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中越地震における高齢者ケアについて
中越地震における高齢者ケアについて 中越地震における高齢者ケアについて/上田耕蔵(神戸協同病院院長) 04 年 10 月 23 日 17 時 56 分に新潟県中越地方において M6.8 の地震が発生しました。 上田は 10 月 26 日午前 7 時 20 分と 27 日午後 11 時 20 分より NHK より高齢者のケアに ついて電話取材を受けました。以下は 27 日分の要旨です。 (1)阪神大震災との違い/直接死に対して関連死が目立っています。 家の下敷きになり圧死された方より、ショック死や疲労死が目立っています。死者 31 人中、関連死は 16 人と約半数を占めます。 その関連死が大半であった原因ですが、①恐怖感を煽るような揺れが続いたことが あげられます。強烈な直下型の揺れであり、また震度 5 以上の強い余震が続いたこと が、恐怖心・ストレスを増したと考えられます。②他の地域ならもっと直接死が多く なったと思われます。豪雪地帯であるので、柱が太く、潰れる家が少なかったのでは ないのではないか。相対的に関連死が目立ったのではないでしょうか。 (2)関連死の第一波は循環器疾患。次は呼吸器疾患である。 報告された関連死は心筋梗塞など循環器の病気が主でした。地震直後の著しいスト レスや水分不足は動脈を詰まらせる、あるいは心臓に強い負担をかけて重い不整脈を 起こし、急死に至ったと思われます。高齢者はもともと動脈硬化が進んでおり、血栓 や出血を起こしやすいのです。 関連死の第一波は循環器疾患ですが、数日経ってこれから呼吸器疾患(肺炎、喘息 の増悪)に移っていくと思われます。寒い環境、不便な環境、集団生活は呼吸器に負 担をかけてきます。自宅にいても肺炎は増えます。かぜから肺炎や気管支喘息、肺気 腫の悪化が予想されます。関連死の第二波は呼吸器疾患となると予想されます。 (3)循環器疾患を早期に見つけるにはどうしたらいいか? まだ循環器の急病は起こりえます。まず心筋梗塞や心不全、脳卒中のある人は要注 意です。 次のような人はただちに病院で検査を受けるべきです。 ・ 胸痛や胸苦しいと訴える人 ・ 冷や汗をかいている人 ・ ぐったりしている人(高齢者は症状を訴えない人がいます。) 高齢者だけでなく中年も亡くなっている人がいます。普段元気であっても注意が必要 です。 2004.10.26.(1) 中越地震における高齢者ケアについて (4)避難所でのケアについて:これからの呼吸器疾患などの予防に向けて、次の 2 面で考える必要があります。 ●元気な高齢者を含め一般の人に対して: ① 最も重要なのは水とトイレです。水はペットボトルを配ればすみますが、水 道が止まると水洗トイレはつまってしまいます。阪神大震災ではトイレがすぐ に詰まってしまい、使えなくなりました。もし水道が止まっているなら、簡易 トイレの設置などが必要です。阪神大震災ではトイレを使わないために、水・ 食料を採らない老人がいました。 ② 暖房の工夫。これから寒くなります。毛布などだけでなく、ストーブなどが 必要です。 ③ 大勢が避難しているので感染防止対策がいります。マスクの着用とうがい・ 手洗いの励行。 ④ 救護所の設置。医師・看護師がすぐ近くにいて医療が受けられるのは、それ だけで非常に安心です。またインフルエンザワクチン接種を勧めましょう(こ れは各医院で受けてもらう)。 ⑤ ボランテイアなどによる炊き出し。支援者による暖かい美味しい豚汁は、胃 と心を和ませます。 ⑥ プライバシーの保護。避難所では段ボールなどで囲いが必要です。 ⑦ 風呂。入浴で身体と心は生き返ります。 ⑧ 情報の伝達。情報が伝わらないと不安は増幅します。 ⑨ 精神的に強いショックを受けている人のフォロー。1 か月を越えて症状を持ち 越し、PTSD に陥りやすいのです。専門家へつなぐことが必要です。 ● 虚弱な高齢者に対して: ① 虚弱な高齢者は弱る前に、避難所から特養老人ホームなどへ緊急保護すべき です。あるいは衰弱しだしたら早めに入院して頂いた方がいいです。ことに死 亡率の高いのは、初めの 1 週間で発病する高齢者です。最初の 1 週間での保護 が大事です。 ② 避難所ではトイレに近い場所へ移動してもらいましょう。トイレが遠いため に水や食料を採らなかった高齢者がいました。 ③ 炊き出しはまず元気な人が並びます。虚弱な人まで回らないかもしれません。 本人のところまで届けてあげる必要があります。 2004.10.26.(2) 中越地震における高齢者ケアについて (5)自宅、車中で避難されている方への対策 忘れてはならないのは「家が壊れなくても高齢者は亡くなる」という点です。実は 阪神大震災での関連死は避難所より自宅で発生しました。(避難所発生が 3 割、自宅 発生が 7 割でした。)自宅で頑張る人は必ずいます。また直後は避難所にいても、家 が一部損壊ですんでいたら自宅へ戻る人は多いです。水道・ガスが復旧していないと、 生活の負担は想像以上に大きいのです。また自宅へは水・食料・マスクなど救援物資 が届きにくいのです。対策が必要です。 また車中で避難を続ける人は一層過酷です。すでに 3 人の方が亡くなっています。 寒く狭い空間でじっと座っていると、肺塞栓も起きるかもしれません。(肺塞栓は足 の静脈にできた血栓が肺に飛んでくる病気。急死される場合もあります。いわゆる長 距離航空機のエコノミー症候群。)車中では急病になっても受診が遅れるかもしれま せん。 なお虚弱な高齢者がどこに住んでいるかですが、阪神大震災の時はほとんど分かり ませんでした。現在は介護保険で、どこの誰が要介護であるか分かっています。要介 護認定を受けている人をピックアップすればよいのです。 (6)介護保険が試されている ところで大震災では在宅の介護保険サービスは停止するでしょう。要介護高齢者は 介護保険に依存して地域で生活している側面があるので、心配されます。思い切って 施設に保護したほうがよい高齢者も少なくないでしょう。 今回の震災は介護保険が整備されたのちに起こった初めての大規模震災です。介護 保険が高齢者の保護にうまく利用されるか、逆に被害を拡大するのかが試されるでし ょう。 (7)心のケア 被災者は想像を絶する深い心の傷を負っています。落胆に打ちひしがれている方。 逆に怒りっぽくなっている方。また一見気丈に見える人もいますが、いずれも人のや さしさや思いやりを求めています。倦怠感、食欲不振、吐き気、頭痛など体調も悪く なっています。大きな災害などの後では誰でも、心や体の大きな変化が起こります。 今は疲れ切ったこころを休ませることが大事です。暖房や温かい食事、救護班の設置 など安心できる環境作りも重要です。 ボランテイアは共感を持ってそっと接しましょう。励ましは禁物です。聞き役に徹 しましょう。自分たちの気遣いで支えきれないと感じたら、専門家につなぎましょう。 2004.10.26.(3)