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新中型民間機を中心とする設計技術及び生産技術
(公財)航空機国際共同開発促進基金 【解説概要17-5-3】 この解説記事に対するアンケートにご協力ください。 新中型民間機を中心とする設計技術及び生産技術 1 背景 ボーイング社の Current Market Outlook 2005 によれば、今後20年間で、GDP の伸び を 2.9%/年として、航空旅客は 4.8%/年、航空貨物は 6.2%/年の伸びを予測している。 その内容には2つの特徴がある。すなわち、第一は、機材サイズが大型化から小型機材の 需要増加に転じることであり、また、第二は、市場の中心が、欧米からアジア・太平洋地 域へ移ることである。エアバス社もボーイング社と同様に今後20年間で航空輸送は着実 に伸びると予測しているが、要求される機材の種類についてはボーイング社の予測と異な っている。すなわち、エアバス社は、旅客増大による空港・空路の混雑と旅客の低運賃志 向から主として Hub 間の幹線を運航する大型機の需要増大を予測し、これが A380 の開発に 繋がった。一方、ボーイング社は、旅客の利便性の追及から便数増と2地点間の直接運航 (Point to point service)を強調して、比較的小型の機材の需要増を予測し、B777 の後 (1) 継機として B767 の後継機もいうべき B787 の開発に着手した。 もっとも両社ともこれら のクラスの機材に特化したわけではなく、ボーイング社は A380 の対抗機種として B747 の 後継機である B747-8 の開発を決定しており、エアバス社も B787 の対抗機種として A350 の開発を開始した。次にボーイング社とエアバス社で開発中の機材の概要を示す。まず、 B787 は効率的な2地点間直接運航を想定した中型輸送機であり、原型機(-8)で座席数 223 席(3クラス)、 航続距離 15,700km、短距離型で、座席数 296 席) (2クラス)、航続距離 6,500km、 ストレッチ型で座席数 259 席(3クラス)、航続距離 15,400km という構成である。(2)本計 画では、2003 年 12 月 15 日に、ATO(Authorization To Offer)がボーイングの役員会で 承認され、ANAを最初のカスタマーとして、2004 年 4 月末に開発がスタートした。2007 年に初飛行、2008 年に市場投入の予定で、川崎重工、三菱重工、富士重工の日本メーカー をはじめ、ボート社、アレニア社等のパートナーが参加して開発作業を行っている。なお、 ANAからは50機の受注を得ている。また、B747-8 は 2005 年 11 月 14 日にプログラ ムのローンチが発表された。このプログラムには、 B747-8 インターコンチネンタル(旅 客機)、 B747-8 フレイター(貨物機)の 2 機種が含まれる。今回のローンチは、日本貨 物航空株式会社(以下 NCA )による B747-8 フレイター 14 機(確定 8 機、オプシ ョン 6 機)、ルクセンブルグを拠点とするカーゴルックス社より 20 機(確定 10 機、購 入権 10 機)の受注を受け決定した。 NCA 向けは 2009 年第四四半期よりデリバリー開 始、また、カーゴルックス社向けは、2009 年第三四半期デリバリー開始を予定している。 (3) 他方、エアバス社の A380 計画はハブ・アンド・スポーク路線の運航を想定して大型化 を狙った機材で、A380 ファミリーは、その原型機である A380-800 から開発がスタートし た。2000 年 12 月に正式に開発着手されており、2006 年初頭に運航を開始する予定であ る。A380-800 は乗客数 555 席(3 クラス配置)で、最大 15,000km の航続距離である。 また、派生型の貨物機である A380-800F は最大 152 トンの貨物を搭載し高速距離は 10,400km である。これらに加えて、胴体延長型、短胴型、航続距離延長型などの各種派 生型を市場のニーズに対応して投入する計画である。A380 の搭載エンジンは、ロールス・ ロイス社製トレント 900 エンジンまたはエンジン・アライアンス社(ゼネラル・エレクト リック社とプラット&ホイットニーの合弁企業)製 GP7000 から選定可能である。