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都市公園におけるドッグラン整備に関する選択モデル分析 A
都市計画学会発表論文(2008/11/9@北海道大学) 都市公園におけるドッグラン整備に関する選択モデル分析 - Graphics と Text による選択肢集合の比較 - A Choice Modeling Approach to the Improvement of Dogrun Facilities in City Parks - A Comparison of Graphical and Text-style Choice Sets 吉田 謙太郎*・川瀬 靖** Kentaro Yoshida* and Yasushi Kawase** The purpose of this study is to analyze users’ preferences over dogrun facilities in city parks by using a choice modeling approach. The graphical and text-style format of choice sets were used to test the performance of both formats as means of effective information transmission. The dogrun is mostly built in a park in order to let dogs play inside a fence without a lead. Stated preferences data for graphical and text-style choice sets and users’ revealed preference data were collected at Komazawa Olympic park and Jyohoku central park. The data were analyzed by a mixed logit model which allowed individual taste heterogeneity in estimation. The differences in the two formats appeared apparently in the number of timbers, which was easily transmitted to the respondents as a visual image. Willingness to pays of users for the dogrun facilities were estimated at about 235 - 486 yen per use. Keywords: choice modeling analysis, dogrun, mixed logit model, city park 選択モデル分析,ドッグラン,混合ロジットモデル,都市公園 1. 課題の設定 少子高齢化社会の進展やコンパニオンアニマルの浸透と ともに、ペット飼育関連市場は活況を呈している。ペット フード工業会の調査によると、2007 年の全国飼育数推計値 は犬が 1252 万匹、猫が 1019 万匹であった。数による単純 な比較には注意が必要であるが、巷間しばしば指摘される ように、犬猫を併せた飼育数は 18 歳未満人口 2134 万人よ りも多い。不動産経済研究所の調査によると、2006 年に発 売されたペット飼育可マンションは 55,511 戸であり、総発 売戸数に占める割合は2005年の64.4%から74.5%へ増加し た。1998 年には約 1%であったことからしても、急速にペ ット飼育可マンション市場が拡大していることがわかる。 人間とペットの共生社会を考える上で重要な問題の1つ が、犬の戸外活動である。犬には適度な運動が必要である が、都市部でリード(引き紐)無しで運動するための適地 を見つけることは困難である 4)。ノーリード(放し飼い) に伴うトラブルが多いこともあり、民営・公営問わず、ノ ーリードで自由に犬を遊ばせることのできるドッグラン施 設が普及してきている。2007 年に実施された日本公園緑地 協会の調査 8)では、調査に回答した 380 の自治体のうち 8% でドッグランが設置されているとのことである。 本研究は、ペットの戸外活動を巡る問題が発生し、その 解消策としてドッグランが導入されてきている現状を受け て、都市公園を活用したドッグラン整備に関する利用者ニ ーズを的確に把握し、今後の施設整備に向けての基礎的情 報を得ることを目的とする。研究方法には選択モデル分析 を用いた。選択モデル分析は非市場財評価のための表明選 好法の1類型である。複数の選択肢の中から1つを選ぶこ とにより、選択肢を構成する各属性についての限界支払意 志額(便益)を評価する手法であり、コンジョイント分析 や選択実験とも呼ばれる。