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テレビジョン受像機におけるエネルギー技術に関する研究

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テレビジョン受像機におけるエネルギー技術に関する研究
NAOSITE: Nagasaki University's Academic Output SITE
Title
テレビジョン受像機におけるエネルギー技術に関する研究
Author(s)
落合, 政司
Citation
(2003-03-31)
Issue Date
2003-03-31
URL
http://hdl.handle.net/10069/7314
Right
This document is downloaded at: 2017-03-28T14:30:55Z
http://naosite.lb.nagasaki-u.ac.jp
第6章 結論
本研究の目的であるテレビジョン受像機におけるエネルギー技術について,第1章から
第5章を通して述べた。テレビジョン受像機におけるエネルギー技術で重要な問題となる
のは偏向回路の画像ひずみの補正,消費電力の低減,高周波EMC,低周波EMCであり,
それぞれの課題について研究し,技術的な解決法を提示した。結論として要約すると以下
のようになる。
第1章では,テレビジョン受像機におけるエネルギー技術で重要な問題となる点にっい
て指摘した。また,これらの問題について,従来の技術や研究動向を説明し,本研究の位
置を示した。テレビジョン受像機を取り巻く社会的な要望として,新省エネ法(エネルギ
ー使用の合理化に関する法律,トップランナー方式)や低周波EMCとしての高調波電流
の規制があるが,これらについても背景と規制内容についてまとめた。EMCについては
体系図をまとめ,高周波EMCについては現在検討すべき課題がないことを示した。
第2章では,直視形のテレビジョン受像機の重要な問題のひとつである画像ひずみにつ
いて,発生するメカニズムと従来の技術を先ず説明し,次に,高圧の変動による水平振幅
の変化を補正する機能を持ち,低電圧の変動などの副作用がないことを特徴とする新しい
水平出力回路を提案した。提案した回路は,ダイオードとキャパシタを追加するだけで画
面の歪み特性を著しく改善でき,従来回路と比較しても追加する部品の点数が少なく,安
価に回路を構成することができる。特にWPDに関しては,従来回路と比べ提案した回路
では最大でもほぼ4分1以下にすることができた。
第3章では,新省エネ法(エネルギー使用の合理化に関する法律,トップランナー方式)
で規定されているテレビジョン受像機のカテゴリーと年間消費電力量の規定値についてま
とめた。また,新しく研究し開発した省電力を図るための技術について報告した。新省エ
ネ法で規定されている規定値は守らなければならない最低限度の値である。今後も,継続
して省電力技術について研究を進める必要がある。
第4章では,低周波EMC(高調波電流)を低減するための回路方式について提案した。
それらの回路方式は
(1)アクティブフィルタ機能を備えたリンギングチョークコンバータ
(2)高力率リンギングチョークコンバータ
(3)高力率電流共振形コンバータ
(4)アクティブZVTコンバータ
である。なお,(1)∼(3)は交流入力電圧が100V単独であり,目本向けのテレビジ
ョン受像機の高調波電流の抑制対策回路として開発したものである。また,(4)のアクテ
ィブZ VTコンバータは,交流入力電圧が90Vから270Vまで対応しワイドレンジの
対策回路であり,中国向けテレビジョン受像機の対策回路として開発したものである。
アクティブフィルタ機能を備えたリンギングチョークコンバータは,テレビジョン受像