(4)ま た、エアバス社は B787 と同じ市場を狙った A350 シリーズを 2005 年 10 月 6 日にローンチ した。A350 については、253 席(3 クラス)で航続距離 16,300km の A350-800 型と 300 席(3 クラス)で航続距離 13.900km の A350-900 型を提案しており、複合材やアルミリチウム合金 (2) などの新材料と新技術の適用を計画している。 新材料については、複合材は適用比率が 37%で主翼を中心に適用し、アルミリチウムは構成比率 23%で胴体の大部分に適用して重量 軽減を図っている。また、コックピットとフライトシステムは A330 と共通化を図り、A330 と A350 でパイロットレイティングの共通性を維持している。開発費は40億ユーロで、 2009 年に初飛行、2010 年から市場投入する計画である。 本章では、これら 787、A380 及び A350 に適用が想定される設計技術を概説し、次に個別 の適用事例を解説する。さらには将来民間機を対象とした研究事例を紹介する。 2. 設計技術 航空機の開発計画では機体の軽量化及び構造の一体化が大きな要素であり、そのために 複合材料技術、精密鋳造技術、摩擦攪拌接合技術、新アルミ合金等の新設計技術の広範な 適用が想定されている。また、設計効率化技術についても、3次元の設計ソフトにより作 成した DMU(Digital Mock Up)を用いて、設計、工作等の関係者が同時並行的に作業を 進めるコンカレントエンジニアリングの手法が広く用いられており、本手法はボーイング や日本のメーカーのみならずエンブラエル社等のリージョナル機の開発においても適用が 進んでいる。また、複合材料の適用が広がるに伴い、運用中に発生する損傷を精密にモニ ターするヘルスモニタリング技術が必要とされている。本調査では将来民間機に適用が計 画されているヘルスモニタリング技術のわが国の研究状況についても概説する。 設計効率化技術の詳細については平成14年度報告書 (5)を、また、ヘルスモニタリン グ技術については平成15年度報告書(6)を参照いただくとして、ここでは B787 計画、A380 計画及び A350 計画への構造関係新技術の適用状況及び将来民間機への適用を目指した我 が国の新技術(構造関係)の研究事例を中心に述べる。 2.1 軽量化技術 (1)複合材料技術 最近の軽量化技術の代表は、複合材料の多用である。B787 計画では、尾翼及びフロア ビーム等に加え、主翼、胴体の主構造に複合材の適用が想定されており、その比率は機体 重量の 50%に達している。A380 計画では、尾翼に加えて、後部与圧隔壁、中央翼にも複 合材が適用されており、胴体には GLAREⓇ (アルミニウム箔とガラス繊維布を接着した 強化積層板)等の新材料が使用される(4)。本計画には、日本の機体メーカーや部品メー カーも分担製造に参加している。これらの新型民間機で広範囲に適用が計画されている複 合材料については、1970 年代には動翼類、ドア類に炭素繊維強化プラスチック材料の適用 が始まり、1980 年代からは一次構造の尾翼へ適用が拡大した。現在、ビジネス機では全複 合材の機体も現れているが、 旅客機の分野では、胴体や主翼への適用は研究段階であった。 複合材料は、表面平滑度が優れているので空力特性の向上につながるとともに、金属構造 と比較して 15%~20%の重量軽減の効果があるものの、一方で製造コストが高いという課 題がある。上述のような広範囲な複合材料の適用に当たっては、単に従来のアルミ構造を 置き換えるだけではなく、複合材の特性を活かした一体成型の新構造様式を想定して、軽 量化、低コスト化等の適用効果を上げる必要があり、B787 計画ではこの点が大きな課題 になるものと考える。航空機構造への複合材料の適用に当たっての課題については 6.4 で 詳しく述べる。 また、複合材一体構造では非破壊検査法の確立が課題であり、特にエアラインでの使用 を想定した検査法の確立が不可欠である。エアラインでの使用を想定した検査法としては、 X線探傷検査、超音波探傷検査、タッピング検査等の手法がある。しかし、これらの非破 壊検査法を胴体や主翼のような大面積の部位に適用するには課題が多い。