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http://repository.osakafu-u.ac.jp/dspace/ Title Author(s) Editor(s
 Title
Author(s)
偶然・曖昧のマネジメント : 中小企業43社の事例にみる、「番頭
型マネジャー」と「PDCAサイクル」によるマネジメントの考察
楢崎, 賢吾
Editor(s)
Citation
Issue Date
URL
2016-03
http://hdl.handle.net/10466/15044
Rights
http://repository.osakafu-u.ac.jp/dspace/
大阪府立大学 博士学位論文
偶然・曖昧のマネジメント
― 中小企業 43 社の事例にみる、「番頭型マネジャー」と
「PDCA サイクル」によるマネジメントの考察 ―
大阪府立大学大学院
博士後期課程
楢 崎
経済学研究科
経済学専攻
賢 吾
― 2016年3月 ―
― 目
序
章
1
研究の意義
1
1.研究の背景と動機
2.研究の方法、フレームワーク等
3.研究の意義等
第1章
2
6
10
経営者の存在感
10
1.現場から見えてくる疑問
14
2.経営者の存在感の整理
3.問題提起と提唱事項
第2章
次 ―
33
36
1.中小企業の現場の「マネジメント感」
36
2.さまざまなマネジメントの捉え方
3.先行研究からのインプリケーション
第3章
36
マネジメントをめぐる議論のレビュー
56
「マネジメント」と「マネジメントに似て非なるもの」
59
の考察
1.中小企業のマネジメントについての考察
2.「意思決定」と「統制」「影響」
2-1.意思決定
59
66
66
2-2.統制と影響
74
3.「マネジメント」と「マネジメントに似て非なるもの」の考察
第4章
番頭型マネジャー(現代版番頭)
1.番頭型マネジャーの存在
2.「マネジャー像」の考察
92
93
2-1.ドラッカーとマグレガー
2-2.ミンツバーグ
93
95
-i-
81
91
98
2-3.「マネジャー像」について
3.「番頭」の歴史的な流れ
99
3-1.時代ごとの番頭の姿
99
103
3-2.歴史的な観点からの考察
104
4.「番頭」とは
4-1.歴史から見た番頭
104
4-2.日本型補佐役とは
106
4-3.補佐役のタイプと実務
107
110
5.組織体制と番頭型マネジャーとの関係
115
6.中小企業の事例で見る「番頭型マネジャー」
6-1.事例Ⅰ:大番頭モデル
116
6-2.事例Ⅱ:小番頭モデル
118
6-3.事例の整理
120
123
7.「現代版番頭」についての議論
7-1.「現代版番頭」の正体
123
127
7-2.さまざまな角度からの検討
7-3.中小企業に生きる「現代版番頭」の考察
第5章
134
PDCA サイクル
1.「PDCA サイクル」とは
2.「PDCA サイクル」の課題
134
138
3.中小企業の現場での PDCA サイクル
141
4.中小企業における PDCA サイクルの考察
5.中小企業における会議について
2.事例の項目
152
154
中小企業 43 社の事例
1.本章の位置付け
145
147
6.2大ツールとマネジメントの関係
第6章
129
154
155
- ii -
第7章
1.本章の位置付け
169
2.項目ごとの分析
169
結
章
169
事例分析からの考察
198
研究の成果と限界
1.中小企業における経営者の存在感
198
200
2.中小企業におけるマネジメントの捉え方
203
3.マネジメントの2大ツール
205
4.中小企業のマネジメントと業績との関係
5.中小企業のマネジメント体制と課題
211
6.中小企業のマネジメント体系
7.マネジメントの分類と体系化の意義
8.研究の限界と残された課題
9.これからの研究の方向性
208
213
213
214
10.最後に:中小企業の経営者への提言
215
■資料「事例 43 社のマネジメントの実態一覧」
■引用・参考文献
218
- iii -
217
序章
研究の意義
本章では、研究の背景と動機、また研究方法やフレームワークなどを明らか
にするとともに、研究の意義について述べる。
1.研究の背景と動機
経済のグローバル化やそれに伴う産業構造の変化、断続的に訪れる不況の波
など、厳しく、かつ、目まぐるしく変化する経営環境が続く中、息切れし、喘
いでいる中小企業 1の姿が目立つ。厳しいだけでなく、そこにはチャンスもある
はずであるが、そのチャンスを捉えきれず、またせっかく捉えても活かせず、
あるいはチャンスがあることすら気付かず、身動きできない中小企業の現実が
そこにある。縮こまってしまい、元気のない中小企業が多く存在することは、
我が国のこれからにとって、たいへん憂うべきことである。
ただ、中小企業が縮こまって、身動きできないのは、外部環境の影響だけで
はない。外部環境はともかく、中小企業が縮こまって、身動きできないという
のは、その経営者が何もできていないということである。すなわち、経営者が
何も手を打たず、あるいは手を打てず、厳しい現実に対して、自ら積極的に動
こうとしないところに大きな問題がある。もし、経営者が積極的に動いて、多
様な手を打ったにもかかわらず、その中小企業が縮こまって、身動きできなく
なっているのであれば、それは手の打ち方、すなわち、やり方に問題があると
いうことになる。要は、「経営者が動かないか」「やり方が下手なのか」のどち
らかなのである。「経営者次第」「やり方次第」と言えるで あろう。
筆者は現場のコンサルタントとして長年にわたって多くの中小企業に関与し
てきたが、その中から得られたいくつかの経験則がある。前述のように、それ
は、大きく「経営者次第」と「やり方次第」というキーワードで表される。
まず 1 点目の「経営者次第」についてであるが、これは、中小企業の業績は
経営者で決まるということである。ただそれは、特定のタイプの経営者しか業
績を上げられないというようなことではなく、それぞれのタイプに合ったマネ
1
本 研 究 に お い て 、「 中 小 企 業 」 と は 、 中 小 企 業 基 本 法 に 規 定 さ れ て い る 定 義 に よ る 。
-1-
ジメントができているかどうかがポイントになる。
続いて、そのマネジメントについてであるが、これが「やり方次第」という
2 点目のテーマになる。中小企業を見ていくと、同じような規模、経営資源に
関わらず、上手く利益を上げている企業とそうでない企業がある。それは「や
り方」の問題である。「しっかり」と考えて、「きっちり」と管理を徹底するこ
とによって利益を上げている企業がある一方、「ちゃっかり」と動いて、「ざっ
くり」と適当にやっているにも関わらず利益を上げている企業もある。前者を
いわゆる「マネジメント」とすると、後者は何であろうか。マネジメントだけ
ではなく、
「マネジメントに似て非なるもの」があり、それらが業績に大きく影
響を与えているのである。
中小企業の現場では、マネジメントという言葉がよく使われるが、人によっ
て違ったニュアンスで使われているように思われる。マネジメントとは一体何
であろうか。ドラッカーのマネジメントは「経営のすべて」である。確かに「マ
ネジメント=経営」というニュアンスもあるが、中小企業の現場で飛び交うマ
ネジメントとは違うと考えられる。
そこで独自の切り口で、マネジメントを、
「中小企業のマネジメント」という
ものを明らかにしたいと考えている。それには、中小企業とイコール、すなわ
ち、中小企業そのものである経営者の存在感も明らかにする必要がある。ここ
に本研究の動機がある。
2.研究の方法、フレームワーク等
(1)研究方法
本研究は、フィールドワークからの問題提起を行い、それを検証する事例研
究である。具体的には、多数の中小企業における継続的なフィールドワーク( 観
察 2、聞き取り、アンケート等)の中から得られたマネジメントに関するさまざ
2 筆 者 は 、中 小 企 業 の 現 場 へ の 入 り 込 み も し て お り 、そ こ で 実 際 に 業 務 を 体 験 し な が ら の 参 与 観 察( 参
加観察)も多く行っている。
-2-
まな事象を、問題提起 3を交えながら、事実関係として整理する。その際、先行
研究を調査し、これに見解を示していく。これらは次の事例分析の前提となる
作業であり、分析の基準づくりという意味を持つ。そして、実際の中小企業の
事例を整理し、項目(基準)ごとに分析を加え、検証して、結論(問題提起に
対する結論提示)を導き出すというものである【図表序-1】。
また、特に重要な課題であるマネジメントと業績との関係については、仮説
を設定し、それを検証するというスタイルを用いている。
【図表序-1】研究のプロセス
フィールドワーク
問題提起および事実関係の整理
対応する先行研究と見解の提示
(業績に関する仮説の設定)
事例の整理と分析
考察および仮説の検証
結論提示
3 「 同 じ 業 界 で、同 じ よ う な 規 模( 経 営 資 源 )で あ る の に 、業 績 の 違 い は ど こ か ら 来 る の か」と い っ た
事項であり、詳細は第 1 章第 1 節で述べている。
-3-
本研究は、中小企業の現場レベルの視点から、そのマネジメントの実態ない
し本質を明らかにすることを目的の一つとしているため、フィールドワークを
ベースにした事例研究というスタイルをとっている。経営者やマネジャーの動
きをはじめとして、現場のマネジメントの詳細を、その雰囲気も含めて、正し
く把握する必要があるのである。また、マネジメントと業績との関係を明らか
にすることから、多くの中小企業の事例データ(43 社)を活用している。事例
データについては、一覧表に整理することにより、比較検討を行いやすくする
とともに、全体を俯瞰することにより、中小企業のマネジメントの実態が把握
できるよう配慮をしている。
(2)研究のフレームワーク
本研究のフレームワークは次の図表のとおりである【図表序-2】。中小企業
のマネジメントを考察し、その実態を明らかにするためには、単純にマネジメ
ントの仕組みを捉えるだけでは不十分であり、先述の「経営者次第」で示した
とおり、必ず経営者の存在を意識した考察を行う必要があると筆者は考えてい
る。そのため、本研究では、第 1 ステップとして、中小企業における経営者の
存在感を明らかにする。
第 2 ステップとして、中小企業におけるマネジメントについて考察を進める
が、その前提として、マネジメントの概念を明らかにする。すなわち、先行研
究を調査し、一般的なマネジメントの考え方について整理をする作業である。
それを踏まえ、実際の中小企業のマネジメントのあり方、捉え方について考察
を加え、現実に即したマネジメントのタイプ分けを行う。それが「必然あるい
は偶然のマネジメント」であり、また、
「確実あるいは曖昧のマネジメント」で
ある。ここで本研究において提唱する「アナザーマネジメント」
(もうひとつの
マネジメント)の概念についても明らかにする。
第 3 ステップとして、マネジメントを動かす「 ヒト」と「仕組み」について、
考察を加える。ヒトについては「ベテラン・マネジャー」の存在であり、本研
究では中でも「番頭型マネジャー」について言及している。一方、仕組みにつ
いては「PDCA サイクル」である。本研究では、ベテラン・マネジャー(番頭
-4-
型マネジャー)と PDCA サイクルを、中小企業におけるマネジメントの 2 大ツ
ールと位置付けており、ツールとしてのあり方を検証するとともに、そこから
洞察できる中小企業のマネジメントの実態についても明らかにする。
【図表序-2】本研究のフレームワーク
第1章
経営者の存在感の明確化
第2章
一般的なマネジメントの概念の明確化
第3章
中小企業のマネジメントの捉え方の明確化
→タイプ別の分類(必然・偶然×確実・曖昧)
*アナザーマネジメントの概念の明確化
第4章
第5章
番頭型マネジャーの検証
→番頭型マネジャーの概念の明確化
PDCA サイクルの検証
→PDCA サイクルの 3 つのモデルを提示
第6章
上記の要素を踏まえて、43 社の事例を整理
第7章
中小企業 43 社の事例の分析、検証
*マネジメントのタイプと業績の関係の明確化
結章
中小企業のマネジメントの実態の解明
*中小企業のマネジメント体系の提示
-5-
第 4 ステップでは、実際の中小企業 43 社の事例を明らかにし、分析しなが
ら考察を加える。第 1 ステップから第 3 ステップまでで考察してきた内容が、
実際の中小企業ではどうなのか、どういった傾向があるのか、中小企業のマネ
ジメントとしてどこまで一般化できることなのか、といったことを要素ごとに
分析していく。
結論として、マネジメントのメカニズムを解明するとともに、中小企業のマ
ネジメントの実態を明らかにする。それらをまとめ、中小企業のマネジメント
体系として提示する。
3.研究の意義等
(1)研究の意義
本研究では、
「マネジメント」と「マネジメントに似て非なるもの」からなる
「やり方」によって、中小企業を 2×2 の切り口で、大きく 4 つのタイプに分
けて考察していく。中小企業も人間と同じように生き物であり、人間と同じよ
うにさまざまなタイプがあるが、それらは「やり方」によって大きく 4 つのタ
イプに分けることができると筆者は考えている。そして、それぞれの特徴を上
手く活かして生存しているのである。どのタイプが良い悪いではなく、それぞ
れが個性的に生きている。それが中小企業の現実である。そこをしっかりと踏
まえ、実際の中小企業の視点と、現場レベルの発想から、
「やり方」のメカニズ
ムの解明を図っていく。
そして、観察や面談などのフィールドワークを踏まえ、中小企業の実態をベ
ースに体系を構築していく。それは、中小企業のマネジメントの実態を、
「ベテ
ラン・マネジャー」と「PDCA サイクル」という 2 つのツールを軸にビジュア
ル化し、「中小企業のマネジメント体系(経営体系)」として提示するという試
みである。
中小企業の経営を考える際は、経営の構成要素ごとの機能の吟味も必要だが、
それ以上に全体として機能しているかどうか、全体のバランスはどうかの方が
重要である。全体として機能していなかったり、バランスが悪かったりすると、
せっかくの中小企業の良さである「柔軟で迅速な動き」ができないからである。
-6-
そこで、本研究においても、マネジメントの構成要素の細部を一つひとつ深掘
りすることに執着するのではなく、マネジメント全体を俯瞰し、そのバランス
を見ながら、大きな枠組みとして捉えることに主眼を置いている。また、中小
企業の事例を検証し、その実態を明らかにして、中小企業にふさわしいマネジ
メントの概念を確立するとともに、マネジメントという視点を通じて、中小企
業そのものの在り方やこれからの生きる術を考察する。
あわせて、マネジメントと業績との関係の解明を図る。経営にとって業績は
最大の関心事であり、ゴーイング・コンサーンの源泉である。経営に関するす
べての議論は業績に帰着すべきであり、何らかの形で、業績との関係を考察し
なければ、その議論は現実的ではない。したがって、マネジメントと業績との
関係については、あらためて焦点を当て、議論を展開させる。
本研究の意義は、次の通りである。
<学問的な貢献>
マネジメント論として、
「マネジメントに似て非なるもの」という新しいマネ
ジメントの概念を提唱するとともに、次の①②のような貢献がある。
①
管理会計研究における、マネジメント・コントロールに関する新たなフレ
ームワークを提供するとともに、中小企業の業績要因の新たな視点を提供す
る。
…新しい視点によるマネジメントのタイプ分けをベースにしたフレームワー
クを提供することにより、マネジメント・コントロールの概念をこれまでと
は違った視点から考察することができる。また、そのタイプごとの業績を見
ることにより、中小企業の新たな業績要因を明らかにすることができ、より
多角的な業績検討が可能になる。
②
中小企業研究における、中小企業を分類する新たな基準を明らかにし、中
小企業のマネジメントのフレームワークを提供する。
…中小企業を分類する際の基準の一つとして、マネジメントのタイプという
-7-
新たな基準を明らかにする。中小企業の経営課題について考察するに当たり、
そのマネジメントのフレームワークを活用した考察を行うことができ、その
背景や要因などをより明確に検証することが可能になる。
<実務的な貢献>
中小企業のマネジメントの実態を明らかにし、その特徴ごとにタイプ分けす
ることにより、中小企業のマネジメントの発展に寄与する。
…マネジメントのタイプによって、自社のやり方の特徴を知り、自社に合っ
たやり方を行い、さらにはそれを高めていくことによって、中小企業は確実
に成長できる。
本研究によって、中小企業にとって、上手い「やり方」を明らかにし、それ
を経営者に提言し、業績の向上に向けて共に実践していくことを想定している。
経営者を勇気付け、組織を活性化し、関西の中小企業を元気にすることが本研
究の意義である。
(2)本研究の特徴
本研究は、そのテーマや目的などにより、次のような特徴を内含している。
①
本研究の最大の特徴は、
「マネジメントとは何か」を真正面から捉えよう
としていることである。すなわち、
「マネジメントそのもの」を研究対象に
している。具体的には、マネジメントの機能(要素)のうちの一つあるい
は一部分を取りあげて、それを掘り下げるのではなく、それらが一体とな
った、中小企業におけるトータルでのマネジメントを考察することに主眼
を置いている。そのため、考察すべき範囲が非常に広くなるとともに、そ
の分、各機能からの影響や印象は平準化されること。
②
前述のように、マネジメントという「考え方」や「捉え方」に関する考
察が主眼であるため、必然的に、議論の展開において抽象的な部分が生じ
ること。
③
実際の中小企業の現場で、長期間に渡って継続的に行ってきた観察や聞
き取りといったフィールドワークによって得られた事実やデータに基づく
-8-
事例を検証しながらの考察であること。
④
マネジメントに関わっているのは、結局のところ経営者やマネジャー、
従業員といったヒトであるため、価値判断等においては定性的な分析にな
ること。
-9-
第1章
経営者の存在感
本章では、大きく二つの事項について述べる。一つは、本研究の問題提起に
ついてである。それをわかりやすく整理するために、中小企業の現場を通じて
見えてくる疑問を明らかにするとともに、必要なキーワードを抽出する。
もう一つは、経営者についてである。本研究のメインテーマは「マネジメン
ト」であるが、中小企業においては、経営者の存在は絶対的なものであり、マ
ネジメントの議論においても経営者を外して考えることはできない。そこで、
中小企業における経営者の存在感を考察する。
1.現場から見えてくる疑問
まず、中小企業の現場から見えてくる疑問について明らかにする。業績をめ
ぐる疑問を考察するとき、序章で触れた「やり方次第」と「経営者次第」とい
う 2 つのキーワードが見えてくる。
(1)業績の違いはどこから来るか
同じような業種、業歴、規模の会社なのに、業績の良い会社と悪い会社があ
るのはなぜであろうか。それは、経営環境(外部環境)の違いによるものか、
それとも経営資源(内部環境)の違いによるものであろうか。
通常、経営戦略などはライバル企業を意識しての議論になる。ただ、同じ業
界で同じようなビジネスモデルでやっている以上、経営環境的なものに、あま
り違いは生じない。実際、筆者がさまざまな中小企業の経営環境を見る中で、
経済動向や社会情勢といったマクロ環境はもちろん、顧客や同業他社の動向と
いったミクロ環境にもあまり大きな違いを見出すことはできなかった。
一方、経営資源に目を向けても、組織形態を含め、ヒトの能力やモチベーシ
ョン 4、機械・設備の性能などにもあまり違いはない。どこの中小企業にも、能
力の高い従業員もいれば、低い従業員もいる。モチベーションも同様である。
平均してみると、経営資源であるヒトとして、どの中小企業も極端に大きな違
4
特に現場に近くなればなるほど、元々のレベルにあまり違いは見られない。
- 10 -
いはないように思われる。仮に経営資源に差があるとしても、多くの経営資源、
優秀な経営資源を持っている中小企業が常に業績がいいとも限らない。
また、経営資源のレベルが総じて高かろうが低かろうが、それをその企業が
望んだかどうかはともかくとして、それぞれのレベルに応じた商売をしている。
つまり、技術レベルが低い中小企業は簡単にできる製品を扱い、技術レベルが
高い中小企業は高度な製品を扱っている。そして、世に中には、その両方の製
品が必要なのである。ここに中小企業の棲み分けが存在する。つまり、中小企
業には、それぞれ身の丈に合った経営資源があり、それに応じて自社のドメイ
ンで生きているのである。
このように考察してくると、中小企業の業績の良し悪しを根本的に分けてい
るのは、経営環境でもなく、経営資源でもないことがうかがえる 5。
同じような経営環境に置かれ、同じような経営資源であるにも関わらず業績
に差があるとすると、あとは、
「やり方」の上手い下手の差である。上手くやれ
る中小企業は効果的なアクションを選んで、効率的に行い、結果として、高い
業績を上げている。一方、下手な中小企業も何らかのアクションは行っている
が、なかなか業績が伴わない状態である。それは、効果的なアクションを選ぶ
ことができず、さらにそれを効率的に行えないのである。業績の良くない中小
企業も良い企業と「似たような」ことを「似たように」はやっているのである。
であれば、やはり違いは、
「やり方」の問題であり、似てはいるが、ちょっとし
たやり方の違いが、結果的に大きな業績の違いになっているというのが実状で
あると考えられる 6。
(2)やり方の上手い下手
それでは、この「やり方の上手い下手」とは何であろうか。この「やり方の
上手い下手」はどこから来るのであろうか。
そのことを考えるきっかけであり、ヒントとなった大阪の中小企業の経営者
5
そ う い う 経 営 環 境 や 経 営 資 源 に つ い て の 差 が な い と い う も っ と も 顕 著 な 例 は、い わ ゆ る 下 請 の 中 小 企
業 で あ り 、業 種 的 に は「 加 工 業 」と な る で あ ろ う 。そ れ は 、下 請 と い う 立 場 に 起 因 す る ビ ジ ネ ス モ デ ル
の類似性、また、同じような機械・設備を使っているという作業環境の類似性によるところが大きい。
6 この段階では、
「やり方」とは、大きく「マネジメント」ということになる。ただ、第 3 章でのマネ
ジ メ ン ト の 考 察( 定 義)を 踏 ま え る と 、そ れ は「 ア ク シ ョ ン の 決 め 方 と 実 行 の 仕 方 」と い う こ と に な り、
そ れ は、「( 狭 義 の ) マ ネ ジ メ ン ト と ア ナ ザ ー マ ネ ジ メ ン ト か ら な る も の 」 と 言 え る 。
- 11 -
の言葉がある。その中小企業は創業来 30 年以上、東大阪市で製造業としてモ
ノづくりをしてきたのであるが、あるとき、2 代目に当たる現経営者が、父親
(先代社長)の頃までは、
「製造業」という感じであったが、いつの間にか、
「管
理業」になってしまった気がする、とつぶやいたのである。
この言葉は非常に印象的であった。ここに「管理」という大きなキーワード
が登場する。つまり、製造業であるにも関わらず、「製造」ではなく、「管理」
が会社の根幹だと言うのである。「やり方=管理の仕方」ではないが、「やり方
の上手い下手」の中には、「管理の上手い下手」が含まれると考えられる。
同じような機械・設備で、同じようなスキルでモチベーションの作業者が作
業しても、生産の成果(QCD:品質・コスト・納期)に差が出てくる。同じよ
うな営業ツールで、同じようなスキルでモチベーションの営業担当者が営業し
てもその成果に差が出てくる。
「管理」という表現が適切かどうかはこれから議
論していくことになるが、仮に「管理」という言葉を使うのであれば、中小企
業において、その差を生むのは、この「管理力」の違いである。同じようにや
っても、「管理力」で差がついてしまうのである。
これは、製造業に限ったことではない。小売業であれ、卸売業であれ、管理
業にならざるを得ず、もっと言うと、管理業にならなければ生き残っていけな
いのである 7。
管理が重要だとする考え方がある一方、管理とはほぼ無縁の会社運営をしな
がらも、高い業績を上げている中小企業もある。
「管理」ということをせず、自
由奔放というか、適当というか、人間で言うと、「器用に」「要領よく」やって
いるのである。
このように考えてくると、
「やり方の上手い下手」の差は、次の二つに集約し
て考えることができる。
一つは、管理ができているかどうか、つまり、何をすべきかを「しっかり」
7
冒 頭 で 中 小 企 業 の 元 気 の 無 さ を 憂 い た が 、特 に「 モ ノ づ く り 」に 元 気 が 無 い よ う な 印 象 を 受 け る 。そ
の 大 き な 要 因 の 一 つ が 、こ の「 い つ の 間 に か 管 理 業」で あ る 。中 小 製 造 業 の 現場 が「 管 理」に よ っ て 手
に 入 れ た も の も 多 い が 、 逆 に 、「 管 理 」 に よ っ て 失 っ た も の も 多 い よ う に 思 わ れ る 。 そ れ は 、 人 間 が 作
業 す る こ と か ら 来 る 精 緻 さ と い い 加 減 さ 、曖 昧 さ 、型 破 り 、荒 っ ぽ さ 、ダ イ ナ ミ ッ ク さ と い っ た「 モ ノ
づ く り 本 来 の 面 白 さ」で あ る 。管 理す る こ と に よ り 、現 場 が 変 に ま と ま っ て し ま い 、小 さく な っ て し ま
っ た 。活 性 化 さ れ な く な り 、個 々 の 創 意 工 夫 や 職 人 な ら で は の 技 術 が 求 め ら れ る の で は な く 、
「画一化」
「標準化」が求められ、現場のモチベーションが下がってしまったのである。
- 12 -
考え、そのアクションを「きっちり」と確実に仕上げることができるかどうか
によって生じた差である。
もう一つは、抜け目なく、うまく立ち振る舞うことができているかどうか、
つまり、「ちゃっかり」動いて、「ざっくり」と適当にこなすことができるかど
うかによって生じた差である。
ここで「しっかり-きっちり」の方は「管理」、もう少し大きな概念で言うと、
いわゆる「マネジメント」という概念に関連するであろう。では、
「ちゃっかり
-ざっくり」というのは、どういった概念と結び付くのであろうか。
さらに、筆者が長年現場を見てきて強く確信しているのは、
「中小企業=経営
者」 8だということである。そのイメージは、図表 1-3 の通りであり、中小企
業を経営者の身体に見立て、その様子を表現している。
中小企業は経営者の身体の全体から成り立っており、経営者は自分の身体を
動かすように、その気になれば自由にそのパーツ(機能)を動かすことができ
るのである。すなわち、中小企業にとっては、経営者の存在がすべてであり、
業績が上がるも下がるも経営者次第ということである。かといって、経営者が
「しっかり」しているとか、
「ちゃっかり」しているとかという性格の問題では
ない。「しっかり」「ちゃっかり」していない経営者でも業績を上げている中小
企業はいくらでもある。
8 先述した、
中 小 企 業 と イ コ ー ル 、す な わ ち 、中 小 企 業 そ の も の で あ る 経 営 者 と い う こ と を 表 し て い る 。
それぞれの中小企業の現実を鏡に映し出した像が、個々の経営者の姿である。
- 13 -
【図表1-3】「中小企業=経営者」のイメージ
心 臓 :血 液 を
流 す=コミュ
ニケーション
→中小企業
においては主
に経営者の
役 割 (番 頭 や
工場長の場
合もある)
脳:経営者によ
る意思決定
脳
目や耳:意思
決 定のための
情報収集
心臓
口:情 報 発 信 、
コミットメント
腕や足が各
現場、
指が各作業
者
胴 体 が工 場 や
店舗
腕 や足 の関 節
が各レベルの
マネジャー
トップセールス:
中小企業では、
窓口・営業は経
営者のみのところ
も多い(経営 者の
み情報 収集でき
る立場にある)
また、情報発信も
可 能 で あ る ( HP
等もあるが)
→現場は情 報に
は無関 心な場合
が多い(積極的
な学 習に疎 い場
合 も多 く見 受 けら
れる)
(出所:筆 者 作 成)
中小企業の業績に差をつけているのは、
「やり方の上手い下手」とその前提と
なる「経営者」である。つまり、中小企業の業績は、
「やり方次第」、
「経営者次
第」なのである。であれば、それらの概念をどのように捉えればいいのであろ
うか。それらについて次節以降で考察を加える。
2.経営者の存在感の整理
中小企業の現場から導かれるキーワードが前節で見た「経営者次第」と「や
り方次第」である。「やり方」は次章以下のマネジメントの議論を進める中で、
必然的に整理されるため、ここでは、その前段階である経営者の存在感の整理
を中心に進める。
(1)A 力-B 機能
前述のように、中小企業において、経営者の違いが業績に大きな影響を与え
- 14 -
ていると考えられる。では、経営者の何が違うのであろうか。経営者の性格や
個性、考え方やキャリアなどが違うのは当然である。しかし、それらが直接的
に業績に影響を与えているとなると、経営者の個性次第ということになり、そ
れ以上、議論を深めるのが難しくなる。
そこで、違う角度から考えてみる。経営者の「能力」だとどうであろうか。
たとえば、経営者自らの営業力(トップセールス力)やネットワーク力などは
どうであろうか。それらが違うと、業績に大きな差が出てくるのは確かである。
ただ、実際にはそんなに強力な営業力やネットワーク力をもつ経営者はなかな
かいない。また、営業力やネットワーク力のない経営者でも高い業績を上げて
いる経営者はいくらでもいる 9。
そこで、中小企業の業績に大きな影響を与えているのは、経営者の「A 力」
である、と捉えてみる。中小企業においては経営資源の最たるものである「経
営者」というものを、構成する一つひとつのパーツから解き明かすのではなく、
それらが複雑に絡み合い、相互に連動して作用している集合体として捉える概
念が「A 力」である。では、それは具体的には、どのようにイメージすればい
いのであろうか。
ここで A 力を説明するには、「B」という機能の説明が必要である。
B とは、経営を順調に行う機能である。順調とは、思い通りにという意味で
ある。すなわち、ここでは、
「経営者が自分の思い描く通りに会社を経営する機
能」、さらには、「会社の状態を自分のイメージ通りにし、その状態を続ける機
能」を「B 機能」と定義付けることとする。
ここで重要なことは、中小企業の経営者にとって大事なのは、B 機能だとい
うことである。中小企業の経営者にとっては、要は自分の思い通りの経営がで
き、思い通りの会社になればいいのである。
その「思い通り」には、一人ひとりの経営者ごとにさまざまな内容、レベル
での基準があるであろう。たとえば、売上もあれば、利益もある。企業規模の
場合もあれば、シェアや業界でのポジションなどもある。また、経営者個人の
9
経 営 者 自 ら の 営 業 力( ト ッ プ セ ー ル ス 力 )や ネ ッ ト ワ ー ク 力 な ど も 違 う が 、中 小 企 業 に お い て 、も っ
と 言 う と、中 小 企 業 に 多 く 見 ら れ る「 受 託 型 」の ビ ジ ネ ス モ デ ル で や っ て い る 企 業 に と っ て、そ れ ら が
大 き く 作 用 す る こ と は 考 え 難 い 。む し ろ 、そ れ ら が な い か ら 、受 託 型 の ビ ジ ネ ス モ デ ル で や っ て い る の
である。
- 15 -
願望を達成するというようなものもあれば、会社としての社会貢献という崇高
な理想を実現しようとするものもあるであろう。
それらを客観的に見た場合、その「思い通り」の基準の良否についての評価
は分かれるが、中小企業にとって大きなポイントとなるのは、
「経営者が良けれ
ば、それで良い」という点である。この点に中小企業の脆さがあり、また面白
さがある。たとえば、株主利益の最大化を図るという使命を担う公開企業や、
市場や顧客にブランドが浸透している有名企業と違い 10 、ステークホルダーか
らの目をあまり気にせず、経営者が自分の思うようにできるところが中小企業
経営の醍醐味であり、中小企業のダイナミズムの源泉なのである。
明確に意識して行っているかどうか、また経営者自ら行っているかどうか、
あるいはどういったやり方で行っているかどうかはともかく、会社で B を機能
させているかどうかがポイントになる。すなわち、中小企業の業績に大きな影
響を与えているのは、経営者の A 力であり、A 力は、B をきちんと機能させる
ことができる能力なのである。
(2)A 力を構成する 4 つの要素
A 力はマネジメント 11を機能させる力であり、純然たる能力だけでなく、経
営者の性質や人望なども含まれるところにその特徴がある。ある意味、経営者
の「人となり」と言ってもいい。トップ・マネジメントとは、経営体系の中で
上位に位置付けられる、高所からの視点のマネジメントということであって、
それを行うのが経営者かどうかは別である。
たとえば、プロ野球選手は全員、間違いなく野球が上手い。野球が下手なプ
ロ野球選手はいない。しかし、経営者は全員にマネジメント力があるわけでは
なく、マネジメント力がない経営者もたくさんいる。また、野球に興味のない
プロ野球選手は皆無であろうが、会社経営にほとんど何の興味もない経営者も
いる。では、なぜそういった能力も意欲もない経営者でも業績を上げることが
できるのか。そこには、何かがあるはずである。その何かが「A 力」である。
10
公開企業や有名企業がすべて大企業とは限らないが、少なくとも中小企業よりは大企業の割合が多
いことは確かである。
11 こ の 段 階 で は 、 B 機 能 と マ ネ ジ メ ン ト の 関 係 は 不 明 確 で あ る が 、 説 明 の 便 宜 上 、 こ こ で は マ ネ ジ メ
ントという言葉を使うこととする。
- 16 -
中小企業で観察してきた経営者たちの姿をもとに考察した結果、A 力は次の
4 つの要素を中心に構成されると考えることができる。それは、①夢(利益)
の提示力、②人間としての魅力、③現場の把握力、④トップとしての権力であ
る。
1 つ目の「夢(利益)の提示力」であるが、これは、トップとして、ビジョ
ンを提示する力である。この夢は、将来の理想であり、会社生活を通じて実現
したい希望である。ワールドワイドな事業展開であったり、新製品を開発した
りしての社会貢献である。ただ、それらは理想としての側面だけでなく、社員
にとっては、現実的な利益としての側面もなくてはならない。なぜなら、その
利益、もっと言うと「賃金」を得るがために、従業員は働いているからである。
2 つ目の「人間としての魅力」であるが、これは、文字通り、トップの人間
としての魅力である。常に力強く、頼もしく映る経営者もいれば、弱々しく感
じる経営者もいる。明るい経営者もいれば、表情の暗い、大人しい経営者もい
るであろう。経営者も人間である以上、さまざまな個性があるのであるが、そ
こに、従業員を引き付ける何か「魅力」があるかどうかである。この人に付い
て行こう、この人を支えようという何かである。
3 つ目の「現場の把握力」であるが、これは、経営者がどれだけ現場を理解
し、わかっているかである。それは、表面的な問題だけでなく、常に現場の真
の課題を理解し、その思いも共有できているかである。その現場を自ら作り上
げた創業者の多くは、現場の把握力を持っているが、後継者である 2 代目、3
代目の経営者には現場の把握力がほとんどない者もいる。
4 つ目の「トップとしての権力」であるが、これは、経営者が組織を動かす
最高の指揮命令者であるとともに、その会社のオーナーでもあるという立場か
ら生まれるものである。従業員に対する圧倒的な力であり、経営者の力の源泉
とも言える力である。
この 4 つの要素が中心となって絡み合い、A 力を構成している。必ず 4 つの
総合力ということではない。夢(利益)の提示力が強い経営者もいれば、現場
の把握力が強い経営者もいる。あるいは、それらは弱いが、人間としての魅力
がある経営者もいるであろう。どういうタイプの経営者が良いとか悪いとかで
なく、それぞれの A 力のタイプと B 機能とがマッチしているかどうかである。
- 17 -
それぞれの A 力に合った B を機能させているかどうかが重要なのである。中で
もカギを握るのが「人間としての魅力」であり、何らかの魅力によって、従業
員を引き付けることができるかどうかがポイントとなる。
「 現場の把握力」と「ト
ップとしての権力」を組織へ押し込む力とすると、
「夢(利益)の提示力」と「人
間としての魅力」は、組織を引き付ける力ということになる【図表 1-4】。
【図表1-4】A力を構成する4つの要素
①夢(利益)の提示力
組織・現場を引き付ける力
②人間としての魅力
A 力
③現場の把握力
組織・現場に押し込む力
④トップとしての権力
(出所:筆 者 作 成)
この「人間としての魅力」について、従業員が引かれる魅力とは何であろう
か。感覚的な概念であるため、具体的な列挙を試みる。切り口は、①性格的な
もの、②雰囲気的なもの、③見た目的なもの、④対話的なもの、⑤経営感覚的
なもの、の 5 つである。
①性格的なもの…謙虚さ、健気さ、豪胆さ、豪快さ、厚かましさ、親しみ、
馴れ馴れしさ、包容力、暖かさ、優しさ、根っからの明る
さ、粘り強さ、辛抱強さ、おっちょこちょい、慌てん坊、
飽きっぽい
②雰囲気的なもの…熱さ(情熱)、テンションの高さ(低さ)、冷徹さ、クー
ルさ、知的、理性
③見た目的なもの…おしゃれセンス、身体の丈夫さ(屈強さ)
- 18 -
④対話的なもの…相談のしやすさ、コミュニケーションの上手さ、聞き上手、
話し上手、会話の面白さ
⑤経営感覚的なもの…視点の独特さ、感覚の鋭さ、発想の斬新さ、直感の鋭
さ、察知する能力の高さ、理想の高さ
いずれも従業員からすると、それが積極的誘因か消極的誘因かはともかく、
経営者の魅力である。ただ、①や②は人間性に関するものだが、④や⑤はかな
り能力的な要素になってしまう。したがって、ここでは、やはり持って生まれ
た性格的なものや雰囲気的なものを人間的な魅力として 捉えることとする 12 。
..
そこには、何らかのプラス要因があるから 「この人について行きたい」という
..
積極的なものから、マイナス要因があるけど 「助けてあげないと仕方がない」
という消極的なものもあるであろう。要は「人柄」なのである。
(3)「空気感」による間接的な影響
このように考察してくると、次のような考えに帰着する。すなわち、中小企
業の業績を決定付ける要因を明らかにするには、
「A 力」と「B 機能」による二
層構造のロジック(「A 力-B 機能」とのつながり)を明らかにする必要がある
ということである。マネジメントなどだけでなく、その前提である「 A 力-B
機能」が大きく作用するところに中小企業の特徴がある。
そして、この経営者の A 力は、文字通り「経営者」としての立場(側面)で
のものであるが、それを「オーナー」としての立場(側面)で見たときは、そ
の「威光」も相まって「わがまま力」と置き換えることができるであろう。そ
のとき、B 機能は、オーナーとしての「思い通り機能」になる。具体的には、
主に 4 つの要素によって構成された「わがまま力」が、思い通り機能によって
「空気感」や「雰囲気」に変換され、これにより、独自の色に染められていく
のである。すなわち、B 機能を通じて、会社の方向性を間接的に支配し、マネ
ジメント(マネジメントに似て非なるものを含む)にも影響を与えているので
12 伊 丹 敬 之 ( 2007) は 、 こ の 人 に つ い て い こ う と 思 わ せ る 基 本 は 「 信 頼 感 」 で あ り 、 そ れ は 、
「人格
的 魅 力 」と「 ぶ れ な い 決 断 」か ら 生 ま れ る と す る( 伊 丹 ,2007,pp.44-46)。清 水 龍 瑩( 1982)は 、
「人間
的 魅 力 こ そ リ ー ダ ー シ ッ プ の 本 随 で あ る 」 と し て い る ( 清 水 ,1982,p.10)。 ま た 、 松 下 幸 之 助 ( 2006)
も、指導者には「この人のためには…」と感じさせるような魅力が必要だと説いている(松
下 ,2006,pp.174-175)。
- 19 -
ある。
【図表1-5】「A力-B機能」のイメージ
【一般的なイメージ】
【A 力-B 機能のイメージ】
経営理念
経営理念
経営者の
A力
何をするか
①
②
③
④
B機能
どうするか
何をするか
①夢(利益)の提示力
②人間としての魅力
③現場の把握力
④トップとしての権力
どうするか
(出所:筆 者 作 成)
図表 1‐5 は「A 力-B 機能」のイメージを示したものである。左側の「一
般的なイメージ」は、中小企業のマネジメント体系である。非常にシンプルで
あるが、経営理念に基づき、
「何をするか→どうするか」でというやり 方(マネ
ジメント)で、企業が事業活動している様子を表している。右側は、「A 力-B
機能」がもたらす空気感や雰囲気が、
「何をするか→どうするか」のマネジメン
トに影響を与え、その方向性に間接的に支配している様子を表している 13。
13
経営者の「A 力-B 機能」は、マネジメント体系の上にふわりとかかっている「雲」のようなもの
で あ る 。晴 天 に ぽ っ か り と 浮 か ぶ 雲 か ら 、激 し い 雨 を 降 ら す 雲 ま で さ ま ざ ま で あ る が 、そ の 日 の 雰 囲 気
- 20 -
(4)経営者の資質・能力について
以上のように、本研究では、A 力-B 機能という枠組みで、経営者について
議論をしていくが、一般的にそれはどういった議論の仕方になっているのであ
ろうか。先行研究も踏まえ、ここで確認しておきたい。
A.資質と能力
人はすべて違う個性を持っており、二人として同じ人はいない。経営者も人
である以上、同じパーソナリティはなく、すべて違った存在である。それは、
業績のいい企業の経営者も同様であり、業績のいい企業の経営者は必ずこうで
あ る と い う 決 定 的 な 要 素 が あ る わ け で は な い 。 ド ラ ッ カ ー ( Peter
F.Drucker,1966)は、次のように述べている。「成果をあげるには、近頃の意
味でのリーダーである必要はない。…(中略)…私がこれまでの六五年間コン
サルタントとして出会った CEO(最高経営責任者)のほとんどが、いわゆるリ
ーダータイプでない人だった。性格、姿勢、価値観、強み、弱みのすべてが千
差万別だった。外交的な人から内向的な人、頭の柔らかい人から硬い人、大ま
かな人から細かな人までいろいろだった」(Drucker,1966,邦訳,p.2)。確かに、
経営者は「千差万別」であり「いろいろ」なのである。
ただ、前述のように、業績のいい企業の経営者にもその業績を決定付ける唯
一の要素はなくとも、いくつかの共通点はあるのではないだろうか。そういっ
た共通点を見出すことが経営者をめぐる議論のベースにあると考えられる。そ
の共通点を探索する中で、ポイントとなるのが、経営者の持つ資質であり、能
力なのである。そのため、経営者については、その資質や能力の視点から議論
されることが多い。
たとえば、
『中小企業白書(2013 年版)』では、中小企業の大きな課題となっ
ている事業承継における後継者の資質等について、次のような議論を展開して
いる(pp.149-152)。
まず、事業承継の準備として取り組んでいることを見てみると、
「後継者の資
を 演 出 し て い る の は 確 か で あ り 、何 ら か の 形 で 人 間( 組 織 だ と 構 成 員 )に 影 響 を 与 え て い る の も 確 か で
あ る。「 ク ラ ウ ド 構 造 」 と 言 え る 。
- 21 -
質・能力の向上」を挙げる企業がもっとも多いことがわかる【図表 1-6】。ま
た、規模別では、小規模事業者の方が準備が遅れている。
【図表1-6】規模別の事業承継の準備として取り組んでいること
項
小規模事業者
(n=1,424)
目
中規模事業者
(n=2,440)
後継者の資質・能力の向上
50.8
60.2
取引先との関係を維持すること
41.2
34.1
後継者を支える人材を育成すること
26.2
43.0
債務・借入金を圧縮すること
26.7
27.9
金融機関との関係を維持すること
23.3
27.7
役員・従業員から理解を得ること
14.0
29.7
相続税・贈与税への対応を検討すること
13.3
20.3
自社株式の後継者への移転方法の検討
11.9
20.9
事業承継計画を策定すること
10.0
16.5
親族間の相続問題を調整すること
5.8
7.7
自社の株主から理解を得ること
2.9
8.6
16.9
10.5
特にない
複 数 回 答 (単 位 :%)
資 料 :中 小 企 業 庁 委 託 「中 小 企 業 の事 業 承 継 に関 するアンケート調 査 」( 2012 年 11 月 、㈱野 村 総 合 研 究 所 )
(注)1.経 営 者 の年 齢 が 50 歳 以 上 の企 業 を集 計 している。
2.小 規 模 事 業 者 については、常 用 従 業 員 数 1 人 以 上 の事 業 者 を集 計 している。
3.「その他 」は表 示 していない。
4.事 業 承 継 の準 備 として取 り組 んでいることには、取 り組 む予 定 にしていることを含 む。
(出所:『中 小 企 業 白 書(2013 年 版)』p.150)
経営者が重視する「後継者の資質・能力」について、図表 1-7 によると、
中規模事業者と小規模事業者で多少の違いはあるが、
「 リーダーシップが優れて
いること」
「経営に対する意欲が高いこと」
「決断力・実行力が高いこと」
「自社
の事業・業界に精通していること」「役員・従業員からの人望があること」「営
業力・交渉力が高いこと」などが挙げられている。決断力や実行力、営業力と
いった能力と並んで、
「人望」というキーワードが出ているところに注目すべき
である。
- 22 -
【図表1-7】規模別の後継者を決定する際に重視すること
項
小規模事業者
(n=1,242)
目
中規模事業者
(n=2,256)
親族であること
57.3
42.6
自社の事業・業界に精通していること
48.0
50.9
経営に対する意欲が高いこと
38.6
54.3
リーダーシップが優れていること
33.6
57.2
決断力・実行力が高いこと
37.5
51.7
コミュニケーション能力が高いこと
30.4
43.6
判断力が高いこと
29.5
42.5
営業力・交渉力が高いこと
33.0
38.0
役員・従業員からの人望があること
23.8
45.5
経営理念が承継されること
24.3
38.1
事業運営に役立つ人脈やネットワークがあること
22.7
28.4
技術力が高いこと
30.0
17.0
財務・会計の知識があること
21.2
25.8
現経営者との相性が良いこと
15.8
16.4
複 数 回 答 (単 位 :%)
資 料 :中 小 企 業 庁 委 託 「中 小 企 業 の事 業 承 継 に関 するアンケート調 査 」( 2012 年 11 月 、㈱野 村 総 合 研 究 所 )
(注)1.小 規 模 事 業 者 については、常 用 従 業 員 数 1 人 以 上 の事 業 者 を集 計 している。
2.「その他 」は表 示 していない。
(出所:『中 小 企 業 白 書(2013 年 版)』p.151)
次に、後継者に不足している能力等を見ると、「財務・会計の知識」「自社の
事業・業界への精通」
「次の経営者としての自覚」といった項目が並ぶ【図表 1
-8】。前項までの内容と一変して、「財務・会計の知識」という実務的なスキ
ルがトップに来ているところが注目である。また、企業規模別に大きな違いが
出ているのは「リーダーシップ」と「営業力・交渉力」である。これについて、
中小企業白書は、図表 1-7 の内容も踏まえて、「小規模事業者では、経営者自
身の実務能力が期待されているのに対し、中規模企業では、役員・従業員を統
率して経営を方向付ける能力が、より重視されていることが分かる」と分析し
- 23 -
ている(p.151)。
【図表1-8】規模別の後継者に不足している能力等
項
小規模事業者
(n=903)
目
中規模事業者
(n=1,624)
財務・会計の知識
39.8
43.0
自社の事業・業界への精通
31.3
28.9
次の経営者としての自覚
28.8
26.5
リーダーシップ
16.9
30.2
営業力・交渉力
30.2
15.7
決断力・実行力
17.8
20.8
事業運営に役立つ人脈やネットワーク
17.9
18.5
技術力
20.2
11.0
コミュニケーション能力
13.6
13.0
判断力
10.7
12.9
6.0
15.1
役員・従業員からの人望
(単 位 :%)
資 料 :中 小 企 業 庁 委 託 「中 小 企 業 の事 業 承 継 に関 するアンケート調 査 」( 2012 年 11 月 、㈱野 村 総 合 研 究 所 )
(注)1.最 大 3 項 目 までの複 数 回 答 。
2.小 規 模 事 業 者 については、常 用 従 業 員 数 1 人 以 上 の事 業 者 を集 計 している。
3.「その他 」は表 示 していない。
4.後 継 者 には、後 継 者 候 補 を含 む。
(出所:『中 小 企 業 白 書(2013 年 版)』p.152)
ここで確認しておきたいのが、中小企業白書でも使用されていた「経営者の
資質・能力」の「資質」や「能力」である。特にわかりにくいのは資質である
が、
『広辞苑』によると、資質とは「うまれつきの性質や才能。資性。天性」で
あり、能力とは「物事をなし得る力。はたらき」である。そこから、資質のポ
イントは、「うまれつき」であり、「性質」であることが わかる。能力は後から
身に付くものであるが、資質は生まれつきもっているものであり、また、能力
だけでなく広く性質を表しているのである。
これまで A 力-B 機能の議論で見てきたように、筆者はこの「性質」に着目
している。これが性格であり、人となりであり、人間性なのである。中小企業
- 24 -
白書の中にあった、経営者が重視する「後継者の資質・能力」の中の「人望」
は、まさにこの「持って生まれた性質」によるところが大きいと考えられる。
ただ、議論を進める上で支障となるのは、そういった要素は抽象的であり、明
確な概念として表すことが非常に困難だということである。
その点、能力は、性質よりは明確に表すことができるが、この能力にもさま
ざまなものがあり、なかなか上手く表せない場合も多い。たとえば、先述の「財
務・会計の知識」などは、わかりやすいスキル(技能)であり、レベルの測定
や評価も容易である。これが「営業力・交渉力」や「技術力」となるとやや抽
象的になり、
「決断力・実行力」や「判断力」となるともっと抽象的になる。す
なわち、具体的な測定や評価ができなくなるのである。さらには、
「リーダーシ
ップ」 14 や「コミュニケーション能力」となると、 その抽象度はますます高く
なるのである。
ただ、大事なことは、性質や、能力の中ではリーダーシップなど、抽象度の
高い要素こそ経営者を考察する上でのカギになるということである。曖昧で、
定量的な評価が難しく、具体的な記述が難しいものにこそ、中小企業のマネジ
メントのポイントが隠されているのである。
そういった曖昧な概念をどうやって表現してきたのかに注意しながら、経営
者の資質等をめぐる先行研究を以下に確認する。
B.先行研究からの考察
①C.I.バーナード(Chester I.Barnard)
バーナード(1938)は、管理者(経営者)の持つリーダーシップに着目して
お り 、「 リ ー ダ ー シ ッ プ は 協 働 諸 力 に 不 可 欠 な 起 爆 剤 で あ る 」 と 言 う
(Barnard,1938,邦訳,p.270)。そのリーダーシップを語る上でのキーワードが
「道徳」である。バーナードの言う道徳とは、
「個人における人格的諸力、すな
わち個人に内在する一般的、安定的な性向であって、かかる性向と一致しない
直接的、特殊的な欲望、衝動、あるいは関心はこれを禁止、統制、あるいは修
正し、それと一致するものはこれを強化する傾向をもつもの」である( 同
14
中小企業白書での扱いはともかく、リーダーシップが能力かどうかは判断の分かれるところであろ
うが、少なくとも、後から身に付けることができるという点で、ここでは能力と考える。
- 25 -
書,p.272)。そして、「リーダーシップの質、その影響力の永続性、その関連す
る組織の持続性、それによって刺激される調整力など、これらすべてが道徳的
抱負の高さと道徳的基盤の広さをあらわすのである」としている(同
書,pp.296-297)。すなわち、バーナードは、経営者の 資質の一つとして、道徳
性を説いているのである。
