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中間とりまとめ案
中間とりまとめ案 平成 23 年 3 月 新たなエネルギー産業研究会 0 目 次 1.「新たなエネルギー産業」について........................................................................ 1 1.1.はじめに .............................................................................................................. 1 1.2.「新たなエネルギー産業」市場の拡大 ................................................................ 4 1.3.「新たなエネルギー産業」の広がり ................................................................... 5 1.4.「新たなエネルギー産業」の競争の激化 ............................................................ 7 1.5.「新たなエネルギー産業」に対する各国の取り組み ......................................... 12 1.6.「新たなエネルギー産業」の課題 ..................................................................... 15 2.個別産業分析 ....................................................................................................... 18 2.1. 太陽光発電産業 ............................................................................................... 18 2.2. 風力発電産業 ................................................................................................... 65 2.3. 太陽熱発電産業 ............................................................................................. 107 2.4. 蓄電池産業 .................................................................................................... 132 2.5. 燃料電池産業 ................................................................................................. 169 2.6. ZEB/ZEH 産業 ............................................................................................... 207 3.ファイナンス ..................................................................................................... 250 3.1. 分野別検討 .................................................................................................... 253 <参考資料> ............................................................................................................ 259 地熱発電産業......................................................................................................... 259 中小水力発電産業.................................................................................................. 262 バイオマス発電産業 .............................................................................................. 264 海洋エネルギー産業 .............................................................................................. 266 1 1. 「新たなエネルギー産業」について 1.1.はじめに 基本認識 エネルギー基本計画では「エネルギー政策の基本は、エネルギーの安定供給の確保 (energy security) 、環境への適合(environment)及びこれらを十分考慮した上での市 場機能を活用した経済効率性(economic efficiency)の3E の実現を図ることである。 また、我が国が国際競争力を有するエネルギー関連の産業・技術・システムを、強みと して育成・普及していく必要がある。エネルギー政策と我が国の成長戦略とを一体的に 推進」するとされている。 東日本大震災からの教訓、グローバル産業競争、各国との政策競争を踏まえると、3 E に、安全の確保(energy safety)と、エネルギー産業の発展を通じた経済成長(economic growth)を加えた「5E」を、今後のエネルギー政策・エネルギー産業政策を一体とし て推進する理念として掲げ、議論を深めていく必要があるといえるのではないか。 このような問題意識の下、「新たなエネルギー産業研究会」において、この経済成長 に着目し、グローバル市場の現状・将来見通し、関連産業のバリューチェーンの把握、 競合となる海外企業の戦略、経済成長・雇用への貢献度、我が国産業の課題等について 検討を行った結果を、中間的にとりまとめた。 新たなエネルギー産業研究会 新たなエネルギー産業研究会 委員 大橋 太 陽 光 発 電 分 科 会 太 陽 熱 発 電 分 科 会 風 力 発 電 分 科 会 燃 料 電 池 分 科 会 蓄 電 池 分 科 会 省 エ ネ 分 科 会 フ ァ イ ナ ン ス 分 科 会 弘 東京大学大学院経済学研究科 准教授 柏木 孝夫 東京工業大学総合研究院大学院理工学研究科 教授 橘川 武郎 一橋大学大学院商学研究科 教授 中上 英俊 株式会社住環境計画研究所 所長 山地 憲治 財団法人地球環境産業技術研究機構 理事 所長 村上 周三 独立行政法人 建築研究所 理事長 ※IT・電気自動車等を含めたスマートコミュニティについては、「次世代エネルギー・社会システム協議会」にお いて検討。 我が国は産業構造ビジョン 2010(平成 22 年 6 月 3 日)、新成長戦略(平成 22 年 6 月 18 日閣議決定) 、エネルギー基本計画(平成 22 年 6 月 18 日閣議決定)において、国内 における再生可能エネルギーの導入拡大・省エネルギーの推進はもちろんのこと、環 境・エネルギー技術の国際展開を通じたグリーン・イノベーションによる環境・エネル ギー大国を目指すこととした。 再生可能エネルギーについては、「2020年の一次エネルギー供給に占める割合を 10%にすることを目指す」(エネルギー基本計画)等の目標が掲げられており、今後 1 の見直しにおいて更なる導入加速が目指されることが見込まれる。全量固定価格買取制 度の2012年7月の導入も決定し、今後、再生可能エネルギーの国内市場は劇的に拡 大することが期待される。 また、エネルギー需要サイドにおいては、こうした再生可能エネルギーの導入拡大が 一つの契機となり、スマートグリッド、スマートコミュニティのコンセプトが普及し、 各方面で様々な取組が行われるに至っている。 こうした状況を背景に、再生可能エネルギー市場や、エネルギー需要サイドにおける 先進市場において、今後、新たな事業者が活発に参入し、需要家の多様なニーズを満た すための競争が活発化するものと想定される。同時に、国内市場においても、国際競争 が一層激化すると見込まれる。これらに関連する産業群は、再生可能エネルギーの供給 のみならず、エネルギー制御機器や蓄電池からIT家電、電気自動車に至るまでのエネ ルギー関連機器・設備、これらを支える部品・部材、さらにはエンジニアリングやシス テム設計等まで幅広く、拡大しつつある市場の現状を見据えつつ、将来を展望して、環 境変化を先取りし、技術の高度化、事業モデルの見直し、さらに新たな成長戦略の構築 を進め、事業基盤の強化を図っていくことが重要である。 また、エネルギー制約、環境制約に対応する観点から、世界各国も再生可能エネルギ ーの導入促進やエネルギー需要サイドの取り組みを強化しており、世界の市場は拡大し ている。再生可能エネルギーやエネルギー需要制御の先進技術が経済成長の柱となるた めには、わが国産業が、国内市場のみならず、拡大する海外市場でビジネスチャンスを 確実にものにできる競争力を備えることが不可欠である。このためには、技術のみなら ず、市場の分析・把握力、コスト競争力等を戦略的に強化していく必要がある。 東日本大震災と「新たなエネルギー産業」について こうした方針の下、我が国は国内外のスマートコミュニティ実証事業、各種導入支援 事業、研究開発、規制改革等を通じて 新たな市場への取り組みを進めていたところで あったが、本年の 3 月 11 日に発生した東日本大震災・原発事故により、計画停電が発 生する等、我が国の大規模集中型に偏った電力需給構造の脆弱性が明らかとなった。 また、電力需要家の側から見ても、 「とりわけ製造業を中心とした産業界にとっては、 電力の安定的で廉価な供給の確保は、国内への立地を考える上での至上命題」(産業構 造審議会 産業競争力部会 中間取りまとめ「大震災後の我が国の産業競争力に関する 課題と対応~かつてない空洞化の危機を乗り越えるために」平成 23 年 7 月)であり、 今後エネルギー需給構造を再構築していく上で、再生可能エネルギーの導入拡大・省エ ネルギーの推進は大きな柱となっている。 東日本大震災を踏まえたエネルギー政策の見直しにおいて、再生可能エネルギーの導 入拡大・省エネルギーの推進が今まで以上に主要な柱となるものと見込まれるが、これ 2 らを通じた経済成長への期待も高まっており、これらミッションとして「新たなエネル ギーシステムの担い手の育成」「国際競争力ある産業と新しい雇用の創造」に取り組む ことが検討されている(エネルギー・環境会議「『革新的エネルギー・環境戦略』策定 に向けた中間的な整理」平成 23 年 7 月 29 日)。 東日本大震災復興構想会議提言では、地域自立エネルギーシステム、産業としての再 生可能エネルギーについて強い期待が表明され、これらの趣旨は「東日本大震災からの 復興の基本方針」 (7月29日決定)においても受け継がれている。 -東日本大震災復興構想会議 提言- ■地域自立型エネルギーシステム 「被災地におけるインフラの再構築にあたっては、先端的な自立・分散型エネルギーシ ステムを地域特性に応じて導入していくことが必要である。そのシステムは、まず、省 エネルギーシステムの効率的な活用、次いで、再生可能エネルギーなど多様なエネルギ ー源の利用と蓄電池の導入による出力不安定性への対応、さらにガスなどを活用したコ ジェネ(熱電併給)の活用を総合的に組み合わせたものである。こうした自立・分散型 エネルギーシステム(スマートコミュニティ、スマート・ビレッジ)は、エネルギー効 率が高く、災害にも強いので、わが国で長期的に整備していく必要がある。そこで、被 災地の復興において、それを先導的に導入していくことが求められる。」 ■産業としての再生可能エネルギー 「再生可能エネルギーシステムの設置・導入は、復興過程において、まず、新たな雇用 の創出に寄与する。そして、装置・システムの生産も、産業派生効果が大きい電気機械 産業のウエイトが全国と比べて高い東北地域の産業の成長に寄与する。したがって、誘 致支援などにより、これらの関連産業の集積を促進しなければならない。 」 3 地域全体のエネルギ ー需給をコントロールするセンター ( エネルギ ー・ マネジメントシステ ム) 集中電源 (系統電力) 陸上風力発電 再生可能エネルギーの変動にあわせた需給バランスの調整 防災拠点 ➣ 電気自動車の共同利用システム ➣ 電気、燃料電池バス 電力インフラとしても活用可能 電力不足時:電気自動車→家庭 電力余剰時:家庭→電気自動車 次世代自動車向けのエネ ルギー供給ステーション 大規模太陽光発電 ( メガソーラー) 大型蓄電池 再生可能エネルギーと蓄 電池、コジェネを整備 ➣ バイオマス発電・熱供給 ➣ ガス、石油の供給施設 個々の住宅 再生可能エネルギー、蓄 電池、コジェネHEMS(ホー ム・エネルギー・マネジメン トシステム等を利用 ➣ 地域冷暖房・熱電併給 (コジェネ) ➣ BEMS (ビル・エネルギー・ 太陽光発電 マネジメントシステム) 洋上風力発電 電力供給 熱供給 1.2.「新たなエネルギー産業」市場の拡大 グローバルで見た「新たなエネルギー産業」 -新エネルギーの導入拡大- 再生可能エネルギーについては、補助的な位置付けではなく、基幹的な電源として位 置づけつつ導入拡大に取り組むことが国際的な潮流となっており、着実に市場の拡大が 見込める分野である。 各国とも固定価格買取制度や RPS 制度による支援を行っており、IEA の 2008 年から 2035 年にかけての世界の一次エネルギー供給の増減見通しでは、OECD 諸国において石 炭・石油が純減となるが、それらを再生可能エネルギーが、天然ガスや原子力を上回る 規模で代替していくと考えられている。 4 各国の再生可能エネルギー導入政策と 世界の一次エネルギー供給の増減見通し 各国の再生可能エネルギー導入政策 世界の一次エネルギー供給の増減見通し(2008~2035年、IEA予測) 米国 • 2025年までに、電力の25%を再生可能エネ ルギー化 (2007年時点で、再生可能エネ発電設備容 量は約10%・115GW) 欧州 • 2020年までに、最終エネルギー消費の20% を再生可能エネルギー化 (2006年時点で約9.3%。化石燃料のバイオマ ス化も含む) 中国 • 2020年までに、電力供給の12.5%を再生可 能エネルギー化(現時点では、約2%程度) インド • 2012年までに、電力供給の12%を再生可能 エネルギー化(現時点では、約9%程度) ※toe=石油換算トン (出典)IEA「World Energy Outlook2010」、各国発表資料等より Arthur D Little まとめ 1.3.「新たなエネルギー産業」の広がり 他産業と比較した「新たなエネルギー産業」の市場規模 「産業構造ビジョン 2010」において、我が国の産業構造について問題提起を行い、従 来の自動車依存の「一本足打法」から 多様な「八ヶ岳構造」へ、付加価値獲得の源泉 を従来の「高品質・単品売り」から「システム売り」 「文化付加価値型」へ、 「従来の成 長制約要因」であった環境・エネルギーや少子高齢化を、「課題解決型産業」へ、それ ぞれ転換することが必要であるとした。 その上で、戦略五分野として、①インフラ関連/システム輸出(水、原子力、鉄道等) 、 ②環境・エネルギー課題解決産業(スマートコミュニティ、次世代自動車等)=「新た なエネルギー産業」 、③文化産業(ファッション、コンテンツ、食、観光等)、④医療・ 介護・健康・子育てサービス、⑤先端分野(ロボット等)の強化を提示し、これらによ る、成長の牽引を提言した。 この新たなエネルギー産業のうち、今回研究会の対象とした産業の市場規模を見ると、 現状自動車の 123 兆円に対し新たなエネルギー産業は 30 兆円と、1/4程度であるが、 2020 年には自動車の 151 兆円に対し新たなエネルギー産業は 86 兆円と、1/2を上回 る規模にまで大きく伸長することが見込まれる。 5 新エネルギー産業と自動車産業の成長予測 :2020年世界市場規模予測 175% :2010年世界市場規模 150% 86兆円 円の大きさは市場規模を表す 125% 市 場 伸 長 率 ( 1 0 年 ~ 2 0 年 ) 新エネルギー産業 100% 【新エネルギー産業】 ※太陽光、風力、太陽熱、燃料電池、蓄電池(LiB)、 ZEB、ZEHを含む 出展:Global Wind Energy Council「Global Wind Energy Outlook2010」などの各種資料を参考に帝 国データバンク作成 75% 50% 151兆円 25% 30.3兆円 10兆円 15兆円 ▲25% 50兆円 自動車 100 123兆円 200兆円 ▲50% 【自動車産業】 出典:総合技研株式会社 「2011年版 2020年に おける自動車産業予測」 を参考に、経済産業省 「機械統計」(平成22年年報) から金額換算1台あ たり174万7,718円で試算 市場規模(兆円) 「新たなエネルギー産業」の海外展開は必須 新エネルギー関連産業の出荷動向を見てみると、既に輸出依存度が3割を超えており、 企業・政府が戦略を考える上で、グローバル市場を視野に入れることが非常に重要にな っている。 新エネルギー関連産業と全産業との輸出依存度比較 新エネルギー関連産業と全産業との輸出率比較 <参考> 輸出率 100% 全産業計 乗用車 7.6 52.9 80% 自動車関連産業 27.9 ※自動車関連産業は「乗用車」「その他の自動車」 「自動車部品・同付属品」の合計 ※新エ ネルギー関連産業の輸出率の算出方法について 新エネルギー関連産業は産業連関表の既設部門から分割する ことで各関連産業を新設しており、各関連産業の輸出率は既設部 門の輸出率に準じている。関連産業は新エネ産業あたり 概ね30~ 50産業。 ただし、現在の輸出率の算出方法は、 既設部門の輸出率に依存 しており、新エネ産業の実態を必ずしも反映していない。 太陽光発電については、上記算出方法では31.1%であるが、太 陽光発電協会の推計値では約17%である。 蓄電池については、上記算出方法では34.3%であるが、 貿易統 計および電池工業会公表資料から算出した値は80.6%である。 風力発電については、上記算出方法では18.4%であるが、貿易 統計および風力発電協会資料から算出した値は26.4%である。 乗用車については、上記算出方法では52.9%であるが、 日本自 動車工業会統計資料および機械統計から算出した値は47.6%で ある。 このように算出方法によって数値が異なるものの、 総じて輸出率 は高いといえる。 60% 40% 20% 30.5 27.9 新エネルギー関連産業 自動車関連産業 7.6 0% 全産業 出所:帝国データバンク分析 6 「新たなエネルギー産業」への異分野からの参入 新たなエネルギー産業に対する需要の高まりを受けて、他の分野からの企業参入が相 次いでいる。 異分野からの参入事例 産業 自動車 造船 食品製造 企業 内容 アイシン精機 自動車部品製造のアイシン精機は、エンジンを動力とする空 調システムであるガスエンジンヒートポンプを製造。動力が エンジンであることから自動車で培った技術を転用し、また、 多くの自動車部品も転用することで、自動車産業と省エネ産 業のシナジーを体現している。サムスングループと提携し韓 国に対する販売実績も伸びており、輸出商品となっている。 三井造船 三井造船昭島研究所では、造船技術を活かし、洋上風力発 電用浮体の設計のために必要となる波、風、潮流中におけ る動揺性能や緊張係留索の張力応答、および浮体の設置 法などについて理論計算や水槽実験を通じて研究、開発を 行っている。 NPC NPCは、真空包装機を主力とする食品製造装置メーカーで あったが、電機メーカーからの発注をきっかけに、1994年に 太陽電池用の真空ラミネータを開発した。その後米国に進 出し、現地の顧客の要望に応え、1998年にモジュール工程 の一貫ラインを開発。現在ではターンキーソリューションのト ップランナーとして、売上高の96.5%以上を太陽電池製造装 置事業が占めるまでに至っている。 10 1.4.「新たなエネルギー産業」の競争の激化 世界市場での太陽光発電(モジュール)のシェアは低下 こうした中、新たなエネルギー産業の競争も激化しており、例えば太陽光発電(モジ ュール)を見ると 2005 年以降、我が国企業の存在感には低下傾向が見受けられる。 7 Global top 10 企業の事業規模推移(07-10, 発電容量ベース、生産実績) (MW) (年) 世界市場におけるシェアの推移(全用途,05 -10 年) 100% その他 90% First Solar(米 ) 80% United Solar Ovonic (Uni-Solar)(米) SunPower(米 ) 70% E-TON(台 ) Isofoton( スペイン ) 60% MOTECH(台 ) 50% SolarWorld (旧Deutsche Solar)(米/独) Schott Solar(独 ) 40% Q-Cells(独 ) 中国その他メーカ 30% Trina Solarh( 中) yingli Green Energyh( 中) 20% Suntech(中 ) カネカ (日 ) 10% 三菱電機 ( 日 ) 三洋電機 ( 日 ) 0% 2005年 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年 世界トップ25企業に入る 日本プレーヤのシェア(会社数) 16.2% 11.6% 11.8% (4/25社) (3/25社) (4/25社) 世界トップ25企業に入る 中国プレーヤのシェア(会社数) 24.6% 26.1% 32.1% (7/25社) (8/25社) (11/25社) 8 京セラ (日 ) シャープ (日 ) 世界市場での風力発電(風車)のシェアは低下 風力発電においても日系プレーヤはシェアが伸び悩んでいる一方、中国企業が低価格 を武器に大きくシェアを伸ばしている。 価格競争が進む中、欧米企業はシステムインテグレーションへの進出や、技術力を生 かした洋上風力発電への参入で対抗している。 メーカシェア(2008 年、世界) シェア3% 9 メーカシェア(2010 年、世界) シェア2% 各国企業が国内にも参入 これまで参入障壁が高いと言われていた国内の住宅用太陽光市場を見ても、日系プレ ーヤは 84.5% とシェアも下落基調にある。 2009年度、太陽光発電補助金の復活や余剰電力買取制度の導入を契機として、国 内太陽光発電システム市場が住宅用発電システムを中心に急拡大したことに伴い、これ まで欧州市場をターゲットにしてきた中国・韓国を中心とする海外太陽電池メーカーが 国内市場に多数参入。 例えば、先行して参入したサンテック(中)等の企業に続き、Q セルズ(独)も「Q セルズマイスタークラブ」を組織し、販売・施工体制を確立する等、国内市場へのグロ ーバル企業の参入が相次いでいる。 10 国内住宅用太陽光発電市場におけるプレーヤシェア (2008~2010 年度 発電容量ベース) 僅少 (出典)太陽光発電協会 海外メーカーの国内進出状況 国 メーカー 国内提携先 サンテック ヤマダ電機 リクセル(トステム) カナディアン ソーラー ハウスケヤHD グリーンテック マキテック インリー BIJ トリナソーラー トリナソーラージャパン S-エナジー 新興マタイ KDソーラー 新興マタイ サムソン電子 参入検討中 サンパワー 東芝 Qセルズ 自社(Qセルズマイス タークラブ) (出典)各社資料 11 1.5.「新たなエネルギー産業」に対する各国の取り組み 各国のエネルギー政策と「新たなエネルギー産業」政策 米オバマ政権の「グリーン・ニューディール」を皮切りに、各国において経済・雇用対 策の一貫として、「新たなエネルギー産業」を、金融危機後の貴重な成長分野として支 援する動きが見られる。 新興国のみならず欧米諸国においても、エネルギー政策とエネルギー産業政策が一体 として推進されており、今や、「新たなエネルギー産業」の技術や、立地、雇用を奪い 合う政策競争の様相を呈してきた。 国 施策 米国 10年間で1500億ドル(14.5兆円)をクリーンエネルギーに投資、500万人の新規雇用を創出する計画。2009 年より2年間で、クリーンエネルギー・環境関係に803億ドル(7.8兆円)、省エネ・環境関連インフラ整備に 225億ドル(2.2兆円)を投入。 英国 洋上風力発電など再生可能エネルギーを中心とする低炭素社会への移行を提唱。再生可能エネルギーを 15%まで高めるため、2020年までに洋上風力発電に1,000億ポンド(14兆円)以上を投資。50万人の新規 雇用を目指す。 ドイツ 2010年時点における再生可能エネルギーは36.7人にのぼり、2004年から20万人増加。2020年に再生可能 エネルギーの構成比を40%、2050年には80%とする目標。 中国 2009年3月、中国は景気対策として2009年より2年間に投資する4兆元(約56兆円)のうち、環境、省エネル ギー分野に2100億元(約3兆3600億円)を投資すると表明。 韓国 2009年1月、韓国政府は「グリーン・ニューディール推進方策」を公表。2012年まで4年間で約50兆ウォン (約3.7兆円)を拠出し、約96万人の新規雇用を創出する計画を表明した。2011年の知識経済部の再生可能 エネルギー関連の研究開発費は前年比24%以上増やし、1兆ウォン(約700億円)以上を重点投入している。 イギリスの例 英国政府は北海油田・ガス田の生産量の落ち込みにより、2015 年頃には石油もガス も半分以上を輸入に依存することになることが見込まれており、洋上風力発電の導入に よるエネルギー確保と雇用拡大を目指し、事業規模 13 兆円にのぼる導入を計画。 この計画を受け、ジーメンス(独)や GE(米)等が英国における工場建設を表明。 また、同国で競争力を失った造船業の廃ドックが、洋上風力のブレードの試験場として 再生される等、産業構造の転換が進みつつある。 12 (1)北海油田の原油生産量が急速に減少 北海油田の原油生産量は 1998 年に約 1 億 3000 万tから 2010 年には 7000 万tにまで 減少しており、今後も減少することが予想されている。 出典:Department of Energy & Climate Change (2)再生可能エネルギー利用促進指令 2009 年に制定された EU の再生可能エネルギー利用促進指令によって、英国は 2020 年までに最終消費エネルギーの 15%を再生可能エネルギーで賄うことが義務付けられ ている。 出典:EU National Renewable Energy Action Plans 13 英国における洋上風力導入計画の効果(事業規模:約13兆円) <温暖化対策> ・二酸化炭素の排出削減:7 億 5 千万トン以上(2009 年~2030 年) <エネルギーセキュリティ> ・化石燃料の使用量:10%削減(2020 年時点) ・化石燃料の輸入量:20~30%減少(2020 年時点) <経済効果> ・新規雇用創出効果:最大 50 万人以上 出典:UK Renewable Energy Strategy 2009 ドイツの例 ドイツ政府は再生可能エネルギーの利用の拡大の結果、再生可能エネルギー産業の雇 用者数が 2010 年には 2004 年の2倍以上に増加した一方、再生可能エネルギー買取り 制度についてのコスト等の問題が顕在化してきている。 再生可能エネルギーの状況 ・再生可能エネルギー法改正により、 電力供給に占める再生可能エネル ギー目標を2020年35%、2050年80%に 設定 ・ドイツの再生可能エネルギーの利用 は、 2010年に電力の17%、総エネルギーに 対して11%に達した。 出所:ドイツ環境省(BMU)発表資料より ・再生可能エネルギー産業の雇用者数が2010年には 36.7万人に達し、2004年の2倍以上に増加している。 160,500 277,300 2004 2007 339,500 367,400 2009 2010 出所:Renewable energy sources 2010より 帝国データバンク作成 再生可能エネルギー買取制度 (1)太陽光発電への手厚い補助 太陽光発電の買取り価格が圧倒的に高い 2009年の買取価格 太陽光 43.01ユーロセント/kWh 風力 9.20ユーロセント/kWh (2)IEA から政策の見直しを勧告される(2007 年) 14 高値の FIT は費用効果的でないとして、政策の見直しを勧告 (3)巨額な補助金債務が累積 買取り価格を 20 年間固定しているため、仮に 2010 年で FIT を打ち切っても、太陽 光発電に係る累積補助金債務は 655 億ユーロ(7.2 兆円)にのぼる (4)太陽光発電導入の急増により買取価格見直し スペインバブルの崩壊、太陽光発電システム価格の下落により、2010 年の導入量は 前年約 2 倍の 7,408MW、ドイツ政府は 2010 年に 3 度の買取り価格引き下げを行った 韓国の例 韓国政府は2009年に「雇用創出のためのグリーン・ニューディール推進方策」を 策定し、50兆ウォン(3.5兆円)の予算で2012年までに95万人の雇用を創出 することを目標としている。 韓国の新たなエネルギー産業の発展 単位 10 億ウォン 企業数 売上高 3.6倍増加(5年) 雇用 29倍増加(5年) 輸出 <単位:人> 13.3倍増加(5年) 31.4倍増加(5年) 約5700億円 <単位:億ドル> 約3500億円 出所)JETRO 1.6.「新たなエネルギー産業」の課題 政策に依存した市場形成 しかしながら、再生可能エネルギーは既存の電源に対して高コストであり、未だ政策 的支援に依存した産業である。 例えば、スペインでは 2008 年の固定価格買取価格の引下げより、2009 年の太陽光発 15 電の導入量は前年から激減( 「スペインショック」 ) 。スペイン市場を失った関連業界が、 2009 年に翌年の買取価格引下げが予告されたドイツに駆け込んだ結果、導入量が前年 比で約2倍になった( 「ドイツバブル」) 。 ドイツ 単年 スペイン 単年 8,000 7,408 7,000 6,000 ドイツバブル MW 5,000 2,000 0 4,000 4,000 4,000 450 550 600 675 2011 2012 2013 2014 2,708 3,000 1,000 4,000 3,806 4,000 843 スペインショック 1,271 1,809 542 102 2006 2007 17 2008 2009 369 2010 年 ※EPEA GLOBAL MARKET OUTLOOK FOR PHOTOVOLTAICS UNTIL 2015 ※2011年以降は見通し。原典の「Policy-Driven」と「Moderate」の中間値 「新たなエネルギー産業」が従来電源と競う時代に 再生可能エネルギーについては、各国の政策支援、導入拡大に伴いコストも低減しつ つあり、太陽光発電について、2009 年時点で米国カリフォルニアの一部及びイタリア で家庭向けの電力料金まで低下している(グリッドパリティ)との分析もある。 16 以降では、将来的に市場規模が大きくなると想定される、太陽光発電、太陽熱発電、 風力発電、燃料電池、蓄電池、省エネ(ZEB/ZEH)について、各分科会で議論された現 状・課題認識や、今後の方向性も交えて報告する。 各産業の市場規模、市場規模成長率 太陽熱 25,000 1700% 青字 2010年実績 赤字 2020年予測 800% ZEB 270,000 ※ZEB/ZEHには外皮性能・建材、冷暖房・ 空調・換気、照明、給湯及び創エネ(太陽光・ 燃料電池システム)関連が含まれる 蓄電池(LiB) 83,000 燃料電池 24,000 ZEH 260,000 500% バイオマス 22,000 200% 太陽光 71,000 地熱 2,000 100% 蓄電池(LiB) 10,000 50% 中小水力 24,000 太陽熱 1,300 燃料電池 海洋エネルギー 地熱 9,000 4,000 1,000 0% 0 1,000 バイオマス 9,000 5,000 10,000 中小水力 太陽光 20,000 25,000 ZEB 90,000 風力 52,000 50,000 風力 124,000 ZEH 120,000 100,000 120,000 270,000 (億円) IEA「Global Energy Outlook 2010」 、Global Wind Energy Council「Global Wing Energy Outlook 2010」など各種資料より帝国データバンク作成 17 2.個別産業分析 2.1. 太陽光発電産業 1.グローバル市場動向 (1)太陽光発電のポテンシャル 現在の太陽光発電市場は、ディーゼル発電を行う離島や、遠隔送配電のコストなどか ら経済的に太陽光発電が成り立つ市場以外は、世界各国のエネルギー環境政策による政 策誘導型の市場が中心である。今後の太陽光発電市場については、新たな技術開発や市 場拡大による価格の低減のほか、各国のエネルギー構造や政策、競合する電力価格の変 化、また電力インフラシステムの動向などによって、その成長について様々なシナリオ が想定される。 欧州太陽光発電産業協会やドイツ政府など様々な機関による市場予測が存在するが、 本報告では、国際エネルギー機関(IEA)が太陽光発電の技術開発の可能性を検討した 技術ロードマップを参考にした。 それによると、世界の太陽電池市場は 2050 年まで年率 12%以上の成長を続ける見通 し(ストックベース)。内訳では、住宅用、電力用、オフグリッド用、公共/産業用の 順に大きいと予想されている。 用途別市場規模推移 太陽電池の用途別世界市場規模推移(2010-2050年、累積発電容量ベース) 用途別の特徴 主なユーザ (GW) オフ グリッド • 無電化地域に おける各種施設 中小規模 電力用 • 電力会社 • 発電事業者 数MW~ 数十MW • 工場・商業施 設・オフィスビル • 公共施設 20kW~ 1MW 公共/ 産業用* 住宅用 (年) 2010年 単年予測 シェア 2020年 単年予測 シェア 2030年 単年予測 シェア 2040年 単年予測 シェア 出所:“Technology Roadmap Solar photovoltaic energy”(2010, IEA) *公共/産業用:Comercialとの位置づけだが、発電容量区分の観点から同等とした 18 2050年 単年予測 シェア 発電容量 • 戸建・集合住宅 ~ 20kW (出典) “Technology Roadmap Solar photovoltaic energy”(2010, IEA)より 注:オフグリッド用は他用途と異なり発電容量で区分されておらず、系統連系されていない太陽光発電 全てを指しており、実質的には住宅用~公共/産業用レベルの発電容量の太陽電池が設置されると考えら れる。 次に市場を地域別にみると、2004 年頃からのドイツでの再生可能エネルギー法の見 直しによる FIT(長期固定買取制度)が普及拡大のきっかけとなり、欧州各国に FIT 制度が拡大した結果、欧州が世界をリードしている。 しかしながら、FIT 制度については、買取価格と買取期間の制度設計が非常に難しい。 2007 年のスペインでは、ドイツよりも大幅に高い買取価格と長い買取期間(25 年)を 設定したため、2008 年には発電投資の対象として、多くの発電事業者が急激に参入し た結果、一気に 6 倍近い需要となった。2009 年にはスペイン政府が需要を押さえる上 限キャップ(500MW)の設定等の制度変更を行ったため、スペインの導入量が激減す るとともに(スペインショック)、世界の太陽電池の供給過剰を引き起こし、ドイツの 市場価格を押し下げ、ドイツの需要を拡大する結果となった(ドイツバブル)。その後 は、大量に導入された太陽光発電の電力購入のために、2010 年までの導入分に対して だけでも 200 億ユーロ(2.2 兆円、ドイツ連邦局)を超えるコストが電力会社の負担、 ひいては消費者側の負担となることが予測されている。 次に地域別の用途内訳について見ると、地域別の用途内訳は、太陽光発電の競合価格 となる各国の用途別(家庭用、産業用、電力用)の電力料金と、各国の導入政策のあり 方(発電種別・規模別の価格設定等)によって変化する。欧州の中でも、ドイツとスペ インでは構成比が異なるといったことがある。 参考までに、ドイツにおける現状の市場を用途別内訳(2009 年ベース)に示す。 ドイツ(独太陽光発電協会報告) 建材一体型 (BIPV) 1% 屋根設置 1~10kW 18% 10~100kW 59% 屋根設置産業用 100kW 以上 6% 地上設置(メガソーラ) 7% 19 世界の太陽光発電システムの単年導入量(2009 年、発電容量ベース) 欧州 北米 アジア (日本除く) 日本 その他 100% 90% 80% 70% 60% 電力 電力 50% 公共/産業 産業・業務 40% 住宅 住宅 30% 20% 10% 0% 0 1,000 2,000 3,000 4,000 5,000 6,000 7,000 MW (出典)NRI 資料 注:上記グラフの公共/産業用途は NRI 資料においては産業・業務用となっているが、対象とするユー ザ、発電容量がほぼ同等のためここでは読みかえて表記した 次に用途別の方式を見ると、住宅用はほぼ全てが結晶シリコン型である一方、公共/ 産業用では一部 CdTe・薄膜シリコンも用いられている。電力用では結晶シリコン型に 匹敵するほど CdTe の割合が大きい。また、薄膜シリコンも 15%を占める。 方式別のプレイヤシェアとしては、結晶系では中国系のサンテック、JA ソーラー、 Yingli,、トリナソーラー、カナディアンソーラーなどのほか、台湾からもモーテック、 Gintech などの進出も目覚ましい。またサンパワー社などのように単結晶でかつ高効 率の市場を狙う動きも活発化している。 CdTe では電力や大型プロジェクト向けに First Solar がリードしている。 薄膜系では、タイを始めとするプロジェクトを行うシャープの存在感が大きい。 また、CIS(化合物系)で1GW 規模での生産を開始したソーラーフロンティアが注目 される。 20 用途×方式別市場規模・方式別プレイヤシェア (出典) :富士経済「2010 年版 太陽電池関連技術・市場の現状と将来展望」より Arthur D Little 分析 (2)プレーヤの動向とシェア 2005年代には、日本のセル・モジュールメーカ(シャープ、京セラ、三洋、三菱) は、世界シェアの1/2弱を占めていた。しかしその後は、中国・台湾系のセル・モジ ュールメーカが登場し、急激な市場拡大に合わせた IPO を通じて得た資金を基に、専 業メーカならではの素早い意思決定を持って急速に設備投資を拡大させると同時に、中 央・地方政府などの支援によって一気に成長した。その結果、2009年には中国・台 湾系が世界シェアの1/2を占めるに至った。さらに、モジュールのコストが重視され る電力用途においては、日本勢のシェアは 5%程度まで低下していると推定される(方 式別シェア、各種統計より)。 21 Global top 10 企業の事業規模推移(07-10, 発電容量・生産実績ベース) (MW) 1,800 Suntech 1,600 First Solar 1,400 シャープ 1,200 Yingli Green Energy Trina Solar 1,000 800 600 Canadian Solar Hanwha SolarOne 京セラ 400 200 0 07 (出典)富士経済 08 09 「2008、2010, 2011 年版 10 (年) 太陽電池関連技術・市場の現状と将来展望」, NRI 資料より 世界市場におけるシェアの推移(全用途,05 -10 年) 100% その他 90% First Solar( 米 ) 80% United Solar Ovonic (Uni-Solar)(米) SunPower( 米 ) 70% E-TON( 台 ) Isofoton( スペイン ) 60% MOTECH( 台 ) 50% SolarWorld (旧Deutsche Solar)(米/独) Schott Solar( 独 ) 40% Q -Cells( 独 ) 中国その他メーカ 30% Trina Solarh( 中 ) yingli Green Energyh( 中 ) 20% Suntech( 中 ) カネカ ( 日 ) 10% 三菱電機 ( 日 ) 三洋電機 ( 日 ) 0% 2005 年 2006 年 2007 年 2008 年 2009 年 2010年 世界トップ25企業に入る 日本プレーヤのシェア(会社数) 16.2% (4/25社) 11.6% (3/25社) 11.8% (4/25社) 世界トップ25企業に入る 中国プレーヤのシェア(会社数) 24.6% (7/25社) 26.1% (8/25社) 32.1% (11/25社) 22 京セラ ( 日 ) シャープ ( 日 ) (出典)富士経済 「2008,2009,2010, 2011 年版 太陽電池関連技術・市場の現状と将来展望」, NRI 資料より 日本勢は発電効率の向上や(三洋電機によるHIT型など)、生産規模の拡大(シャ ープがイタリアでの生産(160MW 規模)を開始、ソーラーフロンティアが、宮崎に世界 最大のCIS太陽電池工場(900MW)を稼働など)を通じた巻き返しを図っているが、 海外プレーヤによる急激な生産設備の増強により需給バランスが崩れ、システム単価が 下落。モジュールベンダを中心に業界構造に大きな影響を与えており、今後は生き残り をかけた熾烈な競争環境を呈する見込みであり、需要を確保しきれない規模で劣るメー カ等への市場からの撤退圧力が高まる可能性がある。 発電効率の向上:三洋電機による HIT 型の構造 (出典)三洋電機株式会社資料より 23 供給過剰の影響:需給見通しと競争環境 今後のPVの需給見通し 競争環境への影響 第2グループ:モジュール組み立て専業メーカや 規模で劣るメーカ ‒需要不足に直面し施設稼働率が低下 ⇒市場からの撤退圧力が高まる 第1グループ 第1グループ:収益性確保のための垂直統合や 企業間協力などの動きを取るメーカ ‒パネルメーカからシステムインテグレーショ ンレイヤ、IPPへの進出 (シャープ(ENELとの合弁によるIPP進出: 詳細後述)、パワーライト・サンエジソン(プ ロジェクト開発)など) ‒サプライチェーンへの関与・企業間協力 ‒各市場セグメントで応用展開企業との提携 ‒優位性のある技術協力 第2グループ (出典)JETRO 米国環境ビジネス、事業者インタビュより Arthur D Little 分析 国内市場については、シャープ、京セラ、三洋電機のシェアが大きいものの、Suntech などの海外勢、カネカやソーラーフロンティアといった異業種からの参入も相次いでい る。 国内市場の動向(国内プレイヤシェア) 国内市場におけるプレーヤシェア(09年、発電容量ベース) (出典)富士経済「2010 年版 太陽電池関連技術・市場の現状と将来展望」より 製造装置メーカによる太陽電池パネル製造に関するターンキーソリューションの提 供で、ノウハウを持たない企業でも資金力があればモジュール製造に参入しやすくなっ 24 たため、生き残りをかけて付加価値増大を狙う必要が出てきている。 海外セル・モジュールメーカによる下流進出 (出典)日経 BP“太陽電池、次のビジネスの攻めどころ”、各種二次情報等より Arthur D Little 分析 実際にシャープはモジュールメーカから発電事業者への進化を狙い、急ピッチで変革 を進めている。 国内セル・モジュールメーカによる下流進出 部材・セル・モジュール ・BOS 他製品 (インバータ、架台等) SI システム インテグレーション IPP 発電所の 設計・建設 PVパネル 発電事業運営 太陽光発電所の建設や運営、建設 資金の調達等トータルで提案する事 業モデルを進める 更には、 ~シャープ片山社長@2010年5月 「発電事業を運営するオペレータ」へ 蓄積知見の製品へのフィードバック … 「 太 陽 光 パ ネ ル サ プ ラ イ ヤ 」 か ら EPC機能を持つ 「SI」へ… 【2010年7月】 タイで世界最大級( 73MWdc)の メガソーラ ー受注 パネルだけでなく、インバ ータや架台等も供給する 他、タイ最大手の建設会 社と共同受注することで、 システム・施工までの一 括提供 【2010年7月】 イタリアの電力会社最大 手であるエネル社と、メガ ソーラーIPP事業を行う ESSE(Enel Sharp Solar Energy)を設立 地中海地域を中心に、 2016年末までに累計 50.5万KW以上のメガソ ーラ運営を目指す (出典)各種二次情報より Arthur D Little 分析 25 【2010年9月】 欧州に続き米国で、太陽光 発電事業大手であるリカレ ント・エナジー社を305百万 米ドルで買収し、年内の完 全子会社化を予定 伊エネルとの合弁による発 電所建設は2016年頃と時 間がかかる為、更なる加速 を狙ってのアクション なお、バリューチェーン下流進出の手法には上記のようにセル・モジュールメーカが IPP(独立発電事業)までを行うという形のみにならず、システムインテグレータや IPP 事業者とのパートナーシップ・合弁会社設立によって需要を確保するという方法や、フ ァンド向けに「太陽光発電事業を組成し、事業を軌道に乗せる」ことを行った上でプロ ジェクトごと売却する(First Solar など)といった方法もあり得る。 2.バリューチェーンと関連事業者 (1)バリューチェーン全体像 太陽光発電のバリューチェーンは地域ごとに異なる部分もあるが、一般的には概ね次 表のように捉えられる。部材としては大きく原材料、表面保護材、バックシート、封止 材の 4 つが考えられ、市場性及び日本企業が競争力を持ちうると考えられるものを中心 に代表的な構成機器を挙げた。セル・モジュールメーカによる SI, 発電事業への進出と いったバリューチェーンの垂直統合化の動きが見受けられる。なお、以下では、セル・ モジュールレイヤ以降は必要に応じて用途別の違いを勘案した分析を行う。また、部材 についてはシェアの大きい結晶シリコン型を念頭に置いて検討する。 バリューチェーンとプレーヤ例 (出典)各種公開情報、事業者インタビュ等より Arthur D Little 分析 注:1) BOS=Balance of System:架台、ジャンクション、ボックス、ケーブル類等の周辺機器 2)SI=System Integration:システムの設計、モジュールやインバータ、BOS の調達、システムの 建設、運転・保守等を担当 26 方式別の世代分類 現行型 次世代型 色素増感型 結晶シリコン型 太陽光 セル 太陽光 カバーガラス 基板 封止材 透明電極 色素 増感層 封止材 バックシート 電解質溶液 • 現在主流の太陽電池。光吸収層の材料として 結晶シリコンを利用。シリコンコストが課題 ・色素が光を吸収して発電 ・電解液に蒸発しやすい液体(有機溶媒)を使う ため、耐久性に課題 有機薄膜型 薄膜シリコン型 太陽光 セル 電極 対向基板 基板(カバーガ ラス) 封止材 太陽光 基板 透明電 極 有機層 電極 バックシート 封止材 バックシート • シリコン層の厚みを薄くすることにより、使用 原料、生産に要するエネルギー、コストなどを 削減 • ガラス基板上に薄膜シリコンのセルを成膜 • 光吸収層の材料に有機化合物を利用 • 製法が簡便で生産コストが低い。現在開発が 進行中(変換効率や寿命に課題) 化合物型(カドミウム含む) 化合物型(カドミウム含まない) 太陽光 セル 太陽光 カバーガラス セル 封止材 カバーガラス 封止材 • シリコンの代わりに無機化合物を利用 • CdTe系、CI(G)S*系は量産化が開始 • シリコンの代わりに無機化合物を利用 • CIS**系は量産化が開始 • カドミウムを含まないため生活圏(住宅や公共 /産業用途)に設置可能 集光型 フレネルレンズ セル • 太陽を追尾するようレンズの角度を調整し、 GaAsに代表される多接合の高変換効率のセ ルに対して太陽光を集中照射する • 使用するセルが小さくて済む。現在商用化が 進行中 (出典)各種公表資料、事業者インタビュより Arthur D Little 分析 CIGS:シリコンのかわりに、銅(Cu)、インジウム(In) 、ガリウム(Ga) 、セレン(Se)を 材料として使う、化合物系の太陽電池 CIS:主な成分の3元素である銅(Copper)、インジウム(Indium)、セレン(Selenium)の頭文字を とった薄膜系の太陽電池。また薄膜系太陽電池の中で最も変換効率が高い事が特長 27 3.バリューチェーン毎の現状と課題 (1)部材 (ⅰ)原材料(ポリシリコン) 需要先である結晶シリコン型太陽電池市場の成長に合わせて、ポリシリコン市場も拡 大基調が予測される。ただし 2009 年のように、新規参入プレーヤの増加による供給過 剰の影響で、単価が大幅に下落する可能性もある。太陽光発電産業としては、セル・モ ジュール製造の収益・生産の安定のために価格変動、需給変動への備えが肝要である。 原材料(ポリシリコン) (出典)富士経済 2010 年版 太陽電池関連技術・市場の現状と将来展望」 、各種二次情報等より Arthur D Little 分析 28 (ⅱ)カバーガラス カバーガラス市場もモジュール市場の成長に伴って今後の成長が見込まれる。重量当 たり単価がそれほど高くないことから生産拠点を需要地へ近接配置すること、透過性、 低反射性がモジュール変換効率へ影響しうることから製品を高品質化することが事業 の肝となる。 カバーガラス (出典)富士経済 2010 年版 太陽電池関連技術・市場の現状と将来展望」 、各種二次情報等より Arthur D Little 分析 29 (ⅲ)バックシート バックシート市場も同じくモジュール市場の成長に伴い、増加傾向で推移していく見 込み。バックシートは PVF(ポリフッ化ビニル)等を原料とし、モジュール背面を保 護するフィルムであり、耐候性、密封性、絶縁性、封止材との接着性など高度な機能が 求められる。今後、主流となる高品質タイプと、供給不足を背景とした新規参入プレー ヤによる廉価タイプの二極化が進展し、開発・価格競争により徐々にプレーヤが淘汰さ れていく見込み。 バックシート (出典)富士経済 2010 年版 太陽電池関連技術・市場の現状と将来展望」 、各種二次情報等より Arthur D Little 分析 30 (ⅳ)封止材市場 封止材は EVA(エチレン酢酸ビニル共重合樹脂)等を原料とし、セルをモジュール内 で固定するための部材であり、透明性、柔軟性、接着性、引張強度、耐候性等が求めら れる。封止材市場もモジュール市場に伴って成長していく見込み。 日系プレーヤは顧客要求への対応力を基盤とした長期信頼性に強みを持ち、積極的な 生産設備の増強により成長機会の取込みを図っている。 封止材 (出典)富士経済 2010 年版 太陽電池関連技術・市場の現状と将来展望」 、各種二次情報等より Arthur D Little 分析 31 (2)セル・モジュール セル・モジュール製造については経験効果が強く働き、太陽光発電モジュールについ て見ると、累積導入量が増えるほどコストが低減している。 累積導入量とモジュール価格の推移 (出典)GLOBAL OVERVIEW ON GRID-PARITY EVENT DYNAMICS より メーカ別に生産規模とモジュール価格を比較しても、規模の経済性が発揮され、生産 量の多いメーカほど低価格を実現している。 生産規模とモジュール価格の関係(結晶シリコン型) 800 日系D社 日系C社 600 * ¥/W モ ジ ュ ー ル 単 価 ( 700 ) 日系B社 500 400 100 200 500 海外A社 日系A社 1,000 メーカ別生産規模(2010年, MW) 32 2,000 (出典)富士経済 2010 年版 太陽電池関連技術・市場の現状と将来展望」及び各社 web ページ より Arthur D Little 分析 注:モジュール単価は各メーカ製品の公称出力および希望小売価格より算出 次に用途別に分析を行う。用途別の方式シェア及び前掲の方式別プレイヤシェアから、 用途別のプレイヤシェアを推定した。 全用途において共通して最重視されると考えられるコスト効率性、国内の住宅用途の ように面積制約が存在する場合に重視されると考えられる面積効率性、一部の公共/産 業用途において重視されると考えらえる意匠性の観点で分析を行う。特に電力用途にお いて高いプレゼンスを示す First Solar と、全用途において 1 社で日本勢に匹敵するプ レゼンスを示す Suntech の 2 社については個別に分析を行う。 用途×方式別プレイヤシェアと要求性能 (出典)富士経済 2010 年版 太陽電池関連技術・市場の現状と将来展望」 、各種二次情報等より Arthur D Little 分析 注:用途別のプレイヤシェアは用途別の方式シェア及び方式別のプレイヤシェアから推計 33 用途ごとの要求性能と方式別の性能にかんがみると、各用途に対応する主な方式は下 表の通りと考えられる。 要求性能×対応する主な方式 (出典)富士経済 「2010 年版 太陽電池関連技術・市場の現状と将来展望」 、NEDO「太陽光発電 ロードマップ(PV2030+) 」等より Arthur D Little 分析 注:全用途において(ⅰ)のコスト効率の観点が最重視されるが、日本(主に戸建住宅)のように屋 根の面積が限られている場合には面積効率も重視される(ⅱ) 。また、公共/産業用で、設置者によ る環境貢献の PR といった目的が強い場合には、意匠性も求められる(ⅲ) 。なお、レ点の色は濃い ほど適合度が高いことを示す。将来的な性能向上のポテンシャルについては次図参照。 34 要求性能と方式別性能の比較 方式別の性能(2025年) コ ス ト 効 率 要 求 性 能 面 積 効 率 意 匠 性 kWあたり モジュール コスト(円) 結晶Si 薄膜Si CdTe CIS系 有機薄膜 色素増感 50 40 50 50 ~40 寿命 モジュール 変換効率 25% 18% 17%+ 25% 15% 黒一色 でシック ビジュアル性 ○ フレキシブル性 (出典)富士経済「2010 年版 N/A (他方式より短い) 30年 ○ 15% シースルー化・ カラフル化可能 ○ ○ 太陽電池関連技術・市場の現状と将来展望」より Arthur D Little 作成 以降、まず全用途に共通した一般論としてコスト効率について検討し、続いて住宅、 公共・産業用途の特殊論として面積効率、意匠性について検討を行う。 (ⅰ)電力用途を中心とした全用途 コスト効率の面では、結晶シリコン型から薄膜シリコン・化合物型、薄膜シリコン・ 化合物型の超薄型/多接合化と技術革新が進んでいく見込み。FIT 後を見据え、発電コ ストが既存の電力料金と同等になるグリッドパリティの達成が有望な方式ほど、今後主 流となりうる可能性が高いと考えられる。 35 コスト効率性:方式別のコスト低減ロードマップ 47~63 円/kWh 結晶シリコン型 現在は既存電力より割高だが、FITなど 発 の政策的な後押しにより住宅用を中心に 普及 電 コ 23円/kWh ス (住宅用電力料金) ト 14円/kWh 薄膜シリコン型、 化合物型 将来的には、既存電力を下回るコスト実 現による自律的拡大が求められる (業務用電力料金) 2005 2010 2020 (出典)NEDO「PV2030 検討委員会報告書」 、その他二次情報等より Arthur D Little 作成 First Solar は NREL(アメリカ合衆国立再生可能エネルギー研究所)の支援によって CdTe(カドミウム・テルル)の研究開発に注力してきた。NEDO ロードマップでは日 本勢が 2017 年に 75 円/W を目標としているに対し、First Solar はシステム価格では 14 年までにシステム価格を 0.52~0.63 ドル(約 50 円)/W まで、発電原価(LCOE、 Levelized Cost of Electricity)では 0.10~0.12 ドル/kWh まで下げる計画を発表して いる。 なお、これまでの First Solar のコストダウンの源泉は、1生産ラインあたりの生産 能力を5カ年の間に2倍にするなどの徹底した生産効率の向上によるものであった。近 年では、面積効率の向上にも取り組んだ結果として強い価格競争力を保有するに至り、 競合他社に比べて高い利益率を勝ち得ている。 課題としては、CdTe には、有害物質であるカドミウムが含まれている点が挙げられ る(First Solar はモジュールの使用が終了した段階で、メーカ自身が回収を行うこと として対応している)。今後、RoHS 規制(電気・電子機器に含まれる危険物質を規定・ 使用を禁止する EU 指令)や WEEE 規制(電気・電子機器廃棄物の製造者に回収、リ サイクル、再利用)などのコストを負担させる EU 指令)などの対象となる可能性もあ る。 次に、薄膜シリコン型はガラスや樹脂の基板に、ごく薄い太陽電池をプラズマ CVD (化学気相成長)法等により成膜することで製造され、大面積のものを連続的に量産す ることができる。また、シリコン層は一般的な結晶シリコン太陽電池の 100 分の 1 前 後の厚みしかなく、シリコン利用量の削減が可能である。そのため、薄膜シリコン型は 結晶シリコン型に比べてコスト低減のポテンシャルは高い。他方、発電に利用できる光 36 の波長が限られるため、発電効率では結晶シリコン型に劣っている。 