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ガゼッタ第21号から第25号のまとめ(5
メールマガジン「ガゼッタ」 まとめ(5) 第 21 号~第 25 号 (2013 年 3 月 15 日~4 月 25 日配信) 配信した「ガゼッタ」No.21-25 のまとめです。書式と一部表記を変更して図版を取り込み、pdf にしました。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ◆ガゼッタ第 ガゼッタ第 21 号◆ ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ガゼッタ第 21 号をお届けします。 本号は、「2013 年 ROF チケットの申し込みについて」「お薦めディスク:パエールの歌劇《レオノーラ》」 に続いて、連載『オペラの日本初演をめぐって』第 4 回を掲載します。 ▼2013 年 ROF のチケット申し込みについて▼ のチケット申し込みについて▼ 今年の ROF のチケット申し込みについて、お知らせします。ROF 友の会(Amici e Sostenitori)メンバーの優先 申し込みは 3 月 25 日開始、一般申し込みは 4 月 29 日から 6 月 14 日まで。こちらは郵便、ファクス、E メール による受付で、電話受付は 7 月 1 日から 26 日までとなります。 詳細や問い合わせ先は、次の ROF ブッキングをご覧ください。 英語版 http://www.rossinioperafestival.it/?IDC=148 イタリア語版 http://www.rossinioperafestival.it/?lang=ita&IDC=148 ▼お薦めディスク:パエールの歌劇《レオノーラ》▼ お薦めディスク:パエールの歌劇《レオノーラ》▼ ◎Ferdinando Paer : Leonora,ossia L'amore coniugale パエール:歌劇《レオノーラ、または夫婦の愛》 ペーター・マーク指揮バイエルン交響楽団 ウルスラ・コシュト(S) エディタ・ グルベローヴァ(S) ジークフリート・イェルザレム(T) ジョルジョ・タデオ(B) ほか Decca[Eloquence] 480 4859 (CD2 枚組) 1978 年録音の初 CD 化 ロッシーニの先輩作曲家として筆者が以前から関心を寄せているのがフェル ディナンド・パエール[パーエル](1771-1839)です。影響の一端は、拙稿「ロッシーニのポラッカとパエールの アリア」でも明らかにしておきました。HP 掲載の論考はこちら。http://societarossiniana.jp/polacca.2010OCT.pdf 残念なのはパエールのオペラの CD がきわめて乏しいことで、重要作品は今回発売された《レオノーラ、また は夫婦の愛》が初と言っても良いほどです。この作品はベートーヴェン《フィデリオ》と同じ原作で、物語も全 く同じ。初演はパエールが1年早く、その楽譜を知るベートーヴェンが影響を受けたことでも知られ、音楽には 《フィガロの結婚》の影響が聴き取れるなど、さまざまな意味で興味深い作品です。若きロッシーニがこのオペ ラを知っていたかどうかは不明ですが、モーツァルトとロッシーニの間に作られた名作としてお薦めしておきま す。なお、これは 1978 年に録音されて LP 発売されましたが、CD 化は今回が初となります。 ▼『オペラの日本初演をめぐって』(連載第 4 回:《ランスへの旅》)▼ フランス王シャルル 10 世の戴冠祝いに作られた《ランスへの旅》は、上演用の楽譜素材が失われて「幻」のオ ペラとなっていましたが、ロッシーニ財団の研究者たちの手で復元され、1984 年 8 月 17 日に ROF で蘇演されま した。日本初演は 1989 年のウィーン国立歌劇場来日公演(初日は 10 月 21 日。演出:ルカ・ロンコーニ、指揮:クラウ ディオ・アッバード)、邦人初演は 2000 年 11 月 16 日に日本ロッシーニ協会が設立 5 周年を記念して行いました。 このように、「世界蘇演」「日本初演」「邦人初演」の三つは明確ですが、数年前ある人から、「日本初演は 1992 年に関西で行われているんですよね」としたり顔で言われました。