都市公園におけるドッグラン施 設を構成する各属性を評価することにより、利用者が望む 施設整備の方向性を明らかにすることができる。また、自 治体等がドッグラン整備を行う際の費用便益分析に活用し、 民間資本によるドッグラン施設提供時の整備内容と価格水 準を明らかにすることも可能である。 ドッグランに関する利用者調査等の既往研究 1) 6)は散見 されるが、都市公園におけるドッグラン整備に関する詳細 な利用者選好評価は本研究独自の貢献である。また、選択 モデル分析において、図・絵や修景写真、動画等(以下、 Graphics)を活用した調査が導入されつつあるが 3) 7)、従来 型の文字情報(以下、Text)と Graphics による情報提供の 差異について検証は十分でない。Graphics には Graphics 独 自のバイアスが存在する可能性があり、Graphics と Text の 差異を検証する必要がある。本研究では、上記の点を考慮 し、同一回答者に対して、同一の属性及び水準を持つ Graphics と Text によって構成された選択肢集合を提示し、 その回答の差異について、推定結果や選択確率等の比較を 通じて検証することを目的とする。さらに、実際の利用者 データである顕示選好(revealed preference: RP)データを、 選択モデルによる表明選好(stated preference: SP)データと 結合した上で比較することも本研究の課題である。 ドッグランについては、利用者ニーズも高く、また提供 されるサービス内容に関する利用者の意識と認知度も高い と考えられる。選択モデル分析を行い、Graphics と Text の 情報伝達の差異を検証するために必要な諸条件を備えてい る格好の評価対象であると考えられる。 2. ドッグランの概要 ドッグランはノーリードで自由に飼い犬を遊ばせるため * 筑波大学大学院システム情報工学研究科准教授 (University of Tsukuba) yoshidak@sk.tsukuba.ac.jp ** 株式会社日立ハイテクノロジーズ (Hitachi High-Technologies Corporation) の施設であり、1979 年に開設されたカリフォルニア州バー クレー市の Ohlone Dog Park をその起源とする説がある。 Brittain2)によると、都市部を中心として米国には 700 カ所以 上のドッグランがあると言われている。日本では 1995 年 10 月、北海道千歳市ハヤブサ公園に公営ドッグラン第 1 号 が設置された 6)。現在では、公営・民営合わせて 500 カ所 以上のドッグランがあると推計されている。 東京都は、2002 年以降ドッグランを次々と設置している。 都内は犬の散歩に必要なスペースが不十分であることから、 東京都は都市公園におけるドッグラン導入に積極的である。 東京都建設局は 9 カ所(1)の都立公園内にドッグランを設置 し、港湾局は 3 カ所(2)の海上公園に設置してきた。 また、区立公園については、23 区内のほとんどの公園で 犬連れ利用が禁止されているが、ドッグランが整備されて いる公園もある(3)。原則禁止が 10 区、リード等の条件付き 許可が 10 区、指定された公園のみ許可が 3 区ある。 東京都は、ドッグランは社会的ニーズが高く、犬の放し 飼い等の問題への対策として有効であると判断したことな どから、近隣住民及び他の公園利用者と調整のうえ設置し た 4) 10)。駒沢オリンピック公園及び神代植物公園では、2002 年 12 月より試験導入し、 アンケート調査結果が良好であっ たことなどから、2003 年 11 月より本格導入した。 東京都におけるドッグラン設置条件は 10)、①設置可能な 場所の確保、②駐車場の確保、③ボランティア団体等の協 力、④近隣住民の理解、の 4 点が基本であるが、水源や野 鳥等への影響も十分に考慮される。 ①については、一般利用者の動線と重ならないこと、民 家等から一定以上の距離があることが条件である。②につ いては、遠方からの利用者があるため、違法駐車対策とし て駐車場の確保が必要である。③については、ドッグラン 施設は公園管理事務所等による直接管理をとらないため、 運営を行うためのボランティア団体等の協力が必要である。 ④については、地元町会、各種団体、近隣住民、公園利用 者の合意形成が重要である。東京都における 9 カ所のドッ グランのうち、5 カ所については厚生労働省からの指導を 受けて利用者の登録制を実施している。ドッグラン施設の 設置規模等は様々であるが、面積 2000m2、フェンス等設置 費用 200 万円程度を標準としている。現在、都立公園内の 各ドッグランは順調に運営されていると報告されているが、 ボランティア人数が減少傾向のドッグランもある。長い目 で見た場合、ボランティアによる運営だけでは継続性に問 題が発生する可能性もある。 3. 選択モデルの概要 選択モデルは表明選好法(SP)の1類型である 5)。選択 モデルは環境財を複数の属性に分割して限界便益を評価す る手法であり、政策プログラム計画の変更にともなう便益 評価額の再計算が容易であり、費用便益分析に利用しやす いというメリットがある。