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マレーシアの京都議定書と CDM をめぐる動き

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マレーシアの京都議定書と CDM をめぐる動き
NEDO海外レポート
NO.937, 2004. 8. 11
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海外レポート937号目次 http://www.nedo.go.jp/kankobutsu/report/937/
【特集】環
境
マレーシアの京都議定書と CDM をめぐる動き (1/2)
NEDO 技術開発機構 ジャカルタ事務所
山田史子
2004.8.3
〔内容〕
1. はじめに
(以下次号)
2. 経緯
4. クライテリア
3. CDM 審査のための組織的枠組み
5. CDM プロジェクト・サイクル
3.1.全体的枠組み
6. CDM プロジェクトの申請状況
3.2.CDM 国家委員会
7. CDM キャパシティビルディング協力
3.3.技術委員会
8. おわりに
3.4.エネセクターCDM プロジェクト・ステークホルダー
1.はじめに
マレーシアは、アセアン諸国の中で比較的短期間に地球温暖化対策に取り組み成果
を上げてきている。以下に述べるとおり、2002 年の京都議定書批准からわずか2年足
らずの間にクリーン開発メカニズム(CDM)プロジェクトの国家承認体制を整え、4
件のプロジェクトを審査済で、2 件を審査中 (注1 )である。したがって、同国の CDM 取
り組み状況の把握が、今後のアセアン各国の動向を占う上で重要と考え、本稿で取り
上げることとする。
なお本稿の執筆にあたっては NEDO が実施したマレーシア CDM 調査の内容および
関連政府機関からの意見聴取結果をまとめた。
2.経緯
マレーシアにおける CDM 関連の動きを表1に示した。
1994 年 7 月 13 日、マレーシアはアセアン諸国の先頭を切って気候変動枠組条約
(UNFCCC)を批准した。その後 2002 年 9 月 4 日に京都議定書を批准している。ア
セアンでは前月の 8 月に批准したラオス、タイに続いて 3 カ国目の批准であった。
以上からもわかるように、マレーシア政府は京都議定書の批准から CDM 候補プロ
ジェクトの選出・審査体制の構築まで比較的迅速に対応してきたとの印象を受ける。
なお、この間においてインドネシア他で実施された世銀の National Sustainable
Strategy (NSS)のような国家戦略は特に策定されていない。
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NEDO海外レポート
表1:
NO.937, 2004. 8. 11
マレーシアにおける地球温暖化対策/京都議定書取組の経緯
年/月/日
1994/7/13
1999/3/12
2002/8/5-6
出来事
マレーシア、気候変動枠組条約を非附属書 I 国として批准
マレーシア、京都議定書に署名
経済企画庁(EPU)および首相府が国連開発計画(UNDP)と共同で CDM
国家政策セミナーを開催
2002/9/4
マレーシア、ヨハネスブルグでの「持続可能な開発に関する世界首脳会議
(WSSD)」において京都議定書を批准
マレーシアエネルギーセンター(PTM)、エネルギーセクターCDM 技術委
員会の事務局となる
初の CDM プロジェクト申請がエネルギーセクターCDM 技術委員会に提出
される
経済企画庁(EPU)、UNDP および PTM 他関係官庁/組織の支援を受けマ
レーシア CDM 行動計画を起草
2002/9/12
2002/9/15
2002/10/2
2003/3-11
2003/5
2003/8
デンマーク国際開発庁(DANIDA)によるキャパシティビルディングプロジ
ェクトを PTM にて実施
CDM 国家委員会、エネルギーセクター小規模 CDM プロジェクトのクライ
テリアを発表
CDM 国家委員会、国としての CDM クライテリアを承認
(NEDO 報告書および私信を基に作成)
3.CDM 審査のための組織的枠組み
3.1. 全体的枠組み
マレーシア CDM の組織的枠組みを図1に示した。
天然資源・環境省環境保護管理局(Conservation and Environmental Management
Division, Ministry of Natural Resources and Environment)はマレーシア政府の環
境政策を担当し、CDM を含めた気候変動の諸課題への対策についてもその政策と方針
を策定し全体を統括する役割を持つ。同局は指定国家担当機関(Designated National
Authorities; DNA)と位置づけられ、CDM 案件の審査に際し、同局が持続的開発の
国家クライテリアとの整合性検証を行っている。
DNA である同局の下で気候変動の諸課題を検討するのが気候変動に関する国家運
営委員会(National Steering Committee on Climate Change; NSC-CC)であり、同
運 営 委 員 会 の 下 で CDM に 関 す る 議 論 を 行 う の が CDM 国 家 委 員 会 ( National
Committee on CDM; NC-CDM)である。同委員会の下にはエネルギーおよび森林両
セクターの技術委員会があり、これら技術委員会が技術的・専門的見地から具体的な検
討を行う。
なお各委員会等の CDM 案件審査に対する具体的関与のしかたについては、3.2.以降
に説明する。
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NO.937, 2004. 8. 11
