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床貸から空間の共有へ
サテライトオフィスを共創の場に
東急不動産株式会社 事業創造本部開発企画部
酒見 健一 氏
【企業発ベンチャー:ビジネスエアポート】
「急な展開に、年子を抱えた父親のような状態です。」
新規事業検討グループ 事業統括
IT機器を携えカフェで仕事をする「ノマドスタイル」は、すでに一般的な
ワークスタイルになりつつある。そこに注目したのが新たな会員制サテライト
オフィス「ビジネスエアポート」だ。会員になれば首都圏の複数のワーク
スペースを自由に利用できるだけでなく、セミナーや交流会といったビジネスパーソンの交流と共創の
場もシェアできるという。東急不動産(株)というデベロッパーが新規事業として世に送り出したこの
事業の発案者、酒見健一氏と、東急不動産事業創造本部(当時)の小室明義氏に話を伺った。
【ビジネスエアポート】
enture
東急不動産のグループ横断プロジェクト「次世代共創プロ
ジェクト」によって2013年に立ち上げられた、会員制のサテ
ライトオフィス。会員はワークプレイスの他、有料オプションに
よるOA機器や会議室、シャワールーム、人的サポート、随時
開催されるセミナーや交流会なども利用でき、単なる場所
貸しではなく、そこに集うビジネスパーソンたちの共創の場の
提供を目指す。
現在、青山、品川、丸の内、東京の4店舗で展開。
聞き手:企業発ベンチャー協議会 八代比呂美 Text&Photo:Apis 山崎玲子
早期に店舗を増やし相互利用モデルを構築
新規事業を立ち上げた
経緯をお聞かせいただけますか。
私は、入社したときから、いつか自分で
事業を興したいという思いがありました。
入社後はゴルフ場やマンションなどの
デベロッパー業務に携わりましたが、
いまひとつ自分のやりたい方向と違う
気がしていました。そんなとき、社内に
事業創造本部が新設されたのです。グ
ループ企業全体の既存事業の棚卸しと
新規事業の可能性を探る「次世代共創
プロジェクト」と、新規事業提案制度
「ディマンドイノベーション」の 2 つの
プロジェクトが動き出し、私はその両方
の事務局を担当することになりました。
しかし、社員の多くが既存の仕事で満足
しているせいか新規事業の提案はなか
なか上がってきません。一方、私は事務
局とはいえ新規事業をやりたくて仕方
がない。横からアイデアを出すうちに
「じゃあ、酒見がやれば?」という流れ
になったのです。もちろん、最終的に他
の案件も合わせて検討した結果、私の
事業プランが選ばれたわけです。
当時の事業創造本部長は現社長の
三枝、その下に社内ベンチャーでイー
ウェルを立ち上げた小室、シニアレジ
デンス・グランクレールを立ち上げた
西田と、社内的にも実績のある 3 人が
直属の上司ですから新規事業を進める
上で大きな力になりました。ベンチャー
04 企業発ベンチャー magazine vol. 8
ならではのスピード感を持った意志決定
や、優先順位を付けた取捨選択といった
方法論、経営面、店舗オープンした後
の経営判断や人事面、接客対応など、
場面に応じて適切なアドバイスをして
くれました。新規事業は全役員にオー
ソライズした方がいいと細かな役員対応
を指示されて大変でしたが、それが結果
として事業をスムーズに進めることに
なったと感じています。
ビジネスエアポートの事業内容と
運営体制について教えてください。
「ビジネスエアポート」は、会員制の
サ テ ラ イ ト オ フ ィ ス で す。併 せ て、
会議室や来客スペースをビジネスで
活用されていない始業前や終業後、
休日といった時間帯にビジネスパーソン
のスキルアップのためのサードプレイス
として提供するサービスも提供します。
人口動態の変化や、情報通信技術の
進化によってオフィスの外で仕事をする
ニーズが増えてきたことから、そうした
ワークスタイルの変革を捉えてビジネス
にできないかと考えました。
現状は社内の新規事業という位置づ
けで、私はビジネスエアポートの事業
統括担当という立場で全体を見ています。
スタッフは約 20 名で、うち本社からの
社員は2名。それ以外は、全員この事業の
ために雇った契約社員です。ほとんどが
酒見 健一 氏 SAKEMI Kenichi
1981年生まれ。33歳。2006年東急不動産株式会社入社。
2006年∼2009年までリゾート事業本部においてゴルフ場の
買収や運営管理を担当。2009年∼2010年まで住宅事業本部に
おいてマンション用地の仕入れ業務を担当。2011年∼事業
創造本部において新規事業関連業務を担当。2013年のビジ
ネスエアポート立ち上げ後は、専任の事業統括として事業
全般を担当。【座右の銘】信は真に通ず
資金は出しても口出しはしない社風に助けられた
30 代で、女性が大半を占めています。
