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食肉処理施設の HACCPシステム 導入に当っての課題 平成27年10月14日 公益財団法人日本食肉生産技術開発センター 専務理事 細見 1 隆夫 1 食肉処理施設の衛生管理の現状 (1)処理能力別の設置箇所数 ア.牛 と畜頭数 区分 設置箇所数 (頭、箇所) 0~9 10~29 30~49 50~69 70~89 90 ~ 109 110 ~ 129 130 ~ 149 150 ~ 169 170 ~ 189 190以上 計 12 30 34 34 8 16 7 2 5 5 6 159 40 35 30 設 置 25 箇 所 20 数 15 10 5 0 と畜頭数 2 イ.豚 (頭、箇所) と畜頭数 区分 0~99 100 ~ 299 300 ~ 499 500 ~ 690 700 ~ 899 900 ~ 1099 1100 ~ 1299 1300 ~ 1499 1500 ~ 1699 1700 ~ 1899 1900 ~ 2499 2500 ~ 2999 3000 以上 計 設置箇所数 37 30 26 27 16 15 10 9 2 2 2 1 1 178 40 35 30 設 25 置 個 20 所 数 15 10 5 0 と畜頭数 3 (2) 規模別の従業員数 (頭、人) 1日当り処理能力 (豚換算) 従業員数 0~500 501~1000 1001~2000 2001~ 32 81 134 185 (3) 規模別の品質管理部門の設置割合 (頭、%) 1日当りの処理能力 (豚換算) 設置割合 0~500 501~1000 1001~2000 2001~ 38 66 78 80 4 (4) 施設(建物)の経過年数 (年) 設置者 地方公共団体 株式会社 組合 経過年数(平均) 27.3 31.5 29.5 合 計 29.4 (5)規模別HACCPシステム導入状況 (頭、%) 1日当り処理能力 (豚換算) HACCPシステムの 導入率 0~500 501~1000 1001~2000 2001~ 8 20 43 80 ISO22000 ISO22000 SQF2000 ISO22000 SQF2000 ISO22000 対米輸出食肉認定 認証の種類 5 (6)規模別食肉の輸出状況及び主な輸出国名 (頭、%) 1日当り処理能力 (豚換算) 輸出割合 0~500 501~1000 1001~2000 2001~ 12 29 48 80 香港 香港 香港 香港 マカオ マカオ マカオ マカオ シンガポール シンガポール シンガポール シンガポール タイ タイ タイ アメリカ アメリカ アメリカ カナダ カナダ 主な国名 6 2 食肉処理施設のHACCPシステム導入に 当たっての問題点 (1)衛生管理面 ア.小規模な食肉処理施設では、品質管理部門が設置されてい ない箇所が多く、HACCPシステムの構築や維持が困難 イ.地方公共団体等が設置した食肉処理施設では、施設の管理 と食肉処理が別組織であったり、食肉処理の一部を他団体 と委託している場合があり、作業員の一体的な管理が困難 ウ.食肉処理工程は工程数が多く、作業内容が複雑であり、衛 生管理の高度化を図るためには、作業員の技術及びモラル の向上が必要であるが、小規模な食肉処理施設では、経営 的、人材的な面で作業員の十分な教育が困難である。 7 (2)施設面 ア.建物が老朽化してきており、食肉処理に当っての衛生上の 問題が出てきており、建替えが必要であるが、資金的な面 で、一気に整備することが困難である。 イ.処理施設において、ゾーン区分がなかったり、作業員の衛 生管理に必要な施設が不十分であったり、枝肉の出荷施設 がオープンになっている。 