②D.マグレガー(Douglas McGregor)
前項のバーナードと同じように、マグレガー(1960)も「道義」について述
べている。
「経営者は社会一般の道義に通じていることもさることながら、自分
自身の会社の従業員を使おうとするときも道義的でなくてはならない」とする
(McGregor,1960,邦訳,pp.14-15)。そして、「利潤を追求するのが経営権だと
いってみても、それは人間の尊厳を傷つけぬ範囲で認められたもの」であり、
「企業においても、現代社会における一般の場合と同じく自由にふるまおうと
すれば責任という代償を払わねばならないのである」と説いている(同書,p.16)。
マグレガーも経営者に高い職業倫理を求めているのである。
また、マグレガー(1960)は、「経営者の態度は柔軟であれ」とも説く。「経
営者の役目というものは唯一不変のものではなくて、いろんな役目の複合体な
のである」とし、
「経営者の果たす役目にこのような 15柔軟さがあってこそ、人
を動かすことができる」と言う(同書,pp.32-33)。そして、
「人を動かす力は自
分の使う権限の多寡によって決まるものではない。むしろその場その場に応じ
て、どんなうまい方法を選び出して人を動かすかによって決まるものである」
としている(同書,p.37)。
「腕づくで人を使うやり方から相手に応じた人の使い
方」へ変えていくことの必要性を述べているのである(同書,p.35)。
③P.F.ドラッカー(Peter F.Drucker)
先述のドラッカー(1974)は、経営管理者の唯一の要件は「人柄」だと言う
(Drucker,1974,邦訳[下],pp40-41)。経営管理者が人間を管理するために要求
される根本的な資質は「人間としての誠実さ」であるとする。経営管理者が「学
15
引 用 者 注 「 こ の よ う な 」:「 そ の 場 そ の 場 で 行 動 ・ 態 度 あ る い は ま た 、 そ れ に 対 す る 相 手 の 行 動 に 大
き な 変 化 が 生 ず る こ と」( 同 書 ,p.33)。
- 26 -
びとることができない資質、すなわち後天的に獲得することはできないが、身
につけていなければならない資質が一つだけある。それは天賦の才ではない。
それは人柄である」と述べている(同書,p.41) 16。
また、ドラッカー(1974)は、トップ・マネジメントの課題に関して、「そ
れらの課題が、多種多様な能力、とりわけ多種多様な体質の持主を要求してい
る」と述べている(同書,p.395)。トップ・マネジメントには、「能力と体質の
多様性が必要」と言うのである。そして、トップ・マネジメントの課題は、少
なくとも四種類の人間を要求しており、それは「思考する人」
「行動する人」
「人
間味のある人」「表看板になる人」である。「だが一人の人間がこれら四つの体
質を兼備していることは、まずないといってもよい」としている(同書,p.395)。
④H.ミンツバーグ(Henry Mintzberg)
経営者だけに限った議論ではないが、マネジャーの資質に関して、ミンツバ
ーグ(2009)は、慎重で分析重視の「頭脳型」、アイデアとビジョンを重視し、
直感的性格の強い「洞察型」、経験を重視し、部下を助けつつ、自分で業務を処
理しようとする傾向の強い「関与型」の 3 つのタイプを明らかにしている
(Mintzberg,2009,邦訳,pp.192-194)。これは、ミンツバーグが提唱するマネジ
メントの 3 つの要素であるサイエンス(分析)、アート(ビジョン)、クラフト
(経験)の 3 つの要素にそれぞれ対応するものである。そして、「マネジメン
トを成功させるためには、アートとクラフトとサイエンスの三要素をブレンド
しなくてはならない。マネジャー個人が三要素をあわせもつか、そうでなけれ
ばマネジメントチーム全体として三要素をすべてもっている必要がある」とし
ている(同書,p.194)。
⑤清水龍瑩
清水(1981)は、
「トップマネジメントの意思決定のパラダイムは2段階から
なる」とする。具体的には、「 第1 段階は、社長、役員が企業外環境、企業内
条件、従来からの経営理念を、自らの価値観・使命観を通じて知覚、認識し、
16 本 研 究 で は 、第 4 章第 2 節 に お い て 、経 営 者 で は な く 、マ ネ ジ ャ ー と し て の 資 質 を 確 認 し て い る が 、
そこではこの「人間としての誠実さ」は「真摯さ」という言い回しになっている。
- 27 -
将来構想を不断に構築していく過程である。第 2 段階は、第1段階で構築され
た将来構想をもっている社長、役員が企業経営についての問題を把握し、検討
しながら解決案を模索し、意思決定していく過程である。第1 段階は個人の沈
思黙考の過程であり、第2 段階は複数の人々の同意をうる融和統合の過程であ
る」としている(清水,1981,p.52)。そして、そこから、経営者の機能として、
将来構想の構築、意思決定、経営管理 17の3つを挙げている。
清水(1982)は、この経営者の3つの機能と個人特性のフレームワークから、
発揮される経営者能力を考察している( 清水,1982,pp.3-4)。その前提として、
「これらの機能は、企業経営の状況に応じて異った対応の仕方を要求する」と
し、そのため、「望ましい経営者能力とは、ある条件に適合し、効率よく機能
し、企業成長に貢献する能力である」としている(同論文,p.19)。そして結論
として、
「野心、使命観、理念、信念、直観力、想像力、洞察力、判断力、危険
をおかす力、不連続的緊張を自らつくり出す力は、どちらかと言えば企業家型
の社長に多くそなわり、将来構想の設定、意思決定に大きな役割をはたし、包
容力、人間的魅力、人柄、倫理感、道徳的リーダーシップ、システム意思、時
間の有効利用、計数感覚、統率力・リーダーシップ能力、責任感、連続的緊張
に耐えうる力は、どちらかと言えば管理者型の社長に多くそなわり、意思決定、
経営管理に大きな役割をはたす。健康、知識はいかなる経営者にもそなわって
いる能力であり、またそなわっていなければならない能力であり、将来構想の
構築、意思決定、 経営管理のすべての局面で大きな役割をはたしている」と述
べている(同論文,p.19)。
さらに、清水(1995)では、経営者能力を「企業家精神に関連する能力」、
「管理者精神に関連する能力」、 「リーダーシップ能力」の 3つに大別し、議
論している。企業家精神とは、「不連続的緊張を自らつくり出す能力」であり、
管理者能力とは、「連続的緊張に耐えうる能力」であり、リーダーシップ能力
とは、「企業家精神に関連する能力と管理者精神に関する能力とを、より高い
視点から止揚統合する能力」である( 清水,1995,p.29)。そして、組織の成長
17
清 水( 1995)では 、
「 将 来 構 想 の 構 築 」と「 経 営 理 念 の 明 確 化 」を 合 わせ 、一 体 と し て 捉 え て い る 。
ま た 、「 経 営 管 理 」 は 「 執 行 管 理 」 と 言 い 換 え ら れ て お り 、 財 務 管 理 や 組 織 の 活 性 化 を 指 す ( 清
水 ,1995,pp.2-3)。
- 28 -
段階によって、経営者に求められる能力も異なることを明らかにしている(同
論文,p.30)。
⑥伊丹敬之
伊丹(2007)は、経営者には 3 つの機能的役割があるとする。それはリーダ
ー、代表者、設計者の 3 つである(伊丹,2007,pp.41-44)。さらに、第四の役割
として「経営理念の策定者・伝道者」を挙げている( 同書,pp.55-63)。そして、
そういった役割を果たすには、「エネルギー」、「決断力」、「情と理」の 3 つの
資質が必要としている。すなわち、「エネルギー水準が高い」こと、「決断力が
高い」こと、「情と理の両方に深い理解をもつ」ことである( 同書,pp.77-78)。
また、第四の資質として、経営者のタイプ別に、事を興す人-構想力、事を正
す人-切断力、事を進める人-包容力の 3 つを挙げている(同書,pp.94-95)。
また、伊丹(2007)は、経営者に向かない人についても論じており、「次の
五つの性癖を一つでもかなり強く持っている人はよき経営者にはなれそうもな
い」としている。それは、
「私心が強い」、
「人の心の襞がわからない」、
「情緒的
にものを考える」、「責任を回避する」、「細かいことに出しゃばる」の 5 つであ
る(同書,pp.100-101)。
⑦その他の見解
米谷(1996)は、アンケートによる経営者意識調査の結果から、経営者の資
質について次のような解説をしている(米谷,1996,pp.97-98)。経営者が必要と
思っている資質は、
「意思決定力」
「先を見通す力」
「斬新な企画力と行動力」で
ある。また、必要な資質で自分に最も欠けている ものとして、
「対外折衝力の巧
さ」
「企画力・行動力」
「先見性」を挙げている。
「多くの経営者は、経営者とし
て最も不可欠な資質である意思決定力を自らは保持していると思っている」と
述べている(同論文,p.98)。
松原(2009)は、21世紀に「求められる経営者・管理者の資質・特性」とは
何であるかを、能力的側面、性格的側面、経営哲学的ないしは倫理的側面に分
け、先行研究を踏まえながら議論をしている。そして、「これらの経営者に求
められるもの、それはアクション・ラーニングで求められる貴重な体験と、そ
- 29 -
こで培われる人間の信頼関係『相棒の存在』である」としている(松
原,2009,p.81)。
野間口(2012)は、ファミリービジネスの事業承継における経営者能力の承
継について議論をしており、その中で「経営者能力が企業を経営する能力であ
る『経営者能力』は『人が自転車に乗る能力』のように『暗黙知』であり、形
式化されない部分で成り立っているのと考えられる」としている(野間
口,2012,p.137)。
以上のように、経営者の資質・能力に関する先行研究を確認してきた。そこ
から次のような考察を行うことができる。
経営者に必要な資質として、バーナード(1938)やマグレガー(1960)は「道
徳」(道義)を説き、同様にドラッカー (1974)は「人柄」(誠実さ)を説く。
これらは、清水(1995)の言う「管理者精神に関連する能力」のうちの「人間
尊重」や「リーダーシップ能力」のうちの「品性」に通ずるところがある。ま
た、伊丹(2007)の言う「情の理解」にも通ずる。やはり、経営者の資質を議
論する場合、まず第一に挙げられるのが、こういった「人間性」なのである。
第二に挙げられるのが、経営者能力の状況適応である。つまり、経営環境や
状況の変化に対して、いかに対応するかである。そのために必要な能力として、
マグレガー(1960)は「柔軟な態度」を言い、ドラッカー(1974)は「能力と
体質の多様性」を言う。同様に清水(1982)は「条件適合」の必要性を言って
いる。ミンツバーグ(2009)の主張する 3 つの要素のブレンドも状況適応のた
めである。経営者にとって頭と心の「柔軟性」は大きな課題なのである。
第三に着目すべきは、伊丹(2007)の挙げている「決断力」である。決断力
は、清水(1995)も「企業家精神に関連する能力」の一つとして挙げている。
また、先述の中小企業白書(2013)の記述や米谷(1996)のアンケート分析で
も「決断力」や「意思決定力」は上位に挙げられている。組織としての最後の
決断を下すのは経営者であり、この能力がないと経営者として機能しないとい
うことである。
このように、経営者の資質・能力として、
「人間性」、
「柔軟性」、
「決断力」の
大きく 3 つの要素が重要であることがわかる。一概には言えないが、人間性や
- 30 -
柔軟性はその人が持って生まれたもの、すなわち「資質」であり、決断力は後
天的に備わった「能力」と捉えることも可能である。いずれにしても、経営者
の資質・能力は、その状況も相まって多種多様であり、かつ、野間口(2012)
の言うように形式化されない部分で成り立っているのも確かである。結局のと
ころ、先に述べたように、
「経営者は千差万別であり、いろいろである」に帰着
してしまうのである。
ただ、その曖昧な概念を少しでも具体的な枠組みで示すことが、中小企業の
マネジメントを考える上で、非常に重要であり、そのため、前述で確認したよ
うな先行研究を踏まえつつ、本研究では、A 力-B 機能という枠組みを打ち出
しているのである。
(5)「A 力-B 機能」と「やり方」
この A 力-B 機能は、中小企業のマネジメントに大きな影響を与えるもので
あり、この存在があるからこそ、中小企業のマネジメントは、平面でなく立体
的な二層構造(「クラウド構造」 18 )で検討する必要があるのである。「人間と
しての魅力」を中心として構成される A 力は、オーナーとしての「わがまま力」
である。経営者としてだけではなく、オーナーとしての威圧感が背景にあると
ころに A 力の特徴がある。そして、そのわがまま力が B 機能(思い通り機能)
に働き掛け、その経営者(オーナー)独特の雰囲気を作り出し、マネジメント
の方向性に影響を与えるのである。
先に「製造業ではなく、管理業である」という中小企業の経営者の言葉を紹
介したが、
「B 機能」はこの「製造業」や「管理業」という部分と深く関係して
いる。また、この経営者は、
「先代社長の頃は」と言っている。経営者が代わっ
たのである。経営者が代わるとその経営者が持つ「A 力」も当然に変わる。
つまり、先ほどの話を「A 力-B 機能」という枠組みを使って捉えると、先
代の頃の「A 力-B 機能」と、今の「A 力-B 機能」は大きく変わったという
ことをこの経営者は言っているのである。経営者が代替わりして「わがまま力
-思い通り機能」が変わったことにより、会社の空気感が変わり、それによっ
18
脚 注 13 で 説 明 し た よ う に 、 雲 の よ う な イ メ ー ジ を 表 し て い る 。
- 31 -
て会社の方向性が変化し、製造業から管理業にシフトしたのである。
このように、経営者については、
「A 力-B 機能」という枠組みで考察を進め
てきたが、
「しっかり-きっちり」と「ちゃっかり-ざっくり」で表される「や
り方 」というものは 、どのように考えればいいの であろうか 。先述のように、
「しっかり-きっちり」の方は、おそらくマネジメントという概念と結び付く
であろう。そして、現実として、
「きっちり」やるには、きちんと会議などを行
い、PDCA サイクルを正しく回す必要がある。
一方、
「ちゃっかり-ざっくり」の方は、マネジメントの範疇に属さないとこ
ろにその特徴があると考えられる。型にはめず、現場をある程度自由にしてお
くからこそ、そこに独自のタイミングと抜け目なさが生まれる。そして、その
カギを握っているのは、個人の感覚である。現実的には、
「ベテラン」と呼ばれ
るマネジャーの勘が勝負である。彼らの長年の経験からくる一瞬の判断が中小
企業の業績を大きく左右するのである 19。
これから議論を進めるに当たって大きなポイントになるのが、この「やり方」
を構成する「しっかり-きっちり」と「ちゃっかり-ざっくり」の 2 つである。
前者はいわゆる「マネジメント」という概念であろうが、では後者は何であろ
うか。
①
これもマネジメントなのか(マネジメントにも 2 通りあるということな
のか 20)
②
それともマネジメントに準ずる「セミマネジメント」なのか
③
それともマネジメントではなく、別の概念なのか
④
それとも「ノーマネジメント(マネジメントせず)」という 捉え方の方が
妥当なのか
このあたりを明らかにすることが本研究のポイントとなる。
そこで、この「マネジメントに似て非なるもの」を明らかにするためにも、
19
「 PDCA サ イ ク ル 」 や 「 ベ テ ラ ン ・ マ ネ ジ ャ ー 」 の 存 在 は 、 マ ネ ジ メ ン ト を 語 る 上 で 非 常 に 重 要 な
意味を持ち、本研究の 2 本柱である。これらについては、第 4 章と第 5 章で詳細な検討を加え、その
概念を明らかにする。
20 た と え ば 、
「 き っ ち り 」 は 「 管 理 」 の マ ネ ジ メ ン ト で 、「 ざ っ く り 」 は 「 非 管 理 」 の マ ネ ジ メ ン ト と
いう捉え方もできるかもしれない。
- 32 -
次章以降でマネジメントについて、掘り下げる。マネジメントを明らかにでき
れば、もう一方の「マネジメントに似て非なるもの」も明らかにすることがで
きるはずである。そして、マネジメントと「マネジメントに似て非なるもの」
が明らかにできれば、「やり方」というものの実体を捉えることが可能になる。
そうすれば、そこに、経営者の「A 力-B 機能」を絡めた、経営体系の全体像
を示すことができるのである。
3.問題提起と提唱事項
以上、中小企業の現場から見えてくる疑問として、業績にまつわる「やり方
次第」と「経営者次第」について明らかにしてきた。本章の最後にそれらを問
題提起として、次のように再度整理をしておく。
①
同じ業界、同じような規模(経営資源)であるにも関わらず、業績の違い
はどこから来るのか
②
それは、「やり方次第」、すなわちマネジメントの違いによるのではないか
③
ただ、そこには「しっかり-きっちり」とやるいわゆる「マネジメント」
だけでなく、
「ちゃっかり-ざっくり」とやるような「マネジメントに似て非
なるもの」があるのではないか、その「マネジメントに似て非なるもの」と
は何か
④
では、そもそもマネジメントとは何なのか、どう表せばいいいのか
⑤
中小企業にとってマネジメントとは何なのか、どう捉えればいいのか
⑥
中小企業のマネジメントはどのように分類できるのか、どういったタイプ
があるのか
⑦
実際に中小企業はどういったマネジメントをしているのか、マネジメント
の実態はどうなのか
⑧
中小企業のマネジメントのタイプと業績にはどのような相関があるのか、
どのタイプの業績がいいのか
⑨
中小企業はこれからどういったマネジメントをしていけばいいのか、どの
ようなマネジメントをすれば業績が向上するのか
- 33 -
一方、「やり方次第」ではなく、「経営者次第」という側面からは、 これまで
の考察も踏まえて、
⑩
どんな個性の経営者かはともかく、その影響力からすると、中小企業の場
合、一般的な「経営理念-何をするか-どうするか」という 平面的な経営(マ
ネジメント)体系だけでなく、
「A 力-B 機能」も加味した、立体的な二層構
造(「クラウド構造」)のロジックが必要なのではないか
⑪
そして、それが会社全体の「雰囲気」や「空気感」を作り出しているので
はないか
⑫
また、経営者を経営資源として捉えたとき、それはどういった経営資源に
なるのか
経営者の A 力を構成する要素と業績にはどのような相関があるのか
⑬
といった事項が問題提起として挙げられる。これらの問題提起を踏まえて、次
章以降で、マネジメントについて、さまざまな角度から議論を展開する。
また、本研究を通じて、筆者が提唱する概念は次の通りである。いずれの概
念も長年に及ぶフィールドワークからのものであるが、本研究において、学問
的にこれらの見える化と整理を行い、新しいマネジメントの枠組みとして提示
を図る。
①
マネジメントにおいて、その前提となる「A 力-B 機能」による、立体
的な二層構造(「クラウド構造」)のロジック
②
マネジメントではない、「マネジメントに似て非なるもの」の存在
③
マネジメント(マネジメントに似て非なるものを含む)のタイプ別分類
④
ベテラン・マネジャーとしての「番頭型マネジャー(現在版番頭)」の存
在
⑤
PDCA サイクルのモデル分類と、その中でも「スリーリング・モデル」
の確立
⑥
「改革度」と「革新度」による未来志向の業績判断
⑦
上記①~⑥による、総合的な中小企業のマネジメント体系
- 34 -
マネジメントというものを真正面から取り上げる本研究においては、②「マ
ネジメントに似て非なるもの」の存在と、③マネジメントのタイプ別分類が最
重要の提唱事項である。しかし、マネジメントを動かすツールである、④ベテ
ラン・マネジャーにおける「番頭型マネジャー」と、⑤PDCA サイクルにおけ
る「スリーリング・モデル」も中小企業のマネジメントを議論する上で欠かせ
ない要素であり、②や③と合わせて、最重要提唱事項を構成する。
- 35 -
第2章
マネジメントをめぐる議論のレビュー
本章では、
「マネジメント」について、先行研究をレビューし、マネジメント
の一般的な考え方を整理して、その概念を明らかにする。
1.中小企業の現場の「マネジメント感」
「マネジメント」という言葉は、中小企業の現場や会議の場などでも頻繁に
使われている。
ただ、よく使われている割に、その意味は曖昧であり、経営者以下、マネジ
ャーや現場の従業員は何となく使っているように見受けられる。彼らに「マネ
ジメント」の意味を質問しても、おそらく明確に答えることはできず、また、
仮に答えることができても、その答えは皆それぞれ違うと思われる。要するに、
中小企業の現場ではよくわからずに「マネジメント」という言葉を使っており、
裏を返すと、
「 マネジメント」はよくわからずとも使える便利な言葉なのである。
ただ、はっきりと定義付けて使われていない中でも、筆者がその文脈から認
識できているのは、
「マネジメント」を「管理」と結び付けて使っているという
ことである。またそれは、
「管理」だけでなく、そこに強制的に動かすニュアン
スが加味された「統制(コントロール)」に近い場合もある。いずれにしても、
少なくとも、現場を枠にはめ込み、その中からはみ出ないようにするような、
窮屈で、堅苦しいイメージが「マネジメント」にあるのは確かである。
そして、言葉としては頻繁に使われているものの、基本的には、中小企業の
現場は、マネジメントが嫌いである。自分たちが「管理される」からである。
また、マネジャーたちもマネジメントが嫌いである。自分たちが「管理させら
れる」からである。それが中小企業の実情である。
2.さまざまなマネジメントの捉え方
前述のように、中小企業の現場での「マネジメント」は、主に「管理」とい
う捉え方をされていることが多いが、一般的には「マネジメント」とは、どの
ような意味であり、どういった使われ方をされているのかを明らかにするため
- 36 -
に、先行研究をレビューし、マネジメントの一般的な定義付けを図る。
ここでは、本研究の「中小企業におけるマネジメントと業績との関係の明確
化」というテーマに合わせて、大きく中小企業論と管理会計論におけるマネジ
メントの議論を見ていくこととする。
(1)マネジメントの古典的な議論
まずは、マネジメント論の原点とも言える、テイラーとファヨールによる古
典的な議論を確認する。
①F.W.テイラー(Frederick W.Taylor)
テイラー(1911)は、従来のマネジメント方法の課題について述べた上で、
これからのマネジメント方法について展開している。テイラーは、従来のマネ
ジメントを「自主性とインセンティブを柱としたマネジメント」と呼び、それ
を「働き手が最大限の自主性を発揮して仕事に取り組み、雇用主がその見返り
に特別なインセンティブを与える仕組み」と定義付けている (Taylor,1911,邦
訳,p.41)。
一方、これからのマネジメントを「科学的管理法(課業タスクのマネジメン
シ ス テ ム
ト)」と呼び、
「これまでは人材が第一に据えられてきたが、これからは 仕組み を
第一に据えなければいけない」とシステムの重要性を主張する。続けて、
「最高
の管理(マネジメント)とは紛れもない科学であり、明快に定められた作法、
決まり、原則をよりどころとする」、「科学的管理法の基本原則が、一人ひとり
のごく何気ないふるまいから、きわめて緻密な協力体制を必要とする大企業の
業務まで、あらゆる種類の人間活動に当てはまる」としている( 同書,pp.6-7)。
そして、マネジメントの目的は、
「雇用主に『限りない繁栄』をもたらし、併せ
て、働き手に『最大限の豊かさ』を届けることであるべき」と言う( 同書,p.10)。
②H.ファヨール(Henri Fayol)
ファヨール(1916)は、企業の活動を技術的活動、商業的活動、財務的活動、
保全的活動、会計的活動、管理的活動の 6 つに分け(Fayol,1916,邦訳,p.17)、
中でも「管理的活動」について言及している。管理的職能は「その他の五つの
- 37 -
、、
本質的な職能とはっきりと区別される」とし、
「経営 と混同しないことが重要で
ある」と言う(同書,p.22)。そして、管理することは、「予測し、組織し、命令
し、調整し、統制すること」であるとする( 同書,p.21)。ファヨールは、マネ
ジメントにおいて、この一連の「プロセス」を重視しているのである。また、
ファヨールは、管理について、分業、権限、規律といった 14 の一般的な原則
を示している(同書,pp.41-76)。
(2)中小企業論におけるマネジメントの議論
次に、中小企業論におけるマネジメントの議論を確認する。あくまでも「マ
ネジメントとは何か」を考察するためのレビューであるため、たとえば、製造
業や小売業など業種ごとの課題についての議論、生産や営業、人事、情報など
個別の経営機能などについての議論など、本研究のテーマと関連性の低いテー
マを扱っている議論は、ここでは対象外とする。
我が国における中小企業の議論のあり方をよりわかりやすくするためにも、
まずは海外における中小企業の議論を概観する。
スタインドル(Joseph Steindl, 1947)は、企業規模の違いによる経済的な
問題について論じている。その中で、小規模企業が不利な状況にも関わらず、
根強く残存していることを強調し、その背景として、大資本の発展する過程、
不完全な競争、寡占的状態、小企業家の賭博的な態度の 4 つを挙げている。ス
トーリー(David J. Storey, 1994)は、イギリスにおける小規模企業の編成や
発展、貢献、そしてマネジメントについて分析をしており、大企業と比較する
ことによって、その成功要因と失敗要因を明らかにしようとしている。また、
経営資源に関する雇用や金融の面からも小規模企業の課題を整理している。ス
トーリー&グリーン(David J. Storey and Francis Greene, 2010)は、具体的
な事例を挙げながら、中小企業とアントレプレナーシップ(企業家精神)につ
いて述べている。そこでは、中小企業にとって、不確実性、市場力、ライフス
タイルという 3 つの概念を理解することが必要であることを明らかにしている。
アントレプレナーシップに関する議論は活発であり、たとえば、ティモンズ
(Jeffery A. Timmons,1994)は、アントレプレナーシップの本質は創造的活
動であることを定義した上で、起業のプロセスを述べ、その中で、創業者のあ
- 38 -
り方や、人的資源や財務資源の必要性、ビジネスプランの重要性などについて
明らかにしている。また、ティモンズ&バイグレイブ(Jeffery A. Timmons and
William D. Bygrave, 1992)では、1980 年以降、米国において、成長の早いア
ントレプレナーシップを持つ企業が新規事業を創造しており、ベンチャーキャ
ピタルと新規事業の創造におけるその役割を調べている。そこで、新規事業の
地域経済への影響やベンチャーキャピタルの利益率などについて明らかにして
いる。
アントレプレナーシップに関して、ミラー(Danny Miller, 1983)は、企業
の 3 つタイプから言及している。単純な企業は小規模であり、その権限はトッ
プに集中されている。また、計画的企業は、より大規模であり、統制と計画に
よって、効率よく、効果的に運営をすることを目指している。有機的企業は、
環境対応に努めており、専門的知識と開かれたコミュニケーションを強調する。
そして、それぞれのアントレプレナーシップについて、単純な企業ではリーダ
ーの個性、計画的企業では製品・市場戦略、有機的企業では環境と構造の機能、
と結び付いていることを明らかにしている。また、ミラー(2011)では、これ
らの内容を踏まえて、EO(entrepreneurial orientation)についての議論を行
っている。アントレプレナーシップと業績の関係も議論されており、ザハラ&
コビン(Shaker A. Zahra and Jeffrey G. Covin, 1995)は、縦断的な分析を行
い、アントレプレナーシップが企業業績に好影響を与えることを明らかにして
いる。
中小企業の社会的役割については、アントレプレナーシップによる社会的な
革新性だけでなく、雇用創出の視点からも議論されている。たとえば、バーチ
(David G. W. Birch, 1987)は、雇用がどのように創出されるかを小規模企業
などとの関係で調査している。その中で、雇用は流動的になっており、それは
会社の成長性、特に小規模企業のそれによるものであることを明らかにしてい
る。そして、経営革新は、アメリカにおいてサービス産業を牽引する、先端技
術と高い革新性を持った企業から生じていることなどにも触れている。小規模
企業がその成長性によって、雇用の創出に貢献することは、世界銀行のレポー
トとして、アヤガリーら(Meghana Ayyagari et al.,2011)も明らかにしてい
る。
- 39 -
中小企業における戦略の視点での議論もなされている。コビン&スレビン
(Jeffrey G. Covin and Dennis P. Slevin, 1989)は、小規模メーカーから集め
たデータに基づき、小規模企業における環境の違いによる戦略を議論している。
敵対的な環境では、小規模企業のパフォーマンスは、有機的な組織構造や企業
家的な戦略姿勢、長期方針による競争的なプロフィールなどと関連がある。ま
た、好意的な環境では、それは、機械的な組織構造や保守的な戦略姿勢、保守
的な財務管理と短期的な財務方針などによる競争的なプロフィールと関係する。
また、コビン&スレビン(1991)では、戦略的な姿勢に関して、組織レベルに
おける企業家的な行動の概念モデルを明らかにしている。アントレプレナーシ
ップは戦略的な姿勢としての次元であり、あらゆる種類の組織が企業家的に行
動するべきであるとする。この戦略的な姿勢には、企業としてのリスクをいと
わない傾向、競争に勝ち抜くための能力、率先する意識、製品の革新などを含
む。組織モデルの内的変数をトップのマネジメントの価値、哲学、組織的な資
源と能力、組織文化、そして組織構造とすると、外的変数は、環境技術の精巧
化、環境的な活力、環境としての敵対関係、そして工業的なライフサイクルの
段階で構成される。
また、中小企業の成長モデルに関する議論もある。マクマホン(Richard G. P.
McMahon, 1998)は、中小企業の成長モデルを議論し、その概念のフレームワ
ークを検証している。中でも、ハンクスら(S. H. Hanks et al.,1993)の提唱
したライフサイクルモデルに信頼を寄せている。そして、そのモデルが中小企
業の観察で見られる 2 つの乖離した構成を採用しているとする。それは、ライ
フスタイルにおけるビジネスと制約された成長のために選択したビジネスであ
る。バーレイ&ウェストヘッド(Sue Birley and Paul Westhead, 1990)は、
小規模企業の成長段階について議論を展開している。成長を比べるものとして、
従業員数と売上高、収益性の 3 つの要素を用いている。そして、分析により、
小規模企業の 8 つの異なるタイプを確認している。その際の内部変数は、所有、
管理、生産構造であり、外部変数は、製品と市場のポジショニングである。
さらには、中小企業に特有の同族会社の視点から議論をしているものもある。
たとえば、クリスマンら(James J. Chrisman et al.,2005)は、同族会社の戦
略的管理の理論について議論をしている。そこでは家業を定めるにあたり、そ
- 40 -
の関係の構成要素によるアプローチと本質からのアプローチの 2 つのアプロー
チがあることを明らかにしている。また、家族関係が業績に影響を及ぼすかに
ついて、これまでの証拠を見直し、大企業の場合は、創業者一族が関与してい
るが、小規模事業者や家族関係が限定されない企業の場合は、さらなる研究が
必要であるとしている。また、ウェストヘッド&コーリング(Paul Westhead
and Marc Cowling, 1997)も、イギリスにおける同族会社と非同族会社の業績
の違いを議論している。そして、その 2 つのグループには、難しい目的を持つ
業績と野心的な指標において、類似性があることを確認している。
その他にも、中小企業の成長段階に応じて必要となる経営革新や、今日、我
が国でも盛んになっている、事業承継についての議論もなされている。オード
レッチ(David B. Audretsch, 1995)は、経営革新における議論として、アメ
リカにおける中小企業のデータベースを分析している。その中で、産業の構造
は高い流動性などによって特徴付けられることを明らかにし、企業と産業がダ
イナミックに進化するプロセスは、技術、経済規模、需要の 3 つの要素で構成
されることを示している。そして、経営革新は、知識の状況や基礎的な技術に
よって成り立つことを明らかにしている。また、ハンドラー(Wendy C. Handler,
1994)は、同族企業の事業承継についての研究をレビューしている。そこで、
事業承継のテーマは、プロセスとしての承継、創業者の役割、次世代の展望、
分析のレベル、効果的承継の特徴、という大きく 5 つのテーマに分かれること
を明らかにしている。
次に、日本の中小企業に関して、我が国では、そのマネジメントについて、
どういった議論が展開されているか、以下に確認していく。
我が国の中小企業をめぐる伝統的な議論としては、中小企業特有のテーマで
ある下請構造や大企業との格差による二重構造の問題、地域での産業集積、中
小企業政策のあり方、経営資源(ヒト・モノ・カネやソフトな経営資源)の少
なさを要因とする経営課題を論じるものなどさまざまである。ヒトについては
人材不足や、カネについては資金の調達といった具体的な課題もある。また、
中小企業の成長段階に目を向けた議論もあり、中でも創業やベンチャーといっ
たステージに焦点を合わせた議論も活発に行われている。
- 41 -
渡辺(2008)は「日本の中小企業論に関する論文・著書点数」を調べ、中小
企業論の動向を明らかにしている。それによると、1980 年代以降、国際比較研
究が増加しており、それは「1970 年代から日本経済に国際化が進展したことの
反映である」とする(渡辺,2008,p.17)。また 2000 年代は地域経済や金融、海
外の中小企業に関する研究が増えており、その原因について、
「地域産業集積の
研究、1990 年代末からはじまる中小企業の金融危機にともなう金融問題の研究、
グローバリゼーションの進展を反映した中国をはじめとした海外の中小企業研
究が活発化したからである」と述べている(同論文,p.17)。
また、そういった中小企業の問題を遠藤(2014)は、「競争・取引関係」と
「経営活動要素」の 2 つに分けて整理している(遠藤,2014,pp.52-53)。競争・
取引関係は、大企業との取引等に関するものであり、経営活動要素は、労 働力、
金融、原材料等に関するものである。
そういったさまざま議論がある中で、中小企業における「マネジメント」と
いう視点からは、どういった議論が行われているのかを見ていく。ここでは、
前述のように、本研究の目的と直接に関係ないテーマを除き、マネジメントの
本質に迫る議論を確認する。マネジメントの概念や捉え方によって、次のよう
な多角的な議論が展開されている。
①小川英次
小川(2009)は、中小企業経営を論ずるに当たり、経営における「信頼」の
重要性を説いている。
「現代においてあらゆる事業の営みは、関係者の信頼があ
ってはじめて成就できる」とする(小川,2009,p.17)。小川は長年にわたる TPS
(トヨタ生産方式)の研究の中から、その手法の体系は、
「 変化のマネジメント」、
「技術のマネジメント」、「連携のマネジメント」、「調律のマネジメント」の四
つのマネジメントから成るとし(同書,p.13)、その「変化」こそ「現代企業経
営の基本である」と言う(同書,p.6)。
そして、
「企業の経営モデルは、信頼の形成、維持、強化から発すべきことを
強調」した上で、経営のプロセス・モデルとして「信頼⇒変化⇒連携⇒統合⇒
バランスと繋がる連鎖は、企業の経済的な変容、進化のサイクル」であること
- 42 -
を明らかにしている(同書,p.18)。中小企業が長寿企業になるためには 、この
「信頼―変化―連携―統合―バランス―信頼」のサイクルを回すことが重要で
あり、サブサイクルとして、
「信頼―変化―連携―バランス―信頼」や「信頼―
変化―バランス―信頼」といったモデルの方が、中小企業にはより適合するこ
とも示している(同書,pp.263-264)。
この小川の「信頼ベースのマネジメント」を受けて、岩田ら( 2011)は、中
小企業を「安定志向型の経営」と「革新志向型の経営」の大きく二つに分けて
議論を展開している。安定志向型の経営では、伝統産業の方向性などをテーマ
とし、技術志向型の経営では、技術的な対応へのあり方などをテーマに議論を
行っている。
②黒瀬直宏
前述の岩田ら(2011)は、中小企業の経営を大きく二つに分けて議論してい
るが、この二つはいずれも「志向」、すなわちプラスのベクトルを前提としたも
のである。それに対して、中小企業の問題性にも焦点を当てた議論も行われて
いる。
黒瀬(2012)は、複眼的中小企業論を展開している。これは「積極型中小企
業論に足場を置き、積極型中小企業論と問題型中小企業論を統合するもの」で
あり、
「中小企業の本質規定に関し発展性と問題性を同時に視野に入れる」とい
う見方である(黒瀬,2012,p.17)。
そして、
「中小企業は発展性と問題性の統一物」であるとし、3 つの類型を示
している。「企業家的中小企業」は、「企業家活動=『場面情報』発見活動を、
需要に関しても、技術に関しても活発に展開し、中小企業問題の壁を突破、
『独
自市場』構築による価格形成力の獲得に成功している」ものである( 同書,p.140)。
「半企業家的中小企業」は、「企業家活動の成果が一部にとどまっているため、
発展性も問題性も抱えており、
『発展性と問題性の統一物』という中小企業の本
質規定を典型的に体現している企業群」である(同書,p.146)。
「停滞中小企業」
は、
「企業家活動を展開できず、経営上の強みがないため中小企業問題に圧迫さ
れ、主として低賃金など消極的要因によって存立している、中小企業の問題性
をもっぱら体現している企業群」である(同書,p.150)。
- 43 -
③江島由裕
前述の岩田ら(2011)や黒瀬(2012)の議論が、大きく中小企業の方向性に
関わる議論であることに対し、そういった方向性を支えるマネジメントの要因
という視点からの議論もある。
江島(2014)は、「創造的中小企業が生き残るための有効なマネジメント諸
要因を企業属性、事業環境、戦略、企業姿勢、経営資源をキー概念として捉え
て、多角的かつ探索的に分析」を加えている。そして、
「創造的中小企業の存続
には、経営トップの主導のもと、事業環境の変化への認識とその変化に適応し
た能動的かつ冷静な戦略とその実践が鍵を握っている」としている(江
島,2014,p.105)。また、存続に大きな影響を与えるとす る戦略、経営姿勢、事
業環境の 3 つのマネジメント要因の変化に注目しており、「戦略については、
独自の製品開発やコスト優位の戦略重視が生存に有効であるとし、トップの経
営姿勢に関しては、権限委譲やリスクへの挑戦、過去の経験にとらわれない経
営の柔軟性の強調が重要であること」などを示している(同書,pp.129-130)。
④清水龍瑩
成長プロセスという時間軸のスケールを用いて、中小企業のマネジメントを
議論しているものもある。
清水(1986)は、中堅・中小企業の成長プロセスと成長要因について述べて
いる。成長プロセスを、スタート・アップ期、成長期、安定期・再成長期の 3
つに分け、さらに成長パターンによって、大きく 5 つの成長タイプに大別して
いる。中小企業→中堅企業→大企業と成長する「成長型」や中小企業のままで
ある「維持型」などである。また、それぞれの成長タイプごとに課題を明らか
にしており、たとえば、前述の「成長型」の場合は、経営者がたえず強い成長
意欲を持ち続けることや、
「 維持型」の場合は、事業転換のための不動産や資金、
信用の蓄積が重要であることを指摘している(清水,1986,pp.2-26)。
また、成長要因にとしては、経営者要因、製品要因、組織要因、財務要因な
どを挙げているが、中でも経営者能力と製品戦略に言及しており、
「中堅・中小
企業では要求される経営者能力は、はげしい成長意欲と、バランス感覚である」、
- 44 -
「中堅・中小企業では要求される製品戦略は、新製品開発と、コスト低減の同
時追求である」としている(同書,pp.190-192)。
⑤二場邦彦
二場(1998)は、中小企業経営の方向に関して、そのマネジメントのあり方
について触れている。二場は、中小企業の方向性として、「積極的な棲み分け」
を提唱している。消費者ニーズの多様化や市場の細分化が進む中、高い専門性
を持つ中小企業が付加価値を実現し、大企業などと棲み分けるのである( 二
場,1998,pp.76-78)。ただ、それにはマネジメントが必要であり、それは成行き
管理では難しいと言う。
「積極的な棲み分け」は、技術や顧客ニーズの変化に対
応することによって成り立つ。そのために必要なのが経営活動の計画性であり、
「経営目的にそって諸資源を組み合わせて諸活動を計画し、組織を整え、実施
し、その結果を分析・評価して次の計画にフィードバックするというマネジメ
ントの実践が必要である」としている(同書,pp.78-79)。
⑥小川雅人
前述の二場(1998)の言う計画性の必要について、管理方式の変化を前提と
した議論もある。小川(2007)は、中小企業のマネジメントに関して、
「『ニコ
ポン』
(親しみを込めて上司が肩をポンとたたいてニコッと笑う)式で家族主義
的な温情な管理や地位による権限を背景に命令による軍隊式の管理等はすでに
過去の管理手法になっている」と指摘する。そして、
「年功序列的な職位による
指揮命令による管理から権威による最もその仕事に適した人が管理する方式に
変わっている」とし、その具体的な例として、
「QC サークルやプロジェクトチ
ーム(PT)等の小集団活動」を挙げている(小川,2007,p.308)。
そして、「マネジメントサイクルは行動の基本原則である」とし、「計画―実
行―反省(Plan‐Do‐See)」のプロセスの有用性を説いている(同論文,p.308)。
⑦寺岡寛
寺岡(2003)は、スモールビジネスのマネジメントについて言及しているが
(寺岡,2003,pp.127-128)、そのポイントは、ビジネスプランの必要 性である。
- 45 -
ビジネスプランを実行に移す場合に障害となるさまざまなことを思い浮かべ、
その「回避策や解決策を具体的なシナリオに描いておくこと」が重要であると
する。それによって、
「冷静沈着にことの本質を見極めることができ、適切な措
置がとれる。これこそがマネジメントの真髄ではないか」としている( 同
書,p.131)。
そして、このマネジメントについて、
「外向き」と「内向き」という二つの側
面から捉えている。外向きは、
「自らの事業に対する経営環境の予測のこと」で
あり、内向きは、
「将来起こりうることから派生するリスクをどのよ うに軽減さ
せるか」である(同書,p.132)。
以上、見てきたように、マネジメントをめぐる議論でも、その視点はさまざ
まであり、
「中小企業のマネジメント」といっても、多岐にわたる議論が展開さ
れていることがわかる。
小川(2009)は、信頼をベースにしたマネジメントのあり方と、経営プロセ
スについて説いており、黒瀬(2012)は、発展性と問題性という、中小企業が
包含している本質からその生き方を示している。江島(2014)は、中小企業が
生存するための要因からマネジメント論を展開している。また、清水(1986)
は、成長プロセスに着目した議論である。ただ、これらの議論の視点は、本研
究が明らかにしようとしている「しっかり-きっちり」
「 ちゃっかり-ざっくり」
といった、中小企業の現場はどういうやり方をすればいいのかを明らかにする
という、
「やり方」という切り口から考えるとどうであろうか。いずれの議論も
会社全体の方向性や生き方についてのものであり、その視点は違っており、探
求している解の内容も大きく異なっている。
一方、二場(1998)や小川(2007)が指摘している、中小企業に必要だとす
る計画性や Plan‐Do‐See の議論はどうであろうか。「やり方」ということで
言うと、その視点はかなり近いものがあるが、これらは「管理の仕方」の議論
であり、まさに「マネジメント」についての議論である。
「きちんと計画を立て
てやるべきである」というのが、その議論の主旨と考えられる。ただ、先述の
ように、実際の現場には「ちゃっかり-ざっくり」とおよそ計画と無縁のよう
なやり方をしているところもあり、しかもそういった企業も立派に実績を上げ
- 46 -
ているのである。本研究の問題提起はそこにある。本研究の要諦は、やり方の
うちでも「ちゃっかり-ざっくり」という、「マネジメントに似て非なるもの」
であり、一般的なマネジメントとはまた違ったマネジメントの概念を明らかに
することである。
中小企業のマネジメントをめぐる先行研究を見てきたが、本研究との相違は、
その視点にあり、また、マネジメントをテーマにしつつも、マネジメントでは
ないものを議論しようとしているところに本研究の本質がある 21。
(3)管理会計論におけるマネジメントの議論
最後に、管理会計論におけるマネジメントの議論について、確認していく。
管理会計論は、大きくは「計画会計」と「統制会計」に区分される。また、計
画会計のうち「期間管理会計」と統制会計を合わせて、
「業績管理会計」と位置
付けている。ただ、経営環境の変化に対応すべく、
「戦略的管理会計」の議論も
なされており、中小企業でもその活用が検討されている「バランスト・スコア
カード」などもその技法の一つである(山本,2008,pp.247-249)。
それでは、
「マネジメント」という切り口で見た場合、管理会計論ではどのよ
うな議論がなされているのか。その主要なテーマは、マネジメント・コントロ
ールである。
そこで、まずは、海外(主に英米圏)における管理会計の分野でのマネジメ
ント・コントロールに関係する先行研究を概観する。なぜなら、英米圏におけ
るマネジメント・コントロール論は管理会計を中心に展開されてきており(澤
邉・飛田,2009,p.78)、管理会計でのマネジメント・コントロールに関してはか
なり発展的な議論がなされているからである 22。
マネジメント・コントロールをめぐる議論として、戦略に関するものが多く
見受けられる。たとえば、ゴビンダラジャン&グプタ(V. Govindarajan and
21
本研究の題材が「日本の中小企業」であるため、ここでは、我が国における中小企業論の先行研究
に つ い て 述 べ た が、レ ビ ュ ー の 結 果、海 外 の 中 小 企 業 を め ぐ る 議 論 に お い て も、本 研 究 の よ う に「 マ ネ
ジ メ ン ト に 似 て 非 な る も の 」と い う 着 眼 点 で の 議 論 は 、こ れ ま で ほ と ん ど な さ れ て こ な か っ た こ と が 伺
える。
22 た だ し 、 こ の 概 観 の 段 階 で は 、 考 察 の 展 開 上 か ら 、 後 に 詳 細 に 取 り 上 げ る ア ン ソ ニ ー の フ レ ー ム ワ
ー ク や サ イ モ ン ズ の 診 断 型・対 話 型 統 制 シ ス テ ム 、キ ャ プ ラ ン & ノ ー ト ン の バ ラ ン ス ト・ス コ ア カ ー ド
などの議論は除く。
- 47 -
Anil K. Gupta,1985)は、コントロールシステムと戦略を関連付けることの有
用性を調査している。具体的には、SBU(strategic business unit)の効果に
関して、そのゼネラル・マネジャーの行動に影響するインセンティブ・ボーナ
スについてである。長期的な基準だけでなく、主観的に(非公式に)大きく依
存する建設型の SBU の場合は、ゼネラル・マネジャーのボーナスの決定に貢
献するが、収穫型の SBU の場合は、それを阻害する。また、短期的な基準に
おけるボーナスシステムの依存と SBU の有効性の関係は、SBU の戦略から事
実上独立していることを明らかにしている。ラングフィールド・スミス(Kim
Langfield-Smith,1997)は、MCS(マネジメント・コントロール・システム)
と事業戦略との関係性についての研究を調査している。そこでは、業績測定シ
ステムと戦略の関係性に対する現代的なアプローチも考察されている。そして、
さまざまな研究を調査しながら、これからの研究課題として、MCS が実現する
ために意図された戦略をもたらすためにどのような役割ができるか、また、戦
略的な変化に起因する混乱を MCS が最小にできるかどうか、といったことを
挙げている。マーチャント(Kenneth A. Merchant,1985)は、意思決定(自
由裁量のプログラム決定)の重要なクラスがどうコントロールされるかを実地
調査している。①(「コントロール」のラベルを与えられた)多くのマネジメン
トの方策が、自由裁量のプログラムのおける PC(profit center)マネジャーの
意思決定に影響を与えていること、②コントロールは成長戦略を伴う事業のた
めには、なかなか緩められないこと、③調査された企業の新しいトップが、組
織のレベルダウンを感じ、コントロールの重要な影響を持っていたこと、④PC
マネジャーが資本関連の支出に関する意思決定をするための大きな裁量権を持
っていること、などを明らかにしている。
サイモンズ(Robert Simons,1987)は、マイルズ&スノー(Raymond E.Miles
and Charles C.Snow,1978)が示した3つの戦略タイプ(Prospector、Defender、
Analyzer 23. )に依拠し、異なる戦略間における会計コントロールシステムの特
23
Prospector は 、新 製 品 と 市 場 を 開 発 し 、競 争 を 行 う 。製 品 ラ イ ン は 変 化 し 、新 し い 市 場 機 会 を 絶 え
ず 探 し て い る 戦 略 タ イ プ で あ る 。 そ れ に 対 し 、 Defender は 、 製 品 ・ 市 場 開 発 を ほ と ん ど 行 わ ず 、 限 ら
れ た 製 品 を 提 供 す る 中 で 、コ ス ト・リ ー ダ ー シ ッ プ 、品 質 、サ ー ビ ス で 競 争 す る 戦 略 タ イ プ で あ る 。ま
た 、 Analyzer は そ れ ら 2 つ の 戦 略 を 結 合 し た 、 中 間 的 ハ イ ブ リ ッ ド の 戦 略 タ イ プ で あ る ( Miles and
Snow,1978,p.359) 。
- 48 -
質の違いについて議論している。高い業績のProspectorタイプの企業は、厳し
い予算目標と慎重なモニタリングを行い、コントロールシステムでのデータ予
測に重きを置いている。Defenderタイプの企業(特に大きな企業)はコントロ
ールシステムをあまり使わないところがある。実際、否定的な関係は業績と特
性(厳しい予算目標や成果のモニタリング)の間に示されているとしている。
また、サイモンズ(1990)では、2年間の実地調査に基づき、インタラクティ
ブなマネジメント・コントロール・システムが、不確実性のある戦略において、
どのように組織的な注意の焦点を合わせるかをあらわす新しいモデルについて
述べている。そこでは、前述のゴビンダラジャン&グプタ(1985)やサイモン
ズ(1987)などにも触れながら、議論を展開している。そして、競争環境にあ
るProspectorタイプの企業とDefenderタイプの企業での検証において、
Defenderタイプの企業のマネジャーは戦略的な不確実性(低コスト化による製
品または技術的な変化)の焦点を必要とすることを明らかにしている。
詳細は後述するが、前述のサイモンズが示したフレームワークに関する議論
もある。ビスべ&オトレー(Josep Bisbe and David Otley,2004)は、サイモ
ンズ(1990,1991,1995,2000)のコントロールのフレームワークに依拠し、 ス
ペインの製造企業での調査により、製品革新への影響を調べている。それは、
マネジメント・コントロール・システムの双方向(対話型)の活用が製品革新
を促進するとしながらも、その関係が仲介的なものか穏健(協力)的なもので
あるかはっきりしていないことによる。そこで、コントロール・レバーのフレ
ームワークに組み込まれている変数の関係を調べ、タイプの違いを識別し、そ
の結果、関係は穏健的なものであることを示唆している。ワイドナー(Sally K.