選択モデルは日本でも導入が盛 んになりつつあり、公園の費用対効果分析にも一部利用さ れている。選択モデルは、確率効用モデルに基づく条件付 ロジットモデルによる推定が一般的である。 しかしながら、 回答者の選好に異質性を許容した混合ロジットモデル (mixed logit model)の推定結果が良好であったため、その 推定結果のみを表示した。混合ロジットモデルにおいて、 効用関数 U は(1)式の通り表される 9)。 U ij = β ' xij + η ' i z ij + ε ij (1) ここで,x と z はともに選択肢固有属性であり、βは固 定パラメータ(nonrandom parameter)、ηはランダムパラメー タ(random parameter)、εは誤差項である。このとき、回答 者 i が選択肢 j を選択する確率 Lij (η)は(2)式の通りになる。 Lij (η ) = exp( β ' x ij + η ' i z ij ) ∑ exp( β ' x ik + η ' i z ik ) ; j = 1,..., k ,..., J (2) k ここでηの確率密度関数を ƒ(η|Ω)とおき、Ωはこの分 布の固定パラメータを示すものとする。混合ロジットモデ ルの選択確率 Pij は(3)式の通り定式化される。 Pij = ∫ Lij (η ) f (η | Ω) dη (3) 上記の積分は解析的に解けないため、シミュレーション により近似する方法を用いてパラメータの推定を行う。 SP データと RP データとの結合については、現実の全選 択肢集合データと SP データとの結合時における整合性等 の問題があったため、SP の現状選択肢(opt-out)を実際の 回答者の利用情報(RP)で置換する方法を適用して推定を 行った。効用関数は(4)(5)(6)式の通り表される。SP の選択 肢の中で、現状選択肢を選択した場合は USP_optout、それ以 外の 3 つの選択肢の中から 1 つを選択した場合は USP、各 回答者が日常的に取っている利用行動を URP とする。ここ で は USP_optout を URP で 置 換 し た 。 な お 、 ASC は Alternative-specific constant(選択肢固有定数項)である。 U SP = β ' x SP + η' z SP +εSP U SP _ optout = ASC U RP = ASC RP SP_optout +εSP _ optout + β ' x RP + η' z RP +εRP (4) (5) (6) 4. データ収集と調査対象の概要 (1)調査対象の概要 本研究では、調査結果の妥当性を検証するため、都市公 園の中から、駒沢オリンピック公園と城北中央公園の 2 カ 所を選定してアンケート調査を実施し、利用者データを収 集した。駒沢オリンピック公園と城北中央公園は、ともに 東京都建設局が所管しており、利用登録制が未導入という 共通点があるとともに、地理的に離れているため利用者が 重複しないと想定された。また、面積や地面、木立、外灯 の有無等の属性が異なることから、分析結果の比較を行う 際に解釈の手がかりとなる情報が得られると想定されたこ とも、この 2 つの都市公園を調査対象とした理由である。 駒沢オリンピック公園は 2003 年 11 月 1 日、城北中央公 園は 2005 年 6 月 25 日にドッグランが開設され、それぞれ の公園名を冠したドッグランサポーターズクラブによって 運営されている。駒沢オリンピック公園は通路を利用した ため、地面の材質はコンクリートであり、面積が 1200m2、 ベンチが 20 個程度、水飲み場と外灯もある。高さ 1.2m の 金属製フェンスと二重扉、ドッグトイレがあり、24 時間利 用可能である。入り口は 2 カ所で、小型犬専用スペースと 大型犬も遊べるフリースペースに分けられている。 城北中央公園は面積が 2000m2 とやや広い。木立が多く 地面が湿っているため、砂が敷かれてある。開設当初は金 属製のフェンスと二重扉だけであったが、中央のフェンス と内部のフェンス、水飲み場が設置後に整備された。外灯 はない。入り口は 3 カ所で、小型犬専用スペースと中・大 型犬スペース、フリースペースに分けられている。 (2)アンケート調査の概要 アンケート調査は 2007 年 11 月 11~22 日の間に、両公園 とも平日 2 日間、土日 2 日間実施した。駒沢オリンピック 公園は外灯があるため、夜間利用者を考慮して早朝から夜 間まで配布したが、城北中央公園は外灯がなく夜間利用者 はほぼ皆無であるため、配布は早朝から日没までとした。 配布回収方法は、ドッグラン利用者への直接手渡し、郵 送による回収である。両公園ともに 400 通ずつ合計 800 通 を配布した。回収数は駒沢オリンピック公園が 177 通 (44%) 、城北中央公園が 180 通(45%)であり、この種の 調査としては比較的高い回収率が達成された。 回答者の主な属性は以下の通りである。