112
機などに広く使用されているRCC(リンギングチョークコンバータ)を改良することに
より,高調波電流を抑制する機能を持たせた回路方式である。約0.95の高力率を得る
ことができ,高調波電流もクラスDの規制値に十分入れることができる。しかし,出力電
圧に含まれるリプル電圧が若干増加するために,テレビジョン受像機に適用した場合には
画面が揺れるなどの問題が発生することがある。
高力率リンギングチョークコンバータは,部分共振形リンギングチョークコンバータを
改良することにより,同様に高調波電流を抑制する機能を持たせることができた。出力電
圧に含まれるリプル電圧も,主スイッチをMOSFETに変更し,出力電圧の検出を三次
巻線電圧検出から出力電圧を直接検出するダイレクト検出に変更することにより,実用に
際して問題にならない値まで改善することができた。また,力率は,交流入力電圧が10
0V,消費電力が100Wの状態で0.95以上の値を得ることができた。高調波電流の
発生量は極めて少なく,クラスDの規制値に対して最大でも50%以下である。
高力率電流共振形コンバータは,R C Cの他にテレビジョン受像機などの電子機器に広
く使われている電流共振形コンバータを改良することにより,高調波電流を抑制する機能
を持たせた回路方式である。提案する電流共振形コンバータでは力率が大幅に改善され,
高調波電流の発生量はクラスDの規制値を十分にクリアできる。出力電圧に含まれるリプ
ル電圧も少なく,電子機器の電源として使用しても問題のないレベルにある。
アクティブZ VTコンバータは,動作周波数が固定の他励式DC/DCコンバータを改
良することにより,高調波電流を抑制する機能を持たせることができた。提案する回路を
テレビジョン受像機に適用した場合,高調波電流は大幅に減少し,クラスDの規制値以下
にできることが確認できた。また,このときの力率は約0.93を得ることができる。交
流入力電圧の制御範囲が90Vから270Vと広く,ワイドレンジ対応が可能である。し
たがって,テレビジョン受像機を含む中国向けの電子機器の高調波抑制対策として,有効
であると思われる。
第5章では,異なる電気及び電子機器がそれぞれ単独で動作した場合の高調波電流の発
生量と,同時に動作したときの発生量とを比較し,その変化について考察を加えた。普及
率と年間消費電力量を考慮に入れ,テレビジョン受像機,冷蔵庫,照明器具(照明用イン
バータと電球型蛍光ランプ)及び冷暖房兼用エアコンを選定し,測定を行った。その結果
では,異なる家庭用電気及び電子機器を併用することにより,それぞれの機器から発生す
る高調波電流に位相差があるために,合成された高調波電流はそれぞれが単独で動作して
いるときの高調波電流の合計値よりも減ることが確認できた。
以上,本研究「テレビジョン受像機におけるエネルギー技術に関する研究」の成果につ
いて述べてきた。今後,本研究の結果をより多くの方がご覧になり,活用されることを期
待する。また,今回の報告で終わることなく,今後とも継続して研究を進めていく所存で
ある。
113
付 録
(1)高圧発生回路の等価回路とフライバックトランスの二次側分布容量
高圧発生回路の等価回路は図A.1のようになっており,C,1,C,2及びC1の合成キャ
パシタである一次側共振キャパシタC,に並列にフライバックトランスの二次側分布容量
が入る。図中,L,1は一次側インダクタンスであり,L,2は一次側に換算したフライバッ
クトランスのリーケージインダクタンスである。偏向ヨークインダクタンスをLyi,フラ
イバックトランスの一次巻線インダクタンスをLpfとすると,Le1はLe1ニLyiLpf/(Lyi
+Lpf)で与えられる。また,C、t1とC、t2はリーケージインダクタンスと並列に存在する