Widener,2007)は、サイモンズ(2000)の LOC(levers of control)のフレー
ムワークに依拠し、コントロールシステム間の関係やコスト、利益などについ
て調査している。具体的には、122 人の最高財務責任者のデータを使い、戦略
的なリスクと不確実性をコントロールシステム(理念、境界、診断型、対話型
統制システム)に関連付ける構造方程式モデルのテストである。そして、① LOC
フレームワークにおけるコントロールの多くは、相互依存しており、補完し合
っていること、②戦略の不確実性の 2 つのタイプ(競争上の不確実性とオペレ
ーション上の不確実性)は、コントロールシステムの重要性と関係しているこ
- 49 -
と、③PM(performance measurement)システムの対話的な活用は、組織的
な学習と関係していないこと、④コントロールの費用もあるが、4 つのコント
ロールの構成要素は業績への好影響を持っていること、⑤コントロールシステ
ムにおける強調が、学習と注意の管理での影響を通じて業績に関係すること、
などを明らかにしている。
戦略と並び、マネジメント・コントロールと組織に関する議論も盛んである。
たとえば、アンリ(Jean-François Henri,2004)は、組織論の分野で展開され
る組織的効果(OE)モデルと、管理会計の分野で展開される業績測定モデルに
ついて議論している。そこでは、理論的で実践的な力への対応として、OE モ
デルは構成概念のパースペクティブによって進化し、業績測定モデルは過程の
パースペクティブによって進化したものであることなどが示されている。また、
管理会計が業績測定の役割、デザイン、組織的影響において発展をもたらし、
組織論にはその開発に貢献し、将来やっていくための豊かさがあることなどを
明らかにしている。アンリ(2006a)では、トップマネジャーたちに関して、
組織文化と PMS(performance measurement systems)との関係を調べてい
る。結果、制御性の高いタイプの企業のトップマネジャーに比べて、柔軟性の
高いタイプの企業のトップマネジャーは、より業績評価を活用し、組織の注意
を集中させ、戦略的意思決定を支援し、アクションを正当化するために PMS
を使用することを明らかにしている。 アンリ(2006b)では、資源ベースの パ
ースペクティブから、一つのマネジメント・コントロール・システムとしての
PMS と組織能力の関係について言及している。そして、対話的な(診断的な)
やり方の中で使われる PMS が、市場オリエンテーション、企業家精神、革新
性、組織的学習の能力の展開に貢献することを示唆している。また、ベレスら
(Maria L. Vélez, José M. Sánchez and Concha Álvarez-Dardet,2008)は、
組織間の信頼としての MCSs(マネジメント・コントロール・システム)が関
係を発展させることに関しての議論を行っている。そこでは、信頼が確立して
いるときでも、MCSs が信頼を支持し、それを直接構築するという情況を可能
にする。そして、成熟した、制限のない IORs( inter-organizational relationship)
において、高い信頼と安定性は、初期の条件が進化するプラットフォームを提
供することなどを明らかにしている。
- 50 -
マネジメント・コントロール・システムの研究の中でも、コンティンジェン
シーベースの研究には長い伝統があり、研究者たちは、環境、技術、サイズ、
構造、戦略、文化の本質にもっともよく合うデザインを調べることにより、マ
ネジメント・コントロール・システムの効果を説明しようとしてきた。チェン
ホール(Robert H. Chenhall,2003)は、過去 20 年の研究から批判的なレビュ
ーを引き出し、マネジメント・コントロール・システムを組織の状況に関連付
けしている。
会計に関しての議論もある。ゴードン&ミラー(Lawrence A. Gordon and
Danny Miller,1976)は、それまでの研究が、偏狭で柔軟性がない設計をして
いた会計情報システムであったことに対し、幅広く適応可能なフレームワーク
について言及している。環境や組織の特性、経営意思決定のスタイルなどを考
慮した、コンティンジェンシー・アプローチである。そして、会計情報システ
ムが組織の業績を変えるきっかけになっていることを明らかにしている。ゴー
ドン&ナラヤナン(Lawrence A. Gordon and V.K. Narayanan, 1984)は、そ
れまでの研究で示されていた情報システムと組織構造、また環境との関係につ
いて調査研究を行っている。そして、意思決定者にとって重要であると認めら
れる情報の特性は、知覚された環境の不確実性に関連するが、意思決定者と組
織構造との関係は、PEU(perceived environmental uncertainty)に関連する
両方の変数(すなわち、情報と構造の特性)の結果であることを示唆している。
ま た 、 ア バ ネ シ ー & ブ ラ ウ ネ ル ( Margaret A. Abernethy and Peter
Brownell,1997)は、研究開発組織における、会計と非会計によるコントロー
ルについて述べ ている。具体的には、 Perrow(1970)のモデルを活用し、会
計コントロール、行動コントロール、人員コントロールの影響を調査している。
そして、タスクの不確実性の高い中では、非会計のコントロール(特に人員コ
ントロール)が組織の効果に影響を及ぼすことを明らかにしている。
以上のように、マネジメント・コントロールは戦略や組織などと関連付けら
れて、さまざまな議論がされてきたことがわかる。それでは、管理会計におけ
るマネジメント・コントロールについて、どのように整理すればいいのか。
谷(2010 )は、管理会計における考察の対象としてのマネジメント・コン
- 51 -
トロールについて、二つのアプローチが必要であると言う。
「業績管理アプロー
チ」と「意思決定アプローチ」である。業績管理アプローチとは、
「戦略実施の
ため、マネジメント・コントロールプロセスにおける業績管理の役割を考察す
るとともに、業績管理のための会計情報の提供に行動一致と統合の視点から焦
点を当てるアプローチ」である。これに対して、意思決定アプローチは、
「戦略
実施のため、マネジメント・コントロールのプロセスにおける意思決定に対す
る管理会計の役割を考察するとともに、意思決定に必要な管理会計情報の提供
に焦点を当てるアプローチ」である(谷,2010,pp.22-23)。そして、マネジメン
ト・コントロールに対しては、業績管理アプローチが適用されるとしつつも、
意思決定アプローチも求められるとしている(同論文,p.24)。
この意思決定や業績管理といったキーワードを踏まえ、ここではマネジメン
ト・コントロールの視点から管理会計論におけるマネジメントの議論をいくつ
か確認する。
①R.N.アンソニー(Robert N.Anthony)
前述の谷(2010)は、管理会計には、「戦略実施のシステム」、「分化した組
織の統合システム」、
「階層的 PDCA サイクル」の 3 つの特徴があることを明ら
かにしている(谷,2010,p.15)。そして、第四の特徴として、「人間が介在する
システム」であることを挙げている。その特徴において言及しているのがアン
ソニーの概念である。
アンソニー(1965)は、計画とコントロールのシステムに関するフレームワ
ークを提案している。このフレームワークには次の 3 つのプロセスがある
(Anhtony,1965,邦訳,pp.20-25)。
・戦略的計画…組織の目的、これらの目的の変更、これらの目的達成のため
に用いられる諸資源、およびこれらの資源の取得・使用・処分に際して準
拠すべき方針を決定するプロセス
・マネジメント・コントロール…マネジャーが、組織の目的達成のために資
源を効果的かつ能率的に取得し、使用することを確保するプロセス
・オペレーショナル・コントロール…特定の課業が効果的かつ能率的に遂行
されることを確保するプロセス
- 52 -
そして、戦略的計画の活動はほぼ「計画」であり、オペレーショナル・コント
ロールの活動はほぼ「コントロール」であり、マネジメント・コントロールの
活動は「計画」と「コントロール」の混合されたものであるとしている( 同
書,pp.24-25)。
②R.サイモンズ(Robert Simons)
サイモンズ(2000)は、コントロールのシステムから説明している。サイモ
ンズは、
「戦略をうまく伝達し、統制するための、2 つの異なるタイプの統制シ
ステムある」とする(Simons,2000,邦訳,p.260)。それが、診断型統制システム
と対話型統制システムである。診断型統制システムとは、
「業績結果が、事前に
設定した業績水準からどれだけ乖離しているかをモニターするための情報シス
テム」である(同書,p.261)。対話型統制システムとは、「マネジャー自身が部
下の決断に関与するための情報システム」である(同書,p.271)。診断型統制シ
ステムは「例外によるマネジメントであり、会計責任範囲を定義する」とし、
対話型統制システムは「事業のポジションを調整するために必要なヒントを与
えてくれる」としている(同書,p.286)。
③R.S.キャプラン&D.P.ノートン(Robert S.Kaplan and David P.Norton)
キャプラン&ノートン(2008)は、バランスト・スコアカードに関する議論
の中で、
「戦略的計画と業務の実行を統合するマネジメント・システム」につい
て言及している。そのシステムには、次に示す「6 つの主要なステージ」があ
ると言う(Kaplan and Norton,2008,邦訳,pp.10-22)。
ステージ 1:戦略の構築
ステージ 2:戦略の企画
ステージ 3:組織の戦略へのアラインメント
ステージ 4:業務の計画
ステージ 5:モニターと学習
ステージ 6:戦略の検証と適応
この 6 つのマネジメント・プロセスは、「戦略的計画を業務計画、実行、フィ
ードバック、学習と結びつける総合的で包括的な循環システムを提供する」と
- 53 -
している(同書,p.22)。
④C.S.チャップマン(Christopher S.Chapman)
「マ
チャップマン(2005)は、先述のアンソニー(1965)の考え方を踏襲し、
ネジメント・コントロール・システムを、組織階層上部における戦略的な判断
と組織下部での日常業務的な問題との間に(両者とは分離して)位置づける捉
え方は、今日の多くの研究においても維持されており、現在の研究の重要で有
益な特徴となっている」と言う(Chapman,2005,邦訳,p.ⅰ)。そして、マネジ
メント・コントロール・システム(MCS)と戦略の関係について言及している。
「高度に制御された安定的な環境の場合を除き、MCS はせいぜい無関係である
か、より一般的には戦略にダメージを与えるものと考えるようになっている」
が、「現代の不安定な環境において、MCS は革新的かつ戦略的な対応を可能に
する」としている(同書,pp.1-2)。
⑤廣本敏郎
廣本(2009)は、自律的組織における経営システムをめぐる議論の中で、マ
ネジメント・コントロール・システム( MCS)について、次のように述べてい
る。
「予算管理、責任会計、標準原価計算、直接原価計算などの管理会計システ
ムは、業績測定システムとして MCS に含まれている。業績の MM ループを適
切に回すために、いかなる組織であれ、業績測定システムが必要である。マネ
ジメント・コントロールは一般に予算編成(期間計画)と統制を統合したプロ
セスとして認識され、そのプロセスは『計画→実行→業績評価→フィードバッ
ク』と説明される。…(中略)…各プロセスには担当組織単位があり、各組織
単位には経営管理者ないしリーダーがいる」(廣本,2009,pp.28-29)。MM ルー
プ(micro-macro loop)とは、
「個々の組織構成員(ミクロ)と組織全体(マク
ロ)の間に脈絡をつける、あるいは、関係性を作り出すメカニズム」である( 同
論文,p.18)。そして、命令と統制の経営システムではなく、
「現代求められてい
るのは学習と創造の経営システムである」としている(同論文,p.34)。
- 54 -
⑥小菅正伸
小菅(2008)は、予算管理との関係におけるマネジメント・コントロールに
ついて述べている。わが国の多くの企業が予算管理システムを採用しているの
は、「予算管理が計画設定、調整、統制(コントロール)という 3 つの経営管
理目的を遂行するために有効な手段であると考えられているからである」とし
ている(小菅,2008,p.342)。また、統制をさらに 3 つの段階に分けて捉えてい
る。それは、
「事前統制(フィールドフォワード・コントロール)」、
「期中統制」、
「事後統制(フィールドバック・コントロール)」であり、段階ごとの統制が必
要なことを明らかにしている(同論文,pp.343-344)。
見てきたように、管理会計論におけるマネジメントの議論において、マネジ
メント・コントロールの視点は外せないものである。
その議論は、アンソニー(1965)のフレームワークをベースに、戦略の実行
のコントロールを目的したものと、戦略を計画化し、その計画の進捗のコント
ロールを目的したものの、大きく 2 つに分けることができる。
サイモンズ(2000)やキャプラン&ノートン(2008)などは、主に戦略の実
行をコントロールしようとするものであり、戦略→実行→統制を意識した議論
である。また、チャップマン(2005)は戦略そのものを意識したマネジメント・
コントロールの議論を展開している。
一方、計画の進捗を意識した議論を展開しているのが、廣本(2009)や小菅
(2008)である。廣本は業績の MM ループに必要なコントロールシステムに
言及し、小菅は予算管理におけるコントロールシステムについて言及している。
これらはいずれも PDCA サイクルの概念につながるものである。
このように、管理会計論におけるマネジメントでは、大きく 2 つのコントロ
ールシステムがテーマとなっており、それはコントロールの対象となるものの
スパンとレベルによる違いであることがわかる。ただ、いずれも組織自体がし
っかりと機能することが必要であり、組織の機能が体系化されている大企業の
場合はともかく、組織として未成熟な場合が多い、中小企業のマネジメントの
議論にそのまま即当てはめることができるかどうかは、慎重な判断が必要であ
る。
- 55 -
3.先行研究からのインプリケーション
以上のように、本章では、「マネジメントとは何か」を考察するに当たって、
中小企業論と管理会計論におけるマネジメントの議論に関する先行研究をレビ
ューしてきた。その先行研究からのインプリケーションによって、マネジメン
トの概念の端緒を開くとともに、本研究における意味合いを明らかする。
- 56 -
【図表2-1】先行研究からのインプリケーション
(1)古典的な議論のマネジメント像
①テイラー:科学的管理法
→仕組みによる管理
②ファヨール:管理的活動
「予測・組織・命令・調整・統制」
→プロセスの重視
マネジメントとは
①プロセスを重視する
②計画等によって管理する
③コントロールする
(2)中小企業論のマネジメント像
(3)管理会計論のマネジメント像
①経営のプロセス
①アンソニーのフレームワーク
→「信頼・変化・連携・統合・バランス」
→3つのプロセス
②経営の方向性
②戦略の実行のコントロール
→発展性と問題性
→診断型統制・対話型統制システムや
企業家的・半企業家的・停滞中小企業
バランスト・スコアカード
③管理の仕方
③計画の進捗のコントロール
→計画性や PDS サイクル
→PDCA サイクルや予算管理
か
本研究ではどうか
これまでのマネジメントの概念では「しっかり―きっちり」は説
明できても「ちゃっかり―ざっくり」というやり方は説明できない
→「マネジメントに似て非なるもの」も加味した
新たなマネジメントの概念の構築が必要
(出所:筆 者 作 成)
- 57 -
先行研究からのインプリケーションは、図表 2‐1 の通りである。古典的な
議論からは、仕組みをつくって、課業タスクを管理することや、プロセスに則
って管理活動を行うことなどによるマネジメントの概念がわかる。中小企業論
における議論からは、マネジメントとして、経営のプロセスや方向性を明らか
にしたり、具体的な管理の仕方を示したりするものがあることがわかる。また、
管理会計論の議論からは、戦略を実行するためのコントロールや計画を進捗さ
せるためのコントロールによってマネジメントしようとしていることがわかる。
これらの先行研究から、マネジメントを構成するものとして、大きく 3 つの
要素を抽出することができる。それは、①プロセスを重視すること、②計画等
によって管理すること、③コントロールすること、である。それに基づいてマ
ネジメントを定義付けるとすると、「マネジメントとは、きちんと計画を立て、
管理のプロセスに則ってコントロールすることである」と言える。
このマネジメントの定義は、わかりやすく、一般にイメージされているマネ
ジメントの概念からしても、至極妥当なものである。ただ、本研究において、
中小企業の「やり方」を考えた場合、
「しっかり-きっちり」はこのマネジメン
トで説明できるが、
「ちゃっかり-ざっくり」はこのマネジメントでは説明でき
ない。やはり、マネジメントだけでなく、
「マネジメントに似て非なるもの」が
あり、新たにその概念を構築することが必要である。それが、これからの中小
企業や管理会計を議論する一助にもなるのである。
本章で考察したマネジメントを踏まえ、次章では、
「しっかり-きっちり」だ
けでなく、
「 ちゃっかり-ざっくり」もあるという中小企業のやり方、すなわち、
中小企業の実態に則したマネジメントを考察する。
- 58 -
第3章 「マネジメント」と「マネジメントに似て非なるも
の」の考察
前章の先行研究からのマネジメントの一般的な考え方を踏まえて、中小企業
のマネジメントについて考察を行う。筆者による中小企業の現場でのフィール
ドワークに基づき、さまざまな場面を想起して、中小企業のマネジメントを考
察する。
1.中小企業のマネジメントについての考察
中小企業のマネジメントについて、次のような視点からの考察に基づいて定
義付けを行い、その概念を明らかにする。
(1)「経営資源」からの考察
経営資源を現場にインプットし、何らかの作業を行った結果、アウトプット
が生まれる。これが現場の基本的な流れであるが、マネジメントを行うことに
より、マネジメントを行わない場合により、アウトプットの成果が高まる。こ
の場合の成果向上は、たとえば、量のアップ、質のアップ、スピードのアップ、
経営資源(たとえば、作業員、機械設備、原材料、エネルギー)の削減などで
あり、その結果、売上アップ、利益率アップにつながるのである。このように
考えると、
定義①:マネジメントとは、経営資源に作用し、アウトプットの成果ないし
精度を高めるもの
という定義付けができる。この場合の「経営資源」で特に大事なものは、当然
に「ヒト」である。組織はヒトで構成され、他の経営資源(ヒトを含む)を動
かすのはヒトだからである。現実的に、マネジメントをその対象で考えるとき
には、焦点をヒト(あるいはその集合体である組織)に絞る必要がある。
- 59 -
(2)「基準」からの考察
実際の経営の中では、さまざまな基準が設けられる。たとえば、経営目標(売
上、利益、シェアなど)、行動目標(活動指標、成果指標)、作業基準(時間当
たり生産個数、不良品発生率など)などである。そういった、何らかの基準を
クリアするために行うもの、それがマネジメントである。このように考えると、
定義②:マネジメントとは、設定した基準と現実(結果)を比較し、そのギ
ャップ(差異)を埋めるためにアクションを起こすことを要求する
もの
という定義付けができる。ここでのポイントは、アクションを「起こす」ので
はなく、起こすことを「要求する」という部分である。マネジメントする者が
自らアクションを起こす必要はなく、現場にアクションを起こすことを要求す
るのである。
(3)「やり切ること」からの考察
さまざまな現場を観察してきた中で、もっとも難しいと思われるのは、最後
までやり切ることである。その視点から考えると、
定義③:マネジメントとは、事業活動や行動、作業を最後まで継続させるも
の
という定義付けができる。戦略的な目標を伴うものについては、その達成まで、
戦略的な目標を伴わない日常的な作業については、その業務がなくなるまで、
やり切らせるということが必要である。
ここまで 3 つの定義を確認したが、この 3 つは関係しており、定義①の「ア
ウトプットの成果の向上」が、定義②の「何らかの基準(目標)」になる場合も
あり、また、その「何らかの基準(目標)」の達成まで継続させるというのが、
定義③と結び付くこともあることがわかる。
- 60 -
その中でもマネジメントにとって重要な要素は、
「 継続」であると考えられる。
継続することによって、成果が高まり、また、継続することによって、目標も
達成できるのである。これは、見方を変えると、達成できるまで継続するとい
うことでもある。
そうやって突き詰めていくと、マネジメントとは、定義③のように、
「続けさ
せること」、
「継続させること」であり、マネジメント力とは、
「最後までやり切
らせる力」と定義できるのである。
【図表 3‐1】。まさに「継続は力なり」であ
り、継続させることによって業績も向上するのである 24。
【図表3-1】マネジメントのイメージ:「成果」と「目標」と「継続」の関係
目標
成果
継続
マネジメント
(出所:筆 者 作 成)
そうであるならば、マネジメントの勘所は、組織内に継続できる仕組みを持
っているか、そういった仕組みを作ることができるかということになる。後述
のように、実際の中小企業においてマネジメントの方法は大きく 2 通りあり、
1 つはマネジャーの感覚など個人に頼ったものであり、もう 1 つは、会議など
を通じて行おうとする仕組みによるものである。人間には寿命があり、いくら
素晴らしいマネジャーといえど、いつかは引退するということを考えると、継
24
会 社 の 究 極 の 目 的 は 、ゴ ー イ ン グ・コ ン サ ー ン で あ る が 、そ の 視 点 か ら 定 義 付 け る と、
「マネジメン
ト と は 、ゴ ー イ ン グ・コ ン サ ー ン を 実 現 す る も の 」で あ る 。ゴ ー イ ン グ・コ ン サ ー ン の た め に マ ネ ジ メ
ントを行うのである。
- 61 -
続という点からは、仕組みによるマネジメントが重要ということになる。
(4)「マネジメントの目的」からの考察
中小企業の実際の現場レベルの視点でさらにもっと考察し、
「 マネジメントの
目的」という視点から見直してみる。
中小企業に限ったことではないが、企業にとってもっとも重要な課題は、い
かに最大のパフォーマンスを引き出すかである。つまり、業種業態や規模はす
べて違うものの、それぞれにとっての「組織としてのパフォーマンスの最大化」
がマネジメントの目的と言える。そこに組織の関心が集中し、さまざまなビジ
ョンと思惑が発生することになる。
そこで企業は、経営資源の最たるものであるヒトが発揮するマンパワーの最
大化を図るために適材適所を実現し、その最適化した組織を狙い通りに機能さ
せるために PDCA サイクルを回すのであるが、ポイントは、その PDCA サイ
クルの回し方にある 25。
PDCA サイクルは、サイクルとして「回し続ける」という部分が勘所なので
ある。この「回し続ける」というポイントが、先述の「継続させる」に重なっ
てくる。つまり、PDCA サイクルという管理手法を使ってマネジメントを説明
すると、
定義④:マネジメントとは、PDCA サイクルを回し続けさせるもの
と定義付けることができる。
この PDCA サイクルは、現場にとっても有効である反面、それをきちんと遂
行するのは、非常に面倒なものである。その理由は、具体的には、PDCA サイ
クルを回すためには、①余計な会議が増える、②各種のレジュメを作らなけれ
ばならない、③データの収集が必要になる、などである。つまり、現場の従業
員からすると、PDCA サイクル、すなわちマネジメントは、非常に 厄介で面倒
25
PDCA サ イ ク ル に つ い て は 、 第 5 章 で 詳 細 に 検 証 し て い る 。
- 62 -
なものという認識があるのである。そういった視点から、マネジメントを捉え
ると、
定義⑤:マネジメントとは、会議の開催や書類の作成、データの収集などの
作業を伴う、あるいは作業を発生させる、非常に面倒なもの
と定義付けできる。前章第 1 節の中小企業の現場の「マネジメント感」でも触
れたが、マネジメントは現場からすると両手を挙げて歓迎されるものではない
というのが実情である。
(5)「組織全体」からの考察
マネジメントの定義について考察を進めてきたが、前述の 5 つの定義 26を一
体として見てみると、
「中小企業のマネジメント」という視点からは 、やや違和
感を覚えるのも確かである。それは、いずれも中小企業の「現場」を中心とし
た見方になり過ぎてしまっているからではないかと考えられる。本研究で明ら
かにすべきは、「現場のマネジメント」ではなく、「中小企業のマネジメント」
である。したがって、
「マネジメントの定義」を議論する上では、あまりにも現
場に近づき過ぎるのではなく、もう少し大所高所に立った視点が必要である。
確かに現場が大事であり、現場力が中小企業の源泉ではあるが、会社は現場
だけで成り立っているわけではない。現実対応の中小企業だけを議論するので
あれば現場だけの視点でもいいが、将来に向けての中小企業を議論するには、
もっと全体を意識した、マネジメントの捉え方をしなければならない。それに
は、中小企業の全体構造を明らかにし、その構造とリンクさせながら、マネジ
メントを考察する必要がある。
26
もちろん、この 5 つの定義がすべてだということではない。さまざまな角度から考察を加えていく
と 、マ ネジ メ ン ト の 定 義 は 無 限 に あ る よ う に 思 わ れ る 。実 際、研 究 者 に よ っ て 、あ る い は 同 じ 研 究 者 で
もその使われる場面ごとに、さまざまな捉え方をしていることがうかがわれる。
- 63 -
【図表3-2】中小企業の構造とマネジメントの関係
経営者
経営理念
マネジャー
何をするか
現場
どうするか
(出所:筆 者 作 成)
大企業とは違い、図表 3‐2 の左側のように、多くの中小企業は単純な構造
で成り立っている。一見複雑に見える中小企業もあるが、実際は「経営者-マ
ネジャー-現場」という単純な構図ないし機能に整理できる場合がほとんどで
ある。そして、その構造に基づき、事業活動を行っている。それは、経営者が
思い、マネジャーなどが何をするかを考え 27 、現場がそれを上手くやる、とい
う単純な活動で成り立っているのである。第 1 章でも同様のことを既述したが、
結局、中小企業のすべての活動は、経営者の経営理念を実現するために「何を
するか」 28 と「どうするか」という単純なロジックで成り立っていることに行
き着き、これがマネジメントのテーマになるのである。すなわち、
定義⑥:
(中小企業にとって)マネジメントとは、アクションの決定と、その
実行を司ること
と定義付けることができる。
「何をするか」というアクションの決定は、意思決
27
「何をするか」はマネジャーだけが決めるのではな く、経営者が決める場合などもある。また、後
述 す る よ う に、い わ ゆ る「 意 思 決 定」だ け で ア ク シ ョ ン が 決 ま る わ け で は な く、本 研 究 に お い て は そ の
点がたいへん重要な意味を持つ。
28 端 的 に 言 う と 、 定 義 ① ~ ⑤ の 議 論 に 欠 け て い た の が 、 こ の 「 何 を す る か 」 の 視 点 で あ る 。
- 64 -
定と関係し、
「どうするか」というアクションの実行を司ることは、まさしく現
場のコントロールであり、ここには定義②~定義④のニュアンスが関連してく
る。ただし、この場合のコントロールには、必ずしも管理の厳しい側面だけで
なく、現場任せの緩やかな側面もあることは後述の通りである。
この「何をするか」
「どうするか」であるが、具体的なイメージは次の通りで
ある。たとえば、これまで近畿一円でだけ営業活動をしていた会社が、新たに
名古屋方面でも営業を開始したとする。この「名古屋で営業する」というアク
ションが「何をするか」であり、その営業活動を具体的にどのように展開する
かが「どうするか」である。その何をするか、どうするかを「司る」のがマネ
ジメントなのである 29。
・名古屋へ進出する…何をするか(アクションの決定)
↓
(営業所、機材、ヒトの手配…経営資源の調達・組織化)
↓
・具体的な営業活動…どうするか(アクションの実行)
※そもそも中小企業の日々の事業活動の中で、「何をするか」を決める場面(戦略的判断
を迫られる場面)はあまりない ⇒「どうするか」だけで動きがちである
これらのマネジメント構造を、改めて「現場」という観点からまとめると、
次の図表 3-3 のようになる。企業において、利益を生み出しているのは現場
である。
29
実際には、
「 名 古 屋 で 営 業 す る 」の 次 に 、た と え ば「 名 古 屋 駅 前 に 営 業 所 と し て 事 務 所 を 借 り 、電 話
や パ ソ コ ン を 設 置 す る 。ま た 、本 社 か ら 営 業 所 長 と し て ベ テ ラ ン 営 業 担 当 者 1 名 を 送 り 込 む と と も に 、
現地で新人営業担当者 2 名を雇う」といったプロセスがある。いわゆる「経営資源の調達・組織化」
と い っ た プ ロ セ ス で あ る 。 こ の プ ロ セ ス は 、「 何 を す る か 」 に 付 随 す る プ ロ セ ス で あ り 、 同 時 に 「 ど う
す る か 」の 準 備 と な る プ ロ セ ス で あ り 、そ れ ら の 必 要 性 に 応 じ て 自 然 と そ う い っ た 動 き に な る も の で あ
る 。そ れ 自 体 が 独 立 し て 実 行 さ れ る も の で は な い 。ま た 、経 営 資 源 の 調 達・組 織 化 は 実 際 の 作 業 を 伴 う 、
実務的な動きであり、企業毎に差はあるものの、それを切り分ける(体系化する)ことは困難であり、
ま た 研 究 上 あ ま り 意 味 が な い と 判 断 さ れ る 。そ う い っ た 理 由 に よ り 、本 研 究 で は 、あ え て こ の プ ロ セ ス
に は 焦 点 を 当 て ず 、「 何 を す る か 」 と 「 ど う す る か 」 と に 含 ま れ て い る も の と し て 、 ロ ジ ッ ク の 単 純 化
を図っている。
- 65 -
【図表3-3】「現場」の視点によるマネジメント構造
経営理念
=どこを目指すか
現場の枠組みをつくる
アクションの決定
現場を定義する
=何をするか
経営資源の調達・
組織化
現場を形づくる
アクションの実行
=どうするか
現場を動かす
(出所:筆 者 作 成)
2.「意思決定」と「統制」「影響」
前述の通り、
「何をするか」はアクションの決定であり、これには「意思決定」
が関係してくる 30。また、
「どうするか」はアクションの実行であり、これは「統
制」や「影響」、いわゆる「コントロール」が関係してくる。次節で「マネジメ
ント」と「マネジメントに似て非なるもの」について考察する前に、この意思
決定や統制、影響について、先行研究をレビューし、その概要を確認する 31。
2-1.意思決定
本題に入る前に、最初に語句について確認しておく。
「直感」と「直観」であ
30
た だ し 、本 研 究 の ポ イ ン ト は 、あ く ま で も「 ア ク シ ョ ン の 源 泉 」で あ り 、
「そのアクションはどこか
ら来たのか」がテーマである。そのため、すべてが意思決定に関するものではなく、本章第 3 節で見
るように、意思決定以外によるアクションの決定も考察している。
31 「 意 思 決 定 」 や 「 コ ン ト ロ ー ル 」 そ の も の は 、 本 研 究 の テ ー マ で は な い た め 、 こ こ で は そ れ ら に つ
いての深い議論は行わない。先行研究を中心に、その全体を概観するにとどめる。
- 66 -
る。
『広辞苑』によると、直感は「説明や証明を経ないで、物事の真相を心でた
だちに感じ知ること」とあり、直観は哲学用語であり「一般に、判断・推理な
ど思惟作用の結果ではなく、精神が対象を直接に知的に把握する作用。直感で
はなく直知であり、プラトンによるディアレクティケーを介してのイデア直観、
フッサールの現象学的還元による本質直観等」と説明されている。
「直観」の哲
学的な要素を除けば、両者の経営的な文脈における意味はほほ同じである。し
たがって、本節では、訳出された文献の表現に従うこととする。
(1)意思決定をめぐる議論
前述のように、アクションの決定には、意思決定という概念が関係してくる。
意思決定には、さまざまな考え方があるが、その議論は大きく「論理的意思決
定」と「直観的意思決定」に分けられる 32。ここでは、以下の 3 人の議論をひ
きながら、意思決定の概念を明らかにしていく。
①C.I.バーナード(Chester I.Barnard)
意思決定という概念をビジネスの世界に持ち込んだのは、バーナードである。
バーナード(1938)は、
「個人の行為を区別すれば、原理的には、熟考、計算、
思考の結果である行為と、無意識、自動的、反応的で、現在あるいは過去の内
的もしくは外的情況の結果である行為とに分けうるであろう」とし、その前者
の 行 為 に 先 行 す る 過 程 が 「 意 思 決 定 」 に 帰 着 す る と 言 う ( Barnard,1938,邦
訳,p.193)。そして、その意思決定には、「組織的意思決定」と「個人的意思決
定」の 2 種類があるとする。これらは、個人と組織の貢献に関するものである
(同書,pp.195-197)。そして、
「管理的意思決定の真髄とは、現在適切でない問
題を決定しないこと、機熟せずしては決定しないこと、実行しえない決定をし
ないこと、そして他の人がなすべき決定をしないことである」と主張している。
そこから、「積極的意思決定」と「消極的意思決定」という視点も示しており、
積極的意思決定とは「あることをなし、行為を指図し、行為を中止し、行為を
させない決定」であり、消極的意思決定とは「決定しないことの決定」である
32
本研究は、中小企業のマネジメントにおける経営者やマネジャーについて焦点を当てているため、
ここでは、個人の意思決定について見ていく。いわゆる「組織の意思決定」について言及しない。
- 67 -
(同書,pp.201-203)。
また、バーナード(1936)では、意思決定を行うための精神過程として、
「論
理的過程」と「非論理的過程」の 2 つがあると述べている。この場合の論理的
過程とは「言葉とか他の記号によってあらわされる意識的思考、すなわち推理
を意味する」、非論理的過程とは「言葉ではあらわせない、あるいは推理として
表現できない過程であって、判断、決定あるいは行為によって知られるに過ぎ
ぬ も の を 意味する」の である(Barnard,1936,邦訳,pp.314-315)。バーナード
は、この非論理的過程について、「直観」と呼んでいる( 同論文,p.318)。そし
て、私見としながらも、科学者や弁護士等 11 の職業を例示し、それぞれの職
業にとって、論理的過程と非論理的過程がどう必要かを述べている。その主眼
は、非論理的過程の重要性である。
「論理的過程が多くの目的、情況にとっては
不十分であることと、論理的過程を精神的エネルギーや精神的熱意をあらわす
非論理的、直観的さらには霊感的過程と、知的に調整しつつ発展させるのが望
ましい」と強調している(同論文,pp.335-338)。
②H.A.サイモン(Herbert A.Simon)
バーナードの主張を受け、独自の考えを展開したのがサイモン(1997)であ
る。サイモンはその著書『経営行動』の中で、意思決定における限定された合
理性を説くが、当初は、「ここ 33 で提示された理論は、『論理的』な意思決定に
のみ適用され、直観や判断を含む決定には適用されない」とされた。それは、
「全く私の意図するところではなかった」とサイモンは言う (Simon,1997,邦
訳,p204)。その後、「分離脳」についての生理学的研究 が進んだことにより、
分析的過程と直観的過程のさらなる議論を展開する 34。そして、
「管理の『分析
的』スタイルと『直観的』スタイルを対照することは誤りである。直観と判断
は―少なくともよい判断は、単に習慣へと固定化された分析や、なじみのあ
るような状況の再認を通じた素早い反応能力へと凝固した分析にすぎない。全
ての管理者は、問題を体系的に分析できる必要がある(経営科学や人工知能に
33
引 用 者 注 「 こ こ 」:『 経 営 行 動 』 の こ と
『 経 営 行 動 』以 外 で も 、た と え ば 、サ イ モ ン( 1983)で は 、合 理 性 に つ い て の 3 つ の モ デ ル( 全 知
全 能 モ デ ル 、 行 動 モ デ ル 、 直 観 モ デ ル ) を 示 し 、 議 論 を 行 っ て い る ( Simon,1983,邦訳 ,pp.1-38)。
34
- 68 -
よって提供される分析ツールという現在的な武器の助けを借りて)。また、全て
の管理者は、状況に素早く反応できる必要があり、それには長年の経験や訓練
による直観と判断の修練を必要とするスキルが求められる。有能な管理者は、
問題に対して『分析的』アプローチと『直観的』アプローチのどちらをとるか
選んでいる余裕はない。管理者らしくふるまうということは、あらゆる管理ス
キルに熟達し、適切なときにいつでもそれらを使えるということである」と結
論付けている(同書,p.216)。つまり、どちらのアプローチも必要であり、管理
者はどちらの管理スキルも持たなければならないのである。
③H.ミンツバーグ(Henry Mintzberg)
このサイモンに対して、独自の見解を述べたのが、ミンツバーグである。ミ
ンツバーグ(1989)は、人間の頭脳(右半球と左半球の違い)についての研究
を踏まえ、
「真に傑出したマネジャーとは、まさしく右側の効果的過程(勘、直
観、総合)を左側の効果的過程(分節性、論理、分析)と結合できる人たちで
ある」とし、それを「左脳で計画立案し、右脳でマネージする」とまとめてい
る(Mintzberg,1989,邦訳,p.82)。そして、分析と直観に関するサイモンとのや
りとりに触れた上で、前述のサイモンの結論に対して、
「習慣に凍結した分析 35」
については、
「過度に狭すぎるように思えるし、ことに創造的透察という重要な
現象を軽視している」( 同書,p.106)としつつも、「直観は分析と無関係に働く
過程ではなく、むしろこれらの二つの過程は本質的に効果的な意思決定システ
ムの補完的な構成要素である」
(同書,p.105)という点については、一定の理解
を示している。
また、ミンツバーグ(1989)は、「分析と直観の長所と短所」についても、
検討している。その切り口は、費用、誤謬、簡便、複雑、創造力の 5 つである
(同 書,pp108-113)。たとえば 、誤謬について、「分析がシステマティックで、
直観がでたらめ」に思えるが、そうではなく、
「分析は正しいときには厳密に正
しいが、まちがったときにはとんでもない答えを出す傾向にある」ことを示し
ている。そして、
「組織が直観による推測をシステマティックな分析で確認する
35
『 経 営 行 動 』( Simon,1997,邦 訳 ,p216) で は 、 前 述 の よ う に 「 習 慣 へ と 固 定 化 さ れ た 分 析 」 と 訳 さ
れている。
- 69 -
必要があるように、フォーマルな分析の結果を『常識的』な直観で『にらむ』
必要もまた存在する。厳密を要するときには分析に頼らなければならないが、
そうでないときには直観に頼るほうが、ときとして容易でさらに安全でさえあ
る」としている(同書,p.110)。また、創造力については、「分析がほどほどの
変化と限られた創造力を提供するとすれば、直観は劇的な創造力を提供するか、
またはまったく何も提供しないかであり、ときには変化への抵抗をさえ引き起
こしかねない」とする(同書,p.112)。このように、分析と直観の長所と短所を
比較検討し、
「組織がなぜ分析と直観を連結しなければならないか」を明瞭にし
ている(同書,p.113)。
(2)その他の議論
意思決定をめぐる主要な 3 人の議論を見てきたが、その他にも、以下のよう
な議論が展開されている。
①1980 年代~1990 年代の議論
べヒトラー(Thomas W.Bechtler,1986)は、思考方法を、科学的思考と直観
的思考に分けて説明している。
「 科学的思考が論理と合理性に基づいているのに
対し、直観的思考はインスピレーションと全体観に基づいている」とする。そ
して、それぞれの思考方法の特徴を次のようにまとめている( Bechtler,1986,
邦訳,pp14-15)。
科学的思考 ― 合理的、分析的、論理的、方法論的、究極的解決の理由づけ
が可能
直観的思考 ― 全体的、総合的、自然発生的、同時的、究極的解決の理由づ
けが不可能
また、べヒトラーは、「直観力は、経験の積み重ねによって育成される」とし、
「経験によって学習され、合理的認識がつけ加えられて豊かになった直観」を
「ベータ直観」と呼んでいる(同論文,pp.24-25)。
クライン(Gary Klein,1998)は、消防隊長らが実際の現場でどのように意
思決定を行ったかを詳細に調査し、
「認知に基づく意思決定」という概念を確立
する。これは、
「 ある状況に遭遇すると、その状況が非日常的なことであっても、
- 70 -
過去の経験から一つの典型的パターンとして認識できる。そのため、それに応
じた行動手段が瞬時に判断できる」という意思決定の手法である(Klein,1998,
「直観」と「メンタルシュミ
邦訳,pp.26-27)。そして、それを可能にするのが、
レーション」という基本的能力であると言う。直観は、パターン認識や全体像
の理解、状況把握を行う能力であり、メンタルシュミレーションは、過去や未
来を透視する能力である。そして、それらのベースになっているのが、「経験」
であるとしている(同書,pp.406-413)。
②2000 年代の議論
ハヤシ(Alden M.Hayashi,2001)は、1990 年代のクライスラー社の例を引
きながら、「直感」の有用性を説き、「スピード経営には直感は欠かせない」と
する(Hayashi,2001,邦訳,p.41)。そして、直感は企業のトップには必要な能力
であるとする。
「実際、出世の階段を上れば上るほど、鋭敏なビジネスの直感を
持ち合わせている必要がある。言い換えれば、直感は、経営能力を持ち合わせ
る人とそうでない人を分ける『X 要因』
(未知の要因)の一つなのだ」と述べて
いる(同論文,p.42)。
ボナボー(Eric Bonabeau,2003)は、直観に頼る経営者に警鐘を鳴らしてい
る。「厳密な分析を忘れた直観とは、うたかたのものであいまいな指針であり、
成功よりも大惨事を招く公算が大きい。高度に複雑化し変化の激しい環境下で
は、ますます直観が重要になってくると論じられているが、実際はその逆であ
る。」と言う( Bonabeau,2003,邦訳,p.68)。そして 、直観の もっとも大きな落
とし穴は、「類似のパターンを探し求める」ことであるとし、「新しい事象を新
しさゆえに切り捨ててしまう」ところに問題があると主張している (同論
文,pp.73-74) 36。
ダベンポート(Thomas H.Davenport,2006)は、分析力が競争力を左右する
とし、その源泉は、「IT だけでなく、そのための戦略と人材にある」と主張す
る(Davenport,2006,邦訳,p.197)。そして、
「ほとんどの業界の、ほとんどの企
業が、分析に基づいた戦略を追求すべき」としながらも、その転換には時間が
36
こ こ で 挙 げ た ハ ヤ シ と ボ ナ ボ ー の 議 論 を モ チ ー フ に し て 、赤 川( 2008)は 、直 感 的 発 想 の 特 徴 と 問
題点について考察している。
- 71 -
かかるとしている(同論文,pp.209-212)。
ダガン(William Duggan,2007)は、「戦略的直観」という新しい概念につ
いて言及している。単なる直観は、「漠然とした予感や本能的な直観」であり、
「感情の一形態」である。それに対して、戦略的直観は、
「明確で傑出した思考
をもたらす突然のひらめきが、人々の脳裏にある霧を晴らす。ひらめきを得た
瞬間、感情的に高揚しつつも、思考自体は沈着冷静である。ついに自分が進む
べき道が明確になり、気持ちが高ぶってくる」ものである言う。
「感覚でなく思
考なのだ」とする(Duggan,2007,邦訳,p.3)。戦略的直観は、
「即断とも異なる」
と言う。即断は、
「専門的直観」であり、
「過去の経験値から瞬時の判断を下す、
瞬間的な思考の一形態である」。それに対して、「戦略的直観は常にゆっくりと
時間をかけて訪れる。とりわけ、斬新なアイディアを必要とする未踏の世界で、
戦略的直観はその威力を発揮する」のであるとしている(同書,p.4)。すなわち、
戦略的直観とは、経験したことがないことに挑む際に、ゆっくりとやって来る
「直観的ひらめき」なのである。
サドラー・スミス(Eugene Sadler-Smith,2010)は、人間の脳には 2 つのこ
ころがあると言う(Sadler-Smith,2010,邦訳,p.14)。それは「直観的なこころ」
と「分析的なこころ」である。その違いを次のように対比している(同書,p.21)。
分析的なこころ ― 「ナローバンド」(連続的処理)、コントロールされるプ
ロセス(努力が必要)、ステップ・バイ・ステップで働く、意識的(直接的、
意識的介入が可能)、言葉で語りかける、作用がゆっくり、進化的に新しい
(数万年前)
直観的なこころ ― 「ブローバンド」(並行処理)、自動操縦のプロセス(努
力が不要)、総合的なパターン認識、無意識的(意識的介入ができない)、
感情で語りかける、作用が迅速、進化的に古い(数十万年前)
その上で、その両方のこころのモードが使える「こころの達人」を目指すべき
だとしている(同書,p38)。
(3)さまざまな議論からの考察
ここまで本節で見てきた、意思決定をめぐるさまざまな議論を踏まえ、中小
企業のマネジメントという観点から 2 つの点について言及しておく。
- 72 -
①分析と直観について
分析こそ意思決定だとするもの、逆に直観を信じようとするものなど、さま
ざまな議論があるが、サイモン(1997)が言うように、分析アプローチと直観
アプローチはどちらも使えなければならず、ミンツバーグ(1989)が言うよう
に、分析と直観を結合することが必要なのである。ただ、実際の中小企業で、
そこまでできているところは少ないと思われる。経営者、マネジャーごとに自
分の得意のアプローチがあり、実際にはその得意を常に前面に出して戦ってい
るのである。わかってはいても、なかなか得手は変えられない。直観が得意で
あれば、分析しないというよりもスキル的にできない場合が多い。では、分析
が得意であれば、直観はすぐ使えるかというと、自分の直観に自信がないので
それに頼ることはできないのである。もし変えるとするならば、その変化は、
日々に追われる中小企業には、現実として大変厳しい課題となる。たとえば、
ダベンポート(2006)が言うように、分析力の強化には時間がかかる であろう。
ただ、直観力の強化はもっと大変である。先行研究(たとえば、ベヒトラー(1986)
やクライン(1998)の見解)を見ると、直観力も鍛えられるという。ただ、そ
れには経験が必要であり、経験には、経験できる場も必要であり、何より長い
歳月が必要となるのである。
わかってはいるものの、自分の得意技で戦わざるを得ないのが中小企業の現
実(脆さ)であり、また見方を変えれば、それで精一杯戦っているのも中小企
業の現実(強かさ)なのである。
②意思決定について
また、ここまで見てきた意思決定は、分析か直観かという方法はともかく、
....
いずれも積極的な 意思決定である。実際の中小企業では、そういった積極的な
....
意思決定ではなく、あるいは、それだけでは説明できない、消極的な と言える
ような意思決定がある。すなわち、中小企業が「なぜそういったアクションを
取ったか」は、単純な意思決定だけでは説明できないのである。
本研究のテーマは、なぜそのアクションを取ったのか、そのアクションはど
こからきたのか、という「アクションの源泉」である。そこでは、自ら積極的
- 73 -
に意思決定して決めたアクションもあるが、それだけではないという点が重要
であり、他人任せ、他力本願、あるいは受け入れる、従うとい う、ある意味「あ
.......
きらめ」、または、まるで悟ったかのような、待ちの意思決定 があるのである 37。
アクションの決定におけるそういった側面に焦点を当てるのが本研究のポイン
トでもある。過去にはあまり議論されてこなかったが、意思決定と合わせ、
「ア
クションの源泉」になっていることは確かである。まずアクションを行うかど
うかを自ら決め、行うのであれば、どんなアクションを行うかを自ら意思決定
するものと、具体的なアクションを自ら決めるのではなく、どんなアクション
かはわからないが、あるいはそれがいつ発生するかもわからないが、アクショ
ンの発生をどこかで期待するものに分かれるのが、中小企業のマネジメントに
おける実態なのである。具体的なアクションを自ら決定する「攻めの意思決定」
と、何らかのアクションの発生を期待する「待ちの意思決定」があるのである。
分析と直観の両方を上手く使い、自らしっかりと意思決定をするというのは、
理想である。ただ、すべての中小企業(経営者、マネジャー)が両方を使える
わけではなく、また、自ら意思決定もできないのである。そういう現実をしっ
かり見据えないと、中小企業のマネジメントについては正しい考察ができない。
そういった点を踏まえ、第 3 節で中小企業のマネジメントの区分を行っている。
また、その実態を、第 7 章で検証している。
2-2.統制と影響
「何をするか」の次は、それを「どうするか」である。それは、アクション
の実行であり、中小企業においては、現場での「実行」が業績を左右する。実
行の速度、深度、密度などによって業績が決まるのである。その実行に対して、
どのように関わるかが本節のポイントである。以下のような視点による議論が
ある 38。
37
こういったものを意思決定という言葉で表すのが適切かどうかは議論の余地があるが、ここでは意
思決定という言葉で表わすこととする。
38 ア ク シ ョ ン の 実 行 に は PDCA サ イ ク ル が 深 く 関 わ っ て く る が 、本 研 究 に お い て 、PDCA サ イ ク ル は
マネジメントの 2 大ツールという位置付けであり、その観点からも第 5 章で詳細な検討をしているた
め 、 こ こ で は PDCA サ イ ク ル 以 外 の 視 点 で 考 察 す る 。
- 74 -
(1)命令等の視点
①H.ファヨール(Henri Fayol)
ファヨール(1916)は、管理は「予測し、組織し、命令し、調整し、統制す
ることである」と定義付けている(Fayol,1916,邦訳,p.21)。このうち、命令は
「従業員を機能せしめること」であり、命令の役目を負うている責任者には、
「従業員について深い知識を持つこと」「無能力者を排除すること」など 8 つ
のことが求められるとする(同書,pp.166-167)。調整は「あらゆる活動とすべ
ての努力を結びつけ、一元化し、調和させること」であり、従業員の気をそら
させず、義務の遂行を容易にする最良の方法の一つは、
「部門責任者の会議」で
あるとする(同書,pp.178-183)。統制は「すべての事柄が確立された規準と与
えられた命令とに従って行なわれるように注意すること」であり、
「統制が効果
的であるためには、それが有効な時期に行なわれ、賞罰を伴っていることが必
要である」とする(同書,p.185)。
②M.P.フォレット(Mary Parker Follet)
フォレット(1928)は、組織の実行に関して、命令と指導という観点から言
及している。従来からの一方的な命令が次第になくなりつつあり、命令は「作
業標準」にとって代わられようとしていると言う。それによって服従の理解が
変わってきている。部下はただ従ってさえいればいいという考え方から変わっ
てきており、それは、下の層から上の層への提案という形になって現れている
とする(Follet,1928,邦訳,pp.375-381)。また、指導について、指導には「機能
による指導」と「人格による指導」があり、
「機能の指導の方が人格による指導
より重要になる傾向がある」と言う。そして、
「企業の成功は、部分的には組織
が十分に弾力的で機能の指導が思う存分活躍できるようになっているかどうか
―つまり、知識と技法とを身に付けた者が状況を統制できるようにするかど
うか―によって決まる」としている(同論文,pp.381-386)。
(2)組織の視点
①C.I.バーナード(Chester I.Barnard)
バーナード(1938)は、組織の協働体系について述べる中で、管理職能につ
- 75 -
いて言及している。管理職能には、「組織伝達の維持」、「必要な活動の確保」、
「 目 的 と 目 標 の 定 式 化 」 の 大 き く 3 つ が あ る と す る ( Barnard,1938, 邦
訳,pp.225-244)。組織伝達の維持と統制の関係について、
「組織構造の展開に伴
って、人の選択、昇進、降等、解雇などが伝達体系 ―それなくしては、どん
な組織も存在しえない―維持の核心となる。選択はある程度まで、昇進、降
等および解雇などはとくに、監督、あるいはいわゆる『統制』の作用に依存す
る」としている(同書,p.233)。また、必要な活動の確保とは、「組織の実体を
構成する個人的活動の確保を促進すること」であり、「 (1)人を組織との協働関
係に誘引すること、(2)この関係に誘引したのち、活動を引き出すこと」の 2 つ
の主要部分に分けられるとする(同書,p.237)。目的と目標の定式化については、
「目的にそった決定を上下一貫して調整しなければ、一般的決定および一般的
目的は組織的真空における頭のなかだけの過程にすぎず、誤解の累積により現
実から遊離することになる」としている(同書,p.243)。
②R.リッカート(Rensis Likert)
「相互作用-影響方式」という考え方を示している。
リッカート(1961)は、
組織は、いくつかの重要な特性と過程 39 をもっており、それらの過程は相互に
関連しており、相互に依存していると言う。そして、その「相互に依存する動
機づけと過程は、組織と全成員の活動を調整し、統合し、指導する包括的な方
式を構成する。その方式の性質によって効果的な伝達や意思決定を行ない、成
員の活動を刺激し、感化し、調整する組織の能力が、決定づけられる。また、
その方式が優秀であればあるほど、それが良好に機能すればするほど、組織に
おける技能、能力および人的資源などを思うぞんぶんに、しかも調整したうえ
で活用する組織力は増大する」とする( Likert,1961,邦訳,pp.234-235)。その
方式が相互作用-影響方式である。そして、
「連結機能を遂行している集団が有
効であればあるだけ、ますます全組織は緊密に結合され、よく調整され、そし
て、その相互作用-影響方式はますます効果をあげる」としている(同
39 リ ッ カ ー ト ( 1961) は 、
「 (1)一 つ の 構 造 を 有す る 。 (2)観 察 と 測 定 に よ っ て、 組 織 の 内 部 状 況、 組 織
が 機 能 す る 環 境 状 況 お よ び 組 織 と 環 境 に 関 係 す る 情 報 を 収 集 す る こ と が で き る 。…( 以 下 、略 )… 」と
い っ た 7 つ を 挙 げ て い る ( Likert,1961,邦 訳 ,p.234)。
- 76 -
書,pp.238-240)。
(3)統制の視点
①D.マグレガー(Douglas McGregor)
マグレガー(1967)は、統制システムについて、述べている。伝統的な統制
システムは「脅威をつくる」やり方をしており、それは、
「外から課せられた標
アカウンタビリティ
準 40 に服従関係を持つように圧力を加え」たり、「 結果責任 」の原則によって、
「外から課せられた標準や統制に対する非服従関係を発見し懲罰」したりする
というものである(McGregor,1967,邦訳,pp.164-167)。そういった機械的なア
プローチでなく、統制システムに対する有機的なアプローチが必要だと言う。
それには、組織に対する「献身」が必要であり、どのような献身ができるか、
目標や基準を明らかにすることが重要であるとしている( 同書,pp.173-181)。
パワー
また、マグレガーは、管理の「 力 」についても言及している。組織という場面
で、力(影響力)を使うためには 4 つの方法があり、それは、
「合法的な権限、
外在的賞罰の統制、同一視、説得的コミュニケーション」であると言う。それ
ぞれ長所、短所があり、
「すべてが、人間行動にとって必要な原因である」とす
る(同書,pp.215-217)。
また、マグレガー(1960)は、「統制とは人間の性質に合った手段を選ぶこ
とである」とし(McGregor,1960,邦訳,p.9)、次のような考えを示している。
「統
制ということは、相手の人間性を自分の望みに合わせるのではなく、自分のほ
うが相手の人間性に合わせたやり方をすることだと認識してはじめて、統制力
を向上させることができるのである。もし、統制に失敗したなら、その原因は
自分の選んだやり方が適切でなかったことにある場合が多い。自分の見通しど
おりに動かなかったと従業員を責めてみたところで、自分の経営力が向上する
ものではない」と主張する(同書,pp.13-14)。
②H.ミンツバーグ(Henry Mintzberg)
ミンツバーグ(1994)は、戦略計画を議論する中で、戦略計画の必要性につ
40
「 た と え ば 、 会 計 上 の 統 制 、 予 算 、 上 役 の 業 績 基 準 、 IE( イ ン ダ ス ト リ ア ル ・ エ ン ジ ニ ア リ ン グ )
で 決 め た 作 業 標 準」( McGrego r,1967, 邦 訳 ,pp.164-165)。
- 77 -
いて 4 つの理由(背景)を挙げており、そのうちの一つが「組織をコントロー
ルするために計画を作成する必要がある」というものである。これは、計画作
成が、一般社員だけでなく、トップ・マネジャーの仕事の一部もコントロール
し、また、組織の将来や組織外の環境もコントロールするということである
「 コントロールとしての計画書は、
(Mintzberg,1994,邦訳,pp.70-72)。そして、
下部階層の社員をコントロールしたいと願うトップ・マネジメントに役立つだ
けでなく、相互に影響し合うすべての種類の社員に役立つ」とする( 同書,p383)。
③R.サイモンズ(Robert Simons)
サイモンズ(1995)は、経営をコントロールする「4 つのレバー」について
述べている。その 4 つのレバーとは、(a)信条のシステム、(b)事業倫理境界の
システム、(c)診断型のコントロール・システム、(d)双方向型のコントロール・
システムである。マネジャーはこの 4 つの基本的なレバーを活用して、戦略を
コントロールすると言う(Simons,1995,邦訳,p.36)。これらのシステムは、そ
れぞれ次のように活用される(同書,pp.39-40)。
(a)信条のシステム:新たな機会探索を鼓舞し、方向づけ るために活用される
(b)事業倫理境界のシステム:機会探索の行動に境界を設定するために活用さ
れる
(c)診断型のコントロール・システム:特定の到達目標達成に向けて動機づけ、
達成状況を監視し、それに応じて報酬を与えるために活用される
(d)双方向型のコントロール・システム:組織における学習を奨励し、新たな
発想や戦略の創出につなげるために活用される
④細川進
細川(2010)は、計画策定の議論の中で、「実施」について述べており、「計
画の実施は、経営資源の結合、仕事関係の編成、リーダーシップの発揮、活動
の統制と深く関わっている 」とする(細川,2010,p.74)。また、「統制」につい
て、(計画策定時点では)「曖昧であった外部環境が明確になってくると、設定
された計画あるいは計画に基づく行為が不適切であることがわかることがある。
その場合には、目的や計画を修正し、組織を再編成し、異なるリーダーシップ
- 78 -
技法を採用しなければならない。ここに統制機能(control)が作用することに
なる」と言う。そして、
「統制の核心はフィードバック・システム」であるとし
ている(同書,p.77)。
(4)影響の視点
①J.フェファー(Jeffrey Pfeffer)
フェファー(1992)は、組織におけるパワーの視点から、実行について言及
している。意思決定だけでは何も変わらず、実行が必要であり、その実行には
パワーが必要なのだと言うのである(Pfeffer,1992,邦訳,pp19-21)。パワーの定
義は「行動に影響し、出来事の流れを変え、抵抗を乗り越え、これがなければ
動かない人々に物事を実行させる潜在能力」であり、
「政治や影響力は、この潜
在的なパワーを活用し実現することからなるプロセスであり、行為であり、行
動である」とする(同書,p.32)。そのパワーの源泉は、
「個人特性、状況がもた
らす優位性、そして自分自身と置かれている状況の適合関係」である( 同
書,p.85)。そして、
「パワーや影響に関する知識を実行に移すこと、つまりパワ
ーによるマネジメントは、物事を達成しようとしている人たちにとって不可欠」
であることを主張している(同書,p363)。そして、優れたマネジャーになるに
は、分析力だけでなく、
「自分の決定の結果を管理するスキルを培うこと」だと
言う(同書,p.21)。
②J.P.コッター(Jhon P.Kotter)
コッター(1999)は、マネジャーがパワーを行使して影響を与えることにつ
いて、述べている。それは、直接影響を与える方法と間接的に影響を与える方
法に分かれるとする。直接的な方法には、
「 恩義をかけて得たパワーを行使する」
や「経験・知識があると認められて獲得したパワーを行使する」などがある。
また、間接的な方法には、
「直接的な方法で相手の周囲に働きかける」や「個人
に継続的に作用する条件(組織内の正式な取り決め、非公式な社会的取り決め、
技術、利用可能な資源、組織の目標)を変える」などがある(Kotter,1999,邦
訳,pp.100-108)。
- 79 -
(5)さまざまな議論からの考察
本節で見てきた統制や影響をめぐる議論を踏まえ、中小企業のマネジメント
を考察する立場から、少し言及しておく。
「何をするか」が決まれば、次は「どうするか」であるが、せっかく何をす
るかが決まっても、なかなか経営者やマネジャーの思っている通りに動かない、
あるいは動けないのが組織である。中小企業においてもそれは顕著である。動
かなければ、当然、実行ができず、また結果も得られない。動かない現場をど
うやって動かすか、どのように動かすかが、ここで議論されている「統制」や
「影響」のテーマとなる。見てきたように、その議論はいくつかの視点に分け
られるが、やはりその中心となる概念は「統制」であると考えられる。それは、
命令等や組織などの視点であっても、何らかの形で統制に関連付けされること
が、前述の議論からも明らかであるからである。いかに現場を経営サイドの思
い描いている方向に、それ相応のスピードで動かすか、つまりコントロールで
きるかである。この「コントロール」には、さまざまな定義があるが、伊丹(1986)
は、プロセスないし手順を中心に定義付けられたコントロールの定義について、
業績の測定、フィードバック、修正行動という 3 つの共通点があるとしている
(伊丹,1986,p.25)。
また、コントロールには、
「影響」が大きく関係する 41。前述の議論からもわ
かるように、影響は、影響力という「パワー」の問題として捉えられている。
パワーとは、フェファー(1992)の言うように「動かない人々に物事を実行さ
せる」ものであり、これこそ現場を動かす「追立棒」なのである。実際、中小
企業においても、経営者やマネジャーの持つパワーによって、現場は動いてい
る。そのパワーには内容にも強さにもそれぞれ個人差があるが、いずれにして
も、独特の個性を放っていることには違いない。
ただ、中小企業の現場において、重要な点は、あま り統制しない、あるいは、
少ししか影響を与えない、といったマネジメントのやり方もされているところ
である。それが意図したものなのか、たまたまそうなっただけなのかは、会社
によって事情が違うであろうが、そうやってやっている、あるいはやっていけ
41
伊 丹( 1986)は 、
「 コ ン ト ロ ー ル と 影 響 と い う 概 念 と は ほ と ん ど 同 義 的 で す ら あ る 」と し て い る( 伊
丹 ,1986,p.27)。
- 80 -
るところに、中小企業の強かさがある。あまり統制せず、あるいは、少ししか
影響を与えずに、現場の個性に合った雰囲気を醸し出し、自分たちのペースで
上手く仕事を回しているのである。そういった現実を踏まえ、次節では中小企
業のマネジメントの区分を行っている。また、その実態を、第 7 章で検証して
いる。
3.「マネジメント」と「マネジメントに似て非なるもの」の考察
本章第 1 節で考察したように、本研究では、中小企業にとってマネジメント
とは、「アクションの決定と、その実行を司ること」と定義付けることとする。
ただ、そこで問題になるのが、マネジメントだけでなく、マネジメントに似て
非なるものの存在である。第 1 章で疑問として投げ掛けたように、「しっかり
-きっちり」という管理的な要素を前提としたマネジメントというものがある
なら、筆者がマネジメントに似て非なるものとする「ちゃっかり-ざっくり」
は何であろうか。
先ほどの定義に当てはめると、確かに、どちらも、「何をするか」「どうする
か」の枠に当てはまる。ただ、その「趣」が違うのは明らかである。だとする
と、「何をするか」「どうするか」にもさまざまな「何をするか」どうするか」
があり、そのうちの二つが、
「しっかり-きっちり」と「ちゃっかり-ざっくり」
なのではないかと考えられる。
(1)何をするか
「何をするか」というアクションの決定には、実際にどのようなものがある
のであろうか。アクションの決定のポイントは、会社がとったそのアクション
はどうやって決まったのか、そのアクションの「源泉」は何かということであ
る。これまでのフィールドワークに基づき、さまざまな場面を抽出すると、次
の 9 パターンに分類できる 42。
42
実際はいくつかのタイプが組み合わされていたり、場面ごとに(案件ごとに)タイプが違っていた
りする場合もあるが、ベースとなるタイプは一定である。
- 81 -
①分析型
景気の動向、業界の動向、流行やトレンド、市場規模やシェアなど、主に外
部環境要因に関するさまざまな数値データを活用し、それを分析して意思決定、
すなわちアクションの決定を行う。マーケティング・リサーチ型の意思決定で
ある。何をするかというアクションの決定だけでなく、その前提となる、中・
長期ビジョンに基づく戦略的な判断も合わせて行うことになる。
②検討型
数値データは活用あるいは重要視しないが、経営者や特定のマネジャーなど
が検討を重ね 43 、意思決定を行う。 分析型同様、検討型も戦略的な判断も合わ
せて行うことになる。
③直観型
「物事の本質を瞬時に見極める力」や「鋭い洞察力」といった直観により、
経営者やマネジャーが判断を下す。そういった「直観力」は、その人の持って
生まれた資質や長年の経験から由来するものである。
また、直感という、根拠のない、まったくの「勘」で行う意思決定もある。
実際、筆者は、経営者の意思決定が直感による場面に何度も遭遇しているが、
常に直感で意思決定をしている経営者はいない。多くの場合、
「直観」に頼りな
がら、
「直感」的に判断しているように見受けられる。したがって、意思決定の
一つの型として、
「直感型」というものを考慮することも必要であるが、直感そ
のものが単独で存在するのではなく、直観の一部を構成するものとして捉える
必要がある。すなわち、「直観型」には「直感型」が内含されているのである。
④希望型
経営者の「こうしたい」
「こうなりたい」という思いをベースにアクションを
決定していく。経営者の夢や理想を実現するための意思決定であり、本来は、
その情熱で会社を動かすことになる。ただ、情熱などなく、文字通り、単なる
43
会議等で検討される場合もある。
- 82 -
「希望」の場合も多く、その場合は、
「思いつき」レベルによる意思決定が行わ
れることになる。
経営者の「希望」がそのまま経営理念になっている場合もあり、その場合は
会社の「経営理念」に基づき、アクションを決定していく 44ことになる。
⑤待受型
経営者の寄合いやルーティンの営業などの中で、思い掛けず案件があり、ま
たは、はからずも案件を紹介してもらい、それをやることにするというような
決め方である。極めて消極的かつ受身なやり方である。
⑥誘発型
日頃から意図的に関係先などに働き掛け、自社にとって旨みのある案件を誘
発するやり方である。ただ、仕掛けてはいるが、いつの時点で、内容的にどう
いった案件が来るか、あるいは来ないかはまったくわからない。接待や付届け
なども上手く活用し、巧みに根回しをするところに特徴がある。
⑦調和型
はじめから何かを企んだり、目論んだりすることなく、普段から得意先との
良好な協力関係づくりや個別の人間関係づくりに努める中で、結果として利益
につながるような案件を獲得するというやり方である。常に自社の利益を優先
させるのではなく、関係先あるいは業界全体の調和を図ろうとするところに特
徴がある 45。
⑧放任型
会社として、まったく何もせず、はからずともそうなったというやり方であ
る。積極的にも消極的にも動かず、意思決定をしない。
44
もちろん、分析型や検討型において、戦略の前提(拠り所=判断基準)として、経営理念やビジョ
ンを踏まえていることはある。
45 経 営 者 ら の 人 徳 に よ る と こ ろ が 大 き い こ と も 特 徴 で あ る 。 関 係 づ く り ( 信 頼 ) が 必 要 な た め 、 短 期
間で結果が出るものではなく、必然的に長期間を要する。
- 83 -
⑨強制型
常に親会社等の命令・指示に従い、そうせざるを得ないというやり方である。
自社の判断の余地はまったく無く、ほとんど言いなりになって事業活動をして
いくことになる。
この 9 パターンは、「必然」と「偶然」という大きく 2 つに分けることがで
きる。①~④は、こちらが主体となって、積極的に動いたり、意識したりする
ことにより、必然とそうなることを狙っている。それに対して、⑤~⑧は、あ
らかじめそうなることを狙って動いているわけでなく、結果としてたまたまそ
うなったという偶然である。これらをマネジメントという言葉を使って表現す
るならば、①~④は「必然のマネジメント」であり、⑤~⑧は「偶然のマネジ
メント」ということになる 46。
(2)どうするか
次に、
「どうするか」であるが、これは決まったアクションをどう実行するか
である。アクションを実行する現場をどうやって動かすか、どの程度管理する
かということである。前項同様、フィールドワークに基づいて、さまざまな場
面を抽出すると、次の 7 パターンに分類できる。
①統制型
年・月・週・日あるいは月・週・日の各単位で計画し、その計画に基づき PDCA
サイクルを回す。成果(結果)指標だけでなく、活動(先行)指標 47 も使い、
進捗管理を行う。
②制御型
統制型と同じように、年・月・週・日あるいは月・週・日の各単位で計画し、
46
「 ⑨ 強 制 型 」であ る が 、文 字 通 り 親 会 社 等 の 強 制 に よ る も の で あ り、
「 必 然 の マ ネ ジ メ ン ト」に も「 偶
然 の マ ネ ジ メ ン ト 」に も 該 当 す る も の で な く 、ま た、実 際 の 中 小 企 業 に お い て も 特 殊 な 事 例 と な る た め 、
本研究では事象としての確認に留め、これ以降での検証は行わないことにする。
47 業 務 プ ロ セ ス の 進 捗 状 況 に つ い て 継 続 的 な モ ニ タ リ ン グ を す る た め に 使 わ れ る の が 、 KPI( 重 要 業
績 評 価 指 標 ) で あ る 。 KPI に つ い て は 、 第 5 章 第 3 節 で 詳 述 し て い る 。
- 84 -
その計画に基づき PDCA サイクルを回す。ただ、統制型と違い、活動(先行)
指標までは使わず、成果(結果)指標だけで進捗管理を行う。この場合の成果
指標は、たとえば、生産現場であれば、QCD に関する管理項目が該当する。ま
た、営業であれば、顧客別の売上や新規開拓件 数、成約件数などが挙げられる。
③適当型
現場のマネジャー(上位のマネジャーの場合もある)などが、顧客とのやり
取りや仕事量などの状況を判断し、その日の段取りで行動する。簡単な朝礼レ
ベルのミーティングを伴う場合もある。現場として注意している項目は、生産
であれば、最終的な Q(顧客の指示通りの品質かどうか)と D(顧客に約束し
た納期を守れたかどうか)が中心であり、 C(コスト)の意識は低い。また、
営業であれば、その日のノルマ的な定期訪問件数や新規顧客アプローチ件数な
どが挙げられる。マネジャーが、簡単な計画などを確認したりする場合もある
が、いずれにしても、現場レベルでの PDCA サイクルは不十分である。
④調整型
顧客の都合や現場の事情に配慮し、会社内外の調和を保つために、外注や納
期等で常に全体を調整し、行動する。調整するのは、受注管理や営業事務など
を行っている部署、あるいはその部署のマネジャーであることが多い。この場
合の顧客の都合とは、たとえば、仕様変更や追加注文、短納期などであり、現
場の事情とは、たとえば、人員体制や設備の状態、受注残などである。
⑤感覚型
その日の段取りやミーティングなどはなく、主に現場のマネジャーなどの感
覚だけでアクションを実行する。
⑥放任型
まったく誰もコントロールをせず、成り行き任せの状態である。たとえば、
生産現場であれば、受注(入荷)したものを、何も後先を考えずそのままライ
ンに流していくようなやり方である。営業であれば、何もしない(新規顧客を
- 85 -
取る動きをしないや、電話を受けるだけなど)場合も含め、何の計画や算段な
く、手当たり次第に客先を回るようなやり方が該当する。その肩書きはともか
く、マネジャーが実質的にいないか、機能していない状況である。
⑦強制型
親会社等の指示通りに行うやり方である。自社あるいは現場の人間の判断に
よるところはなく、親会社等にあてがわれたものである。
前項同様、この 7 パターンも大きく 2 つに分けることができる。それは、
「確
実」と「曖昧」である。①と②は、能動的に PDCA サイクルを意識しながら、
しっかりと管理し、確実に現場を回そうとするものである。それに対して、③
~⑥は、受動的に現実に対応する 48 ことを意識しながら、 ある程度余裕を持た
せてスムーズに現場を回そうとするものであり、その分、曖昧になりがちであ
る。これをマネジメントという言葉で表現すると、①と②は「確実のマネジメ
ント」であり、③~⑥は「曖昧のマネジメント」ということになる 49。
見てきたような、
「必然のマネジメント」と「偶然のマネジメント」、
「確実の
マネジメント」と「曖昧のマネジメント」の区分に従い、中小企業のマネジメ
ントのタイプをまとめると、次の図表 3-4 のようになる。
48
現実に対応せざるを得ないのが中小企業の実情であり、常に目の前の仕事を片付けることに終始 し
がちである。
49 「 ⑦ 強 制 型 」であ る が 、文 字 通 り 親 会 社 等 の 強 制 に よ る も の で あ り、
「 確 実 の マ ネ ジ メ ン ト」に も「 曖
昧 の マ ネ ジ メ ン ト 」に も 該 当 す る も の で な く 、ま た、実 際 の 中 小 企 業 に お い て も 特 殊 な 事 例 と な る た め 、
本研究では事象としての確認に留め、これ以降での検証は行わないことにする。
- 86 -
【図表3-4】中小企業のマネジメントのタイプ
中小企業ごとの「やり方」=中小企業のマネジメント
何をするか(アクション)を決定する
決まったアクションをどう実行するか
→そのアクションはどうやって決まったの →アクションを実行する現場をどうやって
か、アクションの源泉は何か
動かすか、どの程度管理するか
①分析型
必然のマネジ
メント
②検討型【しっかり】
確実のマネジ
③直観型
メント
①統制型
②制御型【きっちり】
④希望型
⑤待受型
偶然のマネジ
メント
③適当型【ざっくり】
⑥誘発型【ちゃっかり】
曖昧のマネジ
④調整型
メント
⑤感覚型
⑦調和型
⑧放任型
―
⑥放任型
⑨強制型
―
⑦強制型
(出所:筆 者 作 成)
(3)「マネジメントに似て非なるもの 」の正体
前項までの考察の結果、マネジメントという言葉を使うなら、中小企業のマ
ネジメントは、何をするか(「必然のマネジメント」あるいは「偶然のマネジメ
ント」)と、どうするか(「確実のマネジメント」あるいは「曖昧のマネジメン
ト」)との組み合わせで表すことができることが明らかになった。
その組み合わせのうち、中小企業の典型と言えるのは、①「必然のマネジメ
ント」と「確実のマネジメント」の組み合わせと、②「偶然のマネジメント」
と「曖昧のマネジメント」の組み合わせであり、①の組み合わせを「マネジメ
ント」とすると、②の組み合わせこそ「マネジメントに似て非なるもの」と考
えられる。①も②も広義のマネジメントに属するが、そのうち①を狭義の「マ
ネジメント」とすると、②はまさに「マネジメントに似て非なるもの」という
- 87 -
ことになるのである。
そして、それぞれを代表するパターンが「しっかり-きっちり」と「ちゃっ
かり-ざっくり」であり、それは、
「検討-制御型」と「誘発-適当型」という
ことになる。
【図表3-5】中小企業のマネジメントとアナザーマネジメント
(広義の)
マネジメント
アナザー
(狭義の)
マネジメント
マネジメント
必然の
マネジメント
偶然の
マネジメント
×
×
確実の
マネジメント
曖昧の
マネジメント
(出所:筆 者 作 成)
ここで、「マネジメントに似て非なるもの」を「アナザーマネジメント」(も
うひとつのマネジメント) 50と位置付けることとする【図表 3-5】。一般的な
マネジメント(本研究で言う「狭義のマネジメント」)に対して、「もうひとつ
の」という位置付けのマネジメントということである。
このアナザーマネジメントは、
「偶然×曖昧」ということで、自分から主体的
に動くわけでなく、周りとの協調を重んじるようなところから、日本的なマネ
50
「 マ ネ ジ メ ン ト に 似 て 非 な る も の 」 を 以 下 「 ア ナ ザ ー マ ネ ジ メ ン ト 」( も う ひ と つ の マ ネ ジ メ ン ト )
という表現で示すことにする。
- 88 -
ジメントという特徴を持つ。「和」のマネジメントであり、「輪」のマネジメン
トでもあり、話し合いによって成り立つ「話」のマネジメントでもある。お互
い様の精神や配慮、遠慮、そして信頼をベースに成り立っているのが、アナザ
ーマネジメントなのである 51。
そして、その「マネジメント」と「アナザーマネジメント」を実際に動かし
ているのは、
「仕組み」と「ヒト」であり、それがマネジメント(アナザーマネ
ジメントを含む)のツールなのである。それらの詳細は次章以降で述べること
とする。
(4)仮説の設定
中小企業のマネジメントのタイプを明らかにできたことから、マネジメント
のタイプと業績に関する仮説を設定する。
<仮説 1>
フィールドワークを通じての感覚的な判断では、マネジメント(アナザーマ
ネジメントを含む)のタイプのうち、「しっかり-きっちり」(検討-制御型)
と「ちゃっかり-ざっくり」(誘発-適当型)の業績がいい。
<仮説 2>
新しい取組み(経営革新や社内改革)ができているのは、
「しっかり-きっち
り」
(検討-制御型)であり、
「ちゃっかり-ざっくり」
(誘発 -適当型)は一定
の業績は上げてはいるが、それは新しい取組みによるものではない。
<仮説 3>
それら以外のマネジメントのタイプは、経営者がツールである「ヒト」や「仕
組み」を上手く使えないので、
「自分」でマネジメントしようとするため、どう
しても不安定になり、業績が伸び悩んだり、好不調の波が激しかったりする。
51
た だ し 、「 放 任 - 放 任 型 」 は 「 ア ナ ザ ー マ ネ ジ メ ン ト 」 の 範 疇 に 属 さ な い 。
- 89 -
以上の仮説については、第 7 章の「事例分析からの考察」の中で、その真偽
について検証を行う。
- 90 -
第4章
番頭型マネジャー(現代版番頭)
中小企業のマネジメントは、
「しっかり-きっちり」に代表されるマネジメン
トと、
「ちゃっかり-ざっくり」に代表される アナザーマネジメントの大きく 2
つから成り立つことを見てきた。ただ、いずれのマネジメントであれ、現場に
おいてそれが実際に機能しているということは、それを動かしている何かがあ
るのである。
その何かは、
「仕組み」と「ヒト」である。つまり、マネジメントには、仕組
みで動いている場合と、ヒトが動かしている場合の 2 つがあるのである。この
場合の仕組みは、「PDCA サイクル」であり、この PDCA サイクルをいかに回
すかがその論点になる。一方、この場合のヒトは、マネジメントを動かす、す
なわちマネジメントをすることから、基本的には、いわゆる「マネジャー」と
いうことになる。
実際の中小企業では、そのどちらかに頼りながら、マネジメントを行ってい
る。もちろん、必ずどちらか一方だけということではないが、その企業の置か
れている状況や成長段階によってどちらかに片寄りがちになるのが実際のとこ
ろである。わかりやすいイメージで言うと、経験豊富なベテラン・マネジャー
がいれば、仕組み(PDCA サイクル)など気にせずとも、そのマネジャーの感
覚的な差配で、現場はしっかりと回るはずである。逆に、現場を引っ張ってい
くような強力なマネジャーがおらず、一般的なマネジャーの下、全員で話し合
いながら進めていくような現場であれば、きちんと仕組 み(PDCA サイクル)
で回すやり方の方が適しているであろう。
つまり、経験豊富なベテラン・マネジャーの存在の有無が、その中小企業の
マネジメント・スタイルを決めることになるのである。そのベテラン・マネジ
ャーの中でもより強烈な個性を放つ「番頭型マネジャー」は注目に値する。仕
組み(PDCA サイクル)に頼らずとも、その存在感で組織をマネジメントして
いける力強さが番頭型マネジャーにはある。本章では、本研究においてマネジ
メントの 2 大ツールの一つと位置付ける番頭型マネジャー(現代版番頭)につ
- 91 -
いて考察する 52。
番頭型マネジャーと PDCA サイクルは、中小企業のマネジメントの 要諦であ
るため、マネジメントとの関連性だけを議論するのではなく、いったん視点を
大所高所に移し、番頭型マネジャーの存在そのものを一から徹底的に検証し、
その概念について明確化を図る。マネジメントとの関連性にこだわって議論す
ると、番頭型マネジャーと PDCA サイクルの全容と本質を明らかにすることが
できず、結果、マネジメントとの関係付けを誤ってしまうおそれがあるからで
ある。2 大ツールである番頭型マネジャーと PDCA サイクルの実態を徹底的に
検証することが、本研究のテーマであるマネジメントの本質に迫る近道なので
ある。また、この考察を進める中では、マネジメントだけでなく、さまざまな
視点から中小企業の実情と可能性が明らかにされるが、本研究の目的にもつな
がる部分なので、ここで合わせて確認をしておく。
1.番頭型マネジャーの存在
これまでさまざまな中小企業の現場でフィールドワークを行ってきたが、そ
こでは幾人もの特徴的なマネジャーの存在を確認してきた。その中で、筆者が
「大番頭」、「小番頭」と位置付けているマネジャーたちがいる。本章では、そ
の大番頭型マネジャー、小番頭型マネジャーの特徴を見ながら、実際の中小企
業におけるマネジメントのツールとしての機能を考察していく。
この考察で特に重要なのは、
「現代版番頭」という概念の構築である。番頭に
ついて、過去の研究では、歴史を調べ、その流れの中で実在した大物番頭たち
の実像に迫り、その共通項をエッセンスとして解釈するというものが多く見受
...