駒沢オリンピッ ク公園では、男性が 44 人(25%) 、女性が 133 人(75%) であった。年齢層は 40 歳代が 54 人(31%)と最も多く、 50 歳代 50 人(28%) 、30 歳代 41 人(23%)であった。居 住形態は、戸建て住宅が 100 人(56%) 、分譲マンションが 44 人(25%)であった。城北中央公園では、男性が 61 人 (34%) 、女性が 119 人(66%)であった。年齢層は 30 歳 、50 代が 55 人(31%)と最も多く、40 歳代 54 人(30%) 歳代 42 人(23%)と次いだ。居住形態は、戸建て住宅が 104 人(58%) 、分譲マンションが 45 人(25%)であった。 両公園ともに 3km 以内の居住者が約 75%を占めた。自 宅からの距離の平均値は、駒沢が 3243m、城北が 2543m で あった。公園までの交通手段(複数回答可)については、 駒沢は徒歩が 89 人(50%) 、自転車が 27 人(15%) 、自動 車が 63 人(36%)であった。城北は徒歩が 74 人(41%) 、 自転車が 26 人(14%) 、自動車が 83 人(46%)であった。 次に、ドッグランの利用目的及び飼育犬種等に関する情 報を示す。駒沢オリンピック公園では、トイプードルやチ ワワ等の小型犬(成犬 8kg 未満)の割合が 53%、柴犬等の 中型犬(25kg 未満)が 21%、ゴールデンレトリーバー等の 大型犬が 22%を占めた。城北中央公園では小型犬の割合が 67%と高く、中型犬が 19%、大型犬が 12%であった。城北 中央公園では、ドッグランを使わず大型犬をノーリードで 遊ばせている利用者のいることがヒアリングから判明して おり、その影響で大型犬の割合が低い可能性がある。 表-1には飼育犬に関する諸情報を示した。狂犬病予防 接種は両公園とも 95%以上であり、保健所への登録も 85% 以上であった。全国の犬の登録数は 663 万 5807 匹(2006 年)であり、実飼育数の約 50%程度と推定されるため、両 公園での登録割合は高い。災害時等に個体識別可能なマイ クロチップ導入については、両公園ともに 10%であった。 表-2には回答者のドッグラン利用目的を示した。両公 園ともに最も高いのは犬同士のコミュニケーションであり、 犬の運動不足解消がそれに次いだ。愛犬家同士のコミュニ ケーションもそれぞれ 30%前後を占めた。 表-1 飼育犬に関する諸情報(複数回答) 項目 狂犬病予防接種 伝染病予防接種 保健所への登録 去勢・不妊 所有者明示 ペット保険 マイクロチップ その他 合 計 駒沢オリンピック公園 (95%) 168 (95%) 169 (86%) 152 105 (59%) (28%) 50 (21%) 38 (10%) 17 ( 1%) 2 (100%) 177 城北中央公園 174 (97%) 167 (93%) 153 (85%) 79 (44%) 49 (27%) 50 (28%) 18 (10%) 1 (1%) 180 (100%) 表-2 回答者のドッグラン利用目的(複数回答) 項目 犬同士のコミュニケーション 犬の運動不足解消 犬と遊ぶ 愛犬家同士のコミュニケーション しつけ・マナーの向上 撮影 その他 合 計 駒沢オリンピック公園 (90%) 159 (60%) 106 (38%) 68 (34%) 61 ( 9%) 16 4 ( 2%) ( 3%) 5 (100%) 177 城北中央公園 150 (83%) 145 (83%) 89 (49%) 46 (26%) 26 (14%) 4 ( 2%) 2 ( 1%) 180 (100%) (3) 調査シナリオ設定 選択モデル分析を行うには、仮想的な調査シナリオの設 定が必要である。ここでは、都市公園内に新たなドッグラ ンを作る場面を想定し、利用者にとって望ましい整備内容 を尋ねた。 新規にドッグランを作るには費用がかかるため、 利用料金を徴収することも明記した。予備調査等を基に、 表-3の通り属性と変数を設定した。一般的な都立公園よ りも小さな都市公園にもドッグランを設置するケースも想 定し、面積は 600、1200、2400、3600m2 の 4 種類を設定し た。地面の材質は芝、ウッドチップ、砂、土、コンクリー トの 5 種類である。それぞれの利点及び欠点についても詳 細に説明した。1 回あたりの利用料金は 100、200、400、700 円の 4 種類である。管理人は、駐在無し、土日のみ駐在、 毎日駐在の 3 種類である。木立の数は、無し、少し(ドッ グランのほとんどが日向) 、多い(ドッグランのほとんどが 日陰)の 3 種類である。水飲み場と外灯については、無し と有りの 2 種類である。自宅からの距離は 250、500、1000、 2000m の 4 種類である。 表-3 属性と変数 属性 面積 (m2) 地面の材質 1 回当料金 (円) 管理人 木立の数 水飲み場 外灯 自宅からの距離 (m) 600 芝 100 無し 無し 無し 無し 250 1200 ウッドチップ 200 土日のみ 少し 有り 有り 500 水準 2400 砂 400 毎日 多い 3600 土 700 コンクリート 在利用している公園の RP データによって置換した。