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インターネットとエージェント技術
インターネットとエージェント技術 雨宮 真人 (キーワード: 情報化社会、ユビキタス環境、インターネット、マルチエージェント) 1.はじめに するインターネットプロトコルが整えられ、世 情報化社会では、情報端末(パーソナルコン 界中のコンピュータ間で自由に通信できるよう ピ ュ ー タ や PDA 、 携 帯 電 話 な ど ) が イ ン タ ー ネ になった。さらに、各コンピュータ上に置かれ ットに繋がることによって、世界中のいろいろ た 情 報 は Web イ ン タ フ ェ ー ス を 用 い て Web ペ ー な情報を居ながらにして手に入れることができ ジ情報として提供すれば、だれでもどこでも、 る 。 イ ン タ ー ネ ッ ト 上 の Web 環 境 は 情 報 の 共 有 そ の Web ペ ー ジ の 情 報 に ア ク セ ス で き る Web 環 と流通を促進するユビキタスな情報環境へと進 境が整えられるに至った。 展 し 、 21 世 紀 の 情 報 化 社 会 の 重 要 な イ ン フ ラ ス こ の よ う な イ ン タ ー ネ ッ ト 上 の Web 環 境 は 、 トラクチャを形成するようになる。ユビキタス さらに情報の共有と流通を促進させるユビキタ 環 境 に よ り 、 21 世 紀 に お け る 産 業 、 社 会 、 文 化 ス 環 境 ( Ubiquitous Environment) へ と 進 展 し 、 21 は 20 世 紀 の も の と は 大 き く 異 な る も の に な る で 世紀の情報化社会の重要なインフラストラクチ あろう。 ャを形成するようになる。ユビキタス環境によ エージェント技術はユビキタス環境を実現す って、各人が必要な情報に自由にアクセスでき るための重要な技術であると考えられる。そこ るようになると、消費者の嗜好を生産の場にま で、本稿ではエージェント技術とはなにか、ユ で直接反映させることができるようになり、産 ビキタス環境の開発にエージェント技術がなぜ 業の構造も生産者指向の大量生産から消費者指 重要なのか、エージェント技術の研究開発にお 向の多品種少量生産へと変化する。また、ユビ ける課題はなにかについて論じることにする。 キタス環境では、各個人はインターネットを通 なお、個々の課題の詳細については本特集の他 して個々の情報を直接発信でき、また必要な情 の論文を参照されたい。 報に容易にアクセスできるようになる。個人の 活動がより自由になり、社会の構造も個人指向 2 . イ ン タ ー ネ ッ ト と 情報化社会 のものに転換していく。 このように、情報化社会の進展は人間社会に 20 世 紀 は 、 ハ ー ド ウ ェ ア の 技 術 が 成 熟 し 、 生 大きな転換をもたらすであろうが、そこには解 産者主体の大量生産型産業の時代であった。コ 決しなければならない大きな問題が横たわって ンピュータは、当初大量生産のための工場管 いる。現状では情報の発信とアクセスにはそれ 理・品種管理(いわゆるファクトリー・オート なりのスキルを必要とし、情報スキルの差によ メ ー シ ョ ン ) 、 組 織 管 理 な ど に 活 用 さ れ 、 20 世 って個人の活動に大きな差(情報格差)が生じ 紀の産業の進展に大いに役立った。 てくる。また、他人には見せたくない秘密情報 一方、1980年代以降、半導体技術を中心 が他人に勝手に見られ、悪用されるという問題 とする電子技術の飛躍的な進展によってコンピ が生じる。 ュータは性能が飛躍的に向上すると同時に小型 情報格差の問題を解決するには、“だれで で安価なものとなり、個人レベルで自由に利用 も、いつでも、どこでも”人に伝えたい情報を できるようになった。また、ネットワーク技術 発信できまた自分の欲する情報に“容易に”ア が進歩し高速大容量の通信網が実用化される クセスできるような環境を構築することであ と、コンピュータ間で文字や音声・画像など各 る。