私は即座に、「ああ、知ってます。でも あれはピアノ伴奏で、しかも違法な海賊上演。それを堂々と日本初演なんて言っていいんですか? ロッシーニ財 団やリコルディ社から訴えられても知りませんよ!」と答えると、相手は黙ってしまいました。 ごく一部の人しか知らぬ事実もネット時代には情報として広く流布しますので、今ここで真実を明らかにして おきましょう。 1971 年に設立された「関西カゲキ派」と称するグループが、1992 年の第 20 回公演でピアノ伴奏による《ラン スへの旅》の演奏を行った……それは事実です。でも当時は楽譜が未出版でした。なのにどうして彼らはそれを 演奏できたのでしょう? 答えは簡単、1989 年にウィーン国立歌劇場が来日して日本初演した際に、「関西カゲ キ派」の関係者がウィーン国立歌劇場合唱団のメンバーからピアノ伴奏譜を借りてコピーしたのです。まあ、研 究用に内緒でコピーして個人で隠匿するなら、目くじらをたてるまでもないでしょう。でもそれを使って演奏し、 1 「本邦初演」と称したのなら話は別です。 ネット掲載の「関西カゲキ派上演史」はこちら http://www.angelfire.com/ks/kagekiha/history.html そもそもこれは 1984 年に復元蘇演された未出版の作品で、総譜は 1999 年(実際は 2000 年)に全集版として、 ピアノ伴奏譜は 2006 年にリコルディ社から初出版されました。言うまでもなく、著作権はロッシーニ財団とリコ ルディ社にあります。その未出版段階の楽譜を違法にコピーして無断上演すれば、明白な権利侵害となります。 現代作曲家の新作を出演者から楽譜を借りてこっそりコピーし、勝手に演奏して本邦初演と称するのと同じ理屈 です。それをネットに書けば、「私たちは違法な海賊上演をしました」と宣言したも同然ではありませんか。明 治・大正期ならともかく、現代にそれをしてはいけないでしょう。それもあって、筆者はこの件をずっと語らず にいたのに、当人がネット掲載しては黙っている意味がなく、2000 年に全集版の出版記念も兼ねて行った日本ロ ッシーニ協会「邦人初演」の価値も下がってしまいます。ですから、ここに真実を書くわけです。 でも、なぜ筆者が「ウラ事情」に精通しているのか、と疑問に思う人もいるでしょう。実は筆者は 1992 年より も前に「関西カゲキ派」の関係者を通じて《ランスへの旅》の違法コピー(のコピー)を入手し、経緯も直接聞い ていたのです。その際彼は、「持っているだけでヤバい楽譜だから、内緒に」と言い、私も 20 年以上沈黙をまも ってきました。時が流れ、その関係者も故人となったいま、真実を語れる人が少なくなってしまいました。 私が頭を悩ますのは、日本のロッシーニ受容の歴史に「関西カゲキ派」の海賊演奏をどう位置付けるのか、と いう問題です。実は 2009 年、《ランスへの旅》復活 25 周年を記念してドイツ・ロッシーニ協会が上演データベ ースを作成した際に、日本の上演記録を筆者が作成して提供しました。世界各国の研究者から寄せられた情報は 2 人の編者によって整理され、ドイツ・ロッシーニ協会紀要「La Gazzetta」2009 年版に「William Desniou / Reto Muller: 25 Jahre Il viaggio a Reims」として発表されましたが、管弦楽伴奏の正規上演データベースのため「関 西カゲキ派」のピアノ伴奏については報告しないでおきました。ちなみにこの調査により、1984 年の蘇演から 25 年間に世界 20 か国で合計 596 回上演され、1989 年の日本初演は 10 番目、日本ロッシーニ協会 2000 年の邦人初 演は 49 番目のプロダクションに当たることが判りました。 ヨーロッパで海賊上演を企画すれば、すぐにロッシーニ財団やリコルディ社の知るところとなりますが、海の 向こうの日本だから知られずにきました。「関西カゲキ派」は 21 世紀の活動が確認できず、すでに団体として存 在しないようですが、活動歴がネット掲載されているならその過去は無視しえなくなります。私が頭を悩ませて いるのも、その事実をどうすればいいのか、という点です。演奏歴の一つとして後世に伝えるなら、1992 年の何 月何日、どこで、誰が何の役を歌ったのかも含め、きちんと調べて公表しなければなりません。でも、それをし ちゃって良いのでしょうか?