距離 については、利用者の居住地の郵便番号データから、各公 園までの直線距離を算出して利用した。 5. 分析結果と考察 (1)混合ロジットモデルによる分析結果 表-4には駒沢オリンピック公園、表-5には城北中央 公園において収集したデータに基づく係数推定結果を示し 1000 2000 た。推定に使用した分析モデルは全て混合ロジットモデル であり、選択肢集合の提示方法と RP データの結合の有無 という相違点がある。8 個の推定結果に便宜上 Model 1~8 までの通し番号を振った。Model 1 と Model 2、Model 5 と Model 6 は SP データのみによる推定結果である。Model 1 と Model 5 は Graphics に基づく推定結果であり、Model 2 と Model 6 は Text に基づく推定結果である。Model 3 と Model 4、Model 7 と Model 8 は SP データに現在の利用デー タ(RP)を結合した推定結果である。Model 3 と Model 7 は Graphics に基づく推定結果であり、Model 4 と Model 8 は Text に基づく推定結果である。 駒沢オリンピック公園と城北中央公園の推定結果で最も 大きな差異が生じているのは地面の材質である。駒沢は土 と砂が統計的に有意ではなく、符号もマイナスである。他 図-1 Graphics による選択肢集合の例 方、 城北では土や砂に有意にプラスの結果が得られている。 芝生には両公園ともほぼ同様の結果が得られているが、ウ ッドチップは城北の方が評価は高い(4)。駒沢がコンクリー ト、城北が砂という地面材質の影響があると考えられる。 他に特徴的な結果は、駒沢は管理人の駐在に高い評価が 得られている一方、城北ではt値が低い結果であった。両 公園とも、現在はボランティア以外のドッグラン専属管理 人が駐在していないため、ボランティアによる運営への評 価が反映していると考えられる。また、外灯については両 公園ともに統計的に有意ではなかった。夜間の利用者が少 図-2 Text による選択肢集合の例 ないため、外灯の必要性が低かったものと考えられる。 次に、SP のみによる推定結果、そしてと SP と RP を結 本研究では、Graphics と Text による情報伝達手段が分析 合したモデルによる推定結果を比較する。両公園ともに、 結果に与える効果を検証するため、図-1と図-2のよう 全てのモデルにおいてRP を結合したモデルの方がR2 の値 な選択肢集合を、質問として回答者に提示した。図-1の が高い。特徴的であるのは、自宅からの距離の変数の標準 ような Graphics による質問を 4 種類、そして図-2のよう 偏差(s.d.)パラメータが、SP では統計的に有意でないに RP を結合したモデルでは有意になることであ な Text による質問を 4 種類提示した。Graphics と Text では も関わらず、 属性と水準の表示方法は異なるが、全く同一の属性と水準 る。平均パラメータは両者ともにほぼ同一であるが、標準 の組み合わせを持つ質問を各 4 個ずつ提示した。選択肢4 偏差パラメータにのみ影響が生じた。自宅からの距離に応 じて、利用者の交通手段は異なるため、距離による交通手 は全選択肢集合に共通である。 選択肢集合の中の各プロファイルは直交計画法により作 段のシフトを回答者が想定したことが推定結果に影響した 成した。まずドッグラン A について合計 32 個のプロファ 可能性がある。同様に、水飲み場についても、城北中央公 イルを作成し、乱数により任意の順序に並べた。ドッグラ 園においてのみ標準偏差パラメータが有意になった。 表-6には WTP 推計結果を示した。各属性の限界支払 ン B と C は、重複がないようにドッグラン A のプロファ イルを任意に並べ替え、 合計 32 個の選択肢集合を作成した。 意志額に、ある特定の水準値を掛けることにより平均 WTP その 32 個の選択肢集合を 8 等分し、4 個ずつ 8 パターンの (willingness to pay)が得られる。WTP 自体は城北中央公 園の方が若干高いが、上記で比較したモデルの組み合わせ アンケート票に配置した。 SP と RP を結合する際には、現状選択肢 4 を回答者が現 についてはModel 4 とModel 8 以外に統計的有意差はない。 