けられる 53 。ただ、いずれも大規模組織での話であり、中小企業の普通の 番頭
たちにスポットを当てた考察を試みるところに本章の特徴がある。また、番頭
だけを捉えてその特徴を議論するのではなく、一般的な「マネジャー」との相
52
本 章 で は「 現 代 版 番 頭 」と「 番 頭 型 マ ネ ジ ャ ー 」と い う 2 つ の 語 句 を 使 用 し て い る 。現 代 版 番 頭 は 、
江 戸 時 代 に 発 生 し た 商 家 等 の 番 頭( 一 般 的 に イ メ ー ジ さ れ る 番 頭 )に 相 対 す る 新 し い 概 念 の 番 頭 と し て
の イ メ ー ジ を 表 し た も の で あ り 、番 頭 型 マ ネ ジ ャ ー は 、マ ネ ジ ャ ー の 類 型 の 一 つ と し て 表 し た も の で あ
る 。ま た、大 き く は 組 織( 経 営 者 )か ら見 た 存 在 と し て 現 代 版 番 頭、職 務( 役 割 )か ら 見 た 存在 と し て
番頭型マネジャーと言うこともできる。そのように視点は違うが、同じ人材を表しており、本章では、
文脈によって適宜使い分けて用いている。
53 本 章 で 引 用 し た 青 野 ( 1997) の 他 、 佐 藤 (1983) や 山 本 ( 1984) な ど が あ る 。
- 92 -
違比較によってその特徴を明らかにする。さらには、番頭が存在するという中
小企業の現実を明らかにし、番頭という視点から中小企業が抱える諸問題も、
ここで合わせて議論していく。実際の事例も確認しながら、現代の中小企業に
生きる番頭たちの姿を追究する。
2.「マネジャー像」の考察
本章のテーマである「現代版番頭」の概念を明らかにするために、まず「マ
ネジャー」という概念を明らかにしていく。ここでは、特に、マネジャーの役
割ないし仕事という視点からいくつかのマネジャー論を確認し、具体的にイメ
ージできる、わかりやすい「マネジャー像」というものの構築を試みる。
2-1.ドラッカーとマグレガー
ファヨールの古典的な管理論から始まり、さまざまなマネジメント論やマネ
ジャー論が展開されてきた。本章では、前述のように、具体的にイメージのし
やすい「マネジャーの役割」という視点から考察する。その中で、たとえば、
ドラッカーのマネジャーに関する見解は、次のようなものである。ここでは、
マグレガーの見解と合わせて見ていく。
(1)P.F.ドラッカーの見解
ドラッカー(1954)は、マネジメントの適性として「真摯さ」を挙げる。す
なわち、真摯さに欠ける者が経営管理者になることにより、組織が腐敗し、人
材が台無しになり、組織の文化が破壊され、業績が低下する、と言う。マネジ
ャーとしての資質として、真摯さの重要性を強調しているのである
(Drucker,1954,邦訳[上],pp.218-220)。
その上で、経営管理者には 2 つの特有の課題があるとする。第 1 の課題は、
「経営管理者は、部分の総計を超える総体、すなわち投入された資源の総計を
超えるものを生み出さなければならない」ということである。第 2 の課題は、
「経営管理者はあらゆる意思決定と行動において、当面するニーズと長期のニ
ーズを調和させなければならない」ということである。そして、これらの課題
- 93 -
は、経営管理者以外の者では果たせない課題であり、これらを課された者は、
すべて経営管理者であると言う(Drucker,1954,邦訳[下],pp.210-213)。ドラッ
カー(1954)は、課題という視点から、経営管理者、すなわちマネジャーを定
義付けているのである。
ドラッカーは、経営管理者の仕事には基本的な活動が 5 つあるとしている。
それは、①目標を設定すること、②組織すること、③動機付けを行い、コミュ
ニケーションを行うこと、④評価測定すること、⑤部下を育成することの 5 つ
である(同書,pp.213-217)。
これらを総合すると、ドラッカーの描くマネジャー像が見えてくる。すなわ
ち、真摯さを持ち、5 つの基本的な活動(仕事)を行って、2 つの課題をクリ
アするのがマネジャーなのである。
ただ、注目すべきは、ドラッカーは「経営管理者を経営管理者たらしめるも
の」として、経営管理者の定義付けを行っており、
「 誰が経営管理者であるかは、
役割と期待される貢献によってのみ定義される」とする。経営管理者を他の人
から区別するものとして、教育的な役割の有無があり、経営管理者だけに期待
される貢献が、他の人にビジョンと能力を与えることであるとしている。そし
て、
「つまるところ、経営管理者を経営管理者たらしめるものが、彼自身のビジ
ョンと責任である」とまとめている(同書,pp.222-223)。
(2)D.マグレガーの見解
マグレガー(1967)は、管理者の役割について、実際の管理者の行動は、職
位明細書などに定義された公式的な役割からはほど遠いことを指摘し、その理
由を「役割に対する圧力」という視点から考察している。この役割上の圧力は、
企業内部に存在するものと企業外の社会に存在するものの大きく 2 種類あると
する。そして、
「一方では、管理者は企業の経済的遂行に貢献するという唯一の
責任を負っているという見解がある。他方では、管理者は経済的責任のほかに、
社会的責任を負っている」とし、管理者の典型的なタイプは、
「矛盾の多い、二
面的なもの」であるとしている(McGregor,1967,邦訳,pp.65-72)。
さらに、役割上の圧力だけでなく、管理者自身の特性によっても影響される
ことを指摘している。ここで言う特性とは、管理者の世界観、価値観、欲求、
- 94 -
能力、自己概念などである。これらの特性によって、管理者の役割についての
管理者自身の概念が左右されるとしている(同書,pp.72-74)。
マグレガーは、管理者の役割を公式的(定型的)なものでなく、組織内部か
らと外部からの役割上の圧力と、管理者自身の特性との相互作用によって左右
されるものとして捉えている。管理者にはその時々の環境(状況)に合わせて、
役割ないし仕事を柔軟に変化させていくことが求められるのである。
2-2.ミンツバーグ
ドラッカーとマグレガーの見解を見たが、中小企業の現場における「現代版
番頭」を議論したい本章では、より現実的で、現場目線のマネジャーの捉え方
をする必要がある。そういう視点から言えば、ミンツバーグのマネジャー論が
わかりやすい。ミンツバーグはそれまでのマネジャー論を踏まえた上で、実証
研究に基づくマネジャー論を展開している。
(1)H.ミンツバーグの見解
ミンツバーグ(1973)は、それまでのマネジャー各論 54を踏まえ、マネジャ
ーの仕事に関する実証研究からの証拠に基づき、
「 マネジャーは何をしているの
か」という基本的な問いに答えようとしている。ミンツバーグは、マネジャー
の役割を「主に対人関係を中心とするもの」、「主に情報処理を扱うもの」、「重
要な意思決定にかかわるもの」の大きく 3 つのカテゴリーに分類し、さらに、
それらを①フィギュアヘッド、②リエゾン、③リーダー(以上①~③は対人関
係の役割)、④モニター、⑤周知伝達役、⑥スポークスマン(以上④~⑥は情報
処理の役割)、⑦企業家、⑧障害処理者、⑨資源配分者、⑩交渉者(以上⑦~⑩
は意思決定の役割)という 10 の役割に細分化している【図表 4‐1】。そして、
これらの 10 の役割はゲシュタルト(まとまった一つの全体)になっていると
主張する(Mintzberg,1973,邦訳,pp.91-163)。
54 ミ ン ツ バ ー グ ( 1973) で は 、
「マネジャーの職務に関する現代の学説」として、古典学説、偉人学
説 な ど 8 つ の 学 説 に つ い て 検 討 し て い る ( Mintzberg,1973,邦 訳,pp.13-48)。
- 95 -
【図表4-1】マネジャーの10の役割
分 類
対人関係
役 割
内 容
フィギュアヘッド
象徴的な長
リエゾン
好 意 的 支 援 や情 報 を提 供 してくれる外 部 の接 触
や情 報 通 からなる自 分 で開 拓 したネットワークを
維持する
情報関係
リーダー
部下の動機づけと活性化に責任がある
モニター
組 織と環 境 を徹 底 的 に理 解するため広 範 な専 門
情報(ほとんどが最新のもの)を探索・受信
周知伝達役
外 部 や部 下 から受 信 した情 報 を自 分 の組 織 のメ
ンバーに伝える
スポークスマン
組織の計画、方針、措置、結果などについて情報
を外部の人に伝える
意 思 決 定 企業家
組織と環境に機会を求め変革をもたらす「改善計
関係
画」を始動させる
障害処理者
組織が重要で予期せざる困難にぶつかったとき是
正措置をとる責任
資源配分者
実 質 的 に、組 織 のすべての重 要 な決 定 を 下 した
り、承 認 したりすることによる、あらゆる種 類 の組
織資源の配分に責任がある
交渉者
主要な交渉にあたって組織を代表する責任
(出所:ミンツバーグ(1973,邦 訳,p.151)より抜 粋)
また、なぜ組織がマネジャーを必要とするのかに答える形で、マネジャーの
6 つの基本目的を示している。それは、①組織の財やサービスの能率的生産を
確保すること、②安定的な組織業務をデザインし維持すること、③組織を計画
的な方法で変化する環境に適応させること、④組織が組織を動かしている人た
ちの目的に役立つようにすること、⑤組織と外部環境をつなぐ重要な情報リン
クとして働くこと、⑥組織の地位体系を操縦することの 6 つである(同
- 96 -
書,pp.160-161)。そして、これらは、マネジャーが持つ公式権限によりもたら
されるとする(同書,p.269)。
ミンツバーグは、マネジャーを「公式組織あるいはその構成単位を任される
人」と定義付けた上で(同書,p.165)、マネジャーの職務は類似しており、その
仕事は 10 の基本的役割と 6 つの特徴(目的)から記述できるとしている(同
書,pp.6-7)。これら一連の考察は、
「マネジャーの仕事」という 視点からのもの
であり、まさに「マネジャーは何をしているのか」という基本的な問いに答え
たものと言える。
(2)ミンツバーグへの批判
しかし、このミンツバーグの考え方には、批判的な意見も多い。たとえば、
丁(1996a)は、ミンツバーグの役割の捉え方は、
「マネジャーの公式的オーソ
リティーを論理展開の出発点にしている、いわゆる公式的職能論であって、そ
れを持ってマネジャーの職能を一般化するには限界がある」と指摘している
(丁,1996a,pp.70 -71)。その上で、丁(1996a)は、ミドル・マネジャーに絞
り、その職能について具体的に究明しており、①アジェンダの開発、②伝達経
路のキー・パーソン、③バイリンギュアル、④協同的人間関係の維持、⑤組織
コミットメントの維持、という 5 つを挙げている(同論文,pp.77-82)。
また、當間・岡本(2005)は、ミンツバーグの 10 の役割を、
「もともと職位
が明確なマネジャーのみを対象としており、極めて包括的な内容となっている」
とし、そこには「少なからず時代的な問題がある」と指摘する。それは、
「従来
のマネジャーの職位は、確固たる職位( position)となる地位」があり、また
「マネジメントを行う組織もまた確固たる位置づけ」があったが、現代企業が
おかれている激しく変化する経営環境の中では、その前提が変わってしまって
いるという指摘である(當間・岡本,2005,pp.37-38)。
(3)ミンツバーグの新しい考え方
ただ、さまざまな反応や意見に応える形で、ミンツバーグの研究もさらに進
化しており、最近の研究では、新たなマネジメントのモデルを提唱し、その中
でマネジャーの役割を明らかにしている。
- 97 -
ミンツバーグ(2009)で提唱されているモデルは、マネジメントを 3 つの次
元に分けており、それは①情報の次元、②人間の次元、③行動の次元である。
行動の次元ほど、現場業務に近い。情報の次元は、コミュニケーションの役割
と、コントロールの役割からなる。人間の次元は、内部の人々を導く役割と、
外部の人々と関わる役割からなる。行動の次元は、内部でものごとを実行する
役割と、対外的な取引をおこなう役割からなる。また、それらのモデルの中心
にあるのは「マネジャーの頭の中」であり、マネジャーは頭の中で、仕事の基
本設計を考えること、スケジュールを立てること、の 2 つの役割を実践してい
るとする(Mintzberg,2009,邦訳,pp.70-140)。
2-3.「マネジャー像」について
第 2 節ではここまで、
「マネジャーの仕事」という視点から、3 人のマネジャ
ーの捉え方を見てきた。そのポイントを確認すると、 ドラッカー(1954)は、
「2 つの課題」と「5 つの活動」といった構成でマネジャーを捉えている。一
方、ミンツバーグ(1973)は、「6 つの目的」と「10 の役割」といった構成で
マネジャーを捉えており、この 2 つでマネジャーの仕事は記述できるとする
(Mintzberg,1973,邦訳,pp.6-7)。また、マグレガー(1967)は、役割上の圧力
やマネジャー自身の特性といった環境によってマネジャーの役割は変化するこ
とを説く。
いずれもわかりやすく、妥当な見解であるが、本章においては、ミンツバー
グ(1973)の見解に注目する。それは、ミンツバーグの見解は直接観察などに
よる実証研究から導かれているものであるため、本章のベースとなった、筆者
がフィールドワークの際に、実際に見てきた現場の幾多のマネジャーたちの具
体的なイメージとリンクし、比較検討など考察がしやすいからである。
また、前述のようにミンツバーグの「10 の役割」について、批判はあるもの
の、本章はマネジャーそのものについて検証するものではないため、厳密なマ
ネジャーの定義を議論する必要はないと考えられる。決して、本章の目的であ
る「番頭型マネジャー」の明確化を妨げるものではない。したがって、本章で
は、ミンツバーグの明らかした「マネジャー像」をベースにこれからの議論を
進めていくこととする。
- 98 -
3.「番頭」の歴史的な流れ
旧来より言われる「番頭」は、どのように誕生し、どう移り変わったか、歴
史を調べ、これまでの流れを確認する。特に中小企業と番頭との関係に注意し
ながら、進めていく必要がある。以下、ヒルシュマイヤー・由井( 1977)の記
述を主に参照・引用しながら、その全体を概観する。ここでは、①江戸時代、
②明治初期、③明治末期~戦前、④戦後の 4 つの時代に分けて見ていくことと
する。
3-1.時代ごとの番頭の姿
(1)江戸時代
江戸時代の中期(18 世紀後半)には、商家においては、所有と経営の分離が
見られる。商家の奉公人は、①丁稚、②手代、③番頭という 3 つの年功的な階
層から構成されていた。標準的な昇進ルートは、10 歳前後で丁稚として雇用さ
れ(主に縁故採用)、手代を経て、30 代前後で番頭にというものである 55。番
頭は、主人に従って、店全般の管理を任されていた。奉公人の処遇は年功が中
心であったが、業績による部分もあった。実際、
「住友家や三井家の家憲のよう
に、入店年次にかかわらず、忠節を尽くし能力のある者は重用すべきことを明
確に規定するものも存在し 」(ヒルシュマイヤー・由井,1977,p.45)、年功だけ
でなく、主家への忠誠心や才能によって評価されていたことがうかがわれる。
ここで注目すべきは、
「家」という概念である。家を守るため、継続させるた
めというのが、商家の政策の根底にある 56 。たとえば、家を継ぐのは長男、と
いうイメージがあるが、必ずしもそうではなく、長男が適任でなければ、他か
ら後継者を立てるということが当然のように行われたという。
「 血のつながりよ
りも、事業体(ゴーイング・コンサーン)としての『家』の存続に対する優先
55
この 昇 進 ル ー ト に つ い て 、 宮 本 ( 2007) は 、 OJT( オ ン ・ ザ ・ ジ ョ ブ ・ ト レ ー ニ ン グ ) と ジ ョ ブ ・
ロ ー テ ー シ ョ ン と い う 語 句 を 使 っ て 示 し て い る ( 宮 本 ,2007,p.68)。
56 商 家 の 主 人 ( 当 主 ) に つ い て 、 宮 本 ( 2007) は 次 の よ う に 記 述 し て い る 。
「家督・家産は当主個人
の も の で な く、先 祖 か ら の『 預 り 物』で 、子 孫 に 譲 り 渡 し て い く も の、つ ま り『 イ エ 』と い う異 世 代 同
族 集 団 の 総 有 す る も の と 観 念 さ れ て い た の で あ る 。 ま た 当 主 の 役 割 は 『 輪 番 』、 す な わ ち 次 の 人 に 渡 す
ま で の 当 番 に す ぎ な い も の と 規 定 さ れ て い る 」( 宮 本 ,2007,p.56)。 ま た 、「 江 戸 期 商 家 の 当 主 の 地 位 は
駅 伝 の ラ ン ナ ー に 、家 産 は タ ス キ に な ぞ ら え る こ と が で き る」
( 同 論 文 ,pp.57-58)。
「当 主 は 、幼 名 と 隠
居 名 は 持 つ が、当 主 の 期 間 は 法 人 名 だ け だ っ た の で あ る 。そ れだ け 、当 主 は 没 個 性 的 存 在 で あ り、顔 の
み え な い オ ー ナ ー で あ っ た 」( 同 論 文 ,p.58)。
- 99 -
的配慮こそが、商家のねづよい存続を結果したといえよう」(同書,p.43)。
主人は、先祖の教えに従って、家を守り、奉公人は、その主人に忠節を尽く
して、家の発展を支えるというのが、商家のあるべき姿だったのである。その
根底にあるのは、江戸時代に形成された「3 つの価値体系」であると、ヒルシ
ュマイヤー・由井は強調する。それは、
「垂直的(上下の階層的な序列と、非物
質的な政治や忠誠の価値)、水平的(集団へのコミットメント)および時間の流
れ(祖先との連続に代表される伝統の価値)という 3 つの価値体系」である(同
書,pp.63-64)。
このように江戸時代の商家を見てくると、
「家」と「忠節」というキーワード
が見えてくる。すなわち、
「家」の存続のために、主人に「忠節」を尽くす、そ
れが番頭なのである。
(2)明治初期
明治時代になると、株式会社という衣をまとった近代企業が現れる。そこで
は、
「支配人」や「技師長」といった上級のマネジャーが会社の業務を取り仕切
ることとなり、彼らこそそれまでの番頭の伝統を継承した存在であった。
「 事実、
商法の制定以前は、これら支配人・技師長が、技術についてはもちろん、経営
管理の全般をも把握している会社にとってかけがえのない人物であり、伝統的
忠誠心と大きな権限で、組織と従業員とを支配し、統率した」(同書,p.163)。
近代企業の誕生に合わせ、経営者と従業員との関係にも少しずつ変化が現れ
る。まず、事務職員であるが、
「手代」と呼ばれて、江戸時代の商家の伝統を引
き継いだものであり、その根幹には、忠節を尽くすという思想があった。次に
職工であるが、職人の世界は伝統的な強い主従関係が根強く、親方職人の下で
働く徒弟には、絶対的な忠誠と服従が求められた。また、工場での直接雇用は
好ましいと思われていなかったため、もっぱら日雇いタイプであったが、大多
数の経営者は「労使の関係は、伝統的な美風たる親子の原理によって支配され
るべきこと」(同書,p.172)を譲らず、これが後の「日本的雇用」につながる。
さらには、経営者が直接に従業員と関わることなく、親方に作業を一任して報
酬を支払い、親方が従業員(子方労働者)を育て、働かせ、賃金を支払うよう
- 100 -
なやり方もあり、主に造船や土木建築などの業界で取り入れられていた 57。
(3)明治末期~戦前
江戸時代の商家における伝統的な考え方の中にその素地があったにも関わら
ず、明治以降に取り入れられた「所有」と「経営」の分離は、実際にはなかな
か普及しなかった。そして、明治末期以降になると、経営者は、意思決定に関
する力を失うようになっていく。代わりに意思決定を担ったのが、それまでの
支配人や技師長の地位を継承した専務取締役(または専務理事)である。かつ
ての「番頭」が「支配人」に名を変え、また「専務取締役」に名を変えたので
ある。
そして、20 世紀に入ると、技術の進歩に合わせ、生産量を上げるために、工
場が直接労働者を雇うようになる。その際、労働者を長期的に確保し、経営者
との人間関係に円滑化を図るために取り入れたのが、年功的な賃金制度である。
また、長期雇用の労働者の増加に伴い、現場を管理するための末端の職制(管
理職制度)が導入される。
「諸企業は安定した雇用を約 束し、自動的に昇給する
賃金を支給するかわり、長期にわたる誠実で勤勉な労働を確保し、会社一家の
ヒューマン・ネクサス
人間的関係 という全体的統合を維持しようとしたの であった」(同書,p.304)。
その会社一家の要が「番頭的な存在」になったと考えられる。
ヒルシュマイヤー・由井は、20 世紀になってから第 2 次世界大戦前まで、日
本の価値体系が再編成されたことを指摘する(同書,pp.312-316)。それは、
「家
族主義」という価値観の広まりである 58。物質的なものより、精神性を重んじ、
全体の中での個人の努力を重んじる気風を生じた点は見逃せない。そして、集
団的倫理によるナショナリズムが企業経営にも影響を与え、
「 企業内部における
経 営 者 の 家 族 主 義 の 採 用 」、「 日 本 的 労 務 管 理 の 導 入 」 の 基 盤 に な っ た ( 同
書,p.317)。こうした家族主義がはびこった背景には、当時の経営者 自身が先祖
や伝統を重んじていたこともある。また、
「 家族主義の精神性がそのまま存続し、
57
こ れ ら 「 親 方 内 部 請 負 制 」 に つ い て は 、 阿 部 ( 2007) pp.132-134 に 詳 し い 。
58
「 経 営 家 族 主 義 」 に つ い て 、 宇 田 川 ( 2007) は 次 の よ う に 説 明 し て い る。「 企 業 を 1 つ の 家 族 的 共
同 体 と み な し 、経 営 者 は 従 業 員 に 対 し て 家 長 的 な 温 情 主 義 に よ る 諸 施 策 を 実 施 し 、他 方 、従 業 員 は そ う
し た 温 情 に 応 え て 企 業 の 存 続 と 発 展 に 献 身 し な け れ ば な ら な い と す る 、 労 使 協 調 の 考 え 方 」( 宇 田
川 ,2007,pp.216-217)。
- 101 -
格別に理念の支持を必要としない伝統的な商家ないし中小企業においては、家
への伝統の忠誠が当然のこととされたことは多言を要しまい」( 同書,p.320)。
特に、中小企業においては、家族主義、家への忠誠が、現在にまで根付いてい
くのである。
(4)戦後
戦後の経済成長の中で、大企業と中小企業の格差、すなわち「二重構造」が
さらに進展する。そして、大企業の調整弁となって成長を支える下請企業の構
図ができあがっていったのである。そんな中、主に大企業においては、社員出
身の「専門経営者」が大半を占めるようになる。その背景には、1950 年の商法
改正があるのだが、それまでの所有型経営者と違う、職業的経営者の出現によ
り、所有と経営の分離は進むことになった。
一方、中小企業はどうであったろうか。二重構造であえぐ中小企業が多く存
在したことも確かであるが、「現実には中小企業の広い階層のなかから、 1950
年代の後半期以降、ダイナミックな創造力にとむグループが生成し、持続的な
成長を示した。そうした企業群は、ふつう個人所有的な性格のつよい経営で、
巨大メーカーの部品製造業者として発足するか、さもなければ(少なくとも当
初は)高い声価をもたないがオリジナルな製品や市場を開発した企業である」
(同書,p.395)。個性の強いオーナー企業ではあるが、活力ある中小企業が成長
していくのである。
戦後、民主化が進み、価値観も変化した。ただ、
「私」に「公」が優先する構
、、
図は根強く残ったままであった。その点をヒルシュマイヤー・由井は、
「私的 な
、、
物事に優先する公の 物事の価値に示される垂直的な価値序列にしても、民主化
によってくつがえることがなかった。…(中略)…『私』に優先する『公』の
位置づけは、経済的な領域においても、より深く根づいていたといえる」( 同
書,pp.458-459)と説いている。そして、強調されたのが「和」の精神である。
これは集団主義とも言えるものである。企業という集団の中で、経営者から従
業員まで、協力し、協調して歩むことが、経営の一つの型として形成されてい
くのである。
- 102 -
3-2.歴史的な観点からの考察
ここまで歴史的な流れを見てきた。要点を簡単に整理しておく。そもそも「番
頭制度」が確立されたのは江戸時代中期以降であり、商家の「家」を存続させ
るために主人に「忠誠」を尽くすのが番頭の務めであった。明治時代になり、
伝統的な商家の「番頭」に加え、工場あるいは職人の世界において、労働者を
差配する「親方」の存在がそれまで以上にクローズアップされてくる。20 世紀
に入り、工場での直接雇用が進むと、会社一家の人間的関係を円滑化させる存
在が必要となり、その要として現場を仕切るのが、番頭ないし親方であった。
20 世紀以降も、従来からの家への忠誠に加え、家族主義が鮮明になり、その考
え方は戦後も、オーナー所有である中小企業に、特に受け継がれていくのであ
る。
すなわち、詳細は後述するが、伝統的な「番頭制度」に、近代工業化の中で
生成された「親方制度」が相まって、日本独特のマネジャー制度が生まれたの
ではないかと考えられる。それが、本研究で提唱する、現在の中小企業におけ
る「番頭型マネジャー」の原点である。そして、それを支えるのは、伝統的な
「家」制度であり、そこでの先祖崇拝、上下関係(主従関係)、服従と忠誠がそ
の根幹にある。そこに「家族主義」がマッチし、特に中小企業においては、独
自の組織体制(文化)が形成されたものと考えられる。ただ、すべての中小企
業がそうであったわけでなく、本来、所有と経営を一手に握っているオーナー
企業であるにも関わらず、何らかの要因で、所有と経営を分離させている、あ
るいはその状態に近い中小企業にこそ、
「番頭型マネジャー」は活躍するのであ
る 59。
このように考察を進めてくると、この段階で、仮に「現代版番頭」の存在を
肯定するならば、中小企業にこそ現代版番頭が生き、育つ環境が整っているこ
とがわかる。それには次のような、中小企業 ならではの背景 60 があると考えら
れる。
①
個人ないし一族所有のオーナー企業であること
59
番頭型マネジャーが活躍するからこそ、所有と経営を分離させることができているという見方もで
きる。
60 ① ~ ⑧ は 、 ひ と つ 一 つ で 見 る と 中 小 企 業 だ け に 限 っ た こ と で は な い 項 目 も あ る が 、 ① ~ ⑧ が ほ ぼ す
べて当てはまるとなると、中小企業特有の風土が見えてくる。
- 103 -
②
代々会社を受け継いでいること
③
そして、これからも会社が受け継がれていくであろうこと
④
現在の経営者だけでなく、先代および歴代の経営者との関わりがあるこ
と、あるいは、関わりがわかりやすいこと、実感しやすいこと
⑤
後継者である息子たちとの関わりがあること
⑥
少人数ゆえの家族的経営を行っていること
⑦
経営者と従業員の距離が近く、面識はお互いの家族までも及ぶこと
⑧
会社(経営者)への義理や恩を感じやすいこと
これら①~⑧について、実際の中小企業などの事例を交えての具体的な検証は、
節を改め、後に触れることとする。
4.「番頭」とは
前節では、番頭をめぐる歴史的な流れを確認した。本節では、先行研究を踏
まえ、
「番頭そのもの」をもっとクローズアップし、その実像に 迫る。ここでは、
番頭をいくつかの視点から分類し、体系的に整理した青野(1997)の研究をベ
ースに議論を進めることとする。一般的なマネジャーと番頭との違いに留意し
ながら、「番頭の本質」を明らかにしていく。
4-1.歴史から見た番頭
前節で試みた歴史からの考察と同様、青野も江戸時代の番頭誕生から歴史を
調べ、番頭というものを明らかにしようとしている。前節と内容的に重なると
ころもあるが、青野(1997)の見解を確認する。
(1)江戸時代
江戸時代の初期に番頭制度が生まれたが、青野は、番頭を「商家の雇い人の
長で、主人から店の実務のいっさいを預かる者」と定義し、
「 実務の総合補佐役」
であると位置付けている(青野,1997,p.36)。そして、享保期以前は、年功序列
による人事の下、番頭は主人の指示通りに行動していたが、享保期以降は、
「実
力・能力主義による抜擢人事」が行われ、
「番頭が主人を上回る権限・実力を有
- 104 -
するというケースも出てきた」ことを強調する。
「番頭が不行跡の主人(これは
主に二代目以降を対象にしたものであったが)を隠居させる実力も有していた」
というのである(同書,pp.38-39)。
青野はこの点について、欧米の同族会社と比較し、持論を展開している。欧
米の同族会社は、資本と経営の分離が実践されており、
「企業はあくまでもオー
ナー(資本家=株主)のもの」( 同書,p.41)である。それに対し、江戸時代の
番頭制度においては、
「主人と大番頭以下の使用人はいわゆる“主従関係”にあ
った」(同書,p.40)が、この点につき、青野は 2 つの指摘をする。一つは、主
従関係は「タテマエの上」でのことであり、
「実際には主従の関係を超えた、情
愛をもとに深く結び付いた“運命共同体”ともいえる関係にあった」というこ
と 61、もう一つは、日本ならではの特異なものがあり、それは「店」の概念で、
「主人のものでなく、先祖からの預かりものであり、社会からの預かりもので
ある」 62ということである(同書,p.42)。これらは、「番頭の本質」を考察する
上で、極めて重要な指摘であると思われる。
さらに、三井家の例を挙げて欧米の同族会社と比較し、①「三井の場合はオ
ーナーもまた経営に直接タッチし、しかも自ら経営作戦本部長を務めている」
こと、②“主従関係”にありながらも、
「大番頭が不行跡に走る主人を隠居させ
る権限と実力を有していた」ことから、江戸時代の番頭制度は、
「近代的な面と
封建的な面の、二面を併せ有して」いることを主張している( 同書,p.48)。ま
た、合わせて、後継者教育も番頭機能の一つであったことにも触れている(同
書,p.50)。
(2)明治時代以降
明治に入り、財閥が形成されていく。そこに、それまでと違った新しいタイ
61
「 主 従 関 係 」 に つ い て 、 佐 藤 ( 1983) は 、「 武 家 社 会 の “ 絶 対 服 従 ” と い う 上 下 関 係 と も 、 若 干 ニ
ュ ア ン ス が ち が う の で あ る 。あ く ま で も 、お 互 い が 全 面 的 に 信 用 し て 、店 の い っ さ い の と り し き り を 任
せ る 、 と い う 信 頼 関 係 に も と づ い て い る」( 佐 藤 ,1983,p.76) と 言 う 。
62 佐 藤( 1983)も 、企 業 は「預 り も の 」で あ る と い う 番 頭 精 神 を 強 調 し て い る。
「番 頭 経 営 の 精 神 を 、
一 言 で 説 明 す る の は ひ じ ょ う に む ず か し い が、わ か り や す く い う な ら、
『 預 り の 経 営』、も し く は『 預 り
の 精 神 』 と い う こ と で は な い だ ろ う か 。『 番 頭 経 営 』 の 根 底 に 流 れ て い る 精 神 は 、 忠 義 、 忠 誠 、 忠 勤 と
いった、自分に信託を与えてくれている主人もしくは主家(現在でいえばオーナー、株主)に対して、
絶 対 に 裏 切 ら な い と い う『 至 誠 』の 経 営 で あ る。こ の 場 合 の『 至 誠』と は 、自 我 や 私 心 を 完 全 に 無 に す
る 、 自 己 犠 牲 ま た は 滅 私 奉 公 と い っ た 意 味 で あ る」( 佐 藤 ,1983,p.75) と す る 。
- 105 -
プの番頭制度が誕生する。青野によると、
「財閥の大番頭たちは、高等教育を受
けた会社型企業家で、江戸時代の番頭とちがって財閥ファミリーと“主従の関
係”にあったわけではない。独立した専門経営者であり、会社型企業家であっ
た。しかし、いわゆる“番頭精神”まで失っていたわけではなかった。なぜな
ら、財閥の大番頭たちは独立した専門経営者ではあったものの、それでいて財
閥ファミリーとは心情的に主従の関係を保っていて、主家の永続を図ることを
もって自分たちの第一の務めと考えていたのである」
(同書,p.61)。ここで大事
なことは、新しいタイプの番頭たちもそれまでの「番頭精神」を引き継いでい
たということである。すなわち、番頭の制度は変わっても、
「主家の存続を第一
とする」その精神は変わらずに継承されたのである。
そして戦後、財閥解体などに伴い、番頭制度は消滅するが、番頭機能は消滅
しなかった。むしろその機能を拡充し、
「補佐役機能」という形で継承されてい
る。戦前あった財閥の大番頭とは別に、財閥系企業にあったトップを補佐する
補佐役機能と、中小企業や商家で継承されていた、江戸時代さながらの番頭制
度(番頭機能)が結び付く形で、戦後に新しい形態の補佐役が生み出されたこ
とを青野は強調する(同書,pp.63-64)。
4-2.日本型補佐役とは
前節で確認したような流れの中で、生まれてきたのが「日本型補佐役」であ
る。青野(1997)によると、補佐役とは、「トップの弱点を補い、その非を諌
め、その意思決定と決断を補完し、その負担を軽減する役割と機能を果たす人
たち」である(青野,1997,p.30)。具体的には次の 4 つの機能を果たす(同書,
p.3)。
①
トップの弱点を補い、トップが働きやすい環境づくりをする。
②
トップに非がある場合、その非を諌め、軌道修正をする。
③
適切なる情報の提供と、適時に適切なる提言を行なうことによって、ト
ップの意思決定と決断を補完する。
④
トップの分身としてビジネスの第一線に立つことで、トップの負担を軽
減する。
- 106 -
このほかにも、
「二代目(後継社長)を教育し、補佐する」、
「日本企業の補佐
役は、トップの楯、会社の楯となって泥をかぶる、いわゆる泥かぶり役をつと
、、、
めるという、いわば 忠臣的な役割をも果たしている」とする。そして、
「これら
の欧米企業の補佐役にはみられない、多岐そのものの役割と機能は、日本型補
佐役が江戸時代から連綿として継承してきた『番頭機能』を現在も維持してい
ることによるものなのである」という見解を述べている(同書,pp.3-4)。
また、
「 日本の企業社会では現在、大きく分けて五つのタイプの補佐役がいて、
それぞれが番頭機能(補佐役機能)を分担する形でトップを補佐し、さらに会
社を支えている」とする。それは、
「大番頭」、
「ご意見番」、
「女房役」、
「トップ
の分身(右腕型補佐役)」、「懐刀(黒子型補佐役)」の五つである( 同書,p.4)。
この現在の日本型補佐役は、欧米企業の補佐役と違って、
「江戸時代から継承
した“忠臣的な補佐役”としての機能」をもっていると言う( 同書,p.64)。そ
の主な特徴は、
①
副社長以下の役員の全員がトップの補佐役を兼ねており、その役員が補
佐役としての機能を果たすことを周りから期待されていること
②
五つのタイプの補佐役が機能しているが、いずれも組織の上では非公式
の存在であること
である(同書,p.66)。
特に 2 つ目の特徴については、(a)トップの補佐役は正規の業務以外にも、
「全
社的な広がりを持ち、かつ、より重要で、しかも非公式の仕事をトップに代わ
って非公式の立場で遂行」していること、加えて、(b)「江戸時代から連綿とし
て継承してきた日本的な番頭機能 ―トップの非を諌める役割から、トップの
楯となって泥をかぶるまでのいわば忠臣的役割―」も同時にこなしているこ
と、しかも、(c)「それらの行為の多くは周囲のだれもがそれを気づかない状況
のなかで」なされていることが付け加えられる( 同書,p.68)。補佐役は「縁の
下の力持ち」なのである。
4-3.補佐役のタイプと実務
前述のように、青野(1997)は、現在の日本型補佐役を 5 つのタイプに分類
している。それは、
「大番頭」
「ご意見番」
「女房役」
「トップの分身」
「懐刀」の
- 107 -
5 つで、それらが「番頭機能」を分担する形でトップを補佐している。しかも、
「彼らが果たしている役割は日本の企業社会ならではの特異なもので、欧米企
業の補佐役にはみられないものばかり」だと言う(青野,1997,p.81)。以下、青
野の記述に基づき、それぞれの特徴をまとめてみる【図表 4‐2】。
(1)補佐役の5つのタイプ
①大番頭
大番頭は、トップが一目も二目もおく、実力派補佐役の筆頭である。通常、
副会長や副社長などのポストにあって、会社の業務全体に睨みをきかせている。
大番頭の最大の任務は「トップの非を諌め、その独走・暴走を実力を持って阻
止すること」である。また、後継者の教育係の役割も果たす。大番頭は、
「人格、
識見ともにすぐれ、かつ実務家としても並はずれた力量の持主であること」が
求められる(同書,pp.70-71)。
②ご意見番
ご意見番は、実力派補佐役の二番手である。
「トップに真正面からモノ申すと
、、、
いう役割」で、
「常に先鋭的 な意見を吐くこと」に、ご意見番の、ご意見番たる
ところがある。
「ふつうトップと同期入社で、長年の友人であり、かつ副社長の
ポストにある人が自らすすんで、ご意見番の役を買って出るというケースが多
い」。会社の業務に精通しており、かつ人格高潔であり、
「トップのよき理解者」
であることが求められる(同書,p.73)。
③女房役
女房役は、
「ナンバー2 あるいはそれに準ずる地位にあって、会社業務の全般
にわたって目配りし、トップを補佐する人」である。その特徴は、あくまでも
「トップの忠実なる補佐役」ということである。トップのことを誰よりも理解、
熟知し、暗黙のうちにトップの考えを実践し、情報を集めトップに伝えて、ト
ップの判断を支援するのが女房役 なのである。そして、何よりも重要なのは、
「トップのビジョン、経営方針を正確に理解し、それに肉付けをして、実現化
への戦略を選択し、会社全体を機動的に動かすこと」で、女房役には、それら
- 108 -
を分担し遂行する「番頭機能」の要としての役割が期待される(同書,pp.75-76)。
④トップの分身(右腕型補佐役)
トップのそばにあって、業務全般を幅広く補佐すると同時に、特命を受けて、
ビジネスの第一線でトップの代行として活躍するのが、トップの分身である。
女房役と同様、「トップの忠実なる補佐役」である。「ふつう副社長あるいは専
務クラスの役員で、トップの信頼の厚い、いわゆるやり手の実務家が起用され
ることが多い」が、常に動き回ることが必要なため、体力面も重要な要件とな
る(同書,pp.77-78)。
【図表4-2】日本型補佐役の5つのタイプ
番頭機能
区分
5つのタイプ
大番頭
実力派補佐役
ご意見番
それぞれが、
番頭機能を
分担する形
女房役
でトップを補
佐
実務派補佐役
トップの分身
役割(特徴)
トップの非 を諌 め、その独 走 ・暴 走
を実力を持って阻止する
組 織 内で常に先 鋭 的な意 見を吐
き、トップに真正面からモノ申す
ト ップを 理 解 し 、そ の 判 断 を 助 け 、
執行において番頭機能の要となる
片腕として、最前線の現場に赴き、
陣頭指揮を執る
黒子として、水面下の案件を(暗黙
懐刀
に)処理する
(出所:青 野(1997,pp.70-81)に基づき、筆 者 作 成)
⑤懐刀(黒子型補佐役)
懐刀は、「黒子型補佐役」として、「ふつう外部にその存在を知られることな
く、あくまでも影の補佐役として活躍すること」に徹している。常務あるいは
専務クラスが起用されるが、「その役割の多くは水面下のもの」で、「補佐役の
なかでもいちばん神経をすり減らす非公式の仕事」を担っている。懐刀は実務
派補佐役のうち「もっとも苦労が多い役回り」であり、そのため若手役員の登
- 109 -
竜門とされている(同書,pp.79-80)。
(2)補佐役の5大実務
青野(1997)は、補佐役の 5 つのタイプを踏まえた上で、補佐役には、大き
く 5 つの実務があるとしている(青野,1997,pp.182-246)。以下に、補佐役の 5
大実務を紹介する。
①
大番頭、女房役として、トップが働きやすい環境づくりをする
②
女房役、右腕として、フロント・バンガード(前面防衛的処理)の要と
なる
③
トップの女房役として、トップの“心の調整”をする
④
トップの右腕、懐刀として、トラブルの処理に身を挺する
⑤
大番頭として、二代目(後継社長)の補佐をする
身を挺してトップに仕える、文字通り「補佐役」としての姿がイメージされる。
私心を捨て、黒子に徹してトップを守ろうとする日本型補佐役の番頭精神がそ
こにある。
5.組織体制と番頭型マネジャーとの関係
前節まで、一般的な「マネジャー」というものの捉え方と、歴史的に見た「番
頭」というものの捉え方を見てきた。本節以降、本研究で提唱する、中小企業
における「番頭型マネジャー」について見ていくこととする。詳細な議論は後
にすることになるので、この段階では「番頭型マネジャー」を「経営者に任さ
れて、あるいは経営者の代わりに、会社を取り仕切っている者(経営管理全般
を行っている者)」というように仮に定義付けをしておく。ここでは、番頭型マ
ネジャーと組織との関係を考察する中で、番頭型マネジャーというものを明ら
かにしていく。
(1)番頭型マネジャーの発生
まずは「番頭型マネジャー」の発生を、組織体制の変遷と絡めて見ていく。
ここでは、ポイントをわかりやすくするために、中小企業の創業者の一代記を
- 110 -
簡略化したモデルを使って考える。このモデルは、筆者がこれまで実際に関わ
ったいくつかの事例をモデル化したものである。
第 1 段階は、創業時である。創業当初は、従業員がいない場合も多く、創業
者(社長)が直接、顧客の対応をすることになる。社長が生み出した、その企
業の製品・サービスを顧客に提供するという単純なビジネスモデルであり、従
業員がいないため、マネジメントなどもほとんど必要がない段階である。
第 2 段階は、従業員を雇い、組織らしきものができる段階である。社長は、
現場の従業員たちに対して、自ら指揮命令を下し、企業にとって必要な生産や
販売を機能させることになる。少人数であっても、従業員がいるとそれに応じ
た管理が必要になり、会社としてマネジメントの第一歩を踏み出すことになる。
従業員たちにとって、社長は会社の経営者であり、上司でもあるが、自分たち
に必要な仕事やそのためのスキルを教えてくれる「現場の親方」といった意味
合いが強い。
第 3 段階は、現場の従業員を統率する、店長や工場長などのマネジャーが生
まれる段階である。そのマネジャーは、内部から昇進する場合もあれば、外部
から採用される場合もある。そのマネジャーに指揮命令を下すのは社長であり、
社長は、現場に直接関わる部分と、マネジャーを通じて関わる部分の両方を持
つようになる。従業員などに関する管理の一部は社長からマネジャーに任され
ることになる。
第 4 段階は、マネジャーの力が徐々に強くなり、現場の大半を任されるよう
になる段階である。社長はマネジャーをある程度信用し、現場を任せてしまう。
つまり、現場あるいは従業員に直接関与することがなくなり、もっぱらマネジ
ャーへの指揮命令だけになってしまう。社長は、その空いた分の時間を、増え
てきた従業員や顧客、資金などの管理的なマネジメントと、新製品開発や新規
出店など戦略的なマネジメントに費やすことになる。
第 5 段階は、社長(あるいは社長の心)が会社や事業から離れていく段階で
ある。何か病気や高齢によるものか、後継者への引き継ぎを 意識してのものか、
あるいは事業に対する情熱が失せたのか、理由はともかく、社長が心身ともに
一歩引いてしまう状態である。社長の仕事は、人事権と予算権の行使など必要
最低限のマネジメントか、技術研究など趣味的なものになってしまう。マネジ
- 111 -
ャーへの指揮命令をすることもなく、現場のすべてをマネジャーに任せてしま
うのである。このマネジャーこそ、本研究で提唱する「番頭型マネジャー」の
典型である。もちろん、番頭型マネジャーがすべてこのように発生するわけで
はないが、中小企業でよく見られるパターンの一つであることは間違いない。
結局のところ、事業の中核(現場)から、社長が心身ともに引いている状態 63の
中に、「番頭型マネジャー」が発生すると考えられる。
(2)「番頭モデル」の考察
前項で、番頭型マネジャーについて、その発生の一形態を通じて考察したが、
ここでは、組織体制と絡め、顧客との関係や情報のやりとりに注目して、番頭
型マネジャーの組織での位置付けを整理する【図表 4-3】。誰が、現場(組織
内部)への指揮命令と、顧客等(組織外部)の対応をしているかが大きなポイ
ントである 64。
①基本モデル
社長から現場に直接指揮命令が出ている組織体制である。前項で言うと「第
2 段階」に相当する。これを本章では、基本モデルとする。このモデルでは、
社長が顧客や取引先に直接対応しており、顧客や取引先からの情報は、社長の
指揮命令に含まれる形で、社長を通じて現場に届くことになる。
②番頭モデルⅠ(大番頭モデル)
社長から現場には直接指揮命令はなく、社長と現場の間にマネジャー、すな
わち「番頭型マネジャー」が介在するモデルである。社長からマネジャーへの
63
第 3 節の言葉を使って言い換えると、所有と経営が分離している状態、あるいはそれに近い状態。
① こ こ で 言 う「 現 場 」と は 、製 造 業 で あ れ ば 工 場 、小 売 業 な ど で あ れ ば 売 場 で あ る 。ま た 、
「顧客等」
とは、製造業であれば顧客や取引先、小売業などであれば取引先である。
② 本 章 は 、番 頭 型 マ ネ ジ ャ ー の 存 在 に ス ポ ッ ト を 当 て て い る た め 、番 頭 型 マ ネ ジ ャ ー を 中 心 に 、対 経
営 者 、 対 現 場 と い う よ う に 直 接 的 に そ の 関 係 を 表 し て い る 。 こ れ は、【 図 表 4-3】 や 【 図表 4- 5】 で
示 し た よ う に 、単 純 な 構 図 の 方 が 、モ デ ル 化 す る 際 に わ か り や す い こ と も あ る 。実 際 の 中 小 企 業 の 組 織
上 で は 、番 頭 型 マ ネ ジ ャ ー と 経 営 者 の 間 に 他 の 上 級 マ ネ ジ ャ ー( そ の 番 頭 型 マ ネ ジ ャ ー か ら す る と 、形
式 的 に は 上 司 に な る )が 配 置 さ れ て い る 場 合 も あ る が 、番 頭 型 マ ネ ジ ャ ー と 経 営 者 は 精 神 的 に 直 接 つな
が っ て お り 、そ の 主 従 関 係 は 強 固 な も の が あ る 。番 頭 型 マ ネ ジ ャ ー と 現 場 の 間 に 他 の( 下 級 )マ ネ ジ ャ
ー が 配 置 さ れ て い る 場 合 も 同 様 で 、番 頭 型 マ ネ ジ ャ ー と 現 場 は 精 神 的 に 直 接 つ な が っ て お り 、そ の 師弟
関 係 ( あ る い は 信 頼 関 係 ) は 強 固 で あ る 。 番 頭 型 マ ネ ジ ャ ー か ら す る と 、( 下 級 ) マ ネ ジ ャ ー も 含 め て
の「現場」である。
64
- 112 -
指揮命令もほとんどない。これは前項で言うと「第 5 段階」に相当する。この
番頭型マネジャーが顧客や取引先に対応し、それらに関する情報は、番頭型マ
ネジャーによってスクリーニングされ、必要な形に加工されて、社長および現
場に届けられる。
③番頭モデルⅡ(小番頭モデル)
前述の「番頭モデルⅠ」では、社長から現場への指揮命令はなかった。それ
に比べ、社長が現場に少し口出し(継続的ではなく、思い立ったような指揮命
令)するような組織体制がある。このような組織体制において、ラインではな
く、スタッフとして、現場と顧客等との間に立って、交通整理をする番頭的な
マネジャーがいる。ただし、前述の「番頭型マネジャー」が社長からすべてを
ほぼ一任されていることに比べ、この交通整理をするマネジャーは、社長から
若干の指示(思い立ったような指揮命令やいつもの口癖的な注意)を受けてい
ることが大きな違いである。そこで、この交通整理をする番頭型マネジャーを
「小番頭」と位置付け、この小番頭が存在するモデルを「小番頭モデル」と表
すこととする。これにより、前述のモデルは「大番頭モデル」ということにな
る。
- 113 -
【図表4-3】番頭モデル
大番頭モデル
トップ
基本モデル
トップ
指
揮
・
命
令
任
せ
る
顧客等
大番頭
情 報 のやり取 り
顧客等
指
揮
・
命
令
現 場
現 場
小番頭モデル
トップ
少
し
口
出
し
若 干 の指 示
現 場
小番頭
顧客等
調整
(出所:筆 者 作 成)
ここで、番頭型マネジャーの「現場レベル」での役割について、少し触れて
おく。番頭型マネジャーの役割は、①社長へのホウレンソウ(報告・連絡・相
談)、②現場への指揮命令、③顧客の要望への対応、④取引先との関係強化、の
大きく 4 つである。これらは、「内政:内部への叱咤激励」と「外交:外部と
の信頼構築」と置き換えることができる。これをラインの人間として、社長と
現場の間に立ち、社長から一任されて行っているのが、
「番頭型マネジャー(大
番頭)」である。製造業や加工業で言うと、工場長と営業部長を兼ねているよう
なイメージである。ただし、その度ごとに社長から細かい指示があるわけでは
なく、自立して動いている。その都度、社長に確認して、了承は取っており、
- 114 -
社長からの命令ではないが、トップダウンというのが建前である。また、ビジ
ョンや戦略についても、仮に実際に考えたのが番頭型マネジャーであっても、
あたかも社長からのトップダウンのように振舞うことにより、権威付けを図り、
自らを動きやすくする。
ただ、同じように内部と外部への対応をしていても、社長と現場の間に立つ
のではなく、スタッフとして、現場と顧客等との間に立ち、内部の状況と外部