また、CIS 型を見ると、モジュール効率が 12%を越えるようになってきているほか、 本年よりソーラーフロンティアがカドミウムを使用しないモジュールを世界に先駆け て大規模生産を開始している。 コスト効率性:ベストプラクティス・ファーストソーラー PVモジュールコストの目標 400 2007~2008年時点の 各方式製造コスト 日本勢 (主に薄膜) 350 多 300 結 晶 シ リ コ 250 ン 型 薄 膜 シ 200 リ 200 コ ン 型 First Solar (CdTe) 関連記事 CIGS 150 ) 100 NREL(アメリカ合衆国立再生可能エネルギー研究所)は、 91年、ファーストソーラーの前身であるベンチャー企業(社 員6 人程度)との共同研究を通して同社への支援を開始。 以降も緊密なサポートを続け、同社の成長に寄与した。 NEDO海外レポート, 2008.11.5 150~160円/W 型 140 CdTe /W モ ジ 300 結 ュ 晶 ー シ 250 ル リ 製 コ ン 造 型 コ 200 ス ト ( 円 米First Solarが想定するコスト・ロードマップ 型 120 75円/W First Solarは新しい技術方式を会得したことにより、グロー バルで活躍しているSuntech, Q-cellsに比べても非常に高 い利益率を獲得している 0.6 $/W=51 円/W (First SolarのComponents事業部の税引前利益率は 35%。対してQ-cellsのProducts事業部の税引前利益率は 6%、Suntech Photovoltaic Modules事業部の粗利は 2014 2017 19%。全てFY10) 1.08$/W=91円/W 2008 (出典)富士経済 2010 「2010 年版 太陽電池関連技術・市場の現状と将来展望」 、各種公開情報より Arthur D Little 分析 注:1 ドル 85 円換算 コスト効率性:First solar の LCOE 低減ロードマップ (出典)First Solar 資料より 37 また、Suntech(中)は他社に先駆けて、メガソーラー用途に適した統合型モジュー ルの開発、システム導入者に対するトータルコストを削減するソリューション(部品・ 工数の削減を通じた工事費・人件費削減)の提供を開始した。削減できたコストの一部 をシステム導入者と分け合うことにより、自らのモジュールを高く販売することに成功 している。これは顧客への価値提供を実直かつ素早く行ったという点で評価できる取組 みと言える。 コスト効率性:ベストプラクティス Suntech Suntech(中)の取り組み →<コスト競争力> 容易に設置可能なパネル 結合フレームの開発 ※設置が簡易なモジュールパッケージの提供で 設置の人件費、設置部品コストが削減 自社で全ての垂直統合を行わない→関連事業者とのパートナーシップ戦略 Modules Financing Technical Services EPC EPC Financing Etc. Developers (出典)NRI 資料より (ⅱ)住宅用途 住宅用途においては、日本国内など屋根面積に制約がある場合は面積効率も重視され る傾向にあるが、基本的にはやはりコスト効率が第一に重視される(ただし、現状では コスト効率で優れている CdTe は、カドミウムを含むため事故等により漏出した際のリ スクが大きいと考えられており、住宅用では生活圏では採用されていない) 。 主要国を見ていくと、日本の太陽光発電の市場は 10kW 以下の太陽光発電の住宅用 比率が 70%以上となっており、世界的に見ると特異な市場である。日本国内の住宅市 場で、セル・モジュールメーカが競争力を持つには、これらの様々な屋根に応じた、設 計から施工、メンテナンスまで含めた、総合的なサービスを提供することが必要であり、 38 海外から輸入した価格競争力だけを訴求したモジュールの提供を行うだけではユーザ への安心を提供することは難しい。 ドイツでは、10kW 以下の住宅用の導入比率は 18%程度、30kW までの住宅用は 26% 程度で、主に農家等が自家消費ではなく発電事業を目的として設置するケースが多かっ た。ただし、今後については、FIT の制度設計において、地上設置についてのインセン ティブを小さくし住宅へのシフトを促進する方向へ進むという見方もある。 米国では、住宅用としての導入は 20%程度とされており、普及の中心はカリフォル ニアとなっている。設備容量については、10~20kW 規模が多いといわれており、日本 とドイツの中間的な性質を持つ市場と想定される。 次にグリッドパリティの達成の見通しは、日照条件、家庭向け電気料金、支援策(FIT や RPS、補助金)などによって大きく変わる。 日照条件、電気料金特性に鑑みた地域別のグリッドパリティ達成見込み 出所:日経エレクトロニクス 2010 年 2 月 8 日 グリッドパリティを複数の方式が達成するころには各国で FIT 等の支援策は縮小さ れる可能性が高いが、支援策がなくても需要分については太陽光発電を導入する方が経 済合理性を持ち、普及が加速すると考えられる。このころの方式についても、面積が制 約条件となるが、同じくコスト効率が重視され選定されると想定される。 今後、国内セル・モジュールメーカが競争力を持つためには、コスト効率の高い技術 方式を実現することが必要不可欠である。 なお、こうした技術方式以外の視点では建材一体型という方向性もある。積水ハウス 39 などからは瓦型の太陽光発電モジュールが発売されており、これらの活用により同面積 分の屋根材が不要となるためコスト・重量の軽減、建材一体型であるがゆえに架台を必 要とせず、意匠性も高い、などのメリットがあり、新築住宅を中心に導入が進んでいる。 (ⅲ)公共・産業用途 公共・産業用途においては、今後グリッドパリティが近づくにつれて、主に電源調達 手段の一つとしてコスト効率を重視した設置が増えていき、同時に環境貢献の PR を重 視した設置も続いていくと考えられる。現状でも、企業等による太陽光発電の導入を通 じた環境貢献、社会貢献としての市場も限定的ながら存在している。海外ではウォルマ ートや IKEA などにおいても店舗に太陽光発電システムが導入されている。 公共・産業用の電力料金については、世界的に住宅用に比べて低い水準にある。この ような背景から、家庭用との差を埋めるために、補助金や、FITでの買取水準でイン センティブをつける制度設計が広く行われてきた。 日本では、2010 年までは、公共施設には 1/2.産業施設には 1/3 の初期費用に対する 補助がおこなわれてきたが、2010 年度の事業仕分けの指摘も踏まえ、2011 年度以降新 規案件の受付は行っていない。そのため、2012 年度から新たに導入が期待されている 全量買取制度に今後の市場の形成が左右されることになる。 なお、海外ではフランスやイタリアのように、通常の太陽電池パネルよりも建材一体 型の買取価格を高く設定する例がある。建材一体型などの太陽電池については、建築計 画の段階から建築と一体のものとして取り込んでいくことが導入を円滑に進めること につながると考えられる。 公共・産業用途(環境・社会貢献目的の場合) 公共・産業用途における 太陽光発電システムの設置目的 「見える形」での環境貢献 環境貢献の 「PR」 内部あるいは外来者への 環境啓発 製品のカーボンフットプリ ントの低減 環境貢献 経済 合理性 「PR」を重視した モジュールのタイプ 公 共 特・ に産 強業 い用 途 で ピークカット効果による契 約電力低減 防災 非常時の防災施設利用と しての活用 ・・・ ・・・ 透過率と発電効率は 反比例する モ ジ ュ ー ル の タ イ プ 非透過型 非透過型 シー (通常) (カラフル) スルー型 CO2排出量の削減 買電料金の低減 シースルー型 住 宅 用 途 で も 同 様 カラフル型 (出典)太陽光発電協会資料等より Arthur D Little 分析 40 色の鮮やかさを優先すると 変換効率が低くなる 次世代型技術である色素増感型や有機薄膜型は、モジュールを建築物に合わせてフレ キシブルに成形できたり、シースルー型・カラフル型にして意匠性を高めたりすること が可能であるため、企業の CSR や商業建築における広告に活用されることが期待でき、 公共・産業用途で太陽光発電の新たな市場を拡大しうる有望な方式と考えられる。日本 では従来からのセル・モジュールメーカに加えて化学メーカなども多くの企業が参入し、 研究開発を行っている。 しかしながら、色素増感型については、G24 Innovations(英)と Dysol(豪)がわ ずかながら生産実績を有しているのに対し、国内企業は複数メーカがパイロットライン を保有する程度にどどまっている。 有機薄膜型については、Konarka(米)がわずかながら生産実績を持ち、また Solarmer Energy(米)がパイロットラインを構築しているなど、米国プレーヤが先行している。 ただし、両方式ともに市場の本格立ち上がりはこれからであるため、先行プレーヤと の差も未だ小さく、日系メーカが競争力を持つ可能性も高いと考えられる。 コスト効率性:有機型への注力プレーヤマップ 主要プレーヤ 次世代型技術方式 色素増感型 太陽光 基板 封止材 透明電極 色素 増感層 電解質溶液 対向基板 電極 ・色素が光を吸収して発電 ・電解液に蒸発しやすい液体(有機溶媒)を使うた め、耐久性に課題 ・シースルー化、カラフル化、フレキシブル化可能 有機薄膜型 封止材 太陽光 基板 透明 電極 有機層 電極 日本 欧州 北米 アジア・オセアニア ソニー 英G24 Innoations 米Solarmer Energy 豪Dysol 京セラ 英Corus 米Solaris Nanosciences 台J Touch シャープ 英Hydrogen Solar 韓Samsung ADEKA アイルランドSolar Print 韓Timo Technology 東芝 スイスSolaronix 台Tripod Technology JX日鉱日石エネルギー スイスGreatcell Solar イスラエル3GSolar パナソニック電工 (他含め、確認できるだけで22社) 三菱化学 独Heliatek&BASF&Bosch 住友化学 英Solar Press 米Cytec Industries 米DuPont シャープ 米Global Photonic Energy 三洋電機 米Konarka Technologies バックシート 大日本印刷 米Plextronics • 光吸収層の材料に有機化合物を利用 • 製法が簡便で生産コストが低い。現在開発が進 行中(変換効率や寿命に課題) ・シースルー化、カラフル化、フレキシブル化可能 JX日鉱日石エネルギー 米Solarmer Energy パナソニック電工 (他含め、確認できるだけで12社) (出典)富士経済「2010 年版 太陽電池関連技術・市場の現状と将来展望」 、各種公開情報より Arthur D Little 分析 色素増感型太陽電池、有機薄膜型太陽電池は、前述のとおり現状では未だセルの研究 段階にあり、モジュールの開発には到達していない。 過去を振り返ると、大学・研究所・他社との連携・政府による研究開発インセンティ ブを活用し結晶シリコン型セル技術開発で先行した Q-cells、米国 NREL の支援を活用 した First Solar、NEDO の支援を活用したソーラーフロンティア等の成功事例もある ため、日本としても次世代型への研究開発に重点的に取り組む必要がある。 41 技術方式の移り変わりと今後の展開可能性 量産技術 開発 量産技術、生産設 備の開発、材料調 達確保など モジュール化 開発 セル結合による大 面積化。用途に合 わせた形状、耐候 性・信頼性向上 セル/ サブモジュール 開発 基本性能改善の ためのセル構造、 セル材料開発 (ラボレベル) 結晶シリコン型 薄膜シリコン型 化合物型 化合物型 色素増感・ 多接合・ (CdTe) (CIS) 有機薄膜型 量子ドットなど t Q-cells 大学・研究所・他社との連携, 政府インセンティブの活用 現在 First Solar ソーラー フロンティア NRELの支援 NEDOの支援 (出典)各種二次情報より Arthur D Little 分析 42 ???? 重点的なR&D支援による 勝ち組国内プレーヤの育成 (3)インバータ 太陽光発電システムの普及拡大に伴い、インバータの市場も拡大していく見込みであ る。太陽光発電システムにおいて故障頻度の高いコンポーネントのため、メンテナンス 体制の充実したメーカが選ばれる傾向にある。 インバータ (出典)富士経済 2010 年版 太陽電池関連技術・市場の現状と将来展望」 、各種二次情報等より Arthur D Little 分析 本市場は SMA をはじめとした欧州の先進企業が大きなシェアを占めているが、欧州 の新興企業や日本、北米、アジアのプレーヤが対抗しており、シーメンスやABB等の 重電メーカや風力発電関連等の異業種も参入している。 43 我が国においては、主に住宅用途においてモジュールメーカがインバータ製造に参入 する動きが見られる(内製だけでなく OEM も含む)。 欧州市場では、インバータメーカは各用途向けにラインナップを幅広く持ちつつも、 機器提供とサポートに徹し、モジュールメーカやシステムインテグレータとの役割分担 がなされている。 用途別プレーヤマップ モジュール インバータ SI オムロン、Fronius(オーストリア) ~10kW 住 宅 用 シャープ(田淵電機がOEM) 京セラ(オムロンがOEM)、三洋電機(内製) 10kW~100kW 公 共 / 産 業 用 SMA Solar Schneider 三菱電機(内製)、Sunways(ドイツ) 田淵電機、 荏原電産業、 OKIパワーテック ( フ ラ ン ス ) シャープ(ダイヘンOEM) 100kW~ 電 力 用 ( ド イ ツ ) 、 明電舎 Advanced Energy(米)、 ABB(米) 東芝、日立製作所 (出典)各社 web ページより Arthur D Little 分析 電力用途のような大規模なシステムになると、機関投資家主導のビジネスとなってお り投資対効果が重視される。そのため、インバータに対しても単位容量あたりのコスト 低減圧力から、大型化が進展している。欧州太陽光発電市場が立ち上がった 07 年頃は 250kW が主流であったが、現在は 500kW が主流となり、1,000kW サイズのインバー タも採用されつつある。ただし、大型化しすぎると高価な高圧 DC ケーブルが必要にな る、故障時のリスクが増す、システム低負荷時のインバータ変換効率が下がる、などの 弊害もあるため、今後は大型化の動きも緩やかになることが見込まれる。 44 インバータ大型化に伴う単位容量あたり単価の下落 (出典)NRI 資料 SMA は高品質な製品開発とサポート・保証の充実により、インバータ分野で世界シ ェア第1位を獲得している。 ベストプラクティス 品質 サポート・保証体制 パワー・コンディショナの特性は,電力系統に接続した太 陽電池システム全体の電力変換効率を決める重要なパ ラメータである。 15年前に94%前後だったパワー・コンディショナの電力 変換効率は,現時点で98%まで高まった(図4)1),注3 )。 最大変換効率98%を最初に実現したのは,独SMA S olar Technology AGの製品であり,主回路の素子に Si半導体を使用している。 SMA Solar Technologyは,昇圧を担うコンバータを 省いて,主に大規模発電所に向けた仕様に特化すること で高効率化を実現した。 大規模発電所では多数の太陽電池モジュールを自由に 組み合わせて,高い出力電圧を得ることができる。 サポート体制 • 主要な全ての太陽電池市場へのサポート体制を構 築するため、世界16か国に支社・拠点を持っている (17か国目の日本は現地法人を設立中) 品質保証サービス • 97-99%の変換効率を顧客に保証しており、それに 満たない場合には、1日kWあたり1.2ユーロの賠償 金を支払うとしている (出典)2008/11/01 日経マイクロデバイス、SMAweb サイトおよびその他公開情報より Arthur D Little 分析 45 (4)BOS(Balance of System、架台や配線ユニット等) BOS の中では架台費の占める割合が最も大きい。 太陽電池システムにおける BOS コストの占める割合 (出典)NRI 資料より Arthur D Little 分析 注:(海外ユーティリティ用途での事例、SI 除く) Hilti(リヒテンシュタイン)等の海外メーカはシステムインテグレータ等との協調の もと、工法と架台の最適化や、架台の規格化を通じたコスト低減を進めている。 また、モジュールメーカでも、First Solar 社は、BOS のコスト低減のため、架台の 標準化や、簡易な工法を開発している。国内メーカにおいても、業界として標準化・規 格化を進めることによりコスト低減・施工性向上の余地が存在すると考えられる。 電力用ベストプラクティス (出典)NRI 資料より 世界に先駆けて住宅用太陽光発電の市場が立ち上がった日本においては、小さい屋根 面積や多様な屋根形状等の厳しい制約条件の中、架台を中心に各メーカが多様な開発を 実施している。公共/産業用においても、システムが大型化する点を除けば主に屋上へ 46 の設置という点でニーズは概ね共通である。架台自体はコンクリートの基礎や鉄骨材等 により構成されているため輸出財にはなりにくいと考えられるものの、厳しい条件下で 鍛えられた設計コンセプト・ノウハウを生かした海外生産・拡販の可能性はあると考え られる。 住宅用、公共/産業用におけるニーズと企業の取組み 住宅、公共/産業用途におけるニーズ 多様な屋根の形状に対応したい 住 宅 用 途 で 特 に 強 い 住 宅 、 公 共 産 業 / 用 途 で 特 に 強 い (屋根の面積が小さいが)より広く 太陽光発電モジュールを置きたい 防水対策を万全にしたい 軽量化したい 低コストで施工したい 用 途 共 通 設置後の管理を簡単にしたい ・・・ 民間住宅では、傾斜のある屋根や木造 などが多く、柱や梁にしっかりと固定しか つ重量物の設置に制限があるなど制約 が多い。 企業の取組み 「多様なモジュール形状」への対応による設置面積拡大 – シャープは屋根の形状や設置面積に合わせてレイアウトを柔軟に変えられ る太陽光発電システムを販売。狭小住宅の屋根にも楽に取り付けられる – 大きさや形状の異なる四種類の太陽電池パネルを使い、効率よく載せるこ とで設置面積を従来比で平均二四%拡大 防水強化・架台軽量化による設置後のリスク低減、設置場所拡大 – 公共・産業用の設計・施工で豊富な実績を持つトオヤマは、モジュール間に 専用のドレインを設けて万全の防水対策をとり、将来的な屋根防水改修の 負担を軽減 – 陸屋根に直接アンカーボルトを打ち込み架台と連結するため、コンクリート 基礎が不要となり、システムの総重量が半分以下に。建物の耐震基準の影 響を受けにくくなるほか、梁上部といった設置場所の制約もなくなる 部品点数削減・プレ組立てによる工数削減 – 住生活グループは支持点数の削減、シール付ネジによるシールレス工法( 通常は防水用のコーティングシールを充填してからネジを留め付けるが、こ れを一体化)、アース金具架台の一体化などにより施工時間を大幅に短縮 した(従来比40%減) – また部品を支持部材にプレセットして出荷するなどして標準的な施工時間 を短縮。施工前の開梱・開封作業などの作業手間を省く (屋根自体を含む)保守・点検の容易化 – 太陽光発電コンサルティングのフォトボルテックは、架台用の特殊金具を開 発。金具がヒンジの役割を果たしてパネルを60度の角度まで持ち上げるこ とができる – 発電パネルは屋根にボルトで固定するのが一般的で、点検などの際は屋 根からパネルを取り外す作業が必要。パネルを動かせるようにすることで、 数十万円する作業費用が5分の1~10分の1程度で済む 架台の不要化 – 京セラはラックが不要な独自の施工方法を導入したことで設置レイアウトの 自由度が高まり、モジュールの搭載容量を最大50%増大した – 独自開発の金具を用いた架台のない新施工方法と、それに対応する新型 太陽電池モジュールを採用 – モジュールのフレームに従来より厚みをもたせることで強度が向上。ラック が不要なため部材点数を約60%削減でき、屋根への重量負担は約15% 減る (出典)各種新聞記事等より Arthur D Little 分析 なお、配線ユニットに関してはワイヤハーネス大手のオーナンバがベトナムで生産を 行っている。人件費の安さに加え、電線や樹脂製の外枠など安価な部材を現地調達して いることから、日本に比べ製造コストを1割ほど安く抑えつつ、日本およびアジアに拠 点を持つ欧米メーカにも提供している。 (5)SI(システムインテグレーション) SI の市場規模は、セル・モジュール市場規模に伴って堅調に伸びていくことが予想さ れている。市場の大部分を占める住宅、公共・産業用途では各地の工事会社等が設置を 行うため、それほど大規模なプレーヤは存在せず、全体としては市場が非常にフラグメ ント化している。他方、電力用途においてはメガソーラーの設置で先行するドイツでは 47 大手の専業プレーヤも存在し、またドイツ・米国ともに Q-Cells(独)や First Solar (米)等の SI まで進出している強力なモジュールメーカが目立っている。 SI SIの市場推移 SI市場プレーヤシェア(09年、発電容量ベース、住宅、公共/産業、電力含む) 2.11.4 2.8 2.8 (単位:GW) 100 その他 公共/産業 23.5 電力 juwi Solar(ドイツ) 0.1 60 Conergy(ドイツ) 17.8 40 0.1 11.0 20 0 0.8 0.1 住宅 80 1.4 1.3 0.0 1.5 1.9 2.5 08 0.1 2.5 3.2 1.5 09 0.1 4.2 5.9 2.3 10 0.1 7.0 Q-Cells international( ドイツ) 48.1 First Solar(米国) 36.1 SunPower(米国) 0.1 5.6 9.1 3.0 12.3 7.0 12.0 17.0 4.0 11 12 15 20 25 21.5 セル メーカ COLEXON Energy( ドイツ) Phoenix Solar( ドイツ) その他 87.4 (出典)各種二次情報より Arthur D Little 分析 プロジェクト総計で 100MW 以上の実績を持つなど存在感を示している SI プレーヤ を、バリューチェーン・取扱い用途・取り扱い再生可能エネルギー種別の3つの範囲に ついて比較すると、それぞれ事業範囲は異なっている。 大きな傾向としては、バリューチェーンにおいて、あくまでも SI のみに特化したプ レーヤと、セルを基軸に SI ひいては発電事業まで進出するプレーヤの二つのパターン に分かれる。 主要 SI の事業範囲 バリューチェーン実施範囲 セル他 コンポーネント ✔ juwi solar ドイツ SI (EPURONを含む) ✔ ✔ Q-Cells International ✔ ✔ First Solar ✔ ✔ SunPower ✔ ✔ T-Solar ✔ ✔ Conergy 米国 スペイン Acciona Solar ✔ IPP ✔ 取扱い用途範囲 取扱いRE範囲 公共/ 住宅用 電力用 産業用 RE全般 ✔ ✔ ✔ ✔ ✔ ✔ プロジェクト 太陽光 PVモジュール 総出力 のみ First Solarが 中心 400MW ✔ 不明 87MW ✔ ✔ Q-Cells Sunfilm 113MW ✔ ✔ First Solar 不明 ✔ ✔ SunPower 不明 ✔ ✔ ✔ T-Solar 143MW ✔ ✔ (最近買 収) ✔ ✔ (一部) ✔ (一部) (出典)各社 HP、メガソーラー計画書等より Arthur D Little 分析 48 ✔ Yingle、BP Solar、三洋な 114.9MW ど多様 juwi Solar(独)は、2005 年に風車やビルに関するエンジニアリング会社との合弁会 社を設立し、システムインテグレータとしての競争力をつけた。 その後、下流の電力会社との風力発電に関する合弁会社設立を通じたリレーション構 築や、First Solar とのとの協業による大プロジェクトに複数金融機関からの支援を獲 得することで、大規模なプロジェクトの受注も可能にする体制を築いてきた。 ベストプラクティス:電力用途 juwi Solar 下準備 プロジェクト受注 05年5月:風車コンポーネント/エンジニアリング会社、オペレーシ ョン企業と合弁 • 風車に関するタービンなどのコンポーネントとエンジニアリングを行うオラ システム ンダ企業MECAL Enschede 競争力構築 • ビルのコンポーネントやエンジニアリングなどを行うオランダ企業Hurfs GroepBVと合弁会社を設立 09年4月: スイス最大の電力会社からプロジェ クト受注 • スイス最大の電力会社であるBKW FMB Energy Ltd.から風力発電8MWの プロジェクトを受注 09年4月:スイス最大の電力会社と合弁 下流との リレーション 構築 • スイス最大の電力会社であるBKW FMB Energy Ltd.と風力発電に関す る合弁会社を設立 10年5月: ドイツのメガソーラ53MWを受注 09年4月:First Solarとの協業による大プロジェクトの実施決定と 複数金融機関からの支援獲得 • ドイツのBrandenburgにある53MWのメ ガソーラをWealthCapから受注 大規模 プロジェクト • First Solarと協業し、合計で160M€かかるプロジェクトを実施することを決 定 受注体制の • それに応じて、KfW IPEX-Bank GmbH, BremerLB, DZ Bank AG, 構築 Landesbank Hessen-Thuringen-Girozentrale,NORD/LB and Deutsche Bank AGなどの名だたる金融機関が、支援を決定 (出典)各種公開情報より Arthur D Little 分析 米国市場で、PV モジュールの提供から売電事業まで幅広く展開している First Solar は、企業買収や実案件を通じて、EPC(設計・調達・建設)や IPP(独立発電事業)に 必要となる実績やシステム提案力を獲得している。 49 ベストプラクティス:電力用途 バリューチェーン実施範囲 サイト名 Blue Wing (2009/6) Mesquite (2009/8) Topaz Solar (2009/12) SI セル・ モジュールファイナンス EPC First Solar O&M IPP First Solar First Solar First Solarの川下展開 User CPS Energy juwi Sempr a First Solar APS* PG&E* * 企業買収によりEPC事業のノウハウを獲得 • 2007年11月、ファーストソーラーはTurner Renewable Energy 社をメガソーラ―向けEPC能力の獲得を目的として買収した • ファーストソーラーは獲得したEPC機能を活用し、10MWのメガソ ーラをネバダ州に建設する メガソーラー案件の獲得により、IPP事業への展開も見せる • ファーストソーラーは、OptiSolar社の案件獲得により米国のIPP 事業へ参入したと発表 • 同案件は以下の内容を含む、 - PG&E社との550MWの売電契約 - 西部地区のユーティリティ会社と交渉中の、1,300MW分の 追加的なメガソーラ―建設計画 - 最大で19GW分の太陽光発電が可能な210平方キロメート ルの土地の開発権 First Solar News Release (2009/03/02) (出典)各種二次情報より Arthur D Little 分析 注:* Arizona Public Service ** Pacific Gas and Electric Company 前述のとおり、公共・産業用途では他用途より意匠性や PR といった観点が重視され る場合があり、建材一体型、壁面設置型などの設置場所、シースルー型、カラフル型な どのモジュールタイプの選択肢もあるため、多様なシステム設計・工法などへの柔軟な 対応能力が求められる。 50 公共・産業用途 (出典)太陽光発電協会資料等より Arthur D Little 分析 住宅用途の SI 市場は、世界的に既築住宅に対する工事会社(工務店)による設置が 主流である。各地域には現地の工事会社が存在するため、海外展開・モジュール販路の ためには、現地工事会社ネットワークの買収が有効である。 伊藤忠商事では米国市場への参入に際して Solar Depot 社を、さらなる事業拡大に向 けて Solar Net 社を買収し、全米の住宅用シェアで 30%超の第1位となっている。 我が国としては、先行して住宅用途市場が立ち上がっている国内での経験を活かし、 蓄電池の併設や HEMS など「創・蓄・省エネ」のトータル SI 機能を獲得し、海外で 展開することが有効と考えられる。 また、新築住宅に対しては建材一体型モジュールの展開も有効と考えられる。 51 住宅用 (出典)富士経済 「2010 年太陽電池関連技術・市場の現状と将来展望(富士経済) 、各種新聞記事等 より Arthur D Little 分析 (6)発電事業者 太陽光発電事業市場は今後急速に立ち上がり、年率 14%の高成長を 2050 年まで続け る見込みである。米国市場では、バリューチェーンを垂直統合したセル・モジュールメ ーカが全体の約70% を占める一方で、独立系発電事業者(Independent Power Producer)などの新規プレーヤも急激に規模を拡大していく傾向にある。 発電事業市場規模の推移 (出典) “Technology Roadmap Solar photovoltaic energy”(2010, IEA)より 52 太陽光発電事業者の内訳(発電容量ベース、米国市場) (出典)各種新聞記事等より Arthur D Little 分析 Sun Edison(米)は開発、設計、施工、オペレーション、メンテナンスに加え、ファ イナンスと長期の売電契約も含むフルパッケージサービスを提供しソリューションビ ジネスを展開している。 53 ベストプラクティス:SunEdison (出典)NRI 資料より 米国カリフォルニア州では、REC ソーラーが消費者と電力買取契約(PPA)を結ぶ ことで、消費者にとって初期費用ゼロで太陽光発電による電力を系統電力よりも安価に 購入できる仕組みを構築しており、今後は太陽光発電のサービス産業化が進むと考えら れる。 発電事業者ベストプラクティス:REC ソーラー 低コスト化の仕組み PPA事業の仕組み 補 助 金 消費者 • 太陽光発電システムの 設置費用を負担 (受け取った電力料金で 初期投資コストを回収) • 太陽光発電システムの 設置場所を提供 • 電力料金の支払い (クリーンな電力を、 より安価に購入) 土 地 代 太 陽 光 シ ス Pテ Pム Aの 発 電 単 価 ( ) PPA事業者 ( 通 常 時 ) 太 陽 光 シ ス テ ム の 発 電 単 価 (出典)各種公開記事等より Arthur D Little 分析 54 通 常 の 買 電 単 価 (7)レイヤ別の付加価値・利益率 現在の太陽光発電市場においては、品質保証サービスなどを差別化要素とすることに より、SI レイヤの付加価値が高い。 現在の太陽光発電の付加価値構造(シリコン系など、成熟期) (出典) 「2009 年版 太陽電池関連技術・市場の現状と将来展望」富士経済、外部ヒアリングより Arthur D Little 分析 注)各付加価値の低減幅は ADL が外部ヒアリングにて検証しながら仮定を置き設定。 また、用途別ではない また、レイヤ別の利益率はスマイルカーブを描いており、モジュール売りでは買い叩 かれる構造にある。今後は、部材やセル・モジュールメーカの参入増加により、システ ムインテグレータ等の川下プレーヤの交渉力が相対的に増加することで、部材、セル・ モジュールメーカが獲得する利益がさらに減少することが見込まれる。 55 レイヤ別の利益率 これまで これから Waker(ポリシリコン事業部、 09年):50% 営 業 利 益 率 営 業 利 益 率 Q-cells(Products事業部、 09年):6% Phoenix (Solar Plant Construction事業部、09年):3% IPP <川上> 利益率が高い イ ン バ ー タ SI 売上 セ ル ・ モ ジ ュ ー ル BOS 原 料 部 材 IPP イ ン バ ー タ SI セ ル ・ モ ジ ュ ー ル BOS 原 料 部 材 売上 ・ターンキーソリューションによる参入障壁低下 ・参入プレーヤの増加 <川下> 利益額が大きい (出典)各社 AR 及び NRI 資料等より Arthur D Little 分析 他方、仮に今後有機型等の次世代型の市場が成長し始めるとすれば、課題である寿命 や発電効率などの改善に向けたすり合わせが必要となるため、部材レイヤの付加価値が 高くなると見込まれる。 56 参考:有機型太陽光発電の付加価値構造 (出典) 「2009 年版 太陽電池関連技術・市場の現状と将来展望」富士経済、外部ヒアリングより Arthur D Little 分析 注)各付加価値の低減幅は ADL が外部ヒアリングにて検証しながら仮定を置き設定。 また、用途別ではない 57 4.産業としての自立可能性 (1)コスト低減見込み モジュールコストの低減に加えて、 SI コスト等の削減により将来的には約 9 円/kWh を達成する可能性がある。発電コスト競争力としては天然ガスと並ぶ水準となる。 方式別のコスト見通し試算例 58 推計の根拠と前提条件 モジュールコスト(現状) • 結晶シリコン、薄膜シリコン、CdTe、CIS系でそれぞれ111円、94円、64円、94円/W インバータ、BOS、SIコスト(現状) • 無機系太陽光発電システムの付加価値構成比がモジュール:インバータ:BOS:Siが各々 30%:6%:8%:56%であるため、結晶Siのモジュール価格より推計し、他技術方式は変換 効率の高低を考慮して推計した CdTe 結晶Si 薄膜Si CIS系 111 94 64 94 モジュール 22 24 23 23 インバータ BOS 29 32 31 30 SI 206 215 210 209 モジュールコスト(将来) • 結晶シリコン、薄膜シリコン、CdTe、CIS系でそれぞれ60円、43円、34円、43円/W インバータ、BOS、SIコスト(将来) • インバータは15円/Wを達成するとの目標より、左記を結晶Siの数値とし、他方式でも同等 の価格下落率を見込んだ • BOSはFirst Solar社の目標設定より、現状の35%削減値を採用した • SIは現状(200円前後)の1/2~1/3を達成するとの目標よりそれぞれ1/3の水準まで価格下 落すると仮定した 金利、設備利用率、モジュール寿命 • 各々5%、12%、現状は20年で将来を30年とした (出典)富士経済「2010 年版 太陽電池関連技術・市場の現状と将来展望」 、First Solar 社資料、 経済産業省「再生可能エネルギーの全量買取に関するプロジェクトチーム資料」NEDO 「太陽光発電ロードマップ(PV2030+)」 ・ 「再生可能エネルギー技術白書」、事業者インタビュ より Arthur D Little 分析 (2)用途別の自立化可能性 太陽光発電が産業として自立化できる状態とは政策的な支援等なしに太陽光発電の 経済合理性が成立し、普及が進展する状態である。 用途別に経済合理性の成立可能性を検討するにあたって、設置場所が需要家側になる か、系統側になるかによって、代替すべき競合相手が既存の発電事業なのか、電力小売 り事業なのかが異なってくる。 需要家側に設置される公共・産業用、住宅用では、需要家が買電単価以下で発電でき れば経済合理性が成り立つため、電力料金や日射量等の条件に応じて、グリッドパリテ ィが達成され、徐々に産業の自立化が進んでいくと考えられる。 なお、FIT 等の支援策が縮小された場合、投資に伴うリスクが高まるため、電力需要 家が各々太陽光発電システムを設置・管理するのではなく、例えば専門事業者が太陽光 発電電力供給サービスとして設置・管理を代行する等、太陽光発電に関連する新たなサ ービス産業が一層発展していく可能性も考えられる。 59 産業としての自立化(用途別の競合状況) 目的 設置場所 競合 ターゲット価格 電力用 系統側 既存の発電事業 ¥7-8 /kWh (LNGの場合) 詳 細 後 述 ( 経 済政 合策 理的 な 性支 が援 成を 立見 込 すま るず こに と 用途 ¥14 /kWh (業務用電力料金) 公共/産業用 需要家側 電力小売事業 ) ¥23 /kWh (家庭用電力料金) 住宅用 (出典)各種二次情報等より Arthur D Little 分析 系統側に設置される電力用では、既存電源の時間帯別活用状況および太陽光発電は日 中の需要カーブに沿う形での発電が見込まれるため、既存火力発電の代替が有望と考え られる。この場合、仮に発電単価の上昇を招く蓄電設備を持たない形での運用を想定す ると、2030 年の発電単価(¥9/kWh)は LNG による火力発電にほぼ匹敵する水準であ り、将来的にはミドル電源としての活用が見込まれる。 小売り側で電力需要変動に対応した時間帯別料金などが導入されれば、小売価格が高 くなると想定される昼間に電力を供給することができる太陽光発電の価値は更に高ま ると考えられる。 電力用途の競合動向 既存電源の時間帯別の活用状況 揚水式 貯水池式 水力発電 調整池式 需要のピーク 需要曲線 揚水式水力発電 太陽光発電の買電パターン 蓄電無し (蓄電設備不要) (出力制御無し) (需要に関係なく) 蓄電せずにそのまま発 電 火力発電:(発電単価) 石油:¥10-17/kWh LNG:¥7-8/kWh 石炭:¥5-7/kWh 売電 電 パターン 力 0 流込式水力発電 0 6 12 18 6 12 18 24 ピーク ベースロード 昼間の1,2時間程度 発生する 需要ピーク時のみ発電 一日を通じて一定出力 で発電 ミドルピーク 昼間から夜にかけての 電力需要時に発電 電 力 需 要 需 要 原子力発電 蓄電あり (蓄電設備必要=高コスト化) 0 電 力 需 要 6 12 18 24 0 電 力 需 要 6 12 18 24 0 6 12 18 24 売電単価 中 中 高 低 売電時間 (/日) 6時間程度 8~12時間 1~2時間 24時間 必要蓄電量 (無し) 小 大 大 24時 (出典) 「原子力・エネルギー」図面集 2010、エネルギー白書 2008・2010 より Arthur D Little 分析 60 また、太陽光発電には、環境性・短工期・設計の柔軟性・メンテナンス性・低稼働停 止リスク・負荷パターンとの整合性・燃料価格変動のリスクフリー・需要家側への設置 による低送配電ロス・送配電網の容量の縮小による建設コスト低減など、既存電源には 無い多様な利点も存在する。 既存電源に対する太陽光発電の優位性 (出典)Amory B. Lovins「Small IS PROFITABLE」 、各種二次情報等より Arthur D Little 分析 したがって、今後は FIT 等の支援策によらずとも経済合理性が成り立つようになり、 ゆくゆくは電力用途も産業として自立していくことが想定される。 61 5.経済波及効果・雇用分析 (1)国内太陽電池産業の変遷 政策誘導により国内の太陽電池産業は着実に拡大してきた。2009 年度で市場規模は 1, 776,225 百万円、雇用者数は 14,924 人に上ると推定される。 市場規模・雇用者数の推移と主な普及政策 【太陽光発電】雇用規模の推移 【太陽光発電】市場規模の推移 スペイン FIT導入 80.0 2000 ドイツ EEG改正 60.0 40.0 1500 1000 RPS制度 開始 20.0 500 0.0 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 80.0 2000 補助金 打ち切り 60.0 出荷総量 出荷量(国内計) 1500 ドイツ EEG改正 RPS制度 開始 40.0 1000 500 0 2001 2002 2003 2004 年度 市場規模(太陽光) 2500 0.0 2010 出荷量(国内住宅) 雇用規模 出荷総量 2005 2006 年度 2007 出荷量(国内計) 2008 2009 2010 出荷量(国内住宅) 日本の主要な太陽光発電普及政策 •RPS制度(2003/4/1~) •余剰電力買取制度(2009/11/1~) •住宅用太陽光発電導入支援対策補助事業(国)(2009/1~) •太陽光発電普及促進事業補助金(自治体) (出典)太陽光発電協会資料、PV NEWS、産業タイムズ社「太陽電池産業総覧」 、決算短信、より帝国デ ータバンク分析 (2)太陽光発電産業の経済波及効果 (ⅰ).販売数量 1,000 台あたりの経済波及効果 帝国データバンクの企業情報データベースより太陽光発電産業関連の企業を抽出、こ の情報に基づき産業連関表に太陽光発電産業を新設し、経済波及効果について産業連関 分析を行った。販売数量 1,000 台(1台 3kW を想定)あたりの経済波及効果は生産誘 発額 52 億円、付加価値誘発額 22 億円、雇用誘発者数 213 人となる。 (ⅱ)新たな生産拠点を立地した場合の経済波及効果 有価証券報告書等を参考に国内の某工場を想定し、同規模の製造拠点を国内に新設し た場合の経済波及効果を算出した。経済波及効果は生産誘発額 5,447 億円、付加価値誘 発額 2,319 億円、雇用誘発者数 2 万 3,039 人となる。 仮に海外に同規模の生産拠点を立地した場合でも、生産誘発額 348 億円、付加価値誘 発額 126 億円、雇用誘発者数 1,473 人の経済波及効果が想定される。 海外に生産拠点を立地した場合でも、モジュール材料(カバーガラス、バックシート、 封止材等)について日系プレーヤは存在感を持ち、輸出が誘発されることによる国内へ の経済波及効果が期待できる。 62 3000 スペイン FIT導入 20.0 0 2001 2009年度雇用者数 14,924人 100.0 2500 補助金 打ち切り 電力買い取り 制度開始 補助金再開 120.0 3000 容量(MW) 市場規模(2009年度を100) 100.0 電力買い取り 制度開始 補助金再開 容量(MW) 2009年度市場規模 1,776,225百万円 市場規模(2009年度を100) 120.0 新たな生産拠点を立地した場合の経済波及効果 新たな生産拠点を国内に新設した場合の経済波及効果 生産誘発額 付加価値誘発額 雇用誘発者数 5,447 億円 2,319 億円 2 万 3,039 人 同規模の生産拠点を海外に新設した場合の経済波及効果 生産誘発額 付加価値誘発額 雇用誘発者数 348 億円 126 億円 1,473 人 生産誘発額 付加価値誘発額 雇用誘発者数 4,897 万円 1,781 万円 2.08 人 上記、1MW あたりの経済波及効果 (出典)有価証券報告書等より国内の某工場を想定、帝国データバンク分析 (ⅲ)拡大する世界市場におけるシェア獲得 1%あたりの国内への経済波及効果 IEA の技術ロードマップによると、太陽光発電の世界市場は 2050 年まで成長を続け ることが見込まれており、2010 年で 3.24GW だった市場が、2020 年には 25.2GW ま で拡大するとされる。 日本プレーヤが急伸する世界市場のシェアを追加獲得した場合の 1%あたりの国内経 済波及効果について試算を行ったところ、経済波及効果は生産誘発額 123.4 億円、付加 価値誘発額 44.8 億円、雇用誘発者数 524.2 人となる。 世界シェア追加獲得 1%あたりの経済波及効果 年 市場規模予想(GW) 生産誘発額 付加価値誘発額 雇用誘発者数 2020 25.2 123.4 億円 44.8 億円 524.2 人 (出典)帝国データバンク分析 63 6.施策案の背景と施策方向性 今後の産業を検討する上で、重要性の高い論点として大きく以下の二点が想定される。 重要性の高い論点 論点の背景 検 討 テ ー マ シ ス テ 機ム 能イ ン のテ 強グ 化レ ー タ ー 有 機 の系 開太 発陽 電 池 今後、潮流としては、システムインテグレーション部分の利益率が占める割合はますます大きくなる。こ の状況を踏まえ、多くの企業は機器売りから、より下流への進出を図っている状況であり、また、海外で はシステムインテグレートだけに特化したプレーヤーも多い。 国内で施行される買取制度にあっても、メガソーラー等は一層のシステム価格の低下が期待されてい るが、これに加え、海外にも通用する形で施工の標準化や架台設計等、システムインテグレート機能を 強化していく必要があるのではないか。 モジュールやBOS全体を最適設計し、適地の選定、地元や地元の電力会社との調整、工期や法令遵 守等のプロジェクトマネジメント力を強化しつつ、低コスト化と品質・性能保証が両立されることとなれ ば、海外案件の獲得が進み、多くの部材の発注が可能となるため、海外の競合他者のようにバーゲニ ングパワーを維持・強化しつづけることが可能となる、好循環に繋がることとなる。 現在、太陽光モジュールの中でも、シリコンのモジュールはターンキーソリューションの登場により、価 格競争の激化と量産化のコストダウンが進み、発電効率以外では差別化を行いにくい状況となってい る。 しかしながら、海外市場の大半はメガソーラーであり、土地面積の制約がないことを鑑みれば、より低 価格での生産が可能、かつ、ターンキーソリューションになりにくい、有機系太陽電池の開発にいち早く 着手し、海外市場への獲得を狙うべきではないか。 64 2.2. 風力発電産業 1.グローバル市場動向 (1)主要国の風力発電導入の背景 風力発電は、他の再生可能エネルギーと比較して、発電コストが低いうえ立地可能な 場所が多いなどの利点から、欧州等各国の導入促進制度も合わせて、導入が進んでいる。 主要国の風力発電導入の背景 新エネルギー発電コスト比較 導入促進制度 その他動機付け 欧 州 • FITが主流(洋上や弱風地域 • エネルギー自給率上昇への ニーズ大(化石燃料に頼らな は割増価格を適用) い体制作り) 米 国 • PTC:2円/kWh 選択制 • ITC:30%還付 • 設置可能場所が広い • FIT:カリフォルニア・ミシガン • RPS:28州+DC 中 国 • FIT • CDM(外資導入による地方 開発も兼ねる) • 急激な経済発展に対して、 発電量が不足している 日 本 • RPS:再生エネルギー比率 1.8%、2014年 • 特になし (PVへの傾倒の歴史あり) FIT:固定買取 RPS:比率義務付 PTC:税金還付 ITC:投資課税控除 CDM:環境開発援助 (出典)NEDO「風力発電の技術の現状とロードマップ」及び各種資料より Arthur D Little 分析 (2)風力発電の分類 風力発電は通常、発電規模で系統用と独立電源用に、設置形式で陸上と洋上に分類さ れる。 今回の分析で中心的に取り扱う系統用の設置形式においては、陸上、洋上着床式、洋 上浮体式の順に市場拡大が見込まれている。 しかしながら、各設置形式において主な部材は共通するものが多いため、陸上・洋上 着床のバリューチェーンの各レイヤの動向を分析した上で、各設置形式の差異に触れる こととする。 65 風力発電の分類 設置形式 陸上 自家発 洋上 系統 着床式 浮体式 D 超大型 5~10MW級 大型 3~5MW級 中型 1~2MW級 小型 100kW級 洋上風力発電 (浮体式) C 洋上風力発電 (着床式) B 定 格 出 力 陸上風力発電 A 小型風力発電 (出典)各種公開情報及び事業者インタビューより Arthur D Little 分析 (3)国内外市場性と競争環境 風力発電産業は、高成長が見込まれており、悲観シナリオで見た場合でも市場規模は 2030 年には 2010 年比で約 2 倍、楽観シナリオの場合は 2010 年比で 10 倍程度にまで 成長すると予測されている。 我が国の風力発電市場については、2009 年の導入実績約 2.2GW に対し、長期エネル ギー需給見通し(再計算)の最大導入ケースでは、2020 年及び 2030 年の導入目標は 5.0、6.7GW となっている。その他、各種機関によって数値は異なるが、2030 年頃に は 2009 年比で市場が 2 倍~20 倍と、総じて導入が急拡大することが予測されており、 国内市場においても大きな導入ポテンシャルがあると考えられる。 66 風力発電市場規模推移(予測) (出典)IEA Global Wind Energy Outlook 2010 より 67 国内風力発電の市場規模推移予測と導入目標 45 GW40 450 Scenario Shares:13%(2035年) 35 OECD/IEA 予 測 30 25 New Policies Scenario Shares:5%(2035年) 20 15 10 Current Policies Scenario Shares:4%(2035年) 5 2008 2015 2020 2025 2030 2035 国 内 機 関 予 測 (出典) IEA World Energy Outlook 2010 Annex A Tables for Scenario Projections より このように、大きな市場拡大が見込まれる風力発電産業であるが、日本プレーヤの世 68 界シェアは 2%程度、国内シェアも2割程度にとどまっている。 風力発電導入メーカシェア(国内・世界) メーカシェア(2008年、国内) (ドイツ) (オランダ) シェア21% Siemens その他 2% 2% Lagerwey 4% (スペイン) Gamesa 三菱重工 14% Neg-Micon 5% シェア2% 日本製鋼所 4% 5% (デンマーク) メーカシェア(2010年、世界) 荏原フライデ ラー 1% 富士重工業 1% Vestas 19% GE Wind 19% (米国) (デンマーク) (ドイツ) Repower 3% NORDEX (ドイツ) 3% (ドイツ) Enercon 12% DeWind 1% Bonus (米国) 4% (米国) (出典)NRI 分析資料、: BTM Consult 「world ipv6 day market update 2010」より 2.バリューチェーンと関連事業者 (1)バリューチェーンの全体像 風力発電のバリューチェーンは、投資・設計、部材、風車組立、Balance of plant と 呼ばれるケーブル等のその他構成要素を含めた取り付け・試運転、オペレーション・メ ンテナンスで構成されている。電力事業者、部材メーカ、風車メーカ、施工業者がプレ ーヤとなっているが、電力事業者が投資・設計とオペレーション・メンテナンスを一貫 して行うことが多く、また風車メーカが取り付け・試運転を合わせて行うことが多い。 なお、Balance of plant とオペレーション・メンテナンスの一部の要素が陸上・洋上で 異なっている。 また、一般的に設計寿命が 20 年と言われる風力発電システムの初期コストを 100 と すると、組立工事費が 15、構成部材が 85 程度であり、部材内で主要なものは、タワー (26)・ブレード(22) ・増速機(13)となっている。なお、オペレーションコストが 1年当たり 2~3 かかり、事業期間全体で 40~60 のオペレーションコストがかかるとい うことになる。 69 風力発電の主な構成要素 軸受 増速器 発電機 ブレード タワー 電力系統 制御装置 変圧器 変電装置 (出典)NEDO 資料より作成 風力発電産業のバリューチェーン (出典)The Economics of Wind Energy“ EWEA March 2009、BTMconsult など各種公開情報 及び事業者インタビューより Arthur D Little 分析 70 (2)バリューチェーンレイヤ別の現状と課題 (ⅰ)部材レイヤ 2006 年までは、軸受けを除き大手風車メーカの主要部材調達先として日本のプレー ヤのプレゼンスはが低かった。 しかし近年、風車構成部材の国内メーカの生産量は、海外風車メーカ向けを含めて急 増しており、明確な統計がないものの、部材産業を含む経済効果は年商約 2,500 億円、 関連雇用 5,000 人以上と推定される。 まず、軸受については、日本の 3 社(日本精工、ジェイテクト、NTN)が従来より 欧州等の大手風車メーカに納入実績があり、スウェーデンの SKF らとともに、寡占化 した市場の一角を占めている。 ブレードについては、日本の化学・繊維メーカ等が航空宇宙等の他産業において蓄積 してきた PAN(ポリアクリロニトリル)系炭素繊維技術の転用が利きやすく、ポテン シャルは高いと考えられる。 また、発電機・コンバータシステムなどについては、国内調達部材によって国内生産・ 海外出荷されている場合も多い。 系統安定化装置については、風況の変動が大きく、系統連系要件も厳しい日本国内で の技術力の蓄積が、海外進出への足掛かりになる可能性もある。 主要風車メーカ別の部材調達先(06 年) Name ブレード 増速機 発電機 (含むコンバータ) タワー 制御関連 (コントローラ) 丁Vestas Vestas/LM Bosch Rexroth Hansen,Winergy,Moventas Weier,Elin,ABB, LeroySomer Vestas,NEG, DMI Vestas(Cotas), NEG(Dancontrol) 米GE wind LM,Tecsis Winergy,Hansen,Bosch Rexroth,Eickhoff GE Loher, GE DMI,Omnical, SIAG GE 西Gamesa Gamesa,LM Echesa(Gamesa)Winergy, Hansen Ingelectic(Gamesa) Cantarey Gamesa Ingelectric (Gamesa) 独Enercon Enercon Direct dribe Enercon KGW,SAM Enercon 独Siemens Wind Siemens-LM Winergy ABB Roug,KGW Siemens, KK Electronic 印Suzlon Suzlon-LM Hansen,Winergy Suzlon,Siemens Suzlon Suzlon, Mita Technic 独REpower LM Winergy,Renk N/A N/A Mita Technic ReGuard 独Nordex Nordex Winergy,Eikhoff,Maag Loher, GE Nordex Omnical Nordex,Mita Technik 日 三菱重工 三菱重工 石橋製作所 三菱重工 三菱重工 三菱重工 (出典): BTM Consult ApS – June 2006、各種二次情報より Arthur D Little 分析 71 風力発電部材市場における日本プレーヤ動向 1-1 ブレード関連 1-1 軸受 1-2 1-5 増速機・ 制御関連 (歯車機械装置) 代表的企業 売上高 (09年) 海外 出荷額 国内購入 部材金額 市 予場 測規 模 発電機自体 発電機 コンバータシス 系統安定化装 テム/変圧器 置 日本製鋼所/GH ダイヤシュタイン クラフト/東レ/ 日本精工/ジェイ /住友重機械/コ 日立製作所/富士電機/明電舎/TMEIC/安川電機 東邦テナックス/ テクト/NTN マツ/オーネック 三菱レイヨン ス/ネツレン 592人 従業員数 1-3 (専任の割合は低い) 41億円 201人 206人 240人 644人 (上記5社アンケート) (上記5社アンケート) (上記中4社アンケー ト) (上記中4社アンケー ト) 162億円 117億円 65億円 203億円 839人 (上記3社アンケート) (ブレード本体4社/ 素材企業6社アンケート) 207億円 (PAN系炭素繊維 メーカは日本が寡 占) (世界で30%程度 が国内プレーヤ) 8億円 (20%) 8割強が 海外向け 約4% 111億円 (94%) 48億円 (75%) 系統連係技術要件の 厳しい日本向け出荷が 全て 14億円 100%国内調 達 97%国内調達 55億円 39億円 - 1-4 タワー 風力発電関連 機器産業全体 日本製鋼所、電気 興業、小久保鉄工 所 - (2,688人、 全社) 5,000人以上 (2,187億円、 全社) (タワー除く) 主に風力発電シ N/A ステムメーカが内 製。海外売上分 は設置場所に近 い企業から調達さ N/A れる傾向 2,513億円 不明 不明 2010 世界は大、 国内僅少 890億円程度 不明 3,000億円程度 3,000億円程度 不明 不明 不明 2015 世界は3倍になる、 国内まだ小さい 2,600億円程度 不明 7,000億円程度 7,000億円程度 不明 不明 不明 世界はさらに倍増以上 国内市場は約10倍 7,700億円程度 不明 11,000億円程度12,000億円程度 不明 不明 不明 2020 (出典): 「風力発電関連産業に関する調査研究」平成 23 年 3 月 財団法人 機械振興協会 経済研究所、帝国データバンク資料より (1-1~1-5 は、前頁の図表における部材レイヤの区分) ただし、各部材メーカは、中国などの新興プレーヤに追い上げられつつあり、高付加 価値製品へのシフトや、バリューチェーン下流進出を模索する必要が出てきている。 海外の成功事例に目を向けると、軸受メーカとして長年トップシェアを保っているス ウェーデン SKF が注目される。 軸受は、保守・メンテナンスに大きなコスト・時間がかかることから、SKF は軸受 の製造販売だけではなく、風車の遠隔監視装置の開発や顧客支援拠点を世界に 17 か所 設置するなど保守・メンテナンスを最適化し、コストや保守時間を低減するソリューシ ョン・サービスを行うことでシェアを守ってきた。 