表-4 駒沢オリンピック公園データによる混合ロジットモデル推定結果 変 数 Model 1 (Graphics, SP) Model 2 (Text, SP) Model 3 (Graphics, SP+RP) Model 4 (Text, SP+RP) Random Parameters 面積 (m2) 0.000702** (4.55) 0.000525** (4.54) 0.000626** (5.23) 0.000498** (5.02) s.d. 0.000505* (2.25) 0.000384 (1.81) 0.0000483 (0.086) 0.0000255 (0.071) 地面(芝=1) 2.55** (4.32) 1.49** (3.71) 2.34** (4.88) 1.48** (3.90) s.d. 1.79 (1.80) 0.935 (1.07) 1.66 (1.95) 0.0350 (0.031) 地面(土=1) -0.368 (-0.467) -0.0493 (-0.079) -0.249 (-0.381) -0.289 (-0.502) s.d. 2.23 (1.89) 0.871 (0.556) 1.82 (1.87) 1.48 (1.58) 管理人(毎日=1) 0.827* (2.20) 0.674* (2.29) 0.747* (2.53) 0.739** (2.78) s.d. 3.19** (3.21) 2.58** (3.34) 2.41** (3.05) 2.16** (3.34) 管理人(土日=1) 0.719* (2.37) 0.765** (2.59) 0.502* (2.00) 0.574** (2.63) s.d. 1.42* (2.05) 1.31* (2.38) 0.886 (1.22) 1.12* (2.00) 自宅からの距離 (m) -0.00106** (-3.42) -0.00120** (-5.95) -0.000922** (-4.49) -0.00116** (-5.59) s.d. 0.000334 (0.425) 0.0000281 (0.078) 0.00105** (3.66) 0.00108** (4.30) Nonrandom Parameters 地面(ウッドチップ=1) 1.21** (2.76) 1.14** (3.10) 1.07** (2.76) 1.11** (3.16) 地面(砂=1) -0.226 (-0.533) -0.381 (-1.03) -0.234 (-0.609) -0.381 (-1.07) 木立(多い=1) 1.13** (3.86) 0.530** (2.52) 1.08** (4.48) 0.624** (3.12) 木立(少ない=1) 0.802** (2.68) 0.471* (2.05) 0.863** (3.38) 0.549* (2.52) 水場 0.435 (1.91) 0.364 (1.90) 0.380 (1.71) 0.279 (1.64) 外灯 0.211 (0.969) 0.195 (1.10) 0.128 (0.647) 0.144 (0.858) 料金 (円) -0.00512** (-4.41) -0.00442** (-6.10) -0.00458** (-5.77) -0.00443** (-7.63) ASC (選択肢固有定数項) 1.05* (1.98) 0.0103 (0.023) 0.284 (0.690) 0.0743 (0.201) 観測数 648 648 648 648 Adjusted R2 0.227 0.205 0.229 0.211 注: 1) **、* はそれぞれ有意水準1%、5%で統計的に有意に0と異なることを示す。s.d.は標準偏差パラメータ、( )内の数値はt 値である。 2) 混合ロジットモデルではパラメータの分布に正規分布を用い、ハルトンドローに基づき500 回のシミュレーションを試行した。 表-5 城北中央公園データによる混合ロジットモデル推定結果 変数 Model 5 (Graphics, SP) Model 6 (Text, SP) Model 7 (Graphics, SP+RP) Model 8 (Text, SP+RP) Random Parameters 地面(ウッドチップ=1) 1.28** (3.85) 2.00** (4.61) 2.06** (3.93) 4.40** (3.96) s.d. 0.0167 (0.011) 1.25 (1.86) 0.754 (0.708) 3.55** (2.97) 地面(土=1) 0.626 (1.17) 1.31* (2.37) 1.24 (1.93) 2.98* (2.55) s.d. 1.05 (0.992) 1.80* (2.56) 1.06 (0.742) 4.53** (3.25) 管理人(毎日=1) 0.210 (0.934) 0.284 (1.14) 0.126 (0.416) 0.599 (1.31) s.d. 1.76** (2.72) 1.69* (2.06) 2.79** (2.92) 2.86* (1.99) 水場 -0.0157 (-0.120) 0.0711 (0.494) 0.0940 (0.464) 0.202 (0.561) s.d. 0.00442 (0.011) 0.0102 (0.029) 2.01** (2.93) 4.27** (3.42) 自宅からの距離 (m) -0.000911** (-7.26) -0.000996** (-7.00) -0.00110** (-4.69) -0.00178** (-3.72) s.d. 0.0000113 (0.050) 0.00000428 (0.016) 0.00104** (3.93) 