……これに関して、「関西カゲキ派」の責任ある立場の方からお返事をいただける とありがたいのですが…… (2013 年 3 月 15 日 水谷彰良) ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ◆ガゼッタ第 ガゼッタ第 22 号◆ ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ガゼッタ第 22 号をお届けします。 本号は、「運営委員会の開催」「クルザク:美しい光が~ロッシーニ・アリア集」に続いて、連載『オペラの 日本初演をめぐって』第 5 回を掲載します。 なお、ROF 友の会(Amici e Sostenitori)の優先申し込みは本日(3 月 25 日)開始されましたので、メンバー の方はお忘れなく。 ▼日本ロッシーニ協会の運営委員会を開催しました▼ 日本ロッシーニ協会の運営委員会を開催しました▼ 去る 3 月 19 日、日本ロッシーニ協会の運営委員会が開かれました。新たに委員に朝岡聡さんが選ばれたほか、 「ロッシーニの歌唱法に関する公開レクチャーの開催」、「日本におけるロッシーニ上演のデータベース構築」 など、2018 年の没後 150 周年に向けた新規事業の立ち上げも了承されました。データベースの構築には会員の皆 さまの協力が不可欠で、これについては 3 月 31 日の例会でもお話させていただきます。例会案内はこちら。 http://societarossiniana.jp/meeting.html ▼新譜:アレクサンドラ・クルザク「美しい光が~ロッシーニ・アリア集」▼ 新譜:アレクサンドラ・クルザク「美しい光が~ロッシーニ・アリア集」▼ ◎Aleksandra Kurzak: Bel raggio - Rossini Arias アレクサンドラ・クルザク:美しい光が~ロッシーニ・アリア集 アレクサンドラ・クルザク(S)ピエル・ジョルジョ・モランディ指揮シンフォニ ア・ヴァルソヴィア Decca 4783553(CD 海外盤) 録音:2012 年 7 月ワルシャワ 2008~09 年ロンドンの《マティルデ・ディ・シャブラン》やヴィーンの《セビー リャの理髪師》主演で注目され、その後《リゴレット》ジルダをメトロポリタン歌劇場やミラーノのスカラ座で 2 歌った若きポーランド人ソプラノ、クルザクによるロッシーニ・アリア集です。収録曲は《セミラーミデ》《ギ ヨーム・テル》《タンクレーディ》《マティルデ・ディ・シャブラン》《セビーリャの理髪師》《シジスモンド》 《イングランド女王エリザベッタ》《イタリアのトルコ人》の代表的アリアですが、ドニゼッティ《カレの包囲》 のアリアも 1 曲歌われています。 筆者はクルザクの実演に接した記憶がなく、この CD も 3 月 31 日入荷予定とあって声と歌唱に関して何も言え ません。2011 年春以降クルザクはロッシーニのオペラに出演しておらず、ルチーア、ミミ、ヴィオレッタ、ジル ダの路線を歩んでいますが、ロッシーニ・ファンにとって気になる存在であるのは間違いないでしょう。4月に は他にもさまざまなロッシーニの新譜が登場しますが、あまり先取りせず、順次取り上げることにします。 ▼『オペラの日本初演をめぐって』(連載第 5 回:《オリー伯爵》)▼ ロッシーニが 1828 年にパリ・オペラ座で初演した《オリー伯爵》は、フラン ス語の喜歌劇の歴史に新たな幕を開く画期的な作品となりました。けれども 1880 年代にいったんレパートリーから外れて幻のオペラとなり、20 世紀の復活 は 1947 年 10 月 25 日ローマの RAI ホールにてイタリア語版で行われ、オリジ ナル・フランス語の復活上演は 1954 年 8 月 22 日にエディンバラのキングズ劇 場で行われました。 日本初演は東京オペラ・プロデュースが 1976 年 6 月 25・26 日に東京郵便貯 金ホールで行った公演です(指揮:尾高忠明、演出:佐藤信。「オリー伯爵 あるい は仏蘭西好色一代男」の題名で上演)。前記復活上演から僅か 29 年ですから大した もの。しかも、この団体は前年誕生したばかりでした。とはいえこれは中村知 子の訳詞による上演のため、「訳詞による日本初演」に当たります。 