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図1:
マレーシアにおける CDM プロジェクトの組織的枠組み
天然資源・環境省環境保護管理局
(Conservation and Environmental
Management Division, Ministry
of Natural Resources and
Environment; CEMD, MNRE)
as DNA
気候変動に関する国家運営委員会
(National Steering Committee on
Climate Change; NSC-CC)
CDM 国家委員会
(National Committee on CDM;
NC-CDM)
CDM 技術委員会
CDM 技術委員会
(Technical Committee on
(Technical Committee on
CDM for Energy Sector)
CDM for Forestry Sector)
技術的支援
技術的支援
森 林 セ ク タ ー CDM 事 務 局
(CDM Forestry Secretariat)
=マレーシア森林研究所
エネルギーセクター
CDM 事務局
(CDM Energy Secretariat)
= マレーシアエネルギー
センター(PTM)
(NEDO 報告書および私信を基に作成)
3.2. CDM 国家委員会
1994 年の気候変動枠組み条約批准を踏まえ、マレーシア政府は気候変動に関する国
家運営委員会(National Steering Committee on Climate Change; NSC-CC)を設置
した。同委員会には政府関係機関(次官クラス中心)および NGO が参加。科学技術・
環境省(Ministry of Science, Technology and Environment ;MOSTE、現天然資源・環
境省、以下現在の省名で記載)総括次官が議長を務め、同省環境保護管理局が事務局と
なっている。
そして NSC-CC の下で CDM 国家委員会(National Committee on CDM; NC-CDM)
が設置された (注 2)。この委員会は CDM に関わるエネルギーと森林の両セクターをカバ
ーするものとして組織されている。
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NEDO海外レポート
NO.937, 2004. 8. 11
NC-CDM では天然資源・環境省総括次官補(政策担当)が議長、同省環境保護管理局が事
務局を務める。気象庁(Meteorological Services Department;科学技術・環境省管轄)
、経済
企画庁、エネルギー・通信・マルチメディア省(Ministry of Energy, Communication and
Multimedia ; MECM、現エネルギー・水資源・通信省、以下現在の省名で記載)および第一
次産業省ならびに NGO がメンバーとして参加している。この他で CDM に関係すると思わ
れる交通省(Ministry of Transportation)
、農業省(Ministry of Agriculture)
、住宅・地方
政府省(Ministry of Housing and Local Government; MHLG)は現在のところメンバーと
されていない。また関連 NGO も同様である。
3.3. 技術委員会
技術委員会は、エネルギーと森林の両セクターに分かれ、CDM プロジェクトの申請
を技術的な観点から審査し CDM 国家委員会に当該案件承認可否の勧告を行う組織で
ある。
現時点では両技術委員会のうちエネルギーセクターのみが動いており、森林セクタ
ーに関しては今後 CDM プロジェクトの増加およびそのスコープの拡大にともない同
セクターの案件が出てくれば活発化していくものと予想される。
現在、エネルギー技術委員会はエネルギー・水資源・通信省(Ministry of Energy,
Water Resources and Communication; MEWC)を議長とし、これに次のステークホ
ルダーをメンバーとして加え運営されている。委員会のメンバーは必要に応じ追加可
能となっている。
・ 経済企画庁(EPU)
・ エネルギー委員会(Energy Commission)
・ 環境庁(Department of Environment)
・ マレーシアパームオイル協会(Malaysian Palm Oil Board; MPOB)
・ マレーシア製造業組合(Federation of Malaysian Manufacturers; FMM)
・ 銀行協会(Association of Banks)
技術委員会の活動を支えるのが事務局である。マレーシアエネルギーセンター
(Malaysia Energy Centre/Pusat Tenaga Malaysia; PTM)は 2002 年 9 月にエネル
ギー技術委員会の事務局に指定され、CDM に関する以下の業務を行っている。
・ 技術的、経済的、財務的実施可能性の評価
・ 追加性の評価
・ 排出削減の検証
・ ベースラインの妥当性の検証
・ CDM による便益(たとえば排出権の売買等)および CDM プロジェクト運営費用
(たとえば排出権取引にかかる費用、国際的な事務手続にかかる賦課ならびにコン
サルタント費用等)の妥当性検討
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・ 投資家とのマッチメイキングについてプロジェクト提案者の支援
・ ステークホルダーに対し CDM 情報提供とキャパシティビルディングの機会提供
・ ステークホルダーからの相談対応
・ モニタリングレポートの評価
・ プロジェクト提案書の手続等進捗状況(現在のステイタスを含む)等のデータベース
維持管理
・ ベースライン計算および見直しのための関連エネルギー情報のデータベース維持