72 部材レイヤのベストプラクティス分析(スウェーデン SKF) (出典)各種公開情報及び事業者インタビューより Arthur D Little 分析 (ⅱ)風車組立(本体)レイヤ 我が国風車メーカの世界市場におけるシェアの低迷の背景には、これまで市場の中心 であった欧州、現在伸びている新興国の事業者が、自国市場向けを中心に生産数量を拡 大し、コストを低減することで競争力をつけてきたことが挙げられる。 実際、1999 年以降継続的な風量発電の導入を継続してきたスペインでは、自国メー カである Gameza 社が 2003 年に独立、グローバルでも一定のポジションを確保するま でに育っている。 73 風力発電導入メーカシェア(世界) 国別新規導入量シェア(2010年) メーカシェア(2010年) シェア1% シェア2% (出典)BTM Consult 「world ipv6 day market update 2010」よりみずほコーポレート銀行 産業調査 部作成資料 「産業振興の側面から見た風力発電への期待」より スペインにおける風車導入量推移 出所:三菱重工業資料より抜粋 また、新規導入量を 2003 年以降 6 年に渡って倍増させ続けてきた中国においては、 2010 年に自国メーカとして実に 4 社が世界シェアトップ 10 にその名前を連ねるまでに 至っている。 74 中国における風車導入量推移と風車産業の強化状況 出所:三菱重工業資料より抜粋 注:2011 年は予想導入量 また、米国は「2030 年までに全発電量の 20%を風力で賄う」との国家目標の下、風 力発電の新設発電容量を 2010 年の5GW から 10-15GW/年にまで引き上げていく方針 である。これまで、強固なポジションを保ってきた GE Wind(米)は、今後も更にプ レゼンスを高めていくことが予想される。 米国における累積及び新設風力発電導入量予測 出所:三菱重工業資料より抜粋 75 このように、自国での導入量と産業としての競争力・シェアには大きな相関があり、 現状までは自国導入が限定的だったが故にグローバルプレゼンスが相対的に低い国内 風車産業も、今後の自国導入量増加に伴いその競争力を飛躍的に強化させていける可能 性は十分あるものと考えられる。 欧州・米国の主要メーカには、オペレーションなど下流への進出傾向が見られ、洋上 を含めたバリューチェーン全般を押さえた戦い方を志向している。 風車組立でも、コスト競争の様相が強く見られ、欧・米・日の風車メーカは中国メー カにシェアを奪われ始めており、システム化・サービス事業の領域に進出することで売 上、利益を確保しようとしている。 主要風車メーカによるバリューチェーン毎の注力度合 (出典)BTM Consult, Merrill Lynch, Vestas CEO interviews (BBC, CNN), Barclays Capital, Company Website and Reports より Arthur D Little 分析 世界シェアトップの Vestas(デンマーク)は、前述したバリューチェーン下流進出 だけでなく、プロジェクトの初期段階から事業に加わることなどで、収益を確保する戦 略を採っている。例えば中国では、国家電網と風力発電を含めた送電システム全体の構 築の初期の段階から事業に加わっている。その他にも、開発・生産体制の最適化や生産 技術の競争力保持によって、現在の地位を守っている。 76 海外風車メーカのベストプラクティス:Vestas バリューチェーン上流進出 開発・生産体制の最適化 製品技術の競争力保持 • 北京(ダウ・ジョーンズ)ウェブサイト上の公告 によると、国家電網とVestasは、送電システ ムを通じた風力電力の供給を促進する方法を めぐる戦略や施策のほか、中国の風力発電 を発展させるための計画について合同調査を 行う方針という。 • しかし、中国の送電システムは発達していな いため、現時点では風力電力の送電容量が 限られている。そのため、中国政府は風力業 界を発展させるための優先事項に送電システ ムを通じた風力電力の供給の促進を挙げて いる 2010/02/15 ダウ・ジョーンズ中国企業ニュー ス • 小国の自国内市場は2000年代初頭にピーク を迎えたため、Vestasは中国や米国などの成 長市場にも現地工場を設け、一定のシェアを 確保してきた。しかし、市場の急速な伸びに製 造能力が追いついていない。 • 欧州で導入が増える洋上風力向けの発電機 でも安定運転の性能で他社に後れを取り、世 界シェアはこの4年間で15ポイント落ちた。開 発人員は世界で1500 人を抱え、「知識の蓄 えで乗り切り、他社には頼らない方針を貫く」 と強気な姿勢だが、大手発電機メーカーとの 経営体力差は否めない。 2009/10/26 日経産業新聞 • 羽根の長さ54.6メートル、発電機の直径112 メートルの発電機(新規開発機)は、風力発電 所空気動力学と発電性能の多大な進歩を示 しており、各条件の発電能力に新しい基準が 打ち立てられた(世界の風力市場で新たなス タンダードが確立した)。 • 全新タイプの電力システム・Grid Streamer が導入され、送電網に故障が発生しても、数 秒間の稼動が維持できる。 • 制御システムで24時間監視制御が実現し た。発電コスト削減を目的として、VMP6000 制御システムを開発、4種類の主要装置によ る風力発電機の制御・監視を実施することが 可能となった。 • 冷却効率が極めて優秀。革新的な冷却シス テム・Cooler Topが発電機上部に装備され た。 2010/11/08 新華社ニュース(新華通信ネット ジャパン) (出典)各種公開情報及び事業者インタビューより Arthur D Little 分析 また、中国については、拡大を続ける市場とともに企業競争力についても注目する必 要がある。 中国には風力発電設備関連の上場企業が 24 社あり、主力風車メーカに華鋭風電 (Sinovel) 、金風科技、東方電気、上海電気、天順風能などが存在する。また部材メー カとして、天馬股分、中航重機、中材科技といった企業が存在し、ベアリング・ブレー ド・コンバータなどの部材の国産化に取り組んでいる。 中国メーカはコスト競争力によって市場を席巻する勢いを見せており、華鋭風電は 5 年以内に世界 No.1 シェアになると予測する見解もある。中国国内市場を見ても、2004 年段階では 21%とプレゼンスの大きかった海外メーカも毎年シェアを落とし、2009 年 には 88%となった。 また、2010 年 6 月には、重電メーカの上海振華重工集団と電力会社の中国国電集団 が洋上風力発電向けの企業を設立している。中国沿岸地域は今後大規模な洋上風力発電 設備の設置が計画されており、また、同社は海外入札にも積極的な姿勢を示しているこ とから、中国は洋上においても強力な競合相手となる可能性もある。 77 中国プレーヤの台頭 中国プレーヤの台頭(例) バリューチェーン毎のプレーヤ 部材 風車組立 天馬股分 中航重機 • ベアリング・ブレード・コン バータなどの風力発電設 備部材の国産化に取り 組むメーカとして代表的 中材科技 • 風力発電で用いる鉄骨 上海振華重 構造物を製造する 工(集団)股份 上海強化 • 主に強硬度、耐腐食性の プラスチック 風力発電機の回転翼の 開発・生産 研究院 • 2008年の風力発電シス テム設置規模が 1,403MWとなり、2009年 は3,510MWで中国最大 華鋭風電 世界的にも第3位につけ Sinovel 、5年以内に世界No.1を 目標にしている • 1998年の成立以来、風 力発電システムの開発、 製造に取り組み、2010年 8月末の累積販台数は 金風科技 9,150台で、年間発電電 力量は約260億kWh(年 間稼働時間2,500をベー ス) 洋上向け • 上海振華重工(集団)股 フン有限公司と中国国電 集団傘下の龍源電力は 18日、洋上風力発電設 備の設置サービスなどを 手掛ける新会社「江蘇龍 上海振華重 源振華海上工程公司」を 工(集団) 設立した 股份 • 龍源電力は、中国の5大 発電グループの1角・中 国国電集団(China Guodian (Group) Corp )の傘下の再生可能エネ ルギー企業。1993年から 風力発電事業を手掛け、 現在は発電所の設計か ら建設、運営・管理までを 行っている 中国国電集団 傘下の 龍源電力 • 海上風力発電機の開発・ 生産を重点とするが、高 原、砂漠、台風、腐食性 上海電気集 などに対応できる製品の 開発も進めている 団股份 •今後数年で設置される 海上風力発電設備の 出力は中国沿海地域だ けで1000万kW以上 •将来的には海外の設 備入札にも積極的に参 加する 中国市場における中国 風車組立メーカーのシェア 0 50 100 2004 2005 2006 2007 2008 そ の 他 2009 中国国内 プレーヤ 海外 プレーヤ 龍源電力 謝長軍総経理 (出典) 「世界規模で拡大する風力発電市場と日本企業の競争優位性」機械振興協会など 各種公開情報及び事業者インタビューより Arthur D Little 分析 中国の風車メーカのコスト競争力は非常に高く、中国国内市場での比較において、中 国に生産拠点を持っている外国企業に対して 2 割強、日本企業のほぼ2分の1のコスト 優位性を誇っているといわれる。 中国風車メーカのコスト競争力(中国国内市場での比較) (出典)各種公開情報及び事業者インタビューより Arthur D Little 分析 また、風力発電事業で大きな市場の拡大が見込まれるインドにおいても現地プレーヤ の存在感が高まっており、例えば、インドの代表的な風車メーカである Suzlon が日本 78 勢に対してコスト上優位に立っている。一般的なコスト構造(インド製)を想定した場 合、風車本体のコスト差が影響し、日本製風力発電システムは発電単価でインド製より も 4 円/kWh ほど高くなっていると試算される。 国内プレーヤと海外プレーヤのコスト比較(日本勢 vs Suzlon) 発電単価比較 発電単価(円/kWh) 14 12 10 8 6 4 2 0 • 試算前提 • 日本勢の風車設置コスト(@日本)は約25万円/kW*1。風車本体のコスト 比率(@日本)はおよそ風車本体:建設費=1:1であるため、日本勢の 風車本体コストは約12.5万円/kW • Suzlonの風車設置コスト(@インド)は約10万円/kW*3。風車本体のコス ト比率を約半分と仮定すると、現地競合の風車本体コストは約5万円/kW • 現地建設費(Suzlonの例より約5万円/kW)、年間保守費(Suzlonの初 期コストの5%と仮定)に関しては、日本勢・Suzlonと同等と仮定 保守費 建設費 保守費 建設費 風車本体 • *1 日経エコロジー特集(2010年2月)、*2 三浦市HP(導入実績) • *3 Suzlon プレス「Wind Power Investment Opportunities :For Independent Power Producers」(設備設置コストは51500ルピー/kWより、約10万円/kWと仮定) 風車本体 日本勢 Suzlon 日本製風力発電ユニット利用時 海外製風力発電ユニット利用時 初期条件 初期条件 投資回収期間 調達金利 システム定格出力 保守費率 20 4.00% 1 MW 3.00% 初期コスト 発電単価 風車本体 建設費 合計 年経費 ランニングコスト 保守費 125,000 \/kW 50,000 \/kW 175,000 \/kW 12,877 \/kW・年 12,876,806 \/年 合計 合計 風車本体 建設費 合計 年経費 5,250,000 \/年 5,250,000 \/年 ランニングコスト 保守費 3.5 \/kWh 12.2 \/kWh 12.3¥/kWh > 50,000 \/kW 50,000 \/kW 100,000 \/kW 7,358 \/kW・年 7,358,175 \/年 合計 5,250,000 \/年 5,250,000 \/年 合計 17% 8760 時間 1,489,200 kWh 年間発電電力量(kWh) 設備利用率 発電時間 17% 8760 時間 1,489,200 kWh 12.2 \/kWh 20 4.00% 1 MW - 初期コスト 6.2 \/kWh 2.5 \/kWh 発電単価 年間発電電力量(kWh) 設備利用率 発電時間 発電単価 投資回収期間 調達金利 システム定格出力 保守費率 発電単価 8.5 \/kWh 発電単価 2.5 \/kWh 2.5 \/kWh 発電単価 3.5 \/kWh 8.5 \/kWh 8.5¥/kWh (出典)各種公開情報及び事業者インタビューより Arthur D Little 分析 このように、単なるコスト競争になると、日本を含む先進国プレーヤが新興国のプレ ーヤと勝負するのは難しくなってきている。 そのため、国内プレーヤを含めた先進国の風車メーカにとって、風力発電設備とその 系統連係・制御システム・蓄電機能の併設などを含めたシステムで競争することが必要 になっていくと考えられる。 例えば、風車よりも耐用年数の短い蓄電池について、リース方式で機能を保証してほ しいとの要望が出されている。 79 風車産業におけるシステム勝負例 (出典)各種公開情報及び事業者インタビューより Arthur D Little 分析 また、もう一つの潮流として、欧米風車メーカを中心とした企業統合の進展が挙げら れる。 2006 年までに風車メーカの統合が行われた後、2008 年の金融危機までは米国・中国 市場の拡大に、風車の供給が世界的に追い付かなかった経験から、供給のボトルネック になりやすい増速機などを中心に、部材メーカの買収による垂直統合型を志向するプレ ーヤが増えた。 垂直統合化が進んだ場合には、日本の部材メーカにとって顧客層が狭まっていくため、 日本メーカが部材単体で勝ち続けることが難しくなることから、業務提携や共同開発等 のバリューチェーン縦断の体制を築いていく必要が出てくる可能性もある。 80 企業統合の進展 1970 1980 1990 2000 1978 1979 1980 1981 1982 1983 1984 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 ▼石川島播磨重工(日) 現在のメーカー ▽自主開発撤退(Nordexと提携) ▼三菱重工(日) 三菱重工 ▼ヤマハ発動機(日) ▽撤退 ▼富士重工(日) 富士重工 ▼酉島製作所(日) 酉島製作所 ▼荏原フライデラーウンドパワー(日) (荏原製作所+Pfleiderer) ▼駒井鉄工(日) (Zephyros) ▼EWT(蘭) ▼Lagerwey the windmaster(蘭) ▼Lagerwey Windturbine B.V(蘭) Windmaster(蘭) ▼Vestas (DK) ▼日本製鋼所(日) ▼Zephyros(蘭) 荏原フライデラーウィンドパワー 駒井鉄工 日本製鋼所 EWT ▼Harakosan Europe▼STX重工業(韓)へ売却 ▼Vestas Wind Systems (DK) Vestas ▼NedWind(蘭) Windworld (DK) ▼Micon (DK) ▼NEG Micon (DK) ▼Nord Tank(DK) Made(西) Gamesa Eólica ▼Gamesa Eólica(西) ▼Bonus (DK) ▼Siemens(独) ▼Enercon(独) Siemens 大宇造船(韓) ▼DeWind(独) ▼Zond(米) ▼Enron Wind(米) ▼Tacke(独) ▼GE Wind(米) CTC(米) ▼Clipper(米) Enercon DeWind(大宇造船) GE Wind Clipper ▼Nordex(独) Nordex Südwind(独) ▼ScanWind(ノルウエー) ▼Pro+Pro(独) ▼BWU(独) ▼Jacobs(独) ▼Repower(独) Suzlonが株式66% 取得 ▼Suzlon(印) REpower Suzlon ▼Pfleiderer Wind Energy(独) ▼Fuhrländer(独) Fuhrländer ▼Ecotechnia(西) Alstom Ecotechnia Alstom(仏) 新彊新風科工貿有限公司(中) ▼ ▼Vensys Energy(独) 製造ライセンス ▼金風 Vensys Energy 金風が株式70% 取得 Repower技術供与 ▼東方汽輪機(中) Fuhrländer技術供与 ▼華鋭風電(中) 出典)一般社団法人 日本風力発電協会 Goldwind 金風科技 Dongfang 東方汽輪機 Sinovel 華鋭風電 分析 風車メーカによる部材メーカ買収事例 2001 2005 2006 2007 2008 2009 2010 買収企業 被買収企業 Gamesa (風車メーカ/スペイン) Siemens (風車メーカ/ドイツ) Suzlon (風車メーカ/インド) GE Wind (風車メーカ/米国) Industri Kapital (風車メーカ/英国) SGL社 (炭素材料/ドイツ) AREVA (原子力発電所/フランス) 住友重機械 (風車メーカ/日本) GE (風車メーカ/米国) 三菱重工業 (風車メーカ/日本) Echesa (増速機メーカ/スペイン) Winergy (増速機メーカ/ドイツ) Hansen (増速機メーカ/ベルギー) 南京ギア(提携) (増速機メーカ/中国) Moventas (増速機メーカ/フィンランド) Abeking (ブレードメーカ/ドイツ) PN Rotor (ブレードメーカ/ドイツ) Hansen (増速機の工業用部門/ベルギ) Wind Tower Systems (タワーメーカ/米国) Altemis (油圧制御/英国) 出典)WindPower jpn 0228、 「世界規模で拡大する風力発電市場と日本企業の競争優位性」機械振興協会 などより Arthur D Little 分析 81 また、GE や Siemens の例に見られるように、異業種のプレーヤの M&A 等による新 規参入の動きが活発化している。 例えば、世界最大級の造船会社である韓国出宇造船が、洋上のプラント設計力を活か して洋上風力発電に進出すべく、米国の風力タービン・エンジニアリング会社 DeWind を買収している。 洋上風力への異業種からの参入事例(韓国出宇造船) 買収により 風力発電市場へ参入 2019年までに 2.5GWの洋上風力プラント建設 世界最大級の造船会社 韓国知識経済部「洋上風力発電推進ロー ドマップ」を発表 米国の風力タービン・エンジニアリング 会社、DeWindを買収 プロジェクト規模は9兆2,000億ウォン (約6,700億円) 風力発電セクターへの進出と、北米での生 産プラント建設を発表 現代重工業や大宇造船海洋などが、 風力タービン500基を開発する計画 将来は、洋上のプラント設計力を活かし て、洋上風力へ 韓国のエネルギー自給率3% (出典)各種資料より NRI 作成 発電効率を上げるための風車の大型化が世界的な傾向である。 世界全体の洋上風車の 43%の導入実績を持つ Vestas が、直径 164m・7MW の風車 の開発を 2012 年までに終える予定であるなど、風車の大型化への研究開発が本格化し ている。米国においても超大型風車の試験施設が政府支援で行われている。 82 風車の大型化 風 車 開大 発型 事化 例自 体 の 試大 験型 施風 設車 の Vestas、直径164mの7MW洋上風車 V164 offshore wind turbine を発表 •各社がしのぎを削る中で、ヴェスタス Vestasは、翼の直径が 164mにもおよぶの7MW洋上風車を発表しました。プロトタイ プは、2012年中に開発を終える予定 •Vestasは、世界の洋上風力発電機 の43%に相当する580基 の洋上風車の実績 •さらなる拡大が予想される洋上風力発電システム、欧州を中 心に大型化の動きがさらに加速しそう 2010/5/30 Vestas HPより 米国最大の風力発電用ブレードの試験施設が開設 •米ボストンに米国最大の風力発電用ブレードの試験施設 「WTTC」が開設した。2009年に成立した米国再生・再投資 18 法(ARRA)などから約3800万ドルの支援を受けて完成した •WTTCでは、今後需要の増加が見込まれる最大90メートル の大型ブレードの試験を同時に3枚まで行うことができる。現 時点でWTTCは "世界最大"となるが、ドイツ北部のブレーマーハーフェンでも 90メートルのタービンブレードを収容できる試験施設を建設 中で、今夏には開設予定となっている (出典)各種公開情報及び事業者インタビューより Arthur D Little 分析 風車の大型化に対応するため、生産機能の現地化を行っている事業者が増えている。 日本企業でも三菱重工業や NTN などが欧米や中国等における海外生産を計画しており、 最近では中国勢の欧米進出も見られている。 83 主要風車組立プレーヤによる各バリューチェーンの現地化 先進国勢の他国進出 インド 他国 • 09年5月、中国に発電容量 250MW規模の風力発電 地帯を建設するために、中 国広東核能集団と合弁事 業を立ち上げ • 天津市開発区にブレード • 南部チェンナイの研究開 や機体、発電機、コントロ 発センターを拡充。システ ーラーなど工場が稼働中。 ムの検証・保守サービス部 ブレード工場の4期建設工 門を新設した 事を行う(09年) • 12年までに7,000万ユーロ • 天津の子会社に5億元を 投資する計画を明らかに。 を投じて発電施設を建設 この投資資金の一部は、 する計画を明らかにしてい 風力タービン用変速機工 る 場の生産能力拡大へ Vestas Siemens • 米国では、初めて2MW G90ユニットの製造を開始 し、第3四半期には米国で の生産能力を1,200MWへ 引き上げた • 米国コロラド州にある2つ のブレード工場、1つのナ セル工場、1つのタワー工 場に10億ドルの投資を行 っている • 米国では、イリノイ州にギ アボックスと他部材を製造 • カンザス州に組立工場 • アイオワ州にブレード製造 工場 • チェンナイ市近くに、最初 • 中国を中心に5か国に関連 • ベトナム北部のハイフォン の工場を建設中である。同 工場を持つ に風力発電機の工場を新 工場の年間タービン生産 • 風力用ギアボックス大手の 設、世界各地の自社関連 能力は450MWである 施設向けに輸出 南京高精齒輪集団と提携 GE 三菱重工業 NTN 中国 • 11年3月、6,000万ユーロ を投じて12年までにプロ ペラなどの製造工場を新 設すると発表した Gamesa 中国勢の欧米進出 - • 中国西北部の寧夏回族自 治区で現地の発電会社と • 米国アーカンソー州の風 車ナセル工場建設に着工 組んで発電所の建設・運 営事業を展開中 - • 2011年9月に新会社を南京に 設立し 2012年に量産を開始す • 2011年にフランスで初の 海外生産を開始し、 る予定。 2011年5月に技術センターを上 • 2012年には韓国でも生産 海に開設し 現地の開発需要に を開始する予定。 対応。 • ドイツに現地法人「 Goldwind Windenergy GmbH」を設立した。ま たキューバプロジェクト のため、船積みし、メー カとして初の国際市場 向け供給を開始した。 2015年5月には米国に 全額出資子会社を設立 、グローバル展開に向 けた拠点を確立してい る (出典)風力発電バロメータ 2010 年(EU)NEDO 海外レポート、他二次情報より Arthur D Little 分析 現在グローバルで競争力を保持しているメーカが存在するスペイン、中国、米国など 各国は、前述のとおり自国に一定規模の風力発電導入を継続し、確固としたホームマー ケットを有している。自国に一定規模の市場が存在することは、価格と品質の向上に大 きく寄与し得る。一定規模の安定的な工場稼働が価格競争力の向上に貢献することはも ちろん、将来に渡って市場が見込めることで、常に最新の要素・技術を備えた積極的な 設備投資が可能となり、品質向上の側面でも大きく競争力に寄与し得る。 また、これは風車メーカだけでなく部材メーカも含め、関連産業が自国内に集積する ことで緊密な擦り合わせが可能となり、更なる品質向上をもたらすと考えられる。 我が国は、主要部材・コンポーネントである炭素繊維や軸受、センシング、また洋上 発電設備の据付に不可欠な海洋土木・建築技術と造船技術(海上構築物技術)などでは 世界トップクラスの技術を保有している。自国に確固たるホームマーケットを持ち、導 入実績していくことにより、IEC 等の国際標準化を先導したり、デファクトスタンダー ドを構築したりする可能性は十分あると考えられる。 84 (ⅲ)発電事業者レイヤ 風力発電の発電事業者は、各国の電力会社が出資する再生可能エネルギーに特化した 発電事業者に加えて、独立系の発電事業者が存在感を示している。日本プレーヤについ ても、世界トップ 10 に入っているユーラスエナジーのほか、J パワーや日本風力開発 が海外に進出する動きを見せている。 蓄電池を利用した安定化技術を有している日本の発電事業者が海外展開していくこ とも、十分考えられる。 発電事業者の容量ベースシェア 風力発電の発電事業者別ランキング 日本プレーヤによる海外進出事例 • 欧州、米国、韓国に発電所を有している エ ユ • 11年3月、韓国ジンドサンパーク社の太陽光発 ナ ー 電事業会社を買収。規模は2974キロワット ジ ラ • 10年2月株主2社を引受先とする250億円の増 ー ス 資を実施し、海外の風力発電事業を強化すると 発表した J パ ワ ー • 08年秋には、45%を出資するポーランド・ザヤ ツコボ風力発電所(4万8千kW)が営業運転開 始 • 09~10年にかけてカナダのオンタリオ州などで も参入を検討している 日 本 風 力 開 発 • 01年、04年、ドイツにて、3か所の風力発電所を 設置、現在も稼働中 • 10年、日本風力開発は英国で次世代送電網を 構築。蓄電池を使って送電網を安定させる基幹 技術を提供する • 10年5月、日本風力開発は19日、タイ東部で現 地企業と出力18万キロワットの大型風力発電 所を建設 (出典)BTM コンサルト社報告書、東京電力 HP などより Arthur D Little 分析 また、世界で最も大きい設備容量を有するスペインの Iberdrola Renovables は、自 国の大規模風力発電所の運営実績を元に海外に進出し、現地電力会社との共同開発など に着手することで、南米市場を含めた新興国への展開を図っている。 各国展開していくうえでの成功要因は類似事業での実績にあると考えられ、我が国の 発電事業者においては、国内の大型案件で実績を積み、海外の類似条件のプロジェクト 獲得を図るシナリオが考えられる。 85 風力発電事業者ベストプラクティス:Iberdrola Renovables 種まき期(~09年) 各国大規模風力発電所を運営し、大 型風力プラント運営の代名詞として の存在感構築 • 2001年当初の1,000MWそこそこ の能力から、今や業界の先駆的力と なり、2008年には設置全電力は9, 300MWに達している • 2008年中では、17,000百万KW hの生産を記録し、2007年を71. 1%上回った。一方当社は、20ヵ国 以上で5つの異なる技術を使用して、 幅広く多様で高品質のパイプラインを 持って合計55,000MWに達してお り、当社の今後の成長を可能とする • スペインを本拠とするが、米国に風力 発電所11ヵ所があり、当社の電力の 大部分は海外で、スペイン国内はわ ずか17%である。2008年に、202 6年中にカリフォルニアに風力発電の 電力を売電し、ルーマニアで50の風 力プロジェクトを買収することを発表し ている。最初の風力発電は、2009 年に操業を開始する。オレゴン州の 委託Klondike III風力発電所は世 界最大で、年間100,000世帯以上 に電力供給できる能力がある 拡大期(10年~) 欧 米 中 南 米 2010年 当時最大の風力発電所、米テキサ ス州で稼動開始 (2010年6月) • 米テキサス州のPenascal風力発 電所の稼動を開始した。同社が運 営する風力発電所としては最大規 模404メガワットの発電能力を有し ており、計168基の風力タービンで 構成され、このうち92基は、三菱重 工の風力タービンが使用されてい る • 2011年から2012年にかけて、米国 で年間計1000メガワットの風力発 電所を開発する方針を示している 2011年 1500メガワット規模風力発電プ ロジェクトドブロジャ建設 (2011年3月) • ルーマニア南東部Dobrogea地方 のConstanzaで出力80メガワット の風力発電所の建設に着工した。 総発電容量1500メガワットの風力 発電プロジェクト「ドブロジャ」の一 環で、2017年の全区画の完成を目 指している。ルーマニア首都 Bucharest総人口に相当する100 万世帯の電力需要を賄える電力を 提供することが可能になる ネオエネルギアとブラジルで風力 発電を共同開発(2010年08月) • 世界の風力発電開発をリードする スペインのIberdrola Renovables は16日、イベルドローラ・グループ が一部株式を保有するブラジルの 電力会社ネオエネルギア (Neoenergia)とブラジルでの陸上 および洋上風力発電所の共同開 発を行うと発表した。今後も拡大が 期待される南米の風力発電市場で のシェア拡大を狙う ガメサからメキシコの風力発電所 を買収(2011年1月) • Gamesaからメキシコ南西部にある 21 出力26メガワットの風力発電所「Bii •xxxxx-00jpn.xxxx.mmddyy Nee Stipa」を買収した • これにより、メキシコにおけるイベ ルドローラの風力発電能力を 106 メガワットに押し上げる。大西洋側 から太平洋側に風が間断なく吹き 抜け、世界でも風が強いエリアであ るTehuantepec地峡に位置する同 発電所は、ガメサ社製31基から構 成されている (出典)各種公開情報及び事業者インタビューより Arthur D Little 分析 また、GE を中心とした風車メーカに、風車自体の供給先確保のために、発電事業に 進出する事例が見られる。GE は、グループ会社の GE Energy Financial Services に おいて、多くの種類の発電事業を手掛けており、再生可能エネルギー分野でのポートフ ォリオの約 80%が風力発電事業となっている。三菱重工業もブルガリアでの風力発電 事業を行っており、この事例では売電事業への参画が自社製機器の売込みにもつながっ たと考えられる。 このような下流進出の背景には、風車の供給先確保だけでなく、風車メーカがシステ ムを熟知しているため、部品の最適な交換計画のようなオペレーション・メンテナンス のコストダウンにおいて優位性を発揮できることもあると考えられる。 86 風車メーカによる発電事業への進出 海外プレーヤ GE energy Financial services に よ る 出 資 日本メーカ Company Name Product Region Amount Alsleben Wind Farm Project Equity Europe Undisclosed Fenton Wind Project Equity North America $385,000,000 Forest Creek Wind Project Equity North America $120,000,000 Krusemark Wind Farm Project Equity Kumeyaay Wind Project Equity Tawhiri Wind Europe Undisclosed North America $51,000,000 Debt and Private Equity North America Undisclosed Airtricity Champion Wind Project Equity North America Undisclosed Stanton Wind Project Equity North America Undisclosed Enel Snyder and Smoky Hills Wind Project Equity North America Undisclosed Forward Wind Project Equity North America Undisclosed Hackberry Wind Project Equity North America Undisclosed Horizon Wind Portfolio Project Equity North America $300,000,000 Invenergy Wind Portfolio Project Equity North America Undisclosed Tatanka Wind Farm Project Equity North America $141,000,000 Dokie Wind Project Project Equity North America C$52,500,000 CPV Keenan II Project Equity North America $65,000,000 Alta Wind I Private Equity North America Undisclosed ブルガリアでの風力発電事業が操業を開始 日本の排出権獲得 にも貢献 三菱重工業ニュース2008年8月7日 発行 第 4728号 • 三菱重工業は、ブルガリアで風力発電設備を活用した売電事業を 開始した。現地の建設会社であるイノス社(inos)と共同で事業運 営会社、カリアクラ・ウィンドパワー社(略称:KWP)を設立、同国初 となるウインドファームを建設して営業運転入りしたもので、電力は すべて同国の国営電力会社(NEK)に販売される。(中略) • KWP社が運営するウインドファームは、黒海沿岸のカリアクラ岬に 建設された。総発電量は3万5,000kWで、(中略)建設を取りまとめ 、操業にも当たっている。 • KWP社は、2005年末に当社70%、イノス社30%の出資で設立し た資本金約17億円の合弁企業 • 当社はこの実績と経験を足掛かりとして、風力発電設備の欧州地 域での営業を一層活発化するとともに、自社製機器を利用した発 電事業への参画拡大や、排出権創出を念頭に置いた事業スキー ムの形成に積極的に取り組んでいく (出典)風力発電バロメータ 2010 年(EU)NEDO 海外レポート、他二次情報より Arthur D Little 分析 また、国内企業は系統に連携する際の安定化のための優れた制御技術を持っており、 発電事業者として競争力を持ち得る可能性があると考えられる。 海外においても系統安定化がより一層必要になっていくことは確実と見られている ため、制御技術・ノウハウを基軸に、国内プレーヤが海外で発電事業者としてのシェア を拡大することは十分可能であると考えられる。 実際に NEDO において、蓄電池運用のための系統安定化装置を含む実験をしており、 出力平滑化制御、残存容量フィードバック制御、バンク数制御、時定数可変制御などの 制御技術を開発するなど、我が国には競争力の源泉が存在すると考えられる。 87 日本で実証される高度オペレーションを支える制御技術 • 風力発電の導入拡大を実現するためには、風力発電出 力の短周期平準化用蓄電池システムの実用化が必要 • そのような背景から、出来るだけ小さな蓄電池で大きな 平準化効果を実現することを目的に、NEDOにおいて 「風力発電電力系統安定化等技術開発」を実施 • その中で、以下の制御技術等が開発された - 出力平滑化制御 ⇒発電所出力平準化のための制御 - 残存容量フィードバック制御 ⇒充電レベルを設定範囲内に維持することにより電池容量を有 効に活用するための制御 - バンク数制御 ⇒補機動力を削減することにより、システムロスの低減を図るた めの制御 - 時定数可変制御 ⇒WF出力の変動が大きい場合に平準化時定数を一時的に短く することにより、要求される蓄電池出力を縮小するための制御、 充電レベルの維持にも有効 (出典)各種公開情報及び事業者インタビューより Arthur D Little 分析 3.方式毎の注目領域、現状と課題 (1)方式の分類と注目領域の特定 現状、市場が形成・拡大期にある陸上風力発電や洋上着床式もさることながら、現在 の市場規模は小さいものの、高度な技術力が要求される洋上浮体式の風力発電も注目に 値する。 風力発電の分類(再掲) 設置形式 陸上 自家発 洋上 系統 着床式 浮体式 D 超大型 5~10MW級 大型 3~5MW級 中型 1~2MW級 小型 100kW級 洋上風力発電 (浮体式) C 洋上風力発電 (着床式) B 定 格 出 力 陸上風力発電 A 小型風力発電 (出典)各種公開情報及び事業者インタビューより Arthur D Little 分析 88 (2)方式毎の現状と課題 (ⅰ)陸上風力発電 まず、既に市場が立ち上がっており更に拡大が見込まれる陸上風力に目を向ける。 陸上風力発電の世界における新規発電量は、2020 年までに 650GW 程度に増加する 見込みであり、大きな導入ポテンシャルが存在する。また、その50%以上は中国と米 国が占めると予想されている。 【陸上】 国別市場規模推移予測(新規風力発電導入量) (出典)BTM Consult report 2009, Emerging Energy Resources より Arthur D Little 分析 中国や米国が大きなシェアを獲得すると予想される背景には、エネルギー政策との合 致、政策支援などの促進要因が存在する。 風力発電産業はシステム重量が大きいため、輸送コストを抑えつつ、かつメンテナン スを行いやすくする観点から、現地生産が有利であり、各地域とも地場のメーカが製 造・メンテナンス等の事業基盤を築いている状況にある。 こうした状況の中、日本企業にとっての参入可能性の視点からは、今後市場が拡大す ると見通されているものの、残された立地可能地点の風況があまり良くないため、更な る技術対応が求められる欧州に参入するのが有用かと考えられる。 また、日本国内でも、買取制度の導入に加え、震災の影響からこれまでと異なる電力 供給源が必要となる状況が出て来ているなど、促進要因が増していると考えられる。 89 【陸上】 国別の市場の魅力度と競争環境 中国 市 場 は 魅 力 的 か 北米 欧州 日本 • 市場規模(20年):189GW (other asiaとして) 市場規模・ • 市場規模(20年):208GW • 市場規模(20年):176GW • CAGR(10-20年):9% • 市場規模(20年):21GW 市場成長率 • CAGR(10-20年):20% • CAGR(10-20年):14% (ROIの高い適地が少なく • CAGR(10-20年):12% なってきている) 政策支援 の有無 • 既存発電能力の不十分 さからプロジェクトへの金 • FIT、PTC、ITC、RPSな • EUの20-20-20の政 • FIT導入予定 銭的な政府支援が存在 どの各種支援策が市場 策目標およびFIにより成 • 電力需給動向も導入を 成長を促進 長が後押しされている 後押し (高いプロジェクト期待リターン (IRR10-14%)が求められる) • 一定以上の事業規模を 競 海外プレーヤ 持つ地場メーカが多数 • 米国・欧州のプレーヤが • 欧州のプレーヤが地盤 • 中国のプレーヤの進出 争 動向 地盤を築き市場を主導 を築き市場を主導 成長しつつある 力 を 持 • 風況のあまり良くない場 • 系統安定化に関する要 て 技術的 所に適したタービンを開 件が厳しい る • 大型化の進展 • コスト勝負の様相 か 伸び代 発できるかが今後の成 • また風況もそれほど恵ま 長のカギ れていない (出典)BTM Consult, Emerging Energy Resources, *Nomura Alternative Energy (Jan 2010)、 各種二次情報等より Arthur D Little 分析 (ⅱ)洋上風力発電 現在立ち上がり段階にある洋上風力についても、2020年までに40GW 程度に増 加すると予測されており、今後の導入拡大が見込まれている。 洋上風力発電の拡大が見込まれる背景としては、陸上に適地が少なくなることや、風 車の騒音問題などが挙げられる。 また、風車の大型化によって陸上での輸送制約が出てくることや、海上には風況の良 い場所が多く存在するという視点でも、洋上風力発電には大きなポテンシャルがあると 考えられる。 洋上風力拡大の背景 (出典)海洋技術フォーラムからの提言 2009 年などより Arthur D Little 分析 90 洋上風力発電市場は、短期的には英国、ドイツ、米国が牽引し、中期的には中国が市 場を牽引すると予測されている。 【洋上】 国別市場規模推移予測(新規風力発電導入量) (出典)BTM Consult report 2009, Emerging Energy Resources より Arthur D Little 分析 ①着床式と浮体式の棲み分け 着床式洋上風力発電には、大きく5種類の支持体タイプが存在し、水深や海底の状態 により採用すべきものが選択される。中でも、海底工事が不要なモノパイル方式が最も 安価であり、重力式、ジャケット式、トリポッド式、トリパイル式の順に、支持体コス トと設置コストが高くなる。 設置する水深が深くなる程支持体の耐久性が求められ、また工事のコストも割高とな るため、一般に海深 60m を超えると、浮体式がコスト面で有利になると考えられてい る。 91 洋上風力発電の支持体コスト 着床式洋上風力発電の支持体コストと海深の関係 洋上風力発電における支持体コスト 1、モノパイル型が最も低コストである 着床式優位 しかし、地盤が軟らかいと深く刺さなければならず少々高コスト化する 浮体式優位 60m以下の水深では、コストで浮体式が着床ジャケット 式に勝てる理由が見つけられない。つまり、60m以内で 良い風況の地域が埋まらなければ、浮体式の時代は来 ない。来るとすれば日本のような水深が深い所のみ (出典)NEDO 「平成 19 年度 洋上風力発電導入の為の技術的課題に関する調査報告書」 より Arthur D Little 分析 ②洋上着床式 洋上着床式風力発電の市場が拡大するかどうかは、陸上風力発電と同様に、政策支援 などの要因にもよるものの、今後、英国・ドイツなどを中心とした欧州、中国の一部、 北米内での海岸部で電力供給が不十分な箇所などを中心に、市場拡大が見込まれている。 また、陸上に比べてタービンの大型化や付帯設備の困難さが増すため、技術的な伸び 代は大きいと考えられ、欧州が先行しているものの、国内プレーヤによる参入可能性が 高い領域と考えられる。 92 【洋上】 国別の市場の魅力度と競争環境 中国 市 場 は 魅 力 的 か 北米 • 市場規模(20年):2GW 市場規模・ • CAGR(10-20年):34% 市場成長率 (陸上に適地多いため洋上 にはそれほど注力しない) 政策支援 の有無 欧州 日本 • 市場規模(20年):32GW (other asiaとして) • CAGR(10-20年):27% • 市場規模(20年):0GW (陸上の適地が枯渇しており、 • CAGR(10-20年):0% (10年の市場規模が0のため) • 市場規模(20年):6GW • CAGR(10-20年):N/A 洋上開発に積極的) • 2020年までに再生可能 • 英国では洋上風力での • FIT、PTC、ITC、RPSな • FIT導入予定 エネルギー比率を15% 発電を陸上での二倍の どの各種支援策が市場 • 電力需給動向も導入を まで引き上げるという目 価格で買い取るFITを実 成長を促進 後押し 標・FITを発表 施 • 2015年までに洋上風 • 洋上式の技術を持ち、実 競 海外プレーヤ 力発電の一連の技術を 証試験を行いながら事 争 動向 形成し、完備された産業 業性の検証段階 力 チェーンを構築予定 を 持 • 地場メーカはまだ3MW • 洋上で使用予定の4-6 て 級のタービンまでしか開 MWの 大型タービンに 技術的 る 発しておらず、大型化で 大量生産 の目途(性能・ か 伸び代 コスト目標等含む)が付 先行の余地あり けば先行の余地あり (ただしコスト競争が厳しい) • 英国では複数企業が洋 上式の実証を終え、事 • 特に目立った動きなし 業展開間近 • 洋上で使用予定の4-6 • 系統安定化に関する要 MWの 大型タービンに 件が厳しい 大量生産 の目途(性能・ • また風況・立地(大陸棚 コスト目標等含む)が付 が少ない)もそれほど恵 けば先行の余地あり まれていない (出典)BTM Consult, Emerging Energy Resources, *Nomura Alternative Energy (Jan 2010)、 各種二次情報等より Arthur D Little 分析 国内企業の競争力に目を向けると、これまでに設置されてきたプロジェクトによって 運用レベルでのノウハウが存在するうえ、現在、NEDO を中心に洋上風力発電システ ムの実証が行われており、それらの蓄積によって、他国に対して技術的にキャッチアッ プすることも可能な段階と考えられる。 国内洋上着床式プロジェクト サミットウィンドパワー 酒田発電所 • • • • 山形県酒田市 2MW × 5基 護岸から約50m Vestas (基礎:ドルフィン) ウィンドパワー かみす風力発電所 せたな町洋上風力発電所 • • • • 北海道県せたな町 600kW × 2基 海岸から約700m Vestas (基礎:ドルフィン) • • • • 既に設置済み 茨城県神栖市 2MW × 7基 海岸から約50m Subaru (基礎:モノパイル) 洋上風力発電システム 実証研究 • 千葉県銚子市 • 直径約90メートルの風車を 備える着床式風力発電設 備1基 • 南沖合約3km(水深約11m) • 約35億円(内、NEDO負担 額は総事業費の2/3) 実証段階 (出典)一般社団法人日本風力発電協会提供資料、第 40 回海洋工学パネル発表論文「洋上風力発電の現 状と日本での実用化に向けて」三菱重工業株式会社風力事業ユニットより Arthur D Little 分析 ※ドルフィン基礎とは、トリパイル式を発展させたもので、4~8本のパイルを用いる方式 93 洋上風力産業における技術的な競争力にとって、風車やその付帯設備に加えて、作業 船の技術など、施工上の技術蓄積も重要である。 欧州では、原油・ガス田開発や港湾工事等で実績のある船舶が多く存在し、これらの 転用により洋上風車が比較的容易に設置されたために、洋上風力産業の競争力が保持さ れていると考えられる。 我が国の洋上風力産業が競争力を持つために、作業船等のハード面と、それらを使い こなして設置を行う技術面を整備することが必要である。 洋上風車産業成立のための課題:施工用の作業船 (出典)第 40 回海洋工学パネル 三菱重工業株式会社 発表論文 「洋上風力発電の現状と日本での実用化に向けて」 風力事業ユニットより Arthur D Little 分析 また、洋上のオペレーション・メンテナンスコストは高いことから、今後は部材を含 めシステム全体の高信頼性・耐久性が一層求められることになると考えられ、技術的に 伸びる余地の大きな分野であると考えられる。 発電コスト内訳 94 (出典)”Offshore Wind Energy Ready to Power a Sustainable Europe Final Report”, NNE5-1999-562, 289p, Duwind(2001) ③洋上浮体式 浮体式が着床式にコストで勝る海深 60m 以深における風力発電開発ポテンシャルは 大きく、例えば米国国立再生可能エネルギー研究所(NREL)の試算によれば米国内で 1,533GW と推定されている。 また浮体式では、浮体式では、工事の効率化や、風車の思い切った大型化が可能であ ることから、8-10 セント/kWh のコスト実現の可能性を示唆する調査・研究も、米国に て発表されている。 浮体式洋上風力発電のポテンシャル (出典)各種公開情報及び事業者インタビューより Arthur D Little 分析 95 メイン大学の浮体式洋上風力発電の開発計画(タイムライン) 大型かつ量産によって、 8-10セント/kWhのコスト実現 (出典)MAINE Deepwater Offshore Wind Report 96 より メイン大学の研究と洋上風力発電コスト低減要因と増大要因 > 発電コスト増大の要因 発電コスト低減の要因 or < 陸 上 低に 減お メけ カる ニ発 ズ電 ム単 価 の Balance of Plant コスト (洋上に置くための付帯設備費用) 大 型洋 化上 にだ よか るら 効こ 率そ の 化 (出典): Transforming Maine’s Economy: Floating Offshore Wind : Maine より Arthur D Little 分析 実際に、同規模の発電設備を想定して、現状の洋上浮体式のコスト構造を陸上式・洋 上着床式と比較すると、ブレード・増速機・発電機などの発電そのものに寄与する機器 のコストは同等であり、タワーに関しては、騒音・強度の課題が比較的小さいことによ る小型化実現で浮体式の方が安くなる。 しかし、アンカー(浮体・係留:施設を安価に確実に係留するためのもの)や周辺機 器、システム構築などにかかるコストや、遠隔地に設置することによるオペレーショ ン・メンテナンスコストは、非常に高くなっている。 洋上だからこその大型化等によって、これらのコスト高を補って他方式に対してコス ト優位性を築くことができるかどうかが、浮体式風力発電の課題と言える。 97 洋上浮体と他方式のコスト比較 (出典)各種公開情報及び事業者インタビューより Arthur D Little 分析 日本は世界第6位の広大な排他的経済水域を有しており、洋上のポテンシャル自体は 大きい。また、日本は浅瀬が少なく、また沿岸の漁業権調整の課題もある。この点から、 外洋に設置可能な浮体式による洋上風力発電への期待が高いが、前述したコスト増要因 に加え、外洋と電力系統を結ぶ送電線の整備等、解決が必要な課題は多い。 98 日本洋上風力発電拡大の可能性 (出典)各種公開情報及び事業者インタビューより Arthur D Little 分析 また、現在最も洋上風力発電に力を入れている欧州でも、浮体式が今後具体的に検討 される可能性があり、例えば、イギリスの進める大型洋上風力発電所「Round 3」では、 一部洋上浮体式の風力発電も採用されている。 Round 3 の概要 開発エリア 1 Moray Firth 深度 方式 30-57m 2 Firth of Forth 50m程度 (30-80m) 3 Dogger Bank 18-63m 4 Hornsea 35m程度 5 Norfolk 着床式 浮体式 計3,200万kW, 総投資額16兆円 5-71m 6 Hastings 20m程度 7 Wst of Isle of Wight 28-56m 8 Bristol Channel 23-56m 9 Irish Sea 28-78m 着床式 (出典)The crown estate 公表資料及び三井物産戦略研究所「戦略件レポート 2010.12.24」等より Arthur D Little 分析 99 また、着床式に適したエリアが埋め尽くされなくても、送電線を延伸して外洋に出る ことに経済合理性が出てくることで、浮体式が採用される可能性もある。 それは、着床式の賦存量が残っているといっても、現実的には系統アクセスや環境ア セス等各種の経済制約や社会制約が掛かる結果、短期・中期的に発電プロジェクトを計 画可能な立地は一定程度に限られることや、近海と外洋で風況に大きな差がある場合に は設備利用率に差が生じ、発電原価で浮体式が着床式に対して優位となる場合があるた めである。 近い将来の洋上浮体式導入可能性 着床式増大へのボトルネック 風況における浮体式の優位性 着床式の賦存量自体は大きいとされるが、各種の経済制 約や社会制約がかかるため、導入が困難な箇所が多いか • 場所によっては漁業補償などの調整が必要になる 例えば、サンフランシス コ沿岸では、水深が深く なる外洋では風量が 1m/sほど大きいとされ、 近海と外洋で風況が 大きく異なる箇所もあり 設備利用率が異なる (2011/06/06日本経済新聞) • 「鳥取県」景観計画に海面部分を盛り込むよう変更する。 「沖合へ1.5キロ離れていれば目立たなくなり、景観への 支障がなくなる」と導き出した。(2011/02/21 朝日新聞 朝刊) • また、陸上系統電力から遠いことで敷設コスト大となる場 所がある ⇒短期・中期的に発電プロジェクトを 計画可能な立地は一定程度に限られる ⇒風力による設備利用率の差分で 浮体式が優位になる場合が存在する 着床式に適したエリアが埋め尽くされなくても、浮体式が採用される可能性あり (出典)Stanford University 「California Offshore Wind Energy Potential」等より Arthur D Little 分析 また、洋上の中でも特に浮体式であれば、造船業界の強みが転用できると考えられる。 造船業界全般において、昨今日本のプレゼンスは低くなってきているが、高度な技術が 求められる浮体類似設備においては、IHI などの国内プレーヤが数多の実績を残すなど、 国内プレーヤは競争力を有している。 100 造船業界における日本のプレゼンス 主要造船企業の売上高(06年) 国内プレーヤによる浮体類似設備 1位 現代重工業 10,429 韓国 2位 サムソン重工業 7,102 韓国 3位 大宇造船海洋 6,693 韓国 4位 アーカー・ヤーズ 4,686 ノルウェー 5位 フィンカンチェリ 3,590 イタリア 6位 現代尾浦造船 2,907 韓国 7位 ティッセン・クルップ 2,852 ドイツ 8位 ユニバーサル造船・IHI 2,796 日本 9位 現代三潮重工業 2,763 韓国 10位 今治造船 2,748 日本 11位 三井造船 2,542 日本 12位 三菱重工業 2,471 日本 浮体式LPG生産・貯蔵・積出設備 浮体式としては世界最大。 総トン数:111,246 主要寸法:長さ230.0m × 幅49.0m × 深さ29.3m 3連装サンドコンパクション船 軟弱地盤の改良を行う 主要寸法:長さ70.0 m x 幅33.0 m x 深さ5.0 m 浮体式LPG貯蔵・積出設備 陸上プラントから圧送されるLPGを液 化貯蔵し、LPG船へ積出 総トン数:40,681 主要寸法:長さ142.1m × 幅36.0m × 深さ23.4m タンカーにおいて、非常に高度な運動制御が求められる用途では 日本プレーヤがまだまだ強く、浮体式における競争力は存在すると 考えられる (出典)Global Civil Ship and Boat Building 20 October 2010 などより Arthur D Little 分析 現時点において本格的に浮体式洋上風力発電の開発に取り組んでいる地域は我が国 に加え、ノルウェー、英国、米国、韓国等世界的に見ても限られている。 言い換えれば、まだ技術が確立されていない分野であり、陸上風力の分野では劣勢に 立たされている日本勢にとって、今後の巻き返しが狙える分野であると考えられる。 海外勢における浮体式への取り組み プロジェクト 発表年 ノルウェーWindSea トリプルタービン・ 2008 年 実証実験 共同実証 米マサチューセッツ州 沖合実証事業 米国WindFloat プラットフォーム 英国 Round 3 • NLI Innovation 社 • FORCE Technology 社 ノルウェー ドイツ・ノルウェー 概略 • 三角形の浮体式プラットホームのそれぞれの角にタワーとタービンを持つ点で ある。このことは、風力プラントを安定させ、修理と保守の際のアクセスを容易 にし、設置と移動がより速く効率的に実現されるとしている • 1 プラットフォームあたりの発電容量は 10MW。試算では、1 メガワットあたり の投資コストは、他の方式と比較して競争力があるとしている • ノルウェーStatkraft 社 2008 年 プラットフォーム カルモイ島沖合 プレイヤ 2008 年 2008年 NA • 浮体構造は、洋上関連企業の間でジャケット構造と呼ばれている方式を採用 • ローターブレードの直径は 82.4m、海上部分のタワー高さは 65m、海面下の 浮きの長さは 100m、また風力発電容量は 2.3MW である • 水深 120~700m までの海域での設置を想定 • ノルウェーStatoilHydro 社 • 風車本体はSiemens • プラットフォームはスチールケーブルで海底に設置された「いかり」に係留する • 発電電力は、海底ケーブルで陸上へと送電される • スチールケーブル、及び「いかり」のコストを考慮し、水深 700m までの海域へ の設置を想定 • ノルウェーStatoilHydro 社 • 風車本体はSiemens • 120 基の風力タービン、総発電容量は 420MW、設置海域の水深は51m • 洋上構造物の主なコスト要因となる構造物の重量軽減などを目指す • Blue H USA,LLC 社 • 出力:5MW、ローター直径:125m、タービン高さ:100m、設置海域水深:50m 以上 • その特徴は、①ピッチやヨーを無視できる安定性、②陸上で組み立て可能、③ 設置現場への曳航時に深い水深を必要としないので様々な海域に設置できる • 米国 Marine Innovation & Technology 社 • 米国のPrinciple Power 社 2010年 • Forewind Limited (企業コンソーシアム:Scottish and Southern Energy、Statoil、 Statkraft、RWE npower renewables) (出典)NEDO海外レポート • 出力:6,000MW、ローター直径:未定、タービン高さ:未定、設置海域水深:1863m 以上 • 1基あたり3.6MWの出力。同エリアで2023年までに13GWを目指す NO.1032, 2008.11.5 より Arthur D Little 分析 101 4.経済波及効果・雇用分析 (1)新たな生産拠点を立地した場合の経済波及効果 帝国データバンクの企業情報データベースより風力発電産業関連の企業を抽出、この 情報に基づき産業連関表に風力発電産業を新設した。