オリジナル・フランス語での日本初演は 20 年を経た 1997 年 9 月 17・18 日、 同じ東京オペラ・プロデュースが北とぴあ・さくらホールで行いました(指揮: エンリーケ・マッツォーラ、演出:松尾洋。プログラムは プログラムは右図参照 プログラムは右図参照) 右図参照 。 このとき筆者はプログラムの作品解説以外にも、上演に貢献しています。と いうのも同団体がフランス語上演用に借りた楽譜の歌詞がすべて手書きで使い物にならず、歌手たちは筆者の提 供したフランス語のピアノ伴奏譜(19 世紀半ばのブランデュ版)をそっくりコピーして使用したからです。筆者はピ アノ伴奏譜の初版(1828 年)も持っていましたが、初版は誤りが多くコピーしづらいこともあって第 2 版に当た る楽譜を提供しました。ちなみに Kalmus 社の上演用貸譜はこのオペラの初版総譜を原本としながらオリジナル の歌詞をすべて消し、イタリア語の歌詞が手書きされていますからわけが判りません。 他にも 1992 年 3 月にオペラ振興会オペラ歌手育成部が修了公演に《オリー伯爵》を取り上げ(日本都市センター ホール。イタリア語版)、2009 年 7 月に南條年章オペラ研究室が津田ホールでピアノ伴奏のオリジナル・フランス 語版による演奏を行っていますが、本格的な上演は前記東京オペラ・プロデュースの 1976 年「訳詞による日本初 演」と 1997 年「原語による日本初演」が唯一です。それゆえ来年の藤原歌劇団公演は日本で 3 番目の本格上演と なりますが、「○○による日本初演」となるかどうかは現時点で未定です。 ◎追記:藤原歌劇団の邦題《オリィ伯爵》について ガゼッタ第 18 号(2 月 15 日配信)に、来年藤原歌劇団が《オリー伯爵》を《オリィ伯爵》の邦題で上演すると 書きました。その際、「Ory」を「オリィ」とするのは原語の発音や国語審議会の答申(「外来語の表記」平成 3 年) に照らして不適切なので、この件について藤原歌劇団の関係者に話し、結果は「後日このメールマガジンで報告 させていただきます」としました。 その段階では間違いを指摘すれば改まると単純に考えたのですが、その後、藤原歌劇団による《どろぼうかさ さぎ》や《オリィ伯爵》が NHK の作品表記に準拠している事実に気づきました。以前筆者が藤原歌劇団の関係 者に「なぜ全部ひらがなで《どろぼうかささぎ》としたのか?」と質問したときは、「公演監督が決めたからで、 それ以上は知らない」と言われただけでした。今回も公演監督が決めたと思いますが、単に NHK 表記に倣った だけならとやかく言っても仕方ありません。まともな人間なら、「Ory をオリィと書くのはパリ(Paris)をパリ ィと書くのと同じ過ち」、「リはイの母音を含むから、1 音節の ry や ri をリィとするのは発音から言っても間違 い」と説明すればすぐ判るはずですが、相手が人間ではなく NHK という組織なら話になりません。そして藤原 歌劇団が単に NHK 表記に準拠した(らしい)のなら、問題点を指摘しても埒があかないでしょう。というわけで、 この件での藤原歌劇団への問い合わせや再考願いは諦め、放置することにしました。 ちなみに NHK はかつて「ベルディ」一辺倒でしたが、近年は「ヴェルディ」も使っています。これは放送用 語委員会が外来語の発音と表記に関する検討を重ね、かつて不可とした表記を可とするなど、時代に沿った表記 を採用(もしくは許容)し始めた結果です。いずれ不適切かつ間違いである「オリィ」も是正され、「オリー」も しくは「オリ」になるでしょう。藤原歌劇団の関係者には、そうした点も含めて 21 世紀にふさわしい邦題の採用 を願うばかりです。そうでないと、藤原歌劇団が日本オペラ界の「化石」みたいになってしまいますから。 (2013 年 3 月 25 日 水谷彰良) ★HP 管理人より★ 管理人より★ 毎月 HP の更新をしていますので、時々HP をチェックしてみてくださいね。http://societarossiniana.jp 3 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ◆ガゼッタ第 ガゼッタ第 23 号◆ ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ガゼッタ第 23 号をお届けします。 