の要望をそれぞれ把握した上で、柔軟に判断し、双方を調整するマネジャーが
存在する。それが「番頭型マネジャー」の中でも、
「小番頭」である。この小番
頭は、社長から若干の指示を受ける場合もあるが、何も言われずとも、社長の
意図を汲み取って動いているのが実情である。小番頭は「業務課長 65 」といっ
た肩書きを持つ場合が散見される。
詳細は後述するが、大番頭にしても小番頭にしても、番頭である以上、
「番頭
精神 66 」を持って組織に臨んでいることは確かであり、社長から、現場から、
顧客から、取引先から頼りにされる存在である。
6.中小企業の事例で見る「番頭型マネジャー」
実際の中小企業では、どういった「番頭型マネジャー」が活躍しているのか
を見ていく。ここでは、いくつか事例を見ながら、実在する「番頭型マネジャ
ー」にスポットを当て、その実態を明らかにする。
なお、以下の事例における各社の「基本データ」の業種、従業員数(パート
含む)、業歴の区分は次の通りである。
業種:①小売業、②製造業、③加工業 67
従業員数:①10 人まで、②11~20 人まで、③21~30 人まで、④31~50 人
まで、⑤51~100 人まで
65
業務課長:中小企業などで、営業事務や工程管理、総務の仕事などを総合的に行う管理者で、内外
の 調 整 役 で あ る 。押 し も 引 き も 必 要 な 立 場 で あ り 、強 引 な 、ビ ジ ネ ス ラ イ ク な 部 分 と 人 間 く さ い 部 分 を
持 ち 合 わ せ て い る 。「 業 務 課 長 が し っ か り し て い る 会 社 は 、 仕 事 が 回 る 」 と い う の が 筆 者 の 経 験 則 で あ
り 、そ も そ も「 業 務 課 長 と は 何 か 」と い う の が 、こ の 番 頭 型 マ ネ ジ ャ ー を 研 究 す る き っ か け の ひ と つ に
なっている。
66 番 頭 が 本 来 持 つ 「 会 社 の た め に 、 主 家 の 存 続 の た め に 、 自 己 を 犠 牲 に し 、 決 し て 目 立 た ず 、 静 か に
務め上げる」という精神を言う。
67 本 研 究 で は 、 製 造 業 の う ち 下 請 的 な 加 工 を 営 む 形 態 を 指 す 。
- 115 -
業歴:①10 年まで、②11~20 年まで、③21~30 年まで、④31~50 年まで、
⑤51~100 年まで
6-1.事例Ⅰ:大番頭モデル
「番頭型マネジャー」は「大番頭」と「小番頭」に分けられるが、まずは「大
番頭モデル」の事例からである。
(1)A社の事例
A 社の基本データ…業種:③加工業、従業員数:③21~30 人まで、業歴:④
31~50 年まで
A 社の社長は 2 代目であるが、トップセールスや現場への入り込みなど、外
交的なことも内政的なことも一切しない。毎日終日、社長室(研究室)に篭っ
て技術研究をしている、典型的な研究者タイプの社長である。その社長に代わ
って、会社の一切を仕切っているのが、総務部長の a 氏である。a 氏は社長の
親族などではなく、内部昇格で総務部長になったのであるが、社長から全幅の
信頼を得ており、「大番頭」として会社の事業活動を差配している。営業関係、
生産関係、また人事や資金関係など内部のマネジメント 、すべてにおいて a 部
長が指示し、その指示に従って全従業員が動いている。a 部長は非常に言動に
迫力があり、従業員たちもまったく文句を言うことなく、またある意味「言え
ず」、黙々と働いている感がある。次期社長候補である社長の息子(専務)も、
すべて a 部長の指示で仕事をしており、a 部長が息子の教育係も務めている。
A 社の a 部長は、筆者の言う「番頭型マネジャー」(大番頭)の典型である。
(2)B社の事例
B 社の基本データ…業種:②製造業、従業員数:④31~50 人まで、業歴:③
21~30 年まで
B 社の社長は創業者であり、若い頃は生産現場で陣頭指揮をする一方、少し
は顧客とのやりとりなど外交的なこともしていた。ただ、もともと技術的なこ
とが好きで創業したのもあって、内部のマネジメントや特に外交的なことは嫌
いであり、そのため、娘が結婚してからは、その娘婿である b 氏に任せるよう
- 116 -
になっていった。b 氏は大学卒業後、他社で数年間営業担当者をしていたので
あるが、結婚を機に B 社に入社している。それもあって、営業関係で手腕を発
揮し、営業関係が苦手な社長を補い、社長から一目置かれるようになった。ま
た現場の出身ではないため、当初は生産関係には疎かったが、仕事の必要上、
生産にも携わるうちに徐々に現場を掌握し、生産関係も仕切るようになってい
った。形式的には社長に対して事前に了承を得ているが、実質的には「大番頭」
として会社全般について任されており、次期社長候補として精力的に動いてい
る。
(3)C社の事例
C 社の基本データ…業種:③加工業、従業員数:③21~30 人まで、業歴:③
21~30 年まで
C 社の社長は 2 代目である。若い頃から C 社で働き、先代(父親)の引退に
より後を継いだ。営業の陣頭指揮や生産現場に顔を出すといったことはせず、
基本的には何もしないオーナータイプの経営者である。ただ、業績には細かく、
数値データは非常に気にしている。そのため、具体的に何かを指示するわけで
はないが、なぜこんな成績なのかをそれぞれの責任者(マネジャー)に問い詰
めることが日常である。また、定例の会議などに出席はするが、終始聞いてい
るだけで、特に発言することはない。そんな社長と生産現場、営業部隊との間
に立って、全体をコントロールしているのが、専務と常務という、二人の「番
頭」である。専務と常務はそれぞれ違う事業部の責任者であり、二人の下には、
その補佐として営業部長と生産部長がいる。専務は社長の実弟であり、常務は
先代の頃からの古参社員である。現場の作業員から取締役にまでなった常務に
対する従業員の信頼は大変厚い。社長が駆け出しの頃、社長の教育係をしてい
たのも常務である。また、専務は出不精の社長をフォローすべく、顧客対応に
余念がない。専務と常務の二人で、一人の「大番頭役」を担っている のである。
(4)D社の事例
D 社の基本データ…業種:②製造業、従業員数:③21~30 人まで、業歴:③
21~30 年まで
- 117 -
D 社の社長は 2 代目であるが、創業者の娘と結婚して婿養子となったことも
あり、立場が非常に弱く、そのせいもあってまったく事業活動に関与しようと
しない。結婚するまでは、D 社で一般従業員として働いていた。経営に関する
ことは月 1 回の経営会議(経営者一族が出席するオーナー会議的なもの)で決
めるのであるが、顧問の会計士などが参加するこの会議は売上などを確認する
だけで、実質はまったく機能せず、業績は年々低下していった。そこで、外部
から登用されたのが、d 部長である。肩書きは生産部長であるが、生産管理だ
けでなく、営業などもすべて統括していた。d 部長は、以前は経営者として自
ら事業を行っていた経歴を持ち、すべてを卒無くこなせるオールラウンドプレ
ーヤーである。多くの従業員を雇用していたため、人の管理にも長けていた。
そんな d 部長は、社長に成り代わって積極的に社内改革を断行し、結果 D 社の
業績は回復基調になった。しかし、わずか 2 年で、d 部長を辞めさせてしまっ
たのである。原因は、社長が当初は、d 部長に対して絶大な信頼をおいていた
にもかかわらず、途中からあまり信頼することができなくなったためである。
d 部長は社長を前面に押し、常に社長を立てながらの社内改革であったが、改
革が進むにつれ、d 部長からの進言が徐々に面白くなくなったのである。また、
社員たちが自分よりも d 部長を慕いだしたことも拍車をかけたようである。せ
っかく手に入れた「大番頭」をみすみす失ってしまった事例と言える。
6-2.事例Ⅱ:小番頭モデル
続いて、「小番頭モデル」の事例を見ていくこととする。
(1)E社の事例
E 社の基本データ…業種:③加工業、従業員数:②11~20 人まで、業歴:⑤
51~100 年まで
E 社の社長は 2 代目であるが、ずっと現場一筋でやってきた職人気質のタイ
プである。現場の親方であるが、顧客対応や人事や財務などのマネジメントは
苦手である。また、社長同士の付き合いなどもほとんど行かない。そんな社長
の小番頭として活躍するのが、業務課長の e 氏である。e 氏は会計事務所の出
身であり、もともとは財務関係の仕事をしていたが、顧客先からの電話での問
- 118 -
い合わせに対応するうちに、顧客対応が仕事の中心になっていった。納期や価
格の交渉をする上で、顧客だけでなく、現場ともやり取りし、お互いの妥協点
を見出している。顧客対応するためには、現場の作業を知ることも必要であり、
また、現場の作業がわからないと現場との調整もできないため、空いている時
間を見つけては現場を手伝う日々である。そのため、顧客からも現場からも信
頼は厚い。口下手な社長が何も言わずとも、その意を汲んで、積極的に社長を
サポートする姿は、まさに「番頭型マネジャー」であり、
「小番頭」の典型とし
て活躍するのが e 氏である。
(2)C社の事例
C 社の基本データ…前掲
E 社の e 課長とほぼ同じような役割と立場で小番頭として活躍するのが、前
掲 C 社の業務課長の c 氏である。c 課長も顧客など取引先の情報と現場の生産
状況を把握し、これを調整して、全体を丸く収める交通整理の役割を担ってい
る。生産現場や営業部隊と血の通った調整をするために、自分は生産や営業で
はないがそれらの会議にも極力参加し、積極的にコミュニケーションを図って
いる。ただ、E 社との大きな違いは、前掲 C 社の事例で見たように、C 社には
専務と常務という二人の番頭がいることである。c 課長は情報を伝えるなど、
専務や常務とやりとりはしながらも、原則は社長の思い付きの指示を守りなが
ら、かつ何も言われずとも社長の意を汲んで、全体の調整を図っている。
(3)F社の事例
F 社の基本データ…業種:③加工業、従業員数:②11~20 人まで、業歴:④
31~50 年まで
F 社の社長は非常に外交的である。業界団体のパーティーや同業者の会合な
どには欠かさず出席する。また、積極的に顧客を接待し、自社との関係強化を
図っている。ただ、内政には非常に無頓着であり、継続的に注文さえあれば何
とか会社を維持できると考えている。そんな社長の代わりに生産現場をアシス
トしているのが、営業課長の f 氏である。営業課長という肩書きであるが、営
業はしておらず、いわゆる「営業事務」が主業務である。社長はトップ外交は
- 119 -
するものの、現場に何か指示や情報が下ろされるわけではなく、担当者同士の
やりとりの中で、f 課長が入手した情報によって、生産現場での調整がされる
ことになる。また逆に、生産などに関する情報を顧客先に提供することにより、
顧客の安心や信用を得ることができ、社長とはまた違った立場、やり方で、顧
客との関係強化を図っているのである。
(4)G社の事例
G 社の基本データ…業種:①小売業、従業員数:④31~50 人まで、業歴:②
11~20 年まで
G 社の社長は、現場を熟知しておらず、また販売に関するスキルやノウハウ
も持っていない。常に現場に指揮命令を下しているわけではないが、思い立っ
たときに店長に、あるいは店長と各売場の責任者を集めて、指示をしているよ
うな状態である。また、指示は曖昧であることが多く、現場は戸惑うこともし
ばしばである。そんな社長の意を汲んで、社長をサポートし、現場の調整役を
しているのが、総務の g 課長である。g 課長の現在の業務は総務関係であるが、
もともと販売員として入社し、キャリアを積んだため、販売スキルは高いもの
を持っている。それもあって、売場が混雑していると売場に入って販売を手伝
ったり、店長や売場責任者の代わりに従業員をフォローしたり、店長たちの相
談相手になったりしている。また、仕入先や納品業者とやり取りしながら、新
商品や売れ筋の情報、ライバル店の情報などを収集し、現場に届ける役割を担
っている。さらには、出不精の社長に代わって、業界の会合なども出席し、同
業他社との良好な関係構築にも貢献しているのである。
6-3.事例の整理
前節までの事例に登場した「番頭型マネジャー」(二つに分けるのであれば、
「大番頭」と「小番頭」)を整理する【図表 4-4】。整理に用いるのは、ミンツ
バーグ(1973)の「マネジャーの 10 の役割」と、青野(1997)の「補佐役の
5 つのタイプ」である。すべてのマネジャーには個性があり、また、その時々
に応じてさまざまな仕事をこなしているため、完全に当てはめることは難しい
が、これまでの観察や聞き取り調査、本人との面接などから得られた結果を踏
- 120 -
まえ、それぞれの特徴を明らかにする。
事例の「番頭型マネジャー」は、一般的なマネジャーや伝統的な番頭の系譜
である補佐役とはどう違うのであろうか。共通点を見出すとともに、次節で触
れるが、それらにない要素にこそ「番頭型マネジャー」の特徴があることにも
留意する必要がある。
【図表4-4】事例の「番頭型マネジャー」の特徴
補佐役の5つの
マネジャーの10の役割
対人関係
情報処理
タイプ
意思決定
実力
派
実務派
事例企業
フ
ィ
ギ
ュ
ア
ヘ
ッ
ド
A社
a 部長
● ● ●
△
( B社
大
)
番 C社
頭
b 常務
● ● ●
● △ ● ● ●
D社
d 部長
△
E社
e 課長
△
● △
△
小 C社
番
頭 F社
c 課長
△
● ●
△
f 課長
△
△ ●
△
G社
g 課長
△
● ● △
専務
リ
エ
ゾ
ン
● ●
常務
リ
ー
ダ
ー
モ
ニ
タ
ー
周
知
伝
達
役
ス
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障 資
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ご
ッ
ー 企 害 源 交 大 意 女 プ 懐
ク 業 処 配 渉 番 見 房 の 刀
ス 家 理 分 者 頭 番 役 分
マ
者 者
身
ン
● ● ●
△ ● ● △
●
●
●
△ ●
●
● △
△ ● ● ● ● ● △ △
△
●
●
△
△
●:強 く当てはまるもの △:強くはないが、当てはまるもの
(出所:筆 者 作 成)
図表 4-4 のように比較すると、A 社の a 部長と、B 社の b 常務は、同じよ
うなタイプの番頭(大番頭)であることがわかる。二人とも対人関係や意思決
- 121 -
定の役割については精力的にやっているが、情報処理の役割はあまりやってい
ない。逆に、D 社の d 部長は情報処理の役割は果たしているが、対人関係の役
割はほとんどやっていない。これは、外部から招聘された番頭であるため、対
人関係については一歩引いているためだと考えられる。さらに、
「企業家」とし
て機能しているのは、d 部長だけである。これは、d 部長が外部からの息吹を
吹き込みやすいことに比べ、親族や子飼いの番頭は自分たちがこれまでやって
きたことを否定しにくいため、経営革新ができにくいと考えられる。 また、C
社は専務と常務で補完しながら大番頭として機能していることがこの表からも
わかる。
一方、大番頭を補佐役のタイプで見ると、マネジャーの 10 の役割で似たよ
うな動きをしていた a 部長と b 常務はタイプが違うことがわかる。a 部長の存
在はまさに「大番頭」であるのに対し、b 常務はまだまだ「トップの分身」で
ある。C 社の専務も「トップの分身」であることを考えると、社長の身内( b
常務は娘婿、専務は弟)で社長より年下でキャリアも浅い者は、
「 トップの分身」
として登用されやすいことが推察される。C 社の常務は、かつては社長の教育
係であったが、社長に物申す「ご意見番」ではなく、どちらかと言うと、あま
り表に出ない「懐刀」としての働きをしている。d 部長は、
「ご意見番」である
が、ただ、社長から煙たがられてしまい、結果的に会社を追われたのは前述の
通りである。
小番頭の方は「リエゾン」、すなわち連結の役割を果たしていることが わかる。
ただ、大番頭のように、外部に独自のネットワークを築いたりするところまで
は難しい。また、顧客や取引先の情報を収集し、現場へ伝えるのが小番頭の仕
事の一つであるため、
「モニター」や「周知伝達役」として情報処理に貢献して
いるが、あくまでも黒子的存在(縁の下の力持ち)であるため、
「スポークスマ
ン」としては機能していない。なお、G 社の g 課長は、小番頭の中では、かな
り大番頭に近い存在であることもわかる。
一方、補佐役のタイプで見ると、まだまだ立場的にも完全ではないものの、
「女房役」としての動きをしていることがわかる。主に情報処理の面から、ト
ップの補佐をしているのである。また、g 課長は「懐刀」的な動きもしており、
- 122 -
ここからも小番頭の中では、かなり大番頭に近い存在であることがわかる。
中小企業の「番頭型マネジャー」のうち、
「大番頭」は、マネジャーとして見
た場合、主に「対人関係」と「意思決定」の役割を担っている。ただし、
「企業
家」的な発想は持ち合わせていない。どちらかと言うと、保守的である。また、
補佐役として見た場合、そのタイプはさまざまである。
一方、
「小番頭」は、マネジャーとして見た場合、対人関係のうち「リエゾン」、
情報処理のうち「モニター」と「周知伝達役」の役割を担っている。外部との
やりとりを通じて、情報収集を行い、それを組織に周知させていくのである。
それらの役割は、補佐役として見た場合、「女房役」に近い働きである。
全体を見ると、大番頭と小番頭は互いに補完し合い、機能していることがわ
かる。たとえば、大番頭は、「情報処理」については、あまり得意ではないが、
小番頭がやらない「スポークスマン」としての役割は果たしている。現実的に
は少ないであろうが、組織の中に大番頭と小番頭の両方が存在する会社が理想
なのである。
7.「現代版番頭」についての議論
本章では、前半で一般的な「マネジャー」や「番頭」に関する先行研究を確
認し、そのイメージ、すなわちマネジャー像や番頭像を明らかにした。後半は
「番頭型マネジャー」のモデルや事例を検証しながら、そのイメージを明らか
にしてきた。最後にそれらを踏まえ、「現代版番頭」を定義付けするとともに、
その特徴を整理し、中小企業において現代版番頭が生きる意義を考察する。本
章の目的である「番頭型マネジャー(現代版番頭)」の実態を明らかにし、その
概念を確立させる。
7-1.「現代版番頭」の正体
前節では、ミンツバーグの「マネジャーの 10 の役割」と、青野の「補佐役
の 5 つのタイプ」を使って、現代版番頭(番頭型マネジャー)の検証を行った
が、そこでの比較検討は、あくまでも「役割」に注目したものである。大まか
- 123 -
に言えば、仮の定義付けを行った通り「経営者に任されて、会社を取り仕切っ
ている者」というだけである。しかし実際は、単なる「役割」を超えた「何か」
が番頭型マネジャーにはあると考えられる。その「何か」を明らかにするため
に、前節でみた事例に登場する 9 人の番頭型マネジャー、特に「大番頭」の 5
人に共通するものは何なのかを考察する 68。
番頭型マネジャーも、マネジャーの一形態であることには変わりない。役割
で言うと、その詳細は、前節の検証の通りである。ただ、番頭というだけあっ
て、
「補佐役」としての色合いの濃いマネジャーということができる。では、番
頭型マネジャーは、単なる「補佐役的マネジャー」という解釈でいいのであろ
うか。事例の番頭型マネジャーたちに実際に話を聞いたり、間近で観察したり
してきた中で明らかなのは、やはり「番頭精神」である。会社のために、主家
の存続のために、自分を犠牲にし、決して目立たず、静かに務め上げるという
「番頭精神」の有無が番頭型マネジャーかどうかの基準となる。
マネジャーは文字通り、管理する人であり、経営者の代わりに、あるいは経
営者の指揮命令に従って、部下などの経営資源を管理する人である。第 2 章で
も触れたが、筆者の観察では、現場の一般的なマネジャーには、
「管理させられ
る」という思いが強いように思われる。
「経営者の命令」によって管理させられ
ているのである。現場に直接出てこない経営者に代わって、その意思を代行さ
せられている感が強い。一方、番頭型マネジャーは、経営者を助勢する人であ
り、その目は経営者に向いているのが特徴である。一般的なマネジャーのよう
に、管理をさせられているのではなく、自ら管理をしているのであり、それは
経営者のための積極的な管理と言えるであろう。それは、経営者の思いを酌む
ことによって生じる行動であり、
「預りの精神」に基づく忠誠心がそこには働い
ているのである。
加えて、中小企業の現場において大事なことは、現場から一目置かれる存在
かどうかである。事例の番頭型マネジャーたちは、間違いなく現場から一目置
68
以降、番頭型マネジャーのオリジナルである「大番頭型マネジャー」を前提に議論を進める。 ただ
し 、「 小 番 頭 型 マ ネ ジ ャ ー 」 も 役 割 や 組 織 内 で の 立 ち 位 置 は 若 干 違 う が 、 そ の 本 質 は 同 じ で あ る た め 、
以降の議論は小番頭型マネジャーにも有効である。
- 124 -
かれている。経営者から信頼され、任されるだけでなく、現場から親方として、
師匠として尊敬されているかどうかである。現場からすると、単なるマネジャ
ーや上司として指示されるのではなく、自分たちの親方から指示を受けるのは
まったく違うのである。親方は自分たちに仕事を教えてくれる師匠でもあり、
尊敬とある種の畏怖の念が入り混じった存在である。
すなわち、商家で受け継がれてきたような伝統的な「番頭制度」と、依頼主
(この場合は経営者)からの依頼(業務)を全うするために職人集団を率いる
「親方制度」が相まったものが中小企業における「番頭型マネジャー」であり、
それを他のマネジャーと区別するのは、
「番頭精神」と「親方精神(親方気質)」
の有無なのである。
この経営者と番頭、親方との関係をイメージ化すると、図表 4-5 のように
なる。
「番頭」は、経営者からの委任を受け、経営者の意図を現場に伝え る役割
を担っており、一方「親方」は、現場を束ねることを請負い、経営者の要求に
応える役割を担っている。この番頭と親方の 2 つの役割を担うのが番頭型マネ
ジャーであり、表面的には、経営者とは委任的かつ請負的関係で結ばれている
と言える 69。
【図表4-5】経営者と番頭、親方の関係
経営者
経営者
委任
番 頭
請負
番頭型マネジャー
経 営 者の意 図を
現 場に伝える
親 方
現 場を束ね、
経 営 者に応える
現 場
現 場
(出所:筆 者 作 成)
69
番頭型マネジャーは、経営者からすると信頼できる番頭、現場からすると尊敬できる親方であり、
視点によって 2 つの立場を持ち合わせている存在である。番頭として経営者を背負い、同時に、親方
として現場を抱きかかえるのが番頭型マネジャーの姿である。
- 125 -
ここで改めて、番頭型マネジャーを定義付けすると、
「会社(主家)の存続の
ために、経営者を補佐し、あるいは経営者に代わって、会社を取り仕切る、
“番
頭精神”と“親方気質”を持ったマネジャー」ということになる 70 。その背景
には、中小企業に特有の家族主義、家への忠誠、そして「和」の精神がある。
また、実際は、外部との関係構築の役割を担っており、表面的な動きだけで
なく、水面下で根回し的な動きをするのも番頭型マネジャーの役割である。そ
の分、外部からの信頼も厚く、ビジネス的なその場限りの損得でなく、長期的
なつながりを視野に入れた、人間関係によって話ができるところにその特徴が
ある。
さらに、役割という点では、一般的なマネジャーの場合は「部下の育成」と
いう役割があるが、番頭型マネジャーの場合は「経営者の教育」という大きな
役割がある。これは、すでにトップに立った現役の経営者だけでなく、次期経
営者、すなわち、経営者の子息たちに対する教育であり、番頭型マネジャーの
最大の役割とも言えるものである。実際、A 社の a 部長や C 社の常務などは、
次期経営者の教育を行っている。具体的には、先代の考え方や経営者としての
あり方、現場の状況、部下のまとめ方、取引先の情報といったものをレクチャ
ーしたり、取引先に同行して、人間関係を学ばせたりである。特に、経営者や
後継者の集まり、同業者の会合などに顔を出すといった人脈づくりについては、
力を入れていたことを筆者は観察などにより確認している。また、道半ばに終
わってしまったが、D 社の d 部長も、経営者としての意識改革を促すため、あ
れこれ手を尽くしていたのも事実である。そういった経営者を育てるという機
能を有しているところからも、経営者と番頭型マネジャーは、通常の経営者と
マネジャーの関係を超えた、濃密な関係を構築していると考えられる。
経営者からの情愛(信愛)、部下からの尊敬、取引先からの信頼によって、番
頭型マネジャーは成り立っているのである。
70
あ え て「 小 番 頭 型 マ ネ ジ ャ ー 」を 定 義 付 け る な ら ば 、
「 会 社 を 取 り 仕 切 る 」と い う 文 言 が「 現 場 を 調
整する」になる。
- 126 -
7-2.さまざまな角度からの検討
本章で見てきた現代版番頭(番頭型マネジャー)が、組織内での立場や位置
付けを表す他の概念とどう違うかを検討する。まず、
「マネジャー」という概念
については、本章ではドラッカー(1954)やマグレガー(1967)、ミンツバー
グ(1973)の考え方をすでに確認した通りである。
ただ、同じ「マネジャー」でも、特定の視点から何らかのテーマを持たせた
マ ネ ジ ャ ー の 概 念 も あ る 。 た と え ば 、 デ ィ ー ル & ケ ネ デ ィ ( T.E.Deal and
A.A.Kennedy,1982)の言う「シンボリック・マネジャー(象徴的管理者)」な
どはその典型である。シンボリック・マネジャーとは、文化を維持し、形成す
るマネジャーで、
「多くの時間を、文化の価値理念、英雄、それに儀式について
考えることに費やす」、「自分たちの主要任務は状況の変化から生じる価値理念
の衝突を管理す るこ とであると自認 して いる」マネジャ ーで ある( Deal and
Kennedy,1982,邦訳,p.193)。そして、その概念は、科学的で効率的な管理を行
う「合理的管理者」と対比されて語られている( 同書,pp.195-199)。シンボリ
ック・マネジャーが「文化」を体現させるマネジャーだとすると、番頭型マネ
ジャーにもそういった側面があることは否めないであろう。ただ、シンボリッ
ク・マネジャーにとって、
「文化」はあくまでも組織をマネジメントするための
ツールであるが、番頭型マネジャーが死守しようとする先祖からの伝統的な組
織文化は、会社(主家)の中核を維持し、会社(主家)を会社(主家)らしく
存続させるための DNA の一部であるということが大きく異なっている。
また、コッター(1999)は、「有能なマネジャー」という視点から論じてい
る。まず、「マネジャーの仕事には依存関係がある」(Kotter,1999,邦訳,p.83)
ことを指摘した上で、有能なマネジャーはその依存関係にうまく対応するため
に、「四種類のパワーを生み出すか、強化するか、維持している」とする( 同
書,p.91)。その四種類のパワーとは、①恩義を感じさせる、②経験や知識に対
する信頼、③マネジャーとの一体感、④マネジャーに依存していることを自覚
させる、である(同書,pp.91-98)。一見すると、この四種類のパワーは番頭型
マネジャーにも共通するような内容だが、その根本はまったく違う。それは、
主体性の違いである。有能なマネジャーは確かに、「周りに(何かを)させる」
と、自分から積極的に働き掛けるスタンスである。それに対して、番頭型マネ
- 127 -
ジャーは、結果としてそうなっているかもしれないが、決して積極的な働き掛
けをするのではなく、周りが自然とそうなるように仕向けているところに、黒
子としての奥ゆかしさがある。マネジャーが周りに「恩義を感じさせる」ので
はなく、周りがマネジャーに「恩義を感じる」のである。
マネジャーとは、また違った捉え方の一つに「中核人材」という概念がある。
本研究のベースが中小企 業ということで 言うなら 、たとえば 、『中小企業白書
(2007 年版)』に、中小企業における「中核人材(キーパーソン)」が定義付け
されている。それによると、中核人材とは、
「 企業において役職などに関わらず、
企業競争上、他社との差別化を図る上でも不可欠となるコアとなる業務を担う、
他の社員・職員では代替の効かない人物で、原則、代表者以外の者」 である。
「他の者では代替の効かない人物」という点で言うと、番頭型マネジャーは間
違いなくそういった存在である。ただ、「コアとなる業務を担う」という点で、
中核人材は、営業や生産の現場のプレーヤーで、その中でも「中心選手」であ
り、番頭型マネジャーは、その中心選手と師弟関係にある「現場の親方」であ
ると位置付けられる。
それでは、組織を論ずる中でよく用いられる「リーダー」という視点から見
ると、番頭型マネジャーはどういった存在なのであろうか。たとえば、コッタ
ー(1999)は、マネジメントとリーダーシップは違うと説く。「複雑な環境に
うまく対処するのが、マネジメントの役割」であり、
「リーダーシップとは、変
革を成し遂げる力量を指す」としている(Kotter,1999,邦訳,p.49)。そして、
「マ
ネジメントとリーダーシップにはともに、①課題の特定、②課題達成を可能に
する人的ネットワークの構築、③実際の課題を達成させる、という共通する三
つの仕事があるのだが、そのために用いる具体的手法にこそ、両者の違いがあ
る」とし、その共通点と違いを明らかにしてい る(同書,pp.50-52)。マネジメ
ントで用いる手法は、
「計画と予算の策定」、
「組織編成と人員配置」、
「コントロ
ールと問題解決」であり、それに対し、リーダーシップで用いる手法は、
「針路
の設定」、「人心の統合」、「動機づけ」であるとしている (同書,pp.52-63)。そ
ういった用いる「手法」という視点から考えると、確かに番頭型マネジャーは、
マネジメントをしているというより、リーダーシップを発揮していると言った
方がわかりやすいかもしれない。ただ、裏方であり、黒子に徹する番頭型マネ
- 128 -
ジャーは、「針路の設定」、すなわち、将来に向けたビジョンを策定し、それを
自分で掲げるようなことはあまりしていないと判断される。リーダーシップが
変革をなすためのものだとすると、番頭型マネジャーは保守を得意とする側面
があるのは否めないであろう。実際、第 6 節第 3 項で見たように、ミンツバー
グの言う「企業家」の要素を持った番頭型マネジャーが少ないのもそれを裏付
けている。
第 6 節に登場した事例各社の番頭型マネジャ ーたちに対して、面談や観察な
どを通して、筆者が共通して持っているイメージがいくつかある。
①
義理・人情に厚い
②
「お互い様の精神」を持っている
③
根回しがうまい
④
直観が鋭い
⑤
決断力がある
このようなイメージから、人間的な魅力に溢れた番頭型マネジャーの姿が見え
てくる。また、④の「直観が鋭い」については、それだけの経験を積んできた
ということが背景にあるように思われる。それは、言い換えると「判断力」と
も言えるもので、⑤の「決断力」に通ずるものである。
マグレガー(1967)は言う。「マネジメントは科学になりつつあるのか。将
来の管理者は自ら科学者でなければならないのか。直観、判断力、常識、豊か
な経験というものが、効果的なマネジメントを行うための基盤をいつまで提供
してくれるだろうか。あるいは、これらの重要な資格要件は、コンピュータの
大きな能力に助けられた科学的・技術的知識の前に、価値を失ってしまうので
あろうか」と(McGregor,1967,邦訳,p.75)。このマグレガーが指摘した、科学
的なマネジメントと対極にある「直観、判断力、常識、豊かな経験」が、筆者
の言う前述①~⑤の「番頭型マネジャー像」と重なるところに注目している。
7-3.中小企業に生きる「現代版番頭」の考察
本章の最後に、これまで見てきた「現代版番頭」についてまとめながら、そ
の存在の意義について、考察を進めていく。前々節で明らかにしたように、筆
- 129 -
者の考える現代版番頭(番頭型マネジャー)の定義は、
「会社(主家)の存続の
ために、経営者を補佐し、あるいは経営者に代わって、会社を取り仕切る、
“番
頭精神”と“親方気質”を持ったマネジャー」である。
その最大の特徴は、番頭精神としての「会社への忠誠心」である。
「経営者へ
の忠誠心」でなく、
「会社への」というところが 重要である。会社は「預りもの」
であるという考えの下、経営のバトンを繋いでいくことにその使命を見出して
いる。そのため、後継者の教育係としての役割も大きい。そして、そのスタン
スは、決して自分が目立つことなく黒子に徹し、トップも含めた会社の楯とな
るというものである。
また、中小企業に生きる現代版番頭は、
「番頭精神」だけでなく、
「親方気質」
も合わせ持っている。工場では作業者、店舗では販売員といった現場の職人た
ちを束ね、教育を施し、経営者のニーズに応えるのである。現場からすると、
マネジャーというよりも、優しい先輩であり、厳しき師匠である。その現場の
生え抜きであることも多く、技術的にもノウハウ的にも誰からも一目置かれる
存在と言える。その現場の心意気を体現しているのである。
一般的なマネジャーが自部門の「部下」に対する働き掛けをしているとする
ならば、番頭型マネジャーは、それに加え、
「経営者」、
「後継者」、
「会社(主家
および代々の当主)」に対する働き掛けも行っている。また、取引先に対しても、
ビジネスを超えた人間的な関係構築を図っている。それは、対顧客、たとえば
「顧客の○○株式会社」
「取引先の□□株式会社」といった会社としての関係づ
くりではなく、「○○株式会社の営業担当の x 氏」や「□□株式会社の総務部
長の y 氏」といった、対人間としての関係構築である。番頭型マネジャーの持
つ強烈な個性、人間としての魅力が、会社という枠を超えたヒューマンな関係
構築を結び付けるのである。
経営者にとっては、おじであり、兄または弟のような存在、従業員からする
と親のような存在、取引先の担当者からすると親友のような存在、それが現代
版番頭なのである。
本章で見てきた「現代版番頭」は、中小企業にだけ存在するのではない。し
かし、中小企業にこそ、現代版番頭が生きる環境がより整っていると言える。
- 130 -
その中小企業ならではの背景は、第 3 節で触れた。従って、ここでは、特に経
営者に絞って議論する。
第 1 章で確認したように、中小企業の経営者には、さまざまなタイプがあり、
全員が全員積極的に会社経営をしているわけではない。たとえば、2 代目や 3
代目の経営者の中には、そもそも家業や会社経営に興味のない人も多い。また、
経営の各機能の中でも、自分の興味のあることや好きなことだけやる、逆に、
自分の苦手なことはしない、といった経営者もかなり見受けられる。また、管
理についてもさまざまで、自らきちんと管理しないと気のすまない経営者もい
れば、放任主義というか、管理に無頓着な経営者もいる。そういったさまざま
な経営者を陰になり、日向になり支えるのが現代版番頭である。これまで述べ
てきたように、そこには、主従関係を超えた信頼関係があるのである。先代や
先々代に育てられ、逆に、自分が今の経営者がまだ子供の頃から教育係を務め、
一緒に寄り添ってやってきたという深い情愛である。そしてまた、次の後継者
を育てるのである。
中小企業は、良い意味でも、悪い意味でも、オーナーによる一族経営が主流
である。それは、ときには、経営の舵取りを曖昧にさせる弱みにもなるが、オ
ーナーの家族主義によって、一致団結した堅固な組織が構築できるという強み
にもなる。経営者を支えることによってその弱みを解消し、自らが組織の中核
となることによりその強みを強化するのが、現在版番頭の役割なのである。中
小企業のフィールドにこそ、その存在意義があり、光輝くのが現代版番頭だと
言える。
ただ、良いことばかりでなく、大きな課題があるもの事実である。一つは、
現代版番頭の力が強くなり過ぎると、組織のバランスがいびつになるというこ
とである。これは、現代版番頭に限ったことではないが、度が過ぎてしまうと、
経営者の存在がないがしろになり、また誤った判断をしても誰も止める者がい
ないという状態になってしまい、組織が暴走してしまうおそれがある。
もう一つは、現代版番頭を育てるのは大変難しいということである。現代版
番頭は確かに中小企業に多いのだが、かと言って、すべての中小企業に存在し
ているわけではない。それどころか、これまでのフィールドワークから明らか
- 131 -
なことは、現代版番頭がいる中小企業は稀有だということである。そのことが、
現代版番頭を育てることの難しさを物語っている。一般社員の育成に比べて、
マネジャーの育成は困難である旨がよく言われる。ましてや、番頭精神と親方
気質を持ったマネジャーを育成するとなると至難の業である。そもそも現代版
番頭を育てることができるくらいの経営的能力のある経営者がいるような会社
であれば、現代版番頭は必要ないということになる。そういった意味で、現代
版番頭は、狙って育てられる者ではなく、当人が元来持っている個性に加え、
さまざまな環境、条件が重なる中で、偶然の産物として生まれるものかもしれ
ない。所有と経営の分離の状態をはじめとして、どういった環境、条件が整え
ば、現代版番頭が生まれてくるのか、あるいは育つのか、その詳しいメカニズ
ムは、また稿を改めて検証を図る。
【図表4-6】「現代版番頭」の体系図
会社(主家)
先 祖
経営者
後継者
取引先
担当者等
情
愛
信
頼
親交
忠
誠
現代版番頭
鍛
錬
尊
敬
現 場
従業員
(出所:筆 者 作 成)
- 132 -
取引先
親交
担当者等
いずれにしても、中小企業の現場になくてはならない存在、もっと言うと、
必ずいて欲しい存在が「現代版番頭」である。それは、現役の経営者だけでな
く、その先代や後継者の、従業員の、取引先の切なる願いである。
現代版番頭は、①会社への忠誠と会社からの信頼、②経営者との情愛(信愛)、
③部下への鍛錬と部下からの尊敬、④取引先との親交、によって成り立ってい
る【図表 4-6】。これから経営環境が厳しくなる中、中小企業のマネジメント
を支える一翼である現代版番頭の存在はもっともっとクローズアップされるも
のと考えられる。中小企業のマネジメント、特に「アナザーマネジメント」を
力強くかつ確実に動かしているのは、紛れもなく現代版番頭(番頭型マネジャ
ー)なのである。
- 133 -
第5章
PDCA サイクル
前章の番頭型マネジャー(現代版番頭)に続き、本章では PDCA サイクルを
考察する。ここでもマネジメントとの関連だけでなく、PDCA サイクルの存在
そのものを一から検証し、その全容と本質の明確化を図る。
これまでも述べてきたように、中小企業のマネジメント のツールの一つとし
て、仕組みとしての PDCA サイクルがある。この PDCA サイクルは、確かに
企業活動の基本であり、実際、多くの企業で日常的に行われている。ただ、そ
の回し方は企業によって千差万別であり、企業の数だけ PDCA サイクルが存在
すると言ってもよい。それぞれの企業が独自の PDCA サイクルを持っており、
特徴的なマネジメントを行っている。中小企業には、大企業とはまた違った、
ユニークで、個性的な PDCA サイクルがある。大企業の PDCA サイクルが会
社全体の組織的な仕組みとして機能するものだとすると、中小企業の PDCA サ
イクルは、会社全体ではなく部分ごとで機能する仕組みであり、それが現場で
はさらに個人的な側面の強い仕組みになっている。
本章では、そういった中小企業の現場での PDCA サイクルの実態を明らかに
するとともに、そのモデル化を図り、代表的なパターンをわかりやすい形で提
示する。そして、それらを踏まえて、PDCA サイクルの視点から、中小企業の
マネジメントの特徴と課題を明らかにしていく。中小企業の現場に相応しい
PDCA サイクルの回し方を考察する。
1.「PDCA サイクル」とは
PDCA は、Plan→Do→Check→Action の略であり、実行の前にあらかじめ「計
画」し、
「実行」した後にその出来を「評価」し、その評価に基づいて必要な「改
善」を図るという管理の仕組みを言う。PDCA サイクルという言葉からもわか
るように、サイクルとして環状的に、継続的に回すところに特徴がある。本節
では、まずその PDCA サイクルのこれまでの流れと、今日での使われ方を確認
する。
- 134 -
(1)PDCA サイクルの流れ
「科学的管理法の父」と呼ばれるテイラーは、その著『工場管理法』
(1903)
の中で、工場の管理は「計画部」がすべきとし、
「計画→実行」という基本概念
を確認した上で、その計画部の機能として、分析、
(時間)研究などを行い、標
準をつくって管理することの必要性を述べている。テイラーのそういった生産
現場での作業管理の理論に対して、組織全体としての管理についての理論を展
開したのが、管理過程学派の始祖であるファヨールである。第 2 章でも触れた
が、ファヨールは、その著『産業ならびに一般の管理』(1916)の中で、企業
の活動を技術的活動、商業的活動、財務的活動、保全的活動、会計的活動、管
理的活動の 6 つに分類した上で、特に管理的活動の重要性に着目し、「管理」
を「予測、組織、命令、調整、統制」の 5 つの要素(プロセス)からなると定
義付けた。
このような古典的な管理の理論を前提に、統計的管理の概念を構築したのが
シューハート(Walter Andrew Shewhart)である。石川(1984)らによると、
シューハートは、1920 年代~30 年代にかけて、「管理図」の基本を生み出し、
統計的管理の考え方を製造工程に持ち込み、統計的品質管理を行うことを提唱
した。このシューハートとともに、その考え方をさらに発展させたのがデミン
グ(William Edwards Deming)である。デミングは、シューハートの統計的
品質管理に影響を受け、それを応用して工業生産の効率化を図ることに尽力を
注いだ。そして、1950 年、日本で統計的管理と品質の講演を行い、その重要性
を経営者に説いた。その際、我が国に持ち込まれたのが「デミング・サイクル」
と言われる品質管理の概念であり、これが今日の PDCA サイクルの考え方のベ
ースになっている。1980 年代になって、デミングは、評価をより詳しく行うと
いうニュアンスから、Check ではなく Study とした「PDSA」という考え方を
用いるようになっている 71。
71
デ ミ ン グ( 1994)で は、
「 製 品 や 工 程 を 検 討 し 改 善 す る た め の フ ロ ー ダ イ ヤ グ ラ ム 」と し て 、
「 PDSA
サ イ ク ル 」 が 紹 介 さ れ て い る 。「 S」 は 「 Study」 を 表 し 、 結 果 の 検 討 を 意 味 し て い る ( Deming,1994,
邦 訳 ,pp.150-151)。
- 135 -
(2)PDCA サイクルの今日的意義
前項のように、元々は工業生産の現場における品質管理のために発達した
PDCA サイクルであるが、今日ではさまざまな場面で PDCA サイクルが活用さ
れ、またそれを応用した考え方も多岐にわたって生み出されている。具体的な
いくつかの例を見ていく。
たとえば、国際標準化機構(ISO)が定めた品質マネジメントシステムの規
格である ISO9000 や、環境マネジメントシステムの規格である ISO14000 に
も PDCA サイクルの考え方が取り入れられていることもその一つである。同様
に、食の安全を守るシステムにも共通することから、ハサップ(HACCP:Hazard
Analysis Critical Control Point)にも取り入れられている。
また、PDCA サイクルが元々得意としていた品質管理においては、1980 年代
にシックスシグマという手法が開発された。これは品質管理において、エラー
やミスの発生率を下げ、バラつきを抑制しようというものであるが、そのプロ
セスは MAIC と呼ばれるプロセスを通じて行われる。M は Measurement(測
定)、A は Analysis(分析)、I は Improvement(改善)、C は Control(改
善結果定着のための管理)であり、MAIC プロセスは PDCA サイクルの発展形
と言えるものである。
もう少し企業経営の全体に目を向ける。昨今、IT 業界を中心にさまざまなビ
ジネスシーンでも取り入れられているプロジェクトマネジメント( PM)もそ
の基本は PDCA サイクルを回すことである。このプロジェクトマネジメントに
ついては、プロジェクトマネジメント協会(PMI)が提供する知識体系である
PMBOK(Project Management Body of Knowledge)が知られているが、そ
の中ではプロジェクトの流れを 5 段階で捉えており、「立ち上げ→計画→実行
→監視・コントロール→終結」というプロセスとしてまとめられている。同様
に、企業にガバナンス重視の経営を促す日本版 SOX 法(2006 年成立)に基づ
く「内部統制」の整備においても、いかに的確に PDCA サイクルを構築できる
かどうかがカギを握るとされている。また、バランスト・スコアカード(BSC)
との関係付けもされてきた。ここ数年来、経営手法の一つとして、BSC の活用
が多くの企業で検討されている。この BSC と PDCA の関係について、櫻井(2
004)は、従来の中期経営計画のやり方では、PDCA サイクルにビジョンや戦
- 136 -
略を効果的に統合させることができなかったが、BSC を導入することによって、
PDCA サイクルにビジョンや戦略を効果的に統合することが可能になるとして
いる(櫻井,2004,pp.24-25)。
それでは、組織文化の成り立ちと PDCA サイクルの関係はどうであろうか。
組織文化の構成要素のうちキーとなる「知識」に目を向けると、ナレッジ・マ
ネジメントの考え方が浮かぶ。野中・竹内(1996)では、「形式知」と「暗黙
知」が「4 つの変換モード」によってスパイラルに高められ、組織としての知
識を創造することが述べられている(野中・竹内,1996,pp.91-109)。それを踏
まえ、井上(2005)は標準(計画)を作り、それを実行、評価、改善(標準の
改定)する中で、標準がメンバーに共有され、想像性や創造性となって、新た
な価値が創造されるとする。このとき、標準書に明文化されるのが「形式知」
であり、明文化されないのが「暗黙知」である( 井上,2005,p.58)。PDCA サイ
クルを回す中で、知識が共有され、組織の文化として形成されるのである。
(3)PDCA サイクルの応用
PDCA と 似 た よ う な 概 念 に SDCA が あ る 。 PDCA の P の 代 わ り に S
(Standard:標準化)を入れたものである。PDCA が計画(目標)を立て、そ
れに向かって「改善」するためのサイクルだとすると、SDCA は標準を決め、
それを「維持」するためのサイクルと言える。PDCA で改善し、SDCA でそれ
を維持し、また必要に応じて PDCA で改善するという、2 つのサイクルに交互
に取り組み、それをサイクル化することが大切である。
一方、C(Check)の評価から先にすべきだという考え方もあり、それは CAPD
というサイクルで表される。PDCA と SDCA、CAPD という 3 つのサイクルに
ついて、高橋(1991)は、活動のタイプによって回し方が異なるとし、維持活
動の場合は SDCA、改善活動の場合は CAPD、開発活動の場合は PDCA と整理
している(高橋,1991,pp.76-77)。また、PDCA と CAPD については、どちら
が効 果 的か と いう 研 究も な され て おり 、 たと え ば、 椿 ら( 2010)は 、 学習 型
PDCA と CAPD を比較し、どちらか効果的に学習できるか等を検証している。
- 137 -
2.「PDCA サイクル」の課題
本章においては、中小企業の現場の PDCA サイクルの実態を明らかにすると
いう目的からも、もう一度 PDCA サイクルの原点に立ち返り、その本質の明確
化を図っていく。そういった意味でも、ここで少し先行研究を確認しながら、
PDCA サイクルの課題を考察する。
(1)PDCA サイクルの曖昧さ
前述のように PDCA サイクルはさまざまな場面で活用され、その場面に応じ
てさまざまな顔を持つ。使う人、使う企業の数だけ、それぞれの PDCA サイク
ルがあると言っていい。それは、裏を返せば、PDCA サイクルの曖昧さでもあ
る。この点について、藤田(1990)は、「管理をする」という活動を統制、管
理、経営の 3 つのレベルで捉えて、研究者ごとの「PDCA を回す」の使い方や
言葉の定義を整理した上で、「PDCA を回す」ということは、「基本的な行為の
手順を示すもので、定義も不明確であり、使う人の考え方でどのようにでも使
うことができる、あいまいな概念なのである」
(藤田,1990,pp.64-65)と結論付
けている。使う者を選ばない柔軟さと、捉えどころのない曖昧さが PDCA サイ
クルの魅力なのである。
(2)PDCA サイクルの限界
PDCA サイクルの曖昧さだけでなく、その限界を考察する議論も行われてい
る。小室(2009)は、リスクマネジメントシステムの視点から PDCA の限界
を論じており、「PDCA は、あくまで斬新的に変化する状況において有効なマ
ネジメントサイクルであり、状況の変化に応じて大きな変革をもたらすのに有
効なものではない」とし、こうした PDCA の限界は、PDCA の持つ 3 つの前提
に起因するものだとする。その 3 つの前提とは、「組織をクローズドシステム
ととらえていること、トップダウンの命令系統という特徴を有すること、計画
と執行が分離されていること」である。その上で、計画の妥当性の評価や計画
に外部の視点を入れるといった課題克服の方向性を示している(小室,2009,pp.