また、有価証券報告書等を参考に 国内の某工場を想定し、同規模の製造拠点を国内に新設した場合の経済波及効果を算出 した。経済波及効果は生産誘発額 508 億円、付加価値誘発額 310 億円、雇用誘発者数 2,504 人となる。 仮に同規模程度の生産拠点を海外に立地した場合でも、生産誘発額 93 億円、付加価 値誘発額 49 億円、雇用誘発者数 432 人の経済波及効果が想定される。 海外に生産拠点を立地した場合でも、軸受、ブレードのPAN系炭素繊維をはじめと して、風車構成部品について国内プレーヤは世界市場で存在感を持ち、輸出が誘発され ることによる国内への経済波及効果が期待できる。 新たな生産拠点を立地した場合の経済波及効果 新たな生産拠点を国内に新設した場合の経済波及効果 生産誘発額 付加価値誘発額 雇用誘発者数 508 億円 310 億円 2,504 人 同規模の生産拠点を海外に新設した場合の経済波及効果 生産誘発額 付加価値誘発額 雇用誘発者数 93 億円 49 億円 432 人 生産誘発額 付加価値誘発額 雇用誘発者数 1,548 万円 821 万円 0.72 人 上記、1MW あたりの経済波及効果 (出典)有価証券報告書等より国内の某工場を想定、帝国データバンク分析 (2)拡大する世界市場におけるシェア獲得 1%あたりの国内への経済波及効果 風力発電の世界市場は今後増加していくことが予測されており、2020 年には悲観シ ナリオで見た場合でも 54.1GW、楽観シナリオでは 96.3GW まで拡大するとされる。1 1 Global Wind Energy Outlook 2010 102 急伸する世界市場に対して、日系プレーヤがシェアを追加獲得した場合の 1%あたり の国内経済波及効果について試算を行った。 世界シェア追加獲得 1%あたりの経済波及効果 年 シナリオ 市場規模予想(GW) 生産誘発額 付加価値誘発額 雇用誘発者数 2020 ポジティブ 96.3 149.1 億円 79.1 億円 693.4 人 2020 中庸 62.2 96.2 億円 51.1 億円 447.8 人 2020 ネガティブ 54.1 83.7 億円 44.4 億円 389.5 人 (出典)帝国データバンク分析 5.施策の方向性 (1)他国における政策 韓国は、エネルギー政策に止まらず産業政策の観点から、風力発電産業において世界 第3位となることを目標に掲げてしている。総費用約 6,700 億円にも上る実証プロジェ クトの実施や、RPS 措置上の洋上風力発電の優遇(陸上に比べて加重 1.5~2 など)の 実施を計画している。 韓国の洋上風力発電導入計画 洋上風力発電推進の目的 推進計画 洋上風力発電機の開発状況 • 国内の洋上風力産業活性化の ための基盤確立 • 競争力のある造船、重工業、建 設、IT、電気等の関連産業との 連携 • 国産風力発電機の技術開発・商 業運転実績(Track Record)の 確保 • 世界の洋上風力発電市場の先 取り、輸出産業化、世界3位の大 国の実現 • 韓国電力公社によるF/S調査( 2008.10~2011.2) • 洋上観測タワー Data Monitoring(2010.9~) • 洋上風力発電推進団による開発 の運営(2010.11~) • 国内の洋上風力活性化のため の基盤確立 • 斗山重工:3MW機を開発済 • 現代重工:2011年に5MW機 • サムソン重工:2012年に5-7MW 機 • 暁星重工:2012年に5MW機 • STX重工:2012年に7-8MW機 • 大宇造船海洋:2012年に6-7MW 機 - 洋上風力予定海域法制化推進 の検討 - 小規模WFの開発支援策の検討 - RPS施行後の洋上風力発電の 優遇策立案(陸上に比べて加重 1.5~2など) (出典)一般社団法人 日本風力発電協会 提供資料より Arthur D Little 分析 103 韓国の洋上風力発電導入計画:プロジェクト概要 【完成時期】 2019年までに250万kW(5MW x 500基) ・フェーズ1:2011~2013年、 10万kW( 20基)、22km交流送電線 ・フェーズ2:2014~2016年、 90万kW(180基)、22km交流送電線 ・フェーズ3:2017~2019年、150万kW(300基)、80km直流送電線 扶安~霊光郡沖の開発計画 【総費用】 約6,700億円 開発規模と予算 (単位: 億円) フェーズ 政府R&D タービン 支持構造物 系統連系 その他 合計 フェーズ1 11.6 146 73 180 29 440 フェーズ2 9.5 1308 655 162 65 2200 - 1855 927 1176 135 4093 21.1 3309 1655 1518 229 6733 フェーズ3 合計 * フェーズ1,2: 2.9億円/MW、 フェーズ3: 2.5億円/MWを使用 (出典)一般社団法人 日本風力発電協会 提供資料 英国においては、洋上風力に関する政策的支援をさらに大規模に行っている。 英国 では、北海油田の枯渇によって、エネルギー自給率の低下を背景に風力発電への注目が 進んできており、北海油田・ガス田で培った海洋工事技術等を転用する形で、前述した Round3 という洋上風力発電推進プロジェクトが行われている。 石油から風力へのシフト(北海油田と洋上風力サイト Round3) 北海油田・ガス田の枯渇で激変する イギリスのエネルギー供給構造 • イギリスは石炭、石油、天然ガスと化石燃料 資源に恵まれた国であり、1960年代から70年 代にかけて北海油田・ガス田の開発を本格化 させた結果、1980年以降、20年間にわたって エネルギー自給率100%を達成した • しかし、このイギリスのエネルギー供給構造 は、北海油田・ガス田の枯渇により大きな転 換期を迎えようとしている • 2015年頃には石油もガスも半分以上を輸入 に依存することになると予測されている • このような予測の下、国際ガスパイプラインや LNGターミナルの建設が進められる一方で、 エネルギーの過度な海外依存を防ぐ観点か ら、洋上風力を中心にその開発(競争入札に よる風力開発事業者への洋上風力サイトの 割り当て)を急ピッチで進めることとしている (出典)海外電力調査会資料等より Arthur D Little 分析 そして、英国を中心に欧州の一部の国では、FIT をはじめとする再生可能エネルギー 導入促進策において、風力発電については陸上型よりも洋上型を優遇している。 104 英国では、積極的な支援によって、風力発電分野は 6 万人の雇用を生み出すとともに、 英国全体の電力の 30%を供給すると想定されており、風力発電の導入促進策がエネル ギー政策のみならず産業政策も含めたものとなっている。これに関連して、三菱重工が Round3 プロジェクトに参加できた要因の一つとして、同国に製造・開発拠点を置き、 同国政府との関係性を強化したことが挙げられている。 他国の洋上政策とその効果 (出典)NEDO 海外レポート等各種公開情報及び事業者インタビューより Arthur D Little 分析 三菱重工、英国で洋上風力に参入 ・ 三菱重工の欧州原動機拠点である MPSE(Mitsubishi Power Systems Europe, Ltd.)は 2010 年 2 月 25 日、同国政府と覚書 (MOU:non binding の Memorandum of Understanding)を締結し、ビジネス・イノベーション省(BIS)から最大 3,000 万ポンド(約 42 億円)の補助金を受けて洋上風車の開発プロジェクトに取り組む。今回の MOU 締結は、先に MPSE が同国エネルギー・気 候変動省(DECC)から同設備の開発で 81 万ポンドの助成を受けることが決まったのに続くもの。 ・ 今回の補助金交付の対象となるプロジェクトは 3 つの段階で構成される。第 1 段階は、5,000~7,000kW 級の洋上風車実証機を 製作・試験することであり、第 2 段階は、英国に洋上風車先端技術センターを設置して洋上風車の先端技術を開発する。そし て第 3 段階は、大型の複合材タービンブレードの設計と開発、ならびに関連生産技術の開発を進める。 ・ 当社は今回の MOU 締結を受け、英国に将来の洋上風車の製造拠点を構えることを検討する。 (出典)三菱重工プレスリリース 105 (2)施策方向性案 今後の産業を検討する上で、重要性の高い論点として大きく以下の二点が想定される。 風力発電産業に関する論点の背景 論点の背景 検 討 テ ー マ 風 車 の 大 型 化 と 洋 上 風 力 化 世界市場では、既存の風車との差別化を狙い、大型化が進んでいる。特に、海外でも陸上では環境ア セスの問題等によって規制が強化されつつあり、アメリカ、イギリス、米国では洋上風力発電が進みつつ ある。 陸上風力が飽和してきたと言われるドイツ、デンマーク、北海油田の代替産業を狙うイギリス等が本格 的に参入し、市場の大半が欧米である。 この流れを踏まえ、風力発電企業はいち早く風力発電の取り組みを始めているが、洋上風力ではメン テナンスが陸上に比べてコスト高であることから、部材においても腐食性等の耐久性が求められるところ であり、我が国の技術の強みを活かしやすい部分でもある。 さらに、洋上風力では、風車本体と建設工事コストが3:7程度と言われており、建設工事についても建 設専用船(SEP船)等の風車建設のインフラも必要とされるところである。 このような流れに先んじて、洋上風力に積極的に乗り出していくべきではないか。 競陸 争上 力風 強車 化の 発電事業等、下流への進出などを積極的に行っていくべきではないか。 風力発電は、太陽光発電に比べてシステムインテグレートだけでなく、部材、機器の利益の割合も大き いため、洋上風力分野を強化していくことは現在劣勢にある陸上風力へのシナジーも生じ、風力産業全 般の底上げになることも期待できないか。 106 2.3. 太陽熱発電産業 1.グローバル市場動向 (1)太陽熱発電のポテンシャル 太陽熱発電のコストは 2015 年以降既存電源並みになるとの見込まれており、発電コ ストの低減などにより、太陽熱発電市場は 2020 年以降の急拡大が見込まれている。 太陽熱発電のポテンシャル (出典) 『Concentrating Solar Power : Outlook 2009』 Solar PACES の”Moderate Case”, NEDO 「再生可能エネルギー技術白書より Arthur D Little 分析 例えば、欧州・北アフリカ地域では、北アフリカの砂漠地帯に巨大な太陽熱発電設備 を設け、送電網を通じて欧州に電力を供給するデザーテック計画が進められている。ス イスの重電機器メーカーの ABB やシーメンス(独)、電力・ガス会社のイーオン(独) など 12 社が参加し、2050 年までに地中海沿岸部や欧州の電力の 15%を供給すること を目指している。 なお、DESERTEC のような開発プロジェクトに伴い、欧州・アフリカ市場では太陽 熱発電市場だけではなく、送変電市場の拡大も見込まれており、東芝のように現地の送 変電エンジニアリング会社を買収することで送変電事業展開を目指すプレーヤも存在 する。 107 太陽熱発電急進の大シナリオ:デザーテック計画 (出典)日経ビジネス 2009.10.5、日経エコロジー 2009.11、中東および北アフリカにおける再生可能 エネルギー市場に関する調査(JETRO 2010)より Arthur D Little 分析 東芝の事例 イタリアの送変電・太陽光発電エンジニアリング会社の買収について -電力送変電・メガソーラー事業の欧州・北アフリカ市場への本格参入- 2011年03月29日 東芝プレスリリース • • • • 当社はイタリアの電力送変電(T&D)および電力・産業用太陽光発電プラント(PV)のエンジニアリング会社である アンサルドT&D社の株式67%を取得しました。当社はアンサルドT&D社を通じて、欧州、北アフリカにおけるT&D およびPV事業に本格的に参入します。 アンサルドT&D社は、1853年に設立されたイタリアの重工業グループであるアンサルドグループ(現フィンメカニカ グループ)の一部門として1984年から事業を開始したエンジニアリング会社です。2007年に現フィンメカニカグル ープから離れた後も、欧州、北アフリカを中心にT&DプロジェクトやPVプラントにおいて多数の実績を積み重ねてき ました。 欧州・アフリカ市場におけるT&D市場規模は、世界市場の20%近くを占め中国に続く2番目の市場規模であり注、 今後も着実な需要増加が見込まれています。 今後も、当社はT&DおよびPV事業のグローバルな展開に努め、事業拡大に繋げていきます。 (出典)東芝プレスリリースより 太陽熱発電は設備が大規模になる傾向にあるため、現在運転中や今後計画されている プロジェクトにおいては、 50MW~千 MW 級の大型発電設備としての用途が主である。 108 太陽熱発電の主要プロジェクト(既設及び計画) 原油価格の上昇や、スペイン、米国での導入促進策を背景に、ここ数年で建設・運転開始が急拡大。 発電容量 354MW(合計) 64MW 運転開始 1985-90 2007 Andasol1-2(西) Alvarado 1(西) Ibersol(西) Solnova1, 3(西) Ivanpah Project(米) Solar Millenniumなど 50MW 2008-09 Acciona Iberdorola Abengoa BrightSource Energy 50MW 50MW 100MW(合計) 370MW 2009 2009 2010 2013 Blythe Solar Power Project(米) Solar Millennium Imperial Valley Solar Project(米) Tessera Solar 1,000MW 2013 709MW 2013 Fort Irwin Solar Power Project(米) Palen Solar Power Project(米) Amargosa Farm Road Solar Energy Project(米) Acciona Solar Power 500MW 2014 Solar Millennium 500MW 2014 Solar Millennium 500MW 2015 既 設 → 開発事業者 Luz Acciona ← プロジェクト SEGSⅠ~Ⅷ(米) Nevada Solar One(米) 計 画 中 (出典)各種資料より Arthur D Little まとめ また、中東・北アフリカ地域では太陽熱発電プラントの建設が、国家プロジェクトと して位置付けられるため、太陽熱発電プロジェクトが大型になる場合が多く、関連プレ ーヤも政府系機関、電力会社、建設会社、部材メーカ、研究機関など多種のにわたる。 こうした大プロジェクトを推進する際の体制構築においては、我が国としても官民連携 による円滑な推進が求められる。 (2)太陽熱発電の特徴 太陽熱発電は、反射鏡で集めた太陽光の熱を利用してタービンを回転させ、発電する という仕組みである。蓄熱機能を併設することにより天候に左右されることなく電気供 給が行うことができるという特徴を持つ。火力発電所の併設により、夜間や曇天時など にも安定的に発電を行うものも存在する。 109 太陽熱発電ならではの強み (出典)NEDO 再生可能エネルギー技術白書、ecool.jp より Arthur D Little まとめ (3)日本の産業の現状と潜在競争力 太陽熱発電はコスト効率を向上させるために、太陽の動きに合わせたヘリオスタット の制御・レシーバでの受光から蓄熱までの熱ハンドリング・タービンを用いた発電等の システムの高効率化・低価格化が求められるため、原理はローテクながら、素材、パー ツ、システム全般にわたって、熱、機械、光学、電気をはじめとする幅広い領域の複合 的な技術的知見が必要とされ、高性能なコンポーネント機器提供や技術的に高度な施設 の施工管理などにおいて日本企業の参入機会は大きい。 日本企業による太陽熱発電産業への参入機会の背景 太陽熱発電の難しさ:熱、電気、機械、光学、素材、制御、量産など複合的な技術を要求される 技術を提供できるプレーヤ 求められる技術 熱 高温高圧のオイル、蒸気、溶融塩などのハンドリング エンジ会社、プラントメーカー 機械 厳しい環境で長期に信頼性高く動作する装置の製造 機械メーカー、プラントメーカー 光学 高精度、高効率、高耐久、高メンテナンス性を有する光学 システム ガラスメーカー、光学メーカー 電気 信頼性の高い高圧設備 重電メーカー 素材 対高温・高圧、高耐久、高熱伝導、高純度、高反射率など 、あらゆる分野で必要となる高品質な素材 素材メーカー 制御 日照や風況などの自然環境や、リスクに対応した緻密な 制御 エンジ会社、プラントメーカー 計装メーカー システム 運転効率だけでなく、施工効率、メンテ性も考慮した全体 システム設計 エンジ会社、プラントメーカー ミラー、フレームなど、コストダウンが求められる部材の量 産化・ローコスト化 メーカー全般 × 量産技術 ローコスト化 (出典)各種公開情報より Arthur D Little 分析 110 (4)太陽光発電と比較した市場ポテンシャル 太陽熱発電が適する地域は、太陽エネルギーが 2,000kWh/㎡以上降り注ぐような場 所に限定されており、それ以外では太陽光発電にコスト効率性で劣ると考えられている ため、地域としては限定的である。 しかし、限定的と雖もポテンシャルは大きく、北米、アフリカ、インド、中東地域を 中心として今後開発が進むと予測されている。 太陽光発電と比較した市場ポテンシャル 対象地域 地域別太陽熱発電量予測 設置可能地域は限定的 北米、アフリカ、インド、中東地域 を中心として開発が進められると予測 出所:TREC 記事コメント • 現行の太陽熱発電方式では、1年で2,000kWh/m2前後の太陽エネルギーが 降り注ぐ地域でなければ、太陽光発電よりも割高になってしまう。 • 曇りや雨の日が多い日本の太陽エネルギーは、1,300kWh/m2程度に留まる。 (出所:日経ビジネス 2009.2.23) • 海に近い地域では、海水を太陽熱発電所の冷却水に利用することが可能であ り、加えて海水の淡水化処理によって真水の需要を満たすこともできる。 (出所:日経エコロジー 2009.11) (出典) 『Technology Roadmap Concentrating Solar Power』 IEA、TREC(再生可能エネルギーの 利用を目指す欧州系のコンソーシアム)資料より Arthur D Little 分析 (5)技術方式の比較 太陽熱発電の方式としては大きく 6 種類あるが、本報告では実績と導入計画の観点か ら、トラフ型およびタワー型の2方式の分析を行う。 111 技術方式の比較 (出典) : 『Concentrating Solar Power : Outlook 2009』 GREEN PEACE、日経ビジネス 2009.2.23、その他オープン情報より Arthur D Little 分析 2.バリューチェーンと関連事業者 (1)バリューチェーン システムの構成は、ソーラーコレクターの配置や熱媒体の配管などのソーラーシステ ムと、熱媒体の熱を蒸気に変換し、蒸気によって発電するパワーブロックの 2 つに大別 され、これらをまとめる全体システム設計がある。 ソーラーシステムの部材には、曲面ミラー又はヘリオスタット、レシーバ(集光パイ プ又は集熱器) 、支持体、コレクタ(循環ポンプ又はポンプ)、蓄熱タンクなどがある。 パワーブロックは、火力発電所のシステムと同様のタービン、発電材、BOP、変電 設備の構成となっている。 そのほか、発電所を開発の開発・プロジェクト管理、施工、運営保守がある。 112 技術方式別のバリューチェーン (出典)各種公開情報より Arthur D Little 分析 (2)レイヤ別の付加価値 トラフ型、タワー型の部材部分のコスト構成比を比較すると、タワー型の方がトラフ 型より、集光・集熱及び発電・蒸気発生部分の比率が高く、蓄熱部分の比率が低くなっ ている。 現在、タワー型のシステム価格の方が高いが、トラフ型は既に技術が成熟しコスト削 減余地が少ないのに対し、タワー型はヘリオスタットの量産化等により、今後コストダ ウンが進むとみられ、発電効率が高いことから将来的にはタワー型がコスト優位性を持 つことが見込まれる。 113 方式別、レイヤ毎の付加価値分析 (出典)米 NREL「Assessment of Parabolic Trough and Power Tower Solar Technology Cost a nd Performance Forecasts」, IEA 「Energy Technology Perspectives 2008」 「Technology Roadmap Concentrating Solar Power」, California Energy Commission 「Comparative Costs of California Central Station Electricity Generation」, NEDO 再生可能エネルギー技術白書より Arthur D Little 分析 (3)タワー型が主流となりうる用途市場 将来的に、タワー型はコスト効率性でトラフ型を抜き、太陽熱発電における主流とな ると考えられる。それまでの期間においても、アフリカ、中東、豪州、米国南部などの 水資源の乏しい地域や、都市近郊、島しょ部などの面積制約のある土地においては、シ ステム効率が高く冷却水必要量も少ないタワー型が選好されることとなるとみられる。 114 タワー型が有利となりうる用途 (出典)NEDO 再生可能エネルギー技術白書より Arthur D Little 分析 (4)日系プレーヤの勝機 トラフ型、タワー型の双方とも欧米プレーヤに先行されているものの、付加価値獲得 の余地、技術的成熟度、量産効果を考えると、日本プレーヤには、タワー型では勝機が ある反面、先行プレーヤとの提携や M&A による技術獲得を行わない限り、トラフ型で は今後の逆転は容易ではないと考えられる。 日系プレーヤの勝機 (出典)各種公開情報等より Arthur D Little 分析 三井造船などは今後の事業展開に向けて海外の太陽熱発電候補地において NEDO の 支援を受けながら実証事業を行っている。 115 日系企業の取組み動向 1 (出典)NEDOweb ページ、環境ビジネス.jpより Arthur D Little 分析 また、三菱重工が開発中の太陽熱高温空気タービン発電システムは、冷却水が不要、 高効率(30%以上)で建設コストが低い、メンテナンスコストが低いといった特徴を持 ち、今後競争力を持つ可能性のある技術である。 116 日系企業の取組み動向 2 (出典)三菱重工業資料より Arthur D Little 分析 (5)バリューチェーンとプレーヤマップ バリューチェーンごとのプレーヤマップを見ると、Acciona(西)、Siemens(独)な どの「技術プロバイダ」と呼ばれる太陽熱発電のコア技術を有し、案件開発から設計・ 個別部材まで垂直統合しているプレーヤが大きな存在感を有している。太陽熱発電の主 要プロジェクトを見ると、スペイン勢は自国内で、ドイツは近隣国であるスペイン国内 での実績を積んでおり、これが国内や近接国に市場を有していなかった日本勢との差を もたらしたとも考えられる。 117 バリューチェーンとプレーヤマップ (出典)各社 HP、日経新聞 2011.4.11、その他オープン情報より Arthur D Little 分析 (6)バリューチェーン毎の利益率分析 太陽熱発電はまだ新しい技術であることから、利益構造は単純な「スマイルカーブ」 とはなっておらず、バリューチェーンの中でも特に①高い開発リスクを伴う案件開発、 ②配置計画等で専門性を要求されるソーラーシステム設計、③集光パイプ(レシーバ) 等のコアとなる個別コンポーネントの利益率が高い。 こうした利益構造の中、アクシオナ(西)やシーメンス(独)といった技術プロバイ ダは、各々の得意とする領域を選び、バリューチェーン横断的に収益を確保している。 118 バリューチェーン毎の利益率分析 (出典)平成 22 年度「新たなエネルギー産業」の競争力強化に関する調査報告書資料より 資源エネルギー庁作成 3.バリューチェーン毎の現状と課題 (1)重視すべき分野 我が国プレーヤの競争力の向上のためには、技術開発による差別化余地を有し、コス ト構成比が高い、ミラー、レシーバ、蓄熱タンクなどの部材とプラントの全体システム 設計を、重要視すべきと考えられる。 重視すべき分野 (出典)各種公開情報より Arthur D Little 分析 119 (2)部材 (ⅰ)ミラー(ヘリオスタット、曲面ミラー) グローバルでは Abengoa(西)や Acciona(西) 、Siemens(独)など欧州系プレー ヤの活躍が目立つ。グローバルな存在感を示しているプレーヤは見られないものの、関 連技術力は保有しており、潜在能力はあると考えられる。今後実証等を経て競争力を顕 在化する可能性も高いと考えられる。 ミラー(ヘリオスタット、曲面ミラー) (出典)各種公開情報より Arthur D Little 分析 主要プレーヤは、部材の低コスト化とシステムの高効率化の二つの戦略を取っている。 主要プレーヤである eSolar(米)は低コスト化、Abengoa Solar(西)は高効率化の戦 略を取って競争優位性を確立している。 120 ミラー(タワー型のヘリオスタット):ベストプラクティス (出典)日本経済新聞 2010/11/22 記事より Arthur D Little まとめ (ⅱ)レシーバ(集熱器・集光パイプ) レシーバの市場では欧米勢のプレゼンスが高い。ただし、JFE エンジニアリングを はじめとした日本プレーヤは実証実験を通じ技術開発を進めているところ。 レシーバ(集熱器・集光パイプ) (出典)2010/09/02 日刊建設工業新聞より Arthur D Little 分析 また、国内プレーヤでは三井造船が溶融塩利用技術、集熱レシーバ技術などを梃子に 太陽熱発電事業に参入している。なお、2009 年にはアブダビでビームダウン型のプラ ントを建設したが、2014 年にはチュニジアにおける実証事業ではタワー型を建設予定 である。 121 ミラー・レシーバのベストプラクティス:三井造船の太陽熱発電事業参入 (出典)各種公開情報より Arthur D Little 分析 (ⅲ)蓄熱システム 太陽熱発電に蓄熱による出力制御機能を付与することで、ベースロード電源への適用 や、負荷ピーク時に合わせた運転が可能となる。スペインには 15 時間分の蓄熱容量を 持つ世界初の 24 時間稼働のタワー型プラント「GAMESOLAR プラント」も登場して いる。 蓄熱システムは、全体コストの約 10%を占める主要部材であるため、コスト低減の ための更なる技術開発が求められる。 122 蓄熱機能の必要性 (出典)IEA Concentrating Solar Power - Technology Roadmap、NEDO 太陽熱発電の技術の現状 とロードマップ、Scientic American “How to use Solar at night”より Arthur D Little 分析 太陽熱発電は既存電源に対して付加的に設置されることが多く、一定のベース電源は 既に存在すると考えられるため、蓄熱システムは系統安定化対策よりも、経済運転によ る投資収益性の向上が目的となることが多いと想定される。(太陽熱発電が本格的に普 及した後にはベース電源としての活用も増えてくる可能性もある) 。 発電事業の形態を見据えた経済性のターゲットを持った上で、太陽熱発電のシステム 構成を行うことが必要である。 なお、蓄熱併設により買電パターンに幅を持たせることが可能になる。その際には、 設備面での構成も若干変化する。 蓄熱する場合には、ミドルピーク、ピーク、ベースロードの大きく 3 通りが考えられ る。この場合は、売電単価と売買電時間の積算値となる収益に対する、最大発電量に応 じたタービンコストの増大、蓄熱設備の大型化によるコストの増大の合算値とのバラン スで投資回収効率が決定される。下表のようなモデルケースの場合は、ミドルピークが 最も投資回収効率に優れていると考えられる。 なお、蓄熱せず(出力制御なし)に買電する場合には、発電ロスを防ぐために昼の最 大発電ピークに合わせたタービン容量が必要となるため、設備コストがかさみ、かつ稼 働が不安定で休止する時間も長いため投資回収効率が低くなる。 123 蓄熱併設による事業の広がり 蓄熱無し 蓄熱あり (出力制御無し) ミドルピーク (需要に関係なく) 蓄熱せずにそのまま発電 売電 パターン 電 力 需 要 昼間から夜にかけての 電力需要時に発電 (天然ガス火力相当) 電 力 需 要 0 6 12 18 24 ピーク ベースロード 昼間の1,2時間程度発生する 需要ピーク時のみ発電 (ガスタービン火力相当) 一日を通じて一定出力で発電 (石炭・原子力相当) 電 力 需 要 0 6 12 18 24 電 力 需 要 0 6 12 18 24 0 6 12 18 24 高 中 高 低 (FIT等の買取制度による) (5~13円/kwh) (30~円/kwh) (3~5円/kwh) 6時間程度 8~12時間 1~2時間 24時間 必要蓄熱量 (無し) 小 大 大 タービン出力 大 中 大 小 投資回収 効率 昼の最大ピークに合わせた タービン容量必要で 投資回収効率が低い 蓄熱、タービン容量小さく 初期投資少ないため 投資回収効率良い 投資収益性は高いが 大型設備が必要であり 収益リスクが大きい 蓄熱の初期投資大きいが 設備利用率最も高く 収益リスク小さい 売電単価 売電時間 (/日) (出典)IEA Concentrating Solar Power - Technology Roadmap などより Arthur D Little 分析 蓄熱システムの各蓄熱方式に目を向けると、溶融塩を利用して蓄熱効率を高めるため の間接 2 槽式が開発され、更に経済性を高めるために温度躍層単槽式が研究開発中であ る。蓄熱技術については材料とシステム双方の開発を一体で進めていくことが必要であ る。 蓄熱材料の開発事例 (出典)NEDO 太陽熱発電の技術の現状とロードマップより Arthur D Little 分析 また、蓄熱材料については、ポスト溶融塩の技術として、低コスト化や蓄熱の大容量 化を目的とした新たな蓄熱材料の研究開発が進められている。 124 新たな蓄熱材料の開発事例 (出典)DLR “Thermal Energy Storage Concrete & Phase Change TES”より Arthur D Little 分析 (3)全体システム設計 太陽熱発電システムは複雑性が高いため、日系の EPC コントラクタが参入し付加価 値を提供する余地がある。実際に、日揮はスペインのアベンゴアと共同で 100MW の太 陽熱発電事業に参画し、事業ノウハウと技術知見の獲得を図っている。また、前述のと おりチュニジアでは三井造船と大成建設が、ガスコンバインドサイクル発電との併設型 太陽熱発電システムのFS調査を実施しているところである。 全体システム設計 (出典)各種公開情報より Arthur D Little 分析 125 なお、北米などではすでに太陽熱発電事業が市場として立ち上がりつつあり政府系機 関の関与無く、民間ベースでプロジェクトが成立するため、案件開発・技術プロバイダ などとの関係構築により、民間ベースでの案件参画も可能と考えられる。 主要プロジェクトにおける協業体制 (出典)日経ビジネス 2009.2.23、日経エコロジー 2009.4、週刊東洋経済 2009.3.21 より Arthur D Little 分析 (3)発電事業者 これまでの発電プロジェクト構造を見ると、技術プロバイダが自ら開発、技術、建設 の機能提供・リスクテイクを行い、プロジェクト開発を一手に進めることが多かった。 これは、主に太陽熱発電技術が新しく、事業の実績の乏しさから、金融機関の与信が得 られず、大型案件でのファイナンスが困難であったためである。 太陽熱発電技術の実績が出始めた現在、ファイナンスも可能になりはじめており、将 来的には太陽光発電産業のように、案件開発を行うデベロッパーが、技術プロバイダに EPC(設計、機器調達、建設)を発注するようになっていく可能性もある(次図①) 。 この場合、我が国の商社等もデベロッパーとして事業に参画する機会が生じると考えら れる。 他方、EPC コントラクタが、技術プロバイダにコアとなる技術を発注し、その他の コンポーネントを調達して自ら建設できるようになれば、我が国のプラントエンジニア リング会社等にも、有望な事業機会が生じると考えられる(次図②)。 また、我が国のエンジニアリング会社がコアとなる技術も獲得し、自ら技術プロバイ ダとして事業展開を図っていく可能性もある。 126 発電事業者における昨今の潮流 現在のプロジェクトの構造 将来のプロジェクトの構造① 将来のプロジェクトの構造② デベロッパー デベロッパー 技術プロバイダ 開発 技術 開発 開発 建設 事業者選定(入札) EPCコントラクタ 技術プロバイダ 技術 ミラー メーカ レシーバー メーカ 建設 建設 技術プロバイダ ・・・ 技術 ミラー メーカ レシーバー メーカ ・・・ ミラー メーカ レシーバー メーカ ・・・ (出典)平成 22 年度「新たなエネルギー産業」の競争力強化に関する調査報告書資料ほか 各種公開情報より資源エネルギー庁分析 具体的な動きとして、日揮は Abengoa と共同で 100MW の太陽熱発電所の建設を行 うことを発表しており、これは日系企業が商業用太陽熱発電事業に関与する初の事例で ある。 このように、太陽熱発電産業の裾野が広がっていくことで、バリューチェーンの各工 程において強みを持つプレーヤの参入が多くなってきた昨今では、単純な垂直統合型の ビジネスが成り立たなくなりつつあるとも考えられる。 さらに、昨今では重電メーカーと太陽熱発電の技術プロバイダとの連携が進みつつあ り、業界構造が大きく変化する兆しがある。 日本のプレーヤも本格参入のためにタワー型・トラフ型双方におけるプラント設計能 力の開発を進めている。 業界構造の変貌 EPCコントラクタ Ferrostaal(独) Bechtel(米) 海 外 勢 トラフ 技術プロバイダ 重電メーカ Solel(イスラエル) 1 Siemens(独) SMAG (独) × Alstom(仏) 説明 1 GE(米) 2 SkyFuel(米) Arevaはフレネル型で革新的な技術 を持つ米国Ausraを買収(少なくとも 200億円以上とみられれている) Acciona (西) 3 独立独歩 ACS Cobra(西) Abengoa (西) Fluor(米) eSolar(米) JFEエンジニアリングと三鷹光器が協 同で、太陽光集光装置を利用し高性 能レシーバーを開発し、太陽熱発電 設備に本格参入 三菱重工、三井造船、JFEエンジニアリ ングはタワー型のR&D中 川崎重工業はISCCS(トラフ型+火力 発電)のR&D中 Sene (西) r タワー Siemensはイスラエルのレシーバ ーでシェアの半分を持つイスラエル のSolelを買収(約500億円) × BrightSource(米) 2 フレネル 日 本 3 資本関係がある Areva(仏) SPG(独) Ausra(豪) JFEエンジニアリング 三菱重工業 三鷹光器 三井造船 川崎重工業 (出典)各種公開情報等より Arthur D Little 分析 127 × 資本関係を求めた が叶わなかった 業務上の連携がある 30 4.経済波及効果・雇用分析 (1) 太陽熱発電施設を 1 基(50MW)建設した場合の経済波及効果 海外において、日系プレーヤが太陽熱発電施設を建設した場合の国内への経済波及効 果について分析を行った。 想定したプラントは 50MW。バリューチェーンごとに日系企業のシェアを想定し、日 系プレーヤは国内で調達、生産し、輸出することを前提とした。 海外において太陽熱発電施設を建設した場合の国内への経済波及効果 生産誘発額 付加価値誘発額 雇用誘発者数 474 億円 254 億円 2,515 人 (出典)帝国データバンク分析 (2)拡大する世界市場におけるシェア獲得 1%あたりの国内への経済波及効果 太陽熱発電産業の世界市場は今後増加していくことが予測されており、2020 年には 2 兆 5,000 億円にまで拡大するとされる。 急伸する世界市場に対して、日系プレーヤがシェアを追加獲得した場合の 1%あたり の国内経済波及効果について試算を行った。 2020 年に世界シェア 1%(250 億円)を追加獲得した場合の経済波及効果 生産誘発額 付加価値誘発額 雇用誘発者数 678 億円 286 億円 3,205 人 ※日系プレーヤの関連部品などは全て国内生産、完成品を輸出すると想定 (出典)帝国データバンク分析 128 5.施策の方向性 (1)プロジェクト開発の推進・EPC への参入 バリューチェーン全体を俯瞰して課題を整理すると、設計・建設レイヤ、案件開発、 O&M レイヤの課題は、太陽熱発電事業の根幹となるソーラーフィールド設計ノウハ ウ・実績の不足に起因していると考えられる。また個別コンポーネントエリアにおける 課題は、実証の不足による故障・性能低下リスクの把握が出来ていないことを原因とし ていると考えられる。これは、国内及び近隣地域において太陽熱発電の適地(年間 2,000kWh/㎡以上の日射があり、水資源も豊富な地域)に恵まれていなかったことも事 業開発が進みにくかった一因である。 したがって、課題を連鎖的に解決する根本的な対応策として、①海外の主要なサンベ ルト地帯における、国内プレーヤへの実証機会の創出および②すでにノウハウを持つ海 外プレーヤからの学習機会の創出支援という 2 つの対応策が有効と考えられる。 加えて上記とは別途に、実証および設計ノウハウ蓄積までの期間、より短期的な対策の 一つとしてファイナンス面での支援を実施していくことも有用と考えられる。 バリューチェーンを俯瞰した課題発生メカニズムの考察 出典)各種公開情報より Arthur D Little 分析 (2)産業協力関係の構築 太陽熱発電は、プラント自体の建設および以降の維持管理(設備の保守・管理、集光・ 集熱部分の定期的な洗浄など)などにより現地にまとまった規模の雇用を創出する(米 国の事例では、110MW レベルの太陽熱発電所になると、建設時に 1,500 人、以降も維 持管理に 200 名分の雇用を生むとされる) 。また、太陽熱発電に適した地域は、同時に 129 水が不足している場合も多いが、太陽熱発電は海水淡水化プラントとの複合システムを 構築しやすく、現地の社会的ニーズにも適合しているため、地域経済・社会への貢献の 観点から、現地政府との協力関係を構築しやすいと考えられる。さらに、このような地 域は、資源国である場合も多いため、淡水化プラントとの複合システムは、資源外交の 一貫として有効活用できる可能性もある。この点を踏まえ、当該分野でのキャッチアッ プを図る日本勢としては、単なるシステム売りを超えた、産業協力を含むより高度な提 案を実施していくことも必要である。 産業協力関係の構築可能性(雇用創出) プロジェクト名: クレセントデューンズ太陽熱プロジェクト 場所 所有者 タービン容量 : 米国 ネバダ州、トノパー : SolarReserve 社のTonopah Solar Energy, LLC : 110MW 建設雇用創出 : 1,500 人 年間維持管理雇用 : 200人 ⇒地元経済への貢献が可能 (出典)各種公開情報より Arthur D Little 分析 産業協力関係の構築可能性(水処理) 塩水 太陽熱 熱い 冷たい • 太陽熱発電には面白い側面が存在す る。それは、タービンの排気熱を冷ます ために海水を使った際に、海水を脱塩 するという副産物が存在することである 電気 熱い タービン 太陽熱 発電機 • タービンの上記は海水の温度を上昇さ せ、蒸発を引き起こす。ガス化した海水 を濃縮すれば、真水になるという基礎的 なアイデアである 真空装置 液化装置 冷たい 塩水 海水 真水 (出典) “DESERTEC-UK”ウェブサイトより Arthur D Little 分析 130 (3)技術面でのキャッチアップ 前述のとおり、太陽熱発電システムを稼動させるためには、各種要素技術が必要とな る。各機能に求められる各種要素技術としては、以下が想定される。タワー型・トラフ 型に共通的に求められる技術もあるが、タワー型に対しては集光・発電機能の研究開発 が特に求められる。 各機能に求められる各種要素技術 方式別の重要性 必 主 動に 前稼 主 に 稼 動 時 要 機 能 要 素 技 術 ( 仮 説 ) タワー トラフ 建設 • 精密に反射角を計算した狙い通りの位置に大型コンポーネントを配置する技術 • 個別モジュールで製造し現地に運び込んで建設コストを削減する技術 ◎ 送電 • 高圧直流送電による送電ロス削減技術(ABB、シーメンス) ○ 配電 • 既存電力系統と接続しても停電などの不具合を起こさないための最適制御技術 ○ 集光 • 酸化チタンなどの薄幕をガラスに重ねて反射率を高める(95%程度)技術(コニカミノルタ) • 太陽の動きをセンサーで感知し反射鏡を徐々に動かす技術(三井造船) • 大きな反射鏡のたわみを防ぐための重さと剛性とのバランスを取る設計技術(コニカミノルタ) 蓄熱 • 蓄熱効率の良い熱媒体技術 • 現状最も熱効率の高い溶融塩(熱媒体)をレシーバに流す技術(三井造船) 発電 • 砂漠でも稼動可能なドライシステム方式の高温空気タービン及び受熱器技術(三菱重工) メンテナンス • 砂漠などの劣悪環境でもメンテナンス頻度が少なくても稼動できる素材技術 • メンテナンスのタイミングを最適化するためのモニタリング技術 ◎ △ ◎ ― ◎ 太 陽 熱 発 電 産 業 と し て 特 に 注 力 す べ き 領 域 ○ ※括弧内は各技術を保有していると思われる企業名の例 (出典)各種公開情報より Arthur D Little 分析 (4)施策の方向性案 今後の産業を検討する上で、重要性の高い論点として大きく以下の三点が想定される。 太陽熱発電産業論点 論点の背景 検 討 テ ー マ キ ャ技 ッ術 チ面 アで ッの プ 太陽熱発電システムを稼動させるために必要となる要素技術のうち、タワー型については集光・発電機能の研究開発 および実証による商業運転レベルでの性能確認が特に求められる。 産 業 の協 構 築力 関 係 太陽熱発電は、プラント自体の建設、集光・集熱部分の定期的な洗浄などの維持管理等により現地にまとまった規模 の雇用を創出する(米国の事例では、110MWレベルの太陽熱発電所になると、建設時に1,500人、以降も維持管理に 200名分の雇用を生むとされる)。 また、太陽熱発電に適した地域は、資源国であるとともに水不足の問題を抱えている国との間では、太陽熱発電は海 水淡水化プラントとの複合システムを構築しやすいため、資源外交の一貫としても、現地政府との協力関係を構築しやす いと考えられる。 この点を踏まえ、本分野でのキャッチアップを図る日本勢としては、産業協力を含む、高度な提案を行うことも必要。 推プ 進ロ ジ ・ Eェ Pク Cト へ開 の 参発 入の 設計、建設、運営・保守(O&M)の課題は、太陽熱発電事業の根幹となるソーラーシステム設計ノウハウ、案件開発の 不足に起因していると考えられる。 このため、①海外の主要なサンベルト地帯における、国内プレーヤへの実証機会の創出及び②既にノウハウを持つ海 外プレーヤからの学習機会の創出、という2つの対策が有効と考えられる。 131 2.4. 蓄電池産業 1.グローバル市場動向 (1)分析の背景と考察範囲の特定 蓄電池産業は、「日本のお家芸」と言えるほどに日本企業が競争力を保持してきた産 業である。 昨今は、リチウムイオン電池(以降 LiB)を中心に技術革新が著しく、数年前までは 考えられなかったような大容量蓄電池を許容範囲のコストで実現できる見込みが立ち、 自動車用や定置用などの新たな市場の形成・拡大が見込まれている。 また、市場の形成・拡大の一方、欧米・中国・韓国企業の参入が進んでおり、我が国 産業の競争力保持のために適切な施策を講ずる必要がある。 蓄電池産業を議論する上での背景議論 (出典) 『2010 年版電池関連市場実態総調査』(富士経済)及びインタビュー結果等を参考に Arthur D Little 作成 132 蓄電池技術方式ごとの市場規模推移と用途拡大 (出典) 『2010 年版電池関連市場実態総調査』(富士経済)及びインタビュー結果等を参考に Arthur D Little 分析 今後市場形成・伸長が見込まれる用途は、まず自動車など車載用であり、その後に定 置用が続いていくと考えられる。なお、本報告に先行する自動車用蓄電池に関する議論 としては、次世代自動車戦略研究会(経済産業省)によってとりまとめられた『次世代 自動車戦略 2010』 (2010 年4月)において、自動車用蓄電池に関して、 「世界最先端の 電池研究開発・技術確保を目的とし、LiB の性能向上・ポスト LiB 開発・電気自動車 普及による量産効果創出・電池二次利用のための環境整備をアクションプランとする」 とし、定置用などの市場に対してもコストダウンや二次利用などの影響力を持つと考え られている。 また、蓄電池システム産業戦略研究会(資源エネルギー庁)で 2010 年5月にとりま とめた、 『蓄電池システム産業のあり方について』において、 「我が国が目指す『次世代 エネルギー・社会システム』においては、太陽光発電をはじめとする再生可能エネルギ ーや次世代自動車の導入拡大などが想定され、蓄電池システムが重要な役割を果たす。 諸外国におけるエネルギーの使い方は日本とは異なるが、次世代自動車、再生可能エネ ルギー、蓄電池といったアイテムの重要性はおそらく万国共通であろう。よって、その 国や地域の気候・風土に合わせてシステムをアレンジすれば、海外にも展開できる。」 として、競争力を持つ定置用蓄電池の国内プレーヤによる海外展開の可能性を示した。 まず、市場形成の時期が早いと想定される車載用のうち、ハイブリッド自動車や電気 自動車以外の、バス・トラック、二輪車、電車、フォークリフトの市場動向について概 観する。 133 バス・トラックの HEV(ハイブリッド)化は国内プレーヤが先んじて商品化してお り、2015 年における比率は、乗用車を含む EV/HEV 全体で 1.2%(台数ベース)と想 定される。 バス・トラック (出典)Global Insight 2009.11 より Arthur D Little 分析 電動二輪車についても、ヤマハやホンダなどの国内プレーヤが LiB 利用の商品を開 発している。ホンダについては、乗用車 EV/HEV 向けの LiB の技術転用の可能性もあ る。 電動二輪車 (出典)各社 HP、エネルギー・大型二次電池・材料の将来展望 2010(上巻)富士経済より Arthur D Little 分析 134 LRV(Light rail vehicle、軽量な鉄道車両)などリチウムイオン電池を搭載する可能 性があり得る電車の市場規模は下表のとおり。なお、鉄道の回生エネルギーを蓄電する ための地上蓄電設備も存在し、定置用の大規模電力貯蔵市場の一部となっている。 鉄道関連 該当LiB市場規模推移 LRVなど鉄道関連商品例 100万円 300 鉄 道 そ の も の 250 架線レス化対 応(LRV) 100%低床式LRV 広島電鉄㈱殿グリーンムーバーMAX 200 150 JR西日本(北陸本線) 100 鉄道システム用 地上蓄電設備 50 電気容量:1,080kwh 0 2008 定置用、大規模電力貯蔵の一部 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 (出典)エネルギー・大型二次電池・材料の将来展望 2010(上巻)富士経済より Arthur D Little 分析 電動フォークリフトは増加傾向にあり、現在主に使われている鉛蓄電池の容量に対す る不満がある顧客が一定程度存在することから、LiB 利用の拡大の可能性があると考え られる。 電動フォークリフト 該当LiB導入可能性領域の規模推移 LiB搭載フォークリフト商品例 日 産 三 菱 重 工 業 × リチウムイオンバッテリ ー搭載 フォークリフトのコンセプ トモデル 一台当たりの 搭載金額 35万円程度 2015年 世界初のエンジン式ハイ ブリッドフォークリフトを 発売 リチウムイオン電池を搭 載して燃費を4割削減 LiBの急速充電可能、高エネルギー密度などの特徴を活かして、顧客 のフォークリフト運用方法を大きく改善させられる - バッテリーフォークを使っているユーザーの中には、フォーク1台 ごとに1台予備電池を持ち、電池交換を行いながら使用している ユーザーもいる - またフォークリフトを酷使するユーザーでは、夕方にバッテリー がパワーダウンし、作業効率が落ちる減少が生じている 700億円程度 電 動 フ ォ ー ク リ フ ト 電池容量が足 りているフォー クリフト 90%程度 • 大部分のバッテリーフォークが該当 2015年 630億円程度 10%程度 電池容量が足 りていない フォークリフト • ビール工場や清涼飲料水工場な ど、24時間操業する用途が該当 • 但し、電動化済みのなかでは10% 程度しか該当しない 2015年 70億円程度 (出典)エネルギー・大型二次電池・材料の将来展望 2010(上巻)富士経済より Arthur D Little 分析 135 以上を踏まえて、ハイブリッド車・電気自動車以外の車載用について、市場規模や独 自技術の必要性、日本企業の競争力醸成の可能性の 3 つの視点から分析すると以下のと おり。 乗用車 HEV/EV 以外の車載用用蓄電池の主要利用用途とまとめ (出典)各種公開情報及び事業者インタビューより Arthur D Little 分析 以下、本報告では定置用蓄電池を中心に取り扱うが、 定置用蓄電池には複数の利用 用途が存在する。 蓄電池システム産業戦略研究会では、「電力系統対策として蓄電池を設置する場合、 現時点における一般論として、需要家側よりも変電所など系統側に設置する方が、蓄電 池の数量が少なくて済み、スケールメリットも働き、メンテナンスが適切に行われ蓄電 池の稼働率も上がるため、社会的な蓄電池設置コストの低減につながるものと考えられ ている。ただし、将来的な技術革新の進展によって、需要家側の創意工夫による蓄電池 の利活用が進み、需要家側(たとえば、集合住宅や、大規模開発される新興住宅エリア 等)に蓄電池が設置されるケースも考えられる。さらに、各家庭に蓄電池を設置したり、 電気自動車等の蓄電池の電気を住宅等で利用したりといった方法も考えられるが、すぐ に全国で本格化するということではなく、当面、実証試験による課題の見極めが必要で あろう。」とし、技術革新や電力利用のあり方に応じて、定置用蓄電池に対するニーズ や設置場所が異なっていくと想定した。 以下の検討においては、蓄電池の設置場所に着目して、大きく①法人施設用、②家庭 併設、③大規模電力貯蔵の3つの用途を中心に検討を進めていく。 136 定置用蓄電池の主要利用用途 (出典)各種公開情報及び事業者インタビューより Arthur D Little 分析 定置用用途における蓄電機能を実現する電力貯蔵機器としては LiB やニッケル水素 電池(以降、NiMH) 、鉛蓄電池、NAS 電池のような蓄電池のほか、キャパシタ、フラ イホイールなどの機器が挙げられる。 137 定置用蓄電池の主な蓄電方式 (出典)各社 HP、カタログ、大容量電力貯蔵システムの現状と将来展望(2010) (矢野経済) 、 H17~18 年度 系統連系円滑化蓄電システム技術開発に関する調査(NEDO)、 *ESA: Energy Storage Association (米)AEP リポートより Arthur D Little 作成 各種蓄電方式特性を踏まえると、発電所・大規模変電所のような充放電時間が長時間 となる用途以外で、特に高出力が求められる場合においては、概ね LiB が競争力を持 ちうる場合も多いと考えられる。以下、本報告においては、他国の追い上げが厳しい LiB を中心に、用途ごとの動向を考察しながら、一部他の方式にも触れる。 138 方式・要求性能・用途の対応 定置用蓄電池の主な設置箇所と用途 (省スペ ース) 瞬時予備力(スピニングリザーブ) など ✔ ✔✔ 中 ✔ ✔✔ 長 運転予備力(ホットリザーブ)、調整用火力しわ取り 性能、新エネ併設出力変動緩和 など 待機予備力(コールドリザーブ)、揚水発電代替スト レージ など ✔ ✔ 短 瞬時予備力(スピニングリザーブ) など ✔ ✔✔ 中 運転予備力(ホットリザーブ)、調整用火力しわ取り 性能、新エネ併設出力変動緩和 など 待機予備力(コールドリザーブ)、揚水発電代替スト レージ など 瞬停防止、 UPS電源、施設負荷ピークカット、自家 発電安定化 など ✔ ✔✔ 深夜電力利用(ピークシフト) など ✔ 商業施設 短中 ・ビル・デ ータセンタ 長 瞬停防止、 UPS電源、施設負荷ピークカット、自家 発電安定化、エレベータ・エントランス用非常用電源 など ✔ 深夜電力利用(ピークシフト) など ✔ 短中 瞬停防止、 UPS電源、施設負荷ピークカット、自家 発電安定化、エレベータ・エントランス用非常用電源 など ✔ 長 深夜電力利用(ピークシフト) など ✔ ✔ 中 ✔ ✔ ✔ ✔ 中 UPS電源、施設負荷ピークカット、自家発電安定化 など 深夜電力利用(ピークシフト)、原動機発電燃料コス ト低減、コミュニティマイクログリッド電力平準化 など UPS電源、施設負荷ピークカット、自家発電安定化 など 深夜電力利用(ピークシフト)、原動機発電燃料コス ト低減、コミュニティマイクログリッド電力平準化 など UPS電源、施設負荷ピークカット、自家発電安定化 など 長 深夜電力利用(ピークシフト) など 小規模 変電所 長 病院・公共 地 コミュニティ 域 (CEMS) 家 庭 高出力 大規模 集合住宅 住宅 短中 長 長 中 長 ✔ ✔ ✔ ✔✔ ✔ ✔ ✔✔ ✔ ✔ ✔✔ ✔ ✔ ✔ ✔ ✔✔ ✔✔ ✔✔ ✔✔ ✔✔ 定 置E 用V はな 無ど 線車 基載 地用 局向 向け けに なお どい て がは 一強 部力 語で らあ れる るが の、 み 鉛 NAS 電 力 利 用 サ イ ド (含む運用 簡易性) 短 発電所・ 大規模 変電所 工場 産 業 用途例 NiMH 発 サ電 イ・ 送 ド配 電 充放電 時間 対応する主な方式 大容量 LiB 設置箇所 主な基本性能 安全性 発 電 機 主に用いられていく方式 用いられる可能性がある方式 発電・送配電サイドに おいては、長時間は NAS電池が強いが、短 ・中時間で高出力が求 められる領域はLiBの 競争力が高い 電気利用量が大きいた めピークシフトはNAS, 発電機の領域だが、短 中期はLiBの競争力が 高い 電気利用量が少ないシ ーンではピークシフトま で含めてLiBの競争力 が高い。発電機も強い 競合となる 大容量が求められる箇 所が多く、ピークシフト まで含めてLiBの競争 力が高い (出典)各種公開情報及び事業者インタビューより Arthur D Little 分析 (2)LiB 全般の市場規模拡大予測 LiB 市場は、これまで民生の小型用途である携帯電話やノート PC 向け市場の拡大と ともに、大容量化や低コスト化を実現してきた。今後は安全性などの付加的な性能向上 によって、車載用や定置用などにおいて、更なる市場拡大が見込まれる。 LiB の用途別の世界市場規模予測を見ると、自動車を中心とする車載用の次に定置用 (主に産業用)の市場規模の伸長が見込まれており、市場規模は車載用に比較して大き くないものの、2020 年で 1 兆円弱の巨大市場とされ、成長率ベースでは車載用を上回 ると予測されている。なお、国内市場については、震災の影響でこの予測から更に市場 形成の前倒しが起きていると想定される。 139 LiB 用途別市場規模推移/予測 LiB用途別市場規模推移/予測 車載用:普通乗用車など 世界市場規模 [兆円] 産業用(主に定置用): 電力関連、産業機器、 無停電電源装置など 民生以外中小型: 電動工具、電動二輪車など 民生小型: 携帯電話、ノートPC、 携帯音楽プレーヤーなど (出典) 『2010 年版 LiB 部材市場の現状と将来展望』(矢野経済研究所)及び インタビュー結果等を参考に Arthur D Little 作成 (3)用途毎の具体的ニーズとその所在 (ⅰ)法人施設用蓄電池 必需インフラとなったデータセンターや無線基地局では、災害など非常時にも機能を 維持するため、非常用電源としてディーゼルエンジンなどの発電設備や鉛蓄電池などが 利用されている。 しかし、ディーゼルエンジンや鉛蓄電池には大きなスペースが必要であり、データセ ンターについては、LiB のラックに平積みできるほどの大容量小型化、ガスを発生しな いことによる密閉状態の実現に対するニーズが存在する。TDK ラムダなどがデータセ ンター向け UPS(Uninterruptible Power Supply:無停電電源装置)において LiB を 採用しており、今後本市場の伸びが見込まれる。 無線基地局については、規模によってスタンドアローンで設置するもの、建物に併設 するもの、建物内に設置するものの3種類に分類される。現状、実績に基づく信頼性が ある鉛蓄電池や発電機が採用されていることが多いが、この中で LiB に対するニーズ が最も高いのは設置スペースや荷重の制約が強く、通信インフラとしての重要度も高い 建物に併設するものと考えられる。実際、設置スペースや荷重の観点から LiB に対す るニーズが出てきている。 140 ニーズの所在:データセンター向け UPS (出典)各種公開情報及び事業者インタビューより Arthur D Little 分析 ニーズの所在:無線基地局向け UPS (出典)各種公開情報及び事業者インタビューより Arthur D Little 分析 その他の用途では、病院向け電源確保用途も見られる。病院では、停電時への備えと して発電機を併設することが多い。発電機による電力供給開始までには数十秒から数分 を要するため、この間の停電を回避する観点から、無停電装置用など多数の蓄電池導入 実績がある。