このため近年で は、複合材料の中に光ファイバを埋め込んだヘルスモニタリング技術の開発が行われてお り、昇降扉や貨物扉の開口部のような地上支援機材との接触による損傷発生の可能性が高 い部位に適用すれば効果が高いと考えられる。わが国のヘルスモニタリング技術の研究状 況概要については、6.2.2 項で紹介する。 (2)精密鋳造技術 従来の鋳造材料は、強度が低い、強度がばらつき信頼性が低い、等の欠点があったが、 近年は材料の改善と鋳造技術の進歩により、強度特性のバラツキが低減した。航空機に主 として適用されていた Al-Si-Mg 系合金の D357.0 が開発され、鍛造材と同等以上の特性を 実現し、MIL-HDBK-5 にA値、B値が設定された。D357.0 は、強度特性項目によっては 2024 材、7075 材と同等の特性を示すので、航空機への適用可能性が高く、鋳造の特性を活かし て設計すれば、継ぎ手部の重ね代省略、ファスナ孔の省略等の利点があり、鍛造材による 従来構造と比較して軽量・低コスト設計が可能である。 海外民間機では、低コスト化達成のため鋳造品の適用が進んでおり、エアバスの A300、 A320 の貨物ドア、ボーイングの B737 の各種扉類等に適用事例があり、低コスト化、軽量 化を達成している。また、軍用機では、F-22 戦闘機の翼胴結合金具や C-17 輸送機のロン ジロン等の高信頼性が要求される部位への適用事例がある。精密鋳造技術の日本における 研究事例については、平成14年度報告書(5)を参照いただきたい。 (3)摩擦攪拌接合技術 摩擦攪拌接合技術は、金属を融点以下の温度で接合することにより、組成を変えること なく接合が可能になる技術である。具体的には、2種の金属の間に挿入したピン(接合ツ ール)を回転させることにより摩擦熱を発生させて金属を軟化させ、融点以下の温度で攪 拌して接合する。6000 系、8000 系のアルミ合金を対象にして鉄道車両等に適用した事例が あり、我が国でも札幌市の地下鉄車両等へ適用されている。 この技術を航空機用高力アルミ合金(2000 系、7000 系)に適用する研究も進められて いる。これにより従来は溶接が不可能であった 2000 系、7000 系合金の溶接が可能になり、 航空機に適用した場合、継ぎ手部の重量軽減、部品点数の低減、クラックの起点になるフ ァスナ孔削減による品質の向上、という利点がある一方で、航空機用高力アルミ合金に適 した接合条件(回転速度、送り速度等)の設定、継ぎ手部の強度評価、内部品質評価、等の 技術課題があり、航空機メーカー等で研究が進められている。日本での摩擦攪拌接合技術 の研究事例については、平成14年度報告書(5)を参照いただきたい。 また、小型ジェット機の分野では米国のエクリプス社と富士重工が共同開発している6 席の双発ジェット機エクリプス 500 の主構造に適用されている(7)。 2.2 ヘルスモニタリング技術 ヘルスモニタリング技術とは、構造・材料中に埋め込まれたセンサにより製造中の品質 管理のみならず運用中の荷重、歪、温度、亀裂発生等を監視し、不意の破壊による事故を 防ぐと共に定期点検項目を減らし整備コストの低減を図り、また個機ごとに寿命を管理し 最大限に活用することによりライフサイクルコストの低減を図ろうとするものである。 我が国では、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託研究「知的材料・ 構造システムの研究開発」の一部として、東京大学を中心として研究が実施された。その 研究のなかで、複合材料埋め込み光ファイバによるヘルスモニタリング技術の開発が行わ れ、平成14年度には航空機の胴体構造を模擬した直径 1.5m、長さ 3mの円筒状供試体を 用いたデモンストレーター試験が、 (財)次世代金属・複合材料研究開発協会(RIMCOF) の指導のもとに、川崎重工、三菱重工、富士重工が参画して実施され、その有効性を実証 した。供試体の概要を図6-1に示す。詳細については、平成15年度報告書 (6)を参考 にされたい。 