8 3 食肉処理施設がHACCPシステムを導入 するに当たって整備しておかなければ ならない事項 (1)重要管理点(CCP)以外の管理の必要性 HACCPシステムは、コーデックス委員会の7原則12手順により 食肉の処理工程で起こり得る危害要因を分析し、人の健康に重 大な危害を与える危害要因を除去あるいは減少するために不可 欠な工程であって、特に厳重な管理を要する工程を重要管理点 (CCP)とし、モニタリングにより集中的に管理し、食肉の安全 性を確保する手法である。 しかし、重要管理点のみを管理しても、それ以外の管理が疎か になった場合は、食肉の安全性は確保できない。 食肉の安全性を確保するためには、5Sの確立、衛生管理に必 要な施設整備とともに、重要管理点以外の食肉の安全性に直接 又は間接に影響する危害要因の管理や作業員の教育について示 した一般的衛生管理プログラムを作成することが必要である。 9 (2)5Sの確立 HACCPシステムを有効に機能するためには、作業員に5Sを 定着させることが必要である。 5Sとは、整理(Seiri)、整頓(Seiton)、清掃(Seisou)、 清潔(Seiketsu)、習慣(Shukan) 整理とは、「要るものと要らないものを区分して、要らな いものを処分する」こと。 整頓とは、「要るものを定位置に管理する」こと。 清掃とは、「見た目にきれいにし、ゴミひとつ落ちていな い」こと。 清潔とは、「見た目だけではなく衛生的である」こと。 習慣とは、「ルール通りに実施する」こと。 5Sを定着するためには、「HACCPチームが主体となり」、 「現場を調査し」、「現状の共有化」、「5Sの実施計画の 作成、教育」が必要である。 10 (3)HACCPシステムに当っての施設の整備について ア.今年4月から、食肉処理施設は、衛生管理を「HACCPシス テム」又は「従来の手法」で行うかを選択することと なったが、現在の施設の状態では、HACCPシステムの導 入が困難であると考えている食肉処理施設が多い。 イ.平成8年のと畜場法改正以前に整備された食肉処理施設は、 ①牛と豚のと畜・解体施設が完全に分離されていなかっ たり、②ゾーンの区分がなかったり、③職員の衛生管理 の施設が不十分であったりする例が見られる。 ウ.HACCPシステムは、ソフト主体のシステムであり、ソフ トで対応できない必要最小限度の施設を整備することで、 HACCPシステムの構築は可能である。 エ.と畜・解体処理の場合、枝肉を直接汚染する可能性があ る。作業員や器具・機械の衛生管理が必要である。 11 オ.必要最小限の施設とは、改正前のと畜場法施行規則第7 条の衛生管理に必要な手洗設備、器具の消毒設備等であ る。 カ.厚生労働省も、と畜場法施行規則の改正の通達において、 HACCPシステムの導入に当って施設整備を求めないとし ている。 12 (4) 一般的衛生管理プログラムの作成 ア.一般的衛生管理プログラムの内容 (ア)HACCPシステムにより、食肉処理の衛生管理の大部 分は、「一般的衛生プログラム」によりおこなうこ ととなる。 (イ)このため。衛生管理の基準や手順を定めた「一般的 衛生管理プログラム」を作成することが必要である。 (ウ)食肉処理の一般的衛生管理プログラムとして、次の 事項についてプログラムを作成する。 ○食肉取扱者を含めて、清潔で衛生的な作業環境を確保 するに必要な管理事項 ・施設・設備・機械・器具の保守点検、衛生管理 ・そ族、鳥類、昆虫の防除 ・用水、氷及び給湯の衛生管理 ・排水、排水処理、廃棄物の衛生管理 ・薬品、洗浄剤等の衛生管理 ・試験検査室、器具の保守点検 13 ○取り扱いにより食肉中の危害要因の発生を防止するに必要 な管理事項 ・食肉の衛生的な取り扱い ○その他 ・作業員の衛生教育 ・製品の回収方法 14 イ 一般的衛生管理プログラムのマニュアルの作成方法 (ア)マニュアルの構成の構成は、「管理手段」、「管理 手段の衛生標準作業手順(SSOP)」からなる。 「管理手段」は、「どこで、何を、どの水準」を示 したもので、管理の基準となるものである。 (イ)管理手段は、と畜場法施行令及び施行規則により定 められた基準、コーデックス委員会の「食品衛生の 一般原則の規範」を参考に作成する。 (ウ)SSOPは、食肉処理施設の実態に即した内容であるこ とが必要であり、現在行っている管理内容を文書化 し、作業員が理解できる内容であることが必要。 コンサルタント等により作成したSSOPが実態に即し たに内容となっていない場合は、機能しないことが あり、職員自らがコンサルタント等の指導を受ける 等により作成することが必要である。 15 (エ)と畜・解体施設保守点検衛生標準作業手順(SSOP) の事例 作業場所 :と畜・解体施設 頻度 :施設等の点検は、始業前に実施、施設 等の洗浄・ 消毒は作業終了後に実施 作業実施者:洗浄作業点検者○○、点検実施者○○ 1 衛生管理手順 (1)施設・設備・機械・器具の洗浄消毒 ① 機械・器具 ・脂肪等の残渣を除去し、水洗を行う。 ・洗浄終了後、温湯(83℃以上)により、消毒する。 -------------- ・ナイフ、容器は清潔か、破損はないか。 -------------- (2)施設・設備・機械・器具の始業前点検 ① 機械・器具 ・背割電動ノコギリ、自動剥皮機、・・・は清潔か。 -------------- 16 2 逸脱事項 ・消毒槽の温度が83℃未満であった。 -------------- 3 逸脱事項の改善措置 ・消毒槽の温度が83℃未満の場合は、83℃以上にする。 -------------- 4 報告及び記録 ① 担当者は、改善措置が終了し、逸脱が解消されたことを確 認し、作業衛生管理者に報告する。 ② 作業衛生管理者は、改善状況を確認し、作業前点検表に記 載する。 17 作業前点検表事例 点検日: 年 月 点検時刻(始業前): 工程 日 時 点検者: 分 項 目 確認者: 評価 A ・天井 〇〇 胸割 備 考 消毒槽の温度が 83℃以下であっ ・胸割電動ノコギリの汚れ・錆 A たので、ボイラー管理者に連絡し、 ・昇降台の汚れ A 20分後に83℃以上とした。 ・手洗装置の汚れ A ・消毒槽の温度確認 C 〇〇 内臓摘出 ・コンベアの汚れ、 A ・殺菌温度の確認 A ・手洗装置の状況 A 〇〇 背割 ノコギリに脂肪が残っていたので、 ・背割ノコギリの汚れ B ペーパータオルで拭き取り、アルコ ・消毒槽の温度 A ール消毒を行った。 ・スイッチカバーの汚れ A 衛生管理者確認欄 氏名: 〇 〇 確認日時: 〇〇年〇月〇日 改善措置の実施状況 18 4 食肉処理施設のHACCPシステム構築手順 と留意する事項 コーデックス委員会の「HACCPシステムとその適用のためのガ イドライン」による7原則12手順 • 手順 • 手順 • 手順 • 手順 • 手順 • 手順 • 手順 • 手順 • 手順 • 手順 • 手順 • 手順 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 HACCPチームの編成 製品の記述 意図する用途および対象となる消費者の確認 フローダイアグラムの作成 フローダイアグラムの現場での確認 危害要因分析 (原則1) 重要管理点(CCP)の決定 (原則2) 管理基準(CL)の設定 (原則3) モニタリング方法の設定 (原則4) 改善措置の設定 (原則5) 検証方法の設定 (原則6) 記録と保存方法の設定 (原則7) 19 HACCPシステムの実施に当たっては、従業員の理解と協力が必 要であり、経営者は経営の方針としてHACCPシステムの導入を 宣言(コミットメント)することが必要である。 手順1~5までがHACCPプランを作成するための準備手順であり、 手順6~12までが、いわゆる、7原則に該当し、HACCPプランを 作成する手順である。 20 (1)手順1.HACCCPチームの編成 HACCPシステムを導入することが組織として決定された場合、 まず、HACCPチームを編成する。 