分布容量とアース間に存在する分布容量を一次側に換算した共振キャパシタである。
図A.1の高圧発生回路は,帰線期間において図A.2に示す二つの異なる共振角周波
数αとγで共振する。αは主にL。1とC,で決まる基本波の角周波数であり,γはL,2と
C、t1,C、t2でほぼ決まる高調波の角周波数である。L,2,C、t1,C、t2からなる二次側回路
は基本波の角周波数αに対して容量性のリアクタンスとなる。
ノピ1一ω24ヲ2フ
X2=一 (A.1)
ピ1一ω2β2ブκ3
1 1
但し,δ2ニ ,β2=
五,2q,∫l L,2鴎1+C、’2フ
であり,またα〈β<γ<δの関係が成り立っものとする。したがって,高圧発生回路の
基本波角周波数αに対する等価回路は図A.3のようになり,一次側共振キャパシタC,
に並列に等価容量C、tが入ることになる。C、tは二次側回路のリアクタンスX2をX2=一j
/(ωC、t)と置くことにより求められる。
ノピ1一ω24ヲ2フ ーノ 1一α2β2
Xニ ,Cs’= ・C5∫2
2ピ1一ω2β2展,12ωC,, 1一α2β2
(A.2)
前式中のαは図A.1の等価回路のC,の両端のインピーダンスZが無限大となる並列共振
角周波数であり,次のように求めることができる。
α、ニち1(9+ら2)+ち2頓1+ら2)
{五,1(C,+q,、2)+五、2(C、,1+C、、2)12−4オ
2L,1五、2(C,す,11+C.11q,、2+C、’2C,)
2五,IL,2(C,C,,1+C、、IC、、2+q,’2C,)
(A.3)
但し,上式でAは,オニL,1五,メC,C,,1+C,、1C,,2+C、、2C.フである。
114
Le2
Cstl
Cr Lel Cst2
図A.1 高圧発生回路の等価回路
:
:
:
:
1
れ
1
×0
α βγ δ
ω ;
:
:
1
図A 2 二次側リアクタンスX2の周波数特性
115
C
ド
図A.3 高圧発生回路の基本波角周波数αに対する等価回路
116
(2)リンギングチョークコンバータにおける主スイッチQ1のオン期間丁ONとオフ期
間丁OFFについて
図4.2(a),(b)及び図4.3より,トランスT1の一次側電流i p及び二次側電流
isは,時刻t1においてそれぞれピーク値を取る.これらのピーク値をIpp及びlspとす
れば,
1PPニEノ翫/Lp,
(A.4)
1SP=E7ゐFF猛s∫
(A.5)
が,得られる。ただし,LPi及びLSiはT1の一次及び二次巻線の励磁インダクタンスであ
る。ここで,アンペアターンの法則より,
1 ニ1加
PP SP
(A.6)
が成立する。また,LPiとLSiの間には
L =n2」乙
(A.7)
P’ S’
の関係がある。式(A.6),式(A.7)を式(A.5)に代入すれば,
1P1、ニnE7ゐFF
(A.8)
が得られる。
一方,Q1のオン期間丁ONにおいて一次巻線を通してT1に蓄えられるエネルギーは,コ
ンバータ回路のエネルギー損失がないものと仮定すれば,LPi I2pp/2である。実際のコ
ンバータ回路ではQ1のオン,オフ動作期間及びオン期問丁ONとオフ期間丁OFFにエネルギ
ー損失が生じるので,コンバータ回路の電力効率をηとすれば,
η五p、1ふ/2=EIT
(A.9〉
が成立する。式(A.9)において,スイッチング周期丁はT=TON+TOFFであることから,
式(A.4),式(A.8),式(A.9)より次の式(4.5)及び式(4.6)が得られる。
一2五 1 E+E/力
窃N−P’・ 2’
(4.5)
η E,
117
恥一2五P’伽.E+助
4E E1
(4.6)
(3)交流チョーク方式における出力特性(交流電圧が100Vの場合)
消費電力が112.4Wの25型テレビジョン受像機の交流入カラインにチョークコイ
ルを入れたときの高調波電流の抑制効果と力率の変化を,表A.1と図A.4及び図A.