本号は、「例会来場御礼と今後の予定」「お薦め CD:マリリン・ホーンのリサイタル・ライヴ」「新譜:マリ リン・ホーンのロッシーニ歌曲集」に続いて連載『オペラの日本初演をめぐって』第 6 回を掲載します。 ▼例会来場御礼と今後の予定▼ 例会来場御礼と今後の予定▼ 去る 3 月 31 日、例会「日本におけるロッシーニ受容の歴史(貴重な音源・映像付き)」をオカモトヤで開催しま した。出席者は事前予想を上回る 48 名で、機器のセッティングや進行にも会員有志のご協力をいただきました。 この場を借りまして、ご来場のみなさまに心から御礼申し上げます。当日の配布資料は、後日 HP に掲載させて いただきます。 さて、今後の例会について簡単に予告しますと…… ★5 月 12 日(日)午後、オカモトヤ会議室にて映画『Casa Ricordi(リコルディ社)』鑑賞会 註:これはロッシーニの登場する 1954 年イタリア制作の音楽映画で、30 歳のマルチェッロ・マストロヤンニ がドニゼッティ役で出演しています(字幕は聴覚障碍者用のイタリア語のみ)。経費節約のため講師を立てず、 当日筆者がボランティアであらすじと見どころを解説します ★6 月 2 日(日)午後、三軒茶屋駅徒歩 2 分の「三茶しゃれなあど」5 階集会室(スワン&ビーナス)にて、東京大 学の長木誠司先生を講師に迎え、講演会『政治とオペラ』(仮題)を行います。 ★7 月には ROF 予習会《ギヨーム・テル》を予定しています(期日と場所未定)。 詳細は後日案内を会員に郵送し、HP でも随時告知させていただきます。 ▼お薦め CD:マリリン・ホーンのリサイタル・ライヴ CD:マリリン・ホーンのリサイタル・ライヴ▼ :マリリン・ホーンのリサイタル・ライヴ▼ ◎Gioachino Rossini/Marilyn Horne Liederabend 1992 マリリン・ホーン:歌曲の夕べ 1992 (ロッシーニの歌曲とカンタータ《ジョヴァンナ・ダルコ》、《オテッロ》《アルジェのイ タリア女》《タンクレーディ》のアリアなど全 19 曲) マリリン・ホーン(Ms) マルティン・カッツ(pf) Hänssler Classic SCM 93.721(CD) 1992 年 4 月 25 日、シュヴェツィンゲンでのライヴ録音 「マリリン・ホーンと聞いただけで顔をしかめる評論家がいる」と耳にしたことがあります。でも、個人的な 好き嫌いと演奏の良し悪しは別問題。筆者はいつもホーンの「トンデモ歌唱」を面白がって楽しみ、彼女のロッ シーニ録音も座右のアイテムとなっています。 今回発売されたのは約 20 年前にホーンがシュヴェツィンゲンで行ったリサイタルのライヴ録音で、これが初リ リースになります。曲目はロッシーニの歌曲とカンタータで、オペラ・アリアも 3 曲歌われています。入手して 聴きましたが、これがなかなか良い演奏なんです。ホーンから想像する「アクの強い発声歌唱」「過剰な低音域 アピール」「趣味の悪いヴァリエーション」は絶無に近く、実に真っ当な歌唱を繰り広げています。その意味で 前年のスタジオ録音(RCA)よりも良い、と断言できます。とりわけ 6 曲目の「柳の歌」、13 曲目のカンタータ 《ジョヴァンナ・ダルコ》は出色で、伸びやかな声、繊細な表現に加えて歌の巧さも際立っています。 この演奏のもう一つの特色に、伴奏ピアニスト、マルティン・カッツが前奏の反復に適用する大胆な装飾と変 奏が挙げられます(とりわけ《ジョヴァンナ・ダルコ》のカバレッタ反復と 16 曲目《可愛いジプシー娘》)。ロッシーニ の歌曲を学ぶ人にもお薦めの CD です。 ▼『オペラの日本初演をめぐって』(連載第 6 回:《オテッロ》)▼ 日本におけるロッシーニ受容は 1917 年の《セビーリャの理髪師》に始まり、《アルジェのイタリア女》と《ラ・ チェネレントラ》を含む三大オペラ・ブッファの日本初演は 1968 年(ロッシーニ没後 100 周年)に完結しました。 では、本邦初のロッシーニのオペラ・セーリアは、いつ、どこで、誰が、何を上演したのでしょうか? 答えは 簡単。1989 年 6 月 29 日に東京オペラ・プロデュースが行った《オテロ[オテッロ]》です。これは東京グローブ 座 1 周年フェスティバルの一環で、会場も東京グローブ座でした(7 月 2 日までに 5 回。演出:出口典雄、指揮:星出 豊、新星日本交響楽団。オテッロ:田口興輔、デスデーモナ:林ひろみ)。