Upper Side Lower SECTION STA 3000 STA 1000 STA 2000 STA 0 Ф 1500 Up p P er an 30 el 00 FY2002 DEMONSTRATOR TEST 図6-1 3 デモンストレータ試験供試体概要 将来民間機への適用技術 3.1 B787 への適用技術 ボーイングが開発計画中の B787 においては、構造関係に占める日本のメーカーのシェ アは 35%に達しており、前胴、主翼、中央翼の開発検討に参加している。図6-2に B787 開発における構造関係のワークシェアを示す。また、B787 では、尾翼及びフロアビーム等 に加え、主翼、胴体の主構造に複合材の適用が想定されており、機体重量の 50%が複合材 料である。図6-3に B787 の部位別使用材料を示す(3)。 図6-3において、材料別の重 量比率が、複合材料:50%、アルミ合金:20%、チタン合金:15%、スティール:10%、 その他:5%といわれている。(3)CFRP を多用した航空機構造では、電解腐食と熱応力対 策のためチタン合金の適用比率が高くなっているがわかるが、結合金具等の機体表面に現 れない部位に使用されているため図6-3には表現されていない。また、アルミ合金が一 部に採用されているが、これは防氷装置の装備、損傷等による前縁構造交換の必要性から 主翼及び尾翼前縁に適用されたものと推定される。CFRP 以外の複合材料では、より低価 格だが強度が低い GFRP を荷重分担が小さいフェアイング等に適用しており、機首のレド ームも電波透過性が高い GFRP 製となっている。 この B787 の開発が完了すれば、 ジェット旅客機の主翼と胴体では初 の複合材料(CFRP)の適用になる。 なお、主翼の一部にはチタン合金と 炭素繊維を組み合わせた複合材料で ある TiGr が適用されるとのことで ある。ボーイング社は複合材料 (CFRP)の適用により外観品質が 向上し乗客の快適性も向上するとし ている。具体的には、複合材料は腐 食と疲労に対する耐性が金属材料よ り優れているので、耐疲労特性の向 上によりキャビン与圧高度を従来機 図6-2 B787における構造関係のワークシェア の 8,000 フィートから 6,000 フィー トに低減し、耐腐食性の向上により相対湿度を 5%から 20-25%に向上させることが可能に なり乗客の快適性が向上するとのこ とである。また、複合材料の適用に よる軽量化により、燃料消費量及び 着陸料の低減が可能になると共に一 体化により製造治具や部品点数も低 減するとしている。複合材料の適用 で問題になる製造コストについては、 加工技術の改良によりコスト低減を 図っているとのことである。 3.2 A380 への適用技術 A380 では、種々の新技術を採用 して重量を大幅に軽減し、燃費を向 図6-3 B787の使用材料 上させる計画である。その一例が複 合材料の炭素繊維強化プラスチック(CFRP)である。エアバスは、A320 等の既存航空機 ですでに CFRP を採用しているが、A380 では、垂直安定板ボックス構造、方向舵、水平 安定板ボックス構造、昇降舵に加えて、中央翼、二階の床のフロアビームと後部胴体及び 胴体後部の圧力隔壁、主翼のリブにもCFRPの適用されている。主翼にはアルミニウム 合金を適用し、胴体上部の外板には GLAREⓇ を適用している(8)。GLAREⓇ は、アルミ ニウムよりも約 10%密度が低く、疲労や損傷に対して非常に強く、又、耐食性にも優れた 材料である。エアバスによると、この GLAREⓇ の採用により 800 キログラムの重量軽減 が可能になるとのことである(4)。また、一階の床のフロアビームにはアルミリチウム合金 が使われている。エアバスによると、A380 の材料別の適用比率は、複合材料:22%、ア ルミ合金:61%、チタン合金/スティール:10%、GLAREⓇ :3%、その他:4%%といわ れている(8)。B787 と比較すると、金属材料に重点をおいた構造設計思想であると言える。 3.3 A350 への適用技術(8) 構造設計の観点からは A350 は、A380 と比較して一段と新材料を適用した設計思想で ある。まず、胴体については、運用中に受ける損傷を考慮して、既存の金属構造と同じ損 傷評価基準及び修理法が適用可能なアルミリチウム合金を採用している。また、主翼と尾 翼及び動翼類については、耐疲労特性が優れた複合材料(CFRP)を採用している。