HACCPチームは、関係部門の責任者、担当者、作業員の代表 者からなり、経営者、工場長等がチームリーダーになることが 望ましい。必要に応じて専門家を外部委員とする。 食肉処理施設の経営形態は、施設の管理と食肉処理の管理者 が異なる場合や、と畜解体、内臓処理、部分肉処理を委託して いる場合がある。HACCPシステム構築の場合は、関係団体が必 ずHACCPチームに加わることが必要である。 規模の小さい食肉処理施設では、衛生管理部門がない場合が 多いが、この場合は、経営者がチームリーダーとなり、作業員 を委員とし、専門家の指導を受けることが必要である。 HACCPチームの役割は、①12手順に基づくHACCPプランの作 成、②一般的衛生管理プログラムの作成、③HACCPプランの 実施状況の検証、④5Sの確立、⑤施設等の整備計画の作成、 ⑥作業員教育等である。 21 (2)手順2.製品の記述、 手順3.意図する用途及び対象となる消費者の確認 手順2の「製品の記述」は、食肉処理施設で製造する食肉の内 容及び管理の方法を明らかにする。 手順3の「意図する用途及び対象となる消費者の確認」は、食 肉処理施設で製造した食肉が誰にどのように使用されるのかを 明確にすることである。 手順2と手順3は、「製品説明書」を作成する。 22 製品説明書(牛:枝肉)の事例 区 分 内 容 1. 製品名称 牛枝肉 2. 原材料 黒毛和種 3. 使用基準のある添加物の名称及び使用量 なし 4. 容器包装の形態及び材質 なし 5. 製品の規格 重量: ○○kg 格付: 6. 賞味期限及び保存方法 賞味期限: 日以内 保存方法: 7. 喫食又は利用方法 ・煮る、焼く等熱を加える ・食肉加工品の原料 8. 流通上の注意点 ・輸送は冷蔵車を使用 ・保存は冷蔵庫 9. 対象者 ・食品加工業者 23 (3)手順4.フローダイアグラムの作成 手順4は、各処理工程の手順6の危害要因分析に必要となる 資料の作成である。 手順4で作成する資料は、 • 食肉処理工程の作業の流れを明らかにするフローダイアグラム (作業工程表) • 食肉処理の標準作業手順(SOP)書 • ゾーン区分図、動線図、バリア配置図、機械設置配置図 24 25 豚・と畜・解体施設のゾーン区分図 26 豚・と畜・解体施設の動線バリア図 27 (4)手順5.フローダイアグラムの現地での確認 手順4で作成した各資料について、実際の作業工程等と違い があるかを現地で確認する。 もし、実際の作業工程との間に差がある場合は、現場作業員 と共に検討を行い、各資料を修正する。 28 (5)手順6(原則1).危害要因分析 危害要因分析は、危害要因分析表により行う。 (1) № 工程 (2) (4) (3) (5) (6) 発 生 が 予 想 さ れ る 危 重 要 な 危 害 要 (3)の根拠は何 管理手段は何 CCPか 害要因は何か? 因か? か? か? 生物 化学 物理 (1)工程: フローダイアグラムの番号と工程名 (2)危害要因: 生物的危害要因、化学的危害要因、物理的危害要因に分け、その内容を具体的に記載 (3)重要な危害要因か: 危害要因の重要度を判断する。 重要とされるのは、食肉中に存在する危害要因の「増大」と「消滅・低減」に影響を与え る工程。食肉の「汚染」に影響を与える工程は、一般的衛生管理プログラムで管理できるの で重要でないとされる。 (4)(3)の根拠: 重要又は重要でないとした理由を記載する。 (5)管理手段は何か: (3)で重要とした場合の管理手段を記載。この場合、後の工程で管理できるものはその 旨を記載する。この工程で管理できるものは、CCPとなる。後の工程で管理できるものは CCPとしない。 29 牛のと畜・解体工程の危害要因分析表の事例① (3) № (1) (2) 重要な (4) (5) 工程 発生が予想される危害要因は何か? 危害要 (3)の根拠は何か? 管理手段は何か? 