但し、訳詞による日本初演です。 4 好評を得た東京オペラ・プロデュースは、翌 1990 年に日本都市センターホールと新神戸オリエンタル劇場でこ れを再演し、続いて 1992 年 9 月、ロッシーニ生誕 200 周年を記念して原語日本初演を行いました(会場はパナソ ニック・グローブ座)。つまり、僅か 3 年間に同じ団体が 4 回取り上げ、訳詞初演と原語初演の双方を行ったので す。とはいえ上演楽譜は 19 世紀のエディションを編集して用い、管弦楽も小編成に縮小されていました。 これとは別に、《オテッロ》のもう一つの日本初演が行われています。それが 1996 年 4 月 18 日、サントリー ホール 10 周年の記念公演です。これはロッシーニ財団の批判校訂版による日本初上演で、指揮/演出:グスタフ・ クーン、オテッロ:ジェームズ・ワーグナー、ロドリーゴ:パトリツィオ・サウデッリ、イアーゴ:エンリーコ・ ファチーニ、デズデーモナ:ダニエラ・ロンギほか、とソリストはみな外国人歌手でした。しかもたった一度の 公演で、開幕に先立ち「オテロ役のワーグナーが風邪でコンディションを崩していますが、歌います」とのアナ ウンスもありました。さほど不調との印象は無く、二重唱のハイ D を歌わないことへのエクスキューズかな、と 思ったことを覚えています。 その後、2000 年 7 月に東京オペラ・プロデュースが批判校訂版を用いて再演し(会場は新国立劇場中劇場)、2008 年 11 月にはロッシーニ・オペラ・フェスティヴァルの来日公演でも演目とされました(会場はびわ湖ホールとオー チャードホール)。それゆえ本邦初演から 11 年間に合計 7 回の上演機会を得たこの作品が、結果的に日本で最も数 多く上演されたロッシーニのオペラ・セーリアとなりました。 (2013 年 4 月 5 日 水谷彰良) ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ◆ガゼッタ第 ガゼッタ第 24 号◆ ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ガゼッタ第 24 号をお届けします。 本号は、「マイアベーア《ディノーラ》ハイライトを含む演奏会(5 月 19 日)」「京都オペラ協会による《アル ジェのイタリア女》上演(6 月 23 日)」に続いて、連載『オペラの日本初演をめぐって』第 7 回を掲載します。 5 月 12 日の例会案内はこちらをご覧ください。http://societarossiniana.jp/meeting.html ▼マイアベーア《ディノーラ》ハイライトを含む演奏会(5 月 19 日)▼ 5 月 19 日、大泉学園ゆめりあホールにて、会員の西尾京子さんがディノーラを歌うマイアベーア《ディノーラ (プロエルメルの巡礼)》ハイライトを含む公演が行われます(ピアノ伴奏による演奏会形式、原語・字幕解説付き)。 《ディノーラ》は 1 時間程度のハイライトで、他にグノー《ロメオとジュリエット》などが演奏されますが、ヨ ーロッパでもなかなか聴く機会のない作品とあってマニアックなオペラ・ファンに歓迎されることでしょう。主 催アトリエ・デュシャンの HP はこちら http://www.atelier-d-c.com/ateliermember.html 以下、西尾京子さんからいただいた案内文を転載します。 「来月 5/19 日に大泉学園にて、フランスオペラの会に出演いたします。1年間少しずつ取り組んできた、マイ アベーアのディノーラという珍しく、楽しい作品の最終回です! フランス語なのにドイツ風の激しいコロラ トゥーラ、聞き所満載ですのでぜひご来場くださいませ。」 2013/5/19(日)19:00 開演 アールリリック'13 前期-1 マイアベーア『ディノーラ(プロエルメルの巡礼)』ハイライト演奏会形式 原語・字幕解説付き @大泉学園ゆめりあホール 自由席 3.000 円 指揮・監修:村田健司 ピアノ:門 真帆 ディノーラ:西尾京子 ホエル:笹倉直也 コランタン:高畠伸吾 山羊飼いの娘:尾崎千鶴 藤田あゆみ ▼京都オペラ協会による《アルジェのイタリア女》上演(6 月 23 日)▼ 日本ロッシーニ協会とは何の関係もありませんが、6 月 23 日「第 6 回長岡京音楽祭」にて、京都オペラ協会が 《アルジェのイタリア女》を上演します(イタリア語上演。