スタッフは企画・運営から受付・コン
シェルジュまで兼務するため女性中心の
布陣ですが、今後は男性も増やしていき
たいと考えています。新規事業のアシ
スタントとして採用され、
1年もしないう
ちに店長を任されたスタッフもいますが、
ベンチャーはそのくらいの勢いでやる
しかないと思って頑張っています。
相当な負荷がかかっています。ここは、
いわゆるワークライフバランスを重視
する大企業とベンチャーの狭間でも悩む
ところです。オープン前には徹夜で頑張
らないとどうにもならないような局面も
あるわけで、スタッフもそれを理解して
頑張ってくれているんですが、企業とし
ての労務管理とのバランスを取っていく
難しさがあります。
新規事業の位置づけということですが
本社との関係はどうなっていますか。
企業発ベンチャーならではの
メリットは感じましたか。
事業にかかる資金以外、本社からの
援助は基本的にありません。むしろ、
敢えて口を出さずに放っておいてくれた
ということかもしれません。小室からは、
早く拠点を増やして相互利用モデルを
構築し、正当な評価を受けられる体制
作りを急ぐよう言われました。普通は
1 号店が安定してから徐々に増やして
いくのだと思いますが、それを待たず、
本社要員も増やさずに一気に4店舗まで
増やしました。結果的に社会的に注目も
浴びましたし、簡単に撤退はできなくな
りましたが、現場はまるで年子が 4 人い
るみたいな状態(笑)
。ようやく 1 号店は
立てるようになったけど 1 人でお留守
番はできない。そこに、弟や妹が生ま
れて、頼りにしていた父親はそちらに
かかりきりという感じです。
正直を言うと、既存のスタッフには
まず、青山から丸の内までの4 店舗に
かかった資金はすべて出資してくれた
こと。そして、たかだか 9 年目の主任
社員に20名のスタッフ採用まで自由に
任せてくれたことには本当に感謝して
います。そして、東急不動産というブラ
ンド力。これは、当初はとくに意識して
いなかったんですが、1 年経ったところで
お客さまのニーズを再調査しようと
アンケートを取ったところ、入会の決定
要因に「東急不動産の運営だから」と
書かれた方が非常に多かった。そこで、
改めて親会社のブランド力に気づかさ
れました。現在は、販促ツールなどにも
東急不動産という社名を前面に打ち出す
ようにしています。
それから、
細かいことに口出しをしない
とか、役員と社員の距離が近いといった
雰囲気は東急不動産ならではの良さ
だと思います。実は、今日は東京店の
内覧会なので、この後もグループ会社の
会長・社長がいらっしゃるのですが、
アテンドは僕 1人です。普通ならスタッフ
全員で出迎えるところですが、
「気に
しなくていいよ」と言ってくださる。
こうした風土もありがたいと思いますね。
法人化に関しては
どのように考えていますか。
状態は望んでいません。契約社員とい
う不安定な身分のまま、事業の将来性
とベンチャーという先の見えない事業
についてきてくれた社員たちのために
も、自分たちの会社を作りたいんです。
これは最初から変わらない思いです。
いずれにしても、まずは黒字化して
利益を出して、会社に対して想いや
希望を言える状況にしなければ始まり
ません。三枝社長も内容に納得できれば
「やってみろ」と言ってくださるのでは
ないかと期待しています。
まず、ここまで投資をしてくださった
東急不動産に対してはきちんと利益を
還元していかなくてはならないと思って
います。しかし、できれば将来的には別
会社化して従業員の持ち株制にしてい
きたい。もちろん、一部は資本を残して
いただきたいんですが、100%子会社の
follow-up interview
新規事業の成功には本人の意欲が重要
ウェルネス事業ユニットウェルネス事業本部副本部長 小室
明義 氏
新規事業に関わらず、仕事は担当責任者に任せるのが
当社流です。とくに新規事業では事業内容もさることながら
本人の意欲が重要で、自分が社長のつもりで推進しないと
成功しません。
「ビジネスエアポート」は、新たなビジネスの
場とワークスタイルの提案に、本業の改革にも寄与する
可能性を感じました。さらに多くの拠点を展開し世の中を
変革させる事業になってほしいですね。
小室 明義 氏 KOMURO Akiyoshi
ウェルネス事業ユニットウェルネス事業本部副本部長。1963年生まれ。1987年東急不動産
株式会社入社。2000年に社内起業で立ち上げた株式会社イーウェルの常務取締役に就任。
2010年に東急不動産に戻り事業創造本部マーケティング戦略部統括部長、2014年にウェル
ネス事業ユニット ウェルネス事業本部 執行役員副本部長 就任。
企業発ベンチャー magazine vol. 8 05
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