因か? 4 井水・ 貯留槽管理 生物 病原微生物汚染 化学 なし 物理 なし NO ナイフ、エアーナイフ、フットカッ ターの洗浄・消毒不十分、手 右後足切断、 16 右腿部剥皮、 生物 指、前掛け、カッパズボンによる 原微生物汚染 掛け 化学 なし 物理 獣毛付着 NO 24 内臓摘出、 生物 前掛け、カッパズボンの洗 浄(SSOP遵守) NO NO ナイフの洗浄・消毒不十分、手 指、前掛け、カッパズボンによる P遵守) ナイフの洗浄・消毒、手指、 病原微生物汚染 表皮の剥皮部分付着による病 右足トロリー 井水、貯留槽の管理(SSO 作業の技術向上(SSOP遵 守)トリミング 作業の技術向上 ナイフの洗浄・消毒、手指、 NO 前掛け、カッパズボンの洗 病現微生物汚染 浄(SSOP遵守) 胃腸管内の破損による病原微 枝肉に腸管内容物が付着 作 業 技 術 の 向 上 と 整 生物の枝肉への汚染 した場合は、危害要因とな 形、後工程であるトリミン YES 横隔膜摘出 る。 グ工程で腸管内容物が 枝肉に付着した場合 は、付着部をトリミングす る。 化学 なし 物理 なし 30 (6) CCP か 牛のと畜・解体工程の危害要因分析表の事例② (3) № (1) (2) 重要な (4) (5) 工程 発生が予想される危害要因は何か? 危害要 (3)の根拠は何か? 管理手段は何か? 因か? ナイフの洗浄・消毒不 十 分、手 指、前掛け、カッパズボンによる 26 整形、 生物 NO 胃腸管内容物の枝肉への付着 胃腸管内容物が枝肉に付 作業員の技術向上と腸 YES 着した場合は、重大な危害 管内容物を目視によりト 要因となる。 なし 物理 なし 手指、前掛け、カッパズボンの汚 か 前掛け、カッパズボンの洗 浄(SSOP遵守) 化学 CCP ナイフの洗浄・消毒、手指、 病原微生物汚染 トリミング (6) NO YES リミングする。 手指、前掛け、カッパズボ 染 ンの洗浄 (SSOP遵守) 生物 30 冷蔵庫の温度管理不全による病 YES 冷蔵庫で保管されている枝 枝肉の温度が10℃以上 原微生物の増殖 冷蔵、保管 肉の温度が10℃以上にな にならないよう冷蔵庫の ると病原微生物が増殖する 温度管理を行う。 可能性 化学 なし 物理 なし 31 YES (6)手順7(原則2).重要管理点(CCP)の決定 重要管理点(CCP)とは、危害要因の発生頻度が高く、人の 健康に重大な影響を与えることから、危害要因の除去又は人 の健康に危害を与えない程度に減少しなければならない不可 欠な工程であって、特に厳重な管理が必要な工程である。 CCPの工程では、管理基準を逸脱した場合は、食肉を留め置 き、出荷しない等の措置が必要であることからモニタリング により管理することが必要となる。 CCPの設定に当たっては、真にCCPにより管理しなければな らない工程とし、CCPに該当しないような工程をCCPとした 場合は、管理が分散化されHACCPシステムが機能しない恐れ がある。 また、決定に当たっては、コーデックス委員会の「CCPの判 断樹」を活用することが望ましい 32 CCP決定の判断樹 質問1. この工程または以降の工程に確認された危害要因に対する管理手段はあるか? Yes No 段階、工程または製品の変更 安全のためにこの段階で制御が必要か? No Yes CCP ではない 質問2. この工程は発生するおそれのある危害要因を除去または許容 レベルまで低下させるために特に設計されたものか? Yes No 質問3. 確認された危害要因が許容レベルを超えるか、 または限度を超えて増加する可能性があるか? Yes No CCP ではない 質問4. 以降の工程は、確認された危害要因を除去または 許容レベルまで低下させるか? Yes No CCP ではない CCP 33 CCP決定の判断樹の事例(冷蔵・保管工程) 工程名 : 冷蔵・保管 危害要因 : 枝肉等の食肉の冷蔵保管工程において、冷蔵庫の温度が基準値を 越える場合、枝肉の微生物が増殖 する可能性がある 質問1 : この工程または以降の工程に確認された危害要因に対する管理手段は あるか? ●YES (質問2へ) 【YESの理由】 冷蔵保管工程は、危害要因である病原微生物が増殖しない枝肉の温 度を基準以下にするために設定された工程である。 