日本語字幕付)。 6 月 23 日(日)pm3:00~京都府長岡京記念文化会館 全自由席 一般 4,000 円/小学生~大学生 2,000 円(当日 500 円増) 総監督・演出:ミッシェル・ワッセルマン 指揮:小崎雅弘 オーケストラ:京都オペラ管弦楽団 合唱:京 都オペラ合唱団 主催の京都府長岡京記念文化会館による告知はこちら http://www.nagaokakyo-hall.jp/top.html 京都オペラ協会の HP はこちら http://www.nagaokakyo-hall.jp/contents/sub/opera/koen/index.html 京都府長岡京記念文化会館の HP にはチケットが「4 月発売予定」「詳細は決定次第、掲載します」とあるだけ で、京都オペラ協会の HP も含めどこにもキャストが書かれていません。なんか不思議。でも、《セビーリャの 理髪師》以外の作品が日本で上演される機会は乏しいので、京都府とその近郊のロッシーニ・ファンは足を運ん でみてはいかが? 5 ▼『オペラの日本初演をめぐって』(連載第 7 回:《マオメット 2 世》日本初演の裏話)▼ ロッシーニ《マオメット 2 世》日本初演が 2008 年 11 月にロッシーニ・オペラ・フェスティヴァル来日公演で なされたことは、皆さまご存知のことと思います。初日は 11 月 15 日びわ湖ホール。題名は《マホメット 2 世》 でした。アルベルト・ゼッダ指揮ボルツァーノ・トレント・ハイドン・オーケストラ、プラハ室内合唱団、マオ メット 2 世:ロレンツォ・レガッツォ、パオロ・エリッソ:フランチェスコ・メーリ、アンナ:マリーナ・レベ カのキャストで ROF の舞台が見事に再現されました。 来日公演のもう一つの演目は《オテッロ》ですから、「オペラ・セーリア 2 演目とは、さすが ROF!」と感心 した方も多いことでしょう。でもそれは結果でしかありません。次に、これに関する裏話をご紹介しましょう。 話は ROF 来日の前年(2007 年)8 月 15 日に遡ります。その日、金井紀子さんと筆者はロッシーニ財団事務所 を訪ね、芸術監督アルベルト・ゼッダ先生と長時間お話する機会を持ちました。話題が来年の ROF 来日公演に及 ぶと先生は、「演目はいま ROF で上演している《オテッロ》と《イタリアのトルコ人》を考えている」と仰った のです。私たちが、「《オテッロ》はジャンカルロ・デル・モナコ演出の舞台がつまらない。それに日本で何度 も上演されています」と言うと、「でもこれは日本の主催者(朝日新聞社)のリクエストなんだ」と答えられまし た。 「それなら仕方ありませんね。でも《イタリアのトルコ人》は数年前に藤原歌劇団がピッツィ演出で上演して います。しかもデヴィーアのフィオリッラで!」と申し上げるとゼッダ先生は驚き、「え、デヴィーア? それは 困った!…」と天を仰ぎました。そして「君たちは日本でなにを観たい?」と尋ねられて答えたのが、「オペラ・ セーリアをお願いします。日本のファンにロッシーニの真価を知ってもらうためにも!…」でした。 日本の主催者の側に立てばオペラ・ブッファを入れないと集客が難しい。ROF にとっても 2007 年の 2 演目を そのまま持って行く方が簡単でしょう……でもゼッダ先生は、私たちの言葉に真剣に耳を傾けてくれました。あ の日あの時ゼッダ先生とお話しなかったら、《マオメット 2 世》の日本初演は幻に終わったかも……今でもそん な風に思っています。 (2013 年 4 月 15 日 水谷彰良) ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ◆ガゼッタ第 ガゼッタ第 25 号◆ ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ガゼッタ第 25 号をお届けします。 本号は、今年日本で予定されるロッシーニ上演のインフォメーションのみです(連載『オペラの日本初演をめぐっ て』は、1 回お休みさせていただきます)。 5 月 12 日の例会案内はこちらをご覧ください。