金属 材料と比較して疲労荷重に対する耐久性が優れているという CFRP の特性を活かしてメ インテナンスコストを低減する設計思想である。A350 の材料別の適用比率は、複合材料: 39%、アルミリチウム合金:21%、従来アルミ合金:11%、チタン合金/スティール:23%、 その他:6%%と言われている。本機の特長としては、新金属材料であるアルミリチウムを 広範囲に適用していることである。エアバス社によると、このアルミリチウム合金はリチ ウムの比率を 2%以下に抑えた第3世代のもので、静強度と疲労強度が高く耐腐食性も改 善されているとのことである。構造設計上の特長としては、部位の特性に応じて適切な材 料を選定して、複合材料と金属材料を適材適所で組合わせていることである。 4. 将来民間機への適用を目指した新技術の開発について ボーイング社やエアバス社を中心に民間機への複合材料の適用が進んでおり、大きな重 量軽減が達成されているが、現在の適用状況を見ると必ずしも複合材料の特性を最大限に 活かしきれていない恐れがある。この点を詳しく述べるにあたり、まず、複合材料の特長 をまとめる。複合材料とは、いろいろな材料を組み合わせて、個々の材料よりも優れた性 質を持たせるものを総称している。航空機ではエポキシ樹脂をガラス繊維や炭素繊維で強 化した繊維強化プラスティックが主として機体構造に適用されている。航空機に適用され ている複合材料には金属材料と比較して次のような特長がある。 ① 比強度、比剛性が高い。 ② 疲労強度が高い。 ③ 力学的性質が異方性である。 ④ 衝撃による損傷を受けやすく、損傷による強度低下が大きい。 ⑤ 環境条件(高温、吸湿等)により力学的性質が低下する。 ⑥ 複雑な形状の部品の成形に適している。その反面、穴あけ/切削等の加工が困難 である。 ①、②のような特長があるため、軽量化が強く求められる航空機の構造材料に関しては、 特に比強度、比剛性が優れている炭素繊維強化プラスティック(CFRP)の適用が進んで いる。また、航空機構造への適用に当たっては、③、④、⑤のような金属材料とは異なる 条件を考慮して構造設計を行わなければならない。また、⑥のような特長を踏まえて複合 材料の長所が活かせるような構造様式を考案する必要がある。実機への適用例として CFRP を適用した B777 の尾部構造(外板を省略したもの)を図6-4(9)に、エアバス 社の垂直尾翼構造への CFRP 適用研究の例を図6-5(10)に示す。B777 はボーイング社 が初めて民間旅客機の主構造に CFRP を適用して型式証明を取得した機体であり、エアバ ス社の研究成果は、A300、A310、A320 の尾翼構造への CFRP の適用へと発展している。 しかしながら、民間機の一次構造への適用状況は、図6-4、図6-5に示す初期の段階 から現在に至るまで、金属材料の構造様式を踏襲して材料を CFRP で置き換え補強材と外 板等を一体化した事例がほとんどあり、金属材料に適した構造様式を踏襲して材料を複合 材料に置き換えても複合材料の特長を十分に引き出すことは困難である。 実績がある構造様式を採用するのは、高い安全性を要求される航空機としては当然で あるが、一方では、複合材に適した構造様式の研究も必要である。 複合材の特性を引き出すための革新的構造様式の例として発泡コアサンドイッチパネ ルを航空機構造に適用した研究事例を紹介した (5,6)。本研究は、成形性が優れた発泡コア サンドイッチパネルにより複雑な板金組立構造を一体化して大幅な重量軽減、部品点数低 減を達成する目途を得た。ただし、一体構造故の問題点もある。たとえば、複合材一体構 造を実用化するためには、発泡コアサンドイッチパネル一体構造に生じた損傷を起点とす るき裂の発生/進展を抑制する手法が不可欠である。発泡コアサンドイッチパネルはコア 材と面板を積層して一体成形する構成であるので、コア材と面板の間にはく離が生じた場 合、そのはく離が全体に進展してしまうおそれがある。従って、このような発泡コアサン ドイッチパネルにおけるはく離の進展を防止する簡便で実用的な構造を考案する必要があ る。なお、発泡コアサンドイッチパネルの胴体構造への適用研究はエアバス社でも行って 図6-4 B777 尾翼構造への CFRP の適用 図6-5 旅客機の垂直尾翼桁間パネルへの適用研究 いる(11)。