5に示す。チョークコイルのインピーダンスは周波数が高くなるほど上がるために,高次
の高調波電流ほど抑制効果が大きく,3次の高調波電流の抑制効果が最も少ない。3次の
高調波電流をクラスDの規制値以下にするためには,最低でも5mH以上のインダクタン
スが必要であり,その時の力率は0.727となる。インダクタンスを大きくしても3次
の高調波電流はそれほど減らず,力率もあまり上がらない。
また,図A.6のように,インダクタンスが大きくなるに連れて平滑キャパシタCの電
圧Eiが下がってしまうために,チョークを入れた後は,ブリッジ整流回路の後段に接続さ
れた定電圧回路の動作範囲の見直しが必要になる。
表A.1 交流チョーク方式での高調波電流の抑制効果
Lc(mH)
第3次高調波電流
(A)
力率
0
5
10.15
0,989
0,879
0,807
0,627
0,727
0,765
118
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︵く︶芒ΦヒコooてoE≦ω≦oΣ
α α α α α α α 0 α
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㌦、 一一▲一Seventh
、
幅
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㌧
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㌔
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㌦. Limitforfifth
卜1』…恢濃II」
0 へ 8 7 .6 50
﹂〇一〇〇甲﹂Φ>︾O儀
図 α α α α
Lc(mH)
交流チョーク方式での高調波電流の抑制効果
◆
◆
◆
◆
1 2
4567891011
Lc(mH)
図A.
交流チョーク方式での力率
119
132
◆
t
噺
やt
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豊
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0
と126
山
﹁
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卜
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トト
130
1234567891011
Lc(mH)
図A.6 交流チョーク方式でのキャパシタCの電圧
120
(4)交流チョーク方式における出力特性(交流電圧が220Vの場合)
中国向けのテレビジョン受像機の交流入カラインにチョークコイルを入れたときの高調
波電流の抑制効果を図A.7と図A.8に,平滑キャパシタCの電圧Eiの変化を図A.9
に示す。また,図A.10にはチョークのインダクタンスに対する力率の変化を示す。な
お,図A.7と図A.8の高調波電流の大きさはクラスDの限度値に対する発生量の比率
(%)で示してある。
チョークコイルのインピーダンスは周波数が高くなるほど上がるために,高次の高調波
電流ほど抑制効果が大きく,逆に3次の高調波電流の抑制効果が最も少ない。3次の高調
波電流をGB17625.1で規定されているクラスDの規制値以下にするためには,消
費電力が150Wのときには35mH以上のインダクタンスが,また,消費電力が100
Wのときには50mH以上のインダクタンスが必要である。この場合,平滑キャパシタC
の電圧Eiは150Wと100Wともに30Vほど低下する。日本向けのテレビジョン受像
機の場合は,クラスDの規制値はGB17625.1の限度値の2.3倍であるために,
100Wクラスのセットでの必要なインダクタンスは5mH程度であったが,これに比べ
ると10倍程度のインダクタンスが必要になることになる。しかも,ワイドレンジ対応で
交流電圧の下限を90Vまで考えると,定格電流は日本向けのテレビジョン受像機に使用
するチョークコイルと同じものが必要になる。
このように,交流チョーク方式では,定格・形状が大きくなりコスト高になってしまう
ことや,平滑キャパシタCの電圧Eiが低下してしまい交流電圧が低い領域がカバーするこ
とが困難になるなどの問題が発生する。したがって,中国向けのワイドレンジのテレビジ
ョン受像機には適さない。
121
1000
+3rd
き
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1ヒ
1
0 10 20 30 40 50 60
L(mH)
C
AC voItage:220V,Power consumption=150W
Ratio:Amount of mains harmonic current for the limit of cIass D
図A.7交流チョーク方式での高調波電流の抑制効果
140
Power consumption
100W
一畳一150W
−r▲一 200W
一
130
救、殴に
8
ロ
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80
0 10 20 30 40 50 60
Lc(mH)
AC voltage:220V,Ratio=Amount of mains harmonic
currentforthe Iimit ofclass D
図A.8交流チョーク方式での第3次高調波電流の抑制効果
122
310
Power cOnSumption
−一
300
→一100W
、
¥ L
・・督・・150W
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兄280
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270
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−
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、
▲
250
0
10 20 30 40 50 60
L。(mH)
AC voItage:220V
図A. 9交流チョーク方式でのキャパシタCの電圧E i
0.9
0.8
1
’ 一一
0.7
f.7. ■二・ 一一
で一一
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A
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Power consumption
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・・督・・150W
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0.3
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0
20 40 60
L(mH)
C
AC voItage:220V
図A.10交流チョーク方式での力率
123
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