また、個人の秘密情報を他人に勝手に見ら 種 の デ ー タ の 交 信 が で き る よ う に な っ た 。 1990 れたり悪用されたりしないよう、ユビキタス環 年代になると、コンピュータ間の通信を標準化 境に情報保護(セキュリティ)の機構を持たせ 1 ることが不可欠である。 質的に異なる点は、モジュール間の連携の柔軟 このような問題を解決し、情報化社会のイン 性にある。 フラストラクチャとしてのユビキタス環境を構 オブジェクト指向によって構成される個々の 築していくために、エージェント技術、特にマ モジュールの間には設計時にあらかじめ仕組ま ルチエージェント技術が重要なものとなる。 れた関係が存在し、相互作用はその仕組まれた 関係に沿ってしか機能しない。この意味で、オ 3 . エ ー ジ ェ ン ト 技術 ブジェクトは自律性に欠ける。処理を依頼する 側のオブジェクトは、設計時に仕組まれている 一般に、エージェントとは、他者から仕事の 既知のオブジェクトに対して“強制的に”その 依頼を受け依頼者に代わってその仕事を行う代 処理を実行させる(駆動する)。オブジェクト 行人(組織)のことである。情報技術では、こ 指 向 プ ロ グ ラ ム で は 基 本 的 に How-to を 記 述 す の代理人の機能を実現するコンピュータシステ る。 ム(主としてソフトウェアシステム)のことを 一方、(マルチ)エージェントシステムで さす。現在のコンピュータシステムでも、ユー は、個々のエージェントは自律性を持つ。依頼 ザによって依頼された処理を行うことを主目的 された仕事を行うか否かの判断はその依頼を受 としているので広義にはそれをエージェントシ けたエージェントの側にある。依頼を出すエー ステムとよぶことができるかもしれない。しか ジェントはその依頼をどのエージェントが行う し、エージェントシステムにおいては、人間社 かをあらかじめ知っておく必要がなく、エージ 会におけるエージェントと同様、「どのように ェント間の関係はオブジェクト指向に比べてよ 処 理 を 行 っ て も ら い た い か ( How-to ) 」 で は な り自由度が高く、柔軟な連携が可能となる。依 く 「 何 を し て も ら い た い か (What) 」 と い う 要 頼 メ ッ セ ー ジ は 基 本 的 にWhatを 表 す 。 依 頼 を 受 求の処理ができることをねらいとする。人間に けたエージェントはその依頼メッセージの意味 と っ て はWhatに よ っ て 要 求 を 表 現 す る 方 が よ り を解釈し、処理が可能ならばその依頼の処理を 自 然 で あ る 。Whatで 表 現 さ れ た 依 頼 を 処 理 す る 行う。 ためには、その依頼の意味を理解し、それ処理 メッセージの意味を理解し自律的に処理する をすることのできる機能が必要である。この機 ことができるためには、エージェントは次のよ 能の実現にはこれまで蓄積されてきた人工知能 うな知的機能をもつことが必要となる。 技術を活用することになる。 (a) 臨 機 応 変 性 ( Reactivity ) エージェントシステムは高度で複雑な機能を エージェントは自分の置かれた環境を理解 必要とするため、これを単一のシステムとして し、状況の変化に臨機に対応できる能力を 設計し開発することは困難なことになる。そこ もち、外からの作用に対して的確に反応す で、トータルなエージェント機能を複数のサブ る。 機能に分解し、これらを組み合わせてトータル (b) 能 動 性 ( Pro-activeness ) なシステムに構成するという方法が考えられ 処理目的に添って自らの目標をもち、自ら る。これをマルチエージェントシステムとよ の判断によってその目的に向かって動作す ぶ。マルチエージェントシステムにおいては複 る。 数のエージェントが協調して要求の処理を行 (c) う。 協 調 性 ( Social ability ) 他のエージェントと対話し、所与の目的に ひとつのシステムをサブシステム(モジュー 向かって他と協調して処理を行う。 ル)に分解して分散化し、開発の経済化を図る というモジュール化(部品化)技術は工学に共 この定義は抽象的であり、これはとりもなお 通する設計・開発手法である。