また、停電時には電子カルテや(患者をベッドごと運ぶ)エレベーターな どが使用できず、事実上、 「問診や処方箋を出す程度」となる場合もある。 無線基地局と同様、現状では鉛蓄電池や発電機などの採用が多いが、限られたスペー スに長期の停電対応が可能な大容量設置が求められることや、騒音が出ず患者への配慮 141 が可能であることから、LiB に対する潜在的なニーズが高い用途と考えられる。 ニーズの所在:病院向け電源確保用途 (出典)各種公開情報及び事業者インタビューより Arthur D Little 分析 また、交通インフラ用途として、震災などによる停電時に問題となる信号機の電源確 保用途が考えられる。 日本は世界に先んじており、2009 年以降、徳島県警により LiB を用いた非常用信号 機電源付加装置導入モデル事業が行われている。 信号機については一時的な滅灯でも、その間に交通事故が発生することが懸念される ため、立ち上げの早さや小型でも 2~3 時間のバックアップ時間(災害時における初期 対応までの必要時間)を確保できるなどの要件から、LiB が採用されたものである。 現行一部信号機に付設されているディーゼル発電機は自動起動するものの、立ち上が りまで一時的な滅灯が避けられず、設置場所の制約に加え、この分野では定期的な燃料 補給やメンテナンスの必要性が高いことから、本事例のような LiB を用いた静止型非 常用信号機電源付加装置のニーズは高まる可能性が高いと考えられる。 142 ニーズの所在:交通インフラ向け電源確保用途 (出典)各種公開情報及び事業者インタビューより Arthur D Little 分析 また、エネルギー効率を高めると同時に、非常時でも一定期間、事業を継続すること が求められる工場用途において、蓄電池や再生可能エネルギーも含めた発電機を併設し ていくことが考えられている。 パナソニックは、住之江工場において、太陽光発電、リチウムイオン電池システムな ど自社の技術を組み合わせ、長期間の連続稼働での信頼性を調べるための実証実験を実 施している。また、日立製作所は、大みか事業所において、社宅まで含め、地域ぐるみ で太陽光発電パネル、蓄電池設備、 EV(充電ステーション等の運行インフラを含む) を導入し、大規模な EMS の実証実験を開始すると発表している。更には、東芝におい ても府中事業所内太陽光発電研究棟に太陽光発電とリチウムイオン電池を組合せたシ ステムを構築し、再生可能エネルギーの出力変動抑制と受電電力平準化を蓄電池制御に より実現している。 143 ニーズの所在:工場向け電源確保用途(三洋電機事例) (出典)各種公開情報及び事業者インタビューより Arthur D Little 分析 ニーズの所在:工場向け電源確保用途(日立製作所事例) (出典)各種公開情報及び事業者インタビューより Arthur D Little 分析 144 具体的ニーズとその所在:工場向け電源確保用途(東芝事例) 出所:東芝提供資料より 以上のような用途の他、公共インフラ分野など次表に掲げる分野においては、エネル ギー供給が断絶してしまうと、産業や生活に甚大かつ深刻な影響を与えうるため、発電 機、蓄電池等の併設なども含めて、エネルギー安定供給の確保が求められる場合が多い。 それぞれの用途においては、既に UPS としては鉛蓄電池、ピーク抑制兼用用途とし ては NaS 電池や自家発などで運用実績があるが、LiB のコストダウンや大容量化など に応じて、市場が拡大する可能性がある。また、単純なコストダウンに加えて、長寿命 化による生涯電池コストにおける優位性で LiB が代替していく可能性もある。実際、 既に東芝がオフィス・店舗向けとして POS システムやサーバ・ネットワーク等の電源 として、同社リチウムイオン電池による無瞬断パワーユニットを事業展開している例が 見られる。 145 その他の想定される定置用蓄電池の適用事業分野 (出典)各種公開情報及び事業者インタビューより Arthur D Little 分析 (ⅱ)家庭併設蓄電池 家庭用蓄電池は、将来的に出力が不安定な太陽光発電等の再生可能エネルギーが大量 に系統連系される際に、系統安定化の対応として、家庭に蓄電池を置くことが当初想定 されていた。しかし、東日本大震災の影響で、バックアップ電源としての家庭用蓄電池 の需要が急速に高まった結果、家庭用蓄電池の市場は日本市場が牽引する可能性が高く、 日本企業が競争力を維持・強化するチャンスが増大している。 今後、伸長が見込まれる国内市場においては安全基準の確立も急務であるため、業界 団体において基準の検討が進んでいる。 146 ニーズの所在:家庭併設蓄電池 家庭併設LiB事例 家庭併設蓄電池の導入背景 各社の事業化事例 イメージ 訴求機能 容量 (kWh) 震災による引き合い増 価格 販売実績 ・方針 ヤマダ電機、家庭の電気の「自産自消」を 推進-節電に商機あり(2) 87万円 189万円 これまで約 1,000台受注 需要が増えれ ば、最大で 月1,000台に生 産量を増やす • ヤマダは4月15日から家庭用蓄電池を扱 い始めた。(中略)「今までなかった商品 だが、震災の影響を受けて問い合わせ 件数は予想以上」とスマートグリッド事業 本部の佐藤利幸・副本部長は話す。 (夜間電力を貯められるため) 系統電力を安く使うことができ る 2011/08/08 07:00 日本経済新聞電子版 ( エヤ ジ ソマ ンダ パ ワ電 ー機 ) 容量500Lの家 庭用冷蔵庫を 約5時間冷却 できるだけの 出力 エ リ ー パ ワ ー 太陽光発電や 電力供給に余 裕がある夜間 電力を蓄電 ( 中B 国Y D ) 東京電力の管 内などで見込 まれる電力不 足対策の需要 1kWh 2.5kWh 2kWh 100万円 前後 通常販売も始 め、法人向けと 合わせ、年間 オフィスや工場 の非常電源用に 1万台を供給す 3万6千円のリー る方針 ス契約で販売 2.4kWh (19.2kWhも 想定) 100万円以 下 小型と中型を 中心に、2年間 で10万台の販 売を目指す 発電余剰分を蓄電できる エリーパワー、家庭向け大型蓄電池、 1台100万円台、震災後、引き合い増。 2011/04/13 日本経済新聞 • (前略)東日本大震災後、家庭の安定電 源として引き合いが急増しているのに対 応する。 • (中略)昨年4月から生産を始め、オフィ スや工場の非常電源用に月3万6千円 のリース契約による販売をしている。(中 略)法人向けにもリースだけでなく、通常 販売も始める。合計年間1万台を供給す る方針。 バックアップ電源システムとし て使うことができる 震災後の導入増加の背景 (出典)各種公開情報及び事業者インタビューより Arthur D Little 分析 新興国においても、先進国並みの電力インフラニーズが高い都市部の家庭・マンショ ンでは、停電の頻発に対処するため発電機を導入する場合が多いが、鉛蓄電池を中心と した蓄電池保有も進んでいる。 LiB コスト低減に伴って、コンパクト性という強みも活かし、これらの市場も視野に 入ってくると考えられる。 系統電源が不安定な新興国での家庭併設蓄電池保有 (出典)各種公開情報及び事業者インタビューより Arthur D Little 分析 147 また、先進国においても、電力系統の安定化や自家発電の自家消費促進のため、米国 やドイツなどが蓄電池に対する政策支援を行っている。 このように、先行して市場が立ち上がりつつある日本のみならず、今後世界的に家庭 用蓄電池の需要が高まっていく可能性がある。 海外での家庭併設蓄電池の導入支援制度 (出典)各種公開情報及び事業者インタビューより Arthur D Little 作成 家庭用における蓄電池の活用シナリオとして、電気自動車やプラグインハイブリッド 車の蓄電池を利用した V2H2/V2G3の普及も有望と考えられる。寿命・安全性・制御な どの課題が技術的に解決されれば、電機自動車・プラグインハイブリッド車向け LiB を家庭用の蓄電池としても利用する形態も飛躍的に普及する可能性がある。先の震災を 経て次世代自動車の防災対応能力がクローズアップされたこともあり、自動車のプラグ イン化が促進されつつあるため、こうした利用形態が早い段階で現実のものとなる可能 性もある。 2 V2H: (Vehicle to Home)電気自動車に搭載された蓄電池のエネルギーを宅内で利用すること 3 V2G: (Vehicle to Grid)電気自動車を電力系統に連系し,車と系統との間で電力融通を行うこと 148 家庭用蓄電池における普及シナリオ (出典)各種公開情報及び事業者インタビューより Arthur D Little 分析 集合住宅においては、 特に震災後は停電リスクを背景に、国内ディベロッパーを中 心に高層マンションの給水ポンプやエレベーターなどを動かすバックアップ電源とし て、蓄電池ニーズが強くなってきている。 ニーズの所在:集合住宅併設蓄電池 (出典)各種公開情報及び事業者インタビューより Arthur D Little 分析 病院等の用途とも共通する点であるが、非常時に確実にバックアップ電源として機能 するためには、平常時から常に稼働させておくことが有効との考え方もある。バックア ップ電源以外に、平常時のピークシフトなどの複数機能を蓄電池システムが担うことに 149 より、経済性と両立できるかどうかが課題となる。 (ⅲ)大規模電力貯蔵 大規模電力貯蔵については、充放電時間や蓄電池併設の目的によって用途が分類され ている。 充放電時間が数時間未満の変動抑制用途においては、既に LiB に優位性があり、今 後も LiB にとって有望な市場と考えられる。 一方、充放電時間が数時間程度のピークシフト用途においては、容量の大きさが重視 される傾向にあり、NAS 電池などが優位性を持つと考えられる。 大規模電力貯蔵の用途分類と LiB 採用の可能性 蓄電池併設の目的 需給変動を調整 短時間 (秒単位) 充 放 中時間 電 時 (分単位) 間 長時間 (時単位) • 瞬時予備力 (スピニングリザーブ) • 運転予備力 (ホットリザーブ) • 調整用火力しわ取り性 能向上 など 技術方式の競争環境 供給変動を調整 最大 将来的な 要求性能 コスト目標 LiB採用の可能性 既にLiBに優位性が出 てきている。 • 新エネ併設出力変動緩 和 など 高出力 (kW) 7万円/kW 次々ページ参照 次ページ参照 • 例えば、NAS電池で変動 抑制を行うと、高出力化 のためLiBの十数倍の容 量が必要であり、大規模 かつ高額システムになっ てしまうため、LiBに優位 性あり ○ 変動抑制 • 待機予備力 (コールドリザーブ) • 揚水発電代替ストレージ など • 太陽光発電の夜間利用 目的蓄電池 など 大容量 (MWh) ピークシフト 数時間程度を超えた領域 は、純粋な容量戦となり、 × 2万円/kWh 一般的にNAS電池な どの領域 (出典)各種公開情報及び事業者インタビューより Arthur D Little 分析 具体的な用途としては、需給変動を調整するための調整電源(アンシラリーサービス) 用発電所の代替として、大規模電力貯蔵が求められる。 高コストな石油火力を調整電源としている米国などでは、LiB を採用することでコス トメリットが生じる場合がある。LiB のコストダウンが進むにつれて、日本を含め各国 においても調整電源としての LiB 市場が伸長していくと考えられる。 また、風力発電や太陽光発電などの再生可能エネルギーは出力が不安定であるため、 導入拡大に伴いそれらの発電設備に併設する蓄電池も増加すると考えられる。 150 2.バリューチェーンと関連事業者とバリューチェーン毎の現状と課題 (1)バリューチェーン バリューチェーンは、主に部材、セル、システムの3つのレイヤに区分され、上流に 関しては共通するバリューチェーンであるが、下流については、蓄電池が自動車に搭載 されるか、あるいは電力系統に設置されるか等、用途によって異なる。 リチウムイオン電池・バリューチェーンと世界市場シェア (2008 年) 電池材料 蓄電池 正極材料 ①日亜化学工業 ②ユミコア(ベルギー) ③AGCセイミケミカル 事業主 リチウムイオン電池 (21.6%) (11.8%) (8.3%) 負極材料 ①日立化成 ②上海杉杉(中) ③JFEケミカル (32.0%) (18.8%) (13.1%) 電解液 ①ステラケミファ ②関東電化工業 ③森田化学工業 (32.2%) (31.2%) (29.7%) セパレータ ①旭化成イーマテリアルズ (37.3%) ②東レ東燃 (16.4%) ③セルガード (15.7%) ①三洋電機 ②ソニー ③サムソンSDI(韓) ④プライムアースEVエナジー ⑤BYD(中) ⑥LG化学(韓) ⑦日立マクセル 電力会社 (33.6%) (15.7%) (14.8%) (8.8%) (8.1%) (7.6%) (2.9%) 電力会社以外 AES Energy Storage (米) Tres Amigas (米) Rubenius (デンマーク ) 大型蓄電池向けパワコン ABB(スイス) Siemens(独) Schneider Electric (Xantrex) (仏) S&C(米) 明電舎 (出典) 「電気自動車登場に伴うバリューチェーン変化の可能性」 「2010 年版 American Electric Power (米) SCE (米) DTE (米) Xcel (米) EDF Energy (英) 日本政策投資銀行(2010 年 8 月) リチウムイオン電池部材市場の現状と将来展望~主要四部材編~ 市場形成・拡大にあたり課題となるコストについて、例えば NEDO の二次電池技術 開発ロードマップによると、法人施設用 LiB は 2015 年頃のターゲット kWh 単価が 3 万円程度とされており、この水準であれば競合となる鉛蓄電池とのコスト競争力も出て くると想定される。 また、家庭併設用、大規模電力貯蔵用 LiB は 2020 年頃にターゲット kWh 単価が 2 万円程度とされており、この水準であれば、大規模電力貯蔵量では競合の NAS 電池と のコスト競争力も出てくると想定される。 実際の LiB のセル単価推移をみると、中国プレーヤなどの台頭が見られる角型にお いては、一個当たり容量が平均して伸びているにもかかわらず、98 年から 09 年の 11 年間で 1,500 円/個から 265 円/個へと年率 15%で下落しているなど、LiB の価格は順調 に下落している。 151 LiB コストダウンによる用途拡大可能性議論 競合比較 LiBコストダウン予測 万円/kWh NAS電池 鉛蓄電池 用途毎の要求コスト 1 法人施設用 2 家庭併設 3 次ページ参照 12 5~7万円 10 /kWh 鉛蓄電池を 代替できれ ば市場拡大 が見込める 8 5~7万円/kWh 6 (矢野総研推定) 鉛蓄電池でも 市場が形成 されていない 当該領域で は、全体シス テムで5万円 を切らなけれ ばならないた め、3万9千 円を下回る 必要あり 7万円/kW が実現可能 になっていく と考えられる 4 3.5~4万円/kWh (矢野総研推定) 2 0 2010 2015 2020 1 ① 2030 2010 2015 2020 2②・③ 3 2030 LiBのセル単価推移をみると、中国プレーヤなどの台頭が見られ競争環境的に現在 の定置用LiBに近しい角型においては、一個当たり容量が平均して伸びているにも かかわらず98年から09年の11年間で1,500円/個から265円/個へと年率15%で下落 「電池関連市場実態総調査 2001, 2011」富士経済 ⇒NEDOの開発ロードマップにおける将来価格は実現可能な範囲と考えられるか (出典)NEDO 「NEDO二次電池技術開発ロードマップ」・ 「電池関連市場実態総調査 2001, 2011」富士経済より Arthur D Little 分析 家庭向けの省エネ商品である HEMS についてではあるが、導入費用が 5 万円以下に なると導入率が拡大する可能性があるとするアンケートがあり、これを試みに単純にあ てはめると、蓄電池システムが 5 万円、 「蓄電池モジュールは全体コストの半分以下」 であるとして蓄電池モジュールは 2 万円程度となる必要があると考えられる。(なお、 現在商品化され、量販店で販売されている家庭用 LiB は 1kWh の例で約 87 万円、 2.5kWh の例で約 189 万円) また、これはあくまで、省エネ商品の例としての HEMS の許容価格からの類推であ り、家庭への蓄電池が設置検討される際に、HEMS として利用される蓄電池の価値に 加えて、現実のニーズとなっている防災電源としての価値も合わせて評価されれば、こ の許容価格はより高くなると考えられる。 152 LiB コストダウンによる用途拡大可能性:家庭向け電池の許容価格 家庭向けの省エネ商品(例としてHEMS)の許容価格 蓄電池システム内のコスト構造 10%程度の節約を想定しても導入費用 10%程度の節約を想定しても導入費用 “5万円以下”が許容限界 “5万円以下”が許容限界 • • • • 現在、100万円程度する家庭用蓄電池の内、セ ル以外のコストはかなり大きく、蓄電池モジュー ルが占める割合は半分以上となっていると考え られる 特にパワコンはコストの割合が高い。その理由 は、用途が必要とする容量(kWh)よりも大きな サイズのパワコンを利用する必要が出てくるこ とである。 例えば、100kWhの用途に対して、300kWh用 のパワコンを使うなどが一般的に起きている。 支払い意思額に関する回答結果とエネルギー消費量に関する 回答結果に基づき、HEMS導入によって家庭全体のエネルギ ー消費を1~10%削減することを保証できた場合のHEMS導入 率を評価した。HEMSの導入費用が5万円前後であれば、導入 費用の回収によって導入率が高まる可能性があるが、導入費 用が他の水準にある場合には導入率への影響は小さい。導入 費用が5万円より高い場合には、省エネ効果による費用削減効 果では費用回収が絶対的に困難であり、5万円より低い場合に も、短い費用回収年数の達成が難しいためである。 電池メーカインタビュー (出典)大手家電メーカアンケート調査、Energy Management Information Systems:Global Markets BCC Research(2010/10/1)より Arthur D Little 分析 (2)バリューチェーンレイヤ別の動向 (ⅰ)部材 強力なセルメーカが多い日本国内で事業展開を行ってきた我が国の部材メーカは、電 解液を中心に、国際市場でシェアを持ってきた。しかし近年、正極材や負極材を中心に、 セルメーカの競争力が増しつつある韓国・中国の部材メーカやセルメーカの内製分が、 日本プレーヤのシェアを奪い始めている。 153 LiB 主構成部材の国内企業グローバルシェア 百万円 百万円 ( リ チ正 ウ ム極 コ バ材 ル ト料 等 ) 100,000 その他 200,000 180,000 160,000 田中化学研究所 90,000 日本化学工業 80,000 セ パ レ ー タ パナソニックエナジー社(内製) 140,000 AGCセイミケミカル 120,000 戸田工業 100,000 日亜化学工業 三徳 80,000 LG化学(内製)(韓) 60,000 中信国安(中) 40,000 L&F(韓) 20,000 湖南杉杉(中) 1 2 エンテック 住友化学 70,000 宇部興産 60,000 東レ東燃 50,000 旭化成イーマテリアルズ 40,000 30,000 W-SCOPE 20,000 星源材質(中) SKエナジー(韓) 10,000 ユミコア(ベルギー) 0 その他 セルガード(米) 0 2008年度 3 百万円 2009年度 2010年度(見込) 百万円 20,000 70,000 18,000 60,000 ( グ ラ負 フ極 ァ イ材 ト 等料 ) その他 16,000 日本カーボン 14,000 その他 50,000 電 解 液 JFEケミカル 40,000 三菱化学 30,000 日立化成工業 20,000 BTR(中) 森田化学工業 10,000 関東電化工業 8,000 ステラケミファ 6,000 Foosung(フソン) (韓) 4,000 上海杉杉(中) 10,000 森田化学工業 12,000 2,000 0 2008年度 2009年度 0 2010年度(見込) 2008年度 2009年度 2010年度(見込) LiB の構造と主な部材の例 正極材料 セパレータ 負極材料 電解液 (出典) 「2010 年版 リチウムイオン電池部材市場の現状と将来展望~主要四部材編~」より Arthur D Little 分析 実際に、正極材料を中心に海外メーカの台頭が見られ、米国 DOE のように材料メー カに多額の助成金を出している例も存在し、支援を受けたメーカが競争力をつけていく ことが予想される。 154 LiB 主構成部材におけるリスク 海外メーカの台頭(正極材料) マンガン酸 リチウム 三元系 (ニッケル/コバルト /マンガン) リン酸鉄 リチウム コバルト酸 リチウム DOEによる次世代電池製造への助成 • BYD(中) • Umicore(ベルギー) 電 池 材 料 メ ー カ • Valence Technology(米) • A123(米) • BYD(中) • BYD(中) • Umicore(ベルギー) セパレータ Celgard社(米) 49.2 M USD 正極材 戸田工業(Toda America社) 35 M USD 炭酸リチウム (正極材料) Chemetall Foote社 (ドイツ) 28.4 M USD 電解質塩 (電解質原料) Honeywell International社 (米) 27.3 M USD 正極材 BASF Catalysts社 (ドイツ) 24.6 M USD 電解質 Novolyte Technologies社 (米) 20.6 M USD 負極材料 FutureFuel Chemicals社 (米) 12.6 M USD 負極材料 Pyrotek社 (米) 11.3 M USD セル筐体 H&T Waterbury DBA BouffardMetal Goods社(米) 5 M USD 融資合計 214 M USD (出典) 『2010 年版 LiB 部材市場の現状と将来展望』(矢野経済研究所)より Arthur D Little 分析 海外市場の拡大や強力なセルメーカとの価格競争の激化に伴って、日本の部材メーカ が韓国や中国等海外に生産拠点を移転する事例が多く見られる。 部材メーカが、韓国 や中国に加工拠点を新設する動きも目立つ。電気自動車向けなど車載用途の需要の立ち 上がりを受け、韓国や中国のセルメーカが積極的に生産拡大するなか、グローバル規模 で供給体制を構築することが急務となっていることが原因と考えられる。 また、円高対策や東日本大震災を受け、サプライチェーンのリスク分散を図ることも 海外進出の背景にあると考えられている。 155 国内プレーヤによる海外生産移転の事例 日立化成工業 – 負極材の主原料である天然黒鉛の調達先に近く、かつ地理的に中国国内販売と韓国輸出に適した山東省煙台に製 造拠点を設立し、性能・品質に優れ価格面でも競争力のある民生用負極材を生産することとした 旭化成イーマテリアルズ – 韓国にセパレーターの加工拠点を設置。加工は需要家に近い立地で行う計画 – リチウムイオン二次電池用セパレーターの半製品を日本から輸出し、新工場で完成品に仕上げてから韓国メーカー に出荷する。現地加工に切り替えることで、納期を短縮しながら顧客の細かい要望に対応できる体制を築く 戸田工業 – 日本、米国、中国と3拠点を持つ利点を生かしながら正極材の最適生産体制を構築していく。 住友大阪セメント – ベトナムで正極材料のリン酸鉄リチウムを量産化するこれまでは千葉県船橋市のパイロット設備でサンプル供給し てきたが、(顧客が海外に立地するため)コストや国際取引を考慮しベトナム進出を決定した (出典)2011 年 07 月 08 日 化学工業日報より Arthur D Little 分析 (ⅱ)セル セルメーカに関しては、モバイル機器から市場を牽引してきたパナソニック、三洋電機、 ソニーなどを中心に、どの用途においても日本のプレーヤの存在感が高いものの、技術 的参入障壁が低い小型から、海外勢の追い上げに直面し、車載用でも韓国・中国の採用 実績が増えてきている。 LiB の主な用途とセルメーカの着手領域 (出典)各種公開情報及び事業者インタビューより Arthur D Little 分析 定置用に求められる要件は高容量、低コスト、高い安全性等、自動車と共通する部分 も多く、大市場である自動車用途で高いシェアを獲得し、価格競争力を身につけたメー 156 カが定置用の競争でも優位に立つことが想定される。このため、まず自動車用途のシェ アを獲得した上で、定置型のシェアを獲得するという戦略が考えうる。 他方、系統安定化のための蓄電池については制御システム等を含めたシステムインテ グレーションが重要となるため、セルのコストだけでは勝負が決まらない可能性があり、 定置型のみに注力するという戦略も考えうるところであり、各社の戦略が分かれている。 LiB の主な用途とその要求性能 凡 例 ✔ 求められ差別化ポイント ✔✔ 他社に対する 重要な差別化ポイント ✔✔✔ 実現されなければ 市場形成が見込めない モバイル 機器 HEV/ PHEV EV 無線基地局 DC*向けUPS 家庭用 蓄電池 大規模 電力貯蔵 ✔✔ ✔ ✔ ✔ ✔✔✔ ✔ ✔✔ ✔✔ ✔✔ ✔ ✔✔ ✔ ✔✔✔ ✔ ✔ ✔✔✔ 高出力 ✔✔ ✔✔ ✔ 急速充電性能 ✔ ✔✔ ✔✔ ✔✔ ✔✔ ✔✔ ✔✔✔ ✔✔✔ ✔ ✔ ✔ ✔ ✔✔ ✔✔✔ ✔✔ ✔✔ 安全性 (利用方法への安全性) 要 求 性 能 研 究 ( 性 能 向 上 ) 主な用途 耐久性 (耐熱・耐衝撃・耐振動など) 大容量 ✔ (高エネルギー密度) (充放電特性) 低コスト (含むサイクル寿命) 生 産 技 術 量産技術 バラつき防止 ✔✔ ✔ ✔ (出典)各種公開情報及び事業者インタビューより Arthur D Little 分析 DC*:データセンター 定置用 LiB においては、鉛蓄電池などとの観点から、要求性能の中でも低コスト化 が最も重要であると想定される。 低コスト化技術は各種存在するが、我が国企業は原料や製法といった様々な対策を講 じており、当面競争力を保持し続けられると考えられる。 157 定置用 LiB における最大購買要因と日本の強さ 該当プレーヤ 高価な原料(特に希少金属)の 利用を減らす(主に正極) 安全性 要 求 性 能 研 耐久性 究 ( 大容量 性 能 向 高出力 上 ) 急速充電性能 (充放電特性) 低コスト ガラス結晶化 高価な原料を 変更する (高温融点下にてガラス化し、 リン酸鉄リチウムを合成) 材料メーカの 製造工程が 削減出来る 水熱合成法による ナノ粒子製造 カーボンナノファイバの新製法 (基板上にカーボンを成長させるもので、 直径80nm以下のCNFを高効率で製造) 長岡技術科学大学 住友大阪セメント 昭和電工 安価な製法を 開発する 安価な原料を利用可能とする 産業技術総合研究所(リン酸鉄) NEDO・三菱重工業(フッ化鉄) 量産による低コスト化 各社(特にHEV/EV向けに注力するプレーヤ) ステラケミファなど材料メーカも 生涯コスト 視点での コストダウン リサイクルシステム・リユースの確立 Panasonic・三洋電機・ NEC・Sony・富士通 長寿命化による生涯コストダウン 東芝・Sony他 (含むサイクル寿命) 生 量産技術 産 技 術 バラつき防止 Panasonic・三洋電機・A123・日立・ AESC・GSユアサなど リユースに関する研究を推進することによって、リユースを含んだ初期コストの設定が 可能になることで、海外メーカにコスト優位となる方向性はあり得るか 電池メーカインタビュー (出典)各種公開情報及び事業者インタビューより Arthur D Little 分析 また、品質面では、セルのサイクル寿命(使用後の放電容量維持率)の高さなどで、 東芝などを中心に日本プレーヤは海外プレーヤに対して競争優位にある。 このサイクル寿命の強みを生かすビジネスモデルとして、高性能が求められる乗用車 EV で使えなくなった蓄電池を住宅等における定置用にリユースしていくことが考えら れる。 リユースに当たっては、安全性・耐久性などの課題の克服が前提ではあるが、仮に定 置用としてのリユース価値を見込むことができれば、自動車用(新車)の初期価格を低 く設定することもでき、自動車用・定置用双方にとってのコスト低減につなげることが 可能となる。 なお、我が国においては、2001 年に施行された「資源の有効な利用の促進に関する 法律」に基づき、小形充電式電池の回収・再資源化が義務づけられており、同時にリサ イクル技術の研究開発も実施してきた経緯があるが、リユース実現のためには、マーケ ットに提供可能なデータによる性能劣化評価および残存価値評価技術が必要となる。 158 放電容量維持率・想定市場価値の推移とリユースのイメージ (出典)各種公開情報及び事業者インタビューより Arthur D Little 分析 セルレイヤにおける海外プレーヤの参入・競争環境の変化に目を向けると、各社自動 車用途の開発に取り組んでおり、中長期的な競争力を見通すうえで、韓国・中国のセル メーカの動向把握が重要と考えられる。 中国主要電池メーカの概要と車載電池への取組み動向 中国電池メーカ 電池事業範囲 LiB 車載 新能源 Amperex Tech. Ltd. (ATL) △ China BAK Battery (BAK) △ BYD Company Ltd. (BYD) Shenzhen B&K Rechargeable Battery Inc.(B&K) 光宇集団 Coslight Group 天津力神 (Lishen Battery) 万向電動汽車 (Wanxiang EV Co. Ltd) △ ● 民生 電極材 製造 セル 製造 ● 深セン市に位置する LiB専業メーカ。 独資系企業 電極材 製造 セル 製造 モジュール •HEV 駆動 パック システム•EV 製造 セル 製造 モジュール •HEV 駆動 パック システム•EV 製造 • 今後は電動車向けパワー電池領域に注力すると同時に、パ ワー電池関連事業には精力的にとりくむ ● ● ● 珠海银通新能源 (Zhuhai Yintong Energy) ▲ ● ● ▲ ▲ 電池業から出発し、現在自社内に自 電極材 製造 動車メーカも保有している独資系 深センのLiB専業メーカ。近年EVへ の動きが目立つ。独資系 ●:主要事業(製造・販売)、○主要事業(販売のみ)、 ▲:小規模or立上げ中 △:今後立ち上げ予定 シリンダ ポリマ 車載 - 0.9 22.3 - 3.8 2.4 1.1 - 10.5 3.1 - 0.2 - 1.2 2.9 - セル 製造 モジュール •HEV 駆動 パック システム•EV 製造 電極材 製造 セル 製造 モジュール •HEV 駆動 パック システム•EV 製造 • 自動車向けのNiMHにも注力する模様 2.5 - - - 電極材 製造 セル 製造 モジュール •HEV 駆動 パック システム•EV 製造 • EV上市を実現する力を持った米国EVメーカにコンタクトし、 EVの実用化のため開発活動を推進 3.2 1.3 4.0 - 電極材 製造 セル 製造 モジュール •HEV 駆動 パック システム•EV 製造 - - - - 電極材 製造 セル 製造 モジュール •HEV 駆動 パック システム•EV 製造 - - - - 電極材 製造 セル 製造 モジュール •HEV 駆動 パック システム•EV 製造 • しばらくはモジュール製造に注力する模様 • HEVではなく当初からEVを視野に入れる方針か - - - - セル 製造 モジュール •HEV 駆動 パック システム•EV 製造 • しばらくはOEMと集中的に協業する見込み • HEVよりもEVに傾倒していく模様 - - - - リチウムイオンポリマ電池に注力して 電極材 製造 いる独資系 国有工場からスタートし、現在鉱山業 、ゲーム産業への参入を果たす。独 資系 天津市の国立研究所出身者によるメ ーカ 独資系 杭州市の車載用電池に特化したメー カ/親会社は中国第二の民営企業、 万向集団 北京に位置するLiB専業メーカ。親会 社は金融系巨大コングロマリット CITICグループ 珠海市に位置するLiB専業メーカ。親 会社は中国有数の鉄鋼生産量を誇 る銀通集団 世界シェア(%概算) 角型 • EVへの実用を視野に入れた次世代電池向け電極の開発を 推進すると考えられる • HEV/EVの区別はなく、セルメーカとして供給先の方針に合 わせていく傾向が強い • メジャー完成車メーカとの協業に注力すると考えられる • HEV/EVまで対応できる電池供給能力の獲得を図る • FAWとの連携を考えると今後しばらくはHEV注力か • 自社でPHEVを発売も、更なる改良の余地は大きいと見受 けられる • 近年メジャー完成車メーカとの提携を積極的に進め、ノウハ ウの吸収に動いている模様 香港の電池メーカ 親会社は日本のTDK ● ▲ HEV/EVへの取組み (これから) ● ● △ 企業グループ としての総合力 モジュール •HEV 駆動 パック システム•EV 製造 ● ▲ 中信国安盟固利 (CITIC Guoan MGL) 雷天能源集団 (Thunder Sky Battery) 産業 電極材 製造 • 大規模パーツ納入の経歴がないOEMへも積極的に交渉し 、ノウハウを蓄積 • HEVのノウハウを吸収する提携先が見つかっておらず、し ばらくはEV主体の方針か • 今後はOEMとの協業を増やし念願のEVへの参入・リーディ ングポジションの獲得を目指す • HEVよりもEVの可能性を追求する模様 *1:セル数ではなく容量で生産能力が示されている際は製品ラインで平均したセル容量を用い算出。月あたり21日稼動とした *2:不明事項は取り組みなしとした (出典)各種公開情報及び事業者インタビューより Arthur D Little 分析 現在市場で先行する立場にある日本は、リバースエンジニアリングを駆使した中国・ 韓国の後発プレーヤに追い上げを受けている状況である。 159 中国・韓国勢によるリバースエンジニアリング (出典)各種記事検索より Arthur D Little 分析 有力な競合相手と見込まれる LG 化学は、韓国リチウム電池業界のパイオニアとして 電極材から電池パックまで提供しており、自動車用 LiB で大きな存在感を示しはじめ ている。 昨今の戦略としては、半導体メーカや OEM(Original Equipment Manufacturer: 発注元企業のブランドで販売される製品を製造するメーカ)との連携を強化することで、 高付加価値リチウム電池システムの提供を実現し、ニーズに適合した製品を安定的に供 給することで競争力をつけてきている。 現在は自動車向けに注力しているが、米国では定置(家庭)用蓄電池の納入実績もあ り、用途拡大による共通原料・部材の購買力向上・内製化、R&D 投資回収の加速化を 通じて、コスト削減に取り組んでいる。将来的には定置用においても日本プレーヤの競 合相手となることが予想される。 160 LG 化学の取り組み:用途毎の事業領域・アライアンス状況 Cell・Package/ EV maker 中国OEM 日欧米韓系OEM 長安汽車 Mazda(Hainan) 部品メーカ 電力会社 4大OEM 凡例 提携・供給関係 資本関係 関係会社(親子) 4小OEM 北汽福田汽車 EV向け LiB供給 商用車HEVシステム供給 Eaton(米) (北京汽車グループ傘下) Volvo 商用車HEVシステム生産 契約の中身は公表していないが、長期にわたり一定量 を納める公算 が大きい 2010/04/27 日本経済新聞 Ford 米フォード・モーターなど4社と供給交渉が進行中 2010/04/27 日本経済新聞 民族系 吉利による買収手続き中 吉利汽車 EV向けLiB供給 LG Chemical EV「シボレーボルト」向けLiB供給 米政府支援を受け工場をミシガンに建設中 LGと合弁(現代モービス51%、LG49%)でHVやEV向 けにリチウムイオン電池のバッテリーパックを生産する 新会社を設立。年産20万台で今年下半期から量産を 開始し、 14年までに40万台まで倍増させる計画 2010/03/23 週刊エコノミスト GM Hyundai HEV「アバンテ」、Kia HEV「ポルテ」へ 独占的にLiB 供給 現代モービス Hyundai・Kia 低速EV向け LiB供給 韓国の都市型電気自動車メーカー。 米の警察などを中心に 500台のEVを導入実績あり CT&T(韓国) ルノー LG化学が製作したリチウムイオンバッテリーに電力制御装置 や衝突安全器具を加えたバッテリーシステムを共同開発した 後、三菱自動車名古屋製作所で本格生産を行う予定 ルノー独自開発のEV向けに提供予定 三菱自動車 合弁会社「HLグリーンパワー」にてHEV/EV向けLiB生産 2010年11月から4年間 LiBセル+制御システム提供 米加州電力会社 SCE 家庭用エネルギー貯蔵システム(ESS)事業の二次電池供給メーカーに選定 (出典)NEDO レポート、LG Chemical ホームページ、各種記事検索より Arthur D Little 分析 LG 化学の取り組み:開発動向と他社・政府との関係 年 電極材製造 電池モジュール・ パック製造 セル製造 駆動システム/ 完成車製造 (SOC/温度/電圧/電流制御等) 本格生産開始(1999) 1999 2002 27 ヵ月間で1,290 万ドルまで資金提 供される。正極材料に層状酸化物と マンガンスピネル酸化物のブレンドを 用いることでセルの改良に取り組む 2007 Apr. 自社開発強化(2002) 研究員増加と研究費(10億ウォン)の投 入 2400mAhシリンダ電池の信頼テスト実 施 USABC支援プログラム*による資金提供(2008) 電極材の開発からセル改良へアプローチ 2008 STマイクロとHEV向けバッテリパック開発(2008) ST製最先端バッテリ・マネージメント用ICの搭載 2009 ヒュンダイ、サムスンと「知能型エコカー」共同開発 (2009 ~ ) 2010以降 自社による内製化(2009?~ ) 自動駐車機能等を備えたハイブリッド車開発を共同で推進 Eaton (2010 ~ ) 商用車 電池パック提供 GM, Hyundai, Kia, Volvo, 長安汽 車、ルノー、三菱自動車 (2010~) LGが目指すコア領域 HEV/EVへ LiB提供 *:米エネルギー省と、ビッグスリーによるプロジェクト型資金提供プログラム。 選出された電池メーカにテーマに沿った資金が提供される (出典)NEDO レポート、LG Chemical ホームページ、各種記事検索より Arthur D Little 分析 また、BYD のように、蓄電池メーカが自動車製造に乗り出した企業も存在する。こ の場合、蓄電池メーカとしてのポジションから見ると、電池自体の販売リスクは無くな ることになる。 必要と判断した技術・ノウハウは自社内に積極的に蓄積し、他社との差別化を狙って おり、 LG 化学同様、 日本企業にとって強力な競合企業となっていくことが予想される。 161 BYD の取り組み:事業領域と協業体制 電極材製造 電池モジュール・ パック製造 セル製造 駆動システム (SOC/温度/電圧/電流制御等) 2000 2003 自社 (BYD) 2006ごろ 年 2008ごろ 自社 (BYD) 中国資本完成車メーカ「西安秦川汽車」買収 西安秦川汽車はスズキの生産技術と生産ライン を導入し、小型車の「アルト」を生産していたメー カ(HEV/EV技術なし) HEV/EV関連技術は自社開発か、他社技術導入 かは不明 自社 (BYD) 電池材料の 内製化を加速 オートイーブィジャパン(2008~) 「ジラソーレ」 共同開発 VW (2009 May~) 電気自動車の 共同開発 共同開発 上海汽車 (2008 Aug.~) EV向け電池供給 ダイムラー (2010 Mar.~) 共同開発 中国向け EV開発技術提携 F3DM(PHE V)発売 共同開発 2009 May 進出 2009 Aug. 自社技術の 完成度向上のため 先行完成車メーカ との提携急ぐ 2010 Mar. 初の外資大 手との提携 (出典)BYD ホームページ、各種記事検索より Arthur D Little 分析 (ⅲ)ソフトウェア・システム ソフトウェア・システムに関しては、先行する自動車用では「電池制御システム」が 競争力の源泉の一つになっている。定置用においても今後の競争力を左右するものとし て、制御などソフト・システムの差別化が重要である。 現状の技術保有状況から分析すると、日本のセルメーカは競争力を有するものの、 A123(米) 、BYD(中)などのプレーヤの躍進が見受けられ、競争力保持は容易ではな いと考えられる。 電池制御システムの技術保有状況概観と主要プレーヤ 162 (出典)各種公開情報及び事業者インタビューより Arthur D Little 分析 国内では NAS 電池などで経験を積んだ電力会社・電力エンジニアリング会社に、一 定のシステムインテグレーションの技術・ノウハウが蓄積されている。 また、NEC が系統との通信や制御等の ICT 領域と、蓄電池自体の技術を併せ持つ強 みを武器に、ENEL(伊)との提携を実現しており、弱電系プレーヤの参入のモデルと なる可能性がある。 国内インテグレーション関連プレーヤの動向 日本ガイシ(東京電力)のNAS電池導入事例 NECによる海外実証 伊電力会社大手エネル、次世代スマートグリッドシステムの共同開発 ウィンドファーム併設 NAS電池 (青森県六ケ所村) • 両社は共同で、蓄電システムを中心とした先進的かつ効率的なソリューショ ンを開発し、実証実験を行う。具体的には、NECが開発した リチウムイオン 電池とエネルの配電網を組み合わせたエネルギーソリューションシステムを 構築し、試験的なプロジェクトをイタリアで行う予定。 • なお今回の合意は、スマートグリッドの開発プロジェクトを所轄しているイタリ ア経済省の同席のもとで行われたという。同省は、スマートグリッドの実証実 験をイタリア国内企業と共同で実施しており、近年、本領域においてICTと蓄 電技術を併せ持つNECとの、提携の可能性について検討していた。両社は、 こ の成果を、現在エネルがすでにいくつかの自治体と実施している、電気自 動車の普及やエネルギー利用の効率化に関するスマートシティプロジェクト に反映させることができると見込んでいる。 PV併設 NAS電池 (北海道稚内市) NECと米国電中研の共同実証 変電所併設 NAS電池 (アメリカ) • NECは、米国最大の電力技術に関する研究所である米国電力中央研究所 (Electric Power Research Institute:以下、EPRI)とともに、EPRIのテ ネシー州ノックスビル試験場において、NECのリチウムイオン電池技術を用 いた大規模蓄電システムの実証実験に向けた連携を開始した。 (出典)各種公開情報及び事業者インタビューより Arthur D Little 分析 ただし、大型定置用 LiB のシステム化に伴うインテグレーションの技術・ノウハウ は、既に商用プラントを稼動させている AES(米)などの米国を中心とした海外プレ ーヤに先んじられている。 今後、三菱重工業などを中心に、大型の電力貯蔵システムの事業化が計画されており、 キャッチアップを図ることが期待される。 163 国内外 LiB インテグレーションの動向 (出典)各種公開情報及び事業者インタビューより Arthur D Little 分析 サムスン SDI(韓)は今後の新戦略として「スマートエネルギー事業」と「グリーン デバイス事業」の二つの事業を軸に、LiB 単体からバッテリーシステムを重視したソリ ューション事業を拡大し、総合エネルギー専門企業を目指している。 今後、システム・ソリューションの分野でも中国・韓国などとの競争になっていくこ とが見込まれ、システム全体の競争力を醸成していく必要がある。 LiB インテグレーションの動向(例:サムスン SDI) サムスン、SDIに太陽電池移管、7月、相乗効果を創出 • 韓国のサムスンSDIは7月1日付でサムスン電子から太陽電池事業の移管を受ける。既に手掛けている リチウムイオン電池を利用した電力貯蔵システムに太陽電池を組み合わせるなどシナジー(相乗効果)を 創出し、「総合エネルギー専門企業」をめざすとしている。 • サムスンの太陽光発電パネルを使ったイタリアの発電設備あり 2011/05/30 日経産業新聞 サムスンの太陽光発電パネルを 使ったイタリアの発電設備 サムスンSDIが1日、「ニュービジョン・中長期戦略」を発表した • 新戦略は、従来の小・中・大型電子事業「スマートエネルギー事 業」に、新たに太陽電池や燃料電池など エコデバイス分野の「グリーンデバイス事業」を加えた2軸となる。 • 同社は、従来の二次電池単品中心からバッテリーシステムに領域を拡大し、太陽電池も結びつけたソリ ューションまで事業範囲を拡大する方針だ。発電から貯 蔵、システム、ソリューションに至るまで全ライン を備えるエコエネルギー専門企業という位置づけを強化したい考え。これに向け、「Smart Solution f or a Green World」という新たなビジョンを掲げた。 • 特に、事業間の相乗効果創出に重きを置く方針 だ。太陽電池の場合、エネルギー貯蔵システム(ESS) 用バッテリーと結合しトータルソリューション事業に拡大する計画。電気自動車向けのバッテリーセル をE SS用バッテリーでも使うことで投資効率を高めるなど、方策を検討している。 ソウル1日聯合ニュース (出典)各種公開情報及び事業者インタビューより Arthur D Little 分析 164 3.経済波及効果・雇用分析 (1)新たな生産拠点を立地した場合の経済波及効果 有価証券報告書等を参考に国内の某工場を想定し、同規模の製造拠点を国内に新設し た場合の経済波及効果を算出した。経済波及効果は生産誘発額 2,423 億円、付加価値誘 発額 1,035 億円、雇用誘発者数 1 万 1,129 人となる。 仮に同規模の生産拠点を海外に立地した場合でも、生産誘発額 935 億円、付加価値 誘発額 470 億円、雇用誘発者数 5,493 人の経済波及効果が想定される。 海外に工場を立地した場合でも、セパレータをはじめ、負極材料、電解液等について 日系プレーヤは存在感を持ち、輸出が誘発されることによる国内への経済波及効果が期 待できる。 新たな生産拠点を立地した場合の経済波及効果 新たな生産拠点を国内に新設した場合の経済波及効果 生産誘発額 付加価値誘発額 雇用誘発者数 2,423 億円 1,035 億円 1 万 1,129 人 同規模の生産拠点を海外に新設した場合の経済波及効果 生産誘発額 付加価値誘発額 雇用誘発者数 935 億円 470 億円 5,493 人 生産誘発額 付加価値誘発額 雇用誘発者数 1 億 2,992 万円 6,523 万円 7.63 人 上記、1MW あたりの経済波及効果 (出典)有価証券報告書等より国内の某工場を想定、帝国データバンク分析 (2)拡大する世界市場におけるシェア獲得 1%あたりの国内への経済波及効果 リチウムイオン電池の世界市場は今後増加していくことが予測されており、2020 年 には 83,000 億円まで拡大するとされる。4 急伸する世界市場に対して、日系プレーヤがシェアを追加獲得した場合の 1%あたり の国内経済波及効果について試算を行った。 4 『2010 年版 LiB 部材市場の現状と将来展望』(矢野経済研究所) 165 2020 年に世界シェア 1%(830 億円)を追加獲得した場合の経済波及効果 生産誘発額 付加価値誘発額 雇用誘発者数 1,558 億円 628 億円 6,308 人 ※日系プレーヤの関連部品などは全て国内生産、完成品を輸出すると想定 (出典)帝国データバンク分析 4.施策の方向性 (1)他国の動向 セルや部材レイヤにおいて、韓国・中国勢に加え、米国メーカも競争力を付けてきて いるが、その背景には、政府による支援策もあると考えられる。 実際、海外プレーヤは、法人税の優遇や助成金、投資家層の厚いサポートを受けて おり、大幅なコストダウンを実現している。米国再生・再投資法(ARRA、2009 年) に基づく工場立地補助予算 7,872 億ドルのうち、 約2割に相当する 1,483 億ドルが蓄 電 池産業に支出されている。例えば、電池メーカでもあるジョンソンコントロールズ(米) や A123(米)は、設備投資に際してそれぞれ 2.9 億、2.5 億ドルもの支援を受けてい る。 海外プレーヤの動向:政府支援策等の活用によるコスト競争力強化 補 助 金 コ ス ト ダ ウ ン に 資 す る 支 援 策 資 支金 援調 達 の法 優人 遇税 国内外プレーヤ動向 国内プレーヤのコメント ミシガン州で昨秋、リチウムイオン電池を手掛けるA123が自動車用電 池の新工場を稼働させた。 同社は米エネルギー省による補助金を活用した。工場を新設したミシガ ン州は失業率が高く、雇用対策として環境分野への助成は一定の効果を 上げた格好だ。 2011/01/11 日本経済新聞 海外のメーカに対しては、政府によ る法人税の優遇や助成金がなされ ており、それにより、かなりコストダ ウンが図れている。 米国は依然として有力なベンチャーに資金を供給する投資家の層が厚く 、新興企業に投資する仕組みが整っている。 2009/07/07 週刊エコノミスト さらに業績が赤字続きであってもフ ァンドによる投資が継続的に実施 され、最新鋭の工場設備を積極導 入しているようだ。 三洋電機:技術流出を覚悟で海外生産へ それらだけでkWh単位で2万円程 度の価格差が生まれてしまい、競 争にならない状況になりつつある ADLインタビュ A123 三洋電機の本間副社長は、覚悟を決めた感がある。虎の子の電池セル の生産拠点を海外に作ることを検討している。 「日本にいては、為替や税金の問題があり韓国や中国勢と同じ土俵で戦 えないから、海外でセルを生産するしかない。技術流出を恐れていては、 激烈なコスト競争に勝てない。 2010/12/06 日経ビジネス (出典)各種記事検索より Arthur D Little 分析 166 米国再生・再投資法(ARRA)における蓄電池産業に対する支援 (米) (仏Saf t系) (米) (韓LG系) (ダウと韓コダムの合弁) (米) (米) (出典)米国政府資料より日本政策投資銀行作成 55 蓄電池に関係する主だったエネルギー政策としては、再生可能エネルギーの積極導入 を支える系統安定化対策があり、これが定置用蓄電池市場の市場拡大を後押しする可能 性が高いと考えられる。 ただし、欧州・米国の双方において、電力系統安定化のための大規模電力貯蔵用とし て LiB を用いるところまで至っておらず、この用途が有望な市場を形成すると断定す ることは難しい。 他方、中国においても電力不足への対策として再生可能エネルギーの積極導入が進ん でいる。現時点では安定化を目的とした蓄電池に関する目立った取組はないものの、将 来的には欧米・日本と同様に定置用蓄電池への注目が集まる可能性は高い。 各国とも、蓄電池産業を重点的に支援することで、蓄電池の世界シェア奪取を図って おり、成長が見込まれる当該市場に関しても国内メーカの優遇が行われる可能性がある。 エネルギー政策・産業政策の両視点に基づいた主要地域の定置用蓄電池市場の動向 (出典)各種公開情報及び事業者インタビューより Arthur D Little 分析 167 (2)施策の方向性 検 討 テ ー マ 系 の統 開蓄 発電 池 海外では、再生可能エネルギーの導入が進む一方、系統安定化としての蓄電池設置ニーズが高まっ ており、系統用のリチウム蓄電池の開発が必要。 「 蓄 開電 発シ ス ・ 実テ 証ム 」 の 蓄電池は電池単体ではなく、太陽光発電、風力発電等の各種制御との組み合わせによりその価値を 発揮するため、蓄電池単体の機能の向上だけでなく、蓄電池を制御する機能を強化し、「蓄電池システ ム」としての性能の向上を図ることが必要。 系統連系の要件の厳しい我が国における系統への負荷を抑えるような、蓄電池を使った制御技術は、 系統が比較的弱い海外市場での競争優位となる可能性がある。 また、スマートコミュニティの実証を通じて、家やビル、地域でのエネルギーマネジメントの核となる蓄 電池制御技術、蓄電池仕様の追求を行う必要がある。 国 内 市 場 の 創 出 定置用蓄電池は、国内外市場とも萌芽段階にある。今回の震災で確認された防災上の価値や平時 における負荷平準化の役割も踏まえ、社会インフラとして国内市場の創出に政策的後押しが必要である。 特に、蓄電池の評価設備や部材企業は被災地の企業も多く、復興への寄与にも繋がることとなる。 また、現状では、定置用蓄電池の価格は高く、車載電池の二次利用とその制御、メンテナンス等の組 み合わせにより、より安い価格で定置用蓄電池システムの提供が可能となることを踏まえれば、蓄電池 の二次利用に向けた評価体制の確立も必要となる。 168 2.5. 燃料電池産業 1.グローバル市場動向 (1)水素エネルギー・燃料電池の意義 水素エネルギー・燃料電池については、エネルギーシステムとして以下大きく3点の メリットがあることから、エネルギー政策の観点から各国が注目してきた。また、燃料 電池については、主要各国の基幹産業である自動車用途(燃料電池自動車、FCV)が市 場の黎明期を迎えているため、産業政策的な観点からも注目が高まっている。 ①エネルギーセキュリティ面での強さ 水素は、化石燃料に限らず、産業プロセスからの副生水素や、非化石エネルギーから も製造が可能であり、供給リスクに強い。加えて、水素は高圧ガス又は液体にて長期間 貯蔵・輸送することが比較的容易であり、エネルギーの貯蔵・輸送手段(エネルギーキ ャリア)としての活用も期待できる。また、燃料電池は安定運転が可能な分散型電源で あり、非常時においても、自立運転可能な定置用燃料電池や FCV からの電力供給機能 の開発により、エネルギーセキュリティの向上にも繋がる。 ②エネルギー効率の高さ 燃料電池を需要端に設置する場合には、送電ロスがなく、さらに発電の際に発生した 熱も有効利用できるため、従来型の火力発電システムに比べて効率が高い。また、発電 端に設置する場合には、例えば SOFC とガスタービン・蒸気タービン複合発電システ ムとを組み合わせたトリプルコンバインド発電システムであれば発電効率 70%以上の 高効率な発電が可能となることが期待される(従来型火力発電システムにおける発電効 率は 40~50%程度) 。 ③CO2 排出量の削減 水素のエネルギー効率の高さは、エネルギー消費の削減とそれに伴う CO2 排出量の 削減に大きく寄与する。加えて、水素エネルギーは利用段階では CO2 を排出しないと いう特徴を有する。なお、FCV に関しては、CO2 のみならず窒素酸化物(NOx) 、浮 遊粒子状物質等の大気汚染物質も排出されず、運輸部門における環境対策として大きな 期待がかけられている。 (2)各用途セグメントと対応する技術方式 (ⅰ)各用途セグメント 燃料電池は多様な用途展開(移動体や定置型、モバイル機器向けの燃料電池など)が 想定される。 本報告では、市場規模の大きい定置用燃料電池(①家庭用燃料電池システム、②業務・ 169 産業用燃料電池システム)と、③FCV とその水素供給インフラ(水素ステーション) を対象とする。 燃料電池の用途分類 ※2025 年世界市場規模(スタック・システムでの市場規模)。移動体向けのインフラについて は、2025 年の国内市場規模 380 億円より、欧米がそれぞれ日本と同等程度の市場を確立したと 仮定し、ADL 推計 (出典)経済産業省産業技術環境局技術振興課 水素供給・利用技術研究組合などより Arthur D Little 分析 (ⅱ)技術方式 (ア)固体高分子形燃料電池(PEFC) PEFC は、電解質に高分子のイオン交換膜を使用し、出力が数 W~250kW 程度、発 電効率が 30~40%程度の燃料電池であり、作動温度が 70~90℃と比較的低く、起動停 止が容易で、負荷応答性に優れるといった特徴を生かし、家庭用燃料電池や FCV への 使用用途としての開発が順調に進展した。我が国では、2005~8 年度に実施された「定 置用燃料電池大規模実証事業」を経て、2009 年 5 月に世界に先駆けて一般消費者向け として家庭用燃料電池(エネファーム)の市場での本格的な販売が開始された。海外で は未だ実証段階であり、我が国が先行している。 170 固体高分子形燃料電池(PEFC)の仕組 (出典)大阪ガス資料 (イ)固体酸化物形燃料電池(SOFC) SOFC は、電解質に安定化ジルコニア等のセラミックスを使用し、出力が数 W~数 十 MW 程度、発電効率が 45~65%程度の燃料電池である。作動温度が 700~1000℃と 比較的高いものの、水素のみならず CO も燃料として利用できるため、メタン、プロパ ン、ブタン等炭化水素系等多種多様なガス種に対応ができる。また、発電効率も高く、 小容量から大容量までの適用可能性があるため、小型の家庭用から中型の業務用、大規 模な産業用までといった幅広い用途への展開が期待されている。特にセル内の電極に触 媒としての白金が不要であることから、PEFC では白金対策として必要な一酸化炭素除 去装置が SOFC では不要となる。こうした点で、PEFC と比べて部品点数が少なくシ ステム全体を小型化することが可能であるといった利点がある一方、心臓部となるセル にセラミックスを使用することから、耐久性、信頼性、大容量化等がまだ確立されてい ない。我が国では、2007~10 年度に実施した「固体酸化物形燃料電池実証研究」を経 て、本年度中にも SOFC を搭載したエネファームの市場での販売が開始される見通し となった。 171 (ウ)りん酸形燃料電池(PAFC) PAFC は、電解質にりん酸水溶液を使用し、出力が数十 W~数千 kW 程度、発電効 率が 40%前後の燃料電池であり、作動温度が 200℃前後と比較的低温であるためにス タックの構成材料の制約が少ないため、早くから 100~200kW 級のコージェネレーシ ョンシステムとして実用化が進み、国内では 1998 年に市場へ導入が開始され、これま でに国内で約 30 台の導入実績をあげるに至っており、本邦事業者による海外への輸出 実績も出てきている。 (エ)その他燃料電池 その他の燃料電池としては、溶融した炭酸塩(炭酸リチウムや炭酸ナトリウム等)を 電解質に使用し、出力が数百~数十万 kW 程度、発電効率が 40~60%の溶融炭酸塩形 燃料電池(MCFC)が国内外で業務用の導入実績がある。また、メタノールを直接セル に供給することで発電する直接形燃料電池(DMFC)が携帯用電子機器等の電源用とし て開発が進められているとともに、一部販売も行われている。 用途セグメント毎の燃料電池技術方式 (出典)NRI 資料、各種二次情報より Arthur D Little 分析 (3)各用途セグメントの市場規模推移予測事例 家庭用は、先行して市場が立ち上がっている日本に加え、現在、実証事業が行われて いるドイツ・デンマーク等の欧州を中心に市場拡大が進むと想定される。また、アジア では韓国において、2010 年より家庭用燃料電池の購入費用の 80%が助成されているな ど政策的支援により、一定の市場が見込まれる。 業務・産業用は、電気料金とガス料金の差が大きい地域が多いなどの市場環境や、DOE による水素関連プログラムの研究開発支援や投資税額控除の導入による促進策などに 172 よって、北米を中心とした市場成長が見込まれている。 FCV は、政府、大手自動車メーカや関連事業者の取組が盛んな日本、北米、ドイツ などで FCV の開発と水素ステーションを使用した実証等が行われており、2015 年を目 処に、日本、北米、欧州などで導入が開始され、その後急激な市場成長が見込まれてい る。 用途セグメント毎の市場規模推移予測 (出典) 「2011 年版燃料電池関連技術・市場の将来展望(上巻) 」富士経済より Arthur D Little 分析 (4)用途セグメント毎の市場動向(主に国内の普及課題) (ⅰ)①家庭用燃料電池の市場動向 家庭用燃料電池(エネファーム)は世界に先駆けて 2009 年に一般消費者への本格販 売が開始され 2 年が経過したが、機器の導入価格が設置工事費込みで 300 万円程度 (2010 年度末時点)と依然として高額な製品であり、これが普及促進の拡大を妨げる 大きな課題となっている。 主な要因としては、①高価な材料の使用(セルの電極触媒に用いられる白金等)、② 補機類等を含む構成部品点数の多さ、③量産効果が出現する台数(少なくとも製造事業 者 1 社当たり年産 1 万台以上)にまで生産が達していないこと、④高額な設置工事費、 ⑤セルスタックや燃料改質器のメンテナンスコスト等が挙げられる。特に①に関しては 白金の使用量削減等の研究開発が必要であるが、触媒活性発現メカニズムの解明等基 礎・基盤的な研究分野に及ぶことから、民間事業者のみで研究開発を実施することは困 難であるため、専門的知見を有する大学等と連携した研究開発が必要となっている。 コスト以外の課題としては、現行機器の大きさ(設置面積の専有)による設置先の制 限(現行機器では戸建て住宅等設置面積が十分に確保できることが求められており、集 合住宅には不向き)等もあり、機器のコンパクト化も必要である。本年度中には市場へ の投入が見込まれている SOFC を使用したエネファームは、PEFC を使用したものと 比べて、改質器等の構造上、部品点数が少なくてすむため、機器としてはコンパクト化 が図れる。したがって、設置スペースが狭い集合住宅にも導入が見込まれる。 173 なお、本年 3 月に発生した東日本大震災の影響により、被災地域では大規模な停電に 見舞われ、原子力発電所の事故に伴い系統電力の安定供給に支障をきたす等、電力需給 に大きな課題が示された。こうした中、エネファームは起動に際して外部電力が必要と なるため、災害等緊急時における停電の際には自立発電ができない状況にあったが、蓄 電池と組み合わせて自立運転を可能とするシステム化に取り組んでいる事例が出てき ている。 また、現行エネファームは液化天然ガス(LNG)として輸入された天然ガスと LP ガ スには問題なく対応できるが、窒素や硫黄成分等が異なる国内の地産天然ガスや海外で 使用されている天然ガスには対応できないため、当該地産天然ガス等を使用している地 域への導入が妨げられている。 例えば、欧州や北米等では給湯需要が高く、ボイラーを有する一般家庭も多く存在す ることから、相当程度の市場が見込まれるが、現在の機種では海外で使用されている天 然ガスには対応できない。しかしながら、海外展開のための生産が量産効果を高め、機 器の価格低下にも繋がることから、早期の海外展開が求められる。そのためには、早急 な技術開発が必要である。 家庭用燃料電池の導入事例 一般的な訴求ポイント 災害での付加的な訴求ポイント 非常時にも安心!「創エネ+蓄エネ」のエネルギーマネジ メントシステム 家庭用燃料電池(エネファーム) • エネルギー利用効率の向上によるCO2削減 ⇒1世帯当たり1.3トン/年間削減可能 エネファームと太陽光発電と蓄電池を組合わせることによ り、必要な時に必要なだけ電力を供給する「自給自足型の ホームエネルギーマネジメントシステム(HEMS)」を実現 • 快適性とエコの両立 – エコキュートなどの電気を使った貯湯式給湯器の場合 は、お湯切れのリスクがあるが、エネファームの場合 はバックアップ給湯器で即座に給湯可能 停電時や太陽光発電等の不安定な発電量もバックアップ して安定供給 伊藤忠エネクス提供資料 積水ハウス、太陽・燃料・蓄の「3電池」搭載エコ住宅 • 光熱費の削減 – エネファーム導入によるガス使用量の増加に対しては 導入家庭対象の特別な低価格プランを適用した場合、 光熱費が削減可能 燃料電池をメーンとして、太陽電池、蓄電池、購入電力の 順番に電力を使用。システムは停電時に、自動的に3電池 による電力供給に切り替わる 2011/08/24 日本経済新聞 (出典)各種二次情報より Arthur D Little 分析 (ⅱ)②業務・産業用燃料電池の市場動向 業務・産業用の燃料電池は、 「高発電効率」 「電気代低減」 「停電対応」 「高環境性」な どの提供価値によって、スーパーマーケットや病院、大型商業施設、工場などの用途に て利用されている。グローバルで見ると、PAFC・MCFC の 2 大メーカ(それぞれ UTC パワー(米)や Fuel Cell Energy(米))を有する北米、次いで CHP(コジェネレーシ ョン)指令によって導入推進を図る欧州市場で先んじて導入が進んでいる。 国内では 100kW 級の PAFC が市場で販売されているが、市場導入開始から 10 年以 上が経過する中、本格的な普及には至っていない状況である。その理由として挙げられ 174 るのは、停止時に必要な窒素設備、冷却塔等コストが嵩む付帯設備が必要であること、 また、耐久性に課題があるため定期的なオーバーホールが必要となりメンテナンス費用 が嵩むことなど、同規模のガスエンジンコージェネレーションシステムと比較して機器 導入コストが相当程度高額であることなどである。したがって、今後は機器のより一層 の低コスト化を図ることが求められる。 SOFC については小型設備から大規模設備まで活用範囲可能が幅広く、かつ、発電効 率が高いことから、その利用拡大が大いに期待されている一方、耐久性・信頼性に乏し いことから、特に大型化が進んでこなかったところ、「固体酸化物形燃料電池システム 要素技術開発」 (2008~12 年度)によって業務用クラス(250kW 級)の技術が確立さ れつつあり、技術的には市場への導入に一定の目処がたちそうな段階にまで到達してき ている。なお、海外では、100kW 級の商用展開を行っている事業者も出てきている(後 述)。 大規模発電を前提とした産業用に関しては、数 MW 級については実用化が視野に入 ってきたが、数十~数百 MW 級となるとセルスタックの大型化や耐久性・信頼性が確 立されておらず、現状では市場への導入には暫く時間がかかる状況にある。 業務・産業用燃料電池の用途・提供価値と地域別出荷動向 用途と提供価値 地域別出荷動向 発電所 100万kW 用 途 大型商業 施設 病院 大学 会議場 大型 ホテル スーパー マーケット 中型 ホテル 2010年末 導入状況 329,168MW 1,000kW 100kW 価提 値供 工場 高効率発電 (熱利用) 電気代低減 停電対応 高環境性 (出典)各種二次情報より Arthur D Little 分析 175 業務・産業用燃料電池拡大の背景 ビ ル 向 燃料電池は定置用蓄電池やガ け スタービンなどに比して、 燃 クリーンでエネルギー効率が 高いことが強み 料 電 池 火 力 発 LNG火力発電設備を 超高効率システムに 電 設 置き換えることで、かなり 備 大規模なCO2排出削減が可能 代 替 (出典) 富士電機提供資料 三菱重工業提供資料より Arthur D Little 分析 業務・産業用燃料電池では用途の拡大も見られるており、例えば LP ガスを備蓄し切 り替え運転をすることで災害対応が可能なシステムも導入されている。 また、燃料電池から排出される低酸素空気をデータセンタや倉庫内に供給し、火災予 防用に活用する事例等、新たなシステムの導入事例も出てきている。 176 業務・産業用燃料電池における用途の拡大事例 災 害 対 応 用 途 災害時や計画停電に対応 して、備蓄したLPガスでの 切り替え運転によって災害 需要に答える 火 災 予 防 用 途 低酸素空気を排出すること が強みとなる市場として、 データセンタや倉庫などの 火災防止を売りにしている (出典)富士電機提供資料より Arthur D Little 分析 (ⅲ)③FCV・水素供給インフラ(水素ステーション)の市場動向 (ア)FCV FCV の開発については、1968 年に GM 社(米)が自動車産業界初の走行可能な FCV の試作・テストを実施したのをはじめとして、1994 年にダイムラー社(独)が FCV 「NECAR1」を発表する等その後世界各国で開発が進められてきた。 我が国における FCV の開発については、1990 年代から各自動車会社による開発が本 格化し、2002 年からは FCV の公道走行試験や水素供給インフラ(水素ステーション) の実運用を行う実証研究が実施されてきた。実証研究開始当初においては、燃料電池の セルスタックの耐久性・信頼性、小型化・軽量化、コスト低減、航続距離、低温環境下 での始動性といった課題が見受けられたが、その後の技術開発によって、小型化・軽量 化、低温環境下での始動性、及び、航続距離に関してはほぼ解決され、既存の内燃機関 自動車の性能と遜色ないレベルにまで達した。 特に航続距離を稼ぐ方策としては、水素の充填量を高めるため高圧(70MPa)で燃 料タンクへ充填する方法を採用しているが、各自動車会社はもとより公的機関において 177 衝突実験等を実施するなど、技術的に安全性の確保にも努めてきた。 世界的に FCV の開発が進められる中、2009 年 9 月にダイムラー(独)、フォード(米)、 GM/オペル(米・独)、本田技研工業(日)、ヒュンダイモーターカンパニー(韓)、起 亜自動車(韓) 、ルノー・日産自動車(仏・日) 、トヨタ自動車(日)が FCV の開発及 び市場導入に関する基本合意書に署名したとの共同声明を発表した。 一方、国内における FCV の動きとしては、2010 年 3 月に燃料電池実用化推進協議会 (FCCJ)が、2015 年に FCV の普及を開始し、2025 年には FCV の普及台数が 200 万 台、水素ステーションが 1000 箇所普及して自立拡大が開始する旨を示したシナリオを 発表した。 (出典)燃料電池実用化推進協議会(FCCJ) また、本年 1 月には本邦自動車会社 3 社とエネルギー事業者 10 社が FCV の国内市 場導入と水素供給インフラ整備に関する共同声明を発表した。本共同声明では、2015 年に自動車会社が FCV 量産車を販売するほか、FCV の販売に先立ち、エネルギー事業 者が東京、愛知、大阪及び福岡の 4 大都市圏を中心として、FCV 量産車の販売台数の 見通しに応じて必要な規模(100 箇所程度)の水素ステーションを先行的に整備するこ とを目指すことが示された。 技術面においては、当初課題とされていたセルスタックの小型化・軽量化については 実用化段階に達し、-30℃環境下での低温始動性も可能となり、また、ガソリン自動車 178 並の航続距離(500 ㎞以上)と燃料充填時間(概ね 3 分)も達成したことから、残され た課題は低コスト化と、その低コスト化と両立した耐久性・信頼性の確保に絞られた。 FCV の低コスト化における大きな課題の一つは、燃料電池システムにおいて相当程 度のコスト増の要因となっているセルスタックの触媒に使用される白金の使用量を削 減することにある。 また、燃料となる水素を高圧(70MPa)で充填するために、耐圧性を確保すること を目的として高価な炭素繊維を大量に使用する燃料タンクも、高額な車両価格における コスト増要因となっている。このため、燃料タンク内での水素を高圧ガスの状態のみで 貯蔵するのではなく、水をスポンジに含浸させるように、水素を物質に含浸させて貯蔵 することができる水素貯蔵材料を開発し、将来的にこれを使用した燃料タンクを製造す ることで、燃料タンクにおける炭素繊維の使用量を大幅に削減させ、コストの低減を図 ることが求められている。 今後は一般ユーザへの普及開始を見据えて、セルスタックのみならず、燃料電池の周 辺機器や燃料タンク等を含めてコスト低減を図るべく技術開発を進めつつ、安価な機 器・材料等を使用した際のセルスタックの耐久性・信頼性の確保を図る必要がある。 また、量産化を見据え合理的かつ効率的な生産技術を確立しつつ、品質管理を確保す る技術の開発も進める必要がある。 燃料電池自動車の構成 (出典) 「燃料電池・水素技術ロードマップ 2010」 179 FCV と他方式の比較 (出典) 「欧州における自動車パワートレインのポートフォリオ実データに基づく分析」 NEDO 新エネルギー部より Arthur D Little 分析 車両のサイズと移動距離別に見た EV/FCV の棲み分け 車 両 の サ イ ズ FCV領域 (燃料電池自動車) HV / PHV領域 (ハイブリッド / プラグインハ イブリッド自動車) EV領域 (電気自動車) 移動距離 (出典)経済産業省「次世代自動車戦略 2010」より Arthur D Little 作成 なお、FCV に外部出力電源機能を具備することにより、移動可能な発電設備として 活用することも想定されている。東日本大震災後、一層高まった防災ニーズに応えてい くことが期待される。 180 FCV を活用した VtoH(Vehcle to Home)の事例 (出典)ホンダプレスリリース (イ)水素供給インフラ 水素供給インフラに関する技術開発については、水素ステーションに使用される機 器・設備の高効率化、小型化、低コスト化、耐久性向上を目指し、70MPa 級水素ガス 充填対応大型複合蓄圧器、ディスペンサー、バルブ等の開発や、直接充填方式水素ステ ーション用圧縮機や、CO2 膜分離法を用いた水素製造装置改質システム等の研究開発 を実施している。また、水素は分子量の小ささ故に金属、ゴム等の材料を透過する物理 的特性を有し、高圧環境下においては水素が容器や配管等の材料へ浸入することによっ て当該材料の強度を脆くする水素脆化を引き起こすことから、水素を安全に活用するた めには、この水素脆化の課題を克服する必要がある。このため、水素の基本原理を解明 するべく、産学官による基礎的研究を実施している。 現時点において、水素ステーションの建設コストは 6 億円以上と算定されており、水 素供給事業者がこの建設コストを水素販売によって回収すると考えるとすれば、水素価 格を相当程度高く設定せざるを得ないことが予想される。 下表のとおり、水素コスト及び水素ステーション建設コストに関して我が国と欧米諸 国(米国及びドイツ)における現状と将来目標についての調査結果を見ても、我が国の コストが欧米諸国と比較して大きいことがわかる。 水素コスト、水素源、水素ステーションコスト 現在の水素 コスト 日本 JHFC/NEDO 水素 RM 120 円/N ㎥ (=1300 円/㎏) 米国 実証試験 $3/gge(=240 円/㎏) 水素コスト NEDO 水素 RM DOE 目標 181 ドイツ(欧州) CEP ステーション €8/㎏(=960 円/㎏) 注:再生可能エネルギ ー由来水素で€9.5/ ㎏(=1140 円/㎏) NRW 州ステーション €5/㎏(=600 円/㎏) (パイプライン利用) マッキンゼーレポート の将来目標 水素源 (現在) 水素源 (将来) 水素ステー ションコス ト(現在) 2015:90 円/N ㎥ (=1000 円/㎏) 2020:60 円/N ㎥ (=660 円/㎏) 2030:40~60 円/N ㎥ (=440~660 円/㎏) ・天然ガス、ナフサ等 将来は低炭素化 NEDO 水素 RM 10 億円 (70MPa,300N ㎥/h 想定) 5 億円 (35MPa,300N ㎥/h 想定) $2~3/gge (=160~240 円/㎏) ・天然ガス、ナフサ、石 炭等 連邦:特に方針無し 加州:SB1505 では、水 素の 33%は再生 可能エネルギー 由来とすること Clean Energy ST (LA) $200 万=1.6 億円 (70MPa,300N ㎥/h) Santa Monica(LA) $350 万=2.8 億円 (35MPa,500N ㎥/h) CaFCP アクションプラン $300 万=2.4 億円 (100 ㎏/日) $350 万=2.8 億円 (200 ㎏/日) $400 万=3.2 億円 (300 ㎏/日) CaFCP アクションプラン 2012: $240 万=1.9 億円 (100 ㎏/日) $280 万=2.8 億円 (200 ㎏/日) $320 万=2.56 億円 (300 ㎏/日) 2020:€6.6/㎏(=800 円/ ㎏) 2030:€5/㎏(=600 円/㎏) HyWays 2020:€4/㎏(=480 円/㎏) 2030:€3 ㎏(=360 円/㎏) ・天然ガス、ナフサ、副 生水素等 再生可能エネルギーの割 合を増加(特に風力) OVM(Linde)ST(シュツッ トガルド) €500 万=6 億円 Linde/Air Liquide の小型 ST €100 万=1.2 億円 NOW コメント 一般に€500 万=6 億円 NEDO 水素 RM NOW コメント 2015: €100 万以下 4 億円 =1.2 億円以下 (70MPa,300N ㎥/h 想定) 3 億円 (35MPa,300N ㎥/h 想定) 2020: 2 億円 (70MPa,300N ㎥/h 想定) 1.5 億円 (35MPa,300N ㎥/h 想定) 備考:水素 1 ㎏=11.2 N ㎥、水素 1gge(ガソリン換算ガロン)=1 ㎏、$1=80 円、€1=120 円 注:ステーションコストには、エンジニアリングコストは含むが、土地代は含まない。 比較のための詳細な仕様・条件などは精査が必要。 (出典)株式会社テクノバ 水素ステー ションコス ト(将来) 仮に既存のガソリン自動車やハイブリッド自動車におけるガソリン代と比べて水素 価格が高ければ、一般ユーザにとっては FCV を選択するインセンティブが相当程度小 さくなることから、FCV の普及を阻害する大きな要因となることが容易に想像できる。 水素ステーションの建設コストが高額となる理由は、現時点でステーション設備・機 器の量産効果によるコスト低減が出現していないことを除けば、後述する各種法規制に 182 より様々な制限が課せられていることと、高価な材料を用いた設備・機器等を使用する ことに大きく分けて二分される。このため、建設コストの低減を図るために各種法規制 の見直しを行う必要があるが、当該見直しを行う前提として、現在法規制で制限されて いるものの、十分に安全性を確保しつつも安価な材料や設備に関する研究開発も必要と なる。具体的には、使用可能鋼材の研究開発、蓄圧器として使用する複合容器の開発等 が挙げられる。 また、FCV の実運用に際しては、更なる利便性等の向上が求められているところ、 それに必要な技術の開発が必要となる。具体的には、プレクール技術や通信充填技術の 開発、70MPa によるフル充填を可能とする充填機及びその周辺設備の開発、水素製造 効率を向上させるための水素製造技術の開発等が挙げられる。 他方、水素ステーションは充填時間が短いことにより、一つのステーションで大量の FCV の需要に応えることが可能である。2050 年の将来まで考えると、充電器等を長時 間にわたって車両一台一台に割り当てなければならない電気自動車インフラに比べて、 一台当たりの必要投資額が小さくて済む可能性も指摘されている。 FCV インフラと BEV インフラの必要投資額比較(2050 年までの欧州) FCV(1億台普及向け)向けインフラ投資 今後40年間で総額1,000億ユーロ FCV一台当り1000~2000ユーロ/台 BEV,PHEV(2億台普及向け)向けインフラ投資 今後40年間で総額5,400億ユーロ < BEV一台当り1500~2500ユーロ/台 100万€ 100万€ FCV 4 分 の 1 程の 度方 のが 規 模 20,000 15,000 10,000 5,000 (出典) 「欧州における自動車パワートレインのポートフォリオ実データに基づく分析」 NEDO 新エネルギー部より Arthur D Little 分析 2.バリューチェーンと関連事業者 燃料電池産業では部材が種類(PEFC、SOFC)技術方式や用途毎に異なる上、用途 毎に使用される周辺部品・機器が変わるため、バリューチェーンの構造が複雑になって いる。 183 家庭用は我が国が世界に先駆けて市場を立ち上げたことから、スタック・システムと それに必要な部材レイヤについてもすり合わせ経験を蓄積し、品質・コスト競争力を高 めてきているため、今後も組立メーカの市場展開と連携して、競争力を保持できる可能 性がある。なお、国内市場では、ガス会社等の燃料供給者が設置工事等のサービスを担 っている場合が多い。 FCV では高い競争力を持つ自動車メーカが燃料電池スタック・システムも垂直統合 している場合が多い。品質要求も高いことから、部材レイヤも高い競争力を持っている と考えられる。 184 バリューチェーンとプレーヤマップの概観 電極材 P E F C 部材 セパレータ 韓Hundai 田中貴金属英Johnson 旭化成 日清紡 独BASF Matthey Hysco 工業 ケミカルズ ケミカル 住友金属 米Pacfic 石福金属 独BASF 旭硝子 米WLゴア Fuel Cell 工業 興業 JSR 米デュポン 昭和電工 スタック・システム 構成機器 ガス拡散層 東レ 米WLゴア 三菱 レイヨン 独SGL カーボン グンゼ 日本 バイリーン 346億円 S O F C 電解質 430億円 283億円 住友金属 田中化学 独BASF 日立金属 東ソー 鉱山 研究所 第一稀元素 第一稀元素 日本触媒 JFEスチール 化学工業 化学工業 AGCセイミ AGCセイミ ケミカル ケミカル マグネクス 44億円 家 庭 用 業 務 ・ 産 業 用 - 28億円 電気再生式水処理装置 オルガノ 栗田工業 42億円 119億円 ブロワ 家庭用改質器 イワキ・日本電産コパル 新日本石油 電子・東芝ホームテクノ・ 大阪ガス アルバック機工など 458億円 信越化学 20億円 ポンプ類 イワキ・荻原製作所・ 東芝ホームテクノ・ パナソニック電工など パナソニ ック電工 84億円 280億円 バルブ 熱交換器 アイビーエスジャパン SMC・鷺宮製作所・ タイム技研・ミクニ アタゴ製作所・三五・ ティラド・リガルジョイント 101億円 42億円 貯湯システム パナソニック 長府 独Vaillant 東芝燃料電 製作所 池システム リンナイ ENEOS セルテック ガスタ― トヨタ・ アイシン JX日鉱日石 パロマ エネルギー ノーリツ 富士電機 米CFCL 墺Energy Australlia 独Rehein Energie 東邦ガス 独E.ON 清水ハウス ruhrgas 米Southern パナホーム California LPガス業者 Gas Company 東京ガス 大阪ガス TOTO ガスタ― ・リンナイ 京セラ 韓POSCO POWER 米Fuel 三菱 Cell Energy 重工業 パワコン JX日鉱日石 米Bloom ウィンズ・オリジン電機・ エネルギー Energy 三社電機製作所・田淵 米UTC 住友精密 電機東京精電 Power 工業 カナダballard 日本ガイシ power systems 819億円 各国オフィ スビル・デー タセンタなど (前述) 91億円 JX日鉱日石 エネルギー トヨタ自動車/ホンダ自動車/日産自動車(実際に数台出荷実績あり) 燃 自料 動電 車池 インフラ・ サービス 組立 英BP 岩谷産業 韓Dongdeok 独BMW VW 米GM/Ford 中 上海汽車/長安汽車/東風汽車/第一汽車 独Daimler AG 韓Hyundai Motor 出光興産 伊Eni S.p.A 昭和シェル ベルギー Linde Gas 伊藤忠 エネクス 東京ガスなど ガス会社 市場規模は2025年の予測値 (出典)各社 HP などより Arthur D Little 分析 3.バリューチェーン毎の現状と課題 (1)部材 白金の価格は 2003 年頃から上昇傾向にあり、触媒に白金を使用する PEFC にもイン パクトを及ぼす可能性がある。白金の使用量低減技術開発および非白金触媒への代替技 術開発が重要である。 SOFC ではレアアース(希土類)に属する酸化ランタン等が使用されており、産出国 が限定されていることが、将来の資源確保に不安定な要因となっている。 ライフサイクルでの資源の有効利用の観点から、リサイクルの仕組みを今から検討し ていくことも必要である。 日系プレーヤが強い競争力を持つ分野 セパレータ(PEFC) 電解質材料(SOFC) 電解質(SOFC) 日清紡ホールディングス 第一稀元素化学工業 日本触媒 • 得意のカーボン材料技術を生かし燃 料電池向けにカーボンセパレーター を供給、100%近いシェアを持つ • 日清紡のセパレーターは、カーボン・ 樹脂モールド製で波板形状により高 強度で薄く、高い耐食性、導電性を 有しているのが特徴。また成形性、 柔軟性にも優れているため、セパ レーター両面の流路形成などが容易 • 千葉の新工場に生産を集約し、効率 化・低コスト化を推進 • 燃料電池メーカーと情報交換や問題 意識の共有も行っており、競争力維 持の基盤を持つ • 高性能な電解質材料の「スカンジア 安定化ジルコニア」の製造販売で特 許を取得しており、大阪工場で作るこ の製品は世界で同社のみが製造販 売できる • 作動温度が700度と低い • 「もうからないから」と他社が見向きも しない中で、早くから研究を手掛けて おり、将来性の有無についての会社 の見立ても二転三転したが粘り強く 続けた結果、いよいよこれから本格 的な収益化の局面に入りつつある • 触媒をつくるなかで培ったジルコニウ ム粉末の成型技術を活かし、薄くて 均一な電解質シートを開発。品質の 安定性や歩留まりの高さが強み • SOFCシステムで大きな競争力を持 つBloom energy(詳細後述)向けに、 同社が使用するジルコニアシートの 約7割を供給 • 主要供給先のBloom energyが10年 から工場や病院向けの業務用燃料 電池を量産するのに対応し、09年・ 10年と九州の生産設備を拡充した (出典)各種二次情報より Arthur D Little 分析 185 PEFC 用セパレータでトップシェアを持つ日清紡ホールディングス等、市場形成に先 んじた日本プレーヤが多く、国内プレーヤに競争力があると考えられるが、昨今では、 海外プレーヤの参入も見られる。 企業買収により電解質市場に参入した BASF(独)は、小型・低コスト・高効率化に 寄与する電解質膜と触媒を一体化した膜・電極接合体(MEA)を開発したことにより、 定置用などにおける導入実績へと繋げている。 未だ市場が萌芽期であり、参入プレーヤが少ないため、付加価値の高い電解質膜だけ でなく、電極触媒、ガス拡散層などに関しても自社生産し、先行して市場拡大が見込ま れる日本市場にて、各種用途を開拓している。現在は定置用などを生産しているが、最 終的な FCV 用途での展開までを視野に入れた、長期的なスパンでの事業戦略を表明し ている。 主要プレーヤ動向:BASF (出典)BASF HP・各種二次情報より Arthur D Little 分析 (2)スタック・システム (ⅰ)用途共通 特許出願動向を見ると、PEFC において、日本プレーヤが日本・米国・欧州の各出願 先国で上位を席巻している。また、SOFC においても日本の特許出願比率は 7 割近くを 占めている。これは、スタック・システムにおいて、日本企業が高い競争力を持ちうる 可能性を示していると考えられる。 186 燃料電池技術におけるプレーヤ動向 特許出願数ランキング(8割がPEFC) SOFCに関する特許出願の比率(日米欧) (出典)2006 年度の「特許出願技術動向調査報告書」特許庁 SOFC プロジェクト「SOFC 実証研究」 財団法人新エネルギー財団などより Arthur D Little 分析 またポンプ、改質器などの補機でも日本プレーヤにノウハウがある。ポンプを例にと ると、不純物の溶出の少ない材料を使うことでスタックへのダメージを低減することが 出来るなど、補機レベルの差別化が行われており、競争力を有していると言える。しか し、未だ補機については量産効果を得られるほどの供給量には達していない。 187 燃料電池のシステム構成 改質器 (燃料改質装置) ポンプ (空気を送り出す機械) ブロワ (液体を送り出す機械) (出典)NEDO「家庭用燃料電池システム関連補機類の共通仕様リスト」 スタック以外の補機類標準化の可能性(定置型 PEFC コスト) スタック以外の補機類標準化の可能性(定置用PEFCコスト) 現行NEDOプロジェクト成果を想定 8% 標準化による技術革新見込み 12% 9% 23% システムコスト 21% 100万円 10% 燃料改質装置 スタック インバータ・他電気系 熱交換・水処理系 給湯ユニット 組立費・その他 15% 19% システムコスト 50~70万円 27% 26% 10% 20% 燃料改質装置 スタック インバータ・他電気系 熱交換・水処理系 給湯ユニット 組立費・その他 • 経済産業省は、家庭用燃 料電池のコストダウンを 急ぐため、荏原バラード、 三洋電機、東芝燃料電池 システム、富士電機アド バンストテクノロジー、松 下電器産業など五社のP EFCの補機のスペックを オープン化すると決定 • 補機を構成する多様な部 材には、各社ごとに自社 スペックが存在。材料選 択や加工などで微妙な違 いが含まれており、それ が製品特有の個性ともな っているが、PEFCのコス トの半分が補機で占めら れるため、部材共通化に とどまらずスペックを公開 、開発を加速する必要が あると判断 (出典)NEDO 燃料電池・水素技術開発ロードマップ 2010、2005/09/16 化学工業日報より ADL まとめ 188 方式別にみると、SOFC は PEFC と違って改質器が簡易であり、それに伴い、より 低コストのシステムを構築しやすいという特徴を持つ。また、今後のコスト削減幅も大 きいと考えられている。 海外に先んじて家庭用定置型燃料電池エネファームが市販化された日本の先行優位 性を今後も活かすべく、コストの中で多くを占めるスタック以外の低コスト化を促進す るため、補機類のさらなる標準化推進・海外進出による生産規模拡大も図るべきである。 方式別のコスト内訳見通し 用途別のコスト内訳見通し(kW当たり) (万円/kW) 家庭用PEFC (1kW級) 推計の根拠と前提条件 システム単価 • PEFC:NEDO資料より、現状は100万円/kW、2015年 は60万円/kW • SOFC:Bloom Energy社のシステムは現時点で75万ド ル/100kW、今後5から10年以内に30万ドル/100kW になる見込み(同社コメント、¥90/USD換算。共に給 湯ユニット含まず) 業務・産業用SOFC (数百kW級) コスト内訳比率 スタック 燃料改質装置 熱交換・水処理系 インバータ、他電気系 その他費用(組立等) 給湯ユニット * システム単価 万円/kW 100 60 91 38 10年 21% 12% 26% 10% 8% 23% 15年 20% 15% 27% 10% 9% 19% 10年 15-20年 31% 35% 18% 17% 34% 21% 50% 29% • PEFC:NEDO資料より。標準化による技術革新が進む 見込み • SOFC:10年はJournal of Power Sourcesより。 15-20年はNEDO資料より。スタック・その他価格ともに ※SOFCの15~20年はスタック 及び給湯ユニット以外の内訳 低減が進む見込み。 が不明 なお、SOFCには改質器が不要となっている。 また、給湯ユニットはPEFCと同額と仮定した。 (出典)NEDO「燃料電池・水素技術開発ロードマップ 2010」 、Journal of Power Sources 「Conceptual study of a 250kW planar SOFC system for CHP application」 、Tech Crunch 記事等より Arthur D Little 分析 (ⅱ)家庭用 家庭用燃料電池に関しては、日本国内プレーヤがエネファームの市場投入で先行する ことで、品質向上とコスト低減を通じた潜在的なグローバル競争力を蓄積しつつある。 今後のグローバル展開に向け、パナソニックはドイツに家庭用燃料電池の研究開発拠点 を開設し(Panasonic Fuel Cell Development Office Europe,)、欧州企業と協業して現 地化開発を進めていく計画である。 他方、同じ欧州で CFCL(豪)が存在感を増している。CFCL はスタックをコアモジ ュールとして共通化した上で欧州各国でエネルギー会社、機器メーカと提携してガス組 成の違いへの対応等、改質器をはじめとしたシステムの現地化を行っている。 また、部材・セルについては H.C.Starck(独)と提携を結ぶことで、セラミックの ノウハウを取り込んでいる。海外展開のために各国ごとに現地パートナーを拡大してい 189 る。 190 家庭用ベストプラクティス:CFCL (出典)CFCL ホームページより NRI 分析 なお、再び国内市場に目を転じると、エネファームの普及を自立的に拡大するために は、導入コストの低減が必要不可欠である。国内市場の自立化が実現される過程で、我 が国燃料電池産業が、更なる品質向上・コスト低減を通じ競争力を獲得することは、今 後の海外展開を図る上でも大きな武器となることが期待される。 191 家庭用 PEFC, SOFC の普及イメージ メーカ 200~ 出荷価格 250万円/kW PEFC 国内市場規模 イメージ 50~70万円/kW ~1万台 15万台 市場フェイズ 初期導入 メーカ 900万円/kW 出荷価格 (2009) SOFC 国内市場規模 イメージ 市場フェイズ ~40万円/kW 40~50万円/kW 60万台 普及期 100万台 普及拡大期 50~100万円/kW 普及本格期 40万円/kW 20万円/kW (中容量システム) - 1万台 開発・実証段階 現状 10万台 初期導入 普及期 2015年 2020年 100万台 普及本格期 2030年 (出典)NEDO 燃料電池・水素技術開発ロードマップ 2010 より (ⅲ)業務・産業用 業務・産業用燃料電池に関しては、やや日本勢に出遅れ感がある。地域毎の特色では、 米国では、カリフォルニア州等で電力料金とガス料金の差が大きいことを背景に、 SOFC を用いて電力だけを利用するモノジェネ利用が進みつつあり、業務・産業用の燃 料電池について過去の予想以上の伸長が見込まれている。 Bloom Energy(米)は、モジュール化された 100KW の固体酸化物燃料電池システ ムを「ブルーム・ボックス」という名で開 発。優れたコスト採算性を達成しており、 企業ユーザへの導入が進んでいる。現在は企業ユーザ向けの比較的大型・高額の装置だ が、将来的には一般家庭向けに 3 千ドル程度の小型燃料電池システムを開発することを 予定している。 米国での燃料電池によるモノジェネ利用進展 企業の敷地に設置されたSOFC 米国の州ごとの電力・ガス単価の格差の例 電力単価が高く、ガス単価の安 い州でモノジェネのメリットが得ら れる 電力 ガス 単価 単価 電力 単価 ガス 単価 7.19、5.16 電力 (ノースダコタ州) 単価 16.05、7.35 (ニューヨーク州) ガス 単価 14.21、4.17 (カリフォルニア州) 電力 ガス 単価 単価 7.41、7.15 (オクラホマ州) 出所)Bloom Energy ※左数値は商用電力単価(¢/kWh)、右数値はガス単価(ドル/千立方フィート) (出典)EIA ホームページより NRI 分析 192 電力 単価 ガス 単価 9.77、5.76 (フロリダ州) 業務・産業用燃料電池のベストプラクティス:Bloom Energy (出典)Bloom energy ホームページより Arthur D Little 分析 また、韓国政府は太陽電池や風車などに加え、燃料電池を現在の主要輸出品目である 半導体、自動車、船舶に続くものに育成する方針であり、設備・部品の輸入時の関税や 法人税の減免などを行っている。このような支援を受けて競争力を持ち始めているプレ ーヤとして、韓国の POSCO POWER が挙げられる。 2008 年にスタックを外部調達しながらシステム事業を始めた韓国鉄鋼最大手 POSCO は、2010 年にスタックの自社生産を開始し、燃料電池の国産化に成功した。 建物用、大型船舶用途を狙っており、東南アジアや中東など、世界市場への進出も目指 している。 スタック・システムの主要プレーヤ動向:POSCO POWER 参入経緯 事業展開方針・実績と政策支援 当初はスタックを海外から輸入しながらシステム事業を始め、後にス タックの自社生産にこぎ着け、燃料電池システムの国産化に成功 • 08年、韓国鉄鋼最大手POSCOは燃料電池工場を建設 心臓部のスタックは米燃料電池会社Fuel Cell Energyから輸入する • 10年、ポスコは燃料電池事業の国産化を完成したと発表 燃料電池発電システムは燃料供給と電力転換を担当するBOP(プ ラント周辺機器)と電気を生産するスタック(燃料電池の集合体)に 大別される。燃料電池スタック製造工場を持つことにより、これまで 輸入に依存してきた燃料電池発電システムの国産化が完成 スタック 08年 10年 システム 外部調達 米Fuel Cell Energy POSCO POWER 国内で定置用の導入実績を持ち、今後は定置用・船舶用を展開予定 • 07年に燃料電池事業を開始して以降、ソウル市をはじめ全国16地 域に約40メガワットの燃料電池を設置 • 今後は12年までに既存ディーゼル発電機を代替できる非常電源用 燃料電池および建物内部に設置し電気と熱を提供する建物用燃料 電池を、15年には大型船舶の補助動力となる船舶用燃料電池を販 売することで、市場拡大を計画 韓国政府も輸出品目として育成するため税制面で支援 • 韓国政府は燃料電池や太陽電池、風力発電を中心とした環境技術 を半導体や自動車、船舶に続く輸出品目に育成する方針 • 燃料電池については設備や部材などを輸入する際に関税を50%減 免するほか、法人税も一部減免する 内製 POSCO POWER (出典)POSCO HP・各種二次情報より Arthur D Little 分析 他方、国内では SOFC とマイクロガスタービンを組み合わせた 250kW 級の複合発電 193 システムを開発しており、早期の実用化を図るべきである。 前述のとおり Bloom Energy は 100kW 級コジェネ機の導入実績を有しており、 Rolls-Royce や Siemens なども大型コジェネ機とガスタービンを組み合わせたシステム を開発しており、競争の激化が見込まれている。この分野における研究開発を強化して いくことが必要である。 大型業務・産業用燃料電池におけるプレーヤ動向 (出典)三菱重工業提供資料より (ⅳ)FCV FCV 用燃料電池に関しては、前述のとおり自動車メーカが自社開発を行い垂直統合 していることが多く、当初課題とされていたセルスタックの小型化・軽量化・低温始動 性・航続距離・燃料充填時間も実用化段階に達した。現在、低コスト化と、それと両立 する耐久性・信頼性の確保に向けた開発を行っている。日本勢各社とも先行していると 考えられるものの、Daimler(独)が 2015 年に予定していた FCV の市場投入を、1年 早めて 2014 年にすることを発表する等、競争の激化の兆しも見られる。 (3)インフラ・サービス FCV の本格的な普及開始を 2015 年に控え、我が国においてはこれまでに実証事業等 を通じて水素供給インフラ(水素ステーション)の技術を蓄積してきた。 194 実証で蓄積したデータは、我が国の強力な強みとなりうる。また、FCV の性能試験 法や水素製品仕様などの標準化主導を促進し、スタック・システムレベルや部材レベル で国内プレーヤの優位を築くことができる可能性がある。 水素エネルギーインフラに関する日本の競争力 (出典)NEDO 水素製造・輸送・供給技術ロードマップ、日本経済新聞 2011/4/4 より Arthur D Little 分析 しかし、海外のプレーヤも水素エネルギーインフラの整備が始まっており、その動向 に注視する必要がある。韓国の現代・起亜自動車グループが、ノルウェー、スウェーデ ン、デンマーク、アイスランドの北欧4カ国と燃料電池自動車の普及協力に関する了解 覚書(MOU)を締結するなど、各国プレーヤの国外進出も加速している。 195 海外企業による水素エネルギーインフラへの取り組み (出典)各種二次情報より Arthur D Little 分析 ドイツなどにおいては、石油メジャーの Royal Dutch Shell などが水素供給インフラ 整備事業を行っている。 Royal Dutch Shell は、 FCV に取り組む大手自動車メーカ Daimler とノルウェーの アルミ大手ノルスハイドロや政府と共同で、アイスランドでの実証実験を経てノウハウ を蓄積し、前述の米国の事例に加え、ドイツでの水素供給インフラ整備事業に参加して いる。 また、Linde(独)は、水素インフラ関連のコンプレッサ等の機器やエンジニアリン グサービスを提供する工業用ガス事業者であるが、米国や我が国にも進出しグローバル な展開を図っている。 ドイツの水素供給インフラ整備事業は、国内全土を対象とし、政府支援も行われる大 規模なものであり、2015 年にはドイツに FCV を量産できる環境を作り、FCV 産業の 育成を図っている。 196 スタック・システムの主要プレーヤ動向:Royal Dutch Shell 実証実験(アイスランド) 事業展開(ドイツ) アイスランドの実証実験に参加し、ノウハウを蓄積 ドイツ政府も支援する水素供給インフラ整備事業に参加 • 99年に国立アイスランド大学の新エネルギー研究部門を株式会社 化、アイスランド新エネルギー社(INE)として発足 • 産学官の共同資本体が51%を出資し、残る49%は、Daimler Chrysler AG(現Daimler 、水素自動車製造を担当)、Royal Dutch Shellの水素燃料電池子会社シェルハイドロジェン(エネルギー流通 を担当)、ノルウェーのアルミ大手ノルスクハイドロ(電気分解による 水素生産を担当)――の3社が均等出資した • 03年4月には、 Shellが既存の給油所内に水素ステーションを設置 し、水電気分解による水素製造を開始 • 同10月にはDaimler製の水素燃料電池バス63台が運行開始した • 07年以降の計画では、水素ステーションの増設や船舶の動力とし ての燃料電池の利用など水素利用の拡充に加え、プラグインハイブ リッド車や電気自動車の性能向上を受けて、これらの導入や充電ス テーションの整備など、電気を直接、動力に用いる実証実験を予定 • DaimlerはRoyal Dutch Shellなど欧州のエネルギー関連企業と、ド イツ国内で水素の供給インフラ整備を推進することで合意した • 水素を使って電気モーターを動かす燃料電池車が2015年にもドイ ツで量産できる環境をつくる • プロジェクト名は「H2モビリティー」で、仏石油メジャーのトタルやス ウェーデン電力公社バッテンフォール、エンジニアリング大手の独リ ンデ、ドイツの国立水素・燃料電池機構(NOW)なども参加し、さら に参加企業を募る方針 • まず、ドイツ全土に水素供給スタンドを普及させるための共同事業 計画を作成 • 事業計画で合意に達すれば、水素供給スタンドの建設を参加企業 が中心となって推進すし、ガソリンスタンドのように、水素が手軽に 供給できる体制を整える • ドイツ政府や各州政府も、公共事業として支援していく方針 (出典)各種二次情報より Arthur D Little 分析 4.標準化動向 (1)定置用燃料電池 燃料電池関連産業の国際競争力を強化するに当たって、商品として先行しているエネ ファームについては、市場拡大、海外市場における技術優位性の確保が必要となる。各 企業では、生産技術の改良、次世代機の開発、部材の調達方法の改善、販売戦略の構築 といった取り組みが進められているが、それぞれの段階において、国際標準化をツール として活用することが求められる。 なお、定置用燃料電池分野については、現在、日本電機工業会(JEMA)が、 「燃料電 池国際標準化委員会」を中心に、IEC/TC105(燃料電池技術)の国内審議団体として国 際標準化活動を推進している。IEC/TC105 についての具体的な活動は、日本電機工業会 内に設置された「燃料電池国際標準化委員会」並びに傘下の「燃料電池国際標準化戦略 会議」及び分科会(JWG)において推進している。 197 定置用燃料電池の国際標準化対象俯瞰図 (出典)資源エネルギー庁 (2)FCV 自動車はグローバル製品であることから、FCV も国際市場への投入を前提として考 える必要がある。 FCV については、2015 年普及開始目標に向けて、技術開発、規制緩和が重要な段階 であり、官民が協働して推進している。特に、FCV は国際展開を進める前提で国際標 準化活動に取り組む必要があり、当面は各国が協調して市場立ち上げに向けた国際標準 化活動に注力することになる。その一方で、将来創出される市場化において優位性を確 保し、他国の戦略に主導されることが無いようにするため、戦略的に国際標準化を推進 する必要がある。 なお、燃料電池自動車分野の標準化については、日本自動車工業会(JAMA)によっ て設けられた「電動車両国際標準検討会」が中心になって、国際標準化戦略の検討を進 めている。個別の国際標準化活動については前記検討会での検討結果を踏まえて、日本 自動車研究所(JARI)が ISO/TC22/SC21(電気自動車)の国内審議団体として、国際標 準化活動を推進している。 また、ISO はもちろんのことであるが、SAE(米国自動車技術会)は国際的な規格・ 基準の策定に大きな影響力を持つことから、SAE との連携も重視して活動を進めている。 198 燃料電池自動車の国際標準化対象俯瞰図 FCV に関する規制について、燃料電池システムの安全に関する基準は既に整備され、 また、燃料タンクについては、安全を十分に確保した上で実運用に支障を来さない範囲 において規制緩和が既に措置されてきている。ただし、水素燃料の 70MPa によるフル 充填に対応した燃料タンクに関する法規制については、現在、見直しをすべく作業が進 められている。将来、技術開発によって複合容器に使用することができる新たな材料の 開発が行われれば、これに対応した規制の見直し(使用可能材料の追加)が必要となる。 また、国連欧州経済委員会の WP29(自動車基準調和世界フォーラム)において、水素・ FCV の世界統一技術基準(HFCV-gtr)の策定が進められており、既存の国際標準も考 慮しつつ見直しを行っている。 5.各国における政策 日本が特に注力している FCV, 家庭用ではそれぞれ、ドイツ、英国・韓国が政策的に 支援しており競合が見込まれる。 また、業務・産業用は、米国が特に力を入れている分野であり、韓国も一定の注力を 表明している。 199 各国の政策まとめ 1 家庭 2 業務・ 産業 用 途 3 FCV 日本 ドイツ 英国 韓国 米国 購入費用の補助 • 世界に先駆けて 一般販売を開始 • 初期市場の創出 を支援 実証プロジェクト • 15年までに戸建 ・集合住宅向け 合わせて800台 を導入し商用化 を目指す ZEH化で導入促進 • 16年までに全新 築をZEH化。 CO2排出の半分 を敷地外の新エ ネ活用で補う 助成金 • 2010年より、家 庭用に関して8割 の助成金 業務・産業用システ ムの用途拡大の一 つとしての位置づけ で、相対的に取組 は少ない 業務用燃料電池の 実証に助成金 • 10kW級の開発・ 導入・実証に2百 万ポンド ソウル市マスタープ ラン • 2030年までに再 生可能エネルギー 全体の47%を燃 料電池で賄う予定 税控除 • 商用燃料電池設 置に関する税控 除30% or 3千ド ル/ kWを16年ま で継続 助成金 実証プロジェクト • 実証に2百万ポンド • 80台のFCVを使 った実証を2年間 自動車技術ロードマ ップを設定 行う • 20年から普及を開 (予算18百万ドル) 始させる計画 DOE長官が「実用 化が10-20年先の 技術」とし、研究開 発予算請求の優先 順位を落とした 技術開発 • NEDOでSOFC 中心に実施 実証プロジェクト • 車自体の実証事 業に加え、スマー トシティ実証の一 環でも実施 • - 実証プロジェクト • FCV数百台、FC バス30台、水素 スタンド整備など を行う世界最大 のプロジェクト。 16年まで 政策インプリ その他 • 水素の低価格化に 国策のイニシアチブ が期待(車メーカと 水素ステーション企 業にギャップ) • - 小型電池開発 • アンモニア駆動 の携帯電話用途 の実証を行う。予 算は2百万ポンド REとして認定 • LNGやバイオガ スで稼働するFC をRPSの一部とし • - て認定 中国 • ― • ― 11年からの第12次 5か年計画で推進 • 15年頃の商用化 を目指しR&Dを 実施。(10年時点 で国産FCVは開 発済) • - 電力ピーク抑制と熱需 要確保にニーズ (出典)各種二次情報より Arthur D Little 分析 なお、ドイツ等欧州では、燃料電池由来の電力を買取制度の対象にして推進している 国も多い。我が国では、燃燃料電池で発電した電力を系統電力に逆潮流することに関し ては、電力事業者と燃料電池設置者との民間事業者間による取り決めによるものとなっ ている。現在、一部の電気事業者においては、電力の工場等の自家発電設備等の電力価 格と同等の価格(2.5~7 円/kWh)が適用されている等といった状況である。燃料電池 の普及の観点からは、逆潮流することで系統の電力負荷をダイレクトに軽減し、分散型 電源としての役割を果たすことができるほか、定常的に高効率の運転ができる等の効果 が期待できる。また、逆潮流ができることで、スマートグリッドとの連携の際も、安定 的な電源として一定程度の電力供給を見込むことが可能となるなど、分散型電源の普及、 消費者ニーズの高まり、エネルギーの有効利用という観点から望ましいとも考えられる。 以上の点を踏まえ、基本的には民間事業者間で調整を行うものであるとの理解に立ちつ つも、今後更に検討を行う必要がある。 200 6.経済波及効果・雇用分析 (1)国内燃料電池産業の変遷 燃料電池産業は政策誘導により着実に拡大してきた。国内経済に与える影響も大きく、 燃料電池分科会報告書において「燃料電池システムは、心臓部であるセルスタックをは じめとして制御部、インバータ、各種補機類、定置用燃料電池であれば燃料改質器や貯 湯タンク、FCV であれば燃料タンク等多くの機器・部材から構成されている上、家庭 用途、業務用途、産業用途における電力や熱、移動体(自動車、自動二輪等)における 動力源等として幅広く利用されるため、関係する産業も電気、ガス、石油等エネルギー 産業、電気・ガス機器製造業、使用部材としての金属・化学製品等素材産業、自動車製 造業、インフラ設備産業等多岐に亘り、産業としても裾野が広く、多くの雇用創出が期 待できる」と言及されている。また、海外拡販の可能性についても、「燃料電池システ ムの心臓部であるセルスタックは、固体高分子型燃料電池(PEFC)を例に取ると、水 素、酸素各々を効率的に電解質に送り、かつ、化学反応で精製された水を効率的に排出 できるよう微細な溝が掘られたセパレータと、触媒を均一に塗布した数十ミクロンの厚 さのフィルム状イオン交換膜とを精密に積層する等我が国が得意としている『摺り合わ せ技術』を使用するため、これを搭載する定置用燃料電池(特にエネファーム)や FCV は国際競争力を十分に備えた輸出品として今後海外に展開されることが期待できる」た め、産業として大きな役割を果たすことが見込まれる。 2009 年度で市場規模は 175,350 百万円(推定)、雇用者数は 1,350 人(推定)に上る。 家庭用燃料電池システム(エネファーム)の研究開発が進展するのに伴い、燃料電池の 関連市場と雇用は段階的に増加。[1]「実証・基盤整備」から [2]「大規模実証」を経て [3]一般販売へと至る過程で、市場と雇用の規模は 10~15 倍程度に拡大したと見られる。 201 市場規模・雇用者数の推移 【燃料電池】雇用規模の推移 【燃料電池】市場規模の推移 160,000 1,400 140,000 1,200 120,000 1,000 100,000 800 80,000 600 60,000 400 40,000 200 20,000 0 0 2002-2003 2004-2005 2006-2007 2008-2009 2002-2003 2004-2005 年度 2006-2007 2008-2009 年度 [1]2002-04年度 実証等研究事業,普及基盤整備事業 (新エネルギー財団,日本ガス協会) 平均出荷価格:1,340万円/台 平均設置台数:合計30台/年 [2]2005-08年度 定置用燃料電池大規模実証事業 (新エネルギー財団) 平均出荷価格:777万円 → 329万円/台 設置台数:480台 → 1,120台/年 [3]2009年度 「エネファーム」販売開始 販売台数:約5,000台(推定) *導入価格(設置工事込)は300万円程度 (出典)※新エネルギー財団資料、燃料電池普及促進協会資料、帝国データバンク企業情報、より帝国 データバンク分析 そして、当該産業への参入企業の性質を捉えるべく、企業規模分布に目を向けると、 現状、燃料電池本体と補機を組み合わせてシステム化する分野では大企業の参入が圧倒 的であるが、補機や検査・評価装置などの分野では中小企業の参入が過半数を占める。 参入企業の企業規模分布 大企業 大企業 ①部品材料 ①部品材料 ②製造用機械・装置 ②製造用機械・装置 64社 64社 62社 62社 5社5社 ③補機 ③補機 ④検査・評価装置 ④検査・評価装置 ⑤組立請負業者 ⑤組立請負業者 ⑥完成品(定置用) ⑥完成品(定置用) ⑦販売元兼燃料供給 ⑦販売元兼燃料供給 ⑧補機(自動車用) ⑧補機(自動車用) ⑨完成品(自動車用) ⑨完成品(自動車用) 中小企業 中小企業 16社 16社 43社 43社 58社 58社 18社 18社 34社 34社 3社 3社 8社 8社 1社 1社 4社 4社 17社 17社 3社 3社 1社 1社 5社 5社 7社 7社 50% 50% 0% 0% 注1:企業規模の区分は中小企業基本法での定義に基づく 注2:区分①~④、⑥には、当該商品を取り扱う商社を含む 注1:企業規模の区分は中小企業基本法での定義に基づく 注3:上記分類では研究開発段階の商品を取り扱う企業は含んでいない 注2:区分①~④、⑥には、当該商品を取り扱う商社を含む 注3:上記分類では研究開発段階の商品を取り扱う企業は含んでいない (出典)帝国データバンク分析 202 100% 100% (2)燃料電池産業の経済波及効果 (ⅰ)販売数量 1,000 件あたりの経済波及効果 燃料電池産業の経済波及効果について産業連関分析を実施した。 販売数量 1,000 件あたりの経済波及効果は生産誘発額 40 億円、付加価値誘発額 15 億 円、雇用誘発者数 138 人となる。 (ⅱ)新たな生産拠点を立地した場合の経済波及効果 有価証券報告書等を参考に国内の某工場を想定し、同規模の製造拠点を国内に新設し た場合の経済波及効果を算出した。経済波及効果は生産誘発額 217 億円、付加価値誘 発額 89 億円、雇用誘発者数 945 人となる。 仮に同規模程度の生産拠点を海外に立地した場合でも、生産誘発額 39 億円、付加価 値誘発額 15 億円、雇用誘発者数 177 人の経済波及効果が想定される。 海外に工場を立地した場合でも、日系プレーヤはセパレータ(PEFC)、電解質材料 (SOFC) 、電解質(SOFC)について強い競争力を持ち、輸出が誘発されることによる 国内への経済波及効果が期待できる。 新たな生産拠点を立地した場合の経済波及効果 新たな生産拠点を国内に新設した場合の経済波及効果 生産誘発額 付加価値誘発額 雇用誘発者数 217 億円 89 億円 945 人 同規模の生産拠点を海外に新設した場合の経済波及効果 生産誘発額 付加価値誘発額 雇用誘発者数 39 億円 15 億円 177 人 生産誘発額 付加価値誘発額 雇用誘発者数 4,702 万円 2,087 万円 2.46 人 上記、1MW あたりの経済波及効果 (出典)有価証券報告書等より国内の某工場を想定、帝国データバンク分析 203 (ⅲ)海外における家庭用燃料電池システムの需要予測に基づく国内への経済波及効果 家庭用燃料電池については、ドイツ・デンマーク・韓国などで実証事業が行われてお り、今後、市場が拡大していくことが想定される。 日本では政策的支援を背景とし、欧州に比べ燃料電池の普及が進んでおり、海外展開 においても国内プレーヤに一定の競争力があると考えられる。 