0.00201** (3.44) Nonrandom Parameters 面積 (m2) 0.000392** (5.48) 0.000417** (5.47) 0.000484** (4.50) 0.000771** (4.20) 地面(芝=1) 1.70** (5.12) 2.18** (5.16) 2.55** (4.24) 4.92** (4.09) 地面(砂=1) 0.754* (2.32) 1.49** (3.70) 1.33** (2.63) 3.63** (3.50) 管理人(土日=1) 0.528** (2.95) 0.388 (1.94) 0.609** (2.57) 0.555 (1.46) 木立(多い=1) 0.738** (4.49) 0.469** (2.59) 1.12** (4.29) 1.26** (3.01) 木立(少ない=1) 0.553** (3.04) 0.452* (2.19) 0.691** (2.68) 0.893* (2.13) 外灯 -0.104 (-0.754) -0.0364 (-0.248) 0.0127 (0.066) 0.224 (0.729) 料金 (円) -0.00340** (-9.42) -0.00469** (-9.35) -0.00457** (-6.05) -0.00948** (-5.05) ASC(選択肢固有定数項) 0.409 (1.05) 0.557 (1.19) -0.796* (-2.20) -2.06** (-3.12) 観測数 656 656 656 656 Adjusted R2 0.178 0.217 0.191 0.226 注: 1) **、* はそれぞれ有意水準1%、5%で統計的に有意に0と異なることを示す。s.d.は標準偏差パラメータ、( )内の数値はt 値である。 2) 混合ロジットモデルではパラメータの分布に正規分布を用い、ハルトンドローに基づき500 回のシミュレーションを試行した。 (2)Graphics と Text による選択確率の変化に関する考察 Graphics と Text による情報提供の影響が最も大きい属性 は木立である。木立が多い、少ないということのイメージ は、文章により事前に説明したが、木立については Graphics の方がわかりやすかったと考えられる。木立の数や位置の ように、視覚に訴求する情報を含む場合には、Graphics が 伝達手段として優れている可能性がある。 本調査では、同一のアンケート票中に Graphics と Text による選択肢集合を 4 問ずつ提示した。それぞれ同一の属 性と水準をもち、Graphics 質問に回答した直後に Text 質問 に回答する形式を採用した。個人の選好に一貫性があり、 Graphics と Text による情報伝達の差が存在しなければ、回 答者は同一の選択肢を選ぶはずである。 表-7にはGraphics とTextにおいて異なる選択肢を選択 した人数を示した。無効回答を除外すると、全く同一の選 択を行った回答者は駒沢が 42%、城北が 43%であり、ほと んど差はない。1 個だけ異なる選択をした回答者は駒沢が 32%、城北は 30%であった。過半数の回答者が少なくとも 1 個以上の異なる選択を行った。 今回の調査方法においては、Graphics 質問の後に Text 質 問を配置したため、選択作業が 8 回繰り返されたことの疲 労の影響もあったと推察されるため、今後は実験手法等に よる詳細な検討が必要である。しかし、Graphics と Text と いう情報伝達方法の差異が多くの個人の選択に影響を与え たという今回の実証結果は、選択モデル研究に有益な示唆 を与えるものである。ただし、約 6 割の回答者が一貫しな い回答をしたにも関わらず、統計的に有意な差異が得られ ているパラメータは少ない。今回は紙幅の関係で詳細は省 略したが、全ての選択肢集合について、今回の係数推定結 果とデータを代入し、各選択肢の選択確率を計算した。そ の結果、選択確率が比較的近い選択肢間において一貫しな い選択がされており、 選択肢間の選択確率が近似した場合、 選択作業に混乱の生じることが理解できる 5)。 選択モデルにおける Graphics と Text による情報提供は、 木立の数等の視覚に訴求しやすい属性への影響が確認され た。今後は実験手法等を導入することにより、Graphics の バイアスに関する研究が必要である。また、RP データを SP データと結合させることにより、適合度が若干高くなる 効果が確認された。今後は、RP についてより詳細なデータ 収集を行い、モデルを改善することが必要である。 【補注】 (1) 駒沢オリンピック公園(1200m2) 、神代植物公園(3000m2) 、 、舎人公園(1970m2) 、城北中央公園(2000m2) 、 小金井公園(3180m2) 小山内裏公園(2636m2)、代々木公園(3500m2)、蘆花恒春園 、水元公園(3500m2) 。 ( )内はドッグランの面積であ (1450m2) る。 (2) 大井ふ頭中央海浜公園(1200m2) 、辰巳の森海浜公園(2000m2) 、 城南島海浜公園(2800m2) 。 ( )内はドッグランの面積である。 、桃井原っぱ公園(杉並区: (3) 平和の森公園(中野区:200m2) 400m2) 、落合公園(新宿区:700m2) 、落合中央公園 (新宿区:700m2) 、 築地川公園(中央区:700m2) 、芝浦中央公園(港区:700m2)他。 ( )内はドッグランの面積である。 表-6 WTP 推計結果 (4) 「評価が高い」という表現は限界支払意志額が高いということ WTP 90%信頼区間 モデル (円) [下限値, 上限値] Model 1 (Graphics, SP) 349.9 [163.2, 592.4] Model 2 (Text, SP) 235.1 [ 52.6, 431.8] 駒 沢 Model 3 (Graphics, SP+RP) 384.5 [193.3, 594.3] Model 4 (Text, SP+RP) 246.9 [ 75.2, 434.3] Model 5 (Graphics, SP) 410.1 [207.7, 635.5] Model 6 (Text, SP) 417.5 [225.8, 603.3] 城 北 Model 7 (Graphics, SP+RP) 486.8 [263.4, 722.9] Model 8 (Text, SP+RP) 468.1 [278.9, 681.4] 注: WTP は面積(1200m2) 、地面(ウッドチップ) 、木立(少ない) 、距離 1000m に固定して推計した金額。 を意味する。紙幅の関係で限界支払意志額は表記しなかったが、 表-7 Graphics と Text において異なる選択肢を選択した人数 公園名 0個 1個 2個 3個 4個 合計 駒沢 68 (42%) 72 (43%) 140 (43%) 52 (32%) 50 (30%) 102 (31%) 30 (19%) 33 (20%) 63 (19%) 12 ( 7%) 9 ( 5%) 21 ( 6%) 0 ( 0%) 2 ( 1%) 2 ( 1%) 162 (100%) 166 (100%) 328 (100%) 城北 合計 注:4 個の質問中1個でも無回答がある回答者は除外した。 6. 結論 本研究では、駒沢オリンピック公園と城北中央公園の利 用者を対象として、都市公園における新たなドッグラン整 備に関する選択モデル分析を行った。調査を実施した都立 公園のドッグランは、設置費用が 200 万円程度であり、維 持運営の大半はボランティアによって支えられている。そ れにも関わらず、徒歩圏内(1000m)にドッグランが設置 された場合のWTPは、 利用1回当たり235~486円であり、 利用者数を考慮すると便益は十分に大きい。 属性パラメータを料金のパラメータで除して-1 を掛けることに より限界支払意志額が計算できる。 【参考文献】 1) 愛甲哲也・淺川昭一郎(2007 年) 「都市の緑地における犬連れ 利用者の実態と意識」ランドスケープ研究 70(5),pp.515-518. 2) Brittain, A., “Plenty of tails are wagging at dog parks,” http://www.csmonitor.com/2007/0711/p13s01-lihc.html, 2007 年7月. 3) 藤見俊夫・渡邉正英・浅野耕太(2006 年) 「耕作放棄や圃場整 備による棚田景観劣化の経済損失」環境科学会誌 19(3), pp.195-207. 4) 幸田重行(2002 年) 「公園と動物―駒沢オリンピック公園の事 例―」都市公園 No.159, pp.73-77. 5) Louviere, J.J., Hensher, D.A., and Swait, J.D. (2000), Stated Choice Methods: Analysis and Application, Cambridge University Press. 6) 奥村修子・愛甲哲也(2005 年) 「北海道内の都市公園における ドッグランの現状と課題について」平成 17 年度日本造園学会北 海道支部会報・研究事例報告要旨集,pp.32-33. 7)Robert J.J., Swallow, S.K., and Bauer, D.M. (2002), “Spatial Factors and Stated Preference Values for Public Goods: Considerations for Rural Land Use,” Land Economics, 78(4), pp. 481-500. 8) (社)日本公園緑地協会(2008 年) 「 「犬の飼い主の公園利用マナ ーに関する調査」結果」pp.1-15. 9) Train, K.E. (2003), Discrete Choice Methods with Simulation, Cambridge University Press. 10) 植木修(2007 年) 「都市公園のドッグランについて―マナーを 守った適正な利用に向けて―」都市公園 No.179, pp.86-88.