ソフトウェア工 さず人工知能の定義でもある。これを実現性の 学では、モジュール化技術としてオブジェクト 観点からどのように解釈し、現実にどの程度ま 指向技術がよく知られている。しかし、マルチ で実現できるかが問題となる。この機能の具体 エージェント技術がオブジェクト指向技術と本 化に向けて種々の研究が行われているが、これ 2 ら の 多 く は BDI ( Belief, Desire and Intension ) モ ソース(プログラム)や情報リソース(デー デ ル と Speech Acts モ デ ル を 基 礎 と し て い る 。 タ)を連携させ協調処理を行わせるにはインタ BDI モ デ ル は 個 々 の エ ー ジ ェ ン ト 内 部 の 問 題 解 ラクション・ベースの計算モデルがより自然で 決機能を推論処理の観点でモデル化したもので ある。マルチエージェントシステムはインタラ あ る 。 自 分 の 置 か れ た 状 況 を 理 解 ( Belief ) 、 クション・ベースの計算モデルに適うものであ 目 標 ( Desire ) に 向 か っ て 何 を な す べ き か り、この特徴は並列・分散処理環境を実現する ( Intension ) を Belief に 基 づ い て 推 論 し 実 行 す 上で重要である。エージェント間の連携・協調 る 。 BDI 機 能 は 、 シ ス テ ム 設 計 時 に 、 個 々 の エ 処理がメッセージ通信によって行われ、高い自 ージェント内に(たとえば述語論理形式で)与 律性をもっているという特徴は、エージェント え ら れ る 。 一 方 Speech Acts は エ ー ジ ェ ン ト 間 の をネットワーク上に分散させて協調動作をさせ 対話をモデル化するものである。知的な振舞い るのに都合がよい。 はエージェント内部に閉じるものではなくむし 2 章で述べたように情報化社会においてはそ ろ 対 話 ( Speech ) に よ っ て 相 互 に 影 響 し 合 う のインフラストラクチャとしてユビキタス環境 (エージェントの内部状態を変化させる)とい が重要なものとなる。ユビキタス環境ではイン う 思 想 に 基 づ く も の で あ る 。 Speech Acts モ デ ル ターネット上に各種の情報リソースや計算リソ はエージェント間メッセージ通信プロトコル設 ースが散在しており、これらのリソースの中か 計の基礎を与える。 ら有効なものを探し出して利用することにな エージェントに発せられる依頼メッセージに る。このとき、利用者にとっては欲しいリソー は人間からのものも含めて考えることができ スを見つけ出してくれる機能が欲しくなる。ま る。システム中にユーザインタフェース機能を た、提供者にとってはそのリソースの利用を促 持つエージェントを用意し、人間は端末を通し 進させてくれる機能が欲しくなる。提供するリ てこのエージェントに依頼メッセージを発す ソースの機能や特性を外部に見せることができ る。依頼メッセージは特殊な(コンピュータ) れば、利用者はリソースの機能と特性が要求に 言語を用いずに人間にとって自然な言語によっ 合うものかどうかを判断し的確なものを見つけ て表現される。エージェントはその依頼の意味 出すことができる。このとき、個々のリソース を理解し、他のエージェントと連携して依頼の にそれぞれエージェント機能をもたせて自律的 処理を行う。このようにして人間指向の自然な に管理させることにより、リソースの自律性が ユーザインタフェースをもったシステムをマル 得られ、リソース間の柔軟な連携が可能とな チエージェントによって構成することができる る。 ようになる。 このようにして情報提供・利用の間の連携を マルチエージェントシステムのもう一つの重 マルチエージェントシステムに行わせることに 要な特徴は、個々のエージェントが並行して すれば、情報の共有と流通が促進される。 (非同期並列に)動作するという点である。分 4 . 研究開発課題 散環境下では従来型の集中制御による手続き型 計算モデルではなく、インタラクション 3 章で述べたマルチエージェントシステムの ( Interaction ) に よ る 計 算 の モ デ ル が 重 要 に な る。