ここでは、ドイツにおいて家庭用燃料電池の市場が立ち上がり、国内プレーヤが一定 のシェアを確保できた場合の国内への経済波及効果について分析を行った。 【家庭用燃料電池システムの普及率】 日本における家庭用燃料電池の普及率の推移について、補助金交付台数実績、および NEDO ロードマップから以下の様に想定した。 日本における家庭用燃料電池の普及率推移想定 普及率(%) 8.0% 7.0% 6.0% 5.0% 4.0% 3.0% 2.0% 1.0% 0.0% 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 年度(西暦20XX) (出典)燃料電池普及促進協会発表資料、NEDO ロードマップ(2010)より帝国データバンク作成 【ドイツにおける設置台数と新規需要】 ドイツの実証プロジェクトでは 2015 年までの商用化を目指すとしているため、ドイ ツにおける家庭用燃料電池システムの普及は日本よりも五年遅れて進み、その普及率の 推移は日本の場合と同じである、という仮定を置いた。このとき、ドイツでの 2020 年 と 2025 年における累積台数およびその年度における新規需要(導入台数)は次のよう 204 になるものと推定される。 年度 総住宅数 新規台数 累積台数 普及率 2020 4,170 万戸 14.6 万台 41.3 万台 0.99% 2025 4,240 万戸 28.9 万台 157.9 万台 3.72% (出典)帝国データバンク分析 次に、ドイツへ家庭用燃料電池システムを輸出した場合の、国内への経済波及効果を 算出した。日本プレーヤが確保できるシェアについてはポジティブ(シェア 40%) 、中 庸(シェア 30%) 、ネガティブ(シェア 20%)と想定した。 ネガティブシナリオにおいても、2020 年度で生産誘発額 587 億円、付加価値誘発額 218 億円、雇用誘発者数 2,009 人、また 2025 年度で生産誘発額 1,161 億円、付加価値 誘発額 432 億円、雇用誘発者数 3,977 人の経済波及効果が見込める。 ドイツ市場への輸出による経済波及効果 ドイツにおけるシェア想定 年度 生産誘発額 付加価値誘発額 雇用誘発者数 2020年度 1,181億円 439億円 4,045人 2025年度 2,186億円 813億円 7,485人 2020年度 886億円 329億円 3,034人 2025年度 1,639億円 609億円 5,614人 2020年度 591億円 220億円 2,023人 2025年度 1,093億円 406億円 3,743人 ポジティブ(40%) 中庸(30%) ネガティブ(20%) (出典)帝国データバンク分析 205 7.施策案の背景と施策方向性 今後の産業を検討する上で、重要性の高い論点として大きく以下の 4 点が想定される ところであり、燃料電池分科会報告書も踏まえた官民挙げた取組が求められる。 施策案の背景と施策方向性 論点の背景 定 置 用 検 討 テ ー マ ( エ ネ家 フ庭 ァ ー用 ム ) 業 務 ・ 産 業 用 自燃 動料 車電 池 イ水 ン素 フ供 ラ給 家庭用(エネファーム)の普及を急速に拡大させるためには、一般消費者における機器導入コストの 低減等への取組が必要不可欠 市場拡大・用途拡大に向けた、機器のコンパクト化(集合住宅等市場向け)、災害等緊急時用途向け 自立運転技術開発、多様な種類の天然ガスへの対応なども求められる 業務用PAFC:機器のコンパクト設計、コスト削減、および燃料の種類を問わずコージェネレーションシ ステムの活用が見込まれる施設など幅広い導入先市場を想定した一層の普及促進が必要 業務用SOFC:中・大型について信頼性・耐久性向上に向けた技術確立・実用化が必要(特に開発中 のSOFCとマイクロガスタービンの複合発電システムは、高効率な分散型電源として早期実用化) 産業用SOFC:火力発電用の大容量システムへの対応(ガスタービン等との複合化で超高効率の発 電システムを構築することが可能であるため) FCVに関するコスト削減:2015年から一般ユーザーに対してFCVの普及開始に向けて、残された課 題である車両コストの低減を図り、一般ユーザーが購入できる販売価格で提供できるよう更なる技術開 発を進めるべきである。 FCVの生産体制の整備:一般ユーザーの需要に十分応えうる適切な台数のFCVを市場に供給できる よう、量産化に必要となる製造技術の確立、製造ラインの整備等を着実に行い、普及開始に向けた準備 を実施すべきである。 コスト削減:コスト増の要因となっている関連法規制の見直しおよび、安価・高信頼の設備・機器開発、既 存のインフラ活用(ガソリンスタンド、天然ガススタンド(CNGスタンド)等) 水素ステーションの整備:水素供給ビジネスの事業性確立を念頭に置いた水素供給インフラに関する検 討および商用ステーションの先行整備 (出典)各種公開情報及び事業者インタビューより Arthur D Little 分析 206 2.6. ZEB/ZEH 産業 1.ZEB/ZEH 産業の概要 (1)ZEB/ZEH の定義 建築物の躯体・設備の省エネ性能の向上、エネルギーの面的利用、再生可能エネルギ ーの活用等により、年間での一次エネルギー消費量が正味(ネット)でゼロ又は概ねゼ ロとなる建築物を ZEB という。また、住宅の躯体・設備の省エネ性能の向上、再生可 能エネルギーの活用等により、年間での一次エネルギー消費量が正味(ネット)でゼロ 又は概ねゼロとなる住宅を ZEH という。グリーンビル、スマートビル、サステナブル ビルや、スマートハウスのように、エネルギーの観点からは ZEB/ZEH と定義が異なる 概念が存在するが、産業として見るとバリューチェーンが概ね共通しているため、本報 告では合わせて検討を行う。 (2)ZEB/ZEH の実現方向性 「ZEBの実現と展開に関する研究会」報告書(平成21年11月公表)にて「ZE B達成のためには、個々の技術もさることながら、パッシブとアクティブの融合(光や 風などの自然エネルギーの活用により、エネルギーを消費する設備・機器の負荷を減ら すアプローチ)を含め、これらをシステムとして総合設計し、かつ、統合制御すること が重要である」と言及されている通り、ZEB/ZEH の実現に向けては、再生可能エネル ギーの活用と躯体・設備の省エネ性能向上の両面が必要とされる。 なお、「現在の技術水準でも、このような総合設計・統合制御の技術導入に加え、運 用時の努力を重ねることにより、実際の業務ビルのエネルギー消費を通常の建築物に比 し 60%程度削減することが可能」と考えられており、将来の技術進歩を含めれば「完 全にZEBとなるのは3階建て以下の低層ビルであるが、10 階建て程度でも現状の一 次エネルギー消費量の2割程度」まで削減が可能と考えられている。(同報告書) 207 ZEB 実現に向けた技術とその貢献度の内訳(試算例) 【前提条件】 1フロアの床面積約5000 ㎡のオフィスビル(経済産業省別館とほぼ同規模)、現状の一次 エネルギー消費量は約2000MJ/㎡/年程度を想定。2030 年頃までの技術進歩として、 クールアースエネルギー革新技術計画などを踏まえつつ、以下を想定。 -パッシブ建築:高断熱、日射遮蔽 -自然エネルギー利用:外気冷房、ナイトパージ、室内CO2 濃度による外気取入量制御 -高効率熱源:現状より2 割程度高効率な熱源の開発(現状のターボ冷凍機COP6.4 を 8.0 程度に) -低消費搬送:インバータの全面的活用、高効率モータ、高効率ポンプ、高効率ファン、低 摩擦損失配管サイズ、ダクトサイズ -高効率照明:現状の消費電力量の1/3 となる高効率照明器具の開発と照度設定、調光 や点滅制御の全面的採用 -低消費OA 機器:現状の消費電力量の1/2 となるサーバー、1/12 となるPC など -その他の電力消費:現状の消費電力量の1/3 となる防犯用・防災用機器、待機電力機 器 -太陽光発電:屋上面積の2/3 に、現状より2倍の変換効率のパネルを設置 (出典) 「ZEBの実現と展開に関する研究会」報告書 208 (3)検討の背景 部門別エネルギー消費動向(国内) 我が国の最終エネルギー消費の推移を見ると、全体の 3 割以上を占める民生部門は、 産業、運輸部門に比し増加が顕著となっている。とりわけ、民生部門の過半を占める業 務部門(オフィスビル、小売店舗、病院、学校等)については、家庭部門より増加が著 しく、その最終エネルギー消費は対 1990 年比で 4~5 割程度増加した後高止まりして おり、省エネ対策の強化が最も求められている。 導入の背景 部門別エネルギー消費動向(国内) 【最終エネルギー消費と実質GDPの推移】 GDP 最 終 エ ネ ル ギ ー 消 費 と 実 質 の 推 移 と実質GDPの推移】 最終エネルギー 消費量 GDP 1990-2008 (百万原油換算kl) 1.06倍 160 600 400 1990-2008 23.6% 運輸部門 120 23.2% 300 400 100 33.6% 民生部門 ZEB、ZEHの定義 250 26.5% 1990-2008 300 200 1.34倍 1990-2008 80 52 52 53 56 57 61 61 62 65 69 70 7 60 150 200 50.3% 42.7% 1990-2008 産業部門 100 100 0.90倍 50 0 40 20 43 44 46 48 48 51 51 51 52 53 55 5 0 0 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 (年度) 90 【民生(業務/家庭)部門の内訳】 92 94 96 98 00 出所)エネ 最終エネルギー 消費量 1.06倍 140 1.08倍 500 350 (百万原油換算kl) GDP (兆円) 1990-2008 1.20倍 450 【民生(業務/家庭 GDP (兆円) 1990-2008 23.6% 500 運輸部門 400 33.6% 民生部門 300 200 42.7% (百万原油換算kl) 160 600 140 1.08倍 民 120 生 部 100 1990-2008 門 80 1.34倍 の 内 60 訳 1990-2008 産業部門 100 0.90倍 76 75 76 77 79 77 75 1.44倍 ZEB、ZEHの定義 52 52 53 56 57 61 61 62 65 69 70 73 業務部門 41% 40 20 1990-2008 59% 43 44 46 48 48 51 51 51 52 53 55 53 55 53 54 56 54 55 53 1990-2008 1.24倍 家庭部門 0 0 01 02 03 04 05 06 07 08 (年度) 90 92 94 96 98 00 02 04 06 08 (年度) 出所)エネルギー需給実績、国民経済計算年報 (出典)エネルギー需給実績、国民経済計算年報 209 わが国においては、新成長戦略に ZEB/ZEH が位置づけられたほか、各省庁において ZEB/ZEH に関する検討が進められている。2010 年 6 月に閣議決定された「エネルギ ー基本計画」では、2020 年までに ZEH を標準的な新築住宅とし、2030 年までに新築 建築物全体の平均での ZEB を実現する目標を提示している。 各省庁の検討内容 新成長戦略 エコ住宅の普及、再生可能エネルギーの利用拡大や、ヒートポンプの 普及拡大、LEDや有機ELなどの次世代照明の100%化などにより、住 宅・オフィスビル等のゼロエミッション化を推進 エネルギー基本計画 (経済産業省) 2020年までにZEHを標準的な新築住宅とし、2030年までに新築建築 物全体の平均でZEBを実現 ZEB研究会 (資源エネルギー庁) 我が国の建築物のZEB化に向けた新たなビジョンの提案や、課題とそ の対応策の提言をとりまとめ 中長期ロードマップ (環境省) 新築住宅・建築物は2030年、既存住宅・建築物は2050年にZEB/ZEH 100%という目標を提示 ライフサイクル カーボンマイナス住宅 (国土交通省) 設計・建設段階で生じるCO2排出量を、運用段階のカーボンマイナス 分でなるべく早く相殺してCO2排出量の収支を黒字にするライフサイク ルカーボンマイナス住宅(LCCM住宅)の開発・普及について検討 (出典)NRI 作成 現在、ZEB/ZEH の実現と展開に向け、経済産業省や国土交通省が中心となり、省エ ネ基準の適合義務化や省エネ性能ラベル等に関する検討が進められている。 ZEB/ZEH の実現と展開に向けた検討事例 住宅・建築物の省エネ基準の適合義務化に関する検討 業務部門のベンチマーク・ラベリング制度に関する検討 【義務化の対象について】 【検討内容】 義務化の対象については、新築(大規模改修等を含む。)の 住宅・建築物を対象に、大規模建築物から段階的に対象を拡 大することを検討。なお、既築建築物については、対象としな い。 基準の内容は、外壁・窓等の躯体の断熱性や自然エネルギ ー利用、暖房・冷房、給湯等の建築設備のエネルギー消費量 を対象とすることを検討。 将来的にZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)やZEH(ネット ・ゼロ・エネルギー・ハウス)、LCCM住宅(ライフサイクル・カ ーボン・マイナス住宅)等に誘導すべく、躯体や建築設備の省 エネ性能に加え、再生可能エネルギー等の導入も総合的に 評価する基準(誘導基準)を検討。 運用段階におけるエネルギー管理を支援するためのエネル ギー性能に係るベンチマーク評価ツールを開発し、省エネ法 における工場・事業場に係る措置の中で業務部門のベンチマ ークとして活用するとともに、事業者等が当該事業場のエネ ルギー性能の位置づけを認識できるためのラベリング制度の 構築等について検討。 【ベンチマーク指標(案)】 ベンチマーク指標は、(エネルギー消費量の実績値)/(標準 的な事業場を想定した場合のエネルギー消費量の推計値)で 表わされる、「エネルギー性能比率EPR(Energy Performance Ratio)」とし、これに基づき、目指すべき水準を 満たしているか否かで評価する。 EPRの分子には当該事業場のエネルギー消費量の実績値 を入力する。また、EPRの分母には、建物使用状況(営業時 間、在館人員密度等)や立地地域(気候条件等)による影響 を排除(標準化)した「標準的な事業場を想定した場合のエネ ルギー消費量の推計値」を算出し、これを入力する。つまり、 EPRの数値が小さいほど、省エネ状況の優れた事業場と評 価される。 【義務化の時期について】 2020年までに全ての新築住宅・建築物について義務化する ことを検討。 現状の省エネ基準適合率やCO2削減効果等を勘案し、大規 模建築物から段階的に義務化を行う。 出所)「低炭素社会に向けた住まいと住まい方推進会議」資料より抜粋 出所)「業務部門におけるベンチマーク・ラベリング制度に関する研究会」資料より抜粋 210 (出典)低炭素社会に向けた住まいと住まい方推進会議および業務部門におけるベンチマーク・ ラベリング制度に関する研究会資料 実証という観点からは、NEDO(独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機 構)が中心となり、ZEB の技術面での実証を目的として、8 つの実証事業を実施してい る。8 つの実証事業のうちの一つである東京ガス・港北 NT ビル(アースポート)では、 再生可能エネルギーと次世代技術の組合せにより、一般テナントビルに比して一次エネ ルギー消費量を 4 割、CO2排出量を 44%削減することを目指した省エネ改修を実施 している。 我が国の取組(NEDO 実証事例) 次世代省エネルギー等建築システム実証事業(NEDO) 東京ガス・港北NTビル(アースポート)のZEB改修 【事業概要】 【事業概要】 2030年までにZEBの実用的概念の確立と普及を図るための 技術面の実証を行うことを目的 一次エネルギー消費量をベースライン(技術導入しない場合) の2/3以下とし、さらには2030年までにZEBを実現することを 条件に提案を募集し、8事業を採択 再生可能エネルギーと次世代技術の組合せにより、一般テナ ントビルに比して一次エネルギー消費量を4割、CO2排出量 を44%削減 【主な採用技術】 太陽熱、ガスエンジンCGSの廃熱、CHPチラーの廃熱を利 用した省エネ・省CO2空調システム 太陽光発電とガスエンジンCGS等を組み合わせた電力統合 制御システム 自然採光を活用した次世代照明制御システム 【採択事業】 中小事務所ビルにおける再生可能エネルギーと次世代技術 を組み合わせたZEB化の実証 「省エネ進化するビル」モデル実証実験 ゼロ・エミッション・ビル実現に向けた技術開発 オフィスにおけるパーソナル環境の統合制御を行う省エネイ ンターネット(省エねっと)の運用実証事業 「理想の教育棟」における次世代省エネルギー等建築システ ム実証事業 複数建物連携によるキャンパス内建物群の省エネルギー運 用実証事業 赤穂ロイヤルホテル ゼロエミッションホテルプロジェクト 株式会社バロー草津新店におけるゼロ・エミッション店舗開発 実証事業 【改修イメージ】 出所)NEDO資料 出所)東京ガスプレスリリース (出典)NEDO 資料および東京ガスプレスリリース (4)検討の背景 部門別エネルギー消費動向(海外) IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change、気候変動に関する政府間パ ネル)によると、住宅・建築分野の CO2 排出量は全排出量の約 3 割を占めている。今 後、アジアの発展途上国を中心に、住宅・建築分野の CO2 排出量は現状の 4 倍に増加 すると見込まれる。 211 導入の背景 住宅・建設分野のエネルギー消費動向(海外) Building Sector CO2 Emissions 16000 LBNL/IEA Historical Data A1B Scenario CO2 (MtonCO2) 14000 12000 約4倍 10000 Developing Asia Sub Saharan Africa Latin America Middle East and N. Africa Pacific OECD Western Europe North America Central and E. Europe Former Soviet Union 8000 Note: 1971-2000 data based on Price et al. (2006) modifications of IEA data; 2001-2030 data based on Price et al. (2006) disaggregation of SRES data; 2000-2010 data adjusted to actual 2000 carbon dioxide emissions 6000 4000 2000 0 1971 1976 1981 1986 1991 1996 2001 2006 2011 2016 2021 2026 注釈)A1bシナリオ:急速な経済成長、新技術の導入、すべてのエネルギー源のバランス重視を想定 (出典)IPCC 第4次評価報告書 また、IPCC 第 4 次報告書によると、住宅・建築分野の CO2 排出量の削減ポテンシ ャルは全部門の中で最も大きく、産業部門や農業部門に比べて約 2、3 倍のポテンシャ ルを有する。つまり、住宅・建築分野 CO2 排出量削減のポテンシャルは世界的に見て も極めて大きいといえる。 部門別 CO2 排出量削減ポテンシャルの比較(海外) (出典)IPCC 第4次評価報告書 このような背景から、欧米諸国では、わが国に先行して ZEB/ZEH に関する取組を推 212 進している。たとえば欧州においては 2010 年の EU 指令にて「2020 年 12 月 31 日以 降に新築されるすべての建築物は、 『概ねゼロエネルギー(nearly zero energy)』とす る(高い省エネ基準を満足するとともに、再生可能エネルギーを積極利用する)」こと を決定している。住宅・建築物のゼロエネルギー化の取組を牽引する英国では、2016 年までにすべての新築住宅を ZEH に、2019 年までにすべての新築建築物を ZEB にす るよう法制化が進められている。また、米国においても同様の政策ビジョンが提示され、 その実現に向けて、住宅・建築物に関する省エネ基準の強化や省エネ性能ラベリング制 度の構築・拡充、要素技術の研究開発や実証事業などが推進されている。 中国では急激な都市化、生活水準の上昇から、国内のエネルギー消費を抑えることが 喫緊の課題となり、ZEB の導入を図っている。 今後、新興国が経済成長を続けていくに際して、エネルギー消費量が先進国並みに増 大していくと、エネルギー制約が世界的な課題となることが想定される。この課題解決 に当たって、最も有効な戦略は省エネルギーの推進であり、我が国としても国際貢献と 合わせて省エネ産業展開を進めていくことが重要である。 主要国政府の ZEB/ZEH に関する目標 具体的目標 主要国政府のZEB/ZEHに関する目標 詳細 • 新築住宅2016 年、新築非住宅 建築物2019年 ZEB/ZEH化 • BRE(Building Research Establishment、英国建築研究所)では、最先端の省エネ・創エネ技術を 駆使したモデル住宅・建築物を展示するイノベーションパークを2005年に開業した。現在、9棟のモデ ル住宅・建築物が展示されており、そのうち2棟がZEHとなっている。 • 新築住宅2020 年、新築非住宅 米国 建築物2030年 ZEB/ZEH化 • DOE(米国エネルギー省)がメインスポンサーとなり、2年に1回程度の頻度で、ソーラーデカスロン (デカスロンは十種競技の意)と呼ばれる太陽光発電装置を用いたゼロエネルギー住宅設計コンテス トを開催している。 英国 韓国 中国 • 2025年に ZEB/ZEH実現 - • 韓国政府は、2009年の省エネ基準に比べて、2012年に30%、2017年に60%基準を強化し、2025年 にはZEB/ZEHを実現する基準を義務化する方針を提示している 。 • 中国政府は、2020年にはすべての都市でビルのエネルギー消費量を1980年比で65%削減すること を目標に、グリーンビルディングの積極的な導入政策を発表している。 • 民間の調査会社(Pike Research社)の見通しによると、2020年に中国のグリーンビルは25万棟。 (出典)NRI 資料 (5)市場規模 (ⅰ)ZEB 産業 ZEB 産業の市場規模は、前述の政策が市場成長のドライバーとして作用し、国内・ 海外市場共に年平均 10%を超える高成長を続ける見込み。地域毎のトレンドを見ると、 2015 年までは北米・欧州が、それ以降はアジアが市場を牽引する見込みとなっている。 213 ZEB 産業 市場規模 (出典)ミック経済研究所、NRI 作成 (ⅱ)ZEH 産業 ZEH 産業においても ZEB 産業と同様に、国内市場で 16.0%、海外市場で 8.0%(年 平均成長率ベース)とを高成長を続ける見込み。 市場規模 (出典)富士経済、NRI 作成 214 ZEH 産業 (6)導入の課題 省エネを通じた光熱費削減等の ZEB / ZEH の提供価値が市場に受け入れられるかど うかに関する課題として、所有者と受益者のインセンティブの不一致の問題が挙げられ る。自社業務用ビルや、分譲住宅については所有者と受益者が一致しているため導入が 進みやすいが、テナントオフィスビルや賃貸住宅では所有者(不動産オーナー)と受益 者(テナント入居者)が異なる場合も多いため、ZEB / ZEH の価値を両者が享受でき るよう明確化、あるいは制度化される必要がある。 また、ZEB / ZEH は、適切な規制のみならず、光熱費削減にとどまらない不動産価 値向上と相まってはじめて本格的に普及が進むと考えられるため、エネルギーの観点だ けでなく、当然ながら不動産の観点からの市場ニーズ・課題も把握することが重要とな る。 不動産価値の捉え方 (出典)住友信託銀行「大都市における低 CO2 型都市づくり東京ワークショップ 建物への環境対策 に対する不動産市場の新たな動き」および事業者インタビュ等より Arthur D Little 分析 提供価値の一つである建築物の環境性能を認証する基準としては、米国グリーンビル ディング協会の LEED が先行している。本制度はグローバルに普及しつつあり、LEED を自国仕様にカスタマイズするケースも多数存在する。 215 LEED の普及状況 • LEEDは世界中のプロジェクトでも利用さ れており、国によっては、米国のLEEDを 自国仕様にローカライズしている (出典)US Green Building Council より Arthur D Little まとめ 日本において LEED に相当する評価ツールとして CASBEE がある。設計ツールとし ての完成度は高いものの、金融機関等へ普及が課題である。 そこで、CASBEE の不動産評価への活用を促進すべく、CASBEE 不動産評価活用支 援ツールと活用マニュアルの提供が始められている。また、 「CASBEE 不動産マーケッ ト普及版(暫定版) 」が公開されている。 216 日本における ZEB 不動産価値向上施策 CASBEEの評価 関連コメント • 金融機関目線の評価ツールを開発す ることで、環境価値が経済価値として 評価され、ZEBに多くの資金が投資さ れる ‒ CASBEEは設計ツールとしては完成度が高い が、その精緻さゆえに建物の設計に関する知見 のない金融機関等への普及が進んでいないと いう意見がある。 ‒ そのためCASBEEで評価されているZEBの環 境価値を経済価値に結びるける触媒となる、金 融機関目線の評価ツールが必要である。 ‒ ZEBの環境価値が経済価値として評価されるこ とで多くの資金がZEBに投資される好循環が生 まれてくる。 評 価 結 果 評価軸 評 価 基 準 環境品質・性能 (Quality) 環境負荷 (Load) 評価分野 Q-1.室内環境 重み係数 0.4 Q-2.サービス性能 0.3 Q-3.室外環境(敷地内) 0.3 LR-1.エネルギー 0.4 LR-2.資源マテリアル 0.3 LR-3.敷地外環境 0.3 (出典)日本サスティナブル・ビルディング・コンソーシアム 2009 年 3 月 27 日、 日本政策投資銀行レポート、2010 年 11 月 24 日より Arthur D Little 分析 米国は ZEB の不動産価値向上の取組において先行している。米国では、建物の住環 境が非常に重視され、また利用面から見た建物の利便性や価値が、不動産価格に大きく 反映される傾向にあり、LEED が一つの指標として広く認知されている。そして、米国 グリーンビルディング協会のサイトでは、LEED 認証を取得した不動産の調査データと して、運営経費の削減率、不動産価値の上昇率、テナント入居率向上などが公開されて いる。 また、多くの自治体で、税額控除や低利子の融資制度などインセンティブプログラム が提供されており、例えば、オハイオ州のシンシナティ市では、LEED 認証取得した新 規建物に対する不動産税額が自動的に 100%控除され、ネバダ州では、LEED 取得建物 の建設材料に対する地方税が免除されている。そのほか、カリフォルニア州、ニューヨ ーク州、ミシガン州など、様々な自治体が支援策を実施している。 217 ZEB と不動産価値の関係(米国市場調査) 入 居 率 賃 料 (出典) 「Does Green Pay off ?」Norm Miller 今後は ZEB 市場に対して日本の設計・建設会社が強みを生かせるような評価基準・ 指標を、CASBEE や LEED に盛り込んでいくことも有効と考えられる。(なお、現在 CASBEE は LEED などの海外の認証制度と適合させる作業が進んでいる) 具体的には、日本の設計・建設会社の強みであり、かつ、市場ニーズも高いであろう 省エネルギー、品質管理、工程管理、保守・管理、高齢化対応などが考えられる。 218 日本の設計/建設会社の強み (出典)日経アーキテクチャ 2010 年 9 月 13 日、事業者インタビュ等より Arthur D Little 分析 今後の我が国関連産業の成長の観点からは、国内市場はもちろん、規模の大きい海外 の有望市場を見極めていく必要がある。そのためには、まず ZEB/ZEH の普及を後押し する要因を把握する必要がある。 その要因を主に規制と支援策に分けて例示すると下表のとおりであり、実際に、米国 における税制優遇のほか、英国では 09 年より建物の売買・賃貸・建築の際に「エネル 219 ギー性能証書(Energy Performance Certificate)」と呼ばれる建物のエネルギー性能 評価基準の格付け取得が義務化されており、シンガポールでは同国の ZEB 認証にあた る「グリーンマーク」の取得を延床面積 2,000 ㎡以上の新築・増改築を行うビルに義務 付けている。こうした国々・地域が、すなわち有望市場の候補となろう。 ZEB/ZEH の普及を後押しする施策の例 施策や取組の例 Z E B / Z E H 普 及 を 後 押 し す る 要 因 規 制 関 連 支 援 策 関 連 費用負担者(ビルオーナー)への効果 新築住宅・建設物の省エネルギー性を評価する 基準をクリアすることの義務化とZEB化のトップ ランナーとなり得る基準を新たに設け誘導していく 規制強化 省エネ性能が高い建築物構築の義務化 (既に省エネ性能が高いビルの価値は向上) 住宅・建設物の省エネルギー性能の 見える化(ラベリングなど) 省エネ性能が高い建築物を持つことへの 義務感・インセンティブ向上 統計データの整備と義務化 (総合エネルギー統計、家庭部門の CO2排出量を的確に把握する統計等) 省エネ性能が高い建築物を持つことへの 義務感・インセンティブ向上 規 制 緩 和 省エネ・新エネ設備の容積率明確化や 太陽光パネル設置時の規制優遇など 初期投資コスト低減や 入居者・テナント企業の増加による収入増 ZEB/ZEHに対する容積率の緩和 入居者・テナント企業の増加による収入増 支金 援銭 的 税制優遇、開発資金・改修資金のサポート 初期投資コストの低減 など ZEB/ZEHの研究・開発支援、住宅・建築物の 長寿命化、適切な維持・管理の推進 建築物の付加価値向上 (それに伴う賃貸料向上) 効果・効用の見える化(非金銭的価値) 高齢化対応、長生き(QOL)、知的生産性など 入居による安心・安全感の享受、 テナント企業の業績改善による 賃貸料の向上 (より変動幅の大きい) 電力の時間帯別変動価格制 高度なエネルギーマネジメント (CPP*の回避等)を通じたコスト削減 不動産情報webサイトにおける 検索条件への追加 ZEB / 非ZEBの識別容易化による 入居促進 規 制 強 化 非 支金 援銭 的 18 *クリティカルピークプライシング:電力需給ひっ迫時における通常より高い電力料金設定 (出典)低炭素社会に向けた住まいと住まい方推進会議(第 2 回)‐配付資料など各種二次情報 及び 事業者インタビュ等より Arthur D Little 分析 2.バリューチェーン分析 (1)バリューチェーン の分析対象 ZEB/ZEH のバリューチェーンは以下のように捉えられる。コンポーネントとしては 大きく省エネ、創エネ、蓄エネの 3 タイプが考えられ、市場性及び日本企業が競争力を 持ちうると考えられるものを中心に代表的な構成機器を挙げた。そして、用途別・方式 別に市場分析を実施した。 220 バリューチェーン の分析対象 設計/開発 建設 建材 省エネ 空調 コンポーネント 創エネ PV コジェネ 照明 蓄エネ 蓄電池 給湯 ZEB/ZEH ( 用 市場・プレーヤが異なるため 途 別 ZEB/ZEH別に分析 分 析) 項 目 方 式 別 方式等による違いは あまり存在しないため 領域ごとに まとめて分析 領域ごとにまとめて分析 省エネ性・ 普及性より 分 析 ZEB/ZEH別 ZEB/ZEH別 断熱ガラス に分析 を分析 に分析 方 針 別に分析 ZEBを分析 技術優位性の 方式等による ハード・ソフトの 違いはあまり 観点より 観点より 存在しないため 市場・プレーヤが異なるため 開口部(ガラス) 方式別に LED照明を を分析 分析 分析 方式別に分析 ヒートポンプ式 領域ごとに を分析 まとめて分析 燃料電池コジェ ネは別章にて 方式別 に分析 保守・メンテ 市場・プレーヤ日常的にメンテ が異なるため が発生するのは ZEB/ZEH ZEBのため 市場・プレーヤが概ね共通のため プレーヤ 省エネへの 貢献度の大きいが異なるため システム 別章にて 分析のため本 別章にて LED照明 ヒートポンプ 分析のため 分析のため ― ― 章で を分析 本章では割愛 本章では割愛 式を分析 ガスコジェネ を分析 ZEB/ 領域別 に分析 ZEBを 分析 ZEH別 に分析 (出典)各種公開情報および事業者インタビュ等より Arthur D Little 分析 (2)バリューチェーンと主要なプレーヤの例 一般論として海外市場においては現地法規制への対応や設備設計会社との折衝など の“すり合わせ”が必要となるため、デベロッパ、建材、建設会社は現地の企業が強い。 一方で、コンポーネント、システムについては、日本企業を含む外資系企業の進出の余 地があり、日本企業にとってシステム分野への更なる進出が可能と考えられる。 バリューチェーンと主要なプレーヤ例 設計/開発 不動産 三菱地所 新Ascendas 三井不動産 住友不動産 現地プレイヤ ZEB 設計事務所 日本設計 英ARUP 日建設計 米Gale 久米設計 現地プレイヤ 建設会社 鹿島建設 韓サムスン物産 清水建設 仏 バンシー 大成建設 大林組 現地プレイヤ 竹中工務店 設備工事会社 高砂熱学工業 米APC 新菱冷熱工業 新日本空調 現地プレイヤ 大気社 関電工 住友電設 住宅メーカ セキスイハイム 米D.R. Horton 大和ハウス工業米Pulte Homes ミサワホーム 米Lennar Corp ZEH パナホーム 住友林業 コンポーネント 建設 現地プレイヤ 省エネ 創エネ 建材 (ガラス) 旭硝子 米Andersen 日本板硝子 仏サンゴバン YKK AP 現地プレイヤ (その他、断熱材) YKK AP PV シャープ 独Q-Cells 京セラ 中Suntech パナソニック 米First Solar 台Motech JFEロックファイバ 空調 (個別式:直膨個別分散式(ダクトレス)) ダイキン工業 中 美的 パナソニック 中 格力 三菱電機 コジェネ (セントラル式:ターボ、吸収式など) (ガスコジェネ) 三菱重工業 米キヤリア 米GE 川崎重工 米 ヨーク 川重冷熱工業 独 Scimens 三井造船 (地域冷暖房) リンナイ 高砂熱学 (燃料電池コジェネ) 照明 蓄電池 (LiB) 東芝 GSユアサ MHI エリーパワー 米A123 米SAFT 韓LG化学 中BYD (鉛蓄電池) 旭ファイバーグラス GSユアサ 古河電気工業 日亜化学工業 米Cree シチズン電子 独OSRAM opt スタンレー電子 蘭Philips Lumileds BAS/BEMS 山武 米Johnson Controls オムロン 三菱電機 米Honeywell 東芝 仏Schneider NTTファシリティーズ 独Siemens パナソニック 清水建設 米Johnson Controls サービス (保守・管理) BAS/BEMS 不動産 (ハード面) 三菱地所 三井不動産 住友不動産 米CB Richard Ellis (ソフト面) 日本設計 山武 米Johnson Controls (NAS) 日本ガイシ 給湯(ヒートポンプ、太陽熱(1) パナソニック 米Carrier 三菱電機 独Vaillant コロナ 独Viiessmann ダイキン工業 ノーリツ 前川製作所 東京ガス パナソニック (LED) システム 蓄エネ HEMS パナソニック 米Cisco 東芝 米SDGE 三菱電機 米Gridpoint NEC 英British Gas 大和ハウス工業 積水ハウス 大阪ガス 住宅メーカ セキスイハイム 大和ハウス工業 ミサワホーム 現地プレイヤ パナホーム 住友林業 ZEB/ZEH概ね共通 現地プレイヤが優勢 日本企業を含む外資系企業が健闘 欧米企業が優勢 現地プレイヤが優勢 (出典)各種公開情報および事業者インタビュ等より Arthur D Little 分析 (3)バリューチェーン毎の現状と課題 (ⅰ)設計・開発(ZEB) 設計/開発は現地法規制への対応(事業免許等)、設備設計企業とのすり合わせのため、 現地法人を作るなど強力な現地化が必要となり、外資系企業にとっては参入障壁が高く、 221 現地企業が有力なプレーヤとなっている。ただし、特に新興国においては、欧米企業が 古くから現地化を推進していること、都市開発の上流レイヤにおける知見/経験が豊富 な点から大規模都市開発/ビル設計案件で外資系企業の参入が見られる。日本企業も、 環境設計技術に強みを持ち、実績を積みつつある。 設計・開発(ZEB) (出典)各種公開情報及び事業者インタビュより Arthur D Little 分析 ARUP(英)はグローバルに展開する設計コンサルティング会社であり、都市開発計 画レベルのコンサルティングから、インフラ・ビルのデザインまでをサービス提供して いる。 222 企業ベンチマーク:英 ARUP (出典)日経ビジネス 2010.9.6、日経新聞 2011/3/4、日経ビジネスオンライン 2010/9/7 などより Arthur D Little 分析 Asendas(シンガポール)は同国通産省外郭機関の子会社であり、不動産において、 マスタープランなど開発管理から、不動産管理・不動産ファンドといった複合的な事業 を行っている。 企業ベンチマーク:星 Ascendas (出典)同社 web ページおよび各種二次情報等より Arthur D Little 分析 223 (ⅱ)建設(ZEB) 国ごとに建築規制などが細かく異なるため、建設会社も現地企業が有力だが、特に新 興国においては、大規模都市開発/ビル設計案件で外資系企業の参入が見られる。 建設(ZEB) 市場動向 主要プレイヤの動向/事例 • 建設会社は現地化が原則 市 場 規 模 ‒ 原則として建設会社は現地の企業が受注 する傾向 • 一部外資系企業参入の余地あり ‒ ZEB/スマートビルなど、高度な建設技術 が求められる場合や、都市開発のマスタ ープランなどが求められるケースにおいて は、一部外資系企業の参入が見られる サムスン物産 後述 清水建設 後述 • 仏バンシー、サムスン物産など 競 争 環 境 日 本 企 業 の 競 争 力 ‒ 原則としては設計/開発ベンダは現地の企 業が受注する傾向 • 一部外資系企業参入の余地あり ‒ ZEB/スマートビルなど、高度な設計技術 が求められる場合や、都市開発のマスタ ープランなどが求められるケースにおいて は、一部外資系企業の参入が見られる • 耐・免震技術、工程管理、品質管理、 高齢化対応(バリアフリー) ‒ 耐・免震技術及び、プロジェクト工程通りに 遂行すること、また品質についても日本企 業に優位性がある (ただし耐・免震技術 は近年中韓の追い上げあり) • 省エネ建設の最先端技術 ‒ 省エネ建設の最先端技術は日本企業に 分があり、海外のフラッグシップ案件での( 技術的な)受注可能性はある 成功要因 • 現地(海外)の実情に合わせた必要十分なスペックの建設技術 ‒ 現地の実情に合わせたハイスペックかつローコストな省エネ建設技術の提供が求められている。 • オペレーションまで含めたトータルソリューションパッケージ ‒ 特に新興国においては建設後のオペレーションノウハウが少ないため、施工後の運営管理まで含めたトー タルソリューションは魅力的に映る傾向 (出典)各種公開情報及び事業者インタビュより Arthur D Little 分析 サムスングループの母体企業であるサムスン物産(韓)は、事業権を確保して競争入 札を避けて案件を獲得しながら、優れた技術力をもとにした高付加価値を提供し、海外 での事業展開を行っている。 企業ベンチマーク:韓サムスン物産 (出典)サムスン物産 web ページ等より Arthur D Little 分析 224 清水建設は、ZEB 市場に対してスマートグリッドの切り口から参入を図っている。 海外展開実現でポイントとなる“トータルの売り込み”について、プロジェクト企画支 援の必要性が指摘されている。 企業ベンチマーク:清水建設 (出典)ECO JAPAN”建設会社が目指すスマートグリッド像とは ” (清水建設 技術戦略室長 矢代嘉郎・常務執行役員 へのインタビュ記事より Arthur D Little 分析 (ⅲ)住宅(ZEH) 日本の住宅メーカは高品質な工業化住宅や、高度に集積した都市に対応した省スペー ス性に優れた住宅を供給してきた。さらに近年では環境性能も向上させてきたが、海外 市場に展開するためには販路の確保が必要となるため、これまでは国内中心の活動が続 いてきた。 しかし、昨今の国内市場の縮小、及び海外における環境配慮型住宅ニーズの増加を受 けて、国内の大手メーカを中心に海外展開の動きが見られる。 なお、ZEH は戸建住宅と集合住宅に大別され、戸建住宅は主にハウスメーカが提供 しており、集合住宅は建設会社を中心に一部ハウスメーカも提供している。海外展開に ついてはハウスメーカが戸建・集合住宅ともに積極展開している。建設会社は大手を中 心に ZEB/ZEH 一体での海外展開を目指している。 225 住宅メーカ(ZEH) (出典)各種公開情報及び事業者インタビュより Arthur D Little 分析 韓国政府は、2009 年の省エネ基準に比べて、2012 年に 30%、2017 年に 60%基準を 強化し、2025 年には ZEB/ZEH を実現する基準を義務化する方針を提示した。これと 軌を一にして、2009 年にサムスンも自国技術を多く活用した韓国初のゼロエネルギー 住宅「グリーン・トゥモロー」を建設し、ショールームとして公開を行っている。 226 サムスンによる ZEH の取組 Green Tomorrow(延床面積:420㎡) 標準的な住宅とのエネルギー消費量の比較 (出典)Green Tomorrow ウェブサイトより NRI 分析 また海外では、Bosch(独)が自動車部品メーカとしての環境技術を ZEH 産業に展 開している。 その一つの取り組みとして、米国 DOE がメインスポンサーとなっている、ZEH 設 計競技のソーラー・デカスロン(デカスロンは十種競技の意、2 年に 1 回の頻度で実施) に参画している。 具体的には、競技が開催された当初から、有力参加者のスポンサーとして Bosch の 技術のスペックインを図り、2007 年には優勝、2011 年からは、ソーラー・デカスロン そのもののスポンサーを担うことで、ZEH に関する標準としての地位確立を目指して いる。 227 ZEH 産業における Bosch の取り組み (出典)Bosch HP、Solar Decathlon HP、その他二次情報及び事業者インタビュより Arthur D Little 分析 (ⅳ)建材 建材市場については、住宅・建築物の断熱性能に大きく影響する開口部(=主に窓) を対象に検討する。 ガラス、サッシ、カーテンウォールにおいて、専業メーカやバリューチェーンをまた がるメーカが存在するほか、企業間での提携も行われている。 なお、断熱ガラスの採用が義務化されている地域とそうでない地域では、普及率に大 きな差が生まれている。(欧米先進国では新築での断熱ガラスの設置がほとんどの国で 義務付けられているほか、エネルギー効率のより優れた Low-E 複層ガラスの設置も義 務付けられている場合が多い。 ) 既存住宅における Low-E 複層ガラスの普及率 出所:日本板硝子資料、2007 年実績 228 国内では住宅エコポイントの付与を契機として市場が拡大しつつある状態にあるが、 断熱ガラスの採用は義務化されておらす、仮に省エネ基準が義務化された場合には成長 余地は大きい。なお、地域の気候に合わせて省エネ基準が異なるケースがあり、寒冷地 域では断熱型のガラスが、温暖地域では遮熱型のガラスが用いられるなど、必要とされ る商材にも違いがみられる。 今後の展開としては、バリューチェーン統合を通じた収益性の向上、特に新興国にお ける販売チャネル確保による市場の拡大が期待される。 また、例えば高断熱の住宅では、時間帯や部屋ごとの温度差が減少し、快適性が高ま ることはもちろん、身体への負担も軽減され、疾病等の発生も抑制される。このような、 エネルギー以外の便益(ノン・エナジー・ベネフィット)を適切に評価し、顧客に訴求 していくことも重要である。 建材 (出典)2010 年 熱制御・放熱部材市場の現状と新用途展開、各種公開情報及び 事業者インタビュより Arthur D Little 分析 なお、カーテンウォールについては、台風の多い日本での知見を活かした高い耐風圧 性能は、日本企業の今後の強みとなり得る。 また、高層建築における窓に関して、震災後の節電要請により、外気を取り入れるこ 229 との出来るものが、評価されている。従来、高層階の窓は物の落下リスクの観点から開 かないものが多かったが、二重窓の内窓を開けられるようにすることで、物を落とすリ スクを回避しつつ、外気を取り入れることができるようになり、空調を使わず省エネが 可能となる。 (2 層のガラススキンと中間層から構成され、中間層内に多くの熱を吸収 させて外気導入による煙突効果で溜まった熱を排気することにより、その遮熱性能を発 揮する) このように外気を有効活用する技術も、欧米と異なる高温、多湿なアジアにおいて、 日本企業が競争力を持ちうると考えられる。 (ⅴ)空調機器 空調市場では、日系のダイキン工業が世界シェア 1 位になっており、環境性能の高い 高付加価値製品と、新興国市場向け低価格製品のラインナップを持ち、更なる拡販を進 めていく見通し。 また、欧州等各国で住宅・建築物の断熱性・気密性が向上してきた結果、暖房負荷よ りも冷房負荷が増大する傾向にある。この点、高温多湿な気候を持ち、ヒートポンプ等 の優れた冷房技術を開発してきた我が国企業にとってはチャンスであると考えられる。 空調機器 市場動向 主要プレイヤの動向/事例 • 空調機器市場(世界)は10年から20 年にかけ、年率5%で成長していく見 込み (兆円) 20 市 場 規 模 15 10 5 0 4 3 セントラル式 個別式(業務用) 個別式(家庭用) 1 1 1 1 1 1 6 1 6 5 5 5 5 4 4 4 5 5 5 09年 10年 11年 12年 13年 14年 15年 競 争 環 境 ダイキン工業 後述 キヤリア 後述 1 7 6 20年 個別式:直膨個別分散式(ダクトレス) • ダイキン、パナソニック、三菱電機 • 美的、格力(中) セントラル式:ターボ冷凍機、チリング ユニット、吸収式冷凍機 • 三菱重工、川崎重工 • キヤリア、ヨーク(米) (地域冷暖房) • 高砂冷熱 など 日 本 企 業 の 競 争 力 • ダイキンは空調分野で、世界シェア1 位 • 環境性能要求の高まりにより、高い省 エネ性能(インバータ式エアコンのコン トロール技術)を持つ日系各社の優位 性が際立っていく 成功要因 • 高い省エネ性能の実現 • リスクを取っての海外市場への本格進出・現地販社設置 • 普及市場向け製品開発を目的とした新興国企業との提携 (出典)各種公開情報及び事業者インタビュより Arthur D Little 分析 注:本項における方式分類の定義として個別式(家庭用)は壁掛け式で一般住宅向けに設置される 機器を対象とし、ウィンド型、小型セパレート型、家庭用マルチエアコンを含む。個別式(業務用)は 主に事務所・店舗等のビル用に設計されたエアコンであり、中・大型のセパレート型やリモートコンデ ンサ型、シングルパッケージ型及びビル用マルチシステムを含む。なお、米国でいうユニタリーエアコ 230 ンも含む。セントラル式はターボ冷凍機、チリングユニット、吸収式冷凍機を指す。 ダイキン工業は高い省エネ技術を武器に、企業買収を活用しながらグローバルで事業 を拡大してきた。近年は新興国市場開拓に向けて現地メーカとの提携を通じたコスト競 争力の強化も図っている。 ベストプラクティス:ダイキン工業 企業概要 競争力の源泉 • 空調機・化学品の大手で、海外事 業比率約62%のグローバル企業 高い省エネ性能 • ヒートポンプ暖房・給湯器の省エネ性が評価され、 2011年のASHRAE ExpoにおいてGreen Building 部門で最優秀賞を受賞 部門別売上高 買収を活用した グローバル事業展開 • アプライド事業の商品力・技術力強化、また北米での 販路強化によるビル用マルチエアコンの事業拡大を めざし、北米に拠点を持つ空調企業であるマッケイを 傘下に持つOYLを買収 • 中国のエアコン最大手・格力電器と普及市場向けエ アコンを共同開発し、新興国市場を開拓 新興国プレーヤとの • その際、技術流出に留意しつつ、省エネのコア技術 提携を通じた であるインバータ制御技術を提供 コスト競争力強化 • 代わりにローコスト設計ノウハウや資材、部品の共 同調達によるローコスト化により、強い価格競争力を 獲得 (出典)各種公開情報及び事業者インタビュより Arthur D Little 分析 キヤリア(米)は、世界のメイン市場である北米を基盤とし、空調機器世界シェアト ップに長年君臨してきたが、ついに 2010 年ダイキン工業にトップを明け渡した。キヤ リアは、小型エアコン等のラインナップ不足を提携でカバーし、グローバルでの販売チ ャネルを武器に巻き返しを図っている。 231 企業ベンチマーク:米キヤリア (出典)各種公開情報及び事業者インタビュより Arthur D Little 分析 さらに、地域冷暖房のような大規模空調プラントに目を向けると、ターボ冷凍機・吸 収式冷温水器などのコンポーネントについては三菱重工、日立アプライアンス、川重冷 熱工業など強力なプレーヤが存在する。 また、これらの設備工事に関しては高砂熱学などの国内プレーヤが、市場拡大が見込 まれる海外市場にて、コンポーネントの競争力や施工における技術力を起点に事業展開 を実現している。 特にアジアで求められる地域冷房については、暖房が主流である欧米系プレーヤに比 して日本プレーヤに勝機があると考えられる。 競合プレーヤとしては、シンガポールに Keppel DHCS(DHC:地域冷暖房)という地 域冷暖房プロバイダーが存在し、2010 年 5 月には中国の企業との契約の下ジョイント ベンチャーを設立し、天津市のエコシティのプラント立上げに参画するなど存在感を示 している。 232 地域冷暖房などにおける空調機器国内事例:高砂熱学 高砂熱学、海外事業を倍増-次期中計でアジア拠点強化 地域冷暖房にて 競争力あり • 高砂熱学工業は2012年3月期からの次期3カ年中期経営計画で、最終年 度に海外売上高を現在の110億円の倍増以上に引き上げる数値目標を盛 る方針を固めた • 国内の空調設備投資が伸び悩む中、中長期的に東南アジアの成長が見込 めると判断し、既存の海外拠点の増員などによって事業基盤を強化する。 2010年12月14日 日刊工業新聞 海外展開に注力 • 東南アジアを中心に、 海外に展開 (シンガポールの)ビル系ではビルごとではなく地域冷房システムを採用するケース が増えている 2011年05月30日 化学工業日報 • 地域“暖房”ではマザーマーケットを持つ欧州系プレーヤが強いが、アジアで求め られるのは地域“冷房” • この分野ではむしろ日本プレーヤに分があるのではないか 大手設計会社コメント (出典)各種公開情報及び事業者インタビュより Arthur D Little 分析 また、日本の省エネ製品や技術を世界に広める目的で設立された「世界省エネルギー 等ビジネス推進協議会」では、ベトナムで現地の大学・研究機関を巻き込んだ空調機器 の性能評価試験を実施している。日本製品の性能の PR、に加えて、日本の性能評価技 術を海外に普及し高性能な日本製品が正しく評価される土壌を作る効果も期待される。 (ⅵ)照明機器 照明分野では、高効率・低消費電力などの利点から LED への置き換えが進むため、 市場は長期にわたり成長を続ける見込みであり、今後数年以内に高効率蛍光灯をコス ト・発光効率の両面で追い抜く見通し。現在、日系企業が競争力を保持しているが、中 国・韓国・台湾などのメーカの参入による競争激化・低価格化が予想される。 233 照明機器 (出典)矢野経済 2010 年版 固体素子照明デバイス(LED&OLED)市場の現状と将来展望、 各種公開情報及び事業者インタビュより Arthur D Little 分析 なお、将来的には次世代照明として有機 EL も有望視されている。点発光の LED に 対して有機 EL は面発光で、透明、フレキシブルといった特徴を持ち、コストよりも、 形状・デザイン性を重視する用途では、有機 EL が利用されるなど、LED と有機 EL は今後棲み分けが進む見込みと考えられる。 ディスプレイを含めた有機 EL 全体の市場規模は、2015 年には 5,000 億円程、2020 年には 1.3 兆円規模の市場に成長する見込みであり、そのうち照明が占める割合はそれ ぞれ 13%、28%程度の見込みである。 こうした市場の立ち上がりに合わせて、有機 EL 照明の量産を開始・計画しているプ レーヤが増加している。 234 有機 EL 機器 (出典)The 18th Displaysearch Japan Forum 資料, 各種公開情報, 事業者インタビュ等より Arthur D Little 分析 (ⅶ)コジェネ(燃料電池コジェネについては 2.8 燃料電池産業参照) コジェネ市場は環境技術の導入に積極的な欧州・北米の先進国市場が中心となってい るが、今後はアジアの新興国においてもエネルギー政策・産業育成の両面から、エネル ギー効率の向上が求められており、コジェネの新規導入が進み、市場の成長をけん引す る見込み。現時点では市場シェアは細分化しているが、上位には世界の大手重工系プレ ーヤが位置している。 また、特に国内市場では、東日本大震災以降、非常時や災害時におけるエネルギーの 確保機能が一層重要視されており、分散型電源としてのコジェネシステムに対する更な る需要が期待できる。 235 コジェネ 市場動向 主要プレイヤの動向/事例 • 欧州・北米の市場が大きいが、今後 はアジアが成長をけん引する見込み 市 場 規 模 8 6 4 2 0 (兆円) 0.2 0.5 1.5 2.0 0.3 0.6 1.5 2.1 0.7 1.5 その他 2.0 アジア 2.9 川崎重工 北米 欧州 09年 10年 15年 • プレーヤが多く、市場は細分化してい る(09年) GE Alstom 競 争 環 境 その他 ABB 川崎重 工 Siemens Caterpill ar ヤンマー 三井造 船 Metso Finmecc anica エンジン(小型) • アイシン、ヤンマーなど エンジン(大型) • GEイエンバッハ、バルチラ、三菱重工 川 崎重工など タービン • 川崎重工、三井造船、IHI、アルストム など 日 本 企 業 の 競 争 力 • 蒸気タービンの性能が高く、海外での納入実績が多い 韓国の現代建設から蒸気タービン発電設備を受注(08年) • 現代建設が建設する発電所は、新興住宅地向けに熱および電力を供給する 設備 (地域暖房) • 韓国政府は大気汚染物質の低減を目的に天然ガス利用の地域熱電併給事 業を推進している • 造船での強みを生かし、川崎重工及 び三井造船がそれぞれ第3位、6位と 健闘 • また、自動車における強みを生かし、 中・小型のガスエンジンコジェネの性 能は世界最高水準にある (小型機連 結で高効率を実現するヤンマー、出 力変動型エンジンのアイシンなど) 三菱重工 • ガスエンジンコジェネ市場の草分け的メーカ。東京ガスとの共同研究により、 高効率な(ミラーサイクルを搭載した)ガスエンジンコジェネを世界最初に販売 • 以降も小~中型分野に強みを持つ • 中規模以上の需要家に対しても、小型機の複数連結により高効率のシステ ムとして対応可能。 (定格運転時が本来最も効率が高いとされるが、需要量 が変動すると部分負荷運転になり効率が落ちる。それを小型機の連結で解 決し、効率を向上する) • 中国においてホテル(NEDO国際エネルギー消費効率化等モデル事業 民生 (ビル)省エネモデル事業の一環)、病院への導入実績を持つ • 三菱重工業は、中国の大手発電会社である華能国際電力向け熱電併給ガス タービン・コンバインドサイクル(GTCC)の主要設備を受注 • 技術移転先の重電機器メーカー、東方タービンを通じて受注した • 今回の熱電併給GTCC建設は、北京近郊に計画されているプロジェクトで、 夏場の電気出力約92万キロワット、冬場の同約83万キロワットに加え、熱併 給量約66万キロワット相当と、中国・首都周辺の電力と熱需要に応える • また三菱重工と東方タービンの合弁会社で、6年間のガスタービン長期メンテ ナンス契約も受注。三菱重工が高温部品を供給し、三菱重工東方燃気輪機 が補修を担当、東方タービンが定期検査の指導員を派遣する 成功要因 • 大型市場はプラント建設のように“総合力”が必要とされる世界 特定の性能(ガスタービンエンジンの効率など)に加えて、現地での施工管理も含む総合力 が肝要 (海外案件では過去に大幅な赤字を出したケースも散見され、日本の重工メーカー にとって大きな課題) • それに比して、中・小型市場では、製品の性能に加えたシステムとしての高効率化の実現が 肝要(定格運転時が本来最も効率が高いとされるが、需要量が変動すると部分負荷運転に なり効率が落ちる。それを小型機の連結で解決し、効率を向上するなどが強みとなる) (出典)BCC Research「Green Technologies and Global markets」, 各種公開情報及び事業者 インタビュより Arthur D Little 分析 なお、住宅用のマイクロガスエンジンコージェネレーション(エコウィル)について は、ホンダが 2003 年より国内市場投入を行い、2007 年に米国、2011 年に欧州で販売 を開始し、市場開拓を進めている。 (ⅷ)ヒートポンプ式暖房・給湯器 ヒートポンプとは、周辺環境中の空気熱や地中熱を用いて熱媒体の気化熱および凝縮 熱の過熱・冷却を行う機器であり、本項では暖房・給湯用途について扱う(空調用途に ついては空調機器として前述)。 