴う産卵・生育場の変
化,および,大洪水による流出
・ (風評被害による遊漁券の売り上げ減)
・ 鮎の産卵・生育場の減少
⑧ 河床上昇に伴う課題
・ 河口部の土砂堆積による流下能力低下
・ 背後施設の浸水被害
⑨ 流木の発生に伴う課題
・ 氾濫発生時の被害拡大
⑦ 河床上昇に伴う課題
・ 港湾施設の埋設
⑧ 流木の発生に伴う課題
・ 漂流木による船舶の航行の支障や操業中
のトラブル
-
① 土砂移動の連続性遮断に伴う課題
・ 貯水池内土砂の細粒化
・ 水中生物の生息空間の連続性遮断
・ 濁水発生による水質変化
② 河床低下に伴う課題
・ 堰直下流の河床低下による魚道の機能低
下
③ 河床構成材料の変化,濁水の発生,瀬・淵
の地形変化に伴う課題
・ アーマー化,河床低下,堆砂等による生息
環境の変化
・ 付着藻類の変化による生育環境の激変
・ 濁水発生による水質変化
④ 流木の発生に伴う課題
・ 漂着木による環境,景観の悪化
・ 漂流・漂着木との接触
⑤ 海岸浸食に伴う課題
・ 親水空間の減少
合意形成が必要(地元との意見交換会)
※山地領域で発生する問題に対して関連する可能性がある項目を赤文字で表示
20
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