インタラクション・ベースの計算とは個々 目標を達成するには、多くの課題を研究開発す の処理体(たとえばエージェント)が対等に位 る必要がある。ここでは、その中で特に重要と 置付けられ、処理体間の相互作用によって目的 思われる課題を考える。考察のキーワードは、 の処理(計算)を進めるというモデルである。 エージェント間対話言語の標準化、情報の共有 オブジェクト指向技術でも並列分散処理をひと 化と標準化、人にやさしい情報環境、セキュリ つの目標としている。しかし、そのモデルの基 ティ問題である。 本が手続き指向であるため、インターネットな 4.1 エージ ェ ン ト 間対話言語の標準化 どの超分散環境下での処理モデルとしては十分 エージェントシステムはインターネット上の でない。インターネットに分散化された計算リ 3 各種のエージェントの間で対話できることが理 は、エージェントの間でメッセージの意味の解 想である。世界中の各組織がそれぞれ開発した 釈を統一させなければならない。 エージェントシステムの間でメッセージ交換が インターネット上に散在するリソースの意味 できるためには、エージェント間で対話できる の 共 有 化 を め ざ す 研 究 と し て 、 現 在 Semantic 言語、すなわちメッセージ通信のプロトコル、 Web の 研 究 が 盛 ん で あ る 。 Semantic Web はXML を統一しなければならない。ネットワークを介 の 技 術 を 活 用 す る 。XMLは Web ペ ー ジ の 表 記 法 してメッセージの通信を行う際には低位のメッ で あ る HTML を さ ら に 発 展 さ せ た も の で 、 Web セージデータ(信号レベル、やデータの形式な ページのコンテンツの内容を(構文や属性)を ど)の解釈から高位のメッセージの意味(依頼 デ ー タ 構 造 と し て 表 す こ と が で き る 。 Semantic の種類、依頼の内容など)の解釈まで複数階層 Web はXMLを 用 い て ( た と え ば RDF-scheme な にわたる処理が必要である。プロトコルではこ ど ) Web コ ン テ ン ツ 中 の 文 や 句 、 語 彙 の 構 文 構 の処理が統一できるようにメッセージの構造と 造とその意味付けを行う。この意味付けには 交信の手順を規定する。エージェント間通信の Web の ハ イ パ ー リ ン ク 構 造 を 反 映 さ せ て 他 の プロトコルを統一化しこれを仕様として定めれ Web ペ ー ジ と の リ ン ク も 表 す こ と が で き る 。 ば、開発者がそれぞれの設計思想に基づいてエ 自 然 言 語 理 解 の 分 野 に 意 味 ネ ッ ト ( Semantic ージェントシステムを開発したとしても、統一 Net ) モ デ ル が あ る 。 意 味 ネ ッ ト は 語 彙 の も つ 的な仕様を満たしていれば、それぞれのエージ 意味(属性や他の語彙との関係)をネットワー ェントの間で対話ができる。エージェント間通 ク 構 造 で 表 現 す る も の で あ る 。 Semantic Web は 信の統一においては、低位レベルのプロトコル こ の 意 味 ネ ッ ト を イ ン タ ー ネ ッ ト 中 の Web リ ン はインターネットプロトコルなど既存のネット クにまで拡張したものと捉えることができる。 ワークプロトコルを用いることとし、高位のプ リソースの内容や機能、関連リソースへのリン ロトコルとしてエージェント間メッセージ通信 ク な ど を 属 性 と し て 与 え 、 こ れ を Semantic Web プロトコルの統一を行うことになる。 で扱えるようにすればリソースの共有化がはか そこで、いくつかの企業や研究者たちはそれ れるということになる。 ぞれ国際団体を組織して標準化の活動を行って し か し 、 Semantic Web で 扱 わ れ る 文 や 句 、 語 い る 。 