質問2 : この工程は発生するおそれのある危害要因を除去または許容レベル まで低下させるために特に設計されたものか? ●YES CCP 【YESの理由】 冷蔵保管工程は枝肉の温度を基準値以下にすることにより、微生物の 増殖を防止できる 34 (7)手順8(原則3).管理基準の設定 管理基準(CL)とは、CCPの管理が許容できるか否かを判断 するモニタリングパラメータである。パラメータには限界値 があり、その限界を逸脱すると安全性を保障できないことと なる。 CLは、可能な限りリアルタイムで判断できるパラメータを用 いることが必要であり、官能的指標、水分活性、pH、温度、 時間等の物理的測定値である。 食肉処理工程のCCPとは、トリミング工程、冷蔵・保管工程 及び金属探知工程が想定されるが、トリミング工程のCLは、 色調で「無し」、冷蔵・保管工程は「10℃以下」、金属探知 工程は「無し」となる。 35 (8)手順9(原則4).モニタリング方法の設定 モニタリングは、CCPが適切に管理されることを確認し、人 の健康に危害を与える可能性のある食肉の出荷を防止するた めに設ける。 モニタリングの方法は次により行う。 • 何を(What) • どのように(How) • 頻度(When) • だれが(Who) 36 CCPのモニタリング方法の事例 モニタリングの方法 CL 工程名 食肉の冷蔵保 冷蔵庫の温度 管 枝肉のトリミング 10℃以下 腸管内容物の 付着無し 何 を どのように 頻 度 (What) (How) (When) 冷 蔵 庫 内 の 温 作業前 冷蔵庫の温度 度計を目視で確 作業中 認 作業後 枝肉の胃腸管 内容物の付着の 目視により確認 枝肉100頭ごと 有無 部 分 肉 ・ 内 臓 金 属 探 知 機 の 金属探知機を検 作 業 開 始 前 作 ( 白 物 ) の 金 属 能力が正常であ 定 チ ッ プ に よ り 業 中 ( 2 時 間 ご 部分肉内臓(白 片無し るか 検査 と) だれが (Who) 作業衛生責任 者 作業衛生 責任者 作業衛生責任 者 物)の金属探知 工程 部分肉・内臓 (白物)の全検 査 製品は全て検査 されているか 目視により検査 37 〃 〃 (9)手順10(原則5).改善措置の設定 CCPモニタリングにおいて、CLからの逸脱が認められた場合、 逸脱の影響を受けた食肉を出荷製品から排除し、逸脱した工 程管理を元の状態に戻す措置が必要となる。 HACCPシステムにおいて、消費者等へ危害の発生のある食肉 の出荷を防止するためには、CCPのモニタリングにおいてCL を逸脱した場合にとるべき措置を予め決めておくことが必要 である。 38 食肉冷蔵・保管管理工程の冷蔵庫の温度管理の改善措置の事例 (逸脱事項) CLが10℃以下の冷蔵庫において、作業前の冷蔵庫の温度のモ ニタリングにおいて温度が15℃となっていた。 (改善措置) 衛生管理責任者は、〇〇部長及び冷蔵庫の管理責任者に連絡 し、冷蔵庫の状態を調査する。 管理基準を逸脱した冷蔵庫に入っていた枝肉は表面温度を測 定し、10℃以下の枝肉は正常に稼働している冷蔵庫へ移動す る。 冷蔵庫の管理責任者は、冷蔵庫メーカーを呼び冷蔵庫が正常 に稼働するように修繕する。 枝肉の表面温度が10℃を超えた枝肉は廃棄する。 39 (10)手順11(原則6).検証方法の設定 検証方法の設定とは、①設定したCCPの管理内容が適切であ るかの確認(妥当性確認)と②CCP管理がHACCPプランに 従って実施され、適切に機能していることを確認する方法を 設定することである。 