エアバス社の研究事例を図6-6に示す。図6-6の構造様式では、胴体の荷 重は板厚が厚い内側の面板が負担し、発泡コアと板厚が薄い外側面板は内側の面板への損 傷を防ぐ役割をしていると想定される。荷重分担の考え方は異なるが、外側面板に生じた はく離の進展を防ぐ対策が必要なことは同様である。今後の民間機の開発においては構造 設計の観点から低コスト化/軽量化へ向けて2つの流れがあると考える。1つはCFRPを主 体とする複合材料を広範囲に適用する考え方であり、この場合には、複合材料の特長を十 二分に活かすことができる革新的な構造様式の必要性が高くなる。もう1つの流れはアル ミリチウム合金のような新材料や摩擦攪拌接合のような新技術を適用した金属構造と複合 材構造を適材適所で組合せる考え方である。この場合には、金属材料と複合材料を組合せ た場合の電解腐食や熱応力の問題を解決しなければならない。B787は前者を、A350は後 者を指向していると言える。両プログラムの成果が今後の技術動向にも大きく影響するの でプログラムの最新状況について注視していく必要がある。 外板パネルの構造様式 旅客機の胴体構造の試作例 図6-6 エアバス社の研究事例 参 考 文 献 (1) IADF ホームページ、航空機等の機械工業動向調査事業の調査概要 平成17年度 17-1-1 長期機材需要予測―ボーイングの 2005 年予測を基に、2005 年 http://www.iadf.or.jp/8361/h/IADF-HP/iadf-hp_duokouchyosa.htm (2) IADF ホームページ、航空機等の機械工業動向調査事業の調査概要 17-3 787vsA350、 2005 年 http://www.iadf.or.jp/8361/h/IADF-HP/iadf-hp_duokouchyosa.htm (3) ボーイング社ホームページ (4) エアバス社ホームページ (5) IADF ホームページ、航空機等の機械工業動向調査事業の調査概要 14-3-2 平成14年度 最近の航空機の設計技術、生産技術及び他産業への波及効果、平成15年 3月 http://www.iadf.or.jp/8361/h/IADF-HP/iadf-hp_duokouchyosa.htm (6) IADF ホームページ、航空機等の機械工業動向調査事業の調査概要 15-4-2 平成15年度 新中型民間機を中心とする設計技術及び生産技術、平成16年3月 http://www.iadf.or.jp/8361/h/IADF-HP/iadf-hp_duokouchyosa.htm (7) エクリプス社ホームページ http://www.eclipseaviation.com/about_eclipse/innovations/friction_stir_welding/ (8) Beral B., Structural Technology Development at Airbus-The A350 and beyond, Presented at the Ninth Japan International SAMPE symposium, Tokyo, Japan, 2005. (9) Fawcett A., Trostle J., Ward S., “777 empennage certification approach”, Proc. ICCM11, Gold Coast, Australia, pp178-199, 1997 (10) Schulz D., “Structural certification of Airbus fin box in composite fiber construction”, Proc 14th International Congress of Aerospace Sciences, Toulouse, France, pp427-438, 1984 (11) Herbec,L.,” Technology and Design Development for a CFRP Fuselage”, Presented at 25Th SAMPE Europe Conference , Paris, France, 2003. KEIRIN この事業は、競輪の補助金を受けて実施したものです。