管理
3.4. エネルギーセクターCDM プロジェクトに関与するステークホルダー
エネルギーセクターのステークホルダーとされる政府関係機関および公社等を以下
に紹介する。
・経済企画庁(EPU)
内閣府の下でエネルギーセクターを含めた各分野の政策策定および海外からの援
助事業を調整する。もともと当該セクターの所轄省でないが、近年 CDM について
もグリップを強めつつある。
・エネルギー・水資源・通信省(Ministry of Energy, Water Resources and
Communication; MEWC)
エネルギーセクター担当省として関係各省間の調整役を務める。既述のとおりエ
ネルギーセクター技術委員会の議長。マレーシアエネルギーセンターとともにエネ
ルギーセクターCDM に関わる組織体制確立およびガイドラインの策定に携わって
きた。
・天然資源・環境省(Ministry of Natural Resources and Environment)
気候変動を含む様々な環境関連諸課題のフォーカル・ポイント。NSC-CC および
NC-CDM の議長役を務め、同省環境保護管理局は DNA(指定国家担当機関)として位
置づけられている。
・財務省(Ministry of Finance)
政府予算担当省庁として投資優遇政策および免税措置等の決定権を持つ。
・第一次産業省(Ministry of Primary Industries; MPI)
第一次産業(すず、木材、パームオイル、ゴム、カカオ、胡椒、ブリキ、銅およ
びその他の鉱物)にかかる研究開発、生産、加工および流通を所掌。第 8 次国家計
画(2001∼2005 年)および第 3 次中期展望(2001∼2010 年)で再生可能エネルギ
ーおよび省エネの推進省として位置づけられている。
・エネルギー委員会(Energy Commission)
エネルギー供給産業に対する法規的枠組みの策定に携わると同時にエネルギー・
水資源・通信省に対し料金制度等エネルギー関連事項にかかるアドバイスを行う。
その関係上、コジェネの支援およびバイオマス発電所−国営電力会社間の仲介役を
務めている。
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・ マ レ ー シ ア エ ネ ル ギ ー セ ン タ ー ( Malaysian Energy Centre/Pusat Tenaga
Malaysia; PTM)
エネルギー・水資源・通信省下のエネルギー研究所。エネルギー計画、省エネ、
その他関連技術にかかる調査研究のフォーカルポイントとして大学、研究機関、産
業界およびマルチ・バイの諸機関との間にネットワークを有している。また同省の
エネルギー政策立案を目的とする政策分析をも行っている。既述のとおりエネルギ
ーセクター技術委員会の事務局。
この他のステークホルダーについては、注 3 を参照されたい。
注
1.
2.
3.
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
PIN(プロジェクト概要書)の段階で辞退した1件を除く。第6項(次号掲載予
定)参照。
その組織コンセプトは 2002 年 8 月の経済企画庁(Economic Planning Unit;
EPU)主催の CDM 政策セミナーで発表された。同セミナーには政府機関、関連
企業および NGO から計 81 名の出席を得て開催され、気候変動を巡る国際交渉の
現況および京都議定書ならびに CDM のしくみについて、その基本概念および理
論から具体的な技術課題に至るまで活発に議論されたもよう。
その他のエネルギーセクターにおけるステークホルダーは以下のとおり。
地方開発省(Ministry of Rural Development; MRD)
交通省(Ministry of Transport)
住宅・地方政府省(Ministry of Housing and Local Government; MHLG)
マレーシア工業開発庁(Malaysian Industrial Development; MIDA)
マレーシアパームオイル庁(Malaysia Palm Oil Board; MPOB)
国営電力会社(National Power Company/Tenaga National Berhad; TNB)、サ
ラワク電力(Sarawak Electricity Service Company; SESCO)、サバ電力(Sabah
Electricity Sdn Bhd; SESB)
国営石油会社(Petroleum Nasional; PETRONAS)
(SIRIM Berhad; SIRIM)
大学
マレーシアパームオイル製油協会(Malaysian Palm Oil Millers Association;
POMA)
マレーシアパームオイル協会(Malaysian Palm Oil Association; MPOA)
独立電力事業者協会(Association of Independent Power Producers)
マレーシア製造業者連合会(Federation of Malaysian Manufacturers; FMM)
マレーシアエネルギー事業者協会(Malaysian Association of Energy Service
Companies; MAESCO)
コンサルタント/エンジニアリング会社(Technology suppliers, consultancy and
engineering companies)
銀行(Financial Institutions)
NGO および消費者団体(NGOs and Consumer Associations)
地域住民(Local Community)
(つづく)
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