HACCPプランによる管理で、危害要因が効果的に管理できる ことを確認するため、「許容限界は妥当か」、「モニタリン グの頻度は妥当か」、「是正措置は妥当か」を科学的根拠に 基づいて証明することが必要 もう一つの検証は、CCPがHACCPプランに従って管理されて いることを確認することであり、「計画どおりモニタリング されているか」、「逸脱はなかったか」、「逸脱があった場 合、改善措置が正しく行われたか」を確認することである。 検証実施者は、モニタリング実施関係者以外の者が行うこと が必要 40 検証方法の事例 CCP:枝肉冷蔵・保管工程 検証作業 何を 頻度 誰が (記録の確認) 冷蔵庫の温度のモニタリング記 出荷ごと 出荷担当者 録の確認 逸脱と是正措置の記録の確認 出荷ごと 出荷担当者 1年〇回 品質管理担当者 (校正作業) 温度計の校正 (独立したチェック) (モニタリング関係者以外) 科学的証明(バリデーション) 冷蔵庫の温度と枝肉の細菌類の増殖の関係 枝肉搬入時間の別の冷蔵庫の温度 枝肉搬入時間の別の冷蔵肉の表面温度 41 (11)手順12(原則7).記録の保存方法 記録の保存は、食肉処理の作業の衛生管理がHACCPプランどおりに実施さ れたとの証拠になるとともに、食肉の安全性に関する問題が発生した場 合、衛生管理の状況を遡って原因追究できる資料になる。 保存文書は次のものである。 • HACCPチームの運営要領 • 製品説明書 • フローダイアグラム • 食肉処理施設の見取り図(処理ライン図、施設・設備配置図、クリーン • • • • • • • • ゾーン・ダーティゾーン区分図、物・人の動線図) 標準作業手順(SOP)書 衛生標準作業手順(SSOP)書 危害要因分析表(危害要因分析に使用した資料) CCP、CLの決定の根拠とその資料 HACCPプラン HACCPプランの実施の記録(モニタリング記録、改善措置の実施記録、 検証の記録) 一般的衛生管理プログラム 文書保存規定 42 HACCPプランの事例 牛枝肉の冷蔵保管工程のHACCPプラン 制定: 年 月 日 製品の名称: 牛枝肉 書類№ 作成者 CCP № 工 程 CCP 牛枝肉の冷蔵保管 危 害 要 因 微生物の増殖 管 理 基 準 冷蔵庫の温度 10℃以下 枝肉冷蔵庫の温度計を目視確認 モニタリングの方法 頻度:作業前、作業後 担当者: 冷蔵庫の冷却装置の修理 改 善 措 置 逸脱した冷蔵庫に入っていた食肉については、全ての食肉 について表面温度を計測し、10℃以上のものは廃棄、 10℃以下のものは正常に稼働している冷蔵庫に移す 温度計の記録表のチェック 検 証 方 法 温度計の校正 微生物の検査 温度計のモニタリング記録 温度計の校正記録 記 録 文 書 改善措置の記録 微生物の検査記録 検証の記録 43 (まとめ) 昨年4月、と畜場法施行規則が改正され、食肉処理施設は、食肉処 理の衛生管理を「危害分析・重要点管理方式」又は「従来の衛生管 理方式」で実施するかを選択することとなった。 HACCPシステムは、食品衛生のグローバルスタンダードとして、米 国、EU等では義務化されてきており、我が国においても義務化の方 向にあるものと考えられ、従来の衛生管理方式を選択した場合で あってもHACCPシステムを導入することが必要になるものと考えら れる。 食肉処理施設の建物は老朽化していることと、管理体制が脆弱であ り、このままではHACCPシステムの導入は困難であると考えている 経営者は多いが、HACCPシステムはソフトによる管理であることや、 専門家をアドバイザーとして加えることで管理体制が脆弱な食肉処 理施設でもHACCPシステムの導入は可能であると考えられる。 HACCPシステム導入に当たって施設を整備する場合は、HACCP支援 法に基づき、施設整備に必要な長期、低利の金融が利用できるので、 指定認定機関である当センターにご相談いただきたい。 また、HACCPシステムの導入に当たって、専門家が必要な場合につ いても当センターにご相談いただきたい。 44