こ の 中 で 、 FIPA ( Foundation for Intelligent 彙 の 意 味 付 け が Web ペ ー ジ ご と に 異 な っ て い た Physical Agents ) や のでは共有化は望めない。意味付けの標準化が Agent-cities の 活 動 が 活 発 で あ る 。 た と え ば 、 FIPA で は エ ー ジ ェ ン ト 間 通 信 必要である。この標準化をめざすものとして 言 語 ACL (Agent Communication Language) の 仕 様 Ontology の 研 究 が あ る 。 Ontology と は 語 彙 の 間 を定めている。 の概念階層や語彙の関係、語彙の属性など語彙 のもつ意味を存在論的に定義することである。 4.2 情報の意味の共有化 ( Semantic Web ) 一般に、自然言語においては語彙の意味は、そ エージェント間の対話言語が標準化されたと の語彙が用いられる文脈や対話の状況によって しても、メッセージの内容が理解できなけれ 異なり、静的に意味を固定することはできな ば、それは単なるテキストデータや画像データ い。しかし、実用的には対象分野を限定して語 の授受のレベルにとどまる。 3 章で述べたよう 彙セットを定め、語彙の意味を規定することが な、欲しいリソースを探し出したり依頼された 考えられる。このようにして定めた語彙セット 処理を行ったりすることができるためには、メ の Ontology を そ の 分 野 の 標 準 と し て 用 い よ う と ッセージの内容が理解できなければならない。 す る 試 み が World Wide Web Consortium や DAML な メッセージの内容を理解するということは、メ どで行われている。 ッセージ中に含まれる文章や語彙の意味を理解 4.3 人間指向の環境 するということである。これは自然言語理解の 問題に等しくなる。自然言語の意味理解の問題 人間指向の環境ユビキタス環境を構築するこ は簡単に解決できるものではない。さらにエー とは重要な問題である。誰もが特別のスキルを ジェント間でリソースの共有をはかるために 必要とせず、自然な対話で必要なリソースにア 4 クセスできるためには、人間指向の自然言語対 2 章で述べたようにセキュリティ問題は重要 話インタフェースが必要である。ただし、実現 である。セキュリティの基本は秘密情報を他人 性の点から制限された自然言語となる。重要な に見られないようにすることである。しかし、 点は個々のユーザの嗜好を汲みとり、そのユー このことは情報の共有・流通という概念に反す ザの嗜好に適応していく機能である。また、他 る。個人の秘密情報の漏洩を防ぎつつ情報の共 人の経験や評価を共有し、助言として活用でき 有・流通を図るという互いに矛盾する要求を満 る Recommendation 機 能 も 有 効 と な る 。 Semantic たような環境をどう構築するかは大きな問題で Web に よ る 情 報 の 意 味 の 共 有 化 も 人 間 指 向 の 環 あ る 。 ま た 、 Peer-to-Peer 通 信 に お け る セ キ ュ リ 境を提供することになる。このとき、ユーザの ティ管理をどうするかという問題もある。 用 い る 語 彙 や 表 現 の 意 味 が Semantic Web や たとえば、ひとつの解決法として,セキュリ Ontology と 照 応 す る よ う に ユ ー ザ イ ン タ フ ェ ー ティ管理には認証と暗号化の手法を利用して、 ス の レ ベ ル で も 何 ら か の Ontology を 用 意 し な け エージェント自体の認証を行うと同時にそのエ ればならないだろう。これらの機能の実現には ージェントの属性の認証としてセキュリティ属 ユーザインタフェースエージェントの存在が欠 性を設けて造成のチェックを行う。エージェン かせない。また対象分野ごとにエージェントコ ト毎にあるいはエージェントコミュニティの出 ミュニティを形成する機能が必要となる。 入 り 口 に Proxy を 設 け て セ キ ュ リ テ ィ 管 理 を 行 う方式が考えられる。