7-11)。PDCA サイクルには限界がある ので、それを否定しようということで
なく、その課題を克服し、より良い PDCA サイクルの構築を目指すべきなので
- 138 -
ある。
(3)より良い PDCA サイクルのために:KPI の設定
これまで見てきたように、PDCA サイクルが課題を内包しているのは確かで
あり、また、その課題を完全に解決するのは難しいかもしれないが、現場ごと
に工夫を凝らし、少しでも良い PDCA サイクルを回す必要がある。筆者はこれ
まで、さまざまな現場で PDCA サイクルを観察してきたが、効果的かつ効率的
に PDCA サイクルを回すには、PDCA サイクルに明確な「筋」を一本通す必要
があると考えている。その筋こそが大手企業を中心に活用されている KPI であ
る。KPI とは、重要業績評価指標(Key Performance Indicator)のことであ
り、業務プロセスの実施状況を計測するためなどに設定される指標である。
これまでのフィールドワークから判断すると、PDCA サイクルがうまく回る
かどうかのカギは、計画(P)と評価(C)にある。確かに、いくら良い計画や
評価ができても、実行や改善が伴わなければまったく意味がない。ただ、わざ
わざ PDCA サイクルでやろうとするからには、少なくとも実行(D)やその修
正である改善(A)がある程度はできる状況にあり、後はそれをいかに上手く
するかというところであろう。それには、計画と評価が必要なのである。適切
な計画ができれば上手く実行もできるし、正しく評価ができれば効果的に改善
もできるのである。実行と改善の主体が「行動」だとすると、計画と評価の主
体は「思考」である。正しく思考することによって、効果的な行動ができるの
である。
計画の精度を高めるには、アクションを列挙するだけでなく、そのプロセス
を数値化し、はっきりと目標として示すことが大事である。それによって従業
員のモチベーションも高まり、アクションの精度も上がる。その結果として、
成果も上がる。また、数値化された目標を掲げることにより評価も明確にする
ことができる。その数値こそ KPI なのである。
実際の企業の具体例で見てみる。オフィス用品販売の「アスクル」は環境経
営を目指し、「CO 2 排出量の削減率」と「資源消費量の削減率」を KPI に定め
た。回転寿司チェーンの「くらコーポレーション」は鮮度の維持と収益の両立
を目指して「すしの廃棄率」を KPI に定めた。また、飲食店検索サイトの「ぐ
- 139 -
るなび」は、「加盟店とのきずなの強さ」を定量化し、KPI に設定した。「きず
な」の測定には、
「仲の良さ」と「活用度」を使っている。化粧品チェーンの「イ
オンフォレスト」は、客単価引き上げ戦略の見直しに伴い、従来の重視してい
た「客単価」ではなく、「買い上げ率」を KPI として認識するようになった。
その他にも、ミサワホームの販売会社である「ミサワホーム東関東」では、
「有
望見込み顧客数」と「顧客との結び付きの度合」といった営業関係の KPI を定
めている。居酒屋チェーンの「ハーバーハウス」は、ミステリーショッパーの
調査を使った「顧客の感動度」を KPI に定めている 72。いずれの KPI も、その
企業のビジョン&戦略に導かれたものである。
次に、これまでのフィールドワークに基づき、中小企業の KPI をいくつか紹
介する。下の図表 5-1 以外にも、最近の傾向として、飲食店などでは、前述
の事例にも関係するが、グルメサイト「食べログ」の評価点や、ミステリーシ
ョッパーによる覆面調査の点数を KPI と捉えているところも増えている。
【図表5-1】中小企業のKPIの例
「既 存 顧 客 からの受 注 額 維 持 率 」や「引 合 件 数 」「見 積り件 数 」「新 規 顧 客 獲
営業関連
得数」、それらの行動 指 標となる「アポイント数」や「訪 問件 数」「提案 件 数」な
ど
「顧客リスト登録数」や「年齢・性別比率」「来店頻度」「継続率」「クレーム発生
顧客関連
件数」、アンケートなどによる「顧客満足度調査(CS 調査)」、また「相談件数」
など
「品質維持 率」「不良品 の発生率」、効率化のための「作業シフト維持 率 」「設
生産関連
備の稼 働 率」や「在 庫 削 減 率」「時 間 当たり生 産 高」、また「無 事 故 日 数」「事
故発生件数」など
人事関連
「新 入 社 員 の定 着 率 」や「従 業 員 満 足 度 調 査 」「有 給 休 暇 取 得 率 」「人 件 費
率」、人材育成のための「資格取得数」や「講習などの受講時間」など
72
以 上 6 社 の 事 例 は、『 日 経 情 報 ス ト ラ テ ジ ー 』 日 経 BP 社 ,No.214,2010-2,pp.30-49 に よ る 。
- 140 -
ただ、多くの中小企業ではまだまだ KPI が浸透していないのが実情である。
後述するように、中小企業の中には、KPI どころか、PDCA サイクルの確立も
不十分な会社が多くあり、そういった知識も乏しく、また必要性も感じていな
い。前述の事例のように、KPI 設定の勘どころは、ビジョン&戦略と一致して
その目標とするところであるが、中小企業の場合、KPI を導入していてもアク
ションごとの単独の目標指標になってしまっており、ビジョン&戦略と KPI と
が連動していないケースが散見される 73。
経営環境の厳しい昨今、中小企業の中には、 なかなか足を地に着けた活動が
できていないところも目立つ。そういう時こそ、「KPI を定め、PDCA サイク
ルを回す」という本来の姿に立ち返る必要がある。今こそ「測れないものは改
善できない」というデミングの言葉を噛み締めるときである。
3.中小企業の現場での PDCA サイクル
前節において、これからは中小企業においても、「KPI を定め、PDCA サイ
クルを回す」ことが必要である旨を述べた。ただ、多くの中小企業はまだその
レベルにまで達していないことも事実である。ここでは、実際の中小企業にお
ける生産や販売の現場は、どのように PDCA サイクルを回しているのか、その
実態を明らかにし、モデル化を図っていく。まずは、キャプランと遠藤の提唱
から確認する。
(1)キャプランの 3 つのサイクル
BSC の提唱者の一人であるキャプラン(Robert S.Kaplan)は、3 つのサイ
クルを有機的に連携していくことが必要である旨を主張している。具体的には、
①現場で PDCA サイクルを回し、必要な改善を図り、②それらの情報をマネジ
メントにフィードバックして、戦略の修正を行う、③さらに、そこからのフィ
ードバックで年次や中期の大きな戦略の見直しにつなげていくというものであ
る。現場での定期的かつ頻繁なレビュー、月に 1 度の戦略をチェックするレビ
73
ビジョン&戦略については、中小企業の場合、そもそも明確に意識されたそれがない場合も多いと
いうのが実情である。中小企業において、ビジョン&戦略は非常に曖昧になっている。
- 141 -
ュー、年次で開催する「戦略見直し会議」という 3 つのレビューの大切さを説
いている。
「3 つのレビューは時計の秒針、分針、時針のようなものだ。異なる
サイクルで、異なる粒度のデータを使ってそれぞれの PDCA を回すが、相互に
関連し合う」と言う 74 。キャプランのこの指摘は、中小企業にとっても有効で
ある。現場(作業者)、管理(マネジャー)、経営(トップ )のそれぞれの PDC
A サイクルを連携してこそ業績も向上するのである。
(2)「ダブルループの PDCA」
前項のキャプランが 3 つのサイクルだとすると、遠藤(2005)は、「ダブル
ループの PDCA」を提唱している。通常の PDCA サイクルを「計画達成の PD
CA」と捉え、それとは別に「問題解決のための PDCA」が必要とする。その P
DCA における各要素は、P:Problem-findinng(問題発見)→D:Display(見え
る化)→C:Clear(問題解決)→A:Acknowledge(確認)である。この「問題
解決の PDCA」には 2 つの特徴があり、それは、①Problem(問題)が中心で
あること、②しっかりと Display(見える化)することである。
「計画達成の P
DCA」の「D」を、「問題解決の PDCA」の「P」につなげ、これら 2 つの PD
CA を連動させて「ダブルループの PDCA」とし、問題解決を図りながら、計
画達成することを主張している(遠藤,2005,pp.31-34)。
(3)PDCA の「スリーリング・モデル」
最後に、これまでのフィールドワークに基づく、中小企業の現場での PDCA
サイクルのモデルを明らかにする。このモデルは、前項までのようなあるべき
PDCA サイクルではなく、実際の中小企業の実態として、その標準的な姿をモ
デル化したものである【図表 5‐2】。
74
以 上 キ ャ プ ラ ン に 関 す る 記 述 は、『 日 経 情 報 ス ト ラ テ ジ ー 』 日 経 BP 社 ,No.190,2008-2,pp.47-49 に
よる。
- 142 -
【図表5-2】PDCA サイクルの3つのモデル
(出所:筆 者 作 成 )
<モデルⅠ>
理想である、一般的な PDCA サイクルのモデルであり、上位マネジメントの
PDCA サイクルと現場の PDCA サイクルが、
「D」と「P」で結合して連動して
いる。上位マネジメントの PDCA サイクルに連動して現場が PDCA サイクル
を回し、それぞれが独立しながらも、組織全体では一体となって機能している
状態である。
ここに本研究でのマネジメントの定義である「アクションの決定と、その実
行を司る」との関係性を確認すると、アクションの決定がなされた後、そのア
クションを実行する際にこの PDCA サイクルが絡んでくる。モデルⅠのように、
正しく PDCA サイクルを回して、「きっちり」とするのか、PDCA サイクルな
どあまり気にせずに、「ざっくり」とやるのかである。
- 143 -
<モデルⅡ>
しかし、実際の中小企業では、上位マネジメントと現場との「線引き」と「連
動」のどちらも曖昧な状態であることが多い。そのため、上位マネジメントで
の実行の部分が、上位マネジメントレベルでの明確な実 行にならず(d)、直接、
現場で実行(D)されてしまう。すなわち、P の計画は、d ではなく、現場の D
で実行されるのである。そして、その成果の評価や改善は現場では行われず、
上位マネジメントで C(評価)と A(改善)がなされる。結果として、現場は
ほとんど D だけで成り立っていることになる。上位マネジメントが思考し、現
場は行動のみするというパターンである 75。
<モデルⅢ>
①スリーリング・モデル
中小企業の上位マネジメントでは、PDCA サイクルだけでなく、POCA サイ
クルも存在する。すなわち、上位マネジメントのレベルで必要に応じて実行( d)
されるものと、実行されずに、そのまま O(Order)として、現場に「命令」
される場合がある 76。この場合、現場のマネジメントサイクルと合わせると「ス
リーリング」となる。スリーリング・モデルは、モデルⅡからモデルⅠに変化
するプロセスの途中 77 に位置するモデルである。
②「P-O-pfDr-C-A モデル」
このスリーリング・モデルは、「P-O-pfDr-C-A モデル」でもある。上位マネ
ジメントの命令「O」が、現場の「p」に転化する。この場合の「p」は簡単な
計画を意味しており、会社によっても違うが、週単位の小日程計画に基づく日々
の計画(その日の作業指示)の場合もあれば、現場で行われる軽い打合せや朝
礼時の確認程度の場合もある。その「p」を受けて、現場で「気勢」
(f:fight)
が入り、実行(D)が行われる。
「気勢」は現場の気持ちを 一つにし、やる気を
75
実際は、この上位マネジメントは、経営者が一人で担っている場合も多い。経営者一人で、現場に
指示してやらせている、典型的な町工場のパターンがこれである。
76 そ の 時 々 よ っ て 、 O( 命 令 ) で は な く 、 I( Instruction: 指 示 ) の ニ ュ ア ン ス の 場 合 も あ る 。
77 現 場 が 独 り 立 ち し て 、自 分 た ち で PDCA サ イ ク ル( あ る い は PDCA サ イ ク ル ら し き も の )を 回 せ る
ようになる途中。
- 144 -
出して頑張ろうというものである。おそらく「やる気を出す」というのは、現
場でもっとも言われる言葉の一つである。ただ、すべての会社にとって、もっ
とも言われるがもっとも難しい課題である。決して特別なことでなく、日常の
ルーティンな作業を続ける中で、地道に当たり前のことをやり続ける源泉が「や
る気」である。そういった意味で、現場で行われるこの「 f」は非常に重要であ
り、この「f」によって製品の QCD(品質・コスト・納期)が大きく左右され
る。現場のマネジャーにもっとも期待されるのが、作業員のこの「f」をいかに
高めるかであり、現場のマネジャーにとっての最大の腕の見せどころでもある。
ただ、その方法はいたってシンプルで、声を掛けたり、会話を交わしたりなど
によるコミュニケーションが中心であり、現場マネジャーと作業員の親交や信
頼など人間関係からなるもので、決して難しいモチベーション理論を振りかざ
してのものではない。
実行(D)の出来不出来については、現場でも軽く評価されるが、それはあ
くまでも軽い「反省」
(r:reflection)程度のものであり、しっかりとした評価
は上位マネジメントでチェック(C)され、改善(A)を経て、再度、計画(P)
になる。この場合の「反省」については、気勢(やる気)と同様、個人的なも
のが多く、自身の出来不出来を振り返るレベルであり、製品の QCD や対顧客
レベルでの評価ではない。それは、現場のマネジャーの作業者に対する心遣い
でもあり、作業者を職人として認めようという配慮でもある 78。現場にとって
は、PDCA サイクルを回すことが大事なのではない。しっかりとした評価(C)
は上位マネジメントでしてもらうとして、現場では作業者に気持ち良く作業を
してもらい、作業が滞ることなく、確実に現場を回すことが大事なのである。
ここでモデル化した「pfDr サイクル」こそ、良くも悪くも中小企業の現場の現
実であり、そこには企業ごとの独特のリズム感がある。
4.中小企業における PDCA サイクルの考察
中小企業の現場の PDCA サイクルの実態ないし典型は、前節のモデルⅡやモ
78
実際は、それが中小企業の現場の甘えになっていることも否めない。
- 145 -
デルⅢの通りであり、それはまさに多くの中小企業のマネジメントのあり方を
表している。大企業のように、組織全体の仕組みとして、有機的にリンクして
PDCA サイクルが回っているのではなく、現場ごとの作業者レベルで回ってい
るのが実情である。まだまだ、前節のキャプランの指摘に応えられるようなレ
ベルに達していない。組織としての「仕組み」でなく、個人の「感性」や「感
覚」によって支えられている PDCA サイクルだと言ってよい。結果として、後
述のように、完全な PDCA サイクルによる仕組みに基づくマネジメントではな
く、個人、すなわち、番頭型マネジャーまではいかなくとも、現場のマネジャ
ーやベテラン従業員などによる「ヒト」によるマネジメントになっているのが
実情である。ただその分、大企業よりもヒトそのものに焦点を当てた、モデル
Ⅲのような、ユーモラスで、個性的なマネジメントが行われている。ときには
そこから個性的なパワーが生まれることも事実であるが、経営環境が激変する
中においては、企業活動の足かせになることも多い。
組織だった仕組みとしての PDCA サイクルのためには、KPI の活用が一手で
あるが、前述のように、中小企業の場合、KPI の活用もまだまだ不十分である
ことが多い。KPI はビジョン&戦略と連動してこそ意味があるが、ビジョン&
戦略と KPI がほとんど連動していない。すなわち、多くの中小企業では、ビジ
ョン&戦略とマネジメントとが連動していないのである。あくまでも組織の一
部分、すなわち、現場レベルでの PDCA サイクル(マネジメント)に終始して
しまっている。この点が、中小企業のマネジメントの最大の弱みになってしま
っている。現場レベルでは、個性的な PDCA サイクル(モデルⅢで言う pfDr
サイクル)でできて満足していても、ビジョン&戦略との連動がないため、ど
こまでいっても変化のない、成長の見えない現状が続くことになるのである。
マネジメントで大事なことは、
「身の丈」である。それぞれの中小企業が自社
の身の丈(成長段階や個性など)に合った、わかりやすく、かつ、できるマネ
ジメントを実行することが大切である。できることを確実にする。決して無理
をしてはいけない。たとえば、いくら良いからといって、できもしない KPI な
ど意味のないことであり、KPI がなくても何とかなっているのも確かである。
ただ、その上で重要なことは、身の丈には合わせつつも、現状に満足せず、さ
らなる高みを目指して、日々努力工夫をするべきである。すぐには無理でも、
- 146 -
近い将来は「KPI を定め、PDCA サイクルを回す」ができるように、長期的な
視点で計画的に取り組んでいかなければならない。そのための PDCA サイクル
である。
5.中小企業における会議について
本章で見てきた PDCA サイクルを回す上で、実務的に大きな鍵を握っている
のが、
「会議」である。マネジャー(番頭型マネジャー)によっても会議は開か
れるが、ここでは、主に PDCA サイクルの視点から会議を見ていくこととする。
なぜなら、多くの中小企業では、マネジメントを遂行する「仕組み」の一つと
して会議を設定しており、内容や程度の差はあれ、PDCA サイクルを回すため
のポイントとなる機関として、会議が位置付けられているからである。ただし、
実際は、PDCA サイクルと会議が完全にリンクしているわけではなく、本章で
見てきたように、そもそも PDCA サイクル自体が不完全だったり、会議も中途
半端であったりする場合も多い。
(1)会議の内容と目的
これまでの観察によると、中小企業の会議は多種多様である。内容はもちろ
ん、開催時期、頻度、参加メンバーなど、すべて違う。内容一つとっても、方
針発表等のトップダウン、全体での確認と共通認識の形成、顕在化している問
題の検討、潜在的問題の顕在化、アイデアの発想、新製品の企画・開発、各部
署からの報告、クレーム対応、人事評価や採用、挨拶程度のもの、その日の仕
事の確認、経営理念についての語り合いなどさまざまである。そして何より、
PDCA サイクルにおける P、C、A の実践の場(計画策定、実行の評価、改善
策の検討)としての会議がある。ただ、前述のような会議内容のすべてが、必
ず P、C、A のどれかに該当するわけではない。つまり、会議で話される内容
は、必ずしも P(計画)を伴うものではないということである。
また、それは同時に目的に置き換えられるが、目的で見ると、経営活動に必
要な前述の内容の検討という主たる目的以外に、ディスカッションそのもの、
チームワークや一体感の醸成、特定のテーマに関する勉強会、会議の進行・発
- 147 -
言・準備等を通じてのマネジャーの育成、コミュニケーション、日頃の不満の
解消(いわゆる「ガス抜き」)、他人の悩みや苦労を知る、他人の意見を聞いて
参考にし学ぶ、といった副次的な目的もある。
会議の目的や効用について、たとえば、ファヨール(1916)は、命令の役目
を負っている責任者が必要とする 8 つの事柄の一つとして、「指揮の一元性と
諸努力の集中がそこで準備される会議にその主要な部下を召集すること」を挙
げている(Fayol,1916,邦訳,p.167)。そして、責任者が会議を開いて、計画を
説明し、決定し、部下に命令を理解させるのにかかる時間は、もし会議を開か
ずに同様のことをするときの 10 分の 1 で済むとする。また、それらの部下が
部門の上級責任者であるとき、相互間等での頻繁な接触がなければ、会議なし
では多くの時間と努力を払ってさえも、会議がもたらし得る確実さと力を手に
入れることができないと述べている(同書,p.174)。会議によって、時間的な効
率化と確実な効果が得られると言うのである。
また、第 3 章第 2-2 節でも触れたが、ファヨール(1916)は、調整におけ
る「部門責任者の週例会議」の有用性を述べており、これにより指揮者は、比
較的短い時間で情報収集や意思決定を行うことができるとする(同
書,pp.178-180)。そして、
「 うまく指導された会議はつねに有益である。しかし、
そこには若干の手腕が必要であり、さもなければ会議は生彩がなく、退屈であ
り、成果を生まないままであるかも知れない」と言う(同書,p.180)。
キャプラン&ノートン(2008)は、経営会議を 3 種類に分け、それぞれにつ
いて言及している(Kaplan and Norton,2008,翻訳,p.341)。
業務検討会議
…会議の目的は「短期的な問題への対応、継続的改善の促進」である。内容
は「業務上の問題(売上げの減少、配送の遅延、設備の停止、サプライヤ
ーの諸問題)を明らかにし、解決する」ことである。
戦略検討会議
…会議の目的は「戦略の微調整、中途における適応の実施」である。内容は
「戦略の実施段階における諸問題、戦略的実施項目の進捗度」を検討する
ことである。
戦略の検証と適応の会議
- 148 -
…会議の目的は「戦略の漸進的な改善・転換、戦略的計画および業務計画の
確立、戦略目標の目標値の設定、戦略的実施項目およびその他の主要な自
由裁量費用への支出の承認」である。内容は「因果分析、製品系列やチャ
ネルの収益性、外部環境の変化、創発戦略、そして新技術の開発にもとづ
く戦略の検証と適応」である。
また、キャプラン&ノートンは、会議の頻度についても述べており、業務検
討会議は「月次、週 2 回、週次などビジネスサイクルに依存する」、戦略検討
会議は「月次」、戦略の検証と適応の会議は「年次(変化の激しい業界では四半
期ごと)」で、大きくは、週→月→年というサイクルである。
(2)会議の種類
前述のように会議の内容はさまざまであり、またその名称はともかく、PDCA
サイクルの仕組みとして捉えた場合、中小企業の会議は、出席者、機能、話し
合うテーマ、頻度などから大きく 3 つに分類することができる。それは、①全
体会議、②部門会議、③現場会議である。この分け方は、前述のキャプラン&
ノートン(2008)の分け方よりも、もっとはっきりと中小企業のマネジメント
の階層にリンクさせている 79。
ここでの説明は、テーマの設定上、PDCA サイクルに関連付けられることを
前提にしているが、実際は関連付けがないような内容も各会議であれこれ話し
合われる 80。もちろん、すべての中小企業で 3 つとも開催しているわけではな
い。後述のように、そもそも会議などまったくやっていない中小企業もいくら
でもある。
①全体会議
全体会議は、会社全体の方向性や課題について話し合う場である。毎月開催
している企業もあるが、将来に向けた戦略や年間の計画に関することなどがテ
79
本 文 で 述 べ て い る よ う に 、本 節 で は 、会 議 を PDCA サ イ ク ル の 仕 組 み( も っ と 言 う と 、マ ネ ジ メ ン
ト の 仕 組 み )と し て 捉 え て い る の で 、定 期 会 議 と 特 別 会 議( 臨 時 会 議 )な ど の 分 類 で は な く 、マ ネ ジ メ
ント階層ごとに会議を分類し、議論を進める。
80 前 述 の よ う に 、会 議 の 内 容 の す べ て が PDCA サ イ ク ル に 関 連 付 け ら れ る わ け で は な い 。現 実 と し て
は 、PDCA サ イ ク ル の 範 疇 に 入 っ て 来 な い 内 容 も 多 い 。会 議 で 話 さ れ る 内 容 は 、必 ず し も P( 計 画 )を
伴うものではないということである。
- 149 -
ーマであるため、年 1 回、半年や 3 か月ごとに 1 回といった頻度で開かれる場
合も多い。また、年 1 回の場合などは、厳密には、一時期に集中してというこ
ともある。たとえば、4 月からの新年度を睨んで、年明け 1 月~3 月頃の一時
期に、集中して何回も開催するようなやり方である。
全体会議の責任者は、経営者である場合が多い。議事進行は専務などの取締
役や部長などが務め、出席者は部門の長であるマネジャーが中心である。
②部門会議
部門会議とは、ここでは営業会議や生産会議のことを言う。わかりやすくは、
営業部の会議、生産部の会議ということである。全体会議での方向性などを受
け、各部門の戦略や課題を話し合う。全体目標からブレークダウンしてきた部
門目標を達成するための対策(アクション)や、そのモニタリングなどがなさ
れる場でもある。全体会議が年 1 回~2 回といったどちらかと言うと年単位で
開かれるのに対し、部門会議は、月単位、すなわち、毎月 1 回のペースで開か
れる場合が多い。
部門会議の責任者は、その部門のマネジャー、すなわち営業部長や生産部長
などである場合がほとんどである。経営者も出席している場合があるが、積極
的に意見を述べている経営者と、あくまでもオブザーバーとしてあまり意見を
述べないようにしている経営者に分かれる。
③現場会議
現場会議とは、生産や販売などの現場で行われる会議である。これまでも述
べてきたように、現場とは、その企業にとっての事業のコアの部分であり、い
わゆる「ライン」の最前線であり、顧客と直接、あるいは製品を通じて間接的
につながっているところである。工業を営む会社であれば、モノづくりをして
いるところはもちろん、営業部隊もいるのであれば、そこも現場である。そう
いった現場で行われるのが現場会議である。
顧客につながっている分、そのやり取りの必要性から、週あるいは日単位で
開催される場合が多い。頻度が高い分、時間は短時間でというのも特徴である。
- 150 -
長い時間やっていると作業に差し障るので、素早く済ませてしまうのである 81。
また、それも相まって、書類をあまり使わずに、口頭での確認か、せいぜいホ
ワイトボードをメモ的に使用する、といった簡易なやり方で行われる 82 。現場
監督としてのマネジャーを中心に、作業者が参加して開催される。その日の作
業に臨む朝礼的なところもあり、顧客からの受注状況や作業内容、注意事項の
確認などが行われる。朝礼として実施される場合は、挨拶やラジオ体操などを
行い、気分を仕事モードに切り替える役割もある。
(3)中小企業における会議の意義
中小企業の会議の実態として、もっと言うと、マネジメントの実態として重
要なことは、会議をまったく、あるいはほとんど開かない会社も多いというこ
とである。会議どころか、ちょっとしたミーティングや朝礼すらない会社もあ
る。ただ、それで現場が回っているのも事実であり、形だけの会議ならしない
方がましであるのも確かである 83。
ファヨール(1916)も言うように、そもそも中小企業にとって会議というも
のは難しく、なかなか上手くできないのも確かである。座長や司会者をはじめ、
参加するメンバーのスキルや目的意識が高くないと、効果的な会議ができない。
この場合のスキルとしては、日常の業務遂行とは別に、ディスカッションやコ
ミュニケーション、プレゼンテーションなどの会議への参加スキルも問われる。
また、会社として、会議の仕組みづくりや会議を効果的に進めるための資料づ
くりなどのノウハウも必要である。中小企業にとっては、会議をすることが大
切なのではなく、会議をする必要があるときに、適切な会議ができるように社
内体制を整えることが大切なのである。
本節では、特に PACA サイクルに関連付けて会議を考察してきたが、PDCA
サイクルが不完全だから会議が中途半端なのか、会議が下手だから PDCA サイ
クルが上手く回せないのかを検討しつつも、どちらが先かはともかく、会議に
81
実際、その企業の付加価値を生み出しているのは現場である。
逆に、全体会議に近くなるほど、パソコン等の画面で見るか、印刷したものを見るかはともかく、
書類が多くなる傾向にある。
83 会 議 等 を ま っ た く し な く て も 回 っ て い る 会 社 が 、 会 議 を す る こ と に よ っ て 、 よ り 上 手 く 回 る 可 能 性
を否定できないのも確かである。
82
- 151 -
頼ることなくやっている、あるいは、頼ることなくやれているという現実が中
小企業にはあることを見過ごしてはならない。
6.2大ツールとマネジメントの関係
以上のように、マネジメントの 2 大ツールである「番頭型マネジャー(現代
版番頭)」と「PDCA サイクル」について考察を展開してきた。
本章の最後に、それらとマネジメントの関係を整理しておく。見てきたよう
に、中小企業の(広義の)マネジメントは、
「しっかり-きっちり」に代表され
るマネジメントと、
「ちゃっかり-ざっくり」に代表されるアナザーマネジメン
トの大きく 2 つから成り立つ。このうち、管理的な側面の強い「マネジメント」
は、PDCA サイクルと結び付く。ただ、現実の中小企業では、理想である、完
全な形での PDCA サイクルではなく、モデルⅢ(スリーリング・モデル)やモ
デルⅡで回っている場合も多く、そういった企業は、マネジメントではなく、
アナザーマネジメントに近いやり方になっているところもある。
一方、感覚的な側面の強い「アナザーマネジメント」は、番頭型マネジャー
と結び付く。経験に裏打ちされた直観とその存在感で組織を引っ張れる番頭型
マネジャーであれば、PDCA サイクルに頼らずとも、十分にやっていける。た
だ、先述のように、番頭型マネジャーの存在はむしろ珍しいものであり、ほと
んどの中小企業には、一般的なマネジャーか、せいぜいベテラン・マネジャー
しかおらず、意識してかどうかはともかく、必然的に PDCA サイクル、あるい
は PDCA サイクル的なものを使わざるを得なくなる。
そのように、管理型マネジメントの究極ツールである「完全な PDCA サイク
ル」と、感覚型マネジメントの究極ツールである「番頭型マネジャー(現代版
番頭)」を対極としつつも、現実には、その間に、完全ではない PDCA サイク
ルである「スリーリング・モデル」や、完全な番頭型マネジャーでない「中途
半端なベテラン・マネジャー」が存在し、結果的にそれらが融合する形でマネ
ジメントが行われている。言うなれば、中途半端なベテラン・マネジャーがス
リーリング・モデルを回しているのである。
実際、多くの中小企業は、ヒト(ベテラン・マネジャー)が動かすか、仕組
- 152 -
み(PDCA サイクル)で動かすかの二者択一ではなく、その両方を上手く使っ
ている。ヒトと仕組みが補完し合いながら、あるいは、相乗効果を発揮しなが
らやっているのである。
マネジメントには PDCA サイクル、アナザーマネジメントには番頭型マネジ
ャー、あるいは、そこまでいかずともせめてベテラン・マネジャーと、直接か
つ直線的に結び付けることができれば整理もしやすいが、実際は、同じマネジ
メントでも、その管理の程度にレベル差があり、同じアナザーマネジメントで
も、その感覚の程度にレベル差があるため、直接かつ直線的に結び付けること
はできないのである。PDCA サイクルと番頭型マネジャーがマネジメントの 2
大ツールではあることは確かであるが、現実的には、さまざまなレベルの不完
...
...
全なそれら、すなわち PDCA サイクルもどき や番頭型マネジャーもどき が多く
存在し、それらによってマネジメントが行われているのである。そのあたりの
中小企業の実態については、次章の事例で分析していく。
- 153 -
第6章
中小企業 43 社の事例
1.本章の位置付け
これまで中小企業のマネジメントの概念について考察を重ねてきたが、その
実態はどうなっているのかを明らかにする必要がある。本章では、その検証を
するために、実際の中小企業 43 社の事例を見ていく。この 43 社は筆者がこれ
まで現場のコンサルタントとして関わってきた中小企業約 500 社の中から、以
下のような基準 1~5 でスクリーニングし、抽出したものである。なお、筆者
は大阪を中心とする関西エリアで活動しているため、この 43 社はいずれも関
西 84の中小企業である。
基準 1:筆者が、会社の全体的なことを把握していること
筆者がコンサルタントとして中小企業に関わる場合、会社全体(事業活動全
体)について、総合的に関わる場合と、営業部門や工場など特定の部分だけに
関わる場合とがある。特定の部分だけに関わっている会社については、その部
分からの判断しかできない。本研究は、会社全体のマネジメントを対象として
いるため、筆者が全体的なことを把握している会社のみとする。
基準 2:筆者が、会社の経営方針や事業の方向性などを把握していること
前項の全体の把握にも関係するが、筆者がフィールドワークを通じて、経営
方針や事業の方向性などを把握している会社のみとする。具体的には、経営理
念や経営ビジョン、経営戦略、事業計画などを把握しているかどうかである。
ただし、それらは必ずしも文書化されているとは限ら ず、そういったものが「な
い」や、「不明確」「曖昧」ということも実態の把握であ る。
基準 3:経営者や従業員と直接やり取りができていること
経営者との打ち合わせや、管理職や一般従業員との面談など、筆者がその会
社で働く人たちと、直接話しができていることである。これには、メールなど
84
事 例 43 社 の 所 在 地 は 、 大 阪 府 、 兵 庫 県 、 奈 良 県 で あ る 。
- 154 -
でのやり取りも含まれる。また、就業時間内の公式な場だけでなく、就業時間
外の食事や飲み会などでの本音での話しもある。
基準 4:本研究に関するマネジャーや PDCA サイクルなどの実態を把握できて
いること
この基準が何より大事であるが、本研究のテーマであるマネジメントに関す
る実態を、筆者がフィールドワークを行う中で正しく把握できていることであ
る。具体的には、前項で述べた内容に加え、経営者の社内や客先での様子やマ
ネジャーの言動などを観察したり、各種の会議に参加したり、現場でのミーテ
ィングなどに立ち会ったりする中で、それらがどのように機能してマネジメン
トを構成しているかの把握である。
基準 5:その他、次のような条件が整っていること
上記以外に、①筆者が、ある程度の期間(少なくとも 3 年以上)にわたって
の会社の業績などの推移を把握できていること、②一般的に馴染みのない、あ
まり特殊な業種業態ではないことなどがある。
2.事例の項目
中小企業 43 社の事例について、本研究では以下のような項目で見ていくこ
ととする。これらの項目は、中小企業のマネジメントの実態を分析していく上
での視点であり、かつ基準でもある。次章では、これらの項目にしたがって分
析を行い、その実態を明らかにすることになる。なお、これらの項目は、巻末
に資料「事例 43 社のマネジメントの実態一覧」として整理している。
(1)企業の概要
企業の概要については、以下の①~⑤の項目で表す。その前提となる「対象
期間」は、43 社それぞれの本研究での分析の対象となっている期間であり、
「①
業種」以外は、当該期間の期末時点のものである。
- 155 -
①業種
…1:小売業、2:卸売業、3:製造業、4:加工業、5:サービス業、6:その他
*2 つの業種を兼業している場合は、その 2 つの番号を記入する
②従業員数(パート等含む)
…1:10 人まで、2:11~20 人まで、3:21~30 人まで、4:31~50 人まで、5:
51~100 人まで、6:100 人超
③業歴(創業からの年数)
…1:10 年まで、2:11~20 年まで、3:21~30 年まで、4:31~50 年まで、5:
51~100 年まで、6:100 年超
④資本金
…1:1,000 万円まで、2:1,000 万円超~5,000 万円まで、3:5,000 万円超~1
億円まで
*個人事業は、「―」を記入
⑤売上高(年間)
…1:5,000 万円まで、2:5,000 万円超~1 億円まで、3:1 億円超~3 億円ま
で、4:3 億円超~10 億円まで、5:10 億円超~15 億円まで、6:15 億円超
(2)事業の特徴
事業の特徴については、以下の①~③で表す。
「①ビジネスモデル」は、業種
業態に関わらず、自立・提案型でやっているのか、下請・受託型でやっている
のかで区分する。この場合の「自立・提案型」とは、いわゆる「下請」でなく、
流通体系の中で独立したポジションを築き、自社主導の価格決定権があり、顧
客の顕在的ニーズに訴え掛けるやり方をしているビジネスモデルを言う。一方、
「下請・受託型」とは、文字通り「下請」の立場であり、取引先の業績(仕事
量)によって自社の生産量が決まり、また価格設定をする際も取引先の意向や
同業他社の横並び意識に強く影響を受け、顧客のニーズに合わせたり、振り回
- 156 -
されたりするようなビジネスモデルを言う。
また、それに関連して、営業のタイプと、研究・企画・開発機能を保有して
いるかどうかも表す。
「②営業のタイプ」は、新規開拓も手掛ける攻めの営業(新
規開拓型営業)なのか、既存顧客の維持に重きを置く守りの営業(既存維持型
営業)なのか、そもそも営業機能自体を持たないかである。
「 ③研究・企画・開
発機能」は、新技術の研究や新サービスの企画、新製品の開発などの機能を保
有しているかどうか、あるいは、それを専門に担当する部署があるかどうか、
専門の担当者がいるかどうかを表す。
①ビジネスモデル
…1:自立・提案型、2:下請・受託型
②営業のタイプ
…1:攻めの営業、2:守りの営業、3:営業機能無し
③研究・企画・開発機能の有無
…1:有り、2:無し
(3)経営者の関係
経営者については、以下の①~⑤で表す。
「①何代目の経営者か」は、現在の
経営者が何代目であるかを示す。「②就任前の状況」は、社長に就任する前に、
どういう立場で仕事をしていたかである。社長に就任する会社に、就任前から
勤めている場合で、取締役や部長などの立場で上位のマネジメントに関わる仕
事をしていたのか、現場のマネジャーや従業員として現場で仕事をしていたの
か、あるいは、社長就任前は他社で仕事をしていたかである。
「③経営者を経営資源として捉えた場合のタイプ」は、経営者をヒトという
経営資源とした場合に、組織の中でどういった役割ないし機能を担っているか
を示す。大きくは、工場や売場などを自ら差配する「親方タイプ」
( 現場のボス)、
研究・開発等に没頭する「研究者タイプ」、トップ営業などを積極的に行う「営
業マンタイプ」、総務などで地道に事務を行う「事務員タイプ」の 4 タイプで
- 157 -
あり、加えて、何もしない「オーナータイプ」もいる。
「④経営者の管理のタイ
プ」は、経営者自らきちんと管理しないと気の済まないタイプなのか、放任主
義でマネジャーや現場に任せているのかを表す。
「⑤A 力を構成する 4 つの要素」は、第 1 章で提示した「A 力-B 機能」に
関するものである。経営者が A 力を構成する主な 4 つの要素のうちどれを持っ
ているかを表す。
①何代目の経営者か
…1:創業者、2:2 代目の経営者、3:3 代目の経営者、4:4 代目の経営者
②就任前の状況
…1:自社で、上位マネジメントの仕事、2:自社で、現場の仕事、3:他社で
仕事、4:その他
③経営者を経営資源として捉えた場合のタイプ
…親方タイプ(現場のボス)、研究者タイプ、営業マンタイプ、事務員タイプ、
オーナータイプ(何もしない)
*該当するタイプすべてに○を付ける(完全に該当するところまではいかないが、
ほぼ該当する場合は、△を付ける)、また特に強く当てはまるものには◎を付け
る
④経営者の管理のタイプ
…管理タイプ、放任タイプ
*完全に該当するところまではいかないが、ほぼ該当する場合は、△を付ける
⑤A 力を構成する主な 4 つの要素
…夢(利益)の提示力、人間としての魅力、現場の把握力、トップとしての権
力
*当てはまる要素すべてに○を付け、そうでない要素に×を付ける(完全に当て
はまるところまではいかないが、ほぼ当てはまる場合は、△を付ける)、また特
- 158 -
に強く当てはまるものには◎を付ける
(4)マネジャーの関係
マネジメントの 2 大ツールの一つである「マネジャー」については、以下の
①~⑦で表す。
「①ベテラン・マネジャーの存在」は、会社の中にベテラン・マ
ネジャーがいるかどうかである。この場合のベテラン・マネジャーは、原則と
して、上位のマネジメントのマネジャー歴が 10 年以上あり、複数のマネジャ
ーがいる場合にその取りまとめができ、社長や現場の信任を得ているマネジャ
ーである。その基準を完全に満たさないまでも近い存在である場合は、準ベテ
ラン・マネジャーとする。
「②ベテラン・マネジャーの昇進ルート」は、①のベ
テラン・マネジャーがどういうルートで昇進して、そのポジションについたか
である。社長の息子など、経営者の一族なのか、一般の従業員から内部昇格し
たのか、外部(他社)からの登用なのかである。
「③ベテラン・マネジャーのタイプ」は、①のベテラン・マネジャーがどう
いうタイプのマネジャーなのかを示す。具体的には、現場の指揮命令を行う「監
督型」、取引先とのやり取りに長ける「外交型」、管理が得意な「役人型」、経営
者の言いなりで動く「下請型」の 4 タイプである。「④経営者の相性」は、ベ
テラン・マネジャーと経営者との相性を示す。この場合の相性は、補完関係に
あるかどうかである。前項「③経営者を経営資源として捉えた場合のタイプ」
と前目「③ベテラン・マネジャーのタイプ」とを比較して判断する。
「⑤『番頭型マネジャー』かどうか」は、そのベテラン・マネジャーが、第
4 章で定義付けた「番頭型マネジャー(現代版番頭)」に該当するかどうかであ
る。さらに、
「⑥『補佐役』として、どのタイプか」は、前目で番頭型マネジャ
ーであった場合、青野(1997,pp.70-81)の言う「補佐役の 5 つのタイプ」の
どれに該当するかである。また、「⑦『小番頭』の存在」は、これも第 4 章で
定義付けた、組織内部の交通整理をする番頭型マネジャーである「小番頭」が、
会社に存在しているかどうかを表す。
①ベテラン・マネジャーの存在
…○:いる、△:準ベテラン・マネジャーがいる、×:いない
- 159 -
②ベテラン・マネジャーの昇進ルート
…1:経営者一族、2:内部昇格、3:外部からの登用
*複数のベテラン・マネジャーがいる場合は、複数分を記入する
③ベテラン・マネジャーのタイプ
…監督型、外交型、役人型、下請型
*該当するタイプすべてに○を付ける(完全に該当するところまではいかないが、
ほぼ該当する場合は、△を付ける)
*複数のベテラン・マネジャーがいる場合は、前目の番号をそのまま使い、それ
ぞれ該当する箇所に番号を記入する
④ベテラン・マネジャーと経営者の相性
…○:補完関係にある、△:完全ではないが補完関係にある、×:補完関係に
ない
*特に強く当てはまるものには◎を付ける
*複数のベテラン・マネジャーがいる場合は、そのトータルでのベテラン・マネ
ジャーのタイプで経営者との相性を判断する
⑤「番頭型マネジャー」かどうか
…○:番頭型マネジャー(該当しない場合は、何も印を付けない)
⑥「補佐役」として、どのタイプか
…1:大番頭、2:ご意見番、3:女房役、4:トップの分身、5:懐刀
*複数の番頭型マネジャーがいる場合は、本項第 2 目の番号をそのまま使い、
それぞれに該当する番号を記入する
⑦「小番頭」の存在
…○:いる(存在しない場合は、何も印を付けない)
- 160 -
(5)PDCA サイクルの関係
マネジメントのもう一つのツールである PDCA サイクルについては、以下の
①~⑦で表す。「①PDCA サイクルのモデル」は、第 5 章で提示したどのモデ
ルに該当するかである。完全に合致しなくとも、最も近いモデルを選んでいる 85。
PDCA サイクルを評価する際のポイントは、上位マネジメントと現場との連結
具合である。PDCA サイクルと言うぐらいなので、一つのリングが PDCA でき
ちんと回っていることと、それぞれのリングが連動しているかどうかが重要で
ある。ただ、中には、不完全な PDCA サイクルですらない企業もあり、要は、
「②会議の種類」は、第 5 章
計画性や進捗管理がほぼないということである 86。
第 5 節で述べた、どういったマネジメント・レベルの会議をやっているかであ
る。ただし、先述のように、必ずしも PDCA サイクルと直接リンクしているわ
けではない。
「③経営理念の存在」は、経営理念が存在するかどうかであるが、そのビジ
ュアル化の程度などによって、3 つのレベルで示す。
「④経営戦略の存在」も同
様である。
「⑤全体計画の作成」は、経営計画や事業計画など名称はともかく、全体的
かつ中・長期的な計画を作成しているかどうかである。
「⑥部門計画の作成」は
営業部や生産部といった部門ごとの計画を作成しているかどうかである。基本
的には全体計画に付随するが、直接リンクしていない場合もある。どちらも、
PDCA サイクルの「P」に関係するものである。また、
「⑦現場計画の作成」は、
現場での日々の作業計画等を作成しているかどうかである。
「 ⑧モニタリングの
実施」は、全体計画や部門計画の進捗状況をモニタリングしているかどうかと
その程度を示す。こちらは、「C」に関係している。
①PDCA サイクルのモデル
…1:モデルⅠを完全に運用できている、2:モデルⅠだが、不十分なところが
85
完全には無理なので、形式的にもっとも近いモデルを選んでいる。ただ、その実態は以下の項目で
見 る よ う に 、 会 議 や 計 画 の 中 途 半 端 な 状 態 が 目 立 つ 。 PDCA サ イ ク ル で 見 る と 形 式 的 に 同 じ モ デ ル で
あっても、会議や計画のレベルはさまざまである。
86 た と え ば 、 事 務 方 か ら の 「 こ れ を や っ て 」 と い う 軽 い 指 示 だ け で 、 組 織 と し て の 一 体 感 ( 連 携 ) な
どまったく無く、個人が勝手に動いている状態である。
- 161 -
ある、3:モデルⅢ、4:モデルⅡ、5:不完全な PDCA サイクルですらない
*モデルⅠだが、不十分なところがある:モデルⅠを完全に運用できている企業
に比べ、C(評価)や A(改善)などを中心に精度を欠くため、サイクルがき
ちんと回っていなかったり、上位マネジメントと現場の連携に少し不一致が見
られたりするような場合を指す。結果的に、その効果も不十分である。
②会議の種類
…全体会議、部門会議、現場会議
*該当する(開催している)会議の種類すべてに○を付ける(開催頻度が低かっ
たり、不定期での開催であったりなど、完全に該当するところまではいかない
が、ほぼ該当する場合は、△を付ける)
③経営理念の存在
…1:文書化されている、2:文書化されていないが明確にある、3:存在や内
容が曖昧
④経営戦略の存在
…1:文書化されている、2:文書化されていないが明確にある、3:存在や内
容が曖昧
⑤全体計画の作成
…1:完全に文書化されている、2:文書化されているが不十分、3:文書化さ
れていない、4:存在や内容が曖昧
*文書化されていない:いわゆる「計画書」として改まった文書化はされていな
いが、ホワイトボードの記述であったり、経営者のノートのメモ書きであった
りなど、何らかの形で、計画の存在は確認できるということ(以下同様)
*存在や内容が曖昧:計画の存在自体が確認できなかったり、それらしきメモ等
があっても、それが計画と言えるかどうか内容的に曖昧であったりするという
こと(以下同様)
- 162 -
⑥部門計画の作成
…1:完全に文書化されている、2:文書化されているが不十分、3:文書化さ
れていない、4:存在や内容が曖昧
⑦現場計画の作成
…1:完全に文書化されている、2:文書化されているが不十分、3:文書化さ
れていない、4:存在や内容が曖昧
⑧モニタリングの実施
…1:所定の書式等を用い、モニタリングを している、2:口頭レベルでのモニ
タリングを している 、3:何らかのモニタリングはしているが、思いつきレ
ベルであり、継続性がない、4:モニタリングはしていない
(6)マネジメントのタイプ 87
マネジメントのタイプは、以下の①②で示す。この分類は、筆者が第 3 章で
提示したマネジメントのタイプ分けであり、
「アクションの決定」と「アクショ
ンの実行」の基本構成に則ったものである。「①大分類」は、「何をするか」の
レベルで「必然のマネジメント」なのか「偶然のマネジメント」なのか、
「どう
するか」のレベルで「確実のマネジメント」なのか「曖昧のマネジメント」な
のかをそれぞれ組み合わせ、基本として計 4 通り 88でのパターン分けを行う。
「②小分類」は、さらに詳細なパターンでの分類であり、必然のマネジメン
トを構成する「4 つの型」か偶然のマネジメントを構成する「4 つの型」と、
確実のマネジメントを構成する「2 つの型」か曖昧のマネジメントを構成する
「4 つの型」との組み合わせ、(理論上は)48 通りでのパターン分けを行う。
なお、必然あるいは偶然のマネジメントにも、確実あるいは曖昧のマネジメン
トにも属さない「強制型」もあるが、この事例の中には該当する企業はない。
87
( 4) ~ ( 6) は 、 対 象 期 間 に お け る 、 そ の 会 社 の 通 常 の 状 態 を 表 し て い る 。 そ の 期 間 内 で 、 多 少 の
小 手 先 の 変 化 は あ る が 、会 社 の マ ネ ジ メ ン ト の 本 質( 考 え 方 )は 基 本 的 に 変 わ ら な い 。マ ネ ジ メ ン ト は、
経 営 者 の あ り 方( 本 研 究 で 言 う「 経 営 者 の A 力」)が 影 響 し て い る の で 、経 営 者 が 変 わ ら な い 限 り 、そ
の根本は変わらないのである。
88 た だ し 、
「 必 然 」と「 偶 然 」の 両 方 の 要 素 を 持 っ て い る 場 合 な ど も あ る た め 、実 際 の パ タ ー ン 数 は 増
え る。「 ② 小 分 類 」 も 同 様 で あ る 。
- 163 -
①大分類
…アクションの決定:必然のマネジメントまたは偶然のマネジメント
アクションの実行:確実のマネジメントまたは曖昧のマネジメント
*それぞれ該当するタイプを記載する(両方の要素がある場合は、
「必偶」や「確
曖」と記載する)
②小分類
…必然のマネジメントの 4 つの型:分析型、検討型、直観型、希望型
偶然のマネジメントの 4 つの型:待受型、誘発型、調和型、放任型
確実のマネジメントの 2 つの型:統制型、制御型
曖昧のマネジメントの 4 つの型:適当型、調整型、感覚型、放任型
*それぞれ該当するタイプを記載する(2 つの要素がある場合は、「直観誘発」
や「制御調整」などのように併記する)
(7)業績
これら事例企業の業績については、以下の①②で表す。
「 ①売上高の推移」は、
それぞれの企業の対象期間である 3 年~5 年スパンで見たときの企業の売上高
が上がり基調なのか、下がり基調なのかを示す。この 3 年~5 年の捉え方につ
いては、それぞれの初年度を基準年とし、そこからの 3 年間~5 年間の売上高
の趨勢を眺め、売上高が少なくとも上がっているのか、下がっているのか、横
ばいなのかを判断している 89。
「①売上高の推移」が過去の実績(3 年~5 年間の実績)を見るものである
のに対し、「②改革度×革新度」は、これからの実績の源泉となる活動 である、
企業としての新たな取組みがどの程度できているかを見ようというものである。
そういった活動をしているからといって、必ず実績が上がるという断言はでき
ないが、現状維持ばかりの保守的な活動だけでなく、少なくとも自らを変革し、
前向きに進んでいけるような取組みをしないと、いずれどこかで成長は止まっ
89
基 準 年 を 100 と し て 、95 以 上 ~ 105 以 下 の 間 で 推 移 し て い れ ば「 横 ば い」、105 超 で あ れ ば「 売 上
高 が 上 が っ て い る」、 95 未 満 で あ れ ば 「 売 上 高 が 下 が っ て い る 」 と 判 断 し て い る 。
- 164 -
てしまうのは確かである。そういった未来志向の業績を見る指標として、本研
究では、
「改革度」と「革新度」を用いる 90。それらで、企業の将来性や成長性
などの可能性を探るのである。
この「改革度」と「革新度」は、シュンペーター(J.A.Schumpeter)の新結
合や中小企業新事業活動促進法の新事業活動の考え方を参考に、中小企業の実
態を踏まえ、本研究において独自に設定した基準である。
シュンペーター(1928)は、企業家の機能として、5 つの課題からなる「新
結合」を挙げている。5 つの課題とは、
「新しい生産物または生産物の新しい品
質の創出と実現」、「新しい生産方法の導入」、「工業の新しい組織の創出(たと
えばトラスト化)」、
「新しい販売市場の開拓」、
「新しい買い付け先の開拓」であ
り、これらの新結合を実践していくことが革新であり、それこそが企業家の役
割だとシュンペーターは説いている(Schumpeter,1928,邦訳,pp.30-32)。
この考え方は、平成 17年4月公布・施行された「中小企業の新たな事業活動
の促進に関する法律」でも活かされており、
「新商品の開発又は生産、新役務の
開発又は提供、商品の新たな生産又は販売の方式の導入、役務の新たな提供の
方式の導入その他の新たな事業活動」を「新事業活動」と定義付けし(同法第
2条第5項)、「事業者が新事業活動を行うことにより、その経営の相当程度の
向上を図ること」を「経営革新」と位置付けている(同法第2条第6項)。
現在の事業活動(アクション)を点数化し、将来の業績の見込みを検討する
というのは新しい試みである。過去の業績(結果)だけを議論するのではなく、
現在何をし、それがどのように将来の業績(成果)に結び付くかを議論するこ
とは大事である。上場企業の有価証券報告書のような、結果に基づく分析も必
要であるが、そこで反省したり、後悔したりするような後戻り型の分析ではな
く、厳しい環境ながらも将来に向かってやっていこうという未来志向で前向き
型の分析を行い、それを共有しながら全員で頑張るような雰囲気をつくってい
くことが中小企業には大切なのである。
90 事 例 企 業 の 中 に は 、 対 象 期 間 が 少 し 前 の も の も あ り 、 そ の 後 の 業 績 を 筆 者 が 把 握 し て い る 企 業 も 一
部 あ る が 、 実 際 の 業 績 は 無 視 し、「 改 革 度×革 新 度 」 と い う 枠 組 み で 分 析 を 行 う 。
- 165 -
【図表6-1】「改革度×革新度」のイメージ
〈改革度〉
③管理強化
④イメージづくり
①既存顧客深耕
②高付加価値化
(量的拡大)
(QCD の高度化)
現状
維持
⑦新技術・サービス
⑤新規顧客開拓
導入
⑧新製品開発・
⑥新市場開拓
新技術開発
(海外進出)
〈革新度〉
マトリックス内 の数 字 ①~⑧の配 置 は、中 心 の「現 状 維 持 」からの取 り組 みやすさ
(難 易 度 )をイメージしやすいように、取 り組 みやすいものを近 くに、取 り組 みにくい
ものを遠くになるようにしている。
(出所:筆 者 作 成)
図表 6-1 を見ていく。まず、中央に「現状維持」がある。これは、会社の
現状維持を図ろうとするものであり、新たな取組みをまったくしないという状
態である。
次に、右上の「改革度」のマトリックスである。改革度は、自社の現在の事
業内容(コア)や組織体制をどう磨くかといった取組みがどの程度できている
かを表す。いわば「対内的変革」の指標である。具体的には、大きく分けて 4
つの取組み(活動)がある。
①既存顧客深耕(量的拡大)
:現状の組織スキルを特に磨くことなく、既存顧
客を中心に生産量や販売量を増やす取組み
②高付加価値化:QCD(品質・価格・納期)やサービスを高度化し、現状よ
- 166 -
りも高付加価値を目指す取組み
③管理強化:生産管理や販売管理、顧客管理など、内部の管理体制を強化す
る取組み
④イメージ向上:フィランソロピーや CI(コーポレート・アイデンティティ
ー)など、企業イメージの向上を図る取組み
続いて、左下の「革新度」のマトリックスである。革新度は、新しい製品(技
術)
・市場に向かっていく取組みがどの程度できているかを表す。改革度が「対
内的変革」であることに対し、革新度は「対外的変革」の指標である。具体的