http://societarossiniana.jp/meeting.html ▼2013 年日本のロッシーニ上演(京都オペラ協会《アルジェのイタリア女》、佐渡裕芸術監督プロデュースオペラ《セビ (京都オペラ協会《アルジェのイタリア女》、佐渡裕芸術監督プロデュースオペラ《セビ リャの理髪師》、名古屋二期会《セヴィリアの理髪師》)▼ ヴェルディ&ヴァーグナーの記念年であればなおのこと、日本のロッシーニ上演はスカスカ……なんて嘆いて もしょうがないので、ここでは筆者の把握している 2013 年の国内ロッシーニ上演を網羅しておきます。 ◎6 月 23 日 京都オペラ協会《アルジェのイタリア女》 前号でお知らせした 6 月 23 日京都府長岡京記念文化会館における京都オペラ協会《アルジェのイタリア女》で すが、すでにキャストが発表されています。チケットの前売りは本日(4 月 25 日)開始。実はこれが今年最初のロ ッシーニ上演になります。詳細は京都府長岡京記念文化会館の HP をご覧ください(チラシをクリックすると配役が 判ります)。http://www.nagaokakyo-hall.jp/top.html ◎7 月 12~21 日、24~28 日 佐渡裕芸術監督プロデュースオペラ《セビリャの理髪師》 7 月には実に意欲的な公演があります。それが佐渡裕芸術監督プロデュースオペラ《セビリャの理髪師》。兵庫 県立芸術文化センターにて 8 公演のほか兵庫県内で別途 4 公演も予定されています。 《セビリャの理髪師》(全 2 幕日本語上演・日本語字幕つき) 7 月 12 日(金)、13 日(土)、14 日(日)、15 日 (月・祝)、17 日(水)、19 日(金)、20 日(土)、21 日(日)以上、兵庫県立芸術文化センター(8 公演)。 ほかに 7 月 24 日(丹波公演)、25 日(淡路公演)、27 日(播磨公演)、28 日(但馬公演)。 指揮:佐渡裕、演出:飯塚励生、装置:イタロ・グラッシ、衣裳:スティーヴ・アルメリーギ、照明:マルコ・フィリベッ ク 出演(ダブルキャスト)アルマヴィーヴァ伯爵:鈴木准/中井亮一、ロジーナ:林美智子/森麻季、フィガロ:髙田 智宏/大山大輔ほか [合唱]ひょうごプロデュースオペラ合唱団、[管弦楽]兵庫芸術文化センター管弦楽団 日本語による上演ですが、先日の例会でお話したように、ロッシーニの日本語歌唱が原語以上に優れた演奏を 生み出すことがあります。すでにチケット完売の日もあると聞きますので、お申し込みはお早めに! 6 詳細はこちら。http://www.gcenter-hyogo.jp/siviglia/ticket/index.html なお、来る 5 月 16 日(木)には芸術文化センター阪急中ホールにて、当協会の新・運営委員でもある朝岡聡さ ん(フリーアナウンサー/オペラ・ソムリエ)によるワンコイン・プレ・レクチャー第1回「行こう!セビリャの理髪 師~ロッシーニ魅惑のレシピ」が開催されます。当協会会員のベルカント・テノール・中井亮一さんの演奏付き です(ピアノ:高﨑三千)。プレ・レクチャー第 1 回の詳細はこちら。 http://www1.gcenter-hyogo.jp/sysfile/html/01_shousai/4252412102_0000000001.html ◎11 月 30 日、12 月 1 日 名古屋二期会《セヴィリアの理髪師》 年末にはもう一つのプロダクションによる公演があります。それが名古屋二期会《セヴィリアの理髪師》。11 月 30 日(土)と 12 月 1 日(日)に愛知県芸術劇場大ホールで行われます。現在知りうるのは、指揮:園田隆一 郎、演出:中村敬一、管弦楽:名古屋二期会オペラ管弦楽団のみです。 情報源は「名古屋二期会 友の会」サイト。http://www.nagoya-nikikai.jp/tomonokai.html まだ 4 月。これから発表される国内公演もあるとは思いますが、現状では「どんだけぇ~?」の問いに「こん だけー!」としか答えられません。面白いのはすべての公演が中部&関西圏で行われること。名古屋人と関西人 はロッシーニがお好き?……なんかオモロイですね。 でも、秋には東京で日本ロッシーニ協会が前回の《セミラーミデ》に続いてロッシーニのオペラ・セーリアの ピアノ伴奏セレクションを予定しています。ピアノ伴奏の抜粋でも、オペラ・セーリアを取り上げられるのは当 協会だけではないかしら? その意味でも、日本ロッシーニ協会の存在意義は大きいと自負しています。 (2013 年 4 月 25 日 水谷彰良) 7