認証チェックは各レベル 4.4 エージ ェ ン ト コ ミ ュ ニ テ ィ と Peer to Peer 通信 のエージェントコミュニティにおいて属性の適 否がチェックされ、合格したエージェントのみ ユビキタス情報環境では各組織や個人は対等 が暗号鍵を得てそのリソースを開くことができ に通信しあう。また携帯端末は自由に移動す る。 る。組織や個人の活動を支援するエージェント エージェントシステムでのセキュリティ管理 もまた対等で移動できることが前提となる。こ の問題はまだ研究が始まったばかりであり、今 れ を Peer-to-Peer 通 信 と よ ぶ 。 Peer-to-Peer 通 信 で 後いろいろな方式が提案されてくると思われ は ネ ッ ト ワ ー ク に 構 造 が な く 全 て の Peer が 潜 在 る。 的な完全グラフ構造をもっている必要がある。 5 . おわ り に しかし、電話通信網の場合と同じように、実際 のネットワーク管理の点からは構造を持たない ネットワークは現実的でない。また、人間社会 以 上 、 本 稿 で は 21 世 紀 の 情 報 化 社 会 に お け る や組織の構造とのアナロジーで考えれば、エー ユビキタス環境の重要性を論じ、ユビキタス環 ジェントの構造はそのエージェントの属性や依 境構築にエージェント技術が重要な技術となる 頼関係の緊密度に応じて構造化され階層化され こと述べた。ユビキタス環境の理想の実現には ているほうが自然である。特に次節で述べるセ 現状かなりの距離があり、この理想の実現に向 キュリティ管理の点からは、構造化することが け た 研 究 開 発 は 21 世 紀 前 半 の 重 要 な 研 究 開 発 課 必 須 で あ る 。 こ の と き 、 エ ー ジ ェ ン ト が Peer と 題であると考える。解決すべき課題はエージェ して移動し通信する場合とあるコミュニティの ント技術の研究課題に包含されており、この意 一員としての役割を果たす場合との整合をどう 味でエージェント技術の研究は重要なものであ 取るかという問題が生じる。さらに実際の運用 る。 においてはインターネットなどの物理レベルの 知能処理機能には無数のレベルが存在する。 ネットワーク構造も関係してくる。実用的なエ 知能システムの研究開発は、理想(高い知能レ ージェントシステムの開発においては、これら ベル)と現実(実現可能な機能レベル)の間の の要素を考慮してエージェント間通信の管理を 相互フィーダバックを繰り返しながらスパイラ どのように行うかは無視できない問題である。 ルループ状に漸進的に進歩していくものであ る。エージェント技術も今後このスパイラルル 4.5 セキ ュ リ テ ィ 問題 ープに添って進歩していくものと考える。 5 参考文献 (1) Dertouzos, M. L., What Will Be – How the New World of Information will Change our Lives -, HarperCollins Publishers, 1997. (2) Woodlidge, M., An Introduction to MultiAgent Systems, John Wiley & Sons, 2002. (3) Pollack, M. E., The Uses of Plans, Artificial Intelligence, 57(1), pp.43-69, 1992. (4) Searle, J. R., Speech Acts - An Essay in the Philosophy of Language -, Cambridge University Press, 1969. (5) Wegner, P., Why Interaction is More Powerful than Algorithms, Communications of the ACM, 40(5), 1997. (6) Berners-Lee, T., Hendler, J. and Lassila, O., The Semantic Web, Scientific American, May 2001. 6