には、大きく分けて 4 つの取組み(活動)がある。
⑤新規顧客開拓:現在の顧客と同じ市場ではあるが、積極的な新規顧客開拓
を行い、売上の拡大を図ろうとする取組み
⑥新市場開拓:現在とは違う市場を開拓し、顧客の獲得を目指す取組み(現
在と同じ市場であっても、海外進出などエリアが大きくチェンジする場合
もこのカテゴリーに含まれる)
⑦新技術・サービス導入:自社にとって新しい技術やサービスを導入し、事
業の拡大を図ろうとする取組み
⑧新製品開発、新技術開発:これまで扱って来なかったような、まったく新
しい製品の開発、技術やサービスを開発し、事業の拡大を図ろうとする取
組み
なお、実際は、
「改革度」と「革新度」の組み合わせだけでなく、それぞれの
グループ内でも組み合わさって、新たな取組みが行われる。たとえば、
「⑦新技
術・サービス導入」によって「⑥新市場開拓」を行うような場合がそうである。
次に、企業としての新たな取組み具合をわかりやすくするために、「改革度」
と「革新度」を数値化し、企業間での比較を可能にする 91。
91
共通の尺度(基準)を用いて、相対的な評価を行うことにより、客観性と公平性を確保している。
- 167 -
改革的取組み
点 数
革新的取組み
点 数
既存顧客深耕
1 ポイント
新規顧客開拓
2 ポイント
高付加価値化
2 ポイント
新市場開拓
3 ポイント
管理強化
1.5 ポイント
新技術等導入
3.5 ポイント
イメージ向上
2.5 ポイント
新製品開発等
4.5 ポイント
(計)
7ポイント
(計)
13ポイント
点数であるが、この 8 つの取組みの中では、一番基本的な活動となる「既存
顧客深耕」を 1 ポイントとしている。これを基準に、各取組みの難易度や、中
小企業での実際の取組み状況などから判断して、点数化している。改革的取組
みの中では「イメージ向上」が 2.5 ポイントで最も点数が高いが、中小企業で
実際にそこまでできている会社は極めて少ない。革新的取組みでは、
「新規顧客
開拓」が 2 ポイントであるが、これは実際の取組み状況が、「既存顧客深耕」
の半分程度であるため、点数では 2 倍の差をつけている。改革的取組みの合計
は 7 ポイント、革新的取組みの合計は 13 ポイントで、革新的取組みの方に約 2
倍のウェイトがついているが、これは「社内的変革」より「社外的変革」の方
が難しく、その分、変革度も高いことを表している。なお、
「現状維持」の点数
は 0 ポイントである。
事例企業に点数をつける際は、そういった取組みを日常的に、あるいは継続
的に行っているかどうかを判断する。どの程度の取組みであるか、また、その
取組みが何か成果に結び付いているかなどを考慮すると、点数が複雑になり過
ぎるので、そういったことは考慮しない。あくまでも、その取組みをやってい
るか、いないかだけで判断する。
- 168 -
第7章
事例分析からの考察
1.本章の位置付け
前章で紹介した中小企業 43 社の事例を分析し、中小企業のマネジメントの
実態を明らかにしていく。特にポイントになるのは、マネジメントのタイプに
対して、本研究でマネジメントの 2 大ツールと位置付けているベテラン・マネ
ジャーと PDCA サイクルとが、実際のマネジメントの中でどのように絡み合っ
て機能しているかである。
そういったポイントを意識しながら、前章で設定した項目(基準)ごとに分
析を加えていく。(1)~(6)まで一通り分析を行い、中小企業の マネジメン
トの全体像を掴み、 最後に(7)で業績との関係について 分析する 。まずはし
っかりと全体を俯瞰し、全体像を明らかにすることが重要である。
2.項目ごとの分析
資料「事例 43 社のマネジメントの実態一覧」では、中小企業を大きく 3 つ
のグループに分けている。左から順にαグループ(資料では青色で表示)、βグ
ループ(資料では黄色で表示)、γグループ(資料では赤色で表示)である。こ
れは、(7)の「①売上高の推移」で、○:上がり基調、△:横ばい基調、×:
下がり基調によってグループ分けしたものである。○がαグループ、△がβグ
ループ、×がγグループである 92。
なお、本文中、「α1」や「β8」、「γ4」などの記述があるが、これらは一覧
表での企業番号(グループごとの番号)により、該当する企業を表している。
92 こ れ は 、
( 1) ~ ( 7) の 各 項 目 に つ い て 、 こ の 順 番 で 、 慎 重 に 確 認 ・ 検 討 し な が ら 評 価 を し 、 一 覧
が 完 成 し た 後 で 、 便 宜 上 、 3 つ の グ ル ー プ に 分 け た も の で あ る。「 売 上 高 の 推 移 」 で 先 に グ ル ー プ 分 け
し て か ら 、各 項 目 を 検 討 、評 価 し た わ け で は な い 。そ れ を す る と 、企 業 ご と の 絶 対 評 価 で は な く 、横 と
見 比 べ な が ら の 相 対 評 価 に な り が ち に な る か ら で あ る 。 な お 、 α グ ル ー プ は 12 社 、 β グ ル ー プ は 19
社 、γ グ ル ー プ は 12 社 で あ る が 、こ れ は 評 価 の 結 果 そ の ま ま で あ り 、グ ル ー プ の 数 は 一 切 調 整 し て い
ない。
- 169 -
(1)企業の概要
①業種
事例 43 社の内訳を見ると、小売業:3 社、卸売業:9 社、製造業:11 社、
加工業:10 社、サービス業:8 社、その他:2 社である。これら 43 社を選ん
だ基準は、前章第 1 項で述べた通りである。
*2 つの業種を兼業している場合は、売上高の多い方をカウントしている
②従業員数
10 人まで:11 社、20 人まで:14 社、30 人まで:8 社、50 人まで:6 社、
100 人まで:2 社、100 人超:2 社という内訳である。αグループは、12 社中
1 社が 10 人までの企業であるのに対し、γグループは、12 社中 6 社が 10 人ま
での企業であり、相対的に小規模の企業の方が伸び悩んでいる様子がわかる 93。
③業歴
10 年まで:8 社、20 年まで:4 社、30 年まで:7 社、50 年まで:15 社、100
年まで:8 社、100 年超:1 社という内訳である。業歴の浅い 10 年までの企業
8 社うち、αグループが 3 社、γグループが 3 社となっており、ベンチャー企
業として一気に業績を上げている企業と、そうでない企業に分かれている様子
がわかる。また、γグループ 12 社には、20 年を超える業歴の企業が 7 社も含
まれている。長くやってきたにも関わらず、いまだに本研究で言う「上手いや
り方」ができていないのである。特に、γ4 とγ10、γ12 は苦しんでいる。こ
の 3 社はいずれも、前目の「②従業員数」が 10 人までである。業種業態にも
よるし、人数が多ければいいということではないが、企業の成長が従業員数に
表れるのも確かである。この 3 社は上手く成長できずに来たのである。
④資本金
1,000 万円まで:29 社、5,000 万円まで:7 社、1 億円まで:5 社、個人事業:
2 社という内訳である。中小企業であるため、圧倒的に資本金が 1,000 万円ま
93
小さいから伸びないのか、伸びないから小さいままなのかは、議論の余地はある。
- 170 -
で、すなわち「資本金 1,000 万円」の企業が多い。資本金が多いからと言って、
必ずしも業績が良いわけではなく、資本金が 1,000 万円超の企業は、αグルー
プにも、γグループにも、3 社ずつである。
⑤売上高(年間)
5,000 万円まで:4 社、1 億円まで:6 社、3 億円まで:11 社、10 億円まで:
16 社、15 億円まで:3 社、15 億円超:3 社という内訳である。事例 43 社の中
心は年間売上高 3 億円超~10 億円までの規模である。売上高 5,000 万円までの
4 社のうちの 3 社、1 億円までの 6 社のうちの 3 社がγグループである。γグ
ループは業績が伸び悩んでいるグループであるため、売上高の低い企業が多く
なるイメージではあるが、実際、売上高は、業種や規模、ビジネスモデルなど
さまざまな要素によって規定されるため、一概に売上高(売上の絶対額)だけ
で業績の善し悪しは判断できない。本研究のテーマはマネジメントであり、そ
ういった要素とは議論の視点が異なるため、ここでは売上高に関する分析は行
わず、企業概要の一項目に留めておく。
(2)事業の特徴
①ビジネスモデル
基本的に、加工業は、その受注形態から「下請・受託型」となり、その他の
業種は「自立・提案型」になる。ただ、注目は、加工業の中でも、積極的な自
立・提案型で動いている企業もあり、それがα2 やβ5 である。加工技術を売
り込むようなビジネスモデルを確立できているのが特徴である。
②営業のタイプ
営業のタイプは、前目のビジネスモデルと大いに関係している。基本的な相
関は、
「自立・提案型」と「攻めの営業」、
「下請・受託型」と「守りの営業」で
ある。注目は、
「自立・提案型」のビジネスモデルでありながら、
「 守りの営業」
になっている企業である。本来なら、攻めなければならない。そういった企業
は 4 社あるが、うち 3 社がβグループ、残り 1 社がγグループである。特に、
βグループの 3 社は、いいところまで来ているのに、もう少しのところで伸び
- 171 -
悩んでいる感がある。また、営業機能がない企業が 7 社あるが、そのうち 4 社
がγグループに属している。確かに業種業態によっては、営業担当者などを置
かずともとりあえずは回る場合もあるが、積極的に営業活動を行い、売上を上
げていかなければいつまで経っても現状からの脱却は難しい。
③研究・企画・開発機能の有無
研究・企画・開発機能を持っている企業は 43 社中 8 社であり、やはり少な
いと言える。中小企業の場合、そういった部署を持ち、そこにヒトを配置する
のは非常に難しい。どこから採用するか、どうやって育成するか、また、そう
いった専門職は、一般的に給与水準も高いため、人件費負担の問題もある。た
だ、そんな中でも、絶対数は少ないながらも、そういった機能を持ち、積極的
な事業展開を図ろうとしている企業があるのは頼もしいことである。8 社中 5
社がαグループだということも理解できる。
(3)経営者の関係
ここから、経営者関係の分析である。第 1 章で述べたように、「中小企業=
経営者」(中小企業は経営者次第)であるため、この項の分析は重要である。
①何代目の経営者か
事例 43 社の内訳は、創業者:17 人、2 代目:23 人、3 代目:2 人、4 代目:
1 人となっている。本研究の事例は、創業者と 2 代目が大半を占めている。
②就任前の状況
創業者は当然ながら「他社で仕事」が多い。他社で経験を積み、独立開業し
たのである。また、2 社は「その他」であり、主婦などから会社を起こした創
業者である。
2 代目や 3 代目の場合、大半が、就任前は「自社で、上位マネジメントの仕
事」している。専務や営業部長などのポジションで経験を積み、経営者に就任
したパターンである。逆に、2 代目や 3 代目でありながら、いったん、
「他社で
仕事」をして、経営者として戻って来ている企業も 5 社ある。いわゆる「修行」
- 172 -
に出ていたところを、先代から呼び戻された形である。
もっと珍しいのが、
「自社の現場で仕事」をしていたパターンである。3 社あ
るが、そのうち 2 社は、現場で一般従業員として働いているうちに、先代経営
者の娘と結婚し、そのまま経営者に就任したものである。
③経営者を経営資源として捉えた場合のタイプ
まず目に付くのが、αグループの経営者には、
「営業マンタイプ」が多いとい
うことである。確かに全体的に営業マンタイプの経営者が多いのだが、12 社中
9 社は他のグループと比べても高い率を示している。経営者自らのトップ営業
で、売上につなげているのである。逆に、γグループで目に付くのが、
「オーナ
ータイプ」の経営者が多いということである。こちらは 12 社中 6 社がそうで
ある。最大の経営資源である経営者が、あまり機能していない様子がうかがえ
る。
また、「親方タイプ」の経営者がいる企業は、16 社ある。筆者はこれまで、
親方タイプは、創業者に多いと推測してきたが、親方タイプの創業者は 7 社し
かなく、2 代目や 3 代目であっても、親方として活躍している経営者がいるこ
とは中小企業にとって好材料である。さらに、親方タイプでありながら、営業
マンタイプでもある経営者がいる企業が、9 社ある。現場もわかり、営業もで
きるという、経営資源的にはスーパー経営者であるが、すべて自分でできる分、
何にでも口を突っ込み、自分で勝手にやってしまうところがある。ワンマンな
経営者の典型である。
④経営者の管理のタイプ
これはαグループとγグループで明らかに分かれる。αグループは「管理タ
イプ」が 12 社中 10 社であり、経営者自ら非常に管理意識が高いことが うかが
える。それに対し、γグループは、12 社中 5 社が「放任タイプ」である(管理
タイプの 7 社も、完全な管理タイプではない)。前目の「オーナータイプ」と
も重なるところがあるが、自ら何もせず、放ってしまっている。仮にそれが、
従業員を信頼し、任せているということであれば、任された従業員のモチベー
ションは高まり、それが業績にも影響してくるのであろうが、そういった従業
- 173 -
員を引き付けるものがないので、業績が悪化しているのである。
放任タイプについては、γグループに多いのは確かであるが、γグループだ
けでなく、αグループやβグループにも結構存在する(両グループ合わせて 9
社)ことも、新たな発見である。同じように放っているのに、上手くいってい
るαグループやβグループと、上手くいっていないγグループとの違いについ
て、そのカギを握っているのが、次目で見る「A 力を構成する 4 つの要素」で
あると考えられる。
具体的に見てみる。αグループとβグループの 9 社の A 力の構成を見ると、
「人間としての魅力」を含む、必ず 2 つ以上の要素を持っていることがわかる。
当然経営者によって組み合わせは変わるので、組み合わせは問題ではない。大
事なことは、複数の要素を持っていることである。複数であるからこそ、それ
が混じり合って、独特の空気感を作り出すのである。一つの要素では、混ざら
ないのである。そして、もう一つ大事なことが、第 1 章でも触れたように、
「人
間としての魅力」があるかどうかである。①この経営者を支え、一緒に働きた
いという思い、②多少怖いところはあるものの、面倒見が好いので、付いてい
きたいという思い、③不安定なところがあるので、自分たちが助けてあげたい
という思いなど、マネジャーや従業員を動かす何か、それが人間としての魅力
なのである。極言すると、放任していても、経営者に魅力があれば、従業員は
動くということである。
逆説的になるが、従業員が動いていないということは、それは、経営者に「人
間としての魅力」がないということである。従業員から何とも思われていない
存在ということであり、自分をそういった無関心ないし無味乾燥な存在にして
しまっているのは、そして、従業員を無気力な状態にしてしまっているのは、
経営者の責任である。実際、γグループの 5 社は、γ3 を除き、
「人間としての
魅力」を持っていないし、複数の要素も持っていない。
A 力を構成する主な要素は、①夢(利益)の提示力、②人間としての魅力、
③現場の把握力、④トップとしての権力であるが、人間としての魅力を含む複
数の要素が混じり合った A 力によって B 機能が働き、それによって作られた「雰
囲気」によって、ベテラン・マネジャーや PDCA サイクルが機能するのである。
- 174 -
⑤A 力を構成する要素
ここのポイントは、すでに述べた通りである。αグループになるほど、バラ
ンスよく複数の要素を持っており、逆にγグループになるほど、あまり要素が
ないのがわかる。また、αグループは 12 社中 9 社が、夢(利益)の提示力が
あるが、βグループでは、19 社中 7 社しかその要素はない。地力はあるにも関
わらず、もう一歩抜け出せないでいるβグループの弱点がそこにもあるように
思われる。
(4)マネジャーの関係
ここでは、マネジメントの 2 大ツールの一つであるベテラン・マネジャーの
実態について見ていく。先述のように、本研究では、ベテラン・マネジャーの
中でも、特に「番頭型マネジャー」に着目している。実際の中小企業の中で、
ベテラン・マネジャー(番頭型マネジャー)はどういった存在なのか、経営者
との関係に注意しながら、分析を進めていく。
①ベテラン・マネジャーの存在
αグループでは、12 社中、存在しているのが 9 社(うち 3 社は準ベテラン・
マネジャー)、βグループでは、19 社中、存在しているのが 12 社(うち 3 社
は準ベテラン・マネジャー)、γグループでは、12 社中、存在しているのは 4
社(うち 4 社とも準ベテラン・マネジャー)である。準ベテラン・マネジャー
を含む存在率で見ると、αグループが 75%、βグループが約 63%なのに対し
て、γグループは約 33%で、やはり極端に存在率は下がる。しかも、γグルー
プは、その全員が準ベテラン・マネジャーである。次に見るように、確かにγ
グループは、比較的小規模の企業も多く、ベテラン・マネジャーが存在しない
8 社のうち、5 社までが 10 人までの企業であるため、そういった存在が生まれ
難いという背景があるかもしれないが、いずれにしろ、組織をまとめていくベ
テラン・マネジャーの不在が、業績に影響を与えていると考えられる。
ベテラン・マネジャー(準ベテラン・マネジャーも含む)が存在していない
企業は全部で 18 社ある。このうち、従業員数が 10 人までの企業は 9 社、20
人までの企業が 4 社、30 人までの企業が 3 社、50 人までの企業が 2 社であり、
- 175 -
総じて、従業員数が少ない企業ほど、ベテラン・マネジャーは存在していない
という傾向がわかる。
一方、業歴で見ると、10 年までの企業は 6 社、20 年までの企業が 2 社、30
年までの企業が 4 社、50 年までの企業が 4 社、100 年までの企業が 2 社であり、
業歴の長さと、ベテラン・マネジャーの存在とには、あまり相関はないという
ことがわかる。第 4 章でも述べたが、長く会社をやれば、自然とベテラン・マ
ネジャーが育ってくるということではないのである。
②ベテラン・マネジャーの昇進ルート
ベテラン・マネジャー29 人(1 社で複数のベテラン・マネジャーがいる場合、
その複数でカウントする)のうち、経営者一族が 11 人、内部昇格が 15 人で、
この 2 つのルートが大半であることがわかる。残り 3 人が外部からの登用であ
り、メインバンクやコンサルティング会社からのものである。
③ベテラン・マネジャーのタイプ
監督型が 14 人、外交型が 10 人、役人型が 13 人、下請型が 1 人である(1
人で 2 つ以上の要素に該当する者もいるので合計は 29 人にはならない)。筆者
は監督型が多いように推測していたが、こうやって比較すると、例外的な下請
型を除き、特にどのタイプのベテラン・マネジャーが多いということではない
ようである。ここでの問題は、どのタイプであるかではなく、次目で見る経営
者との相性である。
④ベテラン・マネジャーと経営者との相性
前項「③経営者を経営資源として捉えた場合のタイプ」と、前目「③ベテラ
ン・マネジャーのタイプ」を比較し、ベテラン・マネジャーが、経営者を補完
できているかどうかを見る。たとえば、経営者が「親方タイプ」で、ベテラン・
マネジャーが「外交型」であれば、相性が合うということになる。ベテラン・
マネジャーの実態を見てみると、β13 とγ3 の 2 社を除いて、経営者と補完関
係にあることがわかる。前章で定義付けした通り、ベテラン・マネジャーは経
営者から信任されていることが重要であるが、その裏付けになっているのがこ
- 176 -
の補完関係である。経営者は自分にないものを持っている、あるいは自分の弱
点を補ってくれるベテラン・マネジャーを頼りにしているのである。
⑤「番頭型マネジャー」かどうか
29 人のベテラン・マネジャーのうち、9 人が番頭型マネジャー(現代版番頭)
に該当している(α6 とβ5 には、二人ずついるため、企業数だと 7 社)。いず
れも、αグループかβグループであり、γグループには存在しない。中小企業
の業績に大きな影響を与える要素の一つに、番頭型マネジャーの存在があるこ
とがここからもわかる。
事例 43 社中、番頭型マネジャーが存在するのはわずか 7 社であり、第 4 章
でも述べたように、その存在は非常に貴重であることがわかる。マネジメント
のもう一つのツールである PDCA サイクルは、企業努力によって、ある程度ま
では構築が可能であるが、番頭型マネジャーはそうはいかない。どうすれば番
頭型マネジャーを獲得あるいは育成することができるかは、また稿を改めるが、
教育訓練で何とかなるようなものではないのである。経営環境が複雑になり、
ますます競争が激しくなる中、仕組みだけでなく、ヒトによって動ける部分を
持っているかいないかが企業の将来を大きく分けると考えられる。また、そう
いったヒト(番頭型マネジャー)の存在が、その企業だけでなく、その業界全
体を強くし、ひいては、世界に負けない日本の競争力を生み出す源泉になるの
である。
⑥「補佐役」としてどのタイプか
これはそれぞれの番頭型マネジャーによって不揃いであり、何か傾向がある
わけでない。ただ、α6 やβ5 のように、複数の番頭型マネジャーがいる場合
は、違うタイプになっており、お互いに補完しながら、経営者を支えているこ
とがわかる。
⑦「小番頭」の存在
事例 43 社中、7 社に存在することがわかる。筆者はもっと多く存在するよう
に推測していたので、それとは異なる結果である。役割として、顧客と現場の
- 177 -
交通整理をする業務課長的マネジャーというだけであれば、確かにもっと存在
するのであろうが、
「番頭精神」を持った「小番頭」となると、こういった少数
になるのが現実ということである。先述の番頭型マネジャー(大番頭)と合わ
せ、こういった小番頭の存在が中小企業を支えていることを考えると、こちら
も早急にその獲得、育成の仕組みを確立する必要がある。
(5)PDCA サイクルの関係
続いて、マネジメントの 2 大ツールのうちのもう一つである PDCA サイクル
について分析を進める。番頭型マネジャーをはじめとするベテラン・マネジャ
ーによるマネジメントをヒトによるマネジメントとすると、こちらは仕組みに
よるマネジメントということになる。ただ、先述のように、実際はこのヒトと
仕組みが合わさってマネジメントを動かしている。極端にどちらか一方という
ことではなく、両方を上手く使いながら、中小企業の現場は動いている。そう
いった実態を明らかにできるかどうかがポイントである。また、ここでは、
PDCA サイクルと合わせて、それに密接に関係する「会議」や「計画」なども
考察していく。
①PDCA サイクルのモデル
事例 43 社の内訳は、モデルⅠを完全に運用できているのが 3 社、モデルⅠ
だが不十分なところがあるのが 6 社、モデルⅢが 7 社、モデルⅡが 17 社 94、不
完全な PDCA サイクルですらないのが 10 社である。やはり典型的な町工場型
であるモデルⅡが圧倒的に多いことがわかる。また、不十分なものも含むモデ
ルⅠの 9 社のうち 5 社がαグループ、4 社がβグループであるのに対し、不完
全な PDCA サイクルですらない 10 社のうち 8 社がγグループである。つまり、
γグループは 12 社中、8 社が不完全な PDCA サイクルすらないのである。こ
のことから、やはり PDCA サイクルと業績は大きく関係していることがわかる。
本来の PDCA サイクルを回すことは、あるいは回すことができれば、良い業績
を生み出すことにつながるのである。
94
モデルⅢとモデルⅡにも、会議の設定や計画の有無などは差があり、実際はそれぞれのモデルの中
でも、さらに細分化されるところである。
- 178 -
また、特に注目すべきは、γグループのうち、γ2、γ6、γ7、γ10、γ11、
γ12 の 6 社で、この 6 社は、不完全な PDCA サイクルですらなく、ベテラン・
マネジャーもいないのである。これでは、恒常的に業績が苦しいのも理解でき
る。αグループにも、同様の企業(α10)があるが、第 3 項第 3 目で少し触れ
たように、α10 には強烈なワンマン経営者がおり、その経営者が有無を言わさ
ず半ば強引に組織を引っ張っているのである。
さらに PDCA サイクルとベテラン・マネジャーの関係で見ていくと、「モデ
ルⅡ」か「モデルⅢ」と、
「準ベテラン・マネジャー」もしくは「ベテラン・マ
ネジャーがいない」の組み合わせが、実に 18 社もある。先述の例えである「中
途半端なベテラン・マネジャーがスリーリング・モデルを回している」ような
状態がまさにこれである。「番頭型マネジャー」か「完全な PDCA サイクル」
かという両極端なマネジメントではなく、実際は、さまざまなレベルのマネジ
ャーとさまざまなレベルの PDCA サイクルが、組み合わさってマネジメントが
されていることがこの 18 社の事例からもわかる。特に意図したわけでなく、
自然とそうなるところに、中小企業の脆さと、逞しさがあるのである。
②会議の種類
会議の種類だけで見ると、部門会議が圧倒的に多く(25 社)、次に現場会議
(15 社)、全体会議(10 社)の順である(2 種類、3 種類の会議を開催してい
る企業があるので、合計は 43 社を超える)。筆者は、現場会議が多いと推測し
ていたが、それとは異なる結果である。後述するが、中小企業のマネジメント
の中心は部門会議なのである。
まず全体的な傾向として、αグループほど会議が盛んであり、γグループで
はほとんど会議はされていないことがわかる。前目の PDCA サイクルの内容と
リンクする結果である。現在、会議をなくしたり、会議の時間を短くしたりと
いった取組みが多く見られる。確かに会議をたくさんすればいいわけではない
が、PDCA サイクルをしっかりと回そうとすると、やはりある程度の会議が必
要なのである。大事なことは、その内容であり、それが企業の PDCA サイクル
の各リング、すなわち、マネジメントの各レベルときちんとリンクしているか
どうかである。
- 179 -
PDCA サイクルのモデルⅠを完全に運用できている企業は 3 社あるが、この
3 社は、
「全体会議-部門会議-現場会議」の 3 つをリンクさせながら行ってい
る。また、モデルⅠだが不十分なところがある企業は 6 社あるが、そのうち 4
社は、同様に 3 つのレベルの会議を行っており、残りの 2 社は、現場会議は行
われていないが、「全体会議-部門会議」の 2 つのレベルの会議はしっかりと
行っている。これらから、モデルⅠのカギを握る会議は、
「全体会議」であると
考えられる。全体会議を行うことにより、それが起点となって、PDCA サイク
ルの各リングが上手く回り始めるのである 95。
モデルⅢの企業を見ると、7社のうち 5 社が「部門会議-現場会議」のパタ
ーンである。モデルⅢは「スリーリング・モデル」であるが、上位マネジメン
トと現場が独立しつつも、緩やかに連動しているのが特徴であり、そういう体
系にリンクした会議の仕方がこの「部門会議-現場会議」のパターンなのであ
ろう。これがモデルⅢの企業の平均的な会議体系であるが、例外的に、現場会
議だけで回している企業も 2 社あり、同じモデルⅢの企業でもそれぞれ のやり
方があることがわかる。
モデルⅡの企業は 17 社あるが、その内訳は、部門会議だけが 11 社、会議を
していないのが 6 社である。筆者は、「現場会議だけ」というのもあるように
推測していたが、実際は「部門会議だけ」が圧倒的である。先述のように、モ
デルⅡは典型的な町工場のモデルであるが、経営者が中心となって、部門に関
することを決め、現場はそれを実行するだけという実態がここからもわかる。
ルーティンな顧客対応ということでは、現場を回すのに一番都合のいいマネジ
メントであるが、逆にいつまで経ってもそこからの成長が難しいのも確かであ
る。全体会議、すなわち、全体レベルの PDCA サイクルまでとは言わないが、
せめて現場のスキルやノウハウなどに関する会議を開き、現場レベルの底上げ
をしていかなければならない。
③経営理念の存在
事例 43 社中、
「文書化されている」が 16 社、
「文書化されていないが明確に
95 例 外 的 に 、 γ 6 に も 全 体 会 議 が あ る が 、 こ れ は 形 だ け の オ ー ナ ー 会 議 で あ り 、 PDCA サ イ ク ル と の
リンクは一切ない。
- 180 -
ある」が 3 社、「存在や内容が曖昧」が 24 社という内訳である。やはり、数的
には「存在や内容が曖昧」が多く、全体の約 56%である。中小企業の場合、ま
だまだ経営理念が確立されていない実態がわかるが、筆者は、
「存在や内容が曖
昧」はもっと多いと推測していたので、そういった意味では推測とは異なる結
果である。ただ、
「存在や内容が曖昧」を、グループごとに見てみると、αグル
ープでは、12 社中 4 社(約 33%)、βグループでは、19 社中 11 社(約 58%)、
γグループでは、12 社中 9 社(75%)と、γグループになるほど明らかにそ
の比率は上がっている。経営理念の業績に与える影響については、筆者は他稿
で述べているが、この結果からも経営理念と業績には因果関係があることは明
らかである。
④経営戦略の存在
これは経営理念よりも、もっと顕著に現れている。
「文書化されている」が 7
社、「文書化されていないが明確にある」も 7 社、「存在や内容が曖昧」が 29
社で、実に約 67%が経営戦略が曖昧な状態である。中小企業において、いかに
将来に目を向けた経営をしていないか、あるいは、できていないかがよくわか
る。日々、現実への対応に終始しているのが実態なのである。特に、γグルー
プは 100%経営戦略が曖昧であり、中・長期的な構想なく経営している実態が
如実に現れている。経営戦略が文書化されている 7 社は、いずれも経営理念も
文書化されている。経営理念を確立し、その実現に向けて経営戦略を策定する
という理想的なやり方が実践できていることがわかる。
⑤全体計画の作成
完全に文書化されている全体計画を持っているのは、11 社である。ただ、こ
のうち、γグループのγ5 とγ6 は、メインバンクから強制されたり、形式的
なオーナー会議に報告したりするための形だけの全体計画であり、実質、全体
計画としてはまったく機能していない。残りの 9 社は、αグループ 5 社とβグ
ループ 4 社に分かれるが、いずれも PDCA サイクルがモデルⅠ(不十分なモデ
ルⅠを含む)である。会社全体の将来への計画をしっかりと作成し、各マネジ
メント・レベルの「P(計画)」にリンクさせているのである。
- 181 -
また、文書化されているが、不十分な企業が 5 社ある。いずれもモデルⅢと
モデルⅡの企業であり、完全ではないものの、全体計画を作成して、PDCA サ
イクルにつなげようと試行錯誤しているのである。
⑥部門計画の作成
部門計画は、11 社で完全に文書化されている。モデルⅠ(不十分なモデルⅠ
を含む)の企業 9 社と、モデルⅡの企業 2 社である。前目の通り、モデルⅠの
9 社の部門計画は、全体計画とリンクしている。また、モデルⅡの 2 社も、不
十分ながらも文書化された全体計画を持っており、その計画とリンクさせよう
としている。
文書化されているが、不十分な部門計画を持っている企業は 10 社あり、そ
の内訳は、モデルⅢが 4 社、モデルⅡが 6 社である。例外となるγ5 を除き、
いずれも全体計画も完全ではないため、PDCA サイクルにもう一つ勢いがつか
ないように思われる。
また、モデルⅡには、部門計画が文書化されてない企業も 9 社ある。つまり、
モデルⅡの企業 17 社は、完全に文書化されている 2 社、文書化が不十分な 6
社、文書化されていない 9 社と分かれており、同じモデルⅡでも部門計画の作
成の程度にはいろいろあることがわかる。モデルⅡは中小企業の典型的なタイ
プだと先述したが、その実態はさまざまなのである。
⑦現場計画の作成
現場計画は、5 社で完全に文書化されている。モデルⅠ(不十分なモデルⅠ
を含む)の企業 9 社のうちの 5 社である。残りの 4 社は、文書化されているが
不十分であり、いずれも不十分なモデルⅠの企業である。また、モデルⅢの 7
社のうち、3 社も現場計画が文書化されているが不十分である。
不完全な PDCA サイクルですらない 9 社をはじめ 96、モデルⅡの 17 社にお
いても、現場計画は曖昧になっている。第 5 章のモデルⅡで説明したように、
現場は作業だけやっていればいいという固定観念があり、改めて現場計画を作
96
不 完 全 な PDCA で す ら な い 10 社 の う ち 、 α10 は、「 文 書 化 さ れ て い な い 」 で あ る 。
- 182 -
成してまでというところまでは、なかなかやっていないのが中小企業の実態で
ある。仮に、全体計画が年単位とすると、部門計画は月単位、現場計画は週も
しくは日単位ということになる。わざわざ週や日で計画を作るより、そんな時
間があれば、その分早く作業をして仕事ないし現場を回す方が、中小企業にと
っては現実的な対応と言えるのである。
⑧モニタリングの実施
所定の様式等を用いて確実なモニタリングを実施している企業は、6 社ある。
PDCA サイクルがモデルⅠの 3 社と、不十分なモデルⅠの企業 6 社のうちの 3
社である。しっかりとチェック(評価)を行い、PDCA サイクルを回している
様子がわかる。口頭レベルのモニタリングを実施している企業は、15 社である。
その内訳は、不十分なモデルⅠの企業 3 社、モデルⅢが 4 社、モデルⅡが 8 社
である。推測と異なり、モデルⅡの健闘が目立つ(17 社中 8 社で、実施率約
47%)。思いつきレベルで実施している企業は、12 社である。内訳は、モデル
Ⅲが 3 社、モデルⅡが 9 社である。不完全な PDCA サイクルですらない 10 社
は、基本的にモニタリング実施の対象外であるが、α10 とγ6 は計画を策定し
ていることから対象となるが、いずれもモニタリングをしていないというのが
実態である。総じて見ると、やはりαグループは高いレベルでモニタリングを
実施しており、12 社中 10 社が、所定の様式か口頭で継続的にモニタリングを
実施している。
(6)マネジメントのタイプ
マネジメントのタイプについては、第 3 章で提示したマネジメントのタイプ
分けに基づいて分析を加えていく。考え方の基本は、
「何をするか」、
「どうする
か」であり、アクションの決定とその実行を意味している。
①大分類
大分類は、
「アクションの決定」を「必然のマネジメント」と「偶然のマネジ
メント」に、
「アクションの実行」を「確実のマネジメント」と「曖昧のマネジ
メント」に、それぞれ分けて、分析するものである。
- 183 -
まず、アクションの決定であるが、事例 43 社の内訳は、必然のマネジメン
トが 25 社、偶然のマネジメントが 8 社、必然&偶然のマネジメントが 10 社で
ある。必然のマネジメントが半数を超えており、自ら仕掛け、積極的にアクシ
ョンを取りに行く姿勢が、そこには現れている。ただ、偶然のマネジメントも
8 社あり、受け身ではあるが、何とかアクションの発生を期待する中小企業の
思惑が見て取れる。
αグループを見ると、12 社中 8 社が必然のマネジメント、残り 4 社も必然&
偶然のマネジメントで、やはり自ら積極的にアクションを決めることは、業績
にも良い影響を与えていると考えられる。逆に、γグループは 12 社中 5 社が
偶然のマネジメントであり、あまり動かず、待っているだけでは業績もなかな
か上向いてこないことがわかる。
分析を進めながら、筆者が改めて認識できたのが、
「必然&偶然のマネジメン
ト」というパターンがあることである。これは、後述する小分類の「直観&誘
発型」などによるものではあるが、現実の中小企業では自ら積極的にいく部分
と、上手く待ちに回る部分の両方を持ち合わせ、上手く使い分けるという強か
さがあるのである。実際、必然&偶然のマネジメントの 10 社のうち、4 社はα
グループ、5 社はβグループであり、一定の業績を上げていることがわかる。
一方、アクションの実行についてであるが、事例 43 社中、確実のマネジメ
ントが 6 社、36 社が曖昧のマネジメント(他に、確実&曖昧のマネジメントが
1 社)で、中小企業の実態として、現場がいかに曖昧かがよくわかる。ただ、
曖昧だからといって、一概に悪いということではなく、それぞれの中小企業の
身の丈に合った、現実に即した現場の対応がそこにはある。確実にマネジメン
トすることよりも、曖昧であっても臨機応変なマネジメントが中小企業には必
要なのである。
ただ、これからの中小企業にとっては、確実なマネジメントも徐々に身に付
けていく必要がある。それは、確実のマネジメント 6 社のうち、4 社はαグル
ープ、残り 2 社はβグループであり、確実のマネジメントの方が、より業績を
上げることができることが示している。また、前述のように、曖昧のマネジメ
ントにも良さはあるが、次目で見るように、あまりにも「いい加減」だと業績
が低迷してしまう。曖昧のマネジメントでいくならば、程良い曖昧さを極めな
- 184 -
ければならない。
②小分類
さらに、もっと細かいパターンで分析していく。必然のマネジメントの 4 つ
の型(分析型、検討型、直観型、希望型)、偶然のマネジメントの 4 つの型(待
受型、誘発型、調和型、放任型)、確実のマネジメントの 2 つの型(統制型、
制御型)、曖昧のマネジメントの 4 つの型(適当型、調整型、感覚型、放任型)
の組み合わせである。
まず、
「アクションの決定」であるが、43 社の内訳は、多い順に、
「必然のマ
ネジメント」では、直観型が 10 社、検討型が 8 社、希望型が 6 社、分析型が 1
社、「偶然のマネジメント」では、放任型が 4 社、待受型が 3 社、誘発型が 1
社であり、「必然&偶然のマネジメント」では、直観&誘発型 が 8 社、直観&
調和型が 1 社、希望&調和型が 1 社である。
こうやって見ると、中小企業におけるアクションの決定は、直観によること
が多い(直観&誘発型や直観&調和型も含めると 19 社)ことがわかる。経営
者やベテラン・マネジャーの直観によって、タイムリーでスピーディーな意思
決定をしているのである。長々と時間をかけた分析でなく、直観によるタイム
リーでスピーディーな意思決定こそが中小企業の得意技であり、それがあって
こそ、小回りを利かせながら軽いフットワークで動けるのである。また、検討
型も 8 社と多く、しっかりとマネジメントしている中小企業の様子がわかる。
この 8 社は、αグループ 4 社とβグループ 4 社であるが、しっかりとしたマネ
ジメントで業績を維持、向上させているのである。さらに特徴的なのは、誘発
型である。誘発単独では 1 社しかないが、直観&誘発型は 8 社もあり、実に 43
社中 9 社が、誘発によってアクション、すなわち仕事を得ていることがわかる。
誘発型は日頃の根回しなどを必要とするが、上手く立ち回りながら、ちゃっか
りと仕事にたどり着いている中小企業の強かさを見ることができる。ただ、分
析していく中で、筆者が改めて認識できたことは、誘発だけでアクションを決
めているのでなく、積極的な意思決定である直観などと結び付いて、実際はア
クションが決定されているということである。なお、放任型 4 社は、いずれも
γグループであり、何もしなければ、恒常的に業績が悪いことも理解できる。
- 185 -
また、
「調和型」も「誘発型」と同様、単独ではなく、希望型や 直観型と結び付
いて、アクションの決定を構成していることがわかる。
次に「アクションの実行」であるが、43 社の内訳は、多い順に、「確実のマ
ネジメント」では、制御型が 5 社、統制型が 1 社、「曖昧のマネジメント」で
は、適当型が 12 社、感覚型が 11 社、調整型が 9 社、放任型が 3 社、適当&調
整型が 1 社、
「確実&曖昧のマネジメント」では、制御&調整型 が 1 社である。
先にも触れたが、制御型 5 社と統制型 1 社はいずれもαグループとβグルー
プであり、まさに確実にマネジメントしている様子がわかる。一方、大半を占
める曖昧のマネジメントは、適当型、感覚型、調整型がほぼ 3 分している。ど
の型になるかは、経営者のタイプや PDCA サイクルのモデル、マネジャー体制
など各企業の実態による。たとえば、小番頭の存在する企業の場合は、小番頭
による交通整理が機能するため、アクションの実行にも調整が働くのである。
いずれにしても、適当型、感覚型、調整型という曖昧なマネジメントではある
が、このように適度にゆとりを持たせた方が、現場は動きやすいというのが実
情であり、中小企業に合ったマネジメント・スタイルと言える。
③組合せ
最後にこれらの組み合わせを確認する。次の表を見ていくこととする。
- 186 -
【図表7-1】事例 43 社のマネジメントのタイプ
大分類
小分類
小分類
大分類
アクション
必然:6型
確実:2型
アクション
の決定
偶然:4型
偶然:4型
の実行
分析
統制
企業
パターンの
数
タイプ
1社
確 実
制御
検討
制御&調整
検討
適当
2社
直観
感覚
5社
直観
調整
3社
直観
適当
2社
直観&誘発
適当
6社
必然&
直観&誘発
調整
1社
直 観 &誘発系:
偶然
直観&誘発
感覚
1社
9社
直観&調和
調整
1社
希望
適当
希望
調整
3社
希望
感覚
2社
希望&調和
適当
1社
待受
感覚
2社
待受
調整
1社
誘発
適当&調整
1社
放任
感覚
1社
放任
放任
3社
必 然
必 然
5社
検討系:9社
検討
確実&曖昧
曖 昧
1社
堅実のマ
ネジメント
直観系:10社
柔軟のマ
ネジメント
1社
希望系:7社
必然&偶然
偶 然
待受系:4社
放任系:4社
43社
6系43社
事例 43 社を図表 7-1 のように整理した。まず試みたのが、事例 43 社をマ
ネジメントのタイプ(型)の組み合わせによっていくつかのグループに分類す
ることである。ここでは、「アクションの決定」を基軸に分類を行った。結果、
- 187 -
検討系 9 社、直観系 10 社、直観&誘発系 9 社、希望系 7 社、待受系 4 社、放
任系 4 社の計 6 系に分類することができた。
筆者が特に注目しているのは、
「検討系」と「直観&誘発系」である。検討系
は、第 3 章で「しっかり-きっちり」とした「検討-制御型」の 5 社を中心と
した 9 社が、堅実なマネジメントを展開している。一方の直 観&誘発系は、
「直
観&誘発-適当型」の 6 社を中心とした 9 社が、柔軟なマネジメントを展開し
ている。これも第 3 章で述べたが、本研究では「ちゃっかり-ざっくり」であ
る「誘発-適当型」を中小企業の典型的なパターンの一つと認識していたが、
前述のように、
「誘発」は単独では存在しにくく、実際は「直 観」と合わさって
アクションの決定を構成していることから、図表 7-1 で改めて明らかになっ
た「直観&誘発-適当型」を「ひらめきちゃっかり-ざっくり」として、中小
企業の典型的なパターンとしてここに捉え直すこととする。
また、図表 7-1 から新たにわかることは、直観系や希望系もある程度の割
合で存在しており、特に 10 社からなる直観系は十分な存在感を持っており、
その中心である「直観-感覚型」も中小企業の典型の一つと捉えることも必要
であることである。
【図表7-2】中小企業のマネジメントのパターン:2大典型 プラス α
直観&誘発-
検討-制御型
適当型
+
直観-感覚型
(出所:筆 者 作 成)
- 188 -
こうした考察の結果、筆者が従来より中小企業の 2 大典型と捉えていた「検
討-制御型」と「直観&誘発-適当型」
(当初の考察では「誘発-適当型」)に、
プラスαの形で、「直観-感覚型」が加わり、その 3 つのパターンを基軸とし
た 6 系のパターンによって、中小企業のマネジメントは成り立っているのであ
る【図表 7-2】。
「検討-制御型」は、
「必然×確実のマネジメント」であり、まさに「堅実の
マネジメント」である。それに対し、
「直観&誘発-適当型」は「必然&偶然×
曖昧のマネジメント」、「直観-感覚型」は「必然×曖昧のマネジメント」 97 で
あり、この両者は「柔軟のマネジメント」である。中小企業の主流は、この柔
軟のマネジメントなのである。
なお、詳細は次項で述べるが、
「検討-制御型」5 社と「直観&誘発-適当型」
6 社は、いずれもαグループとβグループであり、業績はある程度順調に推移
していると言える。「直観-感覚型」5 社は、αグループ 1 社、βグループ 3
社、γグループ 1 社に分かれる。好不調の波があり、「検討-制御型」や「直
観&誘発-適当型」に比べると、業績的には不安定な面は否めない。また、希
望系の企業群は特にこれといった型がないので、希望系としてまとめて 7 社の
判断になるが、7 社のうち 5 社がγグループであり、業績的にはかなり厳しい
ことがわかる。
④アナザーマネジメント
第 3 章で述べた、マネジメントに似て非なるものである「 アナザーマネジメ
ント」の概念は、「偶然×曖昧のマネジメント」であったが、それは、「誘発 -
適当型」を想定したものであった。ただ、実際は、
「直感&誘発-適当型」が中
小企業の典型となるタイプであることが、これまでの一連の分析から明らかに
なった。ゆえに、これ以降は、原則として、
「必然&偶然×曖昧のマネジメント」
を「アナザーマネジメント」と位置付けることとする。ただ、アナザーマネジ
メントの概念はあくまでも「偶然×曖昧のマネジメント」であり、その原則を
踏まえつつ、文脈によって適宜使い分けることとする。
97
単 純 に 数 だ け で 言 う と 、 こ の 「 必 然 ×曖 昧 の マ ネ ジ メ ン ト 」 が 一 番 多 い ( 43 社 中 18 社 )。 た だ 、 こ
のパターンは業績も不揃いであり、括りのとしての特徴や傾向は見出しにくい。
- 189 -
(7)業績
最後に事例 43 社の業績について見ていく。先述のように、本研究では、業
績について、「過去の実績」と「未来の予測」という 2 つの視点から検討を加
えていく。
①売上高の推移
売上高の推移は、
「過去の実績」である。本章の冒頭で確認したように、その
基調によって、「αグループ」、「βグループ」、「γグループ」の 3 つに分け、
これまでの分析の中で見てきた通りである。
②改革度×革新度
ここで用いる、業績評価基準である「改革度×革新度」は、
「未来の予測」で
ある。本研究では、過去の実績である売上高の推移よりも、こちらを業績とし
て重視している。なぜなら、過去の実績は、結果としての数値は明らかである
が、その原因が曖昧であり、どういった要因がどのように作用して、そういう
結果になったかの因果関係を明らかにすることが非常に難しいからである。
その点、
「改革度×革新度」を用いた業績の場合、未来の予測という不確定な
側面は否めないものの、企業の取り組みである「原因」は明らかであり、それ
による「結果」はごく自然な流れによる判断ないし評価と言える。過去の実績
と未来の予測を上手く組み合わせて、事例 43 社の実績を見ていく。「改革度×
革新度」は、改革度、革新度を別々に検討した後で、合わせて判断する。
a)改革度
改革度は、
「対内的変革」の指標である。自社の事業内容や組織を磨き上げる
ための取組みがどの程度できているかを表すものである。事例 43 社では、最
低 0 ポイントから最高 4.5 ポイントの幅で分布しており、その平均は、2.2 ポ
イントである。グループごとに見てみると、αグループ 12 社の平均は 3.2 ポ
イント、βグループ 19 社の平均は 2.3 ポイント、γグループ 12 社の平均は 0.9
ポイントで、やはり業績(過去の売上高推移)が好調なグループほど、改革度
- 190 -
は高いことがわかる。つまり、未来の業績もそういった基調であろうことが予
測できる。
次に、マネジメントのタイプで見てみる。改革度 3 ポイント以上の企業 21
社の内訳は、大分類だと、「必然×確実のマネジメント」が 6 社、「必然×確実
&曖昧のマネジメント」が 1 社、「必然×曖昧のマネジメント」が 7 社、「必然
&偶然×曖昧のマネジメント」が 6 社、「偶然×曖昧のマネジメント」が 1 社
である。「必然×確実のマネジメント」の企業(「必然×確実&曖昧のマネジメ
ント」も含む)は 7 社あるが、やはり 7 社とも 3 ポイント以上上げており、こ
のタイプの企業は堅実な経営をしていることがわかる。その一方で、アクショ
ンの決定は必然(あるいは「必然&偶然」)であっても、アクションの実行は曖
昧なマネジメントの企業も 13 社あり、必ずしも曖昧なマネジメントが良くな
いとは言い切れないことがここからもわかる。
さらに、改革度 3 ポイント以上の企業 21 社をマネジメントのタイプの小分
類で見てみる。内訳は、検討-制御型が 5 社、検討-適当型が 2 社、検討-制
御&調整型が 1 社、分析-統制型が 1 社、直観-感覚型が 2 社、直観-適当型
が 2 社、直観&誘発-適当型が 5 社、希望&調和-適当型が 1 社、希望-調整
型が 1 社、待受-調整型が 1 社である。
本研究において元気な中小企業の 2 大典型とする「検討-制御型」は 5 社の
うち 5 社とも、「直観&誘発-適当型」は 6 社のうち 5 社が改革度 3 ポイント
以上である。これら 2 大典型を中心に、改革度の高い企業は構成されているこ
とがわかる。検討-制御型は PDCA サイクルを確実に回すことにより、直観&
誘発-適当型は番頭型マネジャーあるいは経営者が的確に差配することにより、
対内的変革を行っているのである。
b)革新度
革新度は、
「対外的変革」の指標である。新しい製品や新しい市場に向かうた
めの取組みがどの程度できているかを表している。事例 43 社では、0 ポイント
から 13 ポイントまでの範囲で分布しており、その平均は、2.6 ポイントである。
グループごとに見てみると、αグループ 12 社の平均は 6.1 ポイント、βグル
ープ 19 社の平均は 1.3 ポイント、γグループ 12 社の平均は 1.4 ポイントとな
- 191 -
っている。αグループの革新度が図抜けており、βグループやγグループを大
きく突き放している。この革新度は未来の予測ではあるものの、中小企業にと
って革新的な取組みをすることがいかに重要かがよくわかる。また、平均だけ
で見ると、βグループとγグループでは革新度に差がない。これまでの各項目
(基準)の分析では、
「αグループ→βグループ→γグループ」といった傾向で
あったが、革新度については、「αグループ→β・γグループ」となっており、
明らかに構図が違っている。ここに大きなポイントが隠れている。
革新度が 5 ポイント以上の企業は 11 社である。このうち 10 社はαグループ
である。マネジメントのタイプの大分類で見ると、
「 必然×確実のマネジメント」
が 3 社、「必然×曖昧のマネジメント」が 4 社、「必然&偶然×曖昧のマネジメ
ントが 4 社」という内訳である。このように大分類で見るとあまり傾向は見え
てこない。これを小分類で見ると、検討-制御型が 2 社、検討-適当型が 1 社、
分析-統制型が 1 社、直観-感覚型が 1 社、直観-適当型が 1 社、直観&誘発
-調整型が 1 社、直観&誘発-適当型が 1 社、直観&誘発-感覚型が 1 社、希
望-適当型が 1 社、希望&調和-適当型が 1 社となっている。
傾向が不揃いな ため 、ここでは、革新的な取組みを 行うことを決めたのは、
「アクションの決定」であるので、アクションの決定の視点を軸に分析を進め
る。革新度 5p 以上の 11 社をアクションの決定の 8 つのタイプ(型)で言うと、
検討型(「分析」も含む)が 4 社、直観型(「直観&誘発」も含む)が 5 社、希
望型(「希望&調和」も含む)が 2 社である。前項で見たように、中小企業の
アクションの決定は「直観」によることが多い(事例 43 社中 19 社)ことから、
直観型の企業が 5 社入っているのはある意味当然の結果と言えるが、そのこと
を踏まえても、4 社入っている検討型は、やはりしっかりと革新的な取組みが
できていると考えられる。また、革新度が高い企業として、希望型が 2 社も入
っているのは注目である。希望型(「希望&調和」も含む)は 43 社中 7 社しか
なく、そのうちαグループに属する 2 社の革新度が高い。ただ、残りの 5 社は
いずれもγグループであり、革新度(改革度も含め)は低い。経営者等の希望
によってアクションが決まる「希望型」の場合、その経営者の興味が上手く革
新的な取組みに向いていればいいが、そうでないと、残り 5 社のように伸び悩
むことになるのである。
- 192 -
α3 やβ10、β17 のように、せっかく第 2 項第 3 目で確認した「研究・企画・
開発機能」を有しているにも関わらず、上手く機能させることができず、まだ
まだ「高付加価値化」に留まっている企業が多い。
また、
「新規顧客開拓」は営業担当者による直接の営業活動によるものだけと
は限らないので 98、β3 やβ5、β11 のように、営業のタイプが「守りの営業」
あっても、既存顧客の維持に重きを置きながらも、新規顧客開拓を行っている
企業もある。
c)改革度×革新度
最後に「改革度×革新度」で、未来予測の業績を見ていく。事例 43 社では、
0 ポイントから 17.5 ポイントまでの範囲で分布しており、その平均は、4.8 ポ
イントである。グループごとに見てみると、αグループ 12 社の平均は 9.3 ポ
イント、βグループ 19 社の平均は 3.5 ポイント、γグループ 12 社の平均は 2.3
ポイントとなっている。前述のように、革新度の高いαグループが他の 2 グル
ープを大きく引き離している。βグループとγグループの差は 1.2 ポイントで
あるが、この差は改革度の差である。つまり、αグループとβグループを分け
るのは「革新度」の違いであり、βグループとγグループを分けるのは「改革
度」の違いなのである。何もしなければ業績は下がり基調になり、改革(対内
的変革)をすると、業績は横ばい(維持)になるが、上がるところまでは難し
い。改革に加え、革新(対外的変革)までできて、はじめて業績は上がり基調
になるのである。
改革度+革新度が 5 ポイント以上の企業は全部で 20 社である(αグループ
は 12 社すべて、βグループは 6 社、γグループは 2 社)。マネジメントのタイ
プの大分類で見ると、「必然×確実のマネジメント」が 5 社、「必然×曖昧のマ
ネジメント」が 7 社、「必然&偶然×曖昧のマネジメント」が 6 社、「必然×確
実&曖昧のマネジメント」が 1 社、「偶然×曖昧のマネジメント」が 1 社とい
う内訳である。これまでも見てきたように、
「必然×確実のマネジメント」と「必
然&偶然×曖昧のマネジメント」の 2 つの軸を中心に構成されていることがわ
98
たとえば、経営者自らのトップ営業やホームページ等のツールを使ったものもある。
- 193 -
かる。
これを小分類でみると、検討-制御型が 4 社、分析-統制型が 1 社、検討-
適当型が 2 社、検討-制御&調整型が 1 社、直観-感覚型が 2 社、直観-適当
型が 2 社、直観&誘発-適当型が 3 社、直観&誘発-調整型が 1 社、直観&誘
発-感覚型が 1 社、希望&調整-適当型が 1 社、希望-適当型が 1 社、待受-
調整型が 1 社という内訳である。
「検討-制御型」の 5 社のうち 4 社が 5 ポイント以上上げており、「分析-
統制型」の 1 社と合わせ、そういった堅実なマネジメントの企業が、「改革度
×革新度」が高いことが改めてはっきりとわかる。
その一方で、本研究で中小企業の 2 大典型と位置付けている「直観&誘発-
適当型」は 6 社中 3 社しか 5 ポイント以上上げることができず、「改革度×革
新度」という指標で見ると苦戦している。その苦戦している 3 社はいずれも β
グループであるが、その 3 社に共通する理由は、改革度は高いが、革新度が低