ヒートポンプ式暖房・給湯器のうち、空気熱を用いるものは、機器の設置が容易であ るが寒冷地においては効率が低下しやすいという課題を持つ(ただし最近は寒冷地対応 の機器も開発・展開されている) 。他方、地中熱は年間を通して安定した温度(15 度前 後)のため寒冷地でも効率よく使用できるが、地中 100 メートル前後の掘削作業が必 要になり、設置コストが高いという課題を持つ。(最近では、建物の構造体である地中 杭を活用する方法などコストを下げる工夫も見られる。) 市場規模としては、現在は地中熱利用ヒートポンプの方が大きくなっているが、今後 236 は性能の向上を背景として、より設置の容易な空気熱利用ヒートポンプ市場が大きく成 長していく見込みである。 地域としては、欧州が一定のヒートポンプによる熱利用を再生可能エネルギーとして EU 指令に位置づけており、今後大きく成長していくと考えられる。また製品の特長と して、日本製ヒートポンプ給湯器は欧米製よりもエネルギー効率に優れ、低ランニング コスト化にもつながっている。また、冷媒に使われているガスが、欧米では R410A と いう代替フロンを使用しており地球温暖化係数が高い一方、日本は自然冷媒(CO2)を 使ったヒートポンプを他国に先駆けて製品化しており、環境性能でも優れている。 日本国内では上記の自然冷媒を用いたヒートポンプ給湯器が普及しているが、海外市 場へ展開する際には現地化対応が必要となる。具体的には、国内では浴室給湯用途を主 として比較的低温の温水を利用するのに対し、欧米ではラジエータを用いた暖房用途が 主となり、より高温の温水が必要となる。従来はボイラーが主流であったが、今後はこ のリプレース需要が期待される。 ヒートポンプ式暖房・給湯器 237 (出典)各 BCC Research「Energy-Efficient Technologies: The Global Market」 、 各種公開情報及び事業者インタビュより Arthur D Little 分析 (ⅸ)システム“BAS/BEMS”(ZEB) BAS/BEMS*市場は特に中国・インド・東南アジアなどで成長が見込まれているが、 現状欧米大手の市場シェアが高い。 海外市場への参入の最大の要件は、現地デベロッパとのつながりがある地場プレーヤ の囲い込み(チャネルの確保)と考えられ、欧米プレーヤはそこに注力してきた。 BAS/BEMS*:BEMS とは Building and Energy Management System の略であり、室内環境とエネル ギー性能の最適化を図るためのビル管理システム。BAS とは、Building Automation System の略であり、 ビル内の空調の状態監視・照明のON-OFF・電力量などの情報管理や自動制御を行うためのシステム。 BAS/BEMS(ZEB) (出典)Energy Management Information Systems:Global Markets BCC Research(2010/10/1) 各種公開情報及び事業者インタビュより Arthur D Little 分析 Schneider(仏)は近年、インドの地場メーカ買収や人材強化により、ZEB 向け事業 展開を加速している。 238 海外プレーヤ動向:Schneider のインドにおける動向 事業内容 コンポーネント インドでの主な事業変遷 •1963年:Tata MGとJV設立 •1995年:100%現地法人設立 •2009年:現地CONZERV社買収 •2010年:現地Zicom社セキュリティシステム事業買収 システム BEMS BAS センサー・RFID ESCO 自動化システム 電源設備 照明制御システム セキュリティシステム プログラマブルコントローラー ZEBへの取り組み モニター •インドにおけるZEB事業強化に向けた人材の増強も行っている セキュリティシステム ESCO •省エネシステムからH/Wまで手掛ける現地CONZERV社を09年に買収 -エネルギーマネジメント産業において、200億ドル売り上げるグローバル企業であ るSchneiderは、Bangalore-based Conzerv Systemsというインドマーケットに影 響力のあるプレーヤを獲得することを決定した -Schneiderの発表によると、インドのエネルギー市場の急速な成長による機会へ の取組強化を謳っている •2010年には現地Zicom社のセキュリティシステムを買収 (出典)Schneider Electric HP 他より Arthur D Little 分析 日系プレーヤでは、山武がシステムから末端の制御機器までを対象に、開発・製造か ら、設計提案・工事、運用管理、保守・改修までトータルサービスを提供しており、国 内市場で高いプレゼンスを有している。この製品・サービスを海外展開すべく、まずは シンガポールにて実績を作り、その後、気候が近しい東南アジアへの展開を計画してい る。 国内プレーヤ動向:山武の動向 提供製品・サービス概要 BEMSと建物計装のシステムから末端の制御機器まで自社で 開発・製造.建築における設計提案から工事,運用管理での保 守,改修までトータルに提供 B E M S シ ス テ ム E S P サ ー ビ ス エネルギーデータを収集・管理するシステムとしてBEMS を構築。施設内のエネルギー機器や居住環境・生産環境 の情報を集中管理 • 広域ネットワークへ接続することによって、遠隔でのサー ビスも可能 • • BEMSによるBOFD(Building Optimization Fault Detection Diagnosis)運用の誤りの検出、運用方法是 正による省エネルギー、居住環境の改善といったマネジ メント業務を提供。 体制構築と海外展開 電子制御システム大手ハネウエル社と長期間にわたり提携関係にあ ったが、解消 • 1906年 山武商会を創立(欧米工作機械類を輸入・販売) • 1952年 ハネウエル・インコーポレイテッド(米国)と技術提携契約を 締結 • 1953年 ハネウエル社と資本提携(出資比率:50%) • 1990年 ハネウエル社が出資比率を50%から24.15%に変更し、包 括提携契約となる • 2002年 ハネウエル社から自己株式を取得して資本関係を解消 シンガポール現地法人を通じて、周辺各国への販売拡大を目論む • 数年前から日本で展開しているエナジー・データ・サーバー(EDS) と呼ばれる、大型ビルでエネルギーの最適化が図れるITシステム を投入。建物のオートメーション事業に環境ソリューションという付 加価値を加えることで、東南アジアにおける同事業の拡大につなげ る考え • 同国での販売価格は建物の規模によるが1,000万円からで、「年間 数億円規模の電気代を1~3割ほど低減できるため導入による費用 対効果は高い」。今後もセントラル空調システムを備えた大型のビ ル、工場、病院、ホテル、中長期滞在型住宅(サービスアパート)を ターゲットに、これらの開発を手掛ける地場不動産業者からの受注 を増やし、年間10~20カ所の納入を目指す • シンガポールでの実績を周辺各国での販売拡大に生かすことも考 えている。タイ、フィリピン、マレーシア、インドネシアなど東南アジア 特有の気候を持つ国では、オフィスのエネルギー管理方法が似 通っている。このためシンガポールで導入済の顧客データを解析し ながらソフトウエアなどに改良を加え、域内市場に適した空調シス テムの構築に役立てる (出典)山武 HP 他より Arthur D Little 分析 239 (ⅹ)システム“HEMS*”(ZEH) HEMS は住宅の管理システムの一種であるが、今後仮に HEMS がホームオートメー ションとして、エネルギーマネジメントに限らず、セキュリティ等の複数機能を含む統 合型システムになっていくとすれば、機能提供・開発のためのプラットフォームの構 築・育成が重要となる。 HEMS*:Home Energy Management System(ホームエネルギー管理システム)の略。家庭における エネルギー管理を支援するシステム。住宅内のエネルギー消費機器をネットワークで接続し、 稼動状況やエネルギー消費状況の監視、遠隔操作や自動制御などを可能にしている 一方、東日本大震災後、安定的なエネルギーに対するニーズが高まった日本において は、エネルギー特化型システムの市場拡大の可能性が出てきている(蓄電池との複合シ ステム等など、詳細後述) 。 HEMS(ZEH) (出典)MarketsandMarkets「Global Smart Homes Market 2010」 各種公開情報及び事業者インタビュより Arthur D Little 分析 なお、エネルギー特化型システムの萌芽が見られるのは国内に限られない。例えば、 イギリスのベンチャー企業である ALERT ME は、機器ごとの電力消費状況のモニタリ ングおよび電源のオン・オフを、屋外から携帯電話を通じて遠隔操作するサービスを提 供している。 240 日本ほど省エネが進展していない地域においては、 「雑巾の絞りしろ」が大きいため、 こうしたサービスを用いることにより、一世帯当たり数万円/年の省エネ効果も実現可 能であり、HEMS の投資回収も可能となる。 HEMS(ZEH) 主要プレーヤの動向:ALERT ME (出典)各種公開情報及び事業者インタビュより Arthur D Little まとめ 他方、統合型システムを提供しているプレーヤとしては Control4(米)が挙げられ る。同社はエネルギーに関する制御機能を、消費者を引き付ける一要素として捉え、出 資元のシスコシステムズと戦略的提携を果たし、プラットフォームの構築・発展を企図 している。 241 HEMS(ZEH) 主要プレーヤの動向:Control 4 (出典)各種公開情報及び事業者インタビュより Arthur D Little まとめ このホームオートメーションにおいては、エネルギーマネジメントのほか、セキュリ ティ、家電制御等の機能毎に別々の制御用の機器が導入される可能性がありうる。 そのため、エネルギーマネジメント目的で導入されたスマートメータ等が、他の機能 も取り込んでいく、あるいは別の目的で導入されたホームサーバや PC、ルータ等が逆 にエネルギーマネジメント機能も取り込んでいく、といった形で進展していくことも考 えられる。 ホームオートメーションとエネルギーマネジメント進展の方向性 242 (出典)各種公開情報及び事業者インタビュより Arthur D Little 分析 こうした状況の中、我が国プレーヤとしては、震災後、太陽光発電・燃料電池・蓄電 池などを付設した系統のみに依存しない住宅へのニーズが高まっている国内市場にて、 まずはエネルギーマネジメントを重視してシステムを構築し、系統が不安定なインドや 中国などへの海外展開を図ることが考えられる。 その際、継続的な収入が見込める保守メンテナンスなどのビジネスモデルを構築し、 収益に繋げることも想定される。実際に国内外で実証事業を行っている日系プレーヤの 例としてはパナソニックが挙げられる。 企業ベンチマーク:パナソニック パナソニックによるエコタウン事業 国 内 • パナソニックは、神奈川県藤沢市の工場跡地に総額600億円をかけてスマートシ ティを建設する構想を明らかにした 海 外 • パナソニックは1日、シンガポール政府と共同で、既設の公営集合住宅の省エネ化 のための実証プロジェクトを12年1月に始めると発表 • 電力需要のピーク時に各住宅のエアコンの運転を自動的に抑えたり、太陽電池と蓄 電池で共用部分の照明やエレベーター等の電力を賄うなどの実証試験を2年間行う • 同国北東部で集合住宅1棟(約100戸)の全戸に電力、ガス、水道の使用量が分か るスマートメーターや外部から運転を制御できるエアコンを設置 • 電力需要のピーク時に電力会社の求めに応じて、エアコンの消費電力を75%に抑 え、家庭の消費電力量の10%削減を目指す • パナソニックは実験終了後、同国全域でのシステム受注を目指すとともに、東南アジ アでの省エネ化の一括提案事業の拡大につなげる (出典)各種公開情報及び事業者インタビュより Arthur D Little 分析 (ⅺ)CEMS(コミュニティエネルギーマネジメントシステム) ZEH, ZEB 単体に加え、ビル間・地域レベルでシステムを導入することにより、効果 的なエネルギーマネジメントを行うことが考えられるが、この場合システムがより複雑 かつ高度なものになるため、我が国企業のシステム化の強みを発揮できる可能性がある。 243 CEMS の提供価値 CEMSの提供価値 • 対象地域の需要家側の機器のエネ ルギー使用量や余剰量の調整 • 需要家側の機器を制御することに より、機器のエネルギー使用量の 調整(抑制、使用の時間シフト*、使 用の場所シフト* )やエネルギー余 剰量の調整を行う • 需要家に、エネルギー使用量や余 剰量の実績情報もしくはそれを加工 した情報(計画情報や予測情報等 を含む)を提示することにより、需要 家側の機器のエネルギー使用量や 余剰量の調整を期待する *使用の時間シフト: エネルギーを使用する時間帯をずらす *使用の場所シフト: エネルギーを使用する場所をずらす (出典)経済産業省資料より これまでに国内で実現されているエネルギーの面的利用の事例としては、地域熱供給 を行っている丸の内熱供給が挙げられるが、CEMS の導入事例は未だ無く、主に実証 実験の段階にある。 エネルギーの面的利用事例 対象エリア 主な取組み内容 実 施 中 過 検去 討に 中実 証 ・ 皇居 • 地域冷暖房 大手町から丸の内、有楽町、内幸町・西新橋に かけての一帯と港区青山に熱供給 • 中水道事業 洗面・給湯等に使用された上水を再生処理し、 便所洗浄専用の『中水』として各ビルに循環・ 供給することで、限りある水資源の効率的な使 用を実現 • 太陽光発電 NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構 )との共同プロジェクトとして、平成15年より太 陽光発電のフィールドテストを実施 • その他、燃料電池や未利用エネルギーの活用 など (出典)各種公開情報及び事業者インタビュより Arthur D Little 分析 国内では「次世代エネルギー・社会システム実証」の一環として、横浜市でメガソー ラ・家庭・公共産業用太陽光発電システムと定置用蓄電池を連携させた出力変動の吸収 を目指す実証実験が行われているほか、海外(ドイツ)では、太陽光・風力・バイオマ ス発電および家庭の電力需要を統合管理する実証実験が行われており、商用ベースでの 展開はこれからといった段階である。 244 国内(横浜市)の CEMS 実証実験事例 (出典)新成長戦略~「元気な日本」復活のシナリオ、各地域マスタープランより Arthur D Little まとめ 海外(ドイツ)の CEMS 実証実験事例 (出典)RegModHarz HP、energiepark-druiberg HP、European Energy Review( July / August 2009 ) より Arthur D Little まとめ (ⅻ)保守・管理(ZEB) ZEB の省エネ・環境性能が発揮されるか否かは、建設時よりもその運用時において どれだけ適切な保守・管理を行うかにかかっていると言っても過言ではなく、ハード面 だけではなくソフト面での対策が重要である。 245 保守・管理において世界で最もプレゼンスが高い企業の一つに、CB Richard Ellis (米)が挙げられる。同社は、商業用不動産管理会社で世界第 1 位(管理面積ベース) となっており、世界中に所在する 300 個所を超える拠点を通じてサービスを行ってい る。 CB Richard Ellis は、世界各地の拠点を活かし、各国マーケットに精通していること に加え、メンテナンス・エンジニアリングサービスだけでなく、不動産コンサルティン グ等の包括的なサービスを用意することで、グローバル企業や各国政府に対する戦略的 不動産アドバイザーとしての地位を構築している。 保守・管理(ZEB)の海外プレーヤによる取り組み:米 CB Richard Ellis 地域×提供サービスを網羅的に押さえる 各 へ国 のマ 精ー 通ケ ッ ト 包 括各 支種 援サ 体ー 制ビ 構ス 築 海外展開の包括支援 •各国最大級の事業用不動産データ ベースを保有し、不動産マーケットに 関するマーケット調査を実施し、空室 率・賃料水準などを広く公表 •例えば、日本では、シービー・リチャ ードエリス総合研究所、という企業を 創設している •テクニカルサービスとされるメンテナ ンス・エンジニアリングサービスだけ でなく、包括的なサービスを提供可 能な体制を持つ •不動産オーナーへの各種資産関連 報告から分析、コンサル業務、など 多岐に渡るサービスを包括支援 •xxxxx-00jpn.xxxx.mmddyy •グローバル企業の包括的パート ナーとして支援 - 日産ヨーロッパの戦略的不 動産アドバイザーにシービ ー・リチャードエリスを選定 (出典)CB Richard Ellis 社 HP など二次情報より Arthur D Little 分析 なお、保守・管理サービスはセンサー・ネットワーク技術の活用により遠隔地モニタ リングによるサービスの提供も可能であるため、技術力・ノウハウに長けた日系プレー ヤによる海外展開のチャンスもあると考えられる。 246 保守・管理(ZEB) ハード面 ソフト面 • ビルの運用に関するコンサルティングを実施 (エネルギー・環境面について。テナント管理等と は異なる) • センサー・ネットワーク技術の活用により、遠隔地 からのデータ収集が可能であるため、海外のビル 管理を行う際に、日本にオフィスを構えつつモニタ リング・コンサルティングサービスを提供 ⇒検査結果に対しては、月に1回程度対象ビルの管理 者とセッションを持つことにより効率的な運用方法の 実施を支援することが可能 • • ビル設備に関する保守・管理を実施 ビルのある“現場”で検査・修繕等を行うため、海 外のビル管理を行うには、現地にオフィス・人員を 配置することが必須 ⇒検査結果によっては資材等を調達して現場で修繕 作業を行う 主に地場プレーヤの仕事 日本を含む海外プレーヤも提供可能な仕事 (出典)Energy Management Information Systems:Global Markets BCC Research(2010/10/1) 各種公開情報及び事業者インタビュより Arthur D Little 分析 例えば、東芝は遠隔空調省エネサービスによって、東南アジアや中東への進出を計画 している。ビジネスモデルとしては、センサー設置などの費用を東芝が負担し、顧客は サービス料として年間数百万円を支払う仕組みが検討されており、初期投資コストを下 げたいビルオーナーのニーズに対応している。 保守・管理(ZEB)の国内プレーヤによる取り組み:東芝 (出典)東芝レビューなど二次情報より Arthur D Little 作成 247 3.経済波及効果・雇用分析 (1)拡大する世界市場におけるシェア獲得 1%あたりの国内への経済波及効果 ZEB/ZEH の世界市場は今後増加していくことが予測されており、2020 年には ZEB が 27 兆円、ZEH が 26 兆円にまで拡大するとされている。 急伸する世界市場に対して、日系プレーヤがシェアを追加獲得した場合の 1%あたり の国内経済波及効果について試算を行った。 世界シェア追加獲得 1%あたりの経済波及効果 ZEB産業で 2020 年に世界シェア 1%(2,700 億円)を追加獲得した場合の経済波及 効果 生産誘発額 付加価値誘発額 雇用誘発者数 4,864 億円 3,789 億円 3 万 1,809 人 ZEH産業で 2020 年に世界シェア 1%(2,600 億円)を追加獲得した場合の経済波及 効果 生産誘発額 付加価値誘発額 雇用誘発者数 4,911 億円 3,067 億円 3 万 3,840 人 (出典)帝国データバンク分析 248 4.有効施策方向性の議論 今後の産業を検討する上で、重要性の高い論点として大きく以下の 3 点が想定される。 ZEB・ZEH 市場における競争環境 コンポーネント 設計/開発 建設 システム 省エネ High-endかつ上流(ビル基本構想)の場合 欧米系企業が主力 ZEB 現地プレイヤ が主力 市 場 の プ レ イ ヤ ①構想段階からの事業参画 シンガポールのAscendasで見たように、 事業の構想段階から事業に参画していく 取り組みを強化していくことも有効と考えら れる 創エネ 蓄エネ サービス (保守・管理) 欧米企業(Siemens、Johnson Controls、Schneider・・・) • 機器単体からビルシステムまで垂直統合で事業を展開 • 機器単体事業からの上流シフトと、ビルシステムからの下流シフトの双方が存在 • 地場メーカのM&Aを通してVCの水平展開も実施 現地プレイヤ が主力 韓国/新興国プレイヤ 韓国/新興国プレイヤ 韓国/新興国プレイヤ ②複合システム開発・実証 (中・インド企業) (中・インド企業) (中・インド企業) 省エネ機器に限らず、例えば再生可能 エネルギーや蓄電池、それらを統合する エネルギーマネジメントも含めた高度な 複合システムについて、スマートコミュニ ティの実証等を通じて推進していく必要が あるのではないか 日本企業 (主戦場) ZEH High-endには欧米系企業が着手し始め 現地プレイヤ が主力 市 場 の プ レ イ ヤ 韓国/新興国プレイヤ 韓国/新興国プレイヤ 韓国/新興国プレイヤ (中・インド企業) (中・インド企業) (中・インド企業) ③ZEB・ZEHの具現化 韓国のサムスンで見たように、実際に ZEB/ZEHを具現化することによって、個 別の省エネ機器が全体システムと協調 してどのようなベネフィットをもたらすか を具体的に示していくことも、顧客獲得 の上で有効と考えられる 未 参 入 韓国/新興国プレイヤ 韓国/新興国プレイヤ 韓国/新興国プレイヤ (中・インド企業) (中・インド企業) (中・インド企業) 迫りくる韓国/新興国プレイヤ (出典)Arthur D Little 分析 ZEB/ZEH 産業論点 論点の背景 事 構 業か想 参ら段 画の階 ZEB ZEH 検 討 テ ー マ ZEB/ZEH産業を展開するに際しては、シンガポールのAscendasで見たように、事業の構想段階から 事業に参画していく取り組みを強化していくことも有効と考えられる。 我が国の設計事務所等も都市開発のマスタープラン業務等で海外展開を進めているところであるが、 このような取り組みと我が国産業群が連携することによって、新たな市場を開拓できる可能性があるの ではないか。 また、スマートコミュニティ・アライアンスや世界省エネルギー等ビジネス推進協議会といった官民 フォーラムについても、 今後更に有効活用していくべきではないか。 の 具 現・ 化 韓国のサムスンで見たように、実際にZEB/ZEHを具現化することによって、個別の省エネ機器が全体 システムと協調してどのようなベネフィットをもたらすかを具体的に示していくことも、顧客獲得の上で有 効と考えられる。 我が国産業としても、国内はもとより、海外においてもこのようなデモンストレーションを積極展開して いくことが必要ではないか。 また、実証事業等の施策についても、技術にとどまらず、ビジネスモデル構築まで見据えた有効活用 が必要ではないか。 複 開合 発シ ・ 実ス 証テ ム 我が国産業を個別機器レベルで見ると、省エネ性能等で優れたものが多く存在する。今後、更なる事 業展開を進めていくに際して、単なる機器販売による価格競争を避けるためには、システム販売を指向 していくことも有効と考えられる。 そこで、省エネ機器に限らず、例えば再生可能エネルギーや蓄電池、それらを統合するエネルギーマ ネジメントも含めた高度な複合システムについて、スマートコミュニティの実証等を通じて推進していく必 要があるのではないか。 249 3.ファイナンス これまで見てきたとおり、「新たなエネルギー産業」は急激に成長しており、巨額の 資金調達が必要となる見通しである。他方、技術革新のスピードが速いこと、未だコス トが高く事業性が厳しいこと等、金融機関が資金を供給する際にハードルが高い場合も 多い。ファイナンスはこの産業に共通の主要課題といえる。 現在、日本政策金融公庫、中小企業基盤整備機構、低炭素機構、産業革新機構、国際 協力銀行、国際協力機構、日本貿易保険等の各機関が、国内・海外向けの投融資やリー ス保険、貿易保険等のファイナンス支援を提供している。実際に、海外における太陽熱 発電事業において貿易保険が活用される等、当産業関連案件の活用事例が増えつつある。 また、世界銀行やアジア開発銀行といった、国際開発金融機関も当産業に着目しており、 発電プロジェクトも含めた開発支援を行っている。なお、NEDO と世界銀行は、スマー トコミュニティなど環境・エネルギー分野で連携していくことで合意し、協力協定書に 署名している。 日本貿易保険(NEXI)の取組 地球環境保険特約 地球環境特約保険を適用した事例 スペイン太陽熱発電事業主のAcciona Termosolar, S.L.向け融資 に対する海外事業資金貸付保険(地球環境保険付)の引受 ✔温室効果ガス排出削減に寄与する関連事業の海 外事業向け融資の際に、保険の付与率を引き上げ る施策 ✔新エネルギーでは、太陽光・太陽熱・風力・燃料 電池事業などが該当 NEXI 海外事業資金貸付保険 €255万の保証 【概要】 みずほコーポレート銀行 三菱東京UFJ銀行 日本政策投資銀行 効果ガスの排出削減に資する設備・機器の輸出及びプロジェクトとして、 一定の要件を満たすものを対象に、地球環境保険特約 付の保険引受を 行っています。同特約により、海外事業資金貸付保険における非常危険 の付保率を97.5%から100%に引上げることが可能になります。 Acciona Energia S.A. (親会社) €300万の融資 Acciona Termosolar, S.L. (子会社) 三菱商事 新エネルギー事業では下記の領域が対象 太陽光発電事業、太陽熱利用事業、風力発電事業、バイオマス発電・熱 利用・燃料製造事業、廃棄物発電・熱利用・燃料製造事業、燃料電池事業、 天然ガスコジェネレーション事業、クリーンエネルギー自動車に係る事業、 水力発電事業、地熱発電事業に係る貸付契約 株式15%保有 我が国政府は、本邦企業によるインフラ・システム輸出の一層の促進に向け 、太陽熱発電等の再生可能エネルギーを含む個別11分野について、積極的な 支援を打ち出しています2。NEXIは今後も、再生可能エネルギー分野における 本邦企業の海外展開を積極的にサポートしていきます。 出所:NEXI HP 出所:NEXI HP (出典): NEXI HP などより Arthur D Little 分析 250 世界銀行の取組 世界銀行の取組方針 取り組みの事例 太陽熱発電システムへの支援 途上国のエネルギーアクセス問題の解消、環境問 題解決のため省エネ対策と低炭素エネルギーの仕 組みの構築、金融危機等の不確実性への対応 ✔政府や多国間、民間セクターなどにおけるパート ナーシップの構築 ✔支援プロジェクトのレバレッジによる規模拡大 ✔効果の最大化のためのプログラム的アプローチ (投資、政策助言、技術協力の組合せ) ✔最貧困層の支援 ✔技術面での中立性 ✔新たなグリーンテクノロジーの導入の促進 ✔エジプト・モロッコなどで太陽光熱複合発電(ISCC) 技術の有効性を示すための複数プロジェクトの支援 ✔中東・北アフリカ地域で CTF(Clean Technology Fund)などの資金を利用して集中型太陽熱発電 (CSP)技術に関する大規模プロジェクトを準備中 出所:2010/5 世界銀行グループ 新エネルギー戦略策定に向けて (出典): 各種公開情報から ADL まとめ 新たなエネルギー産業の展開に当たっては、民間のファイナンスと合わせて、これら の各関連機関の支援策を積極的に活用していくことが有効と考えられる。その際の課題 について把握すべく、ファイナンス面から見たときにどのようなリスクが存在している かに着目して、課題の整理を行った。そして、ファイナンス面からのリスク特性が大き く異なる、①新エネルギー分野、②省エネルギー分野、③エネルギーベンチャー分野、 の大きく3つに分類し、検討を行った。 251 リスクの種類と課題の概要 課題の所在 対応するリスク 具体的な課題 資金需要側 事業リスク 事業性に係る要素(収益・コスト)が変動:悪化する 資金供給側 事業環境の 外部 完工リスク 工事遅延・未完工による引き渡しに遅延が生じる 原燃料調達リスク 事業実施・継続に必要な原料・燃料が調達できない 性能・稼動リスク 要求仕様に不適合(機器の定格性能・出力が得られない・定格能力で稼動しない(施工不良も含む)) 事故・故障リスク 機器・設備の部品故障、破損事故等により事業が頓挫する・事業性が悪化する 環境リスク 周辺環境の保全に関するトラブルが発生し事業が頓挫する(土壌汚染・地下水汚染等の発生、風力発電でのバードスト ライク防止、景観・自然生態系保全の機運が高まるなど) 社会リスク 異なるインセンティブをもつステークホルダーの調整能力がなく事業が頓挫する(周辺住民の事業の反対運動、騒音等 の健康被害、土地所有者との調整など) 技術リスク 技術開発が進まない・技術の安全性が確保できない・新技術により現技術が陳腐化する 機器調達・管理リスク 機器関連のEPCコスト、O&Mコスト、人件費等がかさみ事業性が悪化する フォースマジュールリスク 戦争、内乱、天災等により設計変更、中止・延期・事業継続できない 天候リスク(自然リスク) 十分な日照・風量、地熱量など自然エネルギーのインプットが得られない オペレーショナルリスク(情報面) 投融資環境に関する十分な情報提供がなされていない・情報が不足している オペレーショナルリスク(人材面) 大手を除く金融機関(地銀・信金等)で融資等の審査能力が不十分、業界情報に精通・事業構造特性を理解している人 材が少ない 信用リスク 債務者(債券の投資先・貸付先等)が債権を履行できなくなる 市場リスク・その他リスク 投資先・融資先の事業・製品等の案件の数が少なくリスクを分散できない 制度リスク 各種規制・制度(FIT、補助金、景観保全関連の条例、基金運用方針等)の制度変更の見通しが立たず事業継続の意思 決定ができない/変更により事業継続できない/系統連系できず売電収入が得られない 経済リスク 市中金利・為替等の変動、物価変動(インフレ・デフレ)による事業費が変動する (出典): UNEP SEFI “Financial Risk Management Instruments for Renewable Energy Projects”UNEP SEFI “UNEP Sustainable Energy Finance Programme Overview” 及びヒアリング調査を元に株式会社日本総合研究所作成 252 3.1. 分野別検討 新エネルギー分野 太陽光発電、風力発電、太陽熱発電等の新エネルギー分野においては、大規模発電プ ロジェクトの建設を念頭において、事業の立ち上げ、建設、操業・維持管理のステージ に分けて検討を行った。 新エネルギー分野におけるファイナンス面から見た課題 【主に海外】 【共通】 ・事業開始1年目は、 事前調査通りに発電 量を得られるのか非 常に不確定 【共通】 ・住民トラブルのリスクやリ ーガルリスクの影響が大き く留意すべき課題 【主に国内】 ・地方銀行はPFIで PFの構造は理解して いるが、新エネ事業と いった高リスクのPF のノウハウが少ない ・国内の大口投資家 の環境分野の理解は これから ・太陽熱発電における新技 術導入を図る場合等には、 技術プロバイダ自身が開発 リスク・施工リスクも抱えて 、案件組成に取り組むこと も必要 ・風力発電は事故が多く損 害保険の提供会社は一部で 、保険料も高額 ステージ 立ち上げ • 土地取得・交渉 • 日射、風況調査 操業・維持 管理 建設 • 住民合意形成(住民 反対) • 工事にかかるリスク (施工不良、コスト超過) 発電事業者側 で 比較的対処 が可能な課題 • 周辺環境へのインパ クトによる事業停止( 低周波、バードストラ イクなど) • 故障、機器劣化 • 部品調達 【主に海外】 ・ミュンヘン再保険(独) が太陽光発電や風力発 電システムの機器劣化 のリスクに対し、性能保 証保険を提供している • 専門的知見の不足による機会損失、故障多発等 • 系統連系の可否、コスト • 材料価格の高騰 発電事業者側 では 対処困難な課 題 【主に国内】 【共通】 ・洋上風力や太陽熱発 電といった新技術の場 合、実証事業等を通じて 運転実績を確立し、金融 機関が投融資を行える ようにする(=バンカブ ルにする)ことが必要 • フォースマジュール • 法規制 (立地規制、環境アセス 等) 【主に国内】 • 制度変更(FIT) • 税負担 • 日射、風況 • 荒天(台風、落雷、雪 害) • フォースマジュール ・ファイナンス環境整備 の前に、各種規制緩和 が必要 (出典): 日本総研作成資料、事業者ヒアリング等より資源エネルギー庁作成 例えば風力発電の場合、事業の立ち上げ・建設のステージに先立って風況調査を行う が、実際に発電する量を正確に事前予測することは極めて困難である。発電量の予測が 難しいということは、すなわちキャッシュフローが読めないということであり、天候等 の影響が大きい新エネルギー分野に特徴的なリスクである。 この天候等のリスクに加え、洋上風力や太陽熱発電のような新たな技術をプロジェク トに適用しようとする場合、金融機関が負担しきれない技術リスク(実績の無い新技術 253 の場合、実際に計画通りの発電量となるかどうか予測が困難)・施工リスク(工期の遅 れ、工費の超過等)も存在する場合がある。 まず、事業者としては、積極的にこれらのリスクテイクを行っていくという方策が考 えられる。例えば、太陽熱発電産業の章で見たとおり、海外事業者では Abengoa(西) 等の技術プロバイダが技術リスク・施工リスクを含む事業全体の開発リスク(投資が回 収できるかどうか)も自社で抱えて案件組成を行い、これらのリスクを自ら克服しよう としている事例がある。 政策的には、洋上風力や太陽熱発電といった新技術を適用した実証事業を通じて一定 の建設実績・操業実績を確立し、金融機関が根拠を持ってプロジェクト投融資を行うこ とができるようにした後、商用規模で展開を図るという方策も有効と考えられる。こう した観点からは、NEDO の技術実証事業等の積極的な活用が望まれる。 また、操業・維持管理ステージにおいては、システムの性能劣化のリスクが存在する。 発電プロジェクトの操業は長期間にわたるため、発電事業者や金融機関からすると、こ れは大きなリスクとなる。例えば太陽光発電において、このリスクに対処したいという ニーズを捉えた Suntech(中)は、他社に先駆けてモジュールの 25 年性能保証を提供 するようになった。この動きに他の中国等のメーカも追随した結果、日系メーカの高品 質・高信頼性が、買い手から見て訴求ポイントにならなくなってきている。さらに、ミ ュンヘン再保険(独)が太陽光発電の性能劣化のリスクに対して性能保証保険を提供す るようになり 、メーカ自身の信用力とモジュールの信頼性を分けて機器選定ができる ようになってきた。 こうした競争環境を踏まえると、我が国としては発電量評価・耐久性評価技術の開発 を更に進めていくのも一つの方策と考えられる。適正な評価技術に基づき、第三者機関 が日系メーカの高品質・高信頼性を認証することができれば、メーカ自身の保証の信頼 性が高まることはもちろん、根拠を持ってより高い性能保証率を設定することもできる ようになろう。また、同じ保険スキームでも、適正な評価技術に基づいて日系メーカの 保険料率を低減できる可能性も出てこよう。技術とファイナンスソリューションの融合 が、グローバル競争を勝ち抜くためのキーになってきている。 254 省エネルギー分野 省エネルギー分野では主に ZEB に着目し、建築物を取り巻く市場や規制等の外部環境 と、ビルオーナーとテナントの関係等の内部環境に分けて検討を行った。 省エネルギー分野におけるファイナンス面から見た課題 【特に海外】 ・省エネ法制の基準 が低い場合、省エネ や高効率機器に対す るニーズが低い ・エネルギー価格が 政策的に低く抑えら れている場合には、 省エネインセンティブ が低い 外部環境 【共通】 【共通】 主な課題 • 省エネが不動産価値の向上に結びつくような評価手法、取引慣行や制度が普及 していない 【共通】 • 省エネ以外の快適性や健康性、知的生産性の向上等の効果の評価が難しい • 最新の省エネ機器・システ • ESCO等のサービスに対して対価を支払う商慣行が普及していない ムについては技術リスクが • (FITのような制度がなく)エネルギー価格変動に伴う省エネ投資のリスクが高い 高く、実際にメリットが出るか • 最新の省エネ機器・システムについては技術リスクが高い どうか金融機関も評価が難 (実際にメリットが出るかどうか金融機関も評価が難しい) しい ・特に中小事業者の 場合与信が厳しく、 資金調達が困難 【特に海外】 ・途上国では債権回 収も困難 内部環境 ・個々の不動産価値の共通 指標化を行うにあたって、指 標の使いやすさが問題 【主に国内】 • 省エネ機器の設備投資負担(中小事業者では特に省エネが進まない) • オーナーとテナント間での利益相反 • エネルギー管理の動機付けが不十分 • 省エネを担う人材や、情報、ノウハウが不足 • 設置スペース等の制約で既存建物の省エネ改修が進まない • ビル利用者の快適性等と省エネ推進とのバランスが難しい 【共通】 ・業務系の施設で、特 に中小事業者の場合 エネルギー管理が不 十分 ・テナントにとってオーナーと の電力契約などが不透明で あることが主な要因ではない か 【共通】 ・先進国では不動産市場自 体がストック化しつつあるが 、特に欧州等では建物ライ フサイクルが長いため、既 築物件に対するソリューショ ン提案を行わないと、省エ ネや機器導入が進まない (出典): 日本総研作成資料、事業者ヒアリング等より資源エネルギー庁作成 省エネ関連産業の章で触れたとおり、まずは省エネ投資の回収という観点から、省エ ネの価値が不動産の価値へ反映されるかどうかが、ファイナンス面からも同じく課題と なる。この点、米国では LEED 認証を取得したビルを投資対象とする不動産投資信託 (REIT)が存在しており(Liberty Property Trust 等)、資金の供給サイドにおいて省 エネを加味して不動産価値を評価する取り組みが進んでいる。我が国でも、CASBEE 認 証をベースとした標準以上の環境性能を満たす物件を投資対象とする「環境不動産ファ ンド」の設立を住友信託銀行が検討している。 省エネ関連産業で同じく言及した、オーナーが省エネ投資を行っても、テナント賃料 が上がらなければ、不動産価値も高まらないという問題も、ファイナンス面の課題であ る。ただし、この課題には、設備の所有区分、光熱水費の負担のあり方といった不動産 賃貸借の取引形態によって軽重がありうる。例えば、米国ではビルの内装をせずに賃貸 を行い(スケルトン貸し)、一定の設備についてはテナントが工事を行い、電気料金も テナント負担となっている場合がある。この場合、省エネ投資のインセンティブはビル オーナーではなくテナント側に存在することになるので、テナントに直接営業を行った り、省エネ投資が賃料に反映されるようなソリューションをビルオーナーに提案したり 255 する必要がある。省エネ産業の海外展開やファイナンスを進めていく際には、不動産ビ ジネスの商慣行が各国各様であるため、ターゲットやアプローチを誤らないよう留意す る必要がある。 また、最新の省エネ機器・システムについては技術リスクが高く、実際にメリットが 出るかどうか、金融機関も評価することが難しいという課題がある。加えて、我が国を 含め先進国では不動産市場自体がストックビジネス化しつつあるが、特に欧州等では建 物ライフサイクルが長いため、特に既築物件に対しては、機器売りではなくファイナン ス等も含めたソリューション提案を行わないと、省エネ機器・システムやサービスの導 入が進まないという面がある。スマートコミュニティや ZEB の技術実証事業等の機会を 有効に活用し、国内外のマーケットニーズに合わせた我が国関連事業者のソリューショ ン提案能力を強化していくとともに、最新の省エネ機器・システムやサービスの実績を 構築し、金融機関も評価できるようにしていくことが求められる。 さらに、海外市場において、そもそも省エネ規制の基準が低い場合や、エネルギー価 格が政策的に低く抑えられている場合等には、省エネインセンティブが低くなり、省エ ネ機器・システムやサービスに対するニーズが小さくなる。我が国としては、諸外国と の政策対話や技術・資金協力を通じ、省エネ産業の海外市場自体の拡大・展開を合わせ て推進していくべきである。実際に、我が国が政策対話を行っているベトナムにおいて も、世界省エネルギー等ビジネス推進協議会のヒートポンプインバータ WG がインバー タエアコンの現地実測・実証調査に取り組んでおり、官民連携の動きが具現化されてい る。 エネルギーベンチャー分野 ベンチャー企業は、革新的な技術や独創的なビジネスモデルを生み出す原動力として、 日本経済全体のイノベーションの重要な源泉の一つである(経済産業省「ベンチャー企 業の創出・成長に関する研究会 最終報告書」平成 20 年4月)。エネルギー産業におい ても、関連産業の層を厚くするために有効な施策は、関連産業の担い手となる企業の参 入を促進することである。しかし、新エネルギーや革新的エネルギー技術は、読んで字 の如く、新しいが故に、企業にとっては「将来に対する不確実性」と「情報の非対称性」 が参入障壁となる。この障壁を取り払うところに、政府の果たすべき大きな役割がある (総合資源エネルギー調査会新エネルギー部会 中間報告、平成18年5月)。 また、成長分野に資本や労働力といった資源が円滑にシフトしていくためには、企業 の撤退・創出といった「新陳代謝」が促進されることが重要であるが、我が国は、起業 数もベンチャー企業への投資額も共に低迷する状況から抜け出せておらず、世界金融危 機後、その状況は一層深刻になりつつある(「産業構造ビジョン 2010」) 。 そこで、今回エネルギーベンチャー分野における課題について、ベンチャー先進国で ある米国をベンチマークとして、比較検討を行った。まず、開発段階(シード・アーリ 256 ー)において、我が国ではエンジェル(ベンチャー投資を行う個人投資家)が少なく、 ベンチャーキャピタルも投資案件1件当たりの投資額が小さい。また、実用化段階(ミ ドル)においても、プライベート・エクイティ・ファンド等が少ない。そして、量産化 段階(レイター)においても、銀行等による資金供給が少なく、株式の上場を行うべき 新興市場も低迷している。このような課題は、IT やバイオ等の他業界ベンチャーとも 共通するものである。 他方、IT やバイオ等の他業界と比べ、エネルギーベンチャーならではの課題が存在 する。エネルギーベンチャーの商材はエネルギーシステムであるため、(エネルギー制 御等のソフトウェア開発の場合を除くと)発電機等のハードウェアを開発・製造し、シ ステム化しなければならない場合が多い。このため、①開発段階から多額の研究開発資 金や設備投資が必要となり、②実用化・量産化段階においても、製造には原材料・部品 の仕入れを伴うため、多額の運転資金も必要となる。そして、商材であるエネルギーシ ステムは、③エネルギー需給動向、原油価格、エネルギー料金や規制等にも強い影響を 受ける。 エネルギーベンチャー分野におけるファイナンス面から見た課題 ステージ 開発(シード・アーリー ) 米国でのエネル ギーベンチャー 周辺の ファイナンス環境 (ベンチマーク) ・必要資金額がIT等の他 のベンチャー業界に比べ て大きく、より多額の資金 を調達しなければならない 日本のエネルギ ーベンチャー周 辺のファイナンス 環境 日本のエネルギ ー ベンチャーの現 状 ・米国では、大企業・ベ ンチャー間、異業種分 野間で人の移動があり 、技術の応用展開があ る • エンジェル、ベンチャーキャ ピタルによる投資 実用化(ミドル) • グロースファンド(プライベ ート・エクイティ)による投 資 • 数億~数百億円の投資 • ハンズオン型の経営支援 • エンジェルが少ない • ベンチャーキャピタルの投 資額が少ない • (投資額が少なく)ハンズオ ン型のベンチャー支援が不 十分 • 民間のベンチャーグロー スファンドが少ない 量産化(レイタ ー) • 銀行からのデット (DOEによる債務保証 ) • 厚みのある新興市場 • 銀行側の融資のハード ルが高い(与信を通ら ない) • 新興市場の低迷、IPO 数激減 ・売上が存在しな い段階から、発電 機等のハードウェ アを製造し、シス テム化しなければ ならない場合が多 く、多額の設備投 資が必要となる ・原油価格やエネ ルギー需給動向 にも強い影響を受 け、リスクが高い • そもそもの日本の風土として、ビジネス上のリスクをとりたがらない、嫌う • 市場に出回るリスクマネーが少ない(エネルギーベンチャーに必要な多額の投資は困 難) • ベンチャーキャピタルなどは、親会社の意向が強く影響(ファンドマネージャーの裁量権 小さく、思い切った投資や経営支援がしづらい) • 投融資側にエネルギーベンチャーの目利きができる人材の不足 • 研究施設費、実験費などが 不足 • 研究者の不足 • エネルギーベンチャー自体 が少ない • 研究施設費、実験費な どが不足 • 研究者の不足 • ビジネスモデルの欠如( 各種規制を乗り越えた 上でのビジネス成立の 困難性等含む) • ビジネス系人材、NO2 ・エネルギー分野は規制 人材の不足 • 日本の風土として起業精神が旺盛でない(失敗をおそれる) • 大手のメーカーがバリューチェーンを通して影響力を発揮し、また、自社内で研究 開発を完結する傾向 • 人の交流が少ない • 社会貢献的な意識が強く、ビジネス拡大といった面での意欲が薄い が多く、制度環境に対す る深い理解が必要 ・場合によっては、新製品 の市場を作り出すための ロビイングをベンチャー企 業自身で行うことが必要 となり、時間とコストがか かる (出典): 日本総研作成資料、事業者ヒアリング等より資源エネルギー庁作成 257 このように、参入障壁の高いエネルギーベンチャー分野であるが、産業別の分析で見 てきた、太陽光発電市場で高いシェアを占める First Solar(米)、定置用蓄電池市場 でいち早く事業展開に着手した A123 Systems(米)、業務用燃料電池の量産を開始した Bloom Energy(米)らは、いずれも設立 10 年程度のベンチャー企業である。まさに、 米国におけるエネルギーベンチャーを育む生態系が、新たなエネルギー産業を生み出す ことに成功しているといえる。米エネルギー省は、直近でも再生・再投資法(American Recovery and Reinvestment Act)に基づく予算で 4 億ドル、120 社の支援を行ってお り、その手綱を緩める気配は見えない。 他方、我が国でも、ゼファー株式会社(小型風力発電)、エナックス株式会社(リチ ウムイオン電池)といった優れた技術力を有するエネルギーベンチャーに対して産業革 新機構が投資を実行し、海外市場にも展開を図る事例が出てきている。また、新エネル ギーベンチャー技術革新事業(資源エネルギー庁)にて平成 22 年度に採択した事業で も、スマートソーラーインターナショナル株式会社(集光型太陽光発電)、ループウイ ング株式会社(小型風力発電)、アドバンスト・キャパシタ・テクノロジーズ株式会社 (リチウムイオンキャパシタ)のように、製品の量産化のステージにまで成長しつつあ るエネルギーベンチャー企業も登場してきている。 日米欧におけるエネルギー分野の特許登録件数推移を見ても、我が国は欧州を上回り 米国と拮抗している状況であり、技術シーズのポテンシャル自体は大きい。あとはこれ をどう育んでいくか。民間ファイナンスとも協調しつつ、エネルギーベンチャー分野で の取り組みの一層の強化が求められる。 日米欧におけるエネルギー分野の特許登録件数推移 (出典): 特許庁「重点 8 分野の特許出願状況」 258 <参考資料> 参考資料では、今回の研究会で分科会を設定していない分野から、地熱発電、中小水力 発電、バイオマス発電、海洋エネルギー発電をピックアップし、現状を概観する。 地熱発電産業 地熱発電システムとは、地中深くに存在する地熱貯留層から蒸気や熱水を取り出し発 電に利用するシステムを指す。 発電方式の違いにより、主に 5 つのタイプに分類される。 ・ドライスチーム方式 地熱貯留層から抽出した乾燥蒸気によりタービンを駆動して発電する。システムが複 雑でなく、運用が簡単であるため経済性が高い。 ・フラッシュ方式 地熱蒸気と熱水の混合流体をセパレータにより蒸気を分離し、タービンへ送ることで 発電する。最も導入されている方式であり、技術的な実績がある。分離した熱水を更に フラッシュさせて一次蒸気とともにタービンへ送る方式をデュアルフラッシュ方式と いう。 ・バイナリ方式 地熱流体を熱交換器へ通し、低沸点媒体(主にブタン、ペンタン)を蒸発させタービ ンを駆動して発電する。水-アンモニアを媒体として最適な効率を実現するシステムを カリーナサイクルという。システムをモジュール化できるため、小型プラントに適して いる。 ・ハイブリッド方式 フラッシュ方式で分離した熱水を熱源としてバイナリ方式で発電する方式であり、2 つの方式で複合発電することで、地熱資源の利用率を高めることができる。 ・EGS 方式 (Enhanced Geothermal System) 深部にある高温岩体に対し、人工的な水圧刺激を与え、新規に地熱貯留層を創出する。 地熱貯留層の有無に因る立地の制約が無く、持続的な地熱開発が可能。 259 地熱発電の概念図(フラッシュ方式の例) (出典)NEDO「地熱開発の現状」 市場性 世界の地熱発電市場は、2006 年~2010 年の 5 年間で約 1.6 GW が導入された。そ れに対し、2011 年~2015 年の今後 5 年間で、約 5 倍の 7.8 GW 程度の導入が見込まれて いる。 競争力 主要なプラント方式のシェアを見ると、ドライスチーム方式、フラッシュ方式におい ては、品質面に強みを持つ三菱重工、東芝、富士電機システムズが高いシェアを持って おり、日系 3 社で 70%超を占めている。 一方バイナリ方式では、Ormat(米)が大半のシェアを占めている。 260 プラントタイプ別シェア FlashPlant/ Dry Steamシェア(スチームタービン) その他 GE 10% 7% Ansaldo 10% 富士電機 18% Binaryシェア(Binary ORC) GE 3% その他 17% 三菱重工 28% 10,292 MW 706 MW Ormat 80% 東芝 27% (出典)Platts UDI データを集計 261 中小水力発電産業 水力発電には発電規模に応じ様々な呼称があるが、ここではマイクロ水力、ミニ水力、 小水力、中水力といった比較的中小規模の発電システムについて触れる。 水力発電の規模の定義 ①大水力 (large hydropower) : 100,000kW 以上 ②中水力 10,000kW ~ 100,000kW (medium hydropower) : ③小水力 (small hydropower) : 1,000kW ~ 10,000kW ④ミニ水力 (mini hydropower) 100kW ~ 1,000kW ⑤マイクロ水力 (micro hydropower) : 100kW以下 出所)マイクロ水力発電導入ガイドブック 市場性 水力発電市場は、件数ベースでは、全体として最近減少傾向にあるが、アジアや中東、 中南米では、増加傾向にある。一方、中小水力の市場は、世界のいずれの地域において も、市場が拡大しているか、あるいは、水力全体の市場の中でシェアが増加している。 例えば、市場が縮小傾向にある欧州でも、開発される件数に占める中小規模の案件数は、 増加基調にあり、2000 年台は 90%を超える割合となっている。 262 水力発電の市場規模(案件数) 旧ソ連 欧州 100% 80% 60% 40% 20% 凡例 2000- 1990- 1980- 0% 1960- 2000- 1990- 400 20% 200 0%0 1980- 400 20% 200 0%0 1970- 1600 100% 1400 80% 1200 1000 60% 800 40% 600 1960- 1600 100% 1400 80% 1200 1000 60% 800 40% 600 2000- 1990- 1980- 1970- 1960- 2000- 1990- 1980- 1970- 1960- 1600 100% 1400 80% 1200 1000 60% 800 40% 600 400 20% 200 0%0 1970- 豪州・オセアニア アジア 1600 1400 1200 1000 800 600 400 200 0 2万kW以上 2万kW未満 中南米 100% 80% ● 2万kW未満の 件数に占める 割合 60% 40% 20% 2000- 1990- 1980- 1970- 0% 1960- 2000- 1600 100% 1400 80% 1200 1000 60% 800 40% 600 400 20% 200 0%0 1990- 1970- 1960- 1980- 北米 1600 100% 1400 80% 1200 1000 60% 800 40% 600 400 20% 200 0%0 2000- 1990- 1970- 1960- 2000- 1980- アフリカ 1600 100% 1400 80% 1200 1000 60% 800 40% 600 400 20% 200 0%0 1990- 1970- 1960- 1980- 中東 1600 1400 1200 1000 800 600 400 200 0 出所)Platts UDIデータより作成 (出典)Platts UDI データより作成 競争力 事業の開発は、主に電力会社(IPP を含む)が行い、全体のシステム設計、水車の供 給を重工メーカーが行う。システム設計、水車の供給について、世界では Voith(独) 、 Andritz(オーストリア) 、Alstom(仏)の3社が高いシェアを獲得している。日本では、 日立製作所と三菱電機、三菱重工業の3社の水力発電機器事業を統合した日立三菱水力 や、東芝、富士電機等がシステムを一括して設計・製造している。 263 バイオマス発電産業 バイオマスには多様な種類が存在するが、ここでは、我が国バイオマスエネルギー導 入量の約半分を占める発電用途の中でも、技術的に比較的高度なガス化プロセスを伴う、 木質ガス化発電に触れる。 バイオマスガス化炉の概念図(固定床型の例) (出典)NEDO「バイオマスガス化およびメタン発酵技術導入拡大のための技術動向調査」 264 市場性 ガス化発電については、これまで商用運転実績が少なく、実証段階にあるシステムも 多いが、比較的小規模でのバイオマスの効率的利用が可能であり、ポテンシャルは高い。 日本のバイオマスエネルギー(発電および熱)利用施設の概要 (出典)再生可能エネルギー等の熱利用に関する研究会(第 2 回) 「バイオマスの熱利 用」資料、JORA、2010.10 競争力 バイオマスガス化発電プラントは、主に燃焼技術を持つプレーヤが設計・調達・建設 を手掛けている。ガス化・発電を行うプレーヤは、発電事業者に加え、バイオマスの獲 得が容易な製紙工場・製材所等が行っている。 これまで、国内企業は、主に国内で案件組成、実施を行っており、海外展開はまさに 取り組み始めた段階にあるが、国内企業のシステム設計力は、潜在的には高いと想定さ れる。 265 海洋エネルギー産業 波、潮流、海面/海中の海水の温度差などの海洋エネルギーを用いて発電を行う技術 であり、主に以下の方式が存在する。 波力発電:波のエネルギーを、回転運動に変換し、発電機で発電する。 潮力発電:潮流のエネルギーを、回転運動に変換し、発電機で発電する。 海洋温度差発電(OTEC:Ocean Thermal Energy Conversion) :アンモニアなどの熱媒体 を海面の海水で温め、蒸気タービン・発電機を回し、海底の海水で凝縮させて戻すこと で、発電する。 波力発電の概念図(固定式の例) (出典) “Ocean Energy: Global Technology Development Status” (2009,IEA-OES) 市場性 波力では、ポルトガルやイギリス、潮力はイギリス、韓国、カナダで、OTEC はイン ドなどにてプロジェクトが運転中である 日本でも海洋エネルギーの賦存量が見込まれている。特に、宮古島などの沖縄諸島、 伊豆諸島、銚子沖、北方領土沖などが有望とされる。 266 海洋エネルギー発電の主要なプロジェクト プロジェクト 開発 事業者 発電容量 運転開始 2250kW (3×750) 2008 500kW 2000 Marine Current Turbine 1200kW 2008 韓国海洋研究所 1000kW 2009 1000kW 2009 1000kW 2003 Agucadoura Pelamis/ Babcock & Brown 波 (ポルトガル) 力 Limpet Wavegen (イギリス) (Voith) SeaGen (イギリス) 潮 Uldolmok 力 (韓国) Bay of Fundy OpenHydro (カナダ) O Tuticorin T E (インド) C 国立海洋技術研究 所/佐賀大学 (出典)各種資料より作成 競争力 海洋エネルギー発電は、ベンチャー企業などが開発したシステムを使って、欧州など の電力会社が実証プラントを開発し、海洋工事会社が建設している。 波力、潮力それぞれにおいて多様なシステムが、Pelamis(英)などベンチャー企業 を中心に開発されている。こうしたシステムを使って、RWE Innogy(独)など、欧州の 電力会社を中心に、プロジェクトの開発が行われており、日本の開発は後れを取ってい る。 海洋開発の技術は、海洋での石油・ガス田開発で先行する欧米企業に劣る面もあるが、 機械部品の信頼性など、日本企業の強みを活かせる可能性がある。 267