いということである。つまり、
「直観&誘発-適当型」を仕掛けている番頭型マ
ネジャー(企業によってはワンマン経営者)は保守的なマネジメントには強い
が、革新的なマネジメントは少し苦手なのである。このことは、第 4 章で見た
番頭型マネジャーの個性とも一致する。
なお、第 3 のパターンである「直観-感覚型」は、5 社中 3 社が 3 ポイント
(いずれもβグループ)であり、残り 2 社がそれぞれ 8 ポイント(αグループ)
と 5 ポイント(γグループ)である。文字通り「直観と感覚」であるため、業
績に波が生じやすく、分散している様子がわかる。
- 194 -
【図表7-3】事例 43 社の「改革度+革新度」の分布
13
⑥
・色分けはグループ*、番号は一覧表と一致
↑
は、検討-制御型
12
は、「検討 -制御型」以外の検討系
は、直観&誘発-適当型
11
は、「直観&誘発-適当型 」以外の直観
Dゾーン
10
系、直観&誘発系
は、その他
革
9
⑦
②
Cゾーン
8
イ
7
③
新
6
⑫
⑤
⑧
①
④
⑩
5
⑪
Aゾーン
4
度
Bゾーン
3
⑦
2 ⑪
⑧
⑲
⑰
⑦ ⑨ ⑪
① ②
⑱
③
⑨ ⑬
⑤
⑨
ロ
1
↓
②⑥
⑫
⑩
0
③
⑤ ⑩
⑮④ ④
1①
←
⑥
⑫ ⑭
2
改
3
⑯
⑧
4
革
5
度
*青色は α グループ、黄色 は β グループ、赤色は γ グループを示す
- 195 -
6
→
7
ここで改めて、事例 43 社をマトリックスに整理をしてみる【図表 7-3】。全
体を俯瞰することにより、その趨勢を確認する。特に、2 大典型と位置付ける
「検討-制御型」と「直観&誘発-適当型」のポジションを中心に見てみる。
なお、図表中の「検討系」や「直観系」などは、図表 7-1 の「パターンのタ
イプ」による。
A ゾーン:改革度 3 ポイント未満、革新度 5 ポイント未満
事例 43 社中、18 社がこのゾーンである。αグループの企業はここには含ま
れない。γグループ 12 社のうち、9 社がこのゾーンであり、γグループの企業
は改革度、革新度ともに低いことが改めてわかる。また、
「検討-制御型」や「直
観&誘発-適当型」の企業はこのゾーンにはなく、それらのタイプの企業は一
定の改革力、革新力を持っていることがここからも わかる。なお、第 3 のパタ
ーンである「直観-感覚型」は、5 社中 3 社がこのゾーンであり、
「直観-感覚
型」の大まかな傾向がうかがえる。
B ゾーン:改革度 3 ポイント以上、革新度 5 ポイント未満
事例 43 社中 14 社がこのゾーンである。そのうち、
「検討-制御型」
(その他
の「検討系」も含む)が 5 社、「直観&誘発-適当型」が 5 社であり、その 2
つのタイプがここでは目立つ。特に、「直観&誘発-適当型」は 6 社中 5 社が
このゾーンであり、改革度 3 ポイント以上、革新度 5 ポイント未満が、「直観
&誘発-適当型」の標準的なレベルであることがわかる。
C ゾーン:改革度 3 ポイント未満、革新度 5 ポイント以上
事例 43 社中 4 社がこのゾーンである。絶対数が少ない(全体の約 9%)こと
から、そもそもこのパターンはあまり存在しないことがわかる。中小企業の成
長には段階があり、基本として、まず対内的変革(改革)、次に対外的変革(革
新)という大きな流れがある。対外的変革が先行するというパターンはあまり
ないということを示唆している。
D ゾーン:改革度 3 ポイント以上、革新度 5 ポイント以上
- 196 -
事例 43 社中 7 社がこのゾーンである。また、その 7 社はすべてαグループ
である。7 社のうち 4 社が「検討-制御型」
(その他の「検討系」も含む)であ
り、しっかりと検討してアクションを起こしている企業は、手堅く業績を上げ
ている(未来予測なので「上げるであろう」)ことがわかる。
このように見てくると、やはり「検討-制御型」をはじめとする検討系の企
業の業績が高いことがわかる。検討系の企業は、αグループでかつ D ゾーンに
プロットされており、これは、過去の業績(売上高の推移)も未来の業績(改
革度×革新度)も高いことを意味する。また、D ゾーンでない企業も、B ゾー
ンにはプロットされており、革新度は低くても、改革度は高いことから、未来
の業績にも一定の期待ができる(点線枠イ参照)。
一方、ほとんどが B ゾーンに生きる(プロットされている)「直観&誘発-
適当型」の生きる術は、巧みに現状維持を図りつつ、上手く対内的変革を図っ
て、少しずつ業績を上げることである。対外的変革にも積極的に取り組み、早
い目のスピードで業績を上げようとする「検討-制御型」の企業に対し、自社
に合ったペースで、身の丈に合ったスピードで業績向上を図ろうという「直観
&誘発-適当型」の企業の生き様が見て取れる(点線枠ロ参照)。
- 197 -
結
章
研究の成果と限界
本研究のまとめとして、一連の考察と検証から得られた結論と、残された課
題について述べる。本研究の目的でもある「中小企業のマネジメントの実態の
解明」というテーマに基づき、研究の成果と限界を明らかにしていく。
本章では、まず、中小企業経営のカギを握っている経営者についてまとめる。
次に、本研究におけるマネジメントの捉え方を明らかにした上で、マネジメン
トのタイプ別の分類について、もう一度整理をする。また、マネジメントのツ
ールである「番頭型マネジャー」と「PDCA サイクル」についても整理をし直
す。そして、中小企業のマネジメントの実態を加味しながら、業績との関係を
明らかにし、成果のまとめとして、中小企業のマネジメント体系(経営体系)
を提示する。
また、課題として、研究の限界を明らかにするとともに、これからの研究の
方向性を示し、最後に、中小企業の経営者への提言を行う。
1.中小企業における経営者の存在感
はじめに、中小企業における経営者の存在感を明らかにする。中小企業にと
って、経営者とは、いかなる存在なのであろうか。本編でも触れたが、オーナ
ー社長が多い中小企業にとって、経営者には 2 つの顔がある。マネジメントの
責任者としてのトップ・マネジャーとしての顔と、株式の過半数を持つオーナ
ーとしての顔である。
「オーナー・マネジャー」と言ってもいい。そういった意
味で、大企業のように所有と経営の分離の進んでいない中小企業においては、
経営者は絶大な存在感を持つ。第 1 章で述べたように、「中小企業=経営者」
のイメージは明らかであり、経営者は自分の判断で、自分の持ち物である会社
を、自分のために経営しているといっても過言ではない。個人としての理想や
欲望など、オーナーとしての立場と、組織としての方向性や戦略など、トップ・
マネジャーとしての立場が一致している場合はいいが、そうでない場合であっ
ても、どこかで折り合いをつけながら経営者は会社を運営しているのである。
そして、よほどのワンマン社長ならともかく、そうでなければ、適宜部下(マ
ネジャー)を使って、あるいは会議などで合意形成を経て、オーナー・マネジ
- 198 -
ャー色を程よく薄めながら、そして権限委譲や仕組みによって自分への言い訳
を可能にしながら、組織運営に当たっているのが実情である。
ただ、いくら程よく薄めようとも、オーナー・マネジャーとしての存在感は
相当なものがあり、常に、何らかの形で、組織に影響を与えているのも確かで
ある。トップ・マネジャー色はまだしも、オーナー色はどうやっても薄められ
ない。そういったオーナー・マネジャーの持つ存在感を、本研究では「A 力」
として考察を加えた。先行研究では、経営者にとって重要な資質として、
「人間
性」、
「柔軟性」、
「決断力」の 3 つが挙げられているが、筆者の言う A 力は、既
述のように、①夢(利益)の提示力、②人間としての魅力、③現場の把握力、
④トップとしての権力の 4 つの要素を中心に構成される。43 社の事例の検証で
「人間としての魅力」を含む複数の要素を持つ経営者の A 力が、中小企業には
プラスの影響を与えることが示唆されている。人間としての魅力というのは、
曖昧な概念であることは否めないが、会社が人の集まった組織である以上、そ
のトップである経営者に従業員たちを引きつける何らかの魅力があるかどうか
は大きなポイントであることは間違いない。それが積極的な誘引でない場合も
含めてである。また、残りの 3 つの要素のうちでは、「夢(利益)の提示力」
が業績に大きな影響を与えていることも示唆されている。共通するビジョンに
向かって、この社長と一緒に、この社長を助けて、頑張ろうとする中小企業の
姿が見て取れる。
この A 力を第 1 章では、「わがまま力」と置き換えた。オーナー・マネジャ
ーのうち、オーナーとしての個人的な願望による影響力を表す言葉であるが、
この「わがまま力」とそれに連動して機能する B 機能(思い通り機能)によっ
て、中小企業にはそれぞれ独自の空気感(雰囲気)が作られ、その空気感が企
業のマネジメントの方向性に間接的に影響を与え、支配するのである。つまり、
B 機能は、経営者の A 力を、経営者の思い通りになるような空気感(雰囲気)
に変える変換器のようなものなのである。
そして、実際、経営者の「人間としての魅力」と「夢(利益)の提示力」に
よって前向きな空気感が作られ、その空気感によって上手く方向付けされた中
- 199 -
小企業の業績が向上しているのは、 すでに検証した通りである 99 。すなわち、
中小企業のマネジメントは単純な「経営理念→何をするか→どうするか」とい
う平面的な構造だけでなく、そこに「A 力-B 機能」を加味した、立体的な二
層構造(「クラウド構造」)によって成り立っているのである。管理や戦略、ア
クションといったマネジメントだけを考えるのではなく、 経営者の「A 力-B
機能」も加味しながら考えなければならないところに中小企業のマネジメント
の第一の特徴がある。
また、本研究では、経営者を経営資源(経営機能)の一つとして捉え、①親
方タイプ、②研究者タイプ、③営業マンタイプ、④事務員タイプ、⑤オーナー
タイプの 5 つのタイプに分けて、検証を行った。結果、経営者自らが営業マン
として機能することによって、中小企業の業績にプラスの影響を与えることが
明らかになった。その背景には、大きな傾向として、営業マンタイプは検討-
制御型と、親方や研究者タイプは直観&誘発-適当型と、それぞれ関係してい
ることがある。また、どのタイプの経営者であれ、ベテラン・マネジャーを頼
りにし、補完関係を築くことが業績向上につながることも示唆されている。
2.中小企業におけるマネジメントの捉え方
中小企業においては、いわゆる「マネジメント」と、マネジメントと似てい
るがどうも違う「マネジメントに似て非なるもの」があるというのが、本研究
の出発点でもあった。そこで、まず明らかにしたのが、そもそも「マネジメン
トとは何なのか」である。そのために、本編では、中小企業論と管理会計論の
先行研究の議論から、マネジメントを構成するものとして、大きく 3 つの要素
を抽出した。それは、①プロセスを重視すること、②計画等によって管理する
こと、③コントロールすること、である。それに基づいてマネジメントの定義
付けを行い、
「マネジメントとは、きちんと計画を立て、管理のプロセスに則っ
99 A 力 が 「 人 間 と し て の 魅 力 」 を 中 心 に B 機 能 を 通 じ て 何 ら か の 影 響 を 与 え て い る の は 確 か だ と 考 え
ら れ る が ( 実 際 に 業 績 に は 反 映 さ れ て い る )、 マ ネ ジ メ ン ト の ど の 要 素 に 結 び 付 い て い る か 、 ま た マ ネ
ジメントのタイプとどう関連しているかの傾向は、分析からは特に見出すことができなかった。ただ、
そ れ は 逆 説 的 に は 、雰 囲 気 を つ く り 、マ ネ ジ メ ン ト 全 体 に 影 響 を 与 え て い る と い う こ と の 表 れ で あ る と
も考えられる。
- 200 -
てコントロールすることである」と、一般的なマネジメントの考え方を明らか
にした。
そういった一般的なマネジメント概念を踏まえ、中小企業の実態に基づいて
考察を重ねた結果、本研究における中小企業のマネジメントの定義を明確にす
ることができた。それが「アクションの決定と、その実行を司ること」である。
これは「何をするか」
「どうするか」という事業活動の根本、すなわち、現場が
動く根本を問うものであり、経営者の描く理想(経営理念)を組織として実現
し、結果として、企業(経営者および従業員)に利益をもたらすものである。
そして、意思決定と実行(統制、影響)の先行研究を確認した。そこで、意
思決定では直観と分析について、実行については統制等について議論を展開し
ている。その中で本研究のポイントは、意思決定において、先行研究で取り上
げられている自律的な「攻めの意思決定」だけでなく、他律的な「待ちの意思
決定」もあることを明らかにしたことである。また、実行については、あえて
統制しないようなやり方も中小企業にはあることを示している。
それらを踏まえ、アクションの決定と実行をそれぞれ 2 つの視点で切り分け
た。アクションの決定については、
「必然のマネジメント」と「偶然のマネジメ
ント」、アクションの実行については、「確実のマネジメント」と「曖昧のマネ
ジメント」である。本研究ではタテとヨコの組み合わせ、つまり 2×2 の 4 つ
の象限によってマネジメントを構成しているところに特徴がある【図表結-1】。
【図表結-1】マネジメントの4つの象限
必然のマネジメント
確実のマネジメント
偶然のマネジメント
曖昧のマネジメント
(出所:筆 者 作 成)
- 201 -
そして、そういった全体を広義のマネジメントと捉え、それに対して、
「必然
×確実のマネジメント」を「狭義のマネジメント」、「偶然×曖昧のマネ ジメン
ト」を「マネジメントに似て非なるもの」として位置付けている。本研究では、
この「マネジメントに似て非なるもの」を「アナザーマネジメント」という新
たな概念として捉えている 100。既述のように、アナザーマネジメントには、気
配りや根回しをし、周りとの調和を重んじ、争わずに丸く収めるというような
ニュアンスからの日本的な「和」あるいは「輪」
「話」という特徴がある。同業
他社を無闇に押し退けたり、出し抜いたりしない。競争を第一とせず、お互い
様の精神で上手く棲み分け、必要に応じて合従連衡するという中小企業が生き
残っていくための術、すなわち戦略がそこにはあるのである。
「ちゃっかり」と
タイミングを待っているのである。積極的に動くのではなく、消極的とも取れ
る「待つ」というある意味「悟り」のような趣もある。ただ、それは組織対組
織の損得だけでなく、人対人の付き合いによって成り立つ、
「信頼のマネジメン
ト」でもある。
本研究では、
「必然のマネジメント」と「偶然のマネジメント」、
「確実のマネ
ジメント」と「曖昧のマネジメント」をそれぞれさらに細分化し、その組み合
わせを検証している。その中で、
「検討-制御型」と「誘発-適当型」について、
これらが「しっかり-きっちり」と「ちゃっかり-ざっくり」という中小企業
の典型的なパターンであることを示した 101。また、分析の結果、それらに加え、
「直観-感覚型」も多いパターンであることが明らかになった。その 3 つのパ
ターンを基軸に中小企業のマネジメントは成り立っているのである。そして、
その体系は 6 系統に分類できる。そのうちの検討系を「堅実のマネジメント」、
直観系と直観&誘発系を「柔軟のマネジメント」として捉え、中小企業の主流
は柔軟のマネジメントであることを指摘している。
100
「 ア ナ ザ ー マ ネ ジ メ ント 」は 、概 念 と し て は「 偶 然 ×曖 昧 の マ ネ ジ メ ン ト 」で あ る が 、第 7 章 で 述
べ た よ う に 、 実 際 は 、「 必 然 の マ ネ ジ メ ン ト 」 も 入 り 混 じ っ た 「 必 然 & 偶 然 ×曖 昧 の マ ネ ジ メ ン ト 」 と
して成り立っている。
101 第 7 章 で 述 べ た よ う に、
「 誘 発 - 適 当 型 」は 、厳 密 に は「 直 観 & 誘 発 - 適 当 型 」で あ り 、そ れ は「 ひ
らめきちゃっかり-ざっくり」である。
- 202 -
3.マネジメントの2大ツール
前述で明らかにした中小企業のマネジメンの捉え方であるが、それを実際に
動かすのはヒトと仕組みである。ヒトを考えるとき、その中心はマネジャーで
あり、なかでも本研究ではベテラン・マネジャーに注目している。その究極と
して位置付けたのが、
「番頭型マネジャー」である。番頭型マネジャーとは、
「会
社(主家)の存続のために、経営者を補佐し、あるいは経営者に代わって、会
社を取り仕切る、
“番頭精神”と“親方気質”を持ったマネジャー」であり、そ
の最大の特徴は、会社への忠誠心である。日本には自らの身を挺して働く、現
代版番頭が生きており、会社だけでなく、その業界を支えているのである。た
だ、番頭型マネジャーがいる中小企業は少なく、実際は、そこまでいかないベ
テラン・マネジャーや準ベテラン・マネジャー、あるいはただのマネジャーと
いった中途半端なマネジャーたちがマネジメントらしきことをやっているのが
ほとんどである。
一方、仕組みを考えるとき、その中心は PDCA サイクルである。本研究では、
その PDCA サイクルを上位マネジメントと現場との連動性などを考慮してモ
デル分けを行い、検証を行った。それは、理想である、完全な PDCA サイクル
であるモデルⅠ、上位マネジメントと現場が一体化してしまった状態であるモ
デルⅡ、そして、モデルⅡがモデルⅠに変化するプロセス(現場の独立性が高
まっていくプロセス)に位置するモデルⅢの 3 つである。本研究では、このモ
デルⅢを「スリーリング・モデル」とも呼び、特に注目している。なぜなら、
モデルⅡと並んで、中小企業における PDCA サイクルの典型の一つであるとと
もに、マネジメントが変化していく途中に位置する中途半端なモデル 102である
からである。前述のベテラン・マネジャーのくだりでも「中途半端」という言
葉を使ったが、この「中途半端」というところがポイントであり、後述するが、
ここに中小企業のマネジメントの最大の特徴がある。なお、PDCA サイクルの
検証の中では、その軸となる KPI の重要性とともに、中小企業における KPI
の必要性の有無についても言及している。
43 社の事例から読み取れる、マネジャーと PDCA サイクル、そして、マネ
102
PDCA サ イ ク ル ら し き こ と を や ろ う と す る が 、 ま だ ま だ 上 手 く で き な い 状 態 で あ る 。
- 203 -
ジメントのタイプの基本的な関係は次の通りである。
① ベテラン・マネジャー ― PDCA サイクルのモデルⅠ ― 検討-制御型
⇒ マネジメント
② 番頭型マネジャー ― PDCA サイクルのモデルⅢorⅡ ― 直観&誘発-
適当型 ⇒ アナザーマネジメント
すなわち、マネジメント(検討-制御型)によって成り立っている中小企業
は、ベテラン・マネジャーどまりながらも、本格的な PDCA サイクル(モデル
Ⅰ)によって、組織を上手く回している。一方、アナザーマネジメント(直観
&誘発-適当型)によって成り立っている中小企業は、PDCA サイクルは不十
分(モデルⅢあるいはⅡ)であるが、その分、番頭型マネジャーによって上手
く差配されているのである。また、番頭型マネジャーがいない中小企業は、経
営者自らが強力に差配してアナザーマネジメントを行っている。この場合の経
営者は、親方タイプと営業マンタイプを兼ね備えた、あたかも番頭型マネジャ
ーのような「ワンマン経営者」であることが分析より示唆されている。
ただ、そういった典型例はともかく、実際の中小企業の現場では 、
( ベテラン)
マネジャーたちと PDCA サイクルが入り乱れて活用されている。どちらか一方
だけでなく、臨機応変に組合せの形を変えながらマネジメントを実践している
のである。本編でも述べたように、マネジメントは仕組み (PDCA サイクル)
で、アナザーマネジメントはヒト(ベテラン・マネジャー)で、といった単純
な構造であればわかりやすいが、実際の現場では中途半端なベテラン・マネジ
ャーが中途半端な PDCA サイクル(たとえばスリーリング・モデル)を回すと
いった中途半端な状態で回っている。まさに「中途半端のマネジメント」であ
る。
ただ、大事なことは、その中途半端が悪いかどうかは別だということである。
つまり、この「中途半端のマネジメント」こそが、中小企業のマネジメントの
真骨頂なのである。中途半端であるからこそ、型にはまらず、臨機応変に対応
ができる。本編でも述べたが、現場にとって大事なことは PDCA サイクルを回
- 204 -
すことではなく、仕事を回すことである。同様に、マネジャーにとって大事な
ことは、PDCA サイクルを回すことではなく、現場を回すことなのである。何
か決まった型を持った方が強い場合もあるが、中小企業のマネジメントは型を
持たない「型知らず」あるいは「型要らず」のマネジメントなのである。ただ、
そこには臨機応変や柔軟性といった強みがある反面、「型」、すなわち基準が曖
昧なため、そこをベースに積み上げていくといった、成長という視点からは課
題があるのも確かである。
また、中途半端のマネジメントではなく、そもそも何もマネジメントしない
というやり方もあるが、そういった中小企業は停滞し、業績が年々下がってい
くのは見てきた通りである。
4.中小企業のマネジメントと業績との関係
経営者やベテラン・マネジャー、PDCA サイクルといったマネジメントの各
要素と業績との考察は第 7 章で行ったので、ここでは、それらと関連付けをし
ながらマネジメントのタイプと業績との関係に絞ってまとめておく。また、合
わせて、仮説の検証も行う。
本研究では、過去の売上高推移と合わせ、将来の業績を予測すべく「改革度」
と「革新度」という 2 つの指標を用いて業績の評価を行った。改革度は、対内
的変革であり、革新度は対外的変革である。企業の成長段階や置かれている状
況によっても違うが、通常、中小企業では対内的変革の方が手を付けやすい。
そこで考えられる変革のステップは、「何もしない→対内的変革→対外的変革」
の順である。この変革ステップはそのまま過去の実績になっており、当然なが
ら何もしていない企業の業績は下がり基調である(43 社の事例で言うと「γグ
ループ」である)。
中小企業の典型であると位置付けている「直観&誘発-適当型」
(ひらめきち
ゃっかり-ざっくり)は、番頭型マネジャーあるいはワンマン経営者を中心と
した骨太な組織づくり(対内的変革)の実行しており、その結果、改革度につ
いてはある程度ポイントが高い。ただ、守ることには長けているが、攻めるこ
とに疎い番頭型マネジャーの影響もあって、
「直観&誘発-適当型」の中小企業
- 205 -
は、革新度は低いのが実情である。その点、改革度も高く、革新度も高いのが、
「検討-制御型」(しっかり-きっちり)の中小企業である。確実に PDCA サ
イクルを回しながら、対外的変革にも着実に取り組んでいる様子がわかる。既
述のように、全体-部門-現場というマネジメント階層ごとに必要な会議を行
い、組織全体で物事を共有しているところに強みがある。結果、積極的に攻め
ることも苦にならない体質を生み出しているのである。
また、第 3 のパターンである「直観-感覚型」は、好不調の波があり、業績
が安定しないところに特徴がある。経営者が直感的にアクションを決定し、現
場のマネジャーなどが感覚でアクションを実行するため、当たり外れが大きい
のである。同じ経営者でも、営業にも生産に精通しているワンマン経営者であ
れば、ベテラン・マネジャー、中でも番頭型マネジャーのようにその直観にも
切れがあるのだろうが、そうではない普通の経営者の場合は、直観にそこまで
の切れはないのである。また、ベテラン・マネジャーもいないため、アクショ
ンの実行も現場のマネジャーの頼りない感覚でやらざるを得ないというのが実
情である。
「何をするか×どうするか」に「ヒトによるか×仕組みによるか」を乗じた
ものが業績になる。何をするかは「思考」であり、どうするかは「行動」であ
る。ヒトによるか、仕組みによるかは「ツール」である。つまり、中小企業に
とっては、
「 どのように考えて、どのようにツールを使って、どのように動くか」
が基本なのである。ただ、それには無数の組み合わせであり、どの組み合わせ
がベストかという議論ではない。どれがいいかではなく、自社に合っているこ
とが大切なのである。
本節の最後に、第 3 章第 3 節で設定した仮説について、検証した結果を確認
しておく。
<仮説 1>
フィールドワークを通じての感覚的な判断では、マネジメント(アナザーマ
ネジメントを含む)のタイプのうち、「しっかり-きっちり」(検討-制御型)
と「ちゃっかり-ざっくり」(誘発-適当型)の業績がいい。
- 206 -
↓
<検証結果>
中小企業 43 社の事例分析により、マネジメントのタイプで見た場合、
「しっ
かり-きっちり」と「ちゃっかり-ざっくり」の業績がいいことが確認された。
ただ、「ちゃっかり-ざっくり」は、実際は「ひらめきちゃっかり-ざっくり」
であり、アクションの決定において、「誘発」だけでなく、「直観」も必要なこ
とが明らかである。また、一口に「業績がいい」と言っても、その傾向は違っ
ており、
「しっかり-きっちり」の方は「業績の向上」であるが、それに対して
「ひらめきちゃっかり-ざっくり」の方は「業績の安定」である。
<仮説 2>
新しい取組み(経営革新や社内改革)ができているのは、
「しっかり-きっち
り」
(検討-制御型)であり、
「ちゃっかり-ざっくり」
(誘発-適当型)は一定
の業績は上げてはいるが、それは新しい取組みによるものではない。
↓
<検証結果>
「しっかり-きっちり」と「ひらめきちゃっかり-ざっくり」を分けるのは、
新しい取組みの差によることが明らかである。その新しい取組みの中でも、特
に「革新(対外的変革)」による差が著しい。この差を生んでいるのは、「しっ
かり-きっちり」は PDCA サイクルを活用し、中・長期的な視点で、ビジョン
を持って、経営ができているということである。戦略的な事業構想とそれを実
現するための仕組みが、「しっかり-きっちり」にはあるのである。
<仮説 3>
それら以外のマネジメントのタイプは、経営者がツールである「ヒト」や「仕
組み」を上手く使えないので、
「自分」でマネジメントしようとするため、どう
しても不安定になり、業績が伸び悩んだり、好不調の波が激しかったりする。
↓
<検証結果>
ベテラン・マネジャーがいなかったり、PDCA サイクルが確立できていなか
- 207 -
ったりする場合は、確かに、経営者自らがアクションの決定とその実行を司る
しかない。そういった場合、経営者の資質や能力が経営を左右することになる
が、常に的確な判断を下すことは困難であり、そのためどうしても業績が不安
定になることは否めない。ただ、実際は経営者だけが孤軍奮闘するのではなく、
中途半端なマネジャーと中途半端な PDCA サイクルで「中途半端のマネジメン
ト」をしながら現実に対応しているのが中小企業の姿である。
5.中小企業のマネジメント体制と課題
見てきたように、中小企業において、マネジメントが回るのは、端的に言う
と、①体系的に会議等が行われ、PDCA サイクルがしっかり回っている、②ベ
テラン・マネジャー、中でも番頭型マネジャーが手際よく差配している、③経
営者自らが営業の先頭に立ち、また現場のボスとして牽引している、の大きく
3 つである。そして、これらはマネジメント体制と関係している。このマネジ
メント体制に関して、ここで少し考察をしておく。
ポイントは、組織体制として、マネジメントを主導するのが誰かということ
である。議論を単純化すると、経営者によるトップダウンなのか、現場のボト
ムアップなのか、さらにはマネジャーによるミドル ・アップダウン 103 なのか 、
という話になるのであろうが、中小企業の実態を考慮すると、その様相は少し
違ってくる。
まず、現場からのボトムアップであるが、中小企業の実態として、本来の意
味でのボトムアップが機能するような場面はほとんど見受けられない。実際、
現場からボトムアップされた意見を上位マネジメントが上手く取り入れ、マネ
ジメントに活かすというのは至難の業であり、そこまでできる経営者、マネジ
ャーはなかなかいないというのが実情である。また、組織として、そういった
仕組みにも、文化(雰囲気)にもなっていない。ただ、ここでの着眼点は、上
位マネジメントの力量のなさや組織としての問題点ではなく、現場の意欲のな
さである。意見を上げるようなモチベーションになっていない 104。それは、マ
103
104
野 中 ・ 竹 内 ( 1995) pp.188-194 参照 。
た だ 、「 意 見 」 は ボ ト ム ア ッ プ し な く て も 「 感 情 」 や 「 思 い 」 は あ る 。 た と え ば 、 番 頭 型 マ ネ ジ ャ
- 208 -
ネジメントされているからである。もっと端的に言うと、管理されているから
である。管理されている枠の中では、本当のボトムアップは有り得ないのであ
る。すなわち、ここで議論すべきは、
「マネジメントする」、
「マネジメントされ
る」、「マネジメントさせられる」ということについてである。
その視点で言うと、経営者はマネジメントをするという立場である。ただ、
実際は見てきたように、経営者によって千差万別であり、現場に関心の薄い経
営者も見受けられる。ただ、マネジメントをしていなくても、経営者の A 力(オ
ーナーとしての「わがまま力」)によって、マネジメントに何らかの影響を与え
ているのは確かである。いずれにしても、単純なトップダウンではないことは
確かであり、ワンマン社長による極端なトップダウンがある反面、必要なトッ
プダウンがまったくなされていないことも多いのが、中小企業の実態である。
難しいのは、マネジャーの立場である。ここでは、番頭型マネジャーといっ
た限定ではなく、中小企業の一般的なマネジャーについて見る。マネジャーは
文字通り、本来はマネジメントをする人である。ただ、実際の中小企業におい
ては、ほとんどがマネジメントをさせられる人である。このあたりについては、
第 2 章や第 4 章でも少し触れたが、要は受け身なのである。経営者に代わって
マネジメントをするのでなく、経営者にマネジメントをさせられている感が、
現場のマネジャーには強い。管理という言葉を使うなら、嫌々管理させられて
いるのである。したがって、自分からの積極的な意見でなく、消極的な、元気
のない返事しか発しない。
マネジャーたちがそうなっている背景には、①名ばかりの役職で、権限と責
任が一致していないこと、②マネジャーになるための教育をされてこなかった
ため、マネジャーとしてのマインドとスキルが不十分であること、③過剰勤務
で、忙しすぎるため、疲労感が強く、また自らも作業ばかりで、マネジメント
の仕事に費やす時間がないこと、④重労働で責任を問われる割には、給与が安
いこと、⑤そもそもマネジャーになりたくてなったわけではないこと、などが
ある。フィールドリサーチでの観察や聞き取りを通じて、もっとも目立つのは、
「⑤そもそもマネジャーになりたくてなったわけではない」という答えである。
ーに対する尊敬の念などは第 4 章で述べた通りである。
- 209 -
それには二つの要因があり、一つは、どちらかというと、出世意欲や競争心の
強い人物が中小企業には少ないということ 105、もう一つは、①~④までで示し
たような先輩マネジャーの実態を見ていると、仕事がきつそうなだけで、自分
もマネジャーになりたいとはとても思わないことである。
いずれにしてもそういった背景があって、中小企業のマネジャーはマネジメ
ントをするのではなく、マネジメントをさせられているのである。立場的にも
労使の狭間の中途半端なポジションにある。まだまだ従業員目線でしかものを
見られないため、いつまでもマネジメントをさせられるという意識から脱却で
きない。マネジャーが経営者目線になってこそ、自らマネジメントをするとい
う意識が芽生えるのである。
「マネジャーがマネジメントをする」という本来の
姿を早く取り戻すことが、これからの中小企業の大きな課題である。自社のマ
ネジメント体制の課題を明らかにし、自社に合ったマネジメントのパターン
(PDCA サイクルによる確実な管理か、ベテラン・マネジャーの手際の良い差
配か、経営者の力強いリードか)を確立すべく努力することが必要なのである。
大事なことは受け身ではなく、自分の意思で自ら行うことである【図表結-2】。
105
た だ し 、そ れ が 中 小 企 業 な ら で は の 組 織 の 協 調 性 や ア ッ ト ホ ー ム 感 を 生 む 要 因 に も な っ て い る の は
確かである。
- 210 -
【図表結-2】マネジメント体制における課題と方向性
自社の課題
目指すべき方向性
経営者
経営者
マネジメントしない
力強いリード
マネジャー
ベテラン・マネジャー
マネジメントさせられる
手際の良い差配
現場(従業員)
PDCA サイクル
マネジメントされる
確実な管理
(出所:筆 者 作 成)
6.中小企業のマネジメント体系
これまで見てきた中小企業のマネジメントを体系化したものが、図表結- 3
である。アナザーマネジメントは、実態は「必然&偶然-曖昧のマネジメント」
であり、「ちゃっかり-ざっくり」も実態は「直観&誘発-適当型」、すなわち
「ひらめきちゃっかり-ざっくり」であることが明らかになったが、本体系で
はあくまでもその概念(考え方)を示し、全体をよりわかりやすく整理し、イ
メージ化している。この図表結-3 がまさに、「中小企業のマネジメント体系」
であり、本研究から提供するマネジメントのフレームワークである。
- 211 -
【図表結-3】中小企業のマネジメント体系
経営者の A 力
(わがまま力)
経営理念
③現場の把握力
④
力
①夢(利益)の提示
②
力
B 機能
(思い通り機能)
マネジメント
空気感
→
中途半端の
マネジメント
(狭義の)マネジメント
アナザーマネジメント
必然のマネジメント
分
析
型
検
討
型
直
観
型
偶然のマネジメント
アクションの決定
希
望
型
待
受
型
(何をするか)
誘
発
型
調
和
型
放
任
型
マネジャー
堅
実
の
マ
ネ
ジ
メ
ン
ト
柔
軟
の
マ
ネ
ジ
メ
ン
ト
一般
ベテラン
番頭型
P
P
D
A
C
A
D
P
A
D
C
C
PDCA サイクル
確実のマネジメント
統
制
型
制
御
型
曖昧のマネジメント
アクションの実行
(どうするか)
適
当
型
調
整
型
感
覚
型
放
任
型
しっかり-きっちり
ちゃっかり-ざっくり
攻め
守り
革新度も高い=業績の向上
業績は不安定
- 212 -
改革度は高い=業績の維持
7.マネジメントの分類と体系化の意義
本研究では、中小企業をマネジメントのタイプによって分類し、その特徴を
明らかにするとともに、タイプごとの業績の違いなどについて考察を行った。
また、それらを整理し、中小企業のマネジメント体系として提示している。
マネジメントのタイプで分類することによる貢献は、序章第 3 節で「学問的
な貢献」と「実務的な貢献」に分けて述べた通りであるが、大きく言うと、そ
れは「マネジメントのフレームワーク(枠組み)と基準の提供」である。この
フレームワークはコントロールのメカニズムであり、見方を変えれば、中小企
業のビジネスモデルの類型のひとつとも言えるものである。
マネジメントのフレームワークの提供は、我が国にある約 400 万 106の中小企
業を体系的に捉えるツールを新たに一つ増やすことになる。しかも、業種や従
業員数、資本金といった形式的なものでなく、マネジメントのタイプという内
容的なものによる基準によって区分することにより、中小企業の実態を反映し
た分類をすることが可能になる。これにより、マネジメントはもちろん、業績
をはじめとした中小企業の経営課題を巡るさまざまな議論をより視覚的に進め
ることができる。
また、本研究では、中小企業のマネジメントの 実態ないし本質について、
「中
途半端のマネジメント」という捉え方をしている。この「中途半端」という捉
え方も、基準があってこそ成り立つものである。この場合の基準は、マネジメ
ントのタイプに加え、マネジャーのうちの番頭型マネジャーと、PDCA サイク
ルのうちの完全な PDCA サイクル(モデルⅠ)であり、それらを両極端の軸と
して構成されるマネジメント体系に照らし合わせることによって、初めて成り
立つものである。基準があるからこそ、中途半端な状態が明らかにできる。基
本的なやり方があるからこそ、「中途半端のマネジメント」が 言えるのである。
8.研究の限界と残された課題
本研究で議論の対象となった中小企業は、経営者や上級マネジャーが一人で
106
経 済 産 業 省 の 公 表 に よ る と 、2012 年 2 月 時 点 の 中 小 企 業・小 規 模 事 業 者 の 数 は 、385 万 者 で あ る 。
- 213 -
も組織全体を適切に把握して運営していける中小企業である。それはまた、従
業員同士が、その家族も含め、お互いに面識のもてる中小企業でもある。結果
として、中小企業の中でも比較的規模の小さい中小企業が議論の中心というこ
とになる。ここに、本研究におけるケースの一般化の限界がある。
さらに、研究の限界としては、本研究のベースとなっているフィールドワー
クにおける評価(判断)は、基本的に筆者一人で行っていることがある。その
ため、いわゆる外部妥当性が問われる。これについては、中小企業ごとに基準
を設けて絶対評価をするのではなく、共通した尺度を用いて、相対評価をする
ことにより、その公平性と客観性を保っている。また、評価結果を経営者等に
フィードバックすることなどにより、その評価結果の妥当性の確保を図ってい
る。
研究内容として残された課題は、前述の限界にも関係するが、今回提唱した
一連の内容の裏付けをさらに強固にするために、どうするかということである。
端的には、もっと事例企業の数を増やすことである。その際、すべて実地調査
が難しければ、アンケートによる調査なども組み入れ、豊富なサンプルを分析
して、裏付けていく作業が必要になる。その際、複数の人間によって評価する
ことも検討する。また、筆者の活動範囲の制約により、今回の事例企業はすべ
て関西の中小企業であったが、全国の中小企業を対象にすることにより、より
正確な中小企業の実態が明らかにできるはずである。闇雲に事例企業数だけを
増やせばいいということではないが、サンプルにできる良質な事例企業の数が
一社でも増えれば、それだけ精度が上がるのは確かである。
9.これからの研究の方向性
本研究は、中小企業のマネジメントの実態を整理し、そのタイプと業績との
関連を考察しながら、体系化したものである。本研究では一定の成果を得るこ
とができたが、さらに発展させることができるように、これからの研究の方向
性を示しておく。
一つは、組織やヒトとマネジメントとの関係を明らかにすることである。具
体的には、組織構造や組織体制、組織の成長段階などとマネジメントとの関連
- 214 -
である。あるいは、経営資源としてのヒトのスキルやモチベーション、ポジシ
ョンといった要素がマネジメントに及ぼす影響である。本研究では、経営者や
マネジャーの切り口から議論を展開させたので、特に、一般従業員の切り口か
らのそれらの検証が必要であると考えられる。また、その集合体である、集団
としての文化やモラルとマネジメントとの関連も注目である。
もう一つは、管理会計の枠組みを使って、本研究のマネジメント体系を整理
することである。具体的には、最近研究が盛んに行われているマネジメント・
コントロールのパッケージの枠組みを本研究のマネジメント体系に上手く取り
込み、検証を加えながらまた違った視点で整理することである。また、同様に、
注目されているテンション・マネジメントの概念を踏まえ、アクションの接点
で起きるテンション(緊張状態)に対していかに対応するべきかを考察し、新
たな発想の端緒となるように図る。さらに、組織との関連で言うと、組織学習
を促進するマネジメント・コントロールであるイネーブリング・コントロール
などの考え方を議論し、本研究で示した中小企業のマネジメント体系の概念を
発展させることを考えている。
さらには、大企業や海外企業との比較検証である。本研究で提供したマネジ
メントのタイプやフレームワークは、中小企業のマネジメントの実態から導き
出したものである。また、その中でも特徴的なやり方である「アナザーマネジ
メント」は番頭型マネジャーを中心とした、日本的な 雰囲気の強いものである。
そこで、中小企業と大企業とのマネジメントの比較、あるいは日本の中小企業
と海外の中小企業との比較を行い、日本の中小企業のマネジメントの個性のよ
り明確化を図っていく。それにより、「PDCA サイクルによる海外的な大企業
のマネジメント」に対して、
「番頭型マネジャーによる日本的な中小企業のマネ
ジメント」という構図を仮説とする考察が可能になる。
10.最後に:中小企業の経営者への提言
中小企業において、PDCA サイクルを軸とする(狭義の)マネジメントは攻
めが得意であり、業績を伸ばしていく。一方、番頭型マネジャーの差配による
アナザーマネジメントは守りが得意であり、業績を安定させる。そして、それ
- 215 -
は人と人の結び付きによる「信頼のマネジメント」でもある。ただ、再三述べ
てきたように、実際の中小企業はそのような型にはまった画一的なやり方では
なく、大いに「中途半端のマネジメント」を実践している。厳しい経営環境の
中、常に難しい舵取りを迫られながらも、それを満喫していると言ってもよい。
ただ、現状はともかく、日々精進し、工夫をしながら、組織としての「成長」
を目指すことが大事である。この成長とは、売上や利益率を向上させたり、資
本金や従業員数を増やしたりすることではない。それらはあくまでも結果に過
ぎない。中小企業にとって、成長とは前進し、変化すること、すなわち「進化」
することである。経営環境や組織の成長段階に合わせ、身の丈に合ったスピー
ドで、自社のやり方、すなわち自社のマネジメントを進化させ続けることこそ
が、真のマネジメントなのである。既述のように、番頭型マネジャーを持つこ
とが大事なのではなく、持てるように進化することが大事なのである。 PDCA
サイクルを回すことが大事なのではなく、回せるように進化することが大事な
のである。
本研究において、43 社の事例をつぶさに分析し、考察した結果、明らかにな
ったのは、「しっかり-きっちり」や「ちゃっかり-ざっくり 」(ひらめきちゃ
っかり-ざっくり)といったやり方を典型としながらも、実際はさまざまな独
自のやり方、すなわち「独自のマネジメントの型」を持っており、それぞれの
やり方を駆使しながら奮闘する中小企業の姿である。どのやり方がいいという
ことではない。大事なことは、自社の身の丈とやり方が合っているかど うかと、
そのやり方を進化させているか、あるいは進化させようと努力しているかどう
かなのである。
創業来培ってきた自社のやり方に自信を持ち、それを大切にしつつも、もう
一度そのやり方を見つめ直し、進化させていくことを筆者は期している。大事
なことは、常に新しいことに取り組もうとする、前向きな活力(ダイナミズム)
を持ち続けることである。
- 216 -
― 事例 43 社のマネジメントの実態一覧 ―
α グループ
企業番号
β グループ
γ グループ
項 目
分類&説明
対象期間
1
2
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4
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8
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(1)企業の概要
1:小売 2:卸 3:製造 4:加工
5:サービス 6:その他
1:10人まで、2:20人まで、3:30人
②従業員数(パー
まで、4:50人まで、5:100人まで、
ト含む)
6:100人超
①業種
③業歴
④資本金
⑤売上高
1:10年まで、2:20年まで、3:30年
まで、4:50年まで、5:100年まで、
6:100年超
1:1000万円まで、2:5000万円ま
で、3:1億円まで
1:5000万円まで、2:1億円まで、
3:3億円まで、4:10億円まで、5:
15億円まで、6:15億円超
(2)事業の特徴
①ビジネスモデル 1:自立・提案型 2:下請・受託型
②営業のタイプ
1:攻めの営業 2:守りの営業 3:
営業機能無し
③研究・企画・開
1:有り 2:無し
発機能の有無
(3)経営者の関係
①何代目の経営
者か
②就任前の状況
1:創業者 2:2代目 3:3代目 4:
4代目
1:自社で上位マネジメント 2:自
社で現場 3:他社で仕事 4:その
他
親方タイプ(現場のボス)
③経営者を経営 研究者タイプ
資源として捉えた 営業マンタイプ
場合のタイプ
事務員タイプ
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管理タイプ
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放任タイプ
夢(利益)の提示力
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オーナータイプ(何もしない)
④経営者の管理
のタイプ
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⑤A力を構成する 人間としての魅力
4つの要素
現場の把握力
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×
○
○
○
△
×
△
○
△
△
△
○
△
△
△
△
△
○
△
○
×
△
×
×
×
×
△
×
△
△
×
トップとしての権力
○
△
○
○
○
○
○
○
○
◎
△
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
△
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
◎
◎
○
○
△
○
○
×
×
×
△
○
×
△
△
×
×
×
○
○
○
○
×
○
○
○
×
△
○
△
○
△
×
×
×
×
×
×
×
△
△
×
×
×
2
1
1
2
1
1・2
2
1
3
2
2
1
2
1
1
1
3
2
△
2
○
△
○
○
○
○
○
○
○
1
○
○
(4)マネジャーの関係
①ベテラン・マネ
ジャーの存在
②ベテラン・マネ
ジャーの昇進ルー
ト
○:いる △:準ベテラン・マネ
ジャー ×:いない
○
○
○
○
○
1:経営者一族 2:内部昇格 3:外
部からの登用
1
2・2
2
2
2・3
○
○
監督型(現場の指揮)
③ベテラン・マネ
ジャーのタイプ
2
2
△
外交型(取引先とのやり取り)
役人型(管理)
○
2
3
○
△
○
○
○
○
○
△
2
2
△
○
△
△
○
下請型(経営者の言いなり)
④ベテラン・マネ ○:補完関係にある △:完全では
ジャーと経営者と ないが補完関係にある ×:補完
の相性
関係にない
△
1・2
△
○
△
○
1
○
◎
⑤番頭型マネ
ジャーかどうか
○
○
○
○
○
○
⑥補佐役として、 1:大番頭 2:ご意見番 3:女房役
どのタイプか
4:トップの分身 5:懐刀
2
2-4
3-3
1
⑦小番頭の存在
△
○
○
○
○
○
○
○
◎
◎
○
○
○
○
1-4
2-5
1
4
3
○
○
4
1
○
○
○
×
○
○
○
○
×
○
○
○
(5)PDCAサイクルの関係
1:モデルⅠを完全に運用できてい
る 2:モデルⅠだが、不十分なとこ
①PDCAサイクル
ろがある 3:モデルⅢ 4:モデル
のモデル
Ⅱ 5:不完全なPDCAサイクルで
すらない
2
1
2
全体会議
○
○
○
部門会議
○
○
○
現場会議
○
○
○
③経営理念の存
在
1:文書化されている 2:文書化さ
れていないが明確にある 3:存在
や内容が曖昧
1
1
3
2
④経営戦略の存
在
1:文書化されている 2:文書化さ
れていないが明確にある 3:存在
や内容が曖昧
1
1
2
⑤全体計画の作
成
1:完全に文書化されている 2:文
書化されているが、不十分 3:文
書化されていない 4:存在や内容
がが曖昧
1
1
⑥部門計画の作
成
1:完全に文書化されている 2:文
書化されているが、不十分 3:文
書化されていない 4:存在や内容
が曖昧
1
⑦現場計画の作
成
1:完全に文書化されている 2:文
書化されているが、不十分 3:文
書化されていない 4:存在や内容
が曖昧
⑧モニタリングの
実施
1:所定の様式等で 2:口頭レベル
で 3:思いつきレベル 4:していな
い
②会議の種類
4
2
1
3
4
3
○
○
○
○
5
4
3
3
4
○
○
○
○
○
○
1
1
1
2
3
3
2
2
1
1
3
3
1
3
1
1
2
3
1
1
2
1
1
2
2
1
2
4
2
1
2
1
1
2
2
1
4
4
3
4
4
2
○
○
△
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
1
3
3
1
3
3
1
3
1
3
2
1
1
3
3
3
3
1
3
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1
1
3
3
3
2
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2
3
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3
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3
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1
3
3
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1
3
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2
3
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1
3
2
4
3
1
1
3
3
3
3
1
3
4
3
3
2
2
4
1
3
3
1
3
3
1
3
2
2
3
1
1
3
3
3
3
1
2
4
3
2
4
2
3
4
3
3
4
4
4
1
4
2
4
4
2
1
4
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3
4
1
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2
2
2
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2
3
3
2
3
3
1
3
2
2
3
2
1
3
3
3
3
1
2
―
○
○
○
○
○
2
4
4
3
4
2
4
5
4
4
○
○
5
5
5
3
5
5
4
4
5
5
5
○
△
3
3
3
3
1
1
3
3
3
3
3
3
3
3
3
3
3
3
3
4
4
4
1
1
4
3
3
4
4
4
2
4
4
4
2
4
4
3
2
4
4
4
4
4
4
4
4
3
4
4
4
4
4
4
4
3
2
―
―
―
2
4
―
3
2
―
―
―
○
○
○
○
○
○
○
○
(6)マネジメントのタイプ
①マネジメントの
タイプ:大分類
②マネジメントの
タイプ:小分類
アクションの決定:必然or偶然
必然 必然 必然 必然 必然 必然 必然 必偶 必偶 必偶 必偶 必然 偶然 必然 必然 必偶 必然 必偶 必偶 偶然 必然 必然 必然 必偶 必然 必偶 必然 必然 偶然 必然 必然 必然 偶然 必偶 偶然 必然 偶然 必然 必然 必然 偶然 必然 偶然
アクションの実行:確実or曖昧
確実 確実 確実 曖昧 曖昧 確実 曖昧 曖昧 曖昧 曖昧 曖昧 曖昧 曖昧 曖昧 曖昧 曖昧 確曖 曖昧 曖昧 曖昧 曖昧 曖昧 確実 曖昧 曖昧 曖昧 曖昧 確実 曖昧 曖昧 曖昧 曖昧 曖昧 曖昧 曖昧 曖昧 曖昧 曖昧 曖昧 曖昧 曖昧 曖昧 曖昧
・必然のマネジメント:分析型、検
討型、直観型、希望型
・偶然のマネジメント:待受型、誘
発型、調和型、放任型
検討 検討 検討 直観 検討 分析 直観
・確実のマネジメント:統制型、制
御型
・曖昧のマネジメント:適当型、調
整型、感覚型、放任型
制御 制御 制御 感覚 適当 統制 適当 調整 適当 適当 適当 適当
直観 直観 直観 希望
直観
直観 直観
直観
直観
直観
希望 誘発 直観 直観
検討
待受 直観 検討 検討
直観
直観 検討 待受 直観 直観 直観 放任
待受 希望 放任 希望 希望 希望 放任 希望 放任
誘発 誘発 誘発 調和
調和
誘発 誘発
誘発
誘発
誘発
適当
制御
適当 調整 調整
適当 適当 感覚 調整 適当 制御 適当 感覚 適当 調整 制御 調整 感覚 感覚 感覚 放任 感覚 感覚 調整 感覚 感覚 調整 調整 放任 感覚 放任
調整
調整
(7)業績
①売上高の推移
○:上がり基調、△:横ばい、×:下
○
がり基調
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
△
△
△
△
△
△
△
△
△
△
△
△
△
△
△
△
△
△
△
×
②現状維持
②改革度:
対内的変革
×
×
×
○
既存顧客深耕1p
○
○
○
○
○
○
○
高付加価値化2p
○
○
○
○
○
○
○
管理強化1.5p
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
4.5
4.5
4.5
3
4.5
4.5
3
1
3
1
3.5
1
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
計(満点は13p)
5.5
8.5
2
5
6.5
13
○
合計(満点は20p)
10
13
6.5
8
新製品開発等4.5p
○
○
○
×
×
1
3
1
○
○
1
4.5
3
○
×
×
○
○
○
×
×
○
○
×
○
○
○
○
○
○
新規顧客開拓2p
新市場開拓3p
○
○
○
○
計(満点は7p)
新技術等導入3.5p
○
○
イメージ向上2.5p
②革新度:
対外的変革
×
3
1
1
4.5
3
○
○
○
○
○
3
1
3
1
4
○
○
3
1
1
3
○
○
○
○
0
0
1
○
1
0
○
0
4.5
○
1
0
○
0
0
○
○
○
8.5
5.5
2
5
5
6.5
0
2
2
0
2
0
2
2
2
2
2
0
2
0
0
0
2
2
2
2
0
6.5
0
2
0
2
0
2
0
2
0
11 17.5 11.5 6.5
5
6
8.5
7.5
1
5
3
1
6.5
3
5
3
3
6.5
5
3
3
3
1
4
5
3
3
5
0
6.5
1
3
0
2
4.5
3
0
2
0
○
○
- 217 -
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伸・中村博之編著『管理会計論』中央経済社。
山本七平(1984)
「組織的経営の先駆者」山本七平概説『大番頭の手腕』
(日本
の商人 第 5 巻)TBS ブリタニカ。
吉田栄介(2012)
「テンション・マネジメントとしての管理会計 ―原価企画と
業績管理の実証分析」『三田商学研究』第 54 巻第 6 号、75-86 頁。
渡辺俊三(2008)「中小企業論研究の成果と方法」日本中小企業学会編『中小
企業研究の今日的課題』(日本中小企業学会論集 27)同友館。
渡辺睦・中山金治編(1986)『中小企業経営論』日本評論社。
渡辺睦・前川恭一編(1984)『現代中小企業研究 上・下巻』大月書店。
渡辺幸男・小川正博・黒瀬直宏・